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320話 オークション結果

 先頭馬車を動かす大男ベッグさんを筆頭に、全員が野盗と見間違えるくらい小汚い悪人面の集団。

 実力がないなら、せめて見た目くらいは脅しの利く怖い人達を。

 そんな考えで集められた人達が馬車の御者台に座って手綱を握り、ガタイだけは良い護衛役の男達が俺の貸した武具を身に着け、周囲に強い視線を飛ばしながら歩いているのだ。

 普通の旅人や農家の人達なんかはあからさまにビビって避けており、既に奪われた後の商団という雰囲気すら醸し出していた。

 そんな姿を上空から眺めつつ、周囲に怪しい動きをする者がいないか暫し観察していたわけだが。


(うーん、これは無理だなぁ……)


 そう悟り、不自然にならないよう、ゆっくり動く馬車の中に直接転移した。


「クアドさん、やっぱり絞るのは無理ですね。追い抜いていく人達が多過ぎです」


 ベッグさんの横を陣取り前方を見据えていたクアドさんに、とりあえずの現状を先頭馬車の中からコッソリと報告する。

 俺が空から監視すると伝えた時は、この世の終わりのような面白い顔をしていたが、今はどうやら落ち着きを取り戻したらしい。

 ちなみに今回だけは、どうしても自分の目で何が起こっているのか見届けたいと、それこそ死も覚悟した上でクアドさんは同行していた。

 再現性を高めるため、できれば過去の失踪事件を可能な限りなぞりたい。

 そのため重要人物であるクアドさんにはドミアに残っていてほしかったというのが本音だが、彼にとっては自分の人生を懸けた輸送だ。

 あの何もない店でジッとなんてしていられないって気持ちも分かるだけに、その覚悟を蔑ろにすることはできなかった。


「荷物を積めば人が歩くくらいの速度しか出せないっすからね。ここから先はいくつも街道が枝分かれしていきますし、伝達に走った者が仮にいたって絞りきれないと思うっす」

「ですねぇ。しょうがないので予定通り、上空から不定期に周囲の観察を続けていきます。とりあえず見張っている者がいるかはすぐに割り出しますんで、そのまま僕はいないものだと思って進んでください」


 そう伝え、また誰にも見られぬよう、こっそり上空へ移動する。



 ここからはじれったく、そして地味な作業の繰り返しだ。

 町を離れるほど人気は無くなるので、明らかに誰もいないと思えば一時的に狩場へ移動。

 1分2分魔物を狩ってはまた戻り、上空から怪しい人影や地形がないかを観察する。

 その結果、初日の段階から分かったこと。

 それは間違いなく、この商団を尾行したり、後方から観察を続けているような者はいない。

 そういう結論になり、このことを伝えればクアドさんはひとまずの安心から大きく息を吐いた。

 この商団を追う者がいないということは、今までが身内の裏切りでなければ、敵は予め決まった位置、もしくは区間で待ち伏せしているということ。

 これで少なくともシュライカの町まではほぼ安全ということが分かったので、あとは夜の番を無難にこなすだけである。

 まぁその役割は俺じゃないが。


「ごめんね。緊急時以外は馬車から無理に出る必要もないからさ」

「怪しい人達が来たらロキを起こせばいいんでしょ?」

「そうそう。まだ何も起きないだろうけど、一応見張りお願いね」

「任せておけ。戦力にはならんが、索敵くらいなら十分に可能だ」


 一番大きそうな馬車の荷物を全て収納し、持ってきた寝具などを並べた秘密の移動拠点の中でコソコソと話を進めていく。


 夜間の見張り用に来てもらったのはゼオとカルラ。

 当初は単純な戦力としてカルラだけに声を掛けたが、【夜目】やかつてリアも使っていた【広域探査】など。

 "索敵"という点でゼオの能力がずば抜けているらしく、それならと一緒に来てもらうことになった。

 ただゼオまで参加すれば、消費魔力の点から気軽に拠点間移動はできないわけで。

 その結果二人とも隠れ護衛として一緒に旅することになってしまったが、お陰で動ける時間が確保できたのだから俺的には感謝しかない。



 こうして予想通りの平和な護衛の旅は続いていき、ドミアを出てから3日目。

 心待ちにしていた1ヵ月ぶりのオークションが開催され、少しの時間護衛は二人に任せて俺はサヌールへと足を運んだ。

 今回出品されていた『技能の種』は5つ。

 対して俺の預け残金は以前のままなので約9億ほど。

 昨日のうちにオークション担当のアランさんと、1個当たりの入札上限額や他の落札したいモノなどは相談しておいたが――果たして、結果はどうなったのか。


「アランさーん、どうでした?」

「お、ロキか。バッチリだぜ!」

「おぉ! 全部いけましたか!」


 聞けば狙っていた『技能の種』は、1つ1億~1億1千万ビーケの範囲で落札できたようで、前回の結果から多少相場上昇の気配はあったものの、そこまで強く競りに参加してくる者はいなかったらしい。

 理由は言わずもがな。


「例の鎧が大盛況だったからな。大富豪の代理人が大半は落札していったが、特に【毒耐性】と【火属性耐性】の競り合いは目を見張るものがあった」


 横で話を聞いていた鑑定屋のマグナークさんが、出品者が誰か分からないように伏せながら、今日の結果を楽しそうに語ってくれる。

 よしよし、予定通りだな。

 ビクターが最初に大金を使ってくれたおかげで、他の出品物は全体的に価格が抑え気味で進行したらしい。


「それぞれの金額って分かります?」

「もちろんだ。こいつに一通り纏めておいたから確認してくれ。落札できたモノと売れ残りは、この板をカウンターに持っていけばすぐに渡される。落札された分も含めた金の引き出しは明日以降だ」

「ありがとうございます!」


 いや~こういう時が最高に楽しいんだよね。

 俺の出品したモノはどれくらいまで金額が伸びたのか。

 アランさんから渡された木板を、上から順番にじっくり眺めていく。


【落札物】

 技能の種×5・・・計52,000万ビーケ

『魔道具』鍛錬用木剣 四ノ型・・・2,600万ビーケ


 ふむふむ。

 所持している図鑑に載っていなかった魔道具も無事落とせたか。

 これはリアとカルラ用のお土産にするとして、問題は出品物の方だ。



【出品物】

【毒耐性】Lv8付与付き 8等級革鎧(汚)・・・7.5億ビーケ

【麻痺耐性】Lv4付与付き 8等級革鎧(汚)・・・1,600万ビーケ

【睡眠耐性】Lv4付与付き 8等級革鎧(汚)・・・1,100万ビーケ

【石化耐性】Lv6付与付き 8等級革鎧(汚)・・・2.4億ビーケ 

【鋼の心】Lv5付与付き 8等級革鎧(汚)・・・1,000万ビーケ

【火属性耐性】Lv8付与付き 8等級革鎧(汚)・・・3.85億ビーケ 

【水属性耐性】Lv6付与付き 8等級革鎧(汚)・・・4,500万ビーケ

【闇属性耐性】Lv6付与付き 8等級革鎧(汚)・・・8,000万ビーケ 

【雷属性耐性】Lv6付与付き 8等級革鎧(汚)・・・5,400万ビーケ 

【氷属性耐性】Lv5付与付き 8等級革鎧(汚)・・・1,000万ビーケ 

【土属性耐性】Lv4付与付き 8等級革鎧(汚)・・・買い手つかず 

【風属性耐性】Lv6 付与付き 8等級革鎧(汚)・・・3,700万ビーケ


 おうふ。

 あの臭くて汚い鎧が、こうして大金に換わるとか……いやいや、マジで最高過ぎるんだけど。

 ただすべてが高値で売れたわけではないし、こうして一覧にしてもらえると、何が良くて何がダメなのか。

 なんとなく相場というモノが見えてくるな。

 状態異常系もレベル4だとまだまだ弱く、一気に価格が伸びそうなのは推定レベル5以上から。

 ただし【鋼の心】だけはスタート価格から競り合いなく終わっており、これはきっとレベル上昇のし易さが絡んでいるんだろう。

 たしかこのスキルは、ゴミハンター代表のフィデルがそれなりのレベルを所持していたはずだ。

 何かに耐えれば上がっていくという類のスキルっぽいので、耐性系ではあるけど異色というか、少し系統が違うような気もする。


 そして属性耐性系がまともな競り合いに発展するのはレベル6と、状態異常系よりも1ランク価値が落ちるような印象だ。

 これは単純な需要の問題もあるだろうけど、それ以上に基礎となる防具の質が絡んでいるようにも思える。

 状態異常系と違い、属性耐性系の使う場面は戦闘時が前提になるだろうからね。

 弱くてボロい革鎧じゃ、あまりにも一点特化し過ぎて、まるでデメリットを抱えた呪いの防具に近い存在。

 しかしこの汎用性の無さが俺にとっては美味しいので、【火属性耐性】はどんどんオークション市場に流しても良さそうだ。


(あとはやっぱり、【毒耐性】かな)


 毒は今のところまったく使わないし、そんなスキルだって持ち合わせていない。

 であれば、バラまいて相対的に俺が弱くならないのは【毒耐性】なわけで、ここからは在庫の防具数と相談しながら、供給過多にならない範囲で出品し続けていけばいいだろう。


「それじゃまた明日、いくつか倉庫から持ってきますのでよろしくお願いしますね」


 マグナークさんとアランさんにそう伝え、落札した物を受け取りに向かう。

 いくら二人に口留めはしたとしても、繰り返していけばいずれ出品しているのが俺だと分かり、付与師を求めて俺がターゲットにされる可能性は十分にある。

 だが調整はしても、自重なんてしない。

 自分の納得できる形で、ゴミと引き換えに仮想敵から金を吸い上げ、その金を自己強化に充てられるのであれば、それは現状取れる最高効率ということ。

 そんな機会、他の効率的な手段が生まれたとしても、そう簡単に手放すわけがないのだ。


(それにバレたところで、この件なら瞬殺されることは無いしな)


 もし敵意や害意を向けてくるとしても、それは【付与】を利用しようとする存在だ。

 自軍に引き入れるための動きなら、話次第で真っ当な取引にもなるだろうし、強引な手段を取ろうとする悪党ならそのまま俺がまとめて喰らえばいい。

 もし俺がまったく勝てなさそうな相手なら……まぁその時はまったく別のルートから新たな旅を開始すれば、その途端に俺の足取りは途切れて追えなくなる。


(あとどれほどの強者を追い抜けば、こんな心配しなくても済むようになるのかなぁ……)


 そんなことを思いながら、受け取った『技能の種』を飲み込み、俺は護衛業務へと戻っていった。
321話 肩透かし

 道中あった問題と言えば、1日だけ少し天候が崩れた程度。

 それ以外は何事もなく、至って平穏なまま俺たちは山道手前の町『シュライカ』に到着していた。

 他の国でもたまに見かける、付近に狩場すら存在しない宿場町。

 ここから東へ向かうとなれば、峠を越えるだけでも最低3日はかかるし、山道を越えても丸1日は水場のない乾燥地帯を通過していくことになる。

 そのため必ずと言っていいほど立ち寄る重要な補給地点であり、それは宿泊施設の多さや露店売りされている樽売りの水や飼い葉など、雰囲気からしても他所の町とは違いが一目瞭然だった。

 だからこそこの町を警戒するが、やはりこちらの動きを監視するような不自然な人の動きは感じられない。


「大丈夫っすか……?」


 時間は明朝。

 出発の準備で馬に餌をやっていたクアドさんに問われ、現状をそのままに伝える。


「んー……やっぱり何もないですね。【隠蔽】で完全に遮断している相応の強者か、もしくは本当に意識されていないか。道中のことも考えれば、後者の方が可能性は高いと思います」

「そうっすか……となるとやっぱり金でも掴まされて、ここから北に向かっちまったんっすかね」


 街道はシュライカから東に延びる山道のほか、王都や <<サザラー魔物生息地帯 >>のある北へも延びていた。

 あり得なくはない話だが……しかし、以前聞いていた傭兵の失踪まで考えればその線は薄くなる。


「3回目と4回目はハンターだけでなく、傭兵ギルドからも人を雇ったのでしょう?」

「そうっすね。護衛がEランクか良くてDランクのハンターだから山賊連中にやられてるのかと思って、高額でもハンターで言えばBランク相当って注文を付けた傭兵を雇ったっす」

「であれば可能性は低いですよ。それなりの実績を積んできた傭兵ほど、国を捨てるのは相当な覚悟が要りますから。キウス商会がその後の面倒も見るつもりで、それこそ数十億という金を用意していたんなら別でしょうけどね」

「……金しか見てない商会っすから、いくらウチが邪魔でも、潰すのにそこまでの金を掛けるとは思えないっす」

「なら十中八九、人の仕業ですよ。木々に囲まれた山道でも西寄りの区間、そのどこかで狙ってくると思います」

「今まで戦った痕跡が見当たらなかったのにっすか?」

「それは……やろうと思えば僕でもできるんですから、何かこちらが気付いていない方法だってあるはずなんですよ」

「……え?」


 目撃者を作らず、BからAランクほどの傭兵数名を短時間で無力化し、馬車を破損させることなく収納。

 戦闘の痕跡を残さずにその場から立ち去る――このくらいならば【空間魔法】持ちは実現可能だ。

 ハンスさんは当然として、武闘派という話は聞いたことがないけど、たぶんマリーだってできることだろう。

 だが、少なくともこの二人は絶対にやらない。

 いくらでも稼ぎようのある【空間魔法】持ちの人間が、言ってしまえばこんなセコい強奪を、しかも待ち伏せが必要な実行犯としてやるわけがないのだ。

 ……だから答えが見つからない。

 他にどんな方法を使えば、【空間魔法】を使った時と同じような状況に持っていけるのか。

 これが分かれば対策も立てられそうなものだが、その発想が考えても出てこない。

 精々山中に全て埋めるか隠すくらいで、それでも大量の荷物や馬もいるのだから、掘り起こした痕跡くらいは残りそうなものである。


「まぁこれから東に向かえば分かりますよ。クアドさんの商会だけが狙われている時点で、『裏切り』か『襲ってくる敵』かの2択なんですから」

「……っすね。ベッグさん達を死なせたくないんで、ここからは慎重にお願いしまっす」

「もちろんです。明日からは上空よりも、すぐ対処できるよう馬車に張り付くことの方が多くなると思います。ただ、以前にもお伝えした通りですが……」

「分かってるっす。もし襲われたら、犯人を都合良く生かせるか分からないんすよね?」

「えぇ、過去にそれで大きな失敗をしているので、生け捕りでは被害が出ると判断したら速攻で敵は潰します」

「そうなれば、遺体からキウス商会に繋げられる方法を考えるだけっすから、何よりもこちらに死人が出ないことを最優先にお願いするっす」



 こうしてそれぞれが覚悟を決め、俺達はオリアル山道に突入した。

 上空から眺めた通り、この山道はひたすらクネクネとした山の谷間を抜けていく一本道で、実際に通ってみれば両側の木々に日の光は遮られて非常に見通しが悪い。

 薄暗いこともあり、野盗連中が好みそうな、明らかに何かが出そうな雰囲気の漂う場所だ。

 ここからが危険地帯というのは御者や護衛役の奴隷達にも伝わっているので、皆の表情は強張り、ピリピリとした張り詰めた時間が長く続いていく。

 敵は果たして単独なのか、それとも複数人いるのか。

 ここまで来たならば手伝うと、ゼオとカルラも周囲の警戒に当たってくれているので、なんとしても死人を出さずに敵を制圧する。

 そう意気込んだはいいものの。

 山道初日はそのまま日が暮れ、馬車も停められる山中の広場に敢えて一泊し、臨戦態勢のまま気付けば朝を迎え――


(あれ? ここでも、何もないのか……?)


 肩透かしを食らいながら山道2日目に突入。

 最初は同様の景色が続くも、昼を過ぎれば高い木々は徐々に減り、代わりに岩と山肌の目立つハゲ山が視界の先には広がってくる。

 これはもう、隠れる場所すらなさそうな、東の乾燥地帯に入ってきているということ。


(おいおいおい、マジかよ……)


 まさかクアドさんの予想していた、俺の中の最悪を引き当てたかと、警戒はしつつも顔を歪めてしまう。

 ここまでお膳立てをし、絶対にやらないであろうと思っていた護衛を自ら提案し、長く拘束されてでも求めたモノ。

 それは悪党の強者であり、その強者が持つスキルだ。

 多少の金では簡単に転びそうもない複数の傭兵が同時に失踪している――だから原因は道中に潜む、雇われる程度のほど良い強者だと予想していたのに、これが金に転んで馬車ごと荷物を持ち逃げしただけとなれば、俺がこの依頼に乗っかった意味はまるで無くなってしまう。

 クアドさんが悪いわけでも、傭兵ギルドの受付嬢が悪いわけでもない。

 期待値が高そうだと勝手に判断し、そして賭けに負けた。

 それだけのことだが、やはりショックはショックで……


「だいぶ開けてきたな。ここから先は目視だけでも十分だろう? 我は少し眠らせてもらうぞ」

「ボクも~……眠くて死にそうだよ」

「あぁ、うん、ありがとね。今日の夜には拠点に送るから」



 眠らないよう気を付けながら周囲を見渡せば、ゼオの言う通り。

 それだけで周囲の情報を十分得られるくらいには視界が明瞭だ。

 日も暮れ始め、辺りには僅かに草が生える程度のハゲ山ばかり。

 そんな中、先頭馬車にいたクアドさんが、堰を切ったように声を張り上げる。


「ここまでくればもう大丈夫そうっすね! この先に地面の平らな広場があるはずっすから、今日はそこで一泊するっすよー!」


 安堵からだろう。

 随分と軽く、そして緩い声が後方へと響き渡り、伝播するように奴隷達も騒ぎ出す。

 それはそうだ。

 彼らにとっては命懸けの旅。

 何事もなく終えられるならそれに越したことはない。

 だが……

 今日も平和ならばこの旅はもう終わりだ。

 5度目に訪れたようやくの平和が、次回となる6度目の成功を保証するものではない。

 しかし何も起きない以上、原因は裏切りということで断定され、奴隷を使えば回避できることも今回で証明される。

 ならばこれ以上律儀に護衛を続ける必要はなく、あとは俺が全てを収納し、全員を連れてサヌールへ送り届ければそれでこの輸送は仕舞いだろう。

 馬だけは厄介だが、それでも【調教】か【睡眼】で大人しくさせれば―――






 気付いたのは偶然だった。


 日の落ち具合を確かめようと後ろを振り返った時、真っ先に違和感を覚えたのは|空《・》|が《・》|綺《・》|麗《・》|過《・》|ぎ《・》|た《・》こと。

 西日による逆光のせいなのか、ラメのように空が煌めく様子は息を呑むほど綺麗なもので――


 (なんだ……?)


 しかし目を凝らせば、遠くで大きな翅を携えた、見慣れぬシルエットが宙に浮いていた。
322話 警戒

 距離感が掴めず大きさは不明だが、間違いなく『魔物』であることは、咄嗟に使った【心眼】からすぐに分かった。


(あぁ、狙っていたのは"|風《・》|上《・》"だったのか……)


 スキル名から狙いは予想できるも、考えを纏めきる前に視界がボヤけ、次第に意識は混濁してゆく。

 ハイリスクな地帯を通過できたという安堵の空気が流れる中、俺だけは警戒の糸を切っていなかった。

 というより、ただの『裏切り』という事実を否定したくて、敵を探し続けていただけのような気もするが……

 それでもまさか、【探査】の範囲外から魔物が攻撃を仕掛けてくるなんてことは予想していない。

 気付けば周囲はいくつかの鼾《いびき》が聞こえるだけで、馬車の動きも止まったまま。

 御者や近くにいた護衛役、それに馬まで、意識を刈り取られたように気を失っていて。

 このままだと、いずれ自分も落とされる――

 そう思った時に握りしめたのは、腰にぶら下げていた短剣だった。


「させる、かよ」


 抗うために、勢いよく自らの左手に刃を突き刺す。


「うぐっ……ぎヒッ……ヒヒッ、眠って、たまるか……」


 痛みによる強引な覚醒。

 それでも自然と笑みが零れる。

 やっと、やっとなのだ。


 覗いたことで視えた、未所持のスキル――【睡夢鱗粉】レベル5。


 やっと手の届く範囲に待ち望んでいた者が現れたというのに、ここで取りこぼし、都合良く俺達が餌になどなってたまるか。

 あぁ、強烈な眠気だ……

 昨夜まったく寝ていないことも影響しているのか、それとも単純にスキルレベルの問題なのか。

 自前の【睡眠耐性】レベル4では抗うのがかなりキツい。

 周囲の者達のようにすぐ落ちることはないものの、それでも絶え間なく強烈な睡魔が襲い、意識がどこかへ飛びそうになる。


「耐えて、やる……耐えて……絶対に……喰らって……」


 現状を打開する方法はいくつかあるが、それらは敢えて実行しない。

 全てはこのチャンスを最大限に活かすため。

 そう覚悟を決め、左手に刺した短剣を強く握りしめたまま、俺はソッと瞳を瞑った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「本当に、学ばない獣人だな……」

 オリアル山道南部に位置する山の中腹。

 その岩陰から、望遠魔道具を使って眼下の街道を眺めていた男は、動きの止まった馬車を確認しながらそう呟く。

 事前に聞いていた通り、大きさが不揃いな8連の幌馬車。

 |幌《・》|の《・》|汚《・》|れ《・》を見ても、今回の対象はアレで間違いない。

 となると、あとは全員落ちたかどうかだが。

 視線を空に向ければ、こちらに向かって飛来してくる1匹の魔鳥。


「おう、どうだった?」

「キュアァー」

「よしよし、全員夢の中だな。それじゃあお待ちかね、仕事と飯の時間だ。ロトンとエトンは周囲を警戒しておけ。念のため街道の東西どちらもだ」

「「キュアッ」」


「それじゃあ、往くぜ」


 ブアッ――……


 その掛け声と共に、突如として発生した地面の穴から湧き出る、数十匹のソルジャーアントとベイブリザード。

 そして男は愛用の槍を片手に騎乗用のグリフォンへ跨り、先陣を切るように山を下れば、湧いた魔物達はその後を追うように山肌を勢いよく駆けていく。


 一方クアドの商団は、完全に停止したままだった。

 その場で崩れるように眠ったまま、動くものは誰もいない。


 そんな商団の有様を男は確認し――


「よーし、痕跡を残すと面倒だからまだ食うなよ。馬も人も、まずは巣穴に運んでからだ。食ったらすぐに馬車を引いて移動――――いや、ちょっと待て」


 違和感を覚えて、その指示は中断される。

 男は宙を浮くグリフォンに乗ったまま、やや離れた位置から俯瞰するように全体を見下ろしていた。

 だからこそ気付けたことだが、中央の馬車付近に血溜まりができていたのだ。

 よく見れば、御者台から半身を投げ出すように眠っている人間がおり、その左手には自らの右手で押し込むように短剣が突き刺さっている。


「チッ……面倒かけやがって」


 零れる舌打ち。

 依頼主から痕跡を残すなと厳命されているのに、こんな目立つ場所に血溜まりなんぞ作られたら、何かあったことがすぐに判明してしまう。

 かと言ってこんな状態のままソルジャーアントに運ばせようものなら、血の跡と臭いがそのまま巣穴への道標になり兼ねない。


「……ガキだけここで食わせちまうか」


 見る限りは子供だ。

 それならソルジャーアントやベイブリザードには無理だが、体長が4メートルほどにもなるグリフォンなら丸飲みできる。

 それが適切――そう判断し、


「グリーヴァ、あのガキだけ食ってこい。食い千切るなよ」


 なぜか男はそのまま向かわずに一度地上へ降り、グリーヴァと呼ばれたグリフォンだけを向かわせる。

 この行動は無意識に近い警戒。

 男にさして自覚はなかった。


 限定的な場面で絶大な威力を発揮するドリームシアターは特殊な魔物だ。

 所持する【睡夢鱗粉】は強制的な睡眠効果を与えるのではなく、元からある眠気を増幅させ、そして夢の中に捕らえて簡単には起こさないというもの。

 だから男は敢えて隠れる場所の多い初日では狙わず、警戒だけを続けさせて一行を疲弊させた。

 寝不足のまま早朝から発ち、山道を警戒しながら歩き続けて疲労がピークになる2日目の夕刻。

 それでいて周囲の見晴らしが良く、もう少しで停留場という精神的にも気を抜くようなこのタイミングを狙ったのだ。

 前回参加していた護衛の傭兵達も、ランクなんぞは関係なしに、このやり方で一切の抵抗なく装備は剥ぎ取られ、身体は魔物の餌となった。

 普通ならば、抗えるはずがない。

 そのはずが……どういうわけか、この子供には抗った痕跡がある。

 危機感の薄い子供だったと一蹴するには、自傷行為による抵抗というチグハグさが無意識に男を警戒させていたのかもしれない。

 そう、あくまで無意識の警戒。

 だから男は何も問題なく、子供を丸飲みするだろうとその姿を眺め――


「グ、グリーヴァ!?」


 突如として現れた大剣に、相棒と呼べる騎乗グリフォンが真っ二つにされるなど、予想すらしていなかった。
323話 化け物

「これで、打ち止めですか?」

「っ…ぁ……」


 左手に短剣を刺したまま、倒れたグリーヴァの陰から幽鬼の如く立ち上がったガキの言葉に、すぐさま声を発することができなかった。


 ――なぜ、眠っていない。

 ――どこから、その大剣は出てきた。

 ――どうして、Aランクでも上位であるはずの魔物があっさりやられる。


 疑問が津波のように押し寄せ、喉元で渋滞を起こしたように詰まっていたが……それでも最初に出てきたのは、意味の分からない問いへの疑問。


「どういうことだ……?」

「いえ、もっと珍しい魔物が色々いるのかと思いまして」


 周囲に視線を彷徨わせながら出てきたこの言葉に、それでも俺は警戒されているのかと、多少の余裕が生まれてくる。

 自前の【心眼】が通らぬ謎の子供。

 所持している武器素材からAランク相当の実力はありそうなものだが、このガキだって俺の力量を測り兼ねているのだろう。

 ならば、ここは大きく見せる。

 事実、グリーヴァだけが戦力の全てではない。

 こんな事態になるとは思っておらず、忍ばせたままの予備戦力など、あまり戦闘向けではない魔物が1体だけだが……

 緊急事態となればそんなことも言っていられない。


「ふん、当たり前だろう。グリフォンなど、俺の飼う魔物の中では雑魚中の雑魚よ」


 背後でDランクのベイブリザードと、Bランクのソルジャーアント達がジッと指示を待っていたが、相手は所詮子供――どうせ見た目から魔物のランクなど判別できまい。

 今はそんなことより、この子供を少しでも委縮させ、その間に時間を稼ぎつつ態勢を立て直す。

 そう思ってのこの言葉は、見事ハマったように思えた。

 目の前の少年が僅かに震え、両腕を抱くように身体を寄せたからだ。


「じゃあすぐに連れてきてくださいよ!」

「……え?」

「早く、全部ここに連れてきてください。そうしないとあなた、すぐに死んじゃいますよ?」

「…………」


 意味が分からない。

 敵の戦力が増えることを望むやつがどこにいる?

 至極当たり前のことのはずが、どう見てもこの子供が虚勢を張っているようには見えず、それどころか目を輝かせ、恍惚の表情を浮かべていた。

 何か、おかしい。

 警戒と共に、嫌な汗が身体中から湧き出てくる中、この場をどう切り抜けるべきか。

 その一点だけに思考を巡らす。


「……俺を殺すだと? 本気で言っているのか?」

「そんな、僕達を殺しに来てるんだから当然じゃないですか」

「ただ、眠らせただけだが……?」


 苦しい言い訳。

 それは予想通り無駄どころか、必要以上に見透かされていた。


「先ほどのやり取り、聞いてましたよ? 後ろにいるのは穴掘りが得意なソルジャーアントですし、痕跡を残さないように、一時的な巣穴にでも持ち帰ってからお食事会をするのでしょう? 考えましたよね、この草もろくに生えていない乾燥した大地なら、離れた場所で掘り起こされたとしてもまったく目立たない」

「……」

「で、ベイブリザードがこの数ってことは――あぁ、もしかして馬の代わりに馬車を引かせる予定でした? 馬よりも力はあるでしょうし、これだけ魔物の統率が取れているなら、御者なんていなくても滞りなく輸送できそうだ。【魔物使役】って想像以上に便利ですね」

「……おまえも傭兵だろう? なんの因果で首を突っ込んだのか知らないが、この件が貴族絡みだと、分かって手を出しているのか?」

「貴族って、もしかしてオーラン男爵ですか?」

「ふん、分かってるじゃないか。ならば手を引いた方が身の為だ。これからまともに傭兵稼業が―――」

「やっぱりオーラン男爵も関与してるんですか?」


 被せるように出てきた焦りの言葉。

 それはそうだろう。

 傭兵にとって貴族はアキレス腱のようなもの。

 仕事を受ければ旨味も強いが、敵対となれば良いことなど一つもない。

 これを好機と、事実をもって脅しに掛かるも。


「へぇ……あなたはオーラン男爵側の傭兵なんですか……」


 まただ。

 先ほどと同じ、何か気持ち悪さを覚えるこのおかしな空気。                                                                                                                                                                                               
 子供は三日月のように、口の両端を上げて嗤った。


「あはっ、予想はしてたんですけどね。やっぱりオーラン男爵も真っ黒とは……ふふ、そんな『悪党』はどちらも綺麗に掃除しないといけませんねぇ」

「し、正気か……?」


 予想だにしない、貴族への敵対宣言。

 この場限りのはったりで口にしているようには見えない。

 後先を心配するような素振りはまるでなく、何を見ているのか分からないその眼は本気としか思えなかった。

 ……くそ。

 こんな頭のイカれたガキに脅し文句は効きそうにない。

 俺の所属する傭兵派閥を言ったところでたぶん意味はないし、一度も見たことすらないガキなのだ。

もし他国の傭兵であれば、上位ランカーの名を出したところで大した脅威も感じないだろう。

 だが……これで間に合った。

 ここまで計画が露見されているのだ。

 強引に逃げたところで、貴族絡みの依頼を派手に失敗したとなれば、当面この国での仕事は満足に得られなくなる。

 ならば――覚悟を決めろ。

 実力も未知数のこのガキは、ここでどうあっても殺すしか、俺にこの先の道はない。


「狂ったガキが!」

「それより、他の魔物はまだですか? ずっと待ってるんですけど」

「ふん、もうてめぇの足元だよ! 喰らいつけサンドラ……ぁああっ!?」


 ズズ……ッ!


 視界に頼る素振りを見せていたのは罠だったのか……?

 命令と同時に、地中から大口を開けて出てきたはずのホワイトワームは、顔面が血と岩に塗れ、息も絶え絶えにすぐ横たわる。

 こんな姿、一度も見たことがない。

 何が起きてこんな状態になったのか。


「遠くからチンタラと掘り進めていたのは知ってるんですよ。だから僕が言っているのはこれじゃなく、もっと別の魔物です。もっともっと、他にもいるんでしょう?」

「こ、こんな硬い土を簡単に掘れるわけ……って、サンドラーに何しやがった!?」

「このデカい芋虫ですか? 僕のところに向かってくるのが分かったから、足元に硬い石の棘を少し用意しただけですよ」

「……」


 どうやって?

 刹那に出てきた疑問を掻き消し、それどころではないと、すぐに命令を下す。


「ね、寝るなサンドラーッ!! 意地でもそいつに食らいつくんだ! 蟻んこ共は酸だッ! とにかく酸を吐けぇ!!」


 これが正真正銘、俺にとって最後の隠し玉なのだ。

 この戦力でどうにかしなければ、俺はこの場から逃げるしかなくなる。

 だが、捕まえさえすれば……いや、最悪自滅覚悟でも、酸塗れにさせちまえば、俺の勝ちは揺るがない。

 揺るがない、はず、なのだ……


「なんでだよ……」


 目の前のガキが、小声で何かを呟いていたのは分かった。

 でも分かったのはそれだけ。

 なぜか右手が黒い靄で覆われ、すぐにガキを中心とした巨大な竜巻が発生した。

 その瞬間、俺のペット達が、細切れにされていく。

 でも、中心にいたガキだって、大量の酸を浴びているはずなんだ……

 その証拠に服は溶けていってるのに、宙を舞う仲間達の隙間から覗くガキの身体はまったくダメージを負っていない。


 もう、ダメだな……

 そう判断したと同時に、ベイブリザード達に他の人間を喰らえと指示を出し、魔鳥であるロトンとエトンに緊急離脱の合図を送った。

 これで多少の時間稼ぎはできるだろう。


 世の中には理解の範疇を超えた存在がチラホラといて。

 きっとコレはその類で、そもそも人なのかどうかすら疑わしい。


 苦労して使役したドリームシアターも、ランカー傭兵としての地位も。

 全てを捨ててでも、今は生き延びる。

 まだロトンとエトンだけはいるのだ。

 新たな地で、また少しずつ積み重ねて――


 片手ずつそれぞれの足に掴まり、宙吊りのような状態で空を昇っていた時。




 バンッ!




 雷鳴のような音に反応して後方へ振り返れば、なぜか地面には歪な黒い靄ができていた。


【闇魔法】による追撃か……?


 身体中に力が入るも、よくよく目を凝らせば、それは先ほどまで見ていた恐怖の対象で。

 背から生えた何かは、黒く蠢いているように見える。



「ッ……ロ、ロトン、エトンッ!! は、はは、早くだ! 早くここから離脱しろーーーッッ!」



 あれはどう見ても、人じゃない。

 掴まれば、俺はきっと喰われる。



 早く、速く早く速く……ッ!







 そんな願いも、空しく。







 魔鳥を遥かに超える速度で迫りくる何かは、変わらず三日月のような笑みを浮かべていて。






「あぁぁ……」







「捕まえた♪」







 俺の頭部を掴み、化け物は嬉し気な声で、そう呟いた。
324話 原因の究明と、これから

 考えてみれば、そのまま馬車の一つを簡易の居住空間にしていたので、クアドさん達がゼオとカルラを直接見るのは初めてだった。

 護衛の交代要員がいることは伝えていたため騒ぎにならなかったものの、当然どこから現れたのかも分かっておらず、視線は真っ赤な瞳の二人と目の前にある死体をいったりきたり。

 だが今重要なのはそこじゃない。

 取り急ぎ説明すべきは、過去の失踪の流れと実行犯。

 そして証言からはっきりしてきた黒幕についてだろう。


「こ、こんなのに襲われてたんすか……」

「この魔物が眠気を増幅させるみたいで、それもあって山道2日目のこの時間帯を狙っていたみたいですね。風の流れやすい山間の地形ですから、風上から鱗粉を撒けば誰も抗えなかったそうです」


 そう言いながら、ドリームシアターと呼ばれていた魔物を指差す。

 体長2メートルほどの、人よりも大きな灰色の蛾。

 翅には眼のような丸い模様がいくつも描かれており、それだけでもかなりの気持ち悪さが伝わってくる。


「【魔物使役】の使い手か。Aランクまで使役するとなると、それなりの熟達者だな」

「ゼオが知ってる魔物?」

「大陸南東の狩場にいる生息数が少ない魔物だ。遠くから眠気を誘う粉を撒き、近づけば空を飛んで逃げていく。本来は夜行性だったはずだが……使役すればその辺りは関係ないのだな」

「ほっほー」


 魔物にも夜行性とかあるのか。

 さすが物知り博士のゼオ師匠。

 先ほどまで豪快に凹んでいたけど、もう大丈夫そうかな?

 ゼオとカルラは徹夜明けでスキルを食らう前から寝ていたわけだし、この件でいちいち責任を感じる必要もない。

 まぁカルラは立ったままゼオの脚を掴んで寝ているので、何も気にしていなさそうだが。


「この魔物に見えない鳥が、もしかして偵察役っすか?」

「ですね。出発のタイミングや滞在場所を上空から確認して、この辺りをいつ通りそうなのか、その手の情報はしっかり主に伝わっていました」

「こんなのが空から眺めてたって、気付けるわけねぇわな……」

「で、奥で細切れになっているトカゲや蟻達が、待ち伏せ用に作った一時的な巣穴まで運んでから寝ている人達や馬をキレイに食べた後、トカゲが馬の代わりに馬車をサヌールまで運んで丸ごと現金化ってのが、これまで起きていた失踪事件の流れになります」

「だから、痕跡が残らず……うちの従業員や雇った護衛の人たちは、生きたまま食べられて……うぅ……」

「金に換えられるモノは全て持ち帰れというのがキウス商会からの指示で、積荷以外にもお金になりそうなスキルがある人は、生かしたまま奴隷商に売ったり――、って、いい加減自分で答えてくださいよ。そうですよね?」

「え?」

「い、生きてたのかよ!?」


 死体の山に向かって声を掛ければ、両膝を地に突け、俯いたままずっと押し黙っていた男がようやく顔を上げた。

 せっかく生かしたというのに、まだ顔が青ざめたままだな。

「そ、そうだが、生かすと面倒なことの方が多いから、ほとんどは餌にした……」

「「……」」


 二人が言葉を失うのも無理はない。

 クアドさんはかつて輸送の仕事に向かった仲間たちの結末を。

 ベッグさんも、金になる者だけは生かされるという現実に、きっと思うことがあるのだろう。

 だが、いつまでもこうしてはいられない。

 もう日も暮れかかっているし、そろそろ次の方向性を決めていかなきゃ、だな。


「寝ている間に起きた出来事と、今までの失踪原因はこんなところですが……クアドさん、ここからどうしますか?」


 言いながら、押し黙っていたクアドさんを見つめる。

 望んでいた『原因の究明』はこれで済んだのだ。

 当初の目的は、せめてキウス商会の信用を貶められればという程度のモノ。

 それが今も変わらないのであれば、あとはこちらで好きに動いてしまうし、本人にやる気があるならば、無理のない範囲で行動を合わせるつもりだった。

 あとはクアドさん次第――そう思っていると、実行犯に冷めた視線を向けながら口を開く。


「やることはいっぱいっすよ。すぐにドミアでこのことを衛兵に伝えて、身元の割り出しもしなきゃいけないっすね。キウス商会との繋がりがはっきり出てくれば……何か、キウス商会からの指示書とか、繋がりを示すようなモノはあるっすか?」

「キウスがそんなものを残すわけがない。全て俺の魔鳥を介して連絡は受けていたし、その魔鳥はもう目の前で死体になっている」

「物的証拠は無しっすか……あっ、でも指示を受けているってことは雇われってことっすよね? なら傭兵ギルドにこの男を連れていけば――」

「俺を直接雇っているのはもっと上、オーラン男爵だ」

「え?」

「それに専属だから、この件は傭兵ギルドを通してもいない」

「えっ、ちょ……専属、ってなんすか?」

「依頼があれば最優先でなんでもやる便利屋みたいなものだ。仕事があってもなくても、相応の報酬を貰っていた。今回がたまたまクアド商会の輸送を潰せって話だっただけで……」

「……」

「クアドさん。残念ですけど、傭兵ギルドはあたっても無駄でしょうね。あそこは国の運営ですから、こちらが求めるような貴族にとって都合の悪い情報なんて出てきませんよ」

「ってことは、もうオーラン男爵のところに直接乗り込むしかないってことっすか……」


 視線を向ければ、今何をされているわけでもないのに、クアドさんの身体は震えていた。

 領主の名前まで挙がり、やはりというかそれが黒幕で、しかも直接対峙しか解決方法が見込めないとなれば、この世界の住民はこのような反応になるのか。

 この辺りは外の世界から来た俺にはいまいち分からないところだが……

 大丈夫、まだ辿れる可能性が完全に無くなったわけじゃない。


「もし今回の襲撃も成功した場合、あなたは現金化の指示があってこの馬車をサヌールに運ぶわけですよね?」

「そ、そう、だ……」


 俺が話しかけた途端、せっかく落ち着いてきていた実行犯の様子がまたおかしくなったが、いちいち気にしてもいられない。


「ということは売り先が当然あるはずですが、それはどこですか?」

「キウス商会の、サヌール支店、だ……」

「まぁ、そうなりますよね」


 わざわざ持ち帰れと指示を出しているのがキウス商会となれば、荷物を他所で売却して金を得るより、直接受け取って自ら販売した方が更なる利益になる。

 強奪した品を他所に流せばどこで足が付くか分からないわけだし、大きな商会としての販売網もあるのならば、自分達で捌いた方が何かと都合は良いだろう。

 だが問題は、いったい誰がサヌールでこの品を受け取っているのか。

 馬車丸ごとなんていう裏ルートでの仕入れである以上、一介の従業員ってことはないはずだが……


「窓口は?」

「え?」

「誰が、この強奪した品を受け取っているんです? 魔物の牽いてきた馬車なんですから、どうせ相応に立場ある人が対応しているんでしょう?」

「そ、それは……会長の、キウス本人だ……」

「へぇ」


 店の責任者、領主の手の者、キウスの親族――いろいろなパターンを想定していたが、これは最高の結果と言ってもいい。

 当然場も騒めく中、奴隷のボスと化しているベッグさんが口を開く。


「商会長のキウスだけは、王都に住んでるんじゃないのか?」

「普段はそうだが、この時ばかりはサヌールに来る。た、ただで……大量の商品が手に入る瞬間は、どうにもたまらないんだ、そうだ……」

「ふ、ふざけるなッ!!」


 この言葉に、目を吊り上げ怒りを露わにする者が一人。


「俺達が……ッ! どんな思いで農家から作物を受け取って運んでたのか! オマエに分かるっすか!!」


 尻尾を逆立て、手には小型のナイフを握り締めて走り出すも、それはさすがにマズい。

 念のために多少距離は離していたし、得意の槍を振り回せないよう右腕を切り落としておいたが、それでもAランク相当の力量はある傭兵だ。

 まだ奴隷化まではしていないし、怒りに任せて突撃しても、死ぬのは確実にクアドさん。

 それに、ここで実行犯を殺してしまっては目的が果たせなくなる。


「まぁまぁ。気持ちは分かりますけど、まず落ち着いてください」

「でも! でもっ!! この男はやられる側のことなんて何も考えないで! こ、このっ!!」

「クアドさん。この男を生かす意味と、その後をちゃんと考えてください」

「意味って、そんなもの……!」

「もし当初の予定通り、馬を魔物のトカゲに入れ替え、この男がサヌールまで馬車を運んだらどうなりますか?」

「…………あっ!」


 やっと冷静になれたかな。

 この男を引き連れ、キウス商会やオーラン男爵の下へ向かったところで、知らぬ存ぜぬを突き通されたらそれで終わりだ。

 一応最終奥義『リア召喚』があるにはあるけど、あの頭の中を覗くやり方で納得するのは俺とリアだけであって、周りから見れば俺がただ暴れ回っているだけになっちゃうからな……

 リアに頼るのは、どうにもならなかった時の最後の手段。

 正攻法でキウス商会長とこの男の繋がりが証明できるのであれば、その方がクアドさんの当初望んでいた『評判を貶める』という結果にも繋がりやすいだろう。

 まぁ俺が介入すると、少なくとも商会の方は、その後に商売が継続できるかも怪しくなってくるとは思うが。


 ようやくクアドさんも落ち着き、そのまま運ばせるメリットを理解したような納得顔をしているのだ。

 であれば、あとはこの男に働いてもらうだけ。


「そんなわけで、予定通りこの馬車をサヌールに運んでくれますよね?」

「そ、それをやったら、約束は……」

「もちろん、オーラン男爵まで辿り着くことが目的ですけど、そこまで協力してくれればちゃんと守りますよ。必ず、あなたを楽に殺してあげますから」


「「???」」
325話 準備完了

 山道に入って2日目での出来事から、事態は大きく動き出した。

 ここからの目的は当初の予定通り、クアド商会の襲撃に成功したと見せかけ、商会長キウスと【魔物使役】を使う実行犯が繋がっている現場を押さえること。

 そのためにはクアドさんや、今回参加している奴隷達が魔物の餌になっていないとマズいわけで、まずは全員をこの場所から程よく近場で馴染みのある町。

ラッド君の治める『ギニエ』に護送した。

 ここなら町に訪れる人間があまりいないのだから宿もガラガラ。

 加えて隣国ならばそう簡単には情報も掴めないだろうし、潜伏目的としてこの町以上に最適な場所はそうないだろう。

 転移による大移動だったので、予想通り現場はてんやわんやの大騒ぎ。

 特にクアドさんが人一倍煩く――というより、あまりにも煩過ぎて頭だけ地中にでも埋めてやろうかと思ったが、とりあえずは進展があるまでこの町で待機しておくように伝え、お次は <<サザラー魔物生息地帯 >>へ。

 ここで1台につき2匹、計16匹のベイブリザードを男に使役させ、収納していた馬車に繋げれば準備完了だ。

 実行犯の男が全てを諦めた様子で先頭馬車の御者台に座り、一度襲われた場所の辺りからサヌールへ向けて旅立っていく姿を俺達3人で眺める。

 魔物が馬車を引けば馬よりも早く到着するらしく、ここからサヌールまでは予定より1日短縮された約2日ほど。

 それでも原因が特定できたのであれば、暇過ぎる旅路にこれ以上付き合ってはいられないわけで……


 ――このままどこの町には寄らず、まっすぐ街道を通ってサヌールに向かうこと。

 ――道中、人に危害は加えないこと。

 ――本日の襲撃に関する一件は誰にも伝えないこと。

 ――自らの死は全力で回避すること。


 実行犯の男には【奴隷術】を施し、この4つの契りを抱えて旅立ってもらったわけだ。

 特に最後が重要で、今回の計画はこの男が死んでしまえば頓挫してしまうわけだから、自害を防止する意味でもしっかり付け加えておく。

 そうしないとこの男、自分で命を絶ちそうだからなぁ……


「本当に一人で行かせて大丈夫なのか? ここまで来たのだ。町に到着するまで付き合っても構わないぞ?」

「それは有難いけど、さすがに長い時間ロッジ一人じゃ心配だしね。それにカルラはもう飽きてるっぽいし」


 二人で視線を向ければ、カルラは俺がオークションで仕入れた鍛錬用の魔道具をブンブン振り回して遊んでいた。

 どうやら木剣にスキルレベル4の【剣術】スキルを組み込ませているようで、スキルを所持していなくても握って振れば誰でも自然と型が身につくという優れモノらしい。

 剣に苦手意識を持っていたっぽいので、カルラにとってはちょうど良い特訓アイテムだろう。


「たしかに、狭い馬車の中では存分に振れず、ずっとウズウズしていたからな……」

「どのみち大移動で拠点まで送れるほどの魔力は無くなっちゃったし、今日は久々にどこか近場の宿にでも泊まってのんびりしようよ。美味しいご飯いっぱい食べてさ」

「そうだな。では別の米料理でも―――……」


 こうして俺達3人はサヌールへ飛び、お礼も兼ねて高級料理と化した米料理を堪能。

 心地良い満腹感のままフカフカベッドで爆睡し、翌日拠点に二人を送り届けた。

 ロッジにはグリフォンやドリームシアターといったAランク魔物の素材を渡しておいたので、きっとあれが何よりのお土産になることだろう。



 うっし、そんじゃここからがラストスパートだ!

 街道沿いを移動していれば、一度上空を通っている俺はすぐに男の動きを捕捉できる。

 順調に馬車がサヌールへ向かっていることを確認したのち、スキル経験値を求めて狩場へ移動。

 この2日でなんとか【透過】をスキルレベル5まで上げようと、フィッシャーカメレオンをピンポイントで狙いつつ、素材はギニエに輸送していく。

 そんな流れ作業をひたすら繰り返して、2日目の日暮れ前。


『【透過】Lv5を取得しました』


 ようやくこのアナウンスが視界に流れ、俺は一人静かにガッツポーズした。

 護衛をしつつも隙を見ては狩場に向かい、コツコツと狩って狩って狩って狩って、約10日ほど。

 初めてスキルレベル1の魔物をひたすら倒して、レベル5までもっていったのだ。

 僅か0.5秒の効果時間増加のために掛ける労力じゃないような気もするが、いつかきっと、こんな努力が実を結ぶ時だって来るかもしれない。

 そう思えば多少の苦労などなんのそのである。




「そう言えば、殺したら急に色々なモノを吐いて縮んだあの白いミミズってなんなんです? うちの魔物に詳しい仲間も知らなかったですし」


 これで俺がやるべきことは終わり、準備万端。

 クアドさんを迎えに行き、馬車の中から小さく見えてきたサヌールの町を眺めつつ、生気を失った実行犯の男に問いかける。


「ホ、ホワイトワームと呼ばれる、魔物だ……サンドワームの希少種で、消化せず、体内に食らったモノを、ある程度の量まで、保存することができる。その代わり、質量に応じて、どんどん身体も大きくなって、しまうが……」

「あぁなるほど、希少種でしたか」


 この白いミミズだけはゼオも分からず、魔物の詳細が見えてこなかった。

 倒して得られたスキルも、【膨張】というグレー文字の使えないスキルで意味がさっぱり分からなかったが、そういうことか。


「ロキさんのヤツほどじゃないっすけど、商人が欲しがりそうな魔物じゃないっすか?」

「うーん、いくら保存できるって言っても、結局身体が大きくなっちゃうんじゃなぁ……それに一度ミミズが食べた肉とか食べたいと思います?」

「多少腐ったくらいなら自分は全然食えるっすよ? なんでもモノは粗末にできないっすから」

「そ、それはたくましいですね……」


 男にもう少し詳しい用途を聞けば、モノを保存するというよりは隠す。

 そして隠したまま運ぶというこの2点に優れているようで、魔物を含めた生き物でも生かしたまま体内に保存することができ、かつ自前の穴掘りスキルを使って地中を移動することができるので、人に見られる心配もなくなるらしい。

 難点は本来砂地に生息している魔物なので、普通の地面ではあまり早く掘り進めることができず、巨大化するほどその遅さは顕著になること。

 そして表に出しておくよりは多少マシみたいだが、それでもミミズの体内はしっかり時間経過が発生するので、腐るようなモノは長く保管できないという話だった。


「ちなみに、量はどこまで保存できるんです?」

「この8台の、馬車を呑み込んで、もう少し余裕がある、くらいだ……」

「へ~想像以上に呑みますね。だから最後にしょうがなくこの魔物を出してきたわけですか」

「……っ……」


 男がしゃべろうとし、すぐに口籠って顔を顰める。

 あぁそういえば、俺が"襲撃の件は語るな"と縛りを入れていたんだったな。

 用意していたベイブリザードがやられるなど、不測の事態で自走による馬車の移動ができなくなった場合、最悪はこの魔物が飲み込んで対処する算段を立てていたのだろう。


 活動の幅は広く、用意周到で応用も利く。

 ギリギリのランクインではあるも、それでもオルトランのランカー傭兵だというこの男が、なぜ好んで貴族に使われ、こうして悪事を働く必要があるのか。


(分からないな……)


 それほどまでに、金が魅力的なのか。

 それとも繋がりを重視する意味が別にあるのか。

 自分なら絶対に取らないであろう選択を取る理由に、少しばかりの興味を持ちながら、俺たちは別々にサヌールの町へと入っていった。
326話 悪党の繋がり

 領主が発行する魔物使役許可証を門兵に見せ、街中の決まったルートを辿っていく。

 魔物とは言え、オルトラン中部にベイブリザードが生息しているため、輓獣《ばんじゅう》として利用する使役者はチラホラといる。

 それもあってわざわざ近づいてくることはないが、町民が街中でこの光景を目にしても騒ぎ立てるようなことはなかった。

 慣れた道、慣れた建物、慣れた風景。

 見慣れた全てが、上手くいけば今日か明日には終わる。

 そのためにも俺は、失った右腕を誤魔化し、今まで通り普通であらねば……

 キウスだけならば問題ない。

 俺が恐ろしいのは、人の言葉をしゃべるあの謎の存在だけ。

 どこかにいるのだろうが、視界に入りさえしなければきっと大丈夫だろう。


「ドミアからの搬入だ。バーシェが魔物で牽いてきたと、そう会長に伝えてくれ」

「はっ! しばしお待ちください」


 裏の搬入門を見張る見慣れた男が、同じく見慣れているであろう俺を確認し、高価で特殊な荷物だと勘違いしたまま会長を呼びに行く。

 そうすれば開くのは、馬車ごと中に入れる2番扉。

 馬車が全て中に入るとすぐに扉は閉められ、人気の無かった倉庫内に一人の男が顔を出した。


「相変わらず予定通りだな、バーシェ」

「眠ることのない魔物が牽いているのだから当たり前だ。もう、飲んでいるのか?」

「ふふ、祝い酒だよ。これほど酒が美味しく飲めるアテを知らないものでな。それはそうと、金になりそうなスキル持ちは混じっていたか?」

「いや、まったくだ。もうまともな人材など残っていない」

「それもそうか。ふふふ、他所で金でも借りたか、まさか5回目があるとは思わなんだ。わざわざ私のために積荷と馬車を用意してくれたのだから、これだけでも感謝せんとな」


 言いながらキウスは馬車の幌を一撫でし、各馬車の積荷を確認。

 その度にいやらしい笑みを浮かべながらグラスの酒を口に含んでいく。


「性懲りもなく米ばかり。獣人は頭が弱くて学習しないと聞くが、やつの脳みそはよほど小さいと見える」

「そのおかげで、あんたとオーラン男爵が儲かるんだろう?」

「ただ消すのではなく、賢く使い潰した結果だ。いつの時代も、バカを賢く利用する者が富を得るのは変わらない。魔物を使役するおまえなら分かるだろう?」

「……俺は、違う。アイツらは相棒だ。唯一の、信頼できる相棒、だった……」

「なんだ? 具合でも悪いのか?」


 くそっ……

 グリーヴァが両断され、ロトンとエトンの首が飛ばされ……地に落ちてゆく俺を空から眺める、あのガキの顔がチラつき鼓動が激しくなる。

 落ち着け、落ち着け、落ち着け……ここで万が一失敗すれば、俺はまともに死ねなくなる。

 自ら短剣を刺していた左手の傷も、黒い靄が覆えばそう時間も掛からず癒えていたのだ。

 となれば、あのガキの言っていることは、たしかに現実のものとなる。

 お、俺は……蟻の巣に放り込まれたまま体中を食われて、それでもずっと死ねず……

 蟻に貪られれば叫び過ぎて喉は枯れ、死を願わずにはいられないほどの筆舌しがたい痛みで気絶と覚醒を繰り返すという、まるで経験してきたかのような生生しい言葉が頭を過る。


(も、もっと情報だ。オーラン男爵の情報を……!)


 どこかで聞いているはずなのに、合図らしきモノは送られてこない。

 ということは、|こ《・》|れ《・》|で《・》|は《・》|ま《・》|だ《・》|弱《・》|い《・》ということ。

 俺とキウスの繋がりは十分証明できているはずなのだから、あとはキウスとオーラン男爵の繋がりだ。

 何か、何か繋がるものを……


「そういえば、オーラン男爵から、何か情報を預かっていないか?」

「何に関してだ?」

「欲しい魔物の所在をいくつかオーラン男爵に依頼していたんだ。王都で男爵とは頻繁に会うんだろ?」

「あぁ、そんなことか。ならばその話は出ていない。だが、次の仕事の話は出ていたぞ?」

「……なんだと?」

「西の『モルフラン』でも、『米』を北のフレイビル王国に輸出する動きが持ち上がっているらしい。生産量で言えばドミアとは比較にもならんが、許せばバカはすぐに量を増やそうとする。本格的に動けば、また失踪の手引きで動いてもらうことになるはずだ」

「……」

「なぜ辛気臭い顔をしている。オーラン男爵に貢献すれば、貴族の伝手で魔物情報の一部が手に入るやもしれぬのだ。そうすれば新しいお友達だか、相棒とやらも増えるんだろう?」


 弛んだ腹と顎の肉を揺らし、クツクツと笑うキウスに今は同情心しか湧き上がらない。

 厭味ったらしく笑うこの男も、これからオーラン男爵への繋ぎに利用されるのだ。

 そして上手く使い潰されるかは本人次第。

 最悪は簡単に潰れることなど許されず、ましてや逃げられるわけもなく……俺のように自らの瞑目だけを願うことになる。


 ……あぁ、ホラ、やっと化け物が姿を現した。


 これで、もう―――。





「救いようのないクズですねぇ」
327話 クズはクズなりに

「救いようのないクズですねぇ」


 耳元で呟いた言葉に、目を見開きながら振り返る男。

 歳は50前後か。

 ずいぶんと張り出た腹は豪奢な服を持ち上げ、指にはいくつもの煌びやかな指輪を身に着けていた。

 見るからに気持ちの悪い金持ち――そんな男の弛んだ頬が大きく歪み、


「ブヘッ!?」


 グラスに入った酒を撒き散らしながら、後ろの木箱へ吹き飛んでいく。


「フ――……フ――……全部聞いてたっすよ! 全部っ!」


 勢い良く殴ったのはクアドさん。 

 扉が開いた瞬間に転移し、積み重なった木箱の裏で黙って聞いていた時、クアドさんは強く拳を握って震えながら耐えていた。

 その気持ちが分かるだけに、この程度なら止めるようなことはしない。

 とりあえずキウスとかいう男は、生きて言葉さえしゃべれればそれで良い。


「うぐっ……ク、クアドだと!? なぜ貴様がここに!!」 

「今回の襲撃が失敗したからに決まってるじゃないっすか!」

「は……? で、ではなぜ、バーシェが馬車を牽いてワシの所に……」

「ずいぶんと気持ち良く語ってくれましたね。クアドさんから強奪した品々は、眺めるだけでそんなにお酒が進むものでしたか?」

「う……ぐっ……な、何を言っているのか……」

「今更そんな戯言が通じるわけないでしょう。最初から最後まで、全部聞いてましたよ。次の標的が西の町『モルフラン』になりそうなことも、王都でオーラン男爵とこの手の相談をしていることも、全部ね」

「く、くそっ……だ、誰か! 曲者ぁが……ッ……」

「あなたがこうして一人ノコノコと現れた以上、従業員はこんな事実ろくに把握していないんでしょう? なら不必要に巻き込んじゃダメ、これから地獄を見るのはあなただけで十分なんです。まずは―――」


 場所は店舗裏手の倉庫で、周囲を見渡せば積み重なった木箱の山。

 さすが大通りに面した大型の店舗だけあり、中身が何かは知らないが在庫は豊富そうである。

 となれば、やることは一つ。


「僕のために、これだけの荷物を用意してくれて、本当にありがとうございます」


 そう言いながら、視界に入る木箱を次から次へと収納していく。


「なっ……? も、物が消えて……何を、何をやっている……?」

「この店の売り物を回収してるんですよ。人が苦労して、傷だらけになりながらかき集めた商品を、あなたは笑いながら奪い、そして自分の金に換えていたんです。ならば同じことをされても文句は言えないでしょう?」

「ま、待てぇええええーッ!! そんなことが許されてたまるか! ここにある品がいくらになるか分かってるのか!? 馬車の積荷なんて比較にならんのだぞ!?」

「そんなの知りませんし、あなただって積荷の価値を把握することなく奪ってたじゃないですか。あ、クアドさん。通用口は塞いでおいたから大丈夫なはずですけど、キウスが暴れないようにはしておいてくださいね」

「了解っす! ホラ、どうすっか? 自分の大事な商品が奪われていく気持ち、やっと分かったっすか?」

「やめろぉおおおおお!! き、貴様ら! ワシにこんなことをしてタダで済むと思ってるのか!? オーラン男爵が黙っとらんぞ!!」

「ん~? 頼みの綱のオーラン男爵は、いったいどんなことをしてくるんです?」


 手を止めずに話を聞いていると、キウスはお決まりのセリフを吐いてくる。

 本当にこの手の悪党は、なぜすぐに他人の名前を出したがるのか。


「貴様、こんなことに首を突っ込むとなると傭兵だろう? ならばすぐに仕事を無くさせてやる。今までの実績なんぞ無かったことにしてやるわ!」

「自信満々に言ってますけど、そんなことがやれたとしてもオーラン男爵でしょう? 自分の力みたいに言って、恥ずかしくないんです?」

「ぐっ……そ、そう伝えられることも力なのだ! それにすぐ品物を戻さねば、貴様を大陸中のお尋ね者にしてやる!」

「え?」


 ここで黙々と回収していた俺の手が、初めて止まった。

 今までは在り来たりで、俺にとってはかなりどうでもいい脅し文句だったが……『お尋ね者』とはなんだ?

 文字通りの意味でいいのか?


「ふふ……バーシェがこの有様なのだ。貴様も相応に強いのだろうが、だからこそ上には上がいることも分かっているだろう? 特大の金がかかってでも、討伐依頼をオールランカー向けに出して、貴様に懸賞金を懸けてやる」

「へ~なるほど……そういう手もありましたか」

「ロ、ロキさん……?」


 考えてみれば、俺はその懸賞金を見て野盗連中やギニエに蔓延っていたバーナルド兄弟のような悪党を狩っていたのだ。

 となれば貴族に反感を持たれ、逆に懸賞金を懸けられることも当然あり得る。

 そしてその金額が大きくなれば、存在することだけは分かっているオールランカーという存在と、傭兵ギルドが抱えるクローズド情報によって、大陸中から本当の強者が俺を殺しにやってくるかもしれない。


 そう思えば――……


 ブルッ。


 思わず興奮で身体が震えるも、しかしこれは、さすがにまだ早い。

 予測でしかないが、国内ランクで1位や2位くらいの実力者がオールランカーの候補になっているはずなのだ。

 となればまだ勝てるかは怪しいし、何より拠点外で四六時中どこかの誰かに命を狙われるというのは、精神的にもあまりよろしくない。

 そんな環境では安心して魔物狩りに勤しめなくなってしまう。

 ならば。


「そ、そうだ……それでいい。まずは今すぐに品を戻せ。そしてワシのために、その特異な能力を活かせば―――」

「うん、やっぱりとことん潰した方が良さそうですね」

「…………は?」


 そう判断し、残った品物の回収を再開する。


「ま、待たんかぁあああ! 話を聞いとったのか!? 貴族を敵に回し、大陸中の猛者に命を狙われるのだぞ!?」

「もちろん聞いてましたけど……あのですね。その脅し文句って、あなた達を完全に潰しきれない相手だからこそ意味があるんですよ」

「なんだと……?」

「そんな脅しを受けたら中途半端に生かすより、徹底的に潰しちゃった方が僕は安全でしょう?」

「貴族を、本気で潰すつもりなのか……?」

「生かせば懸賞金を懸けられるというのなら、そのためのお金を奪い、現金化できそうな品も奪い、残された人間が何もできないくらい再起不能にしてしまえばいい。まぁその辺りはオーラン男爵に一度会ってから判断するつもりですけどね」

「本当にオーラン男爵とやり合うつもりだったんすね……」

「き、貴族を丸ごと潰すなど、正気の沙汰じゃない……狂ってる……」


 キウスは他人事のようにボヤいているが、まずはおまえ自身だ。

 救いようがないほどの悪党と判断した相手は、文字通り再起不能にする。


「さて、倉庫の品も片付きましたし、次は店内の売り物と現金、それに備品なんかも丸ごといっちゃいますかね」

「……ッ!? こ、ここだけじゃないのか!?」

「当たり前でしょう。あなたはクアドさんに、そんな余力を残そうとしました? 先ほどは借金までさせたと喜んでましたよね?」

「そ、それは……」

「ならば、あなたのモノは全て奪い尽くしますよ」


 本当に当たり前の話だ。

 正真正銘のクズと判明したならば、そんな男の経営する店など残しておいても被害者が増えるだけ。

 まったく無関係な従業員さんには申し訳ないので、店舗資金の一部から支度金のような形で纏まったお金を渡すが、それ以外は金に換えられるかどうかに関係なく全てを奪う。

 |ま《・》|だ《・》|心《・》|が《・》|折《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|な《・》|い《・》この男からは、本当にその全てを。


「クアドさん。キウス商会の店舗って全部把握してます?」

「もちろんっすよ。オルトランの国内のみで7店舗。『南西のドミア』『西のモルフラン』『北西のアンティモア』『中央の王都サバリエ』『南のシュライカ』『東のサヌール』『北東のブザラハット』っす」

「ふ、ふふっ……ま、まさか、全てを……ワシの店の全てを、奪うつもり、なのか……」

「…………何を生温いこと言ってるんです。一通りのお店を空にしたら、次は自宅、資産、身に着けているモノまで、あなたからは全てを根こそぎ奪いますから」
328話 釣り師

「それだけは勘弁してくれ……妻も、子供も、いるのだ……」


 ようやくか。

 キウスの反応を見て、やっと眼が死んだことに安堵する。

 観察しながらも違和感を覚え、ずっと考えていた。

 いったいキウスは、何に心が折れるのか。

 バーシェという男は、平穏な死を望んだ。

 だからある意味扱いやすかったが、キウスは不思議と心が折れそうで折れない。

 事前の情報や直接目にした言動から、この男の一番は何よりも『金』であると。

 そう判断し、最もダメージの与えられそうな選択を取ったものの、呻き声を漏らし、酒で少し赤らんでいた顔が病的なまでに青ざめる程度。

 抱える支店の物品まで押収すると告げてなお、俺を睨み返す程度には眼に力が残っているように見えた。


 貴族との繋がりさえあれば、奪われた品や金は取り戻せると思っているのか。

 それとも、自らが壁となって止めることで、オーラン男爵から救済や補填でもされるのか。


 この辺りが僅かにキウスの心を繋ぎ止めている理由かと思っていたが、しかしなるほど。

 この男の最上位にあるのは、まさかの『家族』か。

 ……だったら意外過ぎる結果だな。


「ご家族はドミアに滞在し、あなただけは王都に住まわれていたんですよね? 単純な憧れや見栄、あとは囲っていた女のために」

「……な、なんでだ……なんで、そんなことまで……」

「ベッグさんが教えてくれましたよ」

「ベッグ……? し、知らん。そんな、名など……」

「真面目にあなたの下で輸送の仕事をしていたというのに、野盗に襲われた責任を無理やり取らされ、あなた自身が借金奴隷に落とした元部下ですよ」

「野盗……借金、奴隷……」

「どうせ似たようなことが多過ぎて覚えていないんでしょう? あなたのようなゴミは人に害を振りまいている認識がなく、ゆえに大した罪悪感も生まれないから記憶にすら留めていない。その先の、誰かの犠牲によって成り立つ自分に都合の良い結果しか見ていないから」

「……」

「だからね、ここからはあなたが現実を直視するんです。長い年月を掛けて積み重ね、広げていったお店が、人を不幸に落として築きあげた財産が、そのお金で養ってきたあなたの大事な大事なご家族が。全てあなたの目の前で、綺麗に消えていく様を見届けてから死んでください」

「っ……ぁ……た、頼む……家族だけは……ッ!」


 半分は本気で、半分は脅しの言葉。

 何も悪党の家族だからというだけの理由で断罪なんてするつもりはないし、逆に本人じゃないからという理由で無条件に解放したりもしない。

 重要なのは、キウスの家族が同様に染まっているのかどうか。

 結局はここ次第だが、ようやくこの男を完全に落とす要領が掴めてきたな。


「家族だけ……そうですね。もしあなたがオーラン男爵の罪を認め、公表する側に回るならば、ドミアのご自宅に関してだけは考え直しても構いません」

「私は、何をすればいいのだ。いったい、私に何を、求めている……」

「まずあなたとオーラン男爵の繋がりを示す、物的な証拠はありますか? あぁ、嘘を吐いても、【奴隷術】で強引に口を割らせますからね」

「それは、誓って何もない……男爵は典型的過ぎるくらいの地方貴族だが、それなりに悪知恵は働く。証拠になるようなモノは残すなと、私に言ったのは男爵自身だ。それに――」

「?」

「男爵自身は罪を犯しているかどうかも怪しいところ……」

「え……どういうことです?」

「買い付けの異変を感じ、その旨を男爵に伝えれば、バーシェをワシに貸し与えてくれる。要は"これで上手いことやれ"ということだが、実際はそれだけでもある」

「え? ええ?」


 この言葉を受け、咄嗟にバーシェへ視線を向ければゆっくりと頷く。


「たしかに、"問題"が解決するまで、キウスの指示に従い協力しろと……その後はキウス――というよりは、ドミアの支店を任されているキウスの息子と、段取りを決めていた……」

「バーシェ、貴様ぁあああ!!」

「ふん……俺は、お前たちの、あくどい金稼ぎに巻き込まれて、このザマなんだぞ……?」


 目の前で睨み合う二人が、結託して話を合わせているとは思えない。

 つまりこれは事実で、オーラン男爵は話を聞く限り、黒とは言い切れないグレーゾーンで踏み留まっているようにも思える。


「モルフランでの怪しい動きは、誰がどのようにして気付いたんです? てっきり領内で、男爵本人がその動きに気付いたのだと思ってましたが」

「それはモルフランで買い付けの担当をしているワシの部下だ。不作でもないのに買い付け量が不自然に減れば、いったいどこに米を流しているという話になる。繋がっている他商会でも買取がないとなれば、このような男が裏でコソコソと動いている可能性が極めて高い」


 そう言いながら恨めしそうにクアドさんを睨み付ければ、当人は意に介さない様子ですぐに答える。


「それは間違いないっすね。買い付けている人間が農家ごとの生産量を一番把握してるっすから、農家個人がどうこうできない量の変動が起きれば、すぐに気付けるっす」

「なるほど……」


 異変に気付くのは現場であって領主ではないか。

 買い付け担当が覚えた違和感は、元締めのような役割を担っているキウスへと持ち上がり、そのキウスがオーラン男爵に相談すれば、問題解決のためにバーシェを貸し与えられる。

 そうなれば、利益を十分に確保したいキウスは、バーシェを使ってその動きを阻止しようと動くわけで――

 相談事の内容が物騒な話なのは当然だとしても、それを証明する手立てがないのだから、ここで領主を責めたとしても自白させられるとは思えない。

 偶然なんてことは考えにくく、何かあってもキウスに罪を被せられるよう、意図的に工作をしていたということ。

 これでは"ただ抱えていた傭兵を貸しただけ"と、事前に用意された言葉で逃げられるだろうな……


「もしただの平民とも違う立場のお二人が、衛兵や繋がりのある貴族なんかに男爵の罪を告発した場合はどうなります?」

「相手にされるわけがない。よほどの事情でもなければ、裁く側の貴族は同じ貴族を守る。貸しを作るなら、力の強い者を守った方がその後の見返りは大きい」

「俺では、つり合いが取れても、騎士爵程度、だろうな……」

「……では、明確な当事者であり内情も把握しているお二人が、揃って男爵本人を糾弾した場合は?」

「あの男が、罪を認めるとは、思えない……全てこちらに罪を被せられる、だけだ……」

「帳簿には、ワシが男爵から恐ろしい値段で大量の米を買い付けているという、その事実しか残っておらん。それ以外は知らぬ存ぜぬを強引に通され、こちらが首を飛ばされて終わりだろう」

「ロ、ロキさん。自分はキウスに仕返しできただけでも十分っすから、これ以上の無茶はしない方が……」


 次々と出てくる否定的な言葉。

 想定以上に狡く、身を守るための準備は周到だ。

 物的証拠はなく、本来重要であるはずの証言は意味をなさず、事実を捻じ曲げられて、強引に口を塞がれる。

 これ以上進むこと自体が大きなリスク、誰が見てもそんな状況だろう。

 でも悪事を働いておきながら、権力や立場で身を守りながらほくそ笑んでいるようなヤツが大嫌いで、この世界を良くしたい神様達にとっても、こんな存在こそが癌そのモノのはずで。


(救える力があるのなら、救ってほしい、か……)


 不意に初めて人を殺め、法について教えてくれた衛兵長アルバックさんの言葉が脳裏を過る。

 オーラン男爵という男を生かしておけば、仮にキウスを殺したところで代替えが用意され、ろくに現実を知らない農民はただひたすらに搾取され続けることになる。

 余った作物が高く売れる機会は失われ、クアドさんのような、農民にとってはプラスになり得る商人が現れたとしても、人知れず殺されれば現状が改善することはない。


 決して正義感なんかではなく、あるのはただ『嫌い』という個人的な感情と、その先に得られる不透明な戦果。

 それでも、立場に捕らわれない俺のような存在だからこそできることがあって。

 その結果として、ギニエのように救われる人達がいるのなら、それは俺にとっても喜ばしいことで。

 あとは俺に、最悪は『お尋ね者』になるという、その覚悟が持てるかどうかだが――


「それでもやりますよ。最も潰すべきは、そういう権力を笠に着た連中ですから」


 想像すれば、やはり心は震えるのだ。

 今がまだ早いと感じるだけで、この『最短ルート』は俺自身が心の底で望んでいること。

 それに遅かれ早かれ、いずれ俺は、お尋ね者になる。

 そんな気がする。


 しかし、今回に関してはどうしたものか。

 現状は八方塞がりに近く、このままでは権力以上の『神《リア》の力』で、強引に―――、いや、まだ手がなくはないか。

 細そうな糸だが、押してダメなら、引くことで手繰り寄せられる可能性もあるし、上手くいけば男爵の本質を測れるかもしれない。

 貴族を、生かすか、殺すか。


「とりあえず、一度オーラン男爵を釣ってみますか」


 この言葉に、異言語理解は仕事をしているのかしていないのか。

 3人はキョトンとした顔のまま、俺を見つめていた。
329話 漏れ出る本音

「旦那様、バーシェ様がお見えです」

「うむ、第二の応接室か?」

「左様でございます」


 ドミアにある、やや不相応とも言えるくらいに大きな屋敷。

 その一室で机に向かっていた男――オーラン男爵は、執事の声に顔を上げた。

 魔鳥を使わずにここへ立ち寄るということは、結果の報告ついでで報酬を受け取ろうという魂胆だろう。

 オーラン男爵はそう判断し、引き出しから1枚の羊皮紙を掴んで目的の第二応接室へと向かった。


「急な訪問ですいませんね、オーラン男爵」

「構わぬ。それより|問《・》|題《・》は、滞りなく解決したのか?」

「もちろんですよ。サヌールでキウスと合流し、無事荷物は―――」

「――あぁ、その先を言う必要はない」


 バーシェの報告を自らの言葉で被せ、強引に止めた男は矢継ぎ早に釘を刺す。


「私はお前達がやったことは何も知らないし、さして興味もない。そうだろう?」

「……そうですね」

「解決したのであれば、それでいい。これが|友《・》|を《・》手伝ってくれた報酬、頼まれていたモノだ」


 言いながら、男は一枚の羊皮紙をテーブルの上で滑らした。

 真っ先に目に付くのは、黒く塗り潰された馬らしき絵。

 その下には多くの文字が並んでいる。


「……こちらが見つかったんですね」    

「と言っても曖昧ではあるがな。エスペヒスモに生息しているユニコーンの亜種、いや、希少種だったか。そう『源書』には記されているらしい」

「エスペヒスモ……男爵はこの名がどの地を指すかお分かりですか?」

「古い文献で見覚えはある。大陸南東に存在する幻想森海のことだと思うが……曖昧とは、そういうことだ」

「なるほど。吟遊詩人の歌に出てくる、"迷子の迷子の妖精を隠す最後の森"でしたか。久しぶりに思い出しましたよ」

「ふん。そんな出所も分からぬ歌、どこまで真実か分かったものではないがな」

「ちなみに、本命の方は?」


 この問いに、オーラン男爵は首を横に振った。


「私の伝手を使っても一切の情報が拾えないとなれば、50番台以降である可能性が極めて高い。仮に存在したとしても、まともに生息している類の魔物ではないと思うが?」

「それはまぁ、そうなんでしょうけどね」

「……報酬は確かに渡した。そうすぐの話ではないだろうが、また何かあれば使いの者を出す」


 そう言い、オーラン男爵がこの場を終わらそうとしたその時。

 突如として屋敷の入り口が騒がしくなり、慌てた様子で執事長が扉越しに事情を伝えた。


「だ、旦那様。キウス様が『火急』ということで、面会を希望されておりますが、如何いたしましょうか……? 『米』の件でと、かなり焦った様子で取次ぎを求められております」

「なんだと?」


 この言葉を受け、オーラン男爵はバーシェに視線を向けるが、そのバーシェも訝し気な様子で首を捻るばかり。

 だが米の件ならばと、何かを納得したようにバージェが頷くので、やむを得ないとオーラン男爵はキウスをこの場に招き入れた。


「閣下、この度の急な来訪、誠に申し訳―――って、バーシェも来ておったのか」

「報告ついでで、報酬を頂きにな」

「そんなことはどうでもよいわ。キウス、火急とは何事か?」

「おぉそうでした。閣下、出所のはっきりしない『闇米』が発見されました。場所は王都へ繋がるスルイス街道途中の宿場で、どうやら倉庫のいくつかが集積所になっているようです」

「なに? 怪しい動きが見られたのはモルフランではなかったのか?」

「あちらはまだ準備段階といったところで、すぐ動けるような状況ではありません。今回発見されたのはまったくの別で、現在も続々と各方面から米が運ばれている様子」

「何が起きている……というより、どこからそんな米が湧いて出てきた? 貴様らが溢れた米の管理をしてきたのではないのか?」

「その通りです。下の者に状況を探らせたところ、多方面から馬車1台分程度の僅かな量が運ばれているとのこと。しかし一斉に動いている節があるため、現時点で少なく見積もっても30台を超える積載分が集まり、同時に王都、もしくは通過して東の各所へ分散して運ばれることも考えられます」

「……各町村で1台分とすれば、つまり貴様らの目を掻い潜り、結託して搔き集めたということか」

「そうとしか考えられません。個人で露天売りする程度の量であればさすがに分かりかねますから、一介の農家が起こしたものではなく、もっと大きな動きになっていると予想されます」

「ふむ。総量で言えば、そこまで大したモノではなさそうだが……」


 この時、オーラン男爵にはまだ余裕があった。

 地税として納められた米の現金化は既に済んでいること。

 この流れで幾分相場が崩れたとしても、高値で売れることが前提の値段で買い付けているキウスが困るだけであり、男爵自身が割りを食うほどの話ではない。

 そう考えていたが。


「しかし、相場を崩すには十分な量でもありますし、どこまで『闇米』の量が膨れ上がるかは不透明です。もし王都を含む中央から東にかけての米相場がこの機に崩れれば、翌年以降の買い付け額は見直しをさせていただく必要がありますゆえ、火急と思いご報告を……」


 この、商人としては当然の言葉に、男爵の眉がピクリと動く。


「この件、誰が、先頭に立って、動いている……?」


 オーラン男爵の声が怒りに震えていることに気付くも、だからと言って答えないわけにはいかない。

 キウスは額の汗を拭きながら作られた台本を読み上げ、黙って話を聞いていたバーシェも安らかな死を迎えたいがために手を差し伸べる。


「ふ、不明です。今のところは、馬を操った経験のある農民が、馬車を牽いて中央方面へ向かっているというくらいしか……」

「ここ数年は、休耕期にわざわざサヌールまで出稼ぎに来ている西の者をチラホラと見かけます。ともすれば、価格の違いは一目瞭然。その情報を持ち帰り、徐々に広まったのでは?」

「ふ、ふふ……キウス、バーシェ。私の言いたいことは分かるな?」

「「……」」

「|こ《・》|の《・》|問《・》|題《・》を解決しろ。早急にだ」


 もっともこの状況に焦っているのは、現実的に損失が大きく膨らむ可能性のあるキウス――

 そう思ってオーラン男爵は強い視線を向けるが、意外にも真っ先に口を開いたのは横に座るバーシェだった。


「……問題については理解しますが、今回は具体的な方法を示していただきたい」

「……どういう意味だ?」

「今までと同様なら自分が網を張れば済む話。しかし今回のような規模となればそうはいかないでしょう。西部から王都に向けて延びる街道なんていくつもありますし、宿場だって大小様々にあります。正直に言えば、いくら魔物を駆使したところで手が足りません」

「我が商会の者達を使ったとしても――やはり厳しい、ですな……まず武芸に長けた者がおりません。今回も偶然発見できたというだけあり、手なんぞ出せませんし、制圧や接収という場面ではなんの役にも立たんでしょう」

「となると、傭兵か」

「刻一刻を争うこの状況では傭兵も厳しいかと。戦力や使い勝手という意味では金次第でいくらでも動きますけど、それでも頭数を確保するまでには相応の時間が掛かりますよ?」

「それは、たしかにな」

「それに、なんと言いますか……閣下が常日頃から意識されている『証拠』という点でも、外部の組織を通されるのは不都合が起きやすいかと……」

「……まさか、ここで領兵か?」

「手の内にあるコマで、すぐに動かすことが可能となれば、それが理想のようにも思えますが……」

「名目が立てば、でしょうけどね」


 名目と言われ、オーラン男爵は一瞬考えるも、まともな名目など立つわけもない。

 地税を納めた後の本来自由にできる米を、自らの労力と時間を掛けて遠方へ売りに向かう領民に悪しき点など一つも無い。

 そんな領民を、納められた地税を元手に雇用している領兵を使って討つ――それがどれほどの所業であるか。

 しかし、生まれながらに特権階級のこの男には、それが理解できなかった。


「早急に検問を敷き、『米』を馬車で輸送する者共は『盗人』として全て打ち首にする。キウス、巻き込まれたくなければ一時的に輸送を止めるよう、仲間内の商人どもにも伝えておけ」

「……し、承知しました」

「バーシェは王都だ。集積しているということは野盗連中を恐れて一度集まる算段――ならば、魔物共を利用して寝ずに移動できるおまえなら間に合うだろう?」

「それは、まぁ……」

「王都西側の街道が複数ぶつかる地点が適所だな。人通りもそれなりだろうが、相手は『盗人』なのだから討伐依頼という体で消せ。あぁただし、『米』はあの、気色の悪い魔物に食わせるなりして、誰かの手に渡るようなことはするな」

「……」


 これで、とりあえずは防げる。

 あとは検問で捕らえた農民から、誰が先導してこのような行動を起こし、目的地はどこだったのか。

 拷問に掛けて吐き出させれば、事態の全容が見えてくるだろう。

 分かれば事前に対策は取れるというもの。

 先導した者はどんな責め苦を―――



「……閣下、本当に、実行してよろしいのですか?」

「罪のない領民が、相応の数、死にますが」



 ――この時、なぜ二人はこの言葉を吐いたのか、自分達でも理解していなかった。

 領民の死を憂いたのか、それとも一応は利害関係のあった男爵を救おうとでも思ったのか。

 もしかしたらこの台本を描いた少年に、そう物語は都合良くいかないと、最後に意趣返しをしたかったのかもしれない。

 ともあれ二人からの、思いがけない|救《・》|い《・》|の《・》|言《・》|葉《・》。

 この時、男爵が冷静であれば、本来の二人からは間違いなく出てこないであろう言葉だけに、真意は分からずとも違和感には気付けたかもしれなかった。

 しかし、オーラン男爵は既に安堵していた。

 糸口が見えたことで、自分の金は守られると――既に問題は解決したと、そう錯覚してしまっていた。

 だからか。


「何を言っている? 家畜よりも簡単に数は増えていくのだ。死んだところで、何か思う方が難しい。いや……私の為に死ねるのだから、本望ではないのか?」


 この言葉を、自然と吐いてしまう。

 この場にいる者なら、間違いなく本音だろうと判断できる、この言葉を。


 その刹那。

 正面に存在する3人掛けの良質なソファーには、キウス、バーシェが並んで座っていたはずだが――。


 気付けばその横には一人の少年が座っていて、ジッと男爵を見つめていた。
330話 理解のできない世界

「………」

 目を見開きながら俺を見つめ、言葉が出る様子のないオーラン男爵。

 歳は40くらいか。

 やや癖のある茶色い髪を後ろに撫でつけ、部屋着だろうにこれが貴族かと、すぐ判別できるくらいには見栄えのする格好をしている。

 ただ派手なだけだったキウスとは違う、上品さも備わった姿だが、せっかくのチャンスを棒に振ったどころか、この上ないクズっぷりを披露したこの男はどうせ死ぬのだ。

 そんなことはどうでもいいか。


「わざわざお二人が救済の道を作ったというのに……残念でしたね」


 言いながら横の二人に視線を向ければ、やや気まずい顔をしながらもやり切ったような、そんな雰囲気を漂わせていた。


「……その身なり、貴族ではないな?」

「そうですが?」


 そう答えるや否や、懐から取り出したのは装飾の施された鞘付きの短刀。


「ここでは貴様の下劣な血で汚れる。それを持って庭に向かい、自害しろ。貴様のせいで非常に気分が悪いのだ。私の見える範囲でやれ」

「………………は?」

「何をしている。早く、やれ」


 言っている意味も、やっている行動もまったく理解できず、思わず変な声を出してしまった。

 なぜ侵入者とも言える俺にわざわざ武器を渡すのか。

 そして欠片も理解できない命令を、自信満々に言い放つことができるのか。

 何より――


「これで、自分が刺される心配とか、しないんですか?」

「なぜ貴族である私が、下民如きに刺される心配をする必要がある?」

「???」


 なんだ?

【心眼】で覗いても、これと言って特殊なスキルはない。

 それなりの教育を受けているのか、能力的には決して弱いわけではなさそうだが……

 それでもハンターで言えばDランクかCランク程度。

 ギニエにいた領兵辺りと精々同程度といったところだろう。


(この自信はどこから来る……まだ俺の知らない特殊なルールがあって、貴族特有の防御膜でも張っているのか?)


 気になって、しょうがない。

 まるでゴミを払うように、俺の目の前で手をヒラヒラと振る男の腕を掴み。


「てい」


 その手にナイフを突き立てれば、あれ?

 あっさり貫通し、その下の机にまで深々と刺さる。

 うーん、かなり良い短刀っぽいな。


「うごぉおぁあああああああああああああ……ッ!?」

「なんだ、普通に刺さるじゃないですか。ビックリさせないでくださいよもう……あと、凄く煩いです」


 これだけ大袈裟に騒げば、当然屋敷の中に響くわけで。


「だ、旦那様ッ!? だ、誰か、医者を! それとすぐに門兵を呼ぶのです!」


 すぐ近くにいたのだろう、燕尾服を纏ったじいさんを筆頭に、屋敷の中が慌ただしくなる。


(外に応援を呼びに行ったか……まぁ、しょうがない)


 貴族を相手にするのだ。

 ここから先は自分の今後を案じては何も進めないし、こちらは相応の覚悟を決めた上でここに来ている。

 手にナイフが刺さって身動きの取れない領主が、軽い痙攣を起こしながら呻き続ける中――。

 ゆっくり視線を上げれば、応接室の入り口付近には使用人の人だかりができ、その中には横で叫ぶ男と同じ。

 身に纏う衣装の質が、明らかに他と違う者達も何人かいた。


「あ、あなたっ!?」

「ケーラ……詰所だ……ありったけの兵を呼べ……! この私に刃を突き立てた下賤な者を、絶対に生かして帰すな!」

「し、承知しております!」

「貴様ぁあああああ! 貴族に手を上げるとは何事かッ!!」

「だ、断罪だ! 誰でもいいから、早くこの者を処刑せよ!」


 派手な衣装を纏った女がこの部屋を離れ、先頭に立って罵声を浴びせてくる男に、メイドの陰に隠れながら睨み付けるかなり若そうな男。

 それにもう一人、背丈や雰囲気からすると次男だろうか?

 ただ黙ってこの状況を見つめている男もいる。


 ――【探査】――


 兵を呼びにいった者以外はほぼ全員この場に集まっているようだし、明らかに服から身分が違うと分かる者は領主以外に4名か……

 理解できない世界を突き付けられたお陰で、少々予定が狂ってしまったのはしょうがない。

 まずはこの状況を説明し、駆除すべき対象を判別する。


「お騒がせしてすみません。少々問題があってこのような状況になっていること、お許しください」

「ち、父上にこんなことをして、許せるわけないだろう!?」

「問題だと……?」

「えぇ。ここにいる皆さんがどこまで把握されているか分かりませんが、この地の領主は利益のために特定の商会と組み、名産であろう『米』の物流制限を加えてまして」

「……」

「まぁそれくらいであれば、まだ許容範囲内ではあるんですけどね。その価格維持のために、真っ当な方法で米を売ろうとする農家や商会を、裏で殺害していたんですよ」

「だから、なんだというのだ?」

「その件を奥にいるお二人が言及したら、この領主は言うに事欠いて、『家畜よりも簡単に増えるのだから、死んだところで何か思う方が難しく、逆に領主のために死ぬのだから本望』と、このようにほざいたわけです」

「だから、それが、なんだというのだ!?」

「そうだ! 貴様こそ何をほざいているんだこの下賤なウジ虫が!」


 長男と思われる男と、陰に隠れて威勢だけはいい三男が騒ぐ中、やはりというか、使用人の面々は渋い表情を隠せないでいた。

 それはそうだろう。

 捉え方によっては、自分達など家畜以下ということになるのだから。

 そして、その中に混ざる、次男と思しき男も眉間に皺を寄せ、呻き声を上げる領主を見つめていた。


「通してくれ」


 そんな中、使用人の背後から聞こえてくる野太い声。

 と同時に使用人の壁が割れ、やや質の良さそうな金属鎧を身に纏った2名の男が武器を握り部屋へ入ってくる。

 真っ先に到着した、屋敷の門を警護していた2名の兵士。

 その表情からすれば、先ほどの話は聞こえていたはずだ。


「遅いわ! 早くこの狼藉者を捕らえろ!」


 ガンッ!

 何事かと思えば、三男がメイドの陰から兵士を足蹴にしていた。


「こんな時くらいしか役に立たぬのだ! 命を投げ捨ててでも父上を救え!」

「ッ……余計な抵抗はするな。動けば捕らえるではなく、この場で殺すことになる」

「できると思いますか?」

「そういう、問題ではないのだ」


 そうだろうな。

 できるか、できないかじゃない。

 どんな状況であれ、今はこの言葉を吐かなければならないのだろう。

 だが……表情が物語っている。

 少なくともこの二人の兵士は、まともな思考の持ち主のはず。

 本気で俺を殺す気の相手ならば別だが、職務を全うするために、嫌々やらされているだけの人間を殺めるのは、さすがに違う。

 ならば。


 ――【威圧】――


「はかっ……!?」

「んぐ……ッ」


 強引に戦意を喪失させ、終わるまで寝ていてもらうのみ。


「んなっ!? 何をしているんだ貴様ら!」

「こ、こんな時に働かないで、いつ働くんだ! このっ! 立て! 立てよ役立たずども!」


 そんな兵達に二人は罵声を浴びせ、三男に至ってはヘルムの上から足で何度も頭を踏みつけていたが、ここで終始様子を見ていた男が口を開いた。


「兄上、ユースも、まずは一度落ち着いてください」

「何を言うかアルス! この状況で落ち着いてなどいられるわけがなかろう!」

「そうですよ! 高貴な存在である父上が、こんなゴミのような存在に殺されるかもしれないのですよ!?」

「……父上はあちらの手の内にあるのです。ただ殺害することが目的であれば、とうに実行されているでしょう。なのにまだ生かされているということは、別に目的がある――違いますか?」

「正解です。3つ、目的があってここに来ました」

「では具体的に、何を目的にされているのですか?」


 俺を観察し、試すような目。

 やはり、アルスと呼ばれたこの青年が一番まともそうな――。


「ふん、ナムクリッド・オーランが命じる。今から首を刎ねるゆえ、その場を動くな」

「「え?」」

「使えぬ者共め……剣を寄越せ。父上を傷つけた虫ケラに対話など不要、首を落とせばそれで済む話よ」


 言いながら領兵が所持していた剣を拾い、ツカツカと警戒心もなく歩み寄ってくる長男と思しき男。

 完全に父親と同じだ。

 何があっても、命じれば思いのままに。

 反撃を受ける想定など一切することなく、相手が平民であれば、こんなバカげた言葉が通じると、本気でそう思ってしまっている。

 いや、今まで例外なく実現してしまっていたんだろう。

 だから、父親が手を張り付けにされたこの状況でも、こんな無謀な行動が取れてしまうのか。

 いったいどんな環境で育てば、ここまで傲慢で不遜な考え方を……

 原因と思われる、横で蹲ったままの父親に目を向ければ、敵意をむき出しに、それこそ俺を射殺さんばかりに睨み付けていた。

 この状況にもかかわらず、未だ自身と息子の危機を理解できていないらしい。

 ならば、これから起きることを――、現実を教えてあげよう。


「はぁ……あなたのその驕った態度や考え方が子供にまで受け継がれているから、そのせいであなたの息子さんは、今から、目の前で死ぬんです」


 本当に、どんな生き方をすればここまでバカになれるのか。

 この言葉ですら理解を示すまで数秒を要し――、ようやく覚醒したかのように、慌てながら息子を止めようする。


「ま、待て、ナムク! 一先ずは下がれ! この男に近寄ってはならん!」

「ご安心を、父上! 私が次期当主として『悪』を成敗し、この場をしっかり収めてみせましょう!」


 ……くそっ。

 なぜ、こうも、心が乱れる?

 この身なりだけは着飾った、人間のように見えるゴミが言い放った言葉――そのせいで、俺はここまで不快に……


 ゴッ……!


「え?」


 鳴り響いたのは、斬撃ではなく打撃音。

 長男の剣は大振りに振られ、たしかに俺の首へ吸い込まれたが、しかしその刃が皮膚を切り裂くことはなかった。

 大した力も能力もなく、武器だって門兵が所持する程度のモノなのに、【硬質化】までした俺を傷つけられるわけがない。


「僕の目的はね」


 言いながら、長男の背後。

 目を見開きこちらを見つめている、アルスと呼ばれた青年へ視線を向ける。


「存在するだけで周囲の人達を苦しめる、この世の害虫を駆除しに来たんですよ。だから――」


 首に添えられたまま動かないでいた剣を握り、力任せに奪い取った。

 そして。


 ゴガッ――!!


「てめぇのような『悪』にだけは言われたくねーんだよ、ゴミがッ!!」


 そう、言い終わる頃には脳天が割れ、目の前の男は左右へ真っ二つに分かれていった。
331話 次男アルス

 目の前には凄惨な光景が広がっているのだ。

 屋敷中に轟く悲鳴も当然のことで、その中には耳に響く、不快な雑音も混ざっていた。


「ぬぉおおお……ッ!? ナ、ナムク……! ナムク……ッ!!」


 人を人とも思わないくせに、自分の子供にだけはこんな言葉が出てくるのか。

 苛立ちのままに髪を掴み上げ、一度冷静になろうと大きく息を吸ってから口を開く。


「煩いんですよ。"人に害を与えれば、返されることもある"なんて、至極当たり前のことすら息子に教えないから、こんな状況になってるんでしょうが」

「なっ、何を、言うか……? 我らは、貴族なのだぞ……? 管理してやっているのだから、下等な下民は我らの言葉を黙って受け入れるのが―――」

「うっざ……あのさぁ。たかだか男爵の身分で、何を大国の王様や神様みたいなこと言ってんの?」

「……ッッ!!?」


 ダメだ。

 この男と話すだけで、こちらまで頭がおかしくなりそうになる。

 まだ本題にも入っていないのだから、なんとか冷静に……

 そう思って一度顔を上げれば、いつの間にか周囲の悲鳴は一人を除けば止んでいて。

 代わりに使用人達からは、怯えながらも何かを期待するような、そんな眼差しが向けられていた。

 一瞬俺に向けられたものか分からず男爵に視線を落とせば、当の本人は呆けたまま、ピクリとも動かず放心している。


(もしかして、皆が内心思いながらも、言えなかったことなのか……?)


 まぁそんなこと、今はどうでもいいか。

 最悪は全てを潰す覚悟で訪れたら、可能性のありそうな男を見つけたのだ。

 外が俄かに騒がしくなってきたが、本当に重要なのはここからの話。


「僕を殺すつもりで斬られたので、その武器でお返しした。ただそれだけのことですから、気にしないください」

「お、お返しだと!? 貴族相手にそんなこと許され――」

「ユース、いい加減おまえは黙れ……」

「え? あ、兄上……?」


 兄が目の前で殺されたのだ。

 それでも気丈に振る舞い、使用人達の前に出た青年は、俺の前で三本の指を立てた。


「先ほどあなたは、三つの目的があると言った。うち一つは、『害虫の駆除』ということですが、残り二つは?」

「一つはあなたのような、まともそうな貴族を見つけること。もう一つは領民の我慢と犠牲によって稼いだ金を、しっかり領民に戻すこと」

「なるほど……つまり、あなたが私欲のためにオーラン家の金を奪いにきたり、父上の、その……指示によって死んだ者の、復讐でここに訪れているわけではないと、そういうことですね?」

「その通りではありますけど、ただ復讐という点ではまったく否定できる話でもありません。僕自身も馬車の護送中、領主の『問題を解決しろ』という指示で動いたバーシェに殺されそうになっていますから」

「キウスの商会長と、うちの専属傭兵まで同席していることは気になってましたが――あぁ、二人を生かして情報源にしたわけですか」

「そういうことになります」


 顎に手を当て、合点がいったように薄く頷くこの青年は、状況がしっかり見えているように思える。

 その点はある意味有り難いが、しかし同じ貴族でもギニエのラッド君ほどお人好しではないだろうな……

 常に俺を観察している眼は、話し合いの場になったというのに油断も慢心も見られない。


「確かに、父上の言動は目に余るものがあった……それは認めざるを得ません」

「ア、アルス……貴様……ッ!」

「父上、いい加減目を覚ましてください。貴族だからと、何をやっても許されるわけではありませんし、納得する相手ばかりでもありません。現にバーシェよりも強いであろうこの少年には、権力など何の役にも立っていないでしょう?」

「う……ぐっ……」

「ですが、だからと言ってこのままあなたをお返しするわけにもいかないのです。我が当主を傷つけ、自業自得と言えばそれまでですが、それでも貴族であり次期当主の立場であった兄上をこの場で斬り殺しているわけですから」


 その言葉と同時に、次男の背後から聞こえてくるかなきり声。


「キャァアアアアアアッ! ナムクっ! あぁ、ナムク……なぜ、このような姿に……」


 戻ってきた母親と思しき女が消え入りそうな声で長男の名を呼び、その後を野太い怒声と金属音が上書きしていく。


「母上も、それに領兵の者達も、一旦は落ち着いてください! 一先ずはこの場を私に任せてほしい!」


 アルスと呼ばれてる青年が必死に場を取り成そうとしているが、これはなかなかにカオスな状況だな。

 しかし、誰が頼りにされ、誰が疎ましく思われているのか、このような非常時はよく分かる。

 皆が次男に群がり、三男の声には誰も聞く耳を持たず、俺の横で項垂れている領主には視線を向ける者すらいない。

 果たして穏便に済むのか、済ますために何を要求され、出てくるであろう提案を俺が飲む必要はあるのか。


 気付けば錯乱状態に近かった母親は、多くのメイドや兵に抱えられながら連行され、正面に残ったのは10名ほどの兵と執事の身なりをした爺さん。

 あとは代表者の立場にいる次男と、なぜか俺を睨み続ける三男もこの場に残っていた。


「ふぅ……これで少しは落ち着いて話せるでしょう。それではこちらから提案なのですが――」

「……」

「兄上を殺めたことは不問とする。代わりに当主である父上を含む、オーラン家の他の者は見逃す。これならいかがですか?」


 現実的にあり得るだろうなと思っていた、最も穏便に済むであろう提案。

 だが。


「あり得ないですね。どうあっても、あなたの父親は殺します」


 それを、一蹴する。

 検討の余地すら無い。


「……改めて言いますが、貴族家の『当主』ですよ? そのような者を殺めることがどれほど問題になるか、理解されていますか?」

「正直に言えば、あまりよくは分かっていません。オルトランという国が敵に回るということでしょうか?」

「その通り、状況によっては国軍まで動きます。だからこそ――」

「なら想定内なので問題ありません。必ず、何があっても、横にいるゴミは殺します」

「ッ――」

「アルスさん、でしたか。あなたも気付いているでしょう? この男はもう変われない。自身が傷付いても、息子に同じような危険が及んでも、それでも自分達は『貴族様』で、相手が『貴族以外の下民』であれば思い通りにできると、本気で思っているんです。たぶん、今もね」


 そう言いながら視線を男に向ければ、俺を睨み付けていた目が逃げるように逸れる。

 もう駄目なのだ、この男は。


「言ったでしょう? 僕の目的は『害虫の駆除』だって。生かしたところでこの傲慢さが治るわけもなく、どうせ人を家畜のように利用し、邪魔だと思えば罪悪感すらなく誰かに殺させ、生まれた利益を自分達の豪華絢爛な生活と僕への復讐にでも充てる……こんな存在、誰が必要とします?」

「本気で、国を相手取るつもりですか……」

「まったく本意ではありませんけど、駆除の代償として必要なら受け入れるしかありません。キウスさん、この国の軍部って、『華級』が5名に『覚級』が2名、『仙級』が1名でいいんですよね?」

「公表されている内容で言えば、その数で間違いない」

「なら最悪は敵に回っても、どうとでもなるでしょうし」

「……ふふっ……ふふふ……」

「?」


 急に俯きながら笑い出した次男。

 何事かと見つめていれば、一転表情が変わり、何か開き直ったような……緊張感が薄れ、苦笑いを浮かべたまま俺の横にいる父親へ視線を向けた。


「はぁ――……父上すいません。お命はもう、諦めてください」

「な、なんだと……?」

「兄上!?」

「国を相手取る覚悟で来られてしまえば、これはもう厳しいですよ。しかも公表戦力を聞いてなお、本気で勝てると思っている節がある。バーシェ、あなたから見て、この少年はそれほどまでに強いのですか?」

「ば、化け物……そうとしか、言えん……」

「……ならば、無理ですね。そのような者と我が国の戦力をぶつけるわけにもいきませんし、そもそも総力戦の規模になるほど父上の身分は高くない」

「ッ!?」


 おぉ……まさかの息子から貶されて、地味にダメージを受けてるし。


「なのでもう、父上は好きにしてもらって構いません」

「アルスッ!!?」

「その代わり、母上と弟のユースは見逃してもらえませんか? もちろん兄上も亡くなったわけですから、家督は次男である私、アルスが継ぐことになります。そうなれば目的の3つ目として挙げた、領民への還元は私がお約束しますよ」

「具体的には?」

「領地の運用費や予備費がどれほどあるかまでは、さすがに父上しか把握していませんからね。今この場で具体案をお伝えするのは難しいですが、相当な余裕があることだけは理解しています。なので3~5年ほどは税率を7割から2割ほどに落としても問題ないでしょう。いくら還元と言っても、個別にというのはまったく現実的ではありませんから」

「ほぉ」

「あとはそうですね……当面は休耕期にも安定した収入が得られるよう、農地拡充のための開墾にも予算を充てて仕事を与えましょうか。何も米だけを作る必要はないのですから、冬期の収入源に繋がる作物を作ってもいいわけですし、他国への輸出用に米を増産させてもいい。農地が増えれば人も増えて領内も潤う。私が目指すのは共存共栄ですから、これならあなたも納得いきやすいのでは?」

「ほ、ほほぉ……」


 まだ見た目は二十歳くらいにしか見えないのに、かなり真っ当そうなことを言っているのは分かる。

 もとから還元に関しては、"搾取して貯め込んでんなら吐き出せよバカ"程度の考えしかなかったので、こんな対応を考えているなら全然問題はない。

 となると、やはり引っかかるのは『駆除』の方だな。


「あなたの母親は分かりませんが、その三男は……」

「母上は元来大人しい性格なので、あなたの危惧されているような周囲を圧し、害を振りまくタイプではありません。なんでしたら使用人に直接聞いてもらっても結構です」

「なるほど」

「そして三男は――、残念ながら父上や兄上の影響が強くこのような性格ですが、歳は今年で14になります」

「……」

「あなたも似たような歳に見えますし、だからこそ"子供だから"という言い分が弱いことも理解しています。しかしこの国の成人は15からなのです。私と母上でなんとか矯正をさせますから、あなたがもし正義感で動いているのだとしたら、ここは見逃してもらえませんか?」


 これは、キツいな……

 成人が15歳というのは以前ラグリースでも聞いていたこと。

 ならばこの国でも事実の可能性が高そうだし、何より見た目もそのくらいの歳に見える。

 正義感で動いているわけじゃないが、しかしここで子供にまで手を掛けたとなると、俺が『悪者』になってしまう気が……

 というか、そういう風に仕向けられた、だな。

 その代わり兄の死に頓着せず、父親もあっさり見限ったのだから、人の上に立つ人間としては凄く優秀なのだろう。


「……」


 返答はせずに歩み寄れば、部屋全体に緊張が走るも、これ以上事を荒立てるつもりはない。

 後退る場所がなく、壁に張り付きながらも俺を強く睨む三男の前に立ち――



 パシン


 俺は、限りなく弱い力で、頬を叩いた。



「痛いか?」

「い、痛いに決まってるだろう! 何をする!?」

「そうだ。殴られ、蹴られれば誰でも痛い。お互い理由があっての喧嘩ならまだしも、理由なく理不尽に殴られ、そして蹴られれば、身体だけでなく心だって痛くなる。言葉だけでも、相手の心は痛くてボロボロになる」

「……」

「それをお前は、ただ生まれがこの家だからというそれだけの理由で権力に守られ、一方的に誰彼かまわずやっていたんだ。分かるか?」

「……」


 通じているのかは分からない。

 涙を溜めながら下唇を噛み、ジッと俺を睨む目は悔しさからなのか、それとも憎しみからなのか。

 それでも反撃はせずに、自らの服を強く握っていた。

 だから、敢えて言う。


「もし俺のことが憎くて憎くて、どうしても殺したいと思うなら、自分で強くなるなり、傭兵でも雇うなりして好きにすればいい」

「そ、そんなこと、言っていいのか……?」

「その代わり、許すのは今回だけだ。もし俺の命を狙うようなことがあれば、後ろで割れている兄貴のように、どこにいようが、何に守られようが、どんなことがあっても必ず殺すから、そのつもりでいろ」

「……」


 三男を見据え、三男に向けて発したようで、その実は背後に立つ次男に向けた言葉。

 この男は良くも悪くも優秀で冷徹だ。

 個人や身内の感情より全体の利を優先して取捨選択する――だが、だからと言って肉親を殺されたのだから、恨みがまったくないわけじゃないだろう。

 やるべきことをやり、環境と状況が整った時、足が付かないと踏めばこういう男は動く可能性がある。

 それに母親だってよく分からないのだ。

 動くリスクの方が高いとここで釘を刺しておけば、気軽に動くようなこともない――生かす以上は、そう思うしかないな。

 はぁ……


「それじゃあ目的も果たせましたし、そろそろ行きますか」


 奥で成り行きを見守っていた二人に声を掛ければ、覚悟を決めたようにゆっくりと頷く。

 これからを理解している者と、していない者。

 杭のように深々と刺さっていた短剣を抜き、強制的に眠らせた領主を肩に担ぐ。


「せめて遺体はこちらに、というのは我儘な相談ですか?」

「父親は好きにしていいのでしょう? でしたら残念ですが、この男はまともに遺体が残るような死に方はできませんから」

「……本当に恐ろしい人だ。これっきりの出会いになることを切に願っています」

「精々皆に慕われる良い領主であり続けてください。そうすれば、その望みは叶いますよ」


 戦果は態度だけで、際立つスキルなど何もない悪党貴族二人の命と高そうな短剣だけ。

 それだけで済んだのは、紛れもなく次男アルスの功績だなぁと最後に部屋を一瞥し、キウスとバーシェを連れて転移する。


 さて、残された仕事もあと僅か。

 最後の〆に取り掛かるとしますか。
332話 後始末

 ドミア東部、領主家にほど近い場所に存在する、富裕層向けの閑静な住宅街。

 その中では想像以上に普通というか、少しこじんまりとした雰囲気漂う屋敷から光が漏れているのを確認し、一呼吸置いてから玄関ドアをノックする。


「はーい、どちら様でしょ~?」


 ドアを開けたのはメイド姿の女性。

 その後ろから栗毛の髪を束ねた別の女性と、似たような髪色をした10歳くらいの子供が追いかけてくる。


「このような時間に突然すみません。私はキウス商会の者です。会長からの使いを頼まれまして、ハーベルさんはご在宅ですか?」


 そう伝えれば、パタパタと足音を鳴らしながらメイド姿の女性が部屋へ戻り、当人を呼んできてくれた。

 キウスほど肥えてはいないが、顔の作りはよく似ている。

 間違いなく、この男がキウスの息子だろう。


「見ない顔だが、こんな時間に何事だ?」

「会長からです。まずは、コチラを」


 渡したのはキウス本人が認《したた》めた一枚の手紙。

 その内容を確認し――驚きや怒りなど、様々な感情が混ざった複雑な表情を浮かべながら、男は視線を手紙に向けたまま、俺にか細い声で問い掛ける。


「私は、どうしたら、いい?」

「渡したいモノがありますので、二人きりになれる場所があれば有り難いです。なんでしたら、庭でも構いませんが」

「いや……入ってくれ。私室に案内にする」


 誰が見ても男の様子はおかしいのだ。

 メイドや妻と思われる女性が不安気な視線を送るが、男は気付くことなくフラついた足取りで2階の私室へ。

 入るなり置かれていた革張りの椅子に深く腰掛けると、俺に弱々しい視線を向けながら口を開いた。


「まず、この手紙の内容は、本当なのか……?」

「もちろんです。先に渡すモノをお渡しした方が早いでしょう」


 そう言って収納から取り出したのは、1つの遺体。

 当然息子にとっては見覚えしかなく、両手で顔を覆いながら膝から崩れ、生気を感じさせない瞳で俺を見つめる。


「お前が……商会を潰し、父を、殺したのだな……?」

「その通りです。そして本来は父親の悪行を知った上で加担し、このドミアで統制から外れた動きを取る商人――直近で言えばクアド商会の情報をバーシェに渡していたあなたも、確実に殺す予定でした」

「つまり父が、本当に取引をしたというのか……」

「えぇ。本来残すのはこの屋敷だけで、|家《・》|の《・》|中《・》|身《・》までは取引の対象に含めないつもりでしたが……よほどあなた方ご家族が大事だったんでしょうね。オーラン男爵を追い込むための仕事までしっかりされていたので、お父さんが認識されていたであろう取引の解釈に合わせて見逃すことにしました」

「ふ、ふふっ……この家を捨てた、あの父が、か」

「……なので、よく考えてくださいね。領主はオーラン家の次男であるアルスという青年に替わり、この町もきっと良い方向に向かっていくはずです」

「……」

「そんな中、残された資産を抱えて僕を恨みながら生きていくのか。それとも父親の決断を尊重し、あなた自身が心を入れ替え、皆が幸せになれる考え方、選択をして生きていくのか」

「そ、そんなもの……」

「ただ敵になるのであれば、その時は一切容赦しませんから、それだけは覚えておいてください。あぁ、それと――」

「……?」

「あなたの父親が住んでいた王都の屋敷は、中身の全てを綺麗に押収したんですけどね。家具や調度品は多かったものの、なぜか生活感は一人分しかありませんでしたよ」

「???」


 真実はキウス本人にしか分からないのだから、俺はありのままに事実を伝えればそれで十分だろう。


 この家でやるべきことが終わり、次に飛んだのは俺達が襲われたオリアル山道。

 辺り一面が暗闇の中、これといって目的の場所があるわけでもなく、ただなんとなく南側へ向かって剥き出しの山を登っていく。


「この辺りでいいか……」


 大した標高ではないが、【夜目】を通して見る景色は自然がどこまでも広がり、それなりの景観になっていた。

 そんな場所に【土魔法】で大きな穴を掘り、収納から取り出したバーシェの遺体をソッと置く。

 そしてその横には無理言ってロッジから回収してきたグリーヴァの頭部と、そのまま収納に入ったままだったホワイトワームの――たしか、サンドラーって呼んでたっけかな。

 サンドラーだったはずの白ミミズと、そして本人は笑って誤魔化しながらも、できれば一緒に埋めてほしいと頼まれた不格好な石壺も添えておく。

 サンドラーは倒された後、衣類や食料などいくつかの物を体内から吐き出すように放出したわけだが、その中で唯一違和感を覚えたのがこの壺だった。

 回収当時、保存食かと思って中身を覗けば、頭蓋の大きさからたぶん子供だろうと思われる人の骨が入っていて不気味さを感じたが……

 本人には本人なりの事情があり、その事情を語りたがらないのであれば、それ以上突っ込むべきでもなくて。

 安らかな死を約束する代わりに、バーシェも大きく貢献してくれたのだから、最後くらい本人の望みを叶えてやるべきだろう。

 土を被せながら、ぼんやりと俺達が通った街道を眺める。


 強さとはまた別の、手数の多さという意味では客観的に見ても優秀で。

 だからこそなぜ、そんな傭兵が貴族のコマになんてなるのかと以前も思ったものだが……


「あなたの目的はお金じゃなく、情報だったんですね」


 オーラン男爵とのやり取りはずっと聞いていた。

結局は『源書』を利用した特権階級だけが知り得る情報があり、その情報をバーシェは求めて。

 そして貴族連中は横の繋がりも利用し、その手の情報を上手く自身の金や力に変えて活用しているのだろう。

 譲り受けた一枚の羊皮紙。

 その中に書かれていた魔物情報を思い返しながら、付近にある石を拾い、少々日本風にはなってしまうけど墓石を立てて、一瞥する。


「あなたが求めていた魔物は、いずれ僕が見つけだしますから。どちらもね」


 そう呟き、俺はこの名もなき墓を後にした。
333話 ボス

「と、いうわけでして、諸悪の根源、オーラン男爵に替わって、次男のアルス君がこれからは頑張るそうです」

「「「おぉおおおおおお!!」」」


 翌日のギニエ。

 少しずつ人の出入りは増えてきているも、それでもまだまだ暇な酒場に声を掛ければ、店主は昼前だというのに快くお店を開けてくれた。

 祝勝会ということになるのだろうか。

 金を出すのが依頼主ではなく、依頼を受けて動いた俺という理解し難い状況だけれど、それでも報告ついでに酒を用意すれば、悪党面した男達は競い合うようにジョッキを空にしていく。


「まさか領主が替わっちまうとこまでいくとはなぁ」

「すげぇっす……本当に貴族までやっちまうなんて……思ってなかったっすぅ……」

「はは、そんな泣かないでくださいよ。それに1つしくじったっていうか、甘くてできなかったこともあるんですから」

「え、そうなんすか?」

「キウスやオーラン男爵の信用を貶める――つまりはクアドさんの信用を回復させる方法もあったんですけど、すみません。最後に情というか、甘さが出ちゃってそこまでできませんでした」


 案としてはあったのだ。

 キウスに『悪いことしてごめんなさい』の立て看板でも持たせ、ドミアの中心で干し豚になるまで土下座の刑でも当初は実行しようかと思っていた。

 が、どんな事情があるにせよ、文句も言わず、さすが商人というだけあって絶妙な演技までかましてオーラン男爵を謀ったのだから、そうなると粗大ゴミのような扱いもできなくなってくる。

 自分の甘さにゲンナリだが、こればっかりはしょうがない。


「じゃあ、なんだ? 結局全員生かしたのか?」

「いや、バーシェは大事な者達と一緒に、静かな場所で安らかな死を。キウスは家族を守るために自分の命も含めて全てを捨てたので、その代わりに身内は今回見逃すことにしました」

「なるほどな……ん? オーラン男爵は?」

「アレは素っ裸で遥か西にある暗闇の洞窟内にいますよ。本当の家畜以下を体験している真っ最中ですから」

「な、何やってんのかさっぱり分かんねーな……」

「いいんす。それでも自分には十分過ぎるほどの結果っすから、これで本望。もう思い残すことは何もないっす」

「……?」


 なんだろう。

 クアドさんにとっては朗報のはずが、今日は耳も尻尾もしょんぼり萎れ、壁のシミを見つめながら、なんか自分の人生フィニッシュモードに入っていらっしゃる。

 基本は煩いこの犬獣人、もしや自分の状況を理解していないのではないだろうか?


「クアドさん? 思い残すも何も、あなた僕に借金が残ってるんですからね? 1億5000万ビーケ」

「すぅ―――………?」

「そんな変な顔して深呼吸してる場合じゃないです。僕はクアドさんにお金をあげたのではなく|貸《・》|し《・》|た《・》んですから、死ぬ気で働くなりしてちゃんと返してくださいよ」

「だ、大事件じゃないっすか!?」

「クアドさんよ。俺らの解放にも金使ったんだろうが……今、いくら残ってんだ?」

「もう2000万ビーケもないっすよ……」

「マジかよ! これから商売するにしたって、店構えるなら結構ギリギリなんじゃねーか?」

「だって、しょうがないんすよ!? 米の仕入れに難航してかなり相場より高く買うしかなかったですし、馬車や馬だって表立っては売ってくれなかったんで同じっす! それにベッグさん達18人を奴隷商から買うのだって、なんだかんだ5000万ビーケくらいは掛かってるんすから!」


 この話を聞いて、その米も、馬車も、俺が持ってるよとは思ったが。

 ここは敢えて言わないでおこうと思った。

 なんか見てて面白いし。


「まぁよ。俺は買われた身だし、ちゃんと美味い飯も食わせてくれっからついていくが……早いとこ商売の計画でも立てた方がいいんじゃねーか?」

「それはそうなんすけど、ドミアじゃ嫌われ者なんでもう厳しいんすよね…………………………………………ロキさん、どこか良い場所ないっすか?」

「え。どこでも好きな所でやったらいいんじゃないですか」

「ちょっと、そんな投げやりにならないでくださいよ! 次はロキさんが商会長になるんっすからね!?」

「……は?」

「だってそうでしょう! 俺っちはロキさんに借金してて、そのお金でまた商売始めようとしてんすよ?」

「なるほどな。そうなるとたしかに、金出してるのはあんちゃんなんだから、商会の頭ってことになるか」

「それにベッグさん、ここだけの話っすけどね……」

「?」

「ロキさんがボスなら超安泰なんすよ。この人、仕入れ能力も輸送能力も最強っすから。もう食いっぱぐれることはねーっすよ!」

「そういや一気に俺達をここまで運んできたもんな……それによく考えなくても、Aランク傭兵や貴族までぶっ飛ばしちまうんだから、とんでもねぇ用心棒でもあるじゃねーか!」

「あのー……バリバリ聞こえてるんですけどー……」

「でしょう? ロキさん自身も相当高額な魔道具を普通に持ち歩いてるくらい資産家ですし、怒ると怖そうですけど普段は寝る直前のタヌキみたいな顔してますし、これほど有能な雇い主はそういねーっす」

「おぉいおまえら! 飲んでばっかいねーでちょっと来い! もしかしたら毎日腹いっぱい飯が食えるかもしれねぇぞ!!」

「「「うぇえええええ!?」」」

「……」


 魔物が存在するおかげでこの世界は食が豊富なはずなのに、毎日ご飯いっぱい食べたいって……

 さすが元長期在庫奴隷達、なんて切ない望みで盛り上がっているんだろう。


 それでも、酔っ払いのダダ洩れ過ぎる内緒話を聞きながら、自分なりに考える。

 自分と明確な繋がりのある100%出資の商会があったとすれば、それは決して悪い話ではない。

 ただでさえ拠点の資材倉庫には使い道のない品が大量にあり、それは今回押収したキウス商会の7店舗と王都の別宅でさらに膨れ上がっているのだ。

 それでも腐らないモノならまだいいが、食べ物はいくら上台地に大食い担当がいようと限界があり、最終的にはベザートで配るか捨てるかの二択になってしまっているのだから、それが多少でもお金に変わり、かつ彼らの生活の支えになるなら意味もあるというもの。

 建物だって広い土地さえあれば、石造りの簡易倉庫くらいはいつでも造れる。


 だが……問題は|ど《・》|こ《・》|に《・》|造《・》|る《・》|か《・》だ。

 まず、拠点は無い。

 そもそも客がいないのだから、店を開いたところで商店(笑)になってしまう。

 ラグリースなら商業ギルドやばあさんにも伝手があるから一番無難なところだけど、どうも肩入れし過ぎているような感じになっちゃうし、オルトランならサヌールとかのキウスが使っていた空き店舗を利用できそうなものだけど、ただそうするとあくまで普通の店舗だから手狭も手狭。

 かと言って店舗が分散すると俺が少々面倒に感じてしまう。

 フレイビルのロズベリアなら街も大きく商売はしやすそうだが、反面魔物の素材は地場素材が強過ぎてやや弱くなりそうだし、物価が高いと感じたヴァルツに店を構えれば、最も商売をする意味はあるような気もするけど、しかし繋がりが――。


 一長一短。

 どこを想定したところで善し悪しがあり、今までの旅を思い返しても、ココッ! っていう決定打に繋がる何かが出てこない。

 うーん、そんな時は焦ってもしょうがないのかな。

 やるとなれば俺だけの問題ではなく、彼らの人生も掛かってくるのだ。

 どの道オルトランでの予定もこれで終わり。

 明日からまた俺の新しい旅は始まるのだから、その先で良い立地や環境が見つかるかもしれないしな。

 ここから隣接している国は3か国――果たして、どの道へ進むべきか。


「クアドさん、オルトランの南方がクアドさんの故郷なんですよね?」

「っすよ? 獣人の部族が点在する地域っすね」

「そっちって、ハンターギルドとか、あとはBランクやAランクくらいの高位狩場ってあります?」

「いや、魔物の生息地帯はあるっすけど、中には人間を嫌って攻撃する部族もいるくらいっすからね。あまり外から人が入ってこないんで、自分の古い記憶だとスチア連邦にギルドなんて無かったと思うっすよ」

「ふーむ……」


 南に向かえば緑豊かな密林地帯が続き、その中に種族単位で活動する村が点在する――ここまでは聞いていたが、本当に村ばっかりって感じなのかな。

 クアドさんは長く外に出て大陸を旅していたみたいだから、古い記憶という話ではあるけど、それでもかなり参考にはなる情報だろう。


「なんだ? 次の旅先でも考えてるのか?」

「そうなんですよね。南、東、北東のどこに向かおうかなーって」

「北東は止めた方が良いだろ。ガルムの紛争ってもう落ち着いたのか?」

「え? 紛争?」


 ベッグさんの言葉に疑問を重ねれば、クアドさんが補足してくれる。


「たしか今も、アルバート王国に寄るか反るかで揉めてるはずっすね」

「アルバート……あぁ、マリーですか」

「ちょ!? 急に怖い雰囲気出さないでくださいよ! びっくりするっすから!」

「あ、ごめんなさい! それでそれで?」

「親アルバート派と中立派で揉めてて、そのまま東西に分かれた内紛になってるはずなんすよね」

「なるほど……それは面倒そうで、できれば立ち寄りたくないですね」

「でもまぁ俺なら、東の『ヘルデザート』にだけは絶対行かないけどな」

「自分もっすね。こっちのような荒野とは別物っすから」

「砂漠地帯という話だけは聞いてましたけど、色々と寄る場所はあるんでしょう? バーシェの抱えていた希少種だって、そっちから取ってきたみたいですし」

「そりゃ東の方までいけば人だってそれなりに住んでるはずっすけど、まともに通過するなら相当大変っすよ?」

「あんなとこ普通は迂回するだろ。ろくに水場もないのに、頼みの【水魔法】すらまともに発動しないとか、行くやつの気が知れねぇ」


 ってことは、そもそも水の精霊がまともにいないってことなのか。

 たしか前にリステがそんなことを言っていたような気がするけど、砂漠だからいないのか、別の要因があっていないのか。


「まぁ、僕はあまり関係ないですけどね。空、飛べますし、水も、収納できますし」

「……それ、ズルくないっすか?」

「……ズルいが、だからこそ俺達の将来は、安泰なんだろう?」

「あぁー! そうっすそうっす! 早く場所決めてくださいよ! ボスが仕入れてきたやつはなんだって売るっすよ! 【鑑定】と【交渉】は結構自信あるっすから!」

「荷運びと荷物整理は任せろ。ボスが腹いっぱい飯食わせてくれるなら、俺達はガンガン働くぜ?」

「「「うぇいうぇいうぇーーい!」」

「ちょ、ちょっと待って、そんな迫ってこないで! 商会を作るってのはいいにしても、場所はそう簡単に決められないですから。とりあえず……うん、ギニエで復興の手伝いでもしててください。領主には話しときますし、生活費くらいは僕が出しますから」

「「「おぉぉー!!」」」


 なんなんだこの精神攻撃は。

 圧が凄いし、男臭くて思わず倒れそうになる。

 でもまぁ確かに、クアドさんは職業補正でもついているのか、【鑑定】レベルが『6』とそこそこ高いし、広く旅をしたというだけあって大陸の情勢には結構詳しかったりする。

 それにベッグさん達も顔が怖いだけで根は真面目なのか、輸送中もサボることなく普通に働いていた。

 ならば早いとこ場所を決めて、彼らが活躍できるお店を作らないとな。

 ……これが仲間なのか、ちょっと判断に迷うところもあるけど。

 でも決めていたことなんだから、ちゃんと一歩を踏み出そう。


「よし……じゃあボスなんだから、もう堅い言葉は使わないよ! その代わり、今日は俺の奢りで飲み放題だー!」

「「「うぇーーーい!」」
************************************************
 ここまでご覧頂きありがとうございました。
 ここで第10章が終了、次回ロキの手帳⑧を挟んで11章が開始となります。
 バーシェから得られたスキルはもう少し後で登場しますのでもう少々お待ちください。
 それとキリのいいところまで話が進みましたので、タイトルに【Web版】と付け加えさせていただきます。
 詳しくは活動報告をご覧ください。

 それではまだしばらくこのペースで更新は続きますので、普通そうで普通じゃないダークなファンタジーをまったりとお楽しみくださいませ。
ロキの手帳⑧

 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:60  スキルポイント残:132 (技能の種により+11)

 魔力量:5822/5822 (684+5138)

 筋力:   2296 (370+1926)
 知力:   2068 (371+1077)  ガルグイユ(+620)
 防御力:  2046 (364+995)  ヴァラカン(+687) 
 魔法防御力:1649 (354+1295)
 敏捷:   1503 (364+937)  ウィングドラゴン(+202)
 技術:   2054 (363+1691)
 幸運:   1134 (364+770)

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》


 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv7 【短剣術】Lv7 【棒術】Lv7 【体術】Lv7 【杖術】Lv6 
【盾術】Lv5 【弓術】Lv6 【斧術】Lv6 【槍術】Lv6 【槌術】Lv6 
【鎌術】Lv6 【二刀流】Lv2 【投擲術】Lv6 
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv7 【捨て身】Lv5 【挑発】Lv5 【両手武器】Lv4 【射程増加】Lv5 【指揮】Lv5 【騎乗戦闘】Lv7 【身体強化】Lv6 
【鼓舞】Lv5 【暗器術】Lv3 【手加減】Lv1


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv7  【雷魔法】Lv8 【水魔法】Lv6 【土魔法】Lv6 【風魔法】Lv7 【氷魔法】Lv6 【光魔法】Lv5 【闇魔法】Lv6 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv5 【結界魔法】Lv1 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【魔力操作】Lv6  【魔力感知】Lv6 【省略詠唱】Lv5 【発動待機】Lv2 
【魔法射程増加】Lv2  【魔力纏術】Lv1


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv5 【採掘】Lv6 【伐採】Lv6 【狩猟】Lv7 【解体】Lv7 
【料理】Lv7 【農耕】Lv7 【釣り】Lv5 【裁縫】Lv5 【芸術】Lv4 
【描画】Lv4 【細工】Lv4 【加工】Lv5 【畜産】Lv6 【採取】Lv5 
【話術】Lv6 【家事】Lv7 【交渉】Lv6 【演奏】Lv3 【薬学】Lv4 
【作法】Lv6 【舞踊】Lv3 【歌唱】Lv4 【彫刻】Lv1 【錬金】Lv2 
【酒造】Lv4 【庭師】Lv1


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv6 【飛行】Lv8 【拡声】Lv5 【異言語理解】Lv8 【算術】Lv5 【暗記】Lv5 【聞き耳】Lv4 【隠蔽】Lv8 【騎乗】Lv7 【逃走】Lv6 
【気配察知】Lv7 【忍び足】Lv5 【俊足】Lv6 
【罠生成】Lv6 【罠解除】Lv6 【罠探知】Lv2 【視野拡大】Lv6 【探査】Lv6 【遠視】Lv6 【夜目】Lv8 【鑑定】Lv4 【心眼】Lv5 【魔力譲渡】Lv3 
【付与】Lv1 【泳法】Lv2 【獣語理解】Lv5 【調教】Lv4 


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv7 【魔力最大量増加】Lv7  【物理攻撃耐性】Lv6 
【魔法攻撃耐性】Lv4 【鋼の心】Lv5
【剛力】Lv7 【明晰】Lv6 【金剛】Lv7 【疾風】Lv6 【絶技】Lv6 
【豪運】Lv5 【封魔】Lv4 
【毒耐性】Lv8 【麻痺耐性】Lv4 【睡眠耐性】Lv4 【魅了耐性】Lv2 
【石化耐性】Lv6
【火属性耐性】Lv8 【土属性耐性】Lv5 【風属性耐性】Lv6 【水属性耐性】Lv7 【闇属性耐性】Lv6 【雷属性耐性】Lv6 【氷属性耐性】Lv5 


 ◆その他/特殊
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv3 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv4  【魔物使役】Lv5


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv6  【突進】Lv7 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv7 【招集】Lv7 
【硬質化】Lv6 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【咆哮】Lv6 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv4 【火炎息】Lv6 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv5 【丸かじり】Lv6 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv6 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4 
【不動】Lv6 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv4 【廻水】Lv5 【鏡水】Lv4 【透過】Lv5


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv5  【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv3  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv5 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv5 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1



 ◆戦闘・戦術系統スキル

 【剣術】Lv7 剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

 【短剣術】Lv7 短剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

 【棒術】Lv7 棒形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

 【体術】Lv7 己の身体で打撃を加える場合に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

【斧術】Lv6 斧形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値280%の限定強化を行う 魔力消費15 筋力補正

【槍術】Lv6 槍形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値280%の限定強化を行う 魔力消費15 筋力補正

【槌術】Lv6 槌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値280%の限定強化を行う 魔力消費15 筋力補正

【鎌術】Lv6 鎌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値280%の限定強化を行う 魔力消費15 筋力補正

 【弓術】Lv6 弓形状の武器を所持している限り、攻撃動作、射程距離にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値280%の限定強化を行う 魔力消費15 技術補正

 【杖術】Lv6 杖形状の武器を所持している限り、魔法効果、魔法発動時間、防御動作にプラス補正が入る 魔力消費0 知力補正

 【盾術】Lv5 盾を所持している限り、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値250%の限定強化を行う 魔力消費13 防御力補正

【投擲術】Lv6 投擲飛距離に60メートルのプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で投擲速度/命中率のプラス補正を行う 魔力消費15 技術補正

【挑発】Lv5 注意を自分に向けやすくする 発動範囲50メートル以内 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に発動 魔力消費13 防御力補正

【狂乱】Lv8 使用後は全ての通常攻撃動作に能力値290%の限定補正を行う。ただし制限時間が経過するまで、周囲の生物に対する通常攻撃動作以外を行うことができなくなる。 使用効果時間8分 魔力消費0 筋力補正

【二刀流】Lv2 両手に別々の武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【威圧】Lv7 見定めた1対象を相手に強い恐怖を与え、行動阻害、精神錯乱を誘発させる 魔力消費5 魔力補正

【捨て身】Lv5 無手の状態に限り、筋力値、敏捷値を一時的に200%まで上昇させる 効果時間1分 魔力消費25 筋力補正

【指揮】Lv5 スキルを使用した指揮者の思考が、指揮下にある味方へと伝達されやすくなる。度合いはスキルレベルによる。 範囲:1000メートル 使用効果時間30分 魔力消費50 知力補正

【鼓舞】Lv5 半径25メートル範囲内の味方に対して全能力値を20%向上させる。同スキルによる重複不可。スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費28 幸運補正

【身体強化】Lv6 魔力を使用して筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に160%まで上昇させる 効果時間6分 魔力消費30 技術補正

【騎乗戦闘】Lv7 騎乗している状況に限り、全能力値135%のプラス補正が入る また騎乗している生物にもプラス補正が適用される 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【両手武器】Lv4 両手で一つの武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【暗器術】Lv3 暗器に該当する武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で1秒間、特定所作に能力値190%の限定強化を行う 魔力消費9 敏捷補正

【射程増加】Lv5 射程距離が50%増加する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【手加減】Lv1 スキル使用時に限り、致命打を与えても対象生物を一時的に延命させることができる 効果時間1分 対象生存時間6秒 魔力消費5 技術補正


 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv7 魔力消費70未満の火魔法を発動することが可能 知力補正

【土魔法】Lv6 魔力消費60未満の土魔法を発動することが可能 魔法防御力補正

【風魔法】Lv7 魔力消費70未満の風魔法を発動することが可能 敏捷補正

【水魔法】Lv6 魔力消費60未満の水魔法を発動することが可能 防御力補正

【氷魔法】Lv6 魔力消費60未満の氷魔法を発動することが可能 防御力補正

【雷魔法】Lv8 魔力消費80未満の雷魔法を発動することが可能 知力補正

【光魔法】Lv5 魔力消費50未満の光魔法を発動することが可能 幸運補正

【闇魔法】Lv6 魔力消費60未満の闇魔法を発動することが可能 魔力補正

【無属性魔法】Lv8 魔力消費80未満の無属性魔法を発動することが可能 魔力補正

【回復魔法】Lv5 魔力消費50未満の回復魔法を発動することが可能 防御力補正

【結界魔法】Lv1 術者を中心に『防壁』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による 魔法防御力補正

【時魔法】Lv5 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に対し、敏捷値±250%の減少か増加を選択して発動することが可能 減少の最終数値は対象の抵抗値によって決定し、マイナスになることはない 魔力消費:10秒毎に75 知力補正

【空間魔法】Lv6 一時的に亜空間と繋ながり、その空間を活用することができる。 消費魔力:50%減 空間使用範囲と接続時間による 魔力Ⅱ補正

【魔力操作】Lv6 魔力操作が向上し魔法への応用が利きやすくなる また魔法発動時間が30%減少する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力感知】Lv6 使用者の周囲に存在する魔力の流れ、濃度に対して敏感になる 範囲半径30メートル 魔力消費0 魔力補正

【省略詠唱】Lv5 精霊への単体魔法イメージ伝導割合が50%まで上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【発動待機】Lv2 魔法発動可能状態から最大4秒間待機が可能になる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔法射程増加】Lv2 魔法の射程が20%増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力纏術】Lv1 具現化した魔力を装着武具、または身体に纏わせ強化させる 強化による上昇値は込める魔力量とスキルレベルに依存 効果時間1分 魔力消費:込めた魔力量の5% 魔力補正


 ◆ジョブ系統スキル

【狩猟】Lv7 狩猟技能が向上し、獲物をだいぶ発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【解体】Lv7 解体技能が向上し、より素早く正確に解体を行うことができる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【採取】Lv5 採取技能が向上し、採取物を発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【話術】Lv6 対話能力が向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【料理】Lv7 料理技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【農耕】Lv7 農耕技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【釣り】Lv5 釣り技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【家事】Lv7 家事技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【裁縫】Lv5 裁縫技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【芸術】Lv4 芸術技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【描画】Lv4 描画技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【建築】Lv5 建築技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【採掘】Lv6 採掘技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【細工】Lv4 細工技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【加工】Lv5 加工技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【伐採】Lv6 伐採技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【交渉】Lv6 交渉技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【畜産】Lv6 畜産技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【作法】Lv6 作法技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【舞踊】Lv3 舞踊技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【歌唱】Lv4 歌唱技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【薬学】Lv4 薬学技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【演奏】Lv3 演奏技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【錬金】Lv2 錬金技能が僅かに向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【彫刻】Lv1 彫刻技能が僅かに向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【酒造】Lv4 酒造技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【庭師】Lv1 庭師技能が僅かに向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正


 ◆生活系統スキル

【異言語理解】Lv8 人族が扱う言語であれば、知識が無くてもある程度の専門的な用語を理解し会話をすることができる。 常時発動型 消費魔力0 知力補正

【視野拡大】Lv6 上下左右の視野がやや広がる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【遠視】Lv6 遠くを見通せるようになる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【夜目】Lv8 暗闇の中でもだいぶ視界を確保できる 魔力消費0 幸運補正

【気配察知】Lv7 使用者の周囲で動く存在に対して反応が敏感になる 範囲半径35メートル 魔力消費0 技術補正

【探査】Lv6 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径180メートル 魔力消費0 幸運補正

【隠蔽】Lv8 Lv8以下の察知、看破、調査系統スキルを欺ける 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【俊足】Lv6 走る動作に補正がかかり、移動が速くなる 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【忍び足】Lv5 使用時は無音で移動することが可能になり、スキルレベルに応じて気配を隠すことができる 魔力消費1分毎に10消費 技術補正

【逃走】Lv6 何かに追われている状況に限り、能力値250%の速度で走ることが可能 魔力消費30秒毎に10消費 敏捷補正

【跳躍】Lv6 跳躍動作に補正がかかり、通常よりも高く跳べる 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【飛行】Lv8 浮遊した状態で上空を移動することができる 魔力消費:1分毎に2消費 魔力補正Ⅱ

【算術】Lv5 算術能力が向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【暗記】Lv5 暗記能力が向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【騎乗】Lv7 騎乗能力がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【拡声】Lv5 声音を一時的に増加させ、声を広く届ける 増大する声音は元の大きさに影響する 魔力消費0 魔力補正

【聞き耳】Lv4 聴覚を一時的に増加させ、範囲内の音や声を聞き分ける 範囲半径40メートル 魔力消費0 知力補正

【罠生成】Lv6 捕縛/殺傷を目的とした罠の生成作業が巧みになる 使用者の想像を補助する 魔力消費150まで 技術補正

【罠解除】Lv6 Lv6以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を解除する 魔力消費75 技術補正

【鑑定】Lv4 対象物品の能力、効果、原料、素材情報を識別する 識別深度は自身のスキルレベルによる 無機物のみ対象 魔力消費0 幸運補正

【心眼】Lv5 対象の所持する技能を覗き見る 生物のみ対象 魔力消費5 幸運補正

【罠探知】Lv2 自然発生した危険域、Lv2以下の【罠生成】によって生成された特殊罠の察知する 範囲は視覚に依存 効果時間10分 魔力消費7 幸運補正

【魔力譲渡】Lv3 対象に自身の魔力を譲渡する 消費魔力に対し譲渡できる魔力の割合は65% 魔力補正

【付与】Lv1 装備品に属性か特定スキルを付与することができる 付与数、組み合わせ、定着時間はスキルレベルと対象装備による 魔力消費50 定着完了まで1秒毎に5消費 幸運補正

【泳法】Lv2 水泳技能が僅かに向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【調教】Lv4 調教技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【獣語理解】Lv5 動物や魔物の言葉が理解し、意思の疎通を図れるようになる 魔力消費0 知力補正


 ◆純パッシブ系統スキル

【毒耐性】Lv8 毒への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【麻痺耐性】Lv4 麻痺への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【睡眠耐性】Lv4 睡眠への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【石化耐性】Lv6 石化への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魅了耐性】Lv2 魅了への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【魔力最大量増加】Lv7 魔力最大量を70増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力自動回復量増加】Lv7 魔力自動回復量を35%増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【剛力】Lv7 筋力値が35上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【明晰】Lv6 知力値が30上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【金剛】Lv7 防御力値が35上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【封魔】Lv4 魔法防御力値が20上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【疾風】Lv6 敏捷値が30上昇する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【絶技】Lv6 技術値が30上昇する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【豪運】Lv5 幸運値が25上昇する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【物理攻撃耐性】Lv6 物理攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【魔法攻撃耐性】Lv4 魔法攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【火属性耐性】Lv8 火属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【土属性耐性】Lv5 土属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【風属性耐性】Lv6 風属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【水属性耐性】Lv7 水属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【雷属性耐性】Lv6 雷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【氷属性耐性】Lv5 氷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【闇属性耐性】Lv6 闇属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【鋼の心】Lv5 精神攻撃に対する抵抗が増加する 威圧にも有効 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正


 ◆その他/特殊

【神託】Lv1 職業<神官>専用加護スキル 女神達からの言葉を授かることができる 使用条件1日に1度のみ 任意発動不可 魔力消費0 魔力補正

【神通】Lv2 職業<神子>専用加護スキル 女神達と意思の疎通を図ることができる 使用条件1日に1度のみ 使用制限時間2分 魔力消費60 魔力補正Ⅱ

【地図作成】Lv4 3倍までの縮小、拡大が可能 魔力消費0 魔力補正Ⅱ

【魂装】Lv3 自ら命を奪った魔物の魂を身に留め、抽出された能力のうち1種を自身へ付加させる 魂装上限数3 魔力消費5 魔力補正Ⅱ

【奴隷術】Lv4 奴隷契約を結び、対象を『魂縛』もしくは『隷属』させることが可能になる 最大所持コスト200 奴隷契約時のみ魔力消費30 魔力補正

【魔物使役】Lv5 服従させ、対象を使役することが可能になる 最大所持コスト500 使役時のみ魔力消費30 魔力補正


 ◆その他/魔物

【突進】Lv7 前方に向かって能力値310%の速度で突進する 移動範囲は任意指定 最大距離5メートル 消費魔力17 敏捷補正

【噛みつき】Lv8 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値330%の補正を行う 魔力消費17 筋力補正

【光合成】Lv6  太陽の光を浴びれば自然治癒力と魔力回復量が微増  常時発動型 魔力補正

【硬質化】Lv6 一時的に身体を硬質化させ、効果時間内は防御力が11倍になる 効果時間1秒間 魔力消費15 防御力補正

【物理防御力上昇】Lv4 防御力が12%上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【強制覚醒】Lv9 生存している同種族を強制的に目覚めさせる 範囲:1800メートル 魔力消費50 技術補正

【状態異常耐性増加】Lv7 あらゆる状態異常耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【招集】Lv7 【呼応】スキルを持つ周囲の魔物を強制的に呼び集める 効果範囲:周囲半径210メートル 魔力消費17 知力補正

【穴掘り】Lv8 上手に穴を掘る 効果時間8分 魔力消費2 筋力補正

【酸耐性】Lv8 酸への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【踏みつけ】Lv7 下方に向けてのみ、筋力値310%の威力で攻撃を加える 消費魔力17 筋力補正

【嗅覚上昇】Lv4 嗅覚を一時的に上昇される 上昇度合いはスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【洞察】Lv4 視界に収めた生物との力量差を少し掴める 魔力消費0 魔力補正

【咆哮】Lv6 前方6メートルの範囲に対し【威圧】効果を与え、自身に掛けられた精神ダメージを確率で無効化させる 魔力消費50 魔法防御力補正

【旋風】Lv6 周囲720度を能力値280%の威力、速度で薙ぎ払う 使用時は僅かに移動可能 魔力消費19 敏捷補正

【睡眼】Lv3 対象の目を見ながら発動することにより眠らせることができる。 能力効果を説明した上で対象が承諾していれば100% 能力説明をしていない、もしくは理解できなければ、成功確率はスキルレベルと対象の耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費9  魔法防御力補正

【爪術】Lv8 爪形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【発火】Lv6 自身、もしくは自身が触れている物を任意の範囲で発火させる 効果を切れば火は消えるが、非接触状態になればその火は直ちに制御を失う 熱量はスキルレベルと知力による 魔力消費:10秒毎に5消費 魔力補正

【火炎息】Lv6 前方に火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費45 魔力補正

【灼熱息】Lv5 前方に巨大で広範囲な火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費70 魔力補正

【白火】Lv1 自身が扱う火に関する技能に限り、上位格となる白火へ変化させる 熱量はスキルレベルによる 魔力消費20 魔力Ⅱ補正

【炎獄柱】Lv5 吸い込み、捕食し、生物を食らう巨大な炎柱を、自身から15メートル離れた先に2本生成する 生成後の炎柱、内部の龍ともに制御は不可 スキルレベル上昇により動きが活発になる 発生時間10分 魔力消費90 魔力Ⅱ補正

【丸かじり】Lv6 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値420%の補正を行う 魔力消費35 筋力補正

【分解】Lv3 魔力を介して対象を分解する 分解速度は込める魔力量による 魔力消費減少割合20% 魔力補正

【吸収】Lv3 魔力を介して液体を吸収する 魔力消費0 幸運補正

【氷結息】Lv6 前方に氷結の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費45 魔力補正

【不動】Lv6 一時的に身体を硬直させ、効果時間内は防御力、魔法防御力を16倍になる ただし発動中は一切身体を動かせない 効果時間6秒間 魔力消費90 防御力補正

【石眼】Lv7 対象の目を見ながら発動することにより石化させることができる 未動作の対象ほど石化進行は速く、成功率は耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費17 魔力補正

【物理攻撃力上昇】Lv6 筋力が18%上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【衝撃波】Lv6 初動となる運動エネルギーを増加させ、波状に衝撃を加える 威力と範囲はスキルレベルによる 魔力消費45 敏捷補正

【地形耐性】Lv4 地形効果を受けにくくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鏡水】Lv5 魔法属性に分類される攻撃を自動で防御、反射する 反射精度はスキルレベルによる 魔力消費:10秒ごとに30消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正Ⅱ

【廻水】Lv4 広範囲の水を強制的に流動させる 範囲と速度はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に65消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正

【透過】Lv5 一定時間身体を透明化させる 効果時間2.5秒 魔力消費50 魔力補正


 ◆その他/魔物(使用不可)

【粘糸】Lv4 使用不可 魔法防御力補正

【脱皮】Lv3 使用不可 魔法防御力補正

【呼応】Lv7 使用不可  知力補正

【酸液】Lv7 使用不可 技術補正

【擬態】Lv7 使用不可 技術補正

【胞子】Lv5  使用不可 魔力補正

【泥化】Lv5  使用不可 魔力補正

【気化】Lv8 使用不可 魔力補正

【毒霧】Lv5 使用不可 魔力補正

【結合】Lv8 使用不可 防御力補正

【分離】Lv8 使用不可 技術補正

【火光尾】Lv5 使用不可 敏捷補正

【幻影】Lv8  使用不可 魔力補正

【影渡り】Lv6 使用不可 魔力補正

【属性変化】Lv7 使用不可 魔力補正

【地縛り】Lv6 使用不可 魔力補正

【絶鳴】Lv7 使用不可 魔力補正

【無面水槍】Lv5 使用不可 知力補正

【睡夢鱗粉】Lv4 使用不可 幸運補正

【膨張】Lv1 使用不可 魔力補正



 ●ボーナスステータス値

 各スキルの隠し要素としてボーナスステータス値が存在。

 ステータス値が確認できない住民は当然として、ステータス画面上でも表記されないため、検証していかないとスキルそれぞれのボーナスステータス値は分からない。

 スキルレベル1・・・・・対応能力(+1)
 スキルレベル2・・・・・対応能力(+2)
 スキルレベル3・・・・・対応能力(+3)
 スキルレベル4・・・・・対応能力(+5)
 スキルレベル5・・・・・対応能力(+10)
 スキルレベル6・・・・・対応能力(+30)
 スキルレベル7・・・・・対応能力(+60)
 スキルレベル8・・・・・対応能力(+100)

 ※魔力のみ2倍  ※魔力Ⅱはさらに2倍



 ●スキルレベル上昇に必要なスキルポイント必要分(女神様への祈祷)

 0→1・・・・・・2ポイント
 1→2・・・・・・4ポイント
 2→3・・・・・・12ポイント
 3→4・・・・・・30ポイント
 4→5・・・・・・50ポイント
 5→6・・・・・・100ポイント
 6→7・・・・・・200ポイント
 7→8・・・・・・300ポイント



 ●レベル上昇による各能力上昇値

 レベル1~10・・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種3上昇、魔力量だけは6上昇
 レベル11~20・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種4上昇、魔力量だけは8上昇
 レベル21~30・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種5上昇、魔力量だけは10上昇
 レベル31~40・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種6上昇、魔力量だけは12上昇
 レベル41~50・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種7上昇、魔力量だけは14上昇
 レベル51~60・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種8上昇、魔力量だけは16上昇



 ●未取得からスキルレベル1の必要経験値を『100』とした場合のスキルレベルと必要経験値、及び魔物から得らえるスキル経験値の関係性(推定値)

 スキルレベル1取得に必要な経験値は100  
 スキルレベル1所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり20


 スキルレベル1から2に必要な経験値は200  
 スキルレベル2所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40


 スキルレベル2から3に必要な経験値は600  
 スキルレベル3所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり120


 スキルレベル3から4に必要な経験値は2,000 
 スキルレベル4所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400


 スキルレベル4から5に必要な経験値は20,000 
 スキルレベル5所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000


 スキルレベル5から6に必要な経験値は60,000 
 スキルレベル6所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり12,000


 スキルレベル6から7に必要な経験値は200,000
 スキルレベル7所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40,000

 スキルレベル7から8に必要な経験値は2,000,000?


 スキルレベル8から9に必要な経験値は10,000,000?



 ●名前の上がった国名一覧

 ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側

 フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ジュロイ王国……ラグリース王国の西側

 オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中の国

 パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国



 ●所持している本の一覧 

『薬学図鑑』

『系統によるスキル特性の違い』
『知られざる魔法技能』
『ラグリース王国の歴史と展望』

『オークション主催国 その規模と傾向について』
『魔道具一覧 2巻』
『大陸ダンジョン紀行 初編』
『スキルレベル検証 農耕編』
『私を誰だと思っている? ロマンドだよ』
『軍部の強化 名馬育成法』
『猫を飼おう』

『魔道具一覧 3巻』
『奴隷商館活用法 見るべきポイント』
『戦術論 陣形戦術 4巻』
『美の女王マダム・オーゼス』
『特徴も様々 実用された騎乗生物』
『転職しよう 職業一覧 改訂版』
『オールスロイ戦争』
『ジュロイ王国 各地の名産と民芸品』
『大陸中央版 通わせたい貴族院3選』

『宝石図鑑』

『魔物図鑑 1巻』
『希少鉱石とは』
『可愛い子ほど旅はさせるな』
『フィルオネス家の偉業』
『スキルレベル検証 加工編』
『魔法詠唱の導《しるべ》』
『イケてる髭の整え方』
『木人族の不思議』
334話 この自由度の高さよ

 いつも平和な上台地にて。

 10日おきくらいに開催されている、神様達の報告会――。

 という名のオルトラン料理品評会が終わった後、俺は珍しくその場に残って作業をしていた。

 いい加減そろそろあってもいいだろうと、以前商業ギルドの窓口担当ワドルさんから貰っていた大きめの羊皮紙に、今出来上がっている大陸図。

 そして全容は分からないまでも、情報を得ておおよその場所が判明している国や地名、主要なポイントを書き込んでいく。

 これからどの方面に向かうべきか、情報を整理しながらじっくり考えるためだ。


(なぜか、ほんとなぜか東の担当は俺になってるし、このままオルトランから動くのが自然だろうけど……)


『南』に進めば煩い獣人クアドの故郷であるスチア連邦で、話を聞く限りはほとんどが密林の秘境エリア。

 加えてやや古い情報だが、ハンターギルドすら存在しないとなれば、狩場探しはかなり面倒になりそうなので、そこまでこの国の優先度は高くない。

 が、問題はその先で、地図をスライドさせれば見えてくる、小さく点のようにマッピングされた箇所。

 かつて訪れたハンスさんの『エリオン共和国』が、もう1つ2つくらい国を跨げば届くんじゃないかというくらいまで近づいてくる。

 それにバーシェから譲り受けた"裏ルート"での魔物情報。

 その内容には『バイコーン』という名と共に"黒い体躯で2本角を有した馬"という特徴が書かれており、その先には呼吸を忘れそうになるほどの情報まで記載されていた。


(角から"黒い雷光"放つ……これはたぶんヤバい、ヤバいやつだよな……)


 まず見つけるのが困難だし、上手く倒せたとしても、自分のモノにできるかはそのスキル次第。

 そもそもスキル化されていない可能性もあるので、絶対とは言えないところだが。

 それでも過去に、オーバーフレイムロックから『火』を強化させる【白火】を得ているのだから、どうしたって期待も高まってしまう。

 そんな激ヤバ希少種の生息域が、大陸南東の『幻想森海』ということなので、もし狙うなら方面的には『南』ということになる。


 対して『東』の場合、南方面と違って確実にBランクの新種魔物がいる――これが何よりも分かりやすい魅力になるな。

 ヘルデザートと呼ばれる大砂漠には、ホワイトワームの通常版であるサンドワームという魔物がいることは確定だし、他にも砂漠ならではの魔物が多くいたっておかしくない。


(それに、Bランクならボスがいる可能性だってある……)


 あくまで可能性だ。

 だが、今までのBランク狩場は2ヵ所とも最奥に表ボスが存在していたのだから、割合としては結構高めなんじゃないだろうか?

 まぁ、"砂漠の最奥"ってなんだよとは自分でも思ってしまうけれども。

 それに、砂漠の国『パルモ砂国』を越えれば、その先の先くらいには海が広がっており、いよいよ東の大国『アルバート王国』が見えてくる。

 名前を聞いただけでムカムカしてくるマリーに会いたいなら、砂漠を越えて東へ行けってことになるな。


 そして最後の『北東』は、これはどうしたものか。

 当初は北東方面に向かい、そのままSランク狩場でも目指そうかくらいに考えていたけど、『ガルフ聖王騎士国』という国が内戦で荒れているとなると、そう単純な話でもなくなってくる。

 親アルバート王国派――つまりはマリー派と中立派に分かれているなら、マリー派に何かしらのダメージを与えて、本元のマリーを少しでも弱らせたいという気持ちもあるんだけどなぁ……

 しかしそれ以上にオーラン男爵の精神攻撃にやられ、"お貴族様"はもうしばらくお腹いっぱいという気持ちもあったりする。

 なんせ『ガルフ聖王騎士国』は、クアド曰く|伝《・》|統《・》|あ《・》|る《・》|古《・》|い《・》|国《・》らしいのだ。

 ……今、目の前にもその手の本が置かれているけど、どうせしょっちゅう髭をクリクリとイジりながら、理解不能な言葉を放つ連中がわんさかいることだろう。

 ただそういう古いお国柄というのはデメリットばかりじゃないらしく、かつて本で学んだ蔵書数随一の『クルシーズ高等貴族院』がこの国にあるようなので、なんだかんだと行先候補の一つとしては外せないでいるんだけどね。


「あぁ、もう! この自由度の高さよー!」

「ロキ、煩い」

「ぶほッ!?」


 凄まじい速度で何かが飛んできた気がするけど、視線を向ければ全員静かに、ツマミの焼いた木の実を食べながら読書しているのだ。

 気のせい、だな……めっちゃデコが痛いけど、たぶん、気のせいなんだろう。

 その時パタンと、賢い学者のような雰囲気を漂わせながらフェリンが口を開いた。


「自由度の高さって、聞きなれない言葉だよね?」

「たしかにな」


 そして追いかけるようにリルも、パタンと、音を鳴らすように本を閉じる。


「二人とも、あとでちゃんと本の感想聞くからね?」

「「……」」

「それはそうとして、自由度の高さってのはあれよ。どこへでも行くことができる、みたいな?」

「「?」」

「それくらい、普通のことじゃないんですか~?」


 フィーリルの疑問は当然のこと。

 だけどこの世界を、過去の経験と照らし合わせてしまっているような人間の認識だとちょっと違う。


「普通に考えればそうなんだけどね。でも俺が好きだった"ゲーム"の世界だと、なかなかそうもいかないんだよ」


 自由度が高いとされるMMOの世界でも、手軽で親切な新しいゲームほど向かう先は皆一緒というのが基本だ。

 笠原さんが放置しながらキャラを育成している姿は、目に毒だと思いながらもよく見ていた。

 それがオープンワールドの古いMMOとなれば、それこそ1年後でも勝てなそうなモンスターを序盤のうちから見学しに行くなんてこともできたが、それでもモンスターの強さによってあらかじめ決められた"順路"くらいは存在するもの。

 だからこそゲームとして成り立っているとも言えるわけだし、その順路を無視しても楽しめるゲームなんてかなり少なかったはずだ。

 しかしこの世界はそんな順路などお構いなし。

 降り立って二つ目の町には上位と言っても過言ではない狩場があるし、都合良くこちらの段階に合わせて魔物やボスなんかが登場してくれない。

 自分で探し、自分で向かい、時には情けなく逃走しながら、少しずつ己を強くしてできること、やれることの幅を広げていく。

 人にしたってそうだ。

 いきなり序盤で最強の神様と戦って殺されるし、最初の国なのにハンスさんと出会ってかなりチビッたし……

 でもそれが自由で、この手探りで進めていく不親切さがどこか懐かしくて。

 どのルートを選んでもしっかりと前に進み、自分が強くなれるであろうこの状況が堪らなく嬉しかったりする。

 そんな面倒臭さを喜ぶのは、きっと俺がおっさんだからなんだろうけどさ。


(人が生き返ったり、口から火を噴けたり、ゲームをリアルにしたようなこの世界だからこそだな……)


「ふふ、楽しそうで何よりですね」

「そうなんです! 自由度が高いというのは素晴らしいことなんです!」

「ロキ、煩い。また投げるよ?」

「あ、すみませんでした。えーちなみに、どうっすか? 今回の本で、何か参考になりそうなやつは――」


 オークションで落札した『宝石図鑑』。

 それとは別で、護送依頼前にばあさんから8冊の本を購入していた。

 やっとオルトランでやるべきことが終わり、こうしてじっくり読む時間を作れたのだ。

 焚火の火を見つめながらふと、この世界を作ったフェルザ様は、こんな世界が好きな俺を見つけたから連れてきたのかな?

 そんなことを思いながら、余っていたうちの1冊。

『木人族の不思議』という本を手に取り、皆で過ごす夜のまったりとした時間は過ぎていった。
335話 新作の入荷と魔物使役

 ふーむ。

 今回の仕入れはハズレ3冊、当たり5冊かな?

 そんなことを思いながら、秘密基地にある本棚にそれぞれの本を一度並べていく。

 題名から興味の向く本だけを先に注文する――そんなやり方もあるのだろうが、この予想できない『本ガチャ』みたいな感じもゲームのようで嫌いじゃない。



『魔物図鑑 1巻』

 リルが勢い良く読み始めてすぐに飽きていた本。

 まだ1巻目ということもあって、中身は弱そうな魔物ばかり並んでいるので、あの反応もしょうがないとは思うが……

 俺からすれば、まだ見たことのないFランク魔物が存在していると分かっただけでも十分当たりだ。

 書かれている内容はハンターギルドに近い感じがするので、『源書』から情報を引っ張ったというより、実際に作り手が目で見て戦った情報という印象が強い。



『希少鉱石とは』

 単純に希少かどうかという判断で産出量の少ない鉱石をピックアップしている本。

 装備に転用できるかどうかも関係無しなので、どちらかというとその手の専門職が好みそうな本だが、しかしまったく参考にならないわけではなく、興味のそそられる内容も記載されていた。

『浮遊石』――思わず目を引くこのファンタジーらしい鉱石も、どうやら古代の時代には存在していたようで、今なおどこかで夢追い人が発掘チャレンジをしているらしい。

 ちなみにあの光を吸収していそうな"黒過ぎる鉱石"は触れられてもいない。

 希少云々という話ではなく、この世界では採れないという事実が確定しているからなんだろう。



『可愛い子ほど旅はさせるな』

 ハズレ。

 貴族向けに、外は危険がいっぱいだから、子供は気軽に外へ出すなと説いている本。

 でもフィーリルがガン見していた。怖い。



『フィルオネス家の偉業』

 これもハズレ。

 どこぞの貴族が成し得た実績を纏めている本っぽいが、たぶん自分のことを自分で書いているんだと思う。お前は勇者タクヤか。



『スキルレベル検証 加工編』

 たぶん当たり、なんだと思う。

 過去に仕入れた『農耕編』と同じで、スキルレベル到達時にどのようなことができるのかを検証している本。

 ただ結局はジョブ系なので、書かれている内容が凄く地味。

 専門職の参考書みたいなものなので、本職とか目指している人には参考になるんだろうね、たぶん。



『魔法詠唱の導《しるべ》』

 誰でも同じ効果を生み出す形態化された詠唱が、基礎となる8属性のレベル5まで載っていたので、宮廷魔導士のような団体に所属した場合は教科書にもなるような本だと思う。

 ただ、分かっちゃいたけど、詠唱がとにかく長い。

 とても実戦で扱おうとは思えないので、参考になるのは各属魔法が生み出すそれぞれの効果と、鍵となる魔法名くらいだな。

 カッコ良さそうなやつは参考にさせていただきたいと思う。



『イケてる髭の整え方』

 初めて買った本を燃やそうかと思った。



『木人族の不思議』

 この世界に存在するらしい希少種族の一つ、『木人族』に焦点を当てた本。

 これは素直に読み物として面白かった。

 長命種ではあるも、人の枠として生き永らえるのは男性のみ。

 女性は子を宿せば人から大樹へと変わり、実に人命を吹き込み大地を守る。

 このように書かれており、俺の知っているファンタジー要素には当てはまらないからこそ余計に興味もそそられてしまう。

 エルフ種と共存していた時代もあったらしいけど、今も存在しているのかまったく分からないのが難点だな。


 あとはばあさんからではなく、オークションで競り落とした『宝石図鑑』は、本当の宝石用図鑑だったから良いとして――。


 さて、どうするか。


 本の確認も終わり、時刻はもう既に深夜。

 検証は明日にしようと思っていたけど……うん、やっぱりダメだな。

 どうにもこのままでは眠れそうもない。


(ちょっとだけ……ちょっとだけだから……)


 ステータス画面を開き、既に何度も開いている新しい『タブ』を確認。

 本での知識も大事だけど、現場で得られる知識だって大事だよねってことで、俺は久しぶりにラグリース北部の狩場、<<ペイルズ樹海>>へ飛んだ。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 場所は遺物ハンターも入ってこない懐かしの深層。

 思わず背後にある山や周囲に目を向け、誰かさんのペットを意識しながら実験を開始する。


「まずはレベル5だから――Cランクのヤツを探さないと」


 試していくのは、もちろんバーシェから得られたこのスキルだ。


【魔物使役】Lv5 条件を満たした対象に限り、使役することが可能になる 最大所持コスト500 使役時のみ魔力消費30


 最初見た時は「これだけ?」って思ったけど、コストという文字にピンときて。

 タブの存在に気付き、あぁ【奴隷術】の親戚みたいなものかと、一人納得していた。

 ただ書かれている内容は"強制"がないため、【奴隷術】ほど細かくはない。



 ――スキルレベルに対応した等級《ランク》までを上限に対象を選択する必要がある。

 ――使役するためには1匹に対し、等級《ランク》に応じたコストを支払う必要がある。

 ――使役するためには一定水準まで弱らせ、対象に同意させる必要がある。


 ――この3条件を満たした状態で対象に触れ、自身の魔力を流しながら『使役』と念じることでスキルは発動する。



 解除方法などはまた別に書かれているけど、タブ内に出てきた使役の仕方に関する説明はこれだけ。

 あとはコストと等級の関係性が表になっていたので、Gランクの動物まで含まれるんだという意外性はあるも、これを見ればどういう理屈かはすぐに理解できる。


 スキルレベル1  G・・・コスト1
 スキルレベル2  F・・・コスト2
 スキルレベル3  E・・・コスト3
 スキルレベル4  D・・・コスト5
 スキルレベル5  C・・・コスト10


 今がスキルレベル『5』なのでここまでしか表示されていないけど、あとは限りあるコスト内でどのように組み合わせるかだな。


「おっ、良い感じのヤツ見ーっけ」


 Cランク魔物を探して森の上空を飛び回れば、ようやく見つけたのは生息数の少ないゴブリンジェネラル。

 相変わらず俺を見かけたら【威圧】とセットで一目散に走り寄ってくるので、近場にあった木の棒を拾い、ジャンプしながら頭をポコーンと軽く殴ってみる。


「グァッ!」


 が、牙を剥き出しにしてただ怒るだけ。

 説明にある、|弱《・》|ら《・》|せ《・》|て《・》|同《・》|意《・》という流れがいまいち掴めない。


「バーシェは素手で殴ってたから、もうちょっと強くかな?」


 あの男がベイブリザートをポコスカと殴り、あっさり言うこと聞かせている姿を遠目に眺めていたのだ。

 だが、何度殴ろうと魔物特有とも言えるお怒りモードは変わらず、あっという間に息も絶え絶え。

 このままではもう1発2発で、ポックリ死んでしまいそうである。


「グ……ガッ……!」

「こんなボロボロの状態じゃ使役する意味ないよなぁ。でもバーシェからレベル1の【手加減】も得られたんだし、何か意味が…………ん?」


 いやいや、このスキルに引っ張られていたけど、重要なのは別の方か?

 バーシェから得られたスキルのアナウンスを眺めていた時、偶然だとは思うが、一度【魔物使役】が解放されてからスキル取得のアナウンスが流れていった。

 普段ならそのままスキル取得に入るので、つまりはその手前で別のスキル取得から解放条件が整ったということになるわけだが。


(そのスキルは、たしか――)


 バーシェから得られたスキルは、この他だと【調教】と【獣語理解】の2つだけ。

 ならばそう難しい問題ではない。


 ――【獣語理解】――


『絶対、ぶっ、殺す!』

「うおー! ゴブリンジェネラルが喋ったー!」


 凄い凄い凄い!

 考えてみればギニエ辺りでこのスキルを取得していた気もするけど、ずっと発動していると勘違いしたままスキルの存在を忘れていたのだ。


【獣語理解】Lv5 動物や魔物の言葉を理解し、意思の疎通が図れるようになる 魔力消費0


 スキル詳細をよくよく見れば、【異言語理解】と違って『常時発動型』じゃねぇ! って罠に今更気付いちゃったけど、まぁ問題ない。

 だって俺はこれから、魔物マスターになるんだから!


「ということで、使役するからよろしく!」

『うる、さい、死ね!』

「あれ? 違くて、使役しようかなーって……」

『てめ! これだけ、ボコボコ、殴って、今更使役、だと!?』

「あれぇええ!?」


 まさかの殴り過ぎ問題勃発!?

 ちっとも同意してくれないとか、地味にこのスキル、さじ加減が難しいんですけど!


「えーと、どうすれば、使役されてくれますかね……」


 そう問えば、舌打ちされながらもなんだかんだと答えてくれる。


『チッ……俺より、強いから、なるのは、しょうが、ないけど、まずは、飯』

「へ?」

『飯と、あとは、この傷、治せ』

「……」


 なんで、コイツこんな偉そうなんだよ?

 しかし初めての使役なのだから、ここは丁重にいきつつ流れを掴まないといけない。

 もしかしたら、これが使役のための『作法』なのかもしれないのだ。


「ど、どうぞ」


 腐らないように収納保管していたなんかの肉をあげつつ、これまた初めての経験。

 魔物に【回復魔法】という、RPGなら御法度な技を試みてみれば、意外とすんなり血だらけだった顔面は治っていく。


「ほ~魔物にも効くとか意外……って、魔物でも【回復魔法】使うやつがいるんだから当然か」

『え、あ、いや、ま、ま、魔石で、良かった、ですが?』

「? あぁ魔石、魔石ね」


 なるほど、そういうことか。

 前にハンスさんがボロボロのロキッシュに何かを食べさせていたのも、きっと魔石だったんだろう。

 成長していく上位種じゃなくても、魔石を食えば魔物の傷は回復する――ふむ、魔物特有のルールだし、かなり勉強になるなコレ。


「とりあえず回復させたし、お肉も……なんか全然食べてないけど、とりあえずあげたし。これで使役されてくれますかね?」

『それは、もちろん、です。有難き……有難き……』

「なんか急に気持ち悪いんだけど……まぁいいや、それじゃいくからね」


(使役したーい)


『……ッ!?』

「おぉ、感覚的に成功したってのが分かるのか。なんだこの不思議な感じ……」


 ステータス画面から【魔物使役】の専用タブを確認すれば、案の定ゴブリンジェネラルという名前が載っており、その横には『コスト10』と、発生している消費コストが記されていた。

 だがこれだけであり、それ以外にHPバーのようなモノや、所在を示す表記は存在していない。

 かなりゲームに寄ってしまうから、載っていないことも不思議ではないが……

 しかしそうなると、どうやってハンスさんはロキッシュのピンチに駆け付けられたのか。

 そんな疑問が残ってしまう。


(もしかして、スキルレベルが関係してるのか?)


 ハンスさんの【魔物使役】はまず間違いなくレベル10だ。

 レベル上昇によって、何かしらの機能が解放されるというスキルも存在しているのだから、レベルを上げれば分かる範囲が広がるというのも十分あり得る話。

 もしくは先ほどのように、なんとも言えない独特な感覚で、"何が起きているのか"使役者が理解できるのかもしれないな。


(ゼオが知らなきゃ、もしかしたらでフィーリル。それかハンスさんに聞くのが一番の近道だよなぁ)


 たぶん聞けば教えてくれる。

 となれば、南へ向かう理由も強くなってくる。


(……まぁ、追々だな)


 今取り急いでその情報が必要というわけでもないのだ。

 そのうちクアド達がどこかでお店を開いた時、番犬のような護衛役として、使役した魔物が店や彼らを守ってくれれば良いかなというくらいで、今はこの手の魔物がどうしても必要な場面は特にない。

 それでも、ここで『解放』するのもなんだし、せっかくの初代『仲魔』なのだから、一応連れて帰りますがね!


「よし、とりあえず家に帰ろっか」

『い、家!? それは、もう。ただ先に、二つ、どうしても、気になること、あります』

「ん?」

『名を、俺に、名が欲しい、です』

「おぉう名前ね。ん~ゴブリンよりジェネラルを弄った方が分かりやすいし――よし、ジェネ! ジェネでいこう!」

『有難き、幸せ。あと、さっきから、凄く、気になる、こと』

「うん」


『主は、もしかして、魔王様、ですか?』
336話 魔物の王

 一先ず拠点の下大地に飛んだ俺達は、朝になって目的の人物に声を掛けた。


「ゼオ~ごめん。ちょっといい?」

「なん……だ? 横にいるのは、ゴブリンか?」


 朝から湖の畔で作業をしていたゼオが振り返り、珍しく目を見開いたまま驚きの表情を浮かべている。

 そりゃ俺の横に、拠点にはいるはずのない2メートル近いゴブリンが立ってるのだから、驚くのも無理はない。


「うん、初めて魔物を使役してきてさ。名前はジェネっていうんだ」

「ふっ、相変わらずの多芸だな。次は【魔物使役】か」

「そそ。ジェネ、この人が俺の仲間で、さっき言った本物の魔王様」

「?」

「この人も、魔力、黒い、ですか?」

「あ~しゃべり方は普通でいいよ。ゼオ、ちょっとだけ魔力見せてあげてくれない? ジェネがさ、なんか|面《・》|白《・》|い《・》|こ《・》|と《・》言ってるんだよね」

「それは、構わんが」


 ゼオは今、【魔力最大量増加】付与のアクセを2個付けているからな。

 以前とは違い、あっさりと手を覆うように黒い魔力を具現化させる。

 ジェネはそんな光景を黙って見つめ――そして俺は、そんなジェネの姿をジッと見つめていた。


「凄い。二人も、魔王様、いるなんて」

「……このジェネとやらは、黒い魔力の持ち主を魔王と判断しているのか?」

「あ、ゼオも【獣語理解】使った?」

「うむ。ロキの話す内容が気になったものでな」

「ほんとそうなんだよね。俺がジェネに【回復魔法】を使ったのがきっかけなんだけど……樹海の奥地で生息していた魔物が、どうやって魔王という存在を知り得たのか。不思議じゃない?」

「なるほど、面白いとはそういうことか」


 ゼオもこの違和感に気付いたのだろう。

 目を細めながら、何かを知っている可能性のあるジェネを見つめれば、当の本人は気付いた様子もなく語り始めた。


「どうやって? それは、分からない。最初から、魔王様の存在、知ってる。知ってた。人に使役されることがあるの、知ってるのと、同じ」

「誰かに聞いたのではなく、最初から……つまり本能のようなものか?」

「うーん……」


 近いけど少し違う、そんな印象だな。

 本能ならば腹が減って人を喰らうような、単純で短絡的な『欲』にそのまま繋がるはずだが、使役されるなんて本来魔物側が望むようなことじゃない。

 それは『合意』という工程を挟むことからも明らかなので、それでも知っていたということは、どちらかというと『記憶』――もしくはゲーム的な視点で言えば、プログラムされた『設定』のようなものだろう。

 人と違い、魔物は群体のような存在として記憶がリンクされている?

 それとも生み出された時には記憶が植え付けられているのか?

 魔物のリポップやボス部屋リセットがまず間違いなく発生しているこの世界では、どちらもあり得えそうな話だが。


「ジェネは自分の生い立ちっていうか、どのようにしてこの世界に生まれたとか、理解してるの?」

「分からない。気付けば、立って、空、見てた」

「……そっか。俺を見て魔王と思った理由は? 黒い魔力がきっかけではあるんだろうけど、あの狩場にいるゴブリンメイジだって、魔法放つ時は黒い魔力出すでしょ?」

「人、魔力が黒くない。黒い魔力、魔物だけ、魔物の証」

「人が黒い魔力を使ったから、魔王だと思ったってこと?」

「違う。主が黒い魔力、使った、だから、同じ魔物と思った。使役して、僕にする、知性体。あそこに、なぜかいる、怖い覚醒体の、さらに上。だから、きっと魔物の王」

「あぁ、魔王って"魔物の王"ってことだったのね」

「そういうことか……」


 意味が分かったのは俺だけではないようで、ゼオも理解し、そして肩を落とす。

 俺達がもしかしたらと思っていたのは"魔人の王"であり、生き残りの魔人が何かしら魔物に情報を残している――そんな可能性を考えていた。

 魔人の行方を捜すヒントになるかと思ったが……しかし、これはこれでジェネ君、とんでもないことを言ってないか?

 あそこにいる怖い覚醒体、それはつまり――


「怖い覚醒体って、ジェネの倍以上はある、真っ黒い獣のこと?」

「そう。俺達、ゴブリン、なぜか喰われないけど、もっと強いやつ、いっぱい、喰われてる」

「やっぱり、ロキッシュのことか」


 つまり俺やギルドが上位種と呼んでいた魔物は、魔物によれば覚醒体という存在で、さらに進化形態としてその|覚《・》|醒《・》|体《・》|の《・》|上《・》があるということ。

 それが殺して喰らい成長するだけでなく、知性を以て僕にし、魔物を統べるような存在か。


 しかしそうなると、腑に落ちない点も出てくる。

 今までの長い歴史の中で、覚醒体のその先――魔物の王が誕生した様子がないのはなぜだ?

 リルはかつて、魔物が国を亡ぼすような事態にはなったことなどないと言っていた。

 この手の専門でもありそうなフィーリルだって、魔王はゼオの呼称くらいにしか思っていなさそうだったし、魔物の王と言っても人知れずあっさりと滅ぼされるくらいに弱いのか、それとも――。


「ゼオは魔物を喰らって成長する覚醒体の、その先って聞いたことある?」

「稀に成長する魔物が現れることは知っていたが、その先というのはないな」

「ん~ジェネは今までそんな存在が誕生したかは分かる? もしくは、何をすれば生まれるのか、その条件とか」

「分からない。知ってるのは、覚醒体の、その先が、知性を持って 統べる存在で、統べられることは、良いこと、それだけ」

「なるほど……」


 凄く興味深い話だけど、ジェネとゼオが分からないのでは、これ以上話を進めることは難しいか。

 しかし、別の部分でジェネの言動から分かったこともある。

 分からないのに知っている――つまり、ジェネを含めた魔物は生み出されたその時から決められた記憶が、プログラムのように植え付けられている可能性が極めて高い。

 仮に魔物が群体であり、記憶を共有しながら引き継いでいるのだとしたら、どちらか分からないではなく、|知《・》|ら《・》|な《・》|い《・》と答えるはずなのだから。

 そして魔物を創造したのはフェルザ様ということであれば、魔物に与えられた知識はこの世界の真実であり、何かしらの条件によってその知性体は生まれるはず。


(気が遠くなるほどの歴史がありそうなこの世界で、未だ自然発生しない条件なんて何がある……?)


 きっと覚醒体になり、ただ喰らい続けるだけではだめなのだ。

 濃厚なのは、何か特殊性が強く、かつ入手難易度の高過ぎるアイテムくらいか?

 はぁ~まったく。

 この世界は分からないことだらけだな。


「? ロキ、何か面白い気付きでもあったのか?」

「え、あ? ごめん、笑ってた?」

「あぁ、ロキの顔が面白いことになっていた」

「それ、地味に酷くない!?」


 まぁ、いいか。

 どの道、今は答えに辿り着けそうもないし、その知性体とやらには相応のセーフティが設けられているのだ。

 ならばいきなり爆誕して、世界がボロボロになるようなことも考えにくい。

 それに、もう一つ。


「ゼオ、敢えて言葉を濁さずに言うけど、この世界を創った神様は、『魔人』というイレギュラーな種族を想定していなかった。これは間違いないと思うよ」


 どこまで触れていいかが分からない。

 だから名前は出さず、このくらいなら大丈夫だろうという情報を伝えれば、ゼオは暫し考え込み、ゆっくりと俺に視線を向けた。


「………どういうことだ?」

「俺はこの世界の人間じゃないからこそ、世界の成り立ちに関する情報があってね。ジェネ、黒い魔力は魔物の証――つまりは魔物だけの特徴ってことだよね?」

「そう」

「じゃあ、『魔人』って存在、知ってる?」

「知らない」

「『獣人』や『エルフ』『ドワーフ』なんかはどう?」

「知ってる」

「それぞれ会ったことは?」

「ない。人に直接、会ったの、主が、初めて」

「うん、予想していた通りの答えだね」

「魔人だけは知らぬのか……」

「だけかは分からない。けど、偉い神様にとっても想定外だったからこそ、種族が強制的に切り替わったゼオ以外は消された。この可能性が高いと思う」

「……」

「戦争の直後ということも考えれば、均衡《パワーバランス》が崩れるほどに強かったから。だからどこかに『隔離』されているんじゃないかって予想だけどね」


 フェルザ様が単純に想定外を認めなかったという理由くらいなら、繁栄する前に『調整』が入っていただろう。

 仮にゲームなら調整の結果は世界からの消去だが、しかし女神様達は消えたわけじゃないという答えをくれている。

 ならば現実的なのは『隔離』――強過ぎる種族だからこそ、表舞台から退場させられているとしか考えられない。


「まぁ、これが分かったところで、どこに『隔離』されているんだって話にはなるんだけどさ」

「ふっ、我では分からない着眼点をロキは持っているのだ。これも一歩前進と喜ぶべきこと。感謝するぞ」


 大丈夫、きっと大丈夫だ。

 世界を旅していれば、怪しい場所なんてこれからも多く登場することだろう。

 きっと、その中の一つ。

 飛び抜けて危険で、飛び抜けて魅力的な場所に、きっと彼らは隠れ潜んでいるんじゃないだろうか。

 そんなことを考えながら、起きてきたカルラとロッジに、拠点の新しい住人。

 深い緑色の体表をした大型ゴブリン『ジェネ』を紹介した。
337話 食い違い

(やっぱりフィーリルも知らんっぽいよなぁ……)


 今回仕入れた情報は予想通り、女神様達にとってもかなり重要な部類だったらしい。

 下台地で朝食後、気付いたことも含めてジェネから得られた情報をアリシアに報告すると、全員がわざわざ拠点に戻ってきてまで俺の話に聞き入っていた。


 フェルザ様は魔物にも、魔王と呼ばれる存在を想定している――

 というよりゼオではなく、こちらがこの世界にとっての魔王――魔物の王になる。


 この言葉に皆はその危険性を危惧するばかりで、特に過去の出現事例が挙がってくることは無い。

 念のためこちらから確認しても、そのような魔物の存在は確認されていないということなので、やはり発生条件が途轍もなく難解か、もしくは女神様達の耳に入らない程度のたわいない存在か。

 まずこのどちらかということになるのだろう。


(本来なら後者を望むべきだろうが……ダメだな、俺は)


 女神様達と別れ、フレイビルの王都『グラジール』へ。

 目的の傭兵ギルドに向かいながらどちらも想像し、そんなことを考えてしまう。

 試行錯誤しながら出現条件を探し出し、鍛えた自らの力をぶつけ、その後の結果に心躍らす。

 現実なら不謹慎極まりないことでも、ファンタジーの世界なら垂涎モノの特大イベントに早変わりしてしまうわけで。

 これが世間一般で言う『勇者様』なら、そんな危うい存在を未然に防ごうと悪戦苦闘し、その上で最後は|し《・》|ょ《・》|う《・》|が《・》|な《・》|く《・》魔王と戦うんだろうけどなぁ……


(ん――……おっ? あった、けど……うわ~マジっすかー)


 向かった先ですぐに視線を向けたのは、受付奥の壁に掛けられたランキングボード。

 ランカー申請の件からもうそろそろ2ヵ月近く経ったので、一番早くに反映されるであろう王都の傭兵ギルドを訪れれば、ボードには間違いなく俺の名前が存在していた。

 それはもうドンケツもドンケツ、最後の40位に。

 フレイビル限定のランキングだし、順位にそこまで拘りはなかったけど……

 しかしこれではアスク・バーナルドや爆走獣人を笑うことなんてまったくできないな。


「そんなところに突っ立って、何やってるの?」

「あ、すみません。ランカー申請の結果を確認しにきまして」

「ふーん……で、ダメだったって顔してるわね。その歳でどこかのギルマスから推薦が入るなんてよほどのことだし、次もあるんだからそう落ち込まないの」

「え、あー、いや、一応申請は通ったみたいなんですけど、最後も最後でして……ははは」


 そう伝えれば、受付のお姉さんは後ろを振り向き、俺の名前を確認したのだろう。

 なぜか怪訝な表情を浮かべ、やや冷めた口調で俺に言葉をぶつけてくる。


「あぁ、君が『ロキ』だったの。4度の呼び出しをすべて無視するとんでもない"大物"が現れたって、あなた早速有名人よ?」

「へ?」

「共鳴石、渡されてるわよね? バングルは身につけていないようだけど」

「……」


 お姉さんにつられて視線を落とせば、たしかに俺の腕には何もつけられていない。

 傭兵になってから今までずっと、依頼の結果報告をする時だけ『革袋』や『収納』からバングルを取り出すのが当たり前になっていた。

 悪党だってバカばかりじゃないのだ。

 装着されたバングルから相手が傭兵だと理解すれば、その場限りの善人を演じるやつらだって必ずいる。

 だからランカーになって、指名依頼が入る条件でも整ってから、適度にバングルを確認しようかと思っていたが……

 呼び出しということはつまり、共鳴石が俺の気付かぬところで光っていたってことか。


「すみません、全然気付いてなくて。4度って、ランカーに無事なれましたよっていう報告ですかね?」

「そんなことでいちいち呼び出さないわよ。指名依頼、しかも全部ロズワイド侯爵からの直々だったはずよ」

「ロズ……え? 侯爵?」

「そっ、まぁひと月近くは前の話だし、今更だけどね」


 いやいやいや、どうなってんだ?

 こっちは2ヵ月もあればまず反映されると聞いて、このタイミングで来てるんだが?


「えーと、予想以上に早くランキングが更新されたとか?」

「ん~更新されたのは10日くらい前だったから……どういうことかしらね? 考査中に指名依頼をしようとしたってことかしら?」

「……どんな内容だったかなんて、分かったりします?」

「大貴族が表に出ない依頼を頼もうとしてるんだから、私なんかに分かるわけないでしょ」

「そりゃそうですよねぇ~」


 一瞬、貴族と聞いてドミアのオーラン男爵絡みかと思ったが、1ヵ月前ならまだクアドが米の買取に励んでいたくらいのタイミング――何も事を起こしてすらいないと言っていい。

 となれば、フレイビルで思い当たるのは一つだけ。

 傭兵ギルドが情報を掴んでいたように、解体場辺りから情報が洩れ、4度も連絡を取ろうとするくらいに"よほど重要な何かを俺に運べ"ってことだったんだろうなぁ……

 一度クアドに貸し出すための資金調達稼ぎでロズベリアを訪れた時は、まだ関係各所とのやり取りで準備中という話だったはずだから、ハンターギルドとはまったく関係のない話だろう。


「あぁ、でも」

「?」

「ロズワイド侯爵はヴァルツ王国との外交を担っているはずだから、きっとそれ絡みじゃない?」

「でしょうね。なんとなく依頼内容に予想もつきました」

「そっ、ならロズワイド侯爵とどういう繋がりがあるのか知らないけど、動くなら早くした方がいいわよ? すぐ終わっちゃうかもだし」 

「何がですか?」

「戦争。フレイビルが今回不戦を表明したこともあって、ヴァルツは相当な傭兵を雇い入れたって話だから。参加するなら早くしないと手柄なくなっちゃうでしょ?」

「………は?」

「なによ?」


 待て。


 待て待て待て。


 この受付嬢は、いったい何を言っている?


 荷物の運搬じゃなく、戦争……?




「え……っと、待って、どこと、どこが……?」




 自分でも間抜けな質問をしている自覚はある。

 ヴァルツ王国の北側は、人の往来なんてまともにできないほどの山脈群で。

 実質的に隣接国と呼べるのは2国しかなく、うち1つは今俺がいる同盟国なのだ。

 となれば、もう残すは反対側しかない。





「そんなの決まってるじゃない。ヴァルツとラグリースよ」
338話 猛獣の檻

 ヴァルツ王国とラグリース王国の戦争。

 あまりにも唐突過ぎて、この言葉を聞いても俺の思考は霞がかり、すぐに飲み込むことができなかった。

 戦争はあの時、亜人差別を撤廃したことで回避できたはずじゃ?

 それに先日、本を買いにばあさんのところへ寄った時も、なんらいつもと変わらない様子で出迎えてくれた。

 商業ギルドのワドルさんにしたってそうだ。

 自分が知る限りの情報を引き出しても、戦争を否定する要素しか出てこない。


(何も異変は無い……無かった……なんで…………いや、今重要なのはそこじゃない……)


「いつから戦争は始まってるんですか!?」

「ヒッ!?」


 唐突な叫びに目の前の受付嬢は怯えるも、そんなことを気にしていられない。

 理由よりも、今は時間。

 いったい戦争が始まってから、どれほどの日数が経過している!?


「と、隣の国のことなんだし、うちは不戦なんだから知らないわよ! 少なくとも10日くらい前には、開戦されたって報がここにも入ってきてたわ!」

「10日……」


 ……話を聞きながらも呼吸は乱れ、視界がぐにゃりと捩じ曲がったように足元がふらつく。

 ラグリースに寄ったのはつい昨日の話だが、それは樹海の深部という人里離れた狩場だけの話。

 町に寄ったのは商団の護衛に入る前――クアドの準備待ちをしながら地図埋めと、フィッシャーカメレオンの乱獲をしていた時が最後だ。

 ということは、その後。

 そう日数も掛からないうちから戦争が始まったということになる。


(ばあさん、ごめん……)


 なぜ戦争に発展しているのか、理由は分からない。

 それでも、解決できていなかったという事実。

 そしてもしかしたら、俺が広めた『地図』が戦争の原因になっている可能性まで考えてしまい、フツフツと込み上げてくる罪悪感が止まらなくなる。


(とにもかくにも、まずは状況を)


 ここにいたって何も始まらない。

 俺はほんの一瞬、どこへ飛ぶか悩み――。

 人目も憚らずにその場から転移した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「姉さーん、それなりに若くて身体つきの良い野郎ども捕まえてんですから、ちっとは機嫌直してくださいよ~」

「煩いねェ……このアタシがハズレルートだよ? このア、タ、シ、がッ! あぁイライラするわ。もう1本いっとこうかしら」

「……噛み千切った身体をバラまかれたら後続の兵が怯える。いい加減にしてくれ」


 ラグリース内に広がる長閑な穀倉地帯。

 その中を延びていく街道には、普段とまったく異なる光景が広がっていた。


「ふん。アタシらがいれば、兵隊なんざ必要ないでしょ」


 鼻を鳴らすのは、体長2メートルを優に超える大柄な女。

 黄色と黒の縞模様は『虎』を思わせ、牙を覗かせる口周りは道中の|お《・》|遊《・》|び《・》によって赤く染まっていた。


「食料などの物資は誰が押収していると思っている? 運搬だって後方の兵達が担っているのだぞ?」

「そうですよ姉さん。誰かが雑用してくれてるから、俺達は暴れるだけで良いんですよ?」

「……一番酷いのはお前だがな、エヴィンゲララ。無抵抗な子供くらいはさすがに放っておけ」


 そう言われ、エヴィンゲララと呼ばれた小柄で独特な顔を持つ男は、これまた独特な声で笑う。


「ギギッ、あいつら、俺を見てネズミみたいな小さい野郎だって笑いやがった」

「笑うも何も、口を開く前に殺していたはずだが?」

「違う! 顔と! 目と! 雰囲気で! 俺を小バカにしやがったんだ! ついでに俺の鼻が皿よりデケェとか、デカい耳で空を羽ばたけそうだとか、デコが近所の畑より広いって! あのクソガキどもが……ッ」

「んんっ……それに纏まった数の兵は間違いなく必要だ。南の要所、マルタはこれまでの村や町のようにはいかんはずだからな」

「ローエンフォートと同じ、Bランクの狩場があるくらいでしょ?」

「そうだが、密偵によればここ最近はAランクハンターや、中にはSランクの可能性がある者まで常駐しているような話も出ている」

「ん~? レイドが近いんじゃないの?」

「クイーンアントでしたっけ、昔ファニー一派でこっそりぶっ潰しにいきましたよね。他のハンター連中もついでに潰しちまいましたけど」

「自業自得、アタシの姿見て悲鳴を上げるからだよ。レディに対して失礼にもほどがあるでしょ」

「お、おまえらどうやって人間至上主義の国に……って、そんなことよりだ! 噂によれば、狩場内に別のボスが現れたらしい。しかも魔宝石を有した|別《・》|格《・》という話まである」

「ほう……それは興味深い話だな」


 ここで初めて口を開いたのは、背に巨大な弓を携えた男。


「なんだい、ずっと寝てんのかと思ってたよ」

「ユークリッドの旦那、盗み聞きしてたんですか? そういうの良くないですよ?」

「寝るとは言っていない。『目』を温存していただけだ」

「んんっ! 一桁ランカー3人が南に配属されたのはそういうこと。マルタの一筋縄ではいかない城壁、そのまま防衛に回る可能性のあるハンター共、それに――レイモンド卿。噂が本当なら、一番厄介なのはまずあの男だ」

「そんな名前、聞いたこともないよ。ラグリースと言えばやっぱり"火仙の魔女"でしょ? あークソッ! ヒョロガリ野郎の憎たらしい顔を思い出しただけでまたイライラしてきたんだけど!」

「ちょ……暴れないでくださいって! でもジオールのオジキが今回辞退しなけりゃ、バリーの兄貴が南部担当になってた可能性は高かったですもんね」

「そうなったらファニーは、目立つ首級のいない北部制圧に回されていたと思うが?」

「え? そうなの? なら南で良かったってこと?」

「え……そういうことになるんですか?」

「なぜ俺に聞く。まぁジオールが一派のビアスまで連れて参加していたら、美味しいところを全部持っていかれる可能性が高かったのだ。不参加の方が俺達にとっては美味しいに決まっているだろう」

「道理がないとか、意味の分からないこと言ってたらしいけど……よく考えたらこれはチャンスなのかもねェ。よし、エヴィゲラ! とっととレイモンドってヤツぶっ殺して北に向かうよ!」

「ついでに、レア物の最高報奨も狙っちゃいますか!」

「バカもん! 勝手に動こうとするな! 南部侵攻軍の司令官は私なのだぞ!?」

「待て、ファニー。レイモンドを殺るのは俺だ。おまえはその怪力で城壁に穴でも開けていろ」

「あぁ? 7位如きがふざけたこと言ってんじゃないよ。そのヒョロい腕を食い千切ってやろうか?」

「野郎は全部あげますから、自分は弱そうなガキや女を……あ、姉さん。次の村、いや、町が見えてきましたよ。収穫の時間ですって」

「おい、聞け! それ以外にも南部に3人割り当てられた理由は――……」


 南部侵攻軍を取り仕切る軍将『槍覚のアトナー』は、声を張り上げながらも額にジワリと汗を滲ます。

 このような猛獣の檻の中では生きた心地などせず、ましてや統率を取ることなど不可能に近かった。

 国が望んで雇い入れたとは言え、放っておけば何をしでかすか分からない連中なのだ。

 ゆっくりと背後を振り返れば、まったく終わりの見えない兵列。

 その手前に種族も装備も、何もかもチグハグな者達が100人は見える。

 ここにいる3人だけではない。

 後方の中にも、自分より確実に強い者達が混ざっていることは、国が集めた前代未聞とも言える傭兵の数を把握しているアトナーだからこそ理解していること。


(結果を急ぐ理由も、万が一に備え戦力を抱えた理由も分かる。しかし、これはあまりにも……)


 思うことはあっても、軍部に所属する人間が国の決め事に反することなどできようはずもない。

 道中の惨劇に目を背けながら、アトナーは新しく見えてきた町にソッと『×』の記しを加えた。
339話 9割5分

 ラグリースの西部に位置するジュロイ王国。

 この地でも隣国の戦争によって、一部の兵に混乱が生じていた。


『突如として戦火に見舞われた。敵国はヴァルツであり、同盟国として援軍を求める』


 鳥によって齎されたこの急報にジュロイ側は、これを|事《・》|実《・》|と《・》|知《・》|り《・》|な《・》|が《・》|ら《・》|も《・》軍部へ指示を出し、一部の事情を知る者に偵察へ向かわせる。

 場所はジュロイ王国北東の山岳地帯に存在するバルダモ砦。

 山間の隙間を埋めるように作られたソレは両国間を塞ぐ関所の役割を担っており、普段は馬車を牽いた多くの商人が護衛を引き連れ往来していたはずだが……

 偵察の命を受け、300の兵と共に訪れたロイエン大佐は、その地で奇妙な光景を目の当たりにする。

 関所の前には一人の老人がゴザを敷いて堂々と寝ており、その手前側には地面を擦って作られた一本の線が。

 そしてその横には


『働きたくない。境界線の内に入れば斬るゆえ、無駄に命を散らさぬように』


 このように書かれた立て看板が掲げられて、その周囲では右往左往する商人達を、関所に駐在していた兵士達が立ち入らないよう必死に止めていた。


「ロ、ロイエン大佐。これは、どう受け止めればよろしいので?」

「文字通り、入れば殺される、ということだろうな」

「酔い潰れた爺さんが、道端でただ寝ているだけのようにも見えますが?」

「そう思うか? ならば……入ってみろ」

「え?」


 トン、と。

 背中を押された兵士は、一歩、二歩と、たたらを踏みながら境界の中へと入っていき――

 その姿をロイエン大佐は眺めていたつもりだったが。


 ピュッ――……


 赤い何かが飛んだことに気を取られた時。

 既に目の前の兵士は首から先が無くなっており、その頭部を持つ老人は睨むでもなく、ロイエン大佐をしげしげと眺めていた。


「罰が絶対であるからこそ、取り決めとは意味を成すもんじゃが……どちらの首を落とすべきか、ワシに悩ませるとは面倒なヤツよのぉ」

「ッ……か、帰るぞ。10名ほどはこの場で待機だ。商人や旅人が線を跨がぬよう、交代で見張りを行え」


 逃げるように境界から距離を置けば、定位置と言わんばかりに改めてゴザの上で寝転ぶ老人。


「……決定、ですかね」


 その姿を見て、ロイエン大佐の背後から囁くように話しかけたのは、この場で事情を知る二名のうちの一人。

 部隊の副官として同行していた男だった。


「このような異才を放つ者が、戦地外で時間を潰しているくらいなのだ。ヴァルツの上位傭兵が大半参戦しているという|警《・》|告《・》は、真実の可能性が高いだろうな」

「これが国内に傭兵ギルドを持つか持たないかの差ですか……」

「誰の傘にも入らぬ中立の姿勢ではもう済まぬ時代に入ったということだ。少なくとも傭兵ギルドの受け入れは進めねば、こうも簡単に国が潰されてしまう。ラグリースのようにな」

「古代文明の跡地という利点はどうみます?」

「あのような亀裂が生まれるほどの何かを持つなら話は別だろうが……共倒れを恐れ、上がラグリースを見限るような判断をしているのだ。つまりは掴んでいる情報の中に、戦力差を覆せるほどの手はないということ」

「もしそれほどの強大な力を隠し持っているのであれば、それこそ恐れる神の裁きが待っているでしょうしね」

「西で様々な国が飲まれようと、神の裁きなど一向に落ちはしないのだ。結局はよほどの人外な力でなければ神もただの傍観者。それこそ、盤上の遊戯を楽しんでいるのかもしれん」

「あってもなくても、どちらにせよ国が壊滅するとは、哀れなものです」

「ふん、拳を捨てた国ほど便利な盾は他に無かったのだがな。利用価値がなくなるとなれば止むを得ん」

「……大佐、今凄く、悪い顔されてますよ?」

「失えば次の標的は我が国、こちらとしてはあの者が成長するまで、できる限り時間を引き延ばしたいからな。今回は派手にいかず、手薄そうな南東部辺りの土地を少し頂くとしようか」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 一方ラグリースの宮殿内は、かつての神託騒ぎなど比較にもならないほど場が混乱していた。


「報告! カラン街道から王都に向けて侵攻中のヴァルツ軍が、東部の領都『ティエニク』を飲み込んだとのこと!」

「エ、エストラーダ辺境伯は何をやっている!? 『ルーベリアム境界』の破壊と押さえ込みには失敗したのか!?」

「開戦より前の段階でラグリース側の砦が潰されていたとしか思えませんな……これも傭兵の仕業として、国の責任を逃れるつもりでしょう」

「東部から侵攻していた40万のうち、既に約10万ほどの兵が北部へ向かったとありますから、辺境伯率いる東部第二騎兵軍と第三歩兵軍はもう……」

「北部にも10万……目的はサバリナの町――いや、出土した遺物か?」

「それらもあるでしょうが、サバリナはCランクハンターを多く抱える町。戦場で十分な戦力になり得る彼らと、遺物を管理する駐在軍を北部で押し止める目的もあるのでしょう」

「サバリナを押さえ、そのまま真っ直ぐに南下してくるか。もしくはジュロイ側の援軍を断ちに、そのまま西へ侵攻する可能性もあるか」

「バルダモ砦を先に押さえられれば厄介なことになるな……ジュロイからの報は? 援軍の知らせはまだなのか!?」

「ジュロイ王国、トルメリア王国ともにまだ知らせは届いておりません!」

「くっ……この肝心な時に……」

「こうなれば、一度マルタからレイモンド卿を戻すしかあるまい。他所と違ってすぐに連絡はつくのじゃ。あの男も民のためならば力を貸してくれるじゃろうて」

「うむ。それにあの町は、新たな発見で腕の立つハンターが増えてきていると聞く。民の救援という名目で、なんとかそやつらもまとめて王都に――」

「ほ、報告ッ! 南部からもヴァルツ兵の侵攻を確認! 南東ドゥリガ山の歩哨が、西へ侵攻する敵軍を確認したとのことです! そ、その数、推定10万!」

「なんだと?」

「亀裂の、南……? まさか、パルメラ側から10万もの軍が入ってきたということですか!?」

「そ、そうとしか考えられません」

「となれば、狙いは、マルタ、でしょうな……」

「ふ、ふふ……、孤立させ、本気でこの王都に攻め入るつもりか……? なぜ、やつらは神の裁きも恐れずにこんなことを……」

「そもそも、なぜこのような事態になっているのだ!? あの時、異世界人が火種を取り除いたのではなかったのか!?」

「……そうだ。どのような対価を得たのか知らぬが、我らは騙されこのような不測の事態に……ッ!」

「わ、我が国の『地図』を広めたのもその異世界人では? ここまで侵攻が速いのは、地理状況を正確に把握しているせいとしか思えません」

「だ、誰かあの、異世界人を探し出せ! たしか姉もいたという話だろう!?」

「ならば二人に責任を取らせ、戦場の只中に身を投じさせよ! 我が国のために命を賭して――」


「いい加減にしないか! このジャリどもがッ!!」


 だだ広い催事場に轟く、女性のしわがれた声。

 しかし誰が発したのか。

 この場にいた者達は全員がすぐに理解できたからこそ、騒然としていた場はピタリと――それこそ、一切の音が消えた。


「こんな状況になってもまだ、お前たちは誰かに責任を押し付けていれば事が済むと思ってんのかい」

「「「……」」」

「ロキ坊は……あの異世界人は、見返りなんか求めなかったよ。ただ、私の我儘を叶えてくれただけさ。私らは小競り合いの原因を、『亜人差別』による交易ルートの封鎖だと判断していた。そうだろう? シラグ宰相」


 問われ、ラグリース王国の宰相はビクリと、動揺しながらも答える。


「たしかにその通りだ。しかしそうなると、なぜこのような曰くのある土地に攻めいってくる?」

「そんなもの、少し外から眺めればいくらでも理由なんざ出てくるだろう。豊かで広大な平地、未だ掘り起こされる古代の遺物、点在する狩場……自分達が神の裁きを恐れているから、他所だって恐れてくれる。そんな妄信であり油断が、この現状を招いているのさ」

「そ、それは……」

「ただ今回は別の――、この焦りを感じさせるほどに余力を残さない動きは、私も気付けていない何かがありそうなもんだけどね」

「焦りだと?」

「まず動員されている兵が多過ぎるんだよ。ヴァルツの正規兵なんざ精々15万から20万がいいところ。倍じゃきかない数をこの戦のために徴兵していることになる」

「なるほど……」

「それに中身があまりにも|強《・》|過《・》|ぎ《・》|る《・》。いくらこちらの地理状況を把握したところで、眼前の障害を退けなきゃ前には進めないだろう?」

「それはその通りだが」

「東部がこの速さで飲み込まれるとなると、いったいどんな条件を付けたのか……傭兵でも相当上位の連中が複数人同時で動いてるとしか思えないね。このまま呑気に口だけ動かしていたら、この王都だって10日もかからずに沈むかもしれないよ」

「10日、だと……?」

「い、いくらなんでも早過ぎるだろう!?」


 実現可能かは別として。

 神の裁きにも耐え得るよう、そして裁きの恐怖を和らげるために、どこよりも堅牢に作られたのが王都ファルメンタの四重城壁であり、それが中枢を居場所にする者達にとっての誇りでもあった。

 だからこそ、この国の最高戦力から発せられた"現実"に再び場が騒めく中――

 ここまで、静かに事態を見守っていたこの国の王が、ゆっくりと口を開いた。


「ニーヴァル、このような状況なのだから遠慮はいらん。この戦、どのようにして勝てばいい?」


 この言葉に、ニーヴァルは素直に答える。


「それじゃお言葉に甘えて、遠慮なく言わせてもらうよ。残念だけど9割……いや、9割5分は耐えられないね。この国は潰《つい》える」

「……ふふっ、相変わらずだな。9割5分か……そなただからこそ、信じられる数字だ。ならば残りの5分をいかにして手繰り寄せられるかだが、こちらの動き次第でその可能性を上げられる策は?」

「……最低限は4つってところかね」

「申してみよ」

「まず一つ、西門からただちに住民を、可能な限り西へ逃がすこと」

「それは、武器を握れる者達もか?」

「いくら頭数だけ揃えたところで、多少扱える程度じゃ大した役にも立ちやしないよ。それに耐えるとなればこの王都がそのまま戦場になるんだ。私の気が散る」

「ならばやろう、ただちに動け」

「とは言いましても、王都の膨大な人数をいったいどこに向かわせれば――」

「荷車でも馬車でも活用させて、野宿くらいさせんか! むざむざと殺されるよりは遥かにマシだろうが!」

「は、ははーッ!!」

「次は?」

「二つ、Aランク素材の加工技術がある者だけは、ギリギリまで防具の製作に携わってほしいところだね。うちの宮廷魔導士部隊でもまだ4割程度しか出来上がっていない。ラディットんとこは?」


 問われ、一際煌びやかな鎧を纏った大柄な男が丁重に答える。


「本音を言えば欲しいところではありますが、こちらは元からの金属製鎧もありますから。魔導士部隊を優先してもらって構いません」

「よし、職人には死ぬ覚悟で造るだけ造らせてから西へ逃げろと命じよう。敗れれば全てが奪われるのだ。報酬は望むだけ渡して構わん」

「ははっ!」

「次は?」

「三つ、今からでも遅くはない。ルーベリアム境界をなんとしてでも落として、敵の補給線を遮断する必要がある」

「それはもっともな話だが……しかし、"石抜き"の仕組みがまだ生きていると思うか?」

「どうだろうね。砦を潰したのが傭兵なら気付かない可能性も高そうだけど、こればかりは行ってみないと分からない……だからラディット」

「はい?」

「おまえさんが行っといで」

「は? な、何を言っているのです!? 私が抜ければ、近衛部隊と王国騎士は……誰が陛下をお守りするのですか!?」

「それが最良ならば構わん、すぐに行け」

「へ、陛下……」

「いざとなれば力技で橋を壊す必要があるんだ。それに辿り着くまでにくたばっちまっても意味がない。こちらへ向かってくる敵軍に発見されず、可能な限り道中の村や町に危機を知らせ、現地で確実に策を実行できるとなるとラディット――『槌覚』であるおまえさんしか適任者はいないんだよ」

「……」

「それともうちの近衛や騎士は、ラディット坊やがいなきゃまともに機能しないほど役立たずなのかい」

「ッ……そんなわけないでしょう! 陛下、ほ、本当によろしいのですか?」

「我が命じているのだ。どのような方法でもいい。必ず橋を破壊し、そして生きて戻ってこい」

「ハッ! 暫くはお守りすることができず申し訳ありません。ただちに行ってまいります」


 今は何よりも与えられた命を優先するまでと。

 2名の部下を引き連れ宮殿を足早に去っていくラディット――その姿を眺めながら、王が呟く。


「次で最後か。ニーヴァル、4つ目はどんな悪足掻きをすればいい?」


 この時、王は内心、ニーヴァルの口から『ロキ』という異世界人の名が出てくるものと思っていた。

 蔵書の複製を販売するという形で、唯一繋がりを持っているのはこの場でもニーヴァルのみ。

 だが、返ってきた答えは王にとって拍子抜けするものであり――そして、肝を冷やす内容でもあった。


「最後が最も勝率を上げる方法だ。四つ――、掘り起こされた遺物の中に、|お《・》|か《・》|し《・》|な《・》【付与】付きの装備があっただろう。そいつを私に貸しな」

「そんなことか? 国が存亡の機に瀕しているのだ。『破天の杖』ならば、最初からそなたに託すつもり―――」

「違うね。ソイツも重要だけど、本当に必要なのはそっちじゃない」

「なに?」

「同時に使う。『大黒樹の禍棘』、アレも私に寄越しな」
340話 ばあの役目

「ならん!」

 催事場に響き渡る怒声。

 今までニーヴァルの言葉を信じ、提案される"悪足掻き"を全て認めてきた王が、険しい表情のままここにきて初めての異を唱えた。

 だがしかし、ニーヴァルはその表情を一切変えず、王を静かに見つめながら言葉を返す。


「どの道、敗れれば全てを奪われる。さっきそう言っていたはずだけどね」

「それとこれとは話が別だ! 『破天の杖』だけにせよ。ならばすぐにでも許可する」

「それだけで済むなら私だってそうしたいさ。だけどね、まずソイツだけじゃ来るべき未来を変えられそうもない。だから私は"両方"と言ってるんだよ」

「ッ……破天の杖を使用しても、それでもなお、そなたと迎え撃つ敵とでは、そこまでの開きがあるのか……?」


 戦場に出た経験もなければ、戦時を経験したことすらない王には、俄かに信じがたい話だった。

 火仙の魔女ニーヴァルと言えば、名だけで周辺国に強い影響を及ぼす有数の強者であるはず。

 公表戦力が全てとは思っていないが、それでもヴァルツの国軍にニーヴァルを超えるような強者が存在しているとも思えない。

 敵兵に"傭兵"が混ざっていることは話の中で理解していたが、『特殊付与の備わった|S《3》等級国宝武器』を持たせてなお不足と判断される、この地を目指す敵とはいったいなんなのか。

 長く亜人を排斥し続けたがゆえの弊害。

 人間の基準しか分からぬ王や側近には、この事態が未だぼやけた状態でしか見えておらず、恐怖よりも現状に対する疑問や困惑の方が先立っていた。


「辺境伯の抱える8万の兵と、高い城壁を備えた『ティエニク』が僅か1日で落ちた。自身に置き換え、どこまでやれるかを想像すれば自ずと戦力差は見えてくるもんさ」

「しかし、だな……」

「まったく、はなたれ小僧がずいぶんと聞き分けのない親父になったもんだねぇ……いいかいヘディン王。把握しているだけでも私より明らかに強いのが3人、それとは別に、まともにやりあってもどっちに転ぶか分からないような連中が、片手の数じゃ足らないくらいにはいる。どれほどこの戦に参加してんのかは知らないけど、そいつらが最悪は一斉に、多方面からこの王都を攻めてくるかもしれないんだ」

「だ、だが、『大黒樹の禍棘』は……あれは、呪具の類だ。それは先々代――我が祖父と宝物庫の中身を鑑定したそなたが一番分かっていることだろう? 自身に及ぼすであろう影響も」

「だから生い先短いこの老いぼれが適任なんだろう。それともじり貧になって、うちの若い連中にでも使わせるつもりかい」


 この言葉と、表情から滲み出る覚悟に、王はこれ以上視線を合わせることができなかった。

 ゆっくり片手で両の瞳を覆い、頭を垂れながら本音を漏らす。


「あの異世界人……、戦闘技能に秀でているであろう弟は、この窮地を救ってくれぬのか……?」


 この言葉は王だけではなく、王を囲う国の重鎮達も一番に気にするところ。

 だからこそ、固唾を飲んでその返答を待っていることが分かったニーヴァルは、敢えて王ではなく、周囲の者達に目を向けながら答えた。


「無理だね。あの異世界人は二月に一度、私との取引でこの地を訪れるだけ。もうこの国にもいやしない」

「つ、次はいつ―――」

「それにね。何かと利用することばかり考えるあんたらは、あの異世界人に助けてもらえるほどの何かをした記憶でもあるのかい」


 宰相の疑問を遮るように放ったこの言葉に、周囲の者達は口を噤み、視線だけを漂わせる。

 誰も口を開かないし、開けない。

 そんな記憶など、誰一人として持ってはいなかった。


「それも、そうだな。我は今も、そなたを生かすため、あの異世界人を盾にしようとしていた……このような国、助ける道理がないというのも当然のことか……」

「……」

「すまない……損な役回りばかりさせ、最後もそのツケを背負わすようなことに……本当に、すまない……」

「それが"ばあ"の役目ってもんさ。で、返答は?」

「許可する……この国を、守ってくれ……」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「右方で展開していた兵の始末も完了しました」

「よろしい、ハンターもこれで粗方殲滅は完了したかと思いますが……しかし、不思議な恰好をした者が多いですわね」

「こやつらが発掘を生業とする『遺物ハンター』という者達でしょう」

「ならば今後の参考に、持ち物だけでも押収しておきましょうか」

「ルエルお嬢様、遺物の保管場所を確認できましたので、どうぞこちらへ」


 水色の長い髪を靡かせた女性は、純白の衣装を身に纏い、死体と血肉だらけの路地を歩いていく。

 その姿は周囲の状況にまったく溶け込んでおらず、しかし動揺した素振りは一切見られない。


「相変わらず、殺し方が汚いですわね」

「も、申し訳ありません」

「場所はこの1ヵ所ですか?」

「そのようです。各所で拷問にかけても、この場所しか示しません」

「古い武具に古い硬貨、かつての宝飾に……まぁ、欠けてはいますが、やきものもありますわよ」

「ふむ……これは磁器ですかな。今までお集めになられていたモノとも少し質が違うようで」

「あとは何かの部品に、破損の目立つ魔道具の類。やはり、そう簡単に可動品が見つかるものではなさそうですわね」

「正常に動く魔道具自体が珍しく、さらに目を見張るような珍品であれば、十年に1点出土するかしないか。ラグリースで国宝認定されているはずの|A《4》等級以上ともなれば、発見までに数代は時が空くという話ですからな」

「ふふっ、夢があっていいではありませんか。宝物庫の中身は手を引く代わりに、これからは我がフェンシル家がこの地を管理するのですから。そうなれば手付かずのエイブラウム山脈にも着手しないといけませんわね。あぁ、もう今から心躍ります―――」

「ルエル嬢、お楽しみのところ申し訳ありません。コネット副司令が……」

「なんでしょう、コネット副司令。もしかして、また同じ質問ですか?」

「あ……いや、今回は、この町の町長を見つけまして。それで、どうしてもということでしたので、こちらに」

「……呆れました。それで、『敵』に頼まれたから、私の前にわざわざ連れてきたのですか?」


 殺気立つ、周囲の従者。

 軍人ではないがゆえに、その目は仲間に向けるようなものでもなく、そして多くが一派に属した上位傭兵であるため、『剣華』の二つ名を国から貰い受けたコネットに対しても物怖じすることは一切無かった。

 しかし、それでもここまで来たのであればと、覚悟を決める。

 今までのように、自らの進言だけでは一蹴されるのならば、立場ある当事者から懇願された方が結果も変わる可能性がある。

 一縷の望みに賭けたのは、捕虜として後ろ手を縛られた老人も、そして連れてきたコネットも変わらなかった。


「サバリナの町長を務めているメルディスと申す。貴女がこの町におるヴァルツ軍の纏め役と聞き、嘆願の機会を貰い受けた次第」

「……」

「何卒、お頼み申す。駐在軍は壊滅し、ハンター達も倒れた今、町民にこれ以上抵抗する気はない。せめて命だけは、見逃してくださらんか……?」

「無理ですわね」

「ぶ、武器を握る者はもうおらぬのじゃ。出ていけというのなら、この町も明け渡そう。だから皆の命だけは―――」

「無理と、言っております」

「――ッ、せ、せめて、女子供くらい」

「しつこいですわね。歳も、性別も関係なく、全員、確実に、殺しますわ」

「なぜそこまで……あんたに、人の心は無いんか……?」

「あら? 心外ですわね。ここにある骨董品一つで心打たれるほどには感情がありましてよ?」

「……人の命は、欠けた骨董以下ということか。はは……面白い話じゃ」

「"人の命"ではなく、"あなた方の命が"、ですわ。能力もなければ知恵もないのに、命の価値を自ら吊り上げ、口だけは大きく開く――典型的な"雑草"ですわね」

「な、なにを……言っておる……?」

「コネット副司令」

「な、なんでしょう……?」

「あなたは能力があるのに、知恵がなさ過ぎますわ」


 そう言いながら、ルエルと呼ばれた女の腕が僅かに動き――


「ぬごぉぉおおおおあああああああ!」


 次の瞬間、目の前で跪いていた町長の太ももに、細身の剣が深々と突き刺さる。


「コネット副司令、見てください。この老人の目は私を好いていると思いますか? それとも憎しみを抱いていると思いますか?」

「それは……後者かと、思いますが……」

「そうですよね? "雑草"にも家族はおり、住む場所があり、痛みを覚え、何かを奪われれば憎しみの感情だけは人一倍に抱きます。ならば生かすことに何の得がありますか?」

「と、得……?」

「私達に得――、生かすことで『実益』が生まれるのなら、コレット副司令の助言を聞き入れ、この町の人々を生かすとお約束しましょう。どうですか?」


 こう問われ、コネットの中で真っ先にでてきたのは『良心の呵責』だった。

 罪の意識を少しでも和らげること。

 普通であればそれが何よりの『得』であるはずだが、『氷血のルエル』と二つ名がつくほどの相手にそんな言葉が通じるとも思えない。

『実益』と釘を刺された時点で感情論の話ではなく、そうなれば『労働力』という点でしか町の者達を生かすことでの実益が見えず――

 捕虜の労働力とは即ち奴隷であるため、コネットは口にすることを躊躇ってしまう。

 そのことに気付いたのだろう。


「フェンシル家がこの一帯を統治するにあたり、労働力と引き換えに負の感情を抱く者達を無理に生かせば治世は乱れますし、この老人が望むように野へ放てば、今度は負の感情を撒き散らして余計な工作のきっかけを与えるだけ。こちらの得は一切なくなります」

「……」

「それでも替えの利かない能力を持つ者がいるならば真剣に奴隷化の検討をしますが、主張だけは一人前の"雑草"であれば、初めから負の感情を持ち合わせていない本国の者達をこちらに呼び寄せた方が合理的でしょう? 徴兵された多くの者達もそうですし、仕事を得たい者は山のようにいるのですから」

「そ、それは……」

「私は現実的な話をしているのですよ。それに長く長く、人を外見や種族などの理由で排斥し続け、それを疑問にも思わなかった国の民なのです。ならば今度は『無能』という理由で、自らが排除の対象になっても文句は言えないと思いますが」


 コレットは、目の前の老人が自分を見ていることに気付いていた。

 だからこそ、視線を向けることはできなかった。

 続く言葉が、掛ける言葉が、一つしか思い浮かばない。

 説得できる材料がなく、軍人として、こちらから攻めいっているにもかかわらず覚悟が足りなかったのではないかと。

 思わず自問自答してしまうほど思考は巡り――つい、問われた言葉から反射的に答えてしまう。


「もう、よろしいですか?」

「すまない……」


 どちらに謝罪したのか、分からない言葉。

 しかし、縋るような眼差しを向けていた老人の瞳からは光が完全に消え――


「き、貴様ら……絶対に忘れぬぞ……貴様らの血が尽きるまで、どこまでも呪い続けてやるわ……ッ!」


 血だらけの膝を震わせ、呪い殺すような眼差しで呪詛を吐く老人。

 しかし『氷血のルエル』には、その言葉と表情がひどく可笑しかったらしい。


「ふふっ、最後に笑わせないでください。"呪う"のも、高位の能力があって初めてできること。あなた方にそんな力はないでしょう? ねぇ、すぐに背伸びをしたがる"雑草"さん」
341話 Sランクハンター

 マルタ南東部にある広大な空き地。

 そこは人口増加用の住宅用地として、予め城壁内に長く確保されていた区画であり、しかし今はその広さから戦のための臨時拠点と化していた。

 きっかけは満身創痍で馬を走らせてきた一人の青年から、村が10名ほどの獣人によって壊滅させられたという、理解し難い話が持ち込まれたこと。

 そして確定的となったのは、特殊な方法を用いた伝達により王都から、


『10万のヴァルツ兵が亀裂の南部から、ラグリース国内に進軍してきている。中には個体戦力の高い傭兵が混ざっている恐れもある』


 このような報告が、日を置かずして届けられたことだった。

 そこからは事態が一変。

 北部リプサムからも、早馬を用いた王都からの指示によりなんとか援軍が間に合い、張られたテント内では普段接点を持つことのなかった者達が地図を睨みながら議論を交わす。


「東部から侵攻してきた部隊は5㎞ほど手前で一旦停止、大半の兵が南北へ回り込むように移動しております」

「南部に回った兵は、そのまま通過。ほぼ全てが西側に向かって動いていますね。町民の避難経路を遮断する目的でしょうか?」

「こちらの籠城を見越して攻囲しようという腹だろうが、北に回った軍がそのまま北上してリプサムを狙う可能性もありそうだな」

「そうなれば追い掛け回して尻から叩き斬るまでだ。機動力の高い騎馬隊は今のうちに北部へ集中させるべきだろう」


 主導して話すのは、領兵8000人と精鋭部隊である騎士500人を束ねる騎士長セイフォン。

 リプサムからの衛兵やハンターを含めた、武器を握れる志願兵約4000人を纏めている衛兵長アルバック。

 同じくマルタで衛兵と町民からの志願兵約15000人を纏めている衛兵長ソルゾイ。

 そしてマルタのハンター約1300人の代表として、また自身もAランクハンターの資格を持つギルドマスター、オランドのこの4名。

 しかし場を支配するのは、並んでその光景を眺める二人の男。

 腕を組み、地図を睨み付けながら仁王立ちしていたこの地の領主――レイモンド伯爵が口を開いた。


「兵の移動後、東部と南部には|何《・》|が《・》残っている?」

「は! 偵察隊によれば、東部には約50名ほどの、人間と獣人と思われる者達が少数残っている模様です!」

「南部に至っては2つの存在のみ確認されています。一つはローブを纏った小人のように小さな存在で、もう一つは異様なほど大きく、黄と黒の縞模様は果たして人に分類されるのか判断もつかないとのことでありました」


 この報告に場が騒めく中。

 真っ先にその『色』で反応したのは、オランドだった。


「黄と黒の縞模様……? 10年以上前の目撃情報も、たしか異様な巨体で、黄と黒の縞模様だったはずだが?」


 この言葉に眼を細めながら反応したのは、レイモンド伯爵の横に立つ、重厚な鎧を纏った一人の男。


「その特徴的な模様と巨体はファニーファニーでまず間違いない。かつてデボアの深部で50名近いハンターを惨殺したのもそやつであろう」

「ノディアス、一応確認しておく。おまえで勝てるか?」

「横にいる小人――エヴィンゲララだけであればまだ可能性もありましょうが、ファニーファニーはさすがに……私だけでなく、パーティ『白金の猟団』として挑んでも、同時に相手取るとなれば間違いなく無理でしょうな」

「あ、あの、Sランクハンターでも、無理な相手なのですか……?」


 ここで思わず疑問を口にしたのは、衛兵長のソルゾイだった。

 領主との会話に口を挟む無礼も忘れ、それでも口を衝いてしまったのは襲い来る絶望感から。

 新たな魔物の出現報告により、衛兵程度では捕縛も叶わぬ強者がマルタには多く訪れていた。

 そんなハンター達の中でも頂点であり、マルタで唯一のSランクハンターと噂されていたこの男が間違いなく無理という時点で、それはもう太刀打ちできる者がいないということ。

 その気配を感じとったのか、Sランクハンターのノディアスは苦笑いを浮かべ、皆へ聞かせるように本音を漏らす。


「一口にSランクハンターと言っても、程度の差はかなりあるのだ。私くらいの"駆け出し"が、最上位層の傭兵とやり合うのはまったく現実的ではない。なので――」

「……」

「かつてはSランクハンターとして、『撃腕』の二つ名を轟かせたレイモンド伯爵に南はお任せしたく存じます。私とて、生まれ故郷が踏み躙られる様を傍観するつもりはありませんから、戦争参加の意思を示すAランクハンター達と共に、東の傭兵と思われる集団を可能な限り押さえましょう」

「ふん、旧知の仲なのだ。そのような堅苦しい言葉を使う必要などない。それに俺はこれより貴族ではなく、ハンターに戻る必要がありそうだしな」

「ふふっ、懐かしいですね。となるとモーガス殿も?」

「当たり前だ。この状況で執事なんぞやらせてたまるか。|害《・》|獣《・》の相手は俺がする。モーガス、おまえは小人の相手をしろ」

「御意」

「それとノディアス。いくら籠城戦とは言え戦力差は明白、街の防衛参加に意欲のある者はオランドと共に北と西門にも可能な限り配置してくれ。おまえが参加することで動く者も出てくるだろう」

「もちろんです。今なおこの街に留まっているのは、街と町民を守ろうとする者達ですから、余すことなく割り振りましょう」


 返答に頷きながらも、レイモンド伯爵は冷静に考える。

 兵数は3倍以上の開きがあり、個体戦力という意味でも上位傭兵と思しき数を想定すれば明らかに分が悪い。

 加えて偵察からの情報では補給路が最低限しか動いておらず、敵軍が周囲の町や村から物資を強奪していることは明らかだった。

 籠城による長期戦は不利なだけでなく、周囲のさらなる被害拡大にも繋がる。

 短期戦を求められるが故に、この状況で欲するのは突出した戦力であるが――


(ここにファニーファニーが来ている時点で、王都にはそれ以上の戦力が向けられていると考えるのが自然。となればニーヴァルはもとより、王都からの増援もまず無しと考えるべきか……)


 ふと、国に属さぬ不確定戦力が頭を過るのもしょうがないこと。

 あの自覚無き正義を抱えた異世界人は、いったい今どこで何をやっているのか。

 つい食事を共にした少年の顔を思い浮かべながら、レイモンド伯爵は家宝でもある一つの武器を強く握った。
342話 前夜

 本来は住民の避難が完了し、静けさに包まれていなければおかしい王都ファルメンタ。

 その第一と第二区画を遮る城壁の上で、ヘディン王とニーヴァルはどこまでも長く延びる大通りと、その通りを埋め尽くすほどの人波を眺めていた。

 一人は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、もう一人は諦観した様子でその群衆と、横にいる老婆へ視線を這わせる。


「私は"西門から逃がせ"と言ったはずだけどね」

「多くを逃した結果がこれだ。居場所を失うくらいなら、この地で武器を握ったまま死にたい者しかもう残っておらん」

「はぁ……それでこの数かい」


 ニーヴァルとて、少なからずは分かっていたこと。

 食うに困らず、亜人を排斥し続けたがゆえに奴隷制度も限定的で、手にしっかりとした職を持つ者達が多いのだ。

 行く先もないのに全てを捨てて逃げろと言われても、そう簡単に納得できるものではないと思っていた。

 しかし、そうだとしても、想定以上に数が多い。


「子供と若い世代は命じてでも逃がしておる。ここにいるのは、そんな未来ある者達の居場所を守ろうとする老兵達だ」

「……それでも、気が散るんだよ。私に同士討ちさせる気かい」

「ふん、詭弁だな。それは敵国とて同じこと。そなたと同等、もしくはそれ以上の強者ならば、味方兵が入り乱れるような状況下で戦うことはない――違うか?」

「……」

「一人でも多くの民を生かそうとするその考えを否定する気はない。が、ここに残って武器を握る者達の気持ちはニーヴァル、そなたと変わらんのだ。命を懸けてでも先を掴もうとするその気概を無下にすることは王として許さん」

「こんな時だけ王の立場になるんじゃないよ、まったく……」


 いったい誰から入れ知恵されたのか。

 思わず後方へ振り返れば、そこに並ぶは眼の下に深い隈を作り、今にも死にそうな顔をした国の重鎮達。

 この者達が多くの歴史書や戦術書の類を確認しに来ていると、アルトリコから報告を受けていただけに、ニーヴァルは思わず舌打ちが洩れそうになる。


「はぁ――……ここにいる老兵達は、西側に最低限の数を残して北と南門に配置しな。特に北はオルグのクソジジイが受け持つって話だから、老兵なら北の方が動きやすいだろう。言う通り、特に強大な範囲攻撃手段を持つ者は同士討ちを避けるために孤立した戦場を選ぶ。となればそいつらは東に残り、軍兵は南北のどちらかに逸れるか、もしくは二手に分かれてどちらも狙う可能性が高い」

「ふむ……兵はそのまま東門から攻め、身動きの取りやすい傭兵が南北に動くということはないのか?」

「可能性は低いね。攻めてくるなら、王都が広範囲の防御結界を張っていることくらいヴァルツ側も把握してるだろうさ。それならとっとと突き破れるような、個体戦力の抜きん出たやつらに結界を破壊させちまった方が攻め手の効率は遥かに良い」

「なるほどな」

「それにこちらの援軍を意識しないなら、西に戦力を寄せる必要もない」

「既にバルダモ砦が押さえられているということか?」

「その可能性もあるけどね。もっと根本的な問題――仮に来たところで大した脅威にもならないのさ」

「?」

「もしジュロイ王国がどこかから攻められたとして、私やラディットを援軍なんかに送り込まないだろう?」

「それはないな、絶対に」

「うちと同じでジュロイもトルメリアも、援軍ならば華級程度の戦将を差し向けてくるくらいが関の山だろう。それなら傭兵でなくとも、南北の兵で十分対処できると、私ならそう考える」

「承知した。言う通り南北に分け、著しく戦況が変わらない限り、東にだけは絶対近づくなと厳命しておこう」

「ただね、南北に展開しているヴァルツの別部隊がどう動くかは、私にだって分からないよ」

「斥候を送っても情報がまったく拾えない北部は、そのまま西に進むかどうか。南部の侵攻軍は……リプサムの兵も向かわせたマルタが持ち堪えるかどうかだろうな」

「そいつらが王都まで侵攻すれば、間違いなく北も南も地獄絵図になる。マルタも予定通り明日始まりそうなんだろう?」

「うむ。何かしらの方法を使って動きを合わせているとしか思えないな」

「ならあとはこっちもやるべきことをやるだけ。こうなっちまった以上は、相応の覚悟をしておくんだね」


 東からの侵攻軍が王都に辿り着くのは明日。

 だからこそ王が残った民に語り掛ける中、ニーヴァルは一人城壁を降り、目的の場所へと向かう。


「待たせたね、イリア」

「こちらこそ無理を言ってごめんなさい。どうしてもこの子達が最後に会いたいって」


 二番区画の大通りから、少し中に入った一つの広場。

 そこで待っていたのは、本の製造に関わる3人だった。

 それぞれが伝えたい言葉、伝えるべき言葉を抱えていたはずなのに、いざ当人を前にすれば誰も言葉が出てこない。

 そんな姿を見て、ニーヴァルは大きく見上げながら笑った。


「アルトリコ、暫くは窮屈な生活を強いられるだろうけどね。大丈夫さ、必ず新しい居場所は見つかる」

「おばあ様……私だって、いえ、私だからこそ戦えるはずなのです。なのにこんな、逃げるようなことを……」

「リコ、おまえは軍人じゃないんだ。わざわざこっちに足を突っ込む必要なんてないよ」

「……」

「やっと見つけられた『好き』を大事にしな。必ずその『知識』が役に立ち、望まれる時が来る。それまでの辛抱だからね」


 そして視線は、その横で俯く青みがかった少女、ケイラへ。


「ケイラもだよ。本当はもっと時間を掛けてあげたかったんだけど、すまないね」

「私はまだ、何も見つけられていません。それにここしか、居場所もありません……」

「知ってるかい。ケイラのご先祖様は、『海』って場所のどこかで今も生きているんだ」

「ほんと……?」

「本当さ。だから嫌なことがあっても、挫けそうになっても、決して目を瞑って立ち止まるんじゃないよ」

「……」

「ケイラだけは特別に、ご先祖様には無い2本の足がしっかり付いてるんだ。前を見て、その足を動かし続ければ必ずやりたいことも、居場所だって見つけられる。必ずだ」


 そして最後に、ひ孫であるエニーへ。

 しかし、今までの話を聞いて確信したのだろう。

 我慢できなかったのか、目には涙を溜めながら、思いのたけを吐き出すように叫ぶ。


「うぅ……お母さんも、リコさんも、みんな嘘ばっかり! この街はきっと大丈夫だって! 大ばあちゃんがやっつけてくれるって! 少し避難するだけって、そう言ってたのに……なんか全然違うじゃん!」

「エニー! ばあ様に失礼なこと言わないの!」

「ヒヒッ、いいんだよ。昔のイリアとそっくりじゃないか」

「ねぇ、この国は盗られちゃうの? 大ばあちゃん、死んじゃうの?」


 あまりにも直球過ぎるこの質問に思わず苦笑いを浮かべ、やっぱり自分のひ孫だなと感じながらもニーヴァルは答える。


「駄目かどうかはまだ分からないし、私だってそう簡単に死ぬつもりはないよ」

「……なら私も戦う。ダメじゃないなら私だって戦うから」

「バカ言ってんじゃない、子供を戦場なんかに出してたまるかい。それにエニーがいなくなったら、アルトリコとケイラは誰が守る?」

「でも……」

「エニーには間違いなく才能がある。良い師を見つけ、勉強と鍛錬を怠らなければ私を超えられる可能性だってあるんだ。こんなところでその若い命を散らす必要はないんだよ。それにね――」


 一度言葉を切り、目の前の3人に一度視線を向けてから言葉を続ける。


「エニーだけじゃない。アルトリコも、ケイラも、異世界人――ロキ坊と面識があるっていうのは、間違いなくこれから生きていく上での強みになる。もしどこかで会うことがあったら、その時は遠慮なく頼っちまいな。きっとロキ坊なら無下にはしないはずさ」


 そう言い終えたら、ニーヴァルは横にいた孫娘イリアへ呟く。


「それじゃイリア、あとは頼んだよ」

「分かっています。二人にとってはあまりにも危険過ぎますから、暫くは国内で身を隠す予定です」

「あぁ、国の連中には言えないけどね。|も《・》|し《・》|か《・》|し《・》|た《・》|ら《・》があるし、それがこの国の生き残る可能性としては一番高い。ジュロイを抜けるかどうかはその結果を確認してからにしな」


 王にも伝えなかった5番目の可能性。

 まずはこの事態に気付くかどうか。

 そして気付いた時に、手を貸すかどうか。

 ロキ坊がこの国を助ける義理はない、これは間違いないこと。

 しかし南から――マルタの監査員ニローを通してこの王都へやってきたはずなのだ。

 ならばこの国を救う義理はなくても、もしかしたら町に、村に、人に何かしらの恩義や怒りを感じて動く可能性もなくはない。

 言えば過度に期待し、何も無ければ怨嗟の的にされてしまうのだから、言えるはずもないことだが……


(南部だけでも解決すれば、向かってくる傭兵次第で可能性も見えてくるんだけどね……)


 そんなことを考えながら、ニーヴァルは西へ向かう馬車と、中から顔を出す者達が見えなくなるまで眺め続けた。
343話 開戦

 放たれた矢や魔法で、人が惨たらしく死んでいく様に目を閉じ。

 死を抗うように響き渡る断末魔の叫びを、自らの叫声でもって掻き消し。

 舞う煙と共に城壁の上まで運ばれてくる、焼けた血肉の臭いに吐き気を催す。


 大半の者達にとっては初めてとなる戦場。

 死が身近にあるハンターや、凄惨な現場も相応に経験している兵士ならまだしも、多くの町民にとっては耐え難い感覚に襲われ続けていることは間違いなく。

 それでも自分達の居場所を守るために、城壁の上から必死に抵抗を続ける。


「どこを狙おうが必ず当たるぞ! とにかく撃て撃てーッ!」 

「ありったけの油を撒け! 焼いた木材でも構わんから投げ入れろ!」

「門が敵の死体で塞げそうよ!」

「同じところに立ち続けるな! 下から的にされるぞ!」


 マルタの西門と北門の前にはそれぞれ5万のヴァルツ兵が群がり、その戦線は結果として一つに繋がるほど長く横へ横へと延びていた。

 高さ10メートルを超える城壁に、鈎爪の付いた縄を投げ入れる者、壁に梯子を掛ける者、城壁そのものの破壊を試みる者。

 様々な方法が取られ、そして懸命に抗う中で、少しずつ防壁に『穴』が開いてゆく。


「ま、まただ! またあっちで越えられたぞ!」

「北! ロズリン通りの近くだ! ハンターは増援を!」


 突破してくるのは、やはり傭兵。

 積み上がった死体を踏み台に城壁を駆け上がり、そのまま街の中へと素早く踏み込んでいく。

 対処に追われるのは、侵入に備えて城壁の内側で待機していた近接組のハンター達だ。

 |罠《・》|だ《・》|と《・》|分《・》|か《・》|っ《・》|て《・》|い《・》|て《・》|も《・》、街の中へ踏み込まれれば追わないわけにはいかない。

 町民の避難を進めていたとは言え、残る者もいれば、間に合わなかった者達もいる。

 それに突如として巻き起こったこの戦争の原因はいったいなんなのか。

 その理由に長く亜人を排斥し続けた、その恨みによるモノだと予想する者達も多くいた。

 国交が開かれ、亜人が少なからず国内に入ってきたものの、慣れない存在に強く敬遠する者達を多く見かけていたため、内心そう思われてもしょうがないのかと。

 少なからず納得してしまうからこそ、自らが思い描くその"恨み"は恐怖へと変わっていく。

 野放しにすれば何をされるか分からない。

 ならば地の利を活かして侵入者は追跡し、被害が出る前に駆逐するしかない。


 徐々に徐々に、元から多くはなかった戦力が分散していくマルタ内部。

 その光景が見えているのか。

 まるで透かすようにジッと城壁を睨みながら、南部侵攻軍の司令官を務める『槍覚のアトナー』は、部隊の後方で備える兵に合図を送った。




 一方、街の南部は風に乗って西側からの喧騒が聞こえてくるのみ。

 城壁の上には数名の見張りがいる程度で、攻城戦の様子はまるで見られなかった。

 理由は南側にいた二つの存在が、不思議とその場を動かなかったためだ。


「さすが姉さん。予想通りなんか来ましたよ」

「でしょ? 一番強いアタシが目立つ場所で待ってれば、強そうなヤツがこうして来てくれんのよ」

「そのせいでアトナーの親分、凄い怒ってましたけどね」

「構いやしないよ。アタシが街の外まで引きつけてんだから、これで他は攻めやすくなるってもんでしょ」


 呑気に話す二人の先には、城壁から飛び降りこちらに向かう二人の男。

 黒い巨体は拳を摩り、もう一人は両手にそれぞれ剣を携えている。

 その姿がはっきりしてくるにつれて――。

 ファニーファニーは堪らない表情を浮かべながら舌舐めずりをし、エヴィンゲララはソッと、ファニーファニーの後方へ隠れるように移動する。


「姉さん。あれって良く見なくても、『撃腕のジルガ』じゃありません?」

「だねェ。私の次の次くらいに見た目が派手なヤツ、見間違えるわけもない。ふふっ、なんでこんな所にいんのか知らないけど、なんだい火仙の魔女くらいに大物じゃんか」

「いやいや、笑いごとじゃないですって。あの見た目は苦手なんで、姉さん相手してくださいよ。自分は横の爺さんと遊びますから」

「当然、ジルガは私が殺るけど――、エヴィゲラ」

「はい?」

「横のジジイも、たぶん、結構やるよ」

「ってことは、あの爺さんが話に出ていた貴族ってことですか?」

「さぁね、新種のボス目当てでこの街に来てるSランクハンターがそれなりにいるのかもしれないし、そんなもん、本人に聞くのが一番早いでしょ」


 お互いがお互いを見据え、真っ直ぐに相手のもとへと歩みを進める。        

 そしてこれ以上踏み込めば開始される――そんなギリギリの間合いで、自然とお互いの足は止まった。


「久しぶりだねェ、ジルガ。上級ダンジョン以来じゃんか」

「ふん、またお前らのツラを拝むことになるとはな。派閥外の共闘を嫌うお前ら上位ランカーが仲良く参戦とは、ずいぶんヴァルツの傭兵も仲良くなったもんだ」

「ギギッ、今回は特別。ですよね、姉さん」

「そっ、ジルガ、あんたの首も間違いなく特別報奨に該当するだろうから、ここに来てくれて感謝するよ」

「特別報奨だと? そこまで金に困るとは、お前らも落ちたものだな」

「金で困るわけないじゃないですか。相変わらず脳みそまで筋肉のゴリラ野郎ですね」

「ふふっ、何をしても許されるアタシ専用の庭。そんなものが貰えるなら最高じゃない?」

「……」


 戦争の理由を傭兵に聞いたところで分かりはしないだろう。

 だが案の定、今の返答から他派閥の上位ランカーがこの戦争に参加していること。

 それに恐らく金だけではないと思っていた上位ランカーの餌が、どこかの土地――、いや。

 ヴァルツにとっては相当に諸刃の剣だが、もしかすれば獣人専用の自治区が貢献次第で与えられる可能性までレイモンド伯爵は考える。

 それくらいに勝利後の戦果を大きく明け渡すような手札を切らなければ、多数の上位ランカーを戦争に参加させるなど現実的ではなかった。

 そこまでして、ヴァルツはなぜ戦争を仕掛けたのか。


「で、ジルガ。なんでアンタがこんなとこにいんの?」

「あ? ここは俺の領地なんだから、いるのは当たり前だろうが」

「はあ? アンタの? 横にいるジジイがレイモンドとかいう伯爵様なんじゃなくて?」

「ジルガ・オフィスト・レイモンド。それが俺の名だ」

「う、うふふっ、アンタが貴族? その顔と図体で? うふっ、ふふふっ……笑わせんじゃないよ!!」

「姉さん、ジルガに先越されてるじゃないですか!」

「ムカつくねェ……よーし、決めた。アイツをぶっ殺して、アタシがこの土地を貰う」

「お前らみたいな、己の欲を満たすことしか考えていないような獣がこの地を? 身の程を弁えろ、害獣共が」

「うふふっ、だからおまえは負けるのさ。その程度の|濃《・》|さ《・》でアタシに勝てると思うんじゃないよ」

「ハッ、色々と想定はしていたが、お前がバカで本当に助かった。血が濃過ぎて脳みそまで筋肉だったことに感謝するぜ」

「うふっ……ふふっ……ぶっ殺す!」

「死ぬのはてめぇだよ虎女ッ!」


パンッ!!


 お互いの、巨大な拳と拳がぶつかり合う。

 殺気を剥き出しにした獣同士の争い――その横で。


「では、近くにいたら巻き込まれますから、少し離れたところで私達も始めましょうか」

「あっ、今、俺の目が豆粒よりも小さいって思いましたよね? あーあ、絶対その目、潰しますから」


 静かに、もう一組の戦闘も開始された。
344話 未練を断ち切り

 王都ファルメンタの東では、高く聳える城壁の縁に腰掛け、遠くを見据えるように目を細める老婆が一人。

 その視線の遥か先には予想通り、南北へと二手に分かれていく兵軍と、その手前で兵を守るように真っ直ぐ王都へ向かってくる何者かの姿があった。

 誰が来るのかまでは分からない。

 上手くいけば、呪具を使わずに済む可能性も僅かながらに残してはいたが……


 最初は、その数が二人だけであったことに安堵した。

 しかし、次第に鮮明になっていくその姿から、敵の一人が誰なのかをはっきりと認識した老婆は一度大きく天を仰ぎ――禍々しい首飾りを首に通してから城壁を飛び降りる。


「一番可能性が高いのはルエルかと思っていたけど、バリー、あんただったのかい」

「久しぶりだね、ニーヴァル嬢」

「老いぼれに向かってどんな嫌味だよ、まったく」


 正面に立つ男は、ここが戦場とは思えぬ優雅な所作で、胸に手を当て一礼する。


「残念ながらルエル嬢は北部の担当でね。でもジオールじゃなくて安心したでしょ?」

「私からすれば、あんたも1位のジオールも大して変わりゃしないよ。横にいるデカい獣人は?」

「ヴァルツ傭兵ランク5位、名はモゥグだ。ここに『槌覚』がいると踏んでいたが、当ては外れたか?」


 ニーヴァルへ逆に問い返したのは、全身が筋肉の塊にしか見えない、黒く巨大な牛頭の獣人。

 その体格に見合った双斧を握り、大きな黒い瞳は周囲や城壁に視線を這わせていた。


「東だけ守ればいいってもんじゃないんだ。ラディットは他所を任せている」

「そうか。ならば貴様の首を飛ばしてから向かうとしよう」

「そうかい……ちなみに、ひとつだけ確認しておきたいことがある。バリー、これだけは答えな」

「ん? なにかな?」

「ヴァルツはいったい何に焦っている?」


 当初から気になっていた違和感。

 それを知っているであろう人物に尋ねるニーヴァル。

 対してバリー・オーグは肩を竦める。


「……僕は傭兵、軍部の人間じゃないんだけどね」

「軍の所属ではなく、それでいて知っていそうだからアンタに聞いてんだよ。4位のルエルが目立つ敵もいない北部に配置されている時点で、南部だってジオールか、ファニーファニーか……最上位クラスの傭兵が動いてんだろう? いくらなんでも戦力が過剰過ぎるんだよ」

「……」

「あんたらの前にどれほどの餌がぶら下がってんのか知らないけどね。国益を考えれば明らかにヴァルツは損なことをしてるんだ。『特別な事情』があるって考えるのは普通のことだろう?」

「聡明なニーヴァル嬢にしては珍しい疑問だね。|ま《・》|だ《・》|声《・》|が《・》|掛《・》|か《・》|っ《・》|て《・》|い《・》|な《・》|い《・》と見える」

「なんだって?」


 答えになっていない回答に、困惑するニーヴァル。

 そんな姿を楽しそうに眺めながら、バリー・オーグは指を1本立てた。


「ふふっ、今ラグリースが窮地に追いやられている一番の理由は何かな?」

「……」

「他にも色々な要因が重なっているとは聞くけど、その問題が解消されてしまえば機会は失われる。だから貧困化が進むヴァルツは結果を急いだんだ。僕達上位ランカーに対して、戦勝後に得られるであろう様々な資産を報酬に割り当ててでもね」

「……抱えているのは戦力差……アンタら傭兵の、差……ああ、国交を開き、亜人を受け入れたことが、この戦争の原因だったってわけかい……」

「正解。もし『傭兵ギルド』がこの国にもできちゃったら、国力で劣るヴァルツはもう滅多なことでラグリースに勝機を見出せないでしょ?」


 答えに辿り着き、だからこそニーヴァルは杖を強く握ったまま顔を歪める。

 東との国交を開くこと――差別を解消することこそが、平和への道だと思っていた。

 しかし実際は正反対であり……

 自分の思い違いでロキを動かし、その結果ヴァルツが危機感を覚えたために、この戦争は起きたということになる。

 あくまで機を早めただけであり、後のないヴァルツが兼ねてよりラグリースの地を狙っていたことに変わりはない。

 その点は理解しつつも、聡明であり、そして平穏を好むが故に、動かなければ未来は戦争にまで発展しなかった可能性。

 また戦争になったとしても、ここまで過剰な戦力は投入されず、多くの民が苦しまずに済んだ可能性まで考えてしまう。

 そんな老婆の苦悩に満ちた表情に満足したのか――。


「言うべきか悩んだけど、最後に君のそんな顔が見られたのだから、情報提供の報酬としては十分だね」

「ふん、相変わらず趣味が悪いな。根本の原因は別だろうに」


 モゥグの忠告には反応も示さず、口元に手を当て、零れ出る嗜虐的の笑みを必死に隠そうとするバリー・オーグ。


 ドン――。


 しかし、ニーヴァルが|自《・》|ら《・》|の《・》|胸《・》|元《・》|を《・》|強《・》|く《・》|叩《・》|く《・》という、不可解な行動を取ったことで、場の空気は大きく変わる。


「ふぅ――……覚悟はしていたつもりだったんだけどね」


 軍部の人間であり、その最高戦力として。

 国が危機に瀕しているからこそ、命を投げ打ってでも抵抗し、多くを守る覚悟は持っていたはずだった。

 最善のために、意味と結果を知りながら国宝を求めたのもそういうこと。

 しかしニーヴァルとて所詮は人だ。

 どうしてもと頼まれ、最後に孫娘達と会ってしまったがために、ほんの僅かながら芽生えたこの世への未練は心の隅に残り続けていた。

 可能ならば、もう少しその成長を見守ってやりたかった。持ち得る知識をもっと伝えてやりたかった。

 だから最後の最後。

 呪具との結合だけは残していたが――

 強く押したことによって棘が体内へ食い込み、胸元からは血が滲み始める。


「自分で蒔いた種だってんなら、覚悟を決める上で、これ以上のことはない」


 武芸に秀でた者だからこそすぐに分かる、死を覚悟した者の眼差し。


「これがラグリースの最高戦力か。想像以上、火耐性特化にしておいて正解だったな」

「……」


 老婆の身体からは青紫の魔力が迸り、その中でゆっくりと差し出される萎びた手を、二人は臨戦態勢に入りながらも静かに見つめていた。



「かかってきな。二人まとめて相手してやるよ」
345話 四面楚歌

(良かった、本当に……)

 いつもとは雰囲気が異なり、慌ただしく通りを駆けていく者が目立つベザートの町。

 そんな姿に安堵の息を漏らしながらハンターギルドへ向かえば、ロビーは沈んだ顔をした男達で席が埋まっており、その中には見慣れぬ者も多く混ざっていた。


「ん? ロキか、このような戦時にわざわざ来るとはな」

「その話を他所で聞いたから駆け付けたんですよ。でもここが戦場になっていないようで安心しました」


 そんな人たちの中心に立つヤーゴフさんへ今の気持ちを伝えれば、広げた地図を囲う青年の一人が怒りを露わにする。


「安心だと!? 『キプロ』の町は壊滅してるんだぞ! 周辺の村や町もだ! そのことを分かって言ってるのか!?」

「止めろ、オストン。この子供は少々特殊なのだ。普通の方法でベザートまで来てはいない」

「で、でも……ッ!」


 なぜ青年は憤慨したのか。

 その疑問よりも先立ったのは、『キプロ』の町が壊滅したという話。

 キプロはたしか、ベザートの北東に位置する、Fランク狩場を一つか二つ抱える程度の小さな町だったはずだ。

 なぜ、そんなところが?

 しかも、壊滅?


「えっと……何が起きてるんです?」


 疑問をそのまま口にすれば、ヤーゴフさんが軽く頷きながら答えてくれる。


「ヴァルツが戦争を起こした――そのぐらいの情報をどこかから掴んでこの町に来たのだろう?」

「えぇ、その通りです」

「となれば、半分正解と言ったところだな。現実はヴァルツ軍による蹂躙の真っ只中。中央はどうなっているのか分からないが、突如の開戦で迎え撃つ準備もなく、南部から侵攻してきた軍の通った道は全てが奪われている」

「全て……」


 中央と南部という言い方に違和感を覚えるも、その答えにはすぐ辿り着く。

 中央は俺が正規の方法で国を渡った時に通った亀裂を跨ぐ橋――『ルーベリアム境界』を通過するルートのことだろう。

 だが、渡れるような橋は他に無かったはず。

 そう思っていたが、壊滅したという『キプロ』の位置を理解したことで、もう1ヵ所の通り道も自ずと見えてくる。


「亀裂の南側、あの僅かな隙間からヴァルツ軍が入ってきているんですか……」

「そうとしか考えられん。ヴァルツ王国の地図はコチラにもあるが、ラグリース側はもちろん、ヴァルツ側にも亀裂南部の隙間に続く街道は存在せず、歩けば丸1日は掛かるであろう場所に小さな町が一つあるだけ。それで間違いないな?」

「そうですね」

「そんな道無き経路を強引に使っているからか、10万規模の兵軍を維持するためにマルタへ続く街道近くの町や村は、容赦なく食い物や家畜が奪われ、守ろうとする町民の命も奪われているのが現状だ」

「そんな|真《・》|っ《・》|当《・》|な《・》|理《・》|由《・》じゃないですよ。あのバカでかい縞模様の獣人は、守るどころか逃げ惑うみんなを追い掛け回して、俺の父ちゃんや弟を弄ぶように殺したんだ……」


 だからか。

 ベザートの状況を見て安心と言った俺に激怒したのは、オストンと呼ばれる青年が蹂躙されたキプロから逃げ延びてこの町にいるから。

 それなら、俺の不用意な発言に気分を害するのも理解できる。

 そう思っていたが。


「話を聞いていて確信した。おまえが、このクソみてぇな『地図』を作ったんだろ……? だからヴァルツはあんな辺鄙な隙間から縫うように攻めてきて、それで、俺達の町は……ッ! お前のせいじゃねーか! どうしてくれんだよ!!」


 この言葉に肩がビクつき、返す言葉を見失う。


「オストン、いい加減にしろ。元から南部の隙間は石垣が設けられ、両国が通過してくることを念頭に兵を配置し、警備していた場所だ。『地図』が利用されているであろうことは否定しないが、『地図』ができたから新たに発見されたような場所でもない」

「ッ……」

「それにクソと罵った『地図』があったからこそ、お前も他の者達も、ベザートまで辿り着くことができたんじゃないのか?」

「それは、そうですが……」


 ヤーゴフさんがフォローしてくれるも、それでもやはり、事実は事実としてあるのだろう。

 俺が作った『地図』が利用され、抵抗も何もなく蹂躙されている。

 ならば、俺にできることは――。


「今、侵攻しているヴァルツ軍は、どこに?」

「……たぶんマルタだ。2日前にマルタの兵が、食料を求めてヴァルツ兵が南下してくるかもしれないから『町を捨てて逃げろ』と、そう伝えにきた」

「じ、じゃあ、なぜ皆ここにいるんです!? 早く逃げましょうよ!」

「そうしたいのは山々だがな……逃げ場がない。だから町の周囲に見張りを置き、大きな動きがあるまではここに留まるしかないのだ」

「え?」

「北のマルタは当然として、この状況で東に向かう阿呆もいない。となると西しかないが――オグニ、もう一度話してやれ」


 そう言われて反応を示したのは、ボロボロの衣類を身に纏った一人の青年。


「は、はい。私は西の『テルバード』からこの町に|逃《・》|げ《・》|て《・》きました」

「逃げるって、何から……?」


『テルバード』はかつて一泊したこともある、ラグリースの中で最も南西にある小さな町だったはず。

 いくらなんでも、この段階でヴァルツ軍に襲われるような場所ではないはずだが。


「見たこともない規模の|賊《・》でした。私は馬を扱えたので、なんとか隣町の『ビークス』まで逃げられましたが、次はその『ピークス』まで襲われる始末で」

「それで、ここまで逃げてきたわけですか」

「そうです。なので西もどこまで安全なのかは分かりません。少なくとも私は、何よりも優先して人を殺していくあの者達が恐ろしくて、今から西に戻りたいとは思わない……」


 震えながら頭を抱える青年を見て真っ先に思ったのは、こんなタイミングでそんなことが起きるのか? という素朴な疑問。

 俺自身が傭兵として、野盗連中の討伐を日常的に行なっているのだ。

 町を潰すほどの規模など、それこそ『ギニエ』のようなかなりのレアケースだろうし、そんな数がどこから湧いたという話にもなる。

 それに脅して物を奪うではなく、優先して人を殺すというのもどこかおかしい。

 視線をヤーゴフさんに向ければ、同じように何か思うことがあるのか。

 腕を組んで難しい顔をしているが、今はその答え合わせをしている余裕もない。


「町の周囲に見張りを置くというのは、北の街道だけでは不十分だから、ということですよね?」

「そうなるな。西も東も平坦な草原や穀倉地帯が長く続いているのだ。ヴァルツの増援が東からそのままベザートに侵攻し、物資を強奪して北上することも考えられるし、西から|漁《・》|夫《・》|の《・》|利《・》|を《・》|狙《・》|う《・》|連《・》|中《・》がどこまで侵攻してくるかも分からない」

「……」


 仮に北の街道だけということなら、俺一人でもなんとかなるかもしれない。

 だが北、東、西と3方向から攻められる危険性を孕んでいる状態となると、俺がベザートに残り続けることでしか対処が難しく、しかしそれが可能なほど余裕のある状況でもないだろう。


(マルタも、それにばあさんだってどうなっているか分からないんだ……)


 地図が原因の一端を担っているというのなら、それは俺自身で解決しなければいけないこと。

 となると、残す逃げ道は南――パルメラ大森林くらいしかなくなってくる。

 先の見えぬ大迷宮のような森となれば、仮に中へ逃げたことを悟られたとしても、大部隊が内部まで侵入してくるとは思えない。

 それに、俺は狩場の特性を。

 パルメラで魔物を沸かせない方法を把握している。

 となると、あとは環境を整える時間だけ。

 蹂躙されている真っ只中となれば、ここに多くの時間を費やせない。

 自分がこの状況でできることとできないこと、そして何を優先すべきなのか。

 暫し、考えを巡らせ――


 ――【神通】――


(みんな、ごめん。下界への干渉に引っかからない程度で、協力してほしい)


 どうしても守りたい場所だからこそ。

 俺は女神様達に、避難作業の一部を手伝ってもらえるようお願いした。
346話 避難所

(戦争が起きていることは把握しましたが、あとで必ず、何が起きているのか説明してください)

(もちろん。ほんとありがとね)


 アリシアに言われた言葉を当然とばかりに返答し、すぐさま準備に取り掛かる。


「ヤーゴフさん、町の人達にすぐ荷作りをさせてください」

「なに?」

「逃げ場がないなら南に作りますから、落ち着くまでそちらに避難しましょう」

「南……それはつまり、パルメラの中に、ということか……?」


 この言葉にヤーゴフさんは困惑し、周囲にも動揺が走る。

 魔物の生息域に行けと言っているのだから、この反応は想定していたこと。

 それでも、冷静に考えれば分かってくれるはず――そう思って説明を続ける。


「その通りです。非常時のこの状況であれば、怯えながらこの町に残るより、森の中に入ってしまった方がかえって安全でしょうから」

「な、何を言っているんだ!? 森の内部は魔物の巣だし、深く入れば出てくることさえ困難になるんじゃないのか!?」


 騒ぎ立てるのは、先ほど怒り散らしていたオストンという青年。

 この言葉に周囲も同調するが、俺が説明するのはあくまでヤーゴフさんだ。

 この人が納得すれば、ベザートの人達は多くが動くし、きっと動かせるはず。


「まず大前提として、僕がこの町に張り付くことはできません。『地図』を作った者の責任として、マルタや王都にもこれから向かいますので」

「ふむ……」

「なので自衛をするか、難しいなら隠れてしまうのが最も身を守る上で有効な手段になってくると思うんです」

「だから森の中か」

「そうなります。周囲はFランクの魔物だけですし、魔物の巣と言っても|森《・》|じ《・》|ゃ《・》|な《・》|い《・》|場《・》|所《・》を作ってしまえば、魔物はおいそれと近寄ってこなくなりますから」

「ん? どういうことだ?」

「森の中に広い空き地を作ればいいんですよ。そうすれば滅多に周囲の森から出てくることはありません」

「そ、そんなこと、信じられるかよ! 襲われたらどうするんだ!」


 この青年、俺を恨んでいるんだろうが……

 一度細く息を吐き、努めて冷静に説明を続ける。


「森の近くにいれば襲われる確率は上がりますし100%と断言はしません。ただゴブリンがこの町を襲ってこないのと一緒で、他の狩場でも魔物が生息域から出てこない現象は多く見られると思います。それにこれはパルメラ内部で僕自身が検証し、安全地帯が作れることを確認しているから提案しているんです」

「なるほどな」

「さすがにベザートのすぐ裏からでは怪しくなりますけど、セイル川の横からであれば、内部に入るための道を作っても違和感は薄くなるはずです。それに水も十分確保することができるでしょう?」

「ふむ、それならどこぞの兵士がこの町にやってきてもまず気付かれないし、仮に気付いたところで軍隊が森の奥まで入ってくることはないか」

「その通りです。どこまでも続く深い森ということは誰もが知っているんでしょうから、兵がわざわざ森の中に入ってまで探しにくるとは考えにくく、目的のモノを強奪したら、あとはもうこの地に興味を無くすかと思います」

「となると、難は食料と、あとは時間か?」

「ですね。現地でホーンラビットや川魚を食料に換えたとしても、それでも食べ物を最優先で持ち込む必要はあると思います。その手の荷物を纏める準備が終わった頃には、こちらの作業も終わっているはずですから」

「……避難してきた者も含め、この町には数千の人間がいるのだぞ? 相当な広さが必要だと思うが、そんなにすぐ終わるのか?」

「はい、問題なく」


 なんせ、やるのは神様達だからな。

 俺でもできることだが、俺がやるより100倍は早い。

 ベザートの裏手で異世界人と遺留品探しをしているリルが、西へ素早く移動してセイル川を見つけ、その場所をポイントに神様達の【分体】が降臨。

 それなりの人が通れそうな道を川沿いに作りつつ、奥地ではベザートの町の規模を把握しているフェリンが【地形変動】で周囲を広大な空き地に変化させ、資材は一応出来上がった空き地に確保しておく。

 これなら上台地でやっていることの延長だ。

 空き地は森の入り口から3㎞くらい奥にと伝えておいたので、この程度の距離ならもし戦争が長期化しても、日帰りでルルブにオーク肉を調達するくらいはできるだろう。


「よし分かった、すぐに町長へ伝えてこよう。他の者は町民に食料を中心とした荷造りの準備を進めるよう伝えてくれ」


 この言葉に多くが頷き動き始める中、この場にいる3割程度の人間が俺に懐疑的な視線を向ける。

 一人として、見覚えのない顔。

 たぶん他所から避難してきた人達だろう。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。魔物の巣に向かうだけでなく、避難して何日もその中で過ごすなんて正気の沙汰じゃない。こんな子供の戯言を信じて動くのか?」

「そうだ。まだ襲われたわけじゃないし、敵兵が向かってくる動きを捕らえたわけでもない。このまま何事もなく戦争が終わる可能性だってあるだろうよ?」


 別に怒りが湧くわけでもない。

 そう思う人がいたって当然だろうし、提案しているのが子供の姿なら、より一層不安に感じるのも理解できる。

 だから俺もヤーゴフさんと同じで、このような反応をするしかない。


「乗り気でない者は、このまま残ってもらっても構わない。強制ではないからな」

「え?」

「だがベザートに住む者達は、"ロキの案だ"と言えば、ほぼ全ての住民が動くことになるはずだ」

「冗談だろ……」

「あくまで生存の率が高い選択を提案したまでですから、どうしてもということなら無理は言いません。先ほどお伝えしたように、僕は守れませんから、その場合は何かあっても自分達で切り抜けてください」

「……」

「もしこのまま戦争が終わったとして、ラグリースが敗れた場合はどうなるだろうな。町が蹂躙されたから、お前たちはベザートに逃げてきたのだろう? 襲われなかったとしても、見つかり捕まれば奴隷に落とされる可能性は極めて高いと思うが」

 全員動くわけがない。

 そう思っていた避難組らしき勢いが消沈していく中で、ヤーゴフさんの現実的な忠告が止めを刺したような気もする。

 俺も考えていなかった戦後の話。

 この町に飛んできたばかりの俺には、どちらに状況が傾いているのか――そんなことは分かりようもない。

 ただヤーゴフさんが"一方的な蹂躙"というくらいなのだから、ラグリースが押されていることは間違いないのだろう。

 となれば、仮に生き延びても、結局は死ぬのとそう変わらない扱いを受ける可能性も出てくる。


「分かった、一緒に行く。行かせてくれ……」


 俺と同じ想像をしたのか。

 ずっと俺を睨み、噛みついていたオストンという青年も折れたことで、この場で反対する者はいなくなった。

 こうなれば、あとはヤーゴフさんが上手いことやってくれるはずだ。

 その中で本当に町に残りたい者がいたら、それはそれ。

 残ればその者が拷問なりで口を割る可能性もあるので、できれば全員が移動してもらいたいものだが……

 どうしても家やこの場所を守りたいということなら、こればかりはもうどうしようもない。


 わたわたと動き出すベザートの町。

 馬を扱える者は見張りに出ていたハンター達を呼びに行き、売り物や余り物、それに大量の工具など。

 個人で抱えているモノとは別に、アマンダさんが中心となって集められていた大量の食糧や日用品は俺が『収納』し、あちらでの避難生活が少しでも安定するように準備を進めていく。

 これで多くの人に俺の能力はバレたが、大量の肉を配ったりしていたわけだし今更だな。

 そして――


(ロキ君、準備が終わりましたよ)


【神託】によって齎された準備完了の合図とともに、俺は目の前の馴染みあるハンター達と、その親分のような存在に視線を向ける。


「それじゃ皆さん、護衛と案内をお願いしますね」

「任せておけ」

「セイル川を1~2時間上っていけば広場があるんだろ? それくらいなら余裕だぜ」

「リーダー、調子に乗って一人で勝手に進んでいかないでくださいよ」

「やりかねない」


 頼もしい返事をしてくれるのはアルバさんとミズルさん、それにミズルさんパーティの面々。


「最後尾は俺が務める。先頭はおまえらに任せたからな」


 それに実はベザートで一番強いパイサーさんが殿を務めてくれるなら、そこいらにいる兵くらい薙ぎ倒してくれるだろう。


「3人も、戦えない人達だっているんだから、特にフーリーモールの魔法から皆を守ってあげてね」

「あぁ、俺の【気配察知】と、メイサの【探査】があれば大丈夫だろ。な?」

「うん! 撃たれる前に倒しちゃうんだからね!」

「もし石が飛んできたら、僕が盾を使う!」


 こんな非常時だというのに、頼もしく、そして良い表情になったなぁと思う。

 修行ついでの旅行に行っておいて本当に良かった。

 これなら皆を任せられる。


「それじゃヤーゴフさん。僕は先に現地へ向かって預かっている荷物を置いたら、そのまますぐマルタに向かいますから、後はお願いしますね」

「……ロキ」

「はい?」

「先ほど『地図』を作った者の責任と言っていたが、この戦争に負い目を感じているのなら、それは違うぞ?」

「え?」

「地図を利用して進軍していることは間違いないだろうが、ベザートへ逃げてきた者の多くは、マルタから東に延びる街道付近の村や町に住んでいた人間だ」


 言いながら地図を広げ、亀裂の南から最寄りの街道に入り、そのままマルタまで続いていく道を指でなぞっていく。

「えっと……」

「つまり、地図があってもなくても、ヴァルツ軍が街道を利用して移動していたことに変わりはない。だから北にしか街道が向いていないこの田舎町は今も生き残っている」

「……」

「それに地図のお陰で商人の出入りが増え、作物の買取値は上がり、町には見慣れぬ品が多く入るようになっていた。蹂躙された町でも地図の恩恵は確かにあったのだ――そうだろう?」


 そう言われながらヤーゴフさんに背中を叩かれたのは、先ほどのオストンという青年。

 今はバツが悪そうな顔をしているが、先ほどのように憎しみの混じった目はしていない。


「はい、それは間違いないです。だからさっきは、その、すいませんでした」

「い、いえ、そんな」

「だからな、ロキ。お前がこの戦争に強い責任を感じ、気負う必要はない。お前はお前の判断で、何かを守りたいと思うのならば守ればいい。間違っても、"身を賭してでも"なんて考えは持つなよ? 原因は間違いなく他にあるのだろうからな」

「……ヤーゴフさんは、何が原因だと思いますか?」


 この人なら何か知っているかもしれない。

 そう思って問うも、ヤーゴフさんはあっさりと肩を竦める。


「さぁな。食料を中心に物価の高騰が続いていたはずのヴァルツならば、この平坦で豊かな土地を求めたというのが濃厚にも思えるが、労働力を自ら潰していくなど腑に落ちない点も多い。このような僻地では分からぬ何かがあるのだろう」

「そうですか……なら、自分で確かめてみるしかないですね」


 戦地に向かえば、ヴァルツ側の誰かが教えてくれるだろう。

 そう思いながら、預かった荷物を避難所に届けようとしたその時。


「な、なら、一度『キプロ』に寄ってみてくれないか!」


 それは、例の青年からだった。


「やつらが襲った町を見れば何か分かるかもしれないし、それに、もし生き残りがいたら、救ってほしいんだ……」


 誰でもわかる。

 間違いなく、青年の本音は後半。

 俺が荷物を『収納』したという現実を目の当たりにし、能力を理解したからこその提案だろう。

 正直に言えば、事後よりも現在進行形で動いている現場を優先したいが……


「分かりました。それなら一度寄ってみますよ」


 それでもこう返したのは、ヤーゴフさんはあぁ言うが、やはり多少は残る罪悪感から。

 それに一度行っているのだから、寄って確認するだけならばそう時間を食うものでもない。

 この程度の距離ならば、生き残った人を転移で連れてきても、大した魔力消費はないだろうしな。


 こうして軽はずみとは少し違う。

 罪滅ぼしの気持ちで、俺は襲われた町『キプロ』に飛び――


 度々話に出てきた『蹂躙』という言葉の本当の意味を、思い知ることになった。
347話 蹂躙の意味

 いつから燃えているのか。

 多くが灰となっている家屋からは未だ細い煙の線がいくつも昇り、焼け焦げた臭いが宙を漂う。

 聞こえるのはパチパチと、時折何かが燃える音くらいで。

 それ以外はすすり泣く声すら聞こえぬ『キプロ』の町は、どこに視線を向けても同じような景色を映し出していた。


「なんの意味があって、こんなことを……」


 目の当たりにして、初めて理解する『蹂躙』の意味。

 通りには死体が溢れ、その全てが人の形すら保たれていない。

 なぜか頭部を潰され、踏まれた虫のように体液を散らしながら地面にへばりついていた。


 戦争が現実としてあることは分かっていても、それはどこか別の世界の出来事で。

 だからこの世界に来て『戦争』という言葉を聞くたび、聞きかじった程度の知識や情報から、それっぽい『絵』を当てはめ想像していたが……


 ただの町民ならば私財が守られるなんて、そんな甘いことはなく。

 最低限、人の命だけは助かるなんてこともなく。


 ただただ広がる惨烈な光景は、俺の想像していた戦争からは大きく逸脱していた。


「こっちはまた、やったヤツが違うのか」


 たぶん、戦いと呼べるほどの状況ではなかったんだと思う。

 視線の先には武器がいくつも散らばっており、その周囲には引き千切られたように、様々な身体の部位を失った男達の遺体が惨たらしく転がっている。

 この辺りは頭部が残っている分、死に際の恐怖や苦痛をそのまま残したように顔が大きく歪んでいた。


「それでも、立ちはだかったのか……?」


 なぜ、逃げなかった?

 疑問に感じて周囲を見渡せば、僅かに剣の絵柄を残す、焼け焦げた一枚の板に目が留まる。

 普段からよく目にするマーク。

 つまりこの辺りがハンターギルドであり、彼らはきっとこの町のハンターだったのだろう。

 2階建てだった建物は一部の骨組みを残すのみとなっていたが、一度は訪れた場所だ。

 自然と俺の足はそちらに向き――


「いた……」


 ――ここでようやく見つかる、生者の存在。

【探査】の結果を頼りに向かえば、そこは焼け焦げた多くの遺体によって塞がされるように存在していた地下への入り口で、中を覗いた瞬間、表の男達がなぜ逃げなかったのか。

 その意味を理解してしまう。

 乾いた血で赤黒く染まった階段に横たわるのは、どれも頭どころか、上半身まで強引に押し潰された子供達の遺体。

 その数は足の踏み場にも困るほどで、町の子供をこの地下に避難させ、入り口を大人達が守っていたことは容易に想像できた。

 次第に呼吸は乱れ、尋常ではない異臭に吐き気を催しながら、それでも地下へと続く階段を降りていく。

 このような環境でも、一つの反応が地下を示しているのだ。

 きっと彼らが身を挺して守った意味はあった。

 そう思いながら、血溜まりが広がる地下2階に辿り着いた時――。


 俺はただ、身動ぎすることも忘れ、そこに広がる異様な光景を眺めるしかなかった。


 ベザートと同じような、何かの保管庫として活用されていたであろう地下の部屋。

 その奥には、元々の部屋の大きさも分からないほど多くの人の身体が潰され、結合したように重なり合ったまま壁に埋まっていた。

 いったい何が目的で、どうすればこのような状態になるのか。

 そしてその手前には血溜まりの中で力なく座り、その『人壁』に手を伸ばす一人の子供。


 ……動いているのだ。

 生きていることは、間違いない。


 けど――


「あの……」

「……」


 歳は8、9歳くらい。

 ゆっくりとこちらに振り向いた子供は、最近とは思えない大きな火傷が顔にある子だった。

 でもそれ以上に目がいくのは、口の周りや衣類を汚す赤黒い血と、手に持つ何かの塊。


「だ、だいじょう、ぶ……?」


 そんなわけがないだろう。      

 気が動転し、何を伝え、何を確認すればいいのか。

 考えも纏まらないまま出てしまった言葉に、この子は虚ろな瞳のまま答えてくれた。



「お腹、空いたよ……」





 結局、キプロの生き残りはこの子だけだった。

 時間に余裕が無いであろうことを知りながらも、ちゃんとした食事をさせ、水で汚れを落とし、血濡れの衣類を捨てて俺の衣類で身体を包み――。

 念のため普通の人間であろうことを確認してから、既に移動を開始していた青年の下へ送り届ける。


「この子だけが唯一の生き残りでした」

「この子はトラスさんとこの……それでも、一人でも生き残りがいたんだから良かった。本当に、良かった……心から感謝する、ありがとう少年」


 小さな町なのだから、見知った子だったのだろう。

 一瞬、唇を噛み、それでも素直に感謝の言葉を口にしたこの青年になら、この子を託しても問題ないはずだ。


「僕はこれからすぐマルタに向かいますので、この子はお願いしますね」

「あぁもちろんだ。その、こんなことは図々しい願いだと分かっているけど……」

「……」

「君は凄く強いと、そう聞いたんだ。だから町の、みんなの敵を……この国を救ってくれ……」


 オストンと呼ばれる青年だけじゃない。

 他にも同じように町を襲われ、居場所を失った人達が縋るような視線を向けてくる。

 でも。


「僕がこの国を救おうと思って動くかは分かりません。軍の人間ではありませんし、そもそもこの国の人間でもありませんから」

「そ、そうか……無理を言ってすまない――」

「でも、誰が町や村で殺し回ったのか、あなた達からも、そしてこの子からも聞けましたから」

「?」


「ソイツらは見かけたら、俺が殺しますよ。絶対に」
348話 選択

 ヴァルツ兵がなだれ込むように即席の山を駆け登り、マルタの街を囲う城壁を越えていく。

 その光景を見て、時間はかかったがようやくこの段階に入ったと、南部の司令官を務めるアトナーは険しい表情のままソッと息を吐いた。

 きっかけは、攻城戦や要塞攻めで本領を発揮する【土魔法】使いの存在。

 先行して仕掛ければ知識ある者から真っ先に狙われるため、火煙に紛れ、積み上がった徴兵の遺体を内部に含むことで、素早く、そして広範囲に土の山を築き上げていた。

 城壁の上を陣取っていたのは、多くが自分達の町や家族を守るために志願した一般市民。

 同じく徴兵された元一般市民の尖兵隊ならまだしも、武器を握り、殺す気概で向かってくる後続の正規兵には震え上がる者も多く、次々と散らされては城壁の上を占拠されていく。

 そして、その先――城壁の内側を守っていたハンター達も、先行して内部へ侵入したヴァルツの傭兵達に掻き乱され、当初あった防衛線などとうに瓦解しており……

 城壁の上に到達したヴァルツ兵達は、易々とマルタ制圧に向けて街の内部へ侵入していった。


「東部からの報告は上がってこないのか?」

「まだ何も。戦況がどうなっているのか、まったく見えませんね」

「ならば余計に急ぐ必要があるな……各所に火を放つよう指示を出せ。それと街内部での魔法使用も許可する」

「はっ」


 できることなら戦の後も見据え、街としての機能を残しておきたい。

 アトナーはそう思うも、既に予定は狂い、ヴァルツ兵にも想定以上の死者が出ていた。

 この状況でマルタ東部を対応しているであろう上位ハンター達が内部防衛に回れば、街の制圧に支障が出る恐れも高い。

 となれば、止むを得ない選択――。

 王都ファルメンタを孤立させるため、マルタの戦力はここで押し留めるという至上命令は、何を犠牲にしてでも推し進めなければならない。


「あの二人が、やるべき仕事をこなしていれば……」


 苦々しい顔で視線を向けるのは、聞き慣れない音が断続的に鳴り響く南部の平原。

 本来ならば城壁を破壊することも可能なあの二人が先行し、街の中から防衛に回るハンター達や城壁を潰して回れば、ここまで時間は掛からず余計な死者を出すこともなかったのだ。

 姿は見えずとも、この音で未だ戦っていることだけは把握できる。


「何をどうすれば、こんな音がここまで聞こえてくるんですかね……」

「さぁな。人外染みた連中の成すことなど、ただの人には理解できん」


 部下の一言に、アトナーは何気なく答え――


「レイモンド卿を南部で足止めできているのならば、一先ずは良しと考えるしかないか」


 そう気を取り直し、城壁を越えていく後衛部隊の後ろ姿を眺めた。




 一方、アトナーが指揮を放棄していた南部はというと、未だ欠けることなく4人の戦いが続いていた。


「ったく、ウザったい攻撃だねェ!」

「だったら、素直に喰らって、死ね!」


 ズン――…………


 ジルガが突き出した拳はファニーファニーによって弾かれ、流されたまま大地を叩けば、激しい音と共に砂埃を巻き上げる。

 が、攻撃は止まらない。

 その隙を突こうとしたファニーファニーに向け、


 ドン――……ッ!!


「"空撃"!」

「チッ……」


 ――明らかに届かない距離から拳を振り抜けば、同時に発生した衝撃波が襲いかかり、その後方にいたエヴィンゲララの『盾』まで破壊していく。


「ちょ! 姉さん、またこっちに来てますって! ちゃんと相手してくださいよ!」

「煩いねェ! そんなことは分かってんだよ!」


 ファニーファニーにとってみれば、思いがけない苦戦だった。

 レイモンド伯爵――ジルガの過去を知っているが故に弱いなどとは露ほども思っておらず、しかし深手を負うほどの相手でもないと思っていた。

 が、ファニーファニーの左腕は肘まで肉がズタズタに切り裂かれており、使い物になっていない。

 拳を突き合わせた初撃の打ち合い。

 あの時から、既に左腕は壊されていた。

 理由は、ジルガが拳の中に握り込んでいるおかしな武器。

 ファニーファニーが何かしらのスキルだと思っているそれは、『隠鋼拳鍔《ハイド・バイト》』と名の付く特殊付与武器であり、レイモンド家に伝わる家宝の一つでもあった。

 魔力を込めることで『衝撃波』を生み出すその武器は、並みの人間でも相応の威力を叩き出すことができる。

 だが【体術】を得意とし、力と速さを兼ね備えたジルガだからこそ、その威力と速度を乗せることによって、爆発に近い衝撃を生み出していく。

 一見すれば、ジルガが優勢の状況。

 しかし、二人の表情はこの先の未来を見通しているようで。


「だいぶソイツの威力も落ちてきたねェ」

「はぁ……はぁ……ちょこまかと……」


 息を切らし、苦し気な表情を浮かべるジルガを、ファニーファニーは長い舌で傷付いた左腕を舐めながら楽し気に眺めていた。


「うふふっ、だいぶキツそうじゃんか。アタシに合わせて動けてんのはさすがだけど、そのせいでもうだいぶ苦しいでしょ?」

「てめぇ、どんな体力、してやがる……」

「ふん、呑気に貴族なんかやってたアンタと、ずっと傭兵を続けるしかなかったアタシとじゃ差があって当然。それに言ったはずだよ、血の濃さが違うってね」


 この言葉に、ジルガは顔を歪める。

 長く現役を退き、大人しく貴族をやっていた弊害が大きく出てしまっていると、ジルガ自身が戦いながら自覚していた。

 それに血の濃さというのも間違いじゃないだろう。

 人間の中ではとりわけ獣の血が濃く出ているジルガと、獣人の中でも濃さが際立つファニーファニー。

 元々の能力に大きな差が生まれていても不思議なことではない。


(厳しいか……)


 息を整えながら、ジルガはファニーファニーの後方で戦う二人を見つめる。

 レイモンド家の執事であり、ハンター時代のパーティメンバーでもあるモーガンは、間違いなく強者の部類だ。

 だが、今回はどう見ても相性が悪い。

 ジルガなら崩せるあの『盾』も、細身の剣を両手で扱うモーガンでは、崩すことが難しいのは明らかだった。

 それとなくエヴィンゲララを巻き込むように攻撃してきたものの、その程度で崩れるほど敵は弱くもなければ甘くもない。

 ならば、どうする――。


「解放すれば?」

「……」


 ジルガを眺めながら、先に言葉を発したのはファニーファニー。

 それはそれは楽しそうに、嗤いながら改めて助言を与える。


「アンタのその見た目なら、間違いなく【獣血】は持ってるでしょ。レベル2? レベル3?」


 同じ性質を持つ稀有な存在だからこそ、ファニーファニーはジルガの考えることが予想でき、ジルガも考えていた可能性を言い当てられたことで顔を顰める。

 一か八か。

 最上位クラスのランカー傭兵とやり合う以上、そのくらいの覚悟は持っていたが、問題はそんなところではなく――


「うふふっ、あんたくらい特徴が表に出てんなら戻ってこれるよ、きっとね」


 理性を著しく失った先に、人へ戻る道が残されているのかどうか。

 戻れなければ自身がただの害獣に成り果て、最悪は仲間を殺し、自らがマルタの街まで破壊してしまう可能性もある。

 そしてファニーファニーは、敢えて休息を与えようとも、ジルガの返答を待っていた。

 同種でありながらのうのうと貴族の身に収まっていた男が、自我を失い、自ら街と住人を破壊していく様を見られるのなら、それはどんなに楽しいことか。

 その程度の理由で、後のないジルガの表情を楽しんでいると――。



 パンッ! パパンッ! ゴロゴロロ――……



 不意にかなり大きい『雷』の音が、連続してどこかから鳴り響いた。

 思わずファニーファニーは空を見上げるが、雷鳴轟くような天候でもなく、かと言って今回の南部侵攻に配属された傭兵の中で使い手がいたような記憶もない。

 それにマルタでの戦いが始まってから、相応に時間が経ったこのタイミングで鳴り響くことに違和感を覚えるが――。


 (雷……まさか、レア物がこっちに?)


 そう思いながらジルガへ視線を戻せば、目の前の男は僅かに笑みを零していた。
349話 上位ハンター vs 上位傭兵

 何も状況は分からないし、ベザートの人達が知っているわけでもない。

 だからいつも通り上空に転移すれば、見慣れたマルタの街は、惨憺たる光景が広がっていた。

 街は至る所から火の手が上がり、上空まで聞こえてくるほどの怒号や悲鳴が、キプロとは違って今現在も戦争の只中であることを痛感させられる。


(覚悟はしてきただろ……今はやるべきことをやれ)


 俺が鎮火に回ったところで、どうにかなるような規模ではない。

 真っ先に向かったのは高確率で地下があり、子供を匿っている可能性の高いハンターギルド。

 急降下していく中で、入り口を守るように陣形を組みながら戦っている人達の姿が目に付き――その中には、見覚えのある顔もいた。


「イーノさん! それにラランさんも!」


 かつてBランクになるための昇格試験で戦った二人は、息はだいぶ荒いが大した傷もなく、しっかりと武器を握って扉の前に立ちはだかっていた。

 俺が空から降ってきたことで固まっている目の前の連中は――コイツらがヴァルツ兵か。

 揃いの鎧はなんとなく見覚えがある。


「はぁ……はっ……あ、あん時のガキか……!」

「あんた……いったいどこから現れたのよ……!?」

「それよりも、どこだってマズい状況なのは百も承知ですが、その中でも僕が向かった方が良いのはどこですか?」


 ここでハンターギルドを守るのが一番というのならそうするが、厄介なのはどれほど混ざっているか分からない傭兵連中だろう。

 これだけ広い街の中を闇雲に探し回るくらいなら、何かしらの情報を貰ってから動いた方が効率も良い。

 そう思っていると。


「ロキ君! ここはまだ大丈夫ですから、街の東に!」


 聞き覚えのある声だった。

 振り向けば、ハンターギルドの中から顔を出したのは、かつてリプサムで救出したヒーラー職のアマリエさん。

 なぜ、ここにいる?

 そんな疑問が真っ先に浮かぶも。


「そ、そうね。北と西から入ってくるヴァルツ兵くらいは、まだ私達でなんとかなるわ! どうせならあんたは傭兵を殺って!」

「詳しいことは分からねぇけどよ! 俺達じゃ勝てねぇような傭兵連中が東に相当な数いるって、ギルマスも東で応戦してるはずだ!」


 今はそんなことを気にしている場合じゃないな。

 東か……そこに縞模様のバカデカい獣人と、歪んだ顔の小人がいるのか。


「き、貴様らぁあああ! 何を呑気にしゃべっているか!」


 我に返ったのか。

 怒声を上げながら剣を振りかぶるのは、事態が飲み込めずに固まっていたヴァルツ兵の一人。

 その剣は真っ直ぐに俺の首元へ振り下ろされるので、気にせず飛びながらそいつの首を掴み上げる。

 丁度良い、あとは俺を殺しにかかったコイツから詳しく聞かせてもらうか。


「それじゃここはお任せしますからね。皆さん死なないでくださいよ!」

「ご武運を!」

「てめぇも死ぬんじゃねーぞ!」

「あんた強いんだから、一人でも多くぶっ殺してきなさいよ!」


「ま、まてまてまてぇえええええええ!?」


 ――【回復魔法】――『オートヒーリング』


(これくらいしかできないけど、頑張って)


 振り返ってまで反応を確認したりはしない。

 男を捕まえたまま再び上空へ舞い上がり、周囲を一瞥。

 その後、やたらとお喋りしてくれる男の情報を整理しながら、俺は東へ向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ 




「オルタッ!」


 真っ先に目を引いたのは、舞いながら飛来してくる盾。

 そして奥で転がるように吹き飛ばされていくAランクハンターと、その後を追うように迫る鋭利な氷塊を横目で捉え、思わずその者の名を叫ぶが。


「ぬ…ぐおっ……」


 横腹に強い痛みを感じ、思わず握っていた槌矛を手元から落としたオランドは、よろめきながらも後退した。

 視線を戻せば牙を剥き、赤く染まったナイフを逆手に迫る獣人。

 僅かな隙を突かれた――そう感じながら、咄嗟に両腕で顔を守れば


「ぬぉおおおおおあああああッ! シールドバッシュッ!!」


 腕の隙間から見えたのは、仲間が盾に肩を寄せたまま目の前の敵に突撃し、そのまま勢いよく吹き飛ばされていく獣人の姿だった。

 飛ばされた敵はすぐに起き上がろうとするも、衝撃で手放し、宙を舞っていた短剣を掴んだ老人に喉元へ投げられ、そのまま動かなくなる。

 もう何度目か。

 目立つ動きをする者がいなくなったことで訪れた、一時の静寂。

 お互いが出方を窺うように警戒する中で、決して敵から視線を外すことなく、オランドは謝罪の言葉を口にした。


「ノディアス、それにウィルズ殿も、済まない……」

「問題ありません。それより、傷は?」


 ウィルズに言われてソッと視線を落とせば、痛む箇所を押さえていたオランドの手は、血で赤く染まっていた。


「くっ……はぁ……もう、うちのヒーラーも魔力がほとんど残っていない。ポーションで、なんとかなりそうか?」

「あぁ……この程度なら問題ない」


 咄嗟に吐いた嘘。

 既に所持していたポーションなど使いきっていたが、この誰もが苦しい状況で余計な心配など掛けてはいられない。

 オランドはそう判断し、内心弱くなったものだと自嘲しながら平然を装う。

 右目は潰され、左手は裂傷と深い火傷でろくに動かない。

 Aランクハンターとは言うも、まともな戦闘や訓練の記憶なぞ遥か昔で、少なくともここ10年ほどはギルドを大きくすることしか考えていなかった。

 それでも――そんな自分でも、ここで一人でも多くの傭兵を足止めし、仕留めなければならない。

 オランドはフラつきそうになる足取りを隠しながら、細く息を吐いて前方を睨み付ける。

 ヴァルツ側は――、減ってもなお、40以上はいる。

 対してラグリース側は最初から30にも満たず、その中から既に10名近い死者を出していた。

 強者が増えたと言っても、それは『魔宝石』を求めてであり、決してこの国を守るためではない。

 一攫千金を夢見た他国の者が、報奨もない防衛戦に参加する意味はなく、マルタに向かって行軍しているという報が入った途端、潮が引くようにこの街から多くのハンター達が去っていった。

 残ったのはラグリース出身の者――その中でも一部だけが、祖国を守るために奮い立った程度。

 それでもまだ戦いになっているのは、仲間同士が連携しているか否か。

 個人の報奨や武勇を狙う傭兵連中にチーム戦の動きはほとんど見られず、逆に阻害するような行動も垣間見えるため、まだ辛うじて『膠着』と言ってもいい程度の状況にはなっていた。

 だが。


「ダメだ、オルタがやられた!」

「くそっ、タンクが……」

「オ、オランドさん。3番隊はこれでもう残り4人、1番と2番に無理やり分けるしかないぞ」

「だが、そうすると右方はどうする……?」


 その均衡が崩れるのも時間の問題。

 多くがそう感じていただけに――


「さすがに、厳しくなってきたな……」


 ――唯一のSランクハンター、ノディアスのこの言葉が、周囲で武器を握る者達に深く刺さる。

 如何ともしがたい戦力差に加え、体力と魔力の枯渇。

 それは相手にも言えることのはずだが、数の問題か。

 敵はまだ余力があるようにも見えた。


 この状況でいつまで戦い続けるのか。

 戦い続けた先に、この街が救われる未来は果たしてあるのか。


 ――続く声がない中。

 静かだからこそ、はっきりと聞こえてくる『音』に反応し、オランドは一度、街の方へ振り返った。


「ここで引けば、街の中でコイツらは暴れ、大勢が死ぬ……そうだろう?」


 厚い城壁を通してでも、街の中から響く数多の叫びは聞こえてくる。

 指揮を取ることはできなかったが、街の中を守るハンター連中は上手くやれているのか。

 そして、遥か遠くからも。


 ドン――……


 幾度となく轟いていた音が、まだ僅かに聞こえていた。


「そうだな。この音、レイモンド伯爵が未だあの化け物と戦われているのだ。本来ならば我らが救援に向かわねばならぬところ……先に心折れては申し訳が立たぬ」

「折れる前にやれること、できることはまだありましょう」

「……ウィルズ殿、この状況で優先して倒すべき敵は?」

「後方にいる深い緑色の頭髪をした人間が【氷魔法】に特化していますが、他は弱い。中央と右方の間に立つ褐色の獣人も、唯一覗ける中では補助と回復に特化しているので優先すべきです」

「そうか……ならば俺が前に出て敵を引きつけよう。動き出したやつらから頼む」


 そう言いながら、オランドは先ほど宙を舞い、近くに投げ出されていた仲間の盾をゆっくりと拾い上げる。


「オランド、盾も扱えたのか?」

「……あぁ、オルタほどではないがな」


 身体を捻るだけで腹部に激痛が走るのだ。

 槌矛を振り回すことはもうできそうもない。

 だが、コイツなら持てる。

 握り、身を寄せ、耐えることならまだできる。


「……」


 ウィルズから向けられた視線を避けるように、2歩、3歩と敵の方へ進めれば、一瞬にして視線が集まり、場の緊張が急激に高まっていく。

 だからか、派手に盾を地面へ突き刺し、オランドは敵に向かって腹の底から吼えた。

 鬼の形相で、自分を奮い立たせるために。

 自らに残された役目を、全うするために。


「うぉらぁあああああああ!! かかってこいやクソ傭兵共がぁあああああああッッ!!」


 ――ざわっ――……


 感情が破裂したかのように、数名の傭兵が目を見開きながら地を蹴り上げた時。


 ズンッ!!


 両陣の間に物凄い速さで何かが飛来し、一瞬にして砂埃を舞い上げる。

 何事か――。

 誰もが動きを止めて見つめる中、目の前の砂塵ではなく、自分達の後方に目を向けたのは、この場にいた老人ただ一人。


「その叫び声、良い目印になりましたよ」

「ロキ様……?」
350話 血湧き、肉躍る

「ロキ様……?」

「やっぱりウィルズさんでしたか。宿の支配人がこんなところにいるなんて意外ですね」


 見たことがない派手な素材のレザー装備で身を包み、飄々とした様子で背後から歩いてくる、見知った顔の子供。

 目の前の砂塵はなんだ? 何かを投げたのか?

 オランドは前に後ろにと、忙しなく顔を振りながら戸惑いを見せるも、かつて戦争には参加しないと言っていた者が、どうやら敵ではなく味方として目の前に現れたのだ。

 久しく姿は見ておらず、そして期待もしていなかっただけに、なんとも頼もしい援軍が来たと喚声を漏らした。


「ロキッ! 来てくれたのか!」

「ええ、ハンターギルドに向かったら、東に多くの傭兵がいると聞いたので。それにしてもオランドさん、かなりボロボロですね」

「そ、そうなのだ。傭兵の中でも明らかに上位、質も数もこちらは負けている」

「なるほど」

「オランド。この少年は、その、味方でいいのか?」


 困惑の表情を残したまま問い掛けるのは、ここまでマルタ側の要として、多くの攻撃を防いできたノディアス。

 ハンター歴が長く、その分だけ"強者"と呼ばれる存在を知っていただけに、見覚えのない少年の参戦を素直に喜んでいいのか。

 この子供の力量を推し量れないでいた。

 ギリギリまで気付かれずに街から移動してきたのなら、隠密能力には長けているだろう。

 だが何かの種族が混ざっているような雰囲気はなく、明らかに人間の子供。

 鎧は相当上物に見えるが、腰に佩いた剣もやや小振りに見える。


(近中距離を好む軽戦士……剣士系に派生する職か?)


 ノディアスがそのように見当を付けたところで、俄かに敵側がザワついているのを耳が拾った。

 視線を向ければ既に砂塵は収まってきており、だからこそ何が飛来したのか。

 敵側の方に転がっていた塊を注視するも、すぐに何かを判別することはできない。

 それは周りも同様のようで。


「金属の塊?」

「あ、あの赤いのは"血"じゃないのか?」

「じゃあ、周囲に散乱しているのは……まさか、人が降ってきた?」


「あぁ、あれはヴァルツ兵ですよ。僕を殺そうとしたので」


「「「……」」」


 この時多くの者が、"どうやってやった?" という疑問を頭に浮かべるが、その言葉は誰からも出てこない。

 スタスタと、臆することなく一人で前に出ようとする子供を見て、別の言葉を口走ってしまったからだ。


「ま、待て坊主! 前に出るな!」

「出た者から真っ先に狙われるぞ」

「ロキ、数と戦力で劣る分、こちらは連携でなんとかやっていくしかない」

「俺とランドルフ、それにオランドがまず前に出よう。少年はこちらに寄ってきた近接を叩いてくれ。前衛の数をなんとか減らしてから後衛職を叩くから、無理はするな――」


「たぶん、大丈夫ですから」


「え?」

「ちょ、ちょっと、待て!」

「ロ、ロキッ! 話を聞いていたのか!? 連携だ! こちらの強みはそこだけなのだぞ!」


 この時、警戒を続けながらも、ノディアスは僅かに舌打ちを漏らした。

 少年は、目の前の連中と同じではないか、と。

 オランドが目を輝かせるくらいなのだから、若くしてよほど才能に恵まれたのだろうが……

 過信や慢心で命を散らす者など掃いて捨てるほどおり、決まってそういった者は協調性に乏しく、和を乱すことが多かった。

 自らが死ぬだけならまだいいが、最悪は他の者達まで巻き込む恐れすらある。

 だがここで、貴重な戦力を無下にするわけにもいかない。


(どうする……Sランクという立場を使って、この場だけでも強引に従わせるべきか……)


 どう、戦力に組み込むか。

 オランドは必死に説得し、ノディアスは策を練るも、少年から続く言葉はさらに耳を疑う内容で。


「なので、皆さんできる限り遠くに離れておいてください。戦闘になるのかまだ分かりませんけど、なったら巻き込んで殺しちゃいそうなので」

「……は?」

「な、なんだと?」

「……」


 誰もが言葉を呑み込めず、放心したまま敵陣に向かって歩いていく少年の後ろ姿を眺めるしかなかった。

 そんな中、一人やり取りを黙って聞いていたウィルズが口を開く。


「それでは皆さん、言う通りに一度下がりましょうか」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽ 




 眼前には武器を構える40~50人の傭兵達。

 先ほどは上空から纏めて確認したが、今は歩きながら一人一人、流し見るように【心眼】と【洞察】を使っていく。

(縞模様の獣人と小人はやっぱりここじゃない……一番強そうなので、ばあさんと似たような感覚のヤツが2人か3人ってところか)

【心眼】は2割ほどしか通らず、見通せた中に目を見張るようなスキルは見当たらない。

 だが上位であろう傭兵連中の集まりだけあって、見えたスキルのレベルは相応に高かった。

 職業加護のブーストを差し引いたとしても、間違いなく、いくつものスキルレベルが確実に上がる。

 となれば、あとはこの者達がどこまで『悪党』なのか。

 あの二人以外にも、兵士とは明らかに恰好の違う獣人が町や村を蹂躙したとは言っていたけど、特徴が薄くて判別が――。


「おぬし、本当にロキという名なのか?」


 悩んでいるところに話し掛けてきたのは、この場で最も強いと感じたうちの一人。

 正面に立つ狐のような容姿をした獣人だった。


「そうですが?」

「どこから現れたのかは砂煙で見えなかったが、この"肉塊"はおぬしが現れたのと同時に空から降ってきた。フハッ、空を飛ぶ幼き姿をした異世界人、条件は一致するな」

「他は火を纏いながら、高位の雷を扱う、だったか」

「まさか現れるかも分からない最上位の報奨対象が、いきなり目の前に登場するとはネ」


 このやり取りが聞こえたのか。

【気配察知】範囲内だったオランドさん達の動きがピタリと止まり、慌ててこちらに振り返っているのが分かるも……これはしょうがないな。

 いずれバレること。

 それに今更隠そうという気もない。

 しかし、この情報――。

 ここにはいないようだが、【発火】を知っているということは、俺を監視していた爆走獣人が収集した内容で間違いないだろう。

 国に報告し、傭兵連中に伝わった――そういうことだと思うが、最上位の報奨対象とはなんだ?


「もしかして、僕に懸賞金でもかかってるんですか?」

「フハハッ、そのようなかわいらしいモノではないわ。それこそおぬしを殺せば、決して金では買えぬモノも手に入るだろうな」

「『火仙の魔女』も討ち取れば結構な報奨は得られるだろうけど、異世界人となれば話は別だネ」

「戦力は未知数。だがジョルジアを取り逃がすくらいなのだから、世界を揺るがす4強ほどということは決してあるまい」

「他はどういうわけか、勝手に引いてったしなぁ! こんなチャンス二度と起きねぇ……ぎひひっ、俺だぁ、俺が喰らってるやるぜぇえええ!!」


 共に飛行してきた男はこの事に関して何も言っていなかったが、一介の兵士では傭兵の事情など知らなくてもしょうがないか。

 しかしこれは、少々予想外な展開だな。

 少なからずこの者達が『悪党』であり、『執行』対象であること望んでいたが……

 まさか相手も、金ではない何かを得るために、俺との純粋な殺し合いを望んでいたとは。


 あぁ……最高だ。

 手札の多くが隠されている以上、相応のリスクはある。

 だがこの血湧き、肉躍るような高揚感。

 俺を殺そうとする者達を殲滅することで、何を得られ、いったいどれほど強くなれるのか――。


「窮地だからと、空を舞って逃げるようなツマらぬことだけはせぬよう、期待しておこう」

「ええ、やり合いましょう? お互い、燃え尽きるまで」


 逃げも、逃がしもしない。

 目の前にいる連中は、一人残らず、喰らってやる。
351話 ご馳走様でした

 誰よりも先に飛びかかってきたのは、俺を喰らうと息巻いていた獣人の男だった。

 相手からしてみれば、周囲は決して味方などではなく、同じ獲物を狙うライバル同士。

 真っ先にチャンスをモノにしようとしたのだろうが。


「ぶへぇ……ッ……」

「まず一人」


【突進】で一気に近寄りながら迫りくる男の頭部を掴み、【踏みつけ】を使用しながら地面へ叩きつければ、不快な感触と共に死んだことを証明するアナウンスが流れ始める。


『【罠探知】Lv3を取得しました』

『【俊足】Lv7を取得しました』


 だが内容は僅かに目を向ける程度。

 とてもじゃないが、この状況でじっくり眺めている余裕などない。

 続く傭兵の剣撃を往なしながら腹に蹴りを叩き込み――


「ぐふっ……」

『切り裂け、"穿嵐"』


 そのまま地表を水平に進む鋭利な竜巻を発生させれば、後ろにいた女も血を撒き散らしながら吹き飛んでいく。

 仕留め切れたのかどうか。


『"雷光"、一線、薙ぎ払え』


 分からなければ追撃するまでと、そいつらも両断するつもりで、指先から発した雷光を半円に薙ぐが。


「ぬぐッ……こ、こいつ、平気で突き破ってくるぞ!」

「?」


 一瞬だけ可視化された膜のようなモノが弛み、しかしそのまま突き破れば、雷光は奥にいたまったく別の二人を辛うじて両断していった。


『【発動待機】Lv3を取得しました』

『【演奏】Lv4を取得しました』

『【回復魔法】Lv6を取得しました』

『【魔法射程増加】Lv3を取得しました』


(あれは結界の類か……?)


 傭兵連中は個人戦のように見えるが、中には支援に回っているやつもいるということ。

 厄介ではあるも、これだけ数がいたのでは、どいつが術者なのかも判別できない。

 ならば、一人ずつ潰して――――。


「……」


 距離を空けては不利と判断したのか、視界には武器を握り迫りくる、10名以上の傭兵達。

 しかし踏み出そうとした足は動かず、心がざわつく。

 原因は分かる――背筋を僅かに伝うこの感覚、これは【威圧】だ。

 しかも、一人じゃない。

 ならば――。


 ――【咆哮】――【灼熱息】――


「ぐっ、がぁあああああああああああッ!!」


 ギリギリまで引き寄せたところで雄叫びを上げ、範囲威圧を返してやれば、足が竦み、恐怖に引き攣った顔をしながらも、これから何が起きるのかだけは理解したのだろう。


「くっ……ま、待っ…ッギィイイイぁあアアア!」

「ふざ、っぐぅォオオ……」

「ぁ……づッ……」


『【斧術】Lv7を取得しました』

『【手加減】Lv2を取得しました』

『【二刀流】Lv3を取得しました』

『【聞き耳】Lv5を取得しました』

『【疾風】Lv7を取得しました』

『【探査】Lv7を取得しました』



 過去に一度だけ試しで使ったきりだったが、あの当時より『知力』が大きく伸びたせいか、想像以上に範囲と威力が上がっているな。

 それに相変わらず、体毛が豊かな獣人相手だと火は相性が良い。


 ――【発火】――


「クヒッ!」

「……ッ!?」


【飛行】しながら灼熱の海を潜り抜ければ、突然の猛火に慌てふためく後衛職の群れ。

 着地と同時に剣を真横へ振り抜き、向けてきた杖をへし折りながら、視界に入る傭兵達の身体を二つに割っていく。


『【暗記】Lv6を取得しました』

『【結界魔法】Lv2を取得しました』

『【結界魔法】Lv3を取得しました』

『【結界魔法】Lv4を取得しました』

『【魔力譲渡】Lv4を取得しました』


「穿てぇえええ! "氷牙"ッ!」


 悲鳴とは異なる声が聞こえたのは後方から。

 視線を向けると、目の前には既にいくつもの鋭利な氷塊が存在していた。


「ッ……」


 5つ、6つと着弾し、思わず一歩後退するも、この程度の痛みならば問題はない。


「そ、そんな、なんだよその纏う炎は!?」

「さぁ? それより自分の心配をした方が良いですよ」


 炎を纏った剣を振り上げれば、咄嗟に氷の壁を生み出そうとしているがどうでもいい。


「くっ! 我が身を守れ、氷壁……ッ……」

「あってもなくても、結果は大して変わりませんから」


『【光属性耐性】Lv1を取得しました』

『【氷魔法】Lv7を取得しました』


 これで右方に固まっていたやつらは全滅か。

 次は中央――、そう思って視線を向けた時。


「調子に乗んなよ異世界人がぁああああああッ! 【挑発】!!」

「ッ!?」


 唱えたのは、ばあさんくらいに強いと判断したうちの一人。

 盾は持っておらず、かなり大きな特大剣を上空に掲げていた。

 視線はその男に向き、その男以外は目に入らなくなる。

 考えてみれば、初めての経験だった。

 理性は――、まだ働くが、それでもこの男を殺したい衝動はかなり強く、自然と俺の足は駆け出してしまう。

 抗おうにも、速度を緩め、周囲に無理やり視線を向ける程度の効果しかない。


(まぁいいか……)


【不動】を使い、自分の足を強引に止めるという手もあった。

 が、身動きの取れない時間を考えれば、今はそのまま攻めた方が良い。

 都合良く、向かう先には待ち構えるように武器を構えた傭兵達がおり、その者達の背後には詠唱に入っている後衛職も多くいた。


『風よ、動きを封じ――


 詠唱しながらも、先に切り替えておいた大剣を全力で斬り上げる。


 ガキン――ッ!


「ぬぉおおッ!? どこからこの武器を……ッ!!」



 一人も、逃がすな』


 目の前の男が振り被る特大剣を強引に弾いたところで詠唱が完了し、周囲を身体が浮くほどの暴風が襲う。


「でけぇ! は、話が違うじゃねぇか……ッ!?」

「ぬ、ヌグォオオオオッ……この、魔力……」


 ギニエでアシューが使えていたのなら俺でも使えるだろう。

 イメージは拘束力に特化させ、より範囲を広く、強力に。

 絶対に、一人も逃がしはしない。

 まずは、全員を捕らえ、そこから狩る。


『周囲の、烏合を―――』


「まずい!」

「ま、また『風』か!?」

「ハッ……ふ、ふざけ、やがって……!」


『一人残らず、皆殺せ、"天雷"』


「冗談じゃ……っ……」

「ッ……クソがぁああああッ!!」

「抜け出……ぃギィイイイイイイッ!」


『【封魔】Lv5を取得しました』

『【魅了耐性】Lv3を取得しました』

『【遠視】Lv7を取得しました』

『【忍び足】Lv6を取得しました』

『【庭師】Lv2を取得しました』

『【光魔法】Lv6を取得しました』

『【魔法射程増加】Lv4を取得しました』

『【芸術】Lv5を取得しました』


まるで蜘蛛の網に引っかかった虫のように。


『【暗器術】Lv4を取得しました』

『【暗器術】Lv5を取得しました』

『【暗殺術】Lv1を取得しました』

『【暗殺術】Lv2を取得しました』

『【暗殺術】Lv3を取得しました』 

『【暗殺術】Lv4を取得しました』

『【発動待機】Lv4を取得しました』

『【罠探知】Lv4を取得しました』

『【魔力操作】Lv7を取得しました』

『【魔力感知】Lv7を取得しました』


手足をバタつかせて必死に足掻くも、"天雷"を撃ち続けることで次第にその動きは鈍くなっていく。


『【両手武器】Lv5を取得しました』

『【挑発】Lv6を取得しました』

『【槍術】Lv7を取得しました』

『【絶技】Lv7を取得しました』

『【心眼】Lv6を取得しました』

『【奴隷術】Lv5を取得しました』


(あと生き残りは――……チッ)


『【剣術】Lv8を取得しました』

『【身体強化】Lv7を取得しました』

『【二刀流】Lv4を取得しました』

『【鋼の心】Lv6を取得しました』

『【物理攻撃耐性】Lv7を取得しました』



 【探査】と【気配察知】を併用しつつ、目視で生き残りの数をカウントしていると、最後の最後で一人、不可解な動きを取る者が現れた。


「面倒なことを」


 視線を向ければ、がむしゃらに東へ走る一人の獣人。

 その尻尾は、先ほど俺に逃げるなと警告した、狐のようにも見える。

 ははっ、逃がすわけが、ねぇだろ。


 ――『転移』――


「あヒッ!?」


 行く先を塞ぐように前へ出れば、俺の雷に何発か打たれたせいか。

 体毛は焦げ縮れ、黒く膿んだような部分がいくつも見える、哀れな獣人の姿がそこにはあった。

 だが心なしか、その傷がゆっくりと再生していっているようにも見える。

 まぁどうでもいいか。

 スキルは視えずとも、コイツを殺せばその理由も分かる。


「逃げるなんてツマらないことしちゃダメですよ?」

「ハッ……ハッ……こ、ここまでとは聞いとらん! それにその、禍々しい魔力はなんなのだ!?」

「これから死ぬ人が知ったところで意味はないでしょう」

「ま、まま待てぇい! な、ならばおぬしの下につこう! 傭兵ランク14位のワシを生かせば希少な能力はがぁ……ッ……!」

「必要ありません。自分で使いますから」

「ふ…ぐっ……な、なにを、言って……?」


 ……すばしっこいな。

 腹や頭から血を流してなお命乞いをするも、そんなのは今更だ。

 戦争に参加することを罪とは思わないが、あわよくば俺を殺し、特別報奨とやらで何かしらの甘い汁を吸うつもりだったのだろう?

 最初から敵対なんてしなければ良かった、それだけの話だ。


「殺すつもりで戦った以上、あなたはもう僕の餌、大人しく死んでください」

「ま――『ピュッ……』………」


『【読唇】Lv1を取得しました』

『【読唇】Lv2を取得しました』

『【杖術】Lv7を取得しました』

『【魔法攻撃耐性】Lv5を取得しました』

『【神聖魔法】Lv1を取得しました』

『【神聖魔法】Lv2を取得しました』

『【明晰】Lv7を取得しました』


 はぁ――……


「ご馳走様でした」
352話 神聖魔法

 傭兵達の装備や遺品も何かしら使えるモノがあるかもしれない。

 そう思って死体ごと回収しながら得られたスキルを眺め、嬉しいやら悲しいやら。

 なんとも言えぬ結果に、苦笑いを浮かべてしまう。


 条件クリアで解放される上位スキルがいくつか手に入った――これは素晴らしい結果だ。

【暗殺術】やかなり興味のあった【神聖魔法】。

 どこかでレベル1だけは取得していたけど使いどころの無かった【結界魔法】も、ある程度スキルレベルが伸びたことで今後使える場面も出てくるだろう。

 それに【剣術】をはじめ、取得済みの高レベルスキルがここで複数伸ばせたのはかなり大きい。

 スキルの内容だってもちろん重要だが、同等かそれ以上に高レベル帯でのステータスボーナスは強さに直結してくる。

 詳しい上昇数値は手帳を見ないと分からないけど、これだけのスキルが上がれば、鈍っていたステータス数値の伸びにもかなりの期待が持てそうだ。

 しかし――レベル9の壁が、恐ろしくぶ厚い。

 それが今回の結果でよりはっきりと分かってしまい、戸惑いを隠せないでいた。

 大人なら誰もが相応の水準で所持している【異言語理解】と、強者であるほど高レベルの所持率が高い【隠蔽】。

 既にスキルレベル8を所持しているこの2種くらいは、今回の戦いでレベル9に上がるかもしれないと内心期待し、戦う前の数値も確認していたのだ。

 しかし、上昇した結果は【異言語理解】が4%で、【隠蔽】が13%。

 傭兵が選択するような戦闘系職業であれば、まずこの2種に職業加護なんて乗らないだろうと踏んでいたのに、それでも僅かこの程度しか経験値が伸びていない。

 つまりこのクラスを500から1000人くらいは殺らないと、レベル9には到達しないということ。

 となれば、いったいスキルレベル10の時にはどうなってしまうのか。

 想像しただけで眩暈がしてしまう。


(レベル9ならまだしも、レベル10を目指すならこの程度じゃダメ……さらなる大物、より強いヤツらか、桁の違う数を……)


「ロ、ロキ……?」


 気付けばマルタの城壁は見上げるほどに近くなっており、その下に集まるラグリース側の人達は、多くが俺を見つめていた。


「あ、あぁ、すみません。ちょっと考え事をしてまして」


 誤魔化すように苦笑いを浮かべるも、胃をギュッと締め付けられたような感覚は途端に強くなる。

 ウィルズさんだけはいつもと変わらなそうだが、他は皆、分かりやすく顔が引き攣っているのだ。

 いくら覚悟を決めたからと言っても不安がなくなるわけじゃない。

 あれだけ派手に魔法を連発したのだから、俺の魔力だって見ていたはずで――


「すっげぇーじゃん!」

「え?」


 声を上げたのは、まったく身に覚えのない青年。

 たぶん先ほどの戦闘には参加していたのだと思うが……正直記憶にはなかった。


「あんな派手な戦闘初めて見たぜ! なぁ、アンタ異世界人なんだろ? 神様からスキル貰えるってのはマジなのか!?」

「え、っと……え?」


 なんだ、この青年は。

 先ほどの表情から一転して、今は興奮した面持ちで俺に迫ってくる。


「あ、あの! 身体に火を纏わせるのって【火魔法】ですよね!? あれってどうやるんですか!?」


 と思ったら、もう一人いた。

 この女性はなぜか、俺の両手まで握ってくる。

 顔が、近い。


「いや、あれは【火魔法】ともちょっと違くて、ですね。なかなか難しいといいますか――」

「バカモン! 礼儀を弁えんか!」

「うぶっ!」

「んにっ!?」


 二人にゲンコツ食らわしたのは、足元に巨大な盾を置いた渋いおじさん。

 ふーむ、今更だけどオランドさんよりも明らかに強く、ウィルズさんと――……うえ?

 いやいや、どういうことか分からないけど、ウィルズさんと並んで、この中ではトップクラスに強い。

 うーん、ウィルズさんってばこんなに強かったのか……


「うちのパーティメンバーが無礼なことを、大変申し訳ない」

「いえいえ、そんな、大丈夫です」

「そして、この場を代表して言わせてもらおう。我らを救ってくれたこと、心より感謝する」

「……」


 深々と頭を下げてくるおじさんに、俺はなんと言葉を返したらいいのか分からくなる。

 俺は人命救助などという高尚な目的のために参戦したわけではないのだ。

 多くは結果的に救われただけであり、救おうと思って行動したわけではない。


「正直、どれほど相手戦力を削れるか、玉砕覚悟の戦いになっていた。ロキ殿が一人で立ち向かった時は肝を潰したが、異世界人と聞けば納得もする」

「俺にも内緒にしておくとはなぁ……しっかし、デボアの小金蟻はこれで絶望的になっちまったな、ノディアス」

「あぁ、そういうことか。ロキ殿が倒したというのなら、これは確かに絶望的だ。出現したところで明らかに戦力が足りていない」

「あのーオランドさん? 誰が倒したかは、秘密にするんじゃなかったでしたっけ?」


 このおっさん、またやらかしてくれた気がするんだが?


「そ、そういえばそうだった、かもしれん。がはっ! がははははがっ……うぐっ、いだ……」

「おい、オランド! かなり簡易の処置しかできていないのだから、動けばすぐに傷口など開くぞ!」


 地面に座り込んでいたオランドさんは相変わらずのボロボロで、鎧の隙間からは血が滲み出ていた。

 右腕も爛れているのか、おかしな色に変色しているし、片目はたぶん、深さからして瞼の傷だけでは済んでいない。  


 ふぅ――……


 大きく、一呼吸。

 最初はどうなるかと不安を抱えていたが、たぶんこの人達なら大丈夫――そんな雰囲気に後押しされて、目の前で【回復魔法】を使った。


『周囲の、傷を、癒せ』

「「「……」」」


 死体は俺が殺した傭兵連中だけでなく、ラグリース側にも多く存在していた。

 死者が出るほどの攻撃を受けていたのだから、誰がどこまでの傷を負っているのか分からない。

 だから一先ずは全体を。

 ついでに試すのなら丁度良いと、オランドさんの腹部に視線を向ける。


「オランドさん、お腹の傷はどうです?」

「痛みはまだ残っているが……助かった。血は止まっているっぽいな」

「それは良かった。なら次はその目が治るか試してみますか」

「左目は完全に視界を失っているんだぞ? そんなことまでできるのか?」

「それはやってみないとなんとも。でも試す価値はあるかなと」

「そうか……なら済まないが、こっちの腕にしてくれないか?」


 そう言われて差し出されたのは、未だボロボロの右腕。

 血はある程度止まったようだが、色は変色したままで明らかに普通じゃない。


「ここの東が終わったからマルタが無事ってわけじゃない。とっとと街の中を荒らしているヴァルツ兵どもをぶちのめさなきゃならんのに、この腕じゃ満足に武器も振れんのでな」

「なるほど。それならどちらも試してみますよ」

「いやいい、この目は自分自身への戒めだ。ギルドの運営ばかりに目が向き、ハンターであることを忘れていたからこんな有様になる。それにな……」


 オランドさんの視線は、横にいた渋いおじさんへ。

 するとおじさんは、申し訳なさそうな、それでいて力の籠った眼差しを俺に向ける。


「ロキ殿には南も救出に向かってほしいのだ。今レイモンド伯爵とモーガス殿がたった二人で押さえているはずだが、敵はヴァルツ国内で3位と9位に位置する一桁ランカーの傭兵。かなり厳しい戦いを強いられていることはまず間違いない」

「縞模様の獣人と、小人の獣人ですか?」

「そうだ。特にファニーファニーはここにいた連中とはまったく質が違う。魔力も極力温存しておいた方が――」

「倒せるかどうかは別として、南側にも行きますよ。元々僕はその二人を殺しに来たんですから」

「え?」

「それより7位の傭兵もこの街にいるはずなんですけど、その男も南側ですか?」


 空の旅をした兵士は確かに言っていた。

 南部侵攻軍には3人の一桁ランカーと、100名近い傭兵が参戦していると。

 3位と9位の所在はこれで分かったが、問題は7位。

 弓を得意とし、大型の鳥を従えるような男は、間違いなくこの場にいなかった。


「そ、それは本当か? 南部侵攻に加わっているとするなら、たぶん誰も見ていない。レイモンド伯爵も掴んでいない情報だろう」


 しかし所在は掴めない。

 不気味で気持ち悪い存在だ。

 一桁ランカーに遠距離から狙われる可能性を残すというのは非常に気が揉む。

 ……自然と視線は空へ。

 上空からの狙撃を想像するも、そのような怪しい鳥の姿は見られない。


「相手兵士から得た情報なので、約10万という兵数、南部侵攻の目的がマルタを落として王都を孤立させること、西に陣を敷く南部侵攻軍の司令官がアトナーという男であること――この辺りが一致しているなら信憑性は高いと思います」

「そうか……ならば我らも用心しておこう」


 今は探している余裕もないし、兵士の中に紛れ込んでいたら見つけるのは至難。

 これは街の中も一筋縄ではいかないな。

 そう思いながらオランドさんの手を取り、初めての【神聖魔法】を詠唱する。


『この手を、治せ』


 内容は【回復魔法】と大して変わらない。

 しかし身体から引っ張られる魔力の量が明らかに違う。


【神聖魔法】Lv2 魔力消費200未満の神聖魔法を発動することが可能


 説明ではこのようになっており、どこまで治せるかは判断がつかず、魔力の消費基準だけが10倍に膨れ上がっていた。

 たしかにこんな魔法を連発していたのでは、これからの戦闘に差し支えるが……

 それでも今回の戦いで魔力総量は上がっているし、いざという時のために効果は今のうちから把握しておきたい。


「「「おぉ……」」」


 周囲から感嘆の声が漏れる中。

 先ほどとは違う、濃厚な黒い魔力が腕に絡みつき、皮膚の中へ浸透するように沈んでいけば、次第に腕の色が正常な肌色へと戻っていく。


「異世界人の魔力って、違うのは色だけなのかな?」


 そんな時。

 唐突に思いがけない言葉を発したのは、先ほどゲンコツを食らっていた例の青年だった。

 思わず周囲に視線を向けるも、この言葉に大きな反応を示す者はおらず、横にいた女性が『密度』や『濃度』なんて会話を青年と進めているくらい。


(だから皆、この色を見ても平然としているのか……?)


 "異世界人だから魔力が黒い"というのは、女神様達から|魔《・》|人《・》|種《・》|以《・》|外《・》|に《・》|あ《・》|り《・》|得《・》|な《・》|い《・》という答えを教えてもらっている俺ではまったく出てこなかった発想。

 さすがにこの部分を神様が間違えるとは考えにくいので、実際はハンスさんも勇者タクヤも、まず魔力は正常な青紫だと思う。

 だが、公にされている異世界人が僅か4人となれば、大半の人達は異世界人の魔力など見たことがないわけで。


(だからこんな勘違いをする人もいるわけか)


 俺が『異世界人』と名乗ることで生まれる『誤解《メリット》』。

 先ほどの狐獣人は違ったし、全員が全員というわけではないだろうけど、それを知れただけでもかなり大きいな。


 まぁ、今はそれよりも『南』だ。

 回収していたラグリース側の遺体を彼らに託しながら視線を向ける。


「それでは行ってきますので、街の中はお願いしますね」

「あぁ、任せておけ。腕がまともに動かせるのなら、ヴァルツの兵くらい薙ぎ倒してくれる」

「ロキ殿、レイモンド伯爵を……マルタを救ってくれ」


 奮起するオランドさんの横で、改めて頭を下げるおじさんに視線を向けるも、俺は言葉を返さない。

 マルタにいる知り合いは救えるならそうしたいと思うが、見知らぬ貴族を救いたいなんて気持ちは微塵にも湧いてはこないのだから、軽はずみに約束などしたくもない。

 一桁ランカー二人を抑えるという、その伯爵の強さには興味も湧くが……

 あくまで、俺は俺のために。

 自分を殺そうとする『敵』と、殺すべき『悪党』を殺す。

 そのつもりで、マルタ南部へと移動した。
353話 ここからが本気の殺し合い

 南部といっても、爆発音のようなモノが一度聞こえたくらいで、どこで戦っているのかは分からない。

 だから7位の存在も意識しつつ上空を飛行して向かえば、ベザートに向かう街道上。

 それこそマルタ南門の真南に位置する平野でいくつかの動く姿を捉えた。

 しかし、どうにも様子がおかしい。

 戦っているのは4人と聞いていたが、動く数はそれ以上にも見える。

 まさか、7位も参戦しているか?


 下降しながら【洞察】を使い――、ッ……。


 一瞬身体が麻痺したように硬直するも、意を決して地面に降り立てば、3つの視線がすぐに俺を捉えた。


 剣を支えに、辛うじて立っているように見える老人。

 どこかで会ったような気もするが、この人がおじさんの言っていたレイモンド伯爵か?


 そしてその老人と対峙しているのは、ローブを纏った俺よりも一回りは小さい男。

 覗く顔は決して子供のような幼顔ではなく、いくつものパーツを組み合わせたような、歪で不気味な"仮面"を連想させるが……

 それ以上に気になるのは、周囲で妙な動きをしている土や石の塊。

 アレに先ほど、上空からの奇襲を邪魔された。

 小男が気付いているような素振りを見せなかったということは、自動反応の類なのか。

 中にはどう見ても形が『ゴーレム』のような、人型の形状に寄せたモノまで存在している。


 そして問題は、肩越しにこちらを見つめている獣人だ。


(アルトリコさんよりもさらにデカいな……)


 聞いていた黄と黒の縞模様はまさに虎で、容姿には個人差があるも、明らかに今まで見てきた獣人の中でも獣寄り。

 背中を丸めていてもなお2メートルを優に超えるその体躯は、魔物と言われてもすぐに納得するほどの威圧感を発していた。


 ふぅ――……


 視線が合わされば余計に肌が粟立つも、このくらいであればまだ耐えられる。

【洞察】の結果が全てでないことは、ガルグイユ戦で既に判明していること。

 大丈夫、きっと大丈夫だ。


「アンタ、誰?」


 発せられた声だけは女性のモノだった。

 双眸を細め、剣呑な雰囲気を漂わせながら放たれた言葉に、俺は素直に答える。


「ロキと言います」

「異世界人の?」

「そうですね」

「おぉ!?」


 この答えに満足したのか。

 小男はやや興奮したような声を上げ、虎女は裂けたと勘違いするほど大きな口で嗤いながら、ようやく身体をこちらに向けた。

 引き摺るように、見覚えのある人を掴みながら。


「え? 町長……?」


 周りと比べても際立って黒い肌に、土埃で汚れていようが雪のように白いと感じる頭髪。

 それに今は力なく項垂れているけど、それでも分かる巨体は紛れもなくリプサムの町長だ。

 まだ生きてはいるようだが……

 アマリエさんといい、なぜこの町にいて、しかもランカー傭兵と戦っているんだ。


「ジルガ、アンタが頑なに『人』であり続けようとしたのは、コイツを待ってたから?」

「し……るか…よ……」

「うふふっ、向こうはアンタのこと知ってるみたいだけどねェ」

「……」

「まぁいいさ。現れるかも分からなかった『レア物』が、こうして目の前に登場してくれたんだ。アンタが呼び込んでくれたってんならお手柄もお手柄、お礼に最後は気持ちよく殺して――」

「あー、ちょっと待ってください」


 間違いない。

 このままだと、町長は確実に殺される。


「僕と戦いたいんですよね? なら二人は解放して街にでも帰してあげてください。そうしないと、このままマルタは捨てて王都に行きますよ?」


 だから矢継ぎ早に告げたのは、目の前の『餌』が消えるという脅しだった。

 二人の反応からして、東にいた傭兵連中と同等――もしくはそれ以上に俺と戦いたがっていることはまず間違いない。

 強いからこそ、より金では得られない"特別な報奨"とやらが現実的に見えているんだろうからな。

 虎女の言葉で、離れた位置にいる小男も動こうとしていた。

 伯爵だけなら強引に救出もできそうだが、町長はたぶん難しく、二人共なんて以ての外。

 ならば強者相手に力技より、口で攻めた方が可能性も上がるだろう。

 どうせ王都にいる傭兵連中も報奨を目的に動いているのは変わらないだろうし、何より王都攻めには、3位のファニーファニーよりもさらに上位の傭兵が参加していると、投げ捨てた兵士から聞いているのだから。


「黙って行かせると思ってんの?」

「行けますよ。僕がどうやってここに来たか分かってます?」

「あぁ……そういえばアンタ、空を飛ぶんだっけ」


 空を一度見上げ、納得したのか。

 虎女がパッと手を放せば、町長は力なく地面に崩れ落ちた。


「ふん、バリーに取られるのだけは許せないからねェ……コイツを仕留めたらジルガ、アンタをもう一度"解放"まで導いてあげるよ。エヴィゲラ!」

「へーい。まさかのレア物とあっちゃしょうがないですね」


「この御恩は、必ず、のちほど……」


 金属鎧を身に纏ったボロボロの伯爵は一礼し、横を抜けて町長の下へ向かっていくも、俺の視線が前方の二人から動くことはない。

 先ほどのような、余裕のある相手とは明らかに違う。

 ここからが本気の殺し合い。

 だが|こ《・》|の《・》|程《・》|度《・》を乗り越えられなければ、王都に向かったところでまず勝てる見込みはなくなる。


「姉さん。あの異世界人、見た目はガキのクセして、目つきがやべーんですけど……俺はあの目、苦手です」

「獣と同じ目してんねェ。エヴィゲラ、最初から全力で防御武装しときな。アタシらは傭兵、律儀に一人ずつ相手する必要なんてない」


 返事もないまま口が僅かに動き、青紫の魔力が放出された途端、小男の体中に土や岩が生み出されては張り付き、重厚な岩の鎧が形成されていく。


(早い……それに、不思議な使い方だ)


 次第に持ち上がり、巨大化していく小男の身体。

 そのまま顔まで完全に覆ったその姿は、まるで人型の歪なゴーレムに搭乗したような恰好になっていた。

 しかし、これでは終わらないらしい。

 手に纏わりついていた大きな岩の塊は、次第に『盾』のような形状に変化していき――

 ゴトン。

 そのままなぜか両の手とも地面に落ちれば、落ちた岩の盾は自らの意思を持ったように、不規則な動きで周囲を旋回し始める。

 その他にも時折視界を塞ぐように蠢きながら流れる土や岩の塊。

 それらに意識を向けていれば、失った部分を再生するように、新たな岩の手が形作られる真っ最中だった。


「くははっ」


 自然と漏れ出る笑み。

 自分の知らない使い方をしている者が、目の前にいるのだ。

 これらが果たして【土魔法】でできることなのか、それとも何か別のスキルが必要なのか。

 当然のように二人のスキルは見通せず、その答えは分からない。

 だが、殺せば分かる。

 この『悪党』を殺せば、きっと――


「ねぇ、もういいじゃないの?」


 待てないのか。

 長い舌で口回りを舐めながら、虎女は言う。

 ソッと視線を横に向ければ、肩を貸し、町長と共に町の方へ歩いていく姿はもうだいぶ小さくなっていた。

 たしかに、このくらいまで距離が離れれば十分だろう。

 ならば、まずはその性能を見させてもらうか。

 俺も傭兵。

 律儀に開戦の挨拶なんてする必要もない。


『放て、雷槍――


「あぁ?」


 まずは不足している|強《・》|さ《・》を補うために、


 ――高速で、外装を、ブチ貫けぇえええ!』


 横の小男を、全力で殺す。
354話 3位と9位

 パンッ――!

 バリバリと空気が裂けていくような音を鳴らし、直後の弾ける音と共に中身入りの岩塊が後方へ吹き飛んでいく。

 それまでの光景を眺めていると、高速の雷が相手だからか。

 旋回していた2枚の盾も、周囲を蠢めくように流れる土や岩の壁も反応できていない。

 それこそ、直撃。

 しかし、何かしらのスキル獲得を示すアナウンスは一切流れなかった。


(中まで伝わってない?)


 水場のようにはいかないことくらい理解していたが、どうやら雷とあの"岩の鎧"は、あまり相性が良くないらしい。

 となれば、物理的に崩せるかどうか。

 大剣を強く握り、小男を追うように飛行。

 そのまま岩の鎧ごとぶった斬る――、そう思っていたところで立ちはだかったのは虎女だった。


「女をほっとくんじゃないよ!」


 低空飛行していた俺の動きを阻害するように、飛びながら突き出してきた拳。

 それは押し迫る巨大な壁のようで。


 ――【硬質化】――


 避けきれないと察して防御に回れば、首が捩じ切れるような錯覚を覚えるほどの強い衝撃を受け、そのまま後方へ吹き飛ばされていく。

 着地し、頬を伝う感触に手を滑らせれば、それは鼻から垂れる血。


(速さはやや負け、力は【硬質化】も超えてくるか)


 悠長に分析している余裕はない。

 俺を追うように迫ってくる虎女は既に目前。

 打撃では想定以上にダメージが出ていないと判断したのか。

 虎女は拳を握らず、爪を刺し込むように手刀を繰り出すも、俺が受けに専念している状況ならばまだ辛うじて避けきれる。

 できれば後に回したい格上と、幾度となく交わされる攻防。


(くそっ、厄介だな……)


 大剣を握っていたのが仇になった――いや、大剣に合わせた動きを取られているのか。

 張り付かれ、剣を振り抜けるような間合いを満足に作らせてもらえない。


(そっちが、その気なら……!)


 ――【爪術】貫手――【硬質化】――


「グッ……」


 剣を強引に振ると見せかけ、こちらが左手を突き入れれば第二関節手前。

 その程度でも、俺の指が下腹部に刺さっていく。

 ならば、このまま燃やす。


 ――【発火】――


「ッ!?」


 虎女まで炎に包めば、身の危険を感じたのか。

【白火】へ繋げる前に自ら離れていくも、俺との接触から外れれば"火だるま"の完成だ。


「あ"あ"っ……」


 ここで初めて、身体中に纏わりつく熱を理解したのだろう。


(防御は想定通り、魔法防御はやや低めってところか)


 このままあっさり終わるとは思えないが、できればそのまま悶え苦しんでいろ。

 まずは今のうちに、小男を仕留め―――、



「グガァアアアアアアアアアアアア――ッッ!!」



 空気を震わすその雄叫びは、まさしく獣だった。

 何をどうすればこの結果に結び付くのか。

 直後には纏っていた炎が全て消え失せ、代わりに身体からは熱気、なのか?

 僅かに煌めく湯気のような靄《もや》が身体中から噴き出していた。

 なんだあれは?

 俺の知る知識で、答えに繋がるようなモノは何もない。


「クハッ! こいつが噂の"火纏い"かい! 意味の分かんない攻撃だねェ!」

「……あなたのその、身体中から放出されているモノも意味が分かりませんけど」

「うふふっ、アタシを倒せたら教えてあげるよ」

「初めからそのつもりです」

「……………倒せるならねェ」


 一瞬、虎女の視線が僅かに俺の横へ逸れた。

 と同時に【気配察知】で捉えたのは、背後から高速で迫る複数の飛来物。

 状況からして、あの小男が飛ばしてきた何かだ。


(まずは避け――)


 背後に意識を向けたのは一瞬だったと思う。


「  」


 それでも、既に巨大な拳は目の前にあり。

 先ほどとは違い、腕を前に出す余裕はなく。

【硬質化】を唱える時間すらなく。

 できたことは歯を食いしばり、せめてもの抵抗に、己の額を拳に合わせただけ。





 ゴッ――………





「……――ヴィゲラッ!」





 数秒だとは思うが、俺は意識を飛ばしていたんだと思う。

 虎女の叫ぶ声で我に返った時、俺の視界は空を映していたが、流れる風の強さが、物凄い勢いで飛ばされている現状を理解させてくれた。


「クソガキがぁああああああああ!!」


 別の叫びは後方から。

 とほぼ同時に、大きな岩の塊が空を塞ぐように見えた時――


 ドゴッ!


 既に自分がどうなったのか。

 何もしなければどうなるのかを理解した。


 ドゴッ!


「ギギッ! 目玉も! 脳みそも! 全部! ぶちまけろ!!」


 ドゴッ!


「そのムカつく顔ボコボコに砕いて、笑える顔にしてから肥溜めに漬けてやる!」


 聞くに堪えない罵声とともに、続けざまに数度、殴るように振り下ろされる巨大な岩の腕。

 自分の身体が地中にめり込むたび、顔や上半身を潰された人達が。

 壁のように一つの塊となっていた子供達が何をされていたのか。

 ここまでくれば容易に想像できてしまう。


「チッ……丈夫な虫は、つまらない」


 攻撃が一度止み、覗き込むように俺を見下ろす小男。

 器用なもんだな。

 覆っていた一部を消したのか、岩の隙間からは顔だけを覗かせていた。

 と同時に周囲の土が纏わりつき、俺を強引に引きずり出していく。

【不動】の効果で身動きが取れず、俺はされるがまま。

 目に頼らずとも、俺の手足が冷たい岩で覆われていき、最後には岩の腕が2本。

 覆いかぶさるように俺を拘束し、他の岩と繋がっていった。


(あぁ、そういうことか)


 視界の先には、悠然と歩きながら、拳に力を籠める虎女。

 どうやら俺は小男のゴーレムに抱えられ、これからサンドバッグになるらしい。

 ……懐かしくて、反吐が出る。


「エヴィゲラ、もう大丈夫なの?」

「大丈夫です。ここまで強固にすれば空には逃げられないですし、姉さんが本気で殴っても吹き飛ぶことはありませんから」

「うふふっ、どう? これから腹に大穴開けられる気分は」

「既に経験しているので、今更ですね」

「あァ? ったく、ムカつく目してんねェ」

「ははっ」

「なに? 空を飛ぶ、雷を放つ、炎を纏う――それ以外に【剣術】や【体術】もそれなりなんだろうけど、この状況をひっくり返せるほどの奥の手でもまだ隠してんの?」

「いや、特に。あなたで穴を空けられるのかなって、そう思っているだけです」

「ふふ、うふふっ……」


(さて、どちらでいくか)


 【気配察知】を使用したとしても、動きがなければ背後の状況を正確には測れない。

 【魔力感知】で流れる魔力を頼りにという手もあるが……

 ここは魔力消費が多少増えようとも、確実性を取った方が賢明か。


 おまえらが望んだ状況でもあるのだろうが、俺もやっと、二人を引き離すチャンスがここに来て生まれた。

 絶対に逃せない。

 判別はしつつも、確実に、殺す。


 ズシリズシリと、重みを感じる足取りで歩み寄る虎女。

 その小さな瞳孔は一点に俺を見据え、怒りのせいか、握る拳は僅かに震えているようにも見えた。


「そんなにお望みなら、腹が千切れるくらい大量の穴を開け――――」



 ――『転移』――
355話 一人目

『オールヒール』


 自分の身体に纏わりついていた岩の塊は『収納』し、傷を回復させながらも周囲を見渡す。


(んーやっぱりいないか……)


『転移』した先は、先ほど戦っていたマルタ南の上空。

 急に現れれば姿を確認できるかと思ったが、やはりそれっぽい鳥の姿は見当たらず。

 7位の行方は依然として不明のままだ。

 兵士は傭兵も上位になると派閥が作られ、その派閥が違えばだいたい仲は悪いと言っていた。

 だからあの時、ギリギリまで虎女を引きつければ、どこからか遠距離の攻撃が飛んでくるのかと思ったがそれもない。

 3位と9位は明確な仲間意識――というより主従関係に近い印象があるので、もしかしたら7位も同じ派閥なのかもしれないが……

 少なくとも、マルタの南部にはいない。

 そう結論付けても良さそうなくらいには、動きが何も無さすぎる気がする。


「え? あ、空?」

「あぁ、やっと我に返りました? えーと、エヴィゲロ――、変態クソ野郎」 

「こ、このガキッ! オマエ、何をした!?」

「空に飛んできただけですよ。良い景色でしょう?」


 わざわざ動きを止め、俺を押さえてくれていて本当に助かったな。

 ちょこまかと動かれていたら、こうして一緒に『転移』することは叶わなかった。


「あの状態で飛べるわけないだろ! それに一瞬で……え? 一瞬で?」

「あなたが慕い、守ってくれる虎女では絶対に辿り着けない場所です。ここからあなたの、本当の力量が試されますね」


 そう告げた途端、小男は怯えたような目つきに変わり、


「と、閉じろォ! "土装武甲"!」

「……」


 顔の部分だけ開いていた窓を閉じようとする。

 へぇ~なるほど。

 土がない上空でも、他から回して埋めることができるのか。

 まぁ、させないが。


「ふグェッ!?」


 閉じきる前に勢いよく手を突っ込めば、何か丸いモノを指で押し込んだような感触がしたけど、そんなことはどうでもいい。

 そのまま俺の腕を包むように岩は閉じていくので、一つの疑問を解消すべく魔法を唱える。


『大量の、水』

「ブゴォ……!」


 俺の手から溢れるように水が生まれ、急速に中の空間が満たされているのか、くぐもった呻きが聞こえてくる。

 と同時に、岩から漏れ出るように、細い水の線が遠い地面に向かって垂れていった。

 一応どこかに空気穴は用意されていたらしい。

 この程度の量じゃ、排水がまったく間に合っていないけど。

 このままいけば溺死させられる――それを理解したんだろうな。

 ボロボロと剥がれ落ちるように纏っていた岩が落下していき、僅か30秒ほどで眼窩に深く指を突っ込まれた、情けない男の姿がお披露目された。

 改めて見ても特徴的な顔だ。

 モグラ、サル、ネズミ……他にもあるのか?

 いくつかの獣がキメラのように混ざったような、そんな印象を受けてしまう。


(生きづらかったのかもしれないけどさ……)


 でも、だからなんだという話だ。

 何もしていない人達を肉塊に換えて良い理由は一つも出てこない。

 色々な理由をバネに強くなれたのなら、そこで止めておけば良かったんだ。


「さぁ、そろそろ行きますか。あまり待たせると、下で右往左往している虎女が街に向かってしまいそうですしね」

「あがっ、な、何をする……」

「あなた、人を潰してミンチにするのが好きなんでしょう?」

「そんな、こと」

「だから、あなたもしてあげますよ。盛大に」

「ッ……ま、まって」


 これ以上男の言い分なんて聞く必要もない。

 やるべきことはただ一つ。


 ズズズズズズズ――……


「は、羽ッ!?」


 これ以上ない速度で下降し、


「ヒギィイイイイイイイぃぃイイイイイイイイイぃッ!!?」


 地面に叩き付ける。


「詫びながら、全てをぶちまけて、死ね」


 それだけだ。



 ――【投擲術】――





「ぁ」





 ぎりぎりまで加速したところで、指に引っ掛けていた頭部を全力で投げれば、爆発したような音と共に土煙が濛々と舞い上がる。


『【魔法射程増加】Lv5を取得しました』

『【気配察知】Lv8を取得しました』

『【土魔法】Lv7を取得しました』

『【手加減】Lv3を取得しました』

『【手加減】Lv4を取得しました』

『【省略詠唱】Lv6を取得しました』

『【鋼の心】Lv7を取得しました』

『【土操術】Lv1を取得しました』

『【土操術】Lv2を取得しました』

『【土操術】Lv3を取得しました』



(ふーん、【土操術】ね)

 
 やっと、一人目。

 欲を言えばすぐに色々と試してみたいところだけど……

 待ち焦がれていたもう一人が放っておいてくれそうにない。


「どっかに逃げちまったのかと思ったけど、ちゃんと戻ってきたようだねェ!」


 離れた位置から聞こえる、少し苛立ちの混じった女の声。

 砂埃の先に見えた小さな影が、どんどん俺の方へ近づいてくる。


 ――【身体強化】――

 ――【魔力纏術】――魔力『1000』


 いつでも戦闘が開始できるように、今はただ準備を。


 ――そして、砂塵が落ち着いてきた時。

 落下地点に目を向ければ、出来上がった小さなクレーターは僅かに赤い斑点を残すのみ。

 周囲には人の原型をほぼ留めていない、大小様々な『欠片』が無数に転がっていた。

 クレーターを挟んで向かいには、僅かに動揺した表情を見せる虎女。


「もしかして、これがエヴィゲラ?」

「そうですよ。そういう趣味があったみたいなので」

「……そう。で、その黒いのは、何?」

「どうでもいいじゃないですか。それよりやっとあなたに集中できる」

「ほんと、ムカつく目してんねェ……」


「始めましょう、ここからが本番ですよ」
356話 英雄とは

 マルタの南門を囲うように設置された側防塔。

 見張りをしていた数名の兵に抱えられながら運び込まれた男は、戦場となっている街に戻ることもできず、その中で治療を受けていた。


「私の【回復魔法】で、この深い『穴』を治すことは……」

「それでもやれるところまではやるのです。閣下を――この街を守ろうとした英雄を決して死なせてはなりません」

「死なねぇ、よ……クソ……それに、守れても、いねぇ……」

「閣下が立ち塞がらなければ、他に誰があの獣を食い止められたというのですか」


 手足にいくつもの穴を開けられ、出血と痛みで意識が朦朧としているレイモンド伯爵。

 その横では執事であるモーガンが指示を飛ばすも、自身も先ほどまで戦い続けていたために手傷は多く、壁に背を預けてからは一歩も動けないでいた。

 獣への解放を促すため、ファニーファニーから受けた拷問のような傷は、目を背けたくなるほどの酷い有様。

 殺さないことを前提にしていたのであくまで手足だけだが、それでも肉を抉る深い穴が20箇所以上空けられている。


「だ、だめです! お屋敷にも既に火の手が上がっていると! それにヴァルツ側がもう嗅ぎつけたのか、こちらに多くの兵が集まってきています!」

「取りに行くことも難しいですか……」


 モーガンが指示をしていたのは、伯爵の身に何か起きた時用として、1つだけ屋敷に保管している『丹薬』を取りに行けるかどうか。

 中級ダンジョン以降で極稀に拾えるそれは、服用後に丸一日は掛かるも、部位欠損すら治すほどの効果があるとされていた。

 屋敷が燃えていたとしても、本当に重要な宝物の類は地下にあり、その入り口も隠されている。

 兵や傭兵が物盗りに入ったとしても、まず気付かれはしない。

 取りに行くことさえできれば――


「ならば、私が行きましょう」


 立ち上がろうと身体を支えたモーガンの手は小刻みに震え、少し力むだけでも激痛で顔が歪む。

 歯を食いしばって耐えればどうにかなる、そんな状態は遥かに超えていた。

 しかし、それでも、誰かが動かねば主の命が危ない。

 その一心で剣を杖代わりに立ち上がろうとするも、その動きを止めたのは他でもないレイモンド伯爵だった。


「止めて、おけ。今動いたら、本当に、死ぬぞ」

「しかし」

「死なねぇ、って、言ってんだろ。"血が濃い"ってのは、こんな時だけ、役に立つ」


 通常の人とは異なる、自然治癒力の高さ。

 突然変異に近い現象としてこのように確認されているだけで、この血の由来はなんなのか。

 レイモンドは深く探ったが、答えは見つかっていない。

 獣人よりも古く――、それこそ獣人の基となった獣の類からこの血は来ているのだろう。

 生まれながらに備わっている、特異な所持スキルから考察できてもその程度だった。


「そこの、見張り」

「ハッ!」


 レイモンドに突然声を掛けられ、肩が跳ね上がる一人の兵士。

「先ほど、兵が集まってきていると、言ったが、集まっているのか、逃げてきているのか、どちらだ?」

「そ、それは……た、ただちに確かめて参ります!」


 レイモンドは気になっていた。

 こちらが動いたことといえば、見張りの兵や南門の近くにいた騎士達が、【回復魔法】を使える者がいないか探し回った程度。

 城壁の上を伝って南に向かってきている敵兵はおらず、その程度でこの側防塔に辿り着くには、些か敵の動きが早過ぎる気もする。

 加えて最初に轟いた数度の雷鳴。

 あれは勘違いでなければ、街の東側から鳴り響いていた。

 そして、放ったであろう者――ロキがその後に南部へ現れたのだ。

 つまりは、ロキが東側の傭兵連中を壊滅させてからこちらに来た。

 その可能性が極めて高いようにも思える。

 もしそうであるならば――




 ドンッ!!




 それは目の覚めるような轟音だった。

 レイモンドは自然と監視用の小窓に目を向けるも、身動きが取れず、寝ている姿では空しか映し出していない。

 しかしその色は次第に濁り、土埃が広く舞っていることだけはすぐに理解できた。


「すまぬが、肩を、貸してくれ」

「か、閣下、お身体に障ります」

「構わん。それでも事態は、把握して、おきたい」


 居てもたってもいられない。

 それがレイモンドの正直な気持ちだった。

 先ほどまで、あの場で戦っていたのだから猶更だ。

 ロキが何かを成してくれたのか、それとも、逆か。

 フラ付きながらも2名の騎士に両脇を抱えられ、レイモンドは小窓から外に視線を向けた。

 最初は広く土煙が舞い、何が起きたのかすら分からない。

 が、次第に薄れてゆくにつれ、砂煙の中で二つの影を確認する。


 一つはファニーファニー。

 あの巨体なのだから、それはすぐに分かる。

 そしてもう一つ。

 小さい方の姿がどちらなのか。

 結果次第でこの街が終わる――。

 それほどの緊張感に息を飲みながら、霞む視界の中で目を凝らした時。


「ヒッ!?」


 悲鳴を上げたのは、横で支えていた騎士の一人だった。

 何事か。

 レイモンドは視線を転じることなく一点を見据えれば、


「……」


 悲鳴の理由をすぐに理解し、言葉を失った。

 先ほどの姿とはまるで違う。

 蠢く羽を背から生やし、黒い靄のような何かを全身に纏うロキをレイモンドは視界に捉え、呼吸を忘れたように固まってしまう。

 その姿は自身が持ち得るどの知識にも当てはまらず、どうすればあのような状態になるのか、皆目見当もつかない。

 腹の底から込み上げてくるのは恐怖。

 それはかつてハンターだったが故か。

 視線の先にあるその姿は、Sランク魔物とは比較にならないほどの強大な魔物に見えてしまい――。


「ヌグゥウ……ッ!」

「か、閣下!?」

「え、衛兵! 治療を!」


「いらぬッ!!」


 レイモンドは抉れた腕の肉に自らの指を突き入れ、眼を血走らせながらも呟く。


「誰が、俺達を救った……誰が今、代わりに戦ってくれている……ッ!!」


 それは自責の念であり、一時でも少年を魔物と称してしまった己への戒めだった。

 小男の姿はどこを探しても見当たらず、この地で誰も抑えることのできないファニーファニーと戦っているのは、紛れもなく少年ただ一人。

 他の戦力にはまだ対応することができても、あの女が街の中に踏み込めば、もうどうにもならないことなど、この場にいる全員が分かっていた。


「か、確認して参りました! 周辺の騎士や町民と交戦しながらも、必死の形相で"南門を開けよ"と……! 何かから逃げようとしている動きで間違いありません!」


 とそこへ、先ほど確認をしに行った兵士が、口早に現状を報告する。

 この言葉を聞いて、レイモンドはゆっくりと目を閉じ、モーガンは何が起きているのか。

 状況をおおよそ理解し、口を開いた。


「ノディアス、それにオランドが率いるAランクハンター達も、街内の防衛に回りましたか」

「だろうな。できれば、全員で、あってほしいが……東も生き残った、ということだ」

「ロキ殿に、助けられたとも言えましょう」

「違いない」


 自分達だけではない。

 マルタの街を、ロキは救おうとしてくれているのだ。

 きっと、そんなつもりはないと、本人は否定しながら。


「領主が、治めた街を、守るなんざ、当たり前のこと。あれを英雄と、呼ぶんだろうが……」


 ボソリと呟かれた領主のこの言葉に、先ほど悲鳴を上げてしまった騎士は、己の不明を恥じつつ――


「始まりましたね」


 窓の外で広がる、人外染みた戦いに視線を向けた。
357話 解放

 相対する二人の距離は20メートルほど。

 お互い出方を窺うも、動き出せばその程度の間など、詰めるのは一瞬で。


 ――『転移』――【剣術】力刃――


 わざわざ時間を掛ける必要はない。

 背後に回り、今持てる全力の力で首を斬り落とす。

 そのつもりで振り抜いた大剣は、纏わりついた黒い魔力の残像を残して空を切ってゆく。


「ソイツはさっきも見たんだよ!」


 やや離れた位置から聞こえた声の主は、俺の側面。

 揺らめくように身体から湧き出す靄は先ほどと同じで、拳を握り、腕は既に引かれていた。


(まだ間に合う!)


 ――【硬質化】――


 ゴッ!


「ッ――……」


 やはり、衝撃は如何ともし難い。

 勢い良く吹き飛ばされながらも現状を把握し、レベル1でも【魔力纏術】を使用した意味はあったなと、ここで痛感する。

 先ほどは一瞬意識を飛ばしたが、今は【硬質化】も使用すれば"なかなか痛い"程度で済んでいるのだ。

 あの小男を先に潰したことで、防御力が上昇していることも大きいだろう。

 僅かに煌めく靄が身体から溢れている時は、明らかに攻撃の速度が上昇している。

 それに威力も相当上がっていそうだが……

 なぜ、今は靄が出ていない?


『切り裂け、"穿嵐"』


「ぐっ」


 追撃を狙い、俺に飛びつこうとしたところに足先から魔法を放てば、虎女は呻きながら距離を取っていく。

 単純な時間経過とは違うであろうタイミング。

 発動条件があるのか、それとも任意でオンオフを切り替えているのか。

 妙な引っかかりを感じてしまう動きだな。

 それに、『見た』とは何をだろうか?


(試すか……)


 ――『転移』――


 一度まったく関係のない位置に移動すれば、それでも虎女は飛び引いたようにその場を離れ、大きく立ち位置を変えていた。


「へぇ……どこに移動するかは見えなくても、移動する瞬間は見えているわけですか」

「あぁ? 黒い円の中に吸い込まれていくんだから、当たり前じゃん」

「なるほど」


 何言ってんだコイツ、みたいな顔をしている虎女。

 だが俺にとってはなかなか衝撃的な発言だ。

 言われてみればその通り、『収納』でモノを出し入れする時は、フッと生まれる黒い入り口を通しているわけで。

『転移』も亜空間を通って移動しているのだから、そのたびに俺自身が消えるのではなく、その黒い入り口を行き来しているということになる。

 移動している本人では一瞬の出来事なのでまったく分からないし、人が『転移』する瞬間も使い手がいないのだからそう見る機会はない。

 ゼオやフェリンのを数度見ているはずだけど、消える瞬間なんてまったく意識していなかったしな……


「最初はその黒いのと同じ系統の何かかと思ってたけど、今の【風魔法】で確信したよ」

「ん?」

「アンタのそれ、身体の周りにあるのは魔力――【魔力纏術】使ってんでしょ?」

「ん~大事なことに気付けたお礼として答えておきますか。正解ですよ」

「うふふっ、黒い魔力とか、アタシ以上に魔物と勘違いされそうなヤツが世の中にいるなんて驚きだわ」


 そう言いながら腹を抱え、心底可笑しそうに笑う虎女。

 自白していることには気付いているのか。

 笑い飛ばしたくなるほどの何かが、今までにきっとあったのだろう。


 まぁいい。

 どのような過去があれ、今やっていることは紛れもなく殺し合いだ。

 お互いがお互いの死を求めているのなら、他の何かを考慮する必要もない。


(転移がバレるのなら、安易に使うのはかなり危険か……)


 しょうがないな。

 こうなれば奇襲ではなく、正攻法の手数で押し切るしかない。

 1段階ギアを上げつつ、攻め手を変えるとしよう。


 ――【時魔法】――


『自己加速、ファースト』

『対象減速、ファースト』




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 幾度とない攻防を繰り返して。

 アトナーの言った最悪の予想が徐々に現実味を帯びてきた。

 そのことに少しの危機感を覚えながら、荒い息を隠しもせずにガキの攻撃へ備える。 

 不可解なほどに緩急の強い変則的な踏み込み。

 その動きは左右だけでなく。


「上ッ!」

「力刃!」


 ステップの直後から低空飛行に切り替わり、上段から頭部を狙って振り抜かれる大剣。

 いなせる。

 潰れていた左手の甲で剣撃を逸らし、そのままガキの身体まで強引に流していく。

 狙うはその横っ腹。

 引いた右拳に力を籠めるも――


「ゴフッ」


『雷撃』


 強い衝撃とともに、視界がブレた。

 また、速度が上がったのか?

 顔を横から蹴り飛ばされ、おまけとばかりに電撃を浴びる。

 小賢しい……


「その程度じゃ効かないんだよ!」


 弾き飛ばされている途中で、強引に宙を|蹴《・》|り《・》|上《・》|げ《・》|れ《・》|ば《・》、唖然とした表情でこちらを見つめている異世界人。

 手札を隠しているのはアンタだけじゃない。

 手には魔力の塊――、撃たせやしない。


「グガァッ!」


 顔の前に回された、その腕ごと砕く。


 ゴッ――!


 そのつもりだったのに――クソッ、まただ。

 意表はついたはず。

 なのに、まだ砕けない。

 まるで金属鎧の上から殴りつけたような、手に残るこの不自然なほどの硬さはいったいなんなのか。

 一度だけ、エヴィゲラに向けてぶん殴った時は、通常の――それこそ、|確《・》|か《・》|な《・》|感《・》|触《・》を感じたのだ。

 何かがあるはずなのに、しかしその原因は分からない。

 本当に、異世界人とは小賢しい……


「それなら食い千切ってやるよ!」


 どこを――、喉、喉か。

 今までのように遊ぶ必要はない。

 喉元を喰らえば、異世界人だろうがなんだろうが大概は死ぬ。


 地面を豪快に転がっていくガキ。

 その上に覆いかぶさるように跳び掛かり、頭を掴み上げようとした時。


「喉ぉおおああ、っぐ……ッ…ふざ、け……」


 腹に感じる、鋭い痛み。

 何事かと己の腹を見やれば、蠢いていた羽のようなモノが、いつのまにか細い2本の槍に形状を変化させていた。


 グリッ。


 ……まずい。

 さらに、腹の中で動こうとしている。

 咄嗟に飛び退けば、そこにあった2本の槍は何かに変わるような動きを止め、ゆっくりと羽の形状に戻っていった。

 その奥には肩越しに、鼻や口から血を垂らしながらもこちらをジッと見据えるガキの……何を考えているか分からない眼……


「クソがァアアッ! 小賢しいんだよガキぃいいいぁあああッ!」


 あんな中途半端な攻撃でアタシが死ぬと思っているのか。

 想像以上に手札が多く、しかし大半は致命傷に至らぬ粗末な攻撃ばかり。

 手ぬるさを感じるからこそ、舐められ、遊ばれているような。

 そんな感覚に、神経を逆撫でされる。


「フッ……フゥ……ぶっ殺して、やる」


 もう、あまり時間がない。

 体力がもつうちに、なんとか――。


「?」


 踏み出そうとした一歩。

 しかし、その一歩があまりにも重い。

 な、んだ……

 自然と目は下に向き、そこで脚に纏わりつくドス黒い泥のようなモノを目にする。

 コイツは、見たことがある。

【闇魔法】、行動阻害を目的とする魔法だ。

 まだ、ここにきて追加で出てくるのか。

 このような、新手の、小賢しい手が。

 加えて、周囲には砂塵を巻き込み、全身を細かく刻む風の渦が生まれていた。

 毛並みを整えていると、勘違いしてしまうほどに威力の低い風刃。


「うふ、うふふふっ」


 これはもう、確定的だ。

 この程度でアタシが死ぬことはない。

 アイツはそれを分かってやっている。


 知らないようなフリして、アタシのスキルに気付いていた。

 もしくは、【闘気術】の欠点を理解したか。

 狙いはスキルを無駄に使わせ、体力の消耗を狙いつつの時間稼ぎ。

 どうせそんなところだろう。

 アタシがもっとも嫌がるところを突いてきた。


「ふふっ、コッチは連戦で相手してやってるってのに、本当に、四肢を引き千切ってやりたいくらい、小賢しいクソガキだよォ……」


 来ないと思ってスキルを切れば、深手を狙う一手も織り交ぜてくる。

 だから安易に切れない。

 油断できない。

 でももう分かってきた。

 近接戦だ。

 あのガキは致命打を狙うなら、どういうわけか近接戦で仕留めようとしてくる。

 "火纏い"を無効化した……たぶん、そのせいか。

 得意なはずの【雷魔法】をアタシには牽制程度にしか撃ってこないのは、魔法効果が薄いと。

 本命では使えないと、そう判断しているに違いない。


 砂塵の先。

 急速に接近してくる影は、本気で狙いに来ている。

 なら、丁度良い。

 ここだ。

 こっちも、ここで仕留める。


 ――【闘気術】――


 さぁ、竦み、震えろ。


 ――【威嚇】――


「ガァアアアアアアアアアッ!!」


 けたたましく響く"咆哮"。

 一部の獣人が持つ種族固有スキルなら存在を知らない可能性も高い。

 それに【威圧】の上位互換とも言えるコイツであれば、目を合わせなくても効果が―――。



「え? エヴィゲラ?」



 ブシュッ――……



 圧により砂塵が薄れ、その中からこちらに向かって飛び出してきたのは、岩で形作られた歪なゴーレム。

 不格好なそれは辛うじて人の形をなしており、手には同じように岩で形作られた"大剣"が添えられていた。

 そして視界は半分閉ざされたが、自分の前に飛び出ている、それこそ見覚えのある本物の大剣。

 まだ首は繋がっている。

 たぶん、半分近く。


「な、んで……?」


 でももう、首は回せなかった。

 前方の不出来なゴーレムを見据えながら問えば、異世界人は感心したような素振りで答えてくれる。


「さすが3位、全力でいったのに、首を一発で落とせなかった人は初めてですよ」

「……」

「視界が塞がれた時、魔法を撃つ気配のないアナタが目と【気配察知】だけに頼っているようなら騙せる。そう思っていましたけど……騙されてくれて良かったです」

「この、ゴーレム、作ってから……一切、動かなかった?」

「ええ。動かなければゴーレムを僕だと勘違いするでしょうから」

「ふ、ふふっ、やっぱり、人は、小賢しい……異世界人は、特に」

「……」


 妙にゆっくりと流れる時間。

 痛みというのはあまりなく、薄れてゆく意識の中で、これで終わりかという、どこか達観した気持ちと。

 やり残したこと、やりたかったことがまだまだあったという、生きることへの執着、ここで潰えることへの後悔が入り混じる。


(|解《・》|放《・》、か……)


 まさかジルガに促しておいて、自分自身がその選択を迫られるとは思っていなかった。

 果たして人に戻れるのかどうか。

 そもそも解放すれば、どのようになるのか。

 気軽に試すこともできず、試せる資格を持つ者も滅多におらず。

 それこそこの先は、強くなり、姿が変わるというくらいで、他は未知と言ってもいいほど何も分からなかった。

 たぶん戻れても五分。

 可能性でいえばそのくらいだろう。

 知っている中で確実に戻れている二人ほど、アタシの血は格別に濃いわけじゃない。


 ――使わずして、死ぬか。

 ――使おうとも、傷が深過ぎるこの状況では使えないか。

 ――使い、何を成すかも分からぬ本物の獣に成り下がるか。

 ――使い、この異世界人を殺してから身を隠し、傷が癒えた後にいずれ人へ戻るか。


 舞う砂埃さえ止まったように見える世界で逡巡し、あぁ、と。

 今更一つの事実に気付く。


(たぶん、アタシはもう、一人だ)


 どこにでもついてくるエヴィゲラは死に、東にいた派閥の連中も、たぶんもう死んだのだろう。

 あの時、連続した雷鳴の後、この異世界人が現れたのだ。

 それ以降に他所で雷鳴が轟くこともないのだから、この異世界人が南にいる時点で、つまりは全員死んでいることになる。




 ――【獣血】――『解放』――




 そのことに気付けば、迷いもなくなる。

 一人なら、もうどうでもいい。

 自我があってもなくても、すぐに死んでも生き延びても。

 仲間達を殺した異世界人――このガキを殺せれば、もうそれだけで良かった。


 メキ……メキッ……


 身体が軋み、変質していく。

 筋肉は膨れ上がり、残った傷口から痛みを感じるようになるも、なんとも言えぬ全能感が脳を支配してゆく。

 これが解放。

 これが獣人の始祖に繋がる力なのか。


(自我は――、まだ残っている)


 身体の軋みが止まった時、ふとそのことに気付くも、そこに感動や感慨といったモノは何もない。

 あるのは一点。

 見降ろせばそこにいるであろう、異世界人を壊すコトだけ。

 どのような姿に変わり果てたのかも分からないこの身を見て、このガキはどう怯えているのか――。


「?」


 視線を下ろした時、異世界人もこちらを見上げていた。

 アタシの脚に手を触れながら、渋い顔で。






「せっかく次戦に向けて魔力を温存していたんですから、無駄に粘らないでとっとと死んでくださいよ」


「ア?」





 ――『消失』――





「あなたは前座、勝手に2回戦なんてしようとしないでください」
358話 不可解な現象

『【体術】Lv8を取得しました』

『【闘気術】が解放されました』

『【跳躍】Lv7を取得しました』

『【空脚】Lv1を取得しました』

『【空脚】Lv2を取得しました』

『【空脚】Lv3を取得しました』

『【空脚】Lv4を取得しました』

『【捨て身】Lv6を取得しました』

『【魔法攻撃耐性】Lv6を取得しました』

『【剛力】Lv8を取得しました』

『【光属性耐性】Lv2を取得しました』

『【封魔】Lv6を取得しました』

『【威嚇】Lv1を取得しました』

『【威嚇】Lv2を取得しました』

『【威嚇】Lv3を取得しました』

『【威嚇】Lv4を取得しました』

『【威嚇】Lv5を取得しました』

『【拡声】Lv6を取得しました』

『【視野拡大】Lv7を取得しました』

『【闘気術】Lv1を取得しました』

『【闘気術】Lv2を取得しました』

『【闘気術】Lv3を取得しました』

『【闘気術】Lv4を取得しました』

『【獣血】Lv1を取得しました』

『【獣血】Lv2を取得しました』

『【獣血】Lv3を取得しました』

『【獣血】Lv4を取得しました』



「はぁ、しんど……魔力は――、4000切ったくらいか。このクラス相手に【睡眠】や【石眼】は狙うもんじゃないな」


 長く続くアナウンスを眺めつつ地べたに座り、一人そんな感想を漏らしながら足元に転がる虎女だった頭部に目を向ける。

 この現象をどう解釈すればいいのか。

 首の半分近くまで刃が通っていたのだ。

 本来なら絶命確定とも言える傷を負いながら、それでもより獣に近い姿へと変化していく姿をずっと眺めていた。

 口内からはみ出すほどに長く伸びた牙など、明らかに人のソレではなく、この生き物がどの『枠』に収まる存在なのか、判断に悩むが……


「しょうがないよな」


 体内に魔石が生まれていたのか、もうその確認は取りようもない。

 その場を動くことなく変化していったので、これはラッキーとばかりに身体の大半を『消失』で消し飛ばしたのだ。

 よく分からない"第二形態"への変身まではスキルの増加を期待して一応待ったが、律儀に戦ってやる義理も理由もないからな。


「ん~目新しいのは【威嚇】【闘気術】【獣血】、あとは小男の【土操術】もか」


【土操術】Lv3 流した魔力量に応じて土石を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる


 これは説明を見ただけだと何も分からないタイプだ。

 一応戦闘中に俺自身を模造し、まっすぐ飛ばす程度のことはできたが、小男が使っていたような旋回など少し複雑な動きになれば途端に反応が無くなってしまう。

 もっと魔力を籠めればやれるのかもしれないけど、今はそんな無駄遣いしている場合じゃないしなぁ。

 このスキルは試すなら落ち着いてから。

 『消失』以外に石を生み出した後の処理方法が増えたので、今後もまずお世話になるスキルだろうな。


 あと【空脚】も新規取得だが、これはギニエのDランク狩場にいる時、前提条件の達成で解放だけされていたから身に覚えはある。


【空脚】Lv4 足場のない空中で踏み込み、5段までの【跳躍】を行うことが可能になる 魔力消費:1段毎に5消費


 内容を見ても【跳躍】の上位互換で、有体に言えば二段ジャンプとかの類。

【飛行】できる俺にとっては虎女が使っていたような、空中での強引な立て直しや方向転換が主な使用用途になってくるだろう。

 間違いなく使いどころがある、優秀なスキルだと思う。


 そして【威嚇】は……うーん。

 これは何のためにあるスキルなのか。

 見比べることで、使いどころがほぼ無いんじゃないかと思ってしまった。


【威嚇】Lv5 前方5メートルの範囲に対し【威圧】効果を与える 魔力消費35

【咆哮】Lv5 前方5メートルの範囲に対し【威圧】効果を与え、自身に掛けられた精神ダメージを確率で無効化させる 魔力消費45


 自分が明らかに正常で範囲威圧を与えたい時、魔力10をケチって【威嚇】を選ぶという手もなくはないけどなぁ……

 スキルを使う時は咄嗟なのだから、使い慣れた方を選んでしまう自信がある。

 って考えてみたら、【咆哮】は魔物専用スキルなのだから、俺からするとただの下位互換に見えるけど、実際の扱いは違うんだろうね。


 んーで、【闘気術】はまぁまぁ想像していた内容に近い説明だ。


【闘気術】Lv4 体力の消耗と引き換えに、使用中は筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に190%まで上昇させる 魔力消費0


 身体から湧き出る靄。

 不自然なオンオフ。

 そのオンオフで体感できるほどの明確な能力差。

 そして虎女の格闘に特化したような系統と、表情や言葉にまで出ていた焦り具合。

 この辺りでデメリットの存在するスキルが絡んでいるんだろうとは思っていたけど、体力消耗のみで魔力を一切使わないスキルだったとはな。

 癖はあるものの、"効果時間指定がない"というのがこのスキルの大きな特徴だろうから、近接戦を行う時は意識してもいいかもしれない。

 いちいち【闘気術】と、言葉にする必要のないスキルだしね。


「となると、やっぱりこいつだよなぁ……」


 残されたのは最後の一つ、【獣血】。

 改めて虎女の頭部に目を向けるも、変化した原因と考えられるこのスキルは何も俺に示してくれない。

 ここにきて初めての経験。

 人から得られたにもかかわらず、まさかのグレー文字で使用不可判定を受けていた。

 一見すれば文字通り『獣』に関係するスキルで、それこそ『獣人』の種族特性スキルにも見える。

 が、犬獣人のクアドはこんなスキルを所持していなかったし、今までスキルを覗いてきた獣人もこんなスキルは持っていなかったはず。


「それになぜ、こいつだけ<その他枠>で、しかも|一《・》|番《・》|上《・》に来る?」


 不可解過ぎる現象だ。

 スキルを探してもなかなか見当たらず、まさかと思って下部までスクロールさせても、それでも【獣血】の文字は見当たらない。

 混乱しながら遡っていると、まさかのまさか。

 <その他>の枠の一番上。

 正確には空白スキルのすぐ下に、なぜかこの【獣血】が表示されていた。

 しかもグレー文字の状態で、だ。

 暫しその場で考え込むも、このスキルに限っては初めてのことが多過ぎて何も分からない。

 はぁ、と溜め息一つ。


(落ち着いたら女神様達じゃ分からなそうだし、ゼオにでも聞いてみるか)


 そう思いながら、虎女の耳についていた二つのイヤリングを。

 そしてちょっとやり過ぎたかなと思いながら、回収できそうな小男の装備品を【探査】で探し出し、俺は未だ争いの音が聞こえるマルタの南門へと向かった。
359話 7位を求めて

 さて、どうしたものか。

 南門付近にある城壁に上り、マルタの状況を把握しようと周囲を眺める。

 上空からではなく、もっと近場から。

 人の表情や動きが分かる距離で見たかった、それが理由だ。

 悲鳴や怒声は相変わらずだが――。


「この辺りはヴァルツ側が押されてる? っていうか、これはもう後退してるのか?」


 近くで見れば、現在の戦況もなんとなくだが見えてくる。

 東は潰した。

 それに南も。

 兵士の情報を整理すれば、これで手に負えなさそうな連中は、行方知れずの7位を残すくらい。

 傭兵も残り50人くらいは市街戦に混じっているようだが、戦力的にはD~Bランクの中位ハンタークラス。

 それならマルタに元からいるハンター勢や、オランドさんを含む東の生存者達でも十分対処は可能だろう。

 それでも俺がこの市街戦に混ざるべきか。

 以前にも同じようなことを考えた気がするな。

 悪いのは命令で動く兵ではなく、駒として動かし戦争を実行に移している上の者達。

 個人的な考えではあるが、未だこの気持ちは変わらず、だからこそ俺自身が手を下すことに躊躇いを感じてしまう。

 好んで戦場に立ち、人に斬りかかる傭兵連中みたいな存在も中にはいるのだろう。

 そんなやつらばかりであれば、気を遣わずに済むから楽なものだが……

 望まぬままここに立っている連中もいるんだ、きっと。

 何かを守るために武器を握る、明らかに子供と分かるマルタの町民を見て見ぬ振りするヴァルツ兵士。

 自分達が攻め込んだ敵地だというのに、怯え、逃げ惑う、そんな人達の顔を見ていると、なんとなくそんな気がしてしまった。

 はぁ。

 この状況、どうしたものか……


「し、失礼、ロキ殿でよろしいでしょうか?」


 声は、城壁の上から。

 ラグリース側の兵が数人見張りに立っていることは知っていたが、それとは別。

 やや豪華な鎧を身に纏った兵士が俺を見つめていた。

 この兵士に見覚えはないが……なぜ、俺の名を知っている?


「そうですが、なにか?」

「いえ、その、レイモンド伯爵がお呼びでして。ご同行願えないかと」

「あぁ、さっきすれ違った人ですか」


 貴族は好みじゃないけど、あの時お礼をするようなことも言っていたしなぁ。

 それにボロボロになりながら、それでも自ら一番強い連中と戦っていたのだから、オーラン男爵のような底が見えないほどのクズ貴族とは違うのだろう。

 なら、いいか。


 同意すれば、その兵士は城壁と繋がっている塔の中へ案内してくれた。

 中には階段があり、一度下に降りるのかと思ったがそうではないらしい。

 そのまま見張りの立つ、少しだけ下がった所に存在していた扉を開ければ、簡易的なベッドの上にはゴリラ町長が。

 その横には伯爵がなぜか地べたに座り込んでいる。

 普通逆じゃないの? とは思うけど、ファニーファニーと戦ってたのは町長だし、どう見ても町長の方が死にかけだったしな……

 ん~このお爺ちゃん。

 目つきは鋭いけど、分別をわきまえた良い貴族なのかもしれない。


「レイモンド伯爵、連れて参りました」

「あぁ、先ほどは、ろくな挨拶、もできず、済まなかったな、ロキ」

「いや、そんなことはないですけど……町長もお久しぶりですね」


 なぜこの兵士はゴリラ町長に向かって話しかけ、ゴリラ町長は当然のように最近言葉を覚えましたくらいの勢いでしゃべり始めているんだ?

 あ~ほら、伯爵の目つきが鋭い。

 これはもう、絶対怒ってる。

 この兵もやらかしたのを理解したのか、愕然とした表情でこっち見てるし。

 いやいや、俺のせいにするんじゃねーよ。


「ぬう、すまんな。そういえば、リプサムでは、そんな"設定"を、作って、いたか」

「は?」

「ご自身で撒いた種、こればかりは勘違いされてもしょうがありません」

「以前に名だけは、名乗ったと、思うが……俺が、レイモンドだ。この地の領主を、伯爵を、やっている」


 そう言われれば、たしかにあのお食事会の時に『レイモンド』と名乗っていたような気もする。

 となると――あぁ、そういうこと。

 この目つきの鋭いおじいちゃん、どこかで見覚えがあると思ったら、町長の背後に立っていた執事の人か。


「ってことは、町長――伯爵はジルガ・レイモンドというお名前で?」

「実際は、もう少し長いが、まぁ、そうだ」


 なるほどね。

 これでスッキリはしたけど、いやしかし、大丈夫か?

 あのお食事会で、貴族に対してだいぶ失礼なことを言いまくった気もするが……うーん。

 まぁかちこちに畏まった喋り方までしなくても良さそうだし、こちらに非がないなら気にしなくていいか。


「ロキ、いくつか、確認して、おきたいこと、がある」

「はい?」

「戦闘は、見させて、もらったが、あの二人は、死んだ、のか? 本来あるべき、死体がここから、では、見当たらない、ものでな」


 言われ、視線の先に目をやれば、明らかに見張り用。

 もしくは複数あるので、矢や魔法を放つ用と思われる小さな小窓が。

 なるほど、あそこから見ていたわけね。


「それでしたら、確実に二人は死んでますよ」

「そうか……本当に、良くやって、くれた。命を救われた、身として、個人的にも、そして、領主としても、礼を言わせて、もらう」

 寝ていてつらいだろうに、そう言いながら、わざわざ身体を起こして頭を下げるゴリラ伯爵。

 同時に震えながら立ち上がり、剣を支えに頭を下げてくる執事の爺さんを見ると、この人達は真っ当だろうなという印象を強く持たせてくれる。

 ならばいいか。

 戦闘を見られていたのなら、魔力の色などバレバレもいいところ。

 それにさっきからゴリラ伯爵の声が聞き取り難いしな。


『全身の、傷を、癒せ、オールヒール』


 二人にそれぞれレベル6の単体【回復魔法】を使えば、伯爵は出血が完全に止まり、露出していた内部の肉を隠すように表面の皮膚が形成されていく。

 医者じゃないから分からないけど、ちょっと傷が浅くなってるし、これで多少は痛みもマシになるんじゃないのかな。


「す、凄い……これはもしや【神聖魔法】ですか?」

「いやいや、【回復魔法】ですね。今は魔力の消費を抑えたいので、とりあえずはここまでで。この戦争が終われば、その傷も治せるか試しますから」

「「「……」」」


 一人だけローブを身に纏い、ベッドの横で伯爵を見守るように座っているんだからヒーラー職の人か。

 足元にポーション系でよく見る空の小瓶がいくつも転がっているので、伯爵の治療ともなれば死ぬ気で頑張っていたんだろう。

 たぶんスキルレベル――というよりは、知力のステータス値に差があって、効果が全然違ったんだろうけど……


「すまない。これほどの回復も行えるとは、驚きで言葉を失っていた。重ね重ね感謝する」

「いえいえ、声が聞き取りやすくなりましたし、このくらいなら問題ありません」

「ちなみに、街の東側もロキが制圧したのか?」

「ですね。あの場にいた傭兵連中は全員死んでます」

「やはりか。こちらの、マルタ側の生き残りは?」

「ん~約20名ほどですかね。残念ながら遺体もそれなりにあったので、その場にいたギルマスのオランドさんと、リーダーっぽい盾職の人に預けておきました」


 そう伝えると、一瞬ゴリラ伯爵は表情を曇らせるも、すぐ気を取り直したように首を振った。


「そうか……いや、上出来だな。何割かは街の防衛にも参加しているのだろう?」

「だと思いますよ。後衛職の人達は魔力切れが近そうでしたけど、それでも皆さん街の防衛に回るって言ってましたから」

「ならば敵兵の掃討は時間の問題。あとはどこまで被害を抑えられるか、だな」

「ただ7位の行方がまだ分かっていませんけど」


 この言葉に伯爵の白い眉毛がピクリと上がる。

 やっぱりか。

 盾持ちのおじさんが言っていたように、伯爵もこの情報を掴んでいない。


「どういうことだ?」

「ヴァルツ兵から証言を得ているんです。南部侵攻の部隊に配属された傭兵は約100名ほど、その中で一桁ランカーは3人いると」

「……モーガス、何者か、その特徴は分かるか?」

「順位だけでは変動もしますので、なんとも。ロキ殿、何か特徴はご存じですか?」

「えーと、弓を得意とし、大型の鳥を従えていると聞いていますね」

「なるほど……ならばユークリッドで間違いないでしょう。超長距離射撃を得意とする弓の名手で、様々な属性の"魔矢"も使いこなすはずです」

「上空からの射撃を、矢の補給も無しに行うということか」

「既知の情報から推察すれば、そのような戦闘形態になるかと」

「「「……」」」


 まぁ、そうだろうな。

 この部屋は伯爵と執事だけじゃない。

 ヒーラーの人もそうだし、護衛や見張り役として兵士も10名近くはいる。

 その者達からの視線は一点に俺へ。

 |な《・》|ん《・》|と《・》|か《・》|し《・》|て《・》|く《・》|れ《・》と、そんな無言の圧を強く感じてしまう。

 空からの一方的な狙撃なんて、こちらも飛べなきゃ建物の中に避難するくらいしか対処のしようがないだろうしなぁ……

 だがそんなことをしていたら、ヴァルツ兵がどんどん街を破壊し、こちらの戦力は削られていく。


「ロキ」


 そんな中で、伯爵から呼ばれたのだ。


「俺のように責務があるわけでもなしに、これまで加勢してもらったことは十分感謝している。が、無理を承知でお願いしたい」


 言わんとすることは分かる。


「この7位を討ってもらえないか? この状況だ。すぐとはいかぬやもしれんが、相応の礼はさせてもらう」


 しかし、それは敵の所在が分かっていればの話。


「もちろん、僕もその7位は討ちたいと思っています。ただ、あまり時間は掛けられないんですよ。ここだけではないので」

「そうか……王都だな?」

「えぇ。ばーさん――ニーヴァル様とは個人的に付き合いや取引もありますし、中央の侵攻部隊はさらに規模が大きいと聞いていますから。分断させるために、街を攻める日取りまで合わせてきてるんですよね?」

「ヴァルツ兵の進行に問題が生じていなければ、王都も今頃は防衛戦の只中だろう。規模はここの4倍、まさに総力戦と聞いている」

「なら僕は行きますよ。魔力が心許ないので、回復させながら7位がいないか、もう少しこの街で様子をみようとは思いますけどね」

「それだけでも有難い。ユークリッドも動くなら、ヴァルツ側の戦況が大きく傾く前にと思うだろうからな」

「先ほど回復していただいたお陰で私もまだ戦うことはできましょう。仮にロキ殿が発った後に現れたとしても、ノディアス殿と共に耐えることは可能かと存じます」

「よし、ならば陣頭指揮はモーガスとノディアスに任せる。不可解な狙撃があった場合は、すぐに情報を上げるよう――」


 ワタワタと動き出す場。

 さすがに手足が欠損だらけの伯爵はまだ動けないらしく、備蓄として少し残っていた魔力ポーションを貰い、そいつを飲みながら俺は1~2時間ほど休憩も兼ねた護衛待機ということになった。

 とは言っても7位に俺を見つけてもらうため、そしてこちらも見つければすぐに動く気なので、待機場所は屋根のない城壁の上。

 部屋は十分感知系の範囲に入っているのだから何も問題はない。


「これが一番良かったのかもな」


 街や空を眺めつつ、誰に聞かせるわけでもなくボソりと呟く。

 ここがもし"ベザート"や"拠点"であったならば、それらは全て俺の大事なモノを奪おうとする『悪党』に映るが、マルタであればそれは過剰な加勢だ。

 俺に敵意や殺意を向けるでもない、ただの兵士まで好んで殺したいとは思わない。

 それにこの町は、個人で何かを成そうとするには広過ぎる。


(最後に軽く掃除をすれば、それで十分だろ)


 そう思えている自分自身に少しの安心感を覚えながら、7位の所在を求め、少しずつ夕暮れに近づいてゆく街を暫し眺め続けた。
360話 二択

 時刻は夕暮れ前。

 腹のタプタプ具合を気にしながらマルタの中心地に向かえば、その人だかりからすぐに臨時本部のような場所を把握することができた。

 捕虜を捕る気がないのか、周囲に生きたヴァルツ兵は見当たらず。

 上空から見ても戦いは中央より西側で多く起きており、それなりに東部の掃討は進んでいる様子が見て取れる。

 重火器は見当たらずとも、魔法や特異なスキルがあるこの世界。

 街の規模が違うということもあるのだろうけど、俺の思い描く地球の戦争よりかはだいぶ展開が早いような気がした。


「モーガスさん、あれから2時間近く経ったと思いますけど、どうですか?」


 降り立ってそうそう、指揮を任されていたモーガスさんに尋ねれば、険しい表情を崩さずに答えてくれる。


「これを良しと捉えるべきなのか、目立つ狙撃の大規模被害というのはまだ上がっておりません。未だ潜伏しているか、もしくは居ないか。そのどちらかかと」

「そうですか……ん~でも、後者なんてあり得ますかね?」


 傭兵連中は皆、俺を倒すことで得られる『特別報奨』とやらに大きな反応を示していた。

 それこそハンター達にもみられる、|命《・》|を《・》|懸《・》|け《・》|る《・》|に《・》|値《・》|す《・》|る《・》|ほ《・》|ど《・》という印象だったが、モーガスさんからすればどうやら違うらしい。


「ファニーファニーが敗れたという事実を把握しているならば、"逃走"という選択もあり得ましょう。いくら報酬に魅力があろうと、勝てる見込みが無ければ意味は無し。兵とは違い、個人の損得で動く傭兵はその判断も早いものです」


 このように言われ、たしかにと納得する部分も出てきてしまう。

 東の傭兵連中も俺の戦力が未知数だから戦っていたような節があるし、明らかに不利と判断するや、【神聖魔法】を所持していたあの狐獣人は物凄い勢いでトンズラしていたしなぁ。

 7位ならばまず来るだろうと思っていたけど、敵対しないとなればしょうがないか。


「では、もう一人は?」

「『槍覚のアトナー』は西の城壁付近で姿を確認されております」

「なるほど、こっちはまだ生きているわけですか」

「恐らくは。なので予定通り、ぜひお願いしたく」


 そう、これは予定として決めていたことだ。

 この無駄に多過ぎる軍と傭兵連中を引っ張ってきた親玉は別。

 主要な上位傭兵が死んだこの状況でもなお退かずに戦っているのだから、俺からすれば今までとは違った意味での『悪党《バカ》』に映ってしまう。

 司令官と言っても結局は国からの指示を強く受けているんだろうけど、ソイツが退かないから両陣営の死者が膨れ上がっているわけで、だったらそんなヤツにはとっととご退場頂いた方が良い。

 それは伯爵も同じ考えのようで、ヴァルツ兵を西に押し返していく中で撤退の気配がないなら頼むと、ある種依頼のような形で請け負っていた。


「分かりました。南部の親玉を潰したら、僕はそのまま王都に向かいますので――」


 言いながら、周囲にいる人たちに目を向ける。

 片目に布を巻き、槍を握ったオランドさんに、盾を持った渋いおじさん。

 東で戦っていた人達もまだ多く残っているし、後ろの方には他のハンター達に混じって汗だくで座り込んでいるイーノさんとラランさん。

 それに救護所のような場所ではアマリエさんが今も必死に何かの作業をしていた。


「――皆さん、頑張って」


 そう言い残し、俺は西へ飛ぶ。

 無責任と感じ取る人がいようとも、このくらいの言葉しか掛けられない。

 親玉をやったら軍は退くのか。

 それはやってみなければ分からない――そうゴリラ伯爵も言っていた。

 それほどまでに、ヴァルツはこの戦に何か大きなモノを賭けているのだろうとも。

 退くか退かないか、そして親玉を潰したとしても、その後を引き継ぐ者が現れるのか。

 本当は確認した方が良いのだろうけど、さすがにこれ以上の時間は掛けられない。

 ここまで展開が早いのなら、なおさらに。


「こんにちは」


 でもせめて、末端の兵士では知り得ぬ、戦争に至った経緯くらいは聞いておきたい。

 そんな理由から目の前に降り立てば、他とは違う。

 黒みがかったプレートアーマーを身に纏った男は、混乱する様子もなく俺を見返していた。

 槍を地面に突き刺し、腕を組みながら、まるで分かっていたと。

 覚悟を決めているような、そんな顔。

 それはアトナーを挟むように立つ、二人の上位階級であろう兵士も同じで。


「人は見かけに寄らぬというが、本当に子供の姿なのだな」

「……」

「東で足止めしていたはずの上位ハンター達も街の防衛に回ったと聞く。ファニーファニーだけでなく、東部も貴様の仕業か?」

「ですね。生き残っていた上位の傭兵連中は僕が全員殺しています」

「そうか……まさかここまで、懸念していたことが現実になるとはな」


 そう言いながらアトナーは何かを考えるように瞳を閉じ――、それまで以上に鋭い視線で俺を見据えた。


「異世界人、私を殺す前に答えろ」

「なんでしょう」

「なぜ、この国を守る?」

「え?」

「貴様はラグリースを離れてから東へ移動し続け、フレイビルでも広く活動していたはず」

「……よくご存じですね」

「当たり前だ。ヴァルツからすれば、ベザートという町より以前の足取りが一切掴めぬ貴様は、この戦争における最大の懸念材料だった」

「……」

「どう調べても、この地が生まれという話は出てこない。幼少の姿を知る者もおらず、だが異世界人であるが故に、出生に関する情報を秘し隠した可能性もある。だから念のため、最南端に位置するいくつかの田舎町は捨置いたというのに……なぜだ。なぜ、貴様はラグリースに肩入れする? 愛郷ゆえか?」

「それは……」


 そう問われても、すぐには言葉が出てこない。

 そこまで調べていたのかという、その事実に驚きを隠せないでいた。

 ベザートが今回無傷だったのは、偶然ではなくヴァルツ側の思惑があったから。

 ヴァルツは俺の足取りを追いながら、少しずつ遡っていたのか。


「愛郷、ではないと思います」

「だろうな。この国に居を構えている様子はなく、目撃され始めてから1年にも満たない期間で国を出ているのだ。それに間違いなく、ラグリースという国にも従属はしていない」

「なぜ、そのように?」

「飛行能力と世に出回った順序を考えても、『地図』の作成者は貴様以外に考えられぬ。『ラグリース』『ヴァルツ』『フレイビル』と3国の地図を表に出したのだから、ヴァルツはもとより他の2国にも属していないことなど明白。属していれば、王がそれらの地図を自国のためだけに利用しようとするだろうからな」

「……」

「ラグリースとヴァルツに大きな差は無かったはずだ。にも拘わらず貴様は、ロズワイド侯爵の要請に一切応じようともしなかった」


 そういうことか。

 当初は重要な何かの輸送依頼かと思っていたが、一月ほど前にロズワイド侯爵が何を求めて俺と連絡を取ろうとしたのか。

 これでようやく理解できた。


「理想はヴァルツ側の味方についてほしい。次善策としては戦争の不干渉、狙いはこのあたりでしたか」

「その通りだ。貴様が……貴様さえ横やりを入れなければ、南部は間違いなく我らの手に落ちていたのだ! なぜ邪魔をする! なぜヴァルツではなく、ラグリースを選んだッ!!」


 俺を糾弾するように、目を血走らせながら捲くし立てるアトナー。

 ここで殺されることを理解しているからこそ、最後に納得のゆく理由を求めた――そんなところだろう。

 だが。


「その答えを告げるには、こちらも確認しなければならないことがあります」

「なんだ?」

「なぜ、ラグリースに戦争をしかけたんですか? 揉め事の原因となっていた亜人差別は解消され、交易ルートも無事開かれたでしょう?」

「ふん、戦争の理由なぞ一つなわけがない。表も裏も、複数の要因が絡み合うから大きな決断にまで至らせる」

「それはそうでしょうね。でもそんな逃げの回答じゃ、あなたスッキリ死ねませんよ?」

「ッ………私とて全てを把握しているわけではない。が、ヴァルツは、逃げ道のない二択を迫られていた。それは間違いない」     

「あ、アトナー様!?」


 ここで横にいた参謀風の男が慌てるも、それを自ら手で制すアトナー。


「『戦争に勝利する』か『国が潰える』か、この二択だ」

「勝つか負けるかという、単純な話ではなさそうですね」


 ラグリースのように、攻められた側であれば最悪はそうなるだろうが、ヴァルツはあくまで攻め込んでいる側だ。

 この戦争で勝てなかったとしても、直ちに国が潰えると確定するわけではない。

 ラグリースとヴァルツの2か国だけが当事者であれば。


「別の国が絡んでます?」


 同盟国であるはずのフレイビルは今回不戦を選択した。

 だから仲たがいでもしたのか。

 そう思っていたが。



「くくっ、正解だ。この国はラグリースを盗れなければ、アルバート王国に名が変わる。くははっ……属国ですらない、ヴァルツという国の消滅だ」
361話 戦争の理由

「アトナー様……」

「ふん、死ぬ前に愚痴ぐらい零させろ。異世界人のせいでヴァルツは陥穽に嵌り、また別の異世界人によって止めを刺され、こうして沈むのだ。これほど滑稽なことはあるまい」

「……」


 また、マリー。

 なぜどこの国でも出てくるのだ、コイツは……

 しかも今回は規模が違う。

 国が変わる?

 あの強欲ババア、何をした?


「【空間魔法】だって万能じゃない。遠い東の地から一国を潰すほどの軍隊なんて送り込めないでしょうに、何をされたんですか?」

「……」

「あぁ、一応お伝えしておきますと、僕はその強欲ババアが死ぬほど嫌いですから」

「なんだと?」

「いずれどこかで相見えるでしょうし、それまでに金を吐き出させるだけ吐き出させてから僕が殺しますよ。もう害悪にもほどがありますしね」


 そう告げれば、アトナーは逡巡した様子を見せながらも、結局は口を開いた。


「……低迷した国内経済に活路を見出そうと、王家が異世界人から多額の金を借りた、私はそう聞いている」

「なるほど。そして首が回らなくなり、他所から奪うしか方法がなくなったと――そういうことですか」


 この言葉に返答はせずとも、軽くうなずくことで答えるアトナー。

 この世界に来て、初めて聞いた『借金』という言葉。

 そりゃ個人間や商業ギルドあたりでもありそうなものだが、国や王家という規模になれば、国そのものを担保にした契約書でも存在しているのか。

 どのようなやり取りかは分からないにしても、|強《・》|者《・》|が《・》|弱《・》|者《・》|と《・》|交《・》|わ《・》|す《・》|契《・》|約《・》なら、不履行に対していつでも強制執行が可能な状態で、かつ利息を吸い上げ継続的な旨味も発生させることができていたはずだ。

 この方法で奪い取れば、軍も使わず飛び地が手に入り、中央攻略の足掛かりができると言ったところか。

 いや、もしかしたらこの戦争自体、ヴァルツだけでなくラグリースの領土まで視野に入れて、マリーが誘導している可能性もある。


 あぁ……

 西の脳筋っぽい二人とは明らかに違う動き。

 とことん、ウザったい女だ。

 本当に。


 だが、そうであったとしても、これで答えがはっきりした。

 知り合いがいるからというだけじゃない。

 俺がラグリースではなく、ヴァルツを敵とする理由。


「どういう事情があるにせよ、一方的に奪うことで解決を図ろうとしたヴァルツ側が『悪』であることに変わりありませんね」

「……」

「先ほどの二択の中に『ラグリースとの同盟』という選択を入れれば、もしかしたら助かる道はあったかもしれない」

「ふん、仮に経済が多少上向いたところで、実入りを得るには時間が掛かる。それでは間に合わん」

「もう少し待てば、新しい物流が生まれる予定だったんですけどね。同盟国のフレイビルやハンターギルドからはまだ何も聞いていないんですか?」

「どういうことだ?」

「近々大陸中央で、えーと、マリー風に言えば『転送』でしたっけ。まぁそれと同じ特別な物流の仕組みが出来上がる予定なんです。不定期なので、過度に期待をされてしまっても困りますけどね」

「なんだと……そんな話、一度も聞いたことがないぞ? まさか、どこか『属国』になった国が出たのか!?」

「いいえ、属国などにはならず、手数料で請け負うことになります――僕がね」

「……は?」

「運ぶのは僕、窓口は各ハンターギルドになる予定なので、きっと王都だけということもないでしょう」

「な、何を、言っている? 貴様が運ぶなど、空を飛べる程度では……」

「だから『転送』って言ってるじゃないですか。僕も【空間魔法】持ってるんですよ」

「ッッ……!?」


 言葉を失うとはこのことを言うんだろうな。

 両脇にいる兵士含め、3人は口を開いたまま放心したように固まっていた。

 気にはなっていたのだ。

 ずいぶんと調査能力は高そうだが、なぜか俺の足取りはフレイビルで止まっていた。

 オルトランに渡っていることまで把握できていないようだし、簡単に追いきれないから、過去へ遡る方に注力したということだろう。


「なので戦争を急がなければ、低迷していた経済が回復したかもしれないんです。状況が厳しいとなれば、僕だって便宜を図れたかもしれませんしね」

「な、ならば……ッ!」


 息を吹き返したように、一歩二歩とにじり寄ってくるが、この男。

 大きな勘違いをしているな。

 あくまで過去の話。

 急いでいなかった場合だ。


「でもあなた方は自分達の都合で結果を急いだ。結局のところ王家がやらかし、奪えそうな相手から奪って補填しようとしたってだけでしょう?」

「貴様、王家を愚弄する気か!?」

「王家だけでなくあなた方もですけど。既に数万という数ではきかないくらいの人が殺されている。家を失い、家族を失い、何も無いまま別の町に逃げた人達だっていっぱいいるんです。にもかかわらず、自分達に救いの糸が垂れたら掴めると、本気で思ったんですか?」

「ぐっ……」

「あぁ、ラグリースを選んだ理由でしたね。あなたのような、自分達が救われるためなら平気で人を踏み躙る『悪党』が死ぬほど嫌いだからです」

「こ、こちらの事情も知らずに……!」

「知りませんよ他人ですし、大した興味もないんですから。ただ状況によっては、僕がラグリースを危険と判断して攻撃することも想定していました。結果的にラグリース側の立ち位置になったのは、間違いなくあなた方が選んだ行動の結果です」


 ラグリースというよりは王都に対してだが、実際におかしな古代魔道具を持ち出そうものなら、そんな可能性だってあったのだ。

 あの本に書かれている限りでは大丈夫だと思うが、これも王都に実際行ってみないと何も分からない。

 だから話はもう十分。

 そう思って一歩踏み込めば、アトナーはおかしなことを口にする。


「ふ、ふはっ……もうお話は終わりか?」

「えぇ、もう聞くことも聞けましたし、そろそろ王都に行きたいので」

「そうか。ならば殺すがいい。我らの至上命令は南部の戦力をこの地で足止めすること。貴様をそう簡単に王都へは向かわせん」

「……? あなたじゃ足止めできないでしょう?」

「そんなことは百も承知。だが、私を殺したところで軍の攻勢は止まらぬ。ファニーファニーが敗れたと知った段階で、南軍の指揮系統など捨てているからな」


 ……なるほど。

 だから南軍のトップだというのに、守る者すらほとんどいないのか。


「さぁどうする? 徴兵した連中は盾代わりに連れてきただけだが、正規兵は最後の一人になっても退くことなく、ラグリースの人間に刃を向け続けるぞ。それでもマルタの兵を、マルタの民を見捨てて往くか?」

「もちろん行きますよ。マルタを自分達で守り切れるくらいの状況が出来上がったんですから、あとはこの町の人達がヴァルツ兵をしっかり殲滅してくれるはずです」

「く、くくっ、なんと薄情な者か。貴様が動けば確実に死者は減るというのに、見捨てて王都へ往くという。これでは貴様が殺しているのと変わら――」


 ブシュッ――。


 さっきから、何を言っているんだコイツは。

 腹に刺し込んだ剣を捻りながら、男に告げる。


「ぬごォっ……」

「殺しているのは間違いなくあなたですよ。もう負け戦だと分かっているのに……退けば多くの命が救われると分かっているのに、軍のトップであるあなたが職務を放棄しているなんて、あなたの存在価値はいったいどこにあるんですか?」

「ぎ、ぎざまぁ……」

「傀儡と化しているかもしれない王に従い、至上命令とか言っているんですから、ある意味幸せかもしれませんね」


 刺したまま剣を横に払いながら、武器を振りかぶっていた両脇の男達も斬れば――


「王都、は、こんな…んじゃ……地獄、を見…ろ……」


『【指揮】Lv6を取得しました』

『【算術】Lv6を取得しました』


 アトナーはそんな捨て台詞を吐きながら死んでいった。

 知ってるよ。

 確実にいるのは2位、4位、5位に500人近い傭兵。

 それに兵が40万近くいるんだろう?

 そんなことは兵から聞いて知っている。

 それでも――。


 俺は死体を回収し、すぐに王都へ転移した。
362話 一方、その頃

 マルタ南西部。

 街から約3㎞ほど離れた小高い丘が続く一帯を、一人の男が東に向かって走り続けていた。


(まずい、まずいぞ……これはまずい……)


 当初その男は岩陰に身を潜め、どのようにしてレイモンド伯爵を討ち、手柄を得るか。

 息を殺し、戦闘を観察しながらその隙を窺っていた。

 男はファニーファニーに「東へ行け」と邪険にされたが、高位ランクの傭兵である以上、そう簡単に『特別報奨』の懸かる首を捨てることなどできやしない。

 しかし隠れ潜み、弱っているところを狙い撃つ――これでは仮に討てたところで、手柄は高確率で男の手から零れ落ちる。

 ファニーファニーがいたのでは、かすめ取ることで逆鱗に触れるか、そのまま手柄を奪われる可能性の方が遥かに高いからだ。

 理想は死にかけのレイモンド伯爵がファニーファニーを討つことだが、傭兵としての実力を知っているだけにその可能性は極めて低い。

 しかも戦況が進むにつれて、明らかにファニーファニーの優勢であることが分かり、狙いを横で善戦している老人に絞ろうか。

 もしくはかなり危険だが、エヴィンゲララがやられたように見せかけ、参戦という名目を立てられないか。

 そのようなことを思案している中で突如現れた、あの宙を舞う子供に一時は心が躍ったのだ。


 間違いなく"最上位の特別報奨"――しかも、ここで潮目が変わると。



 もし異世界人が現れ、ラグリース側に立つようなことがあった場合。

 これを討ち取ることができた者には、"決して金だけでは届かぬ望みも叶える"。



 そう国から達しがあったのでは、傭兵としてやる気にならない方がおかしかった。

 それこそ理想は共倒れに近い状況。

 エヴィンゲララが先に潰れていれば、南部から追いやったファニーファニーを自ら射止めることまで男は想定していた。


 だが男の殺意は次第に薄らいでいく。

 エヴィンゲララごと一瞬で消えた、あの時。

 ファニーファニーは慌てたように周囲を見回していたが、男は戦いの場からだいぶ距離を取っていたからこそ、その後の状況だけはすぐに理解することができた。

 空高くに浮く、二人の姿。

 ほんの瞬きほどの時間であの上空へ舞い上がることなど不可能ということは、鳥と共に空を舞うこの男が一番良く分かっていた。

 そうなれば、いくら可能性を考えようとも、行きつく答えは一つしかない。


 まさか、転移――あの異世界人と同じ【空間魔法】の能力者か?


 それを裏付けるように、瞬間移動としか表現のしようがない移動を数度繰り返し。

 不気味な黒い焔を纏い、あのファニーファニーと、情報には無かった近接戦闘で互角に張り合い。

 どう見ても本気であろう……あの打撃をまともに喰らいながらも、普通に立ち上がる姿を見て。


(国の異常ともとれる強い警戒心の方が正解だったか……)


 この異世界人はかなりの戦闘特化型であると。

 そうでない者達の存在も知っていたからこそ、男は今更ながらに強い危機感を募らせる。

 7位の自分でも、あの防御は貫けない――足止めくらいはできても、倒す手立てが見当たらないのだ。

 ならば、まずは派閥のトップに報告を。


「急げアストラ、この地は捨てる」


 待機させていた鳥の背に乗り、男は目立たぬよう低空を移動しながら王都へと向かった。

 途中、遠目からマルタ東部を眺め――。

 明らかに戦いの痕跡はあるも、死体の一つすら存在しない、戦場ではあり得ぬ光景に嫌な汗を掻きながら。


(このままいけば、あの異世界人は王都にもきっと来る……おまえでも勝てぬかもしれんぞ、バリー)




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 王都の東でニーヴァルが2名の傭兵と戦い始めて、少し経った頃。                                         

 強く日が照り返す北門付近では、一つの大部隊が隊列を整えていた。

 その数は10万――北部から南下してきた、ルエル・フェンシル率いる北部侵攻軍である。

 そんな部隊を城壁の上から眺めるのは、自ら望んで武器を手に取り兵となった老人達の群れ。


「壮観じゃなぁ……こんな大勢の人を視界に収めるのは初めてじゃ」

「これとは別に、東から10万だかの兵がここに向かってきてるんじゃろ?」

「ワシ、震えが止まらんのじゃが」

「それ元からじゃろ」

「景色に感動してそのままおっ死ぬんじゃないよポルさん。せめて10人20人は斬ってから死んどくれ」

「いや、足らん足らん。一人頭100人200人くらいはいってもらわんと」

「トト婆さんや、それちょっと多過ぎんくないかい?」

「孫達のために気張んな。でも漏らすんじゃないよ」


 大事な戦を前にして、軒先で茶を飲みながら話す程度の呑気な会話。

 マルタにいた兵や町民とは違い、ここにいる者達は全員が全員、自分達の死を既に受け止めていることも大きいが。

 しかしそれ以上に、今の段階から気を張ってもしょうがないと、長く生きたからこそ力の入れ時というものを理解していた。

 そして、肩を揺らしながら敵兵を眺めていたこの老人も。


「オルグ爺、引きの合図はおぬしに任せるぞい」

「ふぉふぉっ、外周壁を捨てるのはしばらく後じゃろうな。前列部隊の若造どもは明らかに顔が引き攣っとるわい。ニーヴァルのクソババアが言っていた通り、当面は捨て駒の徴兵連中が相手じゃ」

「普段はクワでも握っていた連中ってわけかい」

「ヴァルツの事情を考慮すれば、"武器を握って歩ける"というだけで徴兵されとるかもしれんがな。しかし部隊に組み込まれ、攻めてくる時点で立派な敵兵じゃ。やらなきゃこちらがやられる、油断するでないぞ?」


 国内ハンターギルドのトップ――ジェネラルマスターのその言葉に、周囲からは普段聞きなれない嗤いが起きる。

 平穏な生活を奪い、子供や孫の命までも脅かそうとする連中だ。

 油断など欠片もない。

 死体を踏み付け、足場にすることすら躊躇いはなく。

 刺し違えてでも殺しきるほどの殺気が周囲に溢れ、空気がピリリと張り詰めていく。


「ふぉふぉっ、問題はないようじゃな。この城壁の高さなら、単独で飛び越えられるような連中はそうおらん。如何に"土台"を作らせないか、奥に控える正規兵や傭兵連中は死体が積み重なるのを待っとるから、燃やすだけでなく散らすことも重要じゃぞ」

「難儀だねぇ」

「トト婆が本気出せば、城壁の上まで舞い上がるじゃろ」

「舞い上がらせてどうすんじゃボケ爺が」

「厄介なのは風でも飛ばせぬ岩じゃなぁ……」

「あとは氷も――ふぉふぉ、ここで一番厄介なその使い手が前に出てきおったわい。どれ、ワシがちょっと行ってくるかの」


 言いながらヒョイと。

 高さ20メートルはある城壁を軽く飛び降り、前に出てきた女性と対峙するオルグ。


「久しいのぉ、ルエル嬢。相変わらず冷めた表情じゃが、美しさには磨きがかかったようじゃ」

「5年振りくらいでしょうか。あなたは怖いくらいに、何一つ変わっていないですわね」

「ふぉふぉっ、仕事柄ヴァルツの経済が相当苦しいことは知っとったが……突如として戦争を起こすほどに、後がなかったということか?」

「もつかもたないかだけで言えば、あと2年――いや、3年ほどはもったのかもしれませんわね」

「なればこそ、実に惜しいことをしたな。ヴァルツのジェネラルマスターとも協議を重ねておった最中だというのに」

「何か、企んでいたのですか?」

「企むとは人聞きが悪い。新たな流通路がもう少しで生まれるところじゃった。本当に特別な経路がな」

「そうですか……でも私にはあまり興味が湧かない内容ですわね」

「自国の経済が大きく動く機会だというのにか? 貴族としてあるまじき発言じゃな」

「ふふっ、私は当主ではありませんし、貴族という立場よりも自由気ままに動ける傭兵が気に入っておりますの。お陰で北部では良い骨董にも出会えましたわ」


 今までと違い、やや表情に動きのあったルエル・フェンシルへ、射貫くように鋭い視線を向けるオルグ。


「……町はどうしたのじゃ。サバリナの、町は」

「私がそのまま活かす予定ですから、建物は綺麗に残しておりますわ。人は不要なので誰もいませんが」

「そうか……」


 事も無げに語られた事実。

 誰もいないということは、数万といたはずの町民や駐在軍が綺麗に消されたということ。

 僅かに喜色を浮かべたまま語られる内容では決してなかった。


「この王都も、そのようにするつもりか」

「私が管理する場ではないのですけれども、できればそうしたいところですわね。残していいことなど、何もありませんから」

「そうか。家の力で実力以上の順位になっていると――そんな噂が絶えぬおぬしに、果たしてできるものか。じっくり見させてもらうかの」

「ご安心を。見せる前にどこかで亡骸になっていないことを祈りますわ。矮小な存在は視界に入りにくいものですから」


 お互いがお互いに、背を向け自らの立ち位置へと戻っていく。

 ルエル・フェンシルは隊列の奥へ。

 オルグは城壁を2、3度蹴り上げ、改めて城壁の上に。

 この時には既に、老兵達に笑みはなかった。

 それはオルグの表情に引きずられた結果なのかもしれない。


 ドォーン――……


 辺りに響く、侵攻の合図。

 敵軍の後方から太鼓のような低音が鳴り響き、第一陣が奇声を発しながら城壁に向かって走り寄る。


「さて、やるぞ皆の衆。我らの守るべきモノを守り通すために――老兵の恐ろしさ、存分に見せてやろうぞ」  

「「「「ふぇふぇふぇふぇふぇっ!!」」」」


「民の生活を脅かす敵兵は、誰であろうと皆殺しじゃあ」
363話 国を背負って

 東から王都ファルメンタに向かった中央侵攻軍は、総司令官が20万の兵を引き連れ南下。

 残り10万の兵が、先に攻撃を開始する予定の北部侵攻軍に加わる形で北上していた頃。

 東部で真っ先に始まった3人の戦いは、お互いが手の内を探る様子見の段階から、徐々に相手を殺しきる攻撃へと激しさを増していった。



『燃えな、灼火、万象、|"狂い華炎《ブルームブレイズ》"』

『水の精霊、鎮めよ、"大水《フラッド》"』


 老婆の正面に生み出される、眩しいと感じるほどに輝く炎で形成された巨大な蕾《つぼみ》。

 思わずモゥグは腕で顔を隠しながら飛び退くも、それはすぐに大輪の花を咲かせ、無数の花弁が不規則に宙を飛び、時に花弁同士が重なり巨大化しながら舞い狂う。

 避ける場を探すのが難しいほどの密度。

 地に触れた火の花弁は至る所で炎を噴き上げる中、素早く"精霊"に求めていたバリー・オーグが、上空から滝のような水を生み出し、周囲に広がる炎を鎮火させていくが。


「……」


 既に何度目かとなるこの光景にバリ・オーグは違和感を拭えないでいた。

 魔法の対象範囲は十分過ぎるほど。

 しかし周囲を見渡せば炎は至る所で残り、精霊を使役してなお"火力負け"していることが見て取れる。

 ニーヴァルがいくら強者とは言っても、所詮は人間のソレ。

 仮に『火仙』――【火魔法】スキルレベル9が偽りであり、『天級』だったとしても自分が負けることは考えにくい。

 バリー・オーグはそう考えていただけに、この状況が不可解で仕方なかった。

 それに身体を纏う、あの異常なほどに濃密な魔力……


「1つじゃない……2つか、3つ、それもかなり特異な特殊付与装備を身に着けている?」


【魔力纏術】を使用していることは見れば分かるが、いったいどれほどの魔力を込め、そして消費しているのか。

 2対1な上に格上が相手――だからこそ魔力消費も厭わず、全てを賭した全力の短期勝負を仕掛けてきた。

 バリーはそのように判断し、消耗による自滅を待ったが、相応に時間が経過しようとも一向に身体を覆う魔力量が減っている様子は見られない。


「まだ|蓄《・》|え《・》はあるけど……このままだと、こちらの魔力が先に尽きちゃうね」


 バリーは呟きながらも、モゥグを見やる。

 言葉は交わさずとも、モゥグもこの異常に気付いてるからこそ、手を緩めず攻勢に出ていた。


「ハァッ!」

「ったく、バカの一つ覚えみたいに……」

「それでも、動きは制限できる」

「もう大して効きやしないんだよ!」


 モゥグは一度身を退いていたため、ニーヴァルとの間に距離があった。

 だがそんなことなど気にも留めず、詠唱を阻害するために【挑発】を入れ、直後に握っていた斧の1本を豪快に投げる。

 先ほどから繰り返される光景。

 即座に反応し、飛来する斧を強く弾いたニーヴァルだが、後を追うように詰め寄ったモゥグは、もう一本の斧を片手に目前まで迫っていた。



「遅いわッ!」

「ぐっ……」


 如何ともしがたい、身体能力の差は埋められない。

 ニーヴァルは苦悶の表情を浮かべるも、しかし杖は折れるようなこともなく巨大な斧の斬撃を受け止め、それどころか纏わりつく濃密な魔力は素早く斧を持つ腕に絡みついてゆく。

 防御には回させない。

 既にニーヴァルの空いた左手を纏う魔力は、鋭い剣の形状に変化していた。


「とっととくたばんな!」

「させるかッ! "反転"!」


 ……浅い。

 僅かに魔力の剣先が肩の皮膚を裂いたところで、ニーヴァルごと右腕を振り上げるモゥグ。

 体格差は歴然で、宙吊りのまま振り回されているところへ、案の定、先ほど弾いた斧が飛来してくる。

 何度も見た光景だ。

 投げても合図と共に戻る、特殊付与能力を備えた武器。

 何もその手の装備を所持しているのはニーヴァルだけでなく。

 モゥグも、そしてバリー・オーグも、それぞれがただ製造しただけでは生み出せない装備を所持していた。


 強引に腕の捕縛を外しながら魔力の剣で弾くも、空中では耐えようもなくニーヴァルは吹き飛ばされていく。


「くっ……はっ……早く、カタをつけないと……」


 北にも、南にも、倒すべき敵がおり、守るべき民がいる。

 それぞれが個人の武功を優先しているため、お互い助け合うような動きを取らないところは幸いだが、しかし繋ぐように絶え間なく続いていく戦闘。

 次がバリー・オーグであると認識していたニーヴァルが、体勢を立て直そうと目を向けるが。

 しかし当の本人は顎に手を当て、何か考えるようにジッと視線を向けているだけ。


「はっはーッ! バリーがこのような好機を譲るとは思わなんだ!」

「ッ……!?」


 この二人に阿吽の呼吸なんてモノは存在しないはず。

 何かしらの合図を送ったのか?

 少なくとも言葉は交わしていない。

 にも拘わらず攻撃のサイクルが突如変わり、戸惑いを見せるニーヴァル。

 モゥグに目を向ければ、既に、斧を投げられた後だった。

 何度も見た、同じ光景。

【挑発】も【威圧】も、いくら自分より強者と言えど、同じ対象からであればもう慣れた。

 身体に感じる、僅かな硬直。

 それを、


「ぬぅぉおおぁあああああああッ!」


 老婆は喉が枯れるほどに叫び。

 転がるようにして、恐ろしい速さで飛来する斧を避けるも。

 どうする……

 もう、牛の獣人は、目の前。

 体勢を立て直す余裕は、無い。


「こいつは、かなり重いぞ!」


 片手じゃなく、両手。

 真っ二つにせんとする勢いで、真上から振り降ろされる斧の一撃。

 止むを得なかった。

 片膝を突き、真上に魔力の防壁を高速で形成。


 ピキッ……パキッ――……


「ッ…グッ……ぅ……」


 しかし、足りていない。

 衝撃で身体が大きく沈み、腕が折れた箇所から歪んでいく。

 このままだと……

 さらに魔力を。

 余すことなく、全ての魔力を、防壁に。


「これで仕舞いだな、ニーヴァル。敵ながらあっぱれな強さだった」


 だが、次の一手は、どうすればいい。


「"反転"」


 今度は、後ろから来る。

 身動きが取れず、背後に回す魔力は、もう無い。



 負ければ、沈む。

 王都も、多くの町や村も、ラグリースそのものが。

 自分が負ければ――


「まだだよ……!」

「?」


『私を、フッ飛ばしな!』


 動かせるのは顔くらいだった。

 咄嗟に取った行動は、自分に向けた強烈な風の槍を側面に生み出すこと。

 反転されても、飛来した斧が戻るまでには時間がある。

 だからこそ、


「ごふっ!」


 自らの横っ腹を、強烈な風の一撃が貫いた。

 押し出されるように、真横へ吹き飛び、直後にモゥグの一撃が地面を割る。


「ほう、【風魔法】も使えるとはな」


 そう言いながら、モゥグはニーヴァルの姿を横目で捉え。


「本当に敵ながら、あっぱれな強さだった」


 斧をニーヴァルに向けて投げた。

 残る1本の斧を。


 防壁は1面に維持したまま。

 この程度の威力であれば、守れるはずだったが。



「……ッ!!?」


 なぜか気配は、背後からも迫っていた。

 ニーヴァルは強引に身体を捻るも、空中でやれることなどたかがしれており。

 かと言って防壁を分割するほどの猶予もなく。



 プシュッ――……


「戻る先は俺じゃなく、対の方だ。|磁双の斧《スプリットアックス》はもともと1本の武器なのでな」


 その言葉をニーヴァルは、背後から斬り飛ばされて地面に転がる、自らの腕や杖を見つめながら聞いていた。
364話 命を賭して挑む者

「仕事はこなした。約束は守ってもらうぞ」

「もちろん。僕の目的は元から宝物庫に眠るこの手のお宝だったしね。ここでその一部が手に入るなら、ニーヴァル嬢の首くらい君に譲るよ」


 そう言いながらバリー・オーグはニーヴァルの片腕と、握られていた杖を拾い上げる。


「あははっ、いったいどんな装備を身に着けてんのか気になっていたけど、これは想像以上だねぇ! たぶん里のヤツらだってこんなの見たことないんじゃないかな?」

「ぐっ……」

「【鑑定】が通ったのか?」

「持ち主の【隠蔽】から離れて、ようやくね。『破天の杖――【消費魔力上限突破】Lv3』、こんなの君だって聞いたことないでしょ?」

「聞いたことはないが……杖の時点で貴様のような魔導士向けだろう」

「その通り。これからいろいろと検証は必要になるだろうけど、ニーヴァル嬢が僕の威力に張り合えるくらいだし、さぞ優秀な古代のダンジョン武器なんだろうね。それに―――」


 バリー・オーグは一度言葉を止め、訝し気な表情で千切れたニーヴァルの腕を眺めた。


「もう一つの不可解な現象にも少しだけ理解が追いついてきたよ。ニーヴァル嬢さ、命を燃焼――とも違うのかな……身体を何かしら変質させて魔力に換えてるでしょ?」

「……」

「ずっと濃密な魔力で身体を覆ってたから気付けなかったけど、もう指先から肘まで腐ったような状態になってるしね。それに今も魔力は生み出されたまま……ふふ、ねぇニーヴァル嬢、この先君は、いったいどんな姿に成り果てるのかな?」


 まただ。

 また口元に手を当て、嗜虐的で不快な笑みをわざと隠そうとするその姿に、モゥグは嘆息を漏らしながら告げる。


「そんなことなどどうでもいい。もう首を刎ねるぞ」

「えぇ~!? 譲るにしても、もう少し大事に扱った方が良いんじゃない? こんなの滅多に見られるものじゃないし、もしかしたら新たな生物が――」

「興味がない。それよりも『槌覚』や他の目ぼしい強者を……ッぐ……!?」


 少なくとも一人は。

 モゥグは間違いなく、油断をしていた。

 右腕は斬り飛ばされ、両足は膝から下がおかしな方向へ曲がり、先ほどは窮地を抜け出すため、腹にも高威力の魔法を自ら撃ち込んでいたのだ。

 そのような状態で地に這い蹲っていれば、誰がどう見ても、虫の息。

 見える範囲で攻撃に移る仕草も一切見られなかった。

 にもかかわらず、突如として地中から飛び出したのは、数多の棘を伴った蔦。

 それらは濃密な青紫の魔力で作られており、バリーオーグは飛び退いて避けるも、モゥグは反応が遅れて足元から絡めとられる。

 足全体に無数の棘が食い込むも、何より危機的なのは、拘束されたにも近しいこの状況。

 両足は思うように動かすことができず、そのような中でモゥグは、這いながらも己を見つめ、口を僅かに動かす老婆の姿に背筋を凍らした。


 そうであった。

 相手は命を賭して挑む者。

 僅かな慢心と同情から、一思いに首を落とそうと。

 そのような甘い考えが過ったために―――。


『……、…万華、紅蓮地獄《ローズフレア》』


「グゥオオオオァアアッ!!」


 それは地中を伝う導火線のように。

 自らの魔力を伝い、棘を通して体内から爆発を生じさせれば、一瞬にして灼熱の炎に飲み込まれる。

 そんな姿を口元に手を当て、楽しそうに眺めるバリー・オーグだったが。


「……へぇ。腕がこれなら脚だって似たような状態だろうに、それでもまだ立ち上がるんだ? それに失った腕も自ら生み出すとは……『火仙』とは言うも、実は【魔力纏術】の方が本命の隠し玉ってところかな」


 驚きが上回ったようで、素直に感心した表情を浮かべながら、ゆっくりと起き上がった老婆の姿を眺める。

 大きく歪んだ脚は接地しておらず、纏う魔力で強引に立たせている状態。

 失った腕も自らの魔力によって、それとなく形作られていた。

 項垂れ、長い白髪は大きく乱れているが、その隙間から覗く目は全く死んでおらず、突き刺すような視線をバリー・オーグに向ける。


「当たり前だ……あんたらとは、背負ってるもんが、違うんだよ!」

「まだ若く美しかった頃、この地を捨ててエルフの里を目指そうとした君が言うとまた一味違うね」

「背負って初めて、分かるものがある。何も背負おうとしないあんたには、理解できないことさ」

「ははっ、理解くらいはしてるよ。その肩に背負う決意も、覚悟も、願いも、祈りも。全ては『力』の前に捻じ伏せられて儚く消える。それが現実であり、今の現状でしょ?」

「ふん、数百年生きといて『思い』の本当の恐ろしさを知らないってのは、ある意味幸せなことかもね」


 バリーオーグはこの時、はったりや負け惜しみともまた違う。

 ニーヴァルの憐れむような視線に引っかかりを覚えるも、それもまた古狐が放つ足掻きの一つだろうと一笑に付した。

 まだ何か手を隠していたとしても、もう切り札の一つはこちらの手にある。

 それに、"首"はもう譲ったのだ。

 ならば自分が戦闘に加わる必要はなく、あとは彼を相手にどこまで足掻くのか。

 高見の見物でもさせてもらおうと、身体中から煙を吐く獣人に視線を向ける。


「何を言いたいのか分からないけど、そこまで『思い』に力があるというのなら、まずは怒り狂うモゥグ君を倒してみたら? そうしたら次は僕が相手をしてあげるよ」


 そう言いながら、我が物とした『破天の杖』を軽く振るバリー・オーグ。

 そして横では――


「ガッ、ハガッ……ァアアア゛ア゛ッッ! もう油断は、せぬ……確実に殺しきってくれるわ……ッ!」


 片膝を突き、ニーヴァルを睨み付ける獣人の姿が。

 脚は見るからにボロボロだが、目立つ出血は見られない。

 代わりに上半身まで大きな火傷を負い、黒い体表の多くは赤く爛れていた。


「はぁ……やっぱり強いね、あんたも」


 ニーヴァルも強者であるが故に理解はしていた。

 最終的には『力』であると。

 この状況になっても力量差を見誤るなど、それこそ愚の骨頂。

 自分では少なくとも、バリーに勝つことはできそうもないと、それも理解していた。

 だが、そうであっても――、


「そりゃこっちの台詞だよ! 血肉を捨てようとも! あんたらの『力』、削り取ってくれるわッ!!」


 自分一人では守り切れなかったと。

 ニーヴァルは心の中で謝罪をしながら、決死の面持ちで詠唱を紡ぐ。


 今の自分にできることを。



 継いだ者が、少しでも楽になるように。


 王都の侵攻が、少しでも困難になるように。


 残った民の命が、少しでも救われるように。


 血肉を灯し、一人でも多くの敵を、道連れにする。





『思い』は継がれる。




 そう信じて。





 








 そして、この時より約30分後。

 王都ファルメンタの東部に、ヴァルツ傭兵ランク7位『ユークリッド』が鳥に乗って現れたことで、事態は大きく動き出す。
365話 ざわつき

 戦争の只中だと思っていた王都ファルメンタ。

 しかし上空から眺める景色はいつもと変わらず、無音と言ってもいいくらいの静寂に包まれていた。

 中心部となる宮殿の上空から周囲を見渡しても、火煙の一つすら立ち昇っておらず、攻められた後という様子は一切感じられない。

 王都を孤立させるため、マルタと攻める日取りを合わせていると兵は言っていたはずだが……


「まだ外か?」


 王都は広く、上空から眺めたところで端までは見通せない。

 それなら第四区画辺りで交戦しているのかと、一番印象に残っている南門付近に転移すれば、そこでようやく纏まった人の姿を確認することができた。

 中央まで延びる大通りは石畳が確認できないほどの兵で埋め尽くされ、城壁の上はもちろん、屋根の上にも弓を所持した人達が待機している。

 恰好からして、町民も相当な数が参戦しているのかな。

 しかし──、これはどうなっているんだ?

 どこも隊列を組んだまま待機しており、城壁の外にもヴァルツ兵の姿が一切見当たらない。


「こんにちは。僕は敵じゃありませんので、少し状況を教えてほしいんですけど」

「え?」


 皆似たような恰好をしているし、そもそも兵士に知り合いなんてほとんどいない。

 だから適当に声を掛ければ、その一塊は全員が呆けたような表情のまま目が点になっていた。


「戦争はどうなっているんですか? ヴァルツ兵は?」

「あ、えっと……ここに来る予定みたいなんですけど、なぜかずっと来なくて、ですね」

「来ない?」

「斥候の情報だと、ヴァルツ中央侵攻軍が王都の東側で北と南の二手に分かれる動きを取ったって、そんな話だったんですけど」

「あと半刻もすれば日は沈む。既にどこかで陣を張って明朝に攻め入る算段かもしれんし、こちらが南に兵を多く充てていることに気付き、北に兵を集中させたのかもしれん。待機命令が出ているということは、そこから詳しい情報が取れていないのだろう」

「なるほど……ありがとうございます」

「ちょ、ちょっと待て、お主はいったい何者なのだ? まずどこから現れ──」


 南はまだ、戦いにもなっていない。

 それに上空から見る限り、ヴァルツ軍が王都の外に陣立てしている様子も見られなかった。

 魔法で光を生み出せるような世界であったとしても、普通は夕日が強く照らすような時間帯からおっぱじめたりなんてしないだろう。


「となれば、北か」


 そう思って北門付近に転移すれば、こちらは予想通り戦闘の痕がしっかりと残されていたが、既に事後といったところで、今もどこかで戦っているような感じはなく、争いの音も聞こえてこない。

 それは城壁の外に広がる光景を見ても、すぐに分かることで……


「城壁はたぶん、通過されていないのか?」


 街の中は綺麗なまま、建物が壊されている様子もないのだ。

 先ほどまでは火の海の中で、悲鳴や絶叫が途切れることのなかったマルタを見ていただけに、被害の程度があまりにも違い過ぎて思わず困惑してしまう。

 と、ここでようやく城壁から外を眺める、見知った顔の人物を発見した。


「オルグさん!」

「おぉ、ロキ君か。今日は立て込んどるからギルドも休みじゃぞ。それとも助っ人に現れたのか?」

「そうなりますね。非はどう見てもヴァルツ側にありそうなので」

「ふぉふぉっ、これは頼もしいわい」

「ただ……もしかして、もう終わっちゃいました?」


 そう言いながら、オルグさんの眺めていた城壁の外へ視線を向ける。

 死体は同じ鎧を着ているのだから、多くがヴァルツ兵のモノだろう。

 集める必要もないほど山となったソレはそこかしこで燃やされており、舞い上がる臭いは噎せ返るほどの悪臭を放っていた。


「残念じゃが、これでもほんの一部。先ほどまでおったヴァルツ軍は、なぜか東へ向かいよった」

「撤退──、なわけないですよね」

「ここまでの大軍を寄越しておいて、ヴァルツが今更手ぶらで帰れるわけもない。東から入る増援との合流を優先したと思っとったが、斥候の話じゃなぜかその増援含めて東に戻っているらしい」

「先ほど南門にも寄りましたけど、あちらは進軍していると情報の出ていた兵が来ず、状況も分からないまま待機している状態でした」

「そうか……となれば、答えは一つじゃな。東に全戦力を集中させた──ヴァルツ側がそうせざるを得ない状況に陥ったということじゃろう」

「ぜ、全戦力って、東はいったいどうなってるんですか?」


 そんな状況がまったく想像できず、感じた疑問はそのまま口から漏れ出てしまう。

 ばあさんや宮廷魔導士の人達はたぶん東にいるのだろう。

 それに存在だけは聞いていた、『華覚』に該当する軍部の人達も。

 ただそれでも、ヴァルツの全戦力をおおよそ聞いているだけに、ラグリースが比肩するほどの戦力を抱えているとは到底思えなかった。

 それとも俺が知らないだけで、ゴリラ伯爵や執事、それに支配人のウィルズさんみたいな、非公表戦力をかなり抱えていたのか?

 そう思っての問いだったが。


「クソババアが……ニーヴァルが戦っとるはずじゃ。たった一人でな」

「…………は?」


 返ってきたのは、まったく予想だにしない回答だった。

 ばあさんは強い。それは、間違いなく。

 でも最上位クラスの傭兵を、それも複数同時に相手取るのはいくらなんでも無理があり過ぎる。

 でも。

 それでも、兵は何かがあって東に戻った──。

 全軍が。


(マジかよ……)


 だからこそ、心がざわつく。

 半ば当て付けで予想したことが、まさかここに来て現実味を帯びてくるなんて……


「ば、ばあさんが一人って! 相当上位の傭兵も混ざって――」


 言いかけたところで、自ら言葉を止める。

 違うだろ。

 ここでオルグさんと会話を続けたところで意味はない。

 まずは行け。

 直接見ろ。

 それで全てが分かる。

 もし、ばあさんが国を守るために古代の魔道具を使っているなら、俺は──。


「まずは、行ってみます」


 オルグさんにそう告げ、転移の準備に入った時。


「ロキ君。一人で全部背負い込もうとしたあのクソババアを……助けられるなら助けてやってくれ」


 それは確かにオルグさんの言葉。

 でも視線を向ければ、周囲にいた人達も一様に俺を見つめていた。

 よく見れば、皆が皆オルグさんと同じくらいの、皺と生傷だらけの年老いた人達だった。

 こんな戦場に似合わないような人達が、最前線で敵と戦っていたのか……


「もちろんです。僕はそのつもりでここに来ましたから」


 俺はそれだけを告げ、王都の東に転移した。
366話 英雄に安息を

「すごい数だな……」

 人生でここまでの人を一度に見るのは、間違いなく初めてのことだと思う。

 王都の東に広がる広大な平野には、地面を覆うほどの人だかりができていた。

 北と南側からも続々と兵は戻ってきており、合流することで波のように蠢いてゆく。

 でも、よほど混乱しているのか。

 相手は軍隊であるはずなのに、場は雑然としていて。

 隊列など関係なく立つ兵士達の中に、傭兵か、もしくは遠距離部隊なのか。

 たぶん革鎧やローブといった色違いの装備を纏う者達も混ざっていたりと、何か理由があって統率を欠いているような、そんな様子が感じられた。

 そして、ヴァルツ兵は王都の中に入れていない。

 それは一目見て分かったが、ばあさんがいったいどこで戦っているのか。

 辺りを見渡しても、滞留する兵には大きな動きが見られないため、その所在すら分からずにいた。


(この辺りじゃないにしても、どこに移動すれば――)


 そんな時、不思議な現象が俺の身に起きる。


「君の位置から見て南東、人があまりいない箇所があるでしょ? そこをよく見てみなよ」

「?」


 若い男の声は、真正面から聞こえた。

 俺は上空におり、当然、人は目の前になどいない。

 思わず後方へ振り返るも、やはり、誰もいなかった。

 なんだ、これは?

 すぐ近くでしゃべりかけられた。

 明らかにそれと同じ感覚。

 僅かに動揺するも、何もないのであれば、視線は言われた通り、南東の方へ向く。

 するとたしかに、小さな円を描いたように人影の少ない地帯があり、あれは、煙か……?

 青い煙のようなモノが、上空に向かって薄く漂っていた。


 男から続く言葉はなく。

 行けと言われてもいない。

 罠、その可能性も十分にあるが。

 でもきっと、あそこにばあさんがいる。

 そんな確信めいた予感から向かえば――。


「ばあさん……?」


 周囲をヴァルツ兵が見張るその中央には、磔にされた、一体の腐乱した何かが存在していた。

 両の目にそれぞれ一本。

 残っている手足や腹には、数えるのも面倒なほどの槍が地面まで突き刺さり、身動きが取れないようにされている。

 でも、俺と同じくらいの背格好に、だいぶ抜け落ちているけどこの長い白髪は、見慣れたばあさんとしか思えなくて。


(なぜ、ここまでのことをする必要がある……)


 そう思うも、すぐ横には頭部を欠損した兵の死体がいくつも転がっているのだから、たぶんこのような状態にされていく中でも動き、そして暴れたのだろう。


「まだ、生きてるんだね」


 今もまだ身体からは、綺麗な青紫の魔力が湧き上がるように放出されているんだ。

 それに僅かだが、身動ぎもしていた。


「凄いでしょ? 頭部まで侵食されてやっと動きが鈍くなったけど、それまでは肉が溶けようとお構いなしに暴れ回っていたんだ。お陰でうちの上位傭兵が一人やられちゃったよ」

「なぜ僕が来ることを――というより、まずあなたは誰なんですか?」

「頭を貫いても生きてるからアンデッドの類かと思いきや、体内に魔石が生み出されたわけでもない。かなり不思議な現象だから、できれば『最後』があるのか見届けてから始めたいんだけど、どうかな? ってごめんごめん。スキルを使ってるから
会話は一方通行でね。賛同してもらえるなら上空に適当な魔法でも撃ってよ」

「……」


 一方的にベラベラと、煩い野郎だ……

 賛同なんてするわけねぇだろうが。

 なぜ魔力が自然放出されるほど生み出されているのか。

 原理や理屈なんて分からないし、この場で知りたいとも思わない。

 でもこの現象を引き起こしている原因は、体内に食い込んでいる見覚えのない首飾りをしているのだから見当もつく。

 それに、使った理由も。

 だからこそ、なんとかしてあげたい、けど。


(これは、無理だ……)


 腕を一本失ったとか、そんな程度の話ではないのだ。

 首飾りの周辺だけがまだマシというくらいで、手足は骨が露出するほど肉が溶け落ちているところも多い。

 それに眼窩を貫いた2本の槍は後頭部を抜けて地面に突き刺さっており、俺のスキルでどうにかできるであろう範疇を明らかに超えていた。

 可能性があるとすれば、一つだけ。

 ばあさんをこのまま拠点に連れていけば、もしかしたらフィーリルがどうにかできるかもしれない。

 でもたぶん、仮にできたとしても、やってはくれない。

 明らかに、下界への干渉に当たるだろうから。

 その確認も、避難所の相談で【神通】を既に使ってしまっている以上は、一度拠点に戻る必要がある。

 そして俺やばあさんがいなくなれば、この場で敵はいなくなるのだ。

 まず王都は襲われる。

 オルグさんの言葉が過るも――。


「ばあ、さん……」


 ――気付けば、僅かに震える自分自身の手を見つめていた。

 俺にできる|助《・》|け《・》|方《・》がどうしても一つしか思い浮かばず、ギュッと胸を締め付けられたように苦しくなる。



「 」

「?」


 その時、微かに何かが聞こえた。

 でも声じゃない。

 何かが、擦れる音。

 慌てて顔を上げれば、ばあさんの口が僅かに動いていた。


「ばあさん!」

「 」


 何かを言おうとしている。

 それは分かるけど、声にはなっていなかった。        


「……?」


 でもなぜか、言いたいことは理解できる。

 うわ言のように「すまない」と、それだけを繰り返していた。

 何に謝っているのか。

 実際のところは分からない。

 けど。

 もし、この状況に対しての謝罪ならば……


 震えていた手は、自然と強く握り込まれる。


「ふざけんなよ……」


 口を衝いて出たのはばあさんにではなく、あまりにも腑に落ちないこの言葉に対しての不満であり怒り。

 なんでこの王都を、ひいては国を護ろうと、こんな状態になってまで戦ったばあさんが謝らなければいけない。

 誰に看取られるでもなく、身体中に穴を開けられて。

 そんな状態になってもまだ、恨言を吐くでもなく誰かに謝罪をしている。

 それはきっと、後悔から。

 ばあさんなら、護り切れなかったこの現状を憂いている。

 そんな気がするけど。


「ばあさん、心配しなくていいから」


 俺にできることは少ない。

 ばあさんが護ろうとしたモノを、俺が代わりに守れるとも思えない。

 それでも……せめてここまでが無駄じゃなかったって思ってもらえるように、ばあさんがやろうとしたことくらいは俺が引き継ぐよ。

 だから。


「もう大丈夫。大丈夫だから、安心して、眠ってください」


 そう言葉を投げかけながら、一番腐敗の進行が遅い箇所。

 肉に食い込む首飾りをソッと引き剥がせば、すぐに放出されていた魔力は勢いをなくし、残された肉の一部が溶けるように土へと還っていく。



「  」

「大丈夫だよ」



『【鑑定】Lv5を取得しました』

『【裁縫】Lv6を取得しました』

『【魔力纏術】Lv2を取得しました』

『【魔力纏術】Lv3を取得しました』

『【魔力纏術】Lv4を取得しました』

『【魔力纏術】Lv5を取得しました』

『【庭師】Lv3を取得しました』

『【庭師】Lv4を取得しました』

『【魔力譲渡】Lv5を取得しました』

『【指揮】Lv7を取得しました』



 その場に残る骨と首飾りを『収納』しながら周囲を見渡せば、マルタと同じ。

 多勢に無勢と舐め腐った顔をしたヤツもいれば、武器を握り覚悟の決まった眼差しを向けるヤツ、怯えからすぐに目を逸らすヤツと、様々な表情をした連中がズラりと並ぶ。

 まぁいい。

 どちらにせよ、たぶん|減《・》|り《・》|は《・》|し《・》|な《・》|い《・》。

 それを経験上理解しながら、それでも俺は上空へ。

 遥か彼方まで広がる群衆に向かって宣告した。


 ――【拡声】――


「最初で最後の通告です」


 チャンスは一度だけだ。


「僕はロキ、奪うために侵攻を続けるあなた達を『悪』と判断し、これ以上攻め入る者を『執行』の対象とします」


 俺だって何が正解かは分からない。

 マルタと同じように考えるなら、王都までの道中に存在した町や村は蹂躙された『キプロ』のように壊滅的な打撃を受けていて。

 兵をただで帰すなと、怒り狂う人達だってきっといると思う。

 でも、俺の納得できるやり方はこれしかなくて。

 もしかしたら、望まずに戦地へ送られた人達が、大勢いるのかもしれない。

 だから一度きりのチャンスを。

 敵となれば、容赦はしない。

 この一度で、自分の人生を決めろ。


「なので死にたくない者は東へ。今すぐ自分達の国に帰ってください」


 ……このように告げても、想定以上に混乱はない。

 まるで分かっていたような。

 アトナーの時と同じ空気を感じる中――群衆の中から、凄まじい大声が響き渡る。



「諸君! あれが此度の戦争における最大の難敵! しかし討ち滅ぼせばラグリースの土地は我が国のモノとなり、大陸中央を纏め上げる大きな足掛かりとなるであろう!」


 ……――ウォオオオ――……!



「人間を至上とする思想も、その思想を守ろうとする異世界人もこの世界には不要! 我が国を貶めた仇敵に浄化の時が来たのだ!」


 ……―――ウォオオオオオッ―――……!!



「奮い立てぇ! 止めを刺した者には望む褒美を与えると我らが王は仰せだッ!! 国の傾廃を止めるは皆の力ぞ!」


 ……――――ウォオオオオオアアアアア――――ッッ!!



 それは一つじゃない。

 呼応するように、奮起を促す言葉が次々に続いていくも、掴めるのはおおよその方角くらい。

 同じように使われた【拡声】は、扇動の意味も含めながら、立場ある者の所在を隠す効果も与えていた。

 敢えて隊列を崩しているのも、姿をくらますことが目的か。

 そして、この男も。


「あれれ、ニーヴァル嬢は君が止めを刺しちゃったんだ? 国を護るために、これ以上ないほど身体を張った英雄に酷いことするねぇ」


 相変わらず、若い男の声は目の前から。

 少なくともばあさんの状態を確認できる立ち位置にはいるのだろうが、先ほどとは違って方角の見当を付けることさえできない。

 だがまぁ、いずれ辿り着く。

 たぶんこいつが2位――言わばここの実質的なボスだろう。

 ならば、どうあっても殺す。

 ばあさんの死を侮辱する、このクズ野郎は確実に。



「それじゃあ始めようか」

「……」



「ここからは『ヴァルツ王国全軍』対『君』との総力戦だ」
367話 窮余の一策

「無事獲物が釣れたようだな」

「それはそうでしょ。彼はこの王都を救いに来たんだろうしね」


 長く伸びた顎髭を摩りながらバリー・オーグの横に腰を下ろしたのは、中央侵攻軍を率いるガルファ総司令官。

 彼らは日没と同時に始まったこの戦いを、城壁の上から【夜目】を通して眺めていた。

 広範囲の魔法戦を想定してか、街の中には一切人影が見当たらず、異世界人からの攻撃もまず飛んでこない。

 この安全地帯と言える場所で戦況を見守りながら、今後の動きを摺り合わせていく。


「ルエルはもう少しか」

「そうだね。って言っても殿を務めていればまだ2時間か3時間くらいはかかるだろうけど。当面はまだまだ元気なウチのユークリッドが担当かな。この手の|妨《・》|害《・》には最も適任だし」

「ルエルやバリーでは、攻撃を加える度に周囲の兵まで死んでしまうしな。ロブザレフ殿は?」

「一応反応しそうな話を振ってから、ユークリッドの鳥に迎え行かせたけどね。僕もあの爺さんには無理を言えないし、来るかは本人次第ってところじゃない?」

「ふむ……となると、一桁ランカーは2位、4位、7位、8位か。モゥグを失ったのは想定外の痛手だな」

「まさかニーヴァル嬢があそこまで粘るとは思わなかったからねぇ。僕まで魔力が底を尽きかけるなんて予想もしていなかった」


 そう言いながらも、バリー・オーグはそっと自らの手を口に当てる。

 ニーヴァルが最後の最後まで倒れなかったのは事実であり、魔力を想定より遥かに多く失ったのも事実。

 しかしモゥグを都合の良い盾とし、見捨てることでニーヴァルの"首"を取り戻した上、モゥグの特殊付与武器まで奪ったのも事実であるが故に、バリー・オーグは内から湧き上がる笑みを抑えられなくなる。

 そんな様子を知ってか知らでか、ガルファは視線を遠くで戦うロキに向けながらも懸念を示す。


「あの異世界人が逃げる心配はないのか?」

「本人も分かっているとは思うけど、それでも一応伝えておいたよ。この場から逃げた段階で、即刻ヴァルツ軍は王都の一斉攻撃に転ずるってね」

「"逃げた"か――、敢えて異世界人に解釈を委ねたな?」

「本当に王都を救いに来るくらいの英雄思考《バカ》なら、はっきりと言葉にするより、その方が都合良さそうでしょ? まぁだからと言って、あの首飾りはさすがに使わないと思うけど」

「使って自ら逃げ道を塞ぎ、雑兵の死と引き換えに自滅でもしてくれれば楽なのだがな」


 バリー・オーグが提案し、ガルファもやむを得ず同意した、異世界人から勝利をもぎ取る窮余の一策。

 しかし唯一の難さえ払拭できれば、現環境下では必勝の方策にもなり得るモノであり、その懸念材料というのが対象であるロキの戦線離脱だった。


 ユークリッドから南部での戦闘、そしてロキの手の内に関する報告を受けた時。

 バリー・オーグは素直に"単独ではたぶん勝てない"と、強い危機感を覚えていた。


 ――当然の如く、ユークリッドの【心眼】は通らず。

 ――【飛行】だけでなく、【空間魔法】までほぼ確実に所持しており。

 ――事前情報にあった【雷魔法】以外にも、【風魔法】や【闇魔法】など手の内は広く。

 ――謎の現象"火纏い"は当然として、同じ類なのか"黒い焔"のようなモノまで纏い。

 ――あのファニーと近接戦闘で張り合い、殴られても普通に起き上がってくる。

 ――さらに獣へ姿を変えた直後、ファニーの身体を一瞬で消し飛ばし。

 ――エヴィンゲララが得意とする【土操術】まで使う。



 もうこの時点で、軽く眩暈がするほど理解が追い付かず、バリー・オーグは手で制してユークリッドの報告を止めたくらいだった。

【土操術】など、前提となる【土魔法】がレベル8まで到達してようやく解放される、中級でも取得難易度のかなり高い魔法。

 他にもなんのスキルが基になっているのか不明な攻撃方法がいくつもあり、いったいこの異世界人は何を主軸にしているのか。

 直に見ていたユークリッドでさえも判断がつかない有様だった。

 どれほどの手札を隠しているのかも分からず、まともに戦っては明らかに分が悪いと感じる相手。

 しかしバリー・オーグは、ニーヴァルとの戦いから身をもって学んでいた。

 もちろんこのような大前提は初めから理解していたことだが、目の前でモゥグが倒され、自らも想定以上の苦戦を強いられたとなれば、どうしたって意識に強く残りもする。


 ならば、異世界人ロキにも同じことを――、消耗戦を仕掛ければいい。


 バリー・オーグはそのように考えていた。

 言うは易し行うは難し、強者相手にそう容易くできることではないものの、今回ばかりはその消耗戦に使える駒がこれ以上ないほど豊富に存在している。

 いくら取るに足らない相手であろうと、腕を振らねば人は斬れない。

 有象無象の徴兵連中から順に突撃させ、睡眠はもちろん、休息の時間も与えず、食事すら摂らせたりはしない。

 絶え間なく攻撃を加え続け、異世界人の全てが尽きたところで|攻《・》|撃《・》|の《・》|通《・》|る《・》|者《・》が仕留めにかかる。

 そしてその役目は、刃の通せぬ兵ではなく、傭兵の領分。

 その中でも新しい『武器』を手に入れた自分が引き当てる確率は高いだろうと。

 バリー・オーグは手に持つ"破天の杖"を眺めながら、思わず声に出して笑いそうになるところを必死に堪えた。


「さてと、魔力をしっかり回復しておきたいから、僕はそろそろ休ませてもらうよ。3時間くらいしたらまた戻るから、あとよろしくね」

「ああ、遠距離部隊と傭兵連中は温存させつつ様子を見るとしよう。あれだけ高威力の魔法を連発していれば、そう時間もかからぬ気はするがな」


 どこで休息を取るつもりなのか。

 街の中へ降りていくバリー・オーグを見届け、ガルファは再度、激しく人の影が舞う箇所へと視線を向ける。


 バリー・オーグのいいように使われている――そのことは強く理解していた。

 しかし勝利を確実に掴むのであれば、必要不可欠な戦力であることに間違いはなく、バリー・オーグの狙いを理解しつつも同意するしか方法がなかった。

 王都を攻めている最中、神出鬼没なあの異世界人に上位傭兵を各個撃破でもされようものなら、最悪はこちらが詰む可能性もある。

 戦力を大きく消耗しようと、ここで潰せるなら確実に潰し、後顧の憂いなく王都攻めに集中したい。

 それに通り道は余さず潰して奪い、見張りも立ててきたはずだが、今日になって王都からの補給が途絶えたことも気になる。

 確実性を優先しつつも、決して時間は掛けられない。


「いくら強いと言っても、体力と魔力に限りのある個人が、いったいどれほどの数を討てるというのか」


 範囲魔法を連発してくれれば、それこそこちらの狙い通りというもの。

 異世界人ということを考慮しても3万か、5万か。

 十分おかしな数字ではあるが、しかしその程度で収まるならば、この後に控える王都攻略に支障をきたすことはない。

 ガルファはそのように考え、雷鳴轟く空を暫し眺め続けた。
368話 正道と邪道

「君が"逃げた"と判断したら、即刻ヴァルツ全軍は王都の一斉攻撃に転じる。ニーヴァル嬢はそれこそ、全てを賭して立ちはだかったけど……君はどうするのかな?」

「……」


 遮ることのできない一方的な言葉に苛立ちを覚えながら、迫りくる敵兵の腹を3人同時に薙ぎ払い、そのまま握っていた槍を後方から振り被る兵に向かって投げつける。

 敵方が何を狙っているのか。

『個』対『群』の構図になった時点で予想はしていたが、この警告でより鮮明になったな。

 狙っているのは、体力、気力、魔力、装備――これら戦闘に係わる全ての消耗だろう。

 俺が王都に来ることを予想し、ヴァルツ軍は明らかに待ち構える格好で準備を進めていた。

 加えて2位や他のランカー達が直接の対決を拒むということは、すなわち南部での戦闘情報が既に漏れているということ。

 当初は"遠地に直接言葉を届けるスキル"の使い手が南部にもいたのかと判断していたが。


 パンッ!


「ッ……ってぇ」


 こめかみ付近に飛来したのは"雷の矢"。

 足を一歩横に踏み込み、衝撃と痛みに耐えながらも、次はこの属性かと嘆息を漏らす。


(もう少し防御を厚くしないとキツいな……)


 この威力、攻撃の特徴――先ほどから様々な攻撃を仕掛けているのは、7位のユークリッドでまず間違いない。

 南部にいたはずの7位がここにいるということは、俺の情報を中央に漏らしたのもコイツだろう。

 的の絞れる上空ではなく、兵の陰に身を隠せる地上から。

 今も各属性矢を飛ばしながら、あからさまに俺の属性耐性を測りにきているし、こうも不定期に攻撃を加えられては、こちらも素の状態で対処するわけにはいかなくなる。


『"雷光"、一線、奥深くまで、薙ぎ払え』


 バリバリバリ――……


『【建築】Lv6を取得しました』


「ハズレか」


 【探査】でも反応が掴めないし、いったいどれほどの距離から射ってきているんだろうな。

 射線を辿り、極力深くまで通るように周囲を薙ぐも、やはりそれらしいアナウンスは流れてこない。

 コイツのおかげで無駄な消耗を強いられていることに苛立ちを覚えるも、先ほど上空から見た光景を意識した瞬間。

 心は急速に冷静さを取り戻し――いや、冷静であらねば俺が死ぬと、そう警告してくれる。


 2千や3千の敵兵を殺しきれるか?

 そう問われれば、迷わず『できる』と答えるし、それが5千という数であっても魔力を惜しまなければ答えは変わらない。

 きっと1万でも、体力と魔力の消耗バランスを少し調整すれば可能と判断してすぐに動くはずだ。

 しかし中央侵攻軍の数は40万。

 北で多少は減ったのだろうが、その減りを補って余りある戦力――傭兵連中がさらに別で存在している。

 |正《・》|攻《・》|法《・》で勝つにはどうすればいいのか。

 マルタ同様、王都も各所での個別撃破を想定していただけに、その全てが俺に向くとなると想像の範囲をあまりにも超え過ぎていて、暗闇で閉ざされたように取るべき選択が見えなくなる。



 気力は丸一日でも、丸二日でも。

 成果という見返りがあるならば戦い続けられる。


 装備も問題ない。

 武器は現状【付与】目的で腰に下げているだけ。

 並みの兵が相手ならば奪った武器で事足りるのだし、防具も兵が相手であれば気にする必要はないだろう。


 だが如何ともしがたいのは体力と魔力だ。

 短期勝負を仕掛ければ魔力は枯渇し、魔力維持に努めれば体力が確実にもたなくなる。

 そして尽きた時、俺に止めを刺せるファニーファニーのような傭兵が健在していれば、俺はまず、そこで死ぬ。


(せめて|上《・》|空《・》|に《・》|逃《・》|げ《・》|ら《・》|れ《・》|れ《・》|ば《・》別だが……)


 ――【魔力纏術】――魔力1000

 ――【身体強化】――


 戦略を組み立てるため、つぶさに周囲と結果を観察し、魔力残量に目を向ける。


(5000はきった。が、まだ1分間に30以上は自然回復が見込めるなら十分。これでユークリッドの回避できない被弾ダメージを試すか)


 近接の攻防は一切力まず、その場からも無駄に動かず、流すように、周囲を斬る。

 死体の山を築ければ、それは僅かでも休息の取れる俺の砦であり、身を守る盾にもなる。

 それでも手柄を得るため、死体を押しのけ、踏みつぶしてでも俺に迫ろうとする兵士達。

 そいつら目掛けて――


『硬化、散開、撃ち抜け、"魔弾"』


 おおよそ2分に1度、高威力の範囲魔法をぶちかませば、これでまた幾ばくかの休息を得られつつ、魔力も極僅かな消費だけで済ますことができる。


『【泳法】Lv3を取得しました』

『【伐採】Lv7を取得しました』

『【盾術】Lv6を取得しました』


(へぇ。参考に【無属性魔法】も使ってみたけど、感覚的には"雷光"よりもマシ。でも"天雷"の方がさらに上ってところか)


【夜目】は使っちゃいるが、それでも一度にどれほどの兵が死んだかなんて目視で分かるもんじゃない。

 あくまでその後に得られるスキルでの判断。

 それでも同じ魔力消費でどれほどの兵を殺せているのかは、この戦いの肝と言ってもいいくらいに重要だ。

 大きな魔力消費を伴う魔法系統で、スキルレベル8まで到達しているのは【雷魔法】と【無属性魔法】の2種類のみ。

 あとはいろいろとリスクの高い、イレギュラーな系統をこの場で試していくかどうかだが――。


「……ッ!?」


 思案しながらも、向かってくる敵兵に武器を投げようとした時。


「ほっ、初めましてじゃな、異世界人」


 目の前に、剣を携えた明らかに普通の兵とは異なる老人が|降《・》|っ《・》|て《・》|き《・》|た《・》。

 僅かに視線を空に向ければ、暗闇の中を巨体だと推察できる鳥が飛んでいるのだから、アレが原因と考えるべきだが……

 しかし、これはどういうことだ?


「あなたは?」

「名をロブザレフと言う。お主にはヴァルツ傭兵8位と言った方が分かりやすいか」

「それはたしかにそうですが……でもあなた、本当に8位なんですか?」

「ん? なぜじゃ?」


 まず単独で目の前に現れたことも驚いたが。

 2位はエルフ種、4位は貴族の女、5位は牛頭の獣人だと兵士から聞いていた。

 そして8位が、高名な剣士であることも。

 ならばたしかに、事前情報の通りだが、この爺さん――。


「あなた、かなり強いでしょう? 3位のファニーファニーと、たぶん同じくらいに」


【洞察】を通して見れば、明らかに9位の変態ゲス野郎より、3位の虎女に近い強さを持っている気がする。

 これは何かの罠なのか?


「ほほ、これは面白いことを言いよる。ちなみにお主、そこらに転がっている鈍らな剣を握っとるが……剣を扱うというのは真か?」

「……さぁ、どうでしょう」

「ふむ」



 空気で。

 所作で。

 目つきで、分かる。

 これはきっと、まずいやつで。

 それは周囲にも伝わっているのか。

 兵士は囲うように動きを止めて見守っていた。



「ならば、どれ。試させてもらうか」

「……っ、らぁアッ!」


 ロブザレフと名乗った『剣士』の動きは、まさに一瞬だった。

 言葉をその場に置いてきたと錯覚するほどの踏み込みに、【硬質化】と唱える隙間など無く……

 それはファニーファニー戦でも味わった、しかしそれ以上に思考を挟む余地が限りなく薄い、刹那の世界。

 手に掛けていたダマスカス製の長剣を咄嗟に切り上げ、袈裟斬りを強く弾く。


「ほう」


 が、何か、感触がおかしい。

 弾くではなく、剣の側面を滑ったような、そんな感触。

 そして、戻りが、あまりにも速い。

 動きは、まだ、見えている。

 既に横薙ぎの姿勢。

 このままでは、腹を裂かれる。


「ズゥオアアアアッ!」


 間に合う、間に合わせろ!

 剣撃を上から潰す勢いで――。



 しかし、振り下ろした俺の剣は、気付けば地面を刺していた。

 差し向けられた剣筋が突如として変わり、横から上へ、また剣が側面を擦ったように滑らされる。

 狙いは、首だ。

 まっすぐに首へと吸い込まれていく剣撃に対し、俺は強引に顔を捻るくらいしかできず。



「剛剣、だが、それだけじゃな」


 ブシュッ!!



 嫌な音を耳が拾い、その後に熱をもった痛みが右の頬に広がったことで事態をようやく理解する。

 フェイスアーマーを突き破り、口がまともに閉じないくらい、頬をぶった斬られた。


「ハッ……ハッ……」


 冗談じゃない。

 この爺さん、ファニーファニーよりも強く感じる。

 魔力を温存などと言っている場合ではなく、本気も本気。

 全力で挑まなければ俺が殺される。


 ――しかし当の爺さんは、気が抜けたようにこちらを見つめていた。


「決して弱くはない。が、スキルのレベルで言えば『8』程度といったところか?」

「だから、なん――」

「異世界人であれば【剣術】スキルレベル10――『剣天』の可能性があると思っとったんじゃがな……残念、お主は期待外れのようじゃ」


 そう言い残し、囲う兵の中へ姿をくらます爺さん。


「ちょ、っと、待てぇえええええええ!!」


 この時、なぜ叫んでまで呼び止めようとするのか、自分自身でもよく分かっていなかった。

 見方によっては命を救われたとも言えるし、強者が目の前から去れば継戦が楽になることは確実。

 そんな考えもあるからこそ、叫びはするも追撃の手は自然と出ない――そのことに気付き、また強い苛立ちを覚える。


「くそっ……くそっ……クソッ!!」


 今までとは逆だ。

【洞察】による結果が格上の判定であっても、手数と応用で勝負に挑んできた。

 だからガルグイユにも、ファニーファニーにも勝ててきたんだ。

 でもこの爺さんは、たぶん今の俺と同じくらいの立ち位置にいながら、それでいて命を失い兼ねない大きな一太刀を浴びた。

 推測するに、かなりの特化型。

 そんな相手の得意とする分野でバカ正直に勝負した――そのこと自体がひどく軽率で、傲慢で。

 勝つことに慣れ、無意識に張り合えると思ったからこそあんな行動を取ったのだろう。

 自分はただの器用貧乏でしかないというのに。



『――傷を、塞げ』


 戦場の真っ只中だというのに、空を見上げれば、思考が徐々に澄んでいく。


「ありがとう、爺さん」


 剣技も、心の在り方も。

 ここで気付かせてくれたことは非常に大きい。


「俺はまだまだ、弱い。反吐が出るくらいに、弱い」


 たかがスキルの一つもカンストしていないというのに、それで慢心など100万年早い。

 それにスキルという数値化されたモノだけでなく。

 それとは別に研鑽し、研ぎ澄ましてきた技術のようなものもきっとあるんだと思う。

 あの爺さんの剣技を見れば。

 そしてあの爺さんが俺に向けた去り際の眼差しを見れば、そんな気がしてしまった。


「少しだけ、待っていてください。ここからは形振り構わず、本気でいきますから」


 効率を考えながらも引っかかりを覚えていたのは、この戦いの後に残るリスクだった。

 これだけの数を相手取るとなれば、一人残らず殲滅というのは現実的に難しい。

 どれほどの数を討ち漏らし、|戦《・》|闘《・》|の《・》|目《・》|撃《・》|者《・》となり得るのか。

 目立つ邪道なスキルほど今後のリスクを抱えると思っていたが――、そうだ、これこそが驕りというもの。

 上空に逃げることも許されない現状、俺に後を考える余裕なんてなかったんだ。



 今は、目の前の敵を。


 全て、殲滅することだけを考えろ。


 後のことは、生き残ってから考えればいい。




 ――【炎獄柱】――【白火】――




 持てる全てを使い、全力で潰す。
369話 待ち受ける悪夢

「ガルファ! バリーはどこだ!?」

「分からん……魔力を回復するまで休むと、街の方に降りたまでしか把握していない」

「チッ……ただ事じゃないぞあれは!」


 異世界人の消耗を促す妨害も放棄し、切迫した様子で城壁の上まで走り込んできたのはユークリッドだった。

 実質の司令塔とも言えるバリー・オーグを探すも見当たず、いたのは城壁の上で険しい表情を浮かべながら戦場を眺める総司令官ガルファのみ。

 そしてガルファも、戦場で展開されている異常な事態に戸惑いを隠せず、思わず知っているであろう人物が現れたことを幸いと、この男に答えを求める。


「あれは我が国の……、<<エントニア火岩洞>>のヴァラカンが使用する能力ではないのか?」

「私も同じことを思ったから、一度離脱してでもここに来たのだ。あの天まで貫くような2本の火柱、中で蠢き人を喰らう龍など、特徴があまりにも似過ぎている」


 ユークリッドは当然として、ガルファ総司令も『剣仙』の二つ名を持つ者。

 自国の狩場に現れるボスの討伐くらいは、若かりし頃に数度経験していた。

 そう、二人とも直接ヴァラカンと対峙した経験があるのだ。

 だからこそ、戦場で広がる光景に、二人は言い知れぬ危機感と恐怖を覚える。


「だが、あそこまで、煌々と周囲を照らすほどに明るかったか?」


 そう問うガルファに、ユークリッドは最も初歩的な【火魔法】を唱えた。


「記憶ではこちらの色に近かったはずだ。あれは何かが違うし、熱量も明らかにおかしい……触れなくても近くにいた兵士の身体が燃え始めるなんて、どう考えても普通ではありえん」

「そ、その上、あの速さで動き回るのか……?」

「低空飛行で移動している異世界人を火柱が追っている風に見えたがな。いずれにしてもここまで兵が密集していては、反応できたところで避ける場所も無い。あんなもの、大半は触れただけで即死するぞ」

「……」


 ガルファもユークリッドも。

 過去の記憶を掘り起こすほど、目の前で起きている現実が信じられなくなる。

 本来はゆっくりと、揺らめくように不規則な動きをとっていたはずだ。

 なのに今戦場で猛る2つの火柱は、不規則ながらも射られた矢のような速さで戦場を移動していた。

 その通り道にいた兵士達がどうなっているかなど、討伐経験者ならばすぐに想像がつくというもの。


「異世界人がなぜ、ヴァラカンと似たようなスキルを使用しているのかはこの際どうでもいい」

「そうだな……問題は消耗狙いの長期戦を継続すべきかどうか」

「ああ、凄まじい勢いで兵が飲み込まれているのは間違いないのだろうが、それだけ魔力消費が尋常ではない可能性もある。あのスキルの委細をバリーが把握していれば、大きな判断材料になるはずだ」

「あと2時間もすれば戻ると本人が言っていたのだ。ルエルもまだ戻れていないだろうし、今しばらくはあのふざけた攻撃を継続できるのか、様子を見ていくしかあるまい」

「承知した。俺は一旦どこかで目を休める。早めにどう対処するのかバリーと決めておいてくれ」


 そう言いながら城壁を飛び降りようとするユークリッドに、一つ聞き忘れたと、ガルファから投げかけられた言葉。


「ああ待て、最後に一つ確認しておきたい。なぜあまり大きな動きを見せなかった異世界人が、突如として活発になった? 何か切っ掛けがあったのか?」


 その問いにゆっくりと振り返りながら、ユークリッドはなんとも言えぬ表情で答えた。


「ロブ爺だ。会話までは聞こえなかったが……軽く一戦交えた後からあの調子ということは、大方バリー以上の挑発でもしたのだろう。本人に自覚はないだろうがな」

「あの"剣聖"め……」


 余計なことをしてくれたと二人は思うが、しかしそれを面と向かって言うことはない。

 機嫌を損ねれば戦線を離脱どころか、最悪はこちらの首が飛ぶ。

 それより今は、東の戦地にとりあえず来てくれたことを喜ぼうとガルファは思考を切り替え、もしあの驚異的な火力を誇る攻撃が継続された場合。

 その後の王都攻略も考えれば兵を無駄に減らすわけにもいかず、後半戦に備えていた傭兵連中や遠距離部隊。

 そして要となる一桁ランカーが全員揃うのを待ってから、極力早めに同時攻撃を行うべきかと。

 そのように思案しながら、戦場を駆ける火柱に視線を向けた。


 そして、空き家となった手頃な家で一人休息を取るバリー・オーグは、当然このような状況を把握していない。

 もしこの場に居合わせていれば――もしくは戦場に立っていれば、どう対処したのか。

 ガルファ総司令の意見に同意したかもしれないし、強引にでも近くにいるロブザレフを探し出し、ルエル・フェンシルがいない今の状況でも総攻撃を加えていたかもしれない。

 それは当人にしか分からないことだが。


 ロブザレフが攻撃を加え、ユークリッドが危機感を覚えて戻ってきたこのタイミング。

 ここで居合わせなかったことが、バリー・オーグの痛恨のミスと言えた。

 本人からすれば、魔力を回復するための休息に充てた僅か3時間という認識だろう。

 異世界人の首を取り合うという意味ではライバルになるルエル・フェンシルはまだ移動中であり、剣にしか興味のないロブザレフとは望む報酬の中身で被ることもない。

 捨て石の兵に相手をさせ、異世界人の消耗を待つだけの3時間。


 そしてガルファ総司令とユークリッドもその認識は変わらない。

 いくら脅威的な殲滅力があろうと、兵はそれこそ唸るほどいるのだ。

 バリーは|2《・》|時《・》|間《・》|程《・》|度《・》で戻る。

 その2時間を、異世界人の消耗を目的とした長期戦のままでいくか。

 それとも兵数確保のため、戦力を集中させた短期決戦に舵を切るべきか。

 判断をするには丁度良いくらいの時間と考えていた。


 それはそうだ。

 誰もこの僅かな時間で、王都攻略を阻む敵が成長するなど、予想もしていないのだから。


 そしてこの傍観するしかない様子見の時間が、果たしてなぜ生まれたのか。

 今は誰も理解することなく、時間は刻一刻と進んでいった。
370話 兆し

【炎獄柱】Lv5 吸い込み、捕食し、生物を食らう巨大な炎柱を、自身から15メートル離れた先に2本生成する 生成後の炎柱、内部の龍ともに制御は不可 スキルレベル上昇により動きが活発になる 発生時間10分 魔力消費90


 過去にこのスキルを発動させたのは1度だけ。

 このように表示された説明はあるものの、いろいろと試した結果、俺は二つの有効な使い方を確認していた。


 まず一つは【白火】がしっかりと適用されること。


【白火】Lv1 自身が扱う火に関する技能に限り、上位格となる白火へ変化させる 熱量はスキルレベルによる 魔力消費20


 俺自身が生み出した火に関するスキルなのだから当然と言えば当然だが、非常に大きいのはその継続時間。

【炎獄柱】はスキルを使用すれば10分間発生し続けるため、一度【白火】を使えば消滅するまでその効果は続いてくれる。

 1分単位の魔力消費量を考えれば費用対効果は他の追随を許さず、このスキルのためにあると言っても過言ではないくらいに相性が良い。


 そして二つ目は――。


 ――【飛行】――


 ここで初めて、戦闘中に少しだけ宙に浮いた。

 "逃げた"と勘違いされても困るからな。

 武器を伸ばせば届くくらいの、そんな人と触れ合わない程度の高さ。

【白火】に変化した【炎獄柱】は、照明器具のように明るく周囲を照らしてくれている。

 それだけに兵の表情もはっきりと分かってしまうが、あれだけ気炎を吐き、武器を掲げて盛大に俺の死を望んでいたのだ。

 今更そのような視線を向けられても、もう遅い。


「ここからが本番だよ」


 その言葉と同時に、俺は一気に加速する。

 翼を生み出し、できる限り速く移動しながら、【探査】を繰り返して目的の場所へ。


「はぁッ!」

「ひ、ぎっ……」


 そうすれば【炎獄柱】は、俺との距離を15メートルほどに保とうと|追《・》|い《・》|か《・》|け《・》|て《・》|く《・》|る《・》。

 その間に龍が飛び出てくることはないものの、途中にいた者達は【白火】に変化した炎柱の中を通過するわけで。


『【手加減】Lv5を取得しました』

『【採取】Lv6を取得しました』

『【写本】Lv1を取得しました』

『【描画】Lv5を取得しました』

『【採掘】Lv7を取得しました』

『【豪運】Lv6を取得しました』

『【金剛】Lv8を取得しました』

『【槌術】Lv7を取得しました』

『【彫刻】Lv2を取得しました』

『【彫刻】Lv3を取得しました』


「これは……」


 まずは流れるアナウンスの量に唖然とし。

 思わず振り返った時、燃えている人間によって長く縁取られた『炎の道』。

 その中心線にほど近い箇所は、死体すら存在していないことに言葉を失う。

 一度発動すれば、10分間は|消《・》|す《・》|こ《・》|と《・》|も《・》|で《・》|き《・》|な《・》|い《・》。

 ここまで誤魔化しの利かない、特異で特徴的なスキルなど他にないのだ。

 所持していることが知れ渡るリスクを恐れ、以前は誰にも見られぬよう、人里から遠く離れた僻地で試した程度だったが……

 炎柱の外周付近に触れれば熱傷――というより、見る限りは発火しているようだし、実践での使用が初だからこそ、ボス固有スキルの本領に打ち震える。


「次!」

「ふぐっ」


『【魅了耐性】Lv4を取得しました』

『【畜産】Lv7を取得しました』

『【釣り】Lv6を取得しました』

『【農耕】Lv8を取得しました』

『【両手武器】Lv6を取得しました』

『【舞踊】Lv4を取得しました』

『【薬学】Lv5を取得しました』

『【医学】が解放されました』

『【歌唱】Lv5を取得しました』

『【酒造】Lv5を取得しました』

『【短剣術】Lv8を取得しました』

『【呪い耐性】Lv1を取得しました』

『【逃走】Lv7を取得しました』

『【錬金】Lv3を取得しました』

『【物理攻撃耐性】Lv8を取得しました』



 それに知力が増加したことで、以前に確認した時よりも炎柱の幅が少しばかり大きくなっていた。

 動けば俺を追いかけるという程度しか制御ができず、その動きも現状は掴み取れる『矢』程度の速さしかないので、強者相手には通じないだろうが……

 ヴァラカンのスキルだと関連付けられることさえ恐れなければ、この手の軍勢に対して最強の一手となることは間違いなさそうだ。


「次ィ!」

「はがッ」



『【庭師】Lv5を取得しました』

『【二刀流】Lv5を取得しました』

『【演奏】Lv5を取得しました』

『【騎乗】Lv8を取得しました』

『【調教】Lv5を取得しました』

『【付与】Lv2を取得しました』

『【付与】Lv3を取得しました』

『【土属性耐性】Lv6を取得しました』

『【拡声】Lv7を取得しました』

『【槍術】Lv8を取得しました』

『【狩猟】Lv8を取得しました』

『【細工】Lv5を取得しました』

『【魅了耐性】Lv5を取得しました』

『【弓術】Lv7を取得しました』

『【手加減】Lv6を取得しました』

『【解体】Lv8を取得しました』

『【探査】Lv8を取得しました』





 さあ、どんどんいこうか。


 ――【探査】――"光玉を生み出した者"――


 まずはお前らから、光を奪うため。



『【身体強化】Lv8を取得しました』

『【芸術】Lv6を取得しました』

『【装飾作成】Lv1を取得しました』

『【装飾作成】Lv2を取得しました』

『【盾術】Lv7を取得しました』

『【俊足】Lv8を取得しました』

『【暗記】Lv7を取得しました』

『【建築】Lv7を取得しました』

『【料理】Lv8を取得しました』

『【騎乗戦闘】Lv8を取得しました』

『【心眼】Lv7を取得しました』

『【舞踊】Lv5を取得しました』

『【庭師】Lv6を取得しました』

『【鋼の心】Lv8を取得しました』

『【魔法学】Lv1を取得しました』

『【視野拡大】Lv8を取得しました』

『【異言語理解】Lv9を取得しました』



 最優先して、上空を広く照らす【光魔法】の使い手を潰す。



『【魔法攻撃耐性】Lv7を取得しました』

『【忍び足】Lv7を取得しました』

『【算術】Lv7を取得しました』

『【鑑定】Lv6を取得しました』

『【遠視】Lv8を取得しました』

『【共有視界】が解放されました』

『【斧術】Lv8を取得しました』

『【聞き耳】Lv6を取得しました』

『【医学】Lv1を取得しました』

『【医学】Lv2を取得しました』

『【魔力最大量増加】Lv8を取得しました』

『【酒造】Lv6を取得しました』

『【畜産】Lv8を取得しました』

『【投擲術】Lv7を取得しました』

『【伐採】Lv8を取得しました』

『【捨て身】Lv7を取得しました』



 逃げ道など、示させたりはしない。



『【話術】Lv7を取得しました』

『【鼓舞】Lv6を取得しました』

『【魅了】Lv1を取得しました』

『【魅了】Lv2を取得しました』

『【杖術】Lv8を取得しました』

『【作法】Lv7を取得しました』

『【採取】Lv7を取得しました』

『【自動書記】Lv1を取得しました』

『【泳法】Lv4を取得しました』

『【封魔】Lv7を取得しました』

『【裁縫】Lv7を取得しました』

『【罠生成】Lv7を取得しました』

『【加工】Lv6を取得しました』

『【魔法学】Lv2を取得しました』

『【魔法学】Lv3を取得しました』

『【魔道具作成】が解放されました』

『【二刀流】Lv6を取得しました』



 できルことなら、この事実を隠すために。



『【疾風】Lv8を取得しました』

『【威嚇】Lv6を取得しました』

『【装飾作成】Lv3を取得しました』

『【罠探知】Lv5を取得しました』

『【罠探知】Lv6を取得しました』

『【睡眠耐性】Lv5を取得しました』

『【医学】Lv3を取得しました』

『【両手武器】Lv7を取得しました』

『【歌唱】Lv6を取得しました』

『【家事】Lv8を取得しました』

『【交渉】Lv7を取得しました』

『【威圧】Lv8を取得しました』

『【隠蔽】Lv9を取得しました』

『【庭師】Lv7を取得しました』



 あの場で逃げなかった者は、一人も生きて帰サない。



『【畜産】Lv9を取得しました』

『【描画】Lv6を取得しました』

『【剛力】Lv9を取得しました』

『【拡声】Lv8を取得しました』

『【採掘】Lv8を取得しました』

『【心眼】Lv8を取得しました』

『【泳法】Lv5を取得しました』

『【酒造】Lv7を取得しました』

『【獣語理解】Lv6を取得しました』

『【錬金】Lv4を取得しました』

『【読唇】Lv3を取得しました』

『【演奏】Lv6を取得しました』

『【釣り】Lv7を取得しました』

『【絶技】Lv8を取得しました』

『【跳躍】Lv8を取得しました』

『【細工】Lv6を取得しました』

『【聞き耳】Lv7を取得しました』



 そのツもりで、東かラ追い込むように。



『【伐採】Lv9を取得しました』

『【魔力自動回復量増加】Lv8を取得しました』

『【調教】Lv6を取得しました』

『【剣術】Lv9を取得しました』

『【豪運】Lv7を取得しました』

『【写本】Lv2を取得しました』

『【射程増加】Lv6を取得しました』

『【加工】Lv7を取得しました』

『【薬学】Lv6を取得しました』

『【彫刻】Lv4を取得しました』

『【盾術】Lv8を取得しました』

『【二刀流】Lv7を取得しました』

『【建築】Lv8を取得しました』

『【農耕】Lv9を取得しました』

『【呪い耐性】Lv2を取得しました』

『【投擲術】Lv8を取得しました』

『【泳法】Lv6を取得しました』

『【短剣術】Lv9を取得しました』



 奪イに来た悪党《エサ》の全てヲ。




『【手加減】Lv7を取得しました』

『【自動書記】Lv2を取得しました』

『【光属性耐性】Lv4を取得しました』

『【調教】Lv7を取得しました』

『【金剛】Lv9を取得しました』

『【槌術】Lv8を取得しました』

『【挑発】Lv8を取得しました』

『【物理攻撃耐性】Lv9を取得しました』

『【遠視】Lv9を取得しました』

『【鑑定】Lv7を取得しました』

『【狩猟】Lv9を取得しました』

『【舞踊】Lv6を取得しました』

『【気配察知】Lv9を取得しました』

『【料理】Lv9を取得しました』

『【暗記】Lv8を取得しました』

『【鋼の心】Lv9を取得しました』

『【封魔】Lv8を取得しました』

『【槍術】Lv9を取得しました』

『【捨て身】Lv8を取得しました』



 喰ラい尽くす。




 ……………



 …………



 ………



 ……



 …
371話 総力戦に向けて

 王都ファルメンタの東門。

 無人で守り手はおらず、木や岩で頑丈に塞がれていたその扉は強引に開けられ、街の内部には精鋭騎士や魔導士部隊、それに数多の傭兵など、万に及ぶヴァルツ軍が侵入していた。

 しかし王都の中心部に向かうわけでも、家屋を破壊し略奪を行うわけでもない。

 目的は避難も兼ねた待機であり、本来の目標であった城壁内部への侵入を果たせたというのに、誰もが無言で表情は硬くこわばり、極度の緊張状態であることを示していた。

 そして城壁の上では、予定より1時間遅れて現れたこの地の最高戦力を筆頭に、主要な面々が赤く染まる戦場に視線を向ける。


「バリー、どうだ? あのスキルが何か分かるか?」


 問うたのはガルファ総司令。

 対してバリー・オーグはカリカリと、自身の爪を噛みながら苦々しい表情で答える。

 もしかしたら里や、より奥深くに住まう者達の中で、何かしらの情報を持つ者はいるのかもしれない。

 しかし、少なくともバリー・オーグ自身は、この現象に対して在り来たりな答えしか持ち合わせていなかった。


「どう見てもヴァラカンのスキルでしょ……」

「それは予想できている。そもそも人が扱えるスキルなのかどうか、という話だ」

「ふ、ふふ、そんなの、できるわけないって。魔物の固有スキルだよ? あの炎柱を再現するくらいはもしかしたらできるかもしれないけど、龍を生み出すなんて魔法の域を超えている」


 ではなぜ、視界の先にその光景が広がっているのか。

 その答えはもう、一つしかない。

 少なくともこの場にいる者達は、その一つしか答えを導き出せなかった。


「異世界人だから、あのスキルを女神から授かったということでしょう」


 平坦でありながら、僅かに動揺も滲ませたルエル・フェンシルの言葉。

 その内容に半信半疑ながらも、この場にいる多くの者達は同意する。


「効果時間は約10分ほど。長くも短くもなることはなく、効果が切れればまた新たに出現する。高速で移動しながら戦場を火の海に変え、余力を示すように【雷魔法】まで連発しているのだから、待てば魔力が切れるなんて可能性も極めて低いだろう。
 それにあの炎柱は、徐々に成長しているような気がする」

「どういうことですの?」

「最初に見た時より炎柱が大きくなっている気がするのだ。ずっと見ていたから私の勘違いかもしれないが……ユークリッド、おまえはどう思う?」

「……巨大化しているのは間違いない。それに炎柱が移動する速度も、心なしか速くなっているような気がする」


 カリッ、カリッ。


「徐々にってことは、都合良くこの戦闘中にスキルレベルが上昇したなんて話じゃないでしょ。ってことは、何? あの龍が人を喰らって成長でもしてるってこと? 冗談でしょ?」

「「「……」」」


 百歩譲って効果時間中のみの成長ならまだしも、一度効果が切れてなお成長が持続するなど、普通に考えればあり得ない現象だ。

 しかし誰も詳細が分からないからこそ、異世界人が女神から与えられた極めて特殊なスキルと言われてしまえば納得するよりほかない。

 そして成長するとなれば、今自分達がやっていることは、難敵を餌場に放流して成長を待っていたようなもの。

 すぐに動かねば余計に戦況は苦しくなるだろうし、何よりどれほど兵に死傷者が出ているのか。

 逃げてきた者達からは、戦場が阿鼻叫喚の地獄絵図になっているという、耳を塞ぎたくなるような話が舞い込むだけで、【光魔法】による光玉がまったく生み出されなくなってからは、おおよその状況すら掴めないでいた。

 このまま放っておいては、王都攻略のために必要な兵数が不足する恐れもある――。


 そんな中で、空気を読まない発言をした者が一人。


「儂はもう帰っていいかの?」


 城壁の陰にゴザを敷いて寝ていたところを捕縛され、ここに無理やり連れてこられたロブザレフである。

 やる気が無いであろうことは、地べたに寝転がり、鼻をほじりながら聞いているその姿勢でおおよそ分かっていたが……

 これにはたまらず、ガルファも苦言を呈する。


「この状況でか?」

「儂の仕事は『バルダモ砦』で西側諸国の援軍、もしくは便乗しようとする連中の行動を防ぐことのはず。ならばもう十分にこなしたじゃろう?」

「あのさぁ……異世界人を炊き付けてあんな状態にしたのってロブ爺だよね?」

「ふん、手札も切らずに黙って死ぬような阿呆などおらん。"逃げ道"を潰したのなら、遅かれ早かれあの状態にはなっとったじゃろうし、そこから被害を拡大させたのは戦地で寝坊しおったお主じゃと思うが」

「あぁ? 何? 僕のせいだっていうの?」

「他に誰がいる。合いの子じゃと若いのは見た目だけ、頭の老化までは防げんようじゃな」

「ハ、ハハ……殺して――」


「いい加減にせんかぁあああああッッ!」


 誰がどう見ても一触即発の雰囲気。

 ルエルとユークリッドが身の危険を感じて城壁を飛び降りようとする中、怒声でもって強引に場を制したのはガルファ総司令だった。


「貴様ら、理解しているのか!? 先ほど下にいる者達にも伝えてきたが……この戦、勝たねば貴様らにくれてやる報酬はないのだぞ!?」

「「「「……」」」」


 この言葉に、一同は思わず動きを止めて閉口する。

 事実として金が無いヴァルツ王国は、そういう契約の基で傭兵を雇い入れていた。

 その代わりに通常ではあり得ない土地や王家の宝物といった戦利品を報奨に充てるとし、傭兵連中もそれならばと、憎たらしい他派閥との共闘にも目を瞑ってきたのだ。


 ――バリー・オーグはニーヴァルの首や、道中の要所を沈めて予定通りに王都へヴァルツ中央侵攻軍を導いた功績を。

 ――ルエル・フェンシルは北部の主要都市『サバリナ』を沈め、北部からの妨害や増援を防いだ功績を。

 ――ロブザレフは西の『バルダモ砦』に一応張り付き、侵攻の邪魔をさせぬよう未然に防いだ功績を。

 ――ユークリッドは南部の事態を迅速に報告し、中央侵攻軍が異世界人に対処できる程度の時間を生み出した功績を。


 それぞれがこの戦で傭兵としての功績を挙げているだけに、このままではタダ働きになるという思いがそれぞれの思考を駆け巡る。


「ふ、ふふ、僕は大人だからね。この国が潰れてもらわないと困るのは皆一緒なんだから、とりあえずは王都を――いや、あの異世界人を墜とすまでは共闘といこうじゃないか」

「そうですわね……アレを一人で抑えろと言われても、さすがに無理があると思いますわ」

「援護と足止めは全力でする。誰かが止めを刺せ」

「もうあの異世界人に興味は無いんじゃがのう。止むを得ん、その代わり宝物庫に眠る宝剣の類は儂が全て貰い受けるぞ」

「どの道ここを越えねば先はないのだ、私も参戦する。オージ、アグネ、ライサ、アストレン!」


 ガルファに名前を呼ばれ、背後から一歩前に出たのは4人の高官。

 それぞれが10万の兵を受け持ち、異世界人を攻め立てるための司令官を務める予定だった者達だ。

 今その者達が、新たな命を受けるために覚悟の決まった表情でガルファを見つめる。


「オージは生き残っている騎士を中心に纏めろ。前面に立ち、残り三部隊を死ぬ気で守れ」

「ハッ!」

「アグネは魔導士部隊だ。魔力を惜しむ必要はない。ここで全てを吐き出してででも総攻撃を加えろ」

「承知しました」

「ライサは回復と支援職を束ねて振り分けだ。対象はランカー傭兵とヴァルツ軍の華覚仙級に該当する8名、取りこぼしがないように配置しろ」

「はい」

「アストレンは遠距離部隊と阻害を得意とする者達を纏めてくれ。特に【闇魔法】【呪術魔法】【時魔法】の使い手は必ず生かすように隊を組むんだ」

「ハッ」

「傭兵連中は私が纏めるから、バリー達も協力を頼む。時間は掛けられん。すぐに出陣するから、ここからが本当の総力戦だと思って各自動いてくれ」


 この号令により、待機していた一団が大きく動きだす。

 場に広がるのは異様な空気感であり緊張感。

 それは一部の上位者ならばすぐにピンと来るもので。

 これから始まるのは戦争などではなく、より濃密な死の気配が漂うレイド戦なのだと。

 多くの経験者はそのように感じ取っていた。




 そして30分後――。

 まるでこの王都を守るかのように、ヴァルツの傭兵と軍部の精鋭を中心とした混成軍が、勇ましい喊声を空に浴びせながら王都の東門から出陣した。
372話 深い、絶望の中で①

 バリー・オーグの生み出した光玉で周囲を照らし、戦場に向かう、約1万のヴァルツ混成軍。

 近づくにつれ、風に乗った熱波と強烈な異臭が顔を撫で、視界の先には道を塞ぐように数多の死体が赤々と燃え盛っていた。

 だが、足を止めるわけにはいかない。

 自ら先陣を切っていた総司令ガルファは、腕で顔を覆いながらも豪快に叫ぶ。


「バリー! この火をなんとかしてくれ! このままでは満足に近寄れん!」

「問題ない」


『水の精霊、鎮めよ、大水《フラッド》』


 その瞬間、上空から大量の水が降り注ぎ、一部の白く輝く火種を残して一気に鎮火していく。

【精霊魔法】であるが故に、範囲も広大。

 だからこそ、2本の炎柱を従え移動していた対象の動きが止まり、混成軍の方へ振り向いた。


「戦場で、笑っている……?」


 この時ガルファは、初めて火の光に照らされた異世界人の顔を見たが、直後には黒く塗り潰されたように見えなくなる。


「く、来るぞッ! 散開! 各員まずは異世界人の動きを止めろ! ルエルはあの炎柱だ!」

「分かっていますわ」


『十重に、閉ざせ、何をも通さぬ、不断の、"|氷壁《アイスウォール》"』


 ルエルは前方から迫る炎柱に両手を差し向け、行く手を遮るように巨大で重厚な氷の壁を生成。

 地上からは盾を持って前面に立つ騎士部隊が、凄まじい勢いで飛来する男に向かって【威圧】や【挑発】を唱えるが。


「「「ぐぉあああああああっ!?」」」

「ッ……!」


 ガルファが見たのは、悲鳴と共に宙へ吹き飛ばされていく数十名の騎士達。

 そして直後には、後方の部隊を抉るように、その数倍という数の人間の身体を細切れにしながら衝撃が突き進んでゆく。


「なっ、なんですのあれは! まったく止まりませんわよ!?」


 一方、後を追っていた炎柱の阻害も、効果はまったく得られていない。

 一瞬で蒸発したように消えていく氷壁を見て思わず叫んだのはバリー・オーグだ。


「私が試す! おまえは本体を止めろッ!」


 そして、奪った『破天の杖』を強く握り、唱えた。


『土の精霊、隔てよ、断層《フォールド》』


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ………………


「お、おぉ……」


 それはあまりにも広域であり、山と呼んでも差し支えないほどの断崖だった。

 使用したのは土属性の【精霊魔法】。

 これにより、異世界人と炎柱の間に見上げるほどの巨大な土壁が生成され、見事分断に成功する。

 僅かに上がる歓声。

 しかし、すぐに呻きや悲鳴が、連続して轟く雷鳴と共に辺りを覆う。

 結界を張り直せとガルファが叫び散らす中、この時ルエル・フェンシルは、未だかつてないほどの屈辱を味わっていた。

 自分は魔法剣士であり、魔道の専門ではない。

 そのような言い分があったとしても、秀でていると自負していた【氷魔法】が煙のように溶け、横のハーフエルフは見事に炎柱の分断を成功させている。

 誰も気にしてはいないだろう、こんな状況なのだから。

 それでも、これは、明らかな劣り。

 初めて自らの行動が、一切の結果も伴わなかった事実に怒りが込み上げ、剣を握る手にも力が入る。

 しかしそんな思考は、"音"の異変によって中断された。


 ドン――ッ!


 重く、響く音。

 直後に轟く雷鳴は消え、連続して光と闇の矢が降り注ぐ。

 始点は上空。

 そのような芸当ができるのは、少なくともここではユークリッドのみであり、極大の魔弾をロキにぶつけ、"天雷"を中断させたが故の結果だった。


 異世界人はまだ上空――でも、高さは少し見上げる程度。

 ならば、捕まえられる。

 よろめき、滞空している今しかない。


「舐めんじゃないですわぁああああッッ!!」


 気付けば大声で、ルエル・フェンシルは叫んでいた。


『埋もれ、閉ざされ、絶望の中で、永遠なる、封縛の時を、"凍結牢《アイシクルプリズン》"!!』


 視線は一点に。

 理外の存在を捕らえるために。


『未曾有の、大水』『絶零の、凍結』『局地の、暴風』 ――『解放』――


 そして横でも、その動きを補助するように、バリー・オーグが3種の魔法を|同《・》|時《・》|に《・》発動する。


 ピキピキピキピキッ――……!


「ルエル! やつは火を纏う! ひたすら唱え続けないと瞬く間に溶かされるぞ!!」

「魔力が尽きるまでやってやりますわよ!!」


 並び立つ二人が夜空に舞うほどの濃密な魔力を放出し続ければ、急速に競り上がった氷塊は異世界人の足を掴み、瞬く間に降り注いだ水は氷へと変化し、局地的な吹雪の中で身体の過半を覆っていく。

 となれば、当然この男も黙っていない。


「ここだぁあああああ!! ありったけを撃ち込めぇええええええええええええッッ!!」

「「「「「「うぉおおおおぁあああああああッ!!」」」」」


 全域に響き渡るほどの、魂を込めたガルファの叫び。

 これに対し、地鳴りのような呼応と共に、周囲を取り囲んだ者達からの一斉射撃が開始される。

 各々が撃てる、最も得意で、最も威力の出る魔法を。

 対象はただ一人なのだから、他と足並みを揃える必要もない。

 そして撃ち込まれている魔法は、攻撃に類するモノだけではなかった。


「氷の捕縛が弱まった時のために【闇魔法】で足止めし続けます!」

「同じく、詠唱阻害もたぶん成功しているから、このまま撃ち続けるぞ!」

「【時魔法】も同じく! しかしどれほど速度を落とせているかは分かりません!」

「【呪術魔法】も同じです! 毒と麻痺を入れていますが結果は不明!」


 後続からは【闇魔法】と【時魔法】による行動阻害と【呪術魔法】による状態異常が撃ち込まれて、上空からも鳥に【騎乗】したユークリッドが、矢に纏わせた【闇魔法】で、着弾を早めながら行動と詠唱の阻害を狙い続けていた。

 飛来する魔法があまりにも多過ぎて、対象を完全に見失うほどの弾幕。

 しかし手を止め生死を確認するなどという愚行を犯す者などおらず、ここでもし逃したら手が付けられなくなる――。

 誰もがその思いだけで、全てを懸けるように撃ち込んでいく中。


「ロブザレフ! お前くらいしかこの状況では近寄れん! 魔法の勢いが衰えたと感じたら一気に首を刎ねろ!」

「ふん、分かっとるわい」


 ガルファに投げやりな言葉を返しながらも、剣聖ロブザレフは腰を落とし、剣を構えながらジッと様子を窺っていた。

 どれほど続くか分からない集中砲火の終わりを待つつもりはない。

 そんな不確かなモノより、自らの剣で首を落とした方が確実と、愛剣『刻踏残刃』を一撫でし。

 自分が踏み込める程度の"切れ目"を探りながら、獣のような瞳で全体を見通していたからこそ―――、僅かな異変に気付けたのかもしれない。


「弾いとるのか……?」


 不思議な現象だった。

 一瞬空気が波打つように歪んだかと思うと、魔法がまったく別の場所へ飛んでいく。

 そんな異変に眉を顰めた時には、既に周囲の喚声は悲鳴へと変わっていた。

 と同時に地中から湧き出るかの如く出現したのは、周囲を絶望へ追いやる悪夢のような2本の炎柱。

 すぐに赤熱の炎は白く輝き、周囲を飲み込みながら、付近にいた者達を発火させつつゆっくりと動き始めていた。

 加えて白炎の柱に住まう龍はその身体も白く煌めき、捕食のために飛び出せばその周囲まで燃やしていく。

 巨大な断崖を通過したなんてことはなく、この場にいるのは騎士であり魔導士であり傭兵であり……

 戦いを生業にしている者達だからこそ、これが再発動であることを誰もがすぐに理解してしまった。

 以前のように距離がある中での隔離はもう難しく、多くの者達が密集しているこの状況で戦わなければいけないことも――。


「あづァ…ッ!」

「だすけ…て……」


 何より、隔離を成功させた者。

 先ほど大地を分断するほどの巨大な壁を生成したバリー・オーグは、この時、思考が停止したように動きが止まっていた。



「ま、まさか、|ア《・》|レ《・》|も《・》、持っているのか……?」
************************************************
商業化の絡みもあり、クソほどやる気のなかった『新人』という名前から、少しもじって『ニト』に変更しております。
ただそれだけなのですが、どうでもいいよって話だと思いますので、ついでに12章と13章のお話も完了していることをご報告。
少なくともあと4か月くらいはこのペースで投稿が続きますので、楽しめそうな人は引き続きお楽しみください。
373話 深い、絶望の中で②

 バリー・オーグは、唯一この中でガルグイユの討伐経験があった。

 だから今、目の前で広がる光景に見覚えがあったのだ。

 ヴァラカンだけではなく、|こ《・》|れ《・》|も《・》となれば、非常識にも程がある。

 しかし、対処せねばこちらが負ける……

 魔法は危うい……ならばもう、近接による攻撃しか―――。


 思わず爪を噛みそうになりながら、意識を前に戻した時。


「?」


 いない。

 過半を氷漬けにし、捕縛していた対象の姿が消えている。

 僅か1秒……呆けていたのはその程度のはずだったのに、なぜ。

 バリー・オーグだけではなく、周囲が混乱する中で。


 ドンッ!!!


「ユークリッド!?」


 凄まじい音と共に上空から降ってきたのは、鳥と一緒に大剣で串刺しにされた7位の姿。

 その横には大剣を地面に押し込む、異世界人もいた。


「シッ!」


 その姿を見て一気に飛び出したのは、剣を構えていたロブザレフ。

 そして追随するようにルエル・フェンシルも駆け出す。


「逃がすなぁああ! ここでひねり潰せぇえええ!!」


 ガルファも、別方向から武器を片手に、鬼の形相で駆ける。

 武器を握る者は、全員が全員、ほぼ無意識に近い行動。

 異世界人の状態を見て、さほどダメージを負っている様子がないことがすぐに分かってしまったから。

 身に絡まる恐怖を吐き出すように叫声を上げ、駆ける、駆ける、駆ける!


 一方、誰よりも早く異世界人の下へ動き出したロブザレフは、強く踏み込もうとする直前で止まっていた。


「……」


 捉えていたはずの姿は忽然と消え、数刻前に対峙した時は掴めていた【気配察知】も、なぜか今は一切反応を示さない。

 一見すれば摩訶不思議な現象。

 だが、この異世界人であれば―――。


「上か…っは……ッ!?」


 ロブザレフが見上げたのと、背後から何かが腹を貫いたのは同時だった。

 込み上げる血をそのまま垂らしながら視線を向ければ、それは真っ赤に染まった腕であり、伸びた手は剣を持つ老人の右手を強く握っていた。


「な、なにが、起き――……」


 そして背後から毟るように首を引き千切られ、老人の身体は静かに地面へ崩れていく。


「ヒッ……」


 目の前には老人の頭部を持ち、全身を黒い焔で覆われた子供。

 表情は見えず、それが余計に恐怖を駆り立て……

 向かっていたルエル・フェンシルの足は、1歩、2歩と、後退りを始めていた。

 しかし、3歩目は許されず。


「ぐっ、あ、あぁ……」


 強制的に、足が前に出る。出てしまう。

 何をされたかくらいはすぐに分かる。

【挑発】だ――しかも、ここまで抗えないほどの強制力を持たせる特大なモノ。

 もう止まれないことを、本人は理解していた。

 強制的な怒りと、困惑と、収まることのない恐怖で、涙に濡れながらも詠唱を唱える。

 せめて、時間が稼げるように。

 自らの足を阻害する、壁が作れるように。


『十重に、閉ざせ、何をも通さぬ、不断の、"氷壁《アイスウォール》"』


 目の前に、幾重もの分厚い氷壁が生まれてゆく。

 これで、【挑発】が切れるまでの時間が稼げれば――……




 そんな願いもむなしく。

 お構いなしに放たれた灼熱の巨大ブレスはすぐに白熱と化し、ゆっくりと半円を薙ぐように周囲一帯を業火の海へと変えていく。

 氷塊は瞬く間に溶かされ、近くにいたバリー・オーグはルエル・フェンシルの身体が少しずつ溶けるように燃えていく様を。

 そしてこのままでは、自分も燃やし尽くされることを悟った。


『み、水の精霊、鎮めよ、大水《フラッド》!!』


 この現象がなんなのか。

 そんな思考は既に放棄していた。

 魔力量にも、火力にも絶対的な自信があって。

 それはニーヴァルから奪った破天の杖で、より確かなモノとなったはずだった。

 それに混血とは言え、長命種の血が混ざっているのだ。

 人間なんかとは生き物としての『格』も『質』も違う。

 なのに――。


「なんなんだよぉ! この化け物は!!」


【精霊魔法】を使い、その威力を杖で底上げしてもなお、火力負けしていることは明らか。

 煌めく業火はみるみると生み出した水を呑み込み、威力が衰えた様子もなくバリー・オーグの下へ迫っていた。


「ふ、ふふ……もう、知らない。どうなっても知らないよ……」


 使えば、自分を守るだけでなく、味方の軍にまで被害が及ぶと思っていた。

 最悪はこの場にいる混成軍がそのまま壊滅する。

 でも、もう、どうしようもない。

 自分がこのまま焼かれるくらいなら使う――バリー・オーグは、そういう男だった。


『水の精霊、全てを、呑み込め、"溟渦《ボルテックスガスト》"』『水の精霊、全てを、呑み込め、"溟渦《ボルテックスガスト》"』――『解放』――


 唱えたのは、【多重発動】を利用した水属性【精霊魔法】の同時発動だった。

 自身でも試したことのない同属性は、僅かに発動のズレは生じるも、それこそ地中と上空、どちらからも自由を完全に奪うほどの水が吐き出され、巨大な球体を形成しながら螺旋を描き、全てを呑み込んでゆく。






 ―――うねり。

 前後不覚に陥りながら。

 バリー・オーグは混濁した意識の中で、薄っすらと周囲に目を向けていた。


 大量の兵や魔導士達が喉を掻きむしるように、藻掻いている。


 自分の派閥に属していた傭兵達も。


 遠くでは総司令のガルファも、この苦しみから抜け出そうと必死に足掻いていた。




 そして、なぜか、|自《・》|分《・》|自《・》|身《・》|も《・》。




 どうして自分で放った魔法に呑み込まれているのか。

 即座に浮かんだ考えを否定したくて、同属性【精霊魔法】の【多重発動】とはこういう効果を齎すのかと、そんなことを考えながら【風魔法】による脱出を試みようとしていると。


「がぼっ……」


 一瞬強い光が視界に入り、直後には脳天を突き抜ける電撃により、詠唱が中断されてしまう。

 その後も連続して襲い来る電撃は止まらず――。

 肺の空気はすべて漏れ出し、意識が朦朧とする中で、球体の外からこちらを見つめる男が視界に入った。

 そして。

 あぁ、|や《・》|っ《・》|ぱ《・》|り《・》|こ《・》|れ《・》|も《・》|か《・》、と。

 バリー・オーグはかつてのガルグイユ戦を思い出し、自身が巻き込まれた理由を悟った。


 これほどの規模にもかかわらず、丸ごと制御を奪われた――きっとそういうことなのだろう。


 そして自分は、自らが生み出した魔法により、多くの駒も巻き込みながら情けなく死ぬのだ。



「これは……もう……神の裁きが、落ちるほどの――……」



 あまりにも理不尽過ぎる力。

 男の最後の言葉は、誰に聞かれるでもなく水の中に溶けていった。
374話 衝動

『【泳法】Lv8を取得しました』

『【暗記】Lv9を取得しました』

『【狩猟】Lv10を取得しました』

『【風魔法】Lv9を取得しました』

『【手加減】Lv9を取得しました』

『【疾風】Lv9を取得しました』

『【両手武器】Lv8を取得しました』


いない。


『【心眼】Lv9を取得しました』

『【盾術】Lv9を取得しました』

『【明晰】Lv9を取得しました』

『【罠探知】Lv8を取得しました』

『【斧術】Lv9を取得しました』

『【奴隷術】Lv7を取得しました』

『【二刀流】Lv8を取得しました』

『【気配察知】Lv10を取得しました』

『【逃走】Lv8を取得しました』

『【呪い耐性】Lv4を取得しました』


ここにも、いない。


『【水魔法】Lv9を取得しました』

『【魔法射程増加】Lv9を取得しました』

『【読唇】Lv4を取得しました』

『【魔力自動回復量増加】Lv9を取得しました』

『【体術】Lv9を取得しました』

『【鼓舞】Lv9を取得しました』

『【呪術魔法】Lv5を取得しました』

『【死霊術】が解放されました』

『【土属性耐性】Lv8を取得しました』

『【挑発】Lv9を取得しました』

『【金剛】Lv10を取得しました』


ここにも。


『【結界魔法】Lv6を取得しました』

『【跳躍】Lv9を取得しました』

『【威嚇】Lv7を取得しました』

『【家事】Lv10を取得しました』

『【光属性耐性】Lv6を取得しました』

『【歌唱】Lv8を取得しました』

『【杖術】Lv9を取得しました』

『【料理】Lv10を取得しました』

『【威圧】Lv9を取得しました』

『【回復魔法】Lv9を取得しました』


 止まらないアナウンスを眺めながら【探査】を使い、範囲内に生き残った者がいないことを確認する。


 ならば、次だ。

 まだまだカンストしていないスキルは山ほどある。

 先ほどまで逃げ惑っていた、残りの兵を――。


 じゃりっ。


 自然と足が東の方へ向き、追おうとしたところで、目の前の巨大な壁が視界を遮っていることに気付いた。


「?」


 いや、あることは分かっていたはずだが……

 それでも今、初めて知ったような。

 何かがプツリと途切れてふと我に返った――、そんな感覚から、堪えるように踏み止まって少しだけ考える。


 記憶は、ある。

 何を成したのか、その理由も。

 そうだ、俺は人の皮を被った悪党共を、魔物と同じく糧に――。


 ゴッ。


 ってぇ……

 遠慮無しに自らの頬を殴ったおかげで、口から血が滴る。


「あぁ、これはかなり、マズい気がする……」


 以前と同じだ。

 ギニエで町を乗っ取っていたバーナルドの一味を潰した時。

 あの時にも妙な胸騒ぎと、このままでは歯止めが利かなくなりそうな感覚に不安と恐怖を覚え、残党の処理をラッド君に任せたんだった。

 だが今回は、そのラインを明らかに越えた。

 それはもう、やり過ぎなくらいに。

 だから今も、まったく衝動が収まらない。

 確実に何万という数の悪党を殺しているのに、足らなくて、足らなくて、足らなくて……

 でもこのまま行動に移せば、さらに何かがおかしくなって壊れてしまいそうな。

 それこそ見てはいけない人達まで糧として見てしまいそうな、そんな気さえしてしまう。


「それだけは絶対に駄目だ……既に一度、失敗してるだろう……」


 歯止めがきかなくなり、強さのために全てを捨てた過去がある。

 質は違えど、仲間や女神様達もいる中で同じ過ちは繰り返せないし、繰り返したいとも思わない。


「ソッチ側になんて堕ちてたまるかよ……」


 とにかく今は、この異様な昂ぶりを冷まさないとマズい。

 そう判断し、止まらないアナウンスを視界に収めつつ壁に背を向け、俺は耐えるように周囲へ散らばる遺品や遺体の回収に意識を向けた。


『【拡声】Lv9を取得しました』

『【指揮】Lv9を取得しました』

『【発動待機】Lv8を取得しました』

『【多重発動】が解放されました』

『【遠話】Lv1を取得しました』

『【遠話】Lv2を取得しました』

『【遠話】Lv3を取得しました』

『【遠話】Lv4を取得しました』

『【省略詠唱】Lv8を取得しました』

『【広域探査】Lv1を取得しました』

『【広域探査】Lv2を取得しました』

『【広域探査】Lv3を取得しました』

『【広域探査】Lv4を取得しました』

『【魔法攻撃耐性】Lv8を取得しました』

『【精霊魔法】Lv1を取得しました』

『【精霊魔法】Lv2を取得しました』

『【精霊魔法】Lv3を取得しました』

『【精霊魔法】Lv4を取得しました』

『【多重発動】Lv1を取得しました』

『【多重発動】Lv2を取得しました』

『【聞き耳】Lv8を取得しました』




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ラグリース王国の東部にて。

 勅命により自国とヴァルツ王国とを繋ぐ『ルーベリアム境界』の破壊に成功した槌覚のラディットは、生き残った1名の部下を引き連れて王都へ戻る途中、おかしな光景を目にする。

 最初に見えたのは、正面に広く立ち上る砂煙だった。

 王都にはかなり近づいているのだ。

 戦場が近いのだろうと、二人はそう感じていたわけだが。


 ポツポツと、こちらに向かってくる人の姿が見え始め。

 それが逃げだしたヴァルツ兵であると確認できた頃には、平原の先が兵で染まるほどのおぞましい数に膨れ上がっていた。


 誰も彼もがフラついているのは、夜通し移動し続けているからだろう。

 身体に火傷を負っている者も多く、軍の体裁を捨てた多くの兵達が、個々の判断で命からがら逃げている。

 二人はそんな印象を持ちつつも。


「ニーヴァル様がやってくれましたか!」

「そうなのだろうが……」


 ラディットは僅かに首を捻り、妙な違和感の正体を探ろうとする。

 蜘蛛の子を散らすように東へ移動している兵の数は膨大だ。

 これだけの数がいればまだ戦としては十分成り立ちそうなものだと、兵を纏める者としてラディットはそのような思考が働く。

 それに。


「戦場に立てば、誰もがこのような表情になるものか……?」


 兵士の顔は、明らかに普通ではなく、恐怖に塗れていた。

 騎乗した敵兵が僅か2人、街道の先で立ちはだかっているのだ。

 普通ならば敵意の一つでも向けてきそうなものだが、誰一人武器を構えることはなく、逃げるように自らの進路を変えてでも東へ進もうとしている。

 戦況が芳しくないからと、それだけが理由でこの数の兵が戦場を放棄してきたわけではないだろう。

 かと言って兵達には戦った痕跡がありありと感じられるのだから、兵糧不足による士気低下で逃亡しているということもないはずだ。


「……急ぐぞ」

「こちらに向かってくる兵はどのように?」

「立ち塞がる者だけを斬り飛ばし、あとは放っておけ。ヴァルツ軍が自らカラン街道だけでなく、周辺の町や村まで略奪して回ったのだ。放っておいても大半は餓死する」

「自国に戻るための橋は既に崩壊していますしね」

「だがそれでも全てが蹂躙されたというわけでもあるまい。急ぎ戻って残兵の処理に当たる必要があるし、戦況がどのようになっているのかも気になるからな」


 まだ勝利が確定しているわけでもないのだ。

 敵兵が逃げているという事実と、何が起きているのか分からないという言い知れぬ不安と。

 綯い交ぜになりながらもラディットは馬を走らせ――。


 約半日後。

 ラディットは無傷の宮殿内で、様々な事実を知ることになる。
375話 戦況報告

 ロキがヴァルツ王国の主戦力を壊滅させてから2日後。

 ラグリース王国の王都ファルメンタ――その中心部にある宮殿内では、各方面からの被害状況が続々と寄せられていた。


「北は一部に城壁の被害が出た程度で、西と南はまったくの無傷。それに東も浸水の被害は出ているが、建物の損壊はまるで無しか……」


 現ラグリース王――ヘディン王が、信じられないといった様子で卓上の木板に目を通していけば、それらの報告を一手に引き受けていたシラグ宰相が言葉を返す。


「東は街道を塞ぐように競り上がった巨大な崖が存在しているようですが、時間を要するというだけで解決できないほどの問題ではございません」

「民の戻りは?」

「まだ1割ほどかと。兵が被害状況の確認も含めて各地を回っておりますので、増えてくるのはこれからでしょう。しかし、一部はもう……」

「分かっておる。ジュロイに渡った者達も当然いるだろうし、その者達の行動を責めることなどできん」


 そうは言うも、ヘディン王の表情は憎々し気なものへと変わっていく。

 それは民にではなく、思わず口にしてしまった隣国に対してだ。

 結局同盟国である西のジュロイ王国、そしてトルメリア王国からは、ただの一度として援軍に関する返答は得られていない。

 不戦の通告すら寄こさないというあまりの不義理に、その事実を知らぬ民は別として、国の上層部は一様にして西側同盟国への悪感情を大きくしていた。

 だが、今はそんなことなど二の次だ。

 何よりも優先して、甚大な被害を受けた国の立て直しが迫られている。


「南部から、追加の報告は?」

「先ほどレイモンド卿から一度だけ。吉報と凶報がそれぞれございました」

「……吉報から聞こう」

「一つはマルタの東部で、被害の出ていない村や町をいくつか発見したと。他領ではあるようですが、安全を確保するために派兵したとのことです」

「よし、ラディットの読み通りだな。敗走したヴァルツ兵の殲滅と並行しつつ、北部から東部にかけては、町や村の損壊度合いを確認。移住者をすぐに送れる状況なのか、各領主の安否確認も含めて調査を進めろ」

「はっ。そして凶報ですが、マルタの西部――オーバル侯の領土から、マルタに避難してきている者が一定数いると」

「オーバル領……ジュロイとの国境付近ということか?」

「そういうことになります」

「……」


 この言葉に、シラグ宰相は当然として、ヘディン王も何が起きているのか。

 おおよその事情は察するも。


「……足らないな、何もかもが」


 目頭を押さえ、唸るように本音を吐き出す。

 被害の状況からすると、国土の約半分近くを踏み荒らされ、その地に住まう多くの民も失ったのだ。

 急ぎ兵を送る程度のことはできるが、いざジュロイ王国との戦争にでもなろうものなら、間違いなくラグリースに耐えられるほどの体力は残されていなかった。

 それに要の戦力であり、国の柱とも言える人物はもうこの世にいない。

 ヘディン王はゆっくりと、祭壇前に安置された"石壺"に視線を向ける。


「未だあの異世界人――ロキ殿は顔を見せぬのか?」

「そのようですし、ハンターギルドのジェネラルマスターオルグ殿も、どこにいるのかまでは分からないとのことです」

「そうか……」


 人骨の入った石壺を受け取ったのは、異世界人ロキと面識があるという宮殿の門兵だった。

 まだ戦時の只中となる2日前。

 早朝の宮殿に現れた異世界人は、中身の人骨がニーヴァルのモノだと告げ、どうしても介錯でしか救える方法がなかったこと。

 そして王都の主要戦力は全て潰し、残った兵が広範囲に敗走していることを告げて去ったと言う。


「平時の様子を知っている兵が、"どこか様子がおかしかった"と報告しているのですから、心身共に相当な疲れが溜まっていたのでしょう」

「当然だろう……南部の司令官や傭兵連中を一掃してマルタを救い、そのまま王都に攻め込んでいた全ての兵や傭兵を相手取ったのだ。しばらく身体を休める必要もあるだろうが、宰相、分かっているな?」

「もちろんです。もし立ち寄られるようなことがあれば、最上級の国賓として迎え入れるよう伝えております」

「我らが英雄に救いの手を差し伸べ、遺骨まで届けてくれたのだ。それだけでも感謝に堪えん」


 ニーヴァルに託した呪具とも言える装備の末路を把握していたからこそ、ヘディン王は介錯による救いにどれほどの意味と価値があったのかも理解していた。

 重臣の一人は、最初から救いにきてくれればニーヴァルは助かったなどと宣い、かつてないほど激高した王にその場で首を斬られていたが……

 そんなことをしていては南部が壊滅し、兵が早期に北上していたかもしれないのだ。


 ニーヴァルが東の地で何を成したのか、その答えは異世界人にしか分からない。

 だが間違いなく、身を賭して時間を稼いだからこそ、無傷に近い形で終わった今の王都がある。

 そのことを胸に刻み、未だ予断の許さぬ状況をどう切り抜け、ヴァルツに落とし前を付けさせるか。

 忠臣の命を無駄にしないためにも、宰相との協議は夜遅くまで続いた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「だいぶ、マシにはなってきたかな……」


 ヴァルツの主要戦力を潰してから4日か、5日か、それとももう少し経ったのか。

 ゼオ達がかつて眠っていた亀裂内の洞窟にひたすら引き籠っていたので、時間経過はなんとも曖昧だが、『毒』がだいぶ抜けてきたような感覚から一度マルタの上空に移動。

 そこでヴァルツ軍がいなくなっていること。

 そして復興作業を進めているマルタの住民を見ても、良からぬ感情が込み上げてこないことにホッと胸を撫で下ろす。


 ヴァルツ軍の多くを潰したあの時は本当に何かがおかしかった。

 直観的に強者のオルグさんと会うのはかなりマズいと感じ、渡す予定だったばあさんの遺骨を宮殿にいる門兵に預けたけど、それでも"生きている人"を見るだけで応えるものがあったのだ。

 ただの『欲』とも少し違う気がする、『反動』のような――、奥底から湧き上がる黒い感情はなんだったのか。

 本当はすぐに帰りたかったけど、ゼオ達はもちろん、女神様達にも情けない姿を曝すだけだったので、拠点に戻らなかったのは正解だったと。

 そんなことを思いながら、ラグリースの主要箇所に転移。

 一通りの状況を確認した後、俺はベザートの人達がいるパルメラの一時避難場所に向かった。


「あ、探しましたよー」

「ロキか。ふむ……鎧の破損は目立つが、見る限り大きな怪我はなさそうだな」


 場所は広場の中心地からやや外れた箇所。

 目的のヤーゴフさんは木板を片手に、指を差しながら何かの指示出しをしていた。


「驚きましたよ。なんかちょっと町っぽくっていうか、綺麗に区画を整理して家を建てようとしてるんですね」

「戦争の結果如何によっては、このままこの地に住み続ける可能性だってあるし、流れついた避難民はベザートに住む家もないからな。戦えない者達ほどこの資源をどう有効活用させてもらうか、知恵を出し合っているわけだ」


 そう言ってポンポンと叩いたのは丸太で、女神様達が空地を作り出した時に生まれた木材や石材は、まだまだ鬼のような量が山積みされていた。

 何かに使えるかもと思って女神様達に頼んだのは俺だが、精々雨避け用の資材くらいに考えていたので、ここまで本気で取り組んでいるとはビックリである。


「それよりも戦況はどうなのだ? こうしてロキが現れたということは、ただの様子見ということもないだろう?」

「その通りでして、とりあえずヴァルツの負けはほぼほぼ確定ですかね。主要戦力を失い、多くの兵は敗走しています」

「ほんとかよ? それじゃもう町に戻っても大丈夫ってことか?」


 丸太を肩に担ぎながらそう問うたのは、たまたま近くにいた、50年は顔を忘れないと誓った気がする靴屋のオヤジ。

 なんだなんだ、靴屋なのに随分とパワフルだな。


「ん~そこが微妙なところなんですよね。各所を見て回りましたけど、敗走した兵がまだチラホラと動いてるんですよ。『ルーベリアム境界』が壊されていたので、大半は野垂れ死んで動物や魔物の餌になってましたけど」

「ケッ! 自業自得だぜ、まったくよ」

「逃げ道すらなくなるとは哀れなものだな……町は――、ベザートの様子はどうなっていたか分かるか?」

「残念ながら、家屋の倒壊や荒らされた痕跡は多数見受けられました。あとは周囲に広がる畑の損害もですかね」

「敗走して飢えに苦しんでいるとなれば、当然そうなるか」

「あとはこのまま終戦という判断をしていいのか、そこもかなり微妙です」


 逃げている連中はラグリースの兵が追っているのだから、そう時間も掛からずケリはつくはず。

 なので厄介な問題はこっちの方だな。


「……『ジュロイ』か?」

「はい。南西部の土地が一部、ジュロイの領土に切り替わっていました」

「……」


 ちょっと独特の表現をしてしまったなと思うが、これ以外に伝えようがなかった。

 たぶん俺だけが分かること。

【地図作成】スキルを通して見れば、以前作った地図との比較でどう変わったのか、すぐに判別することができる。

 同盟国であるにもかかわらず、漁夫の利を得ようと動いた。

 そして今、予定と違う状況になってきており、どうするか迷っている――たぶんそんなところだろう。


「情報では盗賊に扮している、もしくは盗賊を雇って事に及んでいるという話ですし、上空から眺めても目立つ兵の動きは見当たりません」

「ラグリースの敗戦が濃厚と見て掠め取ったつもりが、ロキのおかげでまさかの結果になってしまった。となると、ここから知らぬ存ぜぬで元に戻すか、それとも好機と見てより多くを奪いに来るか……可能性としては前者の方が高そうだが、こればかりは分からんな」

「ラグリースの東側半分はボロボロですけど、王都はほぼ無傷で済んでますし、情報の取り方次第かなーと。なのでまだベザートに戻るのは危険じゃないかなって個人的には思います」

「町も畑も荒らされているのなら、急いで戻る理由も見当たらないしな。ちなみにロキ、ジュロイの動きを国は知っているのか?」

「ゴリラ――、じゃないレイモンド伯爵は感づいているっぽかったですけど、国はどうなんですかね。他にも伝えることがあるので、しょうがなく。本当~にしょうがなく、これから行ってこようとは思ってますけど」

「くくっ、そうか、ならば行ってこい。こちらは用意してくれた手厚い下地のおかげで滞りなくやれている。ここなら目の前に川があるおかげで、子供たちも食糧調達に協力してくれているしな」


 そう言われて視線を川に向ければ、数人のじいさんばあさんが見守る中、多くの小さな子供達が釣りを楽しんでいた。

 他にも畑を作ろうとしている人達や、森をさらに切り開こうとしている人達。

 奥の方ではホーンラビットを解体している人達なんかもおり、皆が皆、やれること、できることでこの避難生活を支え合っているのなら、俺が取り急ぎ何かをする必要はなさそうだ。


(ただまぁ川も近いし、落ち着いたら男女別の浴場くらいは作ってあげよっかな?)


 そんなことを考えながら、俺はジュロイだけでなく、ヴァルツの後々を相談しに宮殿へ向かった。
376話 また、ゴミが一人

 何かがおかしい。

 そんな雰囲気をヒシヒシと感じながら、5人の兵士に囲まれ、ゆっくりと宮殿内を歩いていく。

 今まで本の購入で何度か出入りしているのに、こんな対応一度もされたことがないし、そもそもどこへ向かっているのかも分かっていない。

 まだ戦時中という認識なら当然なのかもしれないけど、こういう厳戒態勢な雰囲気を出されてしまうと、小市民の胃はどうしてもキューンと縮こまったように痛くなってしまう。


「ロキ様、ご入場なされます!」


 その言葉と同時に、両脇から開かれる大きな扉。


(は、はがぁ……)


 本当に勘弁してほしいんですけど。

 誰も誘導してくれないし、アドバイスもしてくれない。

 どうしたらいいのか分からないまま、とりあえず玉座に座る王様のところへ向かうも、胃の痛みはここでピークを迎える。

 まずこの手の作法なんてよく分かっていないのだ。

 どこで止まり、どこで跪き、何回目で顔を上げればいい?

 っていうか、なんで俺はただ知らせに来ただけなのに、勝手に王と会う話になって、おまけに避雷針代わりにしたその土下座王に跪かなきゃならんのだ?

 ばあさ~ん。

 縋るように視線を這わせるも――。

 そうだ、もういないんだと、改めて気付かされたことで心が沈む。


 体育館よりも広く、そして高いと感じる大広間。

 真っすぐに延びる、質のよさそうな赤い絨毯。

 両脇には精巧な模様の描かれた多くの石柱が存在し、その傍には様々な視線をぶつけてくる国の重鎮であろう人物達が――、なぜか額に汗を浮かべ、顔を赤くしながら立ち並んでいた。

 考えてみれば待ち時間ってほとんどなかったし、皆走ってここにスタンバってたんだろうか?

 そう考えれば気の毒なことをしたかもしれない。


(面倒でも事前に伝えておくべきだったかな……)


 そんなことを考えながら、"ばみり"のような立ち位置の目印を探していると。


 ガサッ。


「ん?」


 正面から大きく布の擦れる音が聞こえ、顔を上げればなぜか、王様が立ち上がっていた。

 はて、謁見ってこんな流れなのだろうか?

 そう思ったのも束の間、トコトコと玉座の置かれていた階段を降り、俺の目の前まで歩いてくる。

 そして、王様は俺の手を両手で強く握り、勢い良く頭を下げた。


「???」

「よくぞ立ち寄ってくれた。余はヘディン・グラウト・ラグリース、まずはそなたに、何よりも感謝の言葉を伝えさせてほしい」

「あ、えっと……」

「窮地に陥っていた我が国を、そして我が国の英雄――ニーヴァルに救いの手を差し伸べてくれたこと、心より感謝する」


 その言葉と同時に、玉座の横にいた数名を含め、周囲にいた100人以上の人達が一斉に頭を下げ始める。

 なんなのだこれは……


「本当はこのような場を好まないこともニーヴァルから聞いてはいたが……それでも、一度は示す必要があったのだ。許してほしい」

「……」


 いくら知識がなくても、これが明らかに普通じゃないことくらいは分かる。

 示すというのは俺に対してなのか、それとも周りの家臣達に対してなのか。

 どちらにせよ、わざわざ同じ高さにまで降りてきて、大勢の家臣の前で頭を下げる――それがヘディンと名乗った王様なりの誠意の示し方だったということ。

 確かに苦手だし、居心地は悪いけど……そう俺が判断してしまうくらいには気持ちが伝わったので、それならもう十分である。

 そもそも、こんなことをしてもらうために来たわけじゃないんだし。


「もう大丈夫ですので、とりあえず頭を上げてください。僕は必要なことを伝えにきただけですから」


 そう伝えれば、王様はゆっくりと顔を上げた。


「承知している。この場で続けては居心地も悪かろう。奥に部屋は用意してあるが、宰相だけは同席しても構わぬか?」

「えぇ、それは問題ありません」


 両脇の人達は頭を下げたままという、なんとも異様な光景にビクビクしながら王様の後をついていくと、玉座の横にいた小太りのおじさんが奥にある扉を先立って開けてくれる。

 するとそこは謁見の間と違い、高級感はあるものの落ち着いた雰囲気のある10畳程度の小部屋に繋がっていた。

 テーブルを挟んで椅子も6脚ほどあるだけなので、人を招くというよりは王様と極一部の人が何かを相談するような場所といった印象だな。


「ここからは公の場でもないのでな。改めて我がヘディン、横にいるのが宰相のシラグという」

「シラグ・エントリオと申します。以後お見知りおきを」

「僕はロキと言いまして、ご存じかと思いますが異世界人です。よろしくお願いします」

「ニーヴァルが相手の時はもっと楽に話していたと聞く。そうしてもらっても構わぬのだぞ?」

「は、はは……さすがに王様相手では気が引けますね」


 神像に向かって土下座している時は威厳もクソもなかったが、こうしてまともな時は王様っぽいオーラというか、髪はフサフサだし凄みのある威圧感がちょろちょろと全身から滲み出ているのだ。

 言ってしまえば凄く濃度を薄めたゼオみたいな感じで、こういうタイプにいきなり馴れ馴れしくは、完全敵対野郎でもなければ性格上かなりハードルが高い。


「陛下、逆に気を使わせてしまっては意味がありませんぞ?」

「うむ……それもそうか。では早速本題に入ろう。知らせたいことがあるという話だったが?」

「はい、3つありまして、まず1つ目は西のジュロイ王国についてです」


 そう言いながら、取り出したラグリース王国の地図を机に広げ、その一部をなぞるように指差す。


「ちょうどこの川の辺りですかね。ここより西側は、既にジュロイ王国の領土に切り替わっていたので、一応報告をと思いまして」


 すると、二人の目の色が変わった。


「へ、陛下? これは私の勘違いでなければ、一部などではなく……オーバル侯の領土全てでは?」

「うむ……ロキ殿、切り替わったというのは、ちょうどこの川に沿ってジュロイ軍の戦線が敷かれているという認識でいいのだろうか?」

「ん~それは違いますね。上空から見てもジュロイ軍の姿は見当たりませんから。事実としてこの範囲の町は西側から盗賊、もしくは盗賊に扮した何者かに襲われ、逃れた一部の人達が東へ逃げています。そして僕はオーバルという領土について、境界とかそういった内容はまったく知りません」


 ではなぜ、領土が切り替わったという判別ができたのか。

 当然二人にその疑問はあるのだろうけど、今はそれ以上の思考で頭が埋め尽くされているっぽい。


「オーバル侯から2万ほどは王都に派兵されていたはずだが……そうだとしてもオーバル領だけが綺麗に狙われるのはあまりにも不自然だな」

「他国との隣接領ゆえ、侯爵自身は指揮を執らず領内に残っていたはずですから、最悪は我が身可愛さに領土を売ったのかもしれません」


 ほぼ負けが確定している戦争が勃発し、その中で相応の地位や資産を保障され、明確に助かる道があるとなれば動くやつだっているだろう。

 庶民の俺からすれば、自分と家族を守るために倒産寸前の会社から逃げるのと同じ程度の感覚だ。

 でも自分だけが助かるために、領主という立場の人間がそこに住む人達の生活や命の保障も無く管理地を売り渡すとなれば、そんなゴミは存在するだけで明らかな『悪』である。

 事実ならば、そのまま生かしておく理由が何一つ見当たらない。

 この件は困っている人達が多いから、早めに伝えようと思っていただけなんだけどな。


「事実であれば、そのオーバルとかいうゴミは、僕が殺すことになると思いますけど……とりあえず、家族や住む場所を失い、東へ逃げている人達がかなりいるという事実だけはお伝えしておきます」

「「……」」


 どちらにせよこの件は少し様子見だ。

 ヤーゴフさんが言っていた通り、結果が大きく変わったことでどう動くのかが分からないし、今は動きが止まっている。

 売った者がいるとすれば、当然買った者もいるわけで、また話が大きくなりそうな予感がしつつも、俺は次の本題に切り替えた。
377話 『毒』

「えーと、二つ目に移っても大丈夫ですか?」

「お、おぉ、もちろんだ。しかし盗賊に扮している可能性か。捕らえれば何か分かるやも知れぬな」

「救援の他に、野盗の生け捕りも念頭に入れて動きましょう。有益な情報感謝致します」

「いえいえ、では2つ目ですが――、まずはこれをご覧ください」

「「……」」


 そう言いながら取り出したのは、ばあさんが身に着けていた不気味な首飾り。

【鑑定】が通る今となっては『大黒樹の禍棘』という装飾の一種――つまり魔道具ではなく装備品に該当することが分かる。


「ばあさんが最後まで身に着けていたものです。一応形見の可能性があると思って持ってきましたが……先ほどの"安らかな眠り"という言葉にその反応、内容もご存じだったようですね」


 この問いに王は瞳を閉じ、大きく一呼吸置いてから口を開いた。


「当然だ。余が宝物庫に眠っていたこやつをニーヴァルに託したのだ。この呪具を持って、国を救ってくれとな」

「へ、陛下……」

「そうでしたか」

「何か思うところは、ないのか?」

「もちろんありますよ。ただこの国の筆頭宮廷魔導士であり、最高戦力という立場で国を守ろうとしたのですから、部外者の僕が何かを言うのは違うと思っています」

「そうか……ちなみに、ニーヴァルは……、ばあさんは………いや、なんでもない……」

「……」


 口をモゾモゾと動かしながらも、結局は自ら手で制し、言葉を止めるヘディン王。

 何を聞きたかったのか。

 それは分からないけど、ばあさんの功績くらいなら伝えられる。


「国を憂い、文字通り身を賭してばあさんが最後の最後まで戦い抜いたから、無傷に近い今の王都があると思ってください。少なくとも2位と5位の傭兵を同時に相手取っていたはずですし、もし早々に討たれていたら東から侵攻され、街の中はボロボロになっていたでしょう」

「そう、だな……」


 この言葉にヘディン王は、頷きながらも片手で目元を覆った。

 あんな方法が良いとは決して思わない。

 でも、あそこでばあさんが抑えたから2位の男はあの場に留まり、北と南に移動していた軍もその司令塔に合わせて東へ戻ってきたはずなのだ。

 多くの人達の命や財産を守ったというのは紛れもない事実だろう。

 しかし、宝物庫か……


「申し訳ありませんが、お答えできる範囲で構いませんので、一つ教えてください」

「あ、あぁ、構わん聞いてくれ」

「この首飾りは宝物庫に眠っていたということで、他にもこのようなデバフ――、特殊なマイナス効果を持った装備が宝物庫に眠っていたりしますか?」

「ふむ……宝物の管理官に聞かねば詳しいことは分からぬが、『呪具』の類だと相手も自分も一度出血すれば、傷を完全に塞ぐまで多量の出血が伴うナイフ。あとは切れ味は鋭いものの、異常に敵を引き付けてしまうおかしな槍もあったと記憶している。必要なら今呼ぶが?」

「あーいえいえ、そこまでは大丈夫ですよ、ありがとうございます」


 なるほど……なるほどなるほど。

 これはかなりの有益情報だな。

 デバフの"程度"に大きな差はありそうだが、それでも何かしらの代償と引き換えに強い効果を得るという仕組みが装備には複数、しかもレベル付きで存在していることになる。

 今も机の上に置かれた『大黒樹の禍棘』には、『【苗床の贄】Lv5』というスキルが備わっているのだ。

 まずこのスキルが魔力放出と引き換えに肉体を犠牲にしていたのだろうし、ヘディン王はその意味を理解していたからばあさんに託したということ。



 トントントントン――……



 手は自然と自分の太ももを指で弾き、思考は巡る。

 そもそも、この手の特殊能力が|人《・》|に《・》|備《・》|わ《・》|る《・》|の《・》|か《・》という根本的な疑問はあるが。
 
 もしこのデバフ付き能力が、俺に備わってしまったとしたら。

 あの、人が持つ数多の"経験値"を喰らいたいという強烈な衝動が、誰よりも強くありたいと願うただの『欲』だけでなく、別のデバフスキルが働いていた可能性も出てくるのか。


「ロキ殿?」


(詳細すら見えない【獣血】――『毒』までついでに喰らった可能性もあるが……)


 しかし前兆のような、近い衝動に襲われる感覚は【獣血】のスキルが備わる前からギニエで感じている。

 それにグレー文字ということは、"効果が発動していない"という見方をするのが自然。

 だとしたら、その前――ギニエより以前から備わっていたとしたらどうなる?


(俺だけが持つ特殊な能力……その反動……レベル……スキルレベル……殺すほど、もしかして上がっていく……?)


 ステータス画面が見られるこの能力も、レベルの上昇と思われる効果で所持金表示や『New』の表示が追加されたのだから、何かを成すことで上がる可能性は十分にある。

 というより、どのスキルにも例外なくレベル設定があるのだから、スキルとして存在しているのならばレベルが上がることは確定のようなものだろう。

 そしてスキルレベルが上がれば効果も強くなる、これだって誰もが納得できること。

 その効果がデバフの影響を強くするものであったとしても違和感はない、が。


「ロキ殿? 3つ目は?」


(そうだ、なぜ『空白スキル』は3つではなく2つなんだ……?)


 駄目だ。

 繋がりそうで繋がらない。

 この仮説通りであれば、若返りに関するスキル。

 予想ではカルラやゼオの持つ【魔力回生】だと思っていたが、そのスキルの居場所がなくなってしまう。

 何か見落としがあるのか?

 それとも前提が――


「ロキ殿ー!」

「あ、ふぁい!」

「ふむ。意識が戻ったようだぞ?」

「固まったように動かなくなったので心配しましたよ?」

「おぉ、っと、すみません考え事をしておりまして、もう大丈夫です」

「そ、そうか。ならば改めて聞こう、して、3つ目の知らせとは?」


 そうだった。

 この確認が一番大きかったはずなのに、特大の疑問が浮かんだせいで頭の中から消え去っていた。

 でも考えてみれば、試すには手頃かもしれないな。

 俺だけの問題なのだから、検証するにしても全てを手探りでやっていくしかない。

 人数なのか、得られた能力なのか、はたまた対象の地位なんかも関係するのか。



「えーと、これからヴァルツを潰してくるので、そのあとの土地の管理をお願いできませんか?」



「「……………………は?」」
378話 思い通りにはさせない

「もしもし? もしもーし?」

 なんだよ、二人ともカチコチに固まって、これじゃ人のこと言えないし。

 そう思っていると、再起動したように身体をブルリと震わせ、ヘディン王が矢継ぎ早に言葉を吐き出した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、潰す? 管理? 我の聞き間違いか?」

「いえ、私も確かに、そのような言葉を耳にしたような……」


 相当テンパっているのか、シラグ宰相は必死に両目を擦っているが、たぶんそこは耳の穴でもホジる場面だろう。


「まだ司令官の情報が偽りの可能性も僅かに残されているので、100%というわけではないですけどね。でもかなりの高確率で王家は消えますし、僕が消してきます」

「な、なぜ、そこまで……?」


 王様としての素直な疑問か。

 ラグリース王国に仕えているわけでも、何かしらの契約を結んでいるわけでもない。

 にもかかわらず、あまりにも都合の良過ぎる展開に、喜びよりも疑問が先立っているように見える。

 それは横のシラグ宰相も同じようなので、まずは一から説明する必要がありそうだな。


「えーと、まずお二人はこの戦争の根本的な原因を把握されていますか?」

「いや、交易路の封鎖や亜人種の拒絶が原因ではないというところまで理解していたが、それ以上ははっきりと分からず、未だ困惑したままというのが正直なところだ」

「左様です。経済難に喘いでいることは把握しておりましたから、もっと単純な、食料や遺物などの資源や豊沃な土地を求めてのことと推測しております」

「それらも間違いなく大きな要因の一つでしょうね。ただこの戦争の根本にあるのは、僕ではない異世界人とヴァルツ王家との間に存在している借金問題、そう南部侵攻軍の司令官から聞いています」

「……どういうことだ?」

「東の地にいる【空間魔法】の使い手、マリーはご存じですよね?」

「それは当然だな」

「あまりにも有名過ぎる人物ですから」

「そのマリーからヴァルツ王家は、経済を立て直すという名目で莫大なお金を借りたようなのです。どのような取り交わしがあったのかまでは分かりませんが、結果的に国はどんどん痩せ細り、最後は他所から奪うしか国を存続させる道がなくなった――、だから『戦争に勝利する』か『国が潰えるか』の二択を迫られていたと言っていました」

「なるほど。ニーヴァルの言っていた、あまりにも余力を残さない動きというのは、実際に余力を残す意味もないほど差し迫った状況だったということか」

「だからヴァルツ王家を、できる限り早い段階で潰しておかなければいけないんです」


 この言葉にそういうことかと、二人は深く頷いた。

 目の前にいるのは国の主幹だからな。

 ここまで伝えればもう意味も十分理解しているだろう。


「ヴァルツの敗戦が確実となった今、ヴァルツ王家が残ればそのままアルバート王国に乗っ取られる可能性は濃厚。しかしそのヴァルツ王家が消えれば、契約自体が白紙になる可能性も出てくるわけか」

「そういうことですね」

「しかし相手は、あの強欲で有名なマリーです。いくら契約の相手が消えたとは言え、貸した金も戻らないまま我が国が占有を主張すれば、力ずくで奪いにくる可能性もありませんか?」

「もちろんその可能性は否定できません。ただ【空間魔法】は軍隊を遠い飛び地に運ぶことなどできませんし、マリーが表立って武力解決したという話は聞いたことがないんですよね」

「ふむ……それは、たしかにな」

「言われてみればそうですね」


 どこの国でもマリーの話は出てくるし、その度に裏でコソコソとウザったい暗躍に精を出していることは分かる。

 が、どれも現代知識を利用した搦め手で地盤を築いている印象が強く、ダンジョンの権利を奪おうとした時もそうだが、力での強引な解決は図っていない。

 だからヴァルツも大丈夫かと言われればそういうわけではないが……

 そんな方法も当たり前のように取るなら、既に大陸の東部は広範囲がアルバート王国に滅ぼされていそうなもの。

 つまり積極的には武力行使しない、もしくはできない理由がある――。

 そんな話を二人にすれば、分かったような分かっていないような、中途半端な角度で首が止まったまま固まっていた。

 どう見ても、すべてに納得したような顔ではないな。


「ロキ殿の言いたいことは分かる。我らも戦後賠償など期待できないヴァルツに対し、どう落とし前をつけさせるか悩んでいるところであったが故に、ヴァルツの領土を全て引き取れるのなら渡りに船と言いたいところだが……」


 言いながらヘディン王が横に目を向ければ、意を決したようにシラグ宰相が口を開く。


「なぜ、ロキ殿が自身でヴァルツの領土を活用しないのか。その点がどうにも腑に落ちないのです」

「潰す力があり、実際に潰すつもりであり、だが潰した後の最も美味しい部分だけは他所に譲る――これでは何かあるのかと、疑うわけではないが勘ぐってもしまうのだ」


 が、ここまでの話を聞いて、俺はそんなことかと拍子抜けし、肩の力がガクンと抜ける。


「いやいや、だって面倒じゃないですか」

「「……え?」」

「僕の目的はマリーに大陸中央の拠点を作らせないことと、奪うことで自国の難を解決させようとした王家やあちらの高官を潰そうというくらいで、それ以上は狩りの邪魔にしかなりませんから」

「狩り……、一応確認だが、ロキ殿は変わらず、どこかの国に属しているとかはないのか……?」

「まったくないですよ?」

「そ、そうか」

「申し訳ありません。あまりにも発想が奇天烈と言いますか、想像の埒外だったもので、整理に少々お時間を頂きたく―――」

「なので、正直に言えばラグリースでなくてもいいんですよ。一応今回の戦争で大きな損害が出ているだろうと思って声は掛けましたが、僕としてはヴァルツという国が消えてくれればいいので、東のフレイビルに後処理を任せたっていいわけですし」


 別に焦らそうと思ったわけじゃないが、本音でもあったためそのまま伝えた。

 すると目の前の二人が本当に高位の立場にいる人間か? と思うほど慌てふためく。


「ちょちょ、ちょっちょお待ちうぉー!?」

「シラグ! 整理の時間などいらんわ! ロキ殿頼む。穏便に済ます故、ぜひヴァルツの後処理を我らに任せてもらえないだろうか」

「獣人も多くいますから、ヴァルツの国民だからと差別したりせず、平和にやってもらえるならそれで構いませんよ」

「ならば、ぜひ!」

「ぜひに!」

「ではすぐにカタが付くと思いますので、終わったらまた、今日か明日にでも立ち寄ります」


 そう言って席を立った時、これもついでに伝えておくかと。

 ベザートの動きにも少し触れておいた。


「あぁすみませんあと1つ、最南端にあるベザートという小さな町が、避難先になっているパルメラ大森林の中にそのまま移住するかもしれなくてですね。西側や壊滅した近隣からの避難民も結構いるので、僕も当然支援はしますけど、国の方でも忘れずに助けてあげてください」

「んん?」

「パルメラの、中……?」


 転移する直前まで二人は揃って同じ方向に首を傾げていたけど、まぁたぶんなんとかはなるだろう。

 それよりも時間は限られているのだ。

 国がどのようにして切り替わるのかなんて、庶民過ぎる俺にはまったく想像もできない。

 でもマリーがもしこの戦争まで画策していたとして、戦力的に勝利は揺るがないと判断していた結果が覆ったとすれば、すぐにヴァルツという国がアルバート王国の飛び地に代わってしまう可能性もある。

 そうなれば相手はそのままマリーとなり、大陸有数の大国と敵対ということになってしまう。

 ここまでステータスが伸びれば、そう簡単に負けるとは思えないけど、どうせやり合うなら金を吐かせてからの方が良いしな。



 飛んだ先は拠点の上台地。

 そこでアリシアに現在の状況と、戦争に至ったまでの経緯を分かる範囲で報告し――。

 初の王家ということもあって、監査役を希望したリアと一緒にヴァルツ王国の王都。

『エントラ』に降り立った。
379話 汚い欲の塊

 以前ここを訪れたのは半年くらい前。

 その時から他国より物寂しく、お世辞にも王都とは思えない雰囲気を醸し出していたが……

 路上に転がっている死体を誰も気にしていないことが、この国の末期度合いを表しているようだった。


「うっわー……寂れ具合に拍車がかかってるねこれ」

「なんか、臭いんだけど」

「俺もそれ思った」

「前はもう少し良かったの?」

「うん。半年くらい前はなんでも値段が高かったけど、それでも店の大半はまだ開いてたからね」


 しかし今は開いているお店が半分にも満たない程度。

 値段は相変わらず――というか、以前よりもさらに上がっているし、売り物も似たような見た目の肉ばかりで、野菜や果物などは周囲を見渡す限り一つも見られない。

 きっと食用の魔物が一部出回っているとか、そんな状況なんだろうと予想しながら、屋根を伝い正面に見える大きな宮殿を目指す。

 直接王族がいそうな場所に飛ばなかったのは、街の状況からまだこの国がヴァルツ王国なのかを見定めたかったのもあるし、リアとの打ち合わせを簡単に済ませておきたかったというのもある。

 って言っても国の歴史に幕を下ろそうとしているわけだから、王族を含むお偉いさん達の頭の中を覗いて事実確認を優先するっていうのと、もし諸悪の根源であるマリーがこの場にいたら戦闘になる可能性があることを伝えたくらい。

 その他は基本、俺に任せてくれと伝えて宮殿の前に立つ。


 広大な敷地、綺麗に整えられた庭園、横に大きく広がる建物の外観はラグリースと似たようなモノ。

 まだ病み上がりということもあって慎重にいきたいので、『数』は必要最小限に留めようと宮殿の門兵に声を掛けた。


「こんにちは」

「なんだ?」

「私、隣国のフレイビルから来ました傭兵でして。此度の戦争に関する話を聞き、遅ればせながら参った次第です」

「ならば直接ラグリースへ向かえば良かろう。早くせぬと手柄も得られぬぞ?」

「ロズワイド侯爵から一度こちらに寄り、戦況を確認してから不足している箇所へ向かえと、そう聞いておりましたので」

「侯爵……? もしやそなたは、名立たる傭兵なのだろうか?」

「背丈は低いですが、これでもフレイビルのランカー傭兵をやっております」

「な、なんと……横にいる仮面を付けた者は?」

「私よりもさらに強い相方ですね」


 そう言いながら共鳴石の付いたバングルを見せれば、これが何よりもわかりやすい証明になったのか。

 門兵の先導で宮殿内部に案内される。

 侵入方法などいくらでもあるとは言え、身分証すらいらないとは随分ガバガバなもんだ。


「ここは臭くないし綺麗なんだね」

「そういうもんだよ」

「……」


 あまり人のいない空間。

 中は広い廊下が長く続き、ビッシリと敷き詰められた絨毯や点在する調度品など。

 内部の豪華絢爛っぷりはラグリースと同等、もしくはそれ以上に感じられた。


 まずは王族の位置を一通り把握しておきたいところだが……


 ――【広域探査】――『王族』――


 たぶんバリー・オーグから得られたであろうこのスキルも、このような場だとなんとも微妙な使い勝手だな。

 範囲は1kmを超えてくるが、結局スキルレベルが低いうちは【隠蔽】や阻害系の魔道具で遮断されてしまう。


 反応が拾えないまま暫く、廊下を進み――。

 一際大きな門の前で、途中から案内を担当していた役人っぽい男が扉を叩いた。


「オズワード公爵閣下、フレイビルよりロズワイド侯爵を通してランカー傭兵が見えられていますが」

「…………通せ」


 この言葉に合わせ、ゆっくりと開けられる扉。

 中はラグリースの催事場ほどではないが広い空間になっており、あぁこれは位が高いのだろうなと。

 一目で分かる程度には質のよさそうな衣類を纏った男達が、一様に動きを止めてこちらを見つめていた。


(机には俺の作ったラグリースの地図……そして、手にはワインか……)


「ふむ。あれから鳥の便りは無かったはずだが、子供の姿か……名をなんと言う?」

「ロキと言います」


 この返答で、大きく場がざわつくも。

 この場にいる20人ほどの男達は皆、すぐに喜色を浮かべ始める。

 ならば、これで確定だな。


「ほ、ほっほほ……不躾な質問失礼した。私はオズワード公爵、ヴァルツ王国内の傭兵ギルドを纏めている。横にいるのが此度の戦を取り仕切っているセルゲイ侯だ」

「セルゲイ侯爵です。まさか本物の異世界人を直接この目で見るなど、夢にも思いませんでしたよ」


 言葉はまだ丁寧だが、この戦の責任者とやらはニチャリと、音がしそうなほどにいやらしい笑みを浮かべた。

 どうせこれで憂いが無くなったとでも思ったのだろう。


 その後も|判《・》|定《・》されているとは知らず、次々と下らない自己紹介をされるが……

 いったいこの中で何人生き残ることができるのか。

 どうせ大半は死ぬのだろうし、名前を覚える意味など何もない。


「して、横におられるのが噂の姉君ですかな?」

「いえ、裁定者ですよ」

「?」

「それより、随分と余裕がありそうな雰囲気を感じましたが、こちらは戦況をどのように捉えているのですか?」


 そう問えば、セルゲイ侯爵は余裕を見せるように肩を竦めた。


「ラグリース軍が『ルーベリアム境界』に架かる橋を壊しましてね。そのせいで情報が遮断されてしまっているのです。元から物資は村や町からの現地調達、生き残った徴兵どもはそのまま移住民にする予定でしたから、補給線を断つことに大した意味はないというのに……面倒なことをしてくれたものです」

「……なるほど。他に伝達手段もなかったわけですか」

「一応鳥を扱う者達も混ぜていますから、王都も、南部の主要都市マルタも、どちらも快調に到達できたところまでは把握していますよ」


 そう言いながら手で示したのは、机に広げられたラグリースの地図。

 上には色分けされた駒がいくつも並べられ、赤い駒は――、俺がかつて記した町の上に多く置かれていた。


「ロキ殿が我が陣営に来てくれれば盤石、もう勝ちは揺るがない」

「はははっ、それはその通りですが、これでは傭兵を雇い過ぎましたな!」


 やっぱりだな……

 これだけじゃなく、様々な要因が絡んでいることは分かっている。


「止むを得まい。失敗は許されぬ戦いだったのだ」

「平坦で豊かな土地は当然として、希少な遺物と古代の魔道具くらいは、我らで押さえたいところですなぁ」


 それでも、俺が良かれと思って広めた地図は、目の前で望まない使い方をされ、そのせいで多くの人間が死んだ。

 その一端は間違いなく担っている。


「傭兵連中の多くが求めるのは希少な装備類、ならばこちらの宝物庫からも振舞って誤魔化せばよろしかろう」

「火仙の魔女がほどよく奮闘してくれて、支障がない程度に傭兵連中が死んでくれれば都合も良いのだがな」


 リスクとリターン。

 そのうちのリスクだけを、強引に消し去るなら――答えは一つしかないか。


 ソッと横に視線を向ければ、リアはゆっくりと頷いた。


「全員ロキの言った通りだった」

「結局全員か。じゃあ、予定通りで」

「うん」


 俺達がしゃべっているというのに、勝利を錯覚した男達は得られる戦果に夢中で気付きもしない。

 自分達だけは一切死ぬ気がなく、弱い立場の者達を犠牲にし、奪うことが目的の戦争を起こす。

 ただただ、人に迷惑を掛けることでしか生きられない。

 そんな存在を生かして、いったい誰が喜ぶのだろうか?


「幸いなことに、ロキ殿は空を飛べると聞いている。ルーベリアム境界を越え、一先ずは王都に向かってもらえないだろうか?」

「マルタか王都、どちらも十分過ぎるほどの戦力は送っていますが、もし不測の事態が起きているようならご助力頂きたいのです」

「……」

「もちろん報酬は十分期待してくれていい。ロキ殿が我が陣営についてくれれば、他の傭兵連中とは違い侯爵の地位とラグリース内の広大な土地を約束すると、我が王は仰せられていたのでな」

「その王は、どちらに?」

「王宮だが?」

「そうですか。あぁちなみに、もうマルタも王都も助けてきましたよ」

「な、なんと!」

「それは真ですか!?」

「はい。マルタはファニーファニーを筆頭に、傭兵連中は僕が殺しましたので全滅。今日マルタの様子を見たらヴァルツ兵は駆逐され、もう復興作業に入っていました」

「「「え?」」」

「王都も同じ、バリー・オーグなど主要傭兵は全員死亡し、40万ほどの兵も既に大半が燃えたか野たれ死んでいます。橋が無くなったために自国へ戻れなくなったんでしょうね」

「「「………」」」


 パリン、と。

 誰かが落として割れたグラスの音だけが部屋に響く。


「自分達は一切死ぬ気もなく、数十万という犠牲の上に成り立つ戦果に期待を寄せつつ酒の肴にする。本当に良いご身分ですね」

「まさか……ラグリースに手を貸し、ここまで乗り込んできたというのか……?」

「そうですよ。何やらずっと勘違いしていたようですけど、戦争を仕掛けてラグリースの王都に侵攻しようとしたんですから、逆にやられても不思議じゃないでしょう?」

「がはッ!?」


 言いながら一番偉そうだった男の首を刎ねれば、すぐに周りが反応を示すが。


「オ、オズワード公!?」

「貴様ッ! 公爵閣下に手を出してただで済むと――……」

「我らは上級貴族だご、はッ……」

「ちょ、ちょっと待て!」

「か、金を渡すから、ゆるじっ……!?」

「ぁぎ……ッ!?」


 喚き、乞いながら死んでいく醜悪な存在に、今更何かを思うことはない。

 それより今俺が気にしているのは、『反動』が起きるのかどうか。


(5人)


「わ、分かった! 下に付く! 私は下に付くか……、ッ……」


(10人)


「なな、な、なんでもしますから! お許し―――、」


(15人)


「神よぉおお! 我を救いたば、……ッ」


(21人)


『【作法】Lv8を取得しました』



(この程度じゃ何も分からないか……)



 ほんの僅かに"足らない"という感情が芽生えた気はするが、そんなの常に思っていることでもあるので、これが自身の欲なのかはまったく判断がつかない。

 ただこれだけ上位の貴族連中をぶった斬ったのだから、何かあっても相手の地位は関係無さそうである。


「部屋の外にも人が集まってきてるけど、どうするの?」


 貴族連中の死体を回収しながらドアに目を向ければ、数人の兵が入り口からこの惨状を覗いていた。

 表情からしても、入ってこれないが正解だろうな。


「戦争を実際に起こすのはここにいたような身分の連中だし、関係ない人達は斬りかかってくるでもなければやらないよ」

「そっか」

「……頭の中、汚い欲の塊だったでしょ?」

「うん、もう気持ち悪くて、見たくなかった」

「でも本番はこれからで、もしかしたら、もっと汚くて醜い人の姿を見ることになるかもしれない」


 門兵の言葉で予想はしていたが、まだこの国はヴァルツのままで、自国が有利な状況だと錯覚したまま止まっている。

 だから戦時の中枢とも言えそうなこの場に王の姿もないのだろう。

 ここでも貴族連中がワインを飲みながら、早とちりな戦勝気分を味わっていたのだ。

 となれば、今頃王宮はどうなっているのか。


 兵やメイドが身を強張らせながら見守る中、俺とリアは宮殿の奥に存在する王宮へと向かった。
380話 ヴァルツ王家

 宮殿を通過した先には庭園を挟んで白亜の王宮が存在し、その王宮を守る兵も存在している。

 だからリアを背に乗せ空から眺めれば、周囲は城壁までいかない程度の石壁で遮られているも、吹き抜けのバルコニーには数名の人影を確認した。


(あーあ……やっぱりか)


 嫌な予感はしていたんだ。

 街の中は閑散としていて、破綻は目前のような様相を呈していた。

 でも宮殿の中はラグリースとの違いが分からなくて。

 それは貴族連中の身形もそうだが、メイドや役人と思われる人達にも同じことが言えた。

 だから南部侵攻の親玉だったアトナーは、借金の名目を"低迷した国内経済に活路を見出すため"なんて言っていたものの、実際はどこまで借りた金を国のために回しているのか疑わしいと思っていたが……

 この光景を見れば、溜め息だって吐きたくもなる。

 コイツらはきっと、ロクにその金を回していない。

 それこそ、私利私欲のために金を使っているとしか思えなかった。


「リア、残念だけど、これが現実だよ」

「……」


 構わず降り立ったバルコニーには、見慣れぬ綺麗な石材をくり抜いたプールが存在し、そこには一糸纏わぬ姿の女性が数名泳いでいた。

 奥にはバルコニーの様子を見渡せるように部屋が続いており、そこには光沢感のある長い石机が。

 その上には大量に残された様々な料理がズラリと並び、奥には40代くらいの、髭がやたらと長い男が俺達の姿を見てもなお、尊大な態度で腰掛けている。

 脇には10名ほどの奏者が様々な楽器で音色を奏でていたが、ここにいるのは一人を除いて全員女性。

 どういう状況かは分からないけど……


 ――【探査】――『王族』――

 ――【探査】――『マリー』――

 ――【探査】――『契約書』――

 ――【探査】――『王』―――


 目の前の、コイツか……

 まず阻害されることのないレベル9の【探査】で確認すると、奏者を除き、プールで泳ぐ女性も含めて全員『王族』であることが確認できる。

 そしてマリーの反応は拾えないが、王族はまだこの部屋以外にもいるらしい。


「何者だ? ここがどこだか分かっているのか?」

「もちろん、目的があって来ていますので。僕はロキ、あなたがこの国の王でしたか」

「如何にも、ルイド・ベイリガン・ネスト・ヴァルツとは余のこと。その名……貴様が異世界人か。戦時で警護が手薄とは言え、まさか空から現れるとは噂通りの破天荒っぷりよ」


 一瞬、なんでこいつ余裕ぶってんだ? って思ったけど、宮殿にいた貴族が戦況を知らないということは、この王も自国が有利と思ったままなのだろう。

 それにこの雰囲気。

 国や立場は違えど、あのアホ貴族の代名詞、オーラン男爵に近いモノを感じる。

 つまりは究極に場の空気が読めないバカってことなのかもしれない。


「えーと、単刀直入にお聞きしますね。ヴァルツ王家が東の異世界人マリーに対して借金をしているのは事実ですか?」

「まずは余に、頭を垂れよ」

「いや、そういうのはいいですから。契約書があるのかどうか――」

「二度も言わすな、まずは頭を垂れよ」

「……」


 ただならぬ事態に演奏は止まり、なぜか背後のプールからはクスクスと女性の笑い声が聞こえてくる。

 あぁー……本当に。

 本当に本当に、世界が違い過ぎてストレスがあまりにも酷い。

 ここにいる王族の連中を、同じ人の括りで捉えていいのかも疑わしいくらいだ。


「リア、契約書を取り交わしてるかは分かった?」


 リアが契約書の有無を把握できたならば、幸せな脳みそをしたイカれ野郎の相手をする必要もなくなる。

 そう思って問い掛ければ、リアは下を向きながらも小さく頷く。

 と同時に、不快な声がまた聞こえた。


「誰が言葉を交わしていいと言った? 神にも等しき存在を前にして、先ほどからあまりにも無礼が過ぎるわ。寛大な心で下に付くことを許そうというのに、貴様ら死に―――」


 この時、俺の視線はリアから離せなかった。

 拳は強く握られ、プルプルと肩や腕が小刻みに震えている。

 必死に我慢しているんだろうけど、誰がどう見ても噴火寸前。

 このままだと最悪は、王家の殲滅しか目的が果たせなくなる。


「あぎぃ……ッ!?」


 そう思ったら自然と、俺の足が、手が動いていた。

 なぜか分からないけど耳を削いでいたのだから、ちゃんと話を聞けよと、たぶん俺自身がそう思ってたんだろう。


「はぁ……次、まともに返答できなかったら、不要と判断してもう一つの耳も引き千切ります。いいですね?」

「あがぁああぁぁあああぁあああ!!」

「返事」

「あぁあああぁああ、『ビリッ』づグァああ゛あ゛あ゛あ゛ッごがっ、ご……、ゴボッ! わがっ、わがっだから゛!」


 ようやくか。

 もう片方の耳を千切って絶叫していた口の中に放り込んだら、やっと冷静になれたらしい。

 ここまでしないと戻ってこれないとか、ほんと痛みに慣れていない王族は難儀な存在だな。


「まず最初に言っておきますと、あなたが始めた戦争はヴァルツ側が敗れたため、僕がここに来ています」

「な、なんだと……?」

「聞こえているようなので一度しか言いません。今後の大陸中央に大きな影響を及ぼすことなので、まずは王家がマリーと取り交わした契約書を見せてください」

「ぁ、はッ……わ、わかった……」


 そう告げると、先ほどまでの威厳はどこへやら。

 王は血を垂らした両耳を押さえ、よろめきながら部屋の扉へ向かっていく。


「あぁ、そちらの方々はもう大丈夫ですから。くれぐれもこの王宮に残らないよう、気をつけてお帰りください」


 そう10名ほどの奏者に伝えれば、なぜかプールにいた連中までスゴスゴと退散しようとしている。

 アホかよ。


 ――【雷魔法】――『指電』


 パンッ!


「ヒッ……」

「あなた達はどう考えてもダメでしょ。街の人達が死にかけているのに、王族という身分で呑気に贅沢な暮らしをしている連中なんだから。逃げたら死にたいと懇願するほど後悔させますので、そこの7人も黙ってついてきてください」


【探査】で確認すれば、この王の妃や娘になるんだろうな。

 ブツブツと背後で呪詛を吐いちゃいるが、王が消沈したことで逃げるような素振りはなくなったので、視界に入る物をひたすら『収納』しながら王のあとをついていく。

 途中にある部屋では他の王族――というより、息子達の姿もあって。

 それぞれが庶民では到底辿り着けないような娯楽であり快楽に耽っていたため、見るに堪えずその場で頭を潰せば、背後の雑音もいつの間にか無くなっていた。


「大丈夫?」

「うん……ロキは平気なの?」

「平気ではないけど、俺はまだ慣れているっていうか……こういう人の醜い部分を昔散々味わってきたから。気分が悪いなら、先に帰っててもいいからね?」

「ん。大丈夫、これも学ばなくちゃいけないこと」

「そっか」


 本人にその気があるなら止めやしないけど、今まで上からやんわりと眺めるだけで、欲を実行に移せる権力者をここまで直視することなんてまずなかっただろうからな……


 気付けば王は1階へ。

 絨毯で隠された扉を開けて地下へ潜れば、そこには見覚えのある文様のついた扉。

 マルタのハンファレストにもあったストレージルームが存在していた。

 ただ規模はまったく違うようで、こちらは物置ではなく倉庫。

 それこそ宝物庫の役割も担っていたようで、素人目に見ても価値のありそうな雰囲気のモノがゴロゴロしている。

 目的の一つに干乾びたヴァルツ用の財源を稼ぐこともあったので、ここにある品がスムーズに現金化できればいいんだけどな。


「こ、これが、マリーと交わした契約書だ」


 俺が視線を彷徨わせながら回収していると、王は血だらけの耳を押さえながら、契約書だという羊皮紙の場所を俺に示す。


「ん? 4枚ですか?」

「4回、金を借りたから、4枚ある……」

「……」


 1枚目は『アムシュラ40452-冬』とあり、マリーの個人名と150億ビーケの借用金額。

 そして年利3%という数値が記載されており、最後には仰々しい血判のようなモノが押されていた。

 それが2枚目には借用金額が400億ビーケ、3枚目には借用金額は500億ビーケと増えていき、最後の4枚目までいくと『アムシュラ40458-冬』となり、借用金額は1,000億ビーケまで膨れ上がっている。

 当然ここまで来れば魂胆は見え見えで、徐々に上がっていった年利は闇金でしか見ないような40%という数値になっており、4枚目になってようやくヴァルツ王国の領地及び、領地内に存在する全ての物という担保が設けられていた。

 現代版借用書に比べれれば些か簡素にも見えるが、契約者は間違いなくヴァルツ王国であり、サインも全てが『ルイド・ベイリガン・ネスト・ヴァルツ』とあるので、先ほど語っていた王の名前。

 つまりマリーは約2000億ビーケほどの金で――いや。

 40%であれば実質は金を増やしながら、ヴァルツ王国を丸ごと手に入れようとしていたことが分かる。


「このアムシュラっていうのは年号みたいなものですよね?」

「そ、そうなる。『六道神教』の始まりとして、最も歴史の古いファンメル教皇国が使い始めたとされる年号のため、亜人を中心にアムシュラを嫌う者も多いが……マリーは必要だとこのように残していた」

「なるほど。で、今はアムシュラの何年になるんですか?」

「アムシュラ40462年だ」

「つまり丁度10年――念のための確認ですが、あなたはその当時も王だったんですよね?」

「そ、そうだ……」

「情状酌量の余地があるとすればここくらいだったんですけど。お試し程度の感覚で借り入れたら味を占め、ろくに投資や対策には金を回さず泥沼にハマり、止められない贅沢な暮らしと利息の返済に追われ続けて10年が経過したってわけですか」

「「「「……」」」」


 ここで奥にいる他の王族にも目を向けるが、一様に俯き言葉も返さない。


「ちなみに、あなた達のくだらない贅沢が元となったこの戦争で、何人死んだか分かりますか?」

「……」

「また、耳が聞こえなくなりました?」

「うっ……3万くらい、だろうか……」

「快楽に溺れすぎて記憶がぶっ飛んでるなら、頭かち割った方が良さそうですね」

「ひっ……」

「あなた達はこの国から何人の兵を送りました? どうせ浮浪者とか金に困った人達を集めて、口減らしも兼ねてラグリースに送ったんですよね? 正規兵と合わせて50万もの兵を。おまけに金も物資もないから道中の村や町を襲わせた。おかげでラグリースの東側はほとんど全滅、規律もなく許可だけを得た傭兵連中の殺し方は、それはもう酷いものでした」

「……」

「50万どころじゃない。たぶん両国合わせて100万以上の人が死んでるんですよ」

「100万……」

「で、あなた達はそんな中、何してました?」

「ぅ……」

「街じゃ餓死している人達もいるっていうのに、アホみたいな量の飯を残して呑気に酒を飲みながら水遊び。途中で殺した息子達に関しちゃ道楽の域を遥かに超えていましたし……これでラグリースに勝てば、また贅沢ができるって喜ぶわけですか?」

「……」

「ハ、ハハッ……それで……こんな生ゴミみたいな存在が、"頭を垂れよ"って……"神にも等しき存在"って……ハハ……笑かしにきてるのかな……」


 これも反動?

 いや、違うか。

 途中で狂った王族を殺したと言っても6人程度だ。

 今は目の前にいる、あまりにも度し難いクズっぷりを発揮する生き物に対し、どう対処したらいいのか分からなくて。

 100万人分の痛みと苦痛を味わわせるにはどうしたらいいのだろうと、そんなことを真剣に考えてしまう。


「リア、この生き物、どうしたらいいと思う?」


 だからなんとなくリアに問えば、予想外の答えがすぐに返ってきた。


「こんな人間の魂を天に戻しちゃいけない」

「と、言いますと?」

「永久に閉じ込めて、終わりのない『罰』を与える」

「へぇ、なんか凄そうだね。それも【魂環魔法】ってやつ?」

「そう」


 この怒気を孕んだ迷いのない返答。

 たぶんさっきの王子達にもやってたんだろうな……


「それじゃリアに任せるよ。俺に手伝えることは?」

「さっきみたいに魂を外に出して」

「やり方は問わずで?」

「うん」

「了解」


「そ、そんな魔法なぞ、聞いたことも……それに、リア……『罰』……も、もしや、そなたは……!?」

「これからゆっくり燃やされていく生ゴミが知る必要はないでしょう」


 ――【発火】――


「それでは、狂った王家の皆さん、さようなら」
381話 打診

 場所はラグリース王国、王都ファルメンタ。

 死んだ魚のような目をしたヘディン王やシラグ宰相と並び、俺は宮殿内の催事場にいた。

 この広く、そして涼しい場所に、押収してきた山のような貴重品を放出すれば、忙しなく役人が分別しながら記帳、搬出を行なっていく。


「あ、この魔道具は欲しいかなぁ……」


 重いものを持てるような人は各所に出払っていたので、押収してきた俺自身も手伝いつつ、興味の惹かれるモノはキープキープ。

 ついでにこのくらいは手間賃としてちょっと貰っても許されるはずである。

 だって現金化さえできれば、相当なお金になるはずなんだから!


「うーむ、これほどの物品をどうやって換金すべきか……」

「それはどこかのオークションで競りに掛けるとか、損害の少ない貴族に売りつけるとか……僕の仕事はここまでなので、あとは宰相が頑張ってくださいよ」

「承知しております。こうして資産価値のある物を提供していただいただけでもありがたいのです。ヴァルツの土地を手に入れたとなっても、どう金を回すかは大きな問題でしたから」

「さすがにしばらくは税収の見込みも薄い、ボロボロな国の残骸だけを押し付けるのは忍びないですからね。ローエンフォートという町にあるハンターギルドのマスターとは面識があったので、当面は食用の魔物を中心に、元ヴァルツ国内のハンターギルドに優先して卸していくと伝えておきました。もちろんラグリースにも卸しますが」

「それは助かる。ヴァルツもそうであろうが、間違いなくラグリースも食糧危機がすぐに発生するのだ。まずは民を生かさねば、何も事が進まん」

「あとルーベリアム境界の橋も、問題なく行き来できるようにはしておきましたので、先ほど転移させた人達だけでなく他にも人を送ってくださいね。見せしめの意味も含めて宮殿内にいた欲深な貴族連中は消しましたけど、ラグリース側の人間が少なければ、良からぬことを考える輩がまだいるかもしれませんから」

「あれを一人で直されたのか!?」

「へ、陛下、まずは道が繋がったことを喜びましょう。これで人はアレですが、一先ず物資は送れますから」

「うむ、そうだな……してロキ殿。物は相談なのだが……」


 渋面を作りながら顔を寄せるヘディン王。

 何事かと思えば、それは思いのほか深刻な問題で。


「人がな、集まらぬのだ」

「え?」


 人材不足――、というよりは、旧ヴァルツ領に行きたがる人間がいないという、そんな話だった。

 先ほど国の高官と呼べる人間や土地を持たない貴族を20名ほどヴァルツの宮殿に送り込んだ。

 しかしその20名ほどが大きな出世のチャンスを掴もうと手を挙げた数少ない希望者であり、逆に言えばそれだけしか集まらなかったということ。

 さすがに庶民のような暮らしとは違うと言えど、ラグリースと比べても大きな我慢を強いられる不安定な生活。

 それに周囲は元敵国の者ばかりであり、ラグリースから満足に兵すら送れていない現状。

 そして極めつきは、マリーの存在である。

 俺が転移を大っぴらにしている以上、マリーもすぐにヴァルツの宮殿くらい侵入できることは明白で、王家の借金を踏み倒しているという現実が、いつ襲われるかも分からぬ恐怖と不安を駆り立てているのだと言う。

 過去に武力行使の話は聞かないと言っても、それはそれ。

 俺だって絶対大丈夫とは言い切れないわけだし、天下の【空間魔法】だからこそ、コレという解決方法が浮かばない難しい問題に直面しているようだった。


「なのでロキ殿の名前を貸してもらえないかと、切実にそう思っておる」


 しかし、だからと言ってヘディン王が続けたこの言葉には耳を疑う。


「は?」

「異世界人には異世界人を。しかも同等の能力者であれば、尚さらに抑止の効果は強いと思うのだ」

「いやいや、言わんとしていることは分かりますけど……でもそれって僕がラグリースに属せとか、そういうことでしょう?」


 そう告げれば、すぐにシラグ宰相が首を振る。


「滅相もありません。そもそもここまでのことをしてもらっておいて、"下に付け"などという発想を持つ方がおかしな話ですから」

「では、どういうことで?」

「先日、ロキ殿は最南にあるベザートの町民が、避難のためパルメラ大森林の内部に移り住むかもしれないと、そう話しておりましたね? だから目を掛けてほしいと」

「えぇ、そうですね」

「ですが、現実的には難しくもあります。パルメラは我が国の領土ではありませんから」

「あぁなるほど。でもそれなら、広げれ――」


 言いかけて、言葉を止めた。

 それこそ、今のラグリースには難しい問題だ。


「南部から東南にかけてはレイモンド伯の領地。平時であれば開拓による拡張もやってやれないことはないでしょうが、領土内の多くで壊滅的な被害が出ている以上、その余裕はまったくありません」

「それは、たしかにそうですね」


 未開拓の魔物の巣と、元あるベザートの復興とじゃ、そりゃ内容がまったく違うわな。

 国も、ゴリラ伯爵も、今はそんな余裕がないというのも当然のこと。


「そしてロキ殿は未だどこの国にも属していない――、というより、私の勘違いでなければ"どこにも属したくない"と、そのようにお考えではないかなと推察します」

「だからな、ロキ殿」


 ここでヘディン王が、いつになく真剣な表情で語りかける。


「そのパルメラ内部に作られているという町は、ロキ殿が自身の領地として管理されてはどうだろうか? 新たな国の王として」

「へ?」

「深くは詮索しませんが、かつて南部からこの王都へやってきたロキ殿にとって、ベザートは思い入れのある町なのでしょう。移住先とは言えその町をご自身で守られるとなれば、何よりも住まう町民が一番喜ぶかと」

「いやいや、国って、突拍子もないこと……」

「手付かずの未開拓地を切り開き、人の集う村を作りて国とする――これは我が祖先、初代ラグリース王がやってきたことだぞ?」

「……」

「建国した場合、一番の障害となるのは周囲の隣国がその存在を認めるかどうか。だが、その点は我が一も二もなく承認するのだから文句の言われようもない」

「だから、名を貸せと、そういうことですか?」

「少々勘ぐった捉え方をしているようだな……我らもその移住する者達と同じ。『属国』としてロキ殿の庇護下に入れてほしいと、そう思っておる」

「これならロキ殿の手を煩わせることなく、名は借りられると思いますので」

「属国って……」


 二人に視線を向ければ、その目は真剣そのもの。

 分かってはいたけど、冗談で言っているような話ではないことなどすぐに分かる。

 蛻《もぬけ》の殻となった旧ヴァルツ王宮を潰した時は、知らしめる意味で徹底的に破壊した。

 それは報復や余計な悪巧みなど考えられぬよう、委縮させようという狙いからやったことであり、ヘディン王やシラグ宰相が求めているのも、きっとそれと同じようなこと。

 今の弱りきったラグリースでは、他所から何をされるか分からず、また対処する余力がないのも事実なわけで。

 だから名を借り、安全を買おうとしているのは分かる。


「同盟国ではなく、属国を望む理由はなんですか?」


 だが、仮に俺が国を興したとして、いきなり属国を望むのはさすがにやりすぎではないだろうか?

 そう思っての問いだったが。


「この度の戦で、同盟という仕組みに疑念を抱いたというのもある」

「あぁ、援軍どころか、ジュロイからは裏切られましたもんね。それにヴァルツも結局は、同盟国であるフレイビルから大きな援助は得られなかった」

「我は覇王になろうなどとは露ほども思わない。弱腰と言われようと、国と民の安寧を何よりも求めたいのだ。だから――」

「……」

「より関係性の強い『属国』と世に公表し、ロキ殿の名を利用させてもらいたいと、正直に言えばそう思っておる」


 この時、姿形は全然違うのに、なぜかヘディン王とばあさんが重なったように見えた。

 そういえばそうだったな。

 この王様は元から戦争なんて全力で避けたい人で、平和を望むばあさんも争いごとは避けられるなら避ける。

 そんな考えの人だった。

 ……そうか。

 きっと始めからこの着地点を考えていたから、わざわざ大勢の家臣を集め、その前で王が下《くだ》るような姿勢を見せつけたのか。


「こんな場所で作業しながら凄い話してますけど、属国なんて反対する人とかいないんですか?」


 あまりにも明け透けな告白に対し、苦笑いしながらそう問えば、ヘディン王もニヤリと笑いながら答える。


「普通なら猛反対で国が割れるほどの話にもなろうが、ロキ殿の助力が無ければ確実に国が潰えていたのは皆が分かっていること。それにロキ殿は未だ対価すら求めぬような男なのだ。属国だからと言っても無茶な要求はせぬと皆が思っているだろう。ただ悪事を働いていた者は戦々恐々としているかもしれぬがな」

「はは、人に迷惑を掛けるようなことはするなというくらいで、他に僕が求めることはありませんけどね。あーでも、ばあさんとやっていた本の取引くらいは継続したいところですけど」

「その程度で済むのなら、抱えている蔵書くらい全て―――」


 降って湧いたこの話に、土地は拠点ほどもあれば十分と思っている自分がどうしたいのか。

 ベザートの人達の意見だってあるだろうし、はっきりとした考えは定まっていない。

 それにゼオ達や女神様達にだって相談する必要がある。


(国を興すか……)


 あまりにも現実感が無さ過ぎるせいで、いろいろな考えが浮かんでは消え。

 そんな中で作業をしながらいくつかのお土産を手に入れ、俺は拠点の上台地に帰還した。
382話 報告と相談と

「ただいま~」

「おっかえりー!」

「おかえりなさい」

「その顔、少しは落ち着いてきたのか?」

「やっとね。あれ、リステは?」

「奥で家を作っているはずですよ」


 気付けばすっかり日も落ちていた上台地。

 いつもの場所に向かえば、アリシアの作る料理をリルとフェリンが皿を持ちながら待っており、奥にはいくつもの動物と散歩しているフィーリルが。

 リアも少し離れたところで一人川を眺めていたが、リステだけは姿が見当たらない。

 というか、リステはいつ来ても、ずっと家を作り続けているような気がするんだけど。


「呼びますか?」

「うん、お願い。みんなにお礼も兼ねたお土産があるからさ」


 そう告げると、アリシアが人形のように生気を失い、同時に皆が集まってくる。

 フライパン持ったままなので料理がどんどん焦げているけど、きっと気にしたら負けなんだろう。


「えー改めまして、今回はありがとうございました! 家や家族を失った人達も多いから、皆が整備してくれた場所はそのまま新しい村か町になりそうな感じだよ」

「リアから聞きましたよ。その、だいぶ腐りきっていた王家が一つ、潰えたと」

「うん。異世界人マリーの罠と言えば罠なんだけど、まんまとハマって隣国の財産を根こそぎ奪おうとしたヴァルツ王家は今日で滅亡。土地の管理者がラグリースって国に変わるから、これで今後はマシになってくると思うんだけどね」

「そんなに酷かったの?」


 フェリンの何気ない一言。

 それには頭の中を覗いて誰よりも分かっているリアが答えた。


「うん。本当に、自分達は神のような存在で、それ以外は全て都合の良い『物』くらいにしか思っていなかった」

「「「「「……」」」」」


 この言葉にリアだけでなく、全員が少し沈んだような、何かを真剣に考えているような素振りを見せる。

 きっと『神』という言葉から、自分が同じような考えに至っていないか。

 あのクズ王と違って本当の神様なのに、そんなことを考えているのかもしれない。

 うーん、これは空気を換えなきゃだな。


「ほい、まずはリアから。今日はありがとね」

「?」

「宝物庫にあった魔道具で『凄六』と『指揮棒』だって」

「ありがとう。けど、これ、何?」


 そうでしょうそうでしょう。

 今なんのスキルセットしてんのか知らないけど、【鑑定】が無ければどちらもよく分からん木製の長い棒にしか見えないのだ。


「『凄六』は魚が凄く釣れるようになる釣り竿らしくて、『指揮棒』はこれ持ちながら指揮を執ると、統率力みたいなモノが上がるらしい。このままでも使えるけど、本当はこの棒に自軍の旗をつけるんだって」

「……」

「あ、もしいらないなら、『凄六』の方はカルラが絶対欲しがるから、下に持っていく――」

「いる!」


 そう言いながら、俺の手から2本の棒をぶんどっていくリア。

 表情には出ていないが、どうやら興味はあったらしい。


「えー、次いでフェリンにはこれを。王宮の調理場にあった凄い種類の香辛料と食材。見たことないのいっぱいだから、アリシアと相談しながらいろいろ試してみてよ」

「「おぉー!!」」


 石机の上に大量放出すれば、なぜかフェリンと一緒にリルまでガッツポーズしながら騒いでいる。


「リルにはこれね。王宮にあったいろいろなお酒。たぶん相当値段が高いのも混ざってると思うから、一人で一気に全部飲んじゃダメだよ」

「ふぉーう!!」


 本当に分かってるのか、このエルフ神?

 酒が好きなのはもう分かってきたけど、テンションの上がり方が見ていてだいぶ酷い。

 それに比べたらフィーリルとリステは静かに喜んでいるので、さすが大人である。


「フィーリルには、持ち帰れるような生き物ってこれくらいしかなかったから、これを」

「まぁ、綺麗ですね~ありがとうございます~!」


 言いながら原っぱに放出したのは、王宮専用の庭園にあった様々な植物。

 俺に善し悪しはまったく分からないけど、かなり種類に富んだ花が咲いていたし、あのままだと黒焦げになって終わってたからなぁ。

 他の生き物はとても持ち帰れるようなものではなかったので、フィーリルが大事に育ててくれるならその方が良いだろう。


「んで、リステにはこれ。押収品っていうのが申し訳ないけど、相当珍しいのと、単純に似合いそうかなって思って」

「はぅ! ロキ君……」


 一人では着けられないモノなので手首につけてあげると、うん、やっぱり凄く似合う気がする。


「何これ!」

「懐中時計と宝飾が一体になったブレスレットなのかな。地球にある腕時計と用途は近いと思うんだけどね」

「わ、私のは!?」

「え、いや、こういうのは1個しかなくてですね……」

「フェリンはそこにある立派な大根でも齧っていれば十分でしょう」

「なんで!?」

「こ、今度! 今度フェリンにも似合いそうなモノがあったら持って帰るから許して!」


 たぶん、ラグリースの催事場に行けば、何かしらはある。

 貴金属なんてもううんざりするくらいにあったのだから。

 でも目的はあくまでヴァルツの復興用財源で、今から戻って物色するのは気が引けるし、直観でフェリンに似合いそうなモノはなかったはず……


(お土産と一言で言っても、なんとバランスの難しいことか)


 ぼんやり夜空を眺めながらそんなことを考えていると、背後から死にかけの虫が鳴くような、弱弱しい声が聞こえた。


「あの……わた、わた、私のは……」

「あ、ごめんちょっと考え事してた。もちろんアリシアのもあるからね。しかも大量に」

「!?」


 とてもじゃないが、石机には乗り切らない。

 そう思ってアリシア家の前に放出していったのは、いくつかの木箱に入れておいた奥様用道具一式だ。

 大半は細かすぎて管理が大変そうだから引き取ってきただけだが、その分実用性の高そうなモノばかりなので、アリシアにはピッタリな気がする。


「高そうな食器、高そうな調理器具、凄そうな洗濯板に、掃く時、風魔法が出るホウキなんてものまで! 一通り使いこなせたら、きっと良い奥さんになれると思うんだ」

「!!? あ、ありがとうございましゅ!」


 最近手を付け始めていた裁縫関係の道具がないのは残念だけど、これでしばらくはアリシアが暇を持て余すなんてこともなくなるだろう。


 そのまま仕入れた食材も少し活用しつつ、以前よりだいぶ焦げが少なくなってきて普通に美味いアリシアのご飯を頂きつつ。

 掻い摘んでアリシアに報告していた戦争の経緯を、順を追って皆に説明していき――。

 そして今日、話に上がった『国』についても触れていく。


「良くも悪くも異世界人の名が、戦争の抑止に繋がるということか」

「ロキ君の名に悪い印象などないでしょう?」

「いやいや、身勝手に奪っていく連中にムカついたり、この戦争に責任を感じたりっていろいろあったけど、乗り込んできたヴァルツ兵や傭兵をどれくらいだろ……分からないくらい殺して、王宮も恐怖を植え付ける目的で徹底的に破壊したからさ」


 言いながらリアに振れば、コクンと小さく頷く。


「兵士とか、宮殿から眺めてた人、全員顔が死んでた」

「悪い印象を好んで残したいとは思わないけど、例えば『地図』を世界に広めて経済を活性化させようと頑張る"良い異世界人"ってだけじゃ、出来上がった地図なり異世界人としての力なりを利用されて終わっちゃうんだよね」


 かつてハンスさんも言っていたことだ。

 よほどの強者――それこそ畏怖の対象となるくらいに絶望的な力の差を示さなければ、利用されるだけでなく食い物にされる。

 結局は何かあれば自分達が危ういと思わせるほどの恐怖――、歪で理想とは程遠い気がするけど、それは現代の"核"と同じで。

 あの王族のような人種を見ると、人間が人間としての欲を持ち続ける限り、この方法でしか本当の抑止にはなり得ないような気がしてしまった。


「今回の戦争にも『地図』が利用されていたのですか」

「残念ながらがっつりとね。あくまで軍の侵攻目的に合わせてって感じだったけど、それでも全てを奪われた町には、蹂躙を示すような駒が律儀に置かれてた」

「せっかく、ロキ君が世界のために作ってくれたものを……」

「……夏なのに、寒気がするんだが?」

「ちょ、ちょっとリステ! 大根あげるから落ち着いてよ!」


 もう、鳥肌が、すげーんですけど。

 でもこの感覚。

 サヌールのオークション会場で味わった時に比べれば、俺自身が強くなったことをなんとなく実感できる。


「交易が盛んになって、地方の小さな町にも良い影響は出ているみたいなんだよね。だから『地図』のメリットだけを生かしつつ、悪用させない方法を考えた方が意味もあると思うんだ」

「つまり、地図の作成者がロキ君であると、公表することで抑止に繋げるわけですか」

「作成者を公にすると、うちの国だけは公表しないでくれとか面倒な相談事が入りそうだからさ。そっちは必要最低限にしておいて、悪用した場合は俺が王族ごと王宮を吹っ飛ばすぞって、どうせなら今回起きた事実をそのまま広めた方が効果も高いかなーって」

「うん。あんな考えの王族が他にもいるなら、どんどん吹っ飛ばした方がいい」

「えぇ!? 出来上がり次第順次公開となれば、先に自国の地図を表に出されてしまった国ほど反感を持ちそうですけど……ロキ君、どのくらいで世界の地図は完成しそうですか?」

「ん~それは大陸の規模が分からないからなんとも言えないよねぇ……たぶん今回で今まで以上に立ち寄らない狩場は増えるだろうから、順調にいけば1国1ヵ月とか、もっと短い期間で地図は出来上がると思うけど」

「ならいいんじゃないですか~? それなら数年もすれば大陸全土の地図は完成しそうですし~」

「やっと物流の動きが活発になってきたというのに、この一件で動きを止めるのは勿体ないと私も思います」

「うんうん。西側なんてちょっと離れたら、まったく別の物しかお店に並んでなかったりするもんね!」

「地図を継続して作ることには賛成するが、ロキ、その抑止を広める方法は考えているのか?」


 さすがエルフ神。

 なぜかこういう時だけは冷静で鋭い。


「もちろん、ラグリースが各国に発信してくれるらしいよ。王様は属国になりましたって、自分達の立場を明確にして早く安全を確保したいみたいだからね」

「なるほどな……しかし、1年ほど前はそこいらの子供と変わらなかったはずのロキが王か。本当に世の中は分からぬものだ」

「いいじゃないですか。ある程度の地位もあった方が物事の交渉は円滑に進むというもの」

「いやいや、まずはその建国っていうのがどうなのかなっていうのを、みんなに相談したかったんだけど」

「私は賛成ですよ~? ロキ君が王様となって、下にいるゼオさん達のような希少な種族を安全な場所で保護してくれれば、私はすご~く嬉しいです~」

「私も賛成です。軽はずみに与えてしまった能力のせいで苦しんでいる異世界人の方達がいましたら、可能な限りの協力はするつもりですから保護してほしいと思っています」

「私も賛成! 王妃って、ちょっと憧れるし」

「ッ!? 私が第一夫人ですが」

「いや、私も第一夫人だし」

「あ、姉はなんて言う――」

「リアはどうなのですか~?」


 フィーリルの問いに、2本の棒を抱えたまま静かに座っていた黒い瞳がこちらを向く。


「いいよ。あの王のように暴走しなければ」


 相変わらず、表情の読みにくい、暗く、それでいて綺麗な瞳。

 狂った王の姿を見て、忠告をしてくれているだけなのかもしれないし、それだけじゃないのかもしれない。

 頭の中を覗ける【魂環魔法】をセットしたまま、長く行動を共にしていたのだ。

 俺が抱え始めた悩みを既に理解しているのかもしれないが……


(まぁ隠すつもりなんてないしな)


 今はそもそもこの違和感が勘違いなのかどうか、それすらも分かっていない段階。

 もう少し何か掴めるものがあれば、自分の身を守るためにも相談する必要がある。

 そんなことを頭の中で考えながら、『初代夫人』やら『元祖夫人』と言い争っている二人に視線を向けた。


「ちなみに、王様はゼオになってもらう予定だからね」


「「「「「「えっ?」」」」」」
383話 大事なモノを守るために

「解せんなぁ」

 翌日になって向かったパルメラ内部の避難所。

 ゴロゴロと山積みになった石材の上に座り、多くの人達が集まるのを眺めながら、そんなことを呟く。

 別に王様の立ち位置が面倒そうとか、狩りに行く時間が減りそうとか、そんなこともまぁかなり思ってはいたけれども。

 それでも俺なりに考えていた狙いだってあったのだ。

 名前で脅すというやり方を取るにしても、それが王である必要はない。

 マリーや勇者タクヤだって同じなわけで、所属している国がはっきりしているならば十分世間には通じると思っていた。

 だからゼオを国のトップとし、ついでにゼオの名前が拡散される機会を多く作れば、それだけ魔人の情報が得られやすくなるかなーと、そう判断していたわけだが。


(うーん……ゼオの名前が広まること自体あまり良くないのかな)


 アリシアのあの必死っぷりは何かありそうなものだけど、それこそ魔人消失に関わるトップシークレットになるため誰も教えてくれず。

 結局モンモンとしたまま、国の政治に関係することは手伝うからとか、まっ………たく当てにならない言葉を頂きながら、俺の意見は押し込められたわけだ。


「ロキ君、ルルブに向かっていたハンター達も戻ってきたわよ」

「これで外に出ている者はいない、全員だ」

「アマンダさんもヤーゴフさんも、ありがとうございます」


 見下ろすような高い位置から、これだけの数を前にして話すなんて昨日までは思いもしなかった。

 ヴァルツ兵に宣告した時とはまるで違う。

 今後を見据えた、凄く凄く大事な話。

 だからこそ、俺も覚悟を持って口を開く。


 ――【拡声】――


「えっと……皆さん、作業を止めてしまってすみません。僕はロキと言います」


 皆、何があって集められているのかはよく分かっていない。

 だがこの場所まで避難を促した俺が、ベザート唯一の戦争参加者であることは周知されていたからか。

 知っている人も知らない人も、戦争になにかしら大きな進展があったのだろうと、不安と期待が入り混じった表情を浮かべながら、静かに続く言葉を待っていた。

 だから俺は、最新の戦況を。

 まだ敗走した兵が少なからず存在しているものの、ヴァルツとの全面戦争は一先ずの終焉を迎え、戦争の最たる原因であったヴァルツ王家が亡びたこと。

 旧ヴァルツ領土はこれからラグリースに併合され、管理されていくことを伝えた。

 と同時に沸き起こる、どよめきと歓声。

 突如として攻められ窮地に陥っていたラグリースが、なぜか相手方の領土まで奪っているのだ。

 結果だけを聞けば謎の大勝利ということになるわけで、これは当然とも言える反応なのかもしれない。

 だが一人。

 周囲は諸手を挙げて喜んでいる中、先日ヤーゴフさんとの話を中途半端に聞いていた靴屋のオヤジだけが、未だ渋い顔をしたまま声を張り上げる。


「坊主! 急場で裏切りやがったジュロイの野郎はどうなったんだ!?」


 その声に、再度周囲は静まり返った。


「そちらは残念ながら、まだ解決まで至っていません。現状目立った動きはありませんけど、ラグリース南西のオーバル領がそのままジュロイの領土に切り替わっている可能性が極めて高く、予断を許さない状況は続いています」


 その他、マルタから敗走したであろう兵によって、ベザートの町や周囲の畑も荒らされていること。

 ラグリースの東側全域が同様に大きな被害を受けているため、今後ヘディン王も心配していた深刻な食糧危機に陥る可能性があることも付け加えておく。

 無事乗り切り、戦争に勝ったとは言っても被害の爪痕は非常に大きく、そして人手が減少したため回復も遅い。

 その上で今後をどうするか。

 あとはベザートや避難してきた人達自身で決めてもらうしかない。


 すぅ――……

 一度大きく息を吸い、改めて覚悟を決める。


「避難所として作ったこの地をそのまま活用されるか、ベザートや故郷の町に戻って復興されるか、それは各人のご判断にお任せしますが、ラグリースのヘディン王と話し合ったいくつかの重要な事実を皆さんにお伝えするため、わざわざこの場に集まってもらいました」


 まさかの王という言葉が飛び出たことで、再びざわつく中。


「まずこの避難所ですが、継続して活用される場合、ラグリースからの支援は一切ないものと思ってください。どこも甚大な被害が出ているため人手が足りないということもありますけど、この避難所がラグリースの領土ではないというのが一番の理由になります」

「じゃ、じゃあ、ここってどこの国になるんだ……?」


 目の前で鍬を持ったおじさんの口から、疑問がそのまま零れ出る。

 皆の困惑した表情を見ていると、今まで気にしたことがないから事実を知らないって人もかなり多いのだろう。


「パルメラ大森林は終わりの見えない未開地であり、かつ広大な魔物の巣ということもあるので、土地の占有権を主張するような国はありませんでした」

「ん? それってどういうことなんだ?」

「さぁ、俺に聞くなよ」


 様々な疑問の声が聞こえてくる。

 その全てに答えられるかは分からないけど……


「なのでこの度、パルメラ大森林の内部に住んでいる僕がその占有権を主張し、新たにパルメラ大森林全域を領土とする、『アースガルド王国』という名の国を興す運びとなりましたことを、皆さんにお伝えします」


 いくつかの案を出し、その中でゼオ、カルラ、ロッジの4人で決めた国の名前。

 それらを伝えれば、見事に全員がポカーンと。

 口を半開きにしたまま、時が止まったように場は静まり返る。

 ならばついでに、これも伝えておこう。


「ちなみに実情は同盟国のようなものですけど、ヘディン王の希望によりラグリース王国は今後『アースガルド王国』の属国に変わります」


 ここでも全員理解が追い付かずポカーンと――。

 そう思っていたら、一人素早く回復したのは、目の前で腕を組みながら話を聞いていたヤーゴフさんだった、が。


「ちょ、ちょっと待てロキ! それは予想外にもほどがあるぞ! 何がどうなってそんな話に……、いや、そうか、国を興すということは、まさかそのまま公表するつもりなのか?」 


 疑問を口にしながら、そのまま答えに辿り着けるのがヤーゴフさんらしい。

 その問いに、視線を向けながら黙って頷く。


 大事なモノを守るには、もうこれ以外に方法が見当たらない。

 今回、ヘディン王の提案に乗っかった一番の理由だ。


 俺が何よりも恐れていたのは、ベザートに余計な火の粉が飛ぶこと。

 だからこの長閑な町の変化を嫌い、行き過ぎた発展に繋がらぬよう、今まで静かに見守ってきたつもりだった。

 極力目立たぬように。

 平凡でも、この町が平和であり続けられるように。

 高位の素材をハンターギルドに卸せば、町は潤い活性化する――そうと知りながらも持ち込むことはせず。

 いくら余ろうと、提供するのは極力消費すればすぐに消える食料のみに止め、過剰な装備や日用品などを流すようなこともできる限り避けてきた。

 この町で商売をしようとする案も。

 パワーレベリングで望む知り合いを強くさせてしまう案も。

 初めて守りたいと思う人や場所を見つけ、その難しさに気付いてからは、変化による外部からの襲撃を恐れて控えてきたつもりだったが……

 そんな|消《・》|極《・》|的《・》|な《・》|考《・》|え《・》だけでは守れないことが、今回の戦争でよく分かった。

 ベザートが今回助かったのは、俺が反応するのを恐れたというただそれだけの理由であり、ヴァルツ側が深く俺の足取りを追わなかったら、他の町と同じく全てを奪われ蹂躙されていたことは疑いようもない。

 結局、守りたければ――大事なモノは手の中に収めるしかなく、この名前で大きな抑止に繋がるというのならば、俺自身が表舞台に立つことも厭わない。


「まずは多くの皆さんに黙っていたことをお詫びします。改めまして、僕は異世界人、ロキ。自分の名前と力で守れるモノを守りたい。そのために王というか、代表みたいな恰好になりましたので……ここに残る人達も、故郷の復興に向かう人達もよろしくお願いします」

「「「……」」」


 そう言いながらペコッと頭を下げる。

 出会った頃のヤーゴフさんのように、異世界人に対して悪感情を持っている人達だっている。

 だからどこまで受け入れてもらえるかは分からず、相応の反応――それこそラグリースが属国にされたなどの批判や罵声もある程度は覚悟していたが。


「きゃー! ロキ君が王様だって!」

「すげっ! 俺、王様と友達なんだけど!」

「お、王様に貰った盾と首飾り……すごぉ!?」


「まさか、ルルブで一緒に組んだヤツがこんな立場になるとはな」

「考えてみりゃあよ、どう考えてもあん時からおかしかったよな」

「ですね。年齢不相応にもほどがありましたよ」

「実年齢は何歳なのかしら……」

「おいおいロイズ、まさかロキ神を狙うのか?」

「さすがに無謀」


「ちょっとパパ! お得意様のロキ君が異世界人で王様だって!」

「も、ももも、もちろん聞いてたよ。店ができたら王家御用達の看板でも作ろうか」

「王家御用達のかぁりぃか……その看板、うちも乗っからせてもらおう」

「かーっ! 俺も乗っかっとくぜ! うちは王の歴代彼女が愛した靴屋、だな」


 知り合いの声が各所から聞こえ、しかしすぐに呑み込むような歓声へと変わっていく。

 うーん、これは予想外だな……


 そんな感想が顔に出ていたのか。


「なぜ当の本人が意外そうな顔をしている。自分が何をやったか忘れたのか?」

「え?」

「少なくともベザートには兵が一人、逃げろと伝えに来ただけ。マルタがそれどころではなかったというのも当然あるが、ベザートの連中は国や領主ではなく、ロキに救われたという認識しか持っていない」

「そうですか……」

「まったく、王様になるんならシャキッとしなさい。この中でロキ君を怖がっているのは、うちのペイロくらいよ?」

「はは、ペイロさんって、なぜか過剰に異世界人を怖がりますもんね」


 このような宣告をしたというのに、特に変わらず接してくれる二人の存在がありがたい。

 そうか、目立った反対意見は無しか……そっかそっか。

 ならば俺は俺のやり方で唯一の町――、いや町とも呼べないこの開拓村を発展させ、そして可能な限り皆が笑って過ごせるよう環境を整えるのみ。

 果たしてこの地を守るために何ができるのか。

 そんなことを考えながら、ひとまずは川沿いに男女別の巨大な共同風呂を作り、俺は王都へ正式な報告に向かった。






 こうして、アムシュラ40462-夏。

 パルメラ大森林全域という、ほぼ全てが森ではあるが、しかし大陸最大規模の領土を誇る『アースガルド王国』が建国。

 その事実と共に、国のトップが第五の異世界人『ロキ』であること。

 その『ロキ』の怒りに触れ、ラグリース王国に対し戦争を起こしたヴァルツ王国は、約50万の兵と数多の傭兵を失い、王家も一夜にして壊滅。

 ラグリース王国も旧ヴァルツ領を併合したのち『アースガルド王国』の属国に下ったと、戦争の経緯なども含めた細かな内容がラグリース王家から|同《・》|盟《・》|国《・》を含む各所に報じられ、瞬く間に広まったその話は大陸中を震撼させる。

 これは決してヘディン王の放った鳥による報だけが理由ではない。

 各国は当然のように間諜を放っており、旧ヴァルツ王都『エントラ』に潜伏していた者達は、確かにその様子を見ていたのだ。

 まるで王宮方面を照らすように、何百何千という巨大な雷が、恐怖を掻き立てる音と共に落ち続ける様を。


 長く動きのなかった大陸中央に、突如として現れた新勢力。

 これに他の異世界人は何を思うのか。

 知る機会が近く訪れることを、ヘディン王に正式な返答をしたばかりのロキはまだ知る由もなかった。
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ここまでご覧いただきありがとうございました。
ここで11章は終わり、『ロキの手帳⑨』の後に少し短い12章『アースガルド王国編』がスタートします。
ただ今回はその間にもう一つ、まだ未完ですが『登場人物紹介』も挟みます。
どうしても世界観を広くとると国や登場キャラも豊富になってしまうので、早見表と言いますか、このキャラなんだっけと疑問に思った際はご活用ください。
ただし通常のキャラ紹介よりも少し深いので、軽いネタバレに繋がる部分もあります。

22日・・・『ロキの手帳⑨』
23日・・・『登場人物紹介』
24日・・・12章―384話スタート

こんな流れで投稿予約しているので、今後も楽しめそうな方はまったりお楽しみくださいませ。
ロキの手帳⑨

 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:60  スキルポイント残:132 (技能の種により+11)

 魔力量:12142/12142 (704+11438)

 筋力:   6969 (385+6584)
 知力:   5569 (386+4563)  ガルグイユ(+620)
 防御力:  6547 (379+5481)  ヴァラカン(+687) 
 魔法防御力:4488 (379+4109)
 敏捷:   3308 (379+2727)  ウィングドラゴン(+202)
 技術:   9315 (378+8937)
 幸運:   6358 (379+5979)

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》



 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv9 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv6 【暗殺術】Lv7 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv9 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv9 【闘気術】Lv5


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【神聖魔法】Lv3 【呪術魔法】Lv5 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv9 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv8 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv6
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv6 【装飾作成】Lv5
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv4 【飛行】Lv8 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv8 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv8 【忍び足】Lv8 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv9 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv4 【自動書記】Lv3


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv5 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv6 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv3 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv7
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv6 【突進】Lv7 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv7 【招集】Lv7 
【硬質化】Lv6 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【咆哮】Lv6 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv4 【火炎息】Lv6 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv5 【丸かじり】Lv6 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv6 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4 
【不動】Lv6 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv4 【廻水】Lv5 【鏡水】Lv4 【透過】Lv5


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv5 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv3  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv5 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv5 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1



 ◆戦闘・戦術系統スキル

 【剣術】Lv10 剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

 【短剣術】Lv9 短剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

 【棒術】Lv8 棒形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

 【体術】Lv9 己の身体で打撃を加える場合に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【斧術】Lv9 斧形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槍術】Lv9 槍形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槌術】Lv8 槌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【鎌術】Lv7 鎌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

 【弓術】Lv9 弓形状の武器を所持している限り、攻撃動作、射程距離にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 技術補正

 【杖術】Lv9 杖形状の武器を所持している限り、魔法効果、魔法発動時間、防御動作にプラス補正が入る 魔力消費0 知力補正

 【盾術】Lv9 盾を所持している限り、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 防御力補正

【投擲術】Lv9 投擲飛距離に90メートルのプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で投擲速度/命中率のプラス補正を行う 魔力消費21 技術補正

【挑発】Lv9 注意を自分に向けやすくする 発動範囲90メートル以内 対象を中心とした半径1メートル以内の生物に発動 魔力消費21 防御力補正

【狂乱】Lv8 使用後は全ての通常攻撃動作に能力値290%の限定補正を行う。ただし制限時間が経過するまで、周囲の生物に対する通常攻撃動作以外を行うことができなくなる。 使用効果時間8分 魔力消費0 筋力補正

【二刀流】Lv8 両手に別々の武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【威圧】Lv9 見定めた1対象を相手にかなり強い恐怖を与え、行動阻害、精神錯乱を誘発させる 魔力消費5 魔力補正

【捨て身】Lv9 無手の状態に限り、筋力値、敏捷値を一時的に280%まで上昇させる 効果時間1分 魔力消費45 筋力補正

【指揮】Lv9 スキルを使用した指揮者の思考が、指揮下にある味方へと伝達されやすくなる。度合いはスキルレベルによる。 範囲:1800メートル 使用効果時間30分 魔力消費90 知力補正

【鼓舞】Lv9 半径45メートル範囲内の味方に対して全能力値を30%向上させる。同スキルによる重複不可。スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費44 幸運補正

【身体強化】Lv10 魔力を使用して筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 効果時間10分 魔力消費50 技術補正

【騎乗戦闘】Lv9 騎乗している状況に限り、全能力値145%のプラス補正が入る また騎乗している生物にもプラス補正が適用される 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【両手武器】Lv9 両手で一つの武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【暗器術】Lv6 暗器に該当する武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値280%の限定強化を行う 魔力消費15 敏捷補正

【射程増加】Lv9 射程距離が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【手加減】Lv9 スキル使用時に限り、致命打を与えても対象生物を一時的に延命させることができる 効果時間1分 対象生存時間54秒 魔力消費45 技術補正

【暗殺術】Lv7 急所攻撃に限り、能力値170%の上方補正を常時行う(魔力消費0) 任意で1分間、【忍び足】【暗器術】【隠蔽】のスキルレベルを1上昇させる 魔力消費35 敏捷補正

【闘気術】Lv5 体力の消耗と引き換えに、使用中は筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 魔力消費0 敏捷補正


 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv9 魔力消費90未満の火魔法を発動することが可能 知力補正

【土魔法】Lv9 魔力消費90未満の土魔法を発動することが可能 魔法防御力補正

【風魔法】Lv9 魔力消費90未満の風魔法を発動することが可能 敏捷補正

【水魔法】Lv9 魔力消費90未満の水魔法を発動することが可能 防御力補正

【氷魔法】Lv9 魔力消費90未満の氷魔法を発動することが可能 防御力補正

【雷魔法】Lv9 魔力消費90未満の雷魔法を発動することが可能 知力補正

【光魔法】Lv8 魔力消費80未満の光魔法を発動することが可能 幸運補正

【闇魔法】Lv8 魔力消費80未満の闇魔法を発動することが可能 魔力補正

【無属性魔法】Lv8 魔力消費80未満の無属性魔法を発動することが可能 魔力補正

【回復魔法】Lv9 魔力消費90未満の回復魔法を発動することが可能 防御力補正

【神聖魔法】Lv3 魔力消費300未満の神聖魔法を発動することが可能 魔力補正

【結界魔法】Lv6 指定箇所を中心に『防壁』『封魔』『燐光』『遮蔽』『遮断』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による
 魔法防御力補正

【呪術魔法】Lv5 魔力消費150未満の呪術魔法を発動することが可能 魔力補正

【時魔法】Lv5 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に対し、敏捷値±250%の減少か増加を選択して発動することが可能 減少の最終数値は対象の抵抗値によって決定し、マイナスになることはない 魔力消費:10秒毎に75 知力補正

【精霊魔法】Lv4 広範囲の『土水風火』属性精霊を一時的に使役し、魔法を行使することが可能になる 消費魔力100 魔力補正

【空間魔法】Lv6 一時的に亜空間と繋がり、その空間を活用することができる。 消費魔力:50%減 空間使用範囲と接続時間による 魔力Ⅱ補正

【魔力操作】Lv9 魔力操作が向上し魔法への応用が利きやすくなる また魔法発動時間が45%減少する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力感知】Lv9 使用者の周囲に存在する魔力の流れ、濃度に対して敏感になる 範囲半径45メートル 魔力消費0 魔力補正

【省略詠唱】Lv8 精霊への単体魔法イメージ伝導割合が80%まで上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【発動待機】Lv8 魔法発動可能状態から最大16秒間待機が可能になる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【多重発動】Lv2 属性に関わらず、発動待機中にもう2種の魔法を発動することが可能になる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【魔法射程増加】Lv9 魔法の射程が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力纏術】Lv6 具現化した魔力を装着武具、または身体に纏わせ強化させる 強化による上昇値は込める魔力量とスキルレベルに依存 効果時間6分 魔力消費:込めた魔力量の15% 魔力補正

【土操術】Lv3 流した魔力量に応じて土石を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる 防御力補正


 ◆ジョブ系統スキル

【狩猟】Lv10 狩猟技能が向上し、獲物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【解体】Lv10 解体技能が向上し、より素早く正確に解体を行うことができる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【採取】Lv9 採取技能が向上し、採取物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【話術】Lv8 対話能力がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【料理】Lv10 料理技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【農耕】Lv10 農耕技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【釣り】Lv8 釣り技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【家事】Lv10 家事技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【裁縫】Lv8 裁縫技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鍛冶】Lv6 鍛冶技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【芸術】Lv7 芸術技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【描画】Lv7 描画技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【建築】Lv9 建築技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【採掘】Lv9 採掘技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【細工】Lv7 細工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【加工】Lv8 加工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【伐採】Lv10 伐採技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【交渉】Lv8 交渉技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【畜産】Lv10 畜産技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【作法】Lv8 作法技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【舞踊】Lv7 舞踊技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【歌唱】Lv8 歌唱技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【薬学】Lv7 薬学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【演奏】Lv7 演奏技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【錬金】Lv6 錬金技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【彫刻】Lv6 彫刻技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【酒造】Lv8 酒造技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【庭師】Lv8 庭師技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【医学】Lv6 医学技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【装飾作成】Lv5 装飾作成技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【魔法学】Lv5 魔法学の技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔道具作成】Lv4 魔道具作成技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正


 ◆生活系統スキル

【異言語理解】Lv10 人族が扱う言語であれば、知識が無くても全ての専門的な用語を理解し会話をすることができる 常時発動型 消費魔力0 知力補正

【獣語理解】Lv8 動物や魔物の言葉が理解し、意思の疎通をだいぶ図れるようになる 魔力消費0 知力補正

【視野拡大】Lv9 上下左右の視野がやや広がる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【遠視】Lv10 かなり遠くを見通せるようになる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【夜目】Lv10 暗闇の中でもかなり視界を確保できる 魔力消費0 幸運補正

【視界共有】Lv4 指定した対象に触れることで、一定時間視界を共有する 効果時間24分 多重発動不可 魔力消費30 幸運補正

【気配察知】Lv10 使用者の周囲で動く存在に対して反応が敏感になる 範囲半径50メートル 魔力消費0 技術補正

【探査】Lv9 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径270メートル 魔力消費0 幸運補正

【広域探査】Lv4 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径1400メートル 魔力消費0 幸運補正

【隠蔽】Lv10 Lv10以下の察知、看破、調査系統スキルを欺ける 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【俊足】Lv9 走る動作に補正がかかり、移動がかなり速くなる 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【忍び足】Lv8 使用時は無音で移動することが可能になり、スキルレベルに応じて気配を隠すことができる 魔力消費1分毎に10消費 技術補正

【逃走】Lv8 何かに追われている状況に限り、能力値290%の速度で走ることが可能 魔力消費30秒毎に10消費 敏捷補正

【縮地】Lv5 前方に向かって能力値250%の速度で距離を詰める 移動範囲は任意指定 最大距離10メートル 消費魔力25 敏捷補正

【跳躍】Lv9 跳躍動作に補正がかかり、通常よりも高く跳べる 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【空脚】Lv4 足場のない空中で踏み込み、5段までの【跳躍】を行うことが可能になる 魔力消費:1段毎に5消費 筋力補正

【飛行】Lv8 浮遊した状態で上空を移動することができる 魔力消費:1分毎に2消費 魔力補正Ⅱ

【算術】Lv9 算術能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【暗記】Lv9 暗記能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【騎乗】Lv9 騎乗能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【拡声】Lv9 声音を一時的に増加させ、声を広く届ける 増大する声音は元の大きさに影響する 魔力消費0 魔力補正

【遠話】Lv4 範囲内の特定対象に直接声を届ける 範囲半径20000メートル 効果時間1分 魔力消費10 幸運補正

【聞き耳】Lv8 聴覚を一時的に増加させ、範囲内の音や声を聞き分ける 範囲半径80メートル 魔力消費0 知力補正

【読唇】Lv4 対象の唇や表情が視認できる状態であれば、聞こえずとも言葉を理解することができる 理解度はスキルレベルによる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【罠生成】Lv8 捕縛/殺傷を目的とした罠の生成作業が巧みになる 使用者の想像をだいぶ補助する 魔力消費190まで 技術補正

【罠解除】Lv7 Lv7以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を解除する 魔力消費85 技術補正

【罠探知】Lv8 自然発生した危険域、Lv8以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を察知する 範囲は視覚に依存 効果時間10分 魔力消費19 幸運補正

【鑑定】Lv9 対象物品の能力、効果、原料、素材情報を識別する 識別深度は自身のスキルレベルによる 無機物のみ対象 魔力消費0  幸運補正

【心眼】Lv9 対象の所持する技能を覗き見る 生物のみ対象 魔力消費5 幸運補正

【魔力譲渡】Lv7 対象に自身の魔力を譲渡する 消費魔力に対し譲渡できる魔力の割合は85% 魔力補正

【付与】Lv5 装備品に属性か特定スキルを付与することができる 付与数、組み合わせ、定着時間はスキルレベルと対象装備による 魔力消費50 定着完了まで1秒毎に17消費 幸運補正

【泳法】Lv8 水泳技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【調教】Lv8 調教技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【写本】Lv4 見本となる本や文章を複製する 速度はスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【自動書記】Lv3 意識を向けた対象の言葉や文字を一定時間書き記す 効果時間18分 魔力消費5 幸運補正

【魅了】Lv4 対象の心を惹きつけ、興味と好意を持たせる 異性に対してのみ有効 多重発動不可 効果時間4時間 魔力消費40 幸運補正


 ◆純パッシブ系統スキル

【毒耐性】Lv9 毒への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【麻痺耐性】Lv5 麻痺への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【睡眠耐性】Lv6 睡眠への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【石化耐性】Lv6 石化への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魅了耐性】Lv6 魅了への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【呪い耐性】Lv4 呪いへの耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【魔力最大量増加】Lv9 魔力最大量を90増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力自動回復量増加】Lv9 魔力自動回復量を45%増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【剛力】Lv10 筋力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【明晰】Lv9 知力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【金剛】Lv10 防御力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【封魔】Lv9 魔法防御力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【疾風】Lv9 敏捷値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【絶技】Lv9 技術値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【豪運】Lv8 幸運値が40上昇する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【物理攻撃耐性】Lv10 物理攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【魔法攻撃耐性】Lv8 魔法攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【火属性耐性】Lv9 火属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【土属性耐性】Lv8 土属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【風属性耐性】Lv8 風属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【水属性耐性】Lv8 水属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【雷属性耐性】Lv7 雷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【氷属性耐性】Lv6 氷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【闇属性耐性】Lv7 闇属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【光属性耐性】Lv6 光属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【鋼の心】Lv10 精神攻撃に対する抵抗がかなり増加する 威圧にも有効 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正


 ◆その他/特殊(使用可能)

【神託】Lv1 職業<神官>専用加護スキル 女神達からの言葉を授かることができる 使用条件1日に1度のみ 任意発動不可 魔力消費0 魔力補正

【神通】Lv2 職業<神子>専用加護スキル 女神達と意思の疎通を図ることができる 使用条件1日に1度のみ 使用制限時間2分 魔力消費60 魔力補正Ⅱ

【地図作成】Lv4 3倍までの縮小、拡大が可能 魔力消費0 魔力補正Ⅱ

【魂装】Lv3 自ら命を奪った魔物の魂を身に留め、抽出された能力のうち1種を自身へ付加させる 魂装上限数3 魔力消費5 魔力補正Ⅱ

【奴隷術】Lv7 奴隷契約を結び、対象を『魂縛』もしくは『隷属』させることが可能になる 最大所持コスト350 奴隷契約時のみ魔力消費30 魔力補正

【魔物使役】Lv8 服従させ、対象を使役することが可能になる 最大所持コスト800 使役時のみ魔力消費30 魔力補正

【威嚇】Lv7 前方7メートルの範囲に対し【威圧】効果を与える 魔力消費45 敏捷補正


 ◆その他/特殊(使用不可)

【獣血】Lv4


 ◆その他/魔物(使用可能)

【突進】Lv7 前方に向かって能力値310%の速度で突進する 移動範囲は任意指定 最大距離5メートル 消費魔力17 敏捷補正

【噛みつき】Lv8 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値330%の補正を行う 魔力消費17 筋力補正

【光合成】Lv6  太陽の光を浴びれば自然治癒力と魔力回復量が微増  常時発動型 魔力補正

【硬質化】Lv6 一時的に身体を硬質化させ、効果時間内は防御力が11倍になる 効果時間1秒間 魔力消費15 防御力補正

【物理防御力上昇】Lv4 防御力が12%上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【強制覚醒】Lv9 生存している同種族を強制的に目覚めさせる 範囲:1800メートル 魔力消費50 技術補正

【状態異常耐性増加】Lv7 あらゆる状態異常耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【招集】Lv7 【呼応】スキルを持つ周囲の魔物を強制的に呼び集める 効果範囲:周囲半径210メートル 魔力消費17 知力補正

【穴掘り】Lv8 上手に穴を掘る 効果時間8分 魔力消費2 筋力補正

【酸耐性】Lv8 酸への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【踏みつけ】Lv7 下方に向けてのみ、筋力値310%の威力で攻撃を加える 消費魔力17 筋力補正

【嗅覚上昇】Lv4 嗅覚を一時的に上昇される 上昇度合いはスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【洞察】Lv4 視界に収めた生物との力量差を少し掴める 魔力消費0 魔力補正

【咆哮】Lv6 前方6メートルの範囲に対し【威圧】効果を与え、自身に掛けられた精神ダメージを確率で無効化させる 魔力消費50 魔法防御力補正

【旋風】Lv6 周囲720度を能力値280%の威力、速度で薙ぎ払う 使用時は僅かに移動可能 魔力消費19 敏捷補正

【睡眼】Lv3 対象の目を見ながら発動することにより眠らせることができる。 能力効果を説明した上で対象が承諾していれば100% 能力説明をしていない、もしくは理解できなければ、成功確率はスキルレベルと対象の耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費9  魔法防御力補正

【爪術】Lv8 爪形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【発火】Lv6 自身、もしくは自身が触れている物を任意の範囲で発火させる 効果を切れば火は消えるが、非接触状態になればその火は直ちに制御を失う 熱量はスキルレベルと知力による 魔力消費:10秒毎に5消費 魔力補正

【火炎息】Lv6 前方に火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費45 魔力補正

【灼熱息】Lv5 前方に巨大で広範囲な火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費70 魔力補正

【白火】Lv1 自身が扱う火に関する技能に限り、上位格となる白火へ変化させる 熱量はスキルレベルによる 魔力消費20 魔力Ⅱ補正

【炎獄柱】Lv5 吸い込み、捕食し、生物を食らう巨大な炎柱を、自身から15メートル離れた先に2本生成する 生成後の炎柱、内部の龍ともに制御は不可 スキルレベル上昇により動きが活発になる 発生時間10分 魔力消費90 魔力Ⅱ補正

【丸かじり】Lv6 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値420%の補正を行う 魔力消費35 筋力補正

【分解】Lv3 魔力を介して対象を分解する 分解速度は込める魔力量による 魔力消費減少割合20% 魔力補正

【吸収】Lv3 魔力を介して液体を吸収する 魔力消費0 幸運補正

【氷結息】Lv6 前方に氷結の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費45 魔力補正

【不動】Lv6 一時的に身体を硬直させ、効果時間内は防御力、魔法防御力が16倍になる ただし発動中は一切身体を動かせない 効果時間6秒間 魔力消費90 防御力補正

【石眼】Lv7 対象の目を見ながら発動することにより石化させることができる 未動作の対象ほど石化進行は速く、成功率は耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費17 魔力補正

【物理攻撃力上昇】Lv6 筋力が18%上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【衝撃波】Lv6 初動となる運動エネルギーを増加させ、波状に衝撃を加える 威力と範囲はスキルレベルによる 魔力消費45 敏捷補正

【地形耐性】Lv4 地形効果を受けにくくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鏡水】Lv5 魔法属性に分類される攻撃を自動で防御、反射する 反射精度はスキルレベルによる 魔力消費:10秒ごとに30消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正Ⅱ

【廻水】Lv4 広範囲の水を強制的に流動させる 範囲と速度はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に65消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正

【透過】Lv5 一定時間身体を透明化させる 効果時間2.5秒 魔力消費50 魔力補正


 ◆その他/魔物(使用不可)

【粘糸】Lv4 使用不可 魔法防御力補正

【脱皮】Lv3 使用不可 魔法防御力補正

【呼応】Lv7 使用不可  知力補正

【酸液】Lv7 使用不可 技術補正

【擬態】Lv7 使用不可 技術補正

【胞子】Lv5  使用不可 魔力補正

【泥化】Lv5  使用不可 魔力補正

【気化】Lv8 使用不可 魔力補正

【毒霧】Lv5 使用不可 魔力補正

【結合】Lv8 使用不可 防御力補正

【分離】Lv8 使用不可 技術補正

【火光尾】Lv5 使用不可 敏捷補正

【幻影】Lv8  使用不可 魔力補正

【影渡り】Lv6 使用不可 魔力補正

【属性変化】Lv7 使用不可 魔力補正

【地縛り】Lv6 使用不可 魔力補正

【絶鳴】Lv7 使用不可 魔力補正

【無面水槍】Lv5 使用不可 知力補正

【睡夢鱗粉】Lv4 使用不可 幸運補正

【膨張】Lv1 使用不可 魔力補正



 ●ボーナスステータス値

 各スキルの隠し要素としてボーナスステータス値が存在。

 ステータス値が確認できない住民は当然として、ステータス画面上でも表記されないため、検証していかないとスキルそれぞれのボーナスステータス値は分からない。

 スキルレベル1・・・・・対応能力(+1)
 スキルレベル2・・・・・対応能力(+2)
 スキルレベル3・・・・・対応能力(+3)
 スキルレベル4・・・・・対応能力(+5)
 スキルレベル5・・・・・対応能力(+10)
 スキルレベル6・・・・・対応能力(+30)
 スキルレベル7・・・・・対応能力(+60)
 スキルレベル8・・・・・対応能力(+100)

 ※魔力のみ2倍  ※魔力Ⅱはさらに2倍



 ●スキルレベル上昇に必要なスキルポイント必要分(女神様への祈祷)

 0→1・・・・・・2ポイント
 1→2・・・・・・4ポイント
 2→3・・・・・・12ポイント
 3→4・・・・・・30ポイント
 4→5・・・・・・50ポイント
 5→6・・・・・・100ポイント
 6→7・・・・・・200ポイント
 7→8・・・・・・300ポイント



 ●レベル上昇による各能力上昇値

 レベル1~10・・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種3上昇、魔力量だけは6上昇
 レベル11~20・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種4上昇、魔力量だけは8上昇
 レベル21~30・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種5上昇、魔力量だけは10上昇
 レベル31~40・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種6上昇、魔力量だけは12上昇
 レベル41~50・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種7上昇、魔力量だけは14上昇
 レベル51~60・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種8上昇、魔力量だけは16上昇



 ●未取得からスキルレベル1の必要経験値を『100』とした場合のスキルレベルと必要経験値、及び魔物から得らえるスキル経験値の関係性(推定値)

 スキルレベル1取得に必要な経験値は100  
 スキルレベル1所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり20


 スキルレベル1から2に必要な経験値は200  
 スキルレベル2所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40


 スキルレベル2から3に必要な経験値は600  
 スキルレベル3所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり120


 スキルレベル3から4に必要な経験値は2,000 
 スキルレベル4所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400


 スキルレベル4から5に必要な経験値は20,000 
 スキルレベル5所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000


 スキルレベル5から6に必要な経験値は60,000 
 スキルレベル6所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり12,000


 スキルレベル6から7に必要な経験値は200,000
 スキルレベル7所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40,000


 スキルレベル7から8に必要な経験値は2,000,000?


 スキルレベル8から9に必要な経験値は20,000,000?



 ●名前の挙がった国名一覧

 ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側

 フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中の国

 パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国



 ●所持している本の一覧 

『薬学図鑑』

『系統によるスキル特性の違い』
『知られざる魔法技能』
『ラグリース王国の歴史と展望』

『オークション主催国 その規模と傾向について』
『魔道具一覧 2巻』
『大陸ダンジョン紀行 初編』
『スキルレベル検証 農耕編』
『私を誰だと思っている? ロマンドだよ』
『軍部の強化 名馬育成法』
『猫を飼おう』

『魔道具一覧 3巻』
『奴隷商館活用法 見るべきポイント』
『戦術論 陣形戦術 4巻』
『美の女王マダム・オーゼス』
『特徴も様々 実用された騎乗生物』
『転職しよう 職業一覧 改訂版』
『オールスロイ戦争』
『ジュロイ王国 各地の名産と民芸品』
『大陸中央版 通わせたい貴族院3選』

『宝石図鑑』

『魔物図鑑 1巻』
『希少鉱石とは』
『可愛い子ほど旅はさせるな』
『フィルオネス家の偉業』
『スキルレベル検証 加工編』
『魔法詠唱の導《しるべ》』
『イケてる髭の整え方』
『木人族の不思議』
11章終了時点の登場人物紹介(小ネタ的なネタバレ有り)

 本作は登場する国やキャラクターもそれなりに多いため、11章終了時点での国別登場キャラクターを少しずつ載せておきます。
 あくまで本編の進行が最優先。
 時間が空いた時に不定期で追加していきますので、その辺の緩い感じはご了承ください。
 作中で「このキャラ誰だっけ?」となった場合はこちらをご覧頂くと、「あ~この人ね」って(たぶん)なれると思います。


 ※国単位でやっているので、下界にいない人物を加える予定はありません。
 ※キャラ名が公表されていない重要キャラというのもいたりはしますが、名無しは基本対象外とさせていただきます。
 ※その他で一覧に無いキャラは、必ずではありませんけど作者の判断で追加するかもしれませんので、要望があればコメント欄にお願いします。

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【アースガルド王国】


 〇拠点(上台地)


 ・アリシア(愛の女神)
 世界を管理する女神達のリーダー的存在。
 固有最上位加護は【神通】、他にも主人公に詫びとして【神託】のスキルを授けている。
 実直ではあるが短絡的。
 とある理由もあって残念女神の代名詞的な存在になっており、転生者達に顔が割れているため、主人公が旅する下界へ満足に下りられないという枷を女神の中で唯一背負っている。
 代わりに下台地を含む『拠点』の管理者として常駐し、様々なスキルの知見を深めながら、自身が最も好きになれる何かを模索中。


 ・フィーリル(生命の女神)
 固有最上位加護は【蘇生】
 当初は気軽に話せる存在として『友達』ができたことに喜んだが、主人公が死に直面してからは『母』であることを願った。
 もう一度死ねば終わりという危機感から、女神の中で最も主人公を心配しており、世界を巡る旅にも内心では反対している。
 ほんわかした雰囲気の割には意外と計算高く、主人公を転がすのが上手。


 ・フェリン(豊穣の女神)
 固有最上位加護は【地形変動】
 最も女神らしくない女神であり、人懐っこい性格をしているが学ぶことは苦手。
 料理の工程に興味はないが、素材や出来上がった料理に対しての興味は非常に強い。
 聞きかじった程度の知識から主人公の第一夫人を狙っているものの、腹芸が苦手なためリステに勝てず、何か手はないかと考えるものの何も浮かんでいない。
 良くも悪くも主人公とは一緒に新しい料理を開拓する程度の、凄まじくピュアな関係が続いている。


 ・リステ(商売の女神)
 固有最上位加護は【地図作成】
 最も下界に詳しく女神の中では知識も豊富。
 冷静沈着で計算高くもあるため、唯一頭の中を覗き、この世界にとって謎の存在である主人公を陥落させた。
 しかし強さへの探求が尽きない主人公とは対照的に、自身は初めての感情が抑えられずどんどんのめり込むことに。
 ヤンデレ化が加速していることに本人は気付いていない。


 ・リガル=リル(戦の女神)
 固有最上位加護は【魂装】
 女神の中で唯一のエルフ種であり、エルフの素体とも呼ばれている。
 戦いや強さへの興味は非常に強いが、主人公が現れるまでは戦ったことすらなかった名前だけの女神。
 そのせいもあって戦う喜びと興奮から一度主人公を殺めており、罰としてつけられた『リル』という名が定着している。
 現在はわだかまりも解消され、トラブルを避けるために用意された『姉』というポジションを本人は気に入っており、それ以降は主人公を気にかけ、諭すような場面が多く見られるようになった。


 ・リア(罪の女神)
 固有最上位加護は【神罰】
 女神の中で最も容姿は幼いが、最も危険な女神でもあり、気分一つで大陸の広域を焦土化させる力を持つ。
 感情を表に曝け出すことはほとんど無かったが、主人公が現れたことでそのような場面が多く見られるようになった。
 お互いがお互いに警戒対象ではあるものの、内心では『友達』のような存在とも思っており、そんな関係がお互い長く続けばと思っているが……



 〇下台地


 ・ゼオ・レグマイアー
 元々は魔人であり、災禍の魔導士、魔王という呼び名も存在した、亜人を代表する古代の魔導士。
 その強さと甚大な被害から、歴史上数えるほどしかない神罰の対象として、過去に半身を焼かれて死にかけた経験を持つ。
 現在はカルラの眷属として吸血人種になり、主人公の血液がないと活動できない。
 将来は自身が同族である魔人種を探すという夢を描きつつも、力の戻っていない現在は拠点で大工や主夫業に精を出している。
 非常に整理整頓好きであり、天然の中二病患者でもある。



 ・カルラ・ウォルブド・アッケンリーベル
 とてつもなく眉目秀麗で中性的な少年。
 吸血人種であり、魔力を消費することで容姿を若返らせることができる。
 実年齢は凄まじく長いらしいが、その理由は知らされておらず、主人公も無理に聞き出そうとは思っていない。
 当初はゼオを蘇らせることだけを最優先に考えていたが、主人公が悪い奴ではないと知り、今では役に立とうと拠点の仕事に邁進している。
 ゼオが大好き過ぎて、毎日一緒の布団で寝ている模様。


 ・ロッジ
 元『五頭工匠』の一人で、我を通したために居場所を失ったドワーフ種。
 鍛冶の腕前は非常に優秀で、より上位の素材、未知の素材から新たな装備を生み出したいという願望が強い。
 鍛冶と酒とパンツにしか興味がなく、その3つに囲まれながら、暇な時間は有り余る素材を利用して素材の合成実験をしている。


 ・ジェネ
 主人公が初めて使役した魔物で、元はCランクのゴブリンジェネラル。
 材木運びや薪割り、荷運びなど、ゼオやカルラの手伝いをして日々過ごしており、徐々にやれることが増えてきている模様。


 ・ブタ君
 カルラが森の中で見つけてきた野生の豚。
 ゼオに調教されており、魔物が万が一入ってきた時用の見張り役を担っているが、一度もそのような事態に陥ったことはない。
 皆から夕食の残りを貰いながら裏庭で自由に過ごしている。




【ラグリース王国】

 〇ベザート

 ・ヤーゴフ
 ハンターギルド、ベザート支部のギルドマスター。
 ハンターの上に立つような体躯には見えない老齢の男性で、観察眼が異様に鋭い。
 冷静で頭が回り、道義は優先するが人並み以上に欲は強く、商人気質な部分も目立つ。
 主人公が異世界人というだけでなく、『転移者』であることまで知っている数少ない人物。


 ・アマンダ
 ハンターギルド、ベザート支部のナンバー3であり受付嬢。
 欲には忠実で、男もお金も大好きなギリギリアウト気味のお姉様。
 ハンターは若い受付嬢の前に並ぶので、いつもガラ空きのカウンターで暇そうにしているが、本気を出せば仕事はかなりできる。
 自称情報通で、噂好きが高じて聞き耳のスキルが勝手に育っていった。
 古株で実際情報には詳しいので間違ってはいない。


 ・ペイロ
 ハンターギルド、ベザート支部の遺留品管理担当者。
 パルメラ大森林で見つかった謎の遺留品がきっかけで、ヤーゴフの野望に巻き込まれた悲しい過去を持つ。
 ベザートが発展することには賛成だが、リスクを負うくらいなら現状を選ぶ保守派。
 ハンターギルド職員ということもあって異世界人の話をちょくちょく耳にしており、自身も元ハンターだったからこそ、異次元とも言える能力保有者に強い恐怖と警戒心を抱いている。


 ・ロディ
 ハンターギルド、ベザート支部の解体場主任。
 気さくなおじさんで、狩場や魔物の素材など、ハンターが知っておいて損はない情報を聞かなくても教えてくれたりする。
 見た目だけで言えば一番ギルドマスターに見えるくらいマッチョなオヤジ。


 ・ジンク
 お子様3人衆の一人でリーダー。
 父親がハンターだったことから、幼いながらも基礎的なハンター知識が備わっている頼もしい存在。
 現在はEランクハンターを目指しているが、主人公の影響から外の世界にも強い興味を持ち始めている。
 なんでも卒なくこなせる有望株で、美形な母親に似て将来はモテそうな雰囲気を醸し出しているものの、本人にまだ自覚は無い。


 ・メイサ
 お子様3人衆の一人。
 目立つラベンダー色の髪色と瞳が特徴的な女の子で、とにかくよくしゃべる。
 薬屋の娘で将来は薬屋を継ぐはずだが、ジンクと主人公の影響で、最近は魔物を倒すことが少し楽しくなってきている。
 得意技はザルを使った魚掬い。残念ながら集中力と羞恥心は無い。


 ・ポッタ(ポッタチオ)
 お子様3人衆の一人。
 身体が大きく力持ちで、母親と兄弟が全員同じような顔をしている。
 臆病でのんびりとした性格のため、常に戦わない荷物持ちを担当していた。
 修業を兼ねた旅行で少し改善が見られ、武器と盾を握りながらEランクハンターを目指している。
 家庭環境から勉強をする機会が無かったというだけで、いざとなれば一番頭が回るという噂もあったりするが、そのような場面を見た者は非常に少ない。


 ・メリーズ
 おばちゃんシスターでベザートの教会では最も古株。
 豪快で気さく、主人公に職業やステータスに関して多くのことを教えてくれた。
 さりげなく掃除をサボるのが上手い人。


 ・トレイル
 信仰が厚く、人の良いおじいちゃん神官。
【神託】を受けることのできる職業加護の持ち主で、日に3回を上限に職業選択の対応をしている。
 最近耳が遠くなってきたのが悩みの種。


 ・パイサー
 ベザート唯一の装備屋店主。
 元Cランクハンターで、地味に【付与】も所持しているため、田舎町には非常に有難く頼もしい存在。
 事情により妻はいない。
 駆け出しハンターだった子供を亡くしたことから、ベザートのハンター達を何よりも守れる存在であり続けようとしている。
 そのため野心や欲は限りなく薄い。


 〇マルタ


 ジルガ・オフィスト・レイモンド伯爵
 ラグリース南部の広域を領地とする上位貴族であり、元Sランクハンター。
 主人公からは心の中でゴリラ伯爵と呼ばれている通り、見た目は違和感を覚えるほどに肌が黒く、対照的に頭髪や髭などは純白に近いほど白い。
 身体も2メートルを超すほどの巨体であり、明らかに普通ではないと思えるほど見た目が通常のソレとは異なっている。
 そのため長く人間至上主義を貫いてきた王国内での立場は微妙なモノで、上位貴族でありながら他の貴族連中とは折り合いが悪い。


 ・モーガス
 かつてはレイモンド伯爵と共にパーティを組んでいた、元Sランクハンターでもある使用人。
 家督を継ぎ、正式にレイモンド家の当主となった際、主に付き従うことを望み、ハンターを辞めてでも執事になる道を選んだ。
 レイモンド伯爵が最も信頼している人物であり、実際にラグリース内では並ぶ者を探すのが難しいほどに優秀。
 特に知識は豊富で、国外の情勢も多く耳に入れている。


 ・オランド
 ハンターギルド、マルタ支部のギルドマスター。
 Aランクハンターではあるが、金や権力といったモノに弱く、ギルドを成長させることで武力とは別の力を伸ばそうとしていた。
 しかし戦争で衰えた自身の力量を思い知り、失った片目を戒めとした上で考え方を改めようと、鍛錬や模擬戦をやり始めている。
 現在は復興作業を行いながら張り出た腹と戦う日々。


 ・イーノ
 マルタを拠点に活動するBランクハンター。
 口が悪く軽薄、かなり早い段階でBランクに到達したため、調子に乗っていたところを主人公に凹まされた。
 その後はマルタにAランクの強者が集うようになって現実を知り、口の悪さは変わらないもののハンターの仕事自体は真面目に行なっている。
 Aランクハンターに模擬戦を挑み、倒されては昇格が遠いと嘆く日々。


 ・ララン
 マルタを拠点に活動するBランクハンター。
 イーノと同じく才能に溺れて調子に乗り、上には上がいることを理解してからは比較的真面目にハンター活動をしている。
 元々は知り合い程度だったが、同じ凹まされた同士という境遇もあってか、今ではイーノとパーティ仲間であり恋仲になっている。そのため二人の連携は巧み。


 ・ニロー
 ラグリース王国監査院 マルタ支部の監査主任。
 主人公と姉を見つけて、主人公だけではあるが王都に誘導した功績からマルタ支部の監査支局長に昇格している。
 しかし戦争によりその支局も倒壊。
 なんとか生きながらえたが、職務復帰できるような状況でもないため、今はレイモンド伯爵の下で復興作業に当たっている。
 自分が掘り起こした主人公に国は救われ、その主人公が宗主国の王となったことで、繋がりのある自分も新しい立場に着けるのではと画策していたりもするが、果たして。


 ・ファンメラ
 ラグリース王国監査院 マルタ支部の監査員。
 主人公と姉を見つけた功績から監査主任に昇格。
 しかしかつて見たリルの美貌が忘れられず、職務よりもあの姿を探し求めることに注力していた。
 戦争による警報が響く中でも変わらず、結果、逃げ遅れて戦死。
 身なりの良い服装から上官だと判断されたため、その亡骸は尋問の跡が多く残り凄惨を極めた。


 ・ジョイス
 元マルタの衛兵長。
 主人公発見時にスキルを確認した功績と勇気が称えられ、一代限りの騎士爵に叙爵。
 レイモンド家に仕えていたところで戦争に発展した。
 街の防衛に大きく貢献したものの、この戦で妻子を亡くしている。


 ・ソルゾイ
 マルタの衛兵長。
 ジョイスの後任として、班長から衛兵長に命じられて間もなくの戦争だった。
 そのため作戦会議中に犯した、領主の会話に水を差すという無礼を未だに引きずっている。
 が、当の本人は無事防衛できた喜びから、そのようなことは既に忘れていた。


 ・ノディアス
 小金蟻の情報を聞き、故郷であるマルタに戻っていたSランクハンター。
 止むを得ないとは言え、多くのハンター達が国から脱出していく中、祖国を守るために立ち上がった数少ない人物。
 しかし異世界人という、次元の違う存在を目の当たりにして自信を喪失。
 小金蟻討伐は断念し、今は復興作業を手伝いながら貯めた金でこのまま定食屋でも開こうかと計画している。


 ・ウィルズ
 マルタにある高級宿ハンファレストの支配人。
 元々はとある上位貴族に仕え、表と裏の仕事を担っていたことから、一部の地位ある者達や実力者からは名が知られている。
 全てを卒なくこなせる非常に優秀な人物であり、また恐れられる人物でもあり。
 戦争で宿に被害が出ていることを予想し、その後の動向に注目している人物は非常に多い。


 ・セイフォン
 レイモンド伯爵に仕える騎士の長。
 のちに加わったジョイスの上役にも当たる。
 長く仕えていることもあって、騎士長の立場ではあるものの伯爵の良き理解者。
 好奇心が勝るその性格に振り回され、しょうがなくお守りのように同行している。
 内心、何かあってもこの人は死なないだろうと1000回くらい思っているが、決して誰かに漏らしたりはしない。


 〇リプサム


 ・レイミー
 Dランク狩場を擁するリプサムの元ギルド受付嬢。
 その容姿はハンター達からの人気が非常に高く、それだけ請け負う仕事も多かったため、金の勘定や計算には強い。
 夫が誘拐事件に巻き込まれ、誰も動いてくれない現実から、主人公に探索を懇願。
 結果的には夫を亡くし、実家のある田舎町ミールのハンターギルドに勤めると告げて町を去っている。


 ・アマリエ
 Dランクハンターでありヒーラー職。
 誘拐事件に巻き込まれて夫を亡くし、自身も大きなダメージを負ったが、その後はリプサムで別のパーティに加入しハンター業を続けていた。
 戦争時には志願し、南部マルタの救護隊員として参戦しており、そこで久しぶりに主人公と再会している。
 戦後も回復魔法の使い手として、マルタでの活動を継続中。


 ・エステルテ
 Dランクハンターであり、呪術魔法を得意とする希少職『シャーマネス』に就いていた。
 同じく誘拐事件で夫を亡くし、誘いも受けていたことから国を跨いで東へ。
 その誘いとは積極的に勧誘を行なっていた傭兵稼業であり、ヴァルツ領内でチームを組みながら様々な仕事をこなすも、1年にも満たない期間で主目的であった戦争へ。
 多くの思いを抱えながら中央侵攻部隊に混ざり、絶望の中、主人公の手によって沈められている。
 当然数多といる中の一人であるため、その事実を主人公は知らない。


 ・アルバック
 リプサムの衛兵長。
 奴隷事件の際、ロキに法律の知識と、その法律がまともに機能していない現実を告げた人物。
 マルタ防衛のためリプサムから参戦するも、先行して突入していた傭兵に討たれ戦死している。


 〇王都ファルメンタ


 ・ヘディン・グラウト・ラグリース
 ラグリース国王。
 戦争や争いごとを嫌うが故に、損耗の回避を異世界人に頼ろうとする節があった。
 実際に救われてからは畏怖の感情が最も強く、しかし苛烈な性格でもないことが分かったため、名を借り、共に歩むことが平和への近道であると判断している。


 ・ニーヴァル(ばあさん)
 ラグリース王国の筆頭宮廷魔導士であり、ラグリース公表戦力の最上位に位置する『火仙』の二つ名を持った老婆。
 重ねた歳と知識、そして王家3代に渡って仕えた長さから現国王も孫のように扱っており、それが許されるほどの存在でもあった。
 戦争ではその責任を一身に背負い、呪具を使用してでも国を護ろうとするも、最上位クラスの傭兵に敗北。
 しかし国を守った英雄として、その名は深くラグリースの歴史に刻まれる。


 ・ラディット
 ラグリースの近衛騎士団長であり、『槌覚』の二つ名を持つ男。
 戦力としてはラグリース国内で2番手に位置し、戦争では東の境界を破壊するという勅命を受けて無事成功させた。
 その結果10万を超えるヴァルツ兵の餓死者を出している。
 その後は逃げたヴァルツ兵を殲滅するため、抱える兵を指揮する日々。


 ・カムリア
 ラグリース王国監査院の次官。
 平民出から実力でのし上がった男であり野心家。
 異世界人を管理下に置き、その力を利用できないかと画策し続けていた。
 しかし肝心の対象がラグリースを従える宗主国の王となってしまったことで失脚。
 主人公を利用しようとする存在が新たな火種になると危険視され、ヘディン王が一掃したため現在は要職から大きく外されている。


 ・オルグ
 ハンターギルド、ラグリース全域を統括するジェネラルマスター。
 いつもニコニコと、肩を揺らしながら笑っている印象の強い好好爺。
 しかし相当な実力者で、決して怒らせたらいけないというのがギルド内の不文律になっていた。
 ニーヴァルとはお互いにクソジジイ、クソババアと呼び合う仲で、戦後は度々宮殿内の庭園で静かに佇むオルグの姿が目撃されている。


 ・ワドル
 商業ギルド、王都支部2号館の3階で登録許可の判断を下す品評の担当員。
 頭髪が綺麗な7:3分けになっており、いつも主人公にはその髪型で発見されている。
 地図を持ち込んだ主人公を対応したのは偶然だが、その後はお互いに担当意識が芽生え、なんだかんだと率先してやり取りを継続させていた。
 今では品質も信用されており、細かいチェックなどはほとんど行われてない。


 ・エニー
 ニーヴァルのひ孫で、年齢は若返った主人公よりも僅かに若く、3人衆の中に混ざれば違和感は何もなくなる。
 ニーヴァルに才能があると認められ、付き人として宮殿内で共に生活をしていたせいもあってか、とにかく生意気。
 物怖じしないその性格は大物の予感を感じさせるが、それは今後の努力次第といったところ。
 現在は母でありニーヴァルの孫に当たるイリアやアルトリコ、ケイラと共に、戦争の結果を確認するため国内に隠れ潜んでいる。


 ・アルトリコ
 先祖返りにより、巨人族の血が強く出た女性。
 体長は軽く2メートル以上あり、【痛覚遮断】という見慣れぬスキルを所持している。
 集中すると他が見えなくなるため、来客に気付かないことも多いが、それだけ知識欲は高く、ニーヴァルに次ぐ博識になると噂されていた。
 その大きさ、そしてやや特徴的な顔の形状から表に出ることが儘ならず、一年を通して宮殿内から出るようなことは無かった。


 ・ケイラ
 同じく先祖返りにより、魚人族の特徴が強く表面化している子供。
 その体表はほんのりと青く、よくよくみれば手や足に水かきのような薄い膜も備わっていた。
 種族固有スキルである【水中呼吸】を所持しているが、活用できた場面は一度もない。
 奇怪な容姿から親に捨てられ、孤児施設にいたところをニーヴァルに拾われている。
 戦争により追い出される格好となったが、まだやりたいことまでは見つかっておらず、初めて友達と呼んでくれたエニーとだけは離れたくないと思っている。








【エリオン共和国】


 ・ハンス
 公表している4人の異世界人のうちの一人で、国家元首。
 得意とする【魔物使役】は古代種の竜を従え、【空間魔法】による転移まで可能とする。
 かつてはあまりの実力差に主人公が腰を抜かすほどであったが、そこまで苛烈な性格ではなかったので、現在は友好的な関係を結べている。
 元アメリカ人の酪農家。


 ・タルハン
 腹がぽっこりした中南米出身の元奴隷転生者。
 授かったスキルは【庭師】レベル10、飼われながら貴族の世界を見続けた男。


 ・ルビエイラ
 ガリガリな上に喉が潰れた元奴隷転生者。
 授かったスキルは【歌唱】レベル10、喉が枯れた後も見世物として舞台に立たされ続けた過去を持つ。


 ・メイビラ
 白い肌に白い髪、ベールのような帽子で顔を隠し、さらに黒い布で目を隠した女性。
 受け答えも特徴的で、疑問形の時だけはレスポンスが遅く、上を向いて考え込む仕草をしたのち、ゆっくりと返答する。
 フィーリルは何かを知っているようだったが詳細は一切不明で、立ち位置からエリオン共和国の幹部であることが窺えた。
 誰も知らないとされている【空間魔法】の取得条件を一部でも知っていた人物。


 ・サガン
 狼の獣人で、ハンスをボスと呼ぶ。
 最初に訪れた、2名の元奴隷転生者を癒し場まで連れてきた人物。
 同じくエリオン共和国の幹部であると予想されるが、それ以外は不明。


 ・たんぽぽちゃん
 宮殿内の癒し場に生息している謎のペット(のうちの1匹)。
 体長30cmほどの白い球体型の生物で、触った者を虜にするほどふわふわつるつるした毛並みをしている。
 魔物ではなく動物、調教済みで非常に大人しい。







【旧ヴァルツ王国】


 〇グリールモルグ(ラグリースからの玄関口)


 ・ベロイア
 傭兵ギルドの案内人。
 ラグリースから入ってくる者の中で条件を満たしそうな人物に声を掛け、傭兵ギルドに斡旋していた。
 自身も傭兵として中央侵攻部隊に混ざり、主人公に焼かれて戦死している。


 ・ミルフィ
 傭兵ギルドの受付嬢。
 貴族からも声が掛かりそうなほどの美貌の持ち主であり、その容姿と巧みな話術で悩む者に傭兵登録させる仕事も担っていた。
 それ以上を知っている主人公には効かなかったため、その後は冷たいというか、ちょいちょい毒を吐かれる素の状態で対応されていたが、主人公はその方が良いくらいに思っていた。


 〇ローエンフォート(Bランク狩場エントニア火岩洞)


 ・フィデル
 Aランクハンターであり、レイド主催者の一人。
 囲った後衛の女で編成を固め、募集を掛けた捨て石の近接にボスを削らせながら固定メンバーが安全に、より報酬を得るという仕組みを作った張本人。
 主人公も捨て石要員の予定だったが、予定外にも倒してしまったために計画が狂った。
 囲っていた女も含め、全員が死亡。


 ・アディラ
 ハンターギルド、ローエンフォート支部のギルドマスター。
 種火石を求め、一時的に訪れる足の付きにくい強者が狙われていたこともあり、フィデルの悪行に気付けなかった事実を正式に謝罪した。
 そのような経緯もあり、主人公にはその後様々な面で協力的になるが、それはのちのお話。


 〇所在不明


 ・ジョルジア(爆走獣人)
 旧オーベル跡地で主人公を監視していた、ネコ科と思われる縞々模様の獣人。
 傭兵であり、ヴァルツ国内ランキングは当時35位、爆走という面白い二つ名を付けられていたが本人はカッコいいと思っている。
 勧誘対象として国から依頼を受けていたと堂々宣告されたため、主人公には見逃されていた。
 この男の持ち帰った情報が、ヴァルツ崩壊の大きな要因になっていることを当人は全く把握していない。
 ヴァルツ国内ランキング1位のジオール一派であることを公言している。


 ・ジオール
 ヴァルツ国内ランキング1位の傭兵。
 詳細は一切不明であるが、大陸全土を対象とした非公表のオールランカーにも名を連ねるという噂もある。
 ラグリースへの戦争には納得できず、派閥として不参加を表明。
 結果として生き残ったが、その後は不明。


 ・バリー・オーグ
 ヴァルツ国内ランキング2位の傭兵。
 ハーフエルフであり、本家エルフほどでないにしろ長寿で、ニーヴァルの若い頃も知っていた。
 混血という理由からは忌み子として扱われていた過去があり、望んで里を捨てているため背負うモノが何も無い。
 理解不能な力に潰され戦死、主人公に全てを奪われる。


 ・ファニーファニー
 ヴァルツ国内ランキング3位の傭兵。
 非常に珍しい【獣血】所持者で、他者を自然と圧するその見た目からも強く特徴が表れていた。
 濃さは違うも同じ匂いのするレイモンド伯爵が真っ当な道を歩めていることに強い怒りを覚える。
 変身中の無防備な状態から準備状態に入られ、主人公に消滅させられる。


 ・ルエル・フェンシル
 ヴァルツ国内ランキング4位の傭兵。
 国内でも強い影響力を持つフェンシル伯爵家の令嬢で種族は人間、氷血の異名を持つ。
 氷魔法と剣技を得意とする魔法剣士であったが、4位相当の実力があったかは意見が分かれる。
 主人公に燃やされ、唯一残されていた特殊付与武器だけが奪われた。


 ・モゥグ
 ヴァルツ国内ランキング5位の傭兵。
 変わり者が多い傭兵の中では比較的まともで、武人のような気質がある牛頭の獣人。
 強者との闘いを求め、相手にも敬意を払うことのできる男だったが、そのような感情が大きな負傷を負う切っ掛けとなる。
 不死身のように立ち上がるニーヴァルに敗れて戦死、手にしていた武器は戦闘を引き継いだバリーに奪われた。


 ・ビアス=フォウ
 ヴァルツ国内ランキング6位の傭兵。
 1位のジオールと同派閥であることは分かっているが、それ以外の詳細は不明。


 ・ユークリッド
 ヴァルツ国内ランキング7位の傭兵。
 超長距離射撃を得意とする弓の名手、種族は人間。
 鳥に乗り、騎乗効果も上乗せして一方的に魔法の矢を打ち続ける様は恐怖しかなく、総合的な傭兵の評価は非常に高い人物だった。
 しかし、主人公が空を飛べたために撃墜される。


 ・ロブザレフ
 ヴァルツ国内ランキング8位の傭兵。
 剣聖の異名を誇る剣の達人。
 剣の技術だけでなく、剣そのものにも強い興味を示し、全てを注ぎ込んでいた。
 しかし張り合える相手が周辺国では見当たらなくなり、そのせいで全てに対しての意欲がなくなる。
 意欲的でないという理由から8位にされているだけで、実力がもっと上位であることは傭兵全員が周知していたこと。
 バリーや軍部の最高戦力ガルファも、ロブザレフだけにはあまり強く出れないでいた。
 剣の戦いに拘らなくなった主人公に首を毟られて死亡。


 ・エヴィンゲララ
 ヴァルツ国内ランキング9位の傭兵。
 珍しい【土操術】の使い手。
 非常に強いコンプレックスを持ち、被害妄想から弱者相手には苛烈な攻撃を加える。
 しかし強者にはとことん弱く、ゴマを擦って生きてきた結果は上位傭兵になっても変わらなかった。
 主人公にミンチにされて死亡。


 ・ガルファ
 ヴァルツ軍の最高戦力であり、戦争時の総司令官を勤めていた人物。
 二つ名は剣仙であり、軍人として必要なスキルは幅広く取得していた。
 軍部の精鋭と傭兵をまとめ上げて総力戦に挑むも、主人公には歯が立たずに死亡。
 全ては雑兵という餌を与えてしまったことが原因だが、その正確な理由には最後まで気付けなかった。


 ・アトナー
 戦争では南部侵攻部隊の司令官を務めた人物。
 二つ名は槍覚であり、軍内では知将としても名が知れていた。
 しかしイレギュラーな存在に全てを壊され、最後は自暴自棄に。
 納得して死ぬつもりが、余計な後悔まで抱えて死ぬハメになった。


 ・ルイド・ベイリガン・ネスト・ヴァルツ
 旧ヴァルツの王で、戦争の元凶とも言える人物。
 転生者マリーにハメられ借金漬けにされ、その金は最後の最後まで道楽のために使われていた。
 自分達王家は神であり、それ以外は自分達を気持ち良くさせるための便利な道具と本気で思っており、その考えがリアと主人公の逆鱗に触れた。
 結果的に王を含む王族は火炙りの末に輪廻の循環から外れ、永劫の罰を背負うこととなった。









【フレイビル王国】


〇ロズベリア(Aランク-クオイツ竜葬山地)


・バルク
現四頭工匠の筆頭であり、転生者マリーの資本で作られた鍛冶屋バルニールの顔役。
利益追求を何よりも優先したため製造効率は上がり、周囲の金回りは非常に良くなったが、押し通すためにロッジを含む一部の反対派に対して強硬手段を取った疑いがもたれている。
主人公に言われ、ハンターギルドが裏で調査中。


・グロム
普段はクオイツ竜葬山地を主戦場とする、Aランクハンターの盾職。
ヴァラカン討伐で主人公以外に生き残った唯一のハンターであり、主人公を命の恩人だと思っている。
大人で空気も読めるため、再開した時も実力差を理解し、無理な同行やパーティの誘いなどは行わなかった。
ちなみに大人な対応はここが初ではなく、ヴァラカンの時にも主人公に一度は眠らされたが、床の熱と轟音ですぐに目を覚ましており、フィデル達が一掃される様子は途中からそれとなく眺めていた。
女神以外で主人公の黒い魔力を目の当たりにしたのはグロムが初であるが、命の恩人であることに変わりはなく、この時も空気を読んで寝たフリをしていた。
当然主人公はこの事実を知らない。


・オムリ
ハンターギルド、ロズベリア支店のギルドマスター。
力よりも頭脳と商魂でギルドの長になったタイプで、系統はベザートのヤーゴフに近い存在。
主人公が【空間魔法】を所持していることに気付き、なんとかその力を町と大陸中央の発展に結び付けようと動く。
条件付きで転送契約の話が進んだ際には上手く乗せられたと心の中で歓喜していたが、次の国にオークションがあるという事実を把握し、お金が必ず必要になってくることを理解していた主人公が実は途中から乗り気であったことには気づいていない。
お互いビジネスパートナーとして、良好な関係を継続中。


〇ギニエ


・ホレス
ハンターギルド、ギニエ支店のギルドマスター。
いろいろ勘違いし、猫獣人の受付嬢から肉球ビンタを喰らって鼻血出していたちょっと可哀そうな人。
根っからの善人で、身銭を切ってでも町の外に救出目的での依頼を出し、町の問題が解決すれば幼い領主のフォローに全力で回った。


・アシュー・バーナルド
元フレイビル国内ランキング25位の傭兵。
職は不明だが杖を所持する後衛の魔導士で、闇魔法や風魔法を得意としていた。
人心掌握に長け、弟や妹という自身の、そして組織内の特別枠を作ることで、全体の競争力と忠誠心を高めていた。
が、実際は自分しか信用しておらず、平気で弟を切り捨てる残虐性を持ち、金の管理は全て自分自身で行っていた。
主人公はそんな姿に少なからず自分を重ね、嫌悪感を示している。


・アスク・バーナルド
元フレイビル国内ランキング38位の傭兵であり、組織の中で形上の弟を勝ち取った人物。
アシューを崇拝しており、兄のために役立とうと邁進していた。
結果、主人公の実力を判断するための餌に利用され、命を落とす。


・ラッド・ノグマイア
長く地下に監禁されていたノグマイア子爵家の子供。
偽った家族の死因を国へ報告するための傀儡として生かされており、地下では感情が死んだように生気を失っていた。
主人公に救出され、現在はノグマイア家の当主として奮闘中。
主人公も奴隷術を使用するなど相応のサポートはしていたが、町民からのサポートが手厚いのは、ノグマイア家の領地運営が評価されていたからに他ならない。


・アンリ
ノグマイア家で働く給仕係で、まだ幼かったために生かされていた。
ラッドとは幼馴染であり、丁寧な言葉使いではあるも、気を使わないやり取りが行われている。
気になる異性の相手としてお互い意識しているのだが、身分の違いから結びつくかはなんとも言えず。
そんな微妙な関係を、身体中に藁をくっつけた一人の少年が悔しそうに眺めている姿が良く目撃されている。


・サイラル
ノグマイア家の馬小屋で働く少年。
ラッドやアンリとは幼馴染であり、同様に子供だからという理由でアシューの粛清からは逃れていた。
アンリに恋をしているも、アンリはラッドを見ており……
仕える身として応援したい気持ちと、失敗に終わってほしい気持ちと、ごちゃごちゃに混ざりながら二人の様子を日々窺っている。


・ラーベラ
ノグマイア家で働くメイドで、現在はメイド長。
最低限一人は仕事を理解している者が必要という理由から、次々と殺されていく使用人達を前に誓いの言葉を吐かされ生かされた。
バーナルド兄弟を恨みながらもずっと耐えてきたため、今は解放されて精力的に屋敷で仕事をこなしている。




【オルトラン王国】


〇サヌール


・マグナーク
ハンターギルドのサヌール支店、その中にある初級ダンジョンフロアで仕事をしている鑑定師。
特にオークションからの産物には詳しく、希少物品の買取と相場相談も兼業している。
最初だけ身に着けていた異質な鎧(蒼竜の鱗鎧)に強い興味を惹かれ、とってつけたような理由で持ち込まれるおかしな付与付き装備に驚愕。
この子供がおおよそ普通ではないことを理解し、今では一番の興味が主人公自身に変わってきている。 


・アラン
ハンターギルドのサヌール支店、その中にある初級ダンジョンフロアのオークション出品を担当している。
横で仕事をしているマグナークが珍しく興味を示したことから、自然とアランも注目するようになった。
まるで貴族のような金の動かし方をしているが、傲慢な振る舞いはまったく見られない主人公を気に入っている。


・ビクター
転生者マリーの奴隷であり、初級ダンジョンの仕入れ担当をしている男。
マリーの名を出せば誰も彼もが押し黙るということもあり、それが自分の力だと勘違いしていた。
主人公に目を付けられ、現在ではマリーにバレにくい形で飼い殺しにされたまま、マリーの私財を吸収する重要な役割を担っている。


・アジオン
初級ダンジョン内でボス狩りを行っていたパーティのリーダー。
30層に子供が一人ということもあり、かなり強く警戒はしていたが、ボスは奪い合いというダンジョン特有のルールに染まっていたため、主人公の思考と実力を見誤る。
結果、オートヒーリング効果の実験台にされ、治癒されたそばから魔物の攻撃が上書きされていく中、死ぬまでに1時間以上の時間を要したという。


〇ドミア


・クアド
つぶらな瞳が特徴的な犬獣人で、スチア連邦にある貧しい集落の出身。
行商をしながら世界を旅していた期間が長く、物の知識や商品価値には非常に詳しい。
旅の中で偶然見つけた米の地域価格差に目を付け商売を軌道に乗せるも、故意に価格差を生み出し利益を得ていた貴族と商人に目を付けられ潰されかける。
主人公に救われ、ついでに大きな借金を背負わされていたが、本人はまったく悪い気などしておらず、逆にその場限りの関係性で終わらない繋がりを持てたことに感謝していた。
元々が貧しいため、ある物はなんでも売ろうとするくらいに商魂逞しい。


・ベッグ
クアドに買われた奴隷。
元はキウス商会で輸送の仕事をしていたが、野盗に襲われ積み荷を失った責任を取らされ奴隷落ちしていた。
馬車を扱っていたためそれに関連するスキルは備わっており、その大柄な体格もあって同時に買われた奴隷たち17人のボス的な存在になっている。
全員犯罪奴隷ではないため仕事は真面目。ご飯がお腹いっぱい食べられることに喜びを感じている。


・オーラン男爵
オルトラン王国南西部の領主。
田舎ではあるが国内有数の田園地帯であり、流通制限と価格操作を行い利益を貪っていた。
そのためなら邪魔な商人や生産者を殺すことも厭わない性格であったため、主人公に目を付けられ潰されている。
最後は暗闇に閉ざされた蟻の巣の奥地で、三日三晩オートヒーリングにより強制的に生かされながら、身体を喰われ続けるという凄惨な死を遂げている。


・キウス
領主であるオーラン男爵と結託し、流通制限と価格操作を行っていた人物。
国内の主要な町に店を構えるゴールドランクの商人で、特に拠点でもあった田舎町ドミアでの発言権は強い。
他の商会の纏め役でもあり、オーラン男爵の子飼いである傭兵バーシェを使って相場を崩そうとするクアドを潰そうとしていた。
自身が悪に染まっていることを自覚し、ただ家族までは極力巻き込みたくないという思いで一人王都に住んでいた。
商会の在庫や私財はほぼ主人公に奪われたが、想像以上に協力的であったことから、死に方だけは苦しみもない、綺麗な終わり方で死体は遺族に引き渡されている。


・バーシェ
情報を求めてオーラン男爵に飼われていた傭兵。
順位は不明だが国内ランカーであり、槍の扱いに長け、魔物使役を得意とするその実力はAランク相当のハンターに匹敵する。
主人公が護衛につくクアドの商団を潰そうとするも失敗、逆に使役する魔物を皆殺しにされた。
オーラン男爵に辿り着いたあとも協力的であったため、最後は痛みのないあっさりとした死に方をし、仲間と称した魔物と、そして子供だろうと思われる遺骨と一緒に高台の土地で眠っている。


・ナムクリッド・オーラン
オーラン家の長男。
色濃く当主である父親の性格を継いでいるため傲慢不遜。
どのような理由があったとしても貴族である父親でありオーラン家が正しいと思い込んでおり、主人公を悪と断定したことで逆鱗に触れる。
身体を真っ二つにされただけなので、死に方としてはかなり楽な部類。


・アルス・オーラン
オーラン家の次男。
主人公が対話をした中では唯一常識的な思考の持ち主で、家に仕える者達からの信頼も厚い。
主人公との交渉、譲歩により、父親を切り捨てでもオーラン家を守ることを選んだ。
内心ではこの機会を幸運と捉えるほど冷酷な一面も存在するが、まだそのような姿をはっきりと表には出していない。
当主として、ドミアを含む領内の改革を行っている真っ最中。


・ユース・オーラン
オーラン家の三男。
長男と同様、父親の性格に強く影響されており、家族以外を家畜程度にしか捉えていなかった。
当時13歳という年齢から主人公に見逃され、説教されただけで生き延びる。
反省しているのか、していないのか。
今後も生き延びられるかは、監督者となった次男アルス次第。
384話 この節目に、もう一歩を

『アースガルド王国』の建国宣言をした翌日の下台地にて。


「ねぇねぇロキ、一応ここって『国』にはなったんでしょ?」


 皆で朝食後にまったりしていると、カルラがそんな疑問を口にした。


「なったよ、なんも変わらんけど」

「で、あろうな」

「おまえが王様か。いや、これからはロキ王って呼んだ方が良いのか?」


 ロッジからそう言われるも、苦笑いしか出てこない。


「やめてよ気持ち悪い。そもそも秘境集落一つと、北部で作られ始めた開拓村しかないんだよ? まだ『村長』って言われた方がしっくりくるって」

「がははっ、確かにな!」

「しかし、これから人が増えれば政治も必要になろう」

「そんな増えても困っちゃうけどね。でも……うん、そうだな、任命式くらいやっとくか!」

「「「???」」」

「ゼオく~ん、君は我が国の宰相であり大参謀として、あと緊急時は王様代行もお願いしたいのであーる」

「は?」

「カルラく~ん、君は軍事総長に任命するので、カッコいい大将軍になってもらいたいのであーる」

「よく分かんないけど凄そうだね!」

「ロッジく~ん、君は我が国の筆頭鍛冶師として、内務大臣にも就いてもらうのであーる」

「筆頭って、俺だけしかいないが?」

「ジェネく~ん、君は――……薪割り大臣に任命するので、どんどん冬に備えて薪を作ってほしいのであーる」

「まかせて」

「豚君は~、我が国の警護隊長なのであるからして~、どっかで喰われないように注意してほしいのであーる」

「ブー」


 ただでさえやることがいっぱいなのに、狩りして経験値とお金も稼がなきゃならんからな!

 面倒なことはゼオ師匠とアリシアに任せてしまおうと企みながら、今日の本命に移るかと。

 石机の上に手帳を開き――、恐る恐るステータス画面を確認した。


 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:60  スキルポイント残:132 (技能の種により+11)

 魔力量:12142/12142 (704+11438)

 筋力:   6969 (385+6584)
 知力:   5569 (386+4563)  ガルグイユ(+620)
 防御力:  6547 (379+5481)  ヴァラカン(+687) 
 魔法防御力:4488 (379+4109)
 敏捷:   3308 (379+2727)  ウィングドラゴン(+202)
 技術:   9315 (378+8937)
 幸運:   6358 (379+5979)

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》



 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv9 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv6 【暗殺術】Lv7 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv9 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv9 【闘気術】Lv5


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【神聖魔法】Lv3 【呪術魔法】Lv5 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv9 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv8 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv6
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv6 【装飾作成】Lv5
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv4 【飛行】Lv8 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv8 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv8 【忍び足】Lv8 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv9 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv4 【自動書記】Lv3


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv5 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv6 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv3 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv7
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv6 【突進】Lv7 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv7 【招集】Lv7 
【硬質化】Lv6 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【咆哮】Lv6 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv4 【火炎息】Lv6 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv5 【丸かじり】Lv6 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv6 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4 
【不動】Lv6 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv4 【廻水】Lv5 【鏡水】Lv4 【透過】Lv5


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv5 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv3  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv5 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv5 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1


(大丈夫か? 大丈夫だな? よーし大丈夫だ、問題ない)


 自問自答しているのには当然理由があり、例のデバフ疑惑でステータス画面を直接見ることも、心に悪い影響を与えると強く理解していたからだ。

 ゼオとカルラの隠れ家に引き籠っていた時は、見たくても見られないこのステータス画面にどれほど苦しめられたことか。

 でも今は眺めたところで平常心を十分保っていられるのだから、やはり毒が薄らいだというか、俺の精神状態もだいぶ落ち着いてきたなと改めて認識する。


(はぁ~やっと納得できる強さの最低限に入ってきたって感じか?)


 手帳に残していたメモと比較すれば、より実感できる明確な伸び。

 戦争が起きる前よりも、ステータスは2倍か3倍くらいまで跳ね上がっていた。

 ただあれほど倒したというのに『俺自身のレベル』は上がっていないのだから、魔物と違い、『人』から得られているのはスキル経験値のみということもまず確定だろう。

 うーん、目新しいスキルの中でも特に効果が分かりにくいのは――……

 やっぱりこれかな?


【結界魔法】Lv6 指定箇所を中心に『防壁』『封魔』『燐光』『遮蔽』『遮断』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による


「カルラ~、血飲んでるとこ悪いけど、ちょっとお風呂の横辺りに立ってみてよ」

「飲みながらでいい?」

「もちろんオッケー。そうそう、そこら辺。んーじゃ、1発目はこれで~『防壁』」


 唱えたのは、カルラを中心に半径3メートルくらいを意識した防御用結界。

 一番基礎であろうこいつを発動すると、言われてようやく気付ける程度の薄い膜で覆われていることがなんとなく分かる。

 足元に落ちていた小石をカルラに向かってヒョイと投げれば、案の定覆われた膜に当たり、僅かに波打ちながらポトリと落ちた。


「ほう。今度は結界魔法か」

「そうそう、効果が込める魔力次第っぽいから、応用も利きやすいタイプなのかなって思ってさ。カルラ、中にいて違和感は?」

「ん~何も感じないかな~?」

「んじゃ、お風呂から離れるように動いてみてよ」


 すると結界はその場に残ったまま。

 カルラが自ら結界を抜け出たような格好になる。


(なるほど……人などの対象ではなく完全に『座標指定』の固定型。その代わりロッジが入っても効果が持続するくらい出入りは自由か)


 気になったらしいロッジがウロウロしても割れたりしないのだから、そういう解釈でいいのだろう。

 防壁というくらいだから、結界に接触する速度――、あとは攻撃の意志でも関係しているのかな。


「『防壁』は飛来物を含む物理的な攻撃に、『封魔』は魔法による攻撃に、これは文字通りだね。なんか結界内に煌めく粉が舞ってるっぽいけど『燐光』は?」

「持続型の回復効果だな。【回復魔法】ほど特化はしていないが、傷や痛みだけでなく精神的な回復効果もあるとされている」

「へ~『回復』っていうよりは『癒し』って感じか。気持ちいいの?」


 そう問えば、結界の中で酒を飲んでいたロッジが答えてくれた。


「日の光に当たって眠くなるような感じだなこりゃ」

「んーロッジの場合は酔っぱらってるから眠い説もありそうだけど……もしかしたら睡眠デバフがあるかもって感じね~了解。で、『遮蔽』は――」

「すっごいよー! ロキも師匠も見えなくなったよ!」


 そう言いながらカルラは、結界内にいる俺達二人とはまったく別の方向に向かって話し掛けていた。


「"対象の姿を隠す効果"か。ただ俺はゼオが見えているわけだから、結界内にいる者同士だと問題なく認識できるわけね」

「効果は結界内にいる個人ではなく、結界そのものにあるからな。【魔力感知】や【気配察知】を使えばすぐに看破されるから、【隠蔽】が弱い者もいるなら、相応に魔力を込めた『遮断』と同時に使用することになる」

「ってことは、『遮断』が範囲型の【隠蔽】効果を齎すわけか……って、レベル5くらいを想定しただけでもかなり魔力消費エグいけど」

「効果を重く、そして重複させるほど魔力消費が跳ね上がるのは【結界魔法】の特徴だ。身を隠すより『物』を隠したい時に使うか、戦闘時に『防壁』『封魔』か『強化』の広範囲単体使用で、全体の守りか火力を上げるのが基本だな」

「ふむふむ、って、まだ『強化』は使えないし」

「結界範囲を自分中心ではなく、指定箇所にできているのならばもうすぐだ。たぶん次のレベルで覚えるだろう」

「あーそういえば、レベル1の時は範囲が自分中心だけだった気もするね」


 その後も物知り博士のゼオ師匠に確認しながら、目ぼしい新規取得スキルを実験していき、分かったことを手帳に纏めていく。



【呪術魔法】Lv5 魔力消費150未満の呪術魔法を発動することが可能

 これはゼオもあまり得意じゃないようで、以前教わった部分石化解除のほか、デバフ系効果を確率で蓄積させるということくらいしか分かっていないらしい。

 今回のファニーファニー戦で、戦闘中の強者に睡眠や石化を狙うのは相当しんどいことが分かったので、たぶんデバフの解除目的くらいでしか使う用途は無さそうである。

 ちなみに衣類に埋もれたままの石像2体は、スキルを使用してもまったく石化解除されなかった。



【精霊魔法】Lv4 広範囲の『土水風火』属性精霊を一時的に使役し、魔法を行使することが可能になる

 属性が限定されているのは、レベル上昇ごとに扱える属性が1つずつ増えていくらしく、ゼオは闇までの基本8属性全てに加え、精霊を一つの生体として一時的に顕現させることもできるらしい。

 そんな話を聞くだけで、きっと全盛期は2位のバリーよりも遥かに強かったんだろうな~と妄想が止まらなくなってしまった。

 ちなみに副次的な効果で、発動しようと魔力を込めれば精霊が反応するため、その密度に応じて視界が対象属性の色に染まるのだそう。

 危ないからこんなところで試すなと怒られたので、これはどこかでコソッと練習しようと思う。



【多重発動】Lv2 属性に関わらず、発動待機中にもう2種の魔法を発動することが可能になる 常時発動型 魔力消費0

 扱いやすそうなスキル。

 レベル2であれば合計3つの魔法を溜めて同時に発動できるので、いつかは欲しい【合成魔法】っぽいことも一応できるようになる。

 難点はその準備に少し時間と手間がかかることくらいか。



【魅了】Lv4 対象の心を惹きつけ、興味と好意を持たせる 異性に対してのみ有効 多重発動不可 効果時間4時間 魔力消費40

 耐性が存在している以上は確率による成功なのだろうけど、異性限定のためここでは試せず。

 もちろん後が怖くて、上台地でもこんなスキル試せないし、使いどころがあるとはあまり思えない。

 時間や性別が限定されている分、【奴隷術】よりも成功した後の応用は利きそうだけどね。



【遠話】Lv4  範囲内の特定対象に直接声を届ける 範囲半径20000メートル 効果時間1分 魔力消費10

 これもバリーが持っていたかなり嬉しいスキル。

 範囲の広さからも分かる通り、対象を目視せずとも範囲内にいれば発動可能で、その声は一方的に相手の目の前まで届けられる。

 注意点は頭の中に直接届くわけじゃないので、秘密基地からロッジに向かって喋った言葉を、横にいたカルラやジェネも普通に聞けるという現象が起きていた。

 用途に合わせて声量の調整は必要ってことだな。



【縮地】Lv5 前方に向かって能力値250%の速度で距離を詰める 移動範囲は任意指定 最大距離10メートル 消費魔力25

 やっぱりあったかという気持ちと共に、自分が強くなったようにも感じられるスキル。

 しかしよくよく見比べれば、魔物専用スキル【突進】の最大距離数が長いバージョンであることも分かる。

 いつの間にか取れていたけど、説明からロブザレフとかいう、やたら速くて強い爺さんが持っていたであろうことはまず間違いない。



【視界共有】Lv4 指定した対象に触れながら発動することで、一定時間視界を共有する 効果時間24分 多重発動不可 魔力消費30

 誰が持ってたのか知らんけど、かなり面白いスキル。

 意識すればオンオフの切り替え可能で、対象の相手に憑依したかの如く見ている視界を共有することができる。

 ただ視界や意識を奪うことはないので、映す場面はその対象任せ。

 試したらジェネにも適用できた上に、どうやら共有されていることは分からないようなので、秒数の短い【透過】でも、記憶はそのまま残りそうな【魅了】でもなく。

 この【視界共有】こそが、風呂覗き用の最強スキルなのではないかと思っている。

 記憶を覗かれたら、俺は死ぬと思うが。



『毒』の疑惑がある【獣血】はゼオも一切分からなかったようだけど、目ぼしいスキルの情報がこれだけ検証できたのなら大満足。

 そう思って手帳を閉じようとした時、ゼオが真面目な表情で問い掛けてきた。


「ロキ、前々から気になっていたことだが、スキルの取得速度が異常に速いのは、何か特別な方法でもあるのか?」

「あー……」


 ゼオの目は、元々強者であったが故の好奇心ってところかな。

 自分も真似ができるなら――、そんな驚きと期待が混ざったような表情をしている。


 いつかは明かそうと思っていたし、もういつでだって明かしていいとも思っていた。

 ならばそろそろ頃合い。

 国を興した節目に、ここでもう一歩を踏み出そう。


「これも異世界人だからっていう理由になっちゃうんだけど、この世界に来た時から、倒した対象の持つ経験を一部得られるんだよね」

「倒したモノ……それはつまり、魔物ではなく『人』も、ということか?」

「そういうこと。そんな話、聞いたことないでしょ?」


 そう問いながらカルラやロッジにも視線を向けると、二人はポカーンと口を開けたまま。

 宇宙人を見たような顔をして固まっていた。


「あるわけがない。つまり先ほどの【獣血】とやらも、ロキが手に入れたということか」

「うん。もしかしたら『毒』になるスキルの『経験』も得ちゃった可能性があるから、どんな内容か分かるなら知りたかったんだよね」

「我は魔人だからな……獣人、もしくは【獣血】というくらいだから血の濃さを表しているのだろうし、獣の特徴が強く出ている者に当たった方が良いのではないか?」


 そう言われた直後に、ふと脳裏を過ったのはゴリラ伯爵の顔。

 あの人は人間だと思うけど、異彩を放つ存在としてはファニーファニーに近いモノがある。

 あの時は覗けなかったが、貴族としての情報があってもおかしくないし、どうせ様子見と治療も兼ねた挨拶に行かないといけないのだから、そのお礼ついでで聞いてみるかな。

 そんなことを考えていると、我に返ったカルラが横で騒ぎ始めていた。


「ロキのそれってズルくない!?」

「ん~でもその代わり、俺だけ職業加護を受けたくても一切受けられないんだよね」

「そんなに重要なの?」

「そりゃ重要だろ。選べば職に関連するスキルのレベルがいくつも上がるんだぞ? 鍛冶職なんて選ぶかどうかで作業効率が倍くらい違う」

「ロッジの上級鍛冶師は、たしか上昇補正がレベル+2でしょ? そうなるとスキルレベルが高くなってきた時ほど恩恵が大きいよね」


 そう伝えつつ、収納から取り出したのは『転職しよう 職業一覧 改訂版』の本。

 興味があるなら、少し勉強してみたらいい。

 その程度のつもりだったが――、真っ先に手を伸ばしたのは、意外にもカルラではなくゼオだった。


「ふむ……我は宰相であり大参謀だからな。興味はないが、勉強くらいしておくか。興味はないが」


 ブツブツと。

 独り言を呟きながらページを捲れば、カルラも無言のままゼオのすぐ横に座って一緒に眺め始める。

 そんな姿に笑みを零しつつ、干し肉を齧っていたロッジに問い掛けた。

 先ほどスキルを一通り眺めていて初めて気付いた、かなり重要であろう要素。


「ねぇロッジ。前にベザートの町で【鍛冶】スキルがレベル10になった時、何か《《特別なスキル》》が解放されなかった?」
385話 特別なスキル

 確証があったわけじゃない。

 ただこのスキルの解放条件が整ったのは間違いなくこの戦争中。

 ひたすらスキル獲得のログが流れ続けていた、あの時で間違いないと思う。

 そして、他にも解放だけされているスキルはあったが、このスキル名なら、たぶん……


「あぁ、【転換】が解放されたって、頭ん中で喋った、とは違うな……なんかこう、"浮かんだ"のは覚えてる」

「やっぱりか。祈祷が終わった後、首傾げながら変な顔してたもんね」

「そりゃそうだろ。あんなこと初めてだし、本当なのかどうかも分からなかったからな」

「言ってくれれば良かったのに~」


 そう言いながらも、これでまた一つ、謎だった部分が解けたなと一人納得する。

 この世界の人達が『女神様への祈祷』で新しくスキル取得する時は大変だ。

 自然習得なら知らずとも勝手に経験値が上がって覚えるのだから問題ないが、新たにスキルを願うとなれば、そのスキルの存在自体を事前に知らなければ何も話は進まない。

 親なり周囲の人間なり、広く周知されている基礎的なスキルならば情報を得るのもそう難しいことではないだろうが、希少スキルや取得条件の存在するようなスキルはどうやってその存在を掴んでいるのだろうと、些か疑問に感じていた。

 かつて教会でスキルの相談をしている人もいたので、黒曜板で多くのスキルを目にし、『聖書』と言いながら叡智の切れ端を集めているらしい教会がアドバイスしてくれているんだろうと思っていたけど……

 そうかそうか、少なくとも取得条件が整った場合は、頭に浮かぶという形で存在を知ることができていたわけか。


「ゼオ、読書中ごめん。【転換】ってスキルはどういうモノか分かる?」

「いや……ロッジと同じだ。我も記憶を遡れば、そのスキルの知らせを受けた記憶はあるが、習得には至っていないはずだ」

「はず?」

「我が【隠蔽】レベル10になる前までには、少なくとも習得していなかったからな」

「んん? あ――……もしかして、教会を利用しない亜人の人達って、お互いに【心眼】で所持スキル確認し合ってたの?」

「うむ。視ることに長けた長老や纏め役が、どの亜人種族にも一人か二人はいるものだ。それでも覗くことのできない者が現れれば、今度はその者が視る者となり、ゆく先々は長老であり纏め役となる」

「へ~そこは理に適ってるね」


【心眼】レベル10で覗けないのは【隠蔽】レベル10に到達した者のみであり、そこまでいけば強者である可能性が極めて高い。

 そのような者が次代の長として視る側に回り、数をこなすことで【心眼】のスキルレベルを上げながら、また次の強者へと繋げていくわけか。

 しかし、そのようなサイクルが成り立つのは、自然上昇でカンストまで持っていけるような寿命の長い種族だからこそ。

 それに【転換】をゼオや周囲が習得できていない様子から、自然習得が絶望的なスキルだってあるのかもしれない。

 非効率であることは疑いようもなく、強くあろうとする向上心があるのに、妙な宗教観や隔たりで地力を掴めず、本領を発揮できないなんて勿体ないにも程があるな。


(ゼオやカルラのためにも、できる限り早めになんとかした方がいい部分か……)


 はぁ、まいったな。

 狩りに行きたいのに、行く余裕がまったくない。

 まぁフェイスアーマーはぶった斬られたし、どうやっても一度付けた【付与】が外せないので、新たに装備の作り直しは必要なのだ。

 動くなら今が丁度良いかと、出かける前にロッジへ伝える。


「それじゃ俺は準備をしたらいろいろ調整とかで出かけてくるから、一通り装備の件お願いね」

「おう分かった。あぁ、頼まれていた武器はもう出来上がっているから、ソイツだけは渡しておくか」



 その後、一度秘密基地に戻った俺は、なんとなく内容を予測できるこのスキルを眺め、頭の中で念じる。


(【転換】をレベル1に)


『【転換】Lv1を取得しました』


 そしてすぐに、詳細説明を確認して納得する。


【転換】Lv1 最大レベルまで上がったスキルの余剰経験値を蓄え、指定スキルの経験値に転換することが可能になる 転換率2% 常時発動型 魔力消費0


「やっぱりそうなるよね。ボーナス補正は魔力Ⅱで転換率2%のタブ付きか……」


 新しいタブを開くと、そこには大きな水がめのような絵が描かれており、上には『0』という数字も表示されていた。

 独自のステータス画面を見ている俺だけの表示法なのかもしれないけど、見て一発で内容を理解できるのは有難い。

 水がめということは、溜められる経験値に限界もあるのだろう。

 となると……


「説明文を見る限りは大丈夫そうだけど、指定スキルに選択の制限があるのかどうか、だな」


 もしなければ、俺にとってはこのスキルこそが最強への一手になることは間違いない。

 念のために様子を見つつ、問題がないようならこのスキルを最優先してレベル10まで持っていく。

 そうすればダンジョン産『技能の種』の必要数も大幅に減り、今後がかなり楽になるはずだ。


「ふふ、まだまだ先は長いけど、"ルート"だけはだいぶ見えてきたな……」


 一人そう呟きながら、近所の象を数体狩った後にマルタへ飛んだ。
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誤字脱字報告、毎度毎度ありがとうございます。
それとちょくちょく感想欄に地図が欲しいってありますけど、活動報告に載せている物語進行に合わせた地図じゃダメってことなんだろうか…?
とりあえず気付いていなかった人は、地図はそちらに公開しているので見てみてください。
386話 隣人として

 大量の木材や石材が運ばれ、多くの箇所で炊き出しの湯気が宙を漂うマルタの街。

 復興の進む様子を眺めながら案内された方面へ向かうと、ようやく見張りの兵が並び立つ場所に到達する。

 厳重な様子からしてもまずここだろう。


「こんにちは。途中で見覚えのある兵士の人から、伯爵はこちらだと聞いたので会いに来たんですけど」

「何用か! 名を名乗れ!」

「ロキと言います。治療で来たと言えば、すぐ伝わるはずですので」

「子供が、治療だと……?」


 こんなことがあれば警戒するのも当然だろうけど、やっぱり装備を身に着けていないとすぐ舐められるなぁ。

 久々にサラマンダーレザーの鎧でも引っ張り出すか?

 いやいやしかし、あれは夏場なんて特に地獄の蒸し風呂状態……

 そんなことを考えていると、付近を見張っていた兵の一人が俺に気付き、慌てた様子で地下へと続く階段に走っていく。

 すると出てきたのは見覚えのある老人。


「あ、モーガスさん。治療とあと、挨拶もしたくて来ましたよ」

「ロ、ロキ殿!? い、いえ、もうロキ王とお呼びした方がよろしかったですね。お待たせしてしまったこと、深くお詫び――」


 あれ……なんでまだヘディン王に伝えてからそう時間も経っていないのに、モーガスさんが知ってんの?

 急にしゃがみだすし、この恭しい感じが庶民にはキツいんだが。


「えっと、普通でいいですからね。前くらいの感じで……」


 説得しながら地下へ続く階段を下りると、最低限といった光量の薄暗い部屋の中で、片膝を突いて頭を下げる複数の人影と、奥には両脇を支えられながら、周囲と同じ姿勢を取ろうとするゴリラ伯爵の姿が。

 これはマズい……

 大事になり過ぎている気がする。


「話は聞いております。我らが王は―――」

「ストーップ! ストップストップストーップ!」


 犯人はヘディン王なのか、それともシラグ宰相なのか。

 いったいどんな伝え方をしたらこんな話になるんだよ!


「僕は名前を貸しただけで、ラグリースの王様になんてなったつもりはないですからね? ただの隣人ですよ隣人! その堅苦しい感じはほんと勘弁してください」

「いや、しかし……属国となりて庇護を得ると、我が国の宰相から話は聞いておりますゆえ」

「それはまぁ、同意したので間違っちゃいませんけど……他国からちょっかいを出されないようにという意味でヘディン王が属国を望んだだけで、実際は同盟国のようなものですよ? 僕、ラグリースに何もしませんし」

「何も……? 財政や軍事、それに貴族家の領地差配や高官の選定など、宗主国となればいくらでも手を加えることができるのに、ですか?」

「いやいや、だからやりませんって。そんなの面倒ですし」

「め、面倒……いくらでも、我が国から益を搾り取れるのにか……」

「そんなことしなくちゃいけないほど、僕は困っていませんので」


 言いながら、未だ困惑しているゴリラ伯爵の下に向かい、服を捲って治療を開始する。


『皮膚の、修復を』


 前よりは少しだけ良くなったようにも見えるが、それでも相変わらずボコボコに抉れて酷い有様だ。

 よくこんなんで動いていられるなと感心してしまう。


「同盟と言っても戦力は言うに及ばず、強みであった食料さえ自国民に行き渡るのかも怪しいところ。にも拘わらずロキ殿にとって――、新たに建国したと聞く『アースガルド王国』にとって、ラグリースとの関係にどんな利点があるというのだ?」

「無いんじゃないですか?」

「は? で、ではなぜ!?」


 どうしたんだろう。

 痛みはないはずなのに顔を歪め、凄い剣幕で疑問をぶつけてくる。

 言われて真剣に考えてはみるも――、うん。

 やっぱり何か強い利点があるとは思えない。


「正直に言えば、ヴァルツ王家というゴミのせいでラグリースが困ってて、マルタやリプサム、王都にも知り合いがいて……だから、自分の名前で抑止が働くならそれでいいんじゃないって、そのくらいの考えなんですよね」

「……」

「良くも悪くもその程度だから、僕は特別見返りを求めるつもりもないですし、逆に大きく関与するつもりもないんですよ。あぁでも、西のジュロイはやり方が気に食わないんで、見せしめに何かするとは思いますけど」

「そうか……」


 フッ、と。

 治療をしていたからこそ、強張っていたゴリラ伯爵の身体が急に緩んだことを理解した。

 それもそうか。

 ラグリースでも有力な貴族なのだろうから、いきなり自国が属国へ成り下がり、その原因と思われる相手が挨拶に来たとなれば普通は警戒もする。

 そして俺はそんな誤解を解くために、ここへ挨拶に来ているんだった。


「最初にお伝えしたように、僕は隣人としてここへ挨拶に来たんです。南部のベザートが戦時中に逃げ場がなくなり、パルメラの中へ避難したという話は聞いていますか?」

「うむ。その他にも近隣の潰された町や村、あとは西側からの避難民も一部加わっていると聞いている」

「その通りです。避難している人達は家どころか全てを失った人達も多いし、畑は踏み荒らされて復興にも時間が掛かるしで、全員かは分かりませんけどそのままパルメラの中に町を作って住むって話になったんですよ」

「その者達を守るために国を興したと」

「ベザートは個人的に思い入れのある町でしたから。なので見方によっては領民を奪ったような格好になっちゃいましたけど、隣国であり新ベザートから一番近いのはマルタなので、これからよろしくお願いします」


 そう言って右手を差し出すと、ゴツゴツとしたバカでかい両手が覆い被さるように俺の手を包む。


「何を言うか。我らにできたことなど精々が各町村に避難を呼びかける程度。ベザートや周辺に住む者達を直接助ける術は残されていなかった。より多くの民がロキ殿の助けによって生き残れたというのなら、感謝こそすれ、恨むなどあるはずもない」

「そう言ってもらえると助かりますよ。場所はそう離れていないのですが、のちほど簡易の地図でも作成して、新しい町の場所はお伝えします。間違いなくマルタにとっても意味のある交易路になると思いますから、ぜひ落ち着いたら立ち寄ってください」

「ほう……」


 その後はゴリラ伯爵の治療も終わり、木板に簡易的な地図を描いてあげれば、周囲にいた人達もすぐに理解を示してくれる。

 セイル川沿いにパルメラを少し南下するって言えば、迷う要素はゼロだもんね。

 一瞬、魔物の巣を通るのかという心配の声も囁かれたが、言うても生息密度が他よりも断然低いFランク狩場。

 魔物にはそこまで遭遇しないとアルバさんやミズルさんも言っていたので、木材を調達するついででもう少し道幅を広げてやればより安心できるだろう。


「心より感謝する。本当にここまでの傷を治せるとはな……これまでのことも含め、いったい何を礼に差し出せば釣り合いが取れるのか、皆目見当もつかん」

「これくらいは挨拶のついでですから。それに、伯爵は今そんな状況でもないでしょう」

「しかし……」


 この場所だって元はゴリラ伯爵の屋敷があった場所らしく、建物は周囲を含め、この隠された地下以外全てが灰とガレキの山に変わっていた。

 一応、この奥には宝物を保管する部屋もあるらしいが……

 俺の求める『情報』はヘディン王がお礼にくれると言っているので、今ゴリラ伯爵から貰ったところで重複だらけになる可能性があるし、かと言って金目の物を、こんなボロボロな状況に陥っている貧乏伯爵から毟り取るなど極悪人にも程がある。

 求めていない俺に無理やり渡すくらいなら、その金を街の復興にでも充てた方が遥かにマシだ。

 しかし伯爵の顔を見ていると、もう少しこちらから求めなければこの話が終わりそうもない。

 ならば――。


「それでは2つほど。まず僕が国を興して王になったと、なんでもう知ってるんですか? ヘディン王には昨日伝えたばかりですし、さすがに早過ぎると思うんですけど……」

「あぁ、そのことか。ならば原因はコイツだ」


 そう言いながらゴリラ伯爵が視線を向けた先には、一見すればフライングディスクのような……金属製の皿に近い何かが土台に乗せられ立てかけられていた。

 その形状とかつて読んだ書物から答えに予想が付くも、そのまま伯爵は言葉を続ける。


「私は他の貴族連中と折り合いが悪くてな。あまりにも王都へ出向かぬものだから、陛下が古代の通信魔道具を寄こしたのだ」

「そんな魔道具があると、貰ったラグリースの史書でも見かけたような気がしますね」

「戦時でなければそう必要とはしないものだ。鳴り響いても嘆かわしい用件であることが多いし、ロキ殿が引き取ってくれるなら喜んで譲るが?」

「えっ……いや、いやいやいや! 僕も同じことになりそうなので、少なくとも今は遠慮しておきます」

「くははっ! 相手がロキ殿であれば、渡しても咎められぬほどの十分な名目が立つと思ったのだがな」


 あっぶねー……

 サラッと聞くだけだとかなり便利なアイテムに思えるけど、用途を考えれば対となるもう一つか、もしくは目の前のフライングディスクが一方的な受信機の可能性もあるわけだ。

 受け取ったら最後、ラグリースが困る度に鳴り響くお助け電話みたいな存在になってもストレスが溜まるだけだし、自国のことは自国でやってくれって話である。

 うん、やっぱり本命はこちらだな。


「んん! それじゃ2つ目を。こちらは本格的なお願いでして、落ち着いてからでいいので、新しいベザートに繋がる立派な街道を作ってくれませんか? もちろんパルメラの入り口まででいいですから」


 今何かしらの物を貰うよりも、たぶん、今後を考えれば『道』が一番利益を生む。

 ベザートの人達が豊かに生きていくためにも、ラグリースを含む外との交易や往来は必須。

 にも拘わらず現状では通じる道がなく、ほぼ孤立と言ってもいい状況になってしまっている。

 俺が作ろうにも他国となれば、勝手に道を作り始めるのもおかしな話だし、そもそも俺はそんな作業を絶対にやりたくない。

 ならここは伯爵に、領主としての仕事をしてもらおう。

 それが一番、皆が幸せになれる気がする。


「その程度でいいのか?」

「大変だとおもいますよ? 馬車が余裕をもって擦れ違えるような、ちゃんとした道を作ってほしいですからね」

「そうか……ならば隣国『アースガルド王国』へ続く初めての道となるのだ。人が生き延びるための復興が終わり次第、すぐに作業へ取り掛かるとしよう。特にマルタの南はだいぶ街道が抉れてしまったからな」

「それ、犯人は僕だけじゃなく、お二人にも責任がありますからね……」

「ふはは、違いない。俺もこうして身体が完全に回復したのだ。久しぶりに土盛りの作業でもやるか!」

「か、閣下!? もうハンターの立場は終わったのですから、今はそれ以上にやるべきことを……!」


 目的の挨拶を済ませ、これでマルタの用事も一先ずは終わり。

 まだまだやることはいっぱいあるのだ。

 次は――、そろそろクアド達を迎えにいくかな?

 そう思い、一度外に出てからギニエへ飛んだ。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「閣下、ロキ殿が、外で見たこともない巨大な魔物の死体を10体ほど置いていったらしいです」

「魔物の死体?」

「あまり美味しくはないけど、食べられるお肉が多いから皆で食べてと」

「そうか……やはり、あの少年は変わらんな」

「そうですね。属国と聞いた時は肝を冷やしましたが、こちらの杞憂だったようです」

「あぁ。先ほどの礼の内容を聞いても、私欲で動いていないことがありありと伝わる。ならば、これで良かったのかもしれん」

「恐れながら、今の国情を考えれば私はこれが最善であり幸運な選択であったと、そのように愚考しております」


 その言葉を聞き、レイモンド伯爵はゆっくりと天井を見上げる。

 周囲が欲に塗れた貴族ばかりであるからこそ、少年の行動は動機が掴めず、理解に苦しむ部分も存在する。

 でもそれは、決して周囲に害を振りまくものではなく。

 誰かを助け、誰かを救う正義の心は、あの時と何も変わっていないように思えた。

 ただ、力が――、何かあった時、対処のしようがないほどの力が備わっているだけ。

 悪が嫌いだから断罪する。

 その言葉をそのままに、貴族どころか王族までもがこの世から消え、瞬く間に一国の歴史が幕を閉じたことをどう受け止めるべきか。

 それに――。


『人の大勢いる場で聞くものではないと思いましたので、明日の晩に改めてこちらへ伺います。礼を強請るようですみませんが、その時【獣血】というスキルについてどうか教えてください』


 新しい町の地図と一緒に、周囲へ悟られないように渡されたもう1枚の木板。

 そこに記された文字を見て、レイモンド伯爵は細く息を吐いた。
387話 クアド商会

「おぉ! ここが俺っちの新しい職場――……って、空地ぃ!?」


 ここはパルメラ内部の開拓地。

 ギニエまで迎えに行き、数回に分けて18人全員を引っ張ってきたら、早速煩いクアドが頭を抱えながら横で騒ぐ。


「皆は知らなかったかもしれないけど、ヴァルツとラグリースっていう国が、ここ20日くらい戦争してたんだよね」

「マジかよ!? ヴァルツって俺達がいた所のすぐ横じゃねーか!」

「ってことは、戦争跡地……どっちの国になるっすか?」

「ここはその戦争から避難した人達の開拓村みたいなもんだよ。ちなみに場所はパルメラ大森林の中だから、アースガルドっていう俺が興した国の領土内になる」

「んんん?」

「ボス、すまんよく聞こえなかった。今なんて言った?」

「だからどっちの国でもないんだって。避難した先は領土主張する国がなかったから、脅しをかける意味で異世界人の俺が国を興したの。兵すらいない場所でこのまま暮らすってなったら危ないでしょ?」

「い、いせ、異世界人!?」

「そんでもって、王様!?」

「「「「しぇ、しぇしぇしぇーーーーッッ!!?」」」」


 相変わらず煩いな、この連中は……

 って思ったけど、異世界人であることはまだ伝えてなかったかもしれない。


「とりあえずお店の準備をするから、皆はそうだな……挨拶がてら、ここにいる人達の家造りでも手伝ってあげてよ。ギニエの復興作業でもう慣れたでしょ?」


 呆然としている皆を後目に、俺は早速準備開始。

 まずはヤーゴフさんを見つけ、ある程度伝えていた計画を実行に移すことを伝える。


「場所は川を挟んだ向かい側か?」

「ですね。これで魔物が川を渡って襲ってくる心配もかなり減ると思いますから」


 女神様達が空地にしてくれたのは、川の東側のみだからな。

 西側方面は手付かずだったので、ここにデカい建物を造れば必然的に魔物の襲撃を妨害できる。

 魔力残は――、まだ2000弱か。

 さすがにこの人数を運んでくると魔力をゴッソリ持っていかれるが、それでもこのくらい残っているなら拠点の倉庫くらいは造れるだろう。

 まずは……


『貫け、風刃』


 ズババババババババ―――………ッ!


 唱えたのは【風魔法】レベル9。

 しかし【短縮詠唱】がレベル8まで上昇しているので、前方180度の半円を一気に裂く巨大な風刃をイメージしつつも、言葉にする節は2つだけで済んでしまう。

 うーん、だいぶ前よりも楽になったけど、それでもやっぱり【無詠唱】は欲しいなぁ……

 途中の盛り上がった大地もお構いなしに切り裂いていき、かなり広範囲の伐採が終了したら次の工程だ。


(イメージは、川よりこちら側の切り株や大きな岩を、全部地表に浮かす感じかな)


 念のために奥の方まで飛び、そこで来る前に数度練習した【精霊魔法】を唱える。


『精霊よ、大地を、耕せ』


 すると、一瞬だけ視界――というより、空気が反応を示すように茶色く染まり、地面が蠢く。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ………


 ゼオには前提となる範囲が広大でも、多少の制御は可能だと聞いていた。

 なんか、川の向こうから僅かに悲鳴のようなモノも聞こえるが……

 地面が揺れているわけではないのだから、たぶん大丈夫だろう。

 よしよし。

 これで拠点の倉庫よりも10倍くらいは広い敷地を確保できたが、問題は倉庫をどうするかだな。

 中で働くのはクアドやベッグ達なのだから、身体能力とスキルでなんとかしろよという、拠点風の気合が入り過ぎた倉庫では上階が全て死ぬことになる。

 誰でも働ける職場となると、ここで高さを追求するのはご法度。

 幸い土地はいくらでもあり、木材もまだまだ必要なのだから、ゆとりある1階建てのお店を目指した方が良さそうかな。

 歩きながらそこら中に転がる木や岩を簡単に集め、次々と収納していきながらもそんなことを考えつつ。


『精霊よ、大地を、平坦に』


 綺麗になったら、柔らかくなっていた大地を均して一面が完了。

 これをあと1回繰り返し、川の反対側にある開拓村と同程度の空地を完成させる。

 うーん……時間が掛かり過ぎだな。

【重力魔法】があれば、より効率的になるのにと思うと、早く欲しくて堪らない。

 まぁいずれ必ずゲットするから、それはいいとして――


『石の床を、生成』


 厚さは30㎝ほど、今できる最大規模の平坦な石を生み出せば、概ね想定通りだな。

 以前よりも遥かに大きい石の床が生まれ、茶色い大地を灰色に染めていく。

 あとは巨大なモノも保管できるよう、10メートル程度の高さは確保しつつも適度に支柱を置き、拠点同様上部に換気用の隙間を作っておけば、これで広大な倉庫の完成だ。

 中の薄暗さも、拠点倉庫に大量の光源魔道具が転がっているので、あるモノだけでどうとでもなるだろう。

 あとは川を渡れる橋――、というより硬い石の板をそれっぽく造ってーっと。

 まるで日本にもあった海外の大型スーパーだなと思いながら開拓村に移動すれば、全員が口を開けたまま、手を止めこちらを見つめていた。

 時間をあまり掛けたくなかったのだから、多少派手になるのはしょうがない。


「ロキさ~ん! マジっすか! マジっすか! マジっすかー!? あの巨大なのが俺っちの働く店っすか!?」

「そうだよ。ちなみに名前は『クアド商会』でいくからね」

「えぇ!? なんでまた……金出してるのロキさんなんだから、『ロキ商会』じゃないんすか?」

「いいのいいの。俺は様々なモノを仕入れてくるというだけで、商人になるつもりはないからさ。クアドが商売担当の仲間なんだから、自分の城だと思って頑張ってよ」

「ッズホァ!!? 自分の、城……あんな巨大な、倉庫が……自分の……感動で、前が見えねーっす……」

「まだ中身は空っぽなんだから、そんなんじゃ売り物持ってきた時にビビッて死んじゃうよ?」

「ッ!?」

「あ、アマンダさーん、川の向こうでゲットしてきた資材、奥の資材置き場に纏めて放出しておきますからね」

「え、えぇ……頼もしいのは間違いないんだけど、あなた、ますますおかしな存在になってきてるわね……」

「ん~まだまだこんなもんじゃないですよ? やっとスタートラインに立てたくらいなんですから」

「……」

「あ、そうだちょっと大事な話がありまして、ヤーゴフさんと、まだお会いしたことのない町長さんになるのかな? 町の中心になっている方を集めてほしいんですよ」

「いいわよ。奥の資材置き場でいいの?」

「はい。その間に資材の整理しておきますんで」


 というかこの量は、整理しないと置き場がない。

 うーむ。

 これは開拓村の方も、もう少し安全を確保するために土地を広げた方が良いかもしれないな。

 そう思って資材放出後。

 クアドとベッグ達にも手伝ってもらいながら、また森の開拓作業に精を出していると、背後から声を掛けられた。


「ロキ君、連れてきたわよ」

「あ、わざわざすみません」


 振り返れば、ヤーゴフさんとアマンダさんに挟まれながら立っている、杖を突いた初老の男性。

 頭はツルツルで髭はモジャモジャ、逆さから見ても顔に見えそうなこの爺さんがベザートの町長さんか。


「初めまして、じゃな。ワシがベザートの町長をやっておったダンゲじゃ。その、本当に言葉遣いはこんなものでよいのか?」

「初めまして、ロキです。もちろん構いませんよ。畏まられるのは苦手なんで」

「そうか。王様であろうというのに、なんだか調子が狂うの」

「だから言っただろう。よくいる貴族連中や役人とは違うと」


 その言葉に苦笑いしつつ、こちらが連れてきた者達も紹介する。


「向かって左に立つのが、川の向こうに建てたクアド商会の責任者、クアドです」

「ここで商売させてもらうクアドっす! スチア連邦出身の獣人っす! 皆さんの役に立てるよう頑張るんでよろしくお願いしまっす!」

「次いで右側の大きい人が、従業員を纏めているベッグです」

「ベッグだ。俺を含む18人があの倉庫内で売り物の振り分けや品出しなんかをすることになる。デカいモノは俺が馬車を使って家まで運ぶ予定だから、なんかあったら遠慮なく言ってくれ」

「で、僕があの倉庫に売り物を補充する係ですね」

「ちなみに、あそこでは何を売るつもりじゃ?」


 町長からそう問われ、少し考えるも……はっきりとした答えは出てこない。


「なんでも、ですかね。僕はハンターと傭兵をどちらもやっているので、魔物を倒した時の素材や食材なんかもあれば、様々な悪党を殲滅した時の戦利品なんかも売り物になります。そちらは日用品から高級なモノまで様々ですかね」

「ほう。この何もない状況であればそいつは助かるの」

「しかし、元から商売をしていた連中にとっては売り物が被る可能性もある。やむを得ないとは言え、何か考えはあるのか?」

「それもあって今回はクアドだけでなく、ベッグも紹介させてもらいました。何か特定の品を売り続けるというわけでもないので、完全に売り物が被るのはパイサーさんと魔石屋のお姉さんくらいかなと思っていますが……必要があれば雇用し、こちらで一緒に働いてもらうことも考えています。レザーなどの素材や鉱物もかなり大量にありますから、加工や裁縫など、得意な部分をそのまま活かしつつ生産側に回ってもらってもいいでしょうしね」

「なるほど。パイサーならそれで納得するだろうな」

「でも20人近く働き手がいるのに、人を雇用できるほど物は売れるの? 言っちゃなんだけど、皆逃げるようにここへ来たんだからお金ないわよ?」


 そりゃそうだろうなぁ……

 おまけに今は最低限の生活基盤を整えようとしている段階で、仕事をする環境はまったく出来上がっていない。


「どこも似たり寄ったりですから少し時間は掛かるでしょうけど、それでも大丈夫だと思いますよ。先ほどマルタに行って領主に挨拶してきましたから。パルメラの入り口まで、街道を造ってもらうことも約束してもらっています」

「人の出入りが生まれるようには、既に手を打っているわけか」

「そうしないと、とてもベザートの人達だけで消化できる量じゃありませんから。それに魔物の素材はランクに関係なく、この辺りでは取れないモノばかりが並ぶので、認知されれば確実に売れると思っています。もちろんヤーゴフさんがここにハンターギルドを作ろうと動かれるなら、僕も合わせられる部分は合わせますしね」


 言いながら視線を向ければ、ヤーゴフさんは珍しく顎に手を当て、暫し考え込む。


「多くの者達の収入にも繋がっていたのは確かであり、周囲がそのまま狩場というこの環境もある。私は作るべきだと思うが……しかし、ロキが他所で得た魔物素材を新設したハンターギルドに卸すのは愚策だろうな」

「周囲で獲れない魔物素材じゃ、ハンターを呼び込む材料にはなり得ませんしねぇ」

「あぁ。ラグリース国内であればまた少し違うが、ここがアースガルドという時点で他所は気にする必要がなくなる」


 ヤーゴフさんはやんわり濁したけど、きっとギルドにも成績や管轄する町の規模によっての力関係などがあったのだろう。

 ならばたしかに、アースガルドはハンターギルドが存在しないのだから、敢えてギルドを経由するメリットはほぼ無いに等しい。

 それよりも、アースガルドの窓口であり唯一でもあるこの町には、見慣れぬ魔物素材を多数置いた巨大な商店があると。

 人を呼び込むための広告塔のような存在にしてしまった方が、よほど町全体にとってもプラスになるはずだ。


「じゃが、人の出入りが多くなれば、それだけ厄介事も多くなる。敢えてここはロキ王と呼ぼせてもらおう。税はどのようにかけ、どのようなところに使う予定じゃ?」


 町長らしいな。

 たしかに安全が確保できればの話。

 メリットもあれば、当然デメリットもある。

 が、そこはもう決めていた。

 我儘だが、俺が狩りと自身の成長を楽しめるように。

 煩わしい物は徹底的に排除させてもらう。


「この国に税はありません。面倒なのでフリーです」
388話 夢の国

「「「「「は?」」」」」

 俺の税金フリーという、ある意味政治を放棄したような発言に、目を見開き固まる3人、いや横の2人もそうだから5人。

 そんな中、一番早く正気に戻ったのはヤーゴフさんだった。


「し、正気か? さすがにそれは、無理があるぞ?」

「ん~そうですかね。例えば税を取ったとして、普通はどこに使うんですか?」

「国に仕える人達だって大勢いるでしょ……給金も徴収した税から賄うのよ?」

「でも、いませんよ? 役人も貴族もこの国にいませんし……あぁ、ダンゲ町長に補佐役としてお二人を指名すればそうなるのかもしれませんが」

「これからもっと増えるじゃろ。そもそも兵や軍を持たぬ国など聞いたこともない」

「この町を守る兵は使役した魔物にやらせますので、人の住む場所がこの程度の規模であるうちは問題ないと思っています。軍も何かあれば僕自身がすぐ動いちゃいますし」

「ま、魔物……?」

「何かあればロキが動くというのは、今回の戦争とその顛末を聞けば納得もするが、魔物が兵というのは具体的にどうするのだ?」

「見た目で明らかに強いと分かるAランク魔物を、15体くらいこの町の入り口やクアド商会、あとは町の周囲に配置しておこうかなーと」

「Aランクじゃと!?」

「しかも15体って、そこらの軍隊より遥かに脅威じゃないのよ……」

「……もしや、ロズベリアの竜種か?」

「あまりやり過ぎると人が寄り付かなくなるので、何を連れてくるかは悩みどころですけどね。僕の住んでいるもっと奥の方にもAランク魔物が何種かいたりするので、明日にでも連れてきますよ」

「「「……」」」


 年金も無ければ健康保険も無い。

 国の施設だって今まで見たのは兵の官舎や宮殿くらいなのだ。

 城壁や関所の維持に金が掛かるわけでもないし、多少の細々とした費用負担はあったとしても、目ん玉が飛び出るような税の発生場所がこの環境であるとはとても思えない。

 だったら、今はまだ、俺の構想だって十分実現できるはずだ。


「作物を作ってお金に換えたいというなら、いくらでも農地を広げて作ったらいい。何かを加工して売りたいと思う人がいるなら、うちの商会で素材でも買って自由に作れるモノを作ったらいい。僕の今すべき仕事はこの地に外からの人を呼び込み、皆さんが頑張った何かを現金化できる仕組みさえ作れれば一先ずは良いと思っているんです」

「面白い発想だな……農地など普通は領主から割り当てられるのに、どれほど広げるかは自分次第か」

「ですね。その方が皆さんのやる気に繋がると思っていますし、僕は僕でその方が楽ですから。あぁただ、新たに奥へ続く道を作ろうとか、手狭になって居住区を拡張させようとか、明らかに公共性のあるモノは僕がその費用を出しますよ。あと住民の意見を取り纏め、揉め事にならないよう取り仕切るという意味で、発言力の強いお三方にも給金をお渡しします」

「だから、その手の費用を捻出するための税じゃろ?」

「いえ、人が増え、町の規模が遥かに大きくなればそうなる可能性もありますけど、当面は普通に町が出来上がったとしても僕個人の負担でいいですよ」

「王が金を払うだけ払い、一切の税を取らんなど、そんな夢のような国、聞いたこともない……」


 だろうね。

 普通なら絶対にこんなことはやらないと思う。

 普通ならば。


「正直に言えば、どこに税を掛け、どう徴収して、そのお金をどう振り分けるのか。流れくらいは想像できますけど、その辺りの細かいことに時間を割きたくないんですよ。かと言って誰かに任せれば多くの人を雇用しなければいけないでしょうし、そこで誰を雇う、何人雇う、いくらで雇いどのように仕事を割り振るとか、協議と報告にまた時間を食います」

「そ、それはそうじゃろうが……」

「1日でね、たぶんそれなりに本気を出せば、2億ビーケくらいは僕一人で稼げるんです。もちろん買う側が限界を迎えるので、永続的にできる稼ぎ方じゃありませんけど、それでも考えている間に狩りをした方が、この程度の規模なら僕にとっては得でしょう?」


 仮に金銭面がトントンだとしても、稼いだ経験値の分だけ俺は税金の会議をしているより得だからな。

 それに皆の生活が豊かになってクアド商会でいろいろ買い物をしてくれれば、現金化に困っていた物もどんどん捌けて、俺は俺で金銭的なメリットを十分得られる。


「くくっ、それはそうだろうな。ベザートくらいの小さな田舎町なら、年間を通しても町の維持にそこまでの費用は掛からん」

「なら、極力商人が足を運ぶような場所にしますから、皆さんは好きにやりたいことやって稼いでくださいよ。人に迷惑を掛けたり害を振りまく悪党は許しませんけど、そうでなければ僕があれこれと細かく指示を出すようなこともありませんし、基本的には皆さんのやりたいことを応援しますから」

「好きなこと……それじゃあ、本格的にロキ君から貰った案の製品開発を頑張ってみようかしら」

「良いと思いますよ。土地は有り余るほどあるんですから、自由に活用してやっちゃってください」

「ふーむ、ならワシはもうろくに身体も動かせんし、じじばば集めて子供達に【算術】を教えてやる場でも作ってやるかの」

「素晴らしい。そういうの大賛成です」

「へへっ、へへへっ……見たこともない商品が次々と並ぶ、異世界人で王様のお店とか、興奮でチビリそうなんっすけど……」

「クアドさんよ、あんたは一応売る側だからな?」

「それでも楽しそうじゃないっすか―――……」


 皆が思い思いにやりたいことを口にする中、ヤーゴフさんだけは静かに皆の言葉を聞いていた。

 いや、聞きながらも考えているのかな。

 やりたいことを実現できるか否か、この新天地で推し進めるべきか否か。

 きっとハンターギルドを新たに立ち上げたいという話も、未だその気持ちを諦めていないからというのもあるんだと思う。

 なら、俺は俺で後押しをしてあげようか。

 皆を必ず守れるなんて、そんな大それたことは言えないし言わない。

 でも波風立てなければ、安全が確保されるなんていうのは幻想で。

 その現実が分かったのならば、対策を取れるよう伝えるべき部分は伝え、その上で俺自身も可能な限り守れるように手を尽くしたらいい。


「ヤーゴフさん」

「なんだ?」

「今後開拓を進めていくなら、極力町の東から南方面に掛けて広げるようにしてください」

「それは構わないが……理由は? ラグリースとの国境を明確にするためか?」


 ここで一度、俺は大きく息を吸う。

 もう明かすべき事実。

 ここに町が作られようとしているのなら、伝えなければ逆に危険が伴う可能性のある事実――。


「ここから南東にそう遠く離れていない場所、そこで僕はこの世界に降り立ちましたから」
389話 情報の共有

 女神様達を除けば、この世界で俺が『転移者』であることまで知っているのは、かつて所持物を見せたヤーゴフさん、アマンダさん、ペイロさんのみ。

 その3人も、具体的に俺がこの世界のどこで降り立ったのかまでは把握していなかったはずだ。

 母親の胎内から生まれる『転生者』の存在しか知らないであろう人達は、まだ理解に及んでいないのか首を傾げる中――。

 より深く事情を知っているヤーゴフさんは、意味を理解し軽く頷く。


「そうなのだろうな……あの時ロキは森からの『脱出』が目的と言っていた。となれば、元あったベザートの南側――、ここより南東の付近ということになるわけか」

「そうなりますね。内密にするべきではないと、そう思ったので敢えてこの場でお伝えしますが、その後もあの付近から、別の『遺留物』を発見しています」

「ッ!? そ、それは本当か!?」


 やっぱりかな。

 反応を横目で見ながら収納から取り出したのは、かつては存在を伏せたままにしておこうと判断した古城さんのバッグ。

 その他にもゴミであることに違いないが、リルが拾ってきたビニール袋とサンダルの片割れも目の前に出す。


「この鞄と、靴はまったく別ですから、少なくとも他に二人、僕以外にもこの世界に飛ばされている人がいますね」

「す、凄い……凄い発見じゃないのよこれ!」

「え? ええ? ロ、ロキさん、これってなんなんすか?」

「ボスの世界にあったモノってことか……?」

「ふむ。こっちのボロっちいのは、ゴミにしか見えんのぉ」


 皆がそれぞれ分かりやすい反応を示す中、ヤーゴフさんだけは少しそのモノに視線を向けたあとは、一点に俺を見つめていた。


「当然、昨日今日で見つかったということではないだろう。今、この場で明かした理由は?」

「このままだと、この町に危険が伴う可能性もあると、そう判断したからです」

「森を切り開けば、いずれ当たる……もしくは、その範囲にもう入っている可能性もあるか」

「はい。僕自身も正確な場所は分かりませんし、そもそも固定の場所なのか、それとも一定の範囲があるのかも分かりませんが、ここから近いことだけは間違いありませんから」

「でも、危険って……当時のロキ君みたいな子がいきなり現れるかもしれないってことでしょ?」

「このバッグの持ち主は大人の女性ですし、もし現れたとしても子供かどうかすら分かりませんけどね」


 苦笑いしながらそう伝えつつ、言葉を続ける。


「たぶん異世界人が突如現れたとしても、この世界に来た直後であれば大した脅威にはなり得ません。気が動転して慌てふためき、危害を加えられる可能性もなくはないですが、"戦力"という見方をすればゴブリン程度である可能性が高いと思います」

「じゃったら、何を心配する必要がある?」

「それでも異世界人なので、どんな能力や所持物を隠し持っているかは分からないんですよ。なのでもし周囲と明らかに格好の違う者が現れれば、最終的には僕が対応しますから、事を荒立てずに迎え入れていただきたいと思っています」


 今まではリルがやっていた見張りも、付近にこうして町ができてしまえば難しくなってくる。

 ならばその役目は必然的に住む町の人達で担ってもらうしかなく、事前に伝えておかねばもし本当に現れた時、危険――というよりは混乱を招く可能性が高い。


「その程度であれば、敢えてこの場で伝えるほどとは思えないな。他にも――、あぁ……周知徹底させたいのは、外部に漏らすことの危険性か」

「はい、それが一番危険に感じていることなので、事情を深く知っていたヤーゴフさんだけに伝えるのもどうかと思ったんですよね」

「ん? どういうことだ?」


 ベッグの疑問は横にいるクアドも、事情を理解していない町長も同じだな。


「どこの国も、異世界人って言ったら欲しがるでしょ?」

「だろうなぁ。凄いスキルを持っているっつー話だし……んん? でもゴブリン程度の戦力なのか?」

「ちょっと難しい話になっちゃうんだけど、魂が胎児に宿る『転生』と、身体ごとこの世界に飛んでくる『転移』と、異世界人って言っても実は2種類いるんだよね」

「でもそんなこと普通知らないっすよ? って、だからここが他国から狙われるってことっすか!?」

「そういうこと。他所はそんな事情なんて知らずに、異世界人と聞けば『何か凄いスキルを所持している』と思うわけだけど、晩成型っていうかなんていうか……こうやってモノだけが残されるくらい、飛んできた直後の転移者はか弱い可能性が高い。にも拘わらず高い確率で異世界人の現れる場所があるなんて知ったら、求めている国からすれば格好の的になるでしょ? 実際捕まえれば、戦力にならずとも高い文明の知識が得られるわけだし」

「……私に『遺留品』を伏せていたのもそういうことか」

「すみません。その時はまだ、伏せることがベザートの平和に繋がると思っていましたから」

「今は、違うってことよね?」

「ええ。南部侵攻軍の司令官から、ヴァルツがベザートを襲わなかった理由は僕に関わりがあるから、下手に刺激しないようにという……ただそれだけの理由だったと聞かされたんです」

「街道が北にしか向いておらんからと思っとったが……」

「はぁ、偶然じゃなかったわけね」

「それで、こないだの挨拶と、王という宣言に繋がるわけか」

「それが一番、守りたいと思えるモノを守るには現実的だと思ったので。なので最悪は情報が漏れても、僕の名前がある程度の抑止には繋がるはずですが……常時この町にいるわけではありませんから、余計なリスクを招かないよう、この情報をどう取り扱うか皆さんで決めてもらえればと思っています」


 異世界人が現れる可能性を広く町民に知らせれば、もし現れた際は混乱を避けられるけど、多くが知ることで外に情報が漏れるリスクも増す。

 逆に異世界人が現れることを町民に広めなければ、もし現れた時は混乱するかもしれないけど、外に情報が漏れるリスクは大きく避けられる。

 一利一害の選択。

 その中で本当に現れるかは分からないという点を考慮し、一人目が実際に現れるまではこの5人で情報を留めるという結論に、俺も納得して頷く。

 銃でも持っていたら絶望的だが、そんな可能性まで考え始めたらキリがないからな。

 それにフェルザ様の性格を考えれば、森を切り開けばポイントを外してくる可能性だって十分にあり得る。

 が、ヤーゴフさんの目の色が少し変わったのだから、これで彼の夢は少なからず前進するだろう。

 拠点と同じ、皆がやりたいことをやりながら、笑って過ごせる場にすればいい。

 そう思いながら今のところの状況や問題点、旧ベザートに戻った者がいるかどうかを確認し――。

 把握している限り誰もいないということなので、この開拓村の名をそのまま『ベザート』とすることで決定した後。

 俺は倉庫整理をするため、一度拠点の下台地に帰還した。
390話 チョロ神

「おっしゃー! 一気に整理するぞー!」

「ようやく片付くのか」

「今日1日で終わるのかよ……」

「中身の分からない木箱だらけだもんね~」


 思い思いの感想を漏らしながら男4人、拠点にある10階建ての資材倉庫を見上げる。

 カルラの言う通り、2階以降はキウス商会からの押収物で入り口までほぼ埋まってしまっており、その中身も大半が木箱に入っているためよく分かっていなかった。

 腐ったら困るからと、食料かそうでないかを【探査】で大まかに分別して取り出したくらいだ。


「とりあえず拠点で間違いなく使わないモノは、全部ベザートの商会に運んで配ったり売り物にしちゃうから、3人ともこれは残しといてっていうやつあったら教えてよ。その方が分別しやすいからさ」

「我が必要なモノは家に置いてあるから何もない」

「ボクも欲しい服はこないだ回収したしな~」

「俺も酒と仕事場の周りをそのままにしておいてもらえれば問題ないな」

「鉄とか鉱物は?」

「どう見ても過剰にあり過ぎだろ。『魔鉱《ミスリル》』以下は最低限残しておくくらいでいいぞ。どうせまたおまえがどっかから持ってくるんだろうからな」


 たしかに1階は溶かした鉱物の他にも、天井まで積み上がった様々な装備類がかなりの広範囲を占拠していた。

 なぜこんなことになっているのか。

 ギニエで片っ端から押収した時には既に怪しく、キウス商会の押収品で倉庫の収納に余力がなくなり、それでも貧乏根性丸出しで、死体まで回収しているから――。


「あ、死体もそのままだったわ」


 魔力量がいきなり膨れ上がったお陰で忘れていた。

 今更ながら、装備を剥ぐために傭兵連中や兵士の死体もかなり回収していたことを思い出す。

 特に最後の本気組っぽかった連中は、たぶん物凄い数で収納されているはず。


「おし、それじゃ分担しよう。俺とロッジはこの倉庫内が綺麗になるまで整理。ゼオとカルラはジェネにも手伝わせるから、恒例の剥ぐ作業をお願いしたいんだよね」

「ふっ、良かろう」

「まっかせて~!」


 ロッジには刺激が強過ぎて任せられないが、ゼオとカルラはついでに新鮮な『血』が飲めるからか、喜んでやってくれるからな。

 早速二人もドン引くほどの量を裏庭に放出したら作業開始だ。

 だいぶ余力が生まれたので、ロッジが木箱を次々とチェックしていく間に、誰も必要としていない美術品や芸術品関係と、大量に余り過ぎて意味が分からないことになっている家具類なんかはどんどん収納していく。


「ロッジ~ここに残している衣類も、石像のクッション用以外は全部いっちゃうけど、パンツは少しくらい残しとく?」

「いや、もういらん!」

「魔物素材は~?」

「何かあった時用に各種木箱1つ分くらいもあれば十分だな。ただガルグイユだけはそのまま残しておいてくれ」

「了解~魔石はそこまで使わないよね?」

「あぁ、属性魔石も今のところ必要ないから、そこにあるやつは全部持ってっちまってもいいぞ」

「必要になったらそこら辺から取ってくればいっか」


 簡単に確認しながら収納していけば、みるみる減っていく資材倉庫の荷物たち。

 ん~なんだかスッキリしてきてキモチィ~!

 一人そんなことを思いながら木箱の中身を確認し、10分後には面倒になって全て勢い良く回収していく。

 何か必要になればクアド商会から取ってくるか、この3人を直接連れていっちゃえばいいのだ、きっと。


「防具だけはやたら大量に残ってるけど、あとは必要最低限って感じになったな」

「どうせまたすぐに溜まるだろうしね。それに向こうは家を作っている真っ最中で、これから家具とか日用品とかが必要になってくるからさ」

「だったらここに寝かしておくだけ無駄ってもんか」

「そそ。あとは過剰にあり過ぎる食糧庫も整理して――、そのまま上台地の用事もいくつか済ませてきちゃうから、ゼオ達の剥いでる装備類が運ばれてきたら分別よろしくね」

「おうよ。先に飯食ってるからな!」



 その後は食糧庫にも寄りつつ上台地へ。

 どんどん美味しくなってきたアリシアご飯を待ちながら、横で一緒に待っているリルに今後を相談する。


「ふむ。たしかに町が出来上がれば、私が普段探索している場所とは目と鼻の先。いずれ住民にも見つかるだろうな」

「普通に狩りしたり、採取したりする人達もいるからね」


 本当なら配置する魔物と一緒に、そのままベザートの警護にでもついてもらえれば一番嬉しいのだが、なんせアホな子で有名なリルである。

 そのうちバレて大事になる未来しか見えないし、干渉という禁忌にも触れてしまいそうでかなり怖い。

 それでも一案として告げれば、横で皿を持っていたフェリンが意外なアドバイスをくれた。


「警護じゃいろいろとマズそうだけど、誰とも接触しない監視ならいいんじゃないの? 何かあればすぐ【神託】でロキ君に知らせられるんだし」

「ほほぉ」


 この言葉に、なるほどと思ってしまった。

 確かに監視なら、神様の職務として常日頃からしなければいけないことだ。

 それに接触さえしなければ、確定的なバレ方をすることはまずあり得ない。

 その上、他国の怪しい侵入者や、もしかしたら現れるかもしれない転移者など、眠ることのないリルがすぐに連絡をくれればどちらも早期に手が打てる。


「今まで以上に退屈そうなのだが……?」


 ならば当人は渋い顔をしているが、ここは多少強引にいってでも納得してもらうしかないな。


「さっき巨大な建物を川の反対側に造ってきたから、町の入り口をばっちり見渡せるような良い見張り台は既にあるんだよね」

「……」

「もし引き受けてくれるなら……そうだなぁ。今ラグリースと旧ヴァルツが戦争の影響で危機的な食糧不足に陥っててさ。俺も戦後処理と建国の絡みでかなり忙しいし、リルに魔物退治をお願いできればな~とも考えているんだ」


 この言葉に、少しだけ見えている尖った耳が、ピクリと動いた。


「下の食糧庫に余っていた食材は各町に配ってくる予定だけど、それでも規模が規模だからまったく足らなくてね」

「ほう」

「本来ならカルラに任せるのが筋なんだろうけど、どうせ食べるなら誰だって美味しいお肉の方が良いでしょ? ここら辺の魔物って量は多いけど、硬い筋張ったお肉ばっかりだし」

「たしかに」

「もしリルも大絶賛のユニコーンお肉が拠点にあれば、どんなに大量でも俺が配って回れるから、お腹空いた人達だって喜ぶと思うんだけどなぁ……」

「それは、王として大事な仕事だな。うん、凄く大事だと思うぞ」

「人との接触、会話は禁止。商会の屋根の上が活動場所だけど、普通の人には見えない高さだから出入りは自由。そこで誰にもバレないように監視をしつつ、まずは様子見で1日6時間、世界の貧困を救うために魔物を狩る時間を設ける――こんなのはどう?」

「フハハッ、良かろう! 私は戦の女神、常に世界を思って動かなければならないからな!」

「ちょろ~……」


 ボソッと零したのは俺じゃなくフェリン。

 だが、内心同じことを思っているので否定もしない。

 名目がないと魔物を斬りづらい立場とは言え、この神様、あっさり食いつき過ぎである。


「はぁ……貧困と食糧不足で多くの者達が苦しんでいるのは事実ですしね。直接的でなければ止むを得ないでしょう」

「ここにいながらでもやっぱり分かるんだ?」

「それはもう。地域がはっきりと特定できれば、教会で救いを乞う人々の悲痛な叫びくらいは分かりますから」

「そっか……」


 嘆息を漏らすアリシア含め、以前までは誰もそのような声に気付けなかったのだから、これもきっと大きな前進なのだろう。

 そして、教会か。

 ついでだ、ここでもう一つの問題も相談してしまうか。


「その教会で相談があるんだけどさ、教会って勝手に建ててもいいのかな?」

「ど、どうなんでしょう。それは私達にはなんとも……」

「いいんじゃないの?」

「問題ないだろう。私が良いと思っているのだから」


 後半二人の言葉は軽過ぎて、まったく参考にならないが。

 うーん、実際はどうなんだろうな。


「アリシアが分からないとなると、やっぱり教会関係者……いや、新たに建てるならヘディン王に聞いた方がいいのか」

「教会は私が一通り対応していますけど、やっていることと言えば稀にある教会の新設に合わせて、ファンメル教皇国に『神具』を落とすこと。あとは年に1度の『六道神教祭』で<神子>から下界の情報を直接聞き、導きの言葉を与えるくらいです」

「なるほど。『神具』っていうのは黒曜板のことだよね?」

「あとは教会に置くそれぞれの神像も『神具』になりますね」

「あ~あの似たような石像もアリシアが作ってるのか……ん? 各教会じゃなく、教皇国に神界で作った黒曜板とかを毎回落としてるの?」

「そうですよ?」

「へぇ。ってことは、あの円盤と違って神具は運べるわけか」


 どういうことだ?

 同じ素材と思っていたマンホールは、持ち上げることも叶わず収納するしか移動方法が見当たらなかった。

 だからてっきり黒曜板もその類かと思っていたが、そちらは普通に運べるという。


「神界で生み出したモノですから。それこそ、どのような属性――希望でもある程度のことは叶うのです」

「つまり、黒曜板は軽くすることもできるとか、そういうこと?」

「許されていないので私達は重さを変えたりはしませんが、その通りですね。以前ロキ君と見た円盤は、フェルザ様が持ち上げることなど不可能なほどの重さにしているか、もしくはあの地に固定されて動かせない状態だったのだと思います」

「ほ、ほほぉ……」


 その二択なら、まず後者が正解だろう。

 あの時重みで大地が沈み込んでいる様子はなかったのだ。

 本来は空間に固定されていたものを、同じ空間に影響を及ぼす魔法を使用したことで無理やり回収してしまった。

 可能性としてはこちらの方が高いように思える。

 まぁ、それは関係ないから置いておくとして――、そうかそうか。

 持ち運べるのなら、その気になれば楽に事は進みそうだな。

 あとはやっていいかどうかだが。


「さっき願いを聞き入れて、ファンメル教皇国に『神具』を落とすって言ったじゃない?」

「ええ、そうですね」

「それって例えば、俺がベザートの新しい教会に置きたいから神具を落としてって言っても、できることなの?」

「場所さえはっきりしていればもちろん可能ですよ? ただやったことはありませんけど……」

「そっかそっか、ありがとね。あ、だいぶ焦げてきてるよ」

「んあぁあああああ! ロキ君がいっぱい話しかけるからああああ!」


 ん~宗教もこういう視点で見られると面白いな。

 実際に神はおり、神はできるというが、しかしやったことはないと言う。

 つまり教会に関係する事柄を管理しているファンメル教皇国が、やらせないようにしているということ。

 それは何故か?

 当然そこに大きな金が動いているからだろうなぁ。

 余計なことを言えば凄まじい混乱を招きそうだから、今は言わないでおくが……

 もうそれはそれは、ドロドロとした既得権益の世界が広がっているとしか思えない。

 それでも最低限、他所と足並みを揃えるべきなのか。

 そんなのお構いなしに、やりたいようにやってしまうか。


(そこは金額次第かな?)


 そんなことを考えながら、集まった皆にベザートと下台地。

 それぞれに神具を置きたいことを伝えた。
391話 着々と準備を

 ズン……ズン……ズン……


「おはようございまーす」

「「「……」」」


 ゾロゾロと。

 丸太を持った多くの人達が見守る中、ベザートのメイン通りとなるであろう、広く幅の取られた道を突き進んでいく。

 まずは周知する必要があるため、これも致し方ないこと。

 視線を浴びるのは相変わらずキツいが、守ろうと決めたからには突き進むのみである。


「こ、これが、昨日言っとったAランクの魔物か……」

「そうです。分かりやすいようにある程度種類を絞ってきましたので、まずは皆さんに慣れてもらおうと思いまして」


 ダンゲ町長は見上げながら、そのまま背中からひっくり返りそうになっていた。

 まぁしょうがない。

 回復を待ちながら3回に分けて転移させるくらい、連れてきた魔物は大概デカいからな。


 ――【拡声】――


「あーあー、朝っぱらから皆さんすみません。本日より『ベザート』を守ってくれる僕の『仲魔』を連れてきましたので、少しの間だけこちらをご覧ください」


 すると誰一人近寄ってくることはなく。

 皆がかなり距離を空けたまま、静かにこちらを見つめていた。

 なんだか静かすぎて、森から聞こえてくる鳥のさえずりが妙にはっきりと耳に残る。


「えーまずはこちらが町の入り口、そしてクアド商会の入り口でそれぞれ門番の役目を担う『ギリメカラ』2体です」

『グモォ――……』


 鼻を高く持ち上げた黒い巨象の、くぐもった鳴き声が周囲に響く。

 一応ギリオ、ギリコと名前は付けたが、そこまで皆に伝える必要もないだろう。


「この巨体ですので見た目は怖いかもしれませんが、明らかに怪しい者が侵入しない限りは静かにしていますのでご安心を」

「「「……」」」


「次いで、町の外周を広範囲に渡って見張り、警護するのが『マンティコア』5体と『キュウキ』5体です」

『グルゥ!』

『グガァ!』

「こちらの2種は素早い上に軽く飛ぶこともできますので、森の内部から侵入した者に怪しい動きがあれば、しっかり追いかけ回してビビらせてくれるはずです」

「「「お、おぉ……」」」


「そして、いざという時の上空部隊が『ウィングドラゴン』3体になります」

『グゥォオオ……』

「目立つので基本的には地上で待機させつつ、悪党が町の中で暴れた場合や逃げた場合などは、こちらの上空部隊が本気で仕留めに掛かります」

「「「おぉ……ッ!」」」

「魔物は眠ることなくこの町を守ってくれます。悪事を働かなければ皆さんに危害を加えることなく、極力顔も覚えるように伝えていますので、皆さんも勘違いで攻撃を加えたりはしないようにお願いしますね」


 言いながら横に並ぶ仲魔に目を向け、その後に皆の表情をザッと眺める。

 過敏に反応する人は見当たらないので大丈夫そうだけど、これでどれほど抑止に繋がるか。

 実際は人を殺すような悪党が現れたら容赦なく喰らい、それ以外の怪しいやつはビビらせろとしか伝えていないので、これで機能しないとなればきっと町長辺りから報告も上がるだろう。

 市長の経験があるわけでもないのだから、あとは様子を見ながら必要に応じてやっていくしかない。


「凄いな……これがAランク魔物か」

「使役されるとここまで静かに言うことを聞くのね。食事はどうするの?」

「お腹が空いたら森の中の魔物を適当に食べるそうなので、ヤーゴフさん達は気にしなくても大丈夫ですよ。クアド達にも腐りそうなお肉があったら与えるように伝えておきますから」

「しかしこの大きさ、外部の人間はさらに怖がりそうなものだが……大丈夫なのか?」

「パルメラの入り口に『この先は、使役した魔物が警護している』と立て看板を刺しておいたので、あとはやってみてですね。もっと小さい魔物を用意することもできますけど、今はこの町の安全を最重視した選択を取っていますから」

「考えてみれば、異世界人ロキの国と知って多くはここに訪れるのだろうからな。ある程度のことは覚悟する者も多いか」

「そうであってほしいですけどね」


 その後はそれぞれ配置に付く魔物の動きを眺めながらクアド商会へ。

 薄暗い店内を覗けば、あとで声を掛けようと思っていたお二人も既に訪れていた。


「おはよ~って、パイサーさんに、魔石屋のお姉さんも来てくれていたんですね」

「町長から話を聞いてな」

「そういえば名乗っていなかったね。私はミザール、よろしくね~」

「こちらこそよろしくお願いします。その、ダンゲ町長からは、事情も……?」

「あぁ、売り物が被るって話だろ? 俺は気にしやしねーよ」

「私も雇ってくれるなら全然。欲を言えば魔道具の扱いにも憧れていたから、そっちも少し触らせてもらえれば嬉しいかな~」


 この言葉を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。

 たぶん大丈夫だとは思っていたけど、それでも直接言葉で聞いたわけじゃなかったからな。


「それは良かったです。パイサーさんには装備の修理や防具の製作なんかを今まで通りやってもらいたいですし、ミザールさんは責任者のクアドと相談してもらいながら、扱う売り物の担当を分けてもらっても良いと思います」

「いいっすよ! 魔道具は俺っちもそこそこ知ってるっすから、なんなら教えるっす!」

「それじゃ、早速いきますか。まずは余り物の魔道具から――、クアド、ここら辺でいい?」

「いいっすよ~!」

「俺達がどんどん整理していくから、あんま気にしなくていいぜ」

「「「うぇいうぇい!」」」

「了解~それじゃ余った魔道具関連を、ドンと」

「きゃー! ちょっとちょっと、見たことないのがいっぱいあるんだけど!」

「お、おぉ、おおおおお!? 結界魔道具あり過ぎぃいいいッ!!」

「あとで光源用魔道具は俺が設置するからね」


 早速煩いが、ここで一々反応していては終わりが見えなくなってしまう。

 まだまだやることは山ほどあるからな。


「次、魔石いくよー、ドンと」

「あヒィ!? 家一軒どころの量じゃないんっすけど!?」

「あぁっ! 魔石のお風呂で溺れちゃうぅ~!」

「……」


「次、衣類を、ドンと」

「ほごぉっ!? き、絹まで混ざってるっすよコレ!?」

「貴族の令嬢が着るような服もはっけーん!!」

「「……」」


「次、家具、ドンと」

「ぶぶぶっ!? 多過ぎだし、もしやこの色と特徴的な木目は千年黒檀じゃ……」

「やーん! このベッド凄いフカフカなんだけどー!」

「「「……」」」


 気にしたら負けなのかな……

 ひたすらはしゃぎ続けているクアドとミザールさんがなんだか同類に思えてきたけど、子弟関係ということならこれくらいの方が上手くやっていけるのかもしれない。


「ボ、ボス……? ちょっと、量が多過ぎやしないか?」

「何言ってるの? まだキウスの所から回収した木箱も出していないし、装備類や魔物素材、それに日用品やよく分からないものまで、たぶんこれの10倍くらいはあると思うよ」

「「「……」」」

「どう整理して売り物を管理するかは任せるから、棚を作るなりして頑張ってみてよ。お腹いっぱいどころか、余裕ある給金もちゃんと渡すからさ」

「あ、あぁ……ッ! やるぞおまえら! まずはひたすら整理整頓だー!!」

「「「うぇいうぇーーい!!」」」


 そう言いながら衣類の山に突撃していったベッグ達と、ひたすらついて回り、その度に俺の背後で大騒ぎしている煩い二人。

 そんな中、パイサーさんだけは他の品物には興味も示さず、倉庫の中をウロウロしていた。


「どうしました?」

「あ、あぁ。この中に炉を構えてもいいのかと思ってな」

「良いと思いますよ? 僕はもっと奥に住んでますけど、そっちに住んでいる鍛冶師は同じような倉庫内に炉を構えて、周囲を鉱物や素材に囲まれながらいろいろやってますね」

「もしかして、おまえが肉配ってた時に一度だけ現れたらしいドワーフか?」

「あれ? 知ってました?」

「直接は見なかったがな。獣人すら立ち寄らないような田舎町に、いきなりドワーフが現れたんだ。ほぼ全員が初めて見たんだし、そりゃ噂にもなるだろ」

「はは、たしかに。パイサーさんにフラれて、それで旧ヴァルツのローエンフォートにいたドワーフを誘ったんですよ」

「ケッ、言ったろ。人には優先順位があるってな」

「承知してますよ。唯一の鍛冶師であり装備屋として、ベザートのハンター達が死なないように見守ること」

「……」

「あまり過剰な装備を与えても身を亡ぼすでしょうから、誰にどこまで売るかはお任せしますが……ベザートのハンターをよく知っているパイサーさんだからできることだと思いますので、この町の装備関連は一通りお願いします」

「あぁ、任されたよ。装備類や素材関連はそこら辺にでも出しておいてくれ。クアドと相談しながら振り分ける」

「了解です」

「それとロキ、炉を造れるような知り合いはいねーか?」

「え?」

「ベザートだといねーから、前……つってもオヤジの代だが、そん時はマルタから職人を呼んだんだ。けどよ、今は向こうもそれどころじゃねーだろ?」

「ですね……」


 職人というか、ゼオとロッジなら二人で造っていたのだから、連れてくればなんとかなるだろう。

 だが1日2日でって感じではなかったので、どうしたって時間はかかる。

 なら、試すか。


「一応いるにはいますので、連れてくることは可能です。ただ試してみたい方法もあるので、まずそちらを一度確認してきます」

「何をだ?」

「元々のベザート――、パイサーさんの家ですよ。建物は荒らされてても、炉なら生きている可能性もありそうですし」
392話 宗教と金

 酷い有様だ。

 以前上空から見た時にも荒らされていることは分かっていたが、こうして地上に降りれば猶更にその被害状況がよく分かる。

 戸は蹴破られたように倒れ、壁には槌や斧などで破壊された大穴が。

 どの建物も中に侵入されたと分かる痕跡ばかりが続いていた。

 犯人は――。


「金と食い物を寄ご、ぉッ……」


 ――先ほどからポツポツと現れる、野盗と化したヴァルツの残党兵だ。

 存在を把握できたのは4人だから、これが多いのか少ないのかは分からないけど……

 あれから10日くらい経っても隠れ潜み、こうして様子を見に戻ってきた人を襲い、町の残留物や魔物でも食って生き延びているんだろう。

 国に戻ろうとしないのは、もう戻れないと諦めているからなのか。


「やっぱり、|掃《・》|除《・》は必要かな」


 落ち着いた今なら、害悪な存在を数十人斬ったところで何も思うことはない。

 とっとと死体を回収し、まずはパイサーさんのお店へ。

 建物は中も外も荒らされていたが、やはり、炉は以前見た時と変わらない状態のまま放置されていた。

 持ち運べもしない炉なんて、普通は興味の対象外だろうからなぁ。


「ん~原理を考えればいけるはずだから、ちょっと地面を抉るように――『収納』」


 すると岩や粘土で地面と繋がっているように見えた炉が、スポッとくり抜いたように消失する。

 うんうん、やっぱり生き物じゃなければ応用が利くね。

 今回は皆が作り始めているからやらないけど、これなら家を丸ごととかでも問題なくやれそうだ。


 続いて俺は、目的の場所でもあった教会へ。


「おっ、どっちも問題無しか」


 ここも荒らされていたが、やはり求めていた物は手付かずのまま存在していた。

 黒曜板は俺の背丈くらい、神像は1体3メートル近くあるからな。

 試しに持ち上げてみても、兵士の2~3人が頑張ったところで長い距離を移動させるなんてことはまず無理だろう。

 これらも使う可能性があるので、一旦は回収。

 ベザートに戻り、使い慣れた炉をパイサーさんに渡した後は、廃墟と化した町に潜む残党狩りをしながらラグリース東部をグルリと回り――。

 抱えていた食料を放出しつつ、王都ファルメンタに向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「な、なるほど……食料の配給や生存者の規模まで調査してもらえるとは、毎度のことながら感謝の言葉もない……」

「いえいえ、余り気味の食料を整理しただけですから。それに今回やったのはラグリースの東側だけですし、調べ方もかなり雑ですからね」


 地図を見ながら各町に転移し、【広域探査】で『ヴァルツ残党兵』と『生き残りの町民』を確認。

 漏れを減らせるよう、狩るついでに【探査】でも『ヴァルツ残党兵』を確認しつつ、生存者がいればその数に合わせて10日分くらいの食い物を置いてきただけだ。

 高速で次から次へと移動していたので30分も時間は掛かっていないが、大量にあったはずの食料はあっさり底を突いてしまった。


「ちなみに隠れ潜んでいた兵はどの程度だったのでしょうか?」

「東はほぼおらず、南東と北東の廃墟に合わせて100人弱ってところですかね。あと考えられるとしたら、僕も細かくは把握していない村くらいだと思います」

「となれば陛下、追い込みの成果は出ておりますな」

「うむ。だがやはり食料が問題だな……西からは依然として運ばれてこないのか?」

「多少は入ってきているものの、やはり圧倒的に少ないと、そう報告を受けております」

「ん? まだ何かやられてるんです?」

「いや、それが確定的な話ではないから対処に困っておる。利に目聡い商人が西から数多の品を売りにラグリース国内へ入ってきているのだが、なぜか今一番欲しい食料だけが異様に少ないのだ」

「少ないけど無いわけではないから、ジュロイが絡んでいるのかも分からないってことですか」

「それもあるし、仮に関係していたとしても、例年ラグリースからジュロイへ大量に輸出していた穀物類は完全に途絶えているからな。焦って高値だろうと食糧確保に動いてる可能性もある」


 悪意のあるなし、どちらも有り得るとなると面倒な話だな……

 まぁどちらにせよ、今はそこまで手が回らない。

 俺は俺で、自分の所のためにまずは動く。


「いつまでも無償で配るなんてことは、誰のためにもならないのでしませんけどね。当面は食料が安定的に入る見込みが立っていますから、生きるか死ぬかという段階の時くらいは配っておきますよ。旧ヴァルツ領は買うお金も無さそうですし」

「本当に助かります。せめて元々のラグリース領内くらいは、備蓄食糧や西側の農作物で耐えられるようこちらで動きますので」

「ぜひお願いします。あ、それと二人にお聞きしたいことが」

「「?」」

「避難先の新しい町――『ベザート』に教会を作りたいので流れを教えてほしいんですけど、ファンメル教皇国と何かしらのやり取りが必要だったりするんですかね?」


 そう問えば、シラグ宰相は分かりやすくうんざりした表情を浮かべながら答えてくれる。


「それはもう。現地に赴いて枢機卿の一人、ルクレール司教に新設書を提出せねばなりません」

「それだけであれば普通に思えますけど、その表情はいろいろと問題があるんですか?」

「問題と言いますか、提出するための謁見や、認可が下りるまでもかなり待たされるんですよ。我が国が一番最後に申請を出したのは、火事による破損があった年なので、かれこれ10年近く前だと思いますが……その時は交換の申請で約20日ほど使者が現地で待たされたはずです」

「ええ……ただの申請だけでですか」

「そこからは視察団による現地の確認、教会の規模に関する助言という名の勧告、受理から建造、神具の搬入まで、新設となれば最低でも1年ほどは期間が掛かるかと」

「うぇ」


 てっきり金の話だと思っていたら、厄介なのは期間や段取りの方か。

 それはそれで面倒だが、しかし――。


 (そんな待てるわけないよなー)


一人そう思っていると、ヘディン王がボソッと呟く。


「それに決して大きな声では言えぬが、費用も相応に掛かる」

「ん? 如何ほどで……?」

「地方の町に見られるような、6体神像が全て1つに纏められた教会であれば約80億ほど。ここ王都にあるような、各女神様が個別に祭られている教会であれば、6体合計で300億ビーケほどは金が掛かる。それに町の規模が大きければ献金の額も大きくなるし、先ほどの時間を短縮させようとしてもまた大金がかかる」

「その献金額を決めるために司祭が下見に来ると言われているほどです」

「たかっ……え? そんな金額じゃ、小さい国とか無理じゃありません? まず僕が無理ですし」

「かと言って教会が無ければ、民の生活にあまりにも大きな影響を及ぼします。なので王家が大商会や商業ギルドから金を借りるなどはよく耳にすることなのです。我が国も現在余力がまったくないので、なんでしたら、ラグリース内の商業ギルドをご紹介しますが……」

「あ、いえ、大丈夫です……ちなみに旧ベザートにそのまま捨てられている神具を、そのまま引越しさせちゃっても大丈夫ですかね?」

「旧ベザートに誰も住んでいないのなら、こちらとしては問題ないが……」

「ファンメル教皇国がなんと言うかは、分かりませぬな」

「そこは責任を持ってこちらで対処しますので」


 はぁ――……

 これは、駄目なやつかもしれない。

 宗教を否定したりはしないけど、金の臭いがプンプンし過ぎて、この時点で嫌気がさしてくる。

 アリシアに経済観念は無かったし、たぶんこんな話になってるなんて知らないんだろうな。

 さて、この忙しい時にどうしたものか……


「……ではロキ王、金にも困っているようだし、例の書物関連を今渡そうと思うがよろしいか?」

「あ、あぁ、大丈夫ですよ」

「では書庫の方へ」


 書庫、か。

 そう聞くと、どうしてもばあさんを思い出してしまう。


「ヘディン王、この世界はどのように埋葬するのが一般的なんですか?」

「身体は燃やし、骨は神像の前に置いて清め、その後ゆかりある土地に撒くというのが一般的な習わしだな。もちろん地域や種族によっての違いはあると思うが」

「なるほど、墓と呼ばれるモノはないのですね」


 こればかりはしょうがないか。

 墓があればお参りでもと思ったが、旅の中で墓に類するモノを今まで見たことがなかった。


「事前にニーヴァルから言われていてな。砕いた骨は宮殿の庭園に撒かせてもらった。本人が好きだったのでな」

「ふふっ、ばあさんらしいですね」


 その後は目立つ会話もなく、案内のために前を歩くシラグ宰相とヘディン王の、少し寂しそうな背中を見つめ――。


「さぁ、入ってくれ」


 そう言われて書庫の向かいの部屋に入れば、少し懐かしい気もする3人が、かつてのようにそこで仕事をしていた。
393話 新たな住人

「あ……」

「こんにちは」


 真っ先に反応したのはエニー。

 その声に青みがかった皮膚をしたケイラちゃんが顔を上げ、すぐにエニーは顔をくしゃりと歪ます。


「うぅ……ロキ、大ばあちゃん、死んじゃったよぉ……」


 ポロポロと溢れ出る涙。

 間違いなく、責めるような言葉ではない。

 それでも、最後は俺が手を下したことで土に還ったのだから、ズキッと胸に痛みを覚える。


「俺が見届けたから。国と皆を守るために戦って戦って……本当に最後の最後まで立派に戦い抜いたんだよ」

「う゛ん……教えでもらった……ひぐっ……国の英雄だって……」

「そう。だから悲しいのは皆一緒だけど……誇りに思って強く生きなきゃ」


 鼻水を垂らして号泣するエニーは、まだまったく心が癒えていない。

 肉親であり、宮殿内で一緒に暮らしていたのだからしょうがないか。


「アルトリコ、頼む」


 気付けば一人手を動かし続けていたアルトリコさんも顔を上げており、シラグ宰相の言葉に頷いた後は背後の扉へ消えていく。


「まだ作業中でしたら、今じゃなくても構いませんよ?」

「いや、そんなことを言っていたら、いつまで経っても渡せなくなるからな」

「そうですか……」

「それに3人が『本』の書き写しをしているということは、あちらの写しはもう終わっているはずだ」


 言われて視線を向ければ、確かに3人とも本の複製品を作っていた。

 ばあさんがいない以上、指示を出したのは王か宰相か。

 この場から無くなる前に少しでも複製を――、きっとそういうことなんだろうけど、終わるのを待っていたら今までの取引と変わらないペースになっちゃうもんなぁ。


「お待たせいたしました。まずはこちらが『源書』の完品1-16と18番、そして小箱の中には未完の『叡智の切れ端』と、その一覧を纏めた用紙が収められております」

「済まないロキ王。ラグリースは代々『源書』より、遺物の発掘や収集に金を回す傾向が強くてな……お世辞にも多くを集めているとは言えないのだ」

「いえいえ、ヴァルツ王家からの押収分も頂いているので、こちらとしては十分ですよ」


 楽しみはのちほどに。

 その後も次々と運ばれてくる『本』を一通り収納し、これで全てとなったところでヘディン王が意外な言葉を口にする。


「それでな、ロキ王。できればこの3人も、一緒に連れていってはくれないか?」

「え?」


 一瞬戸惑うも。

 その理由をすぐにエニーが教えてくれた。


「大ばあちゃんが、私達3人に、ひぐっ……ロキを頼れって」

「ばあさんが……」

「不躾な願いであることは重々承知しております。ただ私とケイラは外で人並みの生活をすることが難しく、この場で書物の管理や作製をすることで居場所を与えられてきました。できればロキ王の下、引き続き書物の仕事に携われればと」

「お、お願いします……」


 考えてみれば、当然か。

 書物の類がこの場から綺麗になくなれば、ここでの仕事だって同時に無くなる。

 お礼に書物をくれるというから喜んで受けたけど……そうか。

 アルトリコさんとケイラちゃんは、ここだけが居場所になっていたのか。

 視線をヘディン王に向ければ、やや慌てた様子で弁明する。


「もちろん、こちらで別の仕事に就かせることだって可能だ。書物も礼として引き渡したからと言って、今後一切収集しないということではない。あくまで本人達の希望なのだ」

「本人が希望するなら構いませんが……えーと、エニーはこれからどんなことがしたいの?」

「大ばあちゃんを超える魔導士になりたいから、ちゃんと勉強して、それで、ロキにも教えてほしい」

「なるほど、魔導士として強くなりたいわけね。アルトリコさんは――、書物に関わることか」

「はい。新しい知識に触れることで、既知の情報が広がりを見せる瞬間が堪らなく好きでして……できればそのような環境で仕事をしたいと考えております」

「はは、なんか自分と近い感覚持ってますね。ケイラちゃんは、何がしたいとかあるかな?」

「えっと、ごめんなさい……まだ見つけられていなくて、だから、その、見つけたいなって、そう考えており、おります」

「そっか。あ、アルトリコさんもだけど、喋り方はそんな畏まらなくていいですからね」


 うーん。

 3人の要望、抱える容姿の問題も考えれば、ベザートじゃなく拠点だよなぁ……

 いちいち相談しなくても、この3人ならまず問題はないだろう。


「了解しました。では3人ともこちらで引き受けます。あぁヘディン王、生死に直結する話でもないのであげたりはしませんが、本の重複分や複製品は必要があればお売りすることもできますからね?」

「ふはは、逆の立場になってしまったか。残念ながら今は買う余裕がまったくないゆえ、最低でも3年ほどは待ってほしいものだ。必ず国を回復させるのでな」

「ですって、アルトリコさん」

「それでは、頑張って複製品も作っていかないといけませんね」


 こうして引越しの決まった3人が僅かな荷物を纏める中、俺は俺で王家の抱えていた羊皮紙を大量に購入。

 多少ラグリースに金を落としつつも皆で庭園に立ち寄り、各々がお別れの挨拶をしたあとに拠点へ転移した。









 ――が。


「ここがパルメラ大森林の中にある俺の拠点だよ。住民はこれから紹介するとして、ここに来た以上は皆さん俺の仲間と見なしますので、もう敬語は使いませんからそこんとこよろ―――」

「ヒッ……」

「ん?」


 真っ先に悲鳴をあげたのは、横にいたアルトリコさんだった。

 一歩二歩と、後退る中。


「あ、ロキお帰り~その人達だれ~?」


 血染めのナイフ片手に走ってくるのは、口回りを中心に赤く染めた、男か女かも分からない赤目の子供。

 その後ろを、全身血だらけの浅黒い男とデカいゴブリンが、真っ赤なノコギリを持って歩いてくる。

 ジェネに至ってはぷらぷらと、人の片足まで握っていた。


「ぎゃあああああ!! たた、たっ、食べられるぅー!!」

「私美味しくないですから! ちっとも美味しくないですから!」

「私のお肉なんて硬っ……ちょ、待って……はやっ……!」


 叫びながら物凄い勢いで逃げていく、3人の向かう先が魔物のいない崖の方であることに安堵し。

 その後、未だ大量にある裏庭の死体を見つめ、ボソリと呟く。


「あぁ、まだ作業中だったのね……」
394話 それぞれのやりたいことを

「我が名はゼオ・レグマイアー、魔人であり吸血人種だ。先ほどは見苦しい姿、大変失礼した。家は我が作るから安心してくれ」

「同じく吸血人種のカルラです。えーと、いつもは魔物が多いんだけど、人の装備を剥ぐ時もあるのでごめんなさい」

「ロッジだ。ドワーフで上級鍛冶師やってる。いきなりじゃビビるだろうが……ここにいたら日常茶飯事だから、とっとと慣れちまった方がいいぞ」

「アル、アルルルトリコ――」

「リコさん、名前が変わってる」

「アルトリコです! に、人間ではありますが、巨人種の血が強く出てしまっています。本に関わる仕事をする予定なので、よろ、よろしく、お願いします」

「ケ、ケイラ、です……えっと、おばあ様、じゃなくてニーヴァル様から、魚人種の先祖帰りと言われました。得意なことが何も無いので、ここで何かを見つけようと思ってます……」

「私はエニー! 凄い魔導士になりたくてここに来たから、よろしく!」

「ほぉ……」


 早速ゼオが反応を示しているけど、それは後だな。


「んで、ゼオの横にいるのがゴブリンのジェネ。俺が使役している魔物で、薪を割ってくれたり力仕事をいろいろと手伝ってくれるから、何か困ったことがあったらゼオかカルラ経由で伝えてね。あとその横にいる豚は皆のペットだから食べないように」

「グア」

「ぶー」

「「「……」」」

「希望ならラグリースに隣接したベザートの町に連れてってもいいけど、ここなら変わった人達しかいないし、人の目なんて気にせず自由に過ごせると思うからさ」

「たしかに、聞いたことない種族の人達が……」

「それはそうと、今回は|た《・》|ま《・》|た《・》|ま《・》ということですが、あの光景はどういう事情が……?」


 手の平で視界を塞ぎ、過剰に顔を背けながら俺に問うリコさん。

 まぁそうだよね。

 誰がどう見ても魔物ではなく、人の死体の山なのだから、ビビるのも当然のこと。

 だがロッジが言ったように、ここに住むならこのくらいは慣れてもらわないと困ってしまう。


「あれはラグリースに攻めてきた兵士や傭兵だよ」

「これほどの数が……」

「これでもほんの一部だけどね。今のリコさんもそうだろうけど、普通は死体がそこら中に転がっていたら嫌でしょ? だから倒した敵の遺体は今回に限らず、極力回収するようにしてるんだ。身に着けている装備も再利用できるしね」


 事実を説明すれば、決して直視しようとしなかったリコさんとケイラちゃんも、現実を確かめるように『山』を眺める。

 だがすぐ正常な状態に戻っていたエニーだけは、この死体の山に違う感想を持ったらしい。


「ということは、ここにいる人達全部、ロキが倒したってことでしょ?」

「そうだね」

「ならやっぱり頼って正解だった。私もこのくらい倒せるように強くなりたい! 私だって大ばあちゃんやロキみたいな、みんなを守れるような人になりたいから!」

「そっか……なら、ゼオ、エニーを強くしてあげてくれない?」

「ふむ」


 エニーの望む先は魔導士のエキスパートなのだ。

 どう考えても俺よりゼオの方が適任だろう。

 それにこういうところから、ゼオ自身の意識が変わる可能性だってある。


「ロキが教えてくれないの?」

「ははっ、ゼオは俺やカルラの師匠だよ? 今は事情があって力を回復させている最中だけど、昔は――、まぁなんていうか、亜人の総代表みたいな人になるくらいとんでもない魔導士だったって言えば分かる?」

「すごっ!」

「もちろん俺は俺でできるアドバイスはするけどさ。持っている知識量が全然違うし、早いうちからゼオに効率良く修業してもらえば、かなり強くなれると思うんだよね」

「しかしエニーは見たところ、ただの人間のように思えるが」

「そう!」

「ならば短き寿命の中で己を燃やし続ける必要がある。それほどの覚悟があるのか?」


 普通の人なら怖気づいてもおかしくはない、ゼオの試すような鋭い視線。

 それでも何も言わずに様子を見守っていると、エニーはほんの少しの間を置いてから答えた。


「あるよ。偉大な大ばあちゃんを超える魔導士になりたいもん。だから勉強も鍛錬も頑張る。いつか超えたってちゃんと報告できるように、絶対挫けたりしない」

「ふっ、そうか……ならば人間の子がどこまで伸びるのか、我も楽しませてもらうとするか」

「カルラ、外で魔物狩る時は必ずエニーも連れていくようにしてね。まずは最低限の土台を作るから」

「あ、ロッジみたいなやつね。いいよ~」


 とりあえずこれで、エニーには潤沢なスキルポイントと、これ以上ないほど優秀な師が付くことになる。

 あとは勉強の場だが――。


「リコさんの仕事場は、やっぱり静かな方が良いよね?」

「できればその方が嬉しいですね。集中して作業に入りたいですから」

「だよね~となると、ちょっと離すかな」


 本の集まる場所ってなると、どうしても静かな図書館を想像してしまう。

 万が一にも燃えないようにとなると、石作りの方が安全だし……それなら俺が小型倉庫みたいな建物を作ってしまえばいいか。

 そう思って普段俺達のいる資材倉庫や家がある場所と、約2㎞くらいは離れた崖にある食糧庫。

 その間くらいに、テニスコートサイズの倉庫を建造する。

 毎度の如くやっつけ感はハンパないが、その分出来上がりまでは驚異的なほどに早い。

 ついでに最低限残しておいた本棚や机を倉庫から持ってきて、ラグリースから貰ってきた本とヴァルツ王家から押収した本を全部取り出せばあら不思議。

 なんちゃって図書館の完成である。

 あとは乾燥用の魔道具と、光源魔道具でも用意しておけば問題なさそうだが。


「燃えると大変だから、この中で『火』だけは厳禁で。それ以外はちょっと殺風景だし、リコさんの自由にしてもらって構わないからね。倉庫にある物も好きに――、あぁ、そのうち階段作るから、それまではちょっと我慢しておいてほしいけど」

「み、見たことのない本が……こんなに……」

「どうかな? 宮殿なんかと比較されたらどうしようもないけど、このくらいの環境なら好きなことやれそう?」

「それはもう、十分過ぎるくらいで……!」

「そっかそっか。俺も本が好きで一通り自分で収納しておきたいから、まずは重複している本を確認してもらって、1種類ずつ複製品を作ってもらえると嬉しいかな。あ、これさっき買ってきた羊皮紙ね」

「もちろん、どんどん作らせてもらいますからね!」


 そう言って早速本の整理に入ろうとするリコさんへ、そうだそうだと、念のために確認しておく。


「あーあと、『鳳来草』って薬の素材、リコさんは聞いたことないかな?」

「鳳来草……薬の素材、ですか……」


 石化を解除させる『石解水』に必要なキーアイテム。

 クアドは「どこかで聞いたことがあるような……?」と呟いたまま思い出せずにいたが、本好きで知識欲の強そうなリコさんなら何か知っているかもしれない。

 そう思っての問いに、少し首を捻り―――、ハッとした様子で無造作に並べられた本の背表紙を確認。

 その中から一冊の本を俺の前に差し出した。

 名前は『マグリアットの悲劇』。

 名前だけ見ると、どこに接点があるのかさっぱり分からない。

 それでも何かあるのだろうと黙っていれば、リコさんはペラペラとページを捲り始める。


「確か後半の方に――……あ、ここです、ここ」


 そして指差された箇所を二人して眺めてみると――。


 登れ、登れ、天空の園。白白明けのその時に。

 振れ、振れ、鳳来草。食らいに幻鳥やってくる。

 獲れ、掴め、血濡れの中で。肝が王の命を救ってくれる。


 なんというか、想像していた内容と違って、思わず首を傾げてしまった。


「なんだこれ?」

「聞いたことありませんか? マグリアットの悲劇という伝記の一節で、吟遊詩人の歌や演劇の基になった物語としてそれなりに有名だと、以前おばあ様から聞いたことがあります」

「へぇ~確かに、鳳来草とは書かれているね。その鳳来草を餌にしちゃってるっぽいけど」

「あ、あら? 薬ならこれかなと思ったんですけど、違ってました?」

「いやいや、これもよく分からないけど凄そうな薬だし、なんか別の部分にも凄い興味湧いたし! ただ今は鳳来草の入手先が知りたかったんだよね」

「うーん、入手先は私も見た記憶が……」


 一応その手前側を捲ってみるも、この物語の主人公はなぜか都合良く持っていたようで、入手先を示すような内容は書かれていない。

 肝心なところを省くとは、バカ野郎な作者である。

 もしくはクアドがたまたま知らなかっただけで、そこまで希少ではないということなのか?


「もしさ、『鳳来草』の情報が見つかったら教えてよ。本当は自分で読みながら探したいんだけど、なかなか読む時間が取れなくて……ごめんね、複製品を作りながらのついでくらいでいいからさ」

「も、もちろんです! 他にも何かあったら言ってくださいね。全部覚えるつもりで頑張りますから!」

「ええ……」


 恐ろしいこと言ってるけど、早速軽い足取りで本の整理を始めたので、リコさんもこれで問題なさそうだな。

 あ、初めての女子組だし、とりあえずベッドもここに運んで、どうせならこの辺りに女子風呂も作ってしまうか。

 そう思って湖の畔に向かうと、少し離れたところでケイラちゃんが一人、湖とその先の滝を眺めていた。

 エニーは……早速ゼオとなんかやってるのか。


「良い景色でしょ」

「本当に、凄く綺麗なところですね。湖や滝って本の中でしか知らなくて、初めて見ることができました」

「あ、初めてなんだ。もしかしてさ、ケイラちゃんって泳いだことがない?」


 少しだけ気になっていたのだ。

 明らかに特技になり得るスキルを所持しているのに、自己紹介の時は得意なことがないと、ケイラちゃんはそう言っていた。

 性格から謙虚なだけかと思っていたけど、実際に【泳法】は所持していないし、もし王都周辺で生まれたのであれば、あの辺りに泳げるほどの川は見当たらなかったはずだ。


「はい。そんな機会もなかったので……」

「なるほどね。ケイラちゃんは自分で魚人種の先祖返りって分かっているわけだし、特異なスキルが発現していることは理解しているんでしょ?」

「【水中呼吸】ですよね?」

「そそ。俺からすれば、超が付くほど羨ましいスキル持ってるんだからさ。なんなら泳いでみたら? この時期なら絶対気持ち良いし、ここはかなり秘境だから水も綺麗だよ」

「え? 羨ましい、ですか?」

「そりゃそうでしょ~【水中呼吸】があれば、息継ぎ無しで深いところまで潜ったりできるかもしれないんだよ? 魚だっていっぱい獲れそうだし」

「は、初めて言われました……そっか、羨ましいと思ってくれる人もいるんですね……」

「ラグリースにいたら、使い所が無いで終わっちゃいそうだもんね。でもここなら誰の目を気にすることなく、自由に自分の特別なスキルを活かせるよ? それで皆の晩御飯獲ってきてくれたら俺は嬉しいけどね」

「それなら私、練習してみようと思います」

「うんうん。本は後ろの建物にいっぱいあるから、見ながらやりたいことが他に見つかったんなら試してみればいいし、ここなら誰も邪魔はしないからゆっくり探してみなよ」

「はい……! それじゃ早速泳ぎの練習してみますね!」

「あまり深くまで行かないようにね~」


 ポポポンと服を脱ぎ、走って湖に突撃していくケイラちゃんを見ながら、これも余計な心配なのかと頭を掻く。

 たぶん溺れるという事態に陥ることがないのだから、強者であるほど死因の一つを潰せる魅力的なスキルに映ることは間違いない。

 ガルグイユだってこのスキルがあれば溺死は避けられるし、あることは確実な、『海』の探索範囲も劇的に変わりそうだしなぁ……


 そんなことを考えながら女風呂を制作。

 湖でパシャパシャと可愛らしく練習している姿にホッコリしながら、次のやるべきことに考えを巡らせた。
395話 【獣血】とは

 夕暮れ前のベザート。

 目的の人物を探すも見当たらず、ウロウロしているとようやく知っていそうな顔見知りを発見した。


「お、メリーズさーん!」


 いつもの修道服っぽい恰好しているのに、がっつり丸太を2本担いで歩いてんだからビックリである。


「あら坊や、じゃなくて王様。どうしたんだい?」

「教会のことを聞きたくて、トレイル神官ってこの町に来てますよね?」

「じいさんなら川で釣りをしている子供達のお守りしてるよ。年もあってこんな丸太は持てないみたいだからね」

「あ、そっちか! ありがとうございます!」


 どうりで建築中の町中から【広域探査】を発動しても引っかからないわけだ。

 すぐに向かおうとするも、背後から呼び止められる声が掛かる。


「ちょっとお待ち、教会に関係することなら私も行くよ。若いシスター達が身動き取れなくて困ってたからね」


 あぁ、ここもか。

 教会が無ければ無職と同じになっちゃうもんな……

 新しく建つ動きが無ければ別の町に移るか、仕事を変える選択だって当然考えるだろう。

 ならばと二人で川に向かえば、確かに子供達の釣り針に餌を付けてあげている人達が何人かいた。


「じいさん、ロキ王が会いにきたよ!」

「おぉ、ロキ王、随分と大きな存在になられて……」

「あはは……それよりトレイルさん、この町にも教会欲しいですよね?」

「それはもちろんです。人を導く場は新しく造られているこの町にも必要ですから、町長に伝え、もう場所も確保しております」

「おっ、なら話が早いですね。そこに案内してもらえませんか?」


 心の拠り所なんていう曖昧な話ではなく、自身の所持スキルを確認し、スキルポイントを使用し、職業加護を得られる場所として、多くの人が生活を営む上では必須と言ってもいいくらいだからな。

 他にもいた見守りの爺さん婆さんに子供達は任せて向かった場所は、町の中心部にほど近い一角。

 大通りから少し中に入ったそこは何もない空地だったが、かなりゆとりある広さが確保されていた。

 ならばここも一旦は、簡易的な建物を作ってしまうか。

 石柱の建つ宮殿型の教会も俺はありだと思うけど、他でも統一されている形にしたいなら、そのうち余裕が生まれた時に作り直せばいい。


 ズズズズ……


「ん?」


 ズズズズズズズズ……


「は!?」


 ドゴッ……ドゴッ……


「はがっ!?」


 ドン! ドンドンドン!


「はぶら……ッッ!?」

 
 トレイルさんが横で死にかけているけど、これでとりあえず雨風も凌げるし問題ないかな。

 黒曜板だけはプライベートな内容だから、四方をちゃんと壁で覆って個室にしてあげよう。


「ぼ、坊や……あっという間にできた建物にも驚きだけど、この神像や黒曜板はどうしたんだい……」

「ベザートにあったやつですよ。教会も荒らされていたんで、最低限これだけ持ってきました」

「そ、それはよろしくないことですよ!? 教会はそれぞれ、ファンメル教皇国からの認可を受け――」

「大丈夫ですよ。神具の実質的な所有者であるヘディン王から移動の許可は貰ってますし、誰も住んでいない旧ベザートから新ベザートへ、"引越し"のために持ってきただけですから」

「確かにそうなのかもしれませんが、しかしここはまた別の国……」

「トレイルさん、一つ確認させてください。あなたの信仰は『女神様』に対してでしょうか? それとも『ファンメル教皇国』に対してでしょうか?」

「ッ!? 女神様に決まっております! それ以外には有り得ません!」

「良かった。それならば|絶《・》|対《・》|に《・》大丈夫ですから、安心して町の人達を導いてあげてください。もしファンメル教皇国が何か文句を言ってくるようなら、僕がすぐに出て解決させますから」


 なんせここへ寄る前、アリシアに直接確認を取っているからな。

 教会の建造に認可が必要なのはまぁ良いとしても、小さな亜人の集落なんかじゃ絶対無理だろってレベルの建造費用が掛かることなどまったく知らなかったので、ファンメル教皇国に怒っていたくらいだ。

 アリシアだから過激なことは言わなかったが、時期が来たらちゃんと神子に話すみたいだし、この件で俺が直接何かするようなことはない、はずだ、たぶんだが。


 さて、ベザートで取り急ぎやるべきことはこれくらいかな?

 あとは食糧不足に陥らないよう様子を見つつ、ヤーゴフさんやダンゲ町長から何か問題が上がってきたら、その時考えるとしよう。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 場所はマルタの中心部。

 完全に日も暮れ、火の焚かれた先にある入り口に向かえば、先日威嚇していた見張りの兵士が俺に気付き、これ以上ないほどの低姿勢で案内してくれる。


「こんばんは」


 この言葉にヒョイと軽く手を挙げたのはゴリラ伯爵。

 それを合図に人が消え、地下室には二人だけの空間が出来上がった。


「まず先に聞いておきたい。何故、【獣血】に興味を持った?」

「失礼ながら、癖でレイモンド伯爵のスキルを拝見しまして。その際かなり珍しい――というより、ファニーファニーでしか見たことのないスキルを所持されていたものですから」


 あの時は覗けなかったが、今は覗ける。


『【獣血】Lv3』


 見た目の特徴から可能性が高いと思っていたスキルを、伯爵は実際に所持していた。


「珍しいから、か……」

「ファニーファニーは目の前で異形の獣へと姿を変えました。見たことのない現象でしたし、獣人全てが所持しているわけでもないとなれば、興味を持っても不思議ではないでしょう?」

「確かにな。だが、私も知っていることはそう多くないぞ? 自分の身体に生まれもって発現していたスキルだ。伝手も使い情報を収集しようとしたが、発現事例があまりに少なく情報がほとんど出回っていなかった」

「それでも、分かる範囲でお聞きしたいんです」


 俺の今後に大きく関わってくる可能性があるのだ。

 頭を下げれば、少し慌てたようにレイモンド伯爵は答えてくれた。


「もちろん受けた恩義は甚大、私が知る限りのことは教えよう。そうだな……まず一つ、このスキルは先天性だ。後から何かをして取得できる類ではない」

「それは、"先祖返り"と似たようなものですかね?」

「そう思ってもらっても差し支えない。所持する【獣血】のスキルレベルと比例して、生まれた時から獣の特徴が色濃く出ると言われている」

「生まれた時から……つまり特徴が強く出ていれば、生まれた直後からスキルレベル5とかが備わっていることもあるということですか」

「あるではなく、|そ《・》|れ《・》|し《・》|か《・》|な《・》|い《・》、だろうな。この謎が多いスキルは、レベルを自ら上げることなどほぼ不可能に近いと思った方がいい」

「んん? どういうことですか?」

「生涯生まれた時に備わっていたスキルレベルのまま、ということだ。『祈祷』でレベル上昇が叶わぬことは私が自ら確認しているし、自然上昇したという話も聞いたことがない」

「祈祷でも上げられないって……そんなスキル初めて知りましたよ。もしかして、先天的な先祖返りに関係するスキルって、どれも似たようなモノなのなんですかね?」


 そうであれば、ケイラちゃんの【水中呼吸】やアルトリコさんの【痛覚遮断】もレベル固定ということになるが。


「いや、先天的な種族固有――有名どころで言えば魚人種の持つ【水中呼吸】は、使用し続ければスキルレベルも上昇すると聞く。そもそも獣人種で言う種族固有スキルは、所持率の比較的高い【威嚇】であって【獣血】などではないしな」

「なるほど……」


 確かに、範囲威圧の効果を及ぼす【威嚇】はファニーファニーから得られたし、その後も複数所持者がいたのか、気付けばスキルレベルは少し上がっていた。

 俺自身も普通に使えるわけだし、【水中呼吸】と同じ類の性質と見ていいだろう。

 となると、【獣血】とはいったいなんなのか。

 まず伯爵は、このスキルを使えるのだろうか?

 そう問うも、伯爵はゆっくりと首を横に振った。


「使えば人として終わる」

「……」

「【獣血】のスキルを使用すれば、自らの中に流れる獣の血を解放し、人から獣へ生まれ変わるとされている。それ以外にも常日頃から傷の回復が早かったり、生まれながら常人のソレより明らかに高い膂力が備わっていたりと、いくつか関連性のありそうな特徴もあったりするが……それが確実に【獣血】の影響なのかは所持者が少な過ぎて分かっていない」

「ファニーファニーの特徴にもそのまま当てはまりそうですけどね。"人として終わる"というのは、思考や記憶も、ということですか?」

「正確には分からぬが、強靭な肉体や身体能力と引き換えにただの獣へ成り下がると言われているからな。見ていたというのなら、獣と化したファニーファニーに自我はあったか?」

「いや、それが魔力を温存したくて、変化した直後に吹き飛ばしてしまったんですよね……」

「……そうか。スキルレベルが高いと再び人に戻れるという文献情報や噂もあったりはする。が、少なくとも私程度の"見た目"ではあまりにもリスクが高く、【獣血】は全てを捨てる覚悟で使う奥の手という認識しか持っていない」


 だからか。

 伯爵があそこまでボロボロになりながらもスキルを使用せず、ファニーファニーも死にかけになってようやく使用してきた理由はこれで納得できる。

 自我を捨てる覚悟で使う奥の手となれば、そんなのスキルレベルが仮に自然上昇するとしても、まともに経験値なぞ稼げるわけがない。

 しかし、問題はここからデバフの存在に繋がるのか、だな……

 伯爵の使えないは、使えるけど危険だから使わないだ。

 ファニーファニーだって実際に使用しているのだから、俺のような使えぬグレー文字とは違い、彼らにとっては|白《・》|文《・》|字《・》という認識でまず間違いないだろう。

 そして使いはしないけど、恩恵を不確かながらに感じている様子がある。

 ファニーファニーにも通じそうな、獣に近しいパッシブ型の恩恵を。


「奥の手という自発的な使用さえしなければ、先ほど言われていた傷の回復や力の強さなど、"スキルの恩恵"はありそうなわけですよね」

「確実ではないがな」

「となると恩恵とは逆、【獣血】があることによる障害を感じることはありますか? 例えば獣に由来しているようですから、|知《・》|性《・》|や《・》|冷《・》|静《・》|さ《・》|が《・》|失《・》|わ《・》|れ《・》|る《・》とか、何かがきっかけで|凶《・》|暴《・》|性《・》|が《・》|増《・》|す《・》、とか」

「障害というならこの容姿だろう。先祖返りに共通しやすいことだが、特異な身体の特徴は、普通に生きていく上で大きな壁になる」

「……それ以外は、特に無いと?」


 自分でも、薄々答えが分かっていながらの質問だった。

 伯爵は一見荒々しい雰囲気を感じる見た目だが、貴族という立場だからこその教養なのか、接点を持てば非常に聡明な印象が強い。

 この人以上に貴族らしい人物を俺はまだ見たことが無いし、獣のように本能や欲で動いている雰囲気はまるで感じられない。


「少なくとも私には無い。ファニーファニーのアレは本人の資質によるところと、あとは生い立ちの影響も強いだろう。あそこまでいけば、間違いなくただ生きることにも苦労しただろうからな」

「そうでしたか……」


 その後は礼を言い、使役した魔物が警護していることや巨大商店がオープンしたことなど、新ベザートのことで少しばかり情報を伝えたのちに外へ出るも、俺の気分はスッキリしない。

『毒』の可能性を考えていた【獣血】にそれらしいデバフの影響は見られず。

 まず大前提として、獣のような特徴の表面化とスキルレベルが連動しているというのに、俺の見た目は人間のまま、何一つ変わっていないのだ。

 この時点で使用不可のグレー文字は当然のこととも言え、パッシブの影響も無い代わりにデバフの影響も無いと判断する方が自然だった。

 となればやはり、誰よりも強くありたいと願う俺の欲から来るものなのか。

 それならそれで、『我慢』すればいいだけなのだから対処が楽とも言えるが……

 もしここに空白スキルが絡んでくるとなると、それこそ何も見えないのだからかなり厄介なことになる。

 はぁ。


(【獣血】は無関係っぽいけど、カルラの【魔力回生】は理解していたし、一度フィーリルにも相談してみるかな……)


 そんなことを考えながら、静けさの漂うマルタを後にした。
396話 一人、秘密基地にて

 古の時代。

 気付けば獣の血を色濃く継ぐ、不安定な『人』が世界に誕生していた。

 自我を失いすぐに暴走を引き起こしてしまうソレは、種を残すために少しずつ血が薄まり、現在の獣人にほど近い存在へと進化の過程を歩んでいく。

 その後に生まれたであろう魔人よりも、ずっとずっと昔の古代人種が持っていたであろうスキル――、か。

 フィーリルが懐かしむように教えてくれた情報は興味深く、しかし神の視点で見る漠然とした内容でもあったため、スキルに関する詳細までは掴めていない。

 先祖返りに関係するスキルの大半に当てはまるみたいだが、少なくとも6人全員がこのスキルを所持していないことはすぐに分かった。


 少し冷静になって考えたいと、ナイフで傷つけた自らの腕を眺めながら、秘密基地に一人腰掛け思考を巡らす。


「やっぱり傷の回復は早くなってないよなぁ……」


 伯爵の言っていた副次的な効果に目を向けるも、痛みや傷の治りに変化は感じられず、『力の増加』もステータス画面の能力値を見る限りは普通に思えた。

 となればいろいろと異質な【獣血】だが、今はこれ以上考えてもしょうがないか。

 ゴリラ伯爵はレベル固定のような認識を持っていたが、俺は所持する対象さえいれば、間違いなくレベルも上げられるはずだ。

 今後【獣血】のレベルが上がった時のために現状の状態を把握し、レベル上昇による影響をすぐ掴めるようにしておけばそれで十分。

 あとはこれ以上考えても気分が滅入るだけだし、継続して様子を見ていくしかないだろうという結論に達する。

 あれからはだいぶ落ち着いているし、何よりいざとなれば耐えることもできるわけだしね。


 うん、それよりだ。

 改めて【転換】のタブを開けば、溜まり具合を示す水がめの底は空のままだが、上部にある数字は『0』から『2』に上昇していた。

 カンスト済みのどのスキルが余剰経験値に回ったのかは分からないけど、確かに数字は増加しており、この時点でスキルの使用を意識すれば、割り振れる対象を示すためだろう。

 今までグレー文字だった魔物専用スキルや【獣血】も白文字に変わり、逆にカンスト済みのスキルだけがグレー文字に変化するという、非常に分かりやすい切り替えがステータス画面内で起きていた。

 一通り眺めても、色が変わっているのか判別不能な空白スキルを除けば、例外は今のところ存在していない。

 となればすることは当然、全ツッパである。


「【転換】を上げられるだけ上げてくれ」


『【転換】Lv2を取得しました』

『【転換】Lv3を取得しました』

『【転換】Lv4を取得しました』

『【転換】Lv5を取得しました』


 これでスキルポイント残は『34』、詳細説明を確認すればこのように変化していた。


【転換】Lv5 最大レベルまで上がったスキルの余剰経験値を蓄え、指定スキルの経験値に転換することが可能になる 転換率10% 常時発動型 魔力消費0


 転換率がレベル1の2%からレベル5の10%へ。

 これで最終の転換率は20%まず確定だな。

 あとはこの余剰経験値をある程度貯めたら、試しで『地図作成』か『魂装』か。

 他からは経験値を得られないスキルに突っ込みながら、上昇率を測れば無駄になることもないだろう。


 そしてそして――。

 書斎にある机の上に、ヴァルツからの押収分と、今日ヘディン王から貰ってきた『源書』や木箱を並べる。

『源書』は机いっぱいに広がるほど1枚が大きく、上部には明らかにページを表していると思われる数字が。

 木箱の中はまるで作りかけのパズルのように、部分的に繋がった状態の切れ端がいくつもの塊となって保管されていた。


「ん~まずは完成品ができるか、慎重に試してみるかな」


 ヴァルツ王家から得られた未完の切れ端も多数あるのだ。

 1つずつ、切れ端の裏に掛かれた数字を確認しながら並べていけば、『源書』の|い《・》|や《・》|ら《・》|し《・》|い《・》|仕《・》|様《・》|が《・》徐々に分かってくる。



 まず一つ、『叡智の切れ端』の段階では内容が表示されない。

 一番最初、初級ダンジョンのボス部屋で絡んできたアホなチンピラハンターから切れ端を得た時は、たまたま"余白"の部分だったのかなと考えていたが……

 目の前にある切れ端はどれも謎の文字と数字があるだけで、内容は一切記載されておらず。

 それは例えば『5-16』と『5-17』など、切れ端同士が繋がった状態だとしても、1ページが完成するまでは中身が見られないという意地悪な仕様になっていた。

 隣接する切れ端同士であれば、合わせるように近づければ切れ目すらなくなって繋がるのだから、明らかにフェルザ様が狙ってこの仕様にしたんだろうな。


 そして一度繋がれば、再びバラすことができないのもかなり痛い。

 今回ヴァルツとラグリースの両方から切れ端を得られたわけだが、どちらも切れ端が繋がった状態の塊があり、この部分だけをこっちに移したいという箇所がいくつもあった。

 が、パズルとは違って切れ目が無くなるので再び分けることができず、裏面も『5-16-17』とわざわざ表記方法が変更されているいやらしさ。

 ここでビリッと塊を無理やり破る勇気はないし、こんな魔法的な要素が組み込まれたモノなら無効になるような未来しか見えないので、2ヵ国分を合わせてもほとんど追加の完成品が生まれることはなかった。

 今後は大きい方の塊に合体させていくか、完品の見通しが立つまでバラバラのまま保管し、無理に繋げない方が得策だろうな。


 まぁそれでも完品は1~24ページまで。

 切れ端も最大で40番台まで手元にあるので、あとはここからコツコツと無いモノをかき集めていけば、この世界の様々な真実に触れることができるんじゃないかなと思っている。

 この管理も本人が好きそうだし、アルトリコさんに任せちゃってもいいかなぁ。

 拠点なら火事さえ気を付ければ、盗難の心配は皆無だしね。


 ちなみに肝心の中身はというと、これはもう正しく『設定書』になるんだろう。

 まだ番号が若いということもあってか、内容は『職業』『スキル』『魔物』の情報ばかりだったが、職業は所持している『転職しよう 職業一覧 改訂版』の内容に加え、20ページ以降にある中級職の一部には本にも記載されていなかったはずの職業補正が。

 スキルは俺が見ているステータス画面の内容そのままだと思われる、レベル1~レベル10までの詳細説明が一覧化されており、魔物に関してはハンターギルドのような書き手の主観は入っておらず、魔物の絵、大きさ、狩場名称の記載された生息域まで細かく記載されていた。

 先日バーシェから譲り受けた魔物情報とはやや中身の質に違いはあるが、あちらは情報元の源書からどれほどの人を経由しているか分からないからな。

 そのまま内容を書き写したという保証もないし、本来はこのくらいの情報が載るものと思っておけば良さそうだ。

 このページ数だと『職業』はほぼ初級、『魔物』もEランクの途中まで、『スキル』も一般的に認知度の高そうなあり触れたモノしか記載されていないが。


「ふふっ、ここからだな、ここから……」


 この手の情報を見れば、どうしてもワクワクが止まらなくて。

 お金を貯め、欠けている情報を集めて、この世界を余すことなく冒険をしたいと思ってしまう。

 あとちょっとだ。

 この立場でやるべきことをあと少しだけ終わらせられれば、また世界を巡る旅に出ることができる。

 そのためにも、今のうちに進めるだけ進めておくかな?

 そう思い、俺は拠点の東側へ移動。

 そこから適度に【探査】で拾える魔物を狩りつつ、ひたすら東に向かって深夜のマッピングを進めていった。
397話 久しぶりにあの地へ

「うーん、久しぶりだなー」

 仙人が住んでいそうな高く険しい岩山が聳え立ち、雲のかかる上空を大小さまざまな生物が飛んでいる。

 そう、ここは過去に1度だけ訪れた国。

 俺はハンスさんの治めるエリオン共和国を訪れていた。

 地理的になんとなく予想はしていたけど、エリオン共和国の西側はパルメラ大森林に隣接しており、つまりはアースガルドとお隣さんの関係だ。

 ヘディン王以外で他に唯一知っている国のトップなわけだし、強国相手にそのうち訪れようなどと悠長なことは言っていられないだろう。


(視線は相変わらずか……)


 装備の大半はロッジに渡しているため、今はゴテゴテとした戦闘衣装に身を包んでいるわけではない。

 にも拘わらず距離を空け、怯えながらも様子を窺う者達が多いのは以前と変わらず。

 それでも襲ってこないだけマシだろうと思いながら階段を上り、上から眺めるように見張っていた獣人の兵士に声を掛ける。


「すみません。ハンスさんとの面会を希望しているんですが、謁見の予約とかって必要なんですかね?」

「それは当然だが……願えば誰でも通せるわけではない。まず貴殿は何者で、ハンス様にどのような用件があって謁見を求めるか?」

「えーと、アースガルドという国を興しまして。それで新しい隣人として挨拶に来たんですよ。僕は異世界人ロキ、そう伝えてもらえれば知り合いですから、ハンスさんはすぐ分かると思います」

「い、異世界人……? それに、国、ですか……?」


 反応からすると、たぶん事情はまったく把握していない。

 それでもこの言葉に委縮した様子を見せた兵は、道の反対側に立つ兵士に目配せをし、その兵はすぐに奥の宮殿へと慌てた様子で駆け込んでいく。

 特にこの国は、異世界人という言葉の影響力が強いだろうからなぁ……

 そして待つこと暫し。

 兵に連れられ宮殿から現れたのは、見覚えだけはある狼頭の獣人と、もう一人は特徴的な帽子を被り、黒い布で目元を覆った女性だった。


「あ、メイビラさん。お久しぶりです」

「………やはり、以前に連れられてきた子供姿の者でしたか」

「ふむ、ボスの知り合いであり、あの知らせにあった本人となれば『挨拶』というのも頷ける。新たなる王よ、我らが案内させていただこう」


 はぁ。

 王として名を表に出すと決めたのは自分なのだから、いい加減この畏まった対応にも慣れていくしかないのかな。

 普通にしてほしいとその都度対応することに面倒さを感じつつ二人の後をついていけば、この国の重鎮であり重要戦力と思われる面々が興味深げな様子で俺を眺めていた。

 なぜか、以前にも見た銀毛のデカい獣は半身を起こし、牙を見せてグルグルと低く唸っているが……

 様々な視線を浴びながら向かった先は、この建物にしては珍しく、やや煌びやかな印象を受ける広めの部屋。

 そして大きな机を挟んだ奥には、目の覚めるような青い髪をした目的の人物が座っていた。


「よう、久しぶりだな。元気そうじゃねーか」

「お久しぶりです。ハンスさんもお元気そうで、急に訪ねてしまってすみません」

「カカッ、んなこと気にすんなよ。来た理由はコイツだろ?」


 そう言いながら、手でヒラヒラと振ったのは一枚の羊皮紙。

 あれが各所に送ったという、ヘディン王からの手紙だろう。

 詳しい中身は知らないけど、既に届いているのであれば話が早い。


「ええ、パルメラ大森林を領土とする国を興したので、それでまずはご挨拶にと」

「まさかロキが異世界人の王を名乗るとはなぁ。つーかパルメラなんて、どこまで行ったって森しか見たことねーけどよ。あそこに人が住めるような場所なんてあんのか?」

「いや、僕も領土とか言いつつ一部しか把握してないんですけどね。当たり前のように魔物が周囲をうろついている中で開拓してますよ……」

「くははっ! 今更原始人みたいな生活とか、おまえもモノ好きなやつだな」


 いきなり大笑いされているが、傍から見たらその通りなんだよなぁ。

 まぁ何もないからこそ、自由で楽しかったりもするが。


「あぁ~腹いて……んで、ロキはなぜ国を興し、王を名乗ることにしたんだ? 当然理由があるんだろ?」 

「もちろんです。守りたいと思う人達を自分の手で守れるように、あとは外に対しての威嚇も込めて、自分の名前を表に出したってところですかね」

「俺と似たようなもんか」

「そりゃそうですよ。きっかけはラグリースの王から受けた打診ですけど、決断に至ったのはハンスさんという手本になる人物を知っていたからですし」

「おいおい、俺のせいってか?」


 ハンスさんは頬を掻きながら苦笑いしてるけど、これは紛れもない事実。

 考え方に共感できる人が行動に移し、実際に守られている人達と会えたから、俺もという気持ちになれたんだ。


「ちなみによ。自国に手を出したらタダじゃおかねーぞっていう意味での威嚇は分かるが、ここに書かれているもう一つも本気なのか?」

「えーと、中身までは詳しく把握していなくて……もう一つというのは?」

「『地図』を悪用したからヴァルツ王家は吹っ飛ばされた。今後も同じように『地図』を軍事利用する国があれば、"異世界人ロキ"がその国の中枢をふっ飛ばすって書かれてるぜ?」


 数秒前とは打って変わり、ハンスさんの表情は真剣そのもの。

 自身がまさにその中枢なのだから当然のことだろう。

 ならばと俺は、予め決めていた答えを大真面目に答える。

 決してハンスさんと敵対などしたくはないが、だからと言って馬鹿正直になんでも答えるわけにはいかない。

 ここにはハンスさん以外の人達もいるわけだし、ベザートのリスクが増すような行動――俺が転生者ではなく転移者であることだけはしっかり伏せさせていただく。


「潰した理由はそれだけじゃないですけどね。地図は皆が幸せになるために利用してほしいですから、自分だけが得をしようと悪用し、周囲に害を与えるような国のトップは見せしめにと、程度にもよりますけどそう思っています」

「なるほどな……いろいろ突っ込みたいところも多いが、やはり地図を生み出していたのはロキだったか。どうやって、存在に気付けた?」

「スキルですよ。職業加護で得られる恩恵の一つに、【地図作成】という特殊なスキルがあるんです。長く所有者はいなかったっぽいですけど」

「かぁーマジかよ……ここ最近まで、頭ん中にしか地図が無いことに疑問を感じなかったのは、そのスキルが絡んでやがるからなのか……?」


 この言葉でどちらか不確定だった転生者も、"世界の縛り"にしっかり巻き込まれていたのは確定かな。

 マリーも勇者タクヤも地図は所持しておらず、ハンスさんのように俺の作った実物から存在を認識したとしても、精度の高いモノを自ら生み出すことは相当困難だろう。


「それはなんとも。ただ個々が頭の中で思い描く独自の地図しかなかったせいで、この世界は物流も情報の伝達もボロボロだったわけですから、僕はそれを地球のような正常の流れにしていきたいなって」

「それで地図の良いところだけを活かそうとしているわけか」

「そうなります。簡単なことじゃないのは分かっていますしやり方は乱暴ですけど、それが自分達の国を守るための脅しにもなり、最終的には多くの人が幸せを掴めるやり方だと思っていますから」

「……だってよ?」


 警戒されているのか、それともこの程度なら緩い方なのか。

 ハンスさんの背後を定位置と言わんばかりにメイビラさんが。

 その脇に山羊の獣人が立ち、先ほどの狼頭獣人含め、明らかに雰囲気から戦闘を得意とする者達が俺の背後に数名控えていることは分かっていた。

 その者達へ意見を求めるように、ハンスさんは周囲をゆっくりと見渡す。

 が、周囲が何かを言葉にすることは無かった。

 ハンスさんが先に口を開いたからだ。


「悪い、うちの幹部連中にもこの手紙を見せていてな。内容が内容だから警戒っつーか、ロキがどんな考えを持っているのか興味を示すやつが多かったんだ」

「なるほど」

「が、蓋を開けてみりゃ俺の思想と大して変わらなかった。手の上から零れ落ちるような守り方をするくらいなら、しっかり掴んで握りしめろ。ついでにその拳で敵は思いっきりぶん殴ってやれってな」


 そう言いながら拳を強く握って突き出すハンスさんに、思わずクスッと笑いながら同意を示す。


「その通りですね。今回の戦争で自分の考え方では温かったと痛感しましたから」

「それに地図があることの利点は、俺が異世界人だからこそ余計に理解もできる。そろそろ、アイツらも次の段階に進んでもらわなきゃならねーしな」

「アイツら……もしかして、人間に怯えていた人達ですか?」

「あぁ、人間だから全員が全員悪ってわけでもねーんだ。うちの地図が広まれば人の出入りだって必然的に増える。なら良い機会だと思って、少しずつ接点持たせて克服に繋げていかねーとよ」

「ふふ、僕は政治なんてさっぱりですけど、それでもやっぱりハンスさんは見習うべき為政者に見えますね」

「ったく、褒めたってなんも出ねーぞ……たんぽぽちゃん、抱いてくか?」

「待ってました、その言葉」


 エリオン共和国のような領土拡張を主目的としない、誰かを守るための国なら俺が敵対するなんてことはまず有り得ない。

 そのことが分かったのか、部屋にいた人達は幾分緊張が解れ、表情が和らいだ様子だった。

 その後は癒し場でお互いモフモフしながら近況報告も兼ねた情報交換をしつつ、俺は俺で気になっていた【魔物使役】の重要な仕様をいくつか確認し――。


(知らせの『青』と、緊急の『赤』か……)


 ――最後に、【洞察】を使用してからこの国をあとにした。
398話 見えない答え

 最重要の隣国にも無事、国として認められたあと。

 そのまま細かい仕事をいくつか終わらせた俺は、監視業務についているリル以外は自由時間となっていた夜の上台地で、アリシアにお礼の言葉を伝える。


「アリシア~ありがとね。早速下台地に設置してきたよ。教会なんて作れないから崖の中にボンと置いただけだけど」

「私達は教会に拘りなどありませんから、場所はどこでも大丈夫ですよ」

「下台地に神具を使う人なんているんですか~?」

「いるいる。鍛冶師のロッジは職業選択だってしてるし、今回新しく来た3人も普通に使うはずだよ」

「あら、あの3人も亜人かなと勝手に思っていましたけど、使う方の人達なんですね~」

「あれ? 一応3人とも人間だけど、もう知ってるんだ?」

「もちろんですよ~皆お風呂に入りながらよく眺めていますから~」

「え!?」


 フィーリルの発言に衝撃が走るも、こればかりはしょうがないか。

 あの場所なら下を見渡すためにあると言っても過言ではないし、アリシアには何かあれば力になってあげてほしいと伝えているのだ。

 俺自身があちこち移動していてほとんど留守にしているのだから、不在時に見守ってくれているのならより安心できるってもんである……たぶんだけど。


「あ、そうだそうだ。ちょっと渡したいというか、見せたいモノがあって、リアはどっかにいる?」

「奥の森だと思いますから……ちょっと待ってくださいね」


 そう言って意識が一時的に無くなれば、川の方から釣り竿魔道具『凄六』とデカい石の壺を持ったリアが歩いてきた。


「100匹くらい釣れた」

「いやいや、釣り過ぎじゃない……?」


 魔道具『凄六』が凄いのか、【釣り】スキルを持ち込んで本気で挑んでんのか分からないけど、どう考えてもやり過ぎである。


「リア、獲るなら食べられる分くらいにしないと駄目ですよ~?」

「そうだそうだ。粗末にしたら罰が当たるんだから、まだ夕飯食べてないし、3匹くらい頂戴――」


 そう言いながら近づいた時。


 ボトッ。


 一瞬目が見開き、持っていた『凄六』を地面に落とすリア。

 すぐにその眼は鋭く俺を捉え、その圧に思わず息を呑む。

 え、なに、今ので怒ったの?

 それとも俺の悩ましい『欲』に、もう突っ込みを入れてくるのか?

 事態が飲み込めず、固まったまま思考だけが巡っていると、壺を持ったままサササーッと、物凄い速さで俺の目の前に立つリア。


「あ、あの、ちょっと、怖いんでブッ!」


 そしてなぜか頭に一発、水平チョップを喰らう。


「ッ……!?」

「いだっ……ちょっと痛いんだけど!」


 が、驚愕の表情を浮かべているのはなぜかリアの方で。

 そのまま漏らした言葉に、俺まで強い衝撃を受ける。


「ま、負けてる……?」

「ファッ!?……ア、アリシア、フィーリル、ちょっとこっちに!」

「「??」」


 地面はまぁ平らだ、測定に支障はないだろう。

 となれば、やることは一つ。


「リア、壺置いて、ピンと立って。もっとしっかり、ピンと! そう、そのまま!」


 そして俺も背中合わせに立ち、正面を見据えながらアリシアとフェリンに声を掛ける。


「「どっちが高い?」」


 自然と重なり合う言葉。

 対してアリシアとフィーリルは、頭の上部を数度サワサワした後、すぐに答えを出してくれた。


「あらら~ロキ君の方がほんの少し高くなってますよ~?」

「ッ!?」

「マジか……」

「本当ですね。いつの間に伸びたんでしょうか?」

「ちょ、ちょっと待って、そのまま、ちょっとだけ……」


 どうする……

 一時は謎の若返りスキルがレベル上昇して成長ストップ。

 最後は強制不老の可能性まで考えていただけに、予定通りあるべき成長期が訪れてくれたのは非常に喜ばしいこと。

 それにこのまま隠れている可能性のある【魔力回生】を使用できれば、空白スキルは【魔力回生】と【ステータス表示】で確定的になる。

 背が縮めばそれだけで判別できるのだから、これほど分かりやすいことはないが……

 しかし本当に縮んでしまえば、また子供姿のまま暫く過ごす必要が出てくるのか。


「ロ、ロキ君? 大丈夫ですか?」


 いや、それでもやるべきだ。

 デバフが絡む可能性もあるのなら、なるべく早く空白スキルの正体は見極めた方がいい。


「ごめん、大丈夫だから。もう1回、慎重に測ってみてくれない?」


 言いながら、かつてゼオに教えられた『肉体を望む年齢まで戻す』という効果をイメージしつつ、心の中でスキル名を唱える。


 ――【魔力回生】――『肉体を13歳に戻してくれ』


 たかが1歳程度。

 ならばカルラが使用できているわけだし、魔力が足らないなんてことはまず有り得ないだろう。

 さぁ、どうなる――。


「ん~やはり、ロキ君の方がちょっとだけ大きいですよ?」

「そうですねぇ~もしかして小っちゃいままの方が良いんですか~?」

「なんて贅沢……」


(魔力が、減らない……?)


「あ、いや違くて。予定通りいけば、2ヵ月後くらいにはフェリンとアリシアも超えて、たぶんフィーリルと同じくらいにはなるのかなって。いやいやこれは、装備の製作も一度中断しないと」


 それとなく会話は合わせるも、頭の中ではまったく違うことばかりを考える。

 マジかよ……

【魔力回生】の効果が発動しないとなると、若返った現象はそもそもスキルじゃない可能性もあるのか。

 そうだとすれば、残りの空白スキルは――。


 人を、生き物を殺すことで経験の一部を得る能力。


 これが初めからスキルとして備わっていたということ……?

 くそっ、どこまでいっても答えが見えなければ予想の域を抜け出せない。


 はぁ――……


 まぁどうせすぐに試す機会は訪れるのだ。

 答えに近づくためには、本当にデバフ効果が俺自身に発生しているのか試していくしかないか。

 それより今は、本来の目的を。


「背も大事だけど、それよりリアに渡したいものがあって呼んだんだから、凹んでないでこっちに注目」

「?」


 ドン!


 そう言いながら目の前に取り出したのは、ヴァルツ王家の地下から回収した特大サイズのストレージルーム。

【空間魔法】の所持者くらいしか持ち運べないなら売り物になるとは思えないし、拠点にもまったく必要性がないので、クアド商会用の特別な保管倉庫にでもしようかどうしようか。

 悩みながら存在をそのまま忘れていたわけだが、よくよく考えればこれも魔石で補助をするタイプの魔道具である。

 ならば専門のリアに一度託すべきかなと考えていた。


「リステが言うには、どこかにいる転生者が作った説濃厚らしいけど、どう?」

「魔法陣で効果の増幅と使用条件を限定させてる?」

「俺に聞かれてもさっぱり。分かっていることは使用者の魔力が『1』だけ消費されるから誰でも使えて、その魔力で使用者を識別しつつ、不足分は下の魔石収納箱から供給されていることくらいかな」

「……凄いね。この魔法陣の中身を解析できれば仕組みが――……」


 案の定、背丈のことなど忘れて夢中になったな。

 やはりこの手の内容がリアには一番ハマるらしい。


「飽きたらベザートのお店に運ぶから、しばらくはリアに貸しておくよ」

「うん。1週間くらいもあれば十分だけど、これは細かく調べてみたい」

「だからさ」

「?」

「この魔法陣ってのが解析できたら、いつか転移陣を作ってよ」

「転移陣?」


 最終的な目標だな。

【魔法学】や【魔道具作成】の作成もジョブ系に該当しているので、俺では仮に取り組んだとしても相当時間が掛かるし、そんなことをするくらいなら俺は狩りをして強くなりたい。

 でも好きでスキルも備わっているリアなら、早い段階でその域まで到達する可能性だってある。


「魔法陣ってこれと、あとはダンジョンの最奥にあった転移陣しか俺は見たことがないんだよね」

「……」

「なら魔法陣の仕組みやその手の知識に強くなれば、複製不可能な神の創造物なんて呼ばれているモノも、リアならいつか作れるのかなーって」

「神の、創造物……」

「そっ、人じゃ作れないモノを作るって、凄く神様っぽいでしょ?」

「……本気、出してみる」


 プライドが刺激されたのかな。

 横の二人は若干不安そうだけど、リアの目に珍しく光が灯っているのだから、これは成果物にも期待しつつ全力で応援しておこう。

 人に迷惑を掛けない範囲でやりたいことができるのなら、それが一番いいのだから。


 となると、ここは邪魔しちゃいけないかな?

 そう思いながらも前回の経緯があるため、一応声を掛けておく。



「明日からジュロイ王国に行く予定だけど、こないだみたいに一緒に行く?」
************************************************
ここで自国の開拓編は終了となります。
ほとんど成長していないので(【転換】をゲットしたくらい)、ロキの手帳は今回お休み。
キャラクター一覧も新しいのは町長と魔石やのお姉ちゃんくらいなので、次章が終わった時にでも更新しようと思います(たんぽぽちゃんは追加しておきました)
というわけで、13章開始は明後日から。
引き続き楽しめそうな方はお楽しみください。
399話 調査開始

 ラグリースの南西部に存在し、現在はジュロイ王国の領土となっている、旧オーバル領の領都『テロイア』。

 そこは以前様子を見にきた時と違い、人の動く姿がそれなりに確認できた。

 しかし、大半は鎧を纏った兵士達で。

 どこを見渡しても大量に存在する腐乱した死体を、フラつきながら点在する火葬場に運んでいく姿ばかりが目に付く。


(ジュロイ側の兵じゃない……王都に派兵されていた兵士が戻ってきたのか)


 国を守るために決死の覚悟で戦場に向かい、戦勝に喜びながら帰還すれば、なぜか戦場になるはずのなかった自分達の町が壊滅的な被害を受けているのだ。

 衣類を剥ぎ取られたような痕跡も目立つ、虫のたかった家族の死体を抱える兵士達の心中を察すれば、こんな事態を引き起こしたゴミ野郎にはどんな地獄を味わわせるべきなのか。

 リアはサッと目を逸らしながらパスを宣告したので、今回は俺だけでなんとかしないといけない。


「すみません、ここに兵の指揮を執っていた方がいると聞いたのですが」

「そうだが、一時避難から戻った町の子供か? 兵に死者はいないから、父親なら町のどこかに――」

「いえ、僕は異世界人のロキと言います。オーバル領が広く襲われた件で、派兵の指揮を執っていたというオーバル侯爵の甥の方に事情を伺いたいんです」

「ほ、ほっ、本物、ですか……?」

「もちろんです。西側に制裁を加える目的で来ていますので、お願いします」


 そう伝えれば、目の色が変わったように一部が崩れた屋敷の中へ案内してくれる。

 奥にいたのは、いくつもの木箱に詰まった食料を兵と一緒に振り分ける、20代半ばくらいに見える青年。

 そのまま案内してくれた兵が走り寄ると、電撃が走ったように肩を跳ね上げながらこちらに勢い良く振り返る。


「タ、タナート様、隣国であり、宗主国の、王が……」

「ッ!? あ、あなた様が、アースガルドの……我らをお救いになってくださったお方か……」

「ちょっ、お互い忙しいと思いますし、ね? そんなことは不要ですから、早速本題に入りましょう、本題に」


 オロオロとそのまま跪こうとされてもこちらが困るだけだ。

 とっととアホを見つけ出して狩りに戻りたいのだから、ササッと用件のみのやり取りで十分である。


「僕はオーバル領が襲われた件を調査していまして、シラグ宰相からオーバル領は派兵の指揮をあなたが執っていたと聞いたんですけど、それは間違いないですか?」

「そ、その通りです」

「あなたが王都に向かう時は町におかしな点はなく、兵と共に帰ってきたらこの有様になっていたと」

「はい。私も、兵の皆も、多くの私財を失い、家族を失いました。『テロイア』の手前にあった町も、ジュロイに最も近い『テルバード』まで同じ光景が続いていると聞いています……」

「……オーバル侯爵はどちらに?」

「分かりません。逃げ延びた者達から、町は見たこともない巨大な盗賊団に襲われたと聞いていますので、既に殺されてしまった可能性もありますが……遺体発見の報告はまだ上がっていませんので」

「盗賊連中に侯爵が殺されてしまう可能性も浮上するほど、警備は薄かったということですか」

「オーバル領は隣接国が長年同盟関係ということもあり、元から配備されていた兵数はそう多くありませんでしたから。それが国の危機となり、領内の騎士を含む2万の兵を搔き集めたので、この地に残されたのは身辺を警護する最低限の領兵くらいではなかったのかと思われます」


 嘘を吐いている様子はまるでなし、だな。

 となると、あとはオーバル侯爵が本当に死んでいるのかどうか。


「ちなみにタナートさんはオーバル侯爵の甥に当たるそうですけど、失礼ながら、その関係性で2万にも及ぶ兵の指揮を執ることは普通なんですか?」


 的外れなのかも分からない違和感。

 国が存亡の危機であり、領内から兵を搔き集めたというのなら、普通はオーバル侯爵自身が指揮を執って王都に向かいそうなものだが……


「同盟国とは言え所詮は他国なわけですから、ジュロイの裏切りに備えてオーバル侯爵がこの地に残るというのは十分あり得ることです。いざとなればその立場と発言力を以て、領民に武器を持たせてでも自国を守るために対抗するわけですから」

「なるほど、それもそう――」

「ただ……ッ! ただ……そうであっても、本来であればオーバル侯爵のご子息が指揮を執るものです。幼子であれば話は別ですが、長男であり子爵の立場でもあるオスター様も、次男であるティリッジ様も、私とそう年は変わりませんので」

「……ちなみに、そのお二人の遺体は?」

「まだ見当たりません。というよりも、オーバル侯爵家の遺体が一つも見当たりません」


 やるせないだろうな……

 本人も何が起きたのかを予想できているからか、見れば強く握られた両の拳は震えていた。

 甥という立場で無理やり指揮を執らされ、敗戦が濃厚な死地へ向かわせられたにも拘わらず、いざ戻ってみれば町は壊滅。

 同じように死地へ向かった者達は多くを失っているのに、肝心のオーバル家はまるでこの地から逃げたように行方知れずともなれば当然か。


「概ね事情は把握できました。これはお礼ですから、大した量じゃありませんけど皆さんで食べてください」


 言いながら多少残していたユニコーンの死体を放出して去ろうとすれば、背後から懇願するように声が掛かる。

 振り返れば、周りにいた兵士達も、皆が皆、同じような目をしていた。


「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……何卒、国を、民を裏切るような者達がいたのならば、大いなる罰を……ッ!」

「もちろんですよ。もしそのような輩が本当にいるのだとしたら、その時はこの世の地獄を味わわせますから、ご安心を」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 その後は領都『テロイア』を離れ、飛行しながらひたすら西へ。

 ラグリース側の最西端である『テルバード』を越えれば少し大きめな川が流れており、先の方にはジュロイ側となる町の一端が僅かに見え始めていた。

 そのまま町に向かい、適当な屋根に降り立って周囲を見渡すと、戦争とは無縁と言ってもいいくらいにありふれた日常の姿が。


「予想通りか」


 川を挟めばこれだけ平和とは、随分ジュロイ側に配慮した盗賊団だなと、この光景を見れば思わず鼻で笑ってしまう。

 こちらでは女性や子供の姿もあり、大通りに面する露店市のような場所では、様々な食材や貴金属、魔道具などが――……


「すみません。こちらは並べられている品が随分と雑多な印象ですが、何か理由が?」

「んあ? 近くでかなり大規模な盗賊団の討伐があったみたいでよ。そん時の戦利品だっつって兵士が売りに来たんだ。ここに並んでいる露店なんてほとんどが連中の買取品だろ」

「なるほど……」


 ――【広域探査】――『盗賊に扮した者』


「ん? この町の兵士とは違うんですかね?」

「かなりの数だったから『カルージュ』から来た連中じゃねーか? こんな外れの町なんて、兵士は僅かな門兵と衛兵くらいだしな」

「そうでしたか、ありがとうございます」

「あ、おい、あんちゃん! なんか買ってかねーか? あるもん限りだぜ!」


 ベザートに毛が生えた程度の小さな町だとは思っていたけど、盗賊に扮して動いたであろう実行犯の反応は一人も無し。

 それどころか住民は、盗賊団を討伐したのがジュロイの兵士だと思っているわけか。


(現実的にまずその線はなさそうに思えるが……)


 まぁ、その町に行けば答えも見えてくるか。

 そう思いながらハンターギルドに一応立ち寄り、もう少し住民から情報を探った上で、レイムハルト辺境伯というこの一帯を治める貴族の拠点。

 領都『カルージュ』へ向かった。
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書き忘れていたけど前話でステージⅢ(3部)に移行。
1部は175話まで。
2部は398話まで。
それでは章が終わるまでこのペースで投稿が続きますので(予約し忘れなければ)、3部+13章をまったりお楽しみください。
400話 質問と尋問と拷問と

 城壁に囲まれた中規模の町『カルージュ』。

 山間に造られた高低差のあるこの町は、高台にいくほど建造物が立派になっており、頭を潰しやすそうなこの構造には感謝したいくらいだが。


(まいったな……)


 |犯《・》|人《・》|が《・》|多《・》|過《・》|ぎ《・》|て《・》、俺はいったい何から手を付ければいいのか。

 逆に身動きが取れなくなってしまっていた。

 数までは拾えない【広域探査】の結果は『無数』と表現するに等しく、視界に入る対象と照らし合わせれば、大多数の兵士が盗賊に扮していたことがすぐに分かる。

 変装をしたところで判別の方法などいくつもあるというのに、バレないと思っているのか。

 今も目の前で兵同士がくだらない自慢話に花を咲かせているのだから呑気なものだ。

 多くは事情を知らない『白』の町民。


「……おい」


 勢いで一掃なんてできるわけもなく、しかしチマチマやっていたらどんどん逃げられるだろうし、ここはまず頭から狙うべきか――。


「おい、そこのガキ」

「?」

「おまえ、さっきから何見てやがんだよコラ」

「見てはいないですよ? 追いかけ回して何人狩ったとか、売ったら20万ビーケくらいになったとか、そんな自慢話を聞いていただけです」

「……何人なんて一言も言ってねぇだろ、|何《・》|匹《・》だ」

「人を匹と数えるのもだいぶ問題だと思いますけど」

「おい、こいつ……」

「あぁ。おまえよ、なーんか悪ぃことしてそうな顔してんなぁ。ちょっと話聞きてぇから奥行こうや。逃げようとしやがったら足を斬り飛ばすからな?」


 ……丁度良いか。

 実行犯であるこの二人から情報を搾り取って、そこから手早く済む作戦を練るとしよう。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ぁ、だッ……たすけ……」

「あなたはちょっと黙っていてくださいね」


 場所は恒例のパルメラ内部。

 人目に付かない場所としては格別に優秀なこの場所で、ドブルと名乗る聞き手役だった男だけに強制の奴隷化を施す。


「さて、あなたにはいろいろと聞きたいことがありまして。まずカルージュの兵が盗賊に偽装してラグリース内のオーバル領を襲った、これで間違いありませんか?」

「あ、ああ、間違い、ない」

「首謀者と、兵数は?」

「兵数は、約8000、首謀者は、知らない」

「そっちのあなたは?」

「ひ、ひぃいいい!! 喰われる……喰われるから!」

「正直に答えないと、その結界、すぐに解きますよ?」

「ここ、答える! 答えるって! たぶんレイムハルト辺境伯だ! 金目のモノは全て辺境伯に献上しろって命令だったから!」

「あぁ……だからあなたはラグリースの人達から奪って着服したモノを、外れの町で現金化していたわけですか」


 ドブルと名乗った男と、目覚めてすぐ逃げようとしたので両足を斬り飛ばしたお喋りな男。

 二人いるなら丁度良いと、別々の方法を試しながらいくつかの確認をしていく。

 お喋りな男の周囲には"防壁結界"を施しており、今もゴブリンファイターがガンガン殴っているので、籠めた魔力に対しどれほどの防御性能を発揮するのか。

 そして以前から気になっていた尋問の方法についても試していたが……

 やはりだな。

 真実のみを吐かせるという点で【奴隷術】は優秀だけど、どうにも返答がカタコトでバカ正直というか、強制力のせいで応用が利かない印象を持っていた。

 こうして死が差し迫った者の方が、助かりたい一心で別の追加情報まで口走ってくれるし、今後は相手や確認したい内容によって使い分けるべきだな。


「襲った目的は? 金目のモノを奪うことが目的ではないでしょう?」

「領土、だ。混乱に乗じて、少し奪うと」

「少し? オーバル領全域なら、決して少しとは言えないと思いますが」

「隊長が、少しと、言っていた」

「……あなたは?」

「詳しくは知らねーけどたまたまだろ! あっちの領主が俺達にあっさり降ってくれたお陰で、損害も無く丸ごと手に入れられたって話だ!」

「損害もなく……なのにラグリースの人達を、立ちはだかる兵もほとんどいないというのに、わざわざ殺し回ったわけですか」

「……」

「こ、殺さなきゃジュロイの仕業だって足がつく可能性もある! まずは目撃者を消せってのが総隊長の命令だったんだ! やりたくてやったわけじゃねぇ!」

「あなたは先ほど何匹犯し、何匹狩れたと、嬉々としてこの男に語っていましたが?」

「ちが、それは……」

「まぁ僕も人の皮を被った悪党《ゴミ》が餌に見える時もあるので、あなたとは同類かもしれませんけどね」

「あひっ、……た、たっ、助けてくれよ……違うんだって。あれは冗談――、そう冗談で! ついカッコつけちま、ッ――……」

「あなたは喋り過ぎ、ってもう、肝心なこと聞き忘れたじゃないですか。オーバル侯爵の行方、あなたは知っていますか?」

「い、いや、知らない……」

「そうですか、なら、もう十分です。お疲れ様でした」

「ぁ」


 明らかに二人は末端の兵士なのだから、情報量が少ない点はしょうがないか。

 それでも予想通り、ジュロイが混乱に乗じて領土を奪おうとしたこと。

 やっていることは、散々潰してきた盗賊連中と何も変わらないか、人を最優先で殺している分それよりも質が悪いこと。

 そしてオーバル侯爵はそのことを知りながら――、というよりそのせいで命の危機を察し、真っ先に投降した可能性もあるか。

 生死は不明、生きていたとしてもどこにいるのかは掴めないが……


「約8000人ね……あとは辺境伯とやらの身体に聞けばいいか」


 遺体を回収し、再びカルージュへ移動。

 高台の中頃に存在する、要塞のような石造りの建物に視線を向けながら、どう動けば効率的に悪だけを潰せるのか。

 考えを巡らせながら上空へ舞った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「おう、そっちはどうだ?」

「だーめだ、全部ハズレ。速攻でトンズラした根性無しどもしかいねーよ」

「こっちもだな。皆、似たような情報しか持っていない」

「ふぅ~これで9か所目、やっぱり綺麗に全滅しちまって、|そ《・》|の《・》|後《・》を知ってるヤツなんて誰もいねーんじゃねーのか?」

「そうかもしれんが……そう決定づけるのは俺達の仕事じゃないだろ」


 ロキがパルメラ内部で二人のカルージュ兵に詰問するより少し前。

 ラグリース国内に存在する各地の廃墟群でも、隠れ潜む残兵相手に似たようなことが行われていた。

 男二人は【探査】を発動させ、次の標的を見つけるために村の中を彷徨い歩くが。


『あががぁああ……ッ!」


 少しして、もう聞き慣れた悲鳴を耳が拾う。

 誰が何をしているかは明白。

 最初はさして気にもせず探索を進めるも、次に二人が合流してもなお続くその悲鳴に、お互い訝しげな表情を浮かべながら顔を見合わせる。


「アッ…ア゛ア゛ア゛ッッ!……ぅがッッ…、もうゆるじ、で……ッ!」

「……長いな」

「あれから全然情報抜けなくて機嫌悪いからだろ」

「だとしても、隊長相手に悲鳴を上げ続けている方が珍しい」

「それは、確かにな」


 自然と、二人の足は悲鳴の続く方へ向かう。

 ある程度の探索を終えたというのもあるが、それ以上に興味が湧いたのは耐えているその者に対してだ。

 並の兵ならすぐに壊され、ここまで保てやしない。

 二人は言葉を交わさずとも、もしや|当《・》|た《・》|り《・》を引き当てたのではないかと、そんな予感めいたものを感じていた。


 そして数分後――。


「魔法、を……ぁッ…反射、じて……消え、て……」

「ん~! 早く早く! 君のその宝石のような瞳が、頭の中にめり込んで弾けちゃうよ♪」


 顔の皮を剥がされた種族不明の獣人が、まるで咎人のように鉄の輪を手足に括りつけられ、石畳の床に貼り付けにされた上で拷問を受けていた。

 瞼や鼻は削ぎ落とされ、ナイフの柄尻で強引に押し込まれた剥き出しの眼球は、有り得ないほど沈む込んで今にも破裂しそうな様子。

 首より下も人の姿から外れかけており、今まで見てきた拷問よりもさらに凄惨な光景に息を呑みながら報告する。


「キンセ・ドルーチェ様、周囲の探索が概ね完了しましたが」

「ん~、やっとその先を知る人見つけられたから記録してよ。もう1回吐かせるからさ♪」

「は、はっ」


 ドルーチェと呼ばれた女性は、男の予想に反して明らかに機嫌が良かった。

 だからこそ、機嫌が良くても|こ《・》|れ《・》|な《・》|の《・》|か《・》と冷や汗を垂らしながら、命を乞うように紡ぐ獣人の言葉を必死に記録する。

 どの兵に聞いても同じ答えが返ってくる、高速で動く巨大な2本の炎柱と龍の存在まではもういいのだ。

 問題はその先。

 個体戦力と手の内を探る上で重要な、次の情報を――。







「ん~どうかな?」


 役目を終えて絶命した哀れな存在など気にも留めず、愛くるしい表情で振り返るドルーチェ。

 その言葉に記録していた男は、問題無しとばかりに中身を確認し、一部を読み上げた。


「他にも気になる部分はありますが……やはり重要なのは、『炎の白熱化』『魔法の反射』『周囲を薙ぐ巨大な炎』でしょうか」

「ん~本人は遠くて見えなかったみたいだけどさ、周囲を薙ぐ炎ってドラゴンのブレスみたいだよね!」

「い、いえ、そう言われましても、実物を見たことのない私共にはなんとも……」

「え~早く訓練所行けばいいのに! 私達の世界じゃ定番だよ、て・い・ば・ん! コホーッってさ。それに逃げる際中最後に見たっていう極大の水球も、なんか関係してるのかもね~」


 後ろ手に繋ぎ、楽しそうにクルクルとその場を回るその姿は、血濡れでなければ、花畑の似合う可憐な女性にしか見えない。

 しかし――。

 男は記録の冒頭に再度目を向ける。


(ヴァルツ傭兵12位か……)


 国に傭兵ギルドは存在していないが、広く浸透しているその仕組みくらいは男も理解していた。

 その数字が表す意味も。

 再度目の前で頭から水を浴び始めた女性に目を向けるも、流れる血の下は綺麗なもので、目立つ傷を負っているようには見えなかった。


(同じ強さを示す数字でも、傭兵12位とうちの15番隊隊長とじゃえらい実力の差だな……)


 それこそが圧倒的な国力の差。

 4強と言われる所以なのだろうと男は一人納得したところで、目の前の女性が誰に聞かせるでもなく呟いた。


「ん~5番目の異世界人って、もしかしてシヴァ様と同じ能力者だったりして♪」
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誤字報告ありがとうございます、作者です。
活動報告に書籍やコミカライズの詳しい日程を載せております。
イラストとかは何を出していいのか分からず相談中なので、まだその時に。
公開したらまたご報告しますので、まったり楽しんでください。
401話 はじめまして

 ジュロイ王国南部、レイムハルト領の防衛拠点であり、町全体が要塞と化した領都カルージュ。

 その中心地にある宝物庫にて、焦りを隠しもせずに周囲へ指示を飛ばす男がいた。


「絶対に漏らすな! オーバル侯の刻印や紋章付き、それにラグリースと繋がりそうな怪しきモノも全て運び出せ!」

「は、ははっ!」

「か、閣下、私共も売り物にならぬとなれば、いつまでも保管しておくわけには……」

「溶かせるモノは溶かして活用すれば良かろうが! いや……待て、それともここは素直に返すべきか……?」

「旦那様、まずは客間に軟禁しているオーバル家の処遇を先に決められた方がよろしいかと」


 この場にいるのは領主であるレイムハルト辺境伯。

 そして家令を筆頭に、荷物整理のため招集された家に仕える多くの者達と、カルージュに拠点を構える複数の商会関係者が呼び出しによって朝から集められていた。

 しかし本来はこのような差し迫った状況ではなかったのだ。

 レイムハルト辺境伯は自慢げに接収した品々を見せびらかし、集められた商会長はゴマをすりながらも、如何に狙いのモノを安く買い叩けるか目を光らせる。

 そのような商談の場が開かれていたはずだったが……

 開始そうそう、鳥によって届けられた一通の手紙により事態は一変した。

 その手紙の宛名はまさかのジュロイ国王。

 どう考えてもただ事ではなく、家令によって取り込み中だろうとお構いなく渡された内容に目を通した時、レイムハルト辺境伯はその場で腰を抜かし、呼吸が止まりかける。

 ラグリースは確実に負けると。

 そう聞いていたし自身でも思っていたからこそ、隣国オーバル領の兵が戦地に向かったタイミングを見計らって奇襲をかけたのだ。

 ラグリースに『地図』が生まれていようと、領土を丸ごと奪うであろうヴァルツに明確な境界など分かりようもない。

 盗賊に偽装して元いた人間を消し、その後にレイムハルト領の人間を送り込めば、目がジュロイに向くこともないと、そう辺境伯は王都の人間から打診されていた。

 しかし一度、人を送り込むのはまだ止めろと、唐突な知らせが届き。

 事態が呑み込めぬまま奪った金品を愛でていれば、今回の王から届いた知らせは目を疑いたくなるような内容だった。


 ――ヴァルツが敗北し、王宮までもが一夜にして沈んだ。

 ――全ての原因は五番目に表舞台へ上がった異世界人『ロキ』の存在にある。

 ――その者は新たに国を興し、ヴァルツ領を併合したラグリースはそのまま属国に下った。

 ――アースガルドの王、ロキがオーバル領の異変に気付き、報復に出る恐れもある。

 ――国はこの件に関して一切守れぬゆえ、責任を持って此度の事態を穏便に終息させよ。



「ハッ……ハッ……ロ、ロイエンめがぁあああああッッ!」



 手紙を持つ辺境伯の手は、絶望と怒りで震えていた。

 何がこれほど楽に領地を増やし、富を得る好機はないだ。

 軍部に所属し、領地を持たぬ王都の貴族――、ロイエン子爵から余計な打診さえなければ、このような事態には決してならなかった。

 国はいざとなればこの地を……我らを斬り捨てる。

 それがありありと手紙から伝わり、皮算用を行なっていた時の高揚から一転、レイムハルト辺境伯は一瞬で絶望の淵に立たされ……

 それでもなんとかせねば生き残れぬと、家中の者達を招集してでも動いているのが今の現状だった。


「オーバル侯を今更戻すわけにもいくまい……もし事実をこの異世界人に伝えられでもしたら、それこそ我が領土は孤立する」

「か、隠せるものなのでしょうか?」

「戦争となれば、ラグリース国内で貧困に喘ぐ者などごまんといるはずなのだ。盗賊に落ちて戦地から離れたオーバル領を襲ったという筋書きは作れる。それもあっての盗賊偽装だからな」

「しかしレイムハルト辺境伯。此度はオーバル侯爵――、というよりオーバル家の身の安全を保障する代わりに、無償で領土を貰い受けたようなものなのでは?」

「ふん、地位や資産の保障など注文の多い連中だったが、所詮は我が手の内にあるただの捕虜だ。目撃者が生まれぬよう向こうの住民を皆殺しにしたのだから、オーバル家を内々に始末したところでラグリース側にバレはせぬ。直接手に掛けなくとも、魔物の巣にでも放り込んでおけば何も残らぬしな」

「ラグリース側は知らずとも、賊に扮したジュロイ側の兵士は、オーバル家が早々に降伏したことを知っていましたが」

「たしかに、目撃者はこちら側にもいるが……念のため口を封じるべき、なのか?」

「参加した約8000人全員を、ですか?」

「領内の防衛戦力を考えればさすがにやり過ぎか。というより、なぜそんなことまで知って――……、ん? 貴様は、誰だ?」


 国から見捨てられる可能性のある危機的な状況故に、まともな思考ができていなかったということもある。

 だがそれ以上に、人がこの場に多く集まっていたからこそ、声の主が誰なのか。

 辺境伯からは見えておらず、集められた者達も、当たり前のようにいたその少年をどちらかの関係者だろうくらいに思っていた。

 だからか、次の言葉でこの場は完全に凍り付く。



「はじめまして、僕がその手紙に書かれている『ロキ』です」
402話 誘蛾灯の如く

「どうやってここ、がはッ!?」

「あー無理にしゃべらなくていいですからね。時間掛けたくないんで」


 辺境伯に軽い【威圧】を放ち、静かにさせた上ですぐに動く。


「まずはこの宝物庫の中身を空にしていくんで、荷物整理で呼び出されただけの人達はこの中に移動してください」


 当然、場は困惑した表情を浮かべた者ばかりでざわつくも、この程度は想定通りなので言葉を続ける。


「あなた達はセーフだから危害を加えるつもりはありません。ただここからすぐに動かれても今後に支障が出そうなので、いろいろと事情を知っていそうな執事のお爺さん。あなた以外は事が済むまでここに居てほしいんですよ」


 ここまで伝えれば、少し安心したのか。

 震えながら蹲る主を後目に、固まったままの爺さん以外は宝物庫の中へ入っていくが。


「わ、私は……私達はどうなるのですか!?」

「さ、左様! 呼ばれたから我らは品の買取に来ただけであって、ラグリース領を害するつもりなどは決してありませぬ……!」

「まだ何も手は付けておりませんし、このような事情があるのならばすぐに手を引きますので、何卒お許しを……!」


 堰を切ったように、買取に来ていた商人の男達が騒ぎ立てた。

 親玉っぽいのは全部で6人か。

 商人連中をどう処理するかが一番悩ましいところだが。


「でもあなた達は様々なモノを兵から買い取っていた町民と違って、これらが盗賊に扮した兵の強奪品であることを理解しているわけですよね?」

「そ、それは……」

「確かに知ってはおりましたが! しかし辺境伯に呼ばれ、ここに来て初めてその事実を知らされたのです!」

「そ、その通り! 辺境伯を相手に知れたからと、手を引けるような立場でないことはご理解頂きたく!」

「にしては皆さん、ずいぶんと目を光らせながら宝物庫の中身を物色していましたけど」

「「「「「「……」」」」」」


 自らを殺しに掛かる者か、理不尽に誰かを害し、殺す者。

 結局は最初に決めたルールしか自分にはなく、曖昧であればその国の司法に委ねてきたつもりだったが……

 今はこうして裁く側であろう上位貴族が死刑台に立っているのだ。

 誰も判定を下せないのなら、リアに判断が間違っていたと言われない範囲で自ら決めていくしかない。

 その方が守るべき人達をちゃんと守れそうな気もするしな……


「まぁ実行犯じゃないですし、今回はいいですよ。その代わり辺境伯を筆頭に、この国の阿呆共のせいで川の向こうは広範囲に渡ってボロボロなんですから、全力で物資を流して支援してあげてください。橋くらいは僕が架けておきますから」


 そう言いながら、宝物庫の中に誘導する。

 殺すのは簡単だし、どれほどの規模か分からない商会の売り物を綺麗に奪うことも簡単。

 ただこの者達はオーバル領にも、そしてベザートにも近いのだ。

 ラグリースと旧ヴァルツ領がボロボロな現状ではこの者達の存在は大きく、安易に潰せばラグリース南部の物流は特に停滞する。

 俺が個人で支援するにも限界があるし、俺がしたいのは旅をしながら高みを目指すことで、決して支援に追われる人生ではない。

 生かすことで彼らには、この場で殺す以上の利益を生み出してもらう。

 黙々と物資を回収し、商人達が宝物庫の中に全員入ったのを確認したら、あとは入り口を一時的に【土魔法】で塞げば準備完了だ。


「さてと、それでは執事のお爺さん、僕と一緒に来てもらいますよ」

「ど、どこにでしょう……?」

「辺境伯と一緒に、軍部の一番偉い人のところへ案内してください」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「おう? おまえんところもか」

「あぁ、どうも参加した連中は全員っぽいぜ?」


 職務についていた者も、休暇だった者も。

 班の隊長から緊急の招集が掛かり、ゾロゾロと要塞内部の訓練施設に向かう兵士達。

 呼ばれた名目が名目なだけに、向かう者達の足取りは非常に軽く、道中の会話も大いに弾む。


「まさかあの辺境伯が臨時の報酬なんてなぁ……信じられるか?」

「そんだけ川の向こうで儲かったってことだろ? 侯爵家の資産も丸ごと掻っ攫えたんだしよ」

「俺達がくすねた小銭や小物とは訳が違うってか」

「そりゃそうだろ。噂じゃ相当な現金や貴金属、それに見たこともないような魔道具も大量にあったらしいからな」

「へへっ、なら期待しちまうよな。戦争がこんなに美味しいなんて思いもしなかった」

「だな。一旦囲っちまえば女もガキも選び放題だったし、もしかしたら次の話だってあるかもしれないぜ?」


 今回呼ばれているのは兵全体ではなく、あくまで作戦の参加者のみ。

 だからこそ余計に選ばれたことでの優越感に浸りながら、一般の者では通れぬ城壁の門を潜り、兵の待機所などが存在するエリアへ。

 前を行く兵士達の後を追うように、山を掘り進めて固められた、雨天時用の巨大な屋内訓練施設へと進んでいく。

 兵士にとっては通い慣れた巨大ホール。

 集まるその数はカルージュに常駐している総兵数の半分ほどで、これからの期待もあってか異様な熱気に包まれていた。

 そして待つこと暫し。


「せ、静粛にッ!!」


 いつもの、総隊長の声じゃない?

 多くの者が、この声に違和感を覚えたが。

 しかし場は静寂に包まれ、全兵士が直立不動で壇上を見上げる。

 兵士は皆が皆、壇上に上がるのは辺境伯だと、そう思っていたわけで。


「「「?」」」


 姿を現した見知らぬ少年の姿を、一同は事態が飲み込めぬまま、ただただ茫然と眺めるしかなかった。

 ――次の言葉が発せられるまでは。


「んー……混ざった例外は無し、ですかね。では盗賊以下のゴミクズに成り下がった皆さん、生涯奴隷かこの場で僕と死ぬ気で戦うか、どちらか好きな方を選んでください」
403話 渇望

 どう考えても川の向こうは人手が足りていない。

 それに一応は属国ということになっているのだから、やらかした張本人達を犯罪奴隷として送り込めるならそれも有りだろうと、そう思っていたんだけどな。


「場所はあなた方がボロボロにしたオーバル領なので近いんですけど、それでも奴隷希望は無しですか? 希望者は手を挙げてもらえるとありがたいんですが」


 思いの外――、というよりまったく反応がなくて困ってしまう。

 あまり多過ぎると少し心配になってくるのだが……


「ぷっ、くくっ! 僕と死ぬ気で戦うかって、この数がちゃんと見えてんのかよ。それとも一対一の決闘をひたすら繰り返すつもりか?」

「もちろんやるなら同時ですよ。ただちょっと不安もあるので、できれば少しずつ相手をしたいですけど」


 今回はかなり重要な実験も兼ねているからな。

 あの込み上げてくる黒い感情がただの欲であるならそれでいい。

 ただそうでなかった場合、何がきっかけになるのかを掴んでおかないと、今後の動きに大きな支障が出てくる。

 30人や50人程度ならまったく問題ないだろうが、それが数百数千と数を重ねれば、果たして俺に変化が生まれるのか。

 数ではなくスキル取得が関係している可能性もあるし、デバフが空白スキルの一つに絡んでいるかどうかは、レベル上昇による変化でしか判別する方法がないのだ。

 これほどの数を相手にする機会はそう多く作れないと思うので、できれば慎重に経過を判別していきたい。


 ――そう思っての発言だったが。


「おいおい、どうやら僕ちゃんは手加減してほしいそうだぞ?」

「そりゃそうだろ。防具どころか武器すら持ってないとか、俺達を笑かそうとしてんのか?」

「ここまで一人で乗り込んできたのはすげぇ勇気だけどな」

「坊主、ありゃ戦争なんだぜ? 仇討ちしたい気持ちも分かるけどよ。文句を言うならあっさりおまえらを見捨てたオーバル侯爵に言えってな」


 はぁ――……

 好き放題言っている中で、あれが戦争だと都合良く解釈しているバカもチラホラといたため、辟易しながら突っ込みを入れる。


「何言ってるんですか? 宣戦布告も無しに偽装して攻めてるんですから、やっていることは戦争ではなく盗賊と同じ。それでいて人を優先して殺しているから、僕は生涯奴隷か餌かの2択を迫っているんですよ」

「……餌?」

「何言ってんだコイツは?」

「それでは生涯奴隷を希望の場合は10秒以内に挙手を。挙がっていない場合は、僕を殺して解決しようとする輩と判断して執行しますので。はい10、9、8――……」


 情報が出回る前である意味良かったのかもしれないな。

 ストレスは溜まるが、こうして舐め腐ってくれたまま、ちゃんと逃げずに待機してくれているのだ。

 もし手紙がもっと早くに届いていたら、最悪は辺境伯がコイツらを連れてどこかへ雲隠れしていたかもしれない。


「はい『0』――、トン、『塞げ』」


 ズズズズ――……

 入り口が巨大な岩で塞がれ、これで宝物庫同様、この者達の逃げ道はなくなった。

 執事の爺さんが言っていた通り、狩り尽くすには都合の良い環境だ。


「それじゃ、始めますか」


 綺麗に振り返り、轟音と共に塞がっていく後方の入り口を眺める兵士達。

 ならば丁度良いかと、その背中に向けて、本で学んだいくつかの魔法を試していく。


『切り裂け、"光鞭"』

「あぐ……ッ」

「はがっ……!」

「うーん、あまり好みじゃないな」


『捕らえろ、"黒鎖"』

「うあぁああああ、ッグぶぅ!?」

「これは、使い方次第か?」


『降り注げ、"氷牙"』

「ぁ…、ッ……」

「ぎぃいぁああああ!?」

「おゴッ!?」

「たた、退避! 退避ぃー!」

「た、隊長! これ以上逃げ場が!」


「まずっ、ちょっとやり過ぎたかも……」


『【忍び足】Lv9を取得しました』


 うーん、魔法はダメだな。

 壁を壊しそうだし、威力を意識して抑えるようにしていたが、それでも降り注いだ氷柱は勢い良く兵士達を串刺しにしていく。


「お、レベル9はボーナス能力値180だったか」


 でも、やっとだ。

 単体のスキル上昇で、ようやくボーナス能力値の上昇幅が一つ判別できた。

 そして潰したのは――、横たわっている人の数からすると500人から1000人くらいだろうか?

 欲を出さないようにと強く意識していることもあってか、今のところ特別な変化は感じられないまま、数をカウントしつつ死体を回収。

 奪った武器で、寝たフリをしたままやり過ごそうとしていた兵士達の首を落とし、少しずつ少しずつ、数を減らして追い詰めていく。


「ひ、怯むな! 相手はたった一人だぞ!」

「囲え囲え! 同時に攻めろ!」

「ぶっ、ブッ殺してやらぁああああ! はあ!?」

「ちょっ……こ、こいつ! 全然斬れねぇッ!!」


(大丈夫、俺は大丈夫だ)


「はっ……はっ……ジュ、ジュロイに! 喧嘩を売るつもりがあッ!?」

「レイムハルト辺境伯が黙っ、……っでェ!?」

「待て! 待てって! ちょっと待っち――……」


『【釣り】Lv9を取得しました』


(俺は欲に狂ったりなんかしない)


「すす、すみませんでした! 換金した金は返すがらあっ!?」

「奴隷になる! なるから! 一先ず止ま、……っ――」

「どど、奴隷にならせてください! おねげ……ッ」


『【氷属性耐性】Lv7を取得しました』


(そう、思っていたのに)


 カウントが3000を超し、目に見えて兵の数が減ってきた頃には、自分には何も起きていないと。

 そう思い込むだけでは抗えない感情が込み上げてくる。

 決してあの時のような強烈なものではない。

 まだジワリと滲み出ている程度だが、なるほど。

 確かに『足らない』という、ただの欲というよりは渇望に近い衝動が僅かに襲ってくる。


「腹の減りや喉の渇きを我慢しているようなもんか……」

「な、何ぐぉッ……!」

「あぁ、どうせ死ぬんですから気にしないでください」


 だが、"耐えること"には慣れているんだ。

 この程度ならまったく問題ない。

 あとはこの衝動が強くなるか、だが――。


『【視野拡大】Lv10を取得しました』


(きた……カンスト、能力値上昇は、300……)


 武器で必死に土壁を掘ろうと足掻く男達の身体を背後から裂いていき。

 羽虫のように、鬱陶しい声を撒き散らしながら逃げ惑う男の頭部に拾い上げた武器を投げ。

 糞尿を垂らしながら、狂ったように笑う男の咥内を貫いて。

 不快な存在を潰していく度に衝動は少しずつ強くなっていくも、スキルアナウンスのタイミングで強烈に上昇するという感覚はない。

【心眼】を使い対象の所持スキルを事前に覗くようにしていたが、強者かどうかも体感できるほどの影響はないように感じた。


『【体術】Lv10を取得しました』


(相手の立場も、強さも関係なく、単純な数――、魔物では異変は起きないのだから、人を殺した数でまず間違いなさそうか)



 そして、一通りのゴミ掃除を終えた時。


「ほ、本当に、全ての兵を……」


 案内役として連れてきていた執事の爺さんを見て、あぁこれはやはり間違いないなと。

 とどめのように悪影響を及ぼすデバフが作用していることを認識した。

 ここに来るまで殺そうとも思っていなかったこの爺さんが、今は兵士よりも上質なスキル経験値の塊に見えてしまい、思わず喉が鳴るのだ。

 あの時――、ばあさんの遺骨を届けようとして、でもオルグさんの前には決して出られないと感じた時と同じ。

 比較すれば今の方が遥かにかわいいモノだけど、それでも多少は抑えようという気持ちが自然と働く。

 となれば、後はこの感情の変化と経過を頭に叩き込むだけだ。

 同等数でよりこの感情が強くなるか、もっと早い段階で到達すれば、その時はまず間違いなく原因となるスキルのレベルが上がっている。

 その時にほぼ『白』だとは思っているが、【獣血】のスキルレベルが一切上昇していなければ、空白スキルの正体にこのデバフが絡んでいるということで間違いないだろう。

 他にデバフが絡む怪しいスキルなんて見当たらないのだから。


(皆に伝えるのは、どのタイミングにすべきか……)


 ふぅ――……

 あともうひと踏ん張り。

 川の向こうで絶望していた人達の願いを叶えるためにも、まだもう少し頑張らないとな。

 そう思って爺さんと、横で失禁したまま虚ろな目をした辺境伯に視線を向ける。


「ではお爺さん、次はオーバル家の所まで案内してください」
404話 それなりの地獄

 事切れたように脱力したままの辺境伯を引きずり、執事の爺さんに連れられたのは、両側と通路の反対側にも『白』の兵士が見張る、重々しい雰囲気の漂う部屋。

 宮殿内に住んでいたばあさんの部屋と入り口の雰囲気は近く、一応客人扱いされているであろうことだけは窺える。


「お、お止めなさい!」

「あー剣は抜かないでくださいね。今だとすぐ殺してしまいそうなので」

「え……?」


 主の悲惨な姿を目にして、反射的に剣を抜こうとした兵士に爺さんと俺で釘を刺す。

 今はそのまま固まっていてくれると、お互いにとって都合が良い。

 ノックの必要性も感じないためそのままドアを開ければ、爺さんの叫びが中まで伝わっていたのか。

 30畳ほどはありそうな広い部屋にいた者達は、全員揃ってこちらに怪訝な視線を向けていた。

 明らかに侯爵と分かる身なりのおっさんに、奥さんっぽいおばさんが3人、あとはそれなりの年齢に見える子供が7人か。


「数は11人……結構多いですね」

「レイムハルト辺境伯、これは何事か?」

「いきなり入ってくるなど、さすがに無礼が過ぎるのでは?」

「それより母上、辺境伯の様子が……」


 様々に口走るも、俺に首根っこを掴まれたまま項垂れ、覇気の欠片もない辺境伯の姿に視線が集まる。

 それぞれが違った顔色を浮かべ始めたが、まず全員死ぬだろうしどうだっていいな。


「一応確認させてください。あなた方は賊に扮していた者達がジュロイの人間だと知り、助かるために他を切り捨て真っ先に投降した。この流れで合っていますか?」

「随分と無礼だな。貴様は何者だ?」

「ロキと言いますが」

「……ほう? ニーヴァルのところに出入りしていると噂の異世界人か」

「ならばラグリース側の人間というわけですか」


 オーバル侯爵と、先ほどからなぜか侯爵並みに態度がデカい、一番老けたおばさんの言葉に反応し、ドッとオーバル家の人間だけが沸く。


「え……? ということはまさか、ラグリースが勝ったのか!?」

「なんと……」

「レイムハルト辺境伯があの調子なのだからそういうことだろう」

「私達はこれで帰れるのですね!」


 あぁ……

 今この手の相手をするのは本当にキツい。


「質問に答えてください。あなた達は住民を捨て―――」

「レイムハルト辺境伯に預けているオーバル家の財産回収及び運搬の指揮と、屋敷までの護衛をあなたに命じます。よろしいですね?」

「?」

「返事くらいなさい。ヘディン王の命で我らの救出に来たのでしょう?」


 いやいや、このクソババアは、いったい何を言っている……?

 戦争の結末を知る前に投降しているのだろうから、今ラグリースがどうなっているのか。

 俺とヘディン王の関係を知らないというのは分かる。

 が、そこを踏まえたとしても、なぜコイツは、俺にさも当然の如く命じてくる?


 分からない、分からない、まったく分からない――


 ――【多重発動】――


『"黒鎖"』『"黒鎖"』――『発動』


「えッ! な、何を!? 無礼者!!」

「な、何をしておるか! 早く止めろ!」


【闇魔法】によって両手から生み出した2本の黒い鎖はクソババアの手足を絡め取り、豚の丸焼きのように宙へ浮かしながら、少しずつ身体を捻っていく。

 先ほど兵に試した時は1本だったため、捕縛して振り回す程度のことしかできなかったからな。

 このような使い方に変えれば、先ほどから都合の良い部分しか聞こえていなさそうな耳も、きっと聞こえやすくなるだろう。


「まず一つ伺いたい。なぜあなたは僕に命じているのですか?」

「はっ、離しなさい! このような、許されぬ、こと……!」


 横でオーバル侯爵や子供達が騒いでいるけど、答えを聞きたいのは本人からだ。

 黙って見ていると、本気であることを理解したのか。

 ようやく本人が焦ったように言葉を吐き出す、が。


「あなた、は! 救っ、たのなら、ラグリース、に仕えたと、いうことでしょう!? なら、ば……侯爵家、正妻で、ある…私の方、…立場……が上げぇ、ッで……ッ!?」


 まだ意識はありそうだが、もう身体から気味の悪い音を鳴らすばかりで喋る余裕はなさそうだな。


「アホですね。早く喋れば良かったのに」

「早く止めんかぁああああ!!」

「ッ……ぐ…ぁ……が……ッ…」

「……止めましたけど、たぶん一番苦しいところですよ? ここで止めるなんてあなたも酷ですね」

「ちっ、違う! 逆だ逆! 戻すのだバカモンがっ!!」


 ゴギギッ、ガギギボギッ……! ブチブチ……グギガゴギギギッ……ゲボッゲボボボッ……


「「「ヒッ!?」」」

「あーあ、ここからさらに逆回転とか……腹や背中から骨が飛び出てますし、穴という穴から汚いモノブチまけ過ぎなんですけど。いくら若い奥さんの方が良いからって、最後くらい優しくしてあげたらいいのに」

「ハッ……ハッ……な、何を、言っているのだ……」

「はぁ。もう喋れそうもないですし、次はあなたですね」

「はがぁッ!?」

「ち、父上ッ!?」

「バカの二の舞にならないよう注意してくださいよ。あなたは自身や家族の命を優先して、甥であるタナートさんに王都へ送る軍を押し付けた。これは合ってますか?」

「あがっ、あ、合ってる! 合ってる!」

「で、賊に扮したジュロイ側の兵に奇襲を掛けられ、わが身可愛さに領土を明け渡し、オーバル家の命だけは助かるようジュロイへ亡命したと?」

「いだっ! か、肩がッ!? そうだ! その通りだから! たず、げで……」

「いえ、それは聞いていた話と少々異なりますね」

「ん?」


 ここで唐突にしゃべりだしたのは、散々連れ回していた執事の爺さん。

 違うって、どういうことだ?


「私はただの亡命ではなく、相応の地位やオーバル家が抱える財産も保障しろと、作戦を指揮する者にそう伝えたと聞いております。その代わりに、領民の持つ資産は好きにしたらいい、と」

「は、がっ……き、さま……ッ!」

「へぇ、領民の資産と引き換えに……辺境伯、それは事実ですか?」

「じ、事実だ。守る気は、無かったが……」

「ッ!? レイ……ハル、ト……るさ、ぬ……」


 はぁ……

 どっちもクズ過ぎて、逆に笑えてくるな。

 こんなアホ共はとっとと一網打尽にしたいけど、下手に潰せば治める領地に大きな影響が出てしまうから始末が悪い。

 まぁ、未だに一切の謝罪も反省もないゴミっぷりだし、領地を自ら捨てたオーバル家は全員で問題ないか。

 重責を背負わされ、多くを失ってもまだ奮闘しているタナートさん達の意向だってあるし、少しずつ少しずつ、捻じれながら腹の中身をブチ撒けて死んでいくのもそれなりに地獄だろう。


「我らに、このような苦しみを、与えるなどぉおごぉ……っ」

「な、なぜ、貴族である我らにこのようなことをする、のです……!?」

「我が王が、絶対に黙っ…て、オゴェゲエエエ……ッ!」


 戯言が絶叫に変わっていく様を眺めながら、項垂れ、自分の順番を待つ男に声を掛ける。


「レイムハルト辺境伯、正直に答えてください」

「あ、あぁ」

「あなたの家族は、どこまでこの偽装作戦を知っているんですか?」

「まだ、私しか知らない……」

「まだ?」

「公にジュロイとして動けなかったためだ。我が領土の民を川の向こうへ送り、正式に領地としての恰好がついた時に伝えるつもりでいた……」

「なるほど」


【奴隷術】を使って確かめてもいいが。

 たぶんこの顔は本当だろうなと、そんな気がした。

 ならばいいか。


「もうお分かりかと思いますけど、あなたは最も罪を償うべき人間の一人。今目の前でゆっくり中身をぶちまけている人達と同じ運命を辿りますが、少なくともあの手紙の内容から、王都でもこの件に関わっている人間がいるでしょう?」

「あぁ、いる」

「その人間を洗いざらい吐き、お金は――、兵が横流しした金品はもう今更回収不可能なので、あの宝物庫の中身と抱えている書物関連、あとは現金をここの領地運営に支障が無い最低限だけ残して僕に渡せば、それ以外には手を出さないようにします」

「私の家族も、か?」

「ええ、もちろんくだらない報復でも考えるようなら、これ以上の地獄を見せますが」

「そ、その点は私から全てを余さずに伝えさせていただきます! 絶対に手を出してはならぬ国があり、王がいると……!」


 爺さんは、ここでの全てを見ているからな。

 正確に伝えてくれるなら、これ以上バカが生まれる可能性も低いか。

 いや、貴族の思考は本当に理解不能だから、たぶん、としか言えないが。



 その後、金の動きを把握している二人から資金を徴収。

 宝物庫に閉じ込めていた商人や家に仕えていた人達を解放し、綺麗に吐いたレイムハルト辺境伯を少しだけ早く捩じ切れば、ジュロイ王国南部の領都『カルージュ』でやるべきことは終わりだ。

 少しだけ悩むも、この程度の衝動なら問題無いと、その日は拠点に帰還し、果たしてリラックスが癒える効果に繋がるのか。

 【結界魔法】『燐光』の中でゆっくり風呂に入りながら、レイムハルト辺境伯が憎しみの籠った声で呟いた男の処遇を思案する。


「計画を持ち出した元凶の男、軍部所属のロイエン子爵ねぇ……」
405話 乗り込め、敵の本丸へ

 翌日。

 自分の体調を冷静に受け止めつつ、皆で朝食後に支度の準備を進める。


「ごめんね~仕事増やしてばっかで」

「いや、それは構わないが……今回もまた、それなりに多いな」

「これもどこかの軍隊?」

「一応そうなるのかな? 盗賊に扮して民間人殺し回ってた連中だから、まったく兵とは言えないけど」

「この人達も、ラグリースで悪いことしたの?」


 カルラとゼオは庭の花畑を見るくらいに平然としているけど、なぜかエニーがやたらと順応早いんだよなぁ……

 死体の山を見ても、もう動揺している様子がまるで見られない。


「そそ。ラグリースがヴァルツに攻められて大変な時に、同盟国のくせして背後から南西のオーバル領を襲ったんだよね。ジュロイの仕業ってバレないように、わざわざ野盗に変装までしてさ」

「何それ、最悪じゃん」

「ほとんど生存者がいないんだからほんと最悪だよ。だから俺が悪いことしたジュロイのやつらをぶっ飛ばして、ついでにオーバル領の復興用資金ぶんどってきたってわけ。まだ全部は終わってないけどね」

「なんかロキ、領地のために頑張るって、王様っぽくない?」

「ほんとだ、ちょっと王様っぽい」

「いや、おまえ、一応王様だろ」


 ロッジから冷静な突っ込みが入るも、まったく自覚がないのだからスルーしておくしかない。

 それより、だ。


「あと崖の下に教会もどき作っといたから、祈祷とかステータス判定とか、気になったら好きにやってもらって構わないからね。ちょっとした裏技で、神官《プリースト》無しでも職業選択までできるようにしてあるから。しかも全部無料で」

「え? もどき??」

「いや、待て、意味が分からないんだが?」

「6体の神像と黒曜板を設置したの。戦争で潰れた教会なんてラグリースにいっぱいあるからさ」


 さすがにここはバカ正直に答えられないからなぁ……

 でもこれで納得できたっぽく、頷きながら少しずつロッジの首が傾げていく。


「職業選択って一人でどうやんだよ?」

「えーと、今自分が就ける職業の種類は神官《プリースト》がいないから教えてもらえないけど、こないだ見せた『本』でも参考にしながら、"この職業になりたい"って限定して願えば、なれる場合はそのまま職業に就けちゃうんだよね」

「おーすごっ!」

「マジかよ!」

「無事に就けたかどうかは横の黒曜板が使い放題なんだから、表示されたスキルレベルで判別できるんだし、初級職でもなければそう難しくないでしょ?」


【神託】が必要ないやり方として、アリシアと二人で頭を捻りながら考えた裏技なので間違いない。

 二人に説明しているようで、これはちゃっかり後ろで聞いているゼオに解説してるようなもの。

 ゼオが興味を示せばカルラも示す。

 上手くいってくれればいいんだけどな。


「本はリコさんのいる図書館に行けばいつでも見られるから、用がある時はついでに覗いておくと勉強になると思うよ」


 そのように告げ、俺は一度カルージュへ。

 そこからマッピングを進めつつ北に向かい、夕方前にはかなり規模の大きい町。

 王都『フォブシーク』に到着した。

 しかしすぐに乗り込んだりはしない。

 一晩経ってもまだ副作用と分かる反応が残っており、できれば8000人の反動はどの程度で消えるのか。

 戦争絡みでもなければここまで数が短期間で伸びることもないので、この機会にしっかり把握することを優先した。

 王都に知らせるなと執事の爺さんには釘を刺しているし、癒えるのを待つ間もやることはあるしね。

 どうせならこのままジュロイの地図も作ってしまおうと思っていたので、ある意味この休息も丁度良いと言える。

 そんなわけで、寄れる狩場もないままマッピングを進めて2日後。

 あぁ、これは間違いなく解けたなと。

 そう思えるくらい腹の中がクリアになった状態を確認し、いよいよジュロイ王国の宮殿に乗り込んだ。


「この国の王に会いたいので通りますね」

「へ? ちょ、ちょっ、へあッ!?」


 届いていた手紙からは王が大事にしたくないような雰囲気も感じられたが、少なくとも襲った事実は把握しているのだ。

 後々のことまで考えつつ、この国に対してどう対処すべきか。

 軽い【威圧】を振り撒きながら宮殿内を探索すれば、それらしい反応は一際大きな扉の先から。

 ドアを開けるとそこは謁見の間であり、以前ラグリースで見た時よりかは遥かに少ないけれど、左右には多くの兵と、正面には偉そうな雰囲気を漂わせる男達が何人かいることは確認できた。

 それに丁度今も、誰かが玉座に座る王の前で片膝を突いていたが……

 そんな中をツカツカと、お構いなしに王の下へ向かっていく。

 何かを陳情でもしている人には申し訳ないけど、こちらは挨拶しに来たわけでもないのだから律儀に順番を待つ必要はない。

 当然周囲は大きくざわつき、兵は武器を握りながら走り寄ろうとするが。

 まるでその動きを制止するように玉座の横に立っていた男が、やや怯えた表情を見せながらも大声で問い掛けた。


「何者ですか!?」

「ロキです。オーバル領の件で来たと言えば分かりますよね?」

「ッッ!?」


 この言葉にすぐ反応した王が先ほど俺に問い掛けた男――宰相らしき人物に目配せし、その宰相が俺の後方に視線を向ければ、兵が走って部屋を出ていく動きを捉える。

 しかしこの動き……

 待ち構えていたわけじゃないけど、俺が来ることは十分想定していたっぽいな。

 戦力になりそうな応援でも呼びに行ったとして、問題は相手がどこまで話を大きくしてくるのか。

 そんなことを考えながら膝を突いた男の横を抜け、そのまま壇上を上っていくと――


「済まなかった!」 

「……」


 先に行動を起こしたのはジュロイの王だった。

 耐えかねたように立ち上がり、大きく頭を下げながら口にした言葉は謁見の間に強く反響する。


「軽率な行動であったこと、王の立場からこの通り謝罪させていただく!」


 少々予想外、だな。

 クソみたいな策を実行に移すくらいなのだから、ヴァルツ王と同種くらいに思っていたが……

 恥を掻いてでも、このような場で謝罪はできる王なわけか。


「自ら謝罪するということは、レイムハルト辺境伯の兵を賊に偽装させ、ラグリースの背後を突くようにオーバル領を襲わせたことは事前に把握していたわけですよね?」

「無論、全てではないが知っていた」

「ん? 全てではない?」

「ラグリースの領土が落ち切る前に、我が国との国境を少しばかり弄らせてもらう。ただしヴァルツと真正面から事を構えるのはまだ尚早ゆえ、周囲に気付かれることなくオーバル侯へ近づき、住民を含めた身の安全や一定の資産保障などを条件に、『地図』との齟齬が大きく生まれない範囲で領地の割取を進める。これが作戦遂行前に余へ報告が上がり、許可を下ろした内容の全てだ」

「住民の安全……ということは、賊に扮した兵がオーバル領に住む住民を無差別に蹂躙し、その資産を強奪したことはあなたにとって想定外だったと?」

「想定外にもほどがある……」


 その様子を見て、自然と自分の手は口元を覆う。

 これは――、どちらだ?

 憔悴した様子で告げたジュロイ王が嘘を吐いているようには思えないが、目は完全に死んでもいない。

 さすがにここの真偽はかなり影響が大きいし、判断が怪しいなら対象を変えるか。

 そう思い、王の横に立つ男へ視線を向ける。


「あなたはこの国の宰相ですか?」

「そ、その通りです」

「ならば、今回の件は同様に知っていましたよね?」

「当然です。私が下から持ち上がった話を陛下に進言しましたので」

「ならば念のため、あなたを一時的に奴隷化し、真偽の確認を取らせてもらっても問題ありませんか?」

「それはまったく問題ありません。ヴァルツの二の舞を避けられるのであれば、私は喜んでお受けいたします」


 迷いや動揺の見られない様子は、やる前からおおよそ答えも分かっていて。

 それでも実際に確認すれば、王と同じ証言を得られたばかりか、賊に扮することすら想定外だったことが判明していく。

 つまり王を含むジュロイの上層部は、敗戦を目前にしたオーバル侯爵に血の流れない交渉を行い、領土を誤魔化しの利く範囲でどれほど得られるかという調略を謀ろうとしていたわけか。

 まいったな……


「話と違うのが分かったのはなぜですか?」


 そう奴隷化したままの宰相に問えば、簡潔に答え、その補足を横にいるジュロイ王がしてくれる。


「ロイエン子爵に、真実を告げられた、からです」

「ヴァルツが敗れ、ヴァルツ王家も潰えたという報がラグリースから届けられた時、このままでは余計な火種に発展し兼ねないと、作戦の指揮を任せていたロイエン子爵を呼びつけたのだ。オーバルとの交渉を全て白紙に戻し、無かったことにせよと伝えるためにな」

「あぁ……本来なら再度の合意一つで戻せるはずが、実際に遂行されていた策は違っていたため、元に戻すことなどできなくなっていたわけですか」

「そうなる。レイムハルト辺境伯が向こうの住民を殺し、私財を奪うなど……ここで初めて、事態があまりにも深刻であることを知った」

「そのロイエン子爵とやらがこの案を持ち出した元凶であると、そうレイムハルト辺境伯は言っていましたが、それは事実ですか?」

「事実、です」

「二人は軍部の繋がりで元から関係が深かった。ゆえに都合良しと作戦の指揮を執らせ、レイムハルト辺境伯とのやり取りも任せていた」


 なるほど。

 これでおおよその流れは掴めてきたな。

 事の発端であるロイエン子爵が、功績を求めて調略を提案。

 それに王が乗っかり、レイムハルト辺境伯とのやり取りも任せる。

 そしてどちらかが……、いや、辺境伯のあの怒り具合からするに、十中八九はロイエン子爵が凶悪な策への切り替えを辺境伯に打診したと見る方が自然か。

 もしくは初めからその策しか伝えていなかった可能性もある。

 目的は、当然――。

 思案していると、王の視線が俺の後方に流れ、ボソリと一言呟く。


「来たか……」


 その言葉に振り向けば、後ろ手に縛られて、口には布のようなモノを噛ませられた男が兵に連れられ、謁見の間に登場した。
406話 切り札

 一々確認しなくても分かる。

 兵に引き摺られながら現れたこの男が元凶のロイエン子爵だろう。

 上半身は服を脱がされており、拷問でもされたのか。

 顔はゴツゴツとした岩のように変形し、腹や腕にも何かで叩かれたような痕が多く残っていた。


「コヤツがロイエン子爵、そなたが現れた時のために生かしておいた。直接聞きたいことがあるなら聞いてもらっても構わない」


 そうジュロイ王から言われるも、ある程度のことはもう聞けたしな。

 残すところはわざわざ策を変えた動機くらいだが、これも答えはすぐに見えてくる。


「あなたの欲のせいで、どれほど人が死んだか分かってます?」

「ペッ」


 返答は、吐き捨てた赤い唾。

 王のいる謁見の間でこのような悪態をついているのだ。

 全体が殺気立つも、本人は今更何をしたところで結果は変わらないと、これ以上ないほど理解しているんだろう。


「どうせレイムハルト辺境伯が強奪した金品のうち、裏で何割かを貰い受けるような約束でもしていたのでしょう? そうでなければ、あなたが進言した策を裏でコソコソと変える必要もなかったでしょうし」

「貴様が……貴様こそが元凶なのだ……」

「酷い言い草ですね。あなたのくだらない策で殺されたオーバル領の人達も、巻き込まれて僕に殺されたカルージュの兵達も、みんなあなたのような欲に塗れた男さえいなければって思ってますよ」

「ふん……辺境伯は、どうした?」

「最後まであなたに恨み言を吐きながら捩じ切れました」

「捩じ切れ……?」


 理解できていないのか眉間に皺を寄せているので、脅し用に残しておいた辺境伯の上半身を目の前に転がす。

 が。


「……やはり、死んでいたか」


 さすが軍人とでも言うべきなのか?

 見る限りは平静を装っている男に、ゾクリと思わず身体が震える。

 いいねぇ。


「この男は、僕の好きにしても?」

「そのために生かしたつもりだ」


 実際は王が本当に知らなかったことを証明するための材料なんだろうけど、俺が自由にできるのならなんでもいい。

 コイツの処理は後々考えるとして、今はジュロイ王国に対してどう話を纏めるか。

 そちらを進める方が先だな。

 まだしゃべり足りないのか、呻きながら口を縛られているロイエン子爵を横目に宰相の奴隷化を解除し、その上で改まって二人に向き直る。


「今回の件が欲を出した一部の貴族による暴走だったことは十分理解しました。しかしそちらの貴族であり、軍隊まで動いている以上はジュロイ王国の責任も大きい。何より僕がこうして動かなければ、あなた方は何をするでもなく、賊の仕業にでもして済ませていたのでしょうしね」

「承知している。だからこそ、どのような形であれば納得してもらえるのか……余の命で済むというのならば差し出す覚悟くらいはできている」


 へぇ……

 この言葉に、やはりヴァルツ王とは毛色が違うと思いながらも首を横に振る。


「残念ですけど僕は異世界人、あなたに限らず王の命をそこまで重いモノとは捉えていません。王が責任を取って死んだとしても、殺された人達は生き返りませんし、町も元には戻りませんから」

「と、ということは、この地一帯を丸ごと――」

「なのでまずはあなたが責任をもって国中からかき集めた資金と、資材と、人材を供給し、ボロボロにしたオーバル領を素早く復興させてください。それでも元のオーバル領には戻りませんけど、やらないよりは遥かにマシですので」


 今オーバル領で最も不足しているのは『人』――とりわけ子供と女性不足が深刻だ。

 これは俺じゃどうにもならないし、頼んでおいた『カルージュ』の商人達でも難しい問題だろう。

 王が率先して労働力を送り込んでくれればいずれ定住者も出てくるだろうし、王都から戻って復興作業に当たっている兵とくっつく女性だって現れるはず。

 敵国の人間という余計なフィルターが掛からないように俺が動く必要はあるけど、幸いその『調整役』は手に入ったしな。


 その後も大まかな支援物資の内容、供給ルートの打ち合わせを挟み、個人的な面倒事の対価として所持していない『本』や『叡智の切れ端』を貰う約束をし。

 この程度で済んだことに|俺《・》|が《・》ホッと息を吐きながら、こちらを睨みつけるロイエン子爵の下へ向かう。

 俺は土地の管理なんてしたくないし、ヘディン王も自国がボロボロな上に、旧ヴァルツ領まで新しく抱えているのだからまったくその余裕はない。

 そんな状況でジュロイまで潰すとなれば、後々がかなり面倒なことになると思っていただけに、上層部がまだ俺の理解が及ぶ思考の持ち主で良かったと。

 内心そう思っていたわけだが――。


(ん? 俺じゃない?)


 てっきり俺を睨んでいると思っていたロイエン子爵の目は、邪悪に歪みながら俺の背後。

 王や宰相に向けられており、いつの間にか、口に咥えさせられていた布は解けていた。


「王よ、上手く|切《・》|り《・》|札《・》の存在を隠し、この男の首を狙うつもりか?」

「………」


 この言葉に黙って後方へ振り向けば――。

 ジュロイ王は鼻を鳴らし、不敵に笑っていた。

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活動報告にコミカライズ版のキャラデザインをいくつか公開しておきました。
こちらの意図をしっかり汲み取ってくれてる素晴らしい漫画家さんで本当に良かった。
こんな感じだよということで、キャラを想像しながらWEB版の方も楽しんでください。
407話 シングルチーター

(ジュロイの切り札は昔に喰らった『カズラ血毒』だと思っていたが……)


 コツコツと。

 廊下を先導するように歩くジュロイ王と宰相の後を、俺はロイエン子爵を引き摺りながらついていく。

 場所は宮殿内でもやや外れに位置する部屋。

 そこで宰相がドアを叩くと、茶色い髪を後ろで束ねた、少しソバカスの目立つ少年が顔を出した。

 歳は15くらいか?

 俺よりも白いと感じる肌はこの地域にしては珍しく、どこか別の場所から連れてこられたことを推察させる。

 肩越しに見える部屋の中は、ここが書庫かと思うほどの書物が積まれていた。


「え、あ、アロンド陛下!? えぇ? どうしてこちらに!?」

「お前に用があってな。ルッソ、入っても大丈夫か?」

「もちろんですよ! 散らかってますけど、どうぞどうぞ!」


 ジュロイ王と俺、それに連れてきていた手前ロイエン子爵もいたが、ここまで来ればあとは邪魔だし、入り口で見張るように止まった宰相に任せておけばいいか。


「紹介しよう。ジュロイの"切り札"にする予定だった異世界人、ルッソだ」

「あ、えっと、ルッソです。よろしくお願いします?」


 向こうからすれば、俺は王と共に現れた謎の少年。

 疑問を浮かべながらの挨拶に、俺は右手を出しだしながら答える。


「初めまして、異世界人のロキです。【刀術】の使い手とは、かなり珍しいですね」

「……え? えぇえええ!? 同じ異世界人!? しかもあっさりバレてるし!」


 握手をしながらオーバーリアクションで驚く少年は、確かにジュロイ王の言う通り異世界人で間違いないだろう。

 俺もまだ所持していない【刀術】だけがレベル10になっており、その他は妙にバランスが悪いというか……

 取得しているスキル数は多いものの突出して高レベルというのは無く、なんとも方針が定まっていないようなスキル構成をしていた。

 そんな微妙な反応が顔に出ていたのか。

 やや神妙な面持ちをしたジュロイ王が、俺に目を向けながら問い掛けてくる。


「ロキ王にこそ聞きたい。そなたから見て、ルッソの強さはどのように見える?」

「ん―――、所持スキルから推察するに、ヴァルツ国内の傭兵と比較すれば一桁ランカーの下位クラス。より特化型にするか全体を底上げすれば、上位にも食い込めるって感じですかね」


 そのように答えれば、ジュロイ王は何かが吹っ切れたように高笑いする。


「くはははっ、もう諦めていたつもりだったが、ここまで余の予想に近い答えを言われてしまえば、もう迷いも一切なくなる」

「「??」」

「そなたは、ラグリースに攻め入ったヴァルツのランカー傭兵を一人で葬ってきたのだろう? それにヴァルツ軍の華覚仙天に該当する軍人達も」

「全部が全部というわけじゃないと思いますけど、そうですね」

「くくっ、分かったかロイエン! 仮に差し向けたところでもはや四強と同格の存在! どうにかなるような話でもないのだッ!!」


 ジュロイ王が怒鳴り散らした先には蹲るロイエン子爵が。

 その表情はやや悔しさを滲ませながらも、変わらずこちらを鋭く睨みつけていた。


 先ほど、謁見の場でロイエン子爵が不穏な言葉を放ったあの時。


「くだらん。このような者が台頭したとなれば、中央の覇権を狙う気などさらさら無いわ。次に貴様が狙うは道連れの相手か?」


 王が不敵に笑いながら言い放った言葉を思い出す。

 隠す気もないと、ここまで案内される最中も異世界人の反応は他に拾えないし、ルッソという少年の反応からしても予め口裏を合わせていた様子は感じられない。

 欲に塗れて多くを不幸に陥れたというのに、ツケが回って自分に後が無くなれば、まるで逆恨みの如く周囲をさらに巻き込もうとする。

 この男の顔色を見ていれば、狙いはなんとなく分かるが……

 どうしてこんな存在が生きてるんだろうな……本当に。


「あなたが呻くだけで気分が悪くなるので、とりあえず終わるまで寝ていてくださいよ」


 そう言いながらロイエン子爵を【睡眼】で強制的に眠らすと、背後でルッソという少年のやや高い声が響き渡る。


「ええっ! 陛下は今のが何か知ってます!?」

「いや、【呪術魔法】による強制睡眠だと最初は思ったが……魔力が表に出ていないし、詠唱すら一切されていないのは不可解だな」

「さ、さすが四強と同格……やっぱりロキさんもトリプルチーターなんですよね?」

「んん? トリプルチーター?」

「あ、僕がそう言ってるだけなんですけど、女神から3つのスキルを貰った転生者のことです。僕はシングルなので」

「あぁ、そういうこと……ならそうかもしれませんね。ちなみにルッソさんって地球ではどこの生まれだったんですか?」

「生まれも育ちもフランスですよ! ロキさんは?」

「僕は日本です」

「うぉおおおおお! 漫画大国ジャポーン!」

「ルッソ、ちょっとは静かにせんか。目の前にいるのはアースガルド王国の王なのだぞ?」

「ぶぇえええ!?」


 えらいテンションだなこの人……

 そしてジュロイ王とこの少年とのやり取りがちょっと変わっているというか、不思議と少し暖かい気持ちにさせてくれる。

 その後も簡単には出会えない異世界人ということもあって、ジュロイ王も時折会話に混ざりつつ、もう少し踏み込んだ話をお互いにした。

 どうやらルッソ君は17歳の時に病気で亡くなったらしく、それまでも闘病生活が長く続いていたとあって漫画とアニメが大好きなんだそうな。

 世界で一番好きな国は日本と豪語するくらいだし、勇者タクヤにも会いたいと言っていたので本物のオタクなんだと思う。

 そして俺が知りたかったこと。

 なぜこの国にいるのかという話になった時、やはりというか、この世界の残酷さを思い知った気がした。


「僕は日本の刀を扱う漫画が特に好きで、恰好良く振る姿に憧れてて、でもずっとベッドの上だったから身体を動かすこともできなかったんです。だから"何を望む"って聞かれた時、"|刀《・》|の《・》|達《・》|人《・》|に《・》|な《・》|り《・》|た《・》|い《・》"って、そう答えちゃって」

「凄く、分かりますよ」

「でも、薄っすらとした記憶で、いくら親が探しても、どこにも売ってないんですよね、刀って。ほんと笑っちゃいますよ、スキルがあっても何も活かせないんですから」

「たしかに、売っているのは見たことがないですね……」

「そうこうしてるうちに6歳で人攫いに遭って、無駄に力だけは強かったものですから、ずっと奴隷で鉱山夫、木こり、木材や石材の運搬とか、とにかく力関係の仕事はなんでもやらされてきました」

「だからジョブ系のスキルを広く浅く得ているわけですか」

「自分が何をやりたいなんていうのは関係なかったですから。それで13の時、ジュロイ王国が僕を見つけてくれて、それで拾われて」

「……」

「そこからやっと、僕の人生が始まったんです。こうしてアロンド陛下に、刀もプレゼントしていただきましたしね」


 そう言いながらベッドの横に置いていた刀を手に取ったルッソ君は、今までで一番の笑顔を見せてくれた。

 ――が。


「ロキ王、改めて伝えさせてもらう。ジュロイはアースガルド及び属国であるラグリースに対し、敵対する意思はまったく持っていない。ルッソの存在そのものが不信を招くということなら、ロキ王に身柄を預けても―――」


 ジュロイ王のこの言葉で、みるみるその表情が曇っていくのを理解し、遮るように口を開く。


「一つだけ教えてください。ルッソ君は、現在奴隷状態にありますか?」

「いや、それはないが」

「はい。この国に連れてきてもらってからはないですね」

「なら遠慮しておきますよ。本人が望むなら別ですが、ルッソ君はこの国にいたいようですし」


 一瞬、転生者を保護してほしいと言っていたアリシアの顔が脳裏を過るも、それは当人が現状に苦しんでおり、その状況から抜け出したいと願っている場合だ。

 どう見ても今が幸せそうなら、俺が横槍を入れるのはちょっと違う。

 初めてハンスさんの国を訪れた時、力量の差から強引にエリオン共和国の所属にでもさせられたら、俺は間違いなく不満に思っていただろうからな。


「本当に、構わぬのか……?」

「えぇ、ルッソ君も、いつか必要があればジュロイの剣になると、その覚悟があってこの国で暮らしているんですよね?」

「もちろんです。僕はジュロイ王国とアロンド陛下に感謝していますから。困ったことがあればこの刀でちゃんと恩返ししたいって、そう思っています」

「それなら僕が言えることは一つだけ。争いの火種を作らぬよう、お互い平和に過ごしていきましょう。そうすれば、僕がこうして乗り込むようなこともありませんから」

「の、乗り込む!? 陛下、いったい何したんですか!?」

「下の者がやらかして、危うくロキ王にこの国を燃やされるところだった……」

「ぶぶっ!! いくら恩返ししたいって言っても、戦闘特化型のトリプルチーターになんて勝てっこないですからね!?」

「んなことは分かっとるわ!」


 なんだか親子みたいだなと、二人のやり取りに笑みが零れる。

 どうしても戦闘系スキルを取得した者は戦力として扱われるだろうけど、拾われた先によっては幸せを掴んでいる者もいる。

 その事実が知れただけでも大きいし、アリシアにこのことを伝えれば少しは安心するはずだ。


(それでも、やっぱり奴隷は免れていないとなれば、これからも積極的に探す必要はあるか……)


 そんなことを考えながら、また後日、所持していない書物関連を受け取りにくることを伝え、俺は寝たままのロイエン子爵を連れて、王都『フォブシーク』をあとにした。
408話 サンドバッグ

 何がきっかけだったのか。

 気付けば【地図作成】で表示される国境線が、ラグリース領土に戻っていたオーバル領。

 その中心地『テロイア』で、以前にも訪れた屋敷に向かうと、炭を使って廃材に何かを書き込んでいるタナートさんを発見した。


「こんにちは~」

「あ、ロキ様!」

「おぉ、自分達でも簡易の地図を作ってるんですね」

「町の中心に店の残骸が残っていても、品物も無ければ家主もおりませんから、その辺りをどうしようかなと」

「なるほど」


 人がだいぶ消えて今はベザートくらいの規模感になっちゃってるけど、ここって元々は領都だもんなぁ。

 どうせ復興作業をするなら、ある程度計画性を持って動いた方がいいだろうし……

 なら早いうちの方が良いか。

 そう思ってタナートさんに渡すモノを渡し、ヘディン王に伝える前だがここ数日で進展があった部分を順番に伝えていけば、その度に居合わせた人達から歓声が上がり、その声に釣られて周囲から人が集まってくる。


「こ、ここっ……これほどの、お金を……」

「元々この地にあったお金もそれなりに含まれていますし、皆さんの奪われた品をお金に換えている部分もあります。僕はこの国の王でも管理者でもないので、上手くこのお金を使って『テロイア』だけでなく、領地全体の復興や個人の保障に充ててください」

「ち、ちなみに領主は――、オーバル侯爵やご家族は……?」

「見つけましたよ。自分達の命と資産を最優先してこの地を真っ先に捨てておきながら、いざラグリースが勝ったことを知れば当たり前のように戻ろうとするクズだったので、ご希望通りちゃんと地獄を見せておきました」


 このためにオーバル家の死体は収納したままにしておいたからな。

 言いながら捩じ切った全員分の死体を表に出せば、静寂はほんの一瞬で。

 苦しみ抜いたその死に顔にすぐ歓声が沸き、狂ったように周りの兵は喜び抱き合う。

 恨まれて当然とは言え、こんなに自分達の死が喜ばれるとは哀れなもんだ。


「本当に……本当に、ありがとうございます……!」

「いえ、その代わり悪さをすればこのようになるという見本でもあるので、皆さんは同じような目に合わないよう真っ当に生きてください。お金をまともに使う場所がなければ、当面は心配もいらないでしょうけどね」

「もちろんです。カルージュの商人達は、かなり早い段階で動いてもらえるのですか?」

「ですね。そちらがまず先に来て、後からジュロイ王国の指示で多くの物資や資材、それに人材も入ってオーバル領の復興作業を一気に進めるよう、向こうの王に話しています。ジュロイが国として動く方に関しては全て向こうの負担になりますから、上手く相談しながらやってください」


 こう伝えるも、やはり反応は微妙だな。

 交易があるのだから他国の商人程度なら問題ないのだろうけど、ジュロイから多くの人材が入ってくるという段階で難色を示す者達が増えてくる。

 西の仕業だと踏んでいる者達にとっては、家族や私財を奪われた敵国。

 おいそれと受け入れられないというのも当然の話だ。

 だからある程度の人が集まったこの段階になってようやく、オーバル領が襲われた経緯について説明していく。


 全ての企みは、出世欲と金銭欲に塗れた腹の黒い一人の貴族から。

 その貴族に唆された対岸レイムハルト領の領主も金に目が眩み、ジュロイの仕業とバレたくないために兵を賊に偽装してまでオーバル領の蹂躙を行なった。

 なのでジュロイに住む人々はオーバル領が襲われたことすら知らず、ジュロイの王も謀られた側であると。


 このような事実を伝えれば、先ほどとは一転して静まり返る場。

 オーバル家の死体で溜飲を下げた者もそれなりにいるだろうが、アレは領主として有るまじき判断をしたという話で蹂躙の首謀者ではない。

 眉間に深い皺を寄せ、怒りの矛先をどこに向ければいいのか分からない。

 そんな表情をした者達も多くいるとなれば、やはりこの男の出番である。


 ゴツッ――


「ウッ……!」


 優しく蹴ると、呻きながら男が起きたようなので、|新《・》|し《・》|い《・》|住《・》|人《・》としてしっかり紹介しておこう。


「えー横にいるのが全ての元凶であり、今もまったく反省していない男――、ジュロイのロイエン子爵こと"サンドバッグ"と言います」

「「「??」」」


 本人も、タナートさんも、周囲の兵達も。

 全員が何も理解できていない顔をしているので、説明を続ける。


「皆さん家族を亡くされ、私財を奪われ、散々な目に遭っている中で、今後ジュロイの人達と多く接点を持つことに抵抗を感じている方もいらっしゃると思います。ただ先ほどもお伝えした通り、ジュロイの人々はほとんどの人間が何も知らないのです。なので怒りの矛先は全てこの男にぶつけてください」

「え、えっと、どうやって……?」


 戸惑いながらもタナートさんが疑問を口にするので、実践とばかりの目の前で試す。


 ――【結界魔法】――『燐光』――魔力『10000』

 ――【回復魔法】――『ゆっくり、癒せ』

 ――【神聖魔法】――『ゆっくり、癒せ』


 まずは、継続的な回復効果が望める3種の重ね掛けを。

 そして――。


「あがッ!」


 皆の目の前で手足を斬り飛ばせば、傷口の出血は10秒もかからずに収まり、部位再生はせずに皮膚が形成されていく。

 うん、イメージ通りだな。


「このようにここから大きく動かさなければ、殴る、蹴るはもちろん致命傷に繋がらなければ斬る、刺す、剥ぐ、削るでも問題ありません。皆さん順番は守って、存分に溜まった鬱憤や恨みをこの男に向かって晴らしてください。この町の復興のために来てくれるジュロイの人達に当たったのでは、その人達がかわいそうですから」

「あ、あの、本当に、いいんですか?」

「もちろんです。この男はハンターで言えばCからBランク程度の実力はありそうなので、だいぶ実力差があるという方は素直に武器を使った方が良いかもしれませんね」


 そう告げれば兵士の一人はすぐに腰の短剣を抜き、鬼の形相で腹部をメッタ刺しにする。


「うぉおおあああっ!! 娘をッ! 妻をッ!! 返せぇええあぁアアアアアアッッ!!」

「おごァ! ぐっ……、ごあッ! あがッ!!」


 大粒の涙を流しながら短剣を振るう兵士は、きっと実力が足りていないのだろう。

 3分の1程度しか刺さらない刃の傷はすぐに塞がり、出血さえまともに出ないのだから、これなら相当長くこの男を活用することができるはずだ。

 一人の行動でタガが外れたのか、空いた場所に短剣を刺そうとする者、脇腹の肉を削ぎ落そうとする者、顔面を何度も踏みつける者など様々だが、俺はその横でまだ当分は大丈夫だろうと今後のために看板を作る。

 行く先で一々"用法"の説明をしていくのは面倒だからな。

 サンドバッグを転がし、あとは看板を立てておけば、これからを生きるために必要と思う人達が勝手に使用していくだろう。


「お? ゴリッゴリに踏まれまくってますけど、ボコボコだった汚い顔も随分綺麗になったじゃないですか」

「うぐッ! ぐぅうッッ! いざ…が……ッ!?」

「ん? 何言ってるか全然分からないんで、特別に今だけ口の布を取ってあげますよ」

「は、やぐ……ッ! ごろ、ぜぇ……!!」

「ははっ、何言ってんですか。あなたにはずっと生きてもらいますよ。オーバル領に残された兵士達の憂さ晴らし用にね」

「ッ!? ぐ、おっ……正気、か……?」

「もちろん。あなたが死にたがっていたことなんて分かっていましたから。だからジュロイ王や僕にも挑発していたんでしょう?」

「ぅぶっ……」

「だからあなたは殺さない。これから1日置きにオーバル領の各町を回って、その後はここテロイアがあなたの新しい居場所になります。反省も謝罪もできない生ゴミは、その動けぬ身体で人の糞でも食らいながら、寿命が尽きるまでひたすら苦痛を味わっていればいい」

「はっ……はッ……ぎざ、まは、がっ! に、人間…じゃ、ない……」


 おかしいな。

『燐光』は精神の回復にも効果があるはずなのに、殴られ過ぎてもう頭がおかしくなったのか。

 俺が常に張り付き、魔法を掛け続けられるわけじゃないのだ。

 寿命とは言うも、まず間違いなくどこかでやり過ぎたことによる致命傷を受け、治療が間に合わずにこいつの命は尽きることだろう。

 だからこそ、歯痒い気持ちでいっぱいになる。


「人だからこそ、この程度のことしかできないんですよ。僕がもし神様なら、あなたのような真正のクズは、寿命を弄ってでも未来永劫苦しませますから」
409話 装備配給

 ラグリースでヘディン王にジュロイの一件を一通り報告した後。

 拠点の図書館に向かうと、今日は二人が並んで机に向かい手を動かしていた。


「お? 今日はケイラちゃんもこっちで作業してたんだ」

「はい。だいぶお仕事が溜まっているようなので……」

「どんどん増えてくからなぁ。ってなわけで、ほい、リコさん。かなり重複もありそうだけど、これ、今回の戦利品」


 言いながら机の上に放出すれば、その振動で気付いたのか。

 リコさんが中途半端に顔を上げたまま固まる。


「ッ――! またこんなに希少な本が!?」

「そこそこデカい貴族家から回収してきたからさ。あ、あと『本』と『叡智の切れ端』の所持リスト作ってもらっていい? うちが持ってないやつは、詫びでジュロイ王家がくれるみたいだから」

「ふぁっ!? も、もちろんです! はぁ、はぁ……なんという、夢の職場なんですかここは……!」

「「……」」


 うーん。

 一人図書館で興奮し始めたリコさんは、横にいるケイラちゃんがソッと椅子の位置をズラすくらい近寄りがたい存在になっているが……

 まぁ本人が満足そうならそれでいいかと気持ちを切り替え、お次は資材倉庫へ。


 どうせロイエン子爵の爵位は剥奪し、一族郎党綺麗に消すからと。

 レイムハルト辺境伯のデカい宝物庫にあった押収品に加えて、ロイエン子爵家の私財も掃除と称して丸ごと貰ってきたのだ。

 これらをどこに放出しようか、【土操術】で簡易的な階段を作りながらウロウロしていたら、整頓好きの男に見つかり厳しいご指摘を受ける。


「ロキ、剥いだ装備が山ほど溜まっているし、エニーの底上げをやり始めてから魔物の素材や食糧も置き場に困っているのだ。いい加減整理しろ」

「ふぇい……」


 食糧難の地域が多い今は、あまり美味しくない黒象の肉であろうと確保しておいてと伝えたのは自分である。

 魔物素材も2階部分は見慣れた角やら革やらで埋まっているし、3階以降もかつてないほど装備類が山のように積まれていて足の踏み場もないほど。

 特にプレートアーマーを着た兵士の遺体が多かったので、同じような剣と鎧が大量に転がっていたわけだが。


「この刻印がいらんのよなー……」


 ヴァルツ兵も、先日潰したカルージュの兵も。

 どちらも鎧に所属を表しているであろうマークが付いており、これでは【付与】を付けてのオークション再販も躊躇ってしまう。

 できないことないけど、こんなの出していたらあっさり付与師は俺だと身バレに繋がりそうだ。


 (基本は溶かした方がいいにしても、国そのものが消えたヴァルツの装備だけは、現物をクアド商会でそのまま売るのもありか……)


 どちらにせよ、掃除も兼ねて全部あっちに持っていけばいいかと、1階から順番に不要そうなモノを片っ端から収納していくと、6階に到達した時、積まれている装備の質が大きく変わったことに気付く。


「このフロアは傭兵連中の装備かな?」


 ショボそうなモノから上等そうなモノまで、統一感の無い武器や鎧が所狭しと置かれており、その手前には蓋の無い大量の木箱が並べられていた。

 覗けばどうやら『指輪』『ネックレス』『イヤリング』の3種と、さらにそこから鉄や銀などの各素材に分けられているようで、さすがゼオ師匠と言いたいくらい整頓好きの性格が出ていらっしゃる。


「ん~エニーにはちゃんとしたアクセをあげるべきだよな……ってか、スキルレベルもゴリゴリ上がったし、全員分のアクセを更新したっていいか」


 そんなことを一人呟きながら、徐々に減っていく木箱の中身を確認していると、奥の一角には珍しい色合いをしたアクセがいくつも置かれていた。

 ゴールドとシルバーに緑を少し混ぜたような――、シャンパンに近い淡い色合いをした金属は、かつて《クオイツ竜葬山地》の地下でトレジャーハントをした時、1個だけ見つかったアダマンチウム素材と同じ色。

 ただ今はこの|Sランク《3等級》も【鑑定】できるため、その中身を確認して肩を落とす。

 決してゴミというわけではないのだが、既に付いている【付与】が凄く邪魔なのだ。

 やはり今でも抜きん出て効果が強いと感じるのは【魔力回復量増加】であり、試しに一つ拾い上げ、改めて付いていた【剛力】レベル5を上書きできるか試すも、結果はうんともすんとも言わず。

 やはり装備と同じで、一度付けた【付与】は消すことができず、素材に戻して一から作り直すしかないらしい。


「凄い装飾品を作れる職人がどっかにいればなー……」


 そんな願望を口にしながら一番奥にあった木箱を覗き、そこで俺の足はピタリと止まった。


「へぇ~、やっぱり次の|SSランク《2等級》は『オリハルコン』だったか」


 木箱の中に転がっていたのは、一見すれば金属というより石に見える、白とかなり薄い水色が混ざったような、透明感のある不思議な色をした指輪。

 たしかファニーファニーの耳からもぎ取っていたイヤリングも、これと同じような色合いだった気がする。

 そして、まったく色味の違うモノもいくつか転がっていて――。

 あぁ。

 ここで、大事なことをすっかり忘れていたな、と。

 装飾以外にも一通りの装備を確認しながら、


 ――【拡声】――


「新しい装備の相談をしたいので、ゼオ、カルラ、エニーの3人と、あとロッジも資材倉庫6階に集合してください」


 思わず装備が必要な者達を全員ここに呼んだ。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「まずは何もないエニーの装備から先にやっちゃおうか。ロッジ、まだガルグイユの素材って余裕あるよね?」

「あぁ、まだ4分の1も使ってないぞ」

「んじゃ魔導士なら他に選択肢も無いし、とりあえず『蒼竜の鱗鎧』でいいか。エニーは武器ならこれが良いとか拘りある?」

「他は使ったことないし、大ばあちゃんと同じ杖がいいんだけど……ガルグイユって何?」

「フレイビルって国にあるAランク狩場の表ボス」

「え?」

「エニーは物理で殴れる魔導士って感じでもないし、作り立ての方が【付与】の融通は利くから、杖もゼオと同じやつでいっか。えーと、『灰骨の竜杖』だっけ?」

「うむ」

「じゃあそれでいこう。ロッジ、あとでエニーの採寸してすぐに作り始めちゃって」

「了解だ」

「あとこれがエニー用のイヤリング2つ。【付与】無しは魔銀《ミスリル》までしかなかったから、両方とも【魔力自動回復量増加】を2つ付けといた。とりあえずの装備だから他の細かい部分は気にしないで」

「ふっ、【魔力自動回復量増加】レベル9の多重付与でとりあえずか。魔導士なら垂涎ものの品だぞ?」

「え?」


 エニーはさっきから首を傾げてばかりいるので、たぶん意味がまだ分かっていないんだろうな。

 まぁそれもロッジが装備を作るまでの辛抱だ。

 一通り【魔力自動回復量増加】の【付与】で固めれば、どれほど凄まじい効果を齎すかは嫌でも分かる。


「で、カルラは両方【剛力】レベル10を【付与】した攻撃力増加の指輪とイヤリング。たぶんカルラが今一番足りてないのって『力』でしょ?」

「すごっ!? 魔力は血を飲めば回復しちゃうし、ここって飲み放題だからこれが一番助かるかも!」

「あとこれ、ラグリースの王様がくれた『赤無垢』って名前の短剣、カルラには向いてるだろうから」

「?」

「"呪具"の類だから扱いには気を付けてほしいんだけど……『背命憑血Lv4』っていう特殊付与の付いたダンジョン産武器みたいなんだよね。この武器で傷つけると傷の治りがかなり遅くなって、自分も相手も、傷ついた時に通常より遥かに多い出血を伴うんだって」

「ほえーなら解体に便利かも」

「それもあるし、カルラなら相手の出血は多い方が都合良いでしょ? ここならカルラが傷つくこともまずないし、もし仮に傷ついても、普通の人より血の補給は容易なわけだし」


 自前である程度の傷が治せる俺でも使いこなせるとは思うが、敢えてこの武器を使わなければならない場面も出てこないからな。

 それなら日常的に使えて、かつ種族適性にマッチしていそうなカルラに持たせるのがベストだろう。

【鑑定】レベル9ではリルみたいに装備の性能数値までは見えないので、素の攻撃力がどれほどあるのかよく分からないしね。


「んーで、ゼオのアクセサリーは――、これ2個ね。どの傭兵が所持していたのか知らないけど、ゼオのためにあるような能力だし」

「1つはエルフ種の遺体が身に着けていたモノだが……ロキ、これは相当希少なモノだぞ? 本当にいいのか?」


 ゼオが動揺するのも無理はない。


 ストアリング:魔法攻撃力上昇『微小』 【魔力貯蔵】Lv1 使用者から溢れた魔力を最大1000まで貯蔵し、使用することが可能になる

 ストアリング:素早さ上昇『中』 【魔力貯蔵】Lv4 使用者から溢れた魔力を最大4000まで貯蔵し、使用することが可能になる


【鑑定】の結果はこのようになっており、少し前の俺ならレベル4の方は、間違いなく自分で抱えていた装備だと思う。

 けど。


「今は魔力総量が増えたのと、全身に付けられるだけ付けた【魔力自動回復量増加】のおかげで、魔力が枯渇するような事態にはあまりならないからさ。それならゼオに使ってもらった方が魔力不足で今までできなかったこともできるし、俺の血液補給が滞った時は保険にもなるわけでしょ? 使って貯蔵分がだいぶ減ったら、その時は俺が寝る時にでも装備して回復させれば効率的に扱えるわけだし」

「しかし……」

「それにね、ゼオもカルラもエニーにも、何かあった時のために強くなってほしいんだ」


 今まではそこまで深く考えなかったことだ。

 でも俺がデバフと言っていいのか分からない『反動』を抱えている以上、国を丸ごと相手にするような無茶は今後できなくなる可能性もある。

 それに自分一人では、ラグリースの時のようにどうにも回らない時だってあるんだ。

 それならいざという時は仲間を頼りたい。

 深い事情は言葉にしないけど、その気持ちだけは伝わったのか。


「ふっ、我に強さを求めるか……ならば承知した。アースガルドという国を守るため、コイツを存分に利用させてもらおう」

「ボクは軍事総長で大将軍だしね!」

「絶対強くなってみせる。大ばあちゃんみたいに、みんなを守れるような人になりたいから」

「ふふ、頼もしいね。ならいつか、これも使いこなせる時が来るかな?」


 そう言いながら、バリーが所持していた記憶のある杖を取り出す。

 明らかに上位者が使うことで本領を発揮しそうな特殊付与武器。

 俺でも使えるかなと思って確保しておいたけど、エニーがばあさんを目標にするなら――、その程度の考えだったからこそ。


「懐かしいな……まだこの時代に残っていたのか」


 この意外な言葉に、俺だけでなく、全員の視線がゼオに注がれた。
410話 懐かしの古代武器

「もしかして、ゼオが昔使ってたやつなの?」


 あまりに予想外な展開だ。

 ゼオが使用していたとなれば、1万年近く前の武器。

 そもそも、そんなに保つものなのかという疑問もあるが。


「たぶん、としか言えんがな。【消費魔力上限突破】レベル3も、我が使用していた時のモノと同じだ」

「マジか。その指輪と同じ、エルフの傭兵が持ってたやつだと思うんだけど」

「え~そんなはずないよ。王都が戦場になる前の日、最後に大ばあちゃんと会った時にその杖持ってたもん」

「んん? 前日ということは、普段はこの武器を持ってなかったってこと?」

「うん、一度も見たことない武器だったから、きっと大ばあちゃん本気なんだって、そう思った……」

「ということは――……あぁ、そういうことか」


 ばあさんを最後に見た時、もうこの杖は所持していなかった。

 けどヘディン王は宝物庫に眠っていた『大黒樹の禍棘』をばあさんに託したのだから、たぶんこの『破天の杖』も一緒に託していたのだろう。

 そしてバリーに敗れ、この武器を奪われた。

 つまりはどちらも古代の遺物。

 ゼオが最後に戦い、リアから裁きを受けたのは魔道王国プリムスの存在した現ラグリース領だし、そうなると長く地中に眠っていたモノである可能性はかなり高い気がする。


「カルラがゼオを発見して助けた時って、もうこの杖は見当たらなかったんだよね?」

「うん。師匠の身体、半分くらいは無くなっちゃってたし……」

「そっか。なら元の持ち主に返すよ。ラグリースって国は遺物を蒐集してたから、昔に掘り起こされたモノだろうしさ」


 そう言って差し出すも、ゼオは首を横に振った。


「いや、少なくとも今は遠慮しておこう。ロキも分かっているだろうが、この武器は魔力が潤沢だからこそ意味を成す。今の我には使いこなすことなどできぬし、そもそも使う場面もない」

「それは、そうかもだけど」

「だから今暫くはロキが持っていてくれ。徐々に回復してきているのだから、いずれその武器を十全に使いこなせる時も来るはずだ。エニーに教え始めてから、力の戻り方が早くなったような気もするしな」

「了解。ただ俺は使ったとしても限定的な場面だけだろうし、必要と感じたらすぐに言ってよ?」


 そう返しながら、ゼオの最後の言葉に引っかかりを覚える。


(エニーに教え始めてから、か……)


 カルラとエニーとで何か違いがあるのか。

 いくつかの可能性を考えながらも黙々と作業を進め、俺は倉庫と食糧庫の荷物整理を完了。

 一度上台地に寄ってから、肉だけは素早く足らない所へ回るよう、扱いに慣れたジェネラルマスターオルグさんに纏めて卸し、その後にベザートへ飛んだ。



「毎度~って、おぉう!? なんかだいぶそれっぽくなってきたね」

「あ、ロキさん! へへっ、俺っちの美的センスが輝き過ぎて怖いっすよ!」

「いやいや、私でしょ~! 店長の古臭い案をバッサリ切ったから、ここまでの見栄えになったんだと思うわ」

「なにをー!?」

「なによー!?」


 クアドは店長と呼ばれてるのか。

 というか素直に褒めただけなのに、なぜクアドと魔石屋のミザールさんは揉めてるんだ?

 気にせず周囲を見渡せば、入り口正面には全方位に対応するためなんだろうな。

 中で10人くらい人が動けそうな、長方形型に囲われたかなり大きめのカウンターが用意され、入って左側には俺が回収してきた炉とパイサーさんがおり、こちらも囲うように配置されたカウンターの中で何かの作業をしていた。

 奥には木製棚がズラリと並び、今もベッグさん達が木材で棚作りをしているのが、カウンター越しによく見える。


「左側は装備用、正面が通常の買い物用カウンターで、右側からお客さんが中に入って買い物するって感じかな?」

「そうっす! これだけの広さに品揃えじゃ、自分達で探させないと追いつかないっすから」

「店長は最初、一枚板のふっつぅ~なカウンターを作ろうとしていたけど、こうやって囲った方が安全だし、融通も利きやすいでしょ?」

「おぉーミザールさんやりますね~」

「ちょー!? ロキさん、あっち! あっちを見てみるっす!」

「んん?」


 言われて指を差された方に視線を向ければ、かなり奥の方にはもう一つ、入り口と同じ長方形に囲われたカウンターが設置されていた。

 それはいいのだが、なぜか何もない所にポツンと置かれている。


「あっちは高級品専用なんす! 盗人が入ってもすぐ逃げられないように奥をもう一つ区切って、絵画とか高い貴金属や魔道具とか、庶民が絶対買わないような物を並べる予定なんすよ!」

「ほっほー、となると少し様子を見てからになるけど、高級店専用の裏口を用意してもいいかもしれないね」

「そうなんすか?」

「専用の入り口を用意されていることに特別感を覚える人も多いだろうし、高いからこそ買う物を見られたくないって人も絶対いるだろうから」

「なるほど……」

「ん~実際やるとなると、専用の護衛魔物を用意したり道作ったりでちょっと大掛かりになるから、まだ決定じゃないけどね。今各所に宣伝して回ってるから、あとは今後の客層や高額品の売れ行きを見ながらってことで」


 それ以外にも専用の色に着色した、分かりやすい店内用革袋を用意した方が良いとか、纏め買いする層のために店内で使える荷車を用意した方が良いとか。

 あとは陳列棚に何を並べているのか、ザックリ分かる看板も作るべきだな。

 なんとなく日本にいた頃のホームセンターを想像しながら、せっかく作ったカウンターの見栄えが手作り感満載だなーと。

 あれこれしゃべりながら『石』を生み出し、【土操術】で望む造形に変えていく。

 あまり複雑なのはまだ無理だけど、カウンター内部にお金や物を収納できる棚くらいは作っておいた方が何かと便利だろう。

 うん。

 こっちの方が頑丈だし、見た目だってだいぶ綺麗である。


「「「……」」」


(資材倉庫の階段もあっさり作れたし、【土操術】って相当便利だなぁ……)


 あまりの使い勝手の良さに俺自身が若干ビビりながら顔を上げれば、いつのまにかパイサーさんまでカウンターの製造を見守っていた。

 ならば丁度良いかと、3人に声を掛ける。


「また大量に商品を持ってきたので、あとお願いしますね」




▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 放出した品を見て発狂している2人と、頭を抱えている18人。

 それに半眼で炉の火を見つめながらブツブツ呟いているハンター達のボスを後目に、どうせならと俺は区分けされる予定の高級店に移動。

 悩みながらもカウンター内の地面に1ヵ所穴を開け、そのまま掘り進めて地下室を作っていく。

 確保すべきスペースは広大だが、【土操術】で強引に穴を拡張し、時折【空間魔法】による『収納』を繰り返していけば、どんどん地下空間は広がっていった。

 そして目的のモノが収まる程度に広げたら強引に設置し、ギッチギチになるまで土を戻して店内に通じる階段をササッと作れば完成だ。


「クアドー! ちょっとー!」


 呼べば一人走り寄ってくるので、都合が良いとそのまま地下空間へ案内すると、存在を知っていたのか。

 クアドはボソリと呟いたまま、その場で固まる。


「これってもしかして、ストレージルームっすか……?」

「よく知ってたね」

「そりゃ、商人や貴族にとっては憧れの倉庫っすから!」

「じゃあ使い方も問題無いか。これはヴァルツ王家が所持していた特大のヤツで、開閉の都合上一人しか選べないからさ。責任者であるクアドにこれは任せるよ」

「マジっすか!?」

「俺みたいに空間や土に作用できる能力者だと破れちゃうから、決して鉄壁ってわけじゃないけど……それでも本当に高価だったり希少価値のあるモノ、あとは売上を納めておいたりとか、日持ちする食糧の備蓄なんかにも活用できるでしょ?」

「こ、これだけ広かったら相当な使い道があるっすよ!? あり過ぎてどう使えばいいか……まずは光源魔道具を設置して、あ、結界魔道具も置いとかないとマズいっすね! 中に仕切りを作って一部に冷蔵魔道具置いておけば、食品もかなり保存できそうですし……いやいや、ほんとありがとうございまっす! 凄過ぎて言葉も出ねーっす!」

「いや、十分喋ってるけどね。まぁみんなと相談して上手く活用してよ」


 最後にもう一度店内を見渡せば、今回の仕入れで倉庫内の空きスペースもほとんど無くなったので、これで売り物の補充もすぐに消費されていく食べ物以外は一旦打ち止め。

 あとはしばらく様子見でも問題ないだろう。

 また一つやるべきが片付いたことにホッと一息。


(ここで伝えるべきじゃないか……)


 そう思いながら、見張りをしてくれているであろう人物がいる天井に一度視線を向け、ジュロイのマッピング作業を再開した。
411話 8000人から得られたモノ

 その日の晩。

 かつては書斎として使用していた、今は大きな机だけが存在感を示す秘密基地内の一室にて、そろそろこんな趣味を作ってもいいかと、【土操術】で壁から留め具を生やし、戦利品で得たものの使わなそうな特殊付与装備を壁にかけていく。

 分離して磁石のようにくっつけることができる『磁双の斧』、【射程増加】のスキルレベルが+2上昇する『風貫の大弓』。

 ここら辺はまず日常的に使うこともなさそうだが……

 ヘディン王から『赤無垢』と一緒に貰ったこの槍。


【集敵】レベル3の特殊付与が付いた|Aランク《4等級》呪具――『邪魅の乱槍』


コイツは雑魚狩りでスキル経験値を稼ぎたい時にかなり重宝しそうなので一応キープ。

そして、


【氷魔法】のスキルレベルが+1上昇と、氷属性付与の付いた|Aランク《4等級》長剣『氷雪剣』

【縮地】のスキルレベルが+2上昇が付いた|Sランク《3等級》長剣『刻踏残刃』


 この2種はどちらも剣だし、成長期が終わるまではマイ装備の製造も一旦中止なので、いざという時のために持っておいても良さそうかな。

 あとはゼオが元々使っていた『破天の杖』も、魔法の威力を引き上げたい時に使えるから一応持ち歩くとして――、でもそのくらいだ。

 他にも窮地に陥るほど、何が強くなるのか分からないけど強くなるらしい【底力】が付いた指輪とか、【自然治癒力向上】が付いたイヤリングとか。

 チラホラと特殊付与っぽいなーと思うアクセもあったりするが、如何せんスキルレベルが低いモノばかりで、わざわざ【魔力自動回復量増加】Lv9の多重付与を捨ててまで着けるほどの価値があるとは思えなかった。

 残った枠に自前の【付与】はできそうだけど、一度付ければ消せないとなると、スキルレベル10にしてからでないと勿体ないって思っちゃうしね。

 うん、こうなると流れで俺が持ったままだった『大黒樹の禍棘』もそうだし、大半は売り物には回さないコレクション装備。

 たまに触りつつ基本は眺めて楽しむか、ゼオやカルラのように適材適所と思えるような仲間が現れれば配るくらいでいいだろう。


 あとは――。

 少しドキドキしながらステータス画面を開き、【転換】専用タブを確認すると、『452,105』という数値が表示されていた。

 水がめはこれでもほとんど溜まっていないように見えるが、このポイントが果たして多いのか少ないのか。

 その判別をするためにも、前々から判別用にと思っていたスキルに目を向ける。


【魂装】Lv3 9%


 コイツならポイントを振ってもまず後悔することはないからな。

 それに低レベルスキルの方が数値変動も把握しやすいだろうと、【魂装】に溜まったポイント『100』を振ると意識してみた。

 すると、


【魂装】Lv3 14%


 このように変化したため、すぐにその上昇値を手帳に書き込んでおく。

 そして最優先して上げるべき本命スキル、【転換】へ。


【転換】Lv5 0%


 このようになっているため、同じ『100』をふるも、今度は1%も数値は上昇せず。

 ただレベル上昇に伴い、必要経験値がエグい量で増えていくことなど既に把握済みなので、この程度で動揺することはない。

 冷静に『900』を追加でふれば、ここでやっと表示が1%に変化した。

 となればレベル6に持っていけることは確実。


(『10,000』を【転換】に)


 これで17%まで上昇したので、そのままポイントを突っ込み続けて次のレベル6へ。


『【転換】Lv6を取得しました』


 その後も溜まったポイントを使用しながら同様の手順で判別をしていくと、【転換】レベル7まで上げたところで以下の結果が見えてきた。


 対象スキルレベル3から4へ・・・ストック経験値『1000』で約50%上昇。

 対象スキルレベル4から5へ・・・ストック経験値『1000』で約5%上昇。

 対象スキルレベル5から6へ・・・ストック経験値『10,000』で約16%上昇。

 対象スキルレベル6から7へ・・・ストック経験値『10,000』で約5%上昇。

 対象スキルレベル7から8へ・・・ストック経験値『20,000』で約1%上昇。


 ふーむ……

 ハンスさんが強いのもコイツが理由だろうな。

 あの人のスキルは覗けなかったけど、たぶんこの【転換】スキルを使い、なおかつ職業加護の経験値ブーストでカンスト済みの貰い物スキルを多用しているから、まったく別のスキルもどんどん取得できるのだろう。

 そして俺はというと、並の兵士8000人分の余剰経験値があれば、対象スキル1種をレベル7まで持っていくのは容易。

 今後カンストスキルが増え、さらに【転換】のスキルレベルも上がればレベル8くらいまではもっていけると思うが……やはりというか、そこからは地獄だな。

 まぁそれでも効率厨の俺からすれば、溢れた経験値がしっかり活用できるだけでも最高の一言だし、まずは【転換】レベル10を目指して頑張っていこう。


 さて、と。

 次のレベル8はまったく無理なので、約15万ほどの余剰経験値を残して一先ずは終了。

 もう外は真っ暗なはずだが、そろそろ『上』は皆集まったかな?

 そんなことを思いながら、俺は飯ついでの報告も兼ねて上台地へ飛んだ。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ふーん、今回の国は大丈夫だったんだ?」

「そそ、同盟破棄したりしてるからお世辞にも良い行為とは言えないけど、国が生き残るための戦略で動いているからまだ許容範囲内って感じ?」


 一応戦争絡みの延長ということもあり、皆でアリシアご飯を食べながらジュロイ王国の結果を報告すれば、それぞれが分かりやすくホッとしたような表情を見せる。

 判断はビックリするくらい俺基準だけど、昔ゲームでやった戦国シミュレーションだと、それぞれが生き残るために調略や同盟破棄なんて茶飯事だったしな。

 これをぶっ潰すほどの悪とするのはなんか違う。


「今回は大事にならなくて良かったですね」

「本当に、ここ数年は人の数が減少してきていますからね~」


 リステとフィーリルの言葉に、8000人くらいぶっ飛ばしたけど大丈夫なのか?

 内心そんなことを思いながら、誤魔化すようにウンウン頷いていたら、ボソリと横で呟く声が聞こえた。


「やっぱり、今回は私が行く必要なかった」

「リアは前回で懲りたって顔してたもんね」

「違う……そこまで大事にはならないと思っただけ」

「へぇ~ほんとに?」

「ほんとに」

「まぁ実際行かなくて良かったとは思うけど。舐め腐った貴族連中を目の当たりにしたら、リアなら50回くらいブチ切れてただろうから」

「「「……」」」

「え、えーっと! これで戦争に関係することは一区切りついたんですよね?」

「だね。もう1個同盟を蔑ろにした国があるみたいだけど、そっちはラグリースとその国の問題で、俺が首を突っ込むような話じゃないし」


 あとはリルが狩ったユニコーン肉を本当に死活問題の地域に撒きながら、徐々にハンターギルドの物流任せにしていけば問題ないだろう。

 もうそろそろAランク狩場を保有するロズベリアの転送物流も土台作りが完了している頃合いだろうし、俺より地域密着型のギルドに動いてもらった方が、小さな村まで必要な物資が行き渡る可能性は高い。

 ようやくこれで平常運転の旅に戻れるが――。

 本題へ入る前に、これも伝えておかないとな。


「アリシア、そのジュロイって国に一人、転生者を見つけたよ」

「え?」

「【刀術】だけを与えた人、覚えてる?」


 この問いにアリシアは少しの間目を閉じ、そしてゆっくりと頷く。


「はい。他にも【刀術】を与えた者は何人かいたはずですが、だけとなるとお一人しか思い浮かびません」

「他にもいるのか……」


 伝えるべきかどうか。

 少し悩むも。


「『刀』ってさ、俺も今で――、ある程度把握しているのは5カ国か。そのくらいの国を回ったけど、一度も売っているのはおろか、実物すら見たことなかったんだよね」

「「「「「「……」」」」」」


 俺はちゃんと伝えることを選ぶ。

 これが事実であり、選んだ選択の結果なのだから、知った上で今後、同じ過ちを犯さないようにしていくしかない。


「『地図』を無くした影響かもしれないけど、刀ってかなり流通されている地域が限定されてない?」


 この問いにアリシアはすぐ答えを見つけられず、代わりに答えたのは最も下界を見ているリステと、装備には詳しそうなリルだった。


「刀は私が知る限り、東の一部にしか出回っていないはず、ですね……」

「もしくは、ダンジョンから得るか、だろうな」

「そっか。その人もね、子供の頃に攫われて奴隷に落ちてたよ。いくら両親が探してもそんな武器は周りに無くて、戦える術もないままボーナス能力値の腕力だけをひたすら利用されたって」

「ッ……そ、それで、その方は!? 下台地に連れてこられたのですか!?」

「ううん。今が幸せそうだったから、ソッとしておいた」

「……え?」

「本人がつらい思いをしているなら強引にでも連れてきただろうけど、今はジュロイに拾われ、どこかから必死に探してきたんだろうね。王様から『刀』を与えられて、強くなるために頑張っている真っ最中って感じだったからさ」

「そ、そうですか……」

「もちろんジュロイは戦力として見ているからっていうのもあるけど、本人もそれを理解して、それでも今を笑って過ごしている人もいる」

「……」

「でもリステやリルが知っていたように、『刀』の出回っている地域が限定されていることを理解していれば、転生先を絞るとかで未然に防げていたんだろうなとも思う」

「そう、ですね……」

「起きてしまっている以上、知らずに繰り返すよりは知って対策を取ってほしいから、事実は事実として、得た情報は伝えておくよ」

「ロキ君、本当に、ありがとうございます」


 ハンスさんは、勇者タクヤが願望を伝えて王子になれたと言っていた。

 それくらい限定的なこともできるのなら、転生先の地域を絞るくらいは余裕だろう。


 はぁ――……

 しょうがないとは言え、だいぶ重い雰囲気になっちゃったな。

 そんな時に伝えて良いモノかは分からないけど……

 まぁ最低限一人は、沈んだ表情も消え失せるだろう。

 そう思って、唐突に告げた。


「ねぇ、リル」

「なんだ?」


「そろそろまた、模擬戦しよっか」
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412話 再戦の目的と約束

「そろそろ、また模擬戦しよっか」


 そう告げると皆の食事の手は止まり、場は一瞬にして静寂に包まれる。


 ガタッ!


 が、その空気を壊すように、勢い良くその場を立ち上がったのはリル――だけではなく、リステとフェリンもだった。


「ほんと―――」

「なぜですか!?」

「そ、そうだよ! 前どうなったか忘れちゃったの!?」


 普段は物静かなリステが声を荒らげ、フェリンも続くようにやや険しい表情で詰め寄る。

 心配してくれているのが分かるだけに、その気持ちはありがたい。

 けど。


「もちろん理由があってのことだよ」

「いったいどのような理由が……!」


 リステだけじゃない。

 言葉にはしないものの、フィーリルとアリシアは心配そうに俺を見つめ、リアも眉間に皺を寄せ、その表情から納得していない雰囲気がありありと伝わる。

 だからこそ勢い良く立ち上がったリルは、場の雰囲気に押されて静かに腰を落とし、萎れた花のように小さくなって俯いていた。

 はぁ、しょうがないな。

 説得するためにも、端折らずにきっちり説明していくしかないか。


「理由はいくつかあるんだけど……まずこの世界で台頭している4人の転生者の話は何回かしてるよね?」


 そう問えば、伝えた情報には差があるも、全員が頷くので言葉を続ける。


「先日そのうちの一人、エリオン共和国の元首を務めるハンスさんって人に挨拶も兼ねて会ってきたんだ。一応隣国だし、以前お世話にもなってたからさ。で、その時のやんわりとした感覚だけど、四強と呼ばれている一角は超えられたかなっていうのが分かって」


 あくまで【洞察】による判定なので、本当の強さと異なることは百も承知だ。

 特にハンスさんの場合、従える魔物が周囲にいて本領を発揮するタイプだろうから、個体戦力で比較してもあまり意味はないのかもしれない。

 それでも、目標にしていたあのハンスさんを見て、あぁ、もういけるかなと。

 かつてのように腰を抜かし、冷や汗を噴出させずに済んだことで、俺の中の強さに対する興味が人から魔物へ大きく移ったような感覚があった。


「だからそろそろ本格的に、俺の実力で裏ボスと張り合えるのか、目安っていうか……リルで試せればって思ってさ」

「裏ボス……」

「初めてロキの黒い魔力を見せられた時に横で死んでた、あの小金色の蟻みたいなやつ?」

「そうそう、たぶん湧くだろうなって条件は掴んでても、いざ湧かせてまったく倒せないんじゃその後が大変なことになるかもでしょ? だから夜間とか皆に迷惑が掛からないタイミングで、その蟻を倒せているリルの50%【分体】を物差しにさせてもらおうかなーって」

「確かに、あの時のリガルは【手加減】を持ち込んでいたはずですから、拮抗するほどの勝負ができれば、その"裏ボス"という存在とも張り合える可能性は高いのかもしれませんが……」

「しかし、強さに個体差はあって当然。そのような危険を冒してまで挑む価値と意味はあるのですか? 湧かせたら最後、【分体】とは言え"戦の女神"を物差しにするくらいなのですから、誰の助けも得られないんですよ?」


 リステのような心配の表情とも違う。

 止めてほしいという、フィーリルの懇願にも近い眼差し。

 いつもの間延びした喋り方でもないのだから、相当本気なんだってことも分かる。

 でも、俺は――。


「アリシア、あの黒い円盤は、皆にまだ話してないの?」

「結局なんなのか分からずじまいでしたので、ロキ君が謎の円盤を発見したということくらいしか」

「そっか。なら、俺から分かる範囲で話しても問題無いんだよね?」

「それは……、はい」


 やっぱりアリシアは何かを知っている?

 でも二人で一緒に見た時は、本当に何も知らなそうな反応だった。

 ということは、答えは知らないけど、あそこに置かれている理由をなんとなく予測できているって方が感覚的には近いか。

 そんなことを思いながらも、パルメラ大森林の中心にフェルザ様が置いたと思われる、教会の黒曜板と同じ素材であろう巨大な円盤が存在していること。

 その円盤にはいくつかの窪みがあり、『魔宝石』に反応したことから、何かしらの起動装置である可能性が高いこと。

 そして『魔宝石』は、ハンターギルドが認知している表ボスでは今のところ所持しておらず、特定の条件下で出現する裏ボスのみ所持している可能性が高いことなど。

 現在分かっている事実をそのままに伝えていく。


「ということは、その起動装置を動かすのがロキ君の目的なの?」

「ん~目的というか目標の一つかな? 倒せばスキル含めて、どんな報酬が得られるのか。もっと強くなるためにも、それに強くなったことを証明するためにも裏ボスは倒していきたい。そうやってコツコツ討伐を重ねていけば、いつかあの円盤に何かが起こるんだろうし、その手掛かりを掴むためにも書物や源書を集めているわけだしね」

「はぁ……なぜ危険と隣り合わせなのに、こうも楽しそうに語るんですかねぇ~」

「こうして胃が張り裂けそうになりながら見守るのも、きっと愛なのでしょう」

「私もたないんだけど!?」

「あは、ははは……もちろん死にたくないし、誰かに迷惑を掛けたくもないから、かなり慎重には判断するつもりだよ。そのための大きな判断材料として、リルに模擬戦をお願いしてるんだから」

「ロキ……」

「それに、また戦おうって、約束もしたしね」

「ロキ~!!」

「あばァ……ッ!?」



 いきなり机を飛び越えぶっ飛んできたリルに揉みくちゃにされ、大好物のチャーハンが宙を舞う。

 この鬼タックルの威力でまだ無理そうな気がしてしまうけど、今後の安全を図るための模擬戦と言えば誰も文句は言わないだろう。

 それに、敢えて皆の前で伝えたのだ。

 それは観戦しても構わないということだし、今は自分でも応急処置くらいできるのだから、さすがに以前のような死亡事故に繋がるなんてあり得ないはずだ。

 ただ、最低限の装備くらいは揃ってから。

 模擬戦は早くても、俺の急激な成長期が落ち着く2ヵ月後くらいにということで話が纏まり、俺の旅は本格的に再開されるのだった。
413話 嘆きの聖堂

 皆の前でリルと再戦の約束をしてから約2週間。


「おぉっ、とうとうそれっぽいのが来たか」


 ジュロイ北西部に存在する中規模の町『スウィロー』。

 その中にあるハンターギルドの資料室にて、ようやく新スキルが得られそうな雰囲気のする狩場情報に胸を高鳴らせる。


 ジュロイの王都『フォブシーク』から真っすぐ北に向かい、そこから時計回りにグルリと、残りを埋めるようにマッピングを進めてきた。

 しかし道中は既知の低レベルスキルを所持した魔物しか存在しておらず、その間に得られたスキルは一つも無し。

 傭兵ギルドがないので悪党討伐も進まず、本格的な旅の再開とは言ったものの、立ち寄れる場所が何も無ければ、サンドバッグことロイエンの配送と、ひたすら魔力を無駄遣いした移動中の修業くらいしかすることがないわけで……


 途中でオルトラン王国のサヌールに行き、月一のギルドオークションに毎度の代理参加。

 今回も『技能の種』5個をゲットしつつ、スキルレベルが全体的に上がったことで、どう【付与】付きのゴミ防具を出品するか。

 少し悩みながらも、いくつか到達しているレベル9はまだ早いかなーと。

 白目を剥いていた鑑定屋のマグナークさんを揺すりながら相談しつつ、レベル8までの耐性系を全て2セットずつ出品しておいた。

 そう、次回からは2セットずつだ。

 オークション担当のアランさんから、マリーの奴隷であるビクターの落札総額が今回で増加したと。

 そんな情報が出てきたことで、マリーの資産を奪う計画は次の段階に移行した。

 2回連続で過去に類を見ない付与付きガラクタ装備が出てきたとなれば、3回目も続く可能性があると予想するのは当然のこと。

 そのうちオークション予算を増額させてくることなど目に見えていたので、ビクターの落札総額が50億ビーケを超えてきたら教えてほしいとアランさんには伝えていたのだ。

 動かす金を増やしてくるなら、それでも他の落札に金が回せないよう、こちらはガラクタ装備の出品数を増やすだけ。

 これでマリーから奪い取れる資産は増加し、ギルドに預けっぱなしの俺用オークション運用資産も勝手に増えていくだろう。

 それに今回の調整で、例えばレベル9の【毒耐性】をレベル8に抑えて【付与】する、みたいな。

 レベルを下げた【付与】ができることを知れたのも大きい。

 偶然試したら成功しちゃっただけだけど……

 これで出品内容にランダム性を加えられるので、ちょっとは身バレ防止や予算対策に繋がるかもしれない。


 そしてフレイビル王国のロズベリアで話が進んでいた転送配達も、この移動中に無事初回を終わらせることができた。

 今回だけは食糧問題を抱えている地域が多かったので、一応旧ヴァルツとラグリースの事情を伝えた上で、


「5日後に取りにくるから、それまでに配達希望の品を纏めておいてください」


 このようにギルマスのオムリさんへ伝えれば、当日には大小様々な倉庫50個分くらいの、途方もない量の品が準備されていた。

 さすがにこのギルマス頭おかしいんじゃないかと思ったけど、中身は食料や日用品といった生活に直結するモノが多く、人命救助であれば話は別だと。

 今までのような商人然とした雰囲気から一転して、裏のない真っすぐな顔付きをしていたし、配達先は話の通っている町のギルドなら、食糧と日用品の配分は現地の状況を見ながら俺に一任するとのことなので、マジで金儲けのことは考えていなかったのかもしれない。

 となればどうせだし、とことんやったるかと。

 次々に案内される倉庫の中身を空っぽにしていくと、オムリさんもまさか全部いけるとは思っていなかったらしく、ここでも白目剥いた変な顔のおっさんを見ることになってしまったが……

 届けた各町のギルドマスターもすぐに生活物資を回していくということだったので、ここまでくれば俺の無償配給はストップさせても問題無さそうだな。

 リルに打ち止めって言うと悲しい顔しそうだから、暫くはベザート用のお肉として、教会の敷地にでも置いておけば誰かしらが食べるだろう。


(大した量じゃなかったけど、ジュロイの王様から俺が持ってない分の書物関連は貰えたし、オーバル領にも人が出入りし始めたし……)


 あとはリルとの模擬戦に向け、できる限り己を強くしていくだけ。

 そう思いながら今までとは系統の異なる内容に細かく目を通し、狩場のある西部へとすぐに向かった。


 そして、飛び始めてから10分程度。

 すぐにその巨大な狩場の全容を上空から視界に収める。


「んー……この辺りがE-Bランクの連結複合狩場ってやつかな?」


 全体的な狩場の総称は《嘆きの聖堂》となっていたが、実際は3つの狩場が繋がるように存在しているとギルドの資料本には書かれていた。


「入り口は――、たぶん、あれか」


 森と草原の境界付近に建っている、いくつかの小屋――と呼べるほど小さくはなさそうな建物。

 その奥には鬱蒼と生い茂る山の谷間が長く続いており、手前側にはチラホラと籠を持った人の動きも確認できる。

 きっとこの谷間がE-Dランク狩場 《悲嘆の廃道》で、先の方にある開けた広間と、多くが朽ちたようにも見える人工物の広がるエリアがD-Cランク狩場 《廃棄された祭場》。

 そしてその奥――、ほとんど山と一体化したように見える、宮殿のような石造りの入り口が存在している辺りが、Bランク狩場 《忘却のファルマン聖堂》という場所で、その最奥には名前しか書かれていなかった表ボスが存在しているのだろう。

 上空から全体像を眺めれば、クネクネと奥深くまで続く谷を越えなければ奥地には入れなさそうだし、出現する魔物の系統からしてもあまり人気のある狩場とは思えないが……

 空いているならこちらにとっては好都合。


「さーて、早速魔物調査を始めますかね」


 そう一人呟きながら、上空からでも目立つ建物付近の森に降下した。
414話 イベントアイテム

「うっし! 当たりぃ!」


 スキルレベルは低いし、新種は数体の魔物を眺めても1種だけ。

 それでも得られることに意味があるわけで、視界に入った魔物を片っ端から殴り倒していく。


 パコン!


 とても魔物を倒したとは思えないような軽い音。

 そして――


『【甦生】Lv1を取得しました』


 ――アナウンスが流れてすぐ、ステータス画面を開いて内容を確認する。


「どれどれ……おぉう、やっぱり魔物専用で使用不可か。まぁこれはしょうがないな」


 もしこのスキルが使えてしまったら、目の前にいる魔物達のように甦ることが可能になってしまう。

 さすがにそっちの路線に足を踏み入れたくはないなと、そう思いながら、素手を基本に剣や槍、それに盾など。

 自身の身体を変形させた歪な武器を握っていたりもする、意外とバリエーション豊かなスケルトン達と、俺に殴られ足元でバラバラに散った骨の残骸に視線を向ける。

 骨に素材としての価値は無く、他に肉などの換金になり得るモノがあるわけでもなく。

 その代わりに、この狩場で登場する魔物は魔石が全て『闇属性』のため、換金すれば総じて高値で売れると資料本には記載されていた。

 あちらは実体のない【幻影】持ちだったので少し系統は違うが、幽霊みたいやつばっかり登場する、ヴァルツの 《旧オーベル跡地》と似たような印象を受ける狩場だな。

 スケルトンは倒しても骨を放っておけば、また魔物としてそのうち復活するようなことが書かれていたけど……

 ん~リポップとはまた別になるのだろうか?

 そんな些細なことを気にしながら、 《悲嘆の廃道》に存在している魔物を一通り確認し、次の 《廃棄された祭場》にそろそろ向かおうかと思った時。


「あんちゃん、なんで骨、拾わないんだ?」

「え?」


 声に釣られて振り返れば、そこには大きな籠を背負い、振り回しやすそうなメイスを握った中年のおじさんが立っていた。

 籠持ちで一人とは珍しい。

 そう思うと同時に、周囲に捨てられた骨がまったくないことに気付き、慌てて謝罪する。


「あ、ごめんなさい。入り口の近くだし、放っておくと復活しちゃうから、ちゃんと拾えって話ですかね?」

「ん? いや、そういうわけじゃなくてだな……もしかして籠も背負ってないし、あんちゃん新人か?」

「えーと、そうですね。この狩場には今日初めて来ました」

「やっぱりか。ならそこらに転がっている骨を俺に譲ってくれねーか? その代わりここのやり方ってのを教えてやるからよ」

「はぁ、それは構いませんが……」


 答えながらも、俺は思わず首を傾げてしまった。

 んんー、どういうことだ?

 骨に素材価値はないはずなのに、なぜかこのおじさんは欲しいと言う。


「ハンターギルドには魔石くらいしか価値が無いって書かれていましたけど、その骨って実は価値があったりするんですか?」


 感じた疑問をそのまま口にすれば、足元で骨を拾っていたおじさんは笑いながら答えてくれた。


「がははっ、そりゃあギルドじゃ骨の買い取りなんてしてくれねーよ。入り口に建ってた建物の看板は見なかったのか?」

「あー……、建物が何軒かあるのは見ましたけど、看板はまだですね」

「骨で大型の籠いっぱいにすれば、10,000ビーケくらいで『リーガル商会』が換金してくれんだ。そのまま 《悲嘆の廃道》を抜けて 《廃棄された祭場》まで自分で持っていけばもっと色付けてくれるみたいだけど、俺達みたいな入り口組には嬉しい収入になるだろ?」

「なるほど、10,000ビーケあったらかなり美味いご飯食べられますもんね」

「かかっ! 俺は2日分の酒代が浮くって考えちまうけど、あんちゃんはその歳ならまだ飯か。まぁ昼間でもちっとばかし不気味な所だけどよ、他のEランク狩場と比べたらここは稼ぎやすいぜ?」


 そう言われ、先ほど拾った魔石と、おじさんが回収している骨に視線を向ける。

 確かに、換金所がすぐ近くにあるなら嵩張る骨の運搬で苦労することはないし、入り口付近をウロウロするだけで属性魔石がそれなりに得られるのだから、美味しい狩場というのも間違いじゃないか。

 んーしかし、根本的な疑問がまったく解決していない。


「ちなみにその『リーガル商会』というのは、なんでギルドでも買取しない骨を、わざわざこんな所に建物まで作って買い取ってるんです?」

「俺も詳しいことは知らねーが、奥の方にいる『グリムリーパー』ってボスを呼び出すのに必要らしいぜ?」

「へぇ……」

「まぁ俺達みたいな入り口組は、上位ハンターの連中がやってることなんてどうでも―――……」


 その後もおじさんは、武器や防具を持たない俺にスケルトンの安全な倒し方や、狩場の横に買取屋だけでなく宿や食事処もあることなど。

 ここ5年ほどで狩場の環境が大きく変わってきていることを教えてくれたが、俺の頭の中は先ほどの言葉でいっぱいだ。

 資料本にはボスとして、確かに『グリムリーパー』の名前が載っていた。

 が、それ以外の情報は見当たらず、まぁどうせ倒されているか、もしいたとしても表ボスくらいなら苦戦はしないだろうと。

 受付で情報収集はせずにこの狩場まで来ていたのだ。

 新規魔物だと喜んでも、得られるスキルがなければすぐに移動するわけで、ハンターギルドでも資料本だけを確認するという流れが当たり前になってしまっていた。


(うーん、これは予想外の展開だな……)


 おじさんの話した通りであれば、スケルトンの骨に素材としての価値はないけど、ボス湧きのためのイベントアイテムとして価値が存在しているということになる。

 そしてわざわざ商会が買い取っているということは、ボス湧きに今までのような周期はないかあっても極端に短く、一定量集められた段階で湧く可能性があり、買い取ったとしてもボス素材で十分に回収できるほどの収益が生まれているということ。


「ふふ……ふふふ……」

「あ、あんちゃん大丈夫か? 不気味な骸骨だらけだからって、気をおかしくするんじゃねーぞ!?」


 まだ俺の願望も混じった仮説だ。

 他にも細かい条件がいろいろとあるのかもしれない。

 だが、必要アイテムが存在している時点で、今までの狩場とは何かが違うことは間違いないわけで。


「これはもしかしたら、美味しいのかもしれない……」


 そう思えばいてもたってもいられず、おじさんにお礼を言ったら次のD-Cランク狩場。

 《廃棄された祭場》へと向かった。
415話 時間も忘れて

 谷底に広がる森を上空から通過すると、周囲を山に囲まれた窪地に、広い草原エリアが広がっていた。

 高い木々はほとんど見られず、あれが先ほど話に出ていたもう一つの買取所なのかな?

 端の方には倉庫のような、少し場違いにも思えるほど大きな木造の建物が建っており、それだけで狩場が切り替わったことを理解させてくれるが……

 やはり一番は魔物の変化。

 D-Cランク狩場 《廃棄された祭場》には、見るだけで思わず顔を顰めたくなる魔物が多く徘徊していた。


「うは~これがグールってやつか」


 皮膚や眼球はなく、溶けたアイスのように赤黒い血肉を垂らしながら、意外と素早い動きで迫ってくる様々な存在を、


 ――【魔力感知】――


「ふん!」


 容赦なく胸に手を突っ込み、強引に魔石のみを引き抜いていく。

 こんな夢に出てきそうな連中、この世界に降り立った当初であれば、100%チビって夢で魘《うな》されていたに違いない。

 だが山ほどの死体と、その死に様を見てきた俺に死角無し。

 今更この程度でビビることはなく、冷静に効率的な討伐方法を考えていたわけだが――


「グール系は倒しても、ヘドロみたいに肉がしっかり残るのか」


 この 《廃棄された祭場》には、手前の 《悲嘆の廃道》にいた武器持ちスケルトンと、それらに腐ったような肉が纏わりつき、動きが素早くなった様々な大きさのグール。

 あとは森の狩場でよく見かけるウルフ系かな?

 腐った四足歩行の犬っぽいヤツまでおり、D-Cランクの複合狩場ということもあって、かなり多様な魔物が存在していた。

 イメージとしては、ラグリース北部にあった 《ベイルズ樹海》。

 あそこの中層辺りにいた魔物が、全部アンデッド系に切り替わったような場所だ。

 よく見れば、やや短足で腰が曲がっており、人というよりはゴブリンに近い姿のグールも多く存在している。

 そして周囲で狩っているいくつかのパーティを眺めていると、基本的には肉のないスケルトンを狙いつつ、寄ってきてしょうがなく倒すハメになったグール系は、血肉の中から骨と魔石だけを無理やりほじくり出すような動きをしていた。


『【甦生】Lv4取得しました』


「んー……肉はいらんのね。オッケーオッケー、それじゃ次行くか」


 《廃棄された祭場》も1種以外は全てが【甦生】スキルを所持しており、その最大値は高くてもレベル3。

 唯一の例外となる青白い火の玉みたいな魔物『ホローウィスプ』だけは、かなり面倒そうなスキルを揃えていたが……


 ホローウィスプ:【地縛り】Lv1 【気化】Lv3 【雷魔法】Lv2


 このようにレベルが低く、敢えてここで粘る必要は無い。

 最後のBランク狩場 《忘却のファルマン聖堂》で【甦生】持ちがいなかったら、その時はここでレベル7まで目指そうかなと。

 そんなことを考えながら、高さは20メートルくらいあるだろうか。

 朽ちてはいるものの、それでも荘厳な雰囲気を漂わせるトンネルのような入り口に向かえば、


「おぉ、凄いな……」


 自然と言葉が漏れてしまうほど天井の高い、石造りの巨大な部屋が内部には広がっていた。

 外から見れば切り立った山にしか見えず、ただ掘って広げたような洞窟の雰囲気はまるでない。

 天井にあるいくつもの穴から日の光が差し込んでおり、初めからフェルザ様がそのような作りにしていたのか。

 もしくは【土操術】でも多用しなければ、人がこのような空間を作り出すことは難しいだろう。


(うーん、これは秘密基地の参考になるなぁ……)


 そう思いながら周囲を見渡し――、あはっ。

 口元が緩みながら、何よりも真っ先に魔物へ突っ込んでいく。

 さすがBランクということもあり、魔物は見た目からも決して弱そうには見えない。

 地上にいるのは 《ベイルズ樹海》の深層や、他のCランク狩場でもチラホラと見かける、腹の出た3メートル近いトロルのアンデッド型。

 口から毒々しい紫の色合いをした霧を吐き出すも、【毒霧】レベル3なら問題無いと呼吸だけを止め、そのままイソギンチャクのような触手が生えたドロドロの腹に、肩口まで腕を突っ込む。


「魔石が掴みやすい大きさでいいねぇ!」


 すると横の影から人型の頭蓋や肋骨が露出した、骨の鎧で身を覆った大型のスケルトンが2体湧き上がるので、振り被る骨の剣も気にせず頭を掴み、背骨を毟るつもりで胸の中に手を入れた。

 ふーん。

 骨の鎧で身を覆っているけど、中は少し肉も存在しているらしい。


 ズボッ。


 まぁ魔石を抜いてしまえば、この手の魔物は機能不全を起こして崩れるから楽だな。


 そして――。

 先ほどから俺に魔法的な何かをしかけている、上空の魔物に視線を向ける。

 ボロボロの黒いローブを身に纏い、骨の杖を所持した髑髏の魔物。


「はっはー! そのスキルの効果はなんなのかなー!」


 資料本では『リッチ』と名のついていたソレを思いっきり地面に投げつけ、1体では足らないと。

 そのまま上空を飛びながら、残り4体もブンブン投げ飛ばせば、待ち望んでいたアナウンスが視界下部を流れた。


『【封印】Lv1を取得しました』


(頼むよ~……)


 なんとも面白そうな名前のスキルなのだ。

 今度は『白文字』であってくれと、そう願いながらステータス画面を開き――、「よしっ!」と叫びながら、その場で小さくガッツポーズした。


【封印】Lv1 視界に捉えた対象のスキル発動を確率で阻害する ただし既に発動しているスキルの阻害、解除はできない 効果時間10秒 魔力消費10


 確率とは言うも、具体的な数値はまったく書かれていない。

 ただ【石眼】や【睡眼】など、詳細がはっきりとしないスキルも多くあるのだ。

 気にしてもしょうがないと気持ちを切り替え、これからの使用場面を想像する。


「ん~秒数は短いけど、所持スキル全てが阻害対象なら、ハマればかなり強いのかな?」


 気になるのは一度【封印】が掛かれば、10秒間は全て阻害されるのか。

 それとも10秒間という中で、一つ一つの発動スキルに確率が適用されるのか。

 ここら辺は今度カルラに試させてもらうとして、難点は発動対象に俺が何かを仕掛けたことが分かってしまう点か。

 先ほども喰らったという感覚はなかったが、リッチが何かを放ち、黒い魔力が俺に纏わりついているのは分かっていたのだ。

 その他枠の魔物専用スキルだから予想はできないだろうけど、戦闘中にコッソリとはいかず、仕掛ければ相手に警戒されることは間違いない。


「まっ、どちらにせよレベルは上げるんだから、そんなことは狩りながら考えればいっか」


 ステータスが伸びるのだから、レベルを上げない手はないのだ。

 今はただひたすら狩り倒すだけ。


 ・リッチ 【甦生】Lv4 【飛行】Lv2 【闇魔法】Lv5 【封印】Lv1

 ・トロルデッド 【甦生】Lv4 【毒霧】Lv3 【踏みつけ】Lv5

 ・デスナイト 【甦生】Lv5 【剣術】Lv5 【影渡り】Lv2


「これなら【甦生】はレベル8まで、【封印】はレベル4かできればレベル5――、あっ、【毒霧】も2つか3つくらいはレベルが上げられそうだな――……」


 覗いた魔物の所持スキルと自分のステータス画面を照らし合わせ、どこまでスキルを伸ばせるのか。

 目標値を定めたら、周囲の目など気にせず、時間も忘れて魔物狩りに勤しんだ。
416話 共闘

 今はいったい何時なのか。

 夜になると暗闇に染まるBランク狩場 《忘却のファルマン聖堂》は人の気配が消え、魔物の骨や肉が擦れる不気味な音だけが僅かに響いていた。

 そんな環境を俺専用狩場だと喜びながら狩り続け、気付けばいつの間にか朝になり。

 ハンター達も少しずつ狩場に戻ってきたため、人が少ないうちはまだ頑張ろう、もう1つレベルが上がるまでは頑張ろうと粘れば、またハンター達が周囲から姿を消していた。

 狩りは疲れてからが本番。

 日の光がまったく入ってこないのだから、夜なのは間違いないと思うが。


「腹、減ったな……」


 水だけ飲んで誤魔化していたのだ。

 収納していた食料も死にかけの人達に配ってしまったので、そろそろ拠点に戻ろうか、それとも近くの町にでも移動しようか。

 そんなことを考えながら一度外に出れば、中間狩場である 《廃棄された祭場》の端から淡い光が灯っていた。


(あれは場違いな建物が建っていた辺りか……)


 そういえば宿も、それに食事処もあると入り口のおじさんは言っていた。

 ならば丁度良いかと、周囲を太い鉄柵で囲い、見張りまでいる建物のドアから興味本位で中を覗いてみると、入ってすぐに見える1階の食事処は、酒や食事を楽しむ多くのハンター達で賑わっていた。

 俺が入った途端、場が妙な静けさに包まれるも、こんな反応をいちいち気にしていたら何もできなくなるからな。

 気にせずカウンター席でグラスを傾けていた、この中で一番強そうな男の横に座り、ゴツイ店員さんに聞いたこともないメニューを適当に5つ。

 ついでに横の男が食べていたちょっとつくねっぽいけど、もっと肉肉しい何かもついでにお願いしておく。

 店内の匂いを嗅いだ瞬間、腹が減り過ぎて死にそうになっているのだから、今なら5人前くらいはきっと食べられるだろう。


(風呂も入りたいし、食べたら一度拠点に帰るかなぁ……)


 そんなことを考えながら、先に出された温い果実水に生み出した氷をポトポト落としていると、想定通りに横から声が掛かった。


「すげぇな。そこまで頼むってのは、まさか昨日から何も食ってないのか?」

「えぇ、ついつい夢中になってしまいまして」

「そうか。俺はグリムリーパー討伐チームの副長を務めているリュークってもんだ。あんた、名前は?」

「ロキと言います」

「ロキ……聞いたことないな。この国の人間じゃないのか?」

「ですね。たまたまこの狩場を見つけて立ち寄っただけですから」


 お互いが探るような、様子見の会話。

 果たしてこの団体は無害なのか、それとも俺の敵になるのか。

 氷を指でツンツン突つきながらも話は続く。


「たまたま……ってことは、ハンターの依頼を見てここに来たんじゃないのか」

「ん? 依頼?」

「あぁ、『リーガル商会』が出している、グリムリーパー討伐の反復依頼だ。安定的に倒すための人員と、骨集め要員の"ボーンハンター"を常に募集している」

「へぇ……僕もハンターですけど、募集掲示板までは見ていませんでした。狩場にこんな建物まで建てて、随分大掛かりなんですね」

「そりゃあ表面上はリーガル商会の名前で動いているってだけで、実際はジャンバイル伯爵――つーより、国そのものが主導して動いているみたいだからな」

「国が主導……? 理由は、ご存じですか?」

「あ~あんた普通じゃない強さだし、なんかこう、魔力の色もおかしいし……どっか危ねぇ国の諜者とかじゃないよな?」

「へ?」

「いや、こんなことペラペラしゃべっちまっていいのかって思ってよ」

「さすがにそれは……」

「でもまぁ、やってることなんて当たり前のことだしな……うん、いいだろ、たぶん」


 男は腕を組みながら数秒自問自答し、一人納得したように理由を説明し始めた。


「理由はボス素材で国軍の戦力を急速に強化するためだ。ちょっと前には横のラグリースで戦争もあったっていうし、西で暴れている異世界人達の火の粉がいつこっちまで飛んでくるか分からねーだろ? 自分達の領内にあるもんで戦力強化を図れるなら、やれるうちにどんどん進めろっつーそんだけの話だ」

「あぁ、なるほど……それはその通りですね」


 少し構えてしまったが、理由を聞けば納得もする。

 だから金を流してでも人を動かし、グリムリーパー討伐の回転数を上げようと考えたわけか。

 国や貴族の直接的な依頼であればハンターギルドは受理しないだろうが、商会からのボス素材仕入れということなら依頼としても成り立ちそうだし、入り口にいたおじさんのように新たな仕事と金が回って喜ぶ人達もいる。

 傭兵ギルドがないからこその苦肉の策だろうが……相変わらず、褒められた行為ではないけど悪いとも言えない、微妙なところを突いてくるのが上手い王様だ。


「んでだ。ここまで話したんだから、ロキにも聞いてもらいてぇ相談がある」

「……具体的には?」

「まずロキが狩った骨は――、いや手の内を探るような話は失礼だな。片っ端から消していた骨は今も持っているのか?」

「えぇ、ありますね」

「そいつはどうするつもりだ?」

「まだ具体的には決めていません。ただ、《《僕も》》グリムリーパーに興味があります」

「じゃあ、俺達と目的は一緒ってことだよな?」


 言いながらやや前のめりになる男だが、そう結論付けるにはまだ少し早い。
 

「それはどうでしょう。リュークさん達は倒してハンターギルドの依頼を達成し、相応の報酬をリーガル商会から得るのが目的でしょう?」

「あぁ、その通りだ」

「でも僕はお金より、ボスそのものと素材の方に興味があるんですよ。参考程度に欲しいというくらいで、丸々ってわけじゃないですけどね」

「隊長はグリムリーパーの素材から武器を作るとかで腕を一本貰ってたしな……自前装備のためなら、貢献次第で素材の一部を報酬に回すくらい許可は下りると思うが」

「んー……ちなみに、聖堂の中央にある巨大な穴に大量の骨が入ってましたけど、あれが一定量溜まったら湧くってことですかね?」

「そうだな。あの穴に入れておけば、この辺りに湧くアンデッド共はなぜか蘇らない。そして穴が埋まれば代わりにグリムリーパーが生まれる」

「今で、何割ほど満たしてるかはご存じで?」

「6割から7割ってところだ」

「なるほど」


 中央にポッカリ空いた穴はかなり巨大だ。

 大きさはパルメラ中央にある円盤よりもさらに大きく、普通の人なら落ちればまず這い上がれないだろうというくらいに内部も深い。

 まだ10メートル以上の深さはありそうな状況で6~7割か……

 まぁ、いいか。

 たぶんリュークさんが最も恐れているのは、今まで溜めた骨を俺に利用されてボスまで奪われること。

 その心配を無くしてあげれば、あとは上手くいくはずだ。

 主導しているのが国なら、損のない形であの王様に直接交渉しちゃってもいいわけだしね。

 俺は俺の目的を。

 グリムリーパーのラストアタックを必ず獲り、使うかどうかは別にしても、ロッジが喜ぶ程度の素材量を持ち帰る。

 その上で反復するかどうかは、1戦目が終わった後の戦果を見てから考えればいい。


「それでは僕も素材を提供しますので共闘しましょうか。開催は明後日くらいでも大丈夫ですか?」

「え? いや、あんたみたいな強そうなのと共闘できるのは有難いが、まず『骨』を集めないことには――」

「大丈夫ですよ。遅くとも明後日の朝までには、僕が責任を持って集めますから」

「は? いやいや、あそこまで溜めるだけでも、全域で2週間以上は……」

「大丈夫です」

「ほ、本当に……?」


 疑り深い人だな。

 たぶんそこまで切羽詰まってはいないと思うが、いざとなれば寝ずにやるつもりなのだ。

 既に丸一日分以上の骨は収納しているわけだし、残り15メートルほどのデカい穴を埋めるくらい、気合を入れればなんとでもなる。


「本当です。なのでリュークさんは副長のようですし、もしここにいない参加予定の方がいるなら呼んでおいてくださいね? 討伐しなくても個人依頼が達成されるなら好きにしてもらって構いませんけど、知らぬ間に倒されてたとかで後から揉めるのは避けたいですから」

「あ、あぁ分かった……そこまで言うのなら、明後日の朝一までには全員集まるよう、通達しておこう」


 最後はやや強引に纏めてしまったけど、ここのボスが美味しいかどうかの判定は、とっとと済ませてしまった方が今後の予定も組みやすくなる。

 皆には悪いが、前倒しとなればその分収入は増えるわけだし、仲介の商会も、それに国だって早いに越したことはないだろうしな。

 お詫びに、ここを寮のように活用している骨集めの専門や、ボーンハンターとボス討伐を兼業している面々に酒を一杯奢り。

 受け入れてもらえる空気を作ったところで、 《エントニア火岩洞》以来のレイド戦にお邪魔することが決定した。
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このような安心感がどこかへ飛んでいってしまった物語に、多くの方からブクマや★★★★★の評価を頂いたこと、改めて御礼申し上げます。
お陰様で書籍1巻も12月25日に発売され、2巻も春くらいに向けて発売できるよう作業を進めていく予定です(時期は暫定ですが)
もちろんWeb版はWeb版で、暫くは隔日更新のまま続いていきますので、ぜひどちらの物語もお楽しみください。
それでは応援のほど、よろしくお願いします!
417話 変動する強さ

 二日後の早朝。

 確実に必要量を満たしていることは分かっていたが、俺の目標はそれだけではない。

【封印】のスキルレベルを上げるべく、それこそ心を無にして狩りをしていたら、聖堂内に知った声が大きく響く。


「おーい、ロキ! こんな時間まで狩りしてるとか、骨足りてないのかー!?」

「あーいえ、狩場が空いていると勿体ないじゃないですか。だから狩りしてました」

「んん?? な、何が勿体ないんだ……?」


 なぜか混乱しているリュークさん。

 その横でローブを纏い、フードの隙間から所々はねた長い赤髪を垂らす、豪快に腹筋の割れた色黒の女性が口を開いた。


「武器も防具も無し。それでいて空を飛び、Bランク魔物を片っ端から殴り飛ばすか……魔物の死体は触れれば消えていくし、リュークの言っていた通り、確かに普通の子供じゃないね」


 いや、あなたも防具は人のこと言えないんですけど?

 ジャングルから出てきたばかりのような姿をしたこのアマゾネスさん。

 デカい胸はお茶碗被せたくらいしか隠せていないし、バキバキの身体を隠したいのか魅せたいのか、果たしてどちらなのか。

 ただ武器は鉤爪の部分がかなり長く鋭い、黒光りする巨大なウォーハンマーを肩に担いでいた。


「あなたが隊長でしたか。ロキです、今日はよろしくお願いします」

「ん? 私が隊長なんて一言も言ってないけど、なんで分かったの?」

「いや、あなたがこの中で一番強そうだからそう思ったんですけど、違ってました?」

「へ~良い目してるね、気に入ったよ。私はアウレーゼ、君の予想通りグリムリーパー討伐の隊長をやっている」


 言われながら差し出された手を握るも、高い位置から見下ろされた瞳は何かを探るような、かなり強い興味の視線が俺に向けられていた。


(勘付いているかな?)


 内心そう思うも、ここのレイド戦に参加するのは今回限り。

 目的さえ遂行できれば俺はなんでもいい。

 そう思って気にしないでいると、面子が揃ったのか、総勢50名ほどの人員が 《忘却のファルマン聖堂》の入り口に集結していた。

 慣れた様子で班分けをしたら、隊長アウレーゼさんの号令と共に全員が中央の穴へ。

 俺だけなぜか班分けされないままリーダーの後をついていけば、すぐに次の指示が下りる。


「それじゃあ、君の抱えている骨を穴の横に一旦出してみようか。まだ入れないようにね」


 穴の横?

 少し疑問に思うも、収納していた骨を少しずつ放出していく。

 すると、周囲がどよめく中で――


「やっぱりだね」

「あぶねぇ」

「よし、半数は穴を囲うように護衛、残り半数は選別だ!」


 ――そのような指示が飛び、理解できない俺の首はどんどん傾いていった。

 ここで得られた骨をちゃんと出したはずなのだが。


「あれ……なんかマズかったですかね?」

「君さ、肉付きも関係無しで、どこかに仕舞ってたでしょ?」

「それは、まぁ、分別する時間が勿体なかったので。それ以上に骨が集まれば問題ないかと思ってたんですけど、ダメでした?」

「グール系の肉まで穴に入れると、生まれるグリムリーパーにもその分の肉が纏わりついて強くなるんだ。特に肉の量が多いトロルデッドをそのまま入れたら、後々が大変なことになる」

「なるほど……」


 肉が求められていないことは分かっていたので、不要なら最後に穴の中で燃やせばいいくらいに思っていた。

 が、実際は不要なだけでなく、リスクにも繋がる罠の要素になっていたのか。

 うーん、そんなの初見じゃ分からんわ。

 そう思いながらも、


(これって、逆に利用できないのか?)


 そんな考えが、ふと頭を過ってしまった。

 グリムリーパーがどの程度の強さかは分からないが、集まった討伐メンバーの戦力やスキル構成を考えれば、おおよそヴァラカンの時と同等程度。

 クオイツ竜葬山地のガルグイユは、たぶんこの面子だと相当厳しいくらいのはずだ。

 となればボスが少し強くなろうと問題ないし、逆に強くさせることで、スキルや素材など、戦果にも強く影響を及ぼすのではないか。

 そんな期待もしてしまうが……


 もし――、もし、だ。

 肉付きが|裏《・》|ボ《・》|ス《・》|の《・》|出《・》|現《・》|条《・》|件《・》にまでなってくると、俺では手に負えない可能性も出てくる。


「アウレーゼさんは、その、肉付きのグリムリーパーを見たことはありますか?」


 だから聞いた。

 経験者が答えを知っている可能性もあると思って。


「国が主導する以前は皆が結構適当に穴へ捨ててたから、胸部と下半身まで受肉したやつなら見たことがあるよ。動きは断然素早くて、勝てはしたけど半分以上の参加者が殺された」

「そうでしたか」

「それに戦闘中も時間を掛ければ少しずつ受肉していくから、最初は骨だけで生み出すのがここの鉄則さ」

「……」


 正直に言えば、試したい気持ちはある。

 このまま、肉付きの状態で穴に放り込みたい。

 その方が手間だって掛からないだろうし、不完全な受肉であれば裏ボスにはなっていないのだ。

 それは今の話から予測できることで、もし裏ボスになっていれば数十人の犠牲程度で倒せたなんて可能性の方が低いだろうし、話を聞く限りは受肉しただけで根本的な姿形を変えていないのだから、あくまで外のグールと同じ通常の強化版程度だろう。

 けど。


(駄目だな……俺一人の問題じゃないんだ)


 選別に混ざり、骨だけを穴に放り込みながら一人ソッと頭を振る。

 そもそも6~7割は彼らが集めた骨であり、俺は今回その骨に便乗させてもらう身だ。

 ここは我慢。

 逆に初見で骨だけのグリムリーパーがどの程度で、どう動き、どう成長するのか。

 情報収集するには良い機会だと思って割り切るしかない。

 試す時は誰もいない深夜にヒッソリと行えば、周りに迷惑を掛けることもないのだから。


「君は、今の話を聞いても笑っていられるのか」


 自然と俺は笑みを零していたらしい。

 アウレーゼさんは変わらず俺に強い興味を示すような眼差しを向けていた。


「あぁ失礼しました。死者を侮辱するとかではなくて、ボスを強くすれば、その分得られる戦果も増えるのかって思ってしまいまして……」

「そういうことか。少なくとも、腹や脚に纏わりつく肉は腐敗していたから、素材としての価値はまるで無かったはずだけど」

「そうですか。ちなみに捧げる骨を、この聖堂内に現れる魔物だけに絞った方が強くなるとかは?」

「ふふっ、君は本当に面白い考え方をする。ボスが何かしらの条件で弱くなることは願っても、強くなることを願う者などまずいない」

「それはまぁ、そうかもしれませんね」


 でもそれでは、この世界に隠された何かは暴けないんだ。

 そんな消極的な考えじゃ、この先もきっと隠しボスには辿り着けない。


「ふぅ――……これは国に内緒だぞ?」

「え?」

「どのランクの骨を捧げたかは、グリムリーパーの強さに影響しているはずだ。今はリーガル商会の指示で廃道や祭壇の骨も集めているけど、この聖堂だけで骨が集まっていた時と違い、死者をあまり出さずに済んでいるからね」

「えっと、国に内緒ということは……あぁ、その事実を知らないから、回転数重視で弱いランクの骨が混ざったとしても、同じ報酬をくれているということですか」

「そういうこと。素材に差があるかまでは私らだって分からないし、国が何よりも求めているのは戦力を底上げできるほどの『数』だ。私達ハンターからしても、過度に身を削るような思いをしなくても済むのだから、お互いにその方がありがたい話なのさ」

「なるほど。でも、そんなこと、僕に喋ってよかったんですか?」

「|有《・》|望《・》|株《・》に恩を売っておくのも悪くないだろう?」

「……」

「それに今言った通り、誰かさんのお陰で今回のグリムリーパーは強くなりそうなんだ。私らも全力でやるけどさ、討伐隊から死者を出さないように頼むよ、異世界人ロキ」

「……やれと言われれば、湧いた瞬間に速攻で潰しますが」

「さすがに、うちらの出番も作ってはほしいけどね」

「ははっ、それじゃ確認しておきたいこともあるんで、安全そうなうちは少し見学しておきますよ」


 なんだよ、完全にバレてんじゃん。

 まぁ目の前で空を飛んで、【空間魔法】の出し入れまで堂々とやってんだ。

 AランクなのかSランクなのか分からないけど、国や貴族が大きく絡んだ仕事の隊長を務めているんだから、そりゃ隣国の情報くらい耳に入っていてもおかしくない。

 もしかしたらレイムハルト辺境伯やロイエン子爵の顛末まで知っているのかもしれないしな。


「さーて、そろそろ始まるよ! 戦闘態勢! 頼もしい援軍がいるからって油断するんじゃないよ!」

「「「うぉうッ!!」」」


 緊張を吐き出すような声を張り上げ、穴を見ながら武器を握る一同。

 このひりつくような空気がなんとも懐かしい。

 そう思っていると――


 ゴギギ……ギコッ……ボギゴギィィィ……


 穴全体が淡く光り、骨を擦り潰すような。

 不快で不気味な音が穴の底から鳴り始めた。
418話 グリムリーパー戦

 不気味な音と共に、少しずつ減っていく穴の中の骨。

 その様子をジッと眺めていると、どういう原理なのか。

 底に吸い込まれていた穴の動きがピタリと止まり――


「いた! 北西ッ! 今回は少し遠いぞ!」


 副長リュークさんの叫びと共に、一同が北西に視線を向ける。

 が、いない。

 一瞬、頭に疑問符が浮かぶも、よく見れば全員の顔はやや見上げるように傾いていて、目で追えばようやく逆さになって天井を這う、グリムリーパーの姿を捉えることができた。


「きもっ……」


 真っ先に思ったことが、そのまま口から零れ出る。

 下半身は近いところで言えばゲジゲジだろうか。

 胴体部はそこまで長くないけどかなりの多脚で、長い脚の先から伸びる鋭利な爪を石壁に刺しながら、ガサガサと縦横無尽に動いている。

 そして反ったように上へ延びる上半身は、人とは形の違う頭蓋を持った蟷螂に近い。

 巨大な鎌が2本の腕に備わっており、腹は網の目のような何重もの骨に覆われていて、その中心には魔石と思われる黒い石が存在していた。

 はっきりと分からないのは、完全に取り切れてはいなかったからだろう。

 魔石の一部を覆うように、黒っぽい腐肉がべっとりと付着していたためだ。


(象牙色だった骨まで黒くなるのか……)


 ソッと穴に視線を戻し、深さを再確認してからグリムリーパーへ視線を戻す。

 身体は巨体だが、それでもせいぜい10メートルほど。

 穴に放り込まれていた骨の量と明らかに質量が見合っておらず、骨が凝縮されているとか、そんな理由で強度が増し、素材価値も高まっているのかなと。

 そんな推察をしていたら、アウレーゼさんの指示が飛んだ。


「射程範囲内に入るまでは緩やかに前進! 遠距離部隊! まずは釣るよ!」


 50名ほどの隊がゆっくりと動き始めるその姿を、上空に浮かびながら静かに見守る。

 班の振り分けが無かった俺は、今回も一人だけの遊撃隊だ。

 ハンターギルドからの依頼である以上、何もせず棒立ちで報酬を得るのは良しとしないという考えもあるようだが……

 それ以上にアウレーゼさんは、昔を知らない若い世代のハンター達に、骨の比率を変えた時の変化を経験させたいという思いが強いようだった。

 だからか、俺に唯一下りた指示は、|誰《・》|か《・》|が《・》|死《・》|に《・》|そ《・》|う《・》|な《・》|ら《・》|全《・》|力《・》|で《・》|倒《・》|し《・》|て《・》|く《・》|れ《・》という分かりやすいモノ。

 ならばそれまでは逆に手を出さないでおこうと、宙に浮いたままボスと皆の動きを観察する。

 巨大な聖堂がそのままボス部屋となり、周囲には雑魚が普通に湧くなんて初めてのことなのだから、これはこれで有難い提案だ。



 ソロソロと、ゆっくり近づく一同。

 そして射程に入ったのか。

 アウレーゼさんの号令により、


「てぇええッ!」


 各々がゆっくり動きながら準備をしていた魔法や矢、それに投げ槍なんかが、一斉にグリムリーパーへ放たれる。

 すると、衝撃でボトッと地上に落ち、ここでようやくボスもこちらを認識したらしい。

 と同時に掛かる次の号令。


「三点突撃ぃいい!!」

「ん?」


 両サイドと正面から挟み込むように、三手に分かれて突っ込む近接組。

 対してグリムリーパーは対峙するでもなく、カサカサと逃げるように後方へ移動していた。


「チッ! 三点から二点に! 2班、3班、4班はそのまま周囲の魔物を殲滅したら左方に広く展開! 逃げ道を潰せ! 他はそのまま追走! 後方部隊は上空のリッチを引きつけてから落とせ!」


 凄いな……

 まだ俺にはなんだかよく分かっていないが、戦況は目まぐるしく変わり、ボスの動きに対して数秒単位で指示が変更され、いくつかの塊となったハンターが波のように動いていく。

 かつて壇上に立ち、遠くからブレークとだけ叫んでいたアホのフィデルとはえらい違いだ。

 しかし、ここまで魔物らしくない動きを取るとなると、よほどコイツの優先度は高いのか?

 そう思っていると、ようやくボスの目的が果たせたようで事態が動いた。


「へぇ……これが【共食い】か」


 グリムリーパーは背後にいたトロルデッドを、2度、3度と噛み砕きながら捕食。

 すると先ほど遠距離攻撃によって削られていた骨の一部が徐々に修復され、さらに魔石周辺を完全に覆うほどの腐肉が腹にこびり付く。

 そして準備完了とばかりに、グリムリーパーも攻勢に転じ始めた。


(盾職が【挑発】でもかましたのか)


 急に方向を変えたのでヘイト管理はできているようだけど、バカデカい鎌が上空から勢い良く振られてかなり大変そうだ。

 周囲は行動阻害目的なのか、それとも届く範囲が限られているからなのか。

 骨で形成された多脚の切断に奮闘しているけど、流れ的にある程度のところまでいけば、まだ【共食い】による捕食で回復することが予想できる。

 たぶんそうなる前に逃げ道を塞ぎ、動きを止め、受肉が少ない段階で魔石まで到達できるかが討伐成功のカギになるのだろうが……

 上空からはリッチが、【闇魔法】で貫通性の高そうな黒い球体と槍を生み出し。

 トロルデッドは人の塊に突撃しながら【毒霧】を吐き。

 デスナイトは影から急に湧いて斬りつけてくるのだから、半分近くは周囲の雑魚処理対応といった感じで攻撃の手が分散していた。

 それに、やはり今回は、いつもと少し違うらしい。


「ッ……! 今回硬くねーか!?」

「脚が、なかなか落とせねぇ!」

「槌持ち! 骨砕いて腹に穴開けろ! あんま時間ねーぞ!」

「おらァ!!」

「きたよ! 一発目! 身体が持ち上がった!」

「総員! 全力撤退! 決して振り返るんじゃないよ!!」

「……?」


 ここで明らかに、動きが変わった。

 グリムリーパーは強引に身体を起こして腹を持ち上げ、鎌の形状をした2本の腕も高く持ち上げる。

 それはまさに威嚇のポーズに見えるが、皆はその動きが何を意味するのか理解しているようで、全員が敵に背を向け、一斉に周囲へ散るように走り出す。

 それはヘイトを取っていた盾職も例外ではなく、何が起きるのか慎重に見守っていれば、グリムリーパーの口が異常なほど左右に広がった瞬間――


「う、おっ……」


 俺の身体がビクッと反応し、すぐに全身が総毛立つ。

 一方でグリムリーパーはというと、すぐに10メートル近い巨体を使って押し潰すように、先ほどとは違う方向に向かって勢い良く倒れていた。


「なるほど……急いで逃げなければ、上から降ってくる鋭利な多脚で串刺しにされるってわけね」


 皆が背を向けてでも全力で離れた理由はこれかと、ボスの動きを見ながら一人納得する。

 そして、先ほどの身が竦み、思わず後退りたくなるあの感覚は、もう一つの初見スキル。

【恐怖】でまず間違いないだろう。

 感覚的には【威圧】に近いが、何か少し違う。

 まず瞳の無いグリムリーパーと目を合わせていないし、何より影響が通常の【威圧】より明らかに強い。

 アウレーゼさんは全員に対して"振り返るな"と指示を出していたことから範囲型ではありそうだけど……

【威圧】の上位互換とも言える【咆哮】や【威嚇】と違って、影響を受けていたのは一番遠い位置にいた俺だけっぽいし、こうして眺めているだけではよく分からないスキルだな。

 まぁ、死に直接繋がるような類でもなさそうだし、もし俺が使えるようなら検証なりしていけばいいか。


 その後はグリムリーパーが最も近場にいたデスナイトを捕食し、骨の一部修復と僅かな受肉をさせてから先ほどの【恐怖】を放ったことで、行動サイクルと捕食の特性も概ね把握。

 情報収集はもう十分だし、そろそろいいかな~と思いつつ眺めていたら、


「ぐっ! 【挑発】が撃てん!!」

「チッ! 私が撃つ! 他は一旦下がれッ!」 


 かなり焦った男の声と、決死の形相で一人前に出る、盾を持たぬアウレーゼさんの叫びが聖堂内に響き渡る。

 射程はまったく問題無さそうなのだから、きっと上空を浮遊する魔物。

 リッチの【封印】でスキルが発動できない状況なのかもしれない。

 ……なら、もういいか。

 約束とは少し違うかもしれないけど、俺の目にはアウレーゼさんが今にも死にそうに映ったのだから、そろそろラストアタックを頂くとしよう。


 ――『転移』――


「はい、交代でーす」
419話 協力者

 目の前で振り下ろされる、腕に備わった巨大な鎌。


 ズン――……


 それを、掴み、力任せに引き千切ろうとするも。


「あれ?」


 想像以上に軽いようで、そのままグリムリーパーの身体が持ち上がり、他の魔物を吹き飛ばしながら豪快に聖堂内を転がっていく。


「んーこれは斬った方が早いかな……」


 そう思って取り出したのは、どこぞの爺さんが使っていた長剣『刻踏残刃』。

 特殊付与は【縮地】+2レベルなのだから、追うなら丁度良いとばかりに勢い良く踏み込み、


 ――【縮地】――


「ははっ!」


 壁にぶち当たっていたグリムリーパーの片腕を根本から切断する。

 すると振り払うようにもう一方の腕を振るってくるので、今度はしっかり掴み――

 握っていた『刻踏残刃』を真上に放り投げてから、骨の強度を確かめるように両手で強く引き千切った。


 そして間髪容れずに使用したのは【土操術】。

 地面や石壁に広がる石をツタのように伸ばし、落下してきた長剣を掴みながらスカスカの身体を縫うように通して張り付けにしていく。


「………ッ?」


 骨が擦れただけのはずが、聞こえた音には焦燥感が含まれているように感じられたのだから不思議なものだ。


「さーて、一応こっちも確かめておくか」


 腹を何重にも守る網の目のような骨。

 それらを砕きながら、張り付いた黒い腐肉を握り込むように毟ると、やはりその肉はトロルデッドよりもだいぶ硬いと感じる。

 捕食した分の肉と受肉した量が明らかに違っていたのだから、骨と同じような原理が働いているんだろう。

 喰らうほど防御力は増すんだろうけど……うん。

 この程度の硬さであれば問題無い。

 その事実を、完全な受肉型を湧かせる前に把握できれば、もうコイツに用はなかった。

 そのまま顔を出していた魔石を強引に引き抜けば、他のボスのように"段階"が切り替わることなく、視界の隅で恒例のアナウンスが流れ始める。



『【共食い】Lv1を取得しました』

『【共食い】Lv2を取得しました』

『【共食い】Lv3を取得しました』

『【共食い】Lv4を取得しました』

『【地形耐性】Lv5を取得しました』

『【地形耐性】Lv6を取得しました』

『【恐怖】Lv1を取得しました』

『【恐怖】Lv2を取得しました』

『【恐怖】Lv3を取得しました』

『【恐怖】Lv4を取得しました』

『【恐怖】Lv5を取得しました』


 ――【魂装】――


 はぁ~……

 やはり、ボスは美味い。

 タフなだけで大して強くもないのに、これだけスキルを得られたのだから上等だろう。

 それに今回は魔法防御力だったが、ボスに対しての【魂装】で大きくステータスを伸ばすこともできた。

 詳しいスキル内容の確認はのちほどやるとして、一先ずは捕縛用に絡めていた石を元に戻し、さすがに黙って俺が収納しちゃマズいよなーと。

 ずるずる死体の骨を引き摺りながら皆の下へ向かう。

 大半は口を半開きにしたまま放心しているけど、この反応なら問題ない。

 平静を装い狡猾な手を狙われるよりは、この手の反応の方がよほど安心できる。


「それじゃ町までは運びますから、誰か一緒についてきてもらえますか?」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 場所は最寄り町となる『スウィロー』。

 ハンターギルドの人に案内され、とある倉庫にアウレーゼさんと二人で訪れていた。

 国内有数の狩場を管轄するギルドと言えど、普段は魔石と小さな下位狩場の素材が持ち込まれるくらい。

 そこまで大きな解体場は備わっていなかったため、ギルド員の指示でわざわざ別の場所に運んできたわけだ。


「改めて見ても、倒し方が綺麗だねぇ」

「そうですか? 魔石を抜くのに腹の骨、かなり割っちゃいましたけど」

「この程度で済んでるなら軽微も軽微。私らなんて全方位からバッキバキに叩いて割るし、最低限自分達が持って帰れる程度の大きさまでは現地で砕くからさ」

「あぁ、それはしょうがないですよね」


 無事倒せたとしても、今度は魔物がいる狩場を通過して素材を持ち帰らなきゃならないからな。

 普通に考えれば、こんなデカいブツをそのまま運ぼうなんて誰も思わないだろう。


「普段から、もっとデカい塊で運んでこいなんて言ってる『リーガル商会』が、これ見て色でも付けてくれれば――、って、噂をすればだね」


 倉庫の入り口に視線を向けると、小太りのおじさんが布で汗を拭きながら歩いてくる。

 夏も終わり、だいぶ涼しくなってきているというのに大変そうだな。

 そんなに暑いなら金持ち風味漂う派手な格好などせず、俺みたいな風通しの良いペラペラな服か、横のアマゾネスさんみたいな露出狂一歩手前くらいまで脱いでしまえばいいのにと思ってしまう。


「最初はなんの冗談かと思ったが、本当にもう倒してきたのか。それに、この状態……どういうことか説明しろ」

「今回だけ特別ってことさ」


 そう言いながらアウレーゼさんが俺に視線を落とせば、釣られるように小太りの男も俺に訝し気な視線を向ける。

 そして徐々によく見る、分かりやすい商人《ハイエナ》の顔へ。

 一瞬、アウレーゼさんは知っていたのに、この男は知らないのか? 

 そう思ったが、このままでは面倒事になりそうだなと感じ、とっとと"手紙"を渡した。


「これ、見てもらえれば分かりますから」

「? ……こ、国王陛下ッッ!?」

「この国の王に話は通していますので、片腕を含む3割ほどの素材は既に頂いています。あぁ、魔石はサービスでそのままお譲りしますから、その分参加した人達の報酬にでも足してあげてください。素材もそちらが望まれている、加工しやすい大きさになっていますので」


 そう伝えれば俺を見て、手紙に視線を戻し、アウレーゼさんを見ようとしてすぐ横に覗き込む顔があることにビックリしてから、なぜかまた凄い顔して俺を見る。

 随分と忙しそうな男だな。

 そして手紙を覗いていたアウレーゼさんは、なぜかバキバキの腹を抱えて大笑いし始めた。

 骨の提供割合に合わせて、3割のボス素材を俺に報酬として渡すこと。

 そして余計なことをしたら、『リーガル商会』が綺麗に消えてなくなることくらいしか書いてなかったと思うが……

 まぁ、いいか。


「それじゃお腹も空いたしお風呂に入りたいので、僕はこの辺で失礼しますね」


 そう伝えて倉庫を出ようとすると、アウレーゼさんが走り寄ってくる。


「あっはっは! 異世界人ってのはすぐ気付けたけど、まさかロキが王様だとは知らなかったよ!」

「あだっ、あだっ!」


 この人、物凄く勢いが強い!

 知ったところで態度がまったく変わらないのは気楽で有難いけど、なぜ俺はバシバシ叩かれているのか。


「アウレーゼさんはもういいんですか?」

「報酬をここで貰うわけでもないし、急に周期が早まった事情を依頼主のアレに伝えたら用事は終わりだからね」

「そうでしたか」

「私も腹減ってきたから、一緒に昼飯食おうか。美味い店紹介するよ」

「ほほぉ」


 そう言われ、倉庫で一人呆けている男を放置したまま、二人で少し早い昼飯に。

 以前に本で見た、タバコっぽいヤツとお香以外にジュロイの名産を教えてもらいつつ、パンにつけながら食べる、とろみの強いかなり濃厚なラム肉スープをなぜかご馳走になってしまった。

 マッピングしながら感じてはいたけど、金回りが良いという理由からジュロイは羊飼いが多いようで、今後は気持ち値段が安くて在庫も他よりは余裕がありそうなジュロイで羊皮紙を購入しても良さそうだな。


「はぁ~量も多いし、かなり美味しくて大満足です。なんだか、ご馳走になってしまってすみません」

「いいんだよ。私らからすればいきなりの臨時収入だし、何よりケガ人すら出さずに、あの短時間でボスを討伐できたからね」

「特殊環境のせいかボス本体は他より少し弱めっぽいですけど、その分リッチがいるせいで、あそこは"事故"が起きやすい環境になってますもんねぇ」


 何気ない一言。

 経験から事実を事実として伝えただけだったが。

 この言葉に、アウレーゼさんは大きく身を乗り出し反応した。


「おぉ!? なんだなんだその口ぶり、ロキは他のボスも結構知ってそうだね」

「え、ええ、と言っても知っているのは他に3体くらいですけど……」

「どいつを倒してるの?」

「えーと、旧ヴァルツの《エントニア火岩洞》にいた『ヴァラカン』と、その東、フレイビルの《クオイツ竜葬山地》にいた『ガルグイユ』ですね」

「あれ? 《デボアの大穴》にいるクイーンアントは? 今は王様みたいだけど、ロキって元はラグリースが拠点でしょ?」

「クイーンアントは倒されちゃってて、まだ実物を見たことがないんですよ。ちなみに僕の拠点がラグリースって、なんでそう思ったんです?」


 そう問うと、革袋をゴソゴソし始めたアウレーゼさん。

 取り出したのは、見覚えしかないラグリースの地図だった。


「コイツに凄い興味があってさ。マルタで情報を収集してたら、空を飛ぶ子供が『地図』を作っているんじゃないかって、そんな話がチラホラと出てきたんだよね」

「なるほど、マルタで情報収集ってことは、クイーンアント討伐にも参加していたわけですか」

「私は周期が関係ないココを拠点に、ラグリースのクイーンアント、トルメリアのズケイラを回ってるからね。まぁ1ヵ月前くらいまではマルタに長期滞在してたけど」

「あぁ、もしかして特別な蟻ですか?」

「そっ、急にラグリースで戦争が始まったっていうから、慌ててこっちに避難してきたけどさ。それにしても……すぐに事情を察したってことは、『魔宝石』を持つ蟻もロキが倒してそうだね」


 そう言いながら向けられた視線は、悪意のようなモノを一切感じられず、ただ少女のように目を輝かせ、興味本位だけで聞いているような雰囲気だった。

 ならいいか。

 オランドさんが口を滑らせたことで、マルタの東を守っていた高ランクハンターの人達には既にバレたわけだし、情報がジワリジワリと広がるのも時間の問題だろう。

 それに今更情報を伏せるメリットも感じられない。

 リュークさん達のように骨の収集をしていなかったということは、他に何か稼ぐ手立てがあるのか、もしくは金稼ぎよりもボスそのものに対しての興味が強い人だろうからなぁ……


「正確には僕じゃありませんけど、僕もその場にいたので特殊な黄金色の蟻は見ています」

「ほんとに!? で、実際のところはどうだったの!?」

「結論から言えば、アホみたいに強いので、参加はお勧めしません。えーとマルタにいた強そうな盾の人――、ノディアスさんだったかな?」

「ああ、ノディアスと知り合いなんだ?」

「戦争絡みで会いましたからね。あの人が50人いても全く無理、そのくらいぶっ飛んでいると思ってください。たぶんですけど今の僕が本気でやって、それで勝てるかどうかという魔物です」

「マジか……」


 そう言いながらブルリと身体を震わすアウレーゼさん。

 その引き攣った表情はボス討伐を生業にしている人だからこそ感じる恐怖だと思うけど、しかしすぐに僅かながら口角が上がり、


「倒せば、どれほど凄い素材が……」


 ボソリと呟いた言葉から、アウレーゼさんも俺と似たような狂人の類であろうことを理解する。

 まぁそういう、"好きに夢中になれる人"は嫌いじゃないけど。


 暫し時間を忘れ、お互いがお互いに倒した経験のあるボス、また情報だけ抱えているボスの知識を交換していく。

 さすがにガルグイユの地下にいた腐敗の竜は謎が多過ぎるため伏せたが、この世界には『隠しボス』が存在し、変わった行動を取って初めて湧く可能性があること。

 そして倒せば『魔宝石』が得られる可能性が高いことは伝えておいた。

 こうしてボスに強い興味を示す人へ伝えておけば、何かしらの情報を独自に得てくれる可能性もあるからな。

 そして――。


「マルタの南側にあるパルメラ大森林がロキの国――『アースガルド』の入り口ね。了解、一先ずクイーンアントとズケイラの時期が近くなったら声掛けるよ」

「遠回りさせちゃってすみません。住んでいるのはもっと奥なので、常にいるわけじゃないんですけど……入り口にいる黒象の魔物に伝えてもらえれば、僕も|気《・》|付《・》|く《・》ことができますから」

「いいよいいよ。レイド戦で得られる高揚感は堪らないけど、死んじまったらそれまでだからね。いざとなればどうにかしてくれる守護者がいるっていうのは私らからすれば最高の環境だし、そのベザートって町までいけば、ここまで移動したみたいにロキが一瞬で連れてきてくれんだろう?」

「えぇ、トルメリアって国はまだ行ったことないのでアレですけど、案内してくれればそう時間はかからないはずです」

「あははっ、これで素材の装備加工までアテがあるってんだから、私にとってはこれ以上ないほどの協力者だ。少しずつ活動範囲を広げていくから、これからもよろしく頼むよ」


 そう言われ、本日2度目の握手を交わす。

 ボスに興味がある者同士、お互いが持ちつ持たれつの関係。

 ボスの周期管理や情報収集をしてもらい、俺は俺で参加者を死なせずにラストアタックを得て、必要があれば素材を買い取る。


(ふふ、そんな関係もいいじゃない)


 そう思いながら、随分と冷えてしまった食後のコーヒーをズズッと口にした。
420話 他の骨

 拠点の資材倉庫にて。

 興奮した面持ちでグリムリーパーの素材を調べているロッジを横目に、まだ少しかかりそうかなと。

 ソッとステータス画面を開いて『New』の文字を探す。


(やっぱり【共食い】は魔物専用のグレー文字だわな……おっ、でも【恐怖】は白文字! 使えるじゃん!)


 となれば、すぐに詳細説明を確認するわけで。


【恐怖】Lv5 自身を見ている存在の中から特定の1対象を選び、強い恐慌状態に陥らせる 魔力消費75


 良いのか悪いのか、このなんとも言えない説明文に思わず首を傾げてしまう。

 ちなみに【威圧】の詳細説明は、現レベルだとこの通りだ。


【威圧】Lv9 見定めた1対象を相手にかなり強い恐怖を与え、行動阻害、精神錯乱を誘発させる 魔力消費5


 範囲だと思っていた対象は一体だけで、【威圧】と比べて"対象が俺を見ている"という条件まで加わっている。

 威力の面で違いはあると思うのだが、見合っているのか疑問に感じるほど魔力消費は多めだし……

 ボスから得られたスキルということもあって期待していただけに、ちょっと肩透かしというか、期待外れな感が否めないでいた。

 うーん。

 試せばもっと違いが分かるのかもしれないけど、仲間相手にこの系統は試しづらいんだよなぁ……


「ロキ、もういいぞ」


 そんなことを考えていたら、満足気な表情をしたロッジから声が掛かった。


「どう? Bランク狩場にいたちょっと特殊なボス素材だけど、何かしらに活用できそう?」

「叩いたら金属みたいな音が鳴るし、この強度ならかなり優秀な装備素材になるだろ。特に防具にすれば面白そうだ」

「へぇ~ロッジの見解は防具なんだ。細かいし鋭利な骨が多いから、武器に向いてるのかと思ってた」

「手軽で向いているのは確かに武器だが……この骨は金属に比べりゃだいぶ軽い」

「たしかに」

「防御力と引き換えに機動力を失う重装備の連中からすれば、この軽さでこの強度は相当喜ばれるだろうな。まぁ作り手はこの骨の加工に相当難儀するだろうが」

「ふふっ、んなこと言って顔がニヤけてるよ?」

「がははっ! こんな硬い骨、今まで触ったこともないんだから当たり前だろ! ……しかし、不思議なモンだ」

「ん?」

「コイツを見てると、身が竦むような感覚を覚える。魔物の骨なんざ散々見ているのにな」


 そう言いながら黒く染まった骨をゆっくりと撫でるロッジに、心の中で感嘆の声を上げる。

 あそこにいた討伐メンバーは慣れていたからなのか、それともボスその物の恐怖が強くて麻痺していたのか。

 骨を見てもそのような反応を口にする者はいなかった。


「ロッジのその感覚、正解だよ」

「正解?」

「倒した後の素材を【鑑定】で覗くとね、『見る者を僅かに恐怖させる』って出るんだ」

「つーと、その効果がこの素材そのものに備わっているってことか?」

「そういうこと。ちなみに『ガルグイユ』にも、『水耐性増加』っていう特殊な素材効果があったよ」

「……ボス素材限定か」

「なのかな? 俺も最近やっと【鑑定】のレベルが追い付いて分かるようになってきたから、たぶんとしか言えないけど」

「くははっ、いやいや、それでも面白ぇじゃねーか。他の工匠連中や鍛冶仲間でそんなことを知っているヤツなんて一人もいなかった。ははっ、『バルニール』にいたらこんな面白ぇことには、たぶん一生気付けない」


 そう言って歯を見せながら大きく笑うロッジを見て、アウレーゼさんと話も合いそうだし、いずれあの人をここに連れてきてみるかな?

 そんなことを考えながら、ロッジには次の予定を告げておく。


「近日中にもう一度、今度は丸ごと素材を持って帰るから、今そこにある素材は好きに使っちゃっていいよ」

「……は?」


 ロッジもボスは周期があると思い込んでいたからな。

 まさかすぐに次があるとは思っておらず、唖然とした表情を浮かべていたが、決して悪い報告ではないのだ。

 俺は俺で準備を進めるべく、今は魔物の死体が転がっている資材倉庫裏手の庭へ。

 豚君が落ちると困るので奥の方に陣取り、帰り際に作成した2本の細長い石柱を取り出す。


『穴』


 そして短い方の1本を無造作に地面へ。

 その大きさを直径の目安に、程よい深さの穴を開けた。

 そうしたら2本目の登場だ。


『もっと深く』


 穴に2本目を刺し、計測通りの深さになるよう微調整を加えていくところで、俺が何かをやっていることに気付いたカルラが近寄ってきた。


「何やってるの~?」

「デカい穴を作ってるのだよ」

「なんで? あ、もしかしてゴミ箱?」

「違う違う、って生ごみ用にそういうのを作ってもいいかもだけど……これは、素材を満たしているかどうか測るための穴」

「?」


 今後は夜中にコッソリ湧かせて狩ることになるからな。

 また新しく皆が骨をあそこに溜めていくだろうし、俺がその素材に手を出すわけにはいかない。

 だからこそ、必要素材を満たしているかどうか確認するための、同サイズの穴が必要なわけだ。

 ここで満たしていることが分かれば、皆が溜めた骨を一度収納し、代わりに自前の素材を放出すれば一度の手間ですぐに湧かせることができる。

 終わったら皆の素材を穴に戻せば、誰に迷惑を掛けるでもなく完璧に一人レイドを遂行することができるからな。

 念のため【土操術】も使用して穴の周囲を石で補強し、ついでに雨で水が溜まらないよう、縁《ふち》を高めに作成したら簡易の屋根を取り付けておく。

 複雑な構造でなければ、粘土のように石の造形を変えられるのだから、【空間魔法】に次ぐくらい【土操術】の実用性は高い。

 ものの5分程度で"目安穴"が完成し、その出来栄えにウンウンと頷く。

 そして勢い良く、ストックの骨を放出した。

 するとかなり深い穴の4割を埋める程度の死骸が溜まっていく。

 なーんだ、不眠不休で狩ってたお陰か、意外と溜まってるじゃない。


「なにこれ! 骨とグチャグチャの肉ばっかり! またどっかで戦争でもしてきたの?」

「違うって。人型っぽい骨ばかりに見えるけど、これ全部魔物だからね?」

「ふーん! ねぇボク達用にもこのゴミ箱作ってよ? 肉はジェネがひたすら食べてるから自然に減ってくけど、骨は余って森の外に捨てるくらいしかないしさ」

「あーなら大きいの作っとこう、か………?」

「ん?」


 いや。

 いやいや。


 |た《・》|ぶ《・》|ん《・》、|な《・》|い《・》|よ《・》|な《・》……?


 あの一帯の骨がボスを湧かせるためのイベントアイテム化しているのは、共通して所持している【甦生】スキルのせいだ。

 だから所定の位置に骨や肉を置けば、再利用されてボスが登場するのであって、さすがに|他《・》|の《・》|骨《・》では何も生まれないと思うが――……本当に、そうなのだろうか?


「……分かった。モノは試し、これと同じ穴を他にも二つ作るから、今度から骨は『人』と『魔物』に分けて捨ててみてよ」

「魔物は今までみたいに売り物の素材にしないの?」

「ちょっと試したいことがあってね。魔物も種類は関係無しに一度溜めてもらえる? 効果が無かったら今まで通り素材として売るからさ」

「ボクは構わないけど」


 早速普段解体をしている血の池プール付近に移動し、先ほどと同じサイズの穴を二つ形成。

 分かりやすいように『魔物用』『人間用』と、木の立て看板をそれぞれにぶっ刺しておいた。

 これでエニーと修業中のゼオもすぐに分かるだろう。


 ――完全受肉。

 ――想定外の魔物。

 ――そして、人。


 果たしてこのどれかが裏ボス出現のルートに繋がるのか。

 まだ本当に出てしまったら困るので、今はもう1巡だけ。

 目標まで上げ切っていない【封印】の経験値回収をしながら、本番前にトロルデッドを中心とした不完全受肉型がどの程度なのかを確認。

ついでに【転換】の余剰経験値を回して【魂装】の枠をもう一つ増やし、ステータスを伸ばせるだけ伸ばす準備を進めておくか。


「ふふっ、ふふふっ、楽しくなってきたねぇ……」


 思わず興奮でまた狩場へ向かいそうになるも、さすがにそろそろ寝ておかないと身体がおかしくなる。

 どの道、成長が止まるまではまだ時間が掛かるのだから、じっくり楽しみながらいきますか。

 そう一人呟きながら風呂の準備を進めた。
421話 自由都市ネラス

 残る北西部のマッピングを日中に進めながら、人のいない夜間は眠くなるまで 《忘却のファルマン聖堂》で経験値稼ぎと骨集め。

 こんな毎日を繰り返して6日目、ようやく5ヵ国目となるジュロイ全域の地図が、約1ヵ月ほどの期間で完成した。

 あまり時間を掛け過ぎると、先に公表されている国から不満が出るとアリシアに指摘されていたからな。

 戦争の後処理や大型の狩場に張り付いていた期間も考えれば、だいぶ期間も短く全域を回れたんじゃないかと思う。

 そして今、目の前に広がる"特別な区域"に足を踏み入れるべきか。

 広く見渡せる丘の上に立ち、【自動書記】のお陰で以前よりも出来が良くなった地図を開きながら暫し考え込む。



「ここが噂の巨大都市ですか」

「みたいだね。厳密にはジュロイの領土じゃないみたいだけど」


 今回は俺だけでなくリステと一緒だ。

 地図ができる度に開催される各王都の市場調査も、それ以上の都市があるとなれば話は変わる。


 川を挟んだ先に存在する巨大な街の名は『自由都市ネラス』。

 南東のジュロイと北東のトルメリア、そして西に存在する水の国――ハーティアという三国間がぶつかる地域に存在する緩衝エリアのようで、元々は土地が枯れるほど戦を繰り返していた三国が不毛な争いを控えるため、各国が協議の末に生み出したとされる空白の地帯らしい。

 しかし多くの商人が三国の交わるこの地域に目を付け、露店市が宿場町となって、いつしか商人達の集う巨大な商業都市へ。

 一定の金を三国へ支払う代わりに独自のルールで動く、特殊な不干渉エリアがかなり前から出来上がっていると、ジュロイ王から話を聞いていた。

 表向きは元に戻せばまた争いが生まれるからという話だが、各国にとっても何かと都合が良いから、現状を変える気もないのだろう。


「【地図作成】ですと、一応国境線が手前側で引かれているようですね」

「そそ。だからこの先はいくつかの大きな商人が取り仕切っているっぽいんだけど、噂を聞く限りではかなりヤバそうなんだよねぇ……」

「商人の記憶にはよく登場する街ですが、そこまで危険なことをしているのですか?」

「いや、面白いけど危ない、みたいな? 大陸最大らしいオークション会場に劇場や強さを競って登録する武闘場。それに商業ギルドの本体もここにあるみたいなんだけどさ。一方で様々な賭場とか、貴族や王族まで存在するらしい巨大奴隷市場、それにかなり危ないモノでも手に入る裏オークションもどこかに存在しているって知り合いのハンターが言ってたんだよね」


 ちなみに情報元はアウレーゼさんだ。

 あの人は『自由都市ネラス』を知る限りで一番楽しい場所だけど、一歩踏み外すとすぐに地獄へ落ちる場所とも称していた。

 それにずっと気になっていた『カズラ血毒』も、情報元は数人程度だけど、この都市から流れているという話しか出てこない。

 つまり、かつてあった子供の誘拐事件も、たぶんだが運ばれる先はココ、自由都市ネラスだったのだろう。

 最大規模の歓楽街であり、同じく最大規模の無法地帯。

 今のところはそんな印象があり、ある程度の自衛もできる今の状況であればワクワクが勝ってしまう。

 しかし――。


「なぜ悩まれているのですか?」


 俺の顔を覗き込み、心配そうな顔で見つめるリステ。

 商売の女神が一番興味を示しそうな場所なのだ。

 幸せな悩みを抱えているだけだというのに、そんな顔をさせてしまって申し訳ない。


「行きたい場所が多過ぎるんだよね。オルトランに隣接している3カ国はどこも行きたいし、このネラスって所も面白そうだし……」


 それにここから西側に広がる水の都ハーティアだって、アウレーゼさんの情報では魔物も生息するかなり巨大な湖があるらしく、そこにはやや距離はあるみたいだが表ボスも存在しているとのこと。

 それに北東のトルメリアも聞いていたボス情報だけでなく、新種スキルの匂いがする狩場がありそうなのだ。

 有翼種が複数生息しているBランク狩場となれば、1つ2つ新しい魔物専用スキルを拾えてもおかしくない。

 はぁ~本当に、悩ませてくれるなぁこの世界は……


「ならばこの自由都市は後回しでよろしいのではありませんか?」

「え? でもリステが一番寄りたいのって、正直ここでしょ? 商人の総本山みたいな場所だし」

「それは確かにそうですが、しかしこの街であれば、何かを終えた後の気分転換や買い物で少しずつ立ち寄ることもできるでしょう?」

「あー、そうだね。大きいは大きいけど狩場もないただの街だから、マッピングが全部済むまで次の国に向かいたくないっていう感情はないかも」

「なら丁度良いではありませんか。ロキ君が少し休憩したくなったら私はいつでもお供しますから、少しずつ、千回くらいに分けてこの町を楽しみましょう」

「千回……??」


 なんか乗せられたような気がしなくもないけど、たぶんこの町は皆がそれぞれ違うポイントで楽しめるだろうからなぁ。

 それにオーバル領の件で大量の押収物と引き換えに、俺は多くの現金をタナートさんへ放出してしまったのだ。

 この手の裏稼業も存在していそうな街は、潤沢な資金があった方がより楽しめそうだし、そうなるとクアドがどんどん在庫品を売ってくれた後の方が俺としても都合は良いか。


「うし、それじゃ予定通り、担当の東を俺は攻めるとして――……今回はとりあえずジュロイの王都『フォブシーク』を調査してみよっか」

「はい、私はロキ君と一緒ならどこでも構いません」


 そう言いながらスルスルと、俺の腕に絡めてくるリステ。

 戦争の時も大きく心が乱れたけど、今はまた違う種類の乱れに襲われながら必死に平静を装う。

 こんなの、いつまで経っても慣れるもんじゃないな。

 そんなことを心の中で零しつつ、異常に目立つリステと共に、王都の市場を見て回った。
422話 新しい試み

 誰もいない、深夜のファルマン聖堂。

 その中心部で、半分くらいは腐肉で埋まった穴が不気味な音を奏で始める。


 ボキ……バキッ……グチュ……グチャ…ボギギギッ、グチュ……


 そして穴の素材がほぼ無くなりかけた頃。


「あの肉の量でも、上半身の多くはまだ骨のままか」


【広域探査】の反応箇所に視線を向ければ、前回とは違い、腹回りや下半身が黒く染まった、半受肉型のグリムリーパーを視界に収める。


 ――【洞察】――

 ――【心眼】――


「なるほど……スキルはレベル含めて変わらず。強さは――、結構上がったのか?」


 壁面を這いずる速度は明らかに速く、それこそ骨の時に比べれば倍ではきかないくらいになっていた。

 スケルトンとグールの差を考えれば、おおよそ能力差は見当がつくも――、うん、問題ないな。

 この程度で済むなら、|ま《・》|だ《・》|弱《・》|い《・》という印象しかない。


「はっはー!」


 素材として活かせるよう、飛びついたそばから両腕を捥ぎ取り、脚も丁寧に丁寧に、少しずつ千切っていく。

 その時、骨の強度は変わらないように思えたが、肉は以前よりも硬くなっているような気がした。

 例の如く、手足を失ったグリムリーパーを【土操術】で貼り付けにし、完全受肉体を目指すなら必要かと、前回できなかった実験をこの場で試す。


「ホレ、喰え」


 強引に捕まえてきたのは、首を飛ばしてもまだ動きのあるトロルデッド。

 ソイツを口の前に持っていけば、グリムリーパーは貪るように捕食していく。

 すると受肉した部分が頭部まで少し近づき、千切られ欠損していた脚の一部が生えるように復活した。


「ホイ、次」


 そしてすぐにもう1匹を口の前に出すと、確認していたパターンを崩してまで再度の捕食に入る。

 なるほど、【恐怖】を挟まなくても目の前に食事があれば、ちゃんと食ってくれるらしい。

 ならば強制的な食事で、すぐに完全受肉体へ持っていくことは容易だな。

 オッケーオッケー。

 これが知れて良かったよ。


 ――【魂装】――


「……ッ!?」

「お疲れ様」


『レベルが61に上昇しました』


『【恐怖】Lv6を取得しました』


「おっ、久々のレベル上昇――、って、やばっ……ここで切り替わるのか」


【恐怖】Lv6 自身を見ている存在全てを、強い恐慌状態に陥らせる 魔力消費90


このように【恐怖】の詳細説明を確認すると、対象が『一人』から『全て』に変化していた。

見られていることが条件とは言え、今までにないほどの広範囲型。

これでようやく消費魔力に見合う効果が見えてきたな。

それに【封印】も目標としていたレベル5までは上げられたし、【魂装】だって数値は低めだけど、被っていない『幸運』を引き当てられたのだからまずまずの結果だ。

 あとはリルのテストを通過できるのかどうか。

 次に来る時は、裏ボスを倒すつもりで――

 皆が集めた骨を多めに穴へ戻しながらも一人決意を固め、俺はほどよくお世話になった聖堂を後にした。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 丸めた羊皮紙を片手にズンズンと階段を上り、求めている七三頭はどこに隠れているのか。

 多くの机や棚が並べられたフロアをゆっくりと見回す。


「あ、いた。ワドルさーん!」

「ぬほぁ!? ロ、ロキ王! 直接来られたんですか!?」

「え? そりゃ僕が作ってるんですから当然じゃないですか。あ、あと今まで通りでいいですからね」

「えぇぇ……念のため確認しますけど、ロキさんって新国アースガルドの王になったんですよね?」

「ですね、一応なりました」

「一応ってなんでですか、一応って……ちなみに次はどこの国を旅してきたんです?」

「今回はお隣のジュロイですよ」


 そう言って出来上がった地図を見せれば、ワドルさんは眺めながら軽く頷く。


「確かに、多くが記憶にある配置通りですね。戦争でご尽力いただいたというのにこの速度、相変わらずロキさんは仕事がお早い……それに描き方が綺麗になっているような?」

「それはもう5ヵ国目ですから、慣れもしますよ」

「ははっ、そこはお互い様ですね。ではこちらも早急に動きましょう。ジュロイならば話も早いので、一月とかからずあちらでも販売開始されると思いますよ。ちなみに他国でも売れ行きは好調、羊皮紙のみの高級路線でもまだまだ問題ありません」


 そう、これで5回目だ。

 お互いがやり取りにも慣れ、地図の信用度は増し、精度の確認というこの件に限って言えば無駄な工程を挟むことなく商品化が進んでいく。

 最近は連絡を取る前から、既に他国の商業ギルドも『地図』の存在を知っていて話が早いと。

 そんな軽い世間話を挟んですぐに用件は終わるわけだが、今回は少し違う。

 様々な環境が整ったことで、もう一つチャレンジしてみたいことを俺から切り出した。


「ワドルさん、一つ相談なんですが」

「はい?」

「とりあえず二つ、商業ギルドを通さずに、新しい形で別種の地図を販売してもいいですか?」

「え? えーっと……作られているのはロキさんなわけですから、私共商業ギルドに止める権利などありません。あるのは『商業ギルドの専売』としてやらせてもらっている、これまでの地図に対してだけです」

「もちろん今までも、そしてこれからも、各国の地図を独自に売るようなことはしませんよ。以前もお伝えした通り、目的は『収益』と『拡散』の両立ですから、複製問題にかなり効果がある商業ギルドの専売方式で今後もお願いしたいと思っています」

「ならばこちらとしては何も問題ありませんけど……気になりますね。"別種"とは具体的にどういうモノなのか、聞いてもよろしいので?」

「それはもちろん、試作品も持ってきましたから」


 言いながらカウンターに並べると、やや大きめな羊皮紙に描かれた地図を見て、ワドルさんは目を見開きながら顎を摩る。


「なるほど……|い《・》|つ《・》|か《・》|は《・》と内心思っていましたが、ロキさんはもう動くわけですか」

「ええ、まだまだ未完ではありますけど、『大陸図』もあった方が何かと便利でしょうから」


 5ヵ国を繋げた地図は王都などを含む主要都市や、それら都市に繋がる主要街道のみを描いており、大陸図の特徴として明確な国境線を記していた。

 今までの地図を強引に繋げたところで、国の大きさが違うのだから縮図だって違う。

 しかしこのような一枚の大陸図にすれば、どの国がどのように隣接しているかなど一目瞭然。

 国主導で俺の作成した地図を基に、各貴族が持つ領地の境界線を引いた地図や、更に細分化して村まで記載された地図も少しずつ出回ってきているようだが、大陸図を精度重視で作るとなれば、まず現状では俺にしかできないことだろう。


「それはもう、間違いなく需要はあるでしょうね。しかし懸念されていた複製の問題は大丈夫なのですか?」

「いや~大丈夫ではないでしょうねぇ……羊皮紙のみの販売にして、売る時に複製品の製造しやがったら"必ず死罪"と忠告くらいするつもりですが」

「ブッ!」

「ただあくまで|未《・》|完《・》ですし、1ヵ月2ヵ月すれば新しい|未《・》|完《・》の大陸図が出来上がるわけですから、少なくとも大陸図が完成するまではウチの専売として、僕の求めている目的が果たせればいいかなーくらいに思っています」

「ふむ、ではこちらも同じですか。狩場と魔物情報……ふふ、ロキさんらしい」

「ハンターが外の世界に目を向ける良いきっかけになるでしょう? 商人だって狩場情報は商売をする上での参考になるでしょうし」

「間違いありませんね。魔物素材の仕入れだけでなく、最寄り町に卸す品の質や量にも強く影響します。得てして上位狩場を管轄とする町は、人と金が多く集まるものですから」


 もう一つはかねてより作りたいと思っていたハンターマップだ。

 国別の地図を改良し、おおよその場所、狩場ランク、出現魔物を付け加えつつ、狩場が周囲に存在しないような町は地図から省いておいた。

 はっきり言えば大陸図なんかよりも遥かに作るのは面倒だったが、自分用に収集していた情報がだいぶ手帳に残っているからな。

 それに一度作ってしまえばあとは複写するだけなので、環境さえ整えれば俺でなくとも製造は可能だろう。


「これらを売る場所は、ロキさんの抱えるクアド商会で?」

「その予定ですけど、もう知ってました?」

「私共商業ギルドの人間は当然として、王都で活動する商人や富裕層にも噂は広がっていますよ。アースガルドの入り口に、とんでもなく巨大な商会ができたと」

「ふふ、それは良い傾向ですね」

「……はぁ。この2種類の地図は呼び水――、専売をすることで商会の『宣伝』にでも活用するおつもりですか?」

「もちろん、うちの収益の要ですから」

「『収益』と『拡散』という目的だけであれば、この2種も商業ギルドを利用された方が効果的だと、説得を試みようかと思ったんですけどね。『宣伝』という目的まで追加されるとこれは厳しい」


 そう言って肩を竦めるワドルさんに俺も苦笑いを浮かべる。

 実際どうなるかはやってみないと分からないけど、うちでしか買えない限定地図の噂が広まれば、十分足を運んでもらえる切っ掛けになるはずだ。

 リステとジュロイの王都を調査したことで、羊皮紙の入手に一定の目途が立った。

 製造も書庫の仕事に携わっていた3人は当然として、俺も、それに上台地にいる6人も確実にやろうと思えばできる。

 そこまでしなくても、ベザートで仕事を求めている人に【自動書記】や【写本】のスキルを取ってもらえれば、生産が追い付かないなんて事態にはまずならないだろう。


「それじゃよろしくお願いしますね。次は東のどこかだと思いますから」


 そう告げつつも、地図の件は一応クアドにも相談しておこうかと。

 なんだかまともに足を運ぶのは久しぶりな気がするベザートに向かった。
423話 動き始めたクアド商会

「お、おぉ……?」


 ベザートの上空に飛んだ俺は、その光景に唖然とした。

 数本の大通りを中心にして、碁盤の目のように交差する細い道。

 それらの道沿いは外周部にいくほど作りかけも多いが、所狭しと茶色い家が建ち並び、大通りには多くの人影を確認できる。

 ラグリースとアースガルドを繋ぐ川沿いの道も人がそれなりに行き来しており、よく見れば荷車だけでなく、馬が牽いた馬車まで動いていて―――。


「うぉおおおお!? もうだいぶ町っぽくなってるし!!」


 元が空地、というより魔物の住む鬱蒼とした森だったのだ。

 一から作られていったその工程を少なからず見ていただけに感動も一入。

 大急ぎで滑空し、クアド商会の屋上で寝そべりながら町の入り口を見ていたスナイパーリルの上に伸し掛かる。

 これは先日猪のように突っ込まれたお返しだ。


「へごっ!?」

「ちょっとちょっと! 久しぶりに日中来たら、すんごい町っぽくなってんだけど! なんで教えてくれなかったの?」

「な、なんでって、ロキは知ってたんじゃなかったのか?」

「いや、リルの狩ってくれたユニコーン肉とか届けてたけど、明るいうちはずーっと別の国のマッピングを進めてたからね。たぶんまともにこの町の状態を眺めたのって、3週間とか4週間とかそのくらい振りだし」

「怪しい強者が入ってこないか、私だって明るい時間は常に【神眼】で入り口や周囲を見張っているのだ。暗がりの中、転移で入ってくるロキがこの町に来ているかなんて把握できんぞ」

「あー、なるほど。あはは……ごめんごめん。一度も【神託】が無かったってことは、今のところ問題無し?」

「うむ。明らかに商人と分かる者達が増えてきたのと、あとは身なりの良さそうな旅人も少し増えてきたな」

「なるほどね……んーじゃ、そこら辺はクアドと町長に聞いてみるか。あ、今日の晩御飯はジュロイで初めて見たいろいろな料理と、果物の蒸留酒なんてのも沢山買ってあるから期待しといてよ」

「おほ~!」


 それだけ告げたら屋上から飛び降り、店の入り口を見張る黒象ギリコに余っていた腐肉を上げたらお店の中へ。

 すると入り口正面の複合カウンターには、会計を待つ数組の商人と思しきお客さんが。

 他にもモノでゴチャゴチャした店内には、荷車を押しながら商品を見ているお客さんが複数人おり、既にお店として機能している――というより、そこそこ繁盛しているようにも見えてしまう。

 その証拠にカウンターで対応している魔石屋のミザールさんと、10代後半くらいに見える見覚えのない若い女性。

 それにベッグさんと行動を共にしている元奴隷組の厳つい顔をした二人は、男女でペアを組みながら忙しなく対応していた。


「いらっしゃいませ~」


 なんとなく日本にいた頃の感覚で、お客さんがいれば挨拶をしてしまう。

 するとその声にすぐ反応したのはミザールさんだった。


「あぁ! 良い所に! ちょっとマギーちゃんの方を手伝って!」

「え? ええ?」


 意味が分からないままカウンターに呼ばれ、元奴隷組がお客さんの荷車から拾い上げた商品の値段を読み上げられる。

 どうやら計算しろということらしい。


「ちょ、待って、せめて書くもの……」

 横の女性から薄い木板を手渡され、読み上げられた数字を書きながらチラリと様子を見れば、横のミザールさんペアも同様のことをやっていた。

 そして買い物しているお客さんは、身なりからして明らかに商人だろうな。

 仕入れだとすぐに分かるくらい、大量の商品を荷車に詰め込んでいた。


(だからペアを組んでたのね)


 元奴隷組は計算苦手そうだし、カウンターの外でお客さんの荷物をカウンターに置く係と、次々代金を計算していく係。

 確かに効率的だが、切実に電卓が欲しいとも思ってしまう。

 ――そして十数分後。


「ふぅ~とりあえず落ち着いた?」


 やっと並んでいる人がいなくなり、元奴隷組がお客さんの荷車を押して外に出ていくのを見届けながら大きく息を吐く。

 横のカウンターにいるパイサーさんは商人風の男と話し込んでいたが、会計ではなく相談や交渉といった雰囲気なので、俺がヘルプに入るほどでもなさそうだ。


「さすがだね! ロキさんならできると思ったけど、めちゃくちゃ計算早い!」

「いやいや、それでも大変だねこりゃ。みんな凄い纏め買いしてるし」

「商人の人達がだいぶ増えてきたからね~。あ、この子雑貨屋の娘さんでマギーちゃん。急に忙しくなったから、店長から許可貰って助けてもらってたんだ」

「マギーです。お金の計算をできる人が欲しいって言われて来たんですけど、そこまで早くはできなくて……助けてもらっちゃってごめんなさい」

「あぁ~全然全然! 逆に助けてもらって感謝していますから。もし今後も可能なら、給金の交渉くらいクアドにしておきますので、ぜひこの商会を助けてあげてください」

「そ、そんな、雇ってもらえるならこちらからお願いしたいくらいです!」


 散々人様のスキルを覗いてきたからな。

【算術】レベル3を所持し、計算が滞りなくできるという時点でそれなりに優秀だ。

 先ほどの商人を見ていても急かすような素振りはなかったので、この世界であれば多少もたついたところで問題ないだろう。

 ただ、今後も考えればもう少し人は欲しいか。


「ミザールさん、クアドはどこに?」

「店長なら奥で値付けやってるはずだよ。まだ全然終わってないからね~」

「なるほど……それじゃちょっと見てきますね。お二人とも頑張って!」


 言われた通り奥に進みながら店内を見渡していると、たしかに陳列されている品はフロアの一部といった感じで、奥にはまだまだ物凄い量の商品が積み上がっていた。

 そしてその横には、次々と元奴隷組が持ってくる品に、何か指示を出しているクアドの姿が。


「こっちは8万ビーケ、これは6万ビーケでも絶対売れるっすね! 虫にちょっと食われたくらいならまだまだ余裕っすよ」


 近づくと値付けをしている真っ最中といったところで、すぐ小さな木板に値段が書かれて、麻紐っぽいもので堅く結ばれた商品は区分けされた陳列棚に運ばれていく。

 ベッグさんは数人の仲間と工具片手に別の場所で陳列棚作ってるし、だいぶ店っぽくはなってきたけど、まだまだ時間は掛かりそうだな……


「お疲れ様~忙しいところごめんね」

「あ、ロキさん! 凄いっすよ! 想像以上に商人の動きが早くて、モノが飛ぶように売れていくんす! もう仕事が追い付かねーっすよぉ~!」

「そ、それにしては、気持ち良さそうな顔してるけど……」

「当たり前じゃないっすか! ギリギリを攻めた金額で、モノが次から次へと捌けていくんですよ!? こんな気持ち良いこと他にあるっすか!?」

「な、ないと思います」


 なぜかクアドはどんどん快感に浸るような……深い恍惚の表情を浮かべていた。

 かなり顔が気持ち悪いことになってるけど、この犬獣人は大丈夫なのだろうか。

 このままではまったく話が進まないんだが……


「えーと、クアドさん?」

「へあっ、あ、大丈夫っす、それでどうしたっすか?」

「まず現状困ってるっていうか、こうしてほしいっていう要望はある?」

「ん~そう言われるとやっぱり人手っすかね。まだまだ棚は足りてませんし、俺っちも値付けと夜の帳簿に追われて、全然高級店の方は手が付けられていないですし」

「やっぱり人か……そこはクアドの裁量で、好きに人を雇っちゃっていいよ? カウンターにいた助っ人の女の子も、このまま働きたいって言ってたしさ」

「おぉ~そうっすか。それじゃあどんどん募集掛けちゃうっすけど、本音を言えば慣れた人も欲しいっすね」

「具体的には?」

「帳簿が付けられる人っすかね。そうすると値付け作業が一気に進められて、売り物も増やせるっすから」

「帳簿か……さっきお会計の仕事手伝ってきたけど、あの木板と売上金を照らし合わせるくらい?」

「っすね。ただ凄い量なんで、計算と金勘定が得意な人がいると助かるっす」

「あぁ、じゃあアマンダさん――」


 そう言いかけて言葉が詰まる。

 いやいや、駄目だな。

 一番卒なくこなしそうな人だが、あの人にはあの人で、地球産の便利アイテムを本格的に開発したいという夢がある。

 主に町の女性達の纏め役もやってもらっているし、いずれハンターギルドも作ればそちらとの兼用にもなってくるだろう。

 数日のヘルプくらいなら問題無くやってくれるだろうが、帳簿なんて毎日の作業なわけだからとても――……いや、一人。

 もしかしたらやってくれるかもしれない人がいるか。

 あれからまったく会っていないが、元気にしているのかな。


「オッケーそれじゃダメ元で知り合いに当たってみるよ」

「そうしてもらえると助かるっす」

「あとここで2種類の地図も独占的に販売するから、人の募集を掛けるならそっちも一緒にやってもらえる?」

「え? どういうことっすか?」

「『未完大陸図』と『ハンターマップ』、この2種をここだけで売ろうと思ってさ」


 そう言いながら現物を見せれば、クアドは大陸図の方に視線を落とし、すぐに目を見開いたまま固まった。


「ま、マジっすか……規模がそこそこの商人ならめちゃくちゃ欲しがるっすよコレ!」

「ふふ、どんどん更新されていく地図も面白いでしょ? 希少だけど【写本】か【自動書記】のスキルを持っている人、もしくは本や地図の複製でこれからも食っていこうとしている人なら、『女神様の祈祷』でスキルを覚えても良いと思う。必要なら俺がサポートくらいはするしね」

「羊皮紙の入手先は確保できてるっすか?」

「もちろん。その国の王に口利きしてもらってるから、よほどのことが無い限りは安定的に仕入れられるかな」

「は、ははっ……この時点で震えるんすけど……了解っす。それじゃ店の前にでも募集の立て看板作って人集めしてみるっすか」

「うん、給金は十分満足いくくらい支払っていいから、やる気のある人どんどん雇っちゃって」


 最後に差し入れとして軽い食事と、買っておいた蒸留酒をまとめて置いておく。

 拠点用のお土産がなくなってしまったけど、また行けばすぐに買えるからな。


「ちょー!? ロキさん、これ絶対高いやつっすよね!? 売り物にしちゃっていいっすかー!!」

「駄目、ここで働いている人達用に置いてくんだから、売り物にしたら死刑」

「てっ、手厳しーッ!」


 後ろで大騒ぎしているクアドと、頭を抱えながら違う騒ぎ方をしている元奴隷組に苦笑いを浮かべつつ。

 次は町長を探しに店の外へ向かった。
424話 来訪対策

 知っている人も、知らない人も。

 一度大量に積み上がった資材の上で建国宣言しているせいもあり、フラフラしているとよく話しかけられる。

 その表情は晴れやかなモノばかりで、自然とこちらの気分も軽くしてくれた。


「あらあら? 王様ったら背が伸びてきたんじゃない?」

「なはは、いや~そうなんすよ~」

「おーいロキ王、木材がだいぶ少なくなってきてな。木こり連中も頑張っちゃいるが追い付かねーんだ。一発ガツンと補充してもらえねーか?」

「あ、了解でーす。ちなみにダンゲ町長ってどこにいるか知ってます?」

「ダンゲのじいさんなら、最近はいつも町の入り口辺りで死にかけてるぜ?」

「???」


 おや、結構な歳だし老衰かな?

 何か不穏な言葉を聞いたような気もするけど、皆が笑って過ごしているのであれば、大きな問題は発生していないと思っても良さそうだ。


(しかし、なんでいつも入り口に……って、これは家じゃないよな?)


 川を挟んだ向かいには、置物のように鎮座している門番の黒象――ギリオ君が鼻だけ揺らしながら見張っており、その正面。

 つまり川の横を通る道沿いには、知らぬ間にいくつかの建物が作られていた。

 一つはすぐに分かる、馬車置き場だ。

 柵で囲んだ中にはいくつかの馬車や荷車が置かれていて、元奴隷組の一人が清算の終わった品を馬車に積み替える作業を手伝っている。

 建物の後ろには森を切り開いて作られた厩舎があったので、たぶん馬がギリオ君にビビらないよう配慮した結果がこの配置なのだろう。

 しかし横にあるこの建物はなんだろうか?

 そう思って中を覗いてみると、もじゃもじゃした髭が心無しか逆立っているように見えるダンゲ町長と、なぜかハンターギルドの遺留物管理をしていたペイロさんが疲れ果てた表情でグッタリしていた。

 そして俺を発見するや否や、こちらが問い掛ける暇もなく捲し立てる。


「やっときおったか! 大変じゃぞロキ王!」

「え? 事件ですか? 事故ですか?」

「どっちもじゃ!!」

「うえぇええ!?」


 おいおい、どうなってんだよ……

 外は平和そのものなのに、この建物の中だけは空気が修羅場。

 ペイロさんなど、今にも泣きそうな顔をしている。

 そして奥の机からスッと、数枚の木板を差し出してきた。

 なんだかゴニョゴニョと、人の名前っぽい文字と聞いたことのある国名が書かれているが。


「これが足を運ばれた貴族、それに他国の使者を名乗られた方々の一覧です……」

「貴族? それに、使者……?」

「皆が皆、ロキ王との謁見を希望しておった。中にはワシみたいな田舎者でも高そうなことだけは分かる手土産まで持参してな」

「えっ、謁見!?」

「なんせロキさんは異世界人の王ですからね。様々な意図や打算もありきで、素早く繋がりを持ちたいと思ったのでしょう」

「……」

「しかし、肝心の王は神出鬼没で行方不明」

「ぅ」

「王の住む都が別にあるのか尋ねられても、道なきパルメラの奥地としか我らは答えられん」

「うぅ」

「おまけに現れるまで滞在すると言われたところで、貴族や役人が泊まるような宿などこの町にあるわけもなく、ようやっと営業を開始できたビリーコーンや他の宿も商人連中で連日満室」

「はうぅぅ!」

「呆然とする貴族や役人の一行に、日帰りを促すしかないこの気苦労………ロキ王には分かるかね?」


 静かにそう告げるダンゲ町長の髭はさらに逆立ち、息を呑むほどの強烈な威圧感を放っていた。

 グ、グリムリーパーより全然恐ろしいんだが……?


「すんませんでしたぁああああ!!」


 田舎の爺さんと気の弱いペイロさんが、貴族や偉そうな役人を追い返すなど狂気の沙汰。

 想像しただけで血反吐を吐く姿が想像され、思わず空中一回転土下座をブチかます。

 が、しかし――。

 これは、どう解決を図ればいいのだろうか。

 というより、解決を図れる類の問題なのだろうか……?

 謝ったはいいものの、その後の言葉に詰まっていると、目の前から物凄く深い溜め息が聞こえてきた。


「はぁ――……まぁ足を運ばれた面々も、ある程度こちらの事情を酌んでくれていたのは幸いじゃったがな」

「え、どういうことです?」

「パルメラという未開の地を領土として切り開き、戦争で生まれた避難民を匿う形でアースガルド王国が生まれたと、少なくとも貴族や使者といった相応の立場にある他国の者は、その辺りの事情を理解していたということじゃ」

「あぁそっか、事情を記したヘディン王の手紙が切っ掛けで来ているんでしょうしね」

「ただ大きな齟齬があったとすれば、ロキ王はここに居ると、皆が皆そう思っとったことじゃな」

「な、なるほど……」


 これはしょうがないな。

 ヘディン王にもその辺りの説明はしていないし、拠点がどこにあるなんて話を今後もするつもりはない。

 女神様達もいるわけだし、あそこは秘密の場所だからこそ意味がある。


 となると――、実質は二択か。

 俺がここに常駐して来客に対応する気なんて欠片も無いのだから、公に俺の代理となるような存在をこの町に置くか、もしくは――……んん?


「奥の棚に並べられた羊皮紙は、もしかして手紙ですか?」

「あぁそうじゃった、これは手紙というか、ロキ王宛ての正式な書状じゃ。ここで一通り預かっていたから全て渡しておこう」

「奥には土産物も保管していますから、そちらも後で確認してくださいね」

「あぁ、はい……ちなみに、ペイロさんはなぜここに?」

「ギルマスに、保管や管理と言えばお前だろうと、そう言われて……うぐぅ……っ」


 た、確かに、この人遺留品とかの管理や保管が仕事だったわ。

 書状も一つ一つに木板が添えられ、足を運んだ順番と渡しに訪れた人の特徴、それに手土産品の有無などが詳細に纏められている。

 いきなりこんなことまでやってくれているのだから、今後もお願いしたいとは思うが……いやしかし、だいぶ心が痛むな。


「ペイロさんにも給金お支払いしますから、その心労が気にならないくらいの給金を!」

 
 ツラい仕事には見合うお金を。

 というよりそれしか解決方法が見当たらないまま書状を見れば、数は全部で9つか。

 結構来ているものなんだな。

 中身を一つ一つ確認していくと――、おおう、いきなりフレイビルの王様からか。

 ヴァルツの戦争を止められなかったことへの詫びと、ラグリース及びアースガルドに敵対の意思はまったく無いこと。

 それに転送物流の話は王にも通っているようで、俺との良好な関係を望む旨が記されていた。

 足を運んだ際には歓待するから宮殿にもぜひ立ち寄ってほしいとか書かれているけど、そういうのは胃が痛くなりそうだからちょっと勘弁である。


 それに――、ジュロイと共にラグリースとの同盟を蔑ろにしたトルメニア王国からも来ていた。

 こちらは報復でもされると思っているのか、内容に相当な焦りが見える。

 第二王女をアースガルドにとかわけの分からないことが書かれているので、この国は放っておいても良いだろう。


 あとはジュロイの、オーバル領復興の現地責任者になるのか?

 伯爵の立場の人が、復興の開始とおおよその派遣人数、資材の搬入経路などを記した計画書と詫び状がセットになったようなモノを騎士と共に届けてくれたらしい。


 その他にもラグリースやヴァルツの周辺貴族の名で、祝いとか、懇意にとか、発展を願ってとか。

 そんなことが書かれた書状を眺めていると――、あれ?

 書状とリストにある来訪者の数が合わないことに気付き――


 「ペイロさん、書状が無かった人っていますよね?」

 「え、ええ。近くにいたから立ち寄らせてもらったとかで」

 「なるほど」


 ――どうすべきか悩んでいた俺の頭の中で、自然と一つの答えが導き出された。


「よし、相手にするのは止めましょう」

「「え?」」


 ダンゲ町長とペイロさんの声が重なる。

 そして焦ったように、町長が言葉を続けた。


「ど、どういうことじゃ?」

「言葉の通りですよ。基本僕はこの町にいませんし、最初は誰か正式に代理を立てるべきなのかな~とか考えたんですけどね」

「つまり、そのようなことはせんということか……」

「ですね。僕がこの手のやり取りで間柄を密にする利点もなさそうですから」

「いや、でも普通は敵を作らないように、特に近隣周辺国との関係性を深めていくものですよね?」

「それはそうですけど、僕は『悪』だと思えばどのような関係であろうと叩き潰しますし、逆に『悪』でなければ微妙だろうと思った国でも何もしませんし……親密になったら――、それこそ同盟でも組んだら|も《・》|う《・》|大《・》|丈《・》|夫《・》とは思われたくないんですよ」


 結局はここだ。

 国同士の仲が良くなるのは大いに結構なことだし、まったく否定するつもりもない。

 が、うちと同盟を組めたから他所の国へ強気に出られるとか、同盟を組めば悪事を働いても手は出されないとか……

 うちとの良好な関係を免罪符に面倒なことをされても困ってしまう。

 俺自身は嫌いな悪党を許すつもりがないのだから、それならば立ち位置は常に一歩外から。

 ハンスさんの国は既に関係性が成り立ってしまっているのでアレだけど、あまり親密な国は作らない方が、余計な情も入らなくて済むので動きやすい。

 こんな腹の探り合いをしなくても、皆が皆、平和を望んで過ごせればそれで良いのだから。


「なのでダンゲ町長、それにペイロさんも」

「な、なんじゃ」

「大変な役回りを押し付けてすみません。一部の例外を除いて、書状は本人に渡すけど、面会は一切お断りしていると。その代わり必要があれば僕が出向くと、今後も貴族や使者が来られたらはっきり伝えてもらえませんか? いずれはその噂が立ち、求められることもなくなってくると思いますので」

「一部の例外とは?」


当然、ダンゲ町長からその突っ込みが入ったので、一枚木板を貰い、その例外を書き連ねていく。


「今後増えるかもしれませんけど、その国名の使者、もしくは当人が来たら、向かいの黒象に緊急だと伝えてください。内容は分からずとも『呼び出し』であることだけは僕に伝わりますので、可能な限り早めにここへ来るようにします」

「ふむ、ラグリースのレイモンド伯爵や国王はいいとして、ジュロイ王国のアウレーゼ殿、アルバート王国、ヴェルフレア帝国、エルグラント王国――、ん? そういえば……」


身を乗り出し、俺の手元にあった木板を確認しようとする町長。

なので、二人に差し出しながら事実を伝える。


「そう、エルグラント王国――勇者タクヤの関係者が、何用か分かりませんけど来てるんですよね」

「あっ、立ち寄っただけって言いながら、謁見を強く求められた方ですね。宿の空きがまったく無いと分かったら、また来ると言って帰られましたが……」

「なら遊びに来たってわけでもないでしょう。特に勇者タクヤ、マリー、シヴァのいる三国に関しては慎重に動く必要がありますので、なんとかその方針でお願いします」

「……税も報酬も取らずに町ごと救ってくれた恩義があるのだ。望むならそのように対応もしよう。しかし要人を待たせる環境など、この町にはまったく整っておらぬぞ?」

「問題はそこなんですよねぇ……まぁ遅かれ早かれやらなきゃいけないことですし、僕の方で早急になんとかしてみせますよ。最低限足を運んでくれた一行が、日帰りのご帰還にならないようにはしないといけませんからね」

「そうか、ならばロキ王を信じるとしよう。なぁペイロ」

「お、お願いしますねロキさん!」

「ふぅ――……任せてください。表ボス以上に本気を出しますから」

「「??」」


 ベザートの今後に大きく影響することなのだ。

 形振り構わず、本気でやるしかない。

 となれば、やはりあの人だよなぁ……

 そう思い、約束していた木材の補充を少し進めてからそれぞれの町へ向かった。
投稿ミス失礼いたしました!

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425話 若い女性と、老紳士と

 懐かしいなぁ……

 場所はほんの少しだけ立ち寄った、ラグリース中部の小さな町『ミール』。

 マルタと王都の間に位置しているためか、一見すれば目立つ戦争の影響は感じられない。

 しかし寂れた雰囲気は以前と何も変わっておらず、果たしてあの時の言葉通り、この小さな田舎町にいるのかどうか。

 少しばかり緊張しながらハンターギルドのドアを開ければ――。


(あっ……)


 受付ではなく、その奥の事務スペース。

 そこで机に向かって何かを書いている、かつて誘拐事件で旦那さんを亡くした受付嬢――レイミーさんがいた。

 まだ来てくれると確定しているわけではないが、とりあえずはいてくれて良かった。

 そう思いながらツカツカと向かっていけば、以前にも見かけた暇の極致に達していそうな受付嬢が反応を示す。


「あ、あら? 若い男……」


 が、この人に用はないのだ。

 受付の前に立ち、未だこちらに気付いていないレイミーさんへ届くように声を掛けた。


「レイミーさん、こんにちは」

「え?」

「は?」


 すると声に反応して、こちらに振り向いたまま、目を瞬かせること数秒。


「ロ、ロキ王、様……?」

「はぁああああああ?」


 なぜか目の前の受付嬢――、というよりおばさんが大声で騒ぐ。

 なんだよ煩いな……


「えっと、以前の約束、覚えてますか?」

「え? もしかして、私が必要になった、ということでしょうか?」

「はい。それで、可能であればと、迎えにきちゃいました」

「も、もちろんです! あの時の御恩も約束も忘れておりません! 私でよろしければ!」

「はぁああああああああああああん!!?」


 マジで煩いんだが……

 でもいい返事が聞けて本当に良かった。

 職業加護も乗っているのか、レイミーさんは【算術】がレベル6あるし、【暗記】もレベル5となかなか高い。

 事務のエキスパートといった感じなので、クアド商会の会計業務を担当してもらいながら、余裕がある時はクアドの値付け作業も覚えてもらえたら最高である。

 頭を抱えて絶叫しているおばあさんを放置し、未来の事務長レイミーさんを引き連れギルマスの部屋へ。

 そこで俺からも事情を説明すると、意外や意外。


「英雄王の頼みを無下に断るなどできようはずもない。それにこの町のギルドはクッソ暇じゃしな!」


 そんな尾ひれの付きまくったような呼び名を持ち出しながら、快く国を跨いだ引越しを承諾してくれた。

 なんなら受付で騒いでいた発狂おばさんに後はやらせるから、今から準備に入ってもいいらしい。


「迎えにきたとは言いましたけど、そんなすぐのすぐじゃなくても良いですからね。荷造りの準備もあるでしょうし」

「あ、いえ、荷物なんて大してありませんから。ただ母も一緒に、というのは難しいでしょうか?」

「ん? お母さんはこの地を離れてしまっても大丈夫なんですか?」

「はい。リプサムの時と違ってそこまで近くはないと思いますし、母一人を置いていくというのも少し心配で……それなら一緒の方が良いかなって」

「なら構いませんよ。あーそっか、レイミーさんってお母さんと二人暮らしなんですかね?」

「ええ」

「ん~それなら家ごといっちゃいましょうか?」

「はい?」


 まだやってはいないだけで、できることは分かっているからな。

 案内されるままに人通りの少ない町を歩くと、一軒の中規模な木造平屋に到着した。

 このくらいならベザートの家と似たり寄ったりだし、家ごと引越しさせてしまっても問題ないだろう。

 となれば、後はお母さんに事情説明か。

 そう思って身を正すも、なぜか焦ったような素振りを見せるレイミーさん。

 発端が俺なのだから、お母さんには一緒に説明するのが筋だと思うが……

 一人でちゃんと説明すると強く断られれば、「そうですか」としか返しようがなくなる。


「それでは、また明日」

「分かりました。世界一大きい商会だっていう新しい職場、楽しみにしていますね」

「ははっ、自称ですけどね。でも日用品から貴族が身に着けるようなモノ、それに魔物素材までいろいろと置いてありますから、忙しいけど楽しいと思いますよ」

「ふふっ、では忘れ物が無いように荷物を纏めてお待ちしています。ちゃんと母も貢献できるよう説得しておきますから」

「?」


 そんな貢献とか考えず、楽しく暮らしてもらったらそれで良いんだけど。

 最後の言葉に妙な違和感を覚えつつ、明日の朝に改めて迎えに来ることを伝えて一旦はここでお別れ。

 俺はそのまますぐにマルタの上空へ飛んだ。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 飛んですぐ、眼下に広がる光景を眺めながら一つの感想を漏らす。


「あれ、こっちは復興が遅い?」


 もちろん以前に足を運んだ時よりかは多くのガレキが撤去され、街らしくなってきたのは間違いないが……

 建物と呼べるようなモノは少なく、マルタの街は大通りの整備もまだまだといったところ。

 一から町を作り始めたベザートと比較しても、だいぶ進みが遅いように感じられた。


「でも、まぁ当然か」


 冷静に考えれば理由は分かる。

 そもそも街の規模がベザートの比ではないし、マルタは木材だけでなく、石材も多用された都会的な街だ。

 それに木材にしろ石材にしろ、すぐ近くで天然資源が豊富に採れるわけでもないので、視線を街の外に向ければ、今も馬に牽かれて多くの資材がこの街に運び込まれていた。

 ここで初めて、周囲を森に囲まれたベザートだからこそ、あの速度で町が作られていることを理解したわけだが――。


(ん~マズいなぁ……)


 そんな思いを抱きながら中心部に降り立ち、かつてお世話になった高級宿――ハンファレストを目指す。

 貴族も満足する宿と言えば、どこよりも真っ先に浮かぶのはあの宿だったし、支配人を知っているというのも大きい。

 ベザートの宿を作るにあたって、できればウィルズさんに監督、監修をお願いしたい。

 そう思っていただけに、この復興具合じゃ他所のヘルプなんてまだ当面難しいのでは? と不安が募る。

 そして――、どうやら不安は、予想以上に的中してしまったらしい。


「えぇぇ、何も進んでないし……」


 いくら景観が異なろうと、大通りに面していたのだから場所を見間違うわけがないのだ。

 しかしかつて街一番の大きさを誇った建物は、破壊された上に未だ多くのガレキを残し、代わりとなるような建物の建造にも入っている様子がなかった。

 跡地には転がる岩に腰掛け、たぶん、初めてかな……

 いつもはピンと真っすぐに伸びていた背中を丸め、一人空を見上げるウィルズが。

 なんとなく話しかけづらい雰囲気を感じつつも、この人に用があって来たのだから、意を決して声を掛けた。


「ウィルズさん」

「おや、ロキ王様。マルタの様子を確認しに来られたのですか?」

「それもありますが、今日はウィルズさんに会いに」

「私に、ですか」

「ええ。ハンファレスト、直さないんですか?」


 他は少しずつ作り直しているのだ。

 言葉を選び、もう少し回りくどく確認するべきか悩みながらも、ここはストレートに聞いた。


「直したいのは山々ですが……費用の面もありますし、何より今は資材不足で手を付けられないというのが一番の答えになるでしょうか」

「え? でも一応外から資材が運ばれてますよね?」

「近場の森や山を切り開いていると聞いております。ちなみにロキ王様は、当館の石材にどのような印象を持たれていましたか?」

「え、っと……高級感があったと言いますか、白を基調に青い筋の紋様が入っていて、壁も床も凄く綺麗だなって記憶がありましたけど」

「そう思っていただけたのでしたら嬉しゅうございます。当館は私の拘りで、旧ヴァルツ領から取り寄せた『青紋石』を多用しておりましたから」

「あぁ、それで……」

「ただでさえ資材調達で馬や馬車の多くは埋まっております。そんな中で大きさもある当館の復旧を優先させれば、他の建造に相当な遅延が発生いたしますし、何より町民の『住』も確保できていない状況下で『宿』を優先させるなど、私自身も、そして伯爵様や周囲も納得しません」


 この話を聞いて、確かにそれはそうだろうと俺も納得する。

 ただの宿ではなく高級宿となれば、マルタに住む人達にとっては必須でもなんでもない。

 あくまで外からの利用者に向けたモノであり、今はその外からの来訪も街が機能していないのだから、ほとんど期待できないだろう。

 それに、費用面か……

 建築資材にまで拘った大きな建物に、相当数の調度品や高級そうな家具に浴槽。

 上層階には複数の魔道具もあれば、値段がまったく分からないストレージルームまで存在していたのだ。

 それらが全てガレキに変わったとなれば、戦争によって破壊されたハンファレストの損失額は如何ほどのものか。

 少なくとも個人が安易に再起を図れる程度の金額で済むとは到底思えなかった。

 そう、個人ならば。


「もし――、もしですよ。ウィルズさんが再びハンファレストのような高級宿を運営できたとして、その時はこの地に拘りますか?」


 では国が全面的に協力したらどうだろうか?

 物事には優先順位があるのだから、ゴリラ伯爵は無理だろうし、ヘディン王も今のマルタに高級宿という投資はしないだろう。

 でもうちなら――、俺なら、全力で後押しさせてもらう。


「そうですね。私はマルタが生まれですので、拘りが無いと言えば嘘になりますが……」


 一度言葉を切り、視線を俺に向けながら、ウィルズさんはここにきて初めてにこやかに笑った。


「もし、その故郷を救ってくれたお方が、別の地で特別な宿を求められているということでしたら、私は恩義に報いるためにもその地で富を運ぶ者達を出迎えましょう」

「では、ベザートの町に来ていただけませんか? ウィルズさんの知識と経験、それに卓越した人を視る眼が僕は欲しい。もちろん宿の建設に関わる費用はこちらで全て負担しますので」

「これほどの条件は間違いなく他にございません。謹んでお受けいたしましょう」


 1日でも時間を貰って現地で監修。

 欲を言えば別店のような扱いにしてもらい、宿が出来上がった後も定期的に見てもらえれば理想かなと思っていた。

 それが、まさかの本人を得られるとは……

 少しマルタには悪いけど、いざとなればこちらに別店を出すことだって可能なのだ。

 どの道資材不足で動けないのなら、今はこちらに注力してもらうとしよう。


 俺は俺で、動ける時に準備を。

 ウィルズさんに場所を確認し、なぜか固辞する旧ヴァルツ領の領主に代金を支払ってから、山の石切り場で大量の青紋石を調達。

 ベザートでも木材や石材の調達ついでに建設予定地の整備を黙々と行なっていき――。

 こうして翌日、|3《・》|名《・》の優秀な人材を新たにベザートの住人として出迎えた。
426話 ニューハンファレスト

 まだ開店したばかりで、お客さんの姿は見られないクアド商会。

 その中でやや興奮した女性の声が僅かに響く。


「す、凄い……本当に凄いですよこれ! 建物がどこまで続いているのか分かりませんし、見たことのない品もいっぱいで……」

「ここは土地が余っているのと、いろいろな国から|根《・》|こ《・》|そ《・》|ぎ《・》仕入れてますからね。とりあえず店の責任者を紹介しますよ」


 家が忽然と目の前で消えたことにまずビビり、突然の転移旅行で暫し放心したのち、警備員の黒象で悲鳴を上げていたレイミーさんは朝から大変忙しそうだが、お店の中に入れば首が扇風機のようにグルグルと回っていた。

 やっぱり女性だから、買い物とか好きなのかな?

 そんなことを考えながら、奥で朝から値付け作業に追われていたクアドを見つけ、新しい即戦力を紹介する。


「クアド、早速連れてきたよ」

「えっ! 早くないっすか!?」

「そりゃあすぐ動いたもの。こちら、元々ラグリースでギルドの受付嬢をやっていたレイミーさん。お金の計算とか得意な人だから、彼女にもお店の会計と、あと経理業務をやってもらおうかなって」

「おぉ、そうしたら俺っちは値付けに専念できそうっすね! 店長のクアドっす! よろしくっすよ!」

「レイミーです。少し得意というだけですけど、精いっぱいやらせていただきますのでよろしくお願いします」

「彼は目利きのプロで商品知識も幅広いですし、何か分からないモノとか興味のあるモノがあったら聞いてください。レイミーさんは記憶力も良さそうなので、いずれは仕入れた品の値付けなんかにも挑戦してもらえたら凄く嬉しいです」

「興味のあるやつなんかはすぐ分かるようになるっすよ! カウンターで会計しているミザールさんは、出回りやすい魔道具の相場ならもうかなり把握してきてるっすからね!」

「あ、じゃあ衣類と、あとお酒なら少しは――……」


 円らな瞳の犬獣人クアドが人懐っこいせいもあってか、早速笑顔を交えながら、二人で意見を交わす姿にホッと息吐く。

 一部の相場に詳しくなるだけでも全然良いじゃない。

 分担で値付け作業が進めば、それだけ売れる機会も増えるわけで、モノがしっかり捌ければ俺も今まで以上に遠慮なく悪党の全てを毟り取れる。

 入り口にいたマギーさんや、ベッグ含む元奴隷組の人達も、何かしら得意な分野が作れればいいんだけどなぁ。


「それじゃ俺は横で宿作りに入るから、後はクアドに任せたよ。レイミーさんも落ち着いたら差し入れ持ってくるんで、マイペースに頑張ってくださいね」

「了解っす!」

「はい、のちほど!」


 挨拶を済ませたら、お次はダンゲ町長とペイロさんがいる町の入り口方面へ。

 クアド商会のすぐ脇に作った空地で、複数の木板を眺めながら何かを書き込んでいた老紳士に声を掛ける。


「お待たせしました、ウィルズさん」

「滅相もございません。元から考えておりました構想に加え、ロキ様の建造方法を取り入れればどのようなことが可能になるのか、思考を巡らすには非常に有意義な時間でしたよ」


 そう言って少年のような、屈託のない笑顔を向けるウィルズさん。

 きっと、今が最高に楽しい時なのだろう。

 普段――というほど日々顔を合わせていたわけじゃないが、冷静沈着で紳士然とした姿の目立つ人だからこそ、自然とこちらも笑みが零れる。


「ふふっ、スキルレベルは高くないので、あまり細かな造形は期待しないでくださいよ」

「ご安心を。出来上がった後に、<彫刻師>へ依頼し、手を加えることも可能ですので」

「あ~なるほど、それなら安心ですね。では早速失礼して、その案とやらを僕も拝見――」


 ウィルズさんには既に、俺がスキルで石材を加工できることは伝えていた。

 その時ばかりはウィルズさんも狼狽していたが、その場その場ですぐに融通が利き、かつ素早く作れるのだから、可能なところまでは俺が進めてしまった方が良いだろう。

 だが、問題は素人の俺にどこまでのことができるのか。

 今回は表ボス以上に本気を出すつもりでいるけど、知識が無ければ公園にある公衆便所のような、味気ない角ばった倉庫が出来上がるだけ。

 ハンファレストの建造でも陣頭指揮を執り、必要な点は概ね把握しているというウィルズさんの構想案に目を通し――。


「例えばロビーですけど、天井を高くするだけでなく、2階まで吹き抜けにしてしまうとかどうですかね?」

「なるほど」


 以前のハンファレストと、そして地球の高級ホテルを想像しながら、手が加えられそうな範囲で異世界人としての意見を伝えていく。


「あとは横にある商会の屋上を利用して、各部屋の浴場とは別に露天風呂と、それにプールを作っても面白いかもしれません。念のため補強すればかなり広く使えますので、3階辺りから抜けられる連絡通路を設置するとか」

「まず、プールとは?」

「あーっと、肌を隠して入る水の共用お風呂って言えば分かりやすいですかね。その時は全員裸でしたけど、どこぞのアホな王族が王宮に専用のやつを用意してたんですよ」

「私が把握しきれていない、本当に極一部の王族などが嗜む娯楽ですか……実現できれば非常に大きな強みになるかと」

「濡れても隠せる布を用意するのは少々難儀な気もしますけど、プールや浴場を作ること自体は凄く簡単ですよ。こちらからの視線さえ遮れば、高さがある分、周囲の目を気にすることなく開放感を味わえるでしょうしね」

「ふむ……となれば、3階以上の宿泊者に限定した利用で差別化を図っても良さそうですし、作るのが簡単ということであれば4階は部屋専用のプールを設置しても良さそうですね」


 決して30階建てのホテルを作りましょうとか、現実離れした話で夢を見させるようなことはしない。

 あくまで俺自身ができそうなことだけを、案としていくつか伝えていく。

 そして――、うん、どうせならここと繋げてしまってもいいか。

 そうすれば買い物と宿泊をセットにすることができる。


「あとは横の商会に高級品専用区画が既に作られています。この宿から直接その区画に入れる特別な裏口を用意すれば、富裕層を対象にしたこの宿の利用価値も上がるのではないかと」

「……これも、ロキ様のお生まれになった世界では普通のことなのですか?」

「まさかまさか。決して普通ではありませんけどそのような場所もあり、富裕層はその特別な待遇に価値を見出し金を払うと、少し知っていただけです」

「そうでしたか。ふふ、素晴らしい。まさかこの歳になってここまで心躍ることになろうとは、ロキ様には本当に感謝いたします」

「面白そうなことを実現しようとするって、考えるだけでも楽しいですからね」


 その後も暫しの間、お互いが夢を語るような、楽しい時間は流れ――

 そして始まった、本気の建造。


「……ッ」


 ウィルズさんが固唾を飲んで見守る中、まずは収納からアホみたいな大きさの青紋石をいくつか取り出した。

 そして大きく、一呼吸。


 ふぅ――……


 ――【土操術】――


 そのまま均しておいた広い土地へ、大量の魔力を流し込むように石材を溶かして広げていく。


(ぐお、重っ……これは、ガチで魔力ヤバいかも……)


 動かす石材が巨大であるほど、消費される魔力も増加していく。

 それでも、この宿が出来上がることで及ぼす効果を考えれば、魔力がカラになっても最優先して俺自身が手を加えた方が良い。

 本気とは、そういうこと。





 そして日も沈みかけた頃。

 大事なのは分かるけど、もうやんねーぞと。

 心の中でボヤキながら地面に寝そべる俺がいた。

 魔力がここまで枯渇したのは、たぶんキングアントの周囲に群がる蟻と戦っていた時くらいか。

 それほどの疲労感に襲われながら、ウィルズさんと一緒に、ひたすら修正と微調整を繰り返して作り上げた新しい『ニューハンファレスト』を仰ぎ見る。


「ロキ様、お疲れ様でした。感服を通り越し、崇拝の域にまで達する思いです」

「は、ははっ……冗談言わないでくださいよ。それより必要なモノが横のクアド商会にあるなら、どんどん持ってきちゃってくださいね。貴族から押収した調度品とか美術品もかなりありますし、後でそのことも伝えておきますので」

「承知しました。窓ガラスは特注でなければいくつかの商会に在庫もありましょうし、寝具も西から流れる良質なモノを扱っている商会と繋がりがありますので、その辺りはすぐ手配するように致します」

「あ、ストレージルームはどうです?」


 以前も特別な部屋に設置していたわけだし、せっかくなら今回も上層階にはあった方が良いだろう。

 それに製作者にも興味がある。

 そう思っての何気ない問いだったが。


「あちらは残念ながら……望んで作れるようなモノでもないので、機を待つしかありません」


 このように、予想外の返答が返ってきたことで思わず首を傾げてしまう。

 望んで作れるモノではないというのはその通りだろう、女神様達だって作り方が分からないくらいなのだから。

 うーん、もしかして"予約待ち"みたいな状態になっているのだろうか。


「えっと、生産が追い付いてない、とか?」

「いえいえ、依頼をしようにもこちらから連絡が取れないのです」

「んん……うん、んん?」

「作られた方は『ケイト』という名で、前触れもなく王族や貴族、それに豪商の屋敷などを訪れ、『ストレージルームの製作』を提案することが一部には知られています。依頼できるかどうかはその場で支払える現金次第。後日の支払い、もしくは依頼ということは一切許されず、目の前で積み上げた依頼料に応じて希望の部屋をストレージルームに替えていただくのです」

「なるほど……額が多ければ複数、もしくは巨大なストレージルームも作ってもらえるとか?」

「左様です。当館に現れた時は驚きましたが、幸いにも私がおり、事前にそのような噂と『ケイト』という名に心当たりがありましたので、突き返すことなく可能な限りの現金を用意し、上層の小さな一室だけは出来上がったという次第です」

「ちなみに、ケイトという方の容姿や特徴は?」

「背丈は私と同程度でしたが、他はローブに身を包み、不思議な面をしておりましたので……背に見慣れぬ革製の大きな鞄を背負っていたのと、何かを通しているのか、男女の判別もできない不思議な声をしておりましたね」

「そうですか……」


 ウィルズさんは元の俺と同じ170cm程度で可もなく不可もなく。

 ケイトという名前も男女どちらにもありそうだし、つまりは人物像がまったく分からないと言ってもいいだろう。

 身の安全を考え、所在を隠し、容姿を隠し、世界を旅しながら金持ち相手に商売をする人か。

 いずれ、ここにも来てくれるのかな。


「ウィルズさん」

「はい」

「たぶんですけど、そのケイトという人、僕と同じ異世界人です」

「なるほど……そのような噂も、耳にしたことはございます」

「だからと言って何をするわけではありませんけど、もしこのハンファレストに現れた時は僕をすぐに呼んでください。入り口に専用の護衛魔物を用意しますので、その魔物に『緊急』とだけ伝えてもらえれば僕にすぐ伝わります。寝てなければ、ですが」

「承知しました。あとは時の運、これから募集を掛けますので、雇い入れる者達にもその旨伝えておきましょう」

「そうしてもらえると助かります。あと一人、癖はありますけど優秀な方をご紹介しますので、たぶんこちらで一緒に仕事をしていただくことになると思います」

「それは構いませんが……優秀、ですか」

「ええ、以前のようにレストランを宿内に作るとなれば、優秀な料理人は必要でしょう? ほんと、癖はありますが」
427話 明日からは

 日が沈みかけ、仕事を終えた者達で賑わうベザートの町。

 その中を俺とレイミーさんは二人、目的の場所に向かって歩いていた。


「すぐ銘柄って言うんですか? 種類を判別してましたし、レイミーさんってそんなお酒好きだったんですね」

「その言い方だとただの酒呑みみたいじゃないですか。美味しいご飯を食べながら飲むお酒が好きなんです」

「あぁ~それは分かりますよ。まぁ僕の身体だと、果実水の方がまだ美味しいってなっちゃってますけど」

「ふふっ、異世界の方は大変ですね。でもこれだって母の影響なんですよ、きっと」


 談笑しながら向かう先は、町の中心近くに構えるお手製の教会。

 それなりに広く敷地を確保していたこともあり、ここが町全体の食事を担う炊事場の役割を果たしていた。

 家はある程度出来上がってきたと言ってもまだ全てではなく、開墾に精は出すも収入が途絶えたままの人達だって大勢いる。

 なのでヤーゴフさんが主導し、解体場のロディさんや受付にいた若いお姉ちゃんなど、一部の人達が仮となる疑似的なハンターギルドを運営。

 ハンターの収穫物や子供達が獲った川魚、それに切り倒した木材なども今は俺の買取として、お金の動きを作りつつ食料は炊事場に流すという日々が繰り返されていた。

 収入を得るためハンター業をする人達はかなり増えたらしいけど、それでも作物を収穫できるサイクルが作れていない以上、まだまだ継続的な支援は必要になるんだと思う。


(ヤーゴフさんがギルド本部に送ったっていう手紙は、無事に届いているのかな……)


 正式にハンターギルドを運営するとなれば本部許可が必要なことは言うまでもなく、今はその許可待ちといったところ。

 国との接点を持たないハンターギルドなので、俺は書面で設立と土地使用の許可さえ出しておけば問題ないらしいが、本部の人間が近隣の狩場状況を確認したり、ギルドマスターの指名をしたり。

 一度現地視察が行われるようなので、当面は1つの商店であり買取所のような、仮の運営が続くものだと思われる。


「はいこれ、毎度のユニコーン肉と、野菜をいくつか調達してきました」

「ほんといつも済まないね。でも、この草はなんだい? じいさん知ってる?」

「いや、私も見たことがありませんな……匂いは凄く好きですが」


 シスターのメリーズさんに問われても、ジュロイの市場でもっさり売られていて、安いと思ったから買っただけで俺だってよく分かっていない。

 神官のトレイルさんは、ずっと草の束に鼻を突っ込んでクンクンしているので、害のあるタイプではないと思うけど。


「ラルパっていう名前で、ちゃんと食べられるみたいですよ?」


 そう伝えれば、横でデカい鍋を混ぜていた壮年の女性が口を挟んだ。


「そいつはジュロイで多く出回る香草だ。一応食べられるが肉や魚の匂い消しに使うのが一般的なんだから、そいつだけで食すことはまずない」

「だ、そうです!」

「まったく、王が自ら食材を調達して振舞うってのは感心だけど、食に対しての見識が随分と薄いね。いったい普段何食ってんだい」

「チャ、チャーハンを……」

「お母さん……!」

「胸糞悪い貴族連中ならこの程度は当たり前のように知ってるんだ。立場ある者同士が会食を開くなんざ当たり前だってのに、ほんとにやってけんのかい?」

「そこは何がなんでも避ける所存でございま――」

「ちょっと、いい加減にして!」


 親子喧嘩一歩手前の中、俺は思わず茜色の空を見上げる。

 レイミーさんのお母さん――ボーラさんってば、やっぱり怖ぇよ……


 もう、迎えに行った朝から怖かったのだ。

 というかそこがピークで、初対面だというのに物凄く空気がピリピリしていた。

 俺が自己紹介をしたら眉をピクリと上げ、なぜレイミーさんを誘ったのか、経緯も含めて尋問開始。

 服装や振る舞いも指摘され、本当に一国の王なのかと、終始怪訝な表情を浮かべながら何回も疑われる始末だった。

 言っていることは正論だし、徐々に棘も無くなってきたので大丈夫かなと思ってたけど……

 それでもだいぶ当たりがキツく、対面するだけで妙な緊張感に襲われる。


「ごめんなさい。お母さんこれでも心配していて……」

「それは理解していますから、大丈夫ですよ。実際自覚がほとんどありませんし」

「自覚があり過ぎても困るけど、無さ過ぎても困るんだよ」

「は、はは……とりあえずボーラさんの職場は、形だけですけど出来上がりましたので。支配人にも絶対に貴族の前に出ない人だと伝えておきましたからご安心ください」

「ハンファレストの支配人なら安心してるさ。しかし随分と大きな建物だねぇ……今のうちから使えそうな人間に声掛けて、少しずつ教育しちまうけど構わないかい?」

「それはもちろんです。ボーラさんには料理長をお任せしますから、必要な人材の数などは全てお任せします。のちほど支配人を紹介しようと思いますけど、ここに連れてきちゃって大丈夫ですか?」

「支配人はウィルズ殿だろう? 面識はあるから問題無いよ。見かけたらこちらから挨拶しておくさ」


 あら、知ってるんだ。

 少し意外だなと思ったけど、ミールとマルタは隣町だしな。

 それにボーラさんの経歴を考えれば、それ以前から接点があった可能性もある。


 ……まぁ、上手くやれそうならなんでもいいか。

 食材を渡し、宿の原型も出来上がれば今日の仕事は終了。

 そろそろ拠点に戻るくらいの魔力は回復したし、明日からまた新しい国に突入するのだ。

 やり始めたらまた忙しくなるわけで、今日くらい図書館に籠って、次の行き先に絡みそうな本でも読み直しておこうかな。

 そう思って炊事場と化した教会を離れると、なぜかレイミーさんまでついてくる。


「ごめんなさい、お母さんが……」

「あぁ、僕は大丈夫ですから気にしないでください。しかし、お母さんの貴族嫌いは相当なモノっぽいですねぇ」

「ロキさんは王様っぽくないというか、貴族特有の傲慢な雰囲気がないので大丈夫だと思ったんですけど、逆に無さ過ぎるのも凄く心配みたいで……」

「"元侯爵家の料理番"ともなれば、良くも悪くも様々な貴族を見てきたんでしょうからね」

「みたいです。もう貴族の顔を見たくないって、望んで田舎に越したくらいですから」


 そうなる気持ちもよく分かる。

 まともな貴族だっているのは分かっているけど、明らかに常識の通じない、脳みそがイカれているとしか思えない連中がおり、しかもその比率が高いのだ。

 あんな連中と連日顔を合わせようものなら、こっちまで頭がおかしくなってしまうし、立場の差があるとなれば拷問以外の何物でもないとすら思えてしまう。

 でも。


「ここなら大丈夫ですよ」

「え?」

「まずアースガルドに貴族なんていませんし、僕はまぁ、こんなんですし」

「そう、ですね。あとは職場で問題を起こさないようにしてもらえれば……」

「それも大丈夫です。貴族だろうと王族だろうと、ふざけたことをすれば魔物の餌にする。アースガルドとはそういう国ですし、何かあれば僕が出ますから」

「……ロキさん、ちゃんと王様っぽいじゃないですか」

「お母さんと同じ、王侯貴族に対してあまり良い思い出がないだけですよ」


 二人の足は自然とクアド商会へ。

 どうやらレイミーさんは昨日差し入れをした果物の蒸留酒が目当てだったようで、仕事終わりに店前の川沿いで宴会の準備をしていた皆と合流。

 俺も参加しろという声に断り切れず、秋夜の涼しい風を浴びながら店の商品を借りて釣り糸を垂らす。

 横にはパイサーさんとベッグさんに、元奴隷組も数人。

 焼き魚食いたい派は自分で調達が基本らしく、横では魔石屋のミザールさんと新人マギーさんに挟まれ、中心に火を焚いて肉を焼きながら、レイミーさんの歓迎会が催されていた。

 話を聞いていると昨日もマギーさん相手にやっていたようなので、結局毎日飲みたいだけっぽい。


「おっしゃ! 釣れたぜ~一抜けだ」


 ベッグさんが30cmほどの、食べ応えのありそうな魚を釣り上げ、木の枝を通しながら宴会の場に戻っていく。

 焚火の近くにぶっ刺し、既に焼かれていたユニコーン肉と、誰かが貰ってきたのだろうか。

 香草の匂いが少し混じった、ボーラさん特製スープの匂いも漂っていた。


(お腹空いたな……早く釣れないかな)


「おうロキ、今日なんだが大量の鉱物と、まだ溶かせていない鉄装備まで仕入れたいって商人が現れた。聞けば水の都ハーディアから来ているみたいだが……どうする?」

「素材も現物も両方ですか。鎧は旧ヴァルツ兵の刻印付きですよね?」

「それだけじゃなく、値付け待ちで奥に置かれていたジュロイの刻印が入ったモノも――というよりソイツを一番欲しがっているようにも見えたな。さすがに断ったが」

「現行使用されている国の鎧は悪用できちゃいますしね。でも旧ヴァルツの方は欲しいなら売っちゃっても良いんじゃないですか? 全回収して、ラグリースの規格に統一されることが決定されていますから」

「了解だ。今回は量が量だから、相当な額になるぞ。鉄相場もまた上がってきているみたいだしな」

「フレイビルの産出量が減ったとかじゃないですよね?」

「西からの商人が鉱物を求めて足を運んでいるわけだし、戦争の機運が高まってるって考えるのが普通だろ。ソイツらの話じゃ、大陸南西のそれなりにデカかった国がまた一つ帝国に呑み込まれたって話だ」

「そうですか……でもまぁ鉱物は売れるならどんどん売っちゃいましょう。ベザート用に加工する分なんてたかが知れていますし、どうせまたすぐに溜まりますしね」

「んだな。って、なかなかデカいのがきたな! お先だ」

「……」


 素材を流せば戦争を煽るという見方もあるし、人を守り命を救うという見方もある。

 そんなのは結局使い方次第で、あまり神経質になり過ぎても商売はできなくなるのだから、脳筋の帝国やマリーのいるアルバート王国でもなければ、現金化できる時は遠慮なくしていくつもりだ。

 しかし最近チラホラと話を聞くようになった、大陸中央の大国――水の都ハーディア。

 この国が西からの脅威に備えるために軍備の強化を図ろうとしているのか。

 それとも同盟関係にあるジュロイ、トルメリアの人間至上主義国家に刃を向けようとしているのか。

 今の段階ではなんとも分からないが……

 昨日の報告会――という名のジュロイ王国料理品評会で、西部担当フェリンさんが「大丈夫そう」と。

 ラム肉齧りながら報告していたので、そうなんだと思って動くしかない。


(まずはあの国から……)


 動きがないなら、一先ずは東側を。

 悩みながらも決めた次なる目的地に思い馳せ、気付けば俺一人となっていた釣り竿を眺めながら一人グチを零す。


「【釣り】レベル9なのに、俺だけバグってんじゃねーかコレ」
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ここまでご覧いただきありがとうございました。
13章ジュロイ王国編はここまでとなります。
明後日にロキの手帳⑩を挟むんですが、キャラ一覧はあまりハイペースでやるものでもなさそうなので、気分次第でどうするか決めたいと思います。
まぁそれはさておき、14章も隔日更新のままいきますので、引き続きまったりとお楽しみくださいませ。
ロキの手帳⑩

 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:61  スキルポイント残:198 (技能の種により+16)

 魔力量:13368/13368 (722+12646)

 筋力:   7378 (394+6984)  
 知力:   5599 (395+4584)  ガルグイユ(+620)
 防御力:  6577 (388+5492)  ヴァラカン(+687) 
 魔法防御力:5222 (388+4169)  グリムリーパー(+665)
 敏捷:   3517 (388+2927)  ウィングドラゴン(+202)
 技術:   9564 (387+9177)
 幸運:   7081 (388+6279)  グリムリーパー(+414)

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》


 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv6 【暗殺術】Lv7 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv9 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv9 【闘気術】Lv5


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【神聖魔法】Lv3 【呪術魔法】Lv5 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv9 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv6
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv6 【装飾作成】Lv5
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv4 【飛行】Lv8 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv8 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv8 【忍び足】Lv9 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv4 【自動書記】Lv3


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv5 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv7 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv5 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv7
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7 【転換】Lv7


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv6 【突進】Lv7 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv8 【招集】Lv7 
【硬質化】Lv6 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【咆哮】Lv6 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv4 【火炎息】Lv6 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv5 【丸かじり】Lv6 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv6 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4 
【不動】Lv6 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv6 【廻水】Lv5 【鏡水】Lv4 【透過】Lv5 【恐怖】Lv6 【封印】Lv5


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv5 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv3  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv7 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv5 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1 【甦生】Lv8 【共食い】Lv4



 ◆戦闘・戦術系統スキル

 【剣術】Lv10 剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

 【短剣術】Lv9 短剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

 【棒術】Lv8 棒形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

 【体術】Lv10 己の身体で打撃を加える場合に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

【斧術】Lv9 斧形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槍術】Lv9 槍形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槌術】Lv8 槌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【鎌術】Lv7 鎌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

 【弓術】Lv9 弓形状の武器を所持している限り、攻撃動作、射程距離にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 技術補正

 【杖術】Lv9 杖形状の武器を所持している限り、魔法効果、魔法発動時間、防御動作にプラス補正が入る 魔力消費0 知力補正

 【盾術】Lv9 盾を所持している限り、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 防御力補正

【投擲術】Lv9 投擲飛距離に90メートルのプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で投擲速度/命中率のプラス補正を行う 魔力消費21 技術補正

【挑発】Lv9 注意を自分に向けやすくする 発動範囲90メートル以内 対象を中心とした半径1メートル以内の生物に発動 魔力消費21 防御力補正

【狂乱】Lv8 使用後は全ての通常攻撃動作に能力値290%の限定補正を行う。ただし制限時間が経過するまで、周囲の生物に対する通常攻撃動作以外を行うことができなくなる。 使用効果時間8分 魔力消費0 筋力補正

【二刀流】Lv8 両手に別々の武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【威圧】Lv9 見定めた1対象を相手にかなり強い恐怖を与え、行動阻害、精神錯乱を誘発させる 魔力消費5 魔力補正

【捨て身】Lv9 無手の状態に限り、筋力値、敏捷値を一時的に280%まで上昇させる 効果時間1分 魔力消費45 筋力補正

【指揮】Lv9 スキルを使用した指揮者の思考が、指揮下にある味方へと伝達されやすくなる。度合いはスキルレベルによる。 範囲:1800メートル 使用効果時間30分 魔力消費90 知力補正

【鼓舞】Lv9 半径45メートル範囲内の味方に対して全能力値を30%向上させる。同スキルによる重複不可。スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費44 幸運補正

【身体強化】Lv10 魔力を使用して筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 効果時間10分 魔力消費50 技術補正

【騎乗戦闘】Lv9 騎乗している状況に限り、全能力値145%のプラス補正が入る また騎乗している生物にもプラス補正が適用される 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【両手武器】Lv9 両手で一つの武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【暗器術】Lv6 暗器に該当する武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値280%の限定強化を行う 魔力消費15 敏捷補正

【射程増加】Lv9 射程距離が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【手加減】Lv9 スキル使用時に限り、致命打を与えても対象生物を一時的に延命させることができる 効果時間1分 対象生存時間54秒 魔力消費45 技術補正

【暗殺術】Lv7 急所攻撃に限り、能力値170%の上方補正を常時行う(魔力消費0) 任意で1分間、【忍び足】【暗器術】【隠蔽】のスキルレベルを1上昇させる 魔力消費35 敏捷補正

【闘気術】Lv5 体力の消耗と引き換えに、使用中は筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 魔力消費0 敏捷補正


 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv9 魔力消費90未満の火魔法を発動することが可能 知力補正

【土魔法】Lv9 魔力消費90未満の土魔法を発動することが可能 魔法防御力補正

【風魔法】Lv9 魔力消費90未満の風魔法を発動することが可能 敏捷補正

【水魔法】Lv9 魔力消費90未満の水魔法を発動することが可能 防御力補正

【氷魔法】Lv9 魔力消費90未満の氷魔法を発動することが可能 防御力補正

【雷魔法】Lv9 魔力消費90未満の雷魔法を発動することが可能 知力補正

【光魔法】Lv8 魔力消費80未満の光魔法を発動することが可能 幸運補正

【闇魔法】Lv8 魔力消費80未満の闇魔法を発動することが可能 魔力補正

【無属性魔法】Lv8 魔力消費80未満の無属性魔法を発動することが可能 魔力補正

【回復魔法】Lv9 魔力消費90未満の回復魔法を発動することが可能 防御力補正

【神聖魔法】Lv3 魔力消費300未満の神聖魔法を発動することが可能 魔力補正

【結界魔法】Lv6 指定箇所を中心に『防壁』『封魔』『燐光』『遮蔽』『遮断』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による
 魔法防御力補正

【呪術魔法】Lv5 魔力消費150未満の呪術魔法を発動することが可能 魔力補正

【時魔法】Lv5 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に対し、敏捷値±250%の減少か増加を選択して発動することが可能 減少の最終数値は対象の抵抗値によって決定し、マイナスになることはない 魔力消費:10秒毎に75 知力補正

【精霊魔法】Lv4 広範囲の『土水風火』属性精霊を一時的に使役し、魔法を行使することが可能になる 魔力消費100 魔力補正

【空間魔法】Lv6 一時的に亜空間と繋ながり、その空間を活用することができる。 魔力消費:50%減 空間使用範囲と接続時間による 魔力Ⅱ補正

【魔力操作】Lv9 魔力操作が向上し魔法への応用が利きやすくなる また魔法発動時間が45%減少する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力感知】Lv9 使用者の周囲に存在する魔力の流れ、濃度に対して敏感になる 範囲半径45メートル 魔力消費0 魔力補正

【省略詠唱】Lv8 精霊への単体魔法イメージ伝導割合が80%まで上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【発動待機】Lv8 魔法発動可能状態から最大16秒間待機が可能になる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【多重発動】Lv2 属性に関わらず、発動待機中にもう2種の魔法を発動することが可能になる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【魔法射程増加】Lv9 魔法の射程が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力纏術】Lv6 具現化した魔力を装着武具、または身体に纏わせ強化させる 強化による上昇値は込める魔力量とスキルレベルに依存 効果時間6分 魔力消費:込めた魔力量の15% 魔力補正

【土操術】Lv3 流した魔力量に応じて土石を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる 防御力補正


 ◆ジョブ系統スキル

【狩猟】Lv10 狩猟技能が向上し、獲物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【解体】Lv10 解体技能が向上し、より素早く正確に解体を行うことができる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【採取】Lv9 採取技能が向上し、採取物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【話術】Lv8 対話能力がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【料理】Lv10 料理技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【農耕】Lv10 農耕技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【釣り】Lv9 釣り技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【家事】Lv10 家事技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【裁縫】Lv8 裁縫技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鍛冶】Lv6 鍛冶技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【芸術】Lv7 芸術技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【描画】Lv7 描画技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【建築】Lv9 建築技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【採掘】Lv9 採掘技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【細工】Lv7 細工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【加工】Lv8 加工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【伐採】Lv10 伐採技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【交渉】Lv8 交渉技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【畜産】Lv10 畜産技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【作法】Lv8 作法技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【舞踊】Lv7 舞踊技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【歌唱】Lv8 歌唱技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【薬学】Lv7 薬学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【演奏】Lv7 演奏技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【錬金】Lv6 錬金技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【彫刻】Lv6 彫刻技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【酒造】Lv8 酒造技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【庭師】Lv8 庭師技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【医学】Lv6 医学技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【装飾作成】Lv5 装飾作成技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術

【魔法学】Lv5 魔法学の技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔道具作成】Lv4 魔道具作成技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正


 ◆生活系統スキル

【異言語理解】Lv10 人族が扱う言語であれば、知識が無くても全ての専門的な用語を理解し会話をすることができる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【獣語理解】Lv8 動物や魔物の言葉が理解し、意思の疎通をだいぶ図れるようになる 魔力消費0 知力補正

【視野拡大】Lv10 上下左右の視野がやや広がる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【遠視】Lv10 かなり遠くを見通せるようになる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【夜目】Lv10 暗闇の中でもかなり視界を確保できる 魔力消費0 幸運補正

【視界共有】Lv4 指定した対象に触れることで、一定時間視界を共有する 効果時間24分 多重発動不可 魔力消費30 幸運補正

【気配察知】Lv10 使用者の周囲で動く存在に対して反応が敏感になる 範囲半径50メートル 魔力消費0 技術補正

【探査】Lv9 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径270メートル 魔力消費0 幸運補正

【広域探査】Lv4 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径1400メートル 魔力消費0 幸運補正

【隠蔽】Lv10 Lv10以下の察知、看破、調査系統スキルを欺ける 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【俊足】Lv9 走る動作に補正がかかり、移動がかなり速くなる 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【忍び足】Lv9 使用時は無音で移動することが可能になり、スキルレベルに応じて気配を隠すことができる 魔力消費1分毎に10消費 技術補正

【逃走】Lv8 何かに追われている状況に限り、能力値290%の速度で走ることが可能 魔力消費30秒毎に10消費 敏捷補正

【縮地】Lv5 前方に向かって能力値250%の速度で距離を詰める 移動範囲は任意指定 最大距離10メートル 魔力消費25 敏捷補正

【跳躍】Lv9 跳躍動作に補正がかかり、通常よりも高く跳べる 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【空脚】Lv4 足場のない空中で踏み込み、5段までの【跳躍】を行うことが可能になる 魔力消費:1段毎に5消費 筋力補正

【飛行】Lv8 浮遊した状態で上空を移動することができる 魔力消費:1分毎に2消費 魔力補正Ⅱ

【算術】Lv9 算術能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【暗記】Lv9 暗記能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【騎乗】Lv9 騎乗能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【拡声】Lv9 声音を一時的に増加させ、声を広く届ける 増大する声音は元の大きさに影響する 魔力消費0 魔力補正

【遠話】Lv4 範囲内の特定対象に直接声を届ける 範囲半径20000メートル 効果時間1分 魔力消費10 幸運補正

【聞き耳】Lv8 聴覚を一時的に増加させ、範囲内の音や声を聞き分ける 範囲半径80メートル 魔力消費0 知力補正

【読唇】Lv4 対象の唇や表情が視認できる状態であれば、聞こえずとも言葉を理解することができる 理解度はスキルレベルによる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【罠生成】Lv8 捕縛/殺傷を目的とした罠の生成作業が巧みになる 使用者の想像をだいぶ補助する 魔力消費190まで 技術補正

【罠解除】Lv7 Lv7以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を解除する 魔力消費85 技術補正

【罠探知】Lv8 自然発生した危険域、Lv8以下の【罠生成】によって生成された特殊罠の察知する 範囲は視覚に依存 効果時間10分 魔力消費19 幸運補正

【鑑定】Lv9 対象物品の能力、効果、原料、素材情報を識別する 識別深度は自身のスキルレベルによる 無機物のみ対象 魔力消費0  幸運補正

【心眼】Lv9 対象の所持する技能を覗き見る 生物のみ対象 魔力消費5 幸運補正

【魔力譲渡】Lv7 対象に自身の魔力を譲渡する 魔力消費に対し譲渡できる魔力の割合は85% 魔力補正

【付与】Lv5 装備品に属性か特定スキルを付与することができる 付与数、組み合わせ、定着時間はスキルレベルと対象装備による 魔力消費50 定着完了まで1秒毎に17消費 幸運補正

【泳法】Lv8 水泳技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【調教】Lv8 調教技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【写本】Lv4 見本となる本や文章を複製する 速度はスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【自動書記】Lv3 意識を向けた対象の言葉や文字を一定時間書き記す 効果時間18分 魔力消費5 幸運補正

【魅了】Lv4 対象の心を惹きつけ、興味と好意を持たせる 異性に対してのみ有効 多重発動不可 効果時間4時間 魔力消費40 幸運補正


 ◆純パッシブ系統スキル

【毒耐性】Lv9 毒への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【麻痺耐性】Lv5 麻痺への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【睡眠耐性】Lv6 睡眠への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【石化耐性】Lv6 石化への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魅了耐性】Lv6 魅了への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【呪い耐性】Lv4 呪いへの耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【魔力最大量増加】Lv9 魔力最大量を90増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力自動回復量増加】Lv9 魔力自動回復量を45%増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【剛力】Lv10 筋力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【明晰】Lv9 知力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【金剛】Lv10 防御力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【封魔】Lv9 魔法防御力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【疾風】Lv9 敏捷値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【絶技】Lv9 技術値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【豪運】Lv8 幸運値が40上昇する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【物理攻撃耐性】Lv10 物理攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【魔法攻撃耐性】Lv8 魔法攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【火属性耐性】Lv9 火属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【土属性耐性】Lv8 土属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【風属性耐性】Lv8 風属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【水属性耐性】Lv8 水属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【雷属性耐性】Lv7 雷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【氷属性耐性】Lv7 氷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【闇属性耐性】Lv7 闇属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【光属性耐性】Lv6 光属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【鋼の心】Lv10 精神攻撃に対する抵抗がかなり増加する 威圧にも有効 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正


 ◆その他/特殊(使用可能)

【神託】Lv1 職業<神官>専用加護スキル 女神達からの言葉を授かることができる 使用条件1日に1度のみ 任意発動不可 魔力消費0 魔力補正

【神通】Lv2 職業<神子>専用加護スキル 女神達と意思の疎通を図ることができる 使用条件1日に1度のみ 使用制限時間2分 魔力消費60 魔力補正Ⅱ

【地図作成】Lv4 3倍までの縮小、拡大が可能 魔力消費0 魔力補正Ⅱ

【魂装】Lv5 自ら命を奪った魔物の魂を身に留め、抽出された能力のうち1種を自身へ付加させる 魂装上限数5 魔力消費5 魔力補正Ⅱ

【奴隷術】Lv7 奴隷契約を結び、対象を『魂縛』もしくは『隷属』させることが可能になる 最大所持コスト350 奴隷契約時のみ魔力消費30 魔力補正

【魔物使役】Lv8 服従させ、対象を使役することが可能になる 最大所持コスト800 使役時のみ魔力消費30 魔力補正

【威嚇】Lv7 前方7メートルの範囲に対し【威圧】効果を与える 魔力消費45 敏捷補正

【転換】Lv7 最大レベルまで上がったスキルの余剰経験値を蓄え、指定スキルの経験値に変換することが可能になる 変換率14% 常時発動型 魔力消費0 魔力Ⅱ補正


 ◆その他/特殊(使用不可)

【獣血】Lv4


 ◆その他/魔物(使用可能)

【突進】Lv7 前方に向かって能力値310%の速度で突進する 移動範囲は任意指定 最大距離5メートル 魔力消費17 敏捷補正

【噛みつき】Lv8 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値330%の補正を行う 魔力消費17 筋力補正

【光合成】Lv6  太陽の光を浴びれば自然治癒力と魔力回復量が微増  常時発動型 魔力補正

【硬質化】Lv6 一時的に身体を硬質化させ、効果時間内は防御力が11倍になる 効果時間1秒間 魔力消費15 防御力補正

【物理防御力上昇】Lv4 防御力が12%上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【強制覚醒】Lv9 生存している同種族を強制的に目覚めさせる 範囲:1800メートル 魔力消費50 技術補正

【状態異常耐性増加】Lv7 あらゆる状態異常耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【招集】Lv7 【呼応】スキルを持つ周囲の魔物を強制的に呼び集める 効果範囲:周囲半径210メートル 魔力消費17 知力補正

【穴掘り】Lv8 上手に穴を掘る 効果時間8分 魔力消費2 筋力補正

【酸耐性】Lv8 酸への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【踏みつけ】Lv8 下方に向けてのみ、筋力値340%の威力で攻撃を加える 魔力消費19 筋力補正

【嗅覚上昇】Lv4 嗅覚を一時的に上昇される 上昇度合いはスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【洞察】Lv4 視界に収めた生物との力量差を少し掴める 魔力消費0 魔力補正

【咆哮】Lv6 前方6メートルの範囲に対し【威圧】効果を与え、自身に掛けられた精神ダメージを確率で無効化させる 魔力消費50 魔法防御力補正

【旋風】Lv6 周囲720度を能力値280%の威力、速度で薙ぎ払う 使用時は僅かに移動可能 魔力消費19 敏捷補正

【睡眼】Lv3 対象の目を見ながら発動することにより眠らせることができる。 能力効果を説明した上で対象が承諾していれば100% 能力説明をしていない、もしくは理解できなければ、成功確率はスキルレベルと対象の耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費9  魔法防御力補正

【爪術】Lv8 爪形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【発火】Lv6 自身、もしくは自身が触れている物を任意の範囲で発火させる 効果を切れば火は消えるが、非接触状態になればその火は直ちに制御を失う 熱量はスキルレベルと知力による 魔力消費:10秒毎に5消費 魔力補正

【火炎息】Lv6 前方に火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費45 魔力補正

【灼熱息】Lv5 前方に巨大で広範囲な火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費70 魔力補正

【白火】Lv1 自身が扱う火に関する技能に限り、上位格となる白火へ変化させる 熱量はスキルレベルによる 魔力消費20 魔力Ⅱ補正

【炎獄柱】Lv5 吸い込み、捕食し、生物を食らう巨大な炎柱を、自身から15メートル離れた先に2本生成する 生成後の炎柱、内部の龍ともに制御は不可 スキルレベル上昇により動きが活発になる 発生時間10分 魔力消費90 魔力Ⅱ補正

【丸かじり】Lv6 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値420%の補正を行う 魔力消費35 筋力補正

【分解】Lv3 魔力を介して対象を分解する 分解速度は込める魔力量による 魔力消費減少割合20% 魔力補正

【吸収】Lv3 魔力を介して液体を吸収する 魔力消費0 幸運補正

【氷結息】Lv6 前方に氷結の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費45 魔力補正

【不動】Lv6 一時的に身体を硬直させ、効果時間内は防御力、魔法防御力を16倍になる ただし発動中は一切身体を動かせない 効果時間6秒間 魔力消費90 防御力補正

【石眼】Lv7 対象の目を見ながら発動することにより石化させることができる 未動作の対象ほど石化進行は速く、成功率は耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費17 魔力補正

【物理攻撃力上昇】Lv6 筋力が18%上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【衝撃波】Lv6 初動となる運動エネルギーを増加させ、波状に衝撃を加える 威力と範囲はスキルレベルによる 魔力消費45 敏捷補正

【地形耐性】Lv6 地形効果を受けにくくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鏡水】Lv4 魔法属性に分類される攻撃を自動で防御、反射する 反射精度はスキルレベルによる 魔力消費:10秒ごとに30消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正Ⅱ

【廻水】Lv5 広範囲の水を強制的に流動させる 範囲と速度はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に70消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正

【透過】Lv5 一定時間身体を透明化させる 効果時間2.5秒 魔力消費50 魔力補正

【封印】Lv5 対象のスキル発動を確率で阻害する 効果時間10秒 魔力消費50 知力補正

【恐怖】Lv6 自身を見ている存在全てを、強い恐慌状態に陥らせる 魔力消費90 魔力補正



 ◆その他/魔物(使用不可)

【粘糸】Lv4 使用不可 魔法防御力補正

【脱皮】Lv3 使用不可 魔法防御力補正

【呼応】Lv7 使用不可  知力補正

【酸液】Lv7 使用不可 技術補正

【擬態】Lv7 使用不可 技術補正

【胞子】Lv5  使用不可 魔力補正

【泥化】Lv5  使用不可 魔力補正

【気化】Lv8 使用不可 魔力補正

【毒霧】Lv7 使用不可 魔力補正

【結合】Lv8 使用不可 防御力補正

【分離】Lv8 使用不可 技術補正

【火光尾】Lv5 使用不可 敏捷補正

【幻影】Lv8  使用不可 魔力補正

【影渡り】Lv6 使用不可 魔力補正

【属性変化】Lv7 使用不可 魔力補正

【地縛り】Lv6 使用不可 魔力補正

【絶鳴】Lv7 使用不可 魔力補正

【無面水槍】Lv5 使用不可 知力補正

【睡夢鱗粉】Lv4 使用不可 幸運補正

【膨張】Lv1 使用不可 魔力補正

【共食い】Lv4 使用不可 防御力補正

【甦生】Lv8 使用不可 魔力補正



 ●ボーナスステータス値

 各スキルの隠し要素としてボーナスステータス値が存在。

 ステータス値が確認できない住民は当然として、ステータス画面上でも表記されないため、検証していかないとスキルそれぞれのボーナスステータス値は分からない。

 スキルレベル1・・・・・対応能力(+1)
 スキルレベル2・・・・・対応能力(+2)
 スキルレベル3・・・・・対応能力(+3)
 スキルレベル4・・・・・対応能力(+5)
 スキルレベル5・・・・・対応能力(+10)
 スキルレベル6・・・・・対応能力(+30)
 スキルレベル7・・・・・対応能力(+60)
 スキルレベル8・・・・・対応能力(+100)
 スキルレベル9・・・・・対応能力(+180)
 スキルレベル10・・・・・対応能力(+300)

 ※魔力のみ2倍  ※魔力Ⅱはさらに2倍



 ●スキルレベル上昇に必要なスキルポイント必要分(女神様への祈祷)

 0→1・・・・・・2ポイント
 1→2・・・・・・4ポイント
 2→3・・・・・・12ポイント
 3→4・・・・・・30ポイント
 4→5・・・・・・50ポイント
 5→6・・・・・・100ポイント
 6→7・・・・・・200ポイント
 7→8・・・・・・300ポイント



 ●レベル上昇による各能力上昇値

 レベル1~10・・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種3上昇、魔力量だけは6上昇
 レベル11~20・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種4上昇、魔力量だけは8上昇
 レベル21~30・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種5上昇、魔力量だけは10上昇
 レベル31~40・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種6上昇、魔力量だけは12上昇
 レベル41~50・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種7上昇、魔力量だけは14上昇
 レベル51~60・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種8上昇、魔力量だけは16上昇
 レベル61~70・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種9上昇、魔力量だけは18上昇


 ●未取得からスキルレベル1の必要経験値を『100』とした場合のスキルレベルと必要経験値、及び魔物から得られるスキル経験値の関係性(推定値)

 スキルレベル1取得に必要な経験値は100  
 スキルレベル1所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり20


 スキルレベル1から2に必要な経験値は200  
 スキルレベル2所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40


 スキルレベル2から3に必要な経験値は600  
 スキルレベル3所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり120


 スキルレベル3から4に必要な経験値は2,000 
 スキルレベル4所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400


 スキルレベル4から5に必要な経験値は20,000 
 スキルレベル5所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000


 スキルレベル5から6に必要な経験値は60,000 
 スキルレベル6所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり12,000


 スキルレベル6から7に必要な経験値は200,000
 スキルレベル7所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40,000


 スキルレベル7から8に必要な経験値は2,000,000?


 スキルレベル8から9に必要な経験値は20,000,000?



 ●名前の上がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中の国

 パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯



 ●所持している本の一覧 

『薬学図鑑』

『系統によるスキル特性の違い』
『知られざる魔法技能』
『ラグリース王国の歴史と展望』

『オークション主催国 その規模と傾向について』
『魔道具一覧 2巻』
『大陸ダンジョン紀行 初編』
『スキルレベル検証 農耕編』
『私を誰だと思っている? ロマンドだよ』
『軍部の強化 名馬育成法』
『猫を飼おう』

『魔道具一覧 3巻』
『奴隷商館活用法 見るべきポイント』
『戦術論 陣形戦術 4巻』
『美の女王マダム・オーゼス』
『特徴も様々 実用された騎乗生物』
『転職しよう 職業一覧 改訂版』
『オールスロイ戦争』
『ジュロイ王国 各地の名産と民芸品』
『大陸中央版 通わせたい貴族院3選』

『宝石図鑑』

『魔物図鑑 1巻』
『希少鉱石とは』
『可愛い子ほど旅はさせるな』
『フィルオネス家の偉業』
『スキルレベル検証 加工編』
『魔法詠唱の導《しるべ》』
『イケてる髭の整え方』
『木人族の不思議』

※急激に増えたため把握できておらず
地図(ワールドマップ) 13章終了時点




 活動報告より、こちらの方が分かりやすいかなと思ったので、13章終了時点での世界地図(ワールドマップ)を載せておきます。



 以下はロキの手帳と内容は同じです。


 ●名前の上がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中の国

 パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯
428話 新たな旅の開始

「それじゃ強くなってくるわ!」

「うむ、気をつけてな」

「美味しそうなご飯あったらよろしく~!」

「あたしもー!」

「俺も珍しそうな酒があったら頼むぜ!」


 好き放題言っている皆の姿に苦笑いを浮かべつつ、俺はオルトラン王国の東部に位置する巨大な街『サヌール』――、そのさらに東の国境付近へ向かった。

 オルトラン東部に広がる荒野は一度深い峡谷を挟み、数十メートル低くなった大地の遥か先には、既に僅かではあるが本格的な砂漠の姿も確認できる。

 きっとあれが『ヘルデザート』と呼ばれる大砂漠の一端なのだろう。


「それじゃあ、お邪魔しますよっと」


 崖からヒョイと飛び降りた俺は【飛行】に切り替え、砂漠の境界を辿るように町を求めて東へ移動する。


 クアドの故郷である『スチア連邦』、最大規模の蔵書数を誇る『ガルム聖王騎士国』、そして視界の先に広がるヘルデザートを抱えた『パルモ砂国』と。

 この三国のどこに向かうべきか、悩みに悩んで最後は鉛筆コロコロクジでもやったろうかくらいに思っていたわけだけど、ふとその先にある予定を再認識した時、俺の目的地は自然と『パルモ砂国』に決定した。

 今はリルとの模擬戦に向けて、少しでも自身のステータスを伸ばしておきたい。

『クルシーズ高等貴族院』に潜り込み、そこで本を読み漁れば応用や気付きはあるかもしれないが、直接的な強さに結びつくかは不確定。

 そもそも拠点に未読の本がかなりあるというのに、このタイミングで新しい本を求める必要性は薄いし、『スチア連邦』はどちらかと言うと通過点であって、その先に存在する『幻想森海』が本命の目的地だからな。

 性格的にもあまりマッピング未完了のまま国を跨ぎたくはないので、そうなると向かう先は最もステータスの伸びが期待できそうな『パルモ砂国』となるわけだ。


(左はどこまでも砂漠なのに、右のスチア連邦は視界に映る全てが大森林とか、この極端な差よ)


 そんなことを思いながら10分程度進むと、よくあるベザートに毛が生えた程度の小規模な町を発見。

 慣れた具合でハンターギルドを探し当て、足早に資料室へと向かった。

 そしてすぐに、自分の顔が緩んでいくのを理解する。


(ははっ、いいねいいね~)


 期待していた通りだ。

 やはり新しい系統の狩場というのは、非常に熱い。

 たまに例外はあるにしても、草原なら草原、森なら森でだいたい魔物の種類なんざ決まってくるもの。

 その辺りを狩場巡りの中で十分理解していたからこそ、アンデッドばかりがいる<<嘆きの聖堂>>はその特徴だけで期待が持てたわけだし、実際にいくつもの新種スキルを得られていた。

 となれば、まだ足を踏み入れたことのない本格的な『砂漠』なんて、もう俺の中では期待しかない。



 《ヘルデザート》 D~Aランク連結複合狩場。

 パルモ砂国の西部~中部に掛けて広がる、国土の3分の2ほどを占める広大な砂漠地帯。

 外周部にはDランク魔物が生息しており、内部に進むほど魔物の強さは増していくが、一帯全てが砂で覆われているため明確な境界は存在しない。

 また全域に砂中を泳ぐEランク魔物『サンドフィッシュ』も登場するため、発見すれば内部で狩りをするハンター達にとっては希少な水分補給の機会を得ることになる。

 ただし、大砂漠の主『ゲイルドレイク』は"全域"を移動するため、砂塵と逃げ惑う魔物の群れを発見したら直ちに避難しよう。

 周囲に魔物がまったく存在しなければ、そこは安全地帯の可能性もあり得るが過信は禁物だ。



 冒頭ではこのように書かれており、その次からはランク別の魔物名が記載されていた。

 聞いたことのない魔物が――、全部で7種、いや、オルトランの雇われ傭兵バーシェが使役していたっぽい魔物も何種か混ざっているから、実質は5種か?

 まぁそうだとしても熱いのは変わらないし、表ボスが存在してくれている時点でほぼ間違いなく俺のステータスは何かしらが伸ばせる。

 問題は倒されているかどうかだけど、出現場所が絞られておらず、ランダム移動しているとなれば明らかに準備万端で挑むレイド向きではないのだ。

 となれば……


(ふふふ、これは放置されていてもおかしくないよねぇ)


 コソコソと情報を手帳に書き写し、前回の反省も踏まえて今回は受付へ。

 より詳しい情報を得ようと、完全に猫の顔をしたお姉さんの前に身を乗り出す。

 ん~背が伸びたお陰で、カウンターに肘が置きやすくなってきたな。


「こんにちは~ヘルデザートの情報を教えてほしいんですけど」

「んー君は初めて見る顔だね。しかも人間とは珍しい。魔物ハンターと遺物ハンターどっち希望かな?」

「んお? 魔物ですけど、ここは遺物ハンターもいるんですか?」


 周囲を見渡すも、規模の小さな町だからなのかな?

 ロビーにそれらしい恰好をした人は見当たらないが、遺物ハンターと言えば、ラグリース北部のベイルズ樹海で鎌を所持した職人たちが思い浮かぶ。

 うーん、あの人達は無事生き残れたんだろうか……


「もちろん、遺物採掘はパルモ砂国の主要産業だからね。古代の魔道具狙いなら西に、特殊な武具や希少鉱物狙いなら東に。出土品は全て国の買取が前提になるけど、なかなか良いお金になるらしいよ」

「え、らしいって、この町は全然駄目なんですか?」

「駄目とかではなく、遺物ハンターを受け付けている町は決まっているからね。西で3ヵ所、東で4ヵ所、やるならそっちに行ってからパーティを組まないといけないのだよ」

「あ~なるほど」


 そう言われ、かつて兵士とハンターが行動を共にしていた姿を思い出し、似たようなものかと一人納得する。

 しかし、砂を掘ってお宝探しか……

 なんとも砂漠っぽくなってきたが、今は何よりも魔物と表ボスの情報だ。

 中心部に行くほど魔物が強くなるという、パルメラ大森林のような階層構造の特徴がある広域狩場となれば、場所による魔物の違いはヘルデザートにもあるのか。

 それに表ボスが生存しているのかどうかも重要だし、資料本に書かれていた"安全地帯"という言葉も少し気になる。


「生息している魔物も、遺物と同じで西と東じゃ内容が変わるとかあったりします?」

「ううん、魔物はどこに行っても同じだよ。だから強い魔物を求めるなら、必ず砂漠の奥地に入っていかないといけないね」

「ほうほう、ちなみにボスの『ゲイルドレイク』って頻繁に倒されてるんですかね?」

「いや~、たまにどこかで倒したなんて話も出たりするけど、なんでかな?」

「さっき見ていた資料本だと、砂漠の全域を移動しているようなことが書かれていたので、もしかして今もいるのかなーと」

「いるいる、たぶんいるよ。5年とか10年に1回くらい倒されたって噂を聞くくらいで、ここ最近はそんな話出てきてないもの。滅多に外周部のDランク狩場までは来ないみたいだけど……それでも遠くから舞う砂煙を見落とすのが一番危ないから、ちゃんとパーティは組んで周囲に目を光らせた方が良いよ」

「あーそういう対策を取るわけですか。でも安全地帯っていうのもあるんでしょう?」

「"砂漠の隠道"のことね」

「?」

「ずーっと昔はヘルデザートの中を安全に通れる道があったらしいけど、今は砂で埋もれちゃって何も目印がないんだから、そんなのに期待してたらすぐ死んじゃうよ? 一応周囲に魔物がまったくいなければその隠道に入っている可能性もあるけど、元から砂の中に隠れたりしてて、他所みたいに魔物だらけっていう狩場じゃないんだから」

「そうですか……ありがとうございます」


 んー、んー? んー……

 お姉さんにお礼を言い、ハンターギルドを後にしながら先ほどの説明を整理していく。

 今は埋もれてしまった当時の街道に、掘り起こされている古代の魔道具や武具か。

 となると――、他にも|埋《・》|も《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|る《・》|何《・》|か《・》があってもおかしくないわな。

 まぁそれは狩りでもしながら考えるとして、まずはこの国をどう攻めるべきか。

 遅かれ早かれ全部回るにしても、ここはやはり不確定要素の強いボス狩りを軸に動くべきだよなぁ……

 のんびりしていて、誰かに偶然狩られましたなんて事態に陥りでもしたら目も当てられない。

 そうなると西側から狩りをしつつ、マッピングも埋めながらボスを虱潰しに探していくのが効率的かな?

 そう判断し、国境線を辿りながらパルモ砂国の西部へ。

 オルトランからの玄関口にもなっているそれなりに規模の大きい町、『ポルック』から本格的な砂漠の旅が開始された。
429話 オーマ

 パルモ砂国とは不思議な国だ。

 自ら求めたのか、それとも当時は土地の貰い手がいなかったからなのか。

 砂漠を囲うように国境線が引かれており、その『余白』とも言える僅かな荒野や緑地帯に大小様々な町が。

 そして砂漠の周囲を縁取るように、ぐるりと1本の大きな街道が各町を繋げるように存在していた。

 国境と砂漠との間にある荒野の余白地帯は、多少牧畜っぽいことはされていたけど、田畑なんてほとんど見られず。

 猫顔のお姉さんは発掘が主要産業と言っていたけど、西側を目にした限りじゃ遺物と、あとは幅広い魔物資源だけという印象を持ってしまうな。


「ギャウ!?」

「残念、コイツはハズレか」


 現在いるのは、ヘルデザートの入り口から少しだけ中に入ったDランク帯。

 オルトランでお世話になった【透過】持ちのフィッシャーカメレオンや、各地の荒野で見かけるハイドスコーピオンなどに混じり、ここには体表が砂の色をした『ナムレスウルフ』という名の新種魔物も混ざっていた。

 資料本には噛まれると身体が『麻痺』してその場から動けなくなるので、中和ポーションを必ず持参しろと"匂わせる情報"が書かれていたのに、結果は空振り。

 これがベザート北東のロッカー平原にいた懐かしの『ポイズンマウス』と一緒で、能力はあるけどスキル化されていないという残念パターンの典型である。

 すんごくハメられた感があるけど、どこの国に行っても必ず数度は空振りしているので、そういうものだと思って割り切るしかない。

 それにハズレもあれば、想定外の当たりもあったりするしね。


 ナムレスウルフの死体を収納し、【広域探査】で狩るべき魔物を絞りながら砂漠を低空飛行で突き進んでいくと、先ほど一度倒している目的の魔物を発見。

 角のような少し丸みを帯びた先端をこちらに向け、砂の中からお腹が大きく膨らんだ50㎝ほどの魚が飛び出してくるので、素早くその角を捕まえ腹を裂く。

 すると中の水袋が割れ、溢れるようにほんのりと甘みを感じさせる水が垂れてくる。

 それを顔に浴びながら飲んでいると、視界の端でアナウンスが流れ始めた。


『【砂泳】Lv3を取得しました』


「ぶは~! スキルも水も、うんま~」


 このサンドフィッシュというEランク魔物を【心眼】で覗けば


 サンドフィッシュ:【砂泳】Lv4 【突進】Lv2 【気配察知】Lv2


 このようにそこそこ熱い魔物であることが分かり、思わず「うぇ~い」と角を持ち上げて乾杯しそうになってしまったくらいだ。

【砂泳】は当然のようにグレー文字だったけど、2匹目なのにもうレベル3取得なのでかなり熱いし、こんなのがあるから空振りしようとも魔物チェックは欠かせない。


「とりあえずロッジの土産とクアド商会の売り物用に、各魔物100体くらい。あとはサンドフィッシュ一点狙いでいっかな?」


 そのようにDランク帯の方針を決め、初日の砂漠マッピングを黙々と進めていった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 その日の夜。

 食後に湖畔で一人、視線を落としながらコーヒーを飲んでいると、背後から低い声で話しかけられた。


「この時間にロキがのんびりしているとは珍しいな」

「ちょっと調べたいことができて、図書館寄ったついでにね」


 実は夜の砂漠がビックリするくらい寒くて、鼻水垂らしながら帰ってきたという理由もあったりするが……

 読んでいた本を見せると、すぐに理解を示してゼオは軽く頷く。


「エニーはちゃんと勉強していたか?」

「してたしてた。一人だけ魔力放出させながら凄い顔してたけど」

「ふっ、エニーが【魔力纏術】を極めたいと言うのだ。ならば日常的に体外魔力を使用し続け、身の回りのあらゆることに利用しろと伝えたまでよ」


 リコさんはどう見ても好きでやっているからいいとして、夜は自分探しのケイラちゃんも、それにエニーも座学ということで、ゼオとリコさんが指定した書物の複製を手伝っていた。

 そうなるとリコさんに関連しそうな本を用意してもらったまではいいが、その場ではどうにも読みづらく外に避難してきたわけだ。

 読書の秋。

 遠くで轟く滝の音を聞き、心地良い夜風に当たりながら、まったりと情報収集に時間を割くのもたまにはいいだろう。

 そんな俺の気分に触発されたのか、ゼオは既に読み終わって石机の上に置いていた本に手を掛けた。


「ほう、『世界の三大遺物発掘地』か……他にも古代の武器や装飾が欲しくなったのか?」

「ん~その気持ちもなくはないけど、今はそれより遺跡とかの情報が欲しくてさ。ちなみにゼオは、『オーマ』って言葉を聞いたことある?」


 今読んでいた『古代遺跡の魅力』という本。

 これも"砂漠"に関連する情報として、リコさんにお勧めされたものだ。

 先ほど確認した『世界の三大遺物発掘地』にははっきりとヘルデザートの文字があり、出土しているモノもおおよその傾向くらいは記されていた。

 ここら辺は猫顔のお姉さんが言っていた情報より少し詳しい程度だったが……

『古代遺跡の魅力』という本を読んでいて気になったのは、この砂漠地帯から出土されたいくつかの風化しない金属書物、"金板書"に登場するらしい『オーマ』という言葉。

 度々主語として扱われていたようで、果たしてこの『オーマ』は何を指すのか。

 この本ではかつて栄えた古代王国の名か、もしくは亡びた古代の種族名ではないかと予想するくらいで、答えは分からないまま終わっていた。

 出土品が現代より遥かに高度な品であることは分かるも、どれほど昔なのかは記録がないため不明。

 でももしゼオが生きた年代と多少でも被るのなら、何か知っていることがあるかもしれない。

 そう思っての問いに、意外なほどあっさりとゼオは答えてくれる。


「オーマ大戦のことか?」

「ん? そのオーマ大戦っていうのは、ヘルデザートっていう砂漠が舞台だったりする?」

「確かそうだな。かつて人間共とダークエルフが戦った地だ」

「んんん? ダークエルフ? ごめん、猶更興味が湧いてきたんだけど」


 なぜか想定外の単語まで飛び出てきたが、強請ればゼオはその後もポツポツと思い出すように古代の史実を語ってくれ、浮いていた1つ1つの情報が少しずつ繋がっていく。


 かつてはヘルデザートに『オーマ』と呼ばれる根城を築き、亜人の中でもとりわけ栄えていたというダークエルフ。

 その地に当時から存在していた人間至上主義国家『魔道王国プリムス』が攻め込み、多くのダークエルフ達を死に至らしめ、砂漠の地から追いやった。

 だからゼオの生きた古代の時代にはオーマ大戦と呼ばれており、亜人達が住んでいた大陸東部に前例がないほど人間が攻め入ったことで、強い危機感を抱いた数多の亜人種が結託。

 のちにゼオが魔王として、プリムスへ反旗を翻す大きな切っ掛けとなった戦でもあるのだと言う。


「西から攻められ交戦したから、東側に多くの武具が出土しているわけか」

「武器を握った直接的な戦いは獣人に、魔法はエルフに劣るとされるが、ダークエルフは人間共の知識や技術を貪欲に取り入れていた。何よりその数も多かったが故に、ダークエルフの総合的な強さは我ら魔人種に次ぐとも言われていたのだ。攻められれば抵抗するのも当然だろう」

「んーそれでも負けちゃうとか、そんなに当時のプリムスって国は強かったの?」

「ふん……人間の戦力だけで言えば大したものではないが、『オーマ』は『水』を奪われたという話だからな」

「え? どうやって?」

「それは分からん。生き延びたダークエルフ含め、誰もその理由を知る者はいなかった。つまり人間共にしかできない|何《・》|か《・》をしてきたということだ」

「……」


 そういえば以前に奴隷親分のベッグさんが、ヘルデザートでは【水魔法】がろくに発動しないようなことを言っていた。

 その時は理由なんて分からなかったけど……まさか、今もなお、何かが作動し続けている?

 自分に置き換え、都市クラスの水を空にしろと言われても、その都市を先に壊滅させるくらいしか方法が出てこないのだ。

 当時の人間にできて、亜人にできないことと言われれば、ゼオやカルラを隠し続けていたような、怪しい高性能魔道具くらいしか思い浮かばない。

 しかし――。


(これは当てが外れたかな?)


 思考を続けながらも、そんな思いが大きくなる。

 D~Aランクまでの魔物が登場し、表ボスも存在するまではいいとして、最も気掛かりなのはヘルデザートに裏ボスが存在しているのかどうか。

 だからこそ「古代遺跡の謎を解き明かせば裏ボスが~」的な、フェルザ様が考えそうな流れを想定し、早いうちから的が絞れるような情報を得られればと、怪しい『砂の下』に意識を向けていたわけだが……

 ダークエルフ達が寄り集まった巨大集落だと生き証人ゼオに言われてしまえば、それらの遺跡を仮に発見したところで期待値は大きく下がってしまう。

 明らかに人が生まれる前から存在していそうな裏ボスが、人の移住や人の生み出した住処に左右されて定着するなんて考えにくいしなぁ。

 まだ結論付けるには早いけど、ヘルデザートは古代の希少な魔道具や装備が手に入る、宝探しの場くらいに思っておいた方が良さそうな気もする。


(ふぅ――……、そろそろ防寒用にサラマンダーレザーでも着て狩場に戻るかな)


 そう思いながら立ち上がり、ふと浮かんだ素朴な疑問を口にする。


「ねぇ、ゼオはなんでわざわざ昼は暑くて夜は寒く、砂漠なんだから水も豊かではなかっただろうヘルデザートに、多くのダークエルフが住み着いたか知ってる?」

「当然、そこに有益な狩場があるからだろう。高位の狩場であるほど潤沢な資源や食料を生み出し、それだけ国や住まう種が豊かになる。流れ移る亜人が定住する最も一般的な理屈であり理由だ」

「やっぱり資源だよねぇ~そりゃ人間も奪いにくるわけか」

「あの辺りで"Sランク狩場"など他に無いはずだからな」


「……今、なんて?」
430話 夢幻の穴

「我は上級ダンジョンに籠っていたから、その地に行ったことはない。だが存在していたのは間違いないはずだ」


 この言葉に、事情も分からず呼ばれたカルラは、


「《夢幻の穴》だっけ? ボクも行ったことはないけど」


 このように答えていた光景を思い返す。


 たぶん、本当にあったのだろう。

 彼らが生きた古代の時代には。

 でも今は、DからAランクの連結複合狩場があるのみで、以前Sランク狩場の情報を教えてくれたのは――、ロズベリアのギルドマスターであるオムリさんだったか。

 あの人も、文献情報含めて3ヵ所、うち一般開放されているのは1ヵ所で、ヘルデザートに関する情報は握っていなかった。

 ということは、ハンターギルドもその存在を知らない可能性が高いということになる。


(埋もれているのは、狩場の中にある別の狩場……? いやいや、まったく想定していなかっただけに嬉しい誤算ってやつだが、でもこれ、見つけられるのか?)


 モノは試しと【広域探査】で『ヘルデザート』を指定しても、当たり前のように一切反応を示さない。

 広域過ぎるのか、そもそも特定の対象とは違うからなのかは分からないけど、常識的に無理だろうなと思ったモノは無理なのだから、《夢幻の穴》と調べたところで何も引っ掛かりはしないだろう。

 かと言ってAランクの中心部にあるような、順当で分かりやすい狩場なら、ハンターギルドが把握できていないことに違和感を覚える。


【広域探査】――『Sランク魔物』


 となると、今はこれくらいしか方法が見当たらない。

 探査範囲は1㎞以上あるわけだし、普通であれば高確率で見つけられるやり方のはずだけど……

 どうにも不安が拭えないまま、マッピング作業は進んでいった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 日が昇れば収納していた氷を抱え、日が沈めば防寒鎧を着て。

 朝から朝方まで高速マッピングを進めてもう4日。

 ようやくDランク帯とCランク帯の魔物が混在し始めたところで、溜め込んだストレスを吐き出すように大地へ向かって吠えた。


「ちょっと、この狩場、広過ぎるんだがーっ!?」


 途中からは狙っていたサンドフィッシュの『砂泳』もレベル7に到達し、ならば割り切るかと【広域探査】の対象を『Sランク魔物』と『ゲイルドレイク』の二つだけに絞り、【風魔法】で周囲の風を制御しながらひたすら読書タイムに耽る毎日だった。

 真っすぐに北から南へ、国境線にぶつかれば次は南から北へと移動するだけなので、傍から見たら半眼で空を飛びながら本を読んでいる頭のおかしなヤツにしか見えないけど、どこを見たって景色がまったくと言っていいほど変わらず砂しかないのだ。

 50冊くらいは未読の本に目を通せたし、何気に上手い時間の使い方だったような気もする。

 そして今――、睡魔を吹き飛ばしてくれる新たなストレス発散対象を見つけ、滑空しながら勢い良くCランク帯の魔物をぶった斬った。


「はっはーッ!」

「ピギィ!」


『【熱感知】Lv1を取得しました』


「ついでにそっちも、『風刃!』」


『【脱皮】Lv4を取得しました』


「久しぶりの【脱皮】に、使いどころが分からないけど白文字ナーイス!」


【熱感知】Lv1 視界内の温度を視覚化させる その精度はスキルレベルによる 魔力消費0


 このような詳細説明が出てきたスキルを使用してみると、視界全てがモワ~っとオレンジ色に染まり、今こちらに向かってきている魔物含め、所々にポツポツと青みがかったような色が表示されていた。

 2色しかないところがレベル1らしくて雑だけど、これはもうテレビで見たことのあるサーモグラフィーと同じような感じである。

 ある意味すぐに受け止められる仕様でありがたい。


「キュッ!」


 空から近寄ってきた魔物を斬り伏せ、このままでは戦いづらいと感じて【熱感知】を切ると、目の前には雇われ傭兵バーシェが逃走を図ろうとして足に掴まっていた時の魔鳥が。

 遠くにいる、斧のような嘴の魔物も含めれば、Cランク帯の構成と所持スキルはこんなところか。


 アックスビーク:【突進】Lv3 【俊足】Lv3 【斧術】Lv3 【遠視】Lv3

 ヨーウィー:【熱感知】Lv2 【脱皮】Lv3 【擬態】Lv3 【噛みつき】Lv3

 デザートホーク:【飛行】Lv5 【爪術】Lv2 【遠視】Lv4 【視野拡大】Lv3


 ここもそれぞれ最低100体。

 蛇とトカゲが合体したような、ちょっと見た目の気持ち悪いヨーウィーという魔物は、【熱感知】と【脱皮】を飽きるまで狩っておけば、Bランク帯へ突入する頃には最低ラインくらい超えてくれるだろう。


(ふふふ、少しずつだけど、着実に強くなってきてるなぁ)


 そんな状況に一人ニヤニヤしながら移動狩りを再開して、すぐだった。


 ふわっ、ふわっ、と。


 2秒に1回ほどのペースで俺の視界を縁取るように、青い光が明滅を始める。


(あぁ、これがハンスさんの言っていた『青い方』か……)


 咄嗟にステータス画面を開き、【魔物使役】専用タブを開くと一番上。

 入り口を見張る黒象ギリオ君の表示部分も、俺の視界と同じようにフワフワと同じ青色で緩く明滅していた。

 赤くはないので、誰かから攻撃を受けて死にかけということではないっぽいけど、なるほど。

 ベザートからの呼び出し――、ギリオ君ということならまずダンゲ町長かペイロさんなわけだから、どうやら俺宛てのお客さんが来たらしい。
431話 特使の男

 一旦はニューハンファレストの上空に転移。

 商会の屋上から、より高さのあるこちらへ見張り場所を移していたリルに一応確認し、転生者本人じゃないことを把握してから入り口へ向かう。

 さて、呼び出しが入るほどの来訪者はどこのどなたなのか。

 村の入り口に建つ小屋の扉を開ければ、


「おぉ、ほんとに来てくれたか。これで今後も一安心じゃな」

「いや~これで肩の荷が下りましたよ……」


 そこには安心した様子を見せるダンゲ町長とペイロさん。

 そして二人の正面には、旅人というより冒険者なのか?

 薄汚れた革鎧に、火か風あたりの属性防御用かな。

 半身を隠すレザーマントを身に着け、腰には2本の剣を携えた壮年の男が座っていた。

 極端に強いわけではなさそうだが、マルタ防衛戦で一緒になったSランクハンターの渋いおじさんと同じくらいの力量はあるように思える。

 うーん……使者だの貴族だのと聞いていたので、これは想定外のお客さんだな。


 男は俺に気付くとその場ですぐに片膝を突き、視線を落とした。


「えーと、あなたは?」

「お初にお目にかかります、ロキ王陛下。私はエルグラント王国の特使、レグナートと申します」

「エルグラント……勇者タクヤの所属する国ですか」

「はっ、左様でございます。まずは拝謁の機会を設けていただいたこと、感謝至極に存じます」

「おぉう、畏まったのは苦手なので楽にいきましょうね。どうぞ座ってください」

「え? あ、は、はい」


 とうとう来たか。

 そう思いながら正面に座り、レグナートと名乗った男にも座るように促す。

 戸惑っていたけど、まずここ、人によっては物置と判断するくらいの小屋だしね。

 こんなところで偉そうにするとか、なおさらこちらが恥ずかしくなるわ。


「それにしても、僕と似たようなハンターっぽい恰好をされているんですね」

「実は私、監査諜報部の所属でもありまして……国よりロキ王の勧誘という任を授かり、フレイビル王国のロズベリアから長く足取りを追っていたのです」

「んん? というか、ご自身が諜報部であることを明かしてしまって大丈夫なんですか?」

「まったく問題ありません。後々の不和を招く切っ掛けなど、こちらとしては不要ですので」


 ロズベリアっていうと、竜の素材がどれもデカくて【空間魔法】を堂々と使い始めたくらいのタイミングか。

 それで目を付けられたってことなんだろうけど、大半を転移と飛行で移動していたのだから、足取りなんてまず追えたものじゃなかっただろう。

 となれば、追っていた当人が興した国に直接足を運ぶのも当然だわな。


「不和を望まないね……一応確認しておきましょうか。僕が国を興した以上、勧誘は100%無理だと分かっているはずです。なのにあなたがここへ訪れた理由は?」


 まずこれだろうという答えを確かめるための質問。

 この問いかけに、男は一層背筋を正して答える。


「我が国――エルグラント王国との同盟を、前向きにご検討頂けないでしょうか?」

「特使ということは、あなた個人の願望などではなく、エルグラント王国の意向と捉えてよろしいのですか?」

「もちろんです。ロキ王のお力添えを、我が国で反対する者などおりません」

「……」


 言いながら男は、木箱の中で丁寧に丸められた一枚の書簡を差し出す。

 中身を確認すると、勇者タクヤが直筆で書いただろうことが分かる"日本語"で、『ロキ、君の力を貸してほしい』と。

 その理由も含め、手紙には記されていた。


 普通に考えればこんな提案、異例中の異例だろう。

 大陸有数の大国であるエルグラント王国が、少し前に開国したばかりの町一つしかない国に同盟を求めているのだ。

 普通なら逆。

 外交を重ね、様々な利点を説き、小国がようやく同盟という繋がりを手に入れ強国の庇護を得る。

 そんな流れなのだろうけど。


(帝国との争いが激化か……)


 だからこそ、望んで接触を図ってきた目の前の男からも、そして手紙からも同盟の意図が見えてくる。

 それに俺の方針は予め決めているしな。

 こちらの考えも伝えられる良い機会だから会うことは会うが、相手が大国であろうとこの方針はブレることもない。


「拝見しました。が、残念ながらご希望には沿えられそうもありません」

「ロキ王、あくまで私は前向きに検討頂きたいと、そうお伝えしたのです。また改めて正式に使者を寄こしますので、その時までにじっくりと――」

「時間を置いたところで、考えは変わりませんよ?」

「それは……我が国との同盟など、検討の余地もないと、そういうことでしょうか?」

「んー……ではレグナートさん。今から単純な質問をしますので、気楽にすぐ、答えてください」

「え? あ、はい」

「うちがエルグラント王国と同盟を組む利点はなんですか?」


 そう問うと、一瞬意表を突かれた表情を浮かべるも、すぐ気を取り直したように口を開く。


「それはやはり、自国民を守るという意味でも、エルグラントであり、タクヤ様という名前が齎す『盾』もあった方がよろしいのでは?」

「そのような外部の盾に頼らずとも済むよう、自ら5番目の異世界人と名乗り、僕自身が進んで『盾』になっているんですよ?」

「確かにそうかもしれませんが、しかし同盟となれば、様々な物資に対しても融通が……」

「ご存じかと思いますけど、僕は【空間魔法】を所持していますから、その気になれば大陸中の物資を自分で調達できます」

「なるほど……しかし、人材は難しいでしょう? 難民を多く抱えているとなれば、内務に携われる優秀で実務経験のある人材や、専門性の高い職人を我が国から回すことも――」

「いやいや、現状は貴族も税金も存在しない国ですから、やれることをのんびりやっていければそれで良いと思っていますし、まず他国の人材を内務の中枢にでも据えたらその国はもう終わりでしょう」

「ッ……で、ですが! 少なくとも同盟とあらば、我らがこの地に攻め込む―――、ッ!!?」

「あぁ、気楽にとは言いましたが、あなたも立場ある人間なら、その先は言わない方が良い」

「カヒ…ュ……ッ……」

「そのたった一言で、ご自慢の国が丸ごと焦土化なんてなったら嫌でしょう?」

「も、もうじわけ……ありません……」


 ちょっとやり過ぎたかな。


 ――【結界魔法】――『燐光』


「はひっ……!?」

「失礼、脅すつもりはなかったんです。もし自国に……この町に何かあれば、そのくらいの気構えを持っているというくらいですので」

「っ……はっ……」

「それに同盟を断るから即ち敵対、ということもまったくありませんからね?」

「え……?」

「僕は僕なりのルールで許容を超えた『悪』だと思えば手を出しますし、逆に許容を超えなければ基本は何も関与しません。そこに同盟の有無など関係ないので、初めからどこの国とも組もうとしていないだけなんです」

「そ、それは、つまり……帝国に与するようなこともないと?」

「この書簡の通りであれば間違いなく有り得ませんし、許容を超えていると思えば僕は僕で勝手に動くことだってあるかもしれません。まだ国を興したばかりで、外の争いに目を向けるには時期が早過ぎると思っているだけですから」


 このように伝えると、納得とはいき難い表情であったが、一瞬だけ綻ばせた顔を隠すように頭を下げる。


「その言葉を伺えただけでも足を運んだ甲斐があるというもの、時間を割いていただいたこと、心より感謝申し上げます」


 そして「最後に1つだけ」と、断りを入れてから男は口を開いた。


「ロキ王は帝国のシヴァを――、他にも数多の異世界人を抱えている帝国を、恐ろしいとは思わないのですか?」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 時間にすれば20分程度の短い会談を終え、足早に去っていく特使の男。

 その後ろ姿を3人で見送っていると、ペイロさんとダンゲ町長が口を開く。


「あの人、以前も来ていましたよね」

「ふむ……書状があったにもかかわらず先日は置いていかなかったとなると、よほど内密にしたい内容じゃったか」

「少なくとも、僕と直接話せるような場でもなければ明かす気は無かったんでしょうね。どうもエルグラント王国は、相当厳しい状況に置かれているっぽいですし」


 本当ならこの二人も席を外させたかったのだろうし、今になっては俺もそうしておけば良かったかと思ってしまう。

 最後の一言――、あれは確かに重要な情報だったが、しかし余計でもあった。

 特に異世界人を極度に警戒するペイロさんには。


「ロキさん……帝国は異世界人が多くいるなんて、そんなの初めて聞きましたし……そのうち東にも攻めてくるんですよね?」

「エルグラント王国との決着が付けば――、もしくは余力があると判断した段階で、東に目を向けるのかもしれませんね」

「ですよね……その、この町は大丈夫なんでしょうか?」

「ペイロよ、本当にそんなことになれば、狙うのは間違いなく大陸の覇権じゃ。どこにいれば安全ってこともないじゃろ?」

「それは、そうですけど……」

「大丈夫ですよ。僕がこの町を守りますから」


 絶対とか、必ずとか。

 そのような言葉を軽々しく口にはできない。

 それでも、どこにいるよりも安全に皆が過ごせるように、俺は俺でやるべきことをやる。

 そのためにも、今は他所の争いより自身の強化を。

 まずは何ものにも揺るぐことのない強さをノーリスクで手に入れるために、俺は再び砂漠へと向かった。
432話 裏ルート

 対象を見つけたら視界を閉じ、【魔力感知】の反応だけを頼りに、砂の球体から魔石を素早く抜き取る。


 ザシュッ――


『【陽炎】Lv6を取得しました』


 ふぅ。

 ようやく目先の目標にしていたスキルのレベルが上がり、掴んだ魔石を収納しながらすぐに詳細説明を確認した。


【陽炎】Lv6 本来とは異なる位置にその姿を映し出す 魔力消費:1分ごとに10消費


「ん~レベル6で日中の使用制限が消えて、魔力消費は変わらずか」


 エルグラント王国の特使が訪れてから既に1週間以上。

 あれからも連日砂漠に通い続け、今はAランク魔物も混ざり始めたBランク帯の終盤。

 そこでなんとかもう1つはレベルを上げ切ってしまおうと、砂を固めた球体型の魔物。

『サンドミラージュ』だけを狙って乱獲していた。

 ちなみにBランク帯の魔物と所持スキルはこのようになる。


 サンドワーム:【噛みつき】Lv3 【穴掘り】Lv3 【気配察知】Lv3 【踏みつけ】Lv4

 サラマンダー:【火炎息】Lv3 【火属性耐性】Lv5 【踏みつけ】Lv4

 サンドミラージュ:【陽炎】Lv3 【土魔法】Lv4 【魔力感知】Lv4


 予想通りの見た目で砂に潜っていたサンドワームは、新種だけどスキル構成がイマイチ。

 サラマンダーもエントニア火岩洞で狩りまくったので、数日頑張ったところでスキルレベルがホイホイと上がるような段階ではない。

 それでもBランクなら需要もあるかと300体ずつくらいは移動しながら狩っておいたが、やはり狙いは新種スキル【陽炎】を持つ『サンドミラージュ』に絞られていった。

 まぁ日常的に使うようなスキルでもなさそうなので、ステータスボーナスを目的にしている部分は大きいが。

 ちなみにこの魔物専用スキルを使用すれば俺の姿はその場から消え、近くでモヤモヤと実体を伴わない虚像の姿が映し出される。

 その時目視はもちろん、本体が一切動かなければ【気配察知】の反応も断てるけど、【魔力感知】と【探査】は誤魔化しが利かず。

 動けば【気配察知】にも反応してすぐにバレるので、【隠蔽】がカンストしている俺には関係ない話だが、近い系統の【透過】とどちらを好むかは意見が分かれそうなスキルだな。


【陽炎】の利点は『目』に頼った相手だと、最初のうちは特に騙されるというか混乱してくれる。

 斬ろうが殴ろうが映し出された姿に実体はないのだから当然だ。

 そして分かっていても、視界の端では虚像の俺が同じ動きをしているわけだから、どうしたって意識はそちらにも向いてしまうものだろう。

 だが揺らめきながら姿が消えて虚像が別の場所に生まれるので、前もって仕込んでおかないと効果は薄そうだし、あくまで靄なので虚像の精度はそこまで高くないと、実験に付き合ってくれたカルラも言っていた。

 スキルレベルが上がるほど本体から離れた位置に、そして虚像のモヤモヤ感も薄くなってきているみたいなので、レベル6くらいになればどこかで使えるタイミングがあるのかもしれないけどね。

 とりあえず目を開けていると混乱するので、目を瞑って【魔力感知】だけを頼りに魔石を抜き取るのがサンドミラージュ対策には一番である。


 そして――。

 既にチラホラと見えている、Aランク帯の魔物にも目を向けた。

 遠くで上空を舞っているのは、クオイツ竜葬山地の外でも多く見かけ、ベザートの上空警備も担っている小型の竜『ウィングドラゴン』。

 それに雇われ傭兵バージェが【騎乗】していた『グリフォン』に、蟻地獄を作って待ち構えている、初登場の如何にも砂漠らしい魔物『オドゥン』。

【飛行】する魔物2体に、地中に潜って姿を見せない魔物とか、上も下も気にしなければいけないので、普通ならなんとも面倒そうな狩場である。


(ん~スキルの伸びが期待できるとしたら【オドゥン】ってやつだけか……)


 ウィングドラゴン 【飛行】Lv5 【風魔法】Lv5 【風属性耐性】Lv4

 グリフォン 【飛行】Lv3 【爪術】Lv5 【咆哮】Lv3


【心眼】で覗けば、グリフォンはよく見る獣型の大型魔物特有のスキル構成をしているのだ。

 素材とレベル経験値目的でしこたま狩りまくる予定だけど、スキルレベルの上昇は期待できそうもなく、期待はオドゥンに絞られていく。


「さぁ、頼むよ~!」


 あの『穴』がスキルによるものかどうか。

 まずそれ次第だ。

 マッピングを進めながら進路上に特徴的なすり鉢状の巣穴を見つけ、さすがに死にはしないだろうと、わざとその穴の付近に落ちてみる。

 すると、


「おぉ、おぉおお?」


 螺旋を描くように砂が蠢き、俺の足は中心部へ吸い込まれるように引きずられていった。

 底なし沼のように抜け出せなくなるだけかと思っていたが、想像より遥かに強引で強制力のあるやり方に驚きと期待が入り混じる。

 そして、中心部から姿を現す、クワガタみたいな赤黒い昆虫。

 前方に長く伸びる、鎌のような形状をした大顎はそれだけで俺の背丈以上あり、全容は分からないにしても昆虫らしからぬ巨体を想像させた。

 が、重要なのはそこじゃない。

 姿を現したことで見えたスキル内容に笑みを零しながら、


 ――【飛行】――


 一度浮上し、待ち構えるように動かしていたオドゥンの大顎を掴んで、空中へ強引に引き摺りだす。

 すると砂に埋もれていた胴体部分も2メートル近くあり、テカテカと艶のある外殻は叩けば、その硬さを示すように甲高い音を鳴らした。

 資料本には食用じゃないと記載されていたが、防具素材としてはそこそこ優秀っぽいな。


「ふんっ!」

「ギギ…ッ……」



『【流砂】Lv1を取得しました』

『【流砂】Lv2を取得しました』


【流砂】Lv1 範囲内の砂を任意に流動させる その範囲と及ぼせる効果はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に10消費 ※砂地でのみ発動可能


「……白文字、だけどやっぱり"砂地限定"か。まぁ使い難そうな感じは予想できていたからいいとして――……」


 視線を下に向けると、オドゥンを引き摺り出した巣穴の中心部はぽっかりと開いており、しかし当然のように『穴』の底は砂で詰まっているように見える。

 うーん。


「どこかにあるはずのSランク狩場は『夢幻の穴』……今は砂で覆われた隠道……埋もれた、地下……『穴』……」


 フェルザ様が考えそうなこと。

 ゲームの世界であれば有り得そうな、普通ではまず気付けない裏ルートか。

 これが作為的なモノなのかは分からない。

 けど……


「どうも怪しいんだよなぁ……」


 もしかしたら地下に通じる、特別な『穴』でもあるのではないか。

 そんな妄想をしながら、本格的なAランク帯の探索を開始した。
433話 テコ入れ

『ロキ君、今日の夜は報告会ですよ~みんな砂漠の料理を楽しみにしています~』

「……?」


 砂漠のマッピング中に届いた、少し弾んだような声。

 その間延び具合からすぐにフィーリルだと気付き、前後の文脈がおかしいことにも気付く。

 もう報告会はおまけもおまけで、主眼は砂漠料理の催促としか思えない【神託】の内容。

 連日のように様々な国や領地のお偉いさんが思惑と共にうちへ足を運び、ついでにクアド商会で買い物して、まだ窓ガラスもないため一部だけだが、試験的に泊まれるようにしたニューハンファレストで1泊してからお帰りいただいているのだ。

 強欲ババアは至るところで暗躍しているし、勇者タクヤんとこだって結構ピンチっぽいしで、世界は大きく動いているというのに、あの女神様達――。


「いったいいつから、報告会をお食事会だと錯覚していた……?」


 ――って、いやいや、ちょっとカッコよく言ってみたけど最初からだな、うん。

 考えてみれば、リルがゴミ袋とサンダルの片割れを拾ってきたくらいで、他はまともな報告を何も聞けていないような気がしなくもない。

 はぁ。


(だからハンスさんに駄女神って言われんだよ……)


 要所要所では物凄く頼りになるし、少しずつ下界に慣れてきているのも分かる。

 が、それでも未だに否定はできない先輩からの重い言葉。

 さすがに今日の報告次第ではそろそろ本気で修正するべきではないのか。

 そんなことを考えながら、夕暮れ時に西の町『ポルック』で珍しそうな料理を買い込み、拠点の上台地へ転移した。



「ほい、買ってきたよ~」

「やっほ~! みんな呼んじゃうね~って、なんかロキ君、顔がやつれてない!?」

「うむ……今にも死にそうな顔をしているな」

「なんというか、目の下のクマが酷いですよ?」

「今ちょっと広範囲を動き回る表ボス追いかけててさ。ちゃんと寝るのは倒してからにしようと思って」


 本音を言えば、今は極力砂漠から離れたくないくらいだ。

 可能性はどうしたってあると理解しているが、ボスがもしマッピング済のエリアに侵入すれば、生存しているかも分からない非常に面倒な事態に陥ってしまう。


 うーん、それにしても……

 別に用意された木の机で、膝にペットの猫を乗せたまま服作りに励んでいるアリシアと、ご飯が楽しみなのか、皿をクルクルと器用に回しながら踊っているフェリンとリル。

 なんと平和な光景か。

 これが平常運転なんだけど、この能天気な姿を見ているとみんなの報告を聞くのがどんどん怖くなってくる。


 次々と石机の上に並べられるポルックの砂漠料理。

 そして集まる残りの女神様達。


「……なんで浮いてるの?」

「なんとなく」


 俺の身長よりやや高い位置をキープし、訳の分からないマウントを取ろうとするリアの背後では、えらく発育の良い赤毛の馬に跨ったフィーリルが、満面の笑みでこちらに向かって駆けてくる。

 俺が引き渡したのは仔馬だし、あんなのは奥の"動物園"にいなかったはずだが……

 少し疑問に思いながらも眺めていると、近くに青紫の魔力渦が現れ、そこから登場したリステは久しぶりに見る黒いスケベドレスを着用していた。

 早めに砂漠へ戻らないといけないのに、もしや発情期だろうか?


「それでは報告会を始めたいと思います。いただきます」

「「「いただきます」」」


 毎度の如く、進行役を買って出る自称リーダーのアリシア。

 だが、まだだ。

 まだ口を挟む時ではない。

 今更ながら、報告会始めるのに"いただきます"ってなんだよとは思うけど、まだ焦る時ではないのだ。

 問題はここからで、どう報告を上げてくるのか。

 そいつを聞かせてもらってからでも遅くはない。




 サンドフィッシュは淡泊だけど骨が無くて食べやすいだの。

 カメレオンの肉はトロトロだの、そんな感想を言い合って暫し――、とうとうリーダーアリシアが口火を切った。


「ではリステから、北の様子はどうですか?」

「兵が大きく動員されるような目立った動きはありませんね」


(……)


「フェリンは?」

「大丈夫! 楽しいよ!」


(……?)


「なるほど。フィーリルはどうですか?」

「凄く大きな馬を見つけたので、思わず連れてきちゃいました~!」


(………??)


「リガルは順調に見張りを――」

「ちょっと、待たれよ」

「え?」


 これはいけない。

 秒速で報告が終わり、何事もなく飯の続きに戻るという毎度の流れ。

 どこかでテコ入れをしなくては、この流れが今後も続いてしまう……

 それではマズいのだ、特に西方は。


「進行は、俺が代わる」


 たぶん、いつもと声のトーンでも違ったのだろう。

 この言葉に、大口を開けて肉を放り込もうとしていたリルとフェリンは、口をあんぐり開けたままピタリと動きが止まり、他の4人も空気が変わったことを理解したように静かになる。


「まず下界を探索している3人は、今どこら辺にいるの?」

「ファンメル教皇国ですね」

「水の都ハーディアって所だけど」

「私はガルム聖王騎士国です~」

「ファンメル教皇国か……トルメリア王国の北だよね?」

「よくご存じで」


 砂漠に入って半月ほどで、図書館にある多くの本には軽く目を通したのだ。

 ぼんやりとした脳内地図だが、それなりに名の通っている国ならおおよその配置くらいは掴めてきている。

 大陸のど真ん中で東西に広く延びるエイブラウム山脈。

 そこを沿うように東へ進行しているのがフィーリルで、西から抜けて北を目指しているのがリステ、そしてフェリンはジュロイを抜け、ひたすら西側に向かっているわけか。

 フェリンだけ進みが遅いように思えるけど、あそこは国が大きいとボスハンターのアウレーゼさんが言っていたからな。


「フィーリルはなんでガルム聖王騎士国にいるの?」

「亜人種が大陸の東側に多く生息していることは分かっていましたから~ここから北と南のどちらに向かうか、人々の記憶を探りながら考えていたんですよ~」

「ん――……北に向かえば北東にある大国アイオネストのその先、ナルジャ半島のどこかにエルフの里があるって話はたぶん間違いないと思う。ただ少数種族を探すなら南のスチア連邦か、人があまり住んでいないっぽい大陸南東方面だろうね」


 そう言いながら机の隅に大陸図を広げ、空白の予測箇所をいくつか指差す。

 まだマッピングもしてないけど、おおよそ場所はこの辺りだろう。


「え? ロキ君はエルフの所在を掴めてるんですか?」

「あらら~いつの間にそんなことまで……」

「情報が欲しくて、本を読み漁ってるからさ。ちなみにあの立派な馬、ガルムからパクってきたりしてないよね? 軍馬育てるの凄い上手な国みたいだけど」

「うふ、うふふ、そんなことあるわけないじゃないですか。原っぱで気持ち良さそうに寝ていたので、可愛くてついつい連れてきちゃっただけですよ」


(間延びしてないし、めちゃくそ怪しいんだが……)


 内心そう思いながらも、次はフェリンに視線を向ける。


「えーと、フェリンにも1つ確認しておきたい」

「うん」

「毎回大丈夫って言ってるけど、具体的にどう大丈夫なの?」

「えっと、戦争は起きてないよって意味で、大丈夫、みたいな?」

「なるほど……ちなみにこっちの情報で、ハーディアの商人が大量の鉱物と、それに他所の軍が使っていた既製武具も買い付けようとしていることは分かってるんだよね」

「え?」

「それが西側に対しての備えなのか、それとも元々は険悪だった東のジュロイ、トルメリアに向けたモノなのかは分からない。ジュロイの刻印が入った正規兵の鎧も欲しがっていたみたいだから、どちらも有り得る話だとは思う」

「……」

「今争いが起きているのかどうかももちろん重要なんだけど、これから起きそうなことに対しての情報は掴んでいない?」

「それは、ごめん……」

「リステはどう?」

「同じで、今の情報しか……」

「そっか」


 ふぅ――……

 頭ごなしに否定しては駄目なのだ。

 以前は戦争が起きていることすら満足に気付けていなかった。

 それが今は現場確認から『戦争が起きているかどうか』の確認をするようにはなってきているのだから。

 でも、どうせ動くのなら、もう一歩先――、予兆を掴み、起きる前に対策が取れるところまで手を掛けてほしい。

 そうしてくれれば、のうのうと自分だけは安全な立ち位置に構え、駒を使って利益を貪ろうとする『悪の親玉』を俺が叩き潰しに行ける。

 きっとその方が皆の望む世界に近づけるだろうし、ベザートの安全性だってより保たれるようになるはずなのだ。

 できれば皆には、間諜のような役目を担ってほしいものだが……


「リルは町の入り口を監視してくれてるから分かると思うけど、連日いろいろな国のお偉いさんとかが、思惑を引っ提げてうちに来てるんだよね」

「それはリガルから聞いています。一部はロキ君も対応していると」

「うん、それで皆も知っている一番下界で有名な異世界人――勇者タクヤの所もうちと同盟っていうか……俺個人の力を借りに来た」

「ロキ君の力……」

「あまりこういったことを言ってはなんだが、少なくとも個人の強さだけで言えば、下界であの転生者を超すような者などまずいないと思うが?」

「あの加護は、強力」

「きっとそうなんだろうね。直接会ったことはないけど、ハンスさんの言い方からして、そうなんじゃないかなって思ってた」


 ハンスさんはかつて、勇者タクヤのことを名指しで『よほどの強者』と言っていた。

 つまりはハンスさんから見ても明確な差を感じるほどに強いということ。

 推測するに、最低でも広範囲のスキルレベルが+2、もしかしたらそれ以上の自動補正に、関連するスキル経験値の上昇補正《ブースト》、それに【転換】のコンボと、【魂装】や【神通】みたいな職業限定スキルってところか。

 しかし。


「それでも厳しい状況に立たされているっぽいんだよね。シヴァって異世界人のいる帝国が、多くの異世界人を抱えているとかで」

「「「「「「……」」」」」」

「大陸南西に位置するその帝国が、周辺の国を呑み込みながら北西の大国――勇者タクヤのいるエルグラント王国と戦っている。そこに介入するかはまだなんとも言えないけど、勝敗がはっきりと見えてくれば次は東にその戦力が向く可能性は高い」

「そうなると……責任重大ですね。私とフェリンは」

「うん、楽しいなんて言ってる場合じゃなかった」

「いやいや、楽しむことを否定なんてしないよ。それこそ少しお金を持って、屋台とかで買い食いしながらお店の人に町や国の様子とか聞いてみたら? リステなんか以前のままなら、誰とも会話なんてしてないでしょ?」

「それは……はい」

「干渉になるんじゃないの?」

「それくらいなら余裕でしょ。リルなんて俺からお金せびって、連日露店で買い食いしてたんだし」

「確かに!」

「「「「「……」」」」」

「客商売してる人って世情に敏感だし、そういう場所だからこそ旅人として気軽に話を聞けるっていうのもあるしさ」

「そっか! いいのかな!?」


 ほんの数秒前まで凹んでいたのに、急に目がキラキラと輝きだすフェリン。

 相変わらず感情の起伏が激しい。


「少し工夫すればお金は持ち運べるわけだし、なんならフェリンが作った野菜とか、フィーリルが卵やミルクでも量産してくれれば俺が買い取るよ? 広く出回っている食べ物程度で干渉したなんて話もないだろうし、町に持っていけば皆喜んで食べてくれるんだから」

「「おぉ~」」

「もちろん北と西側だけの問題じゃない。リアが危ない考え持ったヤツを炙り出してくれれば楽になるし、他にも王族とか貴族とか……まぁ都合良く神像の前でのんびりしてくれればだけど、権力者達の記憶を覗ければ対策は立てやすくなるでしょ?」

「それなら私も協力できると思います」

「あの王族みたいなヤツを炙り出す」

「もし予防ができそうなら俺も動くから、現状確認+αの気持ちで頑張ってみてよ」


 俺には記憶を覗くっていう感覚が分からないけど……

 リステやリアのやっていた内容を思い返せば、個々に対して確認したいことだけを膨大な記憶の中から検索していく。

 なんとなくだが、そんな印象を持っていた。

 となればそう簡単なことではないだろう。

 神界から遠隔で行う以上、対象が誰かも分からない状態から始まるのだ。

 しかも神像の近くに居続けてもらわないといけないのだから、信仰の厚過ぎるヘディン王のようなタイプでもなければそう上手く事が運ぶとは思えない。

 それでも――。

 もしラグリースやベザートが本格的な戦争に巻き込まれれば、否が応でも『数』は爆発的に増えるし、戦後処理まで含めればまた相当な時間が奪われるのだ。

 俺は俺のやりたいことに時間が使えるように。

 そして反動という過度のリスクを負わないためにも、できることなら未然の対策を。

 今までにないまともな報告会は、その後も1時間ほど食事を摂りながら続いた。
434話 砂嵐

 報告会の後、二人で転移したのはヘルデザートのBランク帯だった。


「ほんとにここで置き去りにしちゃっていいの?」

「ちょっとだけ見えてるし大丈夫」

「マジかよ……」


 ――【光魔法】――『追尾する、光玉』


「とりあえず追尾と持続時間を重視した光源は出しといたから。人なんてほとんどいない場所だから大丈夫だと思うけど……一応気を付けてね」

「ん、ありがと」


 以前した約束。

 リアの火を吹きたいという願望――なのかはよく分からないけど、とりあえず【火炎息】を所持するサラマンダーが多く生息している、これ以上ないほど目立たない狩場は見つけたのだ。

【魂装】をセットしたリアは、果たしてお目当ての魔物専用スキルをゲットできるのか。

 その結果には俺も興味があるし、夜間ならまず大丈夫だろうということで、そのまま置き去りにして再度転移。

 Aランク帯の途中で止まっているマッピングを再開させた。

 帰りたくなったら【分体】を消すだけなのだから、なんの心配もいらないのである。


 ちなみにヘルデザートは昼でも内部に踏み込めば人は少ない。

 Dランク帯だと魔物ハンターと遺物ハンターで人影はかなり目立つが、Cランク帯に入ればもう人はまばら。

 Bランク帯以降になると、ここ数日でも一組のパーティしか見かけていない。

 狩場が広過ぎるのに持ち帰れる素材や遺物は限りがあるのだから、唯一見かけたパーティのように、魔物にソリのような大型の荷車を牽かせて動くなどの応用でも利かせないと、こんなハイリスクローリターンな狩場を選んだりはしないだろう。

 バーシェがここの魔物を使役していたのも、魔物を利用して空を飛べるという大きな利点を活かせたからだろうしね。


 低空維持のまま【探査】で反応した魔物をバコバコと狩っていき、ついでに蟻地獄も1つ1つ踏んでは中心部を覗いていく。

 目立つ怪しい穴は未だに発見できていないけど、オドゥンを狩るついでだと思えば苦にもならない。



 そんなこんなで数日後――。


「あぁ、Aランク帯終わっちゃったか……」


 気付けば東側のBランク帯に入ったことを示すように、サラマンダーが深夜の冷えた砂の上を闊歩していた。

 Aランク帯全域でも『Sランク魔物』の反応は拾えず、これといった手掛かりは無し。

 いったいどこに『夢幻の穴』はあるのか。

 それに『ゲイルドレイク』もまったく足取りを追えていないし、レア種のホワイトワームだって当たり前のように見かけていない。


 ふぅ――……

 折り返しを越え、精神的にもキツくなってくる頃合いだ。

 さすがにそろそろ、コツコツ上げてきた俺の『幸運』が仕事してくれてもいいんじゃないの?

 そんなことをボソリと呟きながら、睡魔を堪えて深夜のマッピングを続けていたところ――


『ロキ、なんか大きい魔物の影が近寄ってくるんだけど』


 ふいに聞き慣れた声から【神託】が入った。

 その瞬間眠気が吹き飛び、すぐに俺も反応する。


 ――【神通】――


「ちょちょっ……、まだ狩ってたの!? ってかお願い! それ絶対倒さないで! すぐそっち行くから!」

『ん、あ、目が痛い』

「え?」


 分かったような分かってないような返答。

 でもたぶん、連日俺がコイツを追いかけていることは知っているのだから、意味は通じているだろう。

 まだ粘ってサラマンダー狩っているとは思わなかったが……


「まさか、もっと『幸運』が高い方に行った?」


 そんな予想を立てながら、以前二人で飛んだBランク帯に転移した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 冷静に考えれば、リアがどこにいるのか分からなかった。

 まずこの広いBランク帯で居場所を見つけなくては――そんな心配は、周囲を見渡したことで杞憂に終わる。


「おぉう、凄いな……」


【夜目】を通して見るその景色は圧巻の一言で、東側には天から吊るされたカーテンのように、明確な砂塵の境目がかなりの広範囲に広がっていた。


「リア! まだ聞こえる!? 砂塵の中にいるの?」

『ううん、痛いから、もう帰った』

「【分体】を消したってこと? 状況がさっぱり分からないけど助かったわ、ありがと!」


 あんな砂の壁、砂漠の旅で初めて見るのだ。

 中に入れば答えは見つかる。

 そう思って勢い良く突撃すると、リアの言っていた意味をすぐに理解した。


「あぶっ……これは、想像以上……」


 咄嗟に目元を手で覆うも砂が入り、涙目になりながら前を見据えたところでほとんど先は見通せない。

 砂塵の壁を見た時に連想したのは黄砂だったが、中は強い風が吹いており、口を開けることすら憚られる。

 いったいどこまで続いているのか?


 ――【広域探査】――『ゲイルドレイク』


 それは分からないが、300メートルくらい先の地上には本命の表ボスが存在しているのだ。

 状況的にも、『ゲイルドレイク』を中心にこんな災害規模の現象が起きていると思うのが自然だろう。


 ――【身体強化】――

 ――【気配察知】――

 ――【魔力感知】――

 ――【魔力纏術】――魔力『5000』


(まだ余剰分でいけるか……)


 ――【転換】――


『【魂装】Lv6を取得しました』


 ボスの【魂装】機会は見逃せないからな。

 これで準備完了。

 まずはその姿を拝見させてもらうか。


 手で顔を覆いながら探査の示す方角へ向かうと、その巨体を表す影が薄っすらと見え始める。

 と同時に横から吹雪のように吹き荒れる砂。

 次第に強くなる猛風は砂塵に突入した直後の比ではなく、ようやくゲイルドレイクの姿を視認できた時には、まともに目を開けられないほどになっていた。


 ――【洞察】――

 ――【心眼】――


(強さは概ね予想通りだが……【砂嵐】、やっぱりコイツのスキルか。ならば――)


 ――【結界魔法】――『防壁』


 いくら強くなろうと、目に入った異物が気にならないなんてことはない。

 これでようやく吹き荒れる砂の妨害が一時的に解消され、捉えた褐色の巨躯に感嘆の声を漏らす。


「デカいなぁ。トカゲ……いや、鱗があるから竜か。なんにせよ、良い素材になりそうだ」


 ヴァラカンより一回り大きいその姿は、全長で20メートル近くありそうなのだ。

 これなら皆の装備に素材を回したところで十分お釣りがくる。

 ん~しかし、変な所に羽の生えた竜だな。

 腕の周囲に羽にも水掻きに見える翼膜が備わっており、上空にいる俺をジッと見つめたまま一向に羽ばたく様子を見せないので、たぶん砂の中を移動する類であろうことが予想された。

 その代わりに大口を開け、口内の炎を溜めながら馴染みのあるスキルを俺にぶちかまそうとしているが……


 ――【発火】――


 コォオオァアアアアア――……


 まぁなんでもいい。

 マッピング済みの方に入り込んでいたお陰で、危うく仕留め損なうところだったのだ。

 リアに釣られてくれて本当に助かった。

 これでようやく、布団の上でゆっくり寝られる。


「出てきてくれてありがとう、あとはとっとと死んでくれ」
435話 ゲイルドレイク戦

 程よい威力の【灼熱息】が俺の身体を通り抜けた後。

 少し逡巡しながらも試しておくべきかと、いくつかの工程だけは挟んでいく。


 ――【風魔法】――『"暴風"』


 ――【土操術】――


 まずはこの【砂嵐】を止められるか否か。

 それは発動後の結果を見れば"比較的容易"だと判断できる。

 かなり濃密な砂が舞っているというだけで、人が勢い良く吹き飛ばされるほどの威力ではないのだ。

 不用意に飛び跳ねたりしなければ耐えられるため、一時的にこの【砂嵐】を止めることは可能だが――、しかし本当に一時的だな。

 このスキルの本領は持続時間であり、ボス固有の【炎獄柱】と同じような発動時間の設定があるだろうと予想された。

 では【土操術】で無理やり周囲を舞う砂を制御できないかとも思ったが、これも駄目。

 魔力を流すには対象に触れる必要があるため、砂の一粒一粒が独立していると広範囲を強引に制御というわけにもいかなかった。

 となると現実的には、【気配察知】や【魔力感知】などを駆使して、視界に頼らない戦いをしていくしかない。

 もしくは――


 ――【結界魔法】――『防壁』


 魔力を豪快にぶち込み、ボスも含めた周囲を覆うほどの空間を作り上げるか。

 このどちらかだろう。


(魔力消費『2000』で相応の強度と直径50メートルほどの範囲……普通に考えれば現実的じゃないな)


 過去の例に照らし合わせれば、レイド戦は30人、50人という規模で同時に戦うのだ。

 そうなれば50メートル程度のドーム型で戦場が収まるわけもない。

 20メートルはあるボスが動き回るわけだし、【結界魔法】は座標固定型だからこそ、効果が有効であってもすぐに戦場が大きく移る可能性だってある。

 そんな中で何度も張り直すなんて、相当な上位層でも無ければまず魔力がもたないだろう。


(となると、もし得られればだが、広範囲の視界を潰す意味でかなり優秀なスキルになるってわけね)


 それじゃあ、次だ。


『"雷槍"』

「グォアッ!」


 首に向けて放った"雷槍"はそのままゲイルドレイクに刺さって煙を上げるが、しかし宙を舞う無数の砂は明らかに反応し、阻害するような動きを取り始めていた。

 それでも刺さったのは、着弾のかなり速い【雷魔法】だから。

 であれば、こいつはどうなるかな?


『"岩弾"』


 急速に生み出された鋭利な岩弾は、同じように狙いを定めたゲイルドレイクの首に飛んでいくも、周囲を舞う砂の塊に阻害され、明らかに速度を落とされた上で着弾していた。

 先ほどのような呻きは聞こえないのだから、実際威力も減衰されて大して出ていないのだろう。


「それじゃあ、次は接近戦だ」


 取り出したのは『氷雪剣』。

 氷属性付きなので、なんとなく相性も良さそうなこの武器で首を斬り付けると――


「グガァアアアアアアアアッ!?」

「へぇ~」


 やはりその動きを阻害するように砂が纏わりつく感覚があり、加えて斬り付けた後には砂を固めた鱗のような防御壁が傷口付近に形成されていた。

 斬った後なので意味はなかったけど、剣速が遅いと余裕でこの砂の鱗――【砂硬鱗】というスキルに阻まれるのだろう。

 オッケーオッケー。


 怒りの籠った腕の振り下ろしを避けると、空気を変えるような、少し変わった啼き声が放たれる。

 ――俺を襲う、僅かな硬直。

 と同時に周囲を覆う風の勢いが増したようだが……

 これでもし俺がスキルを得られた時、どのような効果が生まれ、どうように対処される可能性があるかはおおよそ掴めてきた。

【砂嵐】は使用者を中心に、近いほど威力の上がる超広範囲型の行動阻害スキル。

 そして【砂硬鱗】はガルグイユの【水鏡】と違い、魔法と物理攻撃どちらに対しても反応するオート防御だが、反応速度は劣るため強者相手では大して使い物にならずといったところか。

 逆に有象無象相手なら、消費魔力次第だが鉄壁の防御を誇るのかもしれない。


「うん、概ね把握できたしもういいや、お疲れ様」

「ゴォアアア、ガア……ッ、ァガ……」


 もしかしたら第三段階があったのかもしれないけど、こんな見つけにくい表ボスを今後も探してまで狩ろうとは思わないし、もう早く帰って寝たいのだ。

 強引に2メートル以上はありそうな太い首を切断していくと、首の骨を砕いたところでアナウンスが流れ始める。


『『レベルが62に上昇しました』


『【灼熱息】Lv6を取得しました』

『【砂嵐】Lv1を取得しました』

『【砂嵐】Lv2を取得しました』

『【砂嵐】Lv3を取得しました』

『【砂嵐】Lv4を取得しました』

『【砂嵐】Lv5を取得しました』

『【砂嵐】Lv6を取得しました』

『【砂嵐】Lv7を取得しました』

『【砂硬鱗】Lv1を取得しました』

『【砂硬鱗】Lv2を取得しました』

『【砂硬鱗】Lv3を取得しました』

『【砂硬鱗】Lv4を取得しました』

『【砂硬鱗】Lv5を取得しました』

『【咆哮】Lv7を取得しました』


 ――【魂装】――


 そしてすぐにステータス画面を開き――



【魂装】の結果が『筋力+794』と、ようやく筋力を引き当てたこと。

 二つのスキルが白文字であったことに歓喜し、次いで詳細説明を確認する。


【砂嵐】Lv7 使用者を中心に多量の砂を巻き込んだ猛風を巻き起こす 効果範囲とその威力はスキルレベルによる 発生時間10分 魔力消費110 ※砂地でのみ発動可能

【砂硬鱗】Lv5 物理、魔法属性に分類される攻撃を自動で防御する 反応速度はスキルレベルによる 魔力消費10秒ごとに30消費 ※砂地でのみ発動可能


 そして、どちらにも『砂地限定』という文字がついているのを見てしまい、ガックリと肩を落とした。


「そりゃそうですよねー」
436話 一区切り

「あぁー……」


 真っ暗闇の秘密基地。

 そこに置かれたベッドからのそりと起き上がり、【夜目】を通して周囲を見渡す。

 物凄く寝たような気もするけど、いったい今は何時なんだろう。

 時間に関係なく秘密基地には日の光が入ってこないので、年がら年中遮光カーテンで太陽光を遮り、時間の感覚もないまま引き籠っていた時代を懐かしく思いながら下台地へ転移。

 すると外は夕暮れで、なぜか男風呂には3人の他、エニーとケイラちゃんまで一緒に入っていた。

 余裕をもって入れる大きさの風呂だから問題ないのだが……

 メイちゃんと似たり寄ったりの歳って考えたら、二人に羞恥心が芽生えるのはもう少し先か。

 そう思いながら、俺もスパパッと服を脱ぐ。


「おはよ、丁度いいや俺も入れて」

「この時間に起きたのかよ!」

「ロキってほんと不規則だよね~」

「そんな生活では長生きできんぞ?」

「うっ」


 そうだった。

 若返りがスキルではない可能性も濃厚になってきたのだから、あまり不摂生な生活をしていては、魔物ではなく病気にやられてしまう可能性もある。

 うーん、しかし、ついつい狩り始めたら止められない病が……

 ロッジの飲んでいたお酒を少し貰い、湯に浸かりながら己の持病にウンウン呻っていると、横で吐き捨てられた聞き捨てならない言葉を耳が拾う。


「ケイラ! これがきっと駄目人間ってやつだよ!」

「孤児院の近くにもこんな黒い顔色をした人達いっぱいいたかも……みんな、お昼から路上でお酒抱えたまま寝ていて……」

「それってロキと一緒じゃん!」

「おうおうおう、全然違うわ! 黒いのは日焼けだし! お酒も一区切り着いたから貰っただけで、普段はまったく飲んでないし!」

「そうだとしても、毎回極端でやり過ぎだよね~裏庭凄いことになってんだけど?」


 カルラに言われ視線を向けると、連日放出だけしに来ていた素材で今まで以上の大山が出来上がっていた。

 Aランク帯の素材は特にデカいからなぁ……


「うむ、あまりにも多過ぎて、我とエニー、それにケイラにも手伝ってもらっているからな」

「あ、だから皆で風呂入ってたのか」

「毎日血だらけだよ! 解体も大事なことって師匠が言うから頑張ってるけど」

「私はちっともナイフが刺さらないので、皮の加工をお手伝いするくらいしかできません……」

「はは、ありがとね。その革を求めて商人が買い付けに来たりしてるんだし、加工だってめっちゃ重要だよ? って、奥の素材なんか動いてるけど……まさかリコさんまで参加してる?」

「あの人が図書館から出てくるわけないじゃん!」

「ジェネでしょ? 解体作業覚えてからは1日中やってるからね~」

「へぇ」


 一瞬、解体を覚えることなんてあるのかって思ったけど、薪割りはゼオが教えてやるようになったわけだしなぁ……

 カルラやゼオが当たり前のような顔をしているのだから、訓練で技術を覚えるというのも普通のことなのだろう。


「それより一区切りというと、調べていた砂漠の謎でも解き明かせたのか?」


 どこか期待するようなゼオの視線。

 古代に絡む内容となれば、そこから魔人の情報に繋がる可能性だって否定できない。

 だが、今は首を横に振るしかなかった。


「正直今回はかなりキツいね。まったくと言っていいほど手掛かりが掴めてなくて泣きそうだよ」

「ふむ……手掛かりか……」

「砂漠の謎って、面白そうなことやってんじゃねーか。古代の武具が砂の中に埋まってるって話は聞くが、未発見の遺跡でも探してんのか?」

「いや、どこかに眠ってるっぽい古い『Sランク狩場』。ただ肝心の砂漠が広すぎて当たりも付けられていない」

「は?」

「すごっ!」

「すまぬな。我は辿り着くまでが面倒というくらいしか情報を持っていない。それもあってわざわざ行くようなことも無かったが……カルラ、他に何か分からぬか?」


 先日『夢幻の穴』という狩場名を口にしたからだろう。

 ゼオにそう問いかけられたカルラは、腕を組みながらう~う~呻るも、やはり足を運んだことのない狩場ではそれらしい情報がないらしい。


「ボク狩場なんて興味無かったもん。ダンジョンみたいな所っていう話は聞いたことがあるけど、でもそれくらいだよ?」

「……辿り着くまでが、面倒……で、ダンジョンみたい、か……いや、ありがとう。やっと落ち着いて考えられるし、一回情報を整理してまた頑張ってくるわ」

「ふむ」

「ん? そんじゃあ結局何に一区切り着いたんだよ?」

「あぁ、それね」


 Sランク狩場の方で頭がいっぱいになっていたけど、こっちの素材を放出する目的もあったんだった。

 風呂の横だけど、まぁいいか。


 ドン!


「これ、砂漠のボスで『ゲイルドレイク』ってやつ。素材等級は|Sランク《3等級》だから、たぶんガルグイユと同じような格じゃないかな?」

「ぶっ!?」

「ほお」

「絶対美味しい血のヤツぅー!」

「すっごぉおおおお!?」

「ひ、ひぎゃぁああああああ!?」

「あ」


 一人、風呂から飛び跳ねたように湖へ走っていくケイラちゃん。

 咄嗟の緊急避難先が水の中とは、だいぶ【水中呼吸】に慣れてきた様子が窺えるが。


 ――【遠話】――『ケイラちゃん』


「死んでる魔物で大丈夫だから、戻っておいで」

「おま……こないだのグリムリーパーってやつもまだ弄ってる最中だってのに、またこんな大物を……」

「何言ってんの。これからボス素材は余るくらいに増えてくるはずだよ?」

「へ?」

「そのうち機会があればこっちに連れてくるかもしれないけど、自分でボスハンターって名乗るくらいボス巡りしている人と知り合ってさ。その人の協力もあって周辺国のボスは湧き周期に合わせて動く予定なんだよね。そん時に俺がギルド相場で素材を買い上げれば、こっちに丸ごと持ってこられるでしょ?」

「マジかよ……おまえ、最高かよ!?」

「まぁ再戦の難易度がボスによって全然違うから、希少素材はどうしても生まれてくるだろうけど。ちなみにゲイルドレイクはまた探してまで狩ろうと思ってないから、コイツの素材は大事に使ってね」

「装備にはしちまってもいいんだろ?」

「もちろん。土属性に強いみたいだから、みんなの分は一式作っちゃっていいよ。俺はまだ背が伸びるはずだから、あとちょっと様子見ね」

「っしゃあ、こうしちゃいられねぇ! 俺も手伝うぜ! カルラ、とっとと解体頼む!」

「もう、しょうがないなぁ……師匠~新鮮な血をいつでも飲めるように仕舞っとこうよ?」

「ふっ、最近魔力量にも少し余裕が生まれてきたからな。良かろう、まずは壺でも作ってそこに保存しておくか。エニー行くぞ! 【魔力纏術】でコヤツの皮を斬る特訓だ!」

「はーい! ケイラも行くよ! 早く終わったら今晩のご飯が竜のお肉になるかも!」

「えぇえええ!? ま、待って~!」

「……」


 気付けばなぜか一人で、ほんのりと寂しさが込み上げてくるけど、考え事をするには最高の環境だ。

 無理やり冷やしたエールを口に含みながらSランク狩場の情報を頭の中に並べ、どうすれば目的の場所に辿り着けるのか。

 余計な情報が混ざっている可能性も踏まえつつ、1つ1つを整理しながら考えていった。
437話 おい、俺の幸運

 皆で興奮しながらゲイルドレイクのお肉を堪能し、ついでにお礼も兼ねて、上台地にも肉の塊をお届けした後。

 昨日まで進めていたAランク帯とBランク帯の境目付近に転移したら、マッピングを開始する前に【広域探査】の対象を確認していく。


 ――【広域探査】――『魔道具』


「おお? Bランク帯は無数に埋まってるけど、Aランク帯はほとんど無しになるのか……」


 今まで興味はあっても、自分で探そうとまでは思わなかった魔道具。

 だが最低限望む水準までスキルレベルを上げられたので、ここからの探査はコイツが中心だ。


 ゼオが何気なく呟いた、"辿り着くのが面倒"という情報。

 これを普通に解釈すれば、狩場は当時存在していたダークエルフの町から大きく離れていたのではないかと予想できる。

 もしくは砂の下に埋もれた隠道か。

 安全な砂漠街道から大きく外れた場所となると、それこそ辺鄙な砂漠の外れにあってもおかしくはないが……

 少なくともかつてダークエルフが住んでいたであろう地域に、Sランク狩場の入り口は存在していない可能性が高い――こういう結論に至った時、砂しかない砂漠のどこに町があったのか。

 その判別は『魔道具』が最も適していると判断した。

 ゼオはダークエルフが人間の知識や技術を貪欲に取り入れていると言っていたのだ。

 となれば魔道具を多分に活用していたと考えられるわけで、地中に眠る魔道具の少ない地帯が"辿り着くのが面倒"な場所に繋がるのではないかと思っている。


 ――まぁ、これは言葉通りにそのまま受け止めればの話だが。

 なんせゼオは【空間魔法】が使えるのだ。

 そうと分かって誰かがアドバイスをしたのであれば、まったく意味は異なってくる。


「最悪、狩場の入り口がランダムに変化する可能性もあるよなぁ……」


 同じ【空間魔法】持ちの立場として、どうなれば"辿り着くのが面倒"かを考えれば、狩場の入り口が固定されておらず、かつ周期性もなく《《動く》》ことが一番煩わしいと感じてしまう。

 どんなに僻地であろうと一度辿り着ければそこからはフリーパスのはずが、いちいち探すところから始めなければいけないのだから当然だ。

 では、狩場内部に直接飛べばいいのではないか?

 そうは思うも、そこで出てくるのがカルラの言っていた"ダンジョンみたい"という情報で。

 四六時中光が灯り、壁もぶっ壊せないような、明らかに神様が作ったであろう創造物に近い存在となると、どんな特殊ルールが敷かれているのかも分からない。

 まず《夢幻の穴》という名前からして怪しいわけだしなぁ……


 どちらにせよ、かつて人の多く住んでいた地帯に存在する可能性は低い。

 ならば魔道具の少ない場所を絞り、ついでに――


 ――【精霊魔法】――


 意識しながら『水の精霊』に求めれば、以前ベザートの開拓で使用した時とは違ってほぼ反応を示さないことが分かる。

『土の精霊』を意識すれば一瞬だけ空が茶色く染まるのだから、その差は歴然だろう。


 ――【広域探査】――『天候操作魔道具』

「……」


 おおよそ原理は分かっているのだ。

 以前ばあさんから受け取ったラグリースの史書には、動く古代遺物の一つとして『雨を降らす魔道具』を王家が所有していることも記されていた。

 たぶん【精霊魔法】を組み込み、『水の精霊』に呼びかけ雨を降らす――そんな仕組みだと思うが、似たようなモノが地中のどこかで延々と稼働し続けているのなら、極端に水の精霊が少ない理由にも説明が付きそうな気がするのだ。

 ついでにソイツも見つけられれば見つける。

 そのつもりで『魔道具』、『天候操作魔道具』、『Sランク魔物』、『ホワイトワーム』の4種に絞り、残るヘルデザート東部の高速マッピングを開始した。









 ――が、翌日。


「……え?」


 なぜか、最も期待していなかった『Sランク魔物』の反応を【広域探査】が拾ってしまう。

 読んでいた本を落としそうになりながらも慌てて停止。

 周囲を見回すとそこはまだBランク帯で、反応を示す1ヵ所にゆっくり近寄ってもその数が増えることはなかった。

 この時点で《夢幻の穴》でないことはすぐに理解したが。


「たぶん、ウィングドラゴン、だよな……?」


 遠目から見えたその姿に、思わず口角が吊り上がる。

 知られていないレア種の可能性もあるけど……

 これはもしかしたらもしかするかもしれない。


 ――【獣語理解】――


 堪らず猛加速。

 目の前に躍り出ると、問題のウィングドラゴンと思しき魔物は、サラマンダーを捕食している真っ最中だった。

 通常サイズはおおよそ4メートル程度、体表は深みのある緑色をしていたはずだが、目の前にいる竜はどう見ても6メートル以上あり、手足の一部を残して竜鱗の多くは黒みが強く混じっている。

 それに、


「ガァッ!」

「ちょっと待ってて」


 振り向きざまに打ち下ろしてきた腕を千切れない程度に強く掴み、逃げられないようにしながらジッと見据える。


「【飛行】がレベル6……?」


 経験上Aランク魔物であろうとスキルのレベルは5が最上限。

 それを超えるのはボスのみという認識だったのに、この魔物はそのルールから逸脱していた。

 本来所持していないスキルが備わっているというわけではないが、やはり何かが違う。

 これは間違いなく――


「ねぇ、オマエ、覚醒体でしょ?」


 やっとだ。

 やっと、俺の幸運が仕事をし始めた。

 その事実に打ち震えながら問い掛けると、


「なんだ、貴様……! 食い、殺してやるわ!」


 相変わらず反抗的というか、最初はなぜか激高していて会話にならないけど、コイツらを大人しくさせる方法はベザートの警護要員を集める時に学習しているのだ。


 ――【魔力纏術】――魔力『2000』


パコン。


「いいから、黙って、俺の仲魔になれよ」

「…ぁ、いだ……ッ、魔王、様……? 仰せの、ままに……」


 軽く小突いたあとは、黒い魔力を見せた上で高圧的に。

 最初のうちは、これが何よりも一番効く。


「名前は、そうだな……ウィン、いや、ウィグにしようか」

「有難き……有難き……ッ!」

「で、ウィグは覚醒体ってやつなんでしょ?」


 そう問うと、長い首を微妙に曲げて考える素振りを見せる。


「覚醒体のその手前、になるかと……」

「ん? どういうこと?」

「まだ覚醒していないことは分かりますので」

「えーとそれは、新しいスキルが発現していないからってこと?」

「そういうことになります」

「なるほど……」


 となると、覚醒体は初めから覚醒体として生まれるのではなく、通常個体の中の特異型、もしくは進化型ということになるわけか。

 そして、覚醒体になる手前でも既存スキルに成長が見られ、どういう判定かは分からないけど、AランクからSランクに昇格も果たしている。

 考えられる原因は――、ハンスさんが使役しているロキッシュの行動を考えればコレだろうな。


「ちなみに、今食べているソレは、生きているのを捕食したの?」

「そうですが」

「やっぱりそうだよね。この世界に生まれた時から?」

「いえ、最初は興味もありませんでしたが、ある時から急に、ですね」

「急にか……きっかけは分かったりする?」

「そこまでは……」

「あーいいよ、ありがと」


 得られる情報は酷く断片的だ。

 しかし内容は非常に面白く、興味をそそられてしまう。

 魔物が魔物の死体を食らうことは分かっていたし、直接見る機会は無かったものの、格下の魔物を捕食するような話も以前にアマンダさんから聞いた記憶はあるが……

 覚醒体予備軍に切り替わる、何かしらの設定《きっかけ》がこの世界には存在しているのか。

 超低確率で発生する単純な個体差の特徴という可能性もあるので過度の期待はできないけど、上手くいけば望む魔物のランクを昇格し、覚醒体まで持っていくことができるのかもしれない。


(ん~Sランクでコストは『60』か)


 まぁコスト上限がある以上、仮に判明したとしてもそう多くの魔物を使役することはできないけど、だからこそ厳選のしがいもあるというもの。

 また一つ楽しみが増えたなと。

 そう感じながら、経過と今後の実験のためにウィグを下台地へ連れていった。
438話 意外な住人

 下台地に転移すると、真っ先に走り寄ってきたのはカルラとエニーだった。


「何これー! 《夢幻の穴》もう見つけられたの?」

「すっごぉおおー!! これがSランクの魔物!?」

「違う違う。一応Sランクの魔物だけど、これは覚醒体の素質を持ったヤツだね」


 そう説明すると、まったく分かってない二人の背後から登場したゼオが感心したように呟く。


「ほう、魔物を好んで喰らう特殊個体か。元はウィングドラゴンなのか? それなりに成長しているように見えるが」

「さすがゼオ、よく分かってるね~」


 言いながらポンポンと横腹を叩くと、ウィグが挨拶を始める。


「主からウィグという名を頂いた。よろしく頼む」

「通訳すると名前はウィグね。ちょっとコイツは今後の成長過程を把握しておきたいから、拠点で過ごしてもらうことにするよ」

「ふむ、それは構わんが……ウィグには何をさせる?」


 んん? うーん、どうしよ……

 大量に食わせて成長させることしか考えていなかった。

 改めてその姿を眺めるも、ジェネみたいに解体作業なんてできるような手はしていないし、やれるとしたらブタ君と一緒に周囲の警護くらいか?

 この広場に侵入した事例もないから、かなり形だけになるっぽいが……あっ!


「【風魔法】使えるから、木の伐採係にいいんじゃない? 竜種に手先の器用さは求めちゃダメだろうけど、魔法をどう使うかならすぐ学習しそうだし」

「なるほどな。確かに、それなら我の魔力を他に回せるか。その脚で丸太くらいなら十分運べるだろうし、木材調達を担当してもらうとしよう」

「あとは、アレよ。一番の目的は残飯処理ね」


 指を差しながら裏庭に視線を向けると、虫型のAランク魔物『オドゥン』の"中身"が山のように積まれていた。

 ウィングドラゴンの肉は高級品として、グリフォンの肉もやや筋張ってはいるが食用として売り捌くことは可能。

 しかしオドゥンは外殻の素材転用は可能でも、中身は食料でないため大量にいらない肉が余ってしまっている。

 他にもCランクの爬虫類系魔物ヨーウィー、それに同じ外殻だけ素材価値があるハイドスコーピオンも肉の貰い手が解体しながら食っているジェネしかおらず、今回は特に図体のデカいオドゥンのせいで溜まる一方になっていた。

 それなら処理係がもう1匹いたっていいだろう。

 わざわざゴミ処理で拠点の外に撒く手間もかからず、それでいて覚醒体予備軍の成長度合いを計測できるのだから一石二鳥だ。


「カルラ、売り物にならない魔物の残骸は、どんどんウィグにも食べさせちゃっていいからね」

「りょうかーい! この大きさならかなり余りモノを食べてくれそうだよね!」

「ウィグも、俺はずっとここにいるわけじゃないから、ここの人達の言うことちゃんと聞くように。奥には解体しているジェネって仲魔もいるから仲良くね」

「承知……!」


 ふぅ~。

 これでひとまずは大丈夫かな?

 ケイラちゃんが木の陰からコソッとこちらを覗いているけど、あとはゼオに皆を紹介してもらえば大丈夫だろう。

 となると――


(【魔物使役】のコストは今で605/700か)


 なら多少余力を残したとしても、もう1匹くらい問題ないか。

 そう思い、売り物用として倉庫に大量保管されていた魔物素材を収納後、ヘルデザートでグリフォンを1匹調達してからベザートに向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ざわざわ、と。

 周囲の騒めきを気にせずに向かったのは、既に仮営業を開始しているニューハンファレストだった。

 中を覗けば、広いロビー全体を見渡すように立つウィルズさん。

 既に受付には、たぶんベザートの町民かな?

 見覚えだけはある綺麗目な女性が立っており、ロビーとして機能するよう様々な家具類も配置されていた。

 クアド商会から持ってきたモノなんだろうけど、センスのある人が配置するとやはり違う。

 既に以前のハンファレストと同等の高級感が漂っていた。


「こんにちは~」

「おや、ロキ様。横にいるのはグリフォンですか」

「ですです」


 ウィルズさんはSランクハンター並みに強いからな。

 姿を見てすぐに分かるということは、かつて倒したことがあるんだろう。

 それなら話が早いと、グリフと名付けたグリフォンを紹介する。


「以前お伝えしていた警護用にと思いまして。基本的には何もしませんが、もし悪さをした者が現れた場合は呼びかけてください。まぁウィルズさんの場合は、自分で処理された方が早いと思いますけど」

「ふむ……それでも弱くはないと一目で分かる魔物です。私などが目を光らせるより、よほど抑止の効果は大きいでしょう」

「そのための門番みたいなものですからね。ただ本当に、手に負えないほどマズい相手が現れた場合は……」

「承知しております。『緊急』であることをこの魔物に伝えろ、という話ですね」

「ええ、そうならないことが一番ですが。それにしても……本当に見違えるほどの内装になってきましたね」


 まだすべてではないにしても、予め作っておいた窓枠にはガラスがはめ込まれ、かなり磨いたのだろう。

 外観とは違い、ロビーの床と壁面は光を反射するほどピカピカに輝いていた。


「まだロビーくらいですが、磨きの加工を得意とする者達に仕事をしてもらっております。<彫刻士>の手も既に入っているので、これからさらにこの宿は上質なものへと生まれ変わっていくでしょう」

「へぇ~凄い技術ですね……」


 フラフラと中を進むと、既に数本の柱には俺の【土操術】では手に負えないような、精巧な模様が彫り込まれていた。

 柱は何十本とあるのでまだまだ時間は掛かるだろうし、今その職人さん達が窓枠の辺りに集まって何かしらの作業をしているので、ここだけの話じゃないんだろうけど……

 ん~いったいどんな姿になるのか、今から楽しみでしょうがないな。


 それにしても――


「……さっきから、良い匂いがしますね」


 館内に入って漂う、嗅いだことのある、少し懐かしい匂い。


「既にボーラ殿が、館内にレストランを開いておりますから、きっとそのせいでしょう」

「あーなるほど」


 その通りなんだろうけど、でも何か腑に落ちない。

 これはあの怖いボーラさんに関係なく、嗅いだことがあるはずの匂いなのだ。

 クンクンと辿ればそこは言われたレストランなのだが、中を覗いて、あぁそういうことかとすぐに納得する。


「『かぁりぃ』の店主までここで働いてるんですか!」

「よぉ王様。久しぶりに食ってくかい?」


 うん、見間違うわけもない。

 インド人店主が、なぜかボーラさんと一緒に働いていた。

 さっきから俺の鼻を刺激していたのは、このスパイシーな香りである。


「あんな香辛料しこたま使った料理なんて、味も値段も庶民向けじゃないんだ。それならこっちでその味を活かした方が意味もあるってもんだろう」

「たしかにー! それは凄く納得なんですが、えーっと、なぜ、渋いおじさんまでここにいるんでしょう……?」


 俺の視線はさらに横へ。

 そこには見覚えのある意外な人物。

 デカい盾を持ったSランクハンターの――、確かノディアスというおじさんが慣れた様子で鍋を振っていた。

 いやいやいや、元々料理人のインド人がここにいるのはまだ理解できるけど、こっちはさっぱり意味が分からない。


「あの戦以来だな、ロキ殿。ひょんなことがあってここで働くことになった。よろしく頼む」

「まったく説明になっていない気がするんですけど……?」

「あたしとウィルズ殿が誘ったんだよ。定食屋でも開こうなんて呑気なこと言ってたからね」

「そろそろ歳で体力が厳しくなってきたというのもあってな……元々野営で自炊していたから飯を作るのは得意だし、世界を旅して様々な国の料理を知っているから、引退したら趣味も兼ねて飯屋でも開こうかと思っていたのだ」

「なるほど……Sランクハンターともなれば世界を旅するというのも理解できますが、でもマルタが故郷でしたよね? そっちで店を開こうとは思わなかったんですか?」

「当然、そう考えていたさ。しかし資材の入りがどうしても遅くてな」

「あぁ……」

「店を構えるにしたってまだかなり時間は掛かりそうだし、待っていたところで大してすることもない。だから先にとてつもなく巨大な商店があると噂のアースガルドを見に来たのだ。そうしたらまさかのウィルズ殿がいてな」

「彼がそろそろ腰を落ち着けて店を構えるなんて言い出したものですから、それならと、私がボーラ殿を紹介したのです」

「今は『地図』なんてもんが出てきて楽にはなったみたいだけどね。それでも多くの国の料理を知ってるってのはそれだけで希少なんだよ。それに世界の食材を持ってこれる者だって目の前にいる。なら活かすしかないだろう?」


 そう言ってボーラさんは俺をジッと見据えた。

 うーん、確かに、まだ無理だけどそう時間も掛からず、大陸中の食材はよほど希少でもなければ持って帰ってこれると思う。

 フェリンも上台地のバカデカい畑でいろいろな作物育ててるしなぁ……


「ここなら馬を駆れば半日もかからずマルタに着くし、何より俺自身がボーラ殿からより深い料理の技術と知識を学べる。俺にとっては何かと都合が良いのだよ。すぐ横には何が売っているのか未だ把握しきれていない面白い店だってあるしな!」


 そう言いながら豪快に笑うノディアスさんは、凄く満足そうな顔をしていた。

 なら俺が止める理由なんてまったくないな。

 それに――


「何か問題が起きた時、Sランクハンターという立場は貴族に対しても相応の力を示せるものです」


 横でソッと呟いたウィルズさんの言葉に、なるほどと小さく頷く。

 深い事情は分からんが、たぶんいくら貴族連中と言えど、Sランクハンターの肩書にはそれなりにビビるってことなんだろう。

 となれば、絶対貴族の前に出たくないボーラさんを守る盾にもなってくれるか。

 あのおじさん、元タンカーだけあって頼もしいしな。


「了解です。ちょっと今食べる余裕がないのでまた今度来ますけど、皆さん、マイペースに楽しみながら頑張ってください。欲しい食材とかあったらリストにしといてもらえれば、僕が買えそうな場所なら買ってきますので」


 そう言い残し、俺はかなり荷車が出入りしている横のクアド商会へと向かった。
439話 改装、クアド商会

「おぉ……すごっ」


 入った瞬間に零れた感想はソレだった。

 商人っぽい人が一番多いけど、庶民的な服の人もいれば、腰や背に武器を所持しているような人達もチラホラといる。

 なんにせよ、視界に入るだけでお客さんが50人くらいおり、こんな僻地なのにだいぶ繁盛してきていることは間違いなかった。


(会計カウンターは――……)


 人だかりの隙間から覗くと、元魔石屋のミザールさんと元受付嬢レイミーさん、それにヘルプから従業員になった雑貨屋の娘マギーさんの他に、見覚えのない女性もカウンターで計算をしている。

 それぞれに一人の元奴隷組が付いた8名体制でどうやら頑張っているらしい。

 そして横にあるパイサーさんのカウンターも、いつの間にか知らないおばちゃんと元奴隷組の一人が加わり、3人体制で対応していた。

 あそこは武具や鉱物の他に、装備に転用可能な魔物素材も一括して取り扱ってるからなぁ……

 パイサーさん一人だと手に負えないだろうなと思っていたので、人が増えてちょっと一安心だ。


 お客さんが増え、売れていると言ってもまだほんの一部。

 溜め込んでいた在庫の量は尋常ではなく、多少減ってきているとは言っても、奥にはフロアを大きく占有する形で値札の付いていない品が眠っていた。

 その近くで相変わらず棚を作っていたベッグさんに声をかける。


「こんにちは~クアドはどこにいます?」

「おうボス、店長はあっちの高級店にいるぜ」

「あ、もう稼働してるんですね。それじゃ新しい売り物、ここら辺に置いておきまーす」

「うおっ……」


 隅の方に持ってきた魔物素材を放出していくと、ベッグさん達だけでなく、背後のお客さんからも僅かに悲鳴が上がる。


「ま、また、すげー量だなこりゃ……」

「でも今回は量が多いだけで、10種類くらいの魔物素材ばかりですから、管理はかなり楽なはずですよ」

「あ、魔物素材って言えば、店長が肉とかの食料を腐らせねぇようにって、町の大工仕事が得意な連中に頼んで食料保管庫作ってたぜ?」

「ほほぉ。どこだろ?」

「入り口の正面奥、店長のいる高級店と入り口の間だ。在庫の冷蔵魔道具大量にぶち込んだ部屋を作ってあるから、食い物はそっちに持ってってもらえると助かる」

「了解です。それじゃそっちの様子もついでに見に行ってみますね」


 うーん、考えてみれば食料関係はギルド売却か無償配給をしまくっていたので、頭からすっぽ抜けていたな……

 少しずつ落ち着いてきているし、オルグさんのところと、ヴァルツ領のギルドには不定期に卸しながら、ここでも外向けに食材を売ったっていい頃合いだろう。


「おぉう、さぶっ……」


 言われた場所に向かうと、石を積み上げて作られた50畳ほどの大きな部屋が。

 すのこのような木の板が地面に並べられており、10基以上の冷たい風を放出する冷蔵魔道具と、僅かながらの食料やお酒が無造作に置かれていた。

 どう見ても売り物というよりは皆の晩御飯といった感じで、ホテルの宴会場くらいあるのに中は閑散としていて物寂しい。

 んーしかし……

 積まれた石は歪なため隙間から冷気が漏れているし、棚がまったくないので床に直置きっぽいこの状況はなんとも不衛生。

 それにこのままでは高さもまったく活かされておらず、スペースが非常にもったいない。


「ふーむ。少しだけ、テコ入れしておくか」


 そう思い、一度旧ヴァルツ領へ。

 北部エイブラウム山脈で硬そうな石材をゴッソリ調達後、黙々と食糧庫の加工作業を進めていった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 クアド商会入り口から入って正面の最奥。

 と言っても今は食糧庫が道を塞いでいるが、その一番奥に店長クアドが店番をする高級店が存在していた。

 その区画はカウンターと俺がなんとなく作った石壁で遮られており、許可された者しか立ち入りを許されていない。

 しかしニューハンファレストと裏口を繋げたせいか、予想以上に身なりの良いお客さんが中をウロウロとしていた。


「よっ、クアド。ここも結構お客さん多いね」

「ロキさん! そうなんすよ! 宿の方から入ってくる『VIP』が多くて……へへっ」


 そう言って頭を掻きつつ顔はニヨニヨしているのだから、嬉しい悲鳴ってやつなんだろう。

 ちょこちょこと接客を挟みつつも店の状況を聞き、今回の補充品と、売上や売れ筋の品なんかを確認していく。

 全体的に動いているようだが、まだ道が整備されていないこともあって大型馬車の出入りは少ないらしく、小物の日用品とこの辺りでは手に入らない魔物素材が好調とのこと。

 逆に大型の家具が一番不調みたいだけど、どうせタダで手に入れたモノだしな。

 邪魔になるほど売れないなら、その時はベザートの人達にプレゼントしちゃえばいいだろう。


「あ、それと前言ってた『地図』の件っすけど、本気でやりたいって人が二人いたんで作業に入ってもらってるっすよ。まだ作業場が用意できていないんで、今は自宅で内職っていう形にしてもらってるっすけどね」

「おぉ、スキルは大丈夫だった?」

「ダメ元で教会寄ってもらったら、それぞれ【自動書記】と【写本】をレベル2まで取れたみたいで。出来上がったモノを見ても、十分売り物にはなりそうだったんで少しずつ売っちゃってるっす」

「なら全然問題なしだよ。地図の売り場はココ?」

「っすね。それなりに高価なモノですし、買う層も限られてるっすから」

「了解。それじゃ宣伝がてら、それぞれ2枚ずつくらい飾っておくか……」


 まずは知ってもらわなければ、売れるモノも売れないしな。

 高級店のカウンター上面に、【土操術】で少し壁を加工して貼り付けると、精算の時に必ず目に付くから良い感じだ。

 これをお店の正面入り口にも飾っておけば、世界の広さに興味を示す人もきっと増えるだろう。


「あーあと、食糧庫も少し改装して、売り物補充しておいたからね」

「え?」

「一応分かりやすいように魔物の名前書いて種別に分けといたから、あとは上手いこと値付けして売っちゃってよ。これから冬に入れば、食料は遠方からも買い付けしやすくなるだろうしさ」

「そりゃもちろんっすけど……」


 ん~!

 本当はアマンダさんが所長の『新奇開発所』も覗いてみたいと思ったが、ついつい食糧庫の加工に時間を掛け過ぎてしまったな。

 ニューハンファレストの建造でウィルズさんに扱かれたおかげで、妙な拘りが生まれてしまったらしい。

 が、そろそろ息抜きは終了だ。

 最後に店内側の入口上部にも地図を張り付け、まだまだ大量にある肉をオルグさんや旧ヴァルツ領のギルドに卸した後、再びヘルデザートの探索を再開させた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 営業が終わった夜のクアド商会。

 そこで晩御飯の食材を取りに来たミザール、クアド、ベッグ、パイサーの4人は放心したように固まっていた。


「これ、うちの王様がやってったの……?」

「っすね。商品の補充にチョロっと寄って、"少し改装した"なんて言ってたっすけど」

「いやいや、どこが少しなんだよ。ここだけ隣の高級宿みたいになってんじゃねぇか」

「それにこの肉の量……数百匹分はあるだろうな」


 田舎町に魔法を扱える人間などほとんどいないため、しょうがないと言えばしょうがないのだが……

 元々は、まだ木材よりマシという理由で積み上げられていた石壁。

 素人がただ積み上げたわけではないにしても、隙間から冷風が漏れることも止む無しといった状況だったものが、今は妙に高級感のある平面の石壁に切り替わっていた。

 隙間どころか石材の切れ目すらなく、それは同素材で綺麗に並べられた15段ほどの棚も同様で。

 その上に所狭しと並べられた魔物の肉は、区画ごとにそれぞれ木板で魔物名が記載されており、10メートルほどの高さがある上部まできっちり並べられていた。


「わざわざハシゴまで作ってるのか」

「こっちに並べられたデカい壺はなんだ?」

「んーウィングドラゴンの血って書かれてるわよ」

「それ、相当高く売れるっすね、少量でも」

「「「「……」」」」

「ふぅー……とりあえずまた人を雇わなきゃいけないっすね。肉を捌いて量り売りできる人を」

「そうだな。ギルドの解体屋ロディも肉にはそれなりに詳しいはずだが、より専門ってなると肉屋のペンゼ夫婦か」

「あの夫婦なら鍋の蓋と包丁持って森の中にいたくらいだし、教会が食事を用意しているうちは暇してるわよ」

「じゃあ、とりあえずその人達を誘ってみて――……」


 少しずつ変貌を遂げていくクアド商会。

 ロキの思い付きに振り回され、その度に人を雇い入れてと大忙しであったが、目の下に深いクマを作ったクアドの尻尾はその感情を表すかのように勢い良く揺れる。

 世界一の商会は果たしてどこまで大きくなり、想像の常に上をゆくボスが、次はいったいどんなモノを仕入れてくるのか。


「へへっ……俺っちがなんだって売ってやるっすよ」


 日中は店に立ち、終わればゴールのまったく見えない値付けの日々。

 とうに体力の限界を迎え、寝不足は顔にも強く出ていたが、それでもクアドはこの現状を楽しむように、鼻を擦りながら笑っていた。
440話 本物の入り口

 場所はパルモ砂国の南西、ヘルデザートを抜けてすぐの草原地帯に広がる首都『クトゥ』に俺は訪れていた。

 ゲイルドレイクを倒してから早8日。

 レア種以外に魔物を倒すつもりはなかったので前半よりだいぶ日数を短縮できたが、それでもヘルデザートは広く、抜けるまでに1週間近くもかかってしまった。

 そして今、新しい街で見つけた美味そうな飯屋で注文の品を待ちつつ、書き記していた東部の情報を眺めて思わず唸る。


「んー……」


 ゼオがまだ魔人であった頃の戦争なのだ。

 1万年以上経っているとなれば、相当数の魔道具が既に掘り起こされているだろう。

 だからだと思うが……


「埋もれている魔道具の数で言えば明らかにBランク帯が最も豊富。次いでCランク帯と外に広がるほど少なくなるけど、Dランク帯よりAランク帯の方が著しく少ない――、というよりほとんど見当たらない、か」


 魔道具の分布状況からダークエルフ達が住んでいた集落の位置を推測しようとすると、東部の結果を見る限りAランク帯を取り囲むように、ドーナツ状に広く町が形成されていたと予想できる。

 そうなるとゲイルドレイクの処理はどうしていたんだっていう疑問も湧くが、もしAランク帯の中心部で生まれ、そこから自由に砂漠内を移動しているとなれば、この形状であっても支障はないどころか、活動範囲を狭めることで今より討伐も容易になってくるだろう。

 それに埋もれていたコイツの位置だ。

 膝の上に乗せたのは、スイッチのようなモノが見当たらず、表に出せば水が溢れ出すため敢えて真っ二つに割った天候操作魔道具。

 形状で言えば1メートルほどのラッパに近いソレは、まさかの1km近く潜った地中奥深くに埋もれていた。

 他はどんなに深くても精々100メートルほど。

 大体は20~50メートルほどの地中に古代の様々な魔道具が埋まっていたので、自然に砂が被ってということではなく、わざわざ隠すように掘り進めてから設置したことは明白だろう。

 普通の【探査】では決して反応を拾えないし、【広域探査】で反応を拾えたとしても、そこまでの深さを掘り進めることは、いくら魔法で穴が掘れる世界だとしても容易ではない。

 俺だって【空間魔法】による『消失』という楽な方法がなければ、面倒で1つ2つ発掘したら心が折れていたかもしれないのだ。

 そして地下1kmともなれば、そこはもう砂の世界ではなかった。

 というより稼働し続けていたこの魔道具によって地下では大量の水が放出され続けており、地底の水脈のようなモノが出来上がっていた。

 魔石などの燃料は見当たらないので、ゼオ達の隠れ家を覆っていた結界魔道具のような自然吸気型とでも言えばいいのか。

 とりあえず現代の技術ではまともに作れない類の魔道具であることは間違いないんだろうけど……

 これがヘルデザートの東部だけで計9箇所。

 だから1個だけ観察と研究用に壊したというのもあるが、Aランク帯以外の場所で規則性なく見つかっている。


「人が住んでいなかった地域に埋めたって意味は薄いし、そうなるとやっぱり怪しいのはAランク帯だよなぁ……」


 コイツを使用した目的は、その地域の水を枯らし、ダークエルフ達を追い出すこととゼオは言っていたのだ。

 追い出した後に自分たちが活用することも考えれば、人のいない箇所にまで埋める利点はほぼ見当たらない。


「Sランク魔物の存在は拾えず……でも場所としては濃厚……俺が発見できていないだけで、どこかに通じる何かが隠されている……」


 直観的に怪しいと感じたオドゥンの蟻地獄は勘違いだったとしても、砂しかない砂漠で、他に何が――


「ハイ、お待ちーヨ! コレ、あっちーヨォ!!」

「あ、どうも~」


 かなり癖の強いしゃべり方をする獣人が持ってきてくれたのは、焼いた石鍋の上でジュージューと音を立てる、赤みの強い謎スープ。

 上に大量のチーズがかかっており、中にはペンネのような筒状の小麦で作られたっぽい何かが大量に入っていた。


「あ、っち……でも、ウマッ……!」


 だいぶ水分が飛んで濃厚なスープは、一緒に持ってきてくれた黒いパンに付けてもかなり美味い。

 店内を見渡すと、ペンネやマカロニに近い形状の麺に様々なソースを掛けて食べている人が多いので、もしかしたらパルモ砂国はパスタが有名な国なのかもしれないな。

 となるとぜひこの麺を持ち帰って、拠点料理のレパートリーに加えたいところだが、茹でるのはいいとして、問題は上手いソースを作れるかどうか……


「た、大変だー! ヘルデザートに『雨』が降ってるらしいぞ!!」

「はぁ!? 何つまんない冗談言ってんのよ?」

「冗談じゃねーって! 異常事態だって国軍までが調査に向かってやがる!」

「……」


 まだ狩場探しやマッピング作業もあるし、暫くはこの手の店に通って様々な味を経験していくしかないか。

 そして当たりをいくつか見つけたら、アリシアに作ってもらって、そのレシピを教わればいいかな。


「マ、マジだ! 西の空にドス黒い雨雲があるじゃねーか!」

「千年以上雨の降った記録がないヘルデザートにか……?」

「おいおいおい、天変地異かよ!? 飯食ってる場合じゃねーだろ!」

「あ、危ないヨ! とりあえず逃げるヨォ!」


(なんか、かなり|大事《おおごと》になっている気がするんだが……?)


 本当の異常事態と知るや、食いかけの飯を残してワタワタと店の外に出ていくお客さん達。

 砂漠の東部が正常に戻っただけだから大丈夫だよ。

 なんて、そんなこと軽はずみに言えないしなぁ……

 ほんの数名だけになってしまった店内で少し申し訳ない気持ちを抱えながら、俺は一人パスタを食べつつ今後の動き方を決めていった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 たぶん、何かを見落としている。

 そう考えた時、まず振り返ったのはマッピング時に取っていた自身の行動だった。

 現場に行き、その時の記憶を辿りながら一つ一つの手順を確認していく。


「Aランク帯を抜けるまでは、ずっと『魔物』『Sランク魔物』『ゲイルドレイク』『ホワイトワーム』で【広域探査】を掛けていた……」


『魔物』だけでも大丈夫だったとは思うが、北から南、南から北へとマッピングの進行ルート上にいる魔物だけを狩っていたので、万が一でも端の方で拾った重要な魔物を漏らさないようにと徹底してやっていたのだ。

 そしてオドゥンは、巣穴を踏んで何か異変が起きるか毎回確認していた。

 魔道具調査に入ったのは東部のBランク帯が見え始めてからで、Aランク帯を抜けるまではずっとこの繰り返し。

 これで見落としたとなると、魔物とはまったく別のきっかけがあるのか?

 そんなことを思いながら、確認のために同じ行動を改めて取っていく。


「あぁ、そういや日中は腹に氷を抱えていたな。あとAランク帯はずっと本を読んでいたか」


 結局1ヵ月近くにもなる砂漠旅で、図書館の本は全て目を通してしまった。

 特に後半は魔物も狩らなかったので、捗って捗って――……


 行動をなぞる目的で開いていた本をソッと閉じ、氷と一緒に収納する。

 そうだ。

 俺はずっと【広域探査】を使いながら、氷を腹に抱え、本を持って|上《・》|を《・》|向《・》|い《・》|て《・》|い《・》|た《・》。

 魔物を倒せば周囲の光景は自然と目に入り、その度にどこもかしこも砂しかないと。

 だからこの程度は問題ないと思っていたが、何か些細な異変や違和感があったとしても、これでは気付けなかったのかもしれない。

 これが答えに結び付くかは分からないけど……


「やる価値はあるか」


 そう思い、しっかりと何もない砂の海を眼下に収めながら、改めてAランク帯の魔物を狩っていった。





 ――そして翌日。

 ヘルデザートの中心、Aランク帯の北東部で、ようやくおかしな現象を目の当たりにする。


「ふふ、ふふふっ……うざいこと考えるねぇ、ほんと」


 眼下には、見慣れた一つの穴。

 サラサラと砂が中心部に流れており、その大きさは他に存在する蟻地獄と変わらない。

 ただ僅かな違いとして、その中心に『オドゥン』はおらず、黒くポッカリと空いた穴は底が見えなかった。

 念のため『オドゥン』で【広域探査】を掛けても、周囲1kmほどの範囲にいくつもの反応を拾えるのだから、この穴だけ偶然狩られたなんてこともないだろう。

 穴が怪しいと思い、オドゥンの巣穴が裏ルートへの入り口かと勘繰っていったら、それすら罠で見た目が同じ本物の入り口が砂漠の中に紛れ込んでいる。

 こんなの、魔物に反応して動いていた一巡目じゃ見逃すわけだ。


 上空から改めて確認しても、この穴に魔物の反応はない。

 となれば、飛び込むことでしか答えは見えてこないだろう。

 大丈夫、大丈夫だ。

 言うて|所《・》|詮《・》|は《・》Sランク狩場。

 今更な強さだし、情報通りであれば俺がこの程度で死ぬことはない。

 ビビるな、俺。

 そう自身を鼓舞しながら、入念に地図と周囲の状況を確認。

 念のために【土魔法】で目印となる岩を生み出し入り口をマーキングしてから、地下へと繋がる穴へ吸い込まれるように突入した。
441話 不思議な空間

 気付けば、俺は草原に立っていた。

 地下に広がるどこかへ辿り着くと思っていたのに、見上げると空は青く、周囲を見渡せば奥には森が広がっている。

 そしてかなり遠くには城壁と、その奥には小高い丘の上に立つ荘厳な城の姿も。

 今まで王族の住まう場所と言えば王宮で、何気にこの世界へ来て、まさにファンタジーとも言える想像通りの城を見るのはこれが初めてのことだった。

 いったいここはどこなのか。

 咄嗟に地図を開こうとするも、


「……発動すらしないのか」


 真っ暗でどこだか分からないとかそんなレベルの話ではなく、地図を開くことすらできない。

 考えられるのは転移――、穴に落ちたのではなく、途中で転移してここに飛ばされた。

 状況を考えてもまずそういうことだろう。

 となれば、自前の【空間魔法】でここを抜け出せるのか、それを早速試すという手もあるが……

 成功したとして、ここに戻ってこられなかったら意味がない。

 まずはこの場でやれることを。

 周囲に存在している、見慣れた魔物につかつかと近寄る。


「ブギィ!」


 ここはSランク狩場と聞いていたのだ。

 なぜ目の前に、どこの国にもいるEランク魔物の『ピーキーボア』がいるんだ?

 走り寄ってくるその速度を見ても、覗いたスキル構成を見たって特別強化された様子はなく、首を捻りながら突っ込んできた頭を掴み上げる。

 うーん、普通だ。

 普通過ぎて、ますます意味が――


「ん?」


 なんだ、これ?

 なぜか横腹の一部に、鈍色の金属が付着している。

 気になって取ろうとするも、簡単には剥がれない。

 ムキになって少し力むと、ピーキーボアの悲痛な叫びと共に赤黒い血が噴出。

 まるで体の一部だったように、引き剥がした後は血肉が露出していた。


 ――【鑑定】――


 思わず毟った鉱物を眺めると、それは『鉄』であることが分かる。

 しかもダンジョンと同じ、高純度のタイプだ。


「カルラの言っていたダンジョンっぽいって、そういうこと……?」


 首を刎ね、普通に残った死体を収納しながら次に見据えたのは、草の隙間からジッとこちらを見つめる『ホーンラビット』。

 その耳も、片側は変色しており鉱物っぽく見えるが。


「よく分からないけど、手当たり次第乱獲すれば答えも見えてくるか」


 そう思い、俺は少しワクワクしながら、視界に入る魔物全てを狩り尽くす勢いで駆けだした。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




『はぁ、はぁ……みずぅ~』


 草原に寝ころびながら真上に水を生み出し、大口を開けて顔から浴びる。

 たぶん、半日以上は狩っただろうか。

 空がずっと雲一つない青空のままなので、時間経過は曖昧だが、久々に思いっきり走ったな~と思いながらこの不思議な空間を振り返る。

 まず、もの凄く重要なこととして、この狩場にSランク魔物なんてまったく存在していなかった。

 どうなってんだって文句を言いたいところだけど、おおよそ原理も分かってきたので今はグッと堪えておく。


 原っぱや森にいたのは、FランクからDランクまでの魔物が15種ほど。

 1匹だけ石や木の枝を投げてくる『スローモンキー』のレア種。

『ハウロモンキー』を初めて狩れたが、それ以外は全て既知の魔物であり、経験値が多少伸びた程度でスキルレベルが上がるようなことは一切無かった。

 このレア猿は【空脚】を持っていたので、最初のうちに出会えたら良かったんだけどなぁ。

 あとなぜか、この不思議空間に生息している魔物は、身体の一部が鉱物化している。

 これはどうやら確定らしく、鉱物も|鉄《10等級》から|銀《6等級》と幅広い上、当然のように上位等級ほど出にくいという特徴が、1000匹以上狩ることによってはっきりと表れていた。

 つまり魔物の身体は消え、その代わりに様々な種や鉱物、スキル本などが出るダンジョンと、魔物の素材を丸ごと得られる通常狩場の間くらいに位置するのが、ここ《夢幻の穴》の特徴なのだろう。


 そしてこの場所自体にも謎の現象が発生していることは間違いない。

 俺は魔物を次々と狩りながら城壁と、その先にある城を目指したわけだが、何をどうやってもその城壁に近づくことはできなかった。

 言っている意味が分からないと思うけど、俺もさっぱり原理が分からないのだ。

 走っても飛んでも転移しても、移動しただけ目指す場所が遠のくように、まったくその距離が縮まらず。

 青白い光を上空へ放つ転移陣が原っぱにポツンとあったくらいで、それ以外の風景はほぼ変わることがなかった。

 まぁここまで情報が出揃えば、おおよそ行き方の予測はつくんだけどね。


 パンパンとケツを叩いて起き上がり、唯一存在感を示すその転移陣へ。

 できれば"進む方"であってほしいが……

 さて、二択のどちらなのか。

 確かめるために、俺は人生で初めて転移陣を踏む。


「……」


 すると、一瞬で風景は砂漠に切り替わった。

 はぁ……残念な結果だ。

 こちらの方が可能性は高いと思っていたが、どうやらあの転移陣は『次のエリア』に行くためではなく、『帰還用』だったらしい。


 ――『地図』――

 ――【広域探査】――『魔物』


「ん~ここが、隠道ってやつなのかな?」


 飛んだ先はBランク帯のようで、少なくとも周囲200メートルくらいに魔物の反応はなかった。

 が、そんなことはどうでもいいか。

 重要なのはそこじゃないのだ。


 すぅーはぁ――……


 大きく深呼吸。


 まずは――、マーキングした狩場への入り口に転移する。

 すると、


「はいはい、やっぱりね」


 岩の目印で分かりやすくしていた偽の蟻地獄は、岩だけを残して綺麗さっぱりその場から消え去っていた。

 これで《夢幻の穴》への入り口は"変動すること"が確定だ。

 となると、次。


 ダメ元ではあったが――


「お?」


 遠くには城壁と城が見える、先ほどいた不思議な草原。

 そこには問題なく戻れることが確認できた。

 考えてみれば魔物を『収納』していたんだから、任意に亜空間と繋げることはできていたのだ。

 そう考えると当然の結果なのかもしれないが……


「ふーむ……となると、偽の蟻地獄が生まれる場所が関係するのか、もしくは、嫌な予感しかしないが、確率か……?」


《夢幻の穴》はSランク狩場という有力な情報があること。

 入り口は固定されていないこと。

 今回出現した魔物と鉱物が低位に絞られていたこと。

 そして狩場の空間がおかしな力で固定されていたこと。


 この辺りを考えると、少なくともあと1つか2つ。

 上位狩場に繋がるルートがあることはまず間違いないだろう。

 狩場の入り口が固定されていれば、それぞれの入り口が別に存在していると予想できるが、完全にランダムとなれば、最悪は確率でエリアが切り替わる可能性もある。

 オドゥンのいない蟻地獄を見つけるのに要した時間は2日。

 狩場の入り口がどういったものかが分かったので、今後は探すのも多少は楽になるだろうが……

 このままSランク魔物が登場するエリアに辿り着けるのか。

 想像以上にここで時間を食う可能性も出てきたため、どうすべきか悩んでしまう。

 Sランク魔物が持つスキルや落ちる鉱物次第だが、まずはエリアを引き当てなければその答えも分からない。


 ふぅ――……


(転移で直接飛べるというのはあまりにも大きい……なら、もう少し、あと3回くらいは様子見で試すか)


 そう判断し、再び入り口探しを開始した。
442話 神スキルの予感

 3回が5回になり、5回が8回になり。

 最終的には「もう引き当てるまで絶対寝てやんないんだから!」と、ムキになったことを激しく後悔し始めた6日目の朝。


「かはぁ――……よしキタ! もうキタ! やっとキタッ!!」


 極度の寝不足の中、フラフラになりながら突入した都合12回目のチャレンジで、ようやく別のエリアに入れたことを理解し、その場で渾身のガッツポーズをとってしまう。

 なんせ視界の先にはパルメラ南部に生息しているBランクの魔樹が、同じように釣り用の熟れた実を垂らして生えているのだ。

 それに降り立った場所が毎度の草原ではなく、つい最近のマルタのような、荒廃が進んだボロボロの町に切り替わっていた。

 空は日の光を遮るように厚い雲が広がっているけど、もしや城壁の中に入れたんだろうか?

 姿形はソックリでも、近くで見ると実はボロボロだった古城が、なんとなくそう思わせてくれた。


「あぁ~どうしよ、死ぬほど眠いけど、一応調べておくか……」


 もう身体は限界だ。

 でもせめて魔物のランク帯と構成、それに所持スキルくらいは把握してから眠りたい。

 一番近くにいた『魔樹』を切断し、問題なく収納できることを確認した後、少し宙を舞って狩場を広く見渡す。


(1、2、3……4、5……6……7、ははっ、半分くらい新種魔物かよ。新しいスキルはあまりなさそうだけど、それでも魔物専用スキルはそこそこ伸ばせそうかな)


 そしてどうしても気になったスキルを持つ、1メートル程度のネズミみたいな魔物に狙いをつける。

 一本一本が際立っている様に見える特徴的な体毛。

 俺の知る知識に当てはめても、このスキルをどう活用するのかまったく想像ができない。

 近くに降り立ち、ジッと見つめる。

 するとその魔物は、全身の体毛をピンと立たせてから身体を丸め、勢いよくこちらに転がってきた。

 ほほぉ、【突進】も持っていたけどそうくるか。

 適当な剣でぶっさせばいいのだから、倒すのは簡単だ。

 たぶん蹴飛ばしても、俺があの棘に刺さることはないだろう。

 だが、気になるので避けてみれば、そのハリネズミっぽい魔物――たしか先日読んだ『魔物図鑑』だと『マトン』というDランク魔物で間違いないと思うが、そいつはメインストリートと思われる通りをそのままどこまでも転がっていく。


「おーい」


 さすが【逃走】持ち。

 こうして攻撃しながらどこかへ逃げていくとか斬新過ぎるぜ……

 って、違う、知りたかったのはそっちじゃない。

 慌てて追いかけると、先ほどのマトンは壁にぶつかったんだろう。

 既に尖らせていた体毛は引っ込んでおり、その場で腹を出して豪快に寝ていた。

 なんとも自由過ぎる魔物だが、マトンのスキルを覗くとこうなっていたのだから、この不可解な行動にも納得である。


 マトン:【突進】Lv3 【昼寝】Lv1 【逃走】Lv2


 本来寝ないはずの魔物がこうして寝ているわけだし、どう見ても【昼寝】というスキルのせいであることは間違いない。

 が、やっぱりこの姿を見てもまったく効果を予想できないな……


「ふん」

「ムキュッ……」


 腹の中から魔石を抜き取り、死体はとっとと収納。

 どうせ帰って寝るなら、睡眠に繋がるこのスキルだけでも取得したい。

 結局そんな理由をこじつけながら、限界の限界を迎えるまで狩りをしてから拠点に帰還。

 今が朝の9時であることを確認してから布団に潜り込み、


 ――【昼寝】――


 スキル使用後、たぶん俺は5秒もかからず爆睡した。





 そして――、ムクリと。

 気だるさも無く、妙にスッキリとした目覚めを迎える。

 腕時計を見ると針は3時を示していた。


「ん……どっちの3時だ?」


 そう思って外に出てみると、外はまだ普通に明るい。

 まさかな。

 そう思いながら、湖に向かって魔法をぶっ放していたエニーとゼオに声をかける。


「おはよ、俺どのくらい寝てた?」

「む、もう起きたのか」

「どのくらいって、6時間とかそのくらいじゃないの? 凄い顔しながら『俺、寝る』って、意味分からないこと言ってきたの、今日の朝だし」

「マジか」


 となると、【昼寝】の効果は地味に凄いんじゃないのか?


【昼寝】Lv2 仮眠することで急速に体力と魔力を回復させる その効果はスキルレベルによる 魔力消費0


 このように、説明文だけでは具体的なモノが何も見えてこない。

 でもここまで疲労が溜まれば、今までなら15時間はぶっ通しで寝るくらい当たり前だったのだ。

 それにいくら俺が徹夜常習犯だと言っても、さすがに6日はない。

 せいぜい3日4日程度ということも考えれば、疲れ過ぎて今回は丸一日寝続けたっておかしくないと思っていたのに、それが6時間でこれだけスッキリしているとなれば……


「やっば、神スキルきたかも」

「え?」


 久々に引いた超大当たりスキルの可能性に、胸がドキドキと高鳴ってしまう。

 今も昔も、睡眠時間はどうしたって敵なのだ。

 削れるなら削りたいし、それがリスク無しで叶うとなれば、これはもう最高以外の何ものでもない。


「ふふ、ふははは……ふはーっはははっ!」

「し、師匠!? ロキがおかしくなっちゃったんだけど!」

「大丈夫だ、前からだから問題ない」


 これは要検証だ。

 通常の1日サイクルで寝た場合、このスキルを使えば俺はどれほどの睡眠時間で満足するのか。

 書いてないだけでリスクが隠れているかもしれないし、その辺りは試していかなければ見えてこない。


「ふふ……上手くいけば超ショートスリーパーで稼働時間増えまくりかも」


 そんな妄想を垂れ流しながら、俺はせこせこと狩りの準備を整え、再び城下町エリアへと向かった。
443話 2等級の可能性

 何に気を掛ける必要もなく、一人狩場を占有できることがどれほど幸せなことか。


「独占じゃ~い!」


 【集敵】効果のある邪魅の乱槍を片手に徘徊しながら、未知の魔物を見つけてはスキルを覗き、その内容を手帳に書き込んでいく。

 いくつか魔物情報を纏めた書物はあるが、ランクや特徴、あとは詳しくても素材転用部位や食した時の味が表記されているくらいで、各魔物が所持しているスキル構成まで載せているようなモノは一つもなかった。

 となれば、自分で調べ、纏め上げるしかない。

 ちなみに城下町エリアのDランク帯はこのような構成になっていた。


 ・Dランク

 キャスパリーグ:【跳躍】Lv3 【噛みつき】Lv2 【忍び足】Lv2

 ジャイアントワーム:【踏みつけ】Lv3 【突進】Lv2

 グロウハウンド:【俊足】Lv3 【嗅覚上昇】Lv2 【忍び足】Lv1

 フォムスラッグ:【粘液】Lv2 【分裂】Lv3 【踏みつけ】Lv1

 マトン:【突進】Lv3 【昼寝】Lv1 【逃走】Lv2


 キャスパリーグはラット君の治めるギニエの狩場に。

 ステーキが美味いジャイアントワームと小汚いドロ塗れのグロウハウンドは、ラグリース中部の町リプサムの近郊にある《ビブロンス湿地》にいた魔物だな。

 ジャイアントワームは草原にもいたし、この辺りは素材販売用に100体もいれば十分といったところだが、魔物素材の売れ行きがだいぶ好調みたいだからね。

 フラフラしていれば勝手に近寄ってくるし、草原エリアと同じく鉱物が必ずくっついているので、一応パパッと身体を切断して収納するようにしている。


 そして今、目の前でツンツン突いている『フォムスラッグ』という魔物。

 コイツが未所持スキル2種持ちで、この城下町エリアでもっとも熱い魔物に認定されていた。

 姿はどの角度から眺めても気持ち悪いナメクジで、謎の穴から粘着性の高い【粘液】を飛ばしてくるが――


 ぷるるっ、ぷるっ、ぷるるるっ。


 殺さない程度にツンツン刺激すると、小刻みに身体を震わせ、身体を分けるように【分裂】してくれるのだから面白い。

 何度試しても、【分裂】は本体から数えて3度だけ。

 でも所持スキルに変化はないのだから、1体見つければすぐに8倍の経験値を得られる計算だ。

 どちらもグレー文字で使用不可は残念だけど、生息数はやや少ないので、見つけたら即行でツンツン推奨だな。


『【分裂】Lv4を取得しました』


 そしてこの『フォムスラッグ』と【昼寝】する『マトン』を探しながら、新規スキルは持っていなかった他の魔物もついでに狩っていく。

 なお、CランクとBランク魔物は、このような構成になっていた。


 ・Cランク

 ロックタートル:【土魔法】Lv3 【土属性耐性】Lv2 【硬質化】Lv3 

 サデュザーク:【突進】Lv2 【回復魔法】Lv3 【俊足】Lv2

 アンフィスバエナ:【毒耐性】Lv4 【噛みつき】Lv3 【脱皮】Lv2

 ハイオーク:【捨て身】Lv2 【踏みつけ】Lv3 【槌術】Lv2

 カルノタウラ:【投石術】Lv3 【射程増加】Lv2 【体術】Lv3


 ロックタートルとカルノタウラは、横のオルトラン王国中央の《サザラー魔物生息地帯》にもいたからまぁいいだろう。

 ハイオークも《ベイルズ樹海》の深層など、Cランク帯の山中や森にそこそこ出没するのでそう珍しくないが、『アンフィスバエナ』と『サデュザーク』という魔物はここが初見だ。

『アンフィスバエナ』は双頭の5メートルくらいはある細長い毒蛇。

『サデュザーク』は角の代わりに2本の木の枝が生えた鹿の魔物で、珍しく【回復魔法】を使ってくるらしい。

 全部スパスパ首を落としているので、そんな場面一度も見てないけど。


 ・Bランク

 魔樹:【気配察知】Lv3 【不動】Lv3 【光合成】Lv3

 青飛竜:【飛行】Lv5 【氷結息】Lv4 【氷魔法耐性】Lv3

 コカトリス:【石眼】Lv3 【火炎息】Lv3 【噛みつき】Lv3

 ウガルルム:【爪術】Lv4 【跳躍】Lv3 【噛みつき】Lv3

 ズラトロク:【光魔法】Lv3 【光耐性】Lv3 【突進】Lv4


 魔樹と青飛竜はパルメラのBランク帯で見慣れているからいいとして、『ウガルルム』とここで出会えたのは予想外だった。

 ハンスさんの抱える覚醒体ペット『ロキッシュ』の基となる魔物で、大陸南東にいるような話をしていたので、これでたぶん、ハンスさんもこの狩場を把握していないのは確定と言ってもいいだろう。

 ちなみに元は3メートルに満たない、2足歩行する狼みたいな姿をしていた。

 そう考えるとロキッシュは倍近く成長していることになるんだよなぁ。

 あと『コカトリス』は頻繁に目を光らせる体長1メートルくらいの黒っぽい鶏で、『ズラトロク』は光の矢をピュンピュン飛ばしてくる角が金色の山羊だった。



 ふーむ。

 ツンツンと、ナメクジの分裂作業をしながら思う。


(ここって、めっちゃ資源豊富だよなぁ……)


 大半は食用になる魔物だし、衣類や装備など、生活に転用できる素材だってかなり多いように感じる。

 草原エリアもここよりは劣るが、人の生活に必要な素材は食用含め豊富に揃っていたので、だからこそ砂漠なんていう生活のしづらい環境に身を置いてでも、『オーマ』と呼ばれる広大な根城を築き、ダークエルフ達はこの場所を上手く活用していたのだろう。


 そして、ここまでくれば、もう間違いないな。


 草原エリア・・・F~Dランク魔物

 城下町エリア・・・D~Bランク魔物


 このような流れできているのだ。

 となれば、《夢幻の穴》がSランク狩場である以上、B~Sランク魔物の配置されたエリアがあって然るべきで、それは視界の先に大きく聳え立つも入ることのできない『城エリア』になるだろうと。

 そう感じさせる一方で、確信めいた予感があるからこそ、到達するまでの困難さに頭を抱えそうになる。

 たぶん、かつてゼオに進言した人も、このことを思って『辿り着くのが面倒』なんて伝えたのかもしれない。

 だって爆速飛行でオドゥンのいない蟻地獄を探せる俺が。

『幸運』の値だって絶対低くはないはずの俺が、このエリアに到達するまで12回チャレンジし、8日も掛かっているのだ。

 試行回数が少な過ぎてまともな確率なんて割り出せないけど、暫定的には城下町エリア突入でザックリ10%程度なのか?

 そう考えると、目指す城エリアはいったい何%の突入率になるのか。

 下手をすれば、数ヵ月探し続けても余裕で空振りする可能性だってあるだろう。


「いや~マジで悩むなこれ」


 転がってきたマトンに槍をぶっ刺しながら、眉間をグリグリと揉む。

 Sランク狩場がもしココしかないとなれば、突入できるまでエンドレスモードは当然だけど、ゼオが言っていたように他にも狩場はあるのだ。

 まだ上級ダンジョンに行こうとは思わないが、大陸北東のアイオネスト王国に行けば、開かれたSランク狩場で確実に狩れるだろうし、その気になれば帝国が占有しているという西側のSランク狩場にだってこっそり潜り込むことくらいはできるだろう。

 ここに全力を注ぎこむべきか、それとも後回しにすべきか。


「うーん、んん――、んん……?」


 唸りながら、ホイホイと魔物を倒して収納していたら、突っ込んできたウガルルムの脇腹に視線が向く。

 そこには黒い鉱物が付着していた。

 俺がその素材の長剣を長く扱っているのだから、見間違えるわけもない。


「あれ? 出てくる魔物はBランクが上限なのに、ここで|ダマスカス《4等級》?」


 気になって乱獲に切り替えながらそれぞれの鉱物を確認していくと、すぐに城下町エリアは|ブロンズ《8等級》からであることが分かる。

 つまり取得可能鉱物はこうなるわけだ。


 草原エリア・・・|鉄-アイアン《10等級》~|銀-シルバー《6等級》

 城下町エリア・・・|青銅-ブロンズ《8等級》~|黒鉄-ダマスカス《4等級》


 となると、この規則性のまま次の城エリアがあったとすれば――。


「最上位は、|S《3等級》に該当するアダマントではなく、|SS《2等級》のオリハルコンの可能性も出てくるのか?」


 G~SSSまでに分かれた10段階のランクと、【鑑定】に影響が出てくる10~1という数字で分けられた等級は常に連動しているモノだと思っていた。

 だからSランク狩場と聞けば3等級となり、自然とアダマントが入手できる鉱物の上限くらいに考えていたけど、この法則通りにいけば結果は異なる可能性が高いということになる。

 まだ|アダマント《3等級》は極少量でも鉱山から採れるようだし、上級ダンジョンでも低確率で鉱物や現物装備がドロップすることは分かっていたからどうとでもなるが……

 オリハルコンとなると、これはかなりヤバい。

【採掘】で得られたという文献情報が存在していないため、入手方法といったらそれこそ、砂漠などの地下に眠る遺物の中から極小確率で見つかるのを期待するしかないと。

 いくつかの書物にはそのように記載されていた。

 だから一部の上位傭兵のような、金で解決できる人間が裏で流れたオリハルコンを入手できるものだと思っていたが、低確率であろうと《夢幻の穴》で入手できるとなれば話は変わる。

 まず俺が今後のためにどうしても欲しいのだ。

 多重付与の要件には素材ランクも絡むのだから、3種付与を目指すならこのクラスの素材は必須だ。

 いずれは特殊付与で身を固める可能性もあるだろうが、どう考えたって今はその段階にない。

 それに特殊付与が存在しない防具に関しては、1等級鉱物がまったく分からない以上、オリハルコンが最終装備になる可能性もあるわけで。

 そうなると相当な量が必要になってくる。


「《夢幻の穴》はSランク魔物というより、オリハルコンのために行く必要がある場所なのか?」


 可能性が濃厚である以上、これは覚悟を決めた方がいいかな。

 そんなことを考えながら、黙々と城下町エリアの魔物を狩り続けた。
444話 下台地の朝食

 時計を見て、自分の状態を確認し、改めて一人納得する。


「うん、やっぱり凄いね、コレ」


 2日間城下町エリアで狩りを続け、【昼寝】のスキルはレベル4になっていた。

 調整し、朝6時に目覚めて、支度をしたらすぐに17時間狩る。

 そして1時間弱、ご飯を食べたりお風呂に入り、秘密基地で少し情報を整理したら魔力をほぼ空にして0時に就寝。

 こんな健康的な1日を過ごし、俺の身体はほどよく疲れていたはずなのだが、気持ち良く自然起床したらまだ時刻は夜中の3時前だった。

 これで【昼寝】とはあるが、夜間でも使用できることは確定だろう。

 魔力は全回復し、頭も8時間くらい寝た後みたいにスッキリしているのだから、レベル10にしたら1時間切りも本当に可能なのかもしれない。


「ん~あとは魔力を多く残して寝ればまた変わるのかな……」


 そんなことを考えながら裏庭へ。

 光源魔道具の下で黙々と仕事をしている仲魔の下へ向かう。


「ジェネ、これもお願いね。鉱物が付着しているから、それは別で。今回食べていいのはこの『カルノタウラ』と『ウガルルム』の肉くらいかな。少なくてごめんだけど」

「分かった。どんどん頑張る」

「問題ない……まだいっぱい残っている……!」


 声のする方に振り向くと、素材価値のない魔物の残骸がまだいくつも山のように積み重なっており、その頂上で豪快に飯を食ってるデカい竜がいた。

 自分の仲魔とは言え、絵面が恐ろしい。


「……それよりジェネさ、久しぶりにちゃんと見るけど、なんか大きくなってない?」


 狩ってきた魔物を上空から吐き出す時に度々見かけてはいたが、こうして面と向かってというのは2ヵ月とか、そのくらい振りかもしれない。

 だからなのか、顔つきが少し変わり、身体は大きく、そしてたくましくなっているような気がする。

 自分も背がだいぶ伸びたから、ちょっと分かりにくいが……


「カルラが、大きくなったって言ってた。それに力も強くなった」

「へぇ~魔石は食べてる?」

「それは売るからダメって。いいって言われたのだけ食べてる」

「なるほど、それでも伸びるのか」


 たぶん魔石は魔物の傷を癒すくらいなのだから、特効薬みたいなもの。

 食べればさらに成長を促せそうだけど、さすがに魔石を喰わせるのはまだ早いな。

 それは何をどうやっても使い切れないと思えるほど資金が潤沢になってから。

 まだまだ今後の使い道を考えれば金は足らないので、もうしばらく普通の餌で経過を観察させてもらおう。


「どんどん食べて、どんどん大きくなってね。期待してるから」


 そう言い残し、城下町エリアへ。

 もう少しだけ狩りをして一先ずの最低目標スキルレベルをクリアさせてから、確率不明の抽選マラソンを開始した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 下台地の朝。

 いつも揃って朝食を食べるようなので、今日はここに混ぜてもらい、ケイラちゃんが獲ってきてくれた魚を頬張る。

 皆の食事は控えめだったが、朝練ならぬ朝狩りをした後なので、俺の前だけはジャイアントワームのステーキにふかし芋まで並んでいた。


「ふむ……面倒とはそういうことだったか」


 ゼオが俺の血をゴクリと一杯飲みながら呟く。


「せめて入り口が固定だったら良かったんだけどね。一つもマーキングした所と重ならないし、入り口の出現場所は完全ランダムで確定かな。あ、ゼオも一応転移できるようにしておく?」

「いや、我が移動するとなると、ストアリングの貯蔵魔力を使うことが前提になるだろうからな……」

「あーそれは気にしなくていいよ。あそこ、環境が特殊だから」

「どういうことだ?」

「言葉にすると難しいんだけど、理から少し外れているっていうか、この世界のどことも接触していない亜空間の中にポツンと存在している感じ?」

「??」


 ダメだ。

 ゼオだけでなく全員が意味不明過ぎて食事の手が止まっているし、俺も自分で言っていて意味が分かっていない。


「まぁ結果だけ伝えれば、この拠点から夢幻の穴に入って、どこにも寄らず真っ直ぐ拠点に戻ってくれば、使う魔力はそれぞれ『1』だけで済んじゃうの。それは俺が行った草原エリアも城下町エリアも変わらずね」

「目の前に存在するのと、さして変わらぬということか?」

「そそ、その場所に繋げさえすれば着く、みたいな? だから魔物相手に何か練習するならいいかもね。人いないし、魔法ブチかましたって壁とか絶対壊れないし、3つのエリアで魔物の強さも変えられるはずだし」

「すっごー! ねぇロキ、早くSランク狩場行ってきてよ! 私行ってみたい!」


 まったく、果物を指でほじってるこの小娘は俺とゼオの話を聞いていなかったのか?

 呑気なことを言っているエニーに、冷めた視線を送る。


「エニー君、その辿り着くまでがどれほど大変か分かるかね? これは推測だけど、100組のパーティが同時にその狩場を目指したとして、1組とか2組とか、たぶんそのくらいの少数がなんとかSランク狩場に入場できるくらい確率は低いと思うよ」

「えー! そんなの絶対無理じゃん!」

「その間、水もない砂漠で『本物の入り口』を探さなきゃいけないんですよね……私なんてすぐ干からびちゃいます……」

「ダークエルフの人達はよくそんな所で頑張ってたよね~」


 搔い摘んだ話だけ聞けばそう思うかもしれないけど、水の問題さえ解決できればヘルデザートで13種。

 夢幻の穴で推定45種という、とんでもない魔物数が一帯に生息していたのだ。

 俺が知る限りそんな場所は他に見当たらないし、さらに幅広い鉱物まで手に入るのだから、厳しい環境ながらも広範囲に住み着いた理由はよく分かる。

 天候操作型魔道具を取り出したら雨が降ったってことは、普通に【水魔法】を使えば水が湧いて、オアシスなんかも各所に点在していたのかもしれないしね。


「ロキ、それでもお前は行くつもりなんだろ?」


 朝から鼻の頭を赤くしたロッジが、期待を滲ませた瞳で俺をジッと見つめる。

 当たり前だろ、この酔っ払いめ。


「当然、オリハルコンがあると信じて狙い続けるよ。かなり時間掛かるかもしれないけど」

「ふふ、ふはは! なら俺は、|SSランク《2等級》の素材も問題なく扱えるように、ひたすら精進するしかねぇなぁ!」

「ボス素材でも使ってどんどんやっちゃってよ。この世界に存在している以上、絶対にどこかで入手する手段はあるんだから、仮に今回外したって俺が他から採ってくるし」


 まぁ、そうは言ってもまず外すことはないだろう。

 それどころか、ここでしか手に入らない可能性の方が高いくらいまである。

 だから古代では少量出回って――


「あの、ロキさん、一つお聞きしたいことが」

「ん?」

「未確定のSランク狩場や神鉱オリハルコンの存在は置いておくとして、実在することが判明した《夢幻の穴》の情報は、世に広める予定なのですか?」


 なぜか凄く、それこそロッジ並みに興味のありそうな顔をずっとしていた。

 そんなリコさんが、不意に真剣な眼差しで俺に問いかける。


「あ――……どうしようね。全然考えてなかったけど、なんで?」

「あ、いえ、どうするのが良い悪いとかではなく、単純な興味本位なんです。私が知る限り、ロキさんの話しているその情報はどの書物にも載っていません。相当希少で、かつ有益な情報であることは間違いないはずですから」

「だろうね。ハンターギルドでさえ情報掴んでないっぽいし」

「だから、その、そんな情報をこれからどう扱うのかなって、凄く興味が湧いてしまって」


 知識欲の強いリコさんならでは、かな。

 まだ本心は別にありそうな気もするけど……


「とりあえず、軽はずみに公開はしないと思う。まず普通の人が気軽に行けるような場所じゃないし」

「で、あろうな。かつてのオーマのように、生活拠点を近場にでも置かねば通えるとは思えん」

「もしくは問題の多くを解決できる【空間魔法】所持者って話になるけど、そうなると厄介な人間に目を付けられる可能性もあるしね」


 この言葉に、ロッジの鼻がピクッと動く。

 そしてリコさんの表情は変わらずか。

 つまり大事な情報は公開して共有しろとか、そういう話をしたいわけでもないらしい。

 となると、これかな?


「でも事実として、情報を残すことには意味があると思う。だからもし次のエリアに辿り着いて《夢幻の穴》を丸裸にできたら、その時は関連する書物の情報を更新してもらおうかな、リコさんに」

「……ッ! ぜ、ぜひ! 狩場、魔物、鉱物に、歴史書……あ、それに亜人に関連する書物も、多くがその内容を改める必要が出てくると思います。なのでぜひ、見つけられたら詳しい内容を私に教えてください!」

「もちろん。今後もこういうことは出てくると思うから、その都度お願いね」


 知識欲が強いからこそ、偽りの情報のままであることが許せず、真実に書き換えておきたい。

 そんな理由ならいくらでも協力しよう。

 自分達が見るだけなら、情報の鮮度と精度が高いことで困る状況なんてないのだから。


 さて、気付けば飯を食っているのは俺一人。

 次々と席を離れていくので、俺はロッジに視線を向けながら仕事の依頼をしておく。

 そのために一度ここへ戻ってきたわけだしな。


「ロッジ、もう背は落ち着いたはずだから、そろそろ装備作ってくれない?」
445話 新奇開発所

 改めて採寸し、素材や剣の長さなどをロッジと相談した後。


「7日か8日もあれば一通り仕上がる。それまで待ってろ」


 そう言われ、俺の中で模擬戦の日にちが自動的に決まった。

 本音を言えばSランク狩場に辿り着き、そこで十分狩ってから挑みたいが、顔を出すたびリルはソワソワと落ち着きがなくなるのだ。

 それでも自分から催促の言葉を口にしたりはしないけど、さすがにここから数ヵ月と待たせてしまっては可哀そうだしね。

 装備が揃ったらやる。

 あとはそれまでに辿り着けるかどうか。


(って、絶対無理だよなぁ……)


 内心ではそう思っているから心にも余裕が生まれ、探索一辺倒というわけではなく、サヌールのオークションに顔を出したり、まだほとんど進んでいないパルモ砂国東部のマッピングも進めてみたりと。

 そんなマイペースな日々を過ごしていた。

 そして、前回行けなかったあの場所にも――。



 場所はベザートの奥まった場所にある一角。

 かなり広い土地が確保されたその中心には、一軒家より少し大きい程度の建物がポツンと存在していた。

 入り口には『新奇開発所』の看板が。

 初めてでも分かりやすいのはありがたいけど、さすがに庭が広過ぎじゃないだろうか……


「こんにちは~」


 扉を開けると、雑然と物が置かれた中で何かの作業をしている三人の女性がおり、その中に見知った顔の所長――アマンダさんもいた。


「ロキ君じゃない。いらっしゃい、随分男らしくなっちゃって……やっと顔を出してくれたのね」

「はは……遅くなってすみません。その代わり、お願いしたい案を一つ持ってきましたので」

「あら、じゃあそうね。今日は晴れてて暖かいし、外で話を聞きましょうか。紅茶を用意するから先に行ってて」


 そう言われて外に出ると、建物の裏に木製の机と椅子が並べられていた。

 机には細かい傷がいっぱい付いているし、気分転換に外でも作業しているのかな?

 敢えて町のハズレに作っていることもあり、見渡せば畑作業をしている多くの人達と、遠くでは木の伐採を進めている人達。

 そして見守るように、1匹のマンティコアが豪快に地面で寝そべっていた。

 予定通り、畑は町の東から南東方面に掛けて拡張しているっぽい。


「お待たせ、そういえば麻袋はもう見た? クアド商会でもう使われているはずだけど」

「あ、見ました見ました。店の入り口に置かれていて、良い感じに店内の買い物袋として使われていましたよ。そのまま袋に入れて持って帰りたいっていう話も多いみたいなんで、どんどん作ってもらえればあの袋自体が商品になりますね」

「そっ、なら良かった。作ってるのはベザートの町民だから、遠慮なく量産してって後で言っておくわ。材料の調達がまだ不安定だけど」

「ん~麻はヴァルツ地方が豊富に出回っているんで、今度足を運んだ時にでも纏めて仕入れておきますか」


 その後も心地よい日差しを浴びながら、今まで伝えた案の進捗をアマンダさんから説明されていく。

 個人的には思い付きばかりなので、そこまで結果に拘ってはいないんだけど、商業ギルドを通して商品化。

 そこから売上に応じたロイヤリティという形を取っていたのに、国が変わったせいでそれも難しくなってきちゃったからね。

 ぼんやり、商業ギルドってここにもいるのかなぁ……と。

 そんなことを考えながら、試作されたフル手動の傘をパカパカしていたところで、ふと、素朴な疑問が口を衝いて出る。


「そういえば、他にもお二人いましたし、ここってちゃんと儲かってます?」


 アマンダさんのやりたいことは、俺の案を基にした製品開発だと言っていた。

 だから同じ色に染めた麻袋の製作を軽い気持ちでお願いしたが、『新奇開発所』なるものを作ったというのは後になって知ったこと。

 見た感じここで本格的に量産している様子はないし、商業ギルドもないとなれば、利益の生まれる構造がパッとは思い浮かばない。


「残念だけど、本格的にお金のことを考えるのはこれからよ。ハンターギルドの受付嬢を長くやっていれば、誰がどんなことをできそうなのか、ベザートであれば私が誰よりも把握している。なら貰った案の製品化が可能かうちで調べて、できそうな人間に仕事を割り振った方がいいでしょ? 今までやっていたことができなくなって畑弄ったり、森でハンターの真似事やって生計立てようとしているくらいなんだから」

「あぁ、だから麻袋も……それじゃ今は仕事を振って、個別に売り上げの一部を貰ってるって感じですか」

「そういうこと。だから早めに相談したかったのよ。製品案はもう他国になっちゃうけど、ラグリース中部のリプサムにでも行って商業登録しちゃうか。それともここに商業ギルドを誘致するよう動くつもりなのか。はっきりしないとロキ君の報酬が定まらなくなってくるわ」

「んー……なら当面は僕の報酬なんて考えなくていいですよ。そんなところで僕がマージンを取らなくても、皆さんが得た収入からクアド商会で買い物してくれれば僕に回ってくるわけですし」

「それとこれとは別な気がするけど……本当に良いの?」

「ええ、逆に広い販売網を構築できなくて申し訳ないくらいです。正直に言えば、今はハンター稼業が忙しくて……商業ギルドとか考える余裕があまりないんですよ」


 そう伝えれば、なぜかアマンダさんに大笑いされる。


「あは、あはははっ! そういえばうちの王様は生粋の魔物ハンターだったわね。もうほんと、この国大丈夫かしら」


 ヒーヒー言いながら続く言葉に、俺自身が確かにと思ってしまう。

 でもまぁ大丈夫だろ。

 規模が小さければ、手探りでもなんとかなると思いたい。


「はぁーおかし……でもそれなら大丈夫そうね」

「え?」

「追々はそれぞれの分野で得意な人達を集めて、ここで協議、試作、量産までを一通り完結させようと思ってるの。素材の調達はあのお店に行けば大概は揃いそうだし、製品がちゃんとしていれば麻袋のように、あのお店が買い上げてくれそうだしね」


 そう言って微笑むアマンダさんの瞳が、ここでようやくいつものようにギラつき怪しく光る。

 が、逆に言えばそれまでは、普段あまり見ることのない凄く優しい瞳をしていた。

 たぶんこんな状況だから、今はその手数料もあまり取らず、仕事を振ることに専念しているのかな……


「もちろんそれも可能ですけど、店側で買い上げることが必ずしも良いとは限りませんので、暫くは個人でも売る選択を模索していきましょう。一般宿や飲食店の配置を計画的に進めれば、個人の路面店でも十分物を売る機会は作れますから」

「そうね……ギルマスも同じようなこと言って、町の大通りから教会を外させたくらいだし、あとは今後の計画次第ってところかしら。あ、それよりだいぶ話が逸れてるけど、案があったんじゃないの?」

「そうですよ! 実は『水着』というモノを作りたくてですね。男女別でイメージはこんな感じになるんですが――……」


 果たしてアマンダさんの野望が成就するのか。

 それは分からないけど、なぜか俺までワクワクしてしまうのだから不思議なものだ。

 エキスパートが集う開発の中心地ができるのなら投資を惜しむべきではないし、せめて試作や実験に必要な素材がすぐ手に入るように、日持ちするモノなら常にある程度のストックは抱えておくべきかなと。

 そんなことを考えながら、プールが全裸で入るマニアックな仕様にならないように、求められる素材や必要不可欠な機能など、水着の草案を伝えていった。

 アマンダさんに、プールはどこに行けば入れるのかと、根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。
446話 模擬戦、再び

 拠点の資材倉庫にて。

 ロッジに呼ばれ、長机に並んだ各種装備を眺めながら説明に耳を傾ける。


「まずこいつが新しく作り直したガルグイユの――、名前は『蒼竜の鱗鎧』だったか? それと褐色のこっちがゲイルドレイクの素材を使用した方だ。ゼオは『砂竜の鱗鎧』だかって名前を付けていた」

「腹回りとか胸部とか、筋のように通っているのがグリムリーパーの骨?」

「そうだ。柔軟性を損なわない範囲で斬撃に対しての強度を上げてある。それぞれ扱った感じだと、ゲイルドレイクの方が物理的な攻撃には強いだろうな」

「了解。ただ、どうかな……どっちを装備してもすぐボロボロにされる可能性が高いから、今回使うのは素材入手難度が低いガルグイユの方にしておくよ」

「いったい何と戦うのか知らねぇが、素材さえあればいくらでも作り直してやるからそこら辺は好きにしてくれ。んーで、こっちが要望の武器だ」


 ふふ、いいじゃない。

 目の前には薄いゴールドと緑が混ざったような、淡く輝く特大剣が置かれていた。


「ここの素材をかき集めて造ったアダマンチウム製だ。以前の大剣よりもさらにデカいからな、一応振ってみろ」


 そう言われ、目の前で好きなように振り回す。

 うん、重さはさほど感じない。

 かなり扱いやすいし、あとは片刃という部分に慣れれば問題ないかな。


「見てて怖くなるくらい速ぇな……」

「すぐ馴染んで良い感じだよ。ありがとね」


 あと2本、研いでおいてもらった『刻踏残刃』と『氷雪剣』も受け取るけど、この手の特殊付与装備を使う予定はまったく無い。

 いくら模擬戦とは言え、リル相手では平気で武器破損に繋がる恐れも出てくる。

 ボキッと折られた時の損害と俺の精神的ダメージが恐ろしいことになるので、武器も防具も破損は前提。

 この辺りを考慮した装備で挑ませてもらおうと、自分自身のステータス画面をゆっくり眺めた。



 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:62  スキルポイント残:266 (技能の種により+22)

 魔力量:14196/14196 (740+13456)

 筋力:   8181 (403+6984)  ゲイルドレイク(+794)
 知力:   5608 (404+4584)   ガルグイユ(+620)
 防御力:  6807 (397+5723)  ヴァラカン(+687) 
 魔法防御力:5336 (397+4274)   グリムリーパー(+665)
 敏捷:   3848 (397+3249)   ウィングドラゴン(+202)
 技術:   9573 (396+9177)
 幸運:   7162 (397+6351)   グリムリーパー(+414)

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》


 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv6 【暗殺術】Lv7 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv9 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv9 【闘気術】Lv5


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【神聖魔法】Lv3 【呪術魔法】Lv5 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv9 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv6
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv6 【装飾作成】Lv5
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv4 【飛行】Lv8 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv8 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv8 【忍び足】Lv9 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv4 【自動書記】Lv3


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv5 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv7 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv6 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv7
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7 【転換】Lv7


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv7 【突進】Lv8 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv8 【招集】Lv7 
【硬質化】Lv7 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【咆哮】Lv7 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv5 【火炎息】Lv7 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv6 【丸かじり】Lv6 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv7 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4 
【不動】Lv7 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv6 【廻水】Lv5 【鏡水】Lv4 【透過】Lv5 【恐怖】Lv6 【封印】Lv5
【熱感知】Lv5 【陽炎】Lv6 【流砂】Lv7 【砂嵐】Lv7 【砂硬鱗】Lv5 【昼寝】Lv4

 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv5 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv6  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv8 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv7 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv5 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1 【甦生】Lv8 【共食い】Lv4 【粘液】Lv5 【分裂】Lv6
【砂泳】Lv7




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ここからは早かった。

 上台地に向かい、夕食のついでに準備が整ったことを告げれば、待ちきれないリルはそのまま食事の後にやろうと言い出す。

 さすがに翌日くらいかと思っていたが、


「私達は支障のない夜にやってもらえれば……間違いが起きないよう、皆で見学させてもらいますので」


 アリシアに視線を向けるとこのように言う。

 ならば俺も無理に明日へ引き延ばす理由はないので、戦う場所を求めて上台地の奥深くへ。

 山の裾野に広域の平坦な土地を見つけ、フェリンを中心に、皆に手伝ってもらいながら模擬戦場を作り出していった。

 魔物に邪魔されても嫌だし、森の中じゃスキル面で特大のハンデを背負うリルがまともに動けないからね。

 大量過ぎる資材はそのままベザートで活用すればいいので、俺はビュンビュン飛んでくる木や石を収納していくだけの簡単なお仕事である。


「ねぇロキ君、どのくらい広げればいいの?」

「あっ、あぁ、どうしようね」


 唐突に、誰かが投げた木材の上に乗って現れたフェリン。

 なぜか三つ編みのピンクなおっさんを幻視しながら暫し考え、遠くでやり投げみたいに木をぶん投げてくるリルへ問いかける。


「リル! 一応確認するけど、どのくらいの規模でやりたいの!?」

「もちろん全力だー! ロキの全力を見てみたーい!」


 遠くで両手をブンブン振りながらアピールしていた。

 はぁ、予想通りの分かりやすい回答だな。

 全力ということは初めての時と同じ、魔法あり、魔物専用スキルありの、なんでもありありルールをご希望ということだろう。


(さて、どうするか……)


 正直、どこまでやればいいかはかなり悩む。

 俺の目的はただ一つ。

 50%分体のリルを相手に自分の力量を測り、裏ボスに手を出せる段階なのか判別すること。

 それだけだが、かつて酸で爛れた痛々しいリルの姿を見ているだけに、いくら【分体】であろうとなんでもありの戦い方というのは気が引けた。

 一番手っ取り早いのは【洞察】を使うことだけど……


(いや……やっぱり、ダメだろ)


 僅かな逡巡。

 リルに改めて視線を向け、その選択を自ら否定する。

 身体中から喜びが溢れまくっているあの姿を見れば、使いたくても使えない。

【洞察】を使った後の反動はよく分かっているんだ。

 大丈夫だとは思っているが、もし万が一、まだ途方もない力量差があった場合。

 俺は暫くまともに立つことができなくなるし、腐敗のドラゴンを思い返せば、俺は当面の間リルの前で武器を握れなくなる可能性だってある。

 心の底が恐怖で浸されるというのはそれくらいに強烈で、抗おうと思って抗えるものでもない。

 となると――。


「もう少し余裕があってもいい、かな?」

「りょうかーい! もうちょっと待っててね!」


 見渡すと、前に開拓してもらったベザートくらいの広さは確保されていた。

 ならもうちょっと。

 広範囲魔法の使用も考え、かなり先まで見通せる模擬戦場は作られていく。


 ――そして、約2時間後。

 均された台地の中心で、俺とリルは対峙していた。

 上空には広域を照らした、いくつもの光玉。

 横には審判役を買って出たアリシアと、いつになく真剣な眼差しを向けるフィーリルが。

 その後ろにはフェリンとリステ、それにいつもと変わらない表情のリアもいる。


「リガル、分かっていますね?」

「ああ、もちろんだ。所持しているのは【手加減】だし、何があろうと切らすようなことはしない」


 リルは正装と呼んでいた、馴染みある神界産の鎧をずっと着ていた。

 武器は無し――、無手だ。


「ロキ君はリガルも望んでいることですので、特に制限はなく、好きに試したいことを試してください。ただし――」

「うん」


 一度言葉を切り、アリシアはフィーリルに視線を向けてから言葉を続ける。


「私の判断で、これ以上は危険だと思ったら止めに入ります。フィーリルの治療が入ってもそこで終わり。すぐの再戦は認めませんので、まだ実力が足りていないと思って暫くは諦めてください」

「分かった。でも自前の【回復魔法】だってあるし、完全に意識を飛ばすとかでもなければできる限り見守っていてほしいかな。今後のためにどうしても必要だと思って、俺がリルにお願いしたんだから」

「……分かりました。水を差さないようにはするつもりです」


 この時、2人だけでなく、後ろの3人も、皆がリルではなく俺を見つめていた。

 その不安気な表情を見れば、何を思っているのかはすぐに分かる。

 リルには勝てないと。

 レフェリーストップに入るタイミングをどうするのか。

 そんなことを考えているんだろうな。


(ま、当然か……)


 前回の結果だってあるし、いくら成長していると言っても、まだようやく身体が出来上がってきた程度。

 特に未来永劫を生きる女神様達にとっては、この1年半なんてほんの一瞬の出来事にも思えるだろう。

 でも、俺の予想が正しければ――


「ロキ、本当に感謝している」

「ん?」


 ――リルは穏やかな表情のまま、真っ直ぐに俺を見つめていた。


「私はあの時、同じ過ちを二度と繰り返さないと誓った。その気持ちに偽りはない」

「うん」

「だが、そのあとにロキは言ってくれたな。楽しむことは悪くないと」

「今だってそう思ってるよ」

「だから今回は、存分に楽しませてもらう。私をロキの想定する敵だと思って、存分にかかってこい」

「分かった。胸を借りるつもりで挑ませてもらうから」


 この言葉を皮切りに、リルが纏う空気が変わる。

 決して以前のように、人を狩り殺すような鋭い眼差しをしているわけではない。

 でも一瞬空気が震え、すぐに冷えて張り詰めたような感覚に襲われる。

 剥き出しの殺気とも違う。

 ファニーファニーや剣士のじいさんを相手にした時にも感じた、強者特有の空気感であり緊張感だ。

 身体の硬直を解くように、細く、細く、息を吐く――。


「では、始め」


 そして、アリシアの声が静かに響いた。
447話 頂きは遠く、遥か高み

 だらりと両手を下げ、開始位置から自然な立ち姿のまま動かないリル。

 対して俺は、待っていることをすぐに理解し、剣を強く握る。


「じゃあ、行くよ」


 まずは、ここからだ。

 俺の基礎的なステータス値で足りているのか。

 トンと跳ねるように近づき、刃を背にして振り下ろした特大剣の初撃は、余裕をもって伸ばしたリルの片腕に受け止められる。


「……」


 僅かに、身体が沈み込む程度。

 リルの瞳はジッと俺を見据えたままで、ダメージはまったくと言っていいほど見受けられない。


(マジかよ……)


 想定していた結果とは違うも、まだ初撃だ。

 感触を確かめるように何度か剣を振り、すぐに現状を理解して一度距離を取る。

 うーん。

 どういうわけか、このままじゃお話にならないらしい。


 ――【身体強化】――


 となれば、ギアを上げるまで。

【突進】を織り交ぜ、速度を変えながら左右にステップを踏んで視線を散らし、這うように接近しつつ斬り上げる。

 対してリルは、すぐに反応して剣の棟を片足で踏みつけようとしていた。


 ドスッ!


「ぬおっ……」


 リルから漏れる、僅かな驚きの声。

 ここでやっと、少しだけ通った感触。

 これなら――――。




「  」



 まさに一瞬だった。

 剣を踏みつけたことで、リルの身体が宙に浮いたのは理解していた。

 そこから強引に身体を捻じり、そのまま真横から蹴りを放たれたことも。

 けど、認識できただけ。

 咄嗟のことで防御は間に合わず、スキルも挟めず。

 直後には俺の頬に強烈な痛みが走り、何度地面を転げたのか。

 気付けば俺は、赤茶けた土の上で大の字になって空を見上げていた。


「ロ、ロキ君!?」


 遠くから聞こえるリステの声。

 すぐ意識があることを示すように、俺は片手を緩くあげる。

 理解はできないが、理解できない何かがあることには気付けたのだ。

 このまま中断されてはかなわない。


 ザッ、ザッ、ザッ……


 こちらに向かって歩いてくる足音。

 そして、


「少しは、やる気になったか?」


 やや硬い声に、俺は言葉を返す。


「あー……なったなっ……、プッ」


 何か異物が咥内を転がる感触。

 寝ながら上空に吐き出せば、それは自分の折れた歯だった。

 治せるから問題無いにしても、口の中は血の味しかしないし……なかなか強烈だな、これは。


「リル。模擬戦なんだし普通はいきなり顔じゃなくて、腕とか胴体から様子を見るもんじゃない?」

「む? そうか……すまない。以前のことがあって、思わず顔を狙ってしまった」

「なるほど?」


 まったく意味が分からない。

 けど、今はそれどころではないので、折れた歯を咥内に押し込めながらとりあえず納得しておく。


 ――【神聖魔法】――『癒せ』


 さて……

 これはどういうことなんだろうな。


「ごめん、ちょっと頭ん中整理したくて、少しだけ考え事してもいい? 模擬戦はちゃんと続けるからさ」

「それは構わないが、何を考えるのだ?」

「リルのステータス」

「え?」


 なぜ、50%【分体】のリルがここまで強いのか。

 各スキルレベルのボーナス能力値を把握していれば、スキルツリーの未取得状況から、筋力や幸運などの種別は不明にしても、残りの推定加数は見えてくる。

 もちろんレベル10到達時に得られた【転換】のような、ボーナススキルの類や種族固有スキルなど、全てがスキルツリーに表示されているわけじゃないことくらい分かっていたが……

 それでも、あまりに予測値との差があり過ぎるという事実に驚きを隠せないでいた。


(魔物専用スキルもあれば、そろそろ自己バフ無しでも、50%なら張り合える可能性が高いと思ってたのに……まいったな……)


 先ほどの感触でいえば、【身体強化】を使ってやっと50%【分体】のリルと筋力で張り合える程度。

 敏捷に至っては【身体強化】を使ってもまだ負けている気がする。

 となれば、俺の見えていない要素。

 それらが想定以上に大きな影響を与えているということ。

 種族特性、初期ステの差、いくつあるかも分からない女神様専用スキル……

 少し考えただけでも要素がいくつか浮かび、的も絞れやしない。

 まぁ張り合おうとしているのがそもそも烏滸がましい話だし、神様相手ならしょうがないと割り切るべきなのだろうが。


「はは……はははっ……」


 いやいや、いいじゃない。

 頂きは遠く、遥か高み。

 だからこそ、やりがいもある。

 全てを暴き、その域に到達してみたくなる。


「何か、分かったのか……?」

「リル相手じゃ全然計算通りにいかないってのがよく分かった。ちなみに1個だけ、女神様専用の特別な補正みたいのってかかってたりする?」

「そんなの私に分かるわけないだろう。知っているとすればフェルザ様だけだ」

「だよねぇ~」


 予想通りの答えに苦笑いを浮かべながらも立ち上がり、パンパンと土を払う。


「お待たせ、これ以上は今考えてもしょうがないし、再開しよっか」

「あぁ、私はいつでも構わんぞ」

「ただ……ここからはごめん。想像以上にリルも、そのリルと張り合っていた裏ボスも強そうだから、本当に全力でやることになると思う」

「何を言っている? それを望んでいるのは私だぞ。先ほどからロキはこちらに刃を向けないようにしているが……所詮は【分体】、複製の器にそのような気遣いなど一切不要だ」

「でも、当たり前のように痛みは感じるでしょ?」

「ハハハッ! 私にとって、痛みがどれほど貴重か、ロキに分かるか?」


 普通であれば、理解に苦しむ考え方。

 でも戦の女神様だと思えば――、戦うことに飢えたリルであれば、理解できるような気もした。


「……分かるよ」

「ならば話は早いな。改めて言おう、全力で来い。持てる全てを私に見せてみろ。痛みを与えてくれるほどの熱い戦いを、私は期待しているのだ」


 リルの、熱の籠ったこの言葉を受け、一度意識を集中するように瞳を閉じる。


「ふぅ――……分かったよ。けど、お願いだから怖がらないでね」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 改めて始まったロキとリガルの模擬戦。

 当初の想定とは異なる展開に戸惑いながら、その戦いを5人の女神は見つめていた。


「ねぇ、リガルは大丈夫なの? さっきからずっと大笑いしてるけど……」

「あれは嬉しくてしょうがないのでしょう。双方が望んで戦っているのですし、水を差さないと約束した以上、中途半端に止めるようなことはできません」

「それより、消火担当を用意した方がいいんじゃないですか~? 闘いの場が小さすぎて、どんどん周囲の木に燃え移ってますよ~?」

「あぁもう……リアは【水魔法】で消火を、リステとフェリンは【結界魔法】で、外部に影響が出ないようこの一帯を広く覆ってください。私は万が一リガルが暴走した時のために備えます」

「ん」

「わかった」

「スキルを入れ替えてきます」

「フィーリルも気を抜かないでくださいね。明らかにリガルが劣勢とは言え、何が起きるか分かりませんから」

「もちろん、いつでも【神聖魔法】が使えるようにはしていますよ~」


 とは言うものの、フィーリルの声に心配や不安の色はほとんど含まれていない。

 リガルの劣勢。

 アリシアの言葉は誰が見てもその通りであり、ロキが戦い方を大きく変えてからは幾度となく殴り合いに発展するも、ダメージはリガルの方が大きく度々吹き飛ばされていた。

 加えて魔法だ。

 2本の白い炎柱を従えたロキは、試すように様々な魔法を展開していく。

 対してリガルは避けるしかまともな防御策がないため、広範囲魔法の連発により距離を空けても追い込まれていた。


「あの身体を覆っている黒いのって魔力だよね?」

「でしょうね~お風呂でよく練習している【魔力纏術】でしょう~」

「あの燃え盛るような揺らめき方は、それだけじゃないような気もしますが……」

「終わったら詳しく教えてもらいましょう。スキルが実戦でどう使われるのか、私達がこのような場面を直接見られる機会などないのですから、これも良い勉強になります」

「たしかにー!」

「私、あの姿が消えるやつ、知りたい」


 眺めながらも様々な疑問が浮かび、鎮火を終えたリアも交ざって観戦組のスキル談義に花が咲く。

 だが、リガルの精神面を心配する声はあっても、【分体】である身体を心配する者は誰もいない。

 自然と皆の姿はロキを追い、その姿に感想を漏らす。


「本当に、強くなりましたね……ロキ君は」

「リガルにやられたのはちょっと前なのに、今は逆転しちゃってるもんね」

「それだけ強くなるための努力をし続けたのでしょう」

「私はもう十分過ぎるくらいだと思いますけど、あの子はどこまでいけば満足するんですかね~」


 フィーリルの本音。

 ロキには早く落ち着いてほしい。

 地図作りや各地の魔物討伐など、世界を巡る旅には反対しないが、間違っても裏ボスの討伐などというリスクある行動を取ってほしくはなかった。

 目的や考えに違いはあれど、それぞれがこの言葉に同意する中、否定的な意見を言う者が一人。


「ロキは、これでリガルの……私達の強さを求める。そんな気がする」

「私達の? つまり、神界に身を置く本体の、ということですか?」

「そう。さっき、戦闘が中断する直前、ロキは"リルのステータスについて考える"って言ってたから」


 リアが観戦当初に持ち込んでいたのは【聞き耳】だった。

 作られた模擬戦場は常識的に見ればかなり広く、端で観戦していたのでは会話などまったく聞き取れない。

 その中心で二人はどのような会話を交わすのか、過去に一度やらかしているリガルがおかしな発言をしないか。

 その確認のために持ち込んでいたが、結果的にロキの思いがけない発言をスキルが拾った。

 強さが可視化された世界に一人身を置くロキであれば、興味を示すのは自然の流れ。

 決して悪いことではないが……


 ロキの性格と、そして強さへの異常な拘りを考えた時。

 リアの言ったことが現実味を帯びそうな気がして、これはまだまだ強さへの欲求が落ち着くことはないだろうと、話を聞いた4人は嘆息を漏らした。
448話 模擬戦が終わって

「はぁ……はぁ……」


 荒い息のまま地面に寝そべり、収納から腕時計を取り出す。

 長いのか短いのか、本気でやりあってから時間は15分ほど経過していた。

 あともう少しは粘れるとしても、使用し続ければ20分辺りが限界ってところか?

 どうしても調べておく必要があった、【闘気術】まで併用した自分の活動限界を概ね把握したところで、ドドドドッ、と。

 誰かが勢い良く走ってくる足音が聞こえてくる。


「ロキー! 最高だったぞー! もう、ほんとに、最高だったぞー!!」

「ぶへぇ!」


 疲れ果てて寝ている俺に、なぜか飛び込みながらのヘッドスライディング。

 いやいや、いい加減分かっていたけど、バカなのかな? このエルフ神は。


「ちょっと! 今死にそうなんだから休憩させてって! ってか、なんでリルは全然疲れてないの!?」

「む? 新たに作ったら疲れも消えた。ハハハッ! 便利なものだな、【分体】は!」

「マジかよ……ちなみに、痛みは? あと精神的にダメージを負ったとか、そんなのはないの?」

「ないな。先ほどの【分体】が消失したと同時に痛みは消えた。模造の器なのだから当然だろう?」

「あぁ、そう……」


 普通なら強い痛みを感じ、死が迫るほどに追い詰められれば、心に大なり小なりのダメージを追うものだろう。

 少なくとも恐怖心くらい芽生えると思うが、今のリルを見てもまったくそれがない。

 まぁ50%でこれなのだから、スキル制限無しのリル本体とガチンコでやろうものなら、間違いなくボロ雑巾にされるのは俺だ。

 そんな相手に遊びの延長でやったとなれば、恐怖心なんて芽生えないのかもしれないけど……


「ロキ君、大丈夫そうですか?」


 声の方に視線を向けると、観戦していた5人がこちらに向かって歩いてくる。


「あぁ、大丈夫だよ。体力が尽きかけたくらいで、傷は様子を見ながら回復させてたから」

「まさかリガルを倒しちゃうなんてね~これで参考になったの?」

「そりゃ凄いなったよ。リルもみんなも、わざわざ付き合ってくれてありがとね。ここまで本気でやるなんて思わなくて、迷惑掛けちゃったみたいだし」


 そう言いながら周囲の森を見渡す。

 全然範囲内に収まってねーとは思いながらも、後でなんとかすればいいかと思って止められなかった。


「用意した空地じゃ足らなかったみたいですね~」

「お陰で私が消火して回った。だからお礼、あの消えるやつが何か教えて。炎の竜巻も」

「それだ! 私も気になっていたし、実体の無いロキの姿が明後日の方向に現れたりもしただろう! もうなんなのだ!? どういうことなのか説明してくれ!」

「私も気になることが……魔力が炎のように強く揺らめいていたのは――」


 なぜか質問攻めに合い、戸惑う俺。

 いや、スキルに興味を持つことは素晴らしいことだと思うんだけど、一斉に問われては対処できない。

 それにまずボロボロの鎧を脱いで、ゆっくりお風呂に入りたい。


「ロキ君は激闘を終えたばかりなのですよ? リガルのように消せば都合良く全てが回復するなんてこともないのですから、まずは休ませてあげることを優先しなくては……」

「リステ……!」

「はーん!? 終わったら教えてもらおうって言いだしたのリステでしょうがー!」

「終わって"すぐ"とは言っていませんが? 夫の気遣いもできないようでは第一夫人失格でしょう」

「はぁああーん!? 私はスキルのこと聞いてないし!!」

「あの、帰って風呂入ってきてもいいかな……?」


 なんで喧嘩してるんだろう……

 俺の呟きは、鬼瓦みたいな顔してハンハン言ってるフェリンの声で掻き消された。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 時間はもう深夜ということもあり、下台地は仲魔の二人以外就寝中。

 なので俺は久しぶりに上台地のお風呂を借りていた。

 全身に感じる疲労と違和感。

 疲れ切った身体に、熱い湯とこの景色は染み渡る。

 初めてまともに【闘気術】を使ったが、あれはたぶん体力の消耗というより、体力を含めた身体の消耗という表現が正しいんだろうな。

 筋肉痛のような痛みも回復魔法で緩和できるけど、どうも気怠さが身体の芯に残るような、連続して使えないことを自然と理解できるくらいには副作用がはっきりと身体に表れている。

 うーん、久しぶりにメイちゃん家の滋養強壮剤でも飲んでみるかなぁ。

 そんなことを考えながら改めて一人であることを確認し、ステータス画面を開いた。


(はぁ、どうしよ……)


 リルが最後の最後まで笑いながら襲ってくるので、止め時が分からなかった、というのもあるが……

 声が止んだことに気付いた時には、分体が煙のように青紫の魔力へと変化しており、ほどなくして俺の視界にはいつものアナウンスが。

 そこで俺の【手加減】スキルがレベル9から10に上昇したことを知った。


 予想なんてしていなかった――、と言えば嘘になる結果だ。

 模擬戦とは言え再び戦うことが分かっていたのだから、一度や二度は展開の一つとして想像したことくらいある。

 が、可能性はかなり低いと思っていた。

 なんせ相手は【分体】で、本人の魂が一時的に宿っていたとしても、その本人が死ぬことはない。

 俺が経験値を得たとしても、いったいその経験値はどこから奪ったんだ? という話になってしまう。

 それとも俺が勝手に絶命条件から『奪っている』と認識していただけで、実際は倒した対価であり報酬として『得ている』だけなのだろうか?

 もしそうであれば、いつの間にか解放だけはされていた【死霊術】でも使い、悪党相手に極悪コンボを決めるなんてことも――。


「邪魔するぞ」

「うん……んんん??」


 振り返ったら、リルが横にいた。

 酒とコップを二つ持っているのはいいが、なぜか服を着ておらず、背中を向けたまま変な歩き方で風呂に入ろうとしていた。


「ちょい! 何やってんの!?」

「今日はそういう気分だったのでな。それに風呂は以前一緒に入っているだろう?」

「それは、確かに、そうだけど」


 そう言えば、以前もリルが何を勘違いしたのか、いきなり風呂に乱入してきたことはあった。

 だから今が問題ないということではないけど……

 まぁいいか。

 俺も確認しておかなければならないことがあるのだから、この際ちょうど良い。


「うぇ~強っ! これウィスキーじゃない?」

「種類など知らん。ロキが前に王宮の土産で持ってきてくれたモノだぞ?」

「あ~ヴァルツのか。ならたぶん高いヤツだわ。そう思うと、うん、ちょっとだけ、美味しく思えてきた、ような気も……」


 リルからお酒を受け取り、チビリチビリと舐めるように口をつける。

 本当に気がするだけだな。

 地球にいた頃だってストレートで飲むことなんてなかったのに、目の前のエルフ神はグビッと水のような勢いで飲みながら、満足げな様子で今日の模擬戦を語り始めた。

 その時々でどう感じ、どう動いたのか。

 他人が聞けば眠たくなるような話も、当事者であり強さに興味のある二人が話せば自然と会話は盛り上がる。


 そして話は次第にステータスや詳しいスキルの内容へ。

 リルにとってもたぶんここが一番知りたいところで、だからこそ我慢できずに風呂場まで乱入してきたんだろう。


「なるほどな。様子を窺うように仕掛けてきたのは、私の『能力値』を判別するためか……結局数値化はできたのか?」

「残念だけど何も方法が無さそうだから、俺を基準にかなり大雑把な感じで割り出すしかないね」

「そうか……ちなみにロキの予想だとどの程度になる?」

「ん~当初は今の俺と50%【分体】のリルが数値的には近いかなくらいに思ってたけど、実際はどうだろ……たぶん予想の倍くらいはあるんじゃないかな」

「にしては途中から圧倒されるくらい強く感じたがな」

「そりゃ自己バフ全開で挑んだもの。【身体強化】の詳細くらいなら源書の19番に載ってたけど、リルは【身体強化】とか【闘気術】の上昇倍率理解してるの?」

「い、いや、知らん……だから詳しく教えてほしいのだ! あとあの姿が綺麗さっぱり消えるやつとか、炎の柱とかも!」

「リル、いきなり立たない! 絶壁がそそり立ってっから!!」

「んなーっ!?」

「スキルはみんなも知りたがってたし、どうせ伝えるなら全員いるところの方がいいでしょ。まだ暫くは寝ないから、なんならお風呂から上がったあとでもいいし」

「ほ、ほんとか!? よし、ならば皆を集めておこう!」


 そう言って風呂を出ようとするリルに待ったをかける。

 肝心の俺の用事が終わっていない。

 これはリルだけがいるこのタイミングの方が聞きやすい。


「リル、その前にかなり重要な確認」

「む?」

「リルの【分体】を倒したら、【手加減】のレベルが上がった」

「え?」

「だから確認してほしい。今、リルの【手加減】ってどうなってる?」


 この言葉に、最初は意味が分からないと言わんばかりにただ首を捻るだけだったリルだが、次第にその表情は青褪めていく。

 俺の特性を知っているのだから、言っている意味もすぐに理解したのだろう。

 そして人形のように表情が消えて暫し――。


「な、無いんだが……?」

「マジか……」


 俺としても反応に困る、衝撃的な回答が飛び出してくる。


「え? えっ? これは、つまり、ロキが私の【手加減】を持っていったということか?」

「そうとしか考えられないよね……狙ってやったわけじゃないんだけど、ごめん」

「い、いや、それは分かっているからいいのだ……ただ、これはどうすれば……」


 神が一つとは言え、スキルを丸ごと失った。

 その動揺は相当なもので、リルの思考がまともに働いていないことはすぐに分かった。

 俺がアドバイスできることなんて少ないけど……


「俺やこの世界に住んでいる人達はスキルポイントが存在するんだから、もしかしたらリルにだって存在するのかもしれない。そうしたらリルは魔物を倒しているわけだし、祈祷のようにスキルポイントを消費して取得し直せるんじゃない?」

「な、なるほど」

「それにリステは以前、【地図作成】を皆に分け与えたって言っていた。そういうことが【手加減】に対しても可能なら、どういう仕組みか分からないけど、スキルはある程度のレベルまで戻せるかもしれない」

「そうか……そうだな。ならば皆にも早急に伝えてこよう。事情を先に説明しておくから、ロキもあとで来てくれ」


 そう言って風呂に入ったまま【分体】を消していくリル。

 その姿を見送りながら、俺は俺でどうしたものかと。

 風呂の縁に座り、冷たい夜風を浴びながらボーッと考えるも。


「女神様からも、【分体】にセットしたスキルの経験値が得られてしまう……ということは、女神様専用スキルも――……」


 咄嗟に浮かんでしまった考えをすぐに否定しようと、俺は酔いを醒ますように頭を強く振った。
449話 自白

 意外だな。

 そう思ってしまうほど皆の軽い反応に戸惑いながら、リルとの模擬戦で使用した魔物専用スキルを発動していく。


 ――【氷結息】――


「「「おぉ~!」」」


 女神様からもスキルを得られる――、この事実を重く受け止めていたのはどうやら俺だけ。

 一番危なっかしいリアも、今は普段見られないほど子供っぽい表情をしており、宙に煌めく氷の結晶に自前の火炎息を吹きかけていた。

 様子がおかしいのは隅で肩を落とし、それでもこちらの様子を食い入るように見つめているリルくらいのものだ。


 ――【陽炎】――


「「「おおー!」」」


 別にスキルを完全に失ったわけじゃないんだけどね。

《デボアの大穴》で蟻を大量に倒し、警護と言いながら上台地でも周辺のAランク魔物を倒し、今現在もユニコーン肉の調達という名目で日々魔物討伐に励んでいるのだ。

 俺の予想していた通り、リルはそれなりのスキルポイントを所持していたようで、祈祷でスキルを授けるのと同じようにアリシアが試したら、あっさり【手加減】のスキルレベルが9までは上昇したらしい。

 さすがにスキルレベル10は無理だったみたいだけど、ここまで戻れば支障はないだろうし、未来永劫を生きる神様ならあとはどうとでもなるだろう。


 ではなぜ、しょげているのか。

 それは今回のような『本気の模擬戦』が禁止されてしまったからだ。

 当然と言えば当然の話。

 今回の一件はしょうがなく起きてしまった事故だが、度々起こしていい内容ではない。

 やればまた同じことが起こり得るわけだから、今後はやってもお互いが【手加減】を用いた『程よい手合わせ程度』という意見で話が纏まっていた。

 それでも模擬戦を完全に禁止しなかったのは、俺が仕入れてくる魔物スキルや既存スキルの活用法に興味があるからだろう。


 ――【透過】――


「「「おぉーー!!」」」


 この反応を見ていると、そんな気がしてしまう。

 だからかな。

 予想外のこの緩い雰囲気に後押しされて、伝えるなら今かなと。

 そう思ってしまったんだ。

 まだ不確定な部分も多いけど、確実と言い切れる部分もある。

 今の段階で分かっていることを、正直に。

 そんな思いから、自然と言葉が吐き出された。


「そう言えば、最初の頃に話した2つの空白スキルのこと、覚えてる?」

「ええ。詳細がいろいろと分かるステータス画面と、年齢が若返ることですよね?」


 姿を現した俺に一早く気付いたアリシアが答える。


「それなんだけど、一つが若返りに関係するスキルじゃないっぽいことが最近分かってきた」

「え? じゃあ、なんだったんですか?」

「今回の件にそのまま関係すること。戦争が終わった辺りからなんかおかしいなって思って検証してたんだけど……魔物とか人からスキル経験値を得られる能力がもう1つの隠れたスキルかもしれない」


 こうは伝えるも、誰も大きな反応を示すことはない。

 俺が魔物からも人からも、倒せばスキル経験値を得られることなど今更な話だからな。


「でも子供に戻っちゃったんでしょ? 若返ってはいるんだよね?」

「うん。だから予想だと、若返りは年齢を戻したという事実があるだけで、スキル化されていなかったんじゃないかな」

「なんで、そう思ったんですか~?」

「この世界のスキルには、必ずレベルが存在するんだろうなってことが分かってきたから」


 俺をペシペシと叩きながら、砂を生み出して強引に発動させた【砂硬燐】で遊ぶフェリンとリアも首を捻る。


「んん~?」

「それが、何か関係あるの?」

「あるよ。ステータス閲覧のスキルは、レベル上昇と判断できる追加機能が後から発動しているから、まず間違いなく隠れたスキルの一つだと思う。逆に若返りは想定していた通りの時期に身長が伸びたし、一度年齢を戻された後も俺の身体に作用し続けている感じがしないんだよね。望んだ年齢に戻れたからてっきり隠れているのは吸血人種の持つ【魔力回生】かと思ってたけど、こないだ願ってみてもまた若返るようなことはなかったし」

「なるほど。ということは、人や魔物からスキル経験値を得られる方には、何かしらスキルレベルが上がったと分かる特徴があったということですか」


 アリシアのこの言葉に、俺は首を横に振る。

 そこまで判別できていれば確定だし、説明も楽なんだけどね。


「まだそこまでは。だから現状は消去法でこの可能性が高いって程度かな。デバフ――効果が強い反面、大きなリスクを抱えるような特殊スキルもフェルザ様はこの世界に用意しているみたいだから」


 そう伝えた時、ここでリアの動きがピタリと止まった。


「悪影響、出てるの?」


 暗く、それでいて綺麗な瞳が俺を見据える。

 この問いが出てくるということは、俺の記憶や思考から無理に読み取ろうとしたりはしていなかったのか。


 ふぅ――……


 ならば、猶更だな。

 怯むなよ、俺。

 自分がビビっていることくらい百も承知だが、だからと言って後に回せば回すほどこの手の内容は伝えにくくなる。

 初めて魔物からスキルを得られた時と同じ、事実を伝え、可能性を伝え、その上でどうすべきか。

 皆で考えていけばいい。


「こないだの戦争の時、自分勝手に奪おうとする多くの悪党を殺して、その時に欲求っていうのかな。もっともっとっていう、衝動みたいなものを強く感じた」

「ロキが、強さに拘ってるからじゃなくて?」

「その可能性もなくはない。それに平気で人に迷惑を掛けるような悪党って大嫌いだし」

「もしかして、こないだ私に【獣血】のスキルを聞いてきたのもそういうことですか~?」

「うん。そっちはスキル所持者にも話を聞けて、今はもうほぼ白かなって思ってるけど」

「んん? 結局、どういうことなの? 難しくて全然分かんないんだけど!」


 能天気に首を傾げるフェリン。

 少し重苦しくなってしまったからこそ、フェリンの存在が気分を少し楽にさせてくれる。


「確定ではないにしろ、隠されたうちの1つが倒した者のスキル経験値を得られる特殊スキルの可能性があり、そのスキルにリスクがありそうなことも分かってきた。そしてスキルレベルが存在するとなれば、今後リスクが増す可能性もあると、そういうことでしょう?」

「さすがリステ、その通りでございます。もっと確定してから伝えても良かったんだけど……まだ曖昧な部分も多くて、分かりにくくてごめんね。伝えるなら早い方が良いかと思って」

「その方が良いに決まっている。だから私はロキを信用しているのだ」

「うん。私も!」

「それは私も同じです。ただ、今後はどうやってその判別を?」

「準備はしてるよ。数十人程度の野盗を討伐したくらいじゃ何も変わらないけど、3000人を超えた辺りから少しずつ衝動が強くなることはこないだ確認しているし、8000人の時の衝動ははっきりと記憶している」

「8000人……想像以上に多いですねぇ~」

「もちろんそこまでの数を相手にするなんて、戦争絡みでもなければまず起きない。けど起きた時にその衝動が強くなっていれば、もしくは落ち着くまでの時間が長くなっていれば、それはスキルレベルが上がっていることに繋がるかなって」

「うん、ちゃんと備えて準備しているならそれでいい」

「そうだな。それほどの争いが起きなければ一番だが、そう都合良くいくとも思えん」

「戦争はいっぱい起きちゃってるし、ロキ君はもう守る人達もいる王様だもんね」

「今は様子を見るしかありませんか……ロキ君、進展があればまた教えてください。そこから皆でどうするかを考えましょう」


 抱えていた厄介な悩み。

 中途半端なタイミングではあったけど、ようやく打ち明けられたことで肩の荷がグッと軽くなった。

 皆が信用してくれているし、俺も皆を信用している。

 なら大丈夫だ。

 絶対に道を踏み外したりなんかしない。

 絶対に。


 俺はそう、自分自身へ言い聞かせるように、心の中で呟いた。
450話 見学のつもりが

 翌日。

【昼寝】による短時間睡眠で気持ち良く目覚めた俺は、秘密基地で椅子をギコギコと傾けながら、今後をどうするか思案していた。

 当初の予定では50%【分体】のリルをあっさり倒し、これなら敵の強さに多少のブレ幅があろうと問題無い。

 そのくらいの余裕と自信を持って裏ボスに挑む予定だったのだ。

 が、結果は昨夜の通り。

 予測は外れ、勝てはしたけど余力がさほどないという、そんな際どい勝利になってしまった。

 たぶん【闘気術】を外せばかなり危うい。

 速度負けして一方的に死ぬまでボコられるんじゃないか。

 別のスキルで対処できる部分も当然あるが、昨日の結果を思い返せばそんな気さえしてしまう。


(キングアントが裏ボスの中でどの程度になるのか、そんなのスキル次第だよな……)


 分体のリルと近い水準のキングアントが、表ボスとは隔絶した強さを誇る理由はもう分かっていた。

 それは自己バフ――【身体強化】を敵が持っているかどうか。

 他のスキルも優秀だったのは記憶しているが、何よりも大きいのはここだ。

 他に【身体強化】を所持していた魔物は、雑魚、表ボス含めて今までキングアントしかいないのだから、そりゃレベル云々以上に飛びぬけて強くもなるだろう。

 これが裏ボスの特徴なのかは分からない。

 持っていなければ逆に楽勝の可能性も出てくるが……

 死ねば終わり。

 出現させて、倒せなかったとしても大問題になる可能性がある。

 となると、慎重に慎重を重ねるくらいの方が丁度良い。

 そんなことは分かっちゃいるが。


 トントントントン……


 机を弾く音だけが土臭い、だけどなぜか落ち着く洞窟の中に響き渡る。

 どこで自分自身にゴーサインを出すか。


(ん~アレはどう考えても別枠な気がするけど……そろそろ復活していそうなガルグイユを倒すついでに、もう一度腐敗のドラゴンを見学してみるか?)


 そう思い、俺は下台地で皆と朝食後、フレイビル北部の巨大な街、ロズベリアに飛んだ。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 たぶん、高い確率で俺は動けなくなる。

 ならついでに時間を有効的に使うか。

 立ち寄ったのはその程度の、ほんの気紛れだった。


「ありがとうございます。では二度目ということで、早急に荷物の準備を進めましょう。あと、こちらも――」


 ハンターギルド内にあるギルマスの部屋。

 目の前で揉み手していたオムリさんから笑顔が消え、スッと手で押しながら、重ねた数枚の木板を机の上で滑らせる。


「あっ……」


 その内容を見て、思わず声が漏れる俺。

 そういえば、自分から頼み事をしていたというのに、この件は頭からすっかり抜け落ちていた。

【暗記】のレベルがかなり高くなったことで、物覚えは間違いなく良くなったと自覚していたが、まだまだ完全にはほど遠いな。


「いろいろと調べてくれたんですね。ありがとうございます」

「それはもう、ロキ王の頼み事とあれば、使える人脈も、調査に掛かる費用も惜しみませんよ」

「は、ははっ……ちなみに、ロッジを含む反対派を追いやったのは『レサ一家』と書かれていますけど、これは何かの団体なんですか?」

「表向きは国内最大の奴隷商館を運営している、ロズベリアの裏を担う組織ですね。本人達は"必要悪"などとのたまっていますが、ここ数年でその行動もかなり過激になってきておりまして……それでも必要と感じているのは利用する一部の権力者くらいなもの。真っ当に暮らす民にとっては害悪でしかありません」

「なるほど……脅して鉱物の流通に制限を加えさせ、反対派の家や鍛冶場に火を放った……にも拘わらず、実行犯は捕まらず……」


 読み上げながら木板を眺めていると、補足するようにオムリさんが口を開く。


「正確には目撃者がいたので、一度捕縛はされたものの、証拠不十分で無罪放免になった、ですね」

「……貴族も絡んでいると?」

「それはなんとも言えません。この件に限らず、罰を負うべき者が逃れることなど多々ありますから。金が動けば犯した罪も宙に浮く――、悲しいですが、そんな国なのです」

「どこも似たようなものでしょう。しかし、肝心の『依頼者』は分からずですか」


 レサ一家が直接的に鍛冶師であるロッジ達を恨むとは考えにくい。

 裏稼業を生業にしているのならば、必ず『邪魔だから潰せ』と依頼をした人物がいそうなものだが、これが分からずとされていた。


「末端のみならず、組織内でそれなりの立場に就く者でさえ情報を持っていないようでした。となれば本当の上層部……それこそ頂点のシャイニー・レサしか知らない可能性もあります」

「……ちなみにコレ、潰しても良いんですよね?」


 言いながらもオムリさんの顔を眺める。

 利用するのは一部の権力などと言っていたが、Aランク狩場を有するこれほど大規模な街のギルマスを務めているくらいなのだ。

 オムリさんも相当な権力者であることは間違いないし、話を聞いていても内部から情報を探っているので、彼自身も利用する側であった可能性が高い。


「もちろんです。ロズベリアの民にとっては害にしかなりませんから」


 にも拘らず、随分あっさりと潰すことに了承する。

 うーん、オムリさんが押したい裏組織でも別にあるのか?

 この人の場合、表情からはあまり感情が読み解けないし……

 相変わらず腹が黒そうというか、やっかいなおっさんだわ。

 まぁ、こちらに損なく目的が果たせればなんでもいいが。


「あぁ、ただ」

「ん?」

「ロキ王はそれこそアースガルド王国の王なのですから、討伐依頼も出ていない他国の組織をいきなり叩けば国際問題に発展しかねません」

「……」

「なので一応この件、我が国の王に伝えられた方がよろしいのでは?」

「えぇ~……」


 この時、手を揉みながら俺をにこやかに見つめるその表情から、オムリさん――いや、揉み手ハゲの狙いがなんとなく見えてきたような気がした。
451話 フレイビルの王

 フレイビル王国の王都『グラジール』。

 高台に聳える白亜の宮殿に向かうため、真っ直ぐ延びた大通りをトボトボと歩きながら、本日何度目か分からない溜息を漏らす。


(はぁ~しんど……)


 ゴリッゴリの敵国なら全員肉団子にしか見えないから、何も気にならないし、気にもしない。

 ハンスさんのような異世界人が治める国も、まだ親近感が湧くから許容できる。

 しかし、こうも接点の薄い他国の宮殿となると、向かっているこの段階からもう心がしんどい。


 パンッ!


 頬を叩いて気合注入。

 舐められるから堂々としろと、場慣れしたのか以前よりだいぶ肝が据わり始めたダンゲ町長の激を思い返し、ピンと背筋を伸ばして正面を見据える。


「すみません。こちらの王様に会いたいんですが」

「内容によっては謁見の予約を入れることは可能だが……何用か?」


 頭の天辺から足の爪先まで、舐めるように視線を向けた後は、周囲を軽く見渡す兵士の男。

 今ある情報から俺が何者かを判断しようとしているのだろう。

 背が大人の水準になってきたことで、ギリギリ最低限の対応はされているっぽいけど、歩いてここまで来ている時点で反応はかなり渋い。

 そりゃ貴族や他国の王様が、従者も無しに一人ノコノコと歩いて来るわけないもんね。


「これを。別件の用事もあってですが、立ち寄ってほしいと、そう書いてあったので」

「え?」


 渡したのは、以前うちに届けられたフレイビル王家からの書状。

 まぁ内容は詫び状みたいなもんだが、これで滞りなく話も進むだろう。

 問題は即日会えるのか、それとも後日になるのかだが――。


「さ、さっ、先ほどは! 大変失礼致しました! 我らが王はすぐにでもとのことで、ささっ、どうぞこちらに!」


 5分ほど待っていると派手な鎧を着たおっさん達が現れ、そのまま中へ案内される。

 そして、豪勢な待合室で少しだけ待機後、案内された部屋には二人の男性が。

 一瞬、仰々しい謁見の間じゃなくてホッとしていると、この人が王様だなと分かる身なりをした|小《・》|さ《・》|な《・》|男《・》が歩み寄りながら右手を差し出してくる。

 身長は2ヵ月前の俺と同程度、雰囲気からしても初めて見る人間とドワーフの混血だろう。

 白髪の混じった灰色の髭を見ればそれなりの年齢なんだろうけど……

 目の前の男は様々な感情を隠すように、随分と似合わない笑顔を作っていた。

 届けられた書簡には歓待なんて書かれていたのに、とてもそんな雰囲気ではないな。


「よくぞ来てくれた。儂はオスカー・ロルフィオン・フレイビル。オスカーと呼んでくれて構わない」

「ロキです。突然立ち寄ってしまってすみません」

「とんでもない。こちらとしては一刻も早くそなたに詫びたかったのだ。ヴァルツの件、戦争を止めるような手立てが打てなくて申し訳なかった」


 この言葉に続き、オスカー王の背後に控えていた老人も、一歩二歩と前に出て深々と頭を下げる。

 こちらはずんぐりむっくりしているけど人間だな。


「ロズワイド侯爵です。ロキ王とラグリース王国の関係性も知らず、安易にヴァルツからの戦争参加要請を通そうとしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

「いえいえ。フレイビルは不戦を選択されていますし、傭兵ギルドからの指名依頼も、後から知ったということもあって何も影響はありませんでしたから」


 あの戦争でフレイビルがやらかしたとは思っていない。

 それが伝わったのか、数度の謝罪が繰り返された後はロズワイド侯爵が部屋を退室していき、10畳程度の落ち着いた部屋でオスカー王と二人だけになった。

 うーん、ここを監視するような存在すらいないっぽい。

 だから、


「護衛とかは大丈夫なんですか?」


 今までの僅かな経験からくる、素朴な疑問。

 これに対し、


「クハハッ、本気で儂を殺ろうと思ったら護衛なんぞ何も関係なかろう? 無駄なことは好まん主義でな」

「奇遇ですね。僕もですよ」

「それに人払いをした方が本音で語り合える」

「……」


 この言葉と同時にスッと笑顔が引いていき、まるで巌のような、巨大な存在感を示してくる。

 覚悟の籠った、怖い顔だ。

 いったい俺にどのような感情を持っているのか。

 他人事だが、やはり王になるような人物は良くも悪くも何かが違う。


「儂に何かしらの用があって訪れているのは重々承知しておる。しかし先にこちらの用件も2つ片付けさせてもらいたい」

「なんでしょう?」

「単刀直入に聞こう。我が国と同盟を組まれる意思はあるか?」


 会えば出てくるだろうなと思っていた問い。

 だからこそ、ノータイムで答えを返す。


「申し訳ありませんが、敵になるつもりも、味方になるつもりもありません。その上で、お互いが平和であり続けられればいいなと、そう思っています」

「やはり、そういう回答になるか」


 相手も予想はしていた。

 そう言わんばかりに、懐から取り出した1枚の羊皮紙を机の上に広げる。

 ヘディン王が各所に送った手紙だな。

 ということは、もう1つの用件は地図に関連すること――。

 そのように想定したものの、まったく違う話がオスカー王の口から飛び出す。


「ならばお互いに鉱物売価を合わせないか」

「え?」


 ……どういうこと?

 予想外過ぎて固まる俺に、もう数枚の羊皮紙を、今度は俺にはっきりと見せるように滑らせてくる。

 黙って目を向ければ、最初の1枚には各鉱物それぞれの取引価格が記載されていた。

 んん??


「ヴァルツほどではないにしろ、大陸中央が苦しいのはどこも同じだ。うちとて例外ではない。だからこそロキ王が不定期とは言え始動してくれた転送物流には大きな期待と感謝をしておる。が……鉱物の売価、こればかりはさすがに看過できぬ。合わせるくらいならアースガルドにとっても損な話ではなかろう?」

「売価……あぁ、なるほど」


 複雑な感情を抱えていそうな雰囲気を醸し出していたのは、同盟国を潰した張本人が訪れたせいだと思っていたけど、ここでようやくそういうことかと理解する。

 クアド商会の存在がフレイビルにとって邪魔――、たぶんそういうことだろう。

 なんせうちは、セコい俺が悪党の資産を根こそぎ回収しようとしてしまうので、武具を含めた鉱物類を大量に抱えている。

 加えて《夢幻の穴》からも様々な高純度鉱物を仕入れられたわけで、クアド商会にはまだまだ尽きないくらいの鉱物ストックが溜まっていた。

 そして、それらを狙い、西側諸国の商人が買い求めに来ているのだ。

 過剰過ぎる在庫を解消しようと動いていたので、うちの売り捌いている価格がフレイビルより安くても驚きはしない。

 クアド商会が西側の鉱物需要を一部塞き止めているだけでなく、価格面で徐々に周辺国の商人に影響を及ぼしているのかもしれないとなると……

 そりゃあ、《クオイツ竜葬山地》の魔物素材もあるとは言え、鉱物とそこから生み出される武具が大きな産業になっているフレイビルからしたらかなりの痛手だろう。


「うちの財務担当に伝えておきますよ。金には煩いので、問題なく同意は得られると思いますけどね」

「本当か!?」


 勝手にクアドを財務担当にしてしまったが、あそこがうちの金庫みたいなものだからな。

 改めて重さを目安にした各鉱物資源の価格一覧を眺め、アダマンチウムまでしか記載がないことに内心ほくそ笑みながらも頷く。

 大陸中の鉱物需要を賄えるなんてまったく思っていないので、値段を合わせてよりこちらが得になるならそれでいい。

 そう思いながらもう一枚の羊皮紙に目を通し――、そこで俺の動きが止まる。

 もしかして、問題になっているのはこっちか?

 そうするとマズい……こちらの値付けは完全にパイサーさんだし、俺も決して同意はできない。


「ただし、既製武具――まぁ重視しているのは上位素材を使用した物だと思いますけど、それらの販売価格をそちらに合わせるのは難しいですね。失礼ながら、ロズベリアの主要工房『バルニール』の値段設定は高過ぎると、一顧客になろうとした僕自身が思っていますから」


 そう伝えれば、本命はこちらだったと言わんばかりに、オスカー王は大きく顔を歪めた。
452話 許可、頂けますか?

 傭兵連中から剥ぎ取ったモノなので、決して数が多いわけではない。

 それでもダマスカス製の武具。

 それにボス素材を含めた|Bランク《5等級》から|Sランク《3等級》のレザー防具なんかは、【付与】を施してオークションに流せば本命装備になり兼ねないため、逆に使い道もなく中古防具として売り物に回していた。

 たぶん、使者が書簡を持ってベザートを訪れた際、クアド商会にも立ち寄ってこのクラスの武具が売られていることを知ったのだろう。

 だが……この流れ、俺としては丁度良いか。

 果たしてこの王は、バルニールをどこまで知り、どう捉えているのか。

 俺がここへ訪れた目的を告げれば多少は見えてくるはずだ。


「そろそろ、僕がこちらに訪れた目的もお伝えしておきます。うちの国にバルニール設立時の煽りを受け、何者かに店を燃やされた者がおりまして」

「……」

「僕はそんな下らないことを考えた大元を叩きたいんですよ。なので手始めに、実行犯として名前が挙がっている『レサ一家』に接触、内容によっては潰す許可を頂けませんか? もみ消されているのか、もしくは事実でないのか、傭兵ギルドに手配書すら回っていないようですので」


 そう言いながら、先ほどのお返しとばかりに木板を机の上で滑らせた。

 まるで俺だけでなく、王にも見せるために作られたような、サイン入りの報告書。

 これがオムリさんの狙いなんだろうけど、見せた方が手っ取り早いからな。


「クク、クハハッ、ロキ王、大元を叩きたいというのは本気か?」

「もちろん。心当たりはあるのですか?」

「当然だ。確証はないが、十中八九は異世界人マリーだろう。だからこそもう一度問う。それでも、本気で叩くつもりか?」

「そりゃ叩きますよ。マリーがバルニールをプロデュース――まぁなんというか、生み出した張本人であることは把握していますけど、そうであってもなくてもアレは叩き潰します。と言ってもご存じの通りマリーの能力を考えれば、そう簡単には捕まえられないでしょうけどね」


 すると数秒、目を皿のようにして固まったあと、オスカー王は急に大笑いし始めた。


「くっ、くははっ……! コイツは傑作だ! 異世界人同士がここでも叩き合うか!」


 妙に棘のある言葉だな。

 それは西のことを言っているのだろうか?

 だとしたら心外だけど、傍から見れば同じようなことなのかもしれない。


「異世界人だからってわけじゃないです。僕はマリーが行く先々で金のために迷惑を掛けまくってるから潰そうと思っただけですけど、オスカー王は迷惑と感じなかったんですか?」


 そう問えば、逆鱗にでも触れたかのようにオスカー王は怒声を発する。


「バカ言うんじゃねぇよ!! あれほど厄介なもんが……! って、すまない……ロキ王は何も関係ないってのに、これは俺が悪かったな」

「いえ、おっしゃる通り僕は関係ないからこそ、大元に繋がる情報が欲しいんです。なのでバルニールについて、詳しく教えてもらえませんか?」


 すると、誰が聞いても本音だと分かる言葉を憎々し気に吐き出した。


「……あれは排除することもできねぇ、国の心臓部に巣食う寄生虫だ」


 そしてポツポツと語られる情報を、俺はいくつか確認を取りながら頭の中で整理していく――。



 バルニールが誕生してから約5年。

 うち最初の2年は売上が大きく伸びたことで、税収も比例して増加していたらしい。

 大陸中央の経済が取り残されるように落ち込んでいく中、フレイビルの根幹とも言えるロズベリアの、さらにその心臓部だった武具製造の現場が大きく動いたことで、当時はこの宮殿も大いに沸いたと、恥じるようにオスカー王は語ってくれた。

 しかし2年目には 《クオイツ竜葬山地》の資源獲得量が減少し始め、年を追うごとにその傾向は強まるばかり。

 理由は単純で、Aランク狩場で狩れるほどのハンターが減少したこと。

 そして相応の実力はあるものの、装備を買えない、買い換えられない層が旧ヴァルツの 《エントリア火岩洞》に移ってしまったり、傭兵稼業に移行したことも大きいと言う。

 加えてバルニール自体も3年目に入ると値段の急激な高騰が噂になったのか、売上が下がり始めたために税収もトータルでマイナスに。

 5年目となる今年は過去にないほどの厳しい状況になっている中、頼みの綱の鉱物資源まで売れ行きが鈍く、その原因が歓待しようと思っていた俺にあると偶然分かったため、後がないフレイビルは足取りを追いながらも、今か今かと俺を待ち構えていたらしい。

 そりゃいくら俺がクオイツで狩りまくっても、意地になって素材を綺麗に買い取っていたわけである。


 しかし、なぜ悪名高いマリーが大元だと知って、わざわざバルニールの設立を許可したのか?

 疑問に感じて聞いてみたら、どうやらマリーが本格的に絡んでいることを知ったのは設立後の話。

『バルニール』という名の工房代表者は、四頭工匠の筆頭であり、世界的に最も有名な鍛冶師である『バルク』の名で領主や商業ギルドに報告されており、その名は今も変わっていないらしい。

 要はマリーが表立って名前を残さなかったため、気付くのが遅れたということ。

 ただよほどの特殊な事例を除けば、他国の商人が自国内で店を出すことに制限を掛けるような国はないようで、商売の機会を故意に減らせば、税収を得る機会も減らすだけ。

 装備作りで有名な町に新しい鍛冶工房が作られるとなれば、当時は仮にマリーの名で動かれたとしても、所詮は工房だろうと、さほど警戒はしなかったそうだ。

 しかし、出来上がったのは普通ではない工房であり、後々になって大きな問題が露呈してきてしまった――。


 じゃあ、国の力で強引に店を潰せばいいのでは?

 次に思うのはそんなところだが、これもまたできない理由があり、その一番の原因となるのは、代表者でもあるバルクを中心とした現四頭工匠の存在らしい。

 |Sランク《3等級》装備をまともに造れる存在がこの4名のみであり、その4名の他、準ずる能力の持ち主までバルニールに広く押さえられている。

 バルニールからの離反を国が促そうにも、ただでさえ高かった収入が業務の効率化と独占販売によるボッタくりで途方もない額になっており、収入保障もできないまま強引に押し進めれば鍛冶師のトップ層が丸ごと国外へ離脱する可能性も高いとのこと。

 特にバルクは、これ以上何かを言うようならバルニールをマリーのいるアルバート王国へ移すと公言しているようで、オスカー王は話しながらこめかみの血管がブチ切れそうになっていた。

 なんというか、話を聞いていても八方塞がりな感じが拭えない。

 相変わらずマリーがマリーしていてゲンナリする。

 はぁ……




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 目の前で大きな溜息を吐く青年。

 とても一国の王には見えず、傍若無人に振る舞う様子もなく。

 もちろん少し特徴的な見た目や子供らしからぬ会話の内容から、紛れもない異世界人であろうことは理解できるが……

 儂でも勝てるのではないかと勘違いしてしまいそうになるほど|人《・》|並《・》|み《・》|な《・》|雰《・》|囲《・》|気《・》を纏うこの者に対して、縋るように言葉を吐く自分が情けなくなる。

 だが、手がない。

 もしバルニールと四頭工匠がまとめて国外に出てしまえば、相手は大陸一の大富豪であり【空間魔法】所持者でもあるマリーだ。

 鉱物の流通にいくら制限を掛けようと、別の入手手段がある以上は金で解決させ、存分に活用させてくるだろう。

 他の職人ではまだまだ張り合うことができず、血を混ぜてでも長く守ってきたフレイビルの鍛冶産業が奪われる可能性は高い。

 かと言って強引に国内へ留めたところで、悪循環により税収は減る一方だ。

 にも拘わらずマリーの懐には大量の金が流れ続け、フレイビルは国として立ち行かなくなる。

 となれば、もう一蓮托生。

 この青年――ロキに、マリーを叩いてもらうしかない。

 それしか、この国が生き残る道は、ない。

 それにこの青年なら、まだ儂でも扱いきれる。


「どうだ、ロキ王。解決の糸口が見えるのなら、奴隷商館を一時的に失おうとも、儂は許可を出すが?」

「どうでしょうね。僕は大元を割り出して潰したい、オスカー王は税収を回復させたい。目的は違いますから」

「だが、敵は同一である可能性が高い、そうだろう?」

「ですね……なので許可を頂ければ、僕は僕のために動きますよ」

「分かった。無関係な民や周辺の損壊を最小限にとどめてもらえるならば、レサ一家を潰すことは許可しよう。代わりにマリーを叩き潰してくれ」


 奴隷商館は消耗の激しい鉱夫を確保するためには必要不可欠。

 一時的に採掘量は落ちるかもしれないが、代わりを用意すればすぐに立て直すこともできるだろう。

 他国間とのいざこざを避けるために国営化まではできないが、次は息の掛かった者に運営させてもいいし、この件でフレイビルのランカー傭兵が数名消えたとしても、マリーを潰す代償と思えば安いモノ。

 そのように思っていたが、不思議と青年はこちらを見つめながら首を傾げる。

 その表情は――酷く、冷たかった。


「何か勘違いされていませんか?」

「勘違い?」

「僕は|手《・》|始《・》|め《・》|に《・》、実行犯として名前の挙がったレサ一家を調査しようというだけで、レサ一家を潰すことが目的とは思っていません」

「……」

「僕は人の生活をぶち壊しておいて呑気に胡坐をかいているようなゴミが大嫌いなので、仮に四頭工匠だろうと、そちらの貴族や大商人であろうと、レサ一家に依頼した『大元』、もしくは繋がって何かしら悪さをしていたことが分かれば容赦なく叩き潰しますよ。依頼主がマリーであれば、オスカー王にとっては喜ばしいことだと思いますが……実行犯は誰も裁かれていないようですし、実際はどうなんですかね?」

「ちょっ……ま、待て、待ってくれ。そこまでは……」

「僕がね、どの国に対しても同盟をお断りしている理由はここなんです」

「……?」

「必要以上に事が大きくならないよう、こうして許可を頂きに来ていますが、仮に許可を得られなくても動くことに変わりはありません」

「なっ……」

「胸糞の悪い悪党共はどこの国に属していようと、どのような立場であろうと容赦なく潰しますので、そこはご理解ください」

「……」


 ろくに言葉も返せず、ただただこの状況に息を呑むしかない。

 見誤った。

 やはり、目の前の男は異世界人。

 当時、反対する一部の鍛冶師達が逃げるように国を出たという問題は浮上していたが、貴族や商会が暗躍したなどという報告を受けた記憶はない。

 が、実際はどうなのか……

 ロズベリアは……この国は、どうなってしまう……?


「許可、頂けますか?」


 国が、生き残る道。

 もうあとがなく、他に、選択肢もない。

 その問いに、ただ力なく、頷くしかなかった。
453話 地獄の判別

 足取り軽く、長い下り坂を歩いていく。

 許可があってもなくてもやることに変わりはないが、やはり許可してもらった方が気持ちよく動けるからな。

 ロッジの仇をコッソリ討ってやろうくらいに思っていたら、微妙に話が大きくなってきている気もするが……

 さてさて、どこまでの規模になるのか。

 これは少し、マッピングも休憩かな?

 そんなことを思いながら大部屋を覗き、思わず声を漏らす。


「おっしゃ、やっぱり回復してるじゃーん!」


 場所はフレイビル、《クオイツ竜葬山地》の地下深く。

 球体状のボスフィールドに入ると、地底湖の底には巨大な影がゆっくりと泳いでいた。

 その姿を確認してから、俺は『破天の杖』を握る。


 ――【氷魔法】――

『湖よ、凍れ』


 ピキピキ……


 急速に湖面から凍結していくその上に立ち、繰り返し繰り返し、奥深くまで凍り付くように唱え続ける。

 そうすれば、先ほどまで悠々と動いていた巨大な影の動きが鈍くなり、やがてピタリと止まった。

 これで問題ないだろう。

『消失』で氷を掘り進め、身動きが取れなくなっている氷漬けのガルグイユに向かって、


 ――【発火】――


 炎を纏わした特大剣を振るう。

 ん~こないだのゲイルドレイクもそうだったけど、ボスは耐久設定が違うのか、明らかにAランクの雑魚魔物と比較しても硬いな。

 それでも豪快に3度斬り付けると、ようやく首の骨まで切断されたようで。


『【丸かじり】Lv7を取得しました』

『【廻水】Lv6を取得しました』

『【鏡水】Lv5を取得しました』

『【無面水槍】Lv6を取得しました』


「残念、レベルは上がらずか」


 お待ちかねのスキル取得ログは流れ始めるも、今回は残念ながらレベル上昇まで至らなかった。

 まぁしょうがない。


 ――【魂装】――


「ん~魔法防御力『805』か……おっ、上書きできるじゃん」


【転換】のポイントがあればもう一つくらいは上げようかなと思っていたけど、【魂装】レベル6からレベル7に必要なのは20万ポイント。

 まだ半分も溜まっておらず、今回は数値が上回れば良しくらいに思っていた。

 魔法防御力がグリムリーパーの『665』から、ガルグイユの『805』へ。

 いいじゃない、いいじゃない。

 ボス素材をゲットしつつ、こうして上げられるステータスを少しずつ伸ばしていけば、今こうしてあっさり倒しているように、いずれは大きな不安を抱えることなく裏ボスを倒しに行ける時が来るのだろう。

 さて、段階ゴリゴリすっ飛ばしちゃったから、水が凍ったままで全然引いてないけど……

 地獄の判別やったりますかね!

 そう一人気合を入れて、地底湖の穴の中へ。

 腐敗のドラゴンを見学しに向かった。











「ひぎ、ッ……ふ、ふざ……け……うぉぇえええ……ッ!」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ロ、ロキ王? かなり顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」


 オムリさんに問われ、苦笑いを浮かべながら軽く返事をする。


「あぁ、大丈夫ですよ。変なモノを食べただけで、だいぶ良くなってきましたから」


 約1時間半。

 あのドラゴンを見てから崩れ落ち、俺が泣きながら床に頬ずりしていた時間だ。

 なんとなく、アレはまだ無理だろうと思っていたから、この結果に対してショックということはない。

 あとはこの時間を短縮していけば、これもまた一つの目安になる。

 今はまだその程度の気持ちだ。

 まぁ試した後が地獄過ぎるので、もう暫くやるつもりはないが。


 案内されるがままに、いくつもの――、本当にいくつもの倉庫を経由し、片っ端からその中身を収納していく。

 前回は大半が食料や日用品といった支援物資だったけど、今回はだいぶ鉱物や武具類、それに魔物素材の比率が増えてきた印象だな。

 ようやく他所から金を稼ぐため、本気になって動き出したってところか。


「そういえばロキ王、陛下に伝えられた結果は如何でしたか?」


 何気ない会話の中で、するっと挟み込むように。

 さりげなさを装いつつ、ようやく聞きたかったであろう言葉を吐き出すオムリさん。


「許可は頂きましたよ」

「そうでしたか。それは良かったですね」

「ただ、オムリさんの望む結果になるかは分かりませんよ? ロズベリアの大掃除が始まるかもしれませんから」


 そう伝えるも、オムリさんの表情は崩れることなく、手を揉み揉みしながらにこやかに笑っていた。

 ったく、この手揉みハゲ。

 どこまで想定してるんだ?

 これだけ余裕綽々ということは、間違いなくバルニールの件には関与していないんだろうけど……

 オスカー王のように、他者を圧倒するくらい感情を表に出してくれた方が、よほどやりやすいと感じてしまう。


「それではこちらが配送先の一覧です」

「へぇ~さっそくジュロイまで入れてくるとは、仕事が早いですね」

「既に大陸中央は、粗方各方面への根回しを終えておりますから、あとはロキ王がその国に赴くかどうかだけ。皆、ロキ王が足を運ばれるその時を、今か今かと待ち望んでいますよ」

「止めてくださいよ。これを仕事にするつもりなんてないんですから」


 そうは言いながらも、先ほどチラリと見た30億ビーケを超える報酬額に、俺の頭の中でもう一人の自分が小躍りしていた。

 前回もだいぶ多いと思ったけど、今回は運ぶ荷物の量がさらに増え、かつ価値が明らかに上がったこともあっていきなり3倍以上……

 半日もかからずこの額が稼げるとか、俺がこの場に一人なら間違いなく高笑いが止まらなくなっている。

 これ見よがしに俺の様子を窺っている手揉みハゲの前では絶対顔に出さないけどな。


「それじゃ行ってきます。一通り回り終わったらまた報告に戻ってきますので」

「お願いいたします。それまでに『レサ一家』の拠点や幹部も含めた構成人員、それに要注意人物など、私が分かる範囲の情報は纏めておきますので」

「……了解です」


 この人、確実に味方だと分かれば頼もしいんだろうけどなぁ。

 そんなことを考えながら、各町への配達に向かった。
454話 調査開始

 配達を行った翌日。


「あれ、この芋を潰したやつ、美味しくない?」

「あ、ほんとだ。凄く甘いね!」

「そいつは芋じゃなくてトウモロコシだぜ? 一度磨り潰してからバターと混ぜている」

「ほほぉ」

「私このお酒で蒸したやつとパリパリのお肉もう一つ!」

「あ、あぁ。アンタ、その顔でよく食うな……」

「えへへ~それほどでも~」


 俺はフェリンと二人、ロズベリアの中心部から少しはずれた場所にある小汚い酒場を訪れていた。

 いくら身長が伸びたとは言え、どう見たってまだ顔は幼く、酒もガツガツと飲めるほどこの身体は出来上がっていない。

 とは言え、情報収集と言えばやはり酒場。

 オムリさんがレサ一家の縄張りは東地区だと報告を寄越したので、庶民の中にもしっかり溶け込めるフェリンに酒飲みの役を任せたわけだ。

 まぁ二人揃ってずっと飯食ってるので、だいぶ浮いた存在になってしまっているが……

 それでも、店内で屯すチンピラ風情の会話は一通り耳に入る。


「上手く買い叩けてよ。8歳と10歳の兄妹を二人合わせて15万ビーケで――」

「あぁ、ガキの目の前でひん剥いたら、泣きながら母親が奴隷になりますって――」

「そういや軽い崩落で60人潰れたから、また補充かかるって話で――」

「だからか? またガルム行きの乗り合い馬車襲ったって――」


「本当はもっと美味しいんだろうね」

「うん」


 笑顔になるのは、関係の無さそうな店主さんが来た時だけ。

 レサ一家の構成員が酔いに任せて自慢げに語る仕事のやり口を、俺とフェリンは【聞き耳】スキルを使いながら確認し続ける。

 これで2度目。

 場所は違うが、昼にも一人でやったことだ。

 オムリさんから得られた情報を一方的に信じるつもりなんてなかった。

 だって書かれている内容通りであれば、あまりにも規模が大き過ぎるから。

 だからこうして食事の度にロズベリアへ戻り、裏取りも含めた情報収集をしていたわけだが、今のところはオムリさんの情報通り。

 職場や家を燃やされたものの、国外になんとか逃げ延びた反対派も多かったようだから、当初は放火の実行犯と組織の頭を潰せればいいくらいに考えていたけど……

 "人攫いのレサ"という名が定着しているくらいだし、まったくその程度では済まないような気がする。

 それにそろそろ、ここも引き上げ時か。

 先ほどからチラチラとこちらを気にしていた男が、千鳥足でこちらに歩み寄ってきた。


「よぉ姉ちゃん、俺達とあっちで呑まねぇ……か……?」


 店の端っこで、フェリンは背を向けるように座っていたんだけどな。

 それでも女というだけで連れがいるにも拘わらず声を掛け、覗き込むように顔を眺めたその男は中腰のまま固まっていた。

 フェリンはフェリンで事態が飲み込めていないのか、男を眺めながら固まってるし……


「こいつは、すげぇ……」

「おい」

「あ?」


 我に返り、さも当然のように、フェリンの顎辺りを掴もうとする男に苛立ちながら警告する。


「おまえ、何しようとしてるの?」


 目が合っているんだ。

【威圧】を使えば済む話だが、敢えて使わなかった。

 ルール外。

 それでも、どのような環境に身を置けばここまで身勝手になれるのか。

 我が物のように触れようとするこの男に殺意が湧き、【威圧】を使えば殺す機会が失われてしまうと、自然とそう思ってしまった。

 なのに目の前の男は、短く呻きながら白目を剥き、腰から崩れるように倒れていく。

 あれ?


「はぁ……ロキ君、殺気出し過ぎだよ」

「え? 俺? スキル使ってないけど?」

「も~いろいろ詳しいのに、変なところで抜けてるよね。スキルがなければできないってことじゃないんだよ?」

「ん? んん……うん」


 そういえばそうだったか。

 かつてクソハンターフィデル達が逃げようとした時、リアはスキル無しの状態で【威圧】と同じようなことをやっていた。

 スキルは得たり使用することで強制的に狙った事象を引き起こすモノであって、必ずしも必須というわけではない――って、なんでこんな所で学んでんだ俺は。

 今はそれどころじゃないだろう。


「ああ? てめぇ、うちのモンに何しやがった?」

「いや、何もしてませんけど」

「んなわけねーだろ」

「俺は見てたぜ~? おまえリッツのこと殴ってただろ?」

「おいおいおい、レサ一家に手を出すなんて、とんでもねー野郎じゃねーか。へへっ、こりゃあタダじゃ帰さねぇぞ」


 目の前にいる7人の男は、フェリンに目を向けながらニヤニヤと笑っていた。

 床で寝ている男がなぜこうなったのか、その辺りはまったく考えないのか?

 そう思ったけど、血を流すわけでも、目立つ傷があるわけでもなく、イビキ掻いて床で寝ているだけだしなぁ……


「はぁ、このままだとお店に迷惑掛かっちゃいそうだし、もう出ようか」

「え~さっき頼んだご飯まだ来てないのに」

「しょうがないよ。今度お土産で買って帰るからさ。注文したのにごめんなさい、多めに払いますので」


 金貨を2枚カウンターに置きながら店主に謝罪するも、その店主は心配そうに俺達を見つめる。


「いや、代金さえ貰えりゃうちとしては構わないが、それよりあんたら、このままじゃ……」


 視線は一瞬、俺の肩越しに。

 俺とフェリン、どちらが目的か知らないけど、どうせ追いかけてくる気満々なんだろう。

 ならば好都合。

 より詳しい情報を聞かせてもらうまでだ。


「大丈夫ですよ。ご飯、美味しかったです」


 そう告げ、「おいリッツ、いい加減起きろ!」と叫んでいる声を聞きながら外へ。


「フェリンはもう帰りなって」

「やだよーだ。ちょっと心配だし、そんな気分じゃないし」

「そうだそうだ、心配だよなぁ? なら俺達と一緒にきてもらおうか。なーに、二人とも殺したりはしねーからよ」


 あーあ。

 リア以外にはあまりこういうの見せたくないんだけどなぁ……

 帰ってと言っても帰らない。

 心配という割には機嫌の良さそうなフェリンにしょうがなく【神通】を使い、これからやろうとしていることを伝えつつ、俺達二人はチンピラ共に囲まれながら歩き始めた。
455話 案内人

 できれば本格的に動くより前に、情報収集をしておきたかった。

 オムリさんが寄越した情報と、レサ一家に属する者達が持つ情報と。

 擦り合わせながらこの一家に対してどこまでやるべきなのか――延いてはどこまで潰しにかかるべきなのかを決めておきたい。

 だからこそ邪魔な横槍もなく、静かに尋問が行えそうな場所を歩きながら探していたのだが。


(うーん、ずっと大通りだな……)


 先導するように前を歩くリーダー格の男は、人混みの多い大通りを進むのみ。

 東区はどこを見てもガラの悪い連中が一定数いるので、事を荒立てればすぐに人が集まってくることは容易に想像できた。

 先ほどのお店がレサ一家に加担しているような仲間なら、纏めてあの場で尋問してしまうのが一番手っ取り早かったんだけど、店主はまったく無関係の好い人だったしなぁ。


 そうこうしているうちに5階建てのかなり大きな建物が現れ、逃げられないように俺とフェリンを囲んでいた連中は、明らかに裏口と分かる場所からその中へ入っていく。

 看板はないけど、ここがレサ一家の拠点になっている『レサ奴隷商館』なのかな?

 入ってすぐの広いロビーには、いくつかあるソファーで寛いでいる、見た目からしてまともではなさそうな連中が。

 奥には簡素なカウンターがあり、ここまで先導していたリーダー格の男がまっすぐその場所に向かう。


「新しいの2人だ」

「ほう、こいつは凄いな……1人は相当な値段が期待できそうだ。『71番』、閉めたら鍵を返せ」

「あいよ」

「サバンおまえ、どこでそんな上玉拾ってきたんだよ!?」

「チッ……どうせヴァルツだろう。今あそこは攫い放題だしな」

「それにしちゃ血色や体付きが良過ぎるだろ。まさかヘイディ達の真似して、貴族家の女でも攫ってきたのか?」

「ぐはは! 詳しくは言えねーが俺様の鼻が利いたんだよ! あぁ先に言っておくぞ。いくら大金を手に入れようと、おまえらには奢ったりしねぇからな!」


 上機嫌な男が慣れた様子で鍵を受け取り、目の前で耳を疑うような会話を交わす。


(ヴァルツに住む人達が生き延びられるように、食料を配ってたのに……)


 これがコイツらにとっての日常か。

 でも、まだだ、まだだめ。

 階段の両脇には、明らかに用心棒だろう。

 少しは戦えそうなのが二人、目の前のバカ共とは違い、俺とフェリンの様子を油断なく窺っている。

【心眼】が通らず、完全に警戒が解けていない。

 きっと、そんなところ。

 なら、今は我慢。

 フェリンだって怖いくらいに無表情を貫いているのだ。

 俺がここで顔や態度に出すわけにはいかない。

 まだ、ダメだ、まだ……




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「サバン、俺達はここで待ってるぜ」

「あぁ、終わったらもう一度飲みにいくぞ。念のためあと二人くらいはついてこい」


 地下への階段を下りた途端、自分の頬が緩んでいくのを感じる。

 アイツらのあの羨ましそうな顔を思い返すだけで、この後の酒が何倍も美味く感じちまいそうだ。

 一度背後に視線を送れば、一生忘れないし忘れたくないと断言できるほどの美貌を持つ女。

 何度見てもすげぇ……

 人が吐いて捨てるほどいるロズベリアでも、ここまで整った顔立ちの女なんざ一度たりとも見たことがない。

 絶望で感情が死んじまったような顔をしてても目が離せなくなるなんて、これなら変態野郎ばかりの貴族連中だって文句無しに欲しがるはずだ。

 いったいこれほどの女にいくらの値が付くのか。

 それに最低限の資格である【奴隷術】は、"神のお告げ"ってやつが俺様に降ってきてるんだ。

 上手くいけば『百人長』に格上げされる可能性もある。

 そうすりゃ現場仕事ともおさらば。

 あとはムカつくあいつらを手下にして、ケツでも蹴り飛ばしておけば俺の地位と生活は安泰だろう。

 やっとだ。

 やっと、溜めこんでいた運が上向いてきやがった……


「おう、入れ」


 71番の地下牢を開き、顎で二人に入るよう促す。

 これで仕事も終わり。

 今日は祝いにしこたま飲んで――、


「僕達は、奴隷として売られたんですか?」


 ずっと黙っていた男が、直前でこちらを向く。

 こいつも絶望したような、光の無い瞳。


「あん? 今更かよ」


 気が削がれたことに苛立ちを覚えて、思わず背中を蹴り飛ばしながら鉄格子の向こうに押し込んだ。

 その光景を見て、女も黙って中に入っていく。


「レサ一家に喧嘩売ったんだ。当然の報いだろうが」

「奴隷だから二人とも手を出さないでおいてやったんだぜ? 傷物にしちゃー価値が下がっちまうからな」


 ついてきていた手下の言葉に、俺自身も深く納得するしかない。

 野郎はどうでもいいが、女は売り物じゃなけりゃ確実に自分のモノにしようとしている。


「そういうこった。無傷で済ませた俺達に感謝しろよ?」


 そう言いながら鍵を閉め、1階のロビーに向かおうとすると、


「ご苦労様」

「あ?」


 背中の方から声が聞こたような気もしたが……

 もう二度と会うこともない男の戯言など、どうでもいい。

 まだ毛が生え始めた程度のガキだ。

 どうせこの先のことなどろくに想像もできていないのだろう。


「行くぞ」


 そう告げ、とっ捕まった他の奴隷共の、恨めしそうな視線を浴びながら長い通路を戻っていく。

 最初の頃はこれが一番応えたもんだが……今となっては、だな。

 まず俺らが連れてきたやつらじゃないし、そもそも捕まるようなバカが悪いってのに、なぜそんな目で俺を見やがるのか。

 能無しどもめ。

 とっとと鉱山にでも回されて、全員死んでこい――。


「?」


 通路を曲がった時、あまりの違和感に思わず立ち止まる。

 階段が、無い。

 曲がれば正面にあるはずの階段は、なぜか壁になっていた。

 そして、その壁に寄り掛かるようにして立つ、先ほどの男。

 咄嗟に『71番』の部屋を遠目に眺めるも、中がどうなっているのかなど分かるわけもない。


「え……えっ?」


 何が、どうなっている?

 少し酔ってはいたが……

 浮かれ過ぎて、夢でも見ているのか?

 理解できず混乱する自分に、男は先ほど見た、光の無い瞳をこちらに向けながら静かに言った。


「それではこれから、奴隷よりもキツくて苦しいこと、しましょうか」
456話 尋問と告発

 全部で100ある地下牢獄。

 そのうちの『71番』に、男の絶叫が木霊する。


「ひぎぁあああああああ!」

「はい、このようにあなたが誤魔化そうとすると、あなた方のリーダーがその責任を負うことになります」


 そう言って正座させた男――サバンの太ももからナイフを引き抜く。

 一時的に血が噴出するも、自動ヒーリングを施しているのですぐに傷は塞がっていった。

『カルージュ』の兵を尋問とした時と似たようなものだ。

 強制奴隷を施した真実しか語れない一人と、何もしていない一人。

 ただ今回は三人いたので、痛みを与えるのはこの場の責任者に任せることにした。


「て、てめぇこんなことして……ここはレサ一家の拠点だぞ!? すぐに応援が来るっていうのに、何考えてんだよ!?」

「来ませんよ。そのために入り口を塞いだんですし、逃走防止のためなのか、他に出入り口もないようですしね。なのでわざとらしく騒いだって意味ないですよ?」

「わ、わざとじゃ……」

「あぁ、あと勝手に聞かれてもいないことをしゃべった罰です」


 ザクッ。


「んがぁあああああ! あ、がっ……もう、勘弁してくれ! 勘弁してくれぇ……ッ!」

「まだ始まってもいないのに、何言ってるんですか?」

「そ、そんな……なんで、こんなこと……」


 痛みを与える役にはそれだけで十分。

 話を聞く価値もないし、放っておくに限る。


「さて、改めてお聞きします。人攫いは組織内で常習化してるんですね?」

「あ、あぁしてる! 俺達だけじゃねぇ! なのになんで俺達だけこんなこと!!」


 ザクッ――、プジュリリィ……!


「いでィィぇああああアアアアアッッ!! うぐっ……もう、無理……、本当に、もう、無理だっ、でぇ……ッ!」

「ひい……ッ!?」

「コーラスさん、それはなぜですか?」


 奴隷化した、青白い顔の男に問いかける。


「仕組みが、変わった、から」

「具体的には?」

「ノルマと、査定」

「ん? んー……レイジルさん、仕組みが変わる前はどうだったんです?」

「はっ……はっ……ま、前は一人奴隷にしたらいくらって感じで、なりそうな連中を探してきてここで金に換えていた! 東区は貧しい連中も多くて、ばかすか産むだけ産んで育てられないガキを買ったり、稼ぎ手が消えちまった家を見つけて何人か奴隷を勧めたり……あとは衛兵も東区はあんま入りたがらないから、悪さしてトンズラこいた連中をとっ捕まえて奴隷に落としたりもしていた! あ、あと、方々から恨み買って、奴隷落としの希望が入ったやつを金額次第で落としたり――……」


 ふむ。

 決して良いことだとは思わないけど、オムリさんの言っていた『必要悪』という言葉が少しは理解できてしまう内容だな。

 しかし、どうも俺が思い描いていた奴隷商館とはやり方が違う。


「借金苦とか表立った軽犯罪者とか、そんな相手とは違うんですね」

「そ、その手のデカい山は幹部連中がやっていることだ。俺ら末端は足を動かしながら、くたばりそうなやつらがそのままくたばっちまう前に奴隷として拾い上げるのが仕事だった」

「なるほど。それで仕組みが変わり査定――、つまり良くも悪くも、奴隷対象の質で値段が変わるようになったわけですか」

「あぁ……年齢、性別、種族、それに所持スキルも勘定されて、奴隷一人一人に点数が付けられるようになった」

「それがあなた方の報酬に繋がると?」

「そうだけど、チームを組まされてるから、毎月チームで最低基準を超えないといくら点数稼いでも報酬が半分以下にされる。逆に上物を引き当てれば、前より格段に金を貰えた時もあったけど……」


 男はそう言って、未だ引きずるかのようにフェリンへ視線を向けた。

 そりゃこの容姿だし、きっと奴隷化すれば、とんでもない点数が付けられたんだろう。

 それにしても、どうもこの男の話を聞いていると、よくある営業会社の歩合制度に近いモノを感じてしまう。

 ノルマねぇ……


「コーラスさん、その制度が変わったのはどれほど前ですか?」

「……7年、8年くらい、前」

「7年8年……異世界人マリーはご存じで?」

「知っている」

「その制度を作ったのって、マリーでは?」

「分からない」

「レイジルさん、あなたは?」

「俺も、そんなことは知らない……」

「ん~一応聞いておきます。サバンさん、あなたはどうです?」

「し、知らねぇ、から、もう勘弁し『ブスッ』でぇあああああああああッ!!」


 その返答と悲鳴を聞きながら静かにフェリンへ視線を向けると黙って頷く。

 つまり白――、本当に知らずか。

 オムリさんが言っていたように、末端の人間じゃ『依頼者』を知らない可能性が高いっていうのは間違いなさそうかな。


「その制度に変わった数年後、ドワーフが多く住む西区にバルニールという鍛冶工房が生まれました。その時、反対派の家や職場が燃やされ、その後もまともに仕事ができないよう嫌がらせをされたわけですが――」


 言いながらも3人を眺める。

 表情、視線に動揺――、3人とも反応あり、か。


「まず、誰がレサ一家にこのような依頼をしたかはご存じですか?」

「知ら、ない」

「俺も知らねぇ!」

「本当に、知りません……」

「ではコーラスさん、あなたは反対派の鍛冶師を追い詰めた実行犯ですか?」

「そう、だ」

「なぜ、奴隷探しが仕事だったあなたがそんなことをする必要まであるんです?」

「点数が、足らなかった。やれば、点数をやるって、言われた」

「なるほど……レイジルさん、あなたは具体的に、何をやりました?」

「し、指示のあった鍛冶師の家を2軒、燃やした……」

「それだけですか?」

「あぁ」

「……嘘」


 フェリンからの判定。

 ならば答えに間違いはない。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ――


「っがぁあああ、ぐぉおおあああああッッ! ひぃ、ひッ、ひぐッ! レイジ、ル……貴様ぁあ゛あ゛あ゛!」

「ち、ちがっ! 俺はあんたのためを思って……!」

「本当は?」

「ほっ、本当、は……どうせ燃やすならって、ソイツん家のモノ全部盗んで金に換えた……ソイツの嫁と、子供も……」


 はぁ。

 ……もう、十分だろう。

 そう思えるくらいに、とことんクズ。

 そう思っていたのに。


「それだけじゃないだろうが!!」


 怒声は、鉄格子の外からだった。

 視線を向ければ、通路を挟んだ向かいの部屋。

 鬼の形相をした壮年の男が、震える細い手で鉄格子を掴みながらコチラを睨みつけている。


「てめぇら、鉱物を少し流したからってワイズさんとこの店も潰したじゃねーか! 娘さん二人とも攫って……親父さんが自殺しちまったのはてめぇらのせいだろう!」

「そうだよ! オリオの孤児院だって火事に見せかけて襲ってさ! この外道の人でなし!!」

「何もしていないうちの息子達を鉱山送りにしおって……! あんたら東区の連中をどれほど攫った!?」

「そうだ! 難癖つけては金をせびって、ちょっと渋れば二言目には奴隷に落とすだ!? おまえらいったい何様のつもりなんだよ!?」


「ぁ、ぐっ……」

「ちがっ……」

「……」


 たった一つの、勇気ある声。

 恨みを晴らさんばかりの告発を皮切りに、様々な場所から噴き出した叫びがこの地下フロアに響き渡る。

 表情は見えずとも、抱える感情は言葉と声にすべて表れていた。

 どれほど、コイツらが――、レサ一家が恨まれ、そして疎ましく思われているのか。


「フェリン。レサ一家は、もう丸ごとやるよ」

「うん、私も協力する」

「まっ、待てぇえええ!! なんでもする! 協力だってするし、奴隷にもなるから! だから命だけは……!」


 縋るように足に絡みつき、命乞いをするリーダー格の男。


 ゴッ!


「ばべ……」


 その男の頭が陥没するほど、強く脳天から殴りつける。


「おまえみたいな中身がスカスカの脳無し、奴隷にしてどこで役に立つんだよ」

「ヒッ……」

「あっ…ぁ……」


 はぁ――。

 最後の最後まで図々しいとは恐れ入る。

 死にたくないと願う者を生かすほど、俺は善人じゃない。


「害虫は駆除一択だ、ゴミ野郎ども」
457話 共同作戦

 さて、ここからどうするか。

 俺が3人を始末したことで、その光景を見ていた一部の者達からは感謝や称賛の声が上がっていた。

 するとそれが伝播し、今は地下1階が割れんばかりの歓声に包まれているが……

 事はそう簡単な話でもなく、問題はここから。

 拠点とは言うも、ここはあくまで奴隷商館であり、レサ一家の一味がそこまでいるわけではない。

 かなり規模の大きいロズベリアという街の中で、レサ一家の構成員が東区を中心に広く活動していることは分かっていた。

 コイツらをいかに逃がさず、効率的に集めて始末できるか。

 今まで中途半端に手を出さなかったのもそのためで、最初は数に任せて威勢良く調子づくも、どうせこの手の連中は自分達が不利と理解すれば他を見捨ててでもすぐに逃げ出す。

 親玉のレサっていうのがここにいれば、強制招集でも掛けられたのかもしれないけど、たぶんここにはいないっぽいしな……


(決して不利とは思わせず、調子に乗らせたまま……可能な限り自発的に集めようとすると……)


 そのために何ができるか。

 後ろを歩くフェリンに視線を向けるも……、うーん。

 あまりの能面っぷりに背筋が寒くなってくる。

 家帰ってこんな顔した奥さんが待っていたら、黙って玄関で土下座するわ。


「フェリン? いつまでもそんな顔してたら怖いよ?」

「だって……」

「あぁ、フェリンはこういうのを直視するのって初めてか」

「うん。リアが機嫌悪かったり、ロキ君がよく誰かと戦ってる理由が、やっと分かった気がする」

「んー……まぁ知ることは大事だけど、慣れない方がいいよ。特にフェリンは」

「……」


 感情の浮き沈みが激しいタイプだし、何よりフェリンには明るく笑っていてほしい。

 こんなのは望んでやっている俺と、専門のリアに任せておけばいいのだ。


 ――、ガンッ。


 ん?


 ガンッ! ガンッ!


 歓声に紛れて聞こえる、何かを強く叩く音。

 元々階段があった場所に近づくほど、その音は大きくなっていく。

 あぁ、やっぱりか。

 これだけ地下が騒がしくなれば上も気付くかなとは思っていたけど、どうやら俺が塞いだ石壁を破壊しに掛かっているらしい。

 ならば急がないとな。


「よし、フェリン協力して。ここも戦場になる可能性があるから、まずは捕まっている人達、纏めて外に逃がすよ」


 その後は流れ作業で事を進めていく。

 俺は【空間魔法】の『消失』で、フェリンは何をやってんのかはっきりとは分からなかったけど、鉄格子の鍵穴に指を触れて開錠していった。

 そして全員を地下牢獄から救出したら、何回かに分けて俺だけが『転移』で外に運んでいく。

 俺自身はもう所持していることを公にしているのでどうでもいいが、フェリンまで【空間魔法】の所持者なんて話が広まると大変な騒ぎになるからな。

 全ての牢獄が埋まっていたわけでもないので、地下1階にいたのは総勢100人ちょっと。

 先ほどいた酒場の店主は仰天してひっくり返っていたが、あそこに移動する程度なら大した魔力消費でもない。

 みんな腹減ってそうだったし、置いてきた迷惑料であの店主なら何かしら振る舞ってくれるだろう。


「終わった?」

「うん。って言っても、地下1階は査定待ちの一時的な収容場所みたいで、値付けされて商品として並んでいる人達は上階とかにいるっぽいけどね」

「え! ここだけじゃないんだ!?」

「上はここ以上に人が多いんじゃないかな。まぁあとは俺がやっておくから、フェリンはもうさすがに帰りなって。ここからはさっきみたいな連中ぶっ飛ばしていくだけだし」

「だからだよ」

「ん?」

「だからついてきてるの。ロキ君がおかしくなっちゃったら困るし」

「いやいや、大丈夫だよ? 貰ってる情報だとレサ一家の構成員は推定2000~3000人らしいから、この程度じゃ何も変化が起きない可能性の方が高い」

「それでも、心配だから見てるの!」

「ええ……」


 困ったな。

 一人の方が動く分には楽なのだが、俺を心配してくれてとなると、それらしい断り文句が出てこなくなる。

 普通なら何かあると危ないって言えるけど、フェリンに危害が及ぶわけもないしなぁ……


「ん~心配してくれるその気持ちは凄く嬉しいんだけど……ただ今回だけにしてね。昔ちょっとリルといただけで未だに姉は? なんて話が出てきたりするし、毎回その手の現場にフェリンがいたら、間違いなく噂が立って後々面倒なことになるから」

「うぅ……分かった」

「その代わり――、うん、そうだな。せっかくだし、今回だけは存分に手伝ってもらおっかな?」

「ほんとに!? やるやる!」


 なぜ、こんなやる気になってるんだろう……

 よく分からないけど、やっと笑顔が戻ってきたのだから良しとしておくか。


「とりあえず、ここで捕まってた人達がもういないってのはバレないように、曲がった直後の『1番』地下牢手前と、『51番』地下牢手前にそれぞれ極厚の石壁作って――……」

「うんうん!」

「そうすると、入り口の階段から一直線に、50メートル近い通路がそのまま『ゴミ箱』になるから――……」

「おお!」

「フェリンは上が溜まったらここにポイポイって、生かした状態のまま――……」

「なるほどー!」


 なんとも先の読めない、不確定要素の多い作戦。

 それでもやるべきこと、やりたいことをフェリンに伝え、お互い配置に付きながらポロポロと。

 崩れて穴の開き始めた石壁を見つめた。
458話 チンピラホイホイ

 穴の奥から覗いた顔。

 それは階段の横で見張っていた用心棒の一人だった。

 推定Bランクのハンター程度。

 決して弱いわけではないけど、すぐ死にそうなので【手加減】しながら空いた壁の穴に手を突っ込み軽く殴る。


「はぶぁ!?」

「空き始めたぞ! かかれかかれ!」


 おう、今のところは良いね、大量だ。

 さりげなく自分でも壁を壊し、殺さないように、かつ逃げられないように、膝を狙って攻撃を加えていく。

 階段を下りてくる連中が、必ず俺の背後にいるフェリンを見ては目を見開き、一瞬固まるのが見ていて面白い。

 俺はその隙に両膝を破壊し、後ろに放り投げながら少しずつ階段を上ると、裏口のロビーには100人近くの男達が待ち構えていた。


「あぁ? コイツがうちに乗り込んできたやつなのか?」

「まだガキじゃねーのか、アレ?」

「しかも手ぶらとか、笑わせてくれる」

「いったいどこのどいつを助けに……って、うおっ!?」

「マジかよ……こんなの捕まえてたのか」


 そして背後から、ひょっこり顔を出すフェリン。

 視線が一斉に俺から外れていく。


「逃がすなァ!! この女逃がしたら、どやされる程度じゃ済まねぇぞ!!」


 と同時に、階段の下からも叫び声が上がった。

 誰だ? さっきひっ叩いた用心棒か?

 どやされるのは仕事をしなかった用心棒の二人な気もするが……

 しかし、この言葉で急に顔が強張った男達。

 武器を片手に走り寄ってくるので、【心眼】で回復系スキルを所持していないか覗きながらパシパシと膝を叩いて沈めていく。

 足元に蹲る人だかりができると、フェリンが階段の下にせっせと運んでくれるので案外快適だ。


「コイツ弱くねぇぞ!?」

「早くあの女奪って人質に取っちまえって!」

「チッ! 殺しもできねぇハンパもんが女連れて逃げられると思ってんのかよ!」

「おい! 早くクロイス様を呼べ! 突破されたらマジでやべぇ!」

「呼べってどこにいるんだよ! 5階か!?」 

「ここの中ならそうだろうけど……げっ! アイツが階段塞いでんじゃねーか!」

「この時間ならもう外で飲んでる可能性も高い! 探せ! 探してこい!」

「……」


 思いのほか、順調だな。

 クロイスという名の要注意人物がいることは、オムリさんから貰った情報で分かっていた。

 レサ一家の最高幹部でもある、フレイビル国内ランキング3位の傭兵で、実質的なチンピラ共の親玉。

 ソイツがどこにいるのかは反応が掴めないので分からないが……

 少なくとももう一人、ここに現れると厄介そうなヤツも含め、他に3人の幹部がこの建物の上階にいることは分かっている。

 だから騒ぎを聞きつけ、もし横の階段から下りてきた時には、他にバレないよう即行で潰せるように――、そう思ってこの配置を陣取っていたが、なるほど。

 間違いなくあるはずの、客が出入りする正面入り口からは、5階に通じる階段が存在していないのか?

 もしそうであるならば、好都合。

 少しでも気付くのが遅れてくれれば、それだけ街中に散ったチンピラどもが、ここで俺達の脱走を阻害しようと武器を片手に身体を張ってくれる。

 一定数を残してゴミ箱に放っておけば、後から来た者達は俺がどれほど行動不能にしているかなんぞ、すぐには分からないだろうからな。

 あとは少しずつ自分の身体を傷付けていけば、コイツらもきっとやる気になってくれるだろう。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 奴隷商館にほど近い、レサ一家の連中がもっとも多く屯す酒場『トリンキー』にて。


「大変だ! 奴隷の奪還狙ってうちに乗り込んできたバカ野郎が現れたぞ!」

「はぁ?」

「相手何人だ?」

「が、ガキっぽいのがたった一人だ! でも見張り役の二人じゃ抑えられてねぇから結構やる!」

「マジかよ舐めやがって。クロイス様は?」

「どこにいるか分からないから探してこいって! くそっ、やっぱりここじゃねーか……おまえらも飲んでないで協力しろ! このまま逃がしちまったらメンツにかかわるし、アレはクロイス様の逆鱗に触れるどころじゃねぇ!」

「アレってなんだよ?」

「奪還されそうになってる女だ。ありえねぇほど可愛いし、それにチラッとしか見えなかったけど身体つきも凄かった……ありゃ確実にとんでもねぇ値段になるって一発で分かる」

「そんな女が……」

「よし、行くぞ。逃がしたなんて噂が街に広まれば、舐められて今後の仕事がやり難くなる。それにこんな状況で呑気に呑んでたことがバレたらあとでぶっ殺されるぞ」

「あ、あぁ、そうだな。逆に乗り込んできたクソ野郎を討ち取れば、相当な点数貰えるだろ。報奨狙うぞおまえら!」

「自信ねぇやつは他の店も回ってクロイス様探してこい! それに一家のモンも招集掛けろ!」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「おいおい、舐めたガキが単独でうちに襲撃だとよ!」

「あぁ? 家族でも取り返しにきたのか?」

「知らねーよ、ただ極上の女連れてるみたいで、そいつ倒せば報奨貰えるらしいぞ?」

「マジかよ?」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「おーい! 奪還狙いが現れたってよ! 商館の裏口で逃がさないように囲ってるって!」

「なんだよめんどくせぇな……せっかく良い気分で呑んでたってのに――」

「相手は殺しもできないガキ一人で、ソイツ倒せばぶっとぶほどの極上女が褒美でもらえるらしい!」

「く・わ・し・く!」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「聞いたか!? なんか商館の裏口で極上女の争奪戦が――」





 酔っ払いを介した伝言は、次第にその中身もズレたモノへと変わっていく。

 レサ一家を――、延いては自分達が舐められたことへの怒りを感じる者。

 または潰れるメンツと、その後の仕事への影響を心配する者。

 一方では、統括している上の者からの理不尽とも言える怒りを恐れて、殺されないならという理由から現地へ向かう者など様々であり、ここまではロキ自身が事前情報から呼び水として想定していたことであるが……


 極上女を一目見たいがため。

 また、その女を褒美で貰えると勘違いして商館へ駆け出す者が抜きんでて多かったことを、裏口でチンピラホイホイしていたロキは知らなかった。

 当然、数を確認するためにちょくちょく顔を覗かせながら、後ろでせっせと呻く男達をゴミ箱に運んでいるフェリンもまた、そんな事態になっていることなど知る由もなかった。
459話 孤狼のジャスパー

 暖国とされるエイブラウム山脈以南の中では、ロズベリアは特に冷える地域であり、夜になって降り始めた雪は既に薄っすらと積もり始めていた。

 話を聞けば、奪還劇の始まりは丁度夕飯時。

 事が起き始めてから1時間近くは経過しているのだから、もう方が付いているかもしれない。

 フレイビル国内傭兵ランキング34位。

 孤狼のジャスパーは白い息を吐きながら、レサ奴隷商館の裏口ロビーに足を踏み入れようとして、眉を顰める。

 真っ先に感じたのは異様な熱気だった。

 ドアを開けた瞬間からモワッと肌を撫でたソレは、男の強い汗臭さも混じっている。

 が、鼻を鳴らすも、血の匂いはほとんどと言っていいほど感じられない。

 まだ何かをやっている。

 それは中の騒がしさからもすぐに分かったが……

 荒事の場面で聞こえる声とは少し違うような気もしながら、ジャスパーは入り口の戸を開けた。


「な、なんだ、これは……?」


 そして不思議な光景を目にする。

 奴隷の斡旋を生業とする下っ端の連中が、前へ前へと詰めるように肩身を寄せ合い、武器を掲げながら声を張り上げていた。

 日常的に聞こえる蛮声も多いが、中には歓声とも取れる声が混じっており、それはまるで何かの見世物を取り囲んで見ているような、そんな雰囲気を感じさせる。

 極上の女を奪還しに、一人のガキが乗り込んだ――。

 そう聞いていたが、もう既に事は終わって、女相手に遊んでいる最中なのか?

 男達の背に阻まれて中で何をやっているのかは見えず、その後も次々と男達が裏口ロビーに入ってきては、隙間に肩を滑らせその塊に加わっていった。

 ジャスパーはそんな光景を眺めながら、溜息一つ、団体に背を向ける。

 自分にそんなことはできない。

 だって、孤狼だから。

 汚く汗臭い男達の中に入ってひしめき合う勇気は無かった。

 だからしょうがなく背後の壁を駆け上がり、置かれていた背の高い棚の上に登った。

 そしてようやく何をやっているのか理解する。

 階段を背に、まだ幼さの残る男が襲い来る男達と戦っていた。

 無手の男は武器を握った連中相手に、両手を防御へ回しているのか?

 頭部を守っている両手は流れる血と共に浅い傷が数多と付いており、足だけで膝を狙うように攻撃を繰り返していた。

 狙いはかなり的確だが、速さと威力は素人ではないなと思える程度。

 それでも連中では苦しいようで――、あれが、噂の女か。

 女が周囲で崩れた男達の首根っこを捕まえ、地下へ引き摺っていくという流れが繰り返されていた。

 なぜ、連れていかれる男達が少し嬉しそうなのかは分からないが……なるほど、どうやら殺さずというのも本当らしい。

 とは言え、男達は膝を壊されているのだ。

 変態野郎のミクロなら治せるとしても、これだけの数となれば確実に支障が出る。

 討てば金を貰える可能性は高そうだし、ここはもう俺が仕留めてしまった方が――。

 そう思って背負っていた2本の手斧を握った時、ジャスパーは男の足元に転がる、一人の男に目が留まった。


(なぜ、マロウラがやられている……)


 その男――マロウラは、自分と同じ500人長の役職を担う、フレイビル国内傭兵ランキング14位の男だった。

 実力は明らかに自分より格上……それによく見れば22位のジュードまで、苦悶の表情を浮かべながら倒れている。

 なんだこれは?

 何かが……何かが、おかしい……

 番人のクロイスは何を、いや、そもそもヤツはここにいるのか? 

 まずはその確認を――。

 そう思った時、幹部用居住区がある上階への道が男によって塞がれていることに気付き、徐々に悪寒が強くなる。

 まさか、足を止められているのではなく、敢えてあの場所で……だとしたら、ヤツの狙いは――。

 気付き、ジャスパーはゆっくりと身体の向きを変えた。

 あの階段を真正面から通過はできない。

 だが、自分なら、外の外壁を伝って強引に5階まで登れる。

 まずは、このロビーから脱出を。

 足に力を込めながら、チラリと男に視線を向けた時――。


「ッ……」


 ――目が、合った。

 交差した腕の隙間から、確かに男はジャスパーの様子を眺めていた。

 そして、嗤い、僅かに手が、招くように動く。


「あ、がっ……」


 すると足は、自然と男の方へ向いた。


(マズいマズいマズい!)


 ジャスパーは内心焦るも、足は止まらない。

 憎悪の感情だけが急激に膨れ上がっていく中で、何をされ、自分がこれからどうなるのか。

 瞬時に理解した時、ジャスパーが取った行動は"叫び"だった。


「この男は逃げる気などない!! おまえら早……グボ、ッ……」


 しかし咄嗟の機転は、なぜか視界が水で染まり防がれる。

 部屋が水で埋まったのかと錯覚したが、手足に違和感はないため、それが自分の顔だけであることをジャスパーは理解する。

 が、どうしようもない。

 強力過ぎる【挑発】の最中にまともな行動など取れやしない。

 叫ぶほど溺れ死にそうな苦しみに襲われ、


「ぼがっ!」


 気付けば、男は目の前。

 さほどその手は大きくない。

 が、顎から聞いたこともない軋みが鳴るほどの握力で口を掴まれていた。


「余計なこと、しゃべらないでくださいよ」


 自分だけに囁くような言葉。

 その直後にジャスパーの意識は暗転した。
460話 タレコミ

 あと少しだった。

 機が熟し、ガルムへ先に移り住んだ家族の所に行ける。

 この街と組織から逃れられる……そのはずだったのに……


「随分と手間を掛けさせてくれますねぇ……うちの情報を売っといて、逃がすわけないでしょう」

「ち、ちがっ、違うんです! クロイス様! お、俺はそんなこと……!」


 そうは言うも、これはもうダメだろうと、内心では分かっていた。

 普段は表に出てこない、組織の実質的な頂点と言っても過言ではない人物が目の前にいる。

 何をどう足掻いたところで勝てないような人物が。

 あとは俺が口を噤むことで、家族を守れるかどうかだが。


「んごぉおお……ッ!?」


 左手に感じる、嘔吐感も伴う強烈な痛み。

 クロイスは俺の小指を毟り、興味なさげに投げ捨てた。

 それでも、家族を守れるのならば、俺は……


「終わった時、どこまで身体の部位が残っているかはあなた次第。タレコミも入っているんですから、早く吐いた方が楽に死ねますよ?」

「……」

「あぁそれと、裏切り者のあなたはどうあっても死にますが、ガルム聖王騎士国に移り住んだらしいあなたのご家族も、あなたと同様の段階まで部位を破壊したまま、ミクロに無理やりにでも生かさせます。私も忙しい身なので、その点もよく踏まえて答えなさい」

「そ、そんな……ッ!!」


 怒りによる熱と、恐怖による寒気と。

 心の中がぐちゃぐちゃに混ざって破裂しそうになるも、一つだけ、底には先ほどからブレずに残り続けている疑問がある。

 絶対にバレないよう、手は打たれていたし、こちらも打っていたはずだった。

 なのになぜ、バレているんだ……

 今更になって、なぜ……


「それではロレント百人長、あなたがハンターギルドのオムリに吐いたこちらの情報を全て教えなさい。余計な誤魔化しが後々発覚すれば、家族は奴隷落ちを願って止まないほど悲惨で惨めな人生を、長く、長く、長く、送るでしょうね」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 草叢には突起した箇所がほぼ見られない、血濡れた丸い肉塊。

 その姿を眺めながら、光のない森の中で二人の男が会話を交わす。


「うちの構成人数に組織階級と幹部情報。それに背後の繋がりと、レサ一家の表と裏の細かな活動内容、ですね……コイツ、そら言吐きやがりましたかね?」

「ここまで身体を削ぎ落としたのだから、まずそれはないでしょう」


 だが、疑問が残るのも事実だった。

 男が吐いたのは、オムリなら当然のように知っていてもおかしくない、今更な内容ばかり。

 極一部の幹部連中しか知りえない情報に関しては、当然知らないのだから吐いている様子もないことが分かった。

 にも拘わらず、情報と引き換えに渡されたのは、末端に近い連中からすれば目も眩むような大金。

 加えて家族を含む国外脱出の手引きと、ガルムの王都に住まいまで用意されていたとなれば、到底つり合いが取れているようには思えない。


「知らなくてもおかしくないと言えるのは、領主――アトスターク侯爵の悪趣味くらいですか」


 まあ、嗅ぎ付けたその情報が正解だと知ったところで、王家が渋い顔をする程度。

 さほど大きな問題になるような話でもないだろう。

 となると、狙いがますます分からなくなる……


「オムリの野郎を捕まえて吐かせますか?」

「いや、そうしたいのは山々ですが、それではあの狸に踊らされるだけ。自分の身に何か起きれば、ハンターギルドという組織が敵に回る手筈くらいは整えているでしょう」

「ウザったいですね……」

「アレはそういう相手なのです。レサ一家はこの街だからこそ存在する意味もあるというもの、組織が崩壊する可能性のある動きは取れません」


 しかし逆の見方をすれば、Aランクハンターを相応に抱えるオムリでもうちに手出しはできないということ。

 ハンターギルドの母体を敵に回すようなことがなければ、今の地盤でレサ一家が揺らぐことはない。

 そう思っていたところで、タレコミの木板を持っていた男が口を開いた。


「そういえばこのタレコミって、なんで今更届いたんでしょうね」

「?」

「だってロレントの野郎が言ってたじゃないですか。オムリに情報売ったのは、もう3ヵ月以上も前の話だって」

「……」


 僅かに心がざわつき、改めてタレコミの木板を眺める。



『少し前、ロズベリア北西部のイシピ4番廃鉱に隣接した廃村でロレントを目撃した。ハンターギルドのギルマス"オムリ"と二人だけでおり、対価として莫大な金と、ガルムに居住を移す段取りを付けてもらう代わりに組織の情報をペラペラと喋っていた。堅気に戻りたがっていたからだと思うが、家族は既にガルムへ移り住んでいるようだし、これは明らかな裏切りだ』



 これが商館裏手の入り口に置かれていたのを、末端の構成員が拾った。

 情報元が構成員なら、普通はこの功績に対しての見返りを求めるもの。

 そのため外部の人間であろうという想像は付くが、誰が書いたかは不明であり、【広域探査】を使用しても犯人は特定できず。

 そもそも置かれていたのが昨日の話なので、広範囲を探す時間もなかった。

 が、言われてみれば確かに、まるでロレントが街を出るのに合わせたような場面で置かれている。

 わざとらしく、必ず誰かが気付く場所に。

 そしてこのタレコミがあったためにロレントの居場所を探り、既に街を出ているというから私が直接動くハメになった。

 狙いは――つまり、私か……?


「……すぐに、商館へ戻りますよ」

「え?」


 返答も聞かず、走り出す。

 もし、ロレントから聞き出した今更な情報が、その中身ではなくロレント自身を囮に使う目的だったとしたら?

 ならば末端に毛が生えた程度の構成員が持つ情報などに大きな意味はなく、せいぜいが把握していた内容との擦り合わせや補完程度。

 ロレント自身も真意を知らぬまま泳がされていた可能性がある。


「もし私が商館を離れるように仕向けられていたとしたら……ふふ、ふふふっ……!」


 この時、時刻は21時手前。

 男の底冷えするような笑い声は、白く染まり始めた闇夜に溶けていった。
461話 最上階へ

「もう誰も来なくなっちゃったね」

「この辺りで打ち止めかな? 【広域探査】でも、レサ一家の反応がこの建物の上階くらいしかなくなっちゃったし」

「これで何人?」

「2200人ちょっと」

「うん、私が数えてたのも同じくらい」


 まともに立つ者が誰もいなくなった裏口ロビー。

 そこそこやりそうな獣人がこちらの狙いを漏らしたせいで、現場は軽いパニックに。

 そのお陰で一気に殲滅するハメになっちゃったけど、順調過ぎるくらいに集まりは良かったし結果オーライか。

 この世界の住民は寝るのが早いので、時間帯からしてもそろそろ頃合いだろう。

 もうゴミ箱もパンパンだしね。


『大量の、水』

「あぶぁ!?」

「て、てめぇ! 何しやがる!」


 ずっと背後で煩かったゴミ箱の中身が余計に騒がしくなってきたけど、いちいち反応しても疲れるだけ。

 勢いよく水を放出しながら、今後の予定をフェリンに伝える。


「とりあえずここをキレイに片付けたら次は上かな。幹部の名前で反応するやつがまだいるし」

「それが終わったら奴隷の人達を解放するの?」

「かな。まぁ全部が全部ってわけじゃないだろうけど」

「そうなんだ?」

「うん、中には犯罪奴隷とか借金奴隷もいるから」


 もう異世界に来て1年半以上経つのだ。

 奴隷商売は今のところ存在しない国が見当たらないくらいだし、合法的に成り立っているのであれば今更そこに文句はない。

 逆に罪を償い更生する場が他にないのであれば賛成くらいまである。

 軽犯罪者が奴隷落ちして世の中のために役立つことをするのも、借りた金を返せないやつが奴隷落ちして返すまで強制労働するのも当然のこと。

 ただこの世界だと、強引に罪や借金を擦り付けられたっていうパターンもあるから判断が難しいわけだけど、今回は協力したがりなフェリン大先生がいるからね。


「うぶっ……ぐるじ……っ……」

「だすげ……」

「死ぬ……息、がっ……!」

「おめぇ……ホガッ……殺せねーんじゃ……!?」


 なんというか、餌を求めて水面から口をパクパクさせる鯉を思い出すな。


「多くの人達に恨まれるほどの迷惑を掛け、平気な顔して僕を殺そうする人達をなんで生かさなきゃならないんですか?」

「え……?」

「殺すと周りがすぐ逃げそうだから、餌として生かしておいただけですし、用が終わったのなら次は殺すだけです」

「なん、だ……それ……」

「というわけで皆さん、さようなら」


 ――【雷魔法】――


『奔《はし》れ、"地雷矢《ジライヤ》"』


 パパンッ、パンッ! パパパンッ!


『【聞き耳】Lv9を取得しました』

『【逃走】Lv9を取得しました』




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「どう?」

「……うん、問題無し、前の時と変わらないね」

「ほんとにほんとに?」

「本当だっ、ぷぇ!」


 両手でほっぺた挟まれたって変わらんから。

 顔を固定され、覗き込むようにジッと瞳を見られても、本当に変化がないのだから反応のしようもない。

 意識すれば、少しだけ疼く程度。

 これなら前と同じだ。

 おおよそ3000人を超えてくると、意識せずとも嫌な欲が湧き上がってくる。

 そう伝えれば、フェリンも納得したのか、分かりやすくホッと息を吐いた。

 心配性だなぁ……


「うし、死体の回収も終わったし、次行くよ。それともここで休憩してる?」

「行く行く! 行くから!」


 ツカツカと。

 敵の反応は拾えているわけで、無遠慮に階段を上っていくと、2階の大きな食堂と厨房には数人の料理人が。

 3階には衣類とかシーツのような大きい布が大量にあり、ここにいる奴隷の生活を支える使用人のような人達がいた。

 揃って下の喧噪をずっと耳にしていたのだろう。

 隅で怯えたように固まっていたが、顔を見てもすぐに分かるし、念のために視ていたフェリンもあっさり白の判定を出している。

 この人達はただ奴隷の世話をしていただけで、人を攫ったわけでも、ましてや誰かを殺したりしたわけでもないのだから解放だ。

 明日から職はなくなるだろうけど、そういう場所で働いていたのだから、それくらいは自己責任ということにしておこう。

 そして4階へ。

 少し雰囲気が変わり、アパートのような個室の並ぶ居住区を横目に確認しながら、すぐ5階へ上がる。


「あれ? ここは寄らないの?」

「最初はこのフロアにも人がいて、チラチラ階段からうちらの様子を窺ってたんだけどね。下りられないことが分かったからか、全員5階に避難してるよ」

「ふーん」


 まぁ、あとでモノを全回収しに戻ってくるけど。

 それよりも今は、わざわざ待ち構えてくれている人達の所へ。

 5階に足を踏み入れると、今までとはまったく異なる世界が広がっていた。

 かなり大げさに言えば、マンションのペントハウスだろうか。

 今までは奴隷商館の一部が完全に区切られ、従業員やバックヤードのスペースとして活用されていたが、5階はまさに支配者の階層とでも言わんばかりにかなり広い空間が確保されている。

 落ち着いた色合いの調度品ばかりなので、あそこまでの派手さはないし玉座もないけど、少し謁見の間に近い雰囲気を感じてしまうな。


「本当に上ってきちゃったわね」

「だから言っただろうに。間違いなく目的が違うと」


 大きな部屋の中心には円卓のテーブルが。

 そこにはナイトドレスを纏った色気のある女と、白髪を左右に長く垂らす老人がこちらを見つめながら座っており、その周囲を取り囲むように、武器を握りしめた連中が――、全部で14名か。

 表情を強張らせながらこちらを睨みつけている。


 ――【心眼】――

 ――【探査】――


「んー……やっぱりシャイニー・レサとクロイスという人物はここにいなそうですね。それとミクロという人は奥の部屋にいるようですけど、お腹でも痛いんですか?」

「ふむ……"八式遮断結界"まであっさり突破しよるとは、たまらんぞこれは」

「あの変人が望んで人前に出てくるわけないじゃない。それより私らは眼中に無し?」

「いえいえ、あなた方もここを訪れた目的の一つですよ。国内外で19の店を構えるミスリルランクの豪商――サザラー商会長に、商業ギルドロズベリア支部のトップであり、貸付を一手に担っているイェル・サーレン支局長」

「あら、話が早いわね。私がサザラーよ。念のため私達は今後、後ろの女に手を出さないことはここで誓っておくわ」

「何も血を流すだけが解決の仕方ではないのだ。お互いに建設的で実のある話をしようじゃないか」


 そう言われ、座れと言わんばかりに背後に控えていた男の一人が、豪勢な椅子を一脚手前に引いた。
462話 想定を遥かに超えて

 さて、どうするか。

 目の前のエロい恰好をした30代くらいの女と局長の爺さんは、スキル構成からしても武闘派とは対極にいるようなタイプ。

 後ろにいる連中も【奴隷術】のレベルが揃ってそれなりに高いというくらいで、特別武芸に秀でているわけではない。

 いちいちテーブルに着かなくても、強引に解決してしまえばそれで仕舞いだと思うが……


「ちなみに、力での強引な解決はあなたの目的から遠ざかるでしょうから、決してお薦めしないわ」

「……こちらの目的は理解されているので?」

「わしらを含む幹部連中に用があるということは、末端じゃ知りえん情報が欲しいのだろう?」


 そう言いながら、白い髭を扱く爺さん――イェル支局長はこちらを観察するように目を細めながら言葉を続ける。


「初めに言っておくか。奥にいるミクロは一応幹部扱いになってはいるが、ちと特殊でな。おぬしの求めそうな情報は一切持っておらん。わしらを潰しても保険が利くとは思わん方がいいぞ」

「諸々の回復技術に長けた医者ですよね?」

「狂ってるけどね。アレは人の身体にしか興味がないもの」


 嘘ではない、かな。

 オムリさんの情報にも奇人の類と、そう書かれていた。


「それともう一つ、わしらには既に【奴隷術】が掛けられている。上書きができない以上、強制的な奴隷化で強引に口を割らせることは不可能だ」

「かと言って拷問を受けるくらいなら、情報を呑み込んだまま迷わず命を絶つけど」

「……つまり、"組織について語るな"と、そのような奴隷契約は結ばれていないわけですか」

「その通り、わしらに何よりも求められているのは、情報の秘匿などではないのでな」


 言外に暴れても欲しい情報は得られないという脅し。

 二人の妙に落ち着いたこの雰囲気は、決して空気の読めない貴族連中とは違い、飄々と語られるからこそ真実味も増す。

 最後の言葉の後、二人の表情に影が差したのは気になるが……

 なぜこの状況下でも堂々としているのか、その理由がはっきり分かったのだから良しとするか。

 情報の抜き方など様々あるが、フェリンの頭の中を覗くやり方も万能じゃないんだ。

 俺達が何に気付いておらず、何を知るべきなのか。

 まずは立場を理解させた後にでも、この二人から情報を抜いていくとしよう。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 襲撃者は殺しを躊躇うお人好しの玉無し野郎という話は、どうやら本当だったらしい。

 ロキがゆっくりとテーブルに着く姿を眺めながら、イェル・サーレンは顎髭を扱き、頬の緩みをソッと隠す。

 何者かは知らぬが、敵は少なくとも数名の500人長――フレイビルのランカー傭兵を蹴散らしてここまで上がってきているのだ。

 レサ一家の殲滅を目的とし、取り付く島もなく殺しにかかられては、こちらに抵抗する術など何もなかった。

 が、予想通りすぐに襲ってこないとなれば目的は明白、これで命は繋げた……

 サザラーにもまだ手は残されているし、クロイスさえ戻ればこの状況は一変する。

 それまでに情報を引き出しながら、なんとしてでも時間を稼ぐしかない。


「念のため確認しておこう。まず、おぬしが何者なのか――、え?」

「ぎゃっ!?」


 そう思ってイェルは口を開いたわけだが、その言葉は驚愕と共に途中で止まった。

 なぜか、目の前にあった巨大な特注の机が、瞬時に消えたからだ。

 横で頬杖を突いていたサザラーが支えを失い、尻を丸出しで前のめりに伏しているが、そんなことを気にしている場合ではない。

 いったい、何が――。


「凄く勘違いしていそうなので、こちらも先に忠告しておきます」

「「……」」


 その表情は酷く冷淡で、無感情な瞳はまるで塵埃を眺めているようだった。


「僕は対等に交渉しようと席に着いたわけではありません。こちらの確認したいことを確認したいだけ、なのでこれ以上【魅了】を飛ばしてきたり、回答に誤魔化しがあると判断したらすぐ頭をぶっ飛ばしますから、そのつもりで。お二人とも死んだらもう一人のクロイスとかいう幹部に聞くか、どうせ裏で暗躍していそうなマリーにいずれ吐かせればいいわけですしね」

「へ、ぁ……?」


 あまりの情報量に、二人は言葉を失う。


 ――玉無し野郎の雰囲気は欠片もなく。

 ――サザラーの【魅了】が効いている様子もなく。

 ――あのクロイスを当たり前のように手玉に取るつもりであり。

 ――なぜか、マリーに吐かせる……、え? マリーを、倒すつもりでいる……?


 目の前で、机は幻の如く消えた……

 消えたまま、どこを見渡しても存在していない。

 そんな芸当ができるとしたら、アレしか考えられなかった。

 そして、イェルはその立場から、フレイビルで今何が起きているのかも耳にしている。

 小賢しい狸のオムリが主導し、大陸中央の転送などという……あのマリーと同じことをやり始めるなどと宣い、実際に1度成功させたことが大きな話題になっていた。

 その協力者は、異世界人ロキ――、新国『アースガルド』の王だったはずだ。

 つまり、異世界人ロキとオムリは協力関係にあるということ。

 そして今回のタレコミは、そのオムリに情報を売ったという百人長に係わる話……

 あまりにもタイミングが良過ぎることで、イェルは身体中から冷や汗が止まらなくなる。

 オムリが……あの狸が協力者に、レサ一家の殲滅を依頼していたら。

 あのクソ狸がどこかしらから情報を掴み、我らを纏めて粛清しようとしているのだとしたら……?

 動機は十分過ぎるほどにある。

 武芸に疎い分、権謀術策の世界に長く身を置いていたからこそ、机の消失という事実から急速に点と点が繋がり始めたことで、イェルは目の前の男が何者なのかを理解した。


「ま、まさか……おぬしは、異世界人、ロキ王、か……?」

「ッッ!?」


 サザラーが物凄い顔でイェルに振り返り、すぐ目の前の男へ視線を向けるも、もう今更だろう。


「そうですけど?」

「んなっ……」


 想定を遥かに超える大物。

 この瞬間、イェルもサザラーも、極度に蒼白したまま固まった。

 片や50万の兵と傭兵連中を丸ごと相手取って一国を潰した男と、大陸の広域に根を生やし、裏で各所を牛耳る強欲女。

 果たして|ど《・》|ち《・》|ら《・》|に《・》つくべきか。

 生きてここから抜け出すために、かつてないほど二人は脳をフル回転させていた。
463話 マリーの思惑

 レサ奴隷商館の5階。

 そこには正座したまま項垂れる16人の男女が。


(やっとしおらしくなってきたな……)


 そう思いながら正面に座り、溜息を吐く。


「で、イェル支局長はその立場を利用して、返済が滞った商会や個人商店の情報を丸ごとこちらに流していたわけですか。焦げ付きやすいよう、わざわざ貸付額の調整までして」

「そ、その通りだ……」

「これ、ロズベリア支店の人達は知ってるんですか? それに王都グラジールで、フレイビル国内の商業ギルドを統括管理されているような方も」


 知っているなら、より範囲が広がる可能性もある。

 そう思っていたが、力なくイェルは首を左右に振った。

 終始黙っているフェリンに視線だけを飛ばすと、僅かな首肯。

 拷問されるくらいなら自ら命を絶つなんて威勢の良いことを言っていたが、偽ったら頭をぶっ飛ばすという脅しは実によく効いているらしい。


「サザラー商会長、組織内でのあなたの役割は?」

「イェルと似たようなもの……私は個人相手に、奴隷としての価値に収まる範囲内でお金を貸していた」

「なるほど。ここでも滞納者を捕まえて、意図的に奴隷を量産していたわけですか……他国にも支店があるということは、他所でもやってますよね?」


 この問いに、サザラーは黙って頷く。

 二人がやっていたのは、個人から商会などの団体まで、広い範囲の対象を相手にした金貸し業。

 金儲けをしながら借金奴隷が量産できる体制を作り、組織の枠に組み込んでいたわけだ。

 まぁ話を聞く限り、実際そういう仕組みを作った――というより、できそうな立場の人間を見つけて幹部に据えたのがマリーなんだろうけど。


「どちらもマリーからの誘いを受けて組織に入ったのが約8年前……その当時からもう、頭のシャイニー・レサは行方が分からなかったわけですよね?」

「そうよ。いつかは分からないけど、気付けば顔を見なくなっていた」

「わしはアトスターク侯爵にマリーを紹介され、レサ奴隷商館を裏側から支えてもらうので協力してほしいと、そう頼まれた時にシャイニー・レサの行方が分からなくなっている事実を初めて知った」

「もしかしたら、当時から商館の番人だったクロイスは何か知ってるかもしれないけど……入る前のことなんて、レサが一人で切り盛りしていたことくらいしか分からないわ」


 ここまで聞いて、視線を手元の木板に移す。

 オムリさんから受け取っている情報――、その中にも不確かながら繋がりの高そうな人物として、この地の領主であるアトスターク侯爵の名が記されていた。

 マリーを紹介するくらいとなれば、まず間違いなく『黒』。

 いよいよもって、話が大きくなってきたな……


「大きく奴隷商館の中身が変わり、やり方が苛烈になったのもこの辺りからですか」

「そうね……」

「マリーと領主からは質もそうだが、兎にも角にも数を求められた。今まで通りにやっていたのでは、間違いなく満たせないほどの数を」

「その割にはこの中が奴隷で飽和しきっているという感じはしませんけど、強引に集められた奴隷はどこに行っているんです?」


 この時、予想していた答えは2つ。

 しかし、実際は予想の斜め上をいく回答が返ってくる。


「一部の優秀な人材だけマリーが別に動かしていたようだが、正規に開かれた『表鉱山』と、国にも報告されていない『裏鉱山』が行先の大半。あとは病人や部位欠損の酷い連中、それに非力な子供なんかは、あそこで実験の材料――ッ、に使われ、ておる……」


 そう言ってイェルは、目に見えて震えながらフロアの奥に存在する重厚な壁を見つめた。

 犯人は俺が1割、フェリンが9割だろう。

 感情の一切が消え去ったような顔をしているけど、一瞬で空気が張り詰めたので、相当怒っていることは間違いない。


「……順番に行きましょう。『裏鉱山』とはなんですか?」

「その名の通りだ……公にされていない隠し鉱山で、エイブラウム山脈の奥地にいくつかある。道中の道のりは険しく、運搬時の事故や内部崩落含め、採掘量を最優先にしているため人がよく死ぬ」

「アトスターク侯爵の独断でやっているということですか」

「そうだ」

「目的は?」

「マリーが裏で産出された鉱物を全て買い取っているのだから、まず間違いなくソレが理由だろう。フレイビルは鉱物資源国としての優位性を保つため、一国のみに過度の融通を利かせるようなことは国として認めなかった。それでは足らなかったということだ」

「つまり、ここの領主は完全にマリーの手に落ちているということですね。見返りは……唸るほどの金銭と、フレイビルがアルバート王国に呑み込まれた時の地位保障ってところですか。お二人にも同じことは言えると思いますけど」

「うぐっ……それは否定せぬが……あの男――侯爵の場合はそれだけで済まぬ」

「?」

「様々な種族の女よ。何を基準にしているかまでは分からないけど、たまにあるマリーからの"褒美"として与えられるから、その手配も私達がやっている……」


 ふぅ――……

 もうここまで聞き出せれば、マリーの狙いもだいぶ見えてきたか。

 てっきりバルニールの件があって、そこから方々に被害が拡大しているのかと思っていたけど、これは違う。

 バルニールはあくまで求めていたモノの一つ。

 ロズベリアが手に入ればフレイビルを手に入れたも同然だろうし、狙いは初めからこの街であっただろうことが分かる。


 大陸有数の鉱物資源国であり、鍛冶産業の盛んな国に目を付けたマリーは、ロズベリアを我が物にしたいと思ってまずこの地の領主を落とした。

 そして鉱物を大量に、かつ安定的に手に入れるため、レサ奴隷商館を掌握し、仕組みを大きく変えて金儲けをしながら奴隷人員を増加させ、『裏鉱山』を稼働。

 鉱物類の入手に十分な目途が立ち始め、そこから奴隷商館の人材と仕組みを利用しつつ鍛冶師の囲い込みに動いた……

 だからマリーがこの地で動き始めた8年近く前からバルニールが生まれる5年ほど前まで、多少のタイムラグが存在しているのだろう。

 狙いは戦争資源――、西側の大きな争いに拍車を掛けるよう、転送で物資を供給しているというのも、金儲けの道筋としては納得できる。

 まさに死の商人であり、ついでに優秀な人材は自ら抱えているということは、自国の強化も並行して行っているわけか。

 あぁ……今更だな。

 ウザったいくらいに頭が切れると感じたのは今回だけじゃない。

 そういう相手だと理解して、叩き潰す。

 それだけだが、しかし『人体実験』はどう繋がる?

 マリーらしくないような気もするが……


「ミクロという変人を幹部に据えたのもマリーなんですよね?」

「そうよ」

「それは、なぜ?」

「幅広く治療し、奴隷を長く活用できればそれだけ利益を生むから」

「想像以上に真っ当な考えですけど」

「しょうがないじゃない……気持ち悪くて近寄りたくないし、中で何をやっているか知らないんだもの」

「マリーに効力の強い鎮痛剤や興奮剤の商業登録を頼まれたことはあったが……ここ最近は頻繁にキツい匂いを放つ木箱と子供が運ばれておるくらいしかわしも知らん」

「薬の実験ですか……」


 人で試し、効果が十分に見込めればイェルを使って商品化を進めていたとなると、この辺りの薬物も西に流れている可能性が――……



 反応は、依然として無い。

 しかし、ふわっと。

 不意に香った、血の臭い。




 これは……来たな。

 知らされていた情報から、念のためにいくつかの対策を取っておいて良かった。

 普段当たり前のように活用している探査や感知系が|何《・》|も《・》|通《・》|じ《・》|な《・》|い《・》|こ《・》|と《・》には驚いたが、なるほど。

 これが【隠蔽】レベル10を相手にする感覚か。


 さて……

 背後に振り返った時――、


「速いね」


 俺に1本、フェリンに向けても1本。

 黒い影から既に2本の短剣がこちらに向けて投げられていた。
464話 教訓

 投げられた短剣の奥からは、かなりの速度でこちらに走り寄る、ローブを纏った黒ずくめの男。

 その姿は背後の者達にも見えたのだろう。


「クロイスやれぇえええええ!!」


 イェルの叫び。

 続いて、


「捕まえなさい!」


 サザラーの命令に応じて、大人しくしていた14人の男達が一斉に俺へ群がってくる。

 この行動に驚きはしないが……

 なるほど、フェリンまで容赦なく殺そうとするんだな。


 カンッ、カンッ――。


 張っていた防壁結界に防がれ、空中で不自然に弾かれる2本の短剣。


『風』


「ひぎっ」

「うごッ……」


 そして俺の手足を死に物狂いで掴んでいた男達を乱刃で一掃すると、僅かに目を見開いた黒ずくめの男が足の動きを止める。

 代わりに、袖口の広い左右の手から伸びてきたのは、細い鎖。

 先端にはナイフが付いているようで、ヒュンヒュンと凄まじい風切り音を奏でながら2本の鎖を器用に振り回すと、瞬く間に俺の結界は破壊された。


「よく、こちらに気付けましたね」

「あなたが有名な『暗殺者』だと聞いていたので警戒していたんです。それにずーっと僕の背後をチラチラと、まるで誰かの助けを予見しているかのように、皆さん階段の方に視線を向けていましたので」

「「「……」」」


 まぁ、それだけじゃないけどな。

【隠蔽】で阻害されることを想定して【嗅覚上昇】を常時使っていたし、足元で細切れになった男の一人には【視覚共有】を使って階段の方が見えるようにしていた。

 俺が最も警戒すべきはこの手のタイプの男。

 俺に刃を通せる可能性のある相手なら、決してやり過ぎということはない。


「フェリン、あの男から離れといて」

「うん」


 ヒュッヒュッ――……


 袈裟斬りのように、上空から降ってくる2本の鎖を横に飛んで躱す。

 すると、叩きつけられた石の床には大きな亀裂が。

 威力もなかなかのモノ。

 でも、狙いはそれじゃないだろう。

 俺を追いかけるように、真横へ振られた鎖。

 咄嗟に躱しながらその先端を凝視すると、樹液のような赤黒い何かが付着していることが分かる。

 先ほど結界で弾いた短剣も同じ、狙いは状態異常――まぁ、十中八九は毒か麻痺だろうな。

 安易に鎖を掴み取ろうとしたら、もしくは鎖に絡め取られたら、巻き付いた先端の刃が身体を傷付け、そして最悪はかつてのように情けなく這いつくばるのだ。

 まだまだ考えが甘かった頃の嫌な思い出……

 だけど、その経験が強い警戒心へと繋がり、俺の糧になっていると自覚する。


 ――【多重発動】――


『"黒鎖"』『"黒鎖"』――『発動』


「ッ!?」


 こうも危なっかしいモノを振り回されると、中に入っていくのが面倒なのだ。

 目には目を、鎖には鎖を。

 絡め取るために強く振り回すと、男は俺の黒鎖に鎖を当てて阻害しようと試みるも――、


「残念」


 こっちはあくまで【闇魔法】だ。

 俺の意識の下、クロイスの放った鎖を通り抜けるように黒鎖は通過し、身体に接地する前には物質へと変える。


「ぐおっ!?」


 すると振り回していた左手も一緒に男を捕縛できたので、そのままこちらに手繰り寄せた。

 右手一本でこの距離なら、もう鎖などまともに機能しないだろう。

 ――と、思っていたが。


「……ふふっ、死ね」


 要注意人物というだけあってやはり強いな。

 右手にはいつの間にか鎖ではなく、脇差のような50cm程度の短剣が握られていた。

 そして男は黒鎖に巻かれてこちらに飛来しながらも、急に空中で弾けたように加速し、俺の頭部を叩き割らんと斬りかかる。

 だから俺は空いた左手で咄嗟にガードした。


「なっ!?」


 響き渡る、金属音。

 本来ならば腕が切り落とされているところか?

 鳴るはずのない音に、クロイスは驚愕しているが。


「暗器を扱うのって、あなただけじゃないんですよね」

「ゴホッ……」


 すぐに黒鎖を解除した右手を胸に差し込み、心臓を強引に毟り取った。

 さらに足からも何かを生やそうとしていたし、こういう危ないヤツはとっとと始末するに限る。


『【暗殺術】Lv8を取得しました』

『【空脚】Lv5を取得しました』

『【暗器術】Lv7を取得しました』

『【奴隷術】Lv8を取得しました』


「はい、お疲れ様でした」


 呟きながらクロイスの持っていた面白そうな武器を【鑑定】していると、背後からフェリンの動揺を滲ませた声がした。


「ねぇロキ君、この人からも聞きたいことあったんじゃないの?」

「あ」


 たしかにー!

 シャイニー・レサがどうなっているのか一応聞こうと思っていたのに、結構強くて思わず殺っちまったじゃねーか!


「だってさ、強かったっていうか、危なかったんだよねこの人。ほら、見て! ここも、ここにも毒が!」

「ふーん。シャイニー・レサって人はこの人が殺しちゃってることは分かったけど……」

「あ、やっぱり?」


 ここは一番現実的にあり得そうな予想が当たったか。

 クロイスという男もマリーの手に落ち、大きな改革の手助けをしていた。

 そういうことなんだろうけど、なんでここまで強くなった人が落ちちゃうかなぁ。

 金のないヤツが目の前に大金をぶら下げられて落ちるっていうのは分かるし、目の前の武力に屈して落ちるというのもまぁ分かる。

 でもこの強さなら稼ぎようはいくらでもあるだろうし、マリーの乗っ取り案が気に食わないなら、逆に殺しにかかっても不思議ではない。

 にも拘わらず落ちているということは、やはりマリーがこの男よりも断然強いってことなんだろうか?

 うーん……


「ク、クロイスまで、こうも、あっさり……」

「どの道、乗り込まれた時点でダメだったってことよ……」


 この場に残されたのは、死を覚悟して項垂れるイェルとサザラーの二人だけ。


「最後に一つ質問です」

「「……」」

「どうしてあなた方は、わざわざ奴隷になってまでマリーの下につくのですか? たぶん、今だって望んではいないでしょう?」


 先ほどはそんな表情をしていたのだ。

 もう既に、潤沢過ぎるほどの金を手に入れたから、ということかもしれないが……


「ふふ、望んでなどいないわ。でもこちらの持ち得る力が何も通用しない相手には従うしかないでしょう? それにあの女は金を生み出すための駒として働き続けるなら殺さない。どんな悪人だろうと利用し、富も与えてくれる」

「……おぬしは、どのような結果にせよ、わしらを殺す気でいただろう。そういう目をしとった」

「そうですね。よほどの事情でもなければ結末は同じ、あとは殺し方が違うだけです。バルニール設立に反対した人達への追い込み――、その中でも鉱物の流通制限を加えていた筆頭なんて、立場的にもあなた達お二人だと分かっていましたので」

「ふん、血迷っておぬしに鞍替えしようなどと思わなくて良かったわ」

「そうね。最後に死んでも死に切れないほどの悔いが残るところだった」

「お~良いですね。じゃあどうせなら最後に全部吐いちゃいましょうか」

「「え?」」


「あなた達の抱える資産ですよ。残したって悔いが残るだけですし、ぜーんぶ綺麗に吐いちゃいましょうね?」
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
まったり楽しまれていますでしょうか、作者のニトです。
4/25に書籍2巻とコミック1巻がどちらも発売となりまして、それぞれの情報を活動報告に載せておきました。
2巻から物語が分岐していきますので、詳しいことはそちらをご覧いただければと思いますが、ここでは私から1つだけ。
2巻を購入された方は、『0話』の内容をWEB版の感想欄で極力触れないようにしていただけると嬉しいです。
それではどうぞWEB版と書籍版、どちらの物語もお楽しみください。
465話 きっかけ

 二人とも痛みに弱かったのかな。

 かなり強い抵抗は見せたものの、比較的綺麗な身体のままで済んだ死体を回収しながら、ふと思う。


(たぶん、今回の戦利品は過去一番にヤバい……)


 保有している現金や物品、複数ある家など。

 ついでに聞けるだけ聞き出したクロイスの分まで含めると、幹部連中が吸い上げていた資産はいったいどれほどになるのか。

 それにまだ、ここから続く。

 ロズベリアの領主――アトスターク侯爵まで。

 だが、まずは先にここをきっちり片付けないとな。


「フェリン、ここからは本気で忠告しておくよ」

「え?」

「たぶん、この先はかなりキツい光景が待ってるかもしれない。見て良いことなんて何も――」

「行くよ」

「やっぱり?」

「だって、ロキ君は見ても良いことなんてないのに行くんでしょ? このろくでもない組織を壊すために」

「そうだけど……」


 これ以上は言っても無駄。

 そんな覚悟が目に宿っていたからこれ以上の言葉が出てこない。

 でも、その覚悟で足りるのか?

 聞いていた話と可能性を考えれば、そんなことまで考えてしまう。


 フロアの3分の1は占めているであろう重厚な壁の先。

 そこには1つの扉があり、開けると左右二手に分かれる通路が。

 この時点で異臭を感じながら先に進むと、その通路はぐるりと周囲を囲うようにして存在していたことが分かる。

 中心部に向かう扉は1つだけ。

 臭いの元も間違いなくここだ。

 意を決して開けると――、


「うっ……」

「……」


 後ろにいたフェリンがすぐに呻き、俺も想像以上の光景が広がっていたことで言葉を失う。

 机の上に乗せられた多くの遺体。

 それは背丈からしても主に子供で、まるでキメラのような……

 部分的に様々な魔物の身体と繋げられていた。

 多くは緑色の体表をしているのだからゴブリン系だろうけど、中には狼系の獣人に狼種の魔物など、人の形状を成しえていないモノまで存在している。


(なんだよこれ……)


 そう思うも、その答えはすぐに見えてくる。

 部屋にはいくつもの魔石が転がっており、胸を開かれた人の身体に、大きさの異なる魔石がそれぞれ埋め込まれているのだ。

 中には胸部だけをそっくり移植した子供の死体もある時点で、きっとそういうことなんだろう。


「ロキ君、これって……」

「たぶんだけど、『俺』を実現しようとしたんじゃないのかな」


 どうすれば、人は黒い魔力を生み出せるのか。

 どうすれば、人は魔物のスキルを使用することができるのか。

 実在する以上、何かしらの方法がある。

 その力が得られれば、絶大な戦力に繋がる可能性がある。

 きっと、そう思って……

 人に見られるリスクを恐れ、それでも衆目に晒した代償の一つが、きっとこの実験なんじゃないのか?

 イェルが|最《・》|近《・》|に《・》|な《・》|っ《・》|て《・》臭い木箱が運ばれるようになったと言っていたことから、少なくとも数年前から続けられている実験ではないだろう。


「起きてください」


 まぁ、聞けば答えが返ってくるかもしれない。

 無造作に投げ捨てられた死体の横で、突っ伏したように寝ている爺さん――ミクロに声を掛ける。


「おい、起きろ」

「……んがっ、寝落ちしてもうたか……って、誰じゃ貴様ら、新しい素材か?」

「そんなわけないでしょう。この商館をぶっ潰しに来たんですよ」

「なら普段から悪巧みしている連中は外じゃ。イェルとサザラーがいるだろうからそっちでやってくれ」


 ……なんだ、この爺さんは?

 まるで他人事のような、自分は関係ないとばかりにフラついた足取りのまま片づけを始めた。

 悪巧みって、これが悪という認識もないのか?


「あなたのこれは、悪いことではないと?」


 思わず問うと、さも当然のように爺さんは答える。


「当たり前じゃろ。異世界人だからという特殊な事情があるのかもしれんが、もし凡人に魔物の属性が備わればこの世界は大きく変わる。あまつさえ新しい進化の経路を生み出す可能性すらあるのじゃぞ?」

「……」

「こうした部位結合による一時的な稼働までは確認できているのだ。あとは魔石を内包しても支障のない適合者を探しつつ、身体の過半を魔物に換えていく実験を進めていけば、いずれ人と魔物の融合体も――」


 爺さんが饒舌に語る内容に一瞬疑問が湧き、理解した途端心が大きくざわつく。


「ねえ、今一時的な稼働は確認できているって言った?」

「そうじゃが?」

「つまり、子供を生きたまま切断して、魔物と強引に繋げてたってこと?」

「当然じゃろ。生きたまま反応を見るから実験の意味が、あぼっ――……」


『【神聖魔法】Lv4を取得しました』

『【医学】Lv7を取得しました』


 金具で台に貼り付けられた子供の遺体にソッと触れれば、まだ僅かに温かかった。

 乱雑に置かれた血濡れの工具。

 それに乾いた涙の跡を見てしまうと、どういう状況下で実験が行われていたのかも想像できてしまう。


 ふぅ――……


「ロキ君……」

「たぶんないとは思うけど、どっかで同じような実験やってるバカがいたら教えてよ。俺が即行でぶっ潰しに行くから」

「うん、でもこんなの、ロキ君のせいじゃ……!」


 そう、心配そうに俺を見つめるフェリンに首を振る。


「間違いなく俺が切っ掛けではあるんだろうけど、でも俺のせいだとは思ってないよ。だから責任を丸ごと抱えようとか、そんなことは考えてないから」

「そっか……」

「ただ、こんなことを平気な顔してやっているヤツラが心底嫌いだから潰すってだけだし、狂った医者にこんな実験させて、その成果を利用しようとしているマリーも絶対に潰すから」

「分かった……」


 考えてみれば、女神様に転生者を潰すってはっきりと伝えたのは初めてか。

 ここに来て、散々マリーがロズベリアで何をやってきたのか話を聞き、フェリンはさらに当事者の記憶からも確認しているのだ。

 直接的ではないにしても、良かれと思ってこの世界に転生者を呼び込んだ女神の一柱は今どんな顔をしているのか。

 面と向かっては見れないまま、黙々と無人となった5階フロアのモノを収納していった。
466話 選別と解放

 バックヤードに存在するモノを5階から順番に回収し終えて外へ出た時、既に外は雪で白く染まっていた。

 時間も時間ということがあり、外を出歩く人は大通りを見てもまったくおらず、だからこそこのまま続けるべきか少し悩むが。


「たぶんこの時間は寝てるだろうけど、それでもやっちゃおうか」

「うん」


 捕まって無理やり奴隷にされたのなら、少しでも早く抜け出せた方がいいだろう。

 それに【奴隷術】は、対象が死ねばコストは術者に戻されてしまう。

 さすがにこの短時間でバレるとは思えないが、それでも多くが寝静まった深夜のうちに問題を片付けてしまった方がこちらも安心できた。


(どうせ中身は全部空にするしな……)


 表通りに回り、鍵の掛かった重厚な2枚扉を強引に抉じ開けて中に入ると、裏ロビーとは違って立派な絨毯の敷かれた広い空間が出迎えてくれる。


『光玉』


 本来はいたはずの見張りも既に全員死んでいるのだから、探索は非常に快適というもの。

 正面にはカウンター、複数の商談用テーブルも設置されているので、綺麗に全て収納しながらズンズン進んでいくと、奥には2階へ上がる左右2本に分かれた階段が。

 そして中央には大きな扉が存在し、この扉が1階表ロビーと奥の奴隷区画とを隔てていることが【探査】の反応から分かった。


「それじゃフェリン、よろしくね」

「任せて」


 扉を開けると雰囲気は一転し、先ほどの地下牢と同じような景色が広がる。

 ジメジメと湿気が漂うとかではないが、壁も床も全てが粗く削った剥き出しの石材なので、明らかにこちらの方が足元も、そして漂う空気も寒い。

 いくつか魔道具を回収しながら来たけど、人がいない所を暖めてどうすんだよって本気で思ってしまう。


 そんな中を端から静かに、軽く200は超える牢獄のような部屋を順番に見ていく。

 向こうの地下と違って1人1部屋と決まっているようで、奴隷商館だというのに特に値札らしいモノは見当たらなかった。


「白」

「了解」


 フェリンの言葉を聞いてから鉄格子を消し、ゴザの上で縮こまって寝ている人に声を掛ける。


「起きてください」

「う、うぅ……なんだ……?」

「静かに。理由もなく奴隷にされた人達を救出しに来ました。今日から自由ですので、いきなりですけどここから出てください。外は雪なので、もしかしたら一部の残党が戻ってくるかもしれませんけど……朝までロビーで待つか、すぐ帰るべき場所に戻るかはお任せします」

「えっ……ほ、ほん……ッ!? す、すまん……」


 思わず男の口を塞ぐ。

 全員を丸ごと救うなら今がお祭り騒ぎでも構わないが、そうではないのだ。

 できれば静かに、皆が寝ている間に事を済ませたい。


「白」

「黒」

「黒」

「白」

「黒」


 そう思って次々と白判定の者達を救出していくも、まぁそう都合良くはいかない。

 数時間前には同じ1階の裏ロビーで異常な騒ぎがあったのだから、異変を感じて寝つけない人がいてもおかしな話ではなかった。


「おい、なんで俺は出してくれねーんだよ」


 一つの牢屋を通過した時、中にいた男が鉄格子をガシガシと揺すりながら騒ぎ出す。


「あなた、犯罪か借金で正規に奴隷落ちしているでしょう。今回の救出は無理やり奴隷にさせられた人が対象ですから」

「さっきから『白』とか『黒』って言ってたのはそういうことかよ……人を見た目で判断するなんてあんまりじゃねーか! なぁ、おい!」

「な、なに……」

「くそっ、煩いな……」

「うるせーぞ馬鹿野郎!」


 あーあ。

 まだ20部屋も確認できていない。

 なのにこれだ。


「これ、どっち?」

「犯罪」

「だよね、やっぱり」


 はぁ……

 本当に、自分勝手な悪党は嫌になる。

 それはもう、今すぐ殺してしまいたいくらいに。

 それでも相手は奴隷落ちなのだから軽犯罪者。

 スルーしようとした時――、横の鉄格子から腕が伸び、なぜか俺の首が締め上げられた。


「?」

「おい、そこのねーちゃん、黙って俺の牢を開けろ! そうしねーとこのままコイツの首をへし折るぞ!」

「……」

 
 当然、痛みなどない。

 だから真っ先に心配したのはフェリンの様子だった。


(ほんとに大丈夫なのかコレ……)


 いや、たぶん俺も似たような気持ちだとは思うけど、無感情な瞳をしたまま気を落ち着かせるように吐く長い吐息が、見ていらんないくらいに怖過ぎる。

 そしてこの大声がどうやら決定打になったらしい。

 "牢を開けろ"という言葉に多くの奴隷が反応し、すぐに広がりながら大きな騒ぎになっていく。

 もう、さすがにこんな状況で寝ている人なんていないでしょ……

 なら、もういいか。

 自然と、そう思えてしまった。


 ブチブチブチ……ッ!


「ひぎゃぁああああああああああああああッッ!!?」


 俺も、私も、という救出を求める声に突如として混じる大絶叫。

 首に絡まった気持ち悪い腕を力ずくで解こうと、両腕を掴んで捥(も)いでしまっただけ。

 悪いのはどう見ても顔を歪めて蹲る髭面だが、丁度いいかな。


 ――【拡声】――


「どうしようもないバカが騒がせてしまってすみません。今から正規に"犯罪"もしくは"借金"で奴隷落ちした人以外はここから救出します。対象は騙されて罪を被らされたり、強引に攫われて奴隷にされてしまった人達です。該当者は鉄格子を両手で掴んで待機してください」

「「「うぉおおおおおおおッッ!!」」」

「ただし、事実を偽ったり強引な手段を取ろうとした者は、先ほど大騒ぎしていた男みたいに腕を捥がれて出血多量のまま死にます」

「「「えっ……?」」」

「こちらは真偽を判別できますので、無駄な手間は掛けさせないよう慎重に、でも間違いなければ自信を持って鉄格子を掴んでください。ちなみに聞こえているか分かりませんが、2階以降の方も同様です」


 こう伝えれば一瞬場が静まり返ったけど、すぐ湧き返したように該当者が喜び始めたので、これで多少はスムーズに事が運ぶだろう。


「ちょ、待ってくれ……お、俺の、腕が…血が、止まらねぇ……このままじゃ、ほんとに……助けてくれって……ッ!」

「なぜ?」

「……?」

「だから、なぜ、自分勝手にここを出せと脅し、僕の首をへし折ろうとした相手を助けなければいけないんですか?」

「い、いや、でも、実際にやったわけじゃ……」

「できなかっただけで、僕が無力ならあなたは実行に移してでもここを抜け出そうとしたんでしょう? 僕を殺してでも助かろうと思い、さらに行動へ移した。だからその悪意を返された、それだけですよね?」

「そ、そんな……」

「何もしなければ、牢から抜け出せずとも朝を迎えられたのに。ここから多くの人達が解放されていく姿でも眺めながら、残り僅かな人生、如何に自分がゴミのような存在だったか見つめ直して死んでください」

「待っ……悪かった! 謝るから、頼むって――……」


 そう告げながら、思い出したように【転換】の余剰経験値量を確認しておく。

 死に直結する行動を起こしたのは間違いなく俺。

 でもこの男が死ぬまでには、まだそれなりの時間が必要だろう。

 俺のラストアタックという判定は、人が相手の場合どの程度の時間経過まで有効なのか。

 いつか調べようと思いながらも、【転換】を得るまではその判別が物凄く難して機会を作れずにいた。

 小物相手ではスキル経験値上昇が判定不可の1%未満なんてザラ過ぎるからな。

 でも【転換】ありで、経験値ロスが限りなく薄いウルトラ雑魚な悪党であれば、実験対象には丁度良い。

 そう思って、まだ騒いでいる両腕を失った男をスルーしながら数歩進んだところで、思い出したようにそれ以上足を戻す。


「ロキ君?」

「人を見た目でどうたらって言ってたあなたは、結局外に出たいんですか?」


「い、いえ! 私は一生この中にいようと思います!!」
467話 やる気次第

(ん~攻撃を加えてから30分も経過したら、さすがにラストアタック判定はされずか)


 奴隷区画の1階を一通り回り終えるまでにかかった時間は30分強。

 その後に戻ってみたら、腕を失った男は自分の血溜まりを見つめながら死んでおり、【転換】の余剰経験値は変動無しのまましっかりロスしていたことが分かった。

 30分という時間が長過ぎた。

 他にも対象が死亡した時、距離が離れすぎていたなんて可能性も一応あるけど、今回は致死に繋がる攻撃だけでは経験値をロスすることもあると分かっただけ良しとするか。

 先ほど、地下のゴミ箱に水を注いだ時。

 死亡までにそれなりの時間を要してしまう溺死がラストアタック判定にならなかったらどうしようと、一瞬そんな考えが頭を過ぎってしまい、【雷魔法】という確実な感電死を俺は選択した。

 他にも戦争の時は大量にいたであろう重度の火傷とか、今のところ使う予定もないけど毒とか、死亡までにラグが発生する攻撃方法はいくつも存在している。

 経験値が欲しければその場でキッチリ止めを刺せってのは基本中の基本。

 でもできない時だってあれば、したくない時もあるわけで、今後もパターンを変えて情報収集していけば、その時々で適切な攻撃方法を選択できるんじゃないかなと思う。


(まず試すべきは溺死がセーフかどうかだよなー)


 そんなことを考えながら、2階、3階と順番に回っていく。

 商談用のソファや机が置かれた場所と、フロアの多くを占める奴隷区画。

 構造は階層が違ってもそこまで大きく変わるものではなく、ただ上階に行くほど置かれている家具は商談スペース含めて上等になり、割り当てられた部屋も鉄格子付きではあるものの広くなっていった。

 となれば当然、奴隷の質も上がってくるわけで。


(この人結構バランス良いなぁ……お、この人もなかなか……)


【心眼】を通したスキル構成から、こんな感想をしばしば抱きながら解放と残留の選別を進めていく。


 そして奴隷区画の最上階となる4階へ。

 ここまで来ると床に絨毯まで敷かれ、かなり余裕のある個室が与えられているようだが、奴隷の数は僅か8人のみとかなり少ない。

 もしかしたらこのフロアは、マリーがどんどんアルバート王国に連れてっちゃってるからかもしれないけど……


(【舞踊】レベル7……【建築】レベル7……おぉ、【酒造】レベル8か……)


 何かのスキルレベルが職業加護込みでもいいからレベル7以上、もしくは解放条件を満たす必要がある中級以上の希少スキル持ち。

 さすがに見たこともないスキルを所持している人はいなかったけど、それでも十分優秀だなと思える人達が、鉄格子を強く握り静かにこちらを見つめていた。

 まぁ中には例外もいるようだが。


「ようやく助けが来ましたわね。早く出してくださいまし」


 いくら4階といっても、身に着けている衣類はようやく庶民的に見える程度のモノ。

 その口調と身なりのギャップに、思わず声の主である若そうな女性を二度見してしまう。

 スキルを覗いても精々2階にいた人達程度で、明らかに一人、この階層で存在が浮いていた。

 フェリンよりは劣るが、顔面偏差値的なヤツでここにいるんだろうか?


「えっと、あれは?」

「……『白』」


 一瞬、不満げな表情を浮かべて答えるフェリン。

 内心嫌な予感がしつつも、しょうがなくその女性の鉄格子を取っ払う。


「私がラグリース王国旧ヴァルツ領、モントーレ伯爵家の次女、ユッテ・モントーレですわ」

「はぁ、そうですか。では気を付けて帰ってくださいね」

「そこの、お待ちなさい。私が名乗った意味、お分かりでして? あなたはお父様が差し向けた救援者ではありませんの?」

「まったく違いますが」

「ではしょうがありませんわね……我が屋敷まで送り届ける栄誉をあなたに与えますわ。寝具を積んだ2頭立て馬車くらいはできれば用意してくださいまし」


 すぅ――……はぁ――……


 フェリンの深い深い呼吸音が横で聞こえる度、俺はドキドキして冷静になれる。

 不意に身体を捩じ切ったどこかの貴族ばばあが浮かんできたけど、一応この女って取っ捕まってここで売られている『白』だしなぁ……


「……お断りします。僕は無理やり奴隷に落とされた人達を救出するのが目的であって、一人一人自宅まで送り届けるほどの面倒を見るつもりはありませんので」

「もう1度言いますわよ? 私はモントーレ伯爵家の次女、ユッテ・モントーレ。上級貴族の娘ですのよ?」

「だからなんですか?」

「こ、このようなみすぼらしい恰好をされた平民では、想像すらできないのですか……」


 ……すぅ――! ……はぁ――!


「救出したとなれば、上級貴族と顔を繋げますのよ? それなりの褒美も得られるでしょうし、私が取り成せば、伯爵家があなたを取り立てることだってできますのに!」

「まったく興味がありませんので結構です」

「なっ……!」


 たぶん言ってることは嘘じゃないんだろう。

 誰しもがこの提案を喜ぶと本気で思っていそうな雰囲気があるから余計に質が悪いけど。


「最後の通告です。これ以上騒いだら牢の中に戻しますので、静かにここから出てください。あなたが本当に貴族なら、ハンターギルドでも傭兵ギルドでも、この街の人間があなたの提示したメリットに釣られて望みを叶えてくれるでしょう? 僕である必要はないし、僕は僕でやるべきことがありますので」

「ッ……」


 なぜ俺は睨まれているのか。

 よく分からないけど、フェリンの感情を捏ね繰り回すかき混ぜ棒みたいな女が出口に向かってくれたのであればもうどうでもいい。

 その後もグルリと回って滞りなく――、というより4階は『白』しかいないので全員解放したら、お次は人のいない部屋の家具や魔道具なんかも全て綺麗に回収していく。

 せっかく潰すのだから、金目のモノを一切残したりはしない。

 そして1階に戻ってきた時。


「おぉ……?」


 ロビーにいた想像以上の人の多さに思わずたじろぐ俺。

 外は雪だし深夜だから、朝まで待つかは任せると伝えていたが……

 解放した300人くらいがほとんどここに残っているんじゃないのか?

 そう思って近くにいた人へ問いかけると、納得せざるを得ない答えが返ってくる。


「いや、助けてくれたのはありがてーんだけど、俺達みんな裸足だし……」

「こんな雪道の中で外なんて歩けねーさ」

「あー確かに……気付いてなくてすみません」


 よく見なくても全員裸足。

 今も俺が絨毯を引っぺがしているため、皆がかなり辛そうにしていた。

 これはさすがに申し訳ないな……


『火』


 そう思って適当な木製家具を引っ張り出し、雑に割って焚火の材料にしておく。

 石造りの建物だから火が移る心配はないし、4か所に分けておけばみんな暖を取るくらいはできるだろう。


「これだけあれば朝まで十分燃え続けるでしょうから」

「あんちゃん、ありがとな」

「おぉ~暖かい……暖かいよぉ……」

「本当に感謝しかないねぇ。ただ朝になったとして、私達はどこに帰ればいいのか……」

「まだこの街出身の者はいいだろうよ。俺達はヴァルツに戻るまで、馬車代と通行税をどうやって稼げばいいんだ」

「というか、家がまだ残っているのかも怪しいよ」

「……」


 似たような会話は他でも聞こえてくる。

 でも奴隷の今後については、オムリさんに上手くやってもらうくらいしかないんだよなぁ……


「あ、あの、もし間違えていたらすみません……あなた様はもしかして、ロキ王様ではないでしょうか……?」

「「「え?」」」


 俺と周囲の声が重なった。

 目の前にいるのは10代後半くらいの人の良さそうなお姉ちゃんだが……

 いや、いやいや、まったく記憶にないんだけど?

 俺の【暗記】レベルでも思い出せないとか、マジでどこのどなた様だよ。


「えっと、失礼、どこかでお会いしましたっけ……?」

「い、いえ、遠目から一方的に眺めていただけですので。私達の町に白くて美味しい魔物のお肉をいっぱい届けてくれましたよね? 何もない場所から家具が出てきたのを見て、もしかしてって思ったんです! あの時と背丈が全然違いますけど、よく見るとお顔の雰囲気もソックリですし!」

「あ、あぁーそういうことですか」

「食べ物を兵に奪われ、ただ死を待つだけだった私達を救ってくれたばかりでなく、このような奴隷の解放まで……うぅ…っ……ありがとうございます……ありがとう、ございます……」


 ヴァルツで死にかけていたどこかの町の人か。

 納得はした。

 したけど、これはどうしよう……

 目の前の女性は泣き崩れているし、名前に反応する人まで出てきてしまっている。


「ロ、ロキ王って、5番目の異世界人って噂のロキ王様、か……?」

「噂じゃなくて事実だべ……ヴァルツの圧政から我らをお救いくださった英雄様だ。子供姿って聞いていたけんど……いや、あの幼い雰囲気は子供姿で合ってるか」

「すげえ、俺達は異世界人の王様に救出されたのか……!」

「ってことは、横のどえらい別嬪さんが、彼女さんか奥さんってことか?」


 ……すぅ――! ……はぁ――!!


(えっ、なぜこのタイミングで!?)


 そう思ってフェリンの顔を見ると、鼻の穴膨らましてあからさまに喜んでいた。

 機嫌が戻って良かった良かっ……って、まったく良くないわ!

 変な噂が広がる前にとっとと撤退しないとこれはマズい。


「えーっと皆さん、ちょっと落ち着きましょう。僕達はまだ急ぎでやることがあるのでここを離れますが、朝一にはハンターギルドのギルマスに手を貸してもらえるよう伝えておきます。他国から攫われてしまった人や帰る場所がない人の相談にも乗ってもらえるよう言っておきますから、もうちょっと辛抱してくださいね」


 あとは万が一に備えて、フェリンに5階辺りから見張っておいてもらえれば問題ないだろう。

 そう思って二人外へ出ようとした時。


「こ、今生の頼みじゃ!」

「ん?」


 振り返ると見覚えのある爺さんがいた。

 たぶん4階にいた人――、【酒造】がレベル8だった人か。


「生い先短いこの命、余生はせめて救ってくれた者のために使いたい。わしをロキ王様の国に連れてってもらうことはできんですか? 酒造りにはそれなりの自信があるんです」


 瞬間、少しだけ嬉しいと感じる反面、マズいなという危機感も生まれる。

 この場には帰る場所が無さそうな人達も多くいるのだ。


「俺もぜひ連れてってください! なんでもやりますから! どんな仕事でも!」

「わ、私も! できることならなんだってやります! もう家族もいないし帰る家もないんです!」


 一斉に湧き上がる声……、やはりこうなってしまう。

 だから少しだけ誘おうかなと思える人材がいても動かず、俺の立場がバレても明言せずに去ろうと思っていたのに。

 奴隷商館に足を運び、望む人材を購入するのとはわけが違う。

 希望者を丸ごと転送なんて無理だし、かと言って全員が共通して奴隷落ちさせられているのに、能力を見ながらあなたはオッケー、あなたはアウトと、人を選別するなんて俺には無理なやり方。

 その中で平等にいくには――、もうこれくらいしか思い浮かばない。


「申し訳ありませんが、この数を一斉にというのはまったく現実的ではありませんし、この中から人を選別して連れ帰るということも嫌なのでしたくありません」

「「「……」」」

「なのでもし、うちの国――と言ってもベザートという作りかけの小さい町しかありませんが、そちらに移住したい方がおられましたら、僕が連れていくのではなく自分達で来てください。それくらいやる気があるなら歓迎しますし、ここのギルマスにもそのような話が出ていることは伝えておきますので」

「おぉっ……」


 能力の選別はしたくないけど、やる気の選別くらいはしたっていいだろう。

 決して近くはないのだ。

 これなら、本気で考えている人だけに絞られる。

 そんなことを考えながら、俺と足取りが軽くなったフェリンはレサ奴隷商館を後にした。
468話 フレイビル王国の岐路

 空がほんの僅かに白み始めた時間帯。

 いろいろあって疲れを感じながら、夜番の見張り兵が立つ巨大な門に向かって歩みを進める。

 これが終われば、あとはご褒美タイムみたいなものなのだ。

 もう少し、あともう少し……


「ま、待たれよ! 怪し過ぎるゆえ、一度そこで止まるのだ!」


 槍を前面に構えた二人の兵が強く叫ぶ。


「まず、その右手に引き摺っているモノはなんなのだ!? 人……、人なのか、それは?」

「そうですよ」

「罪人でも捕らえてきたということか? ならば街の兵舎の方に――」

「たぶんそっちじゃ手に負えないと思いますよ。アトスターク侯爵を攫ってきたので、こんな時間ですけどオスカー王を起こしてくれませんか?」

「「??」」

「のんびりはしていられないので、急ぎでお願いします。ロキが来たって言えば絶対に分かりますから」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ほ、本当にこんな時間に来ておるとは……」


 ガウンのような厚手の上着を羽織った王が、目を擦りながら以前通された部屋に現れる。

 その後には二人の男が。

 どちらも書記官のような存在で、俺が生きたまま連れてきた意図を理解し、記録の残せる人間を連れてきたらしい。

 さすが王様、眠たそうでも頭は回っている。


「ほら、起きてくださいよ。あなたの主ですよ」

「ん、ぐっ………………陛下ッ!!?」

「……間違いなく、アトスターク侯爵だな。【奴隷術】は掛かっているのか?」

「僕は試してもいませんけど、幹部クラスが奴隷術の対象になっていたので掛けられている可能性はありますね」

「マリーか?」

「マリーです」

「……ッ!? こ、これは……ちがっ……き、貴様は、というより、私は、なぜここに……?」


 俺とオスカー王が話を進めていく中、事情も呑み込めないまま大混乱しているアトスターク侯爵。

 でも大丈夫、すぐに状況は理解できるはずだ。

 なんせここから、人生最後の壮絶な詰問が始まるのだから。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 床が汚れることも厭わず、オスカー王に出してほしいと言われた4つの遺体。

 クロイス、イェル・サーレン、サザラー、ミクロという4幹部の遺体が並んだことで自分の運命を悟った侯爵は、オスカー王の怒声交じりの問い掛けに答えていき、時折真偽を確かめるような視線を向けられれば、俺の把握している情報を伝えて補足していく。

 その結果、俺がまだ知らなかった事実まで浮かび上がったところで、オスカー王は大きく溜息を吐きながら天井を見上げた。


「事の始まりは侯爵……全ては貴様の裏切りから始まっている」

「……」

「裏鉱山などを造って勝手に掘り進め、我が国の戦略資源である鉱物を裏でどれほどマリーに流出させた? そのためにわざわざ貴様が仲介してまで、サザラー商会やロズベリアの商業ギルドをマリーに明け渡し、どれほどの民を強引な手法で奴隷に落としたのだ? 隣国含めて最大規模だった奴隷商館まで奪われ、挙句の果てには十分な『種』の確保ができたことで主幹の鍛冶産業まで奪われ……」

「も、申し訳……ありま、せん……」

「貴様の判断が発端となってクオイツの魔物資源獲得量まで減少し、うちの強みはここ数年で掻き消えたかと錯覚するほどに縮小した。資源、金、人材を嫌というほど棄損、流出させ、その結果貴様が得られたモノはなんだ? あぁ? 申してみよ」

「……」

「有り余る『金』とこの国が潰れた後の『立場』、それに綺麗どころの『女』ですよね? アホみたいな大きさのベッドには、先ほども随分と特徴的な獣人の女達が裸で6人一緒に寝ていましたし」

「ッ……」

「それに損失はフレイビルだけの問題ではありませんよ。このどこに取柄があるのか分からない肉団子が個人の欲と保身を優先したばかりに、武具や人体実験から生まれた危なそうな薬がそのまま西へ流れて金儲けに利用されています。この男がロズベリアを売った辺りから大陸西の戦争が活発になっているわけですから、誇張でもなくこの男の決断によって数千万かそれ以上の規模で人が死んでいそうですね」

「そ、そんな、こと……」

「でも肉団子にはそんなの関係ないですもんねぇ? レサ一家の連中は証拠不十分だと罪に問わず、他の者は無実であろうがどんどん犯罪奴隷に落としてマリーに貢献。そのご褒美に得られた美女を侍らせながら、旨い酒や飯を口にできればいいんですから」

「……ッ……ッハ……ッハァ……な、何卒、ご容赦を……何卒……」


 先ほどから、小さな池ができそうなほどに汗を滴らせてブツブツ呟いているが……

 この油に漬けたような男は、どう捉えたら容赦される可能性があると思っているのか。


「詳しい数字はこれから割り出すことになるであろうが、どう試算したところで貴様が寝返ったことによる国の損失は、2000億や3000億ビーケ程度で済むような話ではない。にも拘わらず容赦を求めるということは、貴様にそれ以上の価値があるということか?」

「あ、あります! 私が命に代えてもロズベリアを再興させるべく――」

「たわけがぁああああ!!」

「びぶっ!」


 ずっとずーっと、オスカー王も我慢していたんだろう。

 さすがに堪忍袋の緒が切れたようで、肉団子をフルスィングで何度も殴りつける。

 パワフルな王様だが、気持ちが分かるだけにまったく止める気はない。

 こんなゴミ、金を貰ったっていらないわな。

 って思ったらオスカー王も同じ気持ちだった。


「貴様なぞ100億ビーケの金を積まれようといらんわ! 一族郎党皆殺しでも飽き足らん! 百遍殺してもだッッ!!」

「あぐっ、そ、そんな……」

「ふぅー……ふぅー……ロキ王、済まぬ……こやつと、一族の命だけはこちらに預けてもらえぬか?」

「一応確認ですけど、家は潰すんですよね?」

「当然だ。コヤツら、ただでは殺さんぞ……絶対に……」

「なら構いませんが、その代わりに他は僕が貰い受けますよ? ゴミクズからは根こそぎ奪うのが僕の流儀みたいなところがありますので」

「構わん……それでも、人材、金、資源と、これ以上の流出は止められたのだ。一時はどうなることかと肝を冷やしたが、ロキ王には感謝しかしていない」

「いえいえ、ただバルニールはオスカー王自身でどうにかする部分ですよ? 僕が手を出すほどの理由や繋がりは見当たりませんから」

「うむぅ……そうなのよな……」


 結局顔役のバルクを筆頭に、バルニールの面々はマリーが作った仕組みの中で効率的に仕事をしているというだけで、誰かを直接的に害するような行動を取ってはいなかった。

 ただ金儲けに目覚めたというくらいなら、俺の出る幕ではない。

 まぁそれでもマリーの懐が潤うのは面白くないので、多少なりのアドバイスくらいしておくが。


「もし僕がマリーであれば、ですが……相対的に他を弱体化させるため、いくら売り上げが落ちようとも値段を下げるようなことはしません。金は他で稼げますし、在籍している鍛冶師にももう十分稼がせているでしょうからね」

「……」

「とすればバルニールを残しても、武具製造での売り上げは伸び悩んだまま。ハンター不足でクオイツの魔物資源獲得量がどんどん低下していくことは目に見えているので、国の力で潰すというか、一度リセットしてしまった方が良いとは思いますけど」

「わしもここまで来たら膿は出し切るべきだと思っているが……問題は先日言った通り、鍛冶師の流出だ。潰せば筆頭のバルクはまず間違いなくマリーに付くだろうしな」

「そこですけど、本当にこの状況で出ていきますかね?」

「どういうことだ?」

「国を裏切った侯爵家が一族郎党皆殺しの上でお取り潰し……この時点でロズベリアを揺るがすほどの話題性があるというのに、さらに関係組織である奴隷商館も、幹部を中心に構成員までほぼ皆殺しに近い形で消滅。それに同じく国賊として、国内最大手のサザラー商会も丸ごと潰され、商業ギルドロズベリア支部のトップまで僅か1日2日の期間で粛清されているのです」

「あ、改めて聞かされると、凄まじいな……」

「感心してる場合じゃないですって。重要なのはここからで、世間はなぜこんな事態になったのか、詳細までは当然知りません。なので国がどう公表するかでその後の結果と反応が間違いなく変わります」

「……なるほど、フレイビルに明確な対マリーの方針を示せと、そういうことか」

「そうすればバルニールの連中は気が気じゃないでしょうね。マリーに与し、自国に大きな損失を与えた国賊だからこれ以上ないほど綺麗に潰されたとなれば、次は当然自分達も、となるでしょうから」

「厳密にはバルクを代表に立てているため、マリーとバルニールは紐づいていない……濃厚という段階で止まっているからこそ、今なら早急に店を閉めることで不問に処す――、という体に持っていくこともできるか」

「ええ。そこからバルニールの二の舞にならぬよう、国営の店を設けて彼らを纏めるのか、その辺りは僕が口を挟むことでもありませんので、それこそフレイビルの皆さんが知恵を出し合えば良いと思います。マリーのやったことも、良し悪しは別として間違いなく参考にはなるでしょうから」

「となると、あとは我が国がマリーに対して――、いや、大国アルバートに対して、『敵対』という明確な意思を示せるかどうか。わしの、覚悟の問題か……」


 そう言いながら拳を強く握り、目の前の机をジッと睨みつけるオスカー王。

 そりゃそうだろう。

 相手は異世界人で、しかも大陸有数の大国。

 とてつもなく大きな岐路に立たされているであろうことは分かる。

 そして、ここからはフレイビルの問題であって、俺が何かを言う場面ではない。

 あとはサービス――というよりこちらの都合もあって、肉団子の一族をここまで連れてくれば俺の仕事は終わりだろう。


 4幹部の遺体を改めて収納し、それでも帰り際に事実だけは告げておく。


「ご存じだと思いますが、今回の事態を放っておけば侯爵を介してロズベリアから金、人材、資源と全てを吸収され続け、機能しなくなった段階でロズベリアだけでなく、フレイビルそのものがマリーの手に渡っていたはずです」

「で、あろうな……」

「その上でどうされていくのか、フレイビルの皆さんで考えてみてください。僕は初めにお伝えしたように、味方でもなければ敵でもありません。けど、マリーの敵であることは間違いありませんので、気付けば国がまた喰われていたなんて事態にならないことを願っていますよ」


そう告げれば、オスカー王は覚悟を宿したような力強い瞳で頷いた。
469話 想定外

 ご~ん、ご~んと、街中に鳴り響く朝の鐘の音。

 その音を目安に一度作業を止め、確認のためにハンターギルドへ顔を出すと既にオムリさんは仕事をしていた。


「――というわけでして、正規に奴隷落ちして建物の中に残っている人達と、無理やり落とされて解放した奴隷の人達の手助けはお願いしますね」

「もちろんです。すぐに緊急依頼を出し、レサ奴隷商館にハンターと、念のため職員も数名向かわせましょう」


 そう言って職員が呼ばれ、纏められた依頼内容を片手に退出していく。

 見張りをしてくれているフェリンからは連絡がないので、早急に動けばまず問題はないだろう。


「それにしてもさすがですね。私が報告書をお渡ししてからまだ2日、たったそれだけの期間でレサ一家は崩壊し、幹部連中も全滅。加えて怪しいと踏んでいたアトスターク侯爵家まで取り潰しが確定するとは……」


 ニコニコと、揉み手をしながら称えるオムリさん。

 なんと白々しいことか、その姿に溜息を吐きながらも言葉を返す。


「どうせ分かっていたんでしょう? ここまで規模が広がることくらいは」

「いえいえ、まさか本当に侯爵家まで国を売るような悪事に手を染めているとは……可能性としてあり得ると、その程度でしたから」


 この人の場合、表情から真偽は読み取れない。

 でも最初の時点で、シャイニー・レサが生きているかのように伝えてきたのがおかしいのだ。

 これだけ情報を握っている人が、10年近くも前に亡くなった主要人物の状況を理解していないわけがない。

 レサ奴隷商館がマリーに乗っ取られていることも、その切っ掛けとなる侯爵との関係も概ね理解していた。

 その上でバルニールの一件に首を突っ込んできた俺を、都合良しとばかりに利用して邪魔な存在を一掃、ついでに自分の名と功績をオスカー王に売った。

 こう考えた方がよほど納得できる。

 まぁ問い詰めたところで誤魔化すだけだろうし、こちらにも強烈なメリットが生まれたので文句を言うつもりはないが。

 ただ今後も都合良く俺を利用できると勘違いされては困るので、面倒ではあるけれども、理解してもらうための一手くらいは打っておいた方がいいのかもしれないな。


「それはそうと、解放奴隷の中に一部……というほど少なくないかもしれませんが、うちのアースガルド王国に越したいという人達がおりまして」

「なるほど、この街にもう居場所がない者もいれば、他所から連れ去られた者達も相応にいるでしょうからね」

「ええ、なのでその手配をお願いできませんか? それこそ街に巣食う害虫駆除の礼ということで」

「その程度はお安い御用です。入り口の町ベザートでよろしければ、馬車に十分な護衛のハンターを付けて希望者を送り届けましょう」

「助かります」


 あとはオムリさんに任せておけば大丈夫だろう。

 礼を伝え、マリーからの余計な横槍が入るまでに全てを終わらせるため、俺はすぐに作業の続きを開始した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 未だ値付け待ちの品で埋め尽くされている、クアド商会の最奥。


「やほ~」

「……ボ、ボス!? って、なんでわざわざ壁を壊して現れたんだよ!?」


 その壁を裏手の森側から壊して入ると、遠くでベッグと数人の元奴隷従業員がこちらに気付いた。

 あぁ、丁度良いね。

 手招きするとこちらに来てくれる。


「壊したというか、|繋《・》|げ《・》|た《・》んだけどね。どう考えてもこっちに入りきらない量の売り物を仕入れてきたから、今後は横の別区画を倉庫にでも利用してよ。今までより3倍くらいは広く作ってあるからさ」

「……え?」

「その分売り場までの距離は遠くなっちゃうけど、『新奇開発所』に運搬用トロッコの草案を伝えていけるか相談しておくから、たぶんこのくらいならいずれは解決すると思う」

「トロッ……は?」

「あ、こっちは全て売り場として機能するように、この辺りに溜まっている値付け待ちの商品は全部向こうに運んでおくからね」

「ちょっ、待て待て! ボス、一回店長呼んでくるからちょっと待ってくれ! 俺じゃ何言ってんのかさっぱり分からねぇ!!」


 そう言い残し、焦ったように酷いガニマタで走り出すベッグを眺めながら、とりあえず荷物整理だけは先に進めておく。

 商会の裏に追加で用意した巨大倉庫。

 最初は複数回に渡って持ち運んだ商品候補の置き場に困って一時的に作ったようなものだけど、レサ奴隷商館のようにきっちりバックヤードを設けた方が、場所も広く使えて管理もしやすいだろうし、見た目的にもスッキリするからな。

 分別もまだのまま、ただ積み上げるように置かれていた一角をひたすら収納していると、ベッグに連れられたクアドが登場。


「ロキさん何事っすぅ――……、って、でかっ! この奥でか~~~ッッ!? ずっと地面から変な音がするなと思ってたら、こんなの作ってたんすか!? というか、なんすかこのとんでもない物の数は!? 尋常じゃないんすけど!?」

「19店舗抱える大きな商会の売り物を全部掻っ攫って、そこの商会長の資産と、あと商業ギルドの支局長が貯めこんでいた資産とか……悪い幹部連中の持ち物全部押収して、ついでに侯爵家の資産も別宅含めて丸ごと回収してきたから」


 他にも飛びながら【広域探査】でレサ一家の残党を探し、呑気に家で寝ているところを片っ端から襲撃。

 独り身であれば丸ごと強奪を繰り返していたが、まぁそこら辺は量が多いだけで、大した資産価値があるわけでもないのでいいだろう。


「19店舗って、あのキウス商会より断然大きいじゃないっすか!?」

「フレイビル王国で一番大きい商会だったみたいだしね」

「フレイビル……もしかしてサザラー商会っすか?」

「そうそう、色気のある女商会長の」

「オルトラン王国にも根を生やすミスリルランクの豪商じゃないっすか……それを、全部……」

「いや、店長。それより、さり気なく侯爵家の資産を丸ごととか言ってんのが怖過ぎるんだが?」

「商業ギルドの支局長っていうのも意味が分からないっすね……ロキさん、またどっかで戦争でもしてきたんすか?」

「ううん。ちゃんとフレイビルの王様に許可を貰って、悪い組織をぶっ潰してきただけ。俺もこんなに話が大きくなるとは思わなかったけど、何も問題になるようなことはないから安心していいよ」

「そっすか~、王様から許可貰ってんなら安心っすね!」

「そうそう、安心安心」

「「「……」」」


 マリーが報復に出たら一番厄介だけど、脳みそ使って動くタイプだからこそ、その可能性は極めて低い。

 俺はマリーが得意とする間接的な攻撃をしているだけだし、仮にその報復としてベザートに直接的な攻撃でも仕掛けようものなら、アルバート王国はヴァルツの二の舞。

 本人は逃げ延びたとしても、俺は何があろうとアルバートを丸ごと潰すつもりで報復に出るので、マリーは築いた地盤や居場所、それに自国の資産を大きく失うことになる。

 まぁだからこそ、こちらもアルバート王国を直接的には叩きづらかったりもするのだが……

 弱小王国と世界の富を牛耳るほどの強国とでは、お互い本気でやりあった時の損失が桁違いなので、まだまだマリーが本腰入れて構えるような段階には入っていないだろう。

 諜報などの裏工作くらいは当たり前のようにしてきそうだけど。


「これ、いったいどれほどの資産価値があるんっすかね……」


 クアドの何気ない問い。

 そんなの俺だって分からないが……


「少なくとも今回で1000億ビーケ近い現金も手に入ったし、そういう金持ち連中が対象だったから相当な額になるんじゃない? 家も意味が分からないほどデカいのばっかだったし」

「ぶっ! 1000億とか、多過ぎて想像もできないっすけど!?」

「俺も俺も。でも50億100億くらいならすぐ慣れると思うよ。今回は高く売れそうな家も持ってきたからさ」

「ん?」

「金持ち連中が住んでいた家、全部持ってきて町の奥に設置しておいたから、アレも商品だと思って高く売っちゃってよ。ははは、頑張れクアド不動産」

「「「んんんんんんん~???」」」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 コンコンコン。


「どうぞ」

「おや、ギルマスはもうお戻りでしたか」


 そう言いながら扉を開けたのは、ハンターギルドロズベリア支部のサブマスターである男だった。

 重要な会議があるという話を聞いていたので、もう戻っていたことにやや驚きの表情を浮かべる。


「ええ、商業ギルドの副支局長とは事前にこの事態を想定して打ち合わせていましたから。それより、レサ奴隷商館はどうでした?」

「解放奴隷達の対応はひとまず完了しました。中が随分とスッキリしていましたけど、犯罪奴隷と借金奴隷と思われる連中も約140名ほど残されていましたね」

「では国の指示が入るまで、その者達の生活支援はうちでするように。それと移住者の数はどうでしたか?」

「総勢254名、ですね」


 この数を聞いた直後にオムリは書き物の手を止め、顔を上げながら確認の言葉を返す。


「事前調査だと奴隷総数はおおよそ450名を少し超える程度だったかと思いますが……解放組の8割ほども移住志願者が出たわけですか」

「一応理由も確認したところ、帰る場所が既に無いなどの想定していた理由の他、ロキ王に恩義を感じて移住を決意した者達も相応にいることが分かっています」

「ふむ、抱えるリスクを減らすために公表しない可能性が高いと踏んでいたんですけどね……彼は名乗りましたか」

「いえ、厳密には寒さに震える解放奴隷達の姿を見兼ねたロキ王が、何も無い空間から木材などを取り出し火にくべたことで気付いた者がいたらしいですね」

「なるほど……救出者が異世界人であり、一国の王ともなればその影響力は甚大。想定より遥かに多いですが、彼との約束もありますので馬車の手配と護送用のハンター募集を進めてください。1台6名乗車の計算で進めていけば問題ないでしょう」


 オムリはそのように結論付け、用件は終わりとばかりに手元へ視線を戻したが、なぜかサブマスターは退室しなかった。


「まだ、何か?」

「はっ、それとは別口で移住希望者が1階に集まっているようですが、そちらは如何しますか?」

「……どういうことでしょう?」

「主に侯爵家で抱えられていた奴隷達のようですね。見目麗しい者も多いので、例の悪趣味で囲われていた者達かと思いますが」

「そちらの奴隷ですか……数は? どのくらいです?」

「既に60名ほど、強引な奴隷化から私兵や使用人をやらされていた者もいるようですし、数は増え続けております」


 この言葉を聞き、オムリは動揺を悟られないようにしつつも大きく息を吐く。

 まさか侯爵家に買われ、既に囲われている連中まで面倒を見ることになるとは思いもしなかったからだ。

 腐っても侯爵家、私兵や使用人の数だけで言えば優に2000は超える。

 当然全てが強制的な奴隷落ちで構成されているわけではないにしても、いったいどれほど数が膨らむかはオムリを以てしても想像できなかった。


「ふぅー……止むを得ません。約束ですから、その者達も手配するしかないでしょう。希望者が溜まらないよう、10の馬車を用意できたらそれを一団としてすぐ出発するようにしてください。このままでは馬車の数も心許なくなりますので」


 この言葉に同意は示しつつも、サブマスターは怪訝な表情を浮かべながら言葉を返す。


「承知しました。が、先ほどからギルマスが言われている『約束』とは……?」

「ロキ王との約束ですよ。あのクロイスが守護し、複数のランカー傭兵まで出入りするレサ一家を殲滅するなど、彼の助力無しでは到底叶いませんからね。その礼に、アースガルドへ向かいたいという者達の旅の手配をこちらで請け負ったのです」

「……それはもしかして、費用面も、ですか?」

「そうですが?」


 この時オムリは、サブマスターの表情が急激に曇る様を見て取り、直感的に何か大きな問題が起きていることを悟った。


「で、では、大丈夫なのでしょうか……?」

「何が、ですか?」


 が、それがなんなのか。

 分からず問いながらも答えを探し――、恐ろしい予測に辿り着いたところで、サブマスターの聞きたくもない報告が耳に入る。


「ギルマスが商業ギルドの副支局長と打ち合わせをされている間、ロキ王がこちらに来られていたようなのです。私もレサ奴隷商館に向かっていたため、対応したのは受付の職員ですが……」

「……」

「マリーに悪用されないよう裏鉱山を全て潰し、麓に連なる鉱山街も一通り『選別』してきた。『白』の解放奴隷は中心にある侯爵家跡地に全員移動させておいたから、あとの対応をよろしく頼むと」

「そ、それは……いったい、何人いるのですか……」

「わ、私は裏鉱山なるものを初めて聞きましたので、規模はなんとも……ただ正規の鉱山だけを見ても、それはもう凄まじい数としか……」

「ぼっ……」

「ぼっ……?」

「ボサッとしてるんじゃありません! 今すぐ侯爵家に向かって調べてくるのです!!」

「は、ははっー!」


 普段まず見ることのないオムリの剣幕に驚き、勢いよく部屋を飛び出ていくサブマスター。

 その姿を確認したあと、一人になった自室でオムリは全身から生気が抜け切ったように深く腰掛け、ぼんやりと天井を見上げていた。

 馬車の数は当然として、このままでは護衛の数も足らず、最悪は過剰とも言えるAランクハンターまで護衛依頼の対象に含める必要が出てくるかもしれない。

 そうなれば費用は莫大な上、クオイツの魔物獲得資源量が減るためギルド収益にも大きな影響を及ぼしてしまう。

 しかし、向かわせる時期を延ばせば、相手は解放直後の奴隷達。

 そもそも住む家がないから向かう者も多いわけで、延びた分だけ衣食住の面倒を見る必要が出てくる。

 そうなれば、数次第では今回の転送収益など軽く消し飛ぶほどの金が飛んでいくのではないか……

 そんな考えが脳裏を過ぎった時。


「これほどの規模になるなんて、聞いてませんよ……ロキ王」


 思わず漏れた、心の叫び。

 しかし言葉を返す者も、ましてや慰める者もこの場にはいなかった。
470話 報告会議

 これは数分前に知ったことだが、ベザートもいつの間にか中央区、西区、東区という区分けで呼ばれるようになってきているらしい。

 皆が住む中心地で、大通り沿いには様々な専門店やビリーコーンを始めとする宿が複数並び、少し入れば家が立ち並ぶ中央区。

 畑の中にポツポツと建物が点在し、その範囲は足を運ぶ度にかなりの勢いで広がっている農耕地帯の東区。

 ニューハンファレスト、クアド商会、巨大風呂といった大型の建物しか存在していない、セイル川より西側を指す西区。

 なのでたまたまとは言え、この設置場所で案外バランスは取れていたのかもしれない。


 場所はベザートの最南部。

 川沿いにクアド商会や巨大風呂を越え、中央区の建物も疎らになり、防壁の役割を果たしている資材置き場も越えたさらに先。

 もう森で活動する者達が作った獣道しか存在しないような場所まで入ったところでセイル川を渡り、そこからどこまでも続く森を開拓し続けた結果、各国の王都にも存在する"閑静な貴族街"というやつが出来上がった。

 まぁ森は残すと魔物が湧くので、風呂を囲む程度にしか木々は残していないが……

 拓いた土地は、新設したクアド商会専用倉庫の分まで含めると、中央区の3倍ほど。

 端から端まで普通に歩いたら1時間以上は掛かりそうなほど広大な土地に、拾ってきた豪邸をポンポン置いただけなのだからまぁ広い。


「ロキさん……いったい何をどうやったら、こんなバカデカい家を持ってこれるんすか?」

「ん~このくらい規模が大きい家だと地下もあるから、どれくらい深いか、その範囲も調べてから建物の基礎も含めて地面をかなり深く抉るような感じ? だから設置の時は相応の穴も開けておかないと大惨事になる」


 それに魔力消費だってここまでの規模になると尋常ではない。

 今回は枯渇する度にフェリンが【魔力譲渡】で全快にしてくれたが、一番巨大な侯爵家なんて一発でキャパ超えして魔力が目減りしていったのだから、難しくはないけど気軽にホイホイできるようなものではなかった。


「全然大変そうな雰囲気が感じられないっすけど……全部で5つっすか」

「いや、裏に隠れて見えていないだけで9棟だね。王都に構えていた別宅とかも回収してきたから」

「そんなに……ちなみに、なんで全部端っこに寄せてんすか?」

「ん~庭の広さとか立地ってその人の好みがあるでしょ? だから買い手が決まったら、購入者の希望に合わせてまた建物を移そうかなって思ってた」

「その考え、斬新過ぎません?」


 侯爵が2つ、サザラーが3つ、クロイスが2つ、イェルが2つ。

 ちなみにご自宅を勝手に格付けすると、侯爵家本宅が唯一のAランクで、次点のBランクが5つに、クロイスとイェルの王都用別宅の2つがCランクといったところだろう。

 Bランクの時点で部屋が軽く100個以上はありそうな豪華絢爛っぷりで、Aランクになると各国の宮殿や、かつて航空写真で見た迎賓館クラスと違いがさっぱり分からないほどの規模になる。


「っていうか俺っち、家の値段なんてまったく分からないっすよ?」

「うん、同じく俺も分からないし、値段は適当でいいんじゃない?」

「え?」

「だって今までは回収しなかったモノを無理やり持ってきただけだから、このまま朽ちたところで損にはならないし」

「いやいや、そんな勿体ないじゃないっすか」

「そそ、勿体ないってその程度だから、値段はクアドが納得できればいくらでもいいよ。そのうちこの手の家の価値に詳しい人が現れれば、その人に任せちゃってもいいしね」

「え~ちょっとの匙加減で数億ビーケくらい平気で動くっすよねぇ……」

「そりゃそうだろうね。まぁそれでも、いくらで売るかよりも誰に売るかの方が重要でしょ」

「……確かに」

「どれだけ金を持っていても、俺は貴族様だぞって威張り散らしているようなヤツには絶対売りたくないっていうか、住んでほしくもないし」

「それじゃ購入希望者がもし現れたら情報を控えて、最終審査はロキさんにしてもらうっすか。あからさまに偉そうな雰囲気のヤツはいくら購入意欲が強くても審査落ちってことで俺っちが弾いとくっすから」

「あ、それいいね。そうしよっか。んで誰も住む人が現れなかったら、町民でドキドキ大抽選会でもやっちゃう?」

「な、なんすかそれ……夢があり過ぎて逆に恐ろしいんすけど!」


 どうせタダで拾ってきたモノなのだ。

 いい使い道が生まれればそれで良し。

 その程度の気持ちで運んできた家をさらっと眺め、俺達はニューハンファレストに向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「うほぁ~お腹空き過ぎて死にそうだったんで、ヤバいですねコレ!」


 目の前には俺がオネダリして作ってもらったカレーライス、ボーラさんに無言で出された澄んだ色のスープと生野菜に、これも俺がヴァルツで一度見てから恋焦がれていたトンカツっぽいモノまで存在している。

 考えてみれば昨日の夜にフェリンとチンピラ共に絡まれ、食いかけのまましょうがなく店を出てから何も食べていないのだ。

 あまりにも豪勢で、かつ俺好みな食事に涙がじんわり浮かんでくる。


「なんでうちの王はこの程度の食事で涙ぐんでんだよ……」

「あの激辛かぁりぃライスってヤツを食ったからじゃないのか?」

「いや、違う。ノディアスの作ったトンカーツ見て涙腺が崩壊していた」

「全部っす、全部……あぁ、もうほんとありがとうございます! 我慢できないのでいただきますね!」

「ちょっとロキ君、一応報告会議だってこと分かってる?」

「まぁ食いながらでもできるだろう」

「うむ、ワシもこのかぁりぃライスっていうのには興味があったんじゃ。早く食うてみたい」

「では私もいただきましょうか。味の確認もしておく必要がありますしね」


 場所はニューハンファレストの奥に設けられた完全個室のVIP席。

 俺が夕飯時に現れたのなら丁度良いと、ここで不定期の報告会議が開かれることになった。

 夜じゃないとみんな仕事で離れられなかったりするしね。

 今もこの食堂は宿泊客でかなり激混み状態だったので、料理を作ってくれたボーラさん、ノディアスさん、インド人は顔だけ出したらすぐに退室。

 ここには纏め役のヤーゴフさん、アマンダさん、ダンゲ町長の他、商会の責任者としてクアドと、ニューハンファレストの長としてウィルズさんも参加していた。


「ぶるべいっ!!?」


 そしてダンゲ町長が喉を掻きむしりながら椅子から転げ落ちたところで、各人の報告がスタート。

 皆がモグモグと食事しながらの適当な会議だが、話す内容は案外まともでビックリしてしまった。


「とりあえずクアド商会は今月の売り上げが220億ビーケ、商会を開いてからの通算は鉱物や魔石の大口取引もあって既に500億ビーケを超えましたし、右肩上がりでモノが売れまくってるっすね! 難点は細かい品物の値付けが全然間に合わないことくらいっす」

「カレーマジでうめぇんだが……それじゃそろそろ防犯のために一回お金抜いておこうか。今回大量に売り物も補充できたし、これで当面はもちそうでしょ?」

「あれだけあったら1年くらい余裕なんじゃないっすか? あ、ただ原料とか素材は求められても置いていないことが多いんで、ロキさんが各国の露店市で珍しいモノを見かけたら纏めて買ってきてほしいっすね」

「あ、了解。それじゃ見かけない食材も一緒に買ってこよっか。ウィルズさんもその方が良いですよね?」

「ええ、提供できる食事に幅も広がりましょうし、何かしら活用して作れる人材もここにはおりますからね」

「余ったら町のお店に卸しちゃってもいいし、とりあえず持ってきたらクアド商会の方に置いておくんでよろしくお願いします。そろそろソースも……ってトンカツのソース!? そうだそうだ、あの二人に存在を聞いたことがあるのか確認しなくては……」

「んんっ! では次に私が。ニューハンファレストは客室稼働率が85%超と概ね好調で、窓の設置、寝具や個室風呂の設備面も全室が完了し、現在はほぼ通常運転に近い形で営業しております」

「あれ? ほぼって、まだ不十分な箇所なんてありましたっけ?」

「床や内壁の"磨き"ですね。今も職人を呼んで作業を進めておりますが、これは相当時間が掛かるかと」

「あぁ~確かに、僕が作った時よりかなりテカテカして綺麗ですもんね」

「クアド商会への裏口も宿泊された方々には大変好評ですし、現在は冬季のため稼働しておりませんが、商会屋上のプール施設も既に期待の声を多く頂いております」

「水着は開発中よ! 絶対になんとかするから春まで時間を頂戴!」

「僕も入りたいんでめっちゃ期待してますからね。あ、あとこれ、クアドにも伝えたんですけど、商会の中で荷物を運ぶトロッコの草案なんで、一応こちらもできそうか確認してみてください」


 そう告げるとアマンダさんは当然として、横に座っていたヤーゴフさんも覗き込むように確認している。

 カレーにトンカツも最強だが、コクのあるこのスープはなんだろうか。

 すっきりしているのに旨味がかなり強いし、魔法瓶があったら中に入れて狩りに出かけたいくらい美味いなこれ……


「金属製のレールと車輪……構造だけなら馬車の応用でなんとかなりそうだけど、問題は動力よね?」

「ここまでやって手押しってのアレですし、強力な【風魔法】の魔道具があればいけそうな気もするんですけどね。広く出回っている送風程度の目的じゃ絶対に無理なんで、積んだ荷物まで動かせるほどの強化版を用意できるかが鍵なのかなって思ってます」

「ふむ……面白そうだな。本当に上手くいけばだが、町中でも同様の構造で人を乗せたまま走らせることができるかもしれない。そうすれば中央区から離れた東区の農地までも移動は容易になるし、農作物の運搬だってだいぶ楽になるだろう」

「ですね。なので一応優先度の高い案として考えてみてください。いつ来ると断言はできませんけど、ベザートに魔道具技師の人も来ると思いますので」

「え? そうなの?」

「ええ、他国の仕事絡みで、無理やり奴隷に落とされちゃった人達の一部がベザートに来たがっていたんです。なので来たら適材適所と言いますか、やりたいことを自由にやらせてあげてください」

「ふむ、了解した。その辺りはワシが請け負おう。あとこれが今のところ町を見ていて感じた要望じゃ。ヤーゴフと相談しながら纏めておる」


 そう言われて渡された木板を眺めると、ノータイムでゴーサイン出そうかと思うくらい、建設的な内容が書かれていた。


「えーと、ラグリースとベザートを繋ぐ道、それにベザートの中央通りを馬車の通りやすい石畳に……はい、オッケーです。今日もだいぶ石材を調達できたので、手の空いている人達がいればどんどん進めちゃってください」

「了解した。賃金の設定はこちらでやってしまった方がいいのか?」

「ですね。基本的には全部お任せしますので、皆さんが良いと思うことを皆さんで決めながらやっちゃっていいですよ。僕は一定量のお金を預け、変な使い方をされていないか確認するくらいで十分ですから」

「ふむ。じゃあ2番目の風呂の掃除番と、使用料の件も問題無しか」

「これもできるなら全然やってもらって構わないんですけど、お風呂にお金が払えるほど皆さんの生活に余裕が生まれてきたんですかね?」


 気になったのはここだ。

 皆に金がないから一番分かりやすい人頭税も省いたというのに、お金を取ってしまって大丈夫なのだろうか?


「もう町を作り始めた時にいた者は家も出来上がっているし、早採りの野菜は既に収穫期に入って金にも換えられるようになってきている。職人連中も何かとアマンダが仕事を振っているしな」

「なるほど……1回の利用料が200ビーケ、徴収した分から男女5名ずつ風呂番を雇用し、掃除や温度管理の仕事に従事させつつ、余剰資金を町の自警団設立資金に充てるための備蓄費用に回す――、いや、素晴らしいですね。ちなみに自警団ってことは、多少なりいざこざが出てきました?」

「いや、それがビックリするくらいない。本当にビックリするほど、なーんも、ない」

「え?」

「時間の問題だろうとは思うがな。巨躯の魔物が徘徊する異世界人ロキの国となれば、誰も彼もが最初は驚くほど行儀が良い。だが人はいずれ慣れる。それが1年後か3年後かは分からないが……魔物だけでは対応が難しくなる前に、組織を作っておいた方が良いと思ってな」

「この税制を続ける限り人は必ず増えるし、現に増えてきておるしなぁ」

「今、この町って推定8000人とかそのくらいでしたっけ?」

「いや、1万人はもういてもおかしくない」

「ん~お風呂ってみんなどれくらいのペースで入るんです?」

「私は毎日ね」

「私は2日に1度だな」

「私も毎日ですね。ただ部屋の清掃も兼ねて宿内で済ませてしまうことも多いですが」

「ワシは3日に1度、頭が痒くなったら入っとるぞ」

「俺っちは半月に1度くらいっすね! どうも熱い風呂ってのは苦手で――」

「クアドはせめて3日に1度は入って。これ、命令」

「なんで自分だけ!?」


 1万人が仮に3日に1度風呂を利用したとすれば、収入は月に約2000万ビーケ……

 そこから10人の賃金を支払ったとして、月に1500万ビーケも余剰資金が生まれれば、十分自警団は運営できるか。


「どなたがされるかは決まっているんですか?」


 そう問えば、皆の視線はウィルズさんに集まる。


「あくまで宿の管理と運営が優先ではありますが、私と、それにノディアス殿が管理者ということになるでしょうね。あとは一定の水準を満たす者達を団員とし、各々の仕事を兼任しつつ何かあった時に動く程度で最初は十分でしょう」

「ははは……それは心強い。お二人がトップなら僕も安心して任せられます」


 もう本当に、人に恵まれているというか、なんというか。

 町が少しでも良くなるように、こうして案を出してくれることには感謝しかない。

 俺は皆を全力で護るつもりだが、ベザートは俺の町ではなく皆の町。

 そう思ってくれていることに嬉しさと心強さを感じながら、他にもいくつかある案に目を通しつつ意見を聞き――。

 1時間ほどの会議という名のお食事会は、大変充実した内容で幕を閉じた。


 終わった後に、


「あれ、女神様達の報告会とまったく違くない?」


 と、驚愕したのは言うまでもない。
471話 手探りの対策

 ダンゲ町長や留守番をしていたペイロさんと、入り口の小屋で来訪者の確認をした後。

 そろそろ寝たいけど、先に礼を言うべきだなと上台地へ飛び、そして俺はすぐにその場で固まった。


(なんだ、この空気は……)


 いつも皆で食事を摂る石机。

 そこには珍しくリステもおり、見張り中のリル以外が全員揃って議論を交わしていた。

 いつになく真剣な表情は先ほどまでの会議を彷彿とさせ、今までの体たらくを払拭するようなその凛々しい姿に、思わず「どちら様ですか?」と突っ込みたくなってしまうが……


「えっと、何か問題が?」


 とんでもない事件でも起きたのだろうか?

 急に怖くなって思わず問うと、フェリンは両手をバーンと机に叩きつけ、勢いよく立ち上がった。


「問題も問題、大問題だよ!」

「ど、どうしたの……? 俺に協力できることならするけど」

「ロキ君、舐められ過ぎなんだって!」

「は?」

「せっかく背が伸びたのに、どこ行ってもすぐ悪い人達に子供扱いされて舐められてばっかり! どうなってるの!?」

「……え? ん?」


 なんなんだ?

 フェリンが凄く怒っていることは分かる。

 頬っぺた膨らませているので、怒るの質が昨夜とは違うからまだ安心できるが……


「だから言ったでしょう。いくら背丈が大人に近くなったとは言え、ロキ君の容姿はまだ幼いのですから」

「そうは言ってもさ! みんなロキ君なんてすぐどうにでもなると思って近づいてくるんだよ!? おかしくない!?」

「ん~ロキ君は生物として強そうに見えませんしねぇ~」

「……」

「言われてみれば確かに、普段は覇気のようなものがまったく感じられませんね……」

「……」

「顔が酷い」

「……おい」


 なぜ礼を言いに来ただけなのに、ここまでボロくそに言われなきゃならんのか。

 というか、こんなしょうもないことを真面目な雰囲気で話し合っていたのか……?


「ちなみに、なんでフェリンはそんなに怒ってるの?」

「なんか、ロキ君がバカにされると、自分がバカにされているみたいで嫌だったから……」

「あぁ、なるほど」


 フェリンがバカにされていたら俺も凄く嫌だし、その気持ちは分からないでもない。

 けど、今はこれが美味しいと思っちゃってるところもあるんだよなぁ。


「侮られるってさ、悪党を釣るための手軽な餌にもなるんだよね」

「餌?」

「うん、フェリンもずっと一緒に行動していて分かったと思うけど、まともな人ってまず見た目で誰かを侮ったりバカにしたりしないんだよ。何か思うことはあったとしても、それをわざわざ言葉や行動で示したりはしない」

「うん、それは分かる」

「でも人を傷付けたり害するような連中は平気でそれをする。だから侮ってくれるとあっさり潰すべき対象を炙り出すことができるし、自分が優位だって勝手に勘違いしてくれるから、こっちに都合良く動いてくれたりするんだ」


 飯食ってる時に絡んできたチンピラも、裏口のロビーで勝手に賑わっていた連中もそう。

 俺を侮ってくれるから盛大に手のひらで転がってくれるし、効率的に悪を狩ることができる。

 ――そう伝えれば、横でずっと見ていたフェリンは唇を尖らせたまま口を塞いだが、援護するように言葉を吐き出したのはリステだった。


「しかし侮らせ、相手の出方を待つということは、常に先手を譲るということです」

「それは、まぁ、そうだね」

「もちろんロキ君だけであれば、さほど大きな問題にもならないでしょう。しかし今は、護るべき者達を抱える王という立場」

「……」

「ロキ君が侮られることが、延いてはアースガルド王国が侮られることに繋がり、結果的に護るべき者達を危険に晒すことにも繋がりかねませんが、その辺りはどのようにお考えですか?」


 あ、あらら……。

 フェリンの援護射撃なんて珍しいとか呑気に考えていたけど、なぜかリステの顔がビックリするくらい本気だ。

 そのための魔物警備であり、リルの監視。

 返す言葉はあるにしても、その対策が常時釣り針を垂らしていい理由にはまったくなっていない。


「効率と引き換えに、ベザートを危険に晒してしまっているような気も、します……」

「そうですよね。ならばロキ君が少しでも畏怖の対象となるよう、『威厳』をその身に纏わせた方が良いと思うのです」

「賛成!」

「賛成です~」

「私も賛成です」

「……賛成」


 あれ……こんな女神様達ってチームワークよかったのか?

 お食事会という名の報告会の時にもこれくらい本気でやってくれよとは思うが、今は立場的にあまり強く言えない。


「いや、賛成って皆さん簡単に言いますけどね? やっと背が伸びた程度だし、威厳なんて出そうと思って簡単に出せるもんじゃ……」

「だからこそ、私達は何をすればロキ君に王の風格が漂うのか、先ほどから話し合っていたのですよ~」

「あっ、そんな会議してたんだ……」

「しかしこれは~」

「見れば見るほど、どこにでもいそうな子供と変わらない気がしてきたんだけど!」

「下のゼオさんのようになってもらえると良さそうなのですけどね」

「やっぱり、顔、変える?」

「え! リアってそんなこともできるの?」

「ボコボコにしとけば、きっと貫禄が増す」

「……おい」


 金髪イケメン野郎にでも変身できるのかと思ってちょっと期待しちまったじゃねーか……

 それにリアの場合、冗談か本気か分からないから怖いんだよ!


「できないことを望んでもしょうがありません」


 そう言って一人立ち上がったリステ。

 そのままスススッと近寄り、俺の前に立つ。

 うーん、やはりまだちょっと背が足りておらず、リステの場合は目線が少しだけ上を向く。


「まず、語調をもう少し強くすることはできますか?」

「それは、リステの趣味とかじゃなくて?」

「ちが、います」

「……」


 怪しいなと感じながら少し考えるも、すぐに厳しいことを悟る。

 それこそリステじゃないが、もう習慣化してしまっているのだ。

 それに性格的な問題だってある。


「いや、無理だよね。言葉で威厳を纏わせるほど、誰彼構わず偉そうにしたいとは思わないよ」

「そうですか……となれば他に人の印象を大きく変えられるのは、髪型と服装くらいでしょう」


 そう言いながら真剣な眼差しで俺の髪を捏ね繰り回すリステ。

 今も髪が伸びたら切ってもらっているのに、この時ばかりは先が見えず、妙な緊張感が漂う。


「やはり、このくらい勢いよくいった方が良いと思うのですが」


 そう言って両手をワシッと広げ、俺の髪を大きく掻き上げると、「おぉ~」という声が上がった。


「ちょっと大人っぽく見える!」

「確かに、お風呂上りの髪型ですね」

「あとは平時の服装ですが……念のため確認です。ロキ君はやはり、王侯貴族が身に纏うような服装は好まないのですよね?」

「それは嫌だね。派手だし変だし、暑苦しくて動きにくそうだし」

「なるほど、そこまで否定されるのならば、致し方ありません。ロキ君、お願いですので私とアリシアに、ロキ君の思う強者――、王者の装いというモノを見せてもらえませんか?」

「王者の装い? っていうか、見せるって……あ、まさか」

「そのまさかです。王侯貴族のような装いが難しいのであれば、ロキ君にとって馴染みある地球の衣装を参考にするしかありません。頭で想像してもらえれば、私達が記憶から限定的にその姿を確認しますので」

「……アリシアも覗く意味は?」

「この世界に似たようなモノが無さそうであれば、私が作ろうと思っているからです」


 そう言って俺がプレゼントしたお裁縫道具を取り出し、ハサミでチョキチョキと空を切るアリシア。

 うーむ、神様がそんなことしちゃっていいのかって素朴な疑問はあるが……

 素材は別として、デザイン性だけは俺好みの服を仕立ててもらえるわけか。

 あまり記憶を覗かれたくはないけど、これはある意味大チャンスかもしれない。

 俺の中でこの世界最高峰と言えるシ〇ムラファッションから、ゲームに出てきそうな中二病全開の衣装へ。

 いつもゼオがマントをヒラヒラさせているのだから、俺だってそろそろ黒い服着てヒラヒラさせても良い頃合いだろう。


「ふふ、ふふふ……分かった。平時用の強くてカッコ良さそうな服を想像しちゃうよ? 良いんだね?」

「構いません」

「できれば1つではなく、複数思い浮かべてください」


 こうして二人がスキルの入れ替えを行い、俺の想像する異世界ベストファッションを記憶から確認する。

 始めの頃やられた時もそうだけど、ただ見つめられているだけで、覗かれているという感覚はまるでない。

 そして――、


「どうですか?」


 アリシアはなぜか横のリステに問いかけ、その言葉にリステは瞳を閉じたまま何か考えるように手を顎に当て、首を僅かに傾げる。


「見覚えがありますね」

「んん? 何が?」

「トルメリア王国……いや、出所は自由都市ネラスの方でしょうか。たぶんではありますけど、ロキ君の想像された衣装のうちの一つと雰囲気の近しいモノが存在しているはずです」

「え、マジで?」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ロキ君、随分とご機嫌な様子で帰っていきましたね」

「それはそうでしょう。この世界の衣服に対して限りなく興味が薄いことは、過去に服選びを共にした私が重々承知していましたから」

「だから普段の服はなんでもいいって思ってたのかな?」

「そうなんじゃないですか~? リガルと戦った時の武装は拘りが感じられましたからねぇ~」

「どちらにせよ、これで『数』も減ってくれればいいのですが……」


 フェリンから今回の一件に関する報告を受けた時、皆の心中は複雑だった。

 確かに、フェリンの目から見ても度し難い悪党というのは存在し、ロキはそのような者達を殲滅すべく動いていた。

 そして一掃すれば、被害を受けて苦しんでいた多くの者達が感謝の言葉を口にする。

 そのどちらもが本物であり真実であるとフェリンには分かるからこそ、ロキの動きは世界のためになっていると断言できたが、しかし、このままでは――。


 ロキから伝えられた、隠されているスキルの新しい可能性。

 もし人を殺めるほど反動が強くなるのであれば、今のうちからその数を抑える動きを取っておかねば、ロキにとっても、そしてこの世界にとっても取り返しのつかない事態に陥るかもしれない。


「ロキ君が今手掛けている国の地図を作り終えたら、すぐに自由都市ネラスへ足を運びます。私も可能な限り事前調査を進めておきますので、もし不足があればアリシア、あなたの腕に掛かっていますからね」

「任せてください。どのような姿を好むのかはおおよそ理解できましたし、あとは相応の素材を調達できるかどうかです。この世界に存在し得ないモノを生み出しては元も子もありませんから」


 かつてないほど真剣に考えたこの策が功を奏するのか。

 まだ誰も分からないまま、手探りの対策は進められていった。
472話 手遅れの可能性

 日中は東部をマッピングしつつハンターギルドや傭兵ギルドにも顔を出し、市場や商店で見覚えのない珍しい食材や何かの材料になりそうな素材があれば、買い占めにならない程度のまとめ買いを。

 夜間はSランク狩場への突入チャレンジと決めて動き始めたパルモ砂国の後半戦。

 と言っても真っ先に手を掛けたのは、【転換】の余剰経験値を割り振ることだった。


「これはこれは……」


 表示されていた余剰経験値は『7,272,996』。

 以前ジュロイで8000人の兵士を潰した時は約45万ほどだったので、15倍以上の数値を見た瞬間に思わず顔が綻んでしまう。

 ランカークラスの傭兵っぽい連中を5人くらいは殺っているし、隠蔽MAXの暗殺者までいたからな。

 これでとりあえず1つは確実に上げられる。

 そう思って約200万の余剰経験値を突っ込んだ。


『【転換】Lv8を取得しました』


 そしてすぐに100万を使い、レベル8だとどの程度上昇するか判別するも――、


「マジか……」


 余剰経験値100万の上昇幅は僅か5%。

 レベル8から9の段階で2000万経験値が必要とか、さすがの鬼畜仕様に変な笑いが込み上げてくる。

 一つのスキルをレベル7まで持っていくのに必要な余剰経験値は30万弱。

 対してレベル9まで持っていこうとすれば2230万弱も必要になるのだから、本当ならレベル7止めのスキル量産が【転換】運用の王道パターンなのだろう。

 まぁそうであっても、俺はレベル10に意地でももっていくが。

 目指すのはそこそこの最強などではなく、誰からも何一つ害されることのない最強なのだからしょうがない。

 魔物はたぶん無限に湧くし、悪党も少し探せば無限に湧いてくるのだ。

 少しずつ経験値取得効率は上がっていくのだから、先は長いがコツコツと頑張っていこう。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 それから10日ほど。

 目立つ新規狩場や新種魔物もいないまま、ようやく今までで一番大きな国、パルモ砂国のマッピングが完了した。

 上空から俯瞰することで見えてくる事実と違和感。

 そいつをどうせ大したことは知らないだろうと思いながら、横の男に聞く。


「あなた方は何を狙って野盗をしていたんですか?」

「ひ、東に流れる魔物素材か、東から入ってくる食料や生活物資だ! どっちも手堅く金に換えられるから、それで……」

「はぁ、|あ《・》|な《・》|た《・》|も《・》ですか。古代の遺物――、希少武具や古い魔道具はなぜ狙わないんです? そちらの方がよほど金になると思いますが」

「ね、狙わねぇし、狙えねぇよ! 領主の保管庫を襲うなんて死にに行くようなもんだろ!」

「ということは、あなたも砂漠から掘り起こされた遺物が運搬されている姿を見ていないわけですか」

「ねぇって! 狙ってる連中は多いけど、いつどうやって運んでんのかさっぱり分からねぇ! なぁ、もういいだろ!? こんだけ喋ったんだから見逃し――、ッ……」


 また、同じ証言。

 これしか情報が出てこない。

 パルモ砂国の東部は東に向かうほど緑が増え、長閑な田園地帯も少しずつ広がっている。

 しかし長い期間水を吸い上げられていたせいなのか。

 素人目から見ても農作には不向きであろう乾燥した大地が多く、頻繁に東の隣国から多くの食料を積んだ馬車が入ってきていることは分かっていた。

 そして、ヘルデザートの魔物素材が東に流れていることも。

 途中の山岳地帯や見通しの悪い森で張っていた野盗連中は、そんな馬車の積み荷を狙っていたようだが、なぜか一番金になる遺物の運搬情報が拾えない。

 "遺物は国が全て買い取っている"――、以前受付のお姉さんはこう言っていたのに、実際はこの国の首都『クトゥ』にすら遺物が運ばれていないわけだ。

 確認のため、遺物ハンター達の拠点にもなっている西部の町『ポルック』に飛び、街中を徘徊しながら『領主の保管庫』とやらを探すと、結界魔道具で阻害し、周囲もそこそこ強い見張りで厳重に固められた遺物の集積所が存在していることはすぐに判明した。

 つまりここに集められたまま、外に出ることなくどこかへ運ばれているということになる。

 そんなことをするのは、一人しかいないよなぁ……


「もうこの国は手遅れかな」


 パルモ砂国の最東端に飛び、そこから東の隣国――アルバート王国へ視線を向ける。

 枯れた土地の多いパルモ砂国に物資を支援し、その見返りに本来は外へ出さない遺物を一部回してもらうなどという生ぬるい話ではなく。

 発掘された遺物は根こそぎ回収し、その遺物を継続して発掘させるために食料などの支援物資を提供している――そんな印象を受けてしまうほど、この国はマリーに属国化されてしまっているような気がしてしまった。


「難しいな……」


 西と東にある7か所の集積所。

 その全てを襲って遺物を強奪することはできるだろうが、さすがにそれをやれば俺がパルモ砂国に対して盗賊行為をしているのと同じだし、本格的にやり続ければ戦争の切っ掛けにも十分成り得るだろう。

 となれば、発掘の邪魔をするという選択もなくはないが……

 一瞬、掘り起こした天候型魔道具をもう一度埋めるか? という考えが過ったものの、すぐに頭を振り、余計なことを考えるのはやめた。

 パルモ砂国の歴史など知らないが、どうせ数十年、数百年と発掘し続けた結果が今なのだから、ここから多少の嫌がらせをしたところで焼石に水。

 それにいくらマリーに打撃を与えられる選択と言っても、パルモ砂国で普通に暮らす人達が苦しむやり方を取ろうとは思えなかった。

 そんなくだらない謀略に時間を費やすくらいなら、その分俺が強くなればいい。

 魅力的な装備、使い勝手のいい高性能魔道具をマリーには回収させるだけさせて、いつかその全てを俺がマリーをぶっ潰すついでに回収すればいいのだ。

 が――。


(まさか遺物だけでなく、Sランク狩場の情報まで掴んで動いてないよな……)


 過った不安を少しでも解消すべく、ヘルデザートの中心部でマーキング用に生み出した岩を残さず回収してから、俺は出来上がった6か国目の地図を担当ワドルさんの下に持ち込んだ。

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ここまで御覧いただきありがとうございました。
主人公の行動範囲が広がってきたことで、そろそろ国単位の章分けに無理が出てきたかな~と感じつつも14章はここで終了。
ロキの手帳と、あとはキャラ紹介、地図の更新などをやってから15章に突入します。
次章も内容盛沢山。
変わらず隔日ペースで15章の終わりまで投稿予定ですので、引き続きまったりとお楽しみください。
地図(ワールドマップ) 14章終了時点



14章終了時点のマッピングデータです。
物語の補完用にどうぞ。




 ●名前の挙がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中の国

 ◎パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯
ロキの手帳⑪

 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:62  スキルポイント残:266 (技能の種により+22)

 魔力量:14906/14906 (740+14166)

 筋力:   8190 (403+6993)  ゲイルドレイク(+794)
 知力:   5878 (404+4854)  ガルグイユ(+620)
 防御力:  6807 (397+5723)  ヴァラカン(+687) 
 魔法防御力:5336 (397+4274)  ガルグイユ(+805)
 敏捷:   4188 (397+3589)  ウィングドラゴン(+202)
 技術:   9873 (396+9477)
 幸運:   7162 (397+6351)  グリムリーパー(+414)

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》


 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv7 【暗殺術】Lv8 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv9 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv10 【闘気術】Lv5


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【神聖魔法】Lv4 【呪術魔法】Lv5 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv9 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv8  【鍛冶】Lv6
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10 
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7 
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6 
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv7 【装飾作成】Lv5 
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv5 【飛行】Lv8 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv9 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv9 【忍び足】Lv9 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv4 【自動書記】Lv3


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv5 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv7 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv6 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv8
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7 【転換】Lv8


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv7 【突進】Lv8 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv8 【招集】Lv7 
【硬質化】Lv7 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【咆哮】Lv7 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv5 【火炎息】Lv7 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv6 【丸かじり】Lv7 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv7 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4 
【不動】Lv7 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv6 【廻水】Lv6 【鏡水】Lv5 【透過】Lv5 【恐怖】Lv6 【封印】Lv5 【熱感知】Lv5 【陽炎】Lv6 
【流砂】Lv7 【砂嵐】Lv7 【砂硬鱗】Lv5 【昼寝】Lv4


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv5 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv6  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv7 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv6 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1 【甦生】Lv8 【共食い】Lv4 【粘液】Lv5 【分裂】Lv6
【砂泳】Lv7



 ◆戦闘・戦術系統スキル

 【剣術】Lv10 剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

 【短剣術】Lv9 短剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

 【棒術】Lv8 棒形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

 【体術】Lv10 己の身体で打撃を加える場合に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

【斧術】Lv9 斧形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槍術】Lv9 槍形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槌術】Lv8 槌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【鎌術】Lv7 鎌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

 【弓術】Lv9 弓形状の武器を所持している限り、攻撃動作、射程距離にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 技術補正

 【杖術】Lv9 杖形状の武器を所持している限り、魔法効果、魔法発動時間、防御動作にプラス補正が入る 魔力消費0 知力補正

 【盾術】Lv9 盾を所持している限り、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 防御力補正

【投擲術】Lv9 投擲飛距離に90メートルのプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で投擲速度/命中率のプラス補正を行う 魔力消費21 技術補正

【挑発】Lv9 注意を自分に向けやすくする 発動範囲90メートル以内 対象を中心とした半径1メートル以内の生物に発動 魔力消費21 防御力補正

【狂乱】Lv8 使用後は全ての通常攻撃動作に能力値290%の限定補正を行う。ただし制限時間が経過するまで、周囲の生物に対する通常攻撃動作以外を行うことができなくなる。 使用効果時間8分 魔力消費0 筋力補正

【二刀流】Lv8 両手に別々の武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【威圧】Lv9 見定めた1対象を相手にかなり強い恐怖を与え、行動阻害、精神錯乱を誘発させる 魔力消費5 魔力補正

【捨て身】Lv9 無手の状態に限り、筋力値、敏捷値を一時的に280%まで上昇させる 効果時間1分 魔力消費45 筋力補正

【指揮】Lv9 スキルを使用した指揮者の思考が、指揮下にある味方へと伝達されやすくなる。度合いはスキルレベルによる。 範囲:1800メートル 使用効果時間30分 魔力消費90 知力補正

【鼓舞】Lv9 半径45メートル範囲内の味方に対して全能力値を30%向上させる。同スキルによる重複不可。スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費44 幸運補正

【身体強化】Lv10 魔力を使用して筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 効果時間10分 魔力消費50 技術補正

【騎乗戦闘】Lv9 騎乗している状況に限り、全能力値145%のプラス補正が入る また騎乗している生物にもプラス補正が適用される 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【両手武器】Lv9 両手で一つの武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【暗器術】Lv7 暗器に該当する武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 敏捷補正

【射程増加】Lv9 射程距離が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【手加減】Lv10 スキル使用時に限り、致命打を与えても対象生物を一時的に延命させることができる 効果時間1分 対象生存時間60秒 魔力消費50 技術補正

【暗殺術】Lv8 急所攻撃に限り、能力値180%の上方補正を常時行う(魔力消費0) 任意で1分間、【忍び足】【暗器術】【隠蔽】のスキルレベルを1上昇させる 魔力消費40 敏捷補正

【闘気術】Lv5 体力の消耗と引き換えに、使用中は筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 魔力消費0 敏捷補正


 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv9 魔力消費90未満の火魔法を発動することが可能 知力補正

【土魔法】Lv9 魔力消費90未満の土魔法を発動することが可能 魔法防御力補正

【風魔法】Lv9 魔力消費90未満の風魔法を発動することが可能 敏捷補正

【水魔法】Lv9 魔力消費90未満の水魔法を発動することが可能 防御力補正

【氷魔法】Lv9 魔力消費90未満の氷魔法を発動することが可能 防御力補正

【雷魔法】Lv9 魔力消費90未満の雷魔法を発動することが可能 知力補正

【光魔法】Lv8 魔力消費80未満の光魔法を発動することが可能 幸運補正

【闇魔法】Lv8 魔力消費80未満の闇魔法を発動することが可能 魔力補正

【無属性魔法】Lv8 魔力消費80未満の無属性魔法を発動することが可能 魔力補正

【回復魔法】Lv9 魔力消費90未満の回復魔法を発動することが可能 防御力補正

【神聖魔法】Lv4 魔力消費400未満の神聖魔法を発動することが可能 魔力補正

【結界魔法】Lv6 指定箇所を中心に『防壁』『封魔』『燐光』『遮蔽』『遮断』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による
 魔法防御力補正

【呪術魔法】Lv5 魔力消費150未満の呪術魔法を発動することが可能 魔力補正

【時魔法】Lv5 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に対し、敏捷値±250%の減少か増加を選択して発動することが可能 減少の最終数値は対象の抵抗値によって決定し、マイナスになることはない 魔力消費:10秒毎に75 知力補正

【精霊魔法】Lv4 広範囲の『土水風火』属性精霊を一時的に使役し、魔法を行使することが可能になる 魔力消費100 魔力補正

【空間魔法】Lv6 一時的に亜空間と繋がり、その空間を活用することができる。 魔力消費:50%減 空間使用範囲と接続時間による 魔力Ⅱ補正

【魔力操作】Lv9 魔力操作が向上し魔法への応用が利きやすくなる また魔法発動時間が45%減少する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力感知】Lv9 使用者の周囲に存在する魔力の流れ、濃度に対して敏感になる 範囲半径45メートル 魔力消費0 魔力補正

【省略詠唱】Lv8 精霊への単体魔法イメージ伝導割合が80%まで上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【発動待機】Lv8 魔法発動可能状態から最大16秒間待機が可能になる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【多重発動】Lv2 属性に関わらず、発動待機中にもう2種の魔法を発動することが可能になる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【魔法射程増加】Lv9 魔法の射程が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力纏術】Lv6 具現化した魔力を装着武具、または身体に纏わせ強化させる 強化による上昇値は込める魔力量とスキルレベルに依存 効果時間6分 魔力消費:込めた魔力量の15% 魔力補正

【土操術】Lv3 流した魔力量に応じて土石を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる 防御力補正


 ◆ジョブ系統スキル

【狩猟】Lv10 狩猟技能が向上し、獲物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【解体】Lv10 解体技能が向上し、より素早く正確に解体を行うことができる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【採取】Lv9 採取技能が向上し、採取物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【話術】Lv8 対話能力がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【料理】Lv10 料理技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【農耕】Lv10 農耕技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【釣り】Lv9 釣り技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【家事】Lv10 家事技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【裁縫】Lv8 裁縫技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鍛冶】Lv6 鍛冶技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【芸術】Lv7 芸術技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【描画】Lv7 描画技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【建築】Lv9 建築技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【採掘】Lv9 採掘技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【細工】Lv7 細工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【加工】Lv8 加工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【伐採】Lv10 伐採技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【交渉】Lv8 交渉技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【畜産】Lv10 畜産技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【作法】Lv8 作法技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【舞踊】Lv7 舞踊技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【歌唱】Lv8 歌唱技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【薬学】Lv7 薬学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【演奏】Lv7 演奏技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【錬金】Lv6 錬金技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【彫刻】Lv6 彫刻技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【酒造】Lv8 酒造技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【庭師】Lv8 庭師技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【医学】Lv7 医学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【装飾作成】Lv5 装飾作成技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術

【魔法学】Lv5 魔法学の技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔道具作成】Lv4 魔道具作成技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正


 ◆生活系統スキル

【異言語理解】Lv10 人族が扱う言語であれば、知識が無くても全ての専門的な用語を理解し会話をすることができる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【獣語理解】Lv8 動物や魔物の言葉が理解し、意思の疎通をだいぶ図れるようになる 魔力消費0 知力補正

【視野拡大】Lv10 上下左右の視野がやや広がる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【遠視】Lv10 かなり遠くを見通せるようになる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【夜目】Lv10 暗闇の中でもかなり視界を確保できる 魔力消費0 幸運補正

【視界共有】Lv4 指定した対象に触れることで、一定時間視界を共有する 効果時間24分 多重発動不可 魔力消費30 幸運補正

【気配察知】Lv10 使用者の周囲で動く存在に対して反応が敏感になる 範囲半径50メートル 魔力消費0 技術補正

【探査】Lv9 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径270メートル 魔力消費0 幸運補正

【広域探査】Lv4 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径1400メートル 魔力消費0 幸運補正

【隠蔽】Lv10 Lv10以下の察知、看破、調査系統スキルを欺ける 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【俊足】Lv9 走る動作に補正がかかり、移動がかなり速くなる 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【忍び足】Lv9 使用時は無音で移動することが可能になり、スキルレベルに応じて気配を隠すことができる 魔力消費1分毎に10消費 技術補正

【逃走】Lv9 何かに追われている状況に限り、能力値310%の速度で走ることが可能 魔力消費30秒毎に10消費 敏捷補正

【縮地】Lv5 前方に向かって能力値250%の速度で距離を詰める 移動範囲は任意指定 最大距離10メートル 魔力消費25 敏捷補正

【跳躍】Lv9 跳躍動作に補正がかかり、通常よりも高く跳べる 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【空脚】Lv5 足場のない空中で踏み込み、6段までの【跳躍】を行うことが可能になる 魔力消費:1段毎に5消費 筋力補正

【飛行】Lv8 浮遊した状態で上空を移動することができる 魔力消費:1分毎に2消費 魔力補正Ⅱ

【算術】Lv9 算術能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【暗記】Lv9 暗記能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【騎乗】Lv9 騎乗能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【拡声】Lv9 声音を一時的に増加させ、声を広く届ける 増大する声音は元の大きさに影響する 魔力消費0 魔力補正

【遠話】Lv4 範囲内の特定対象に直接声を届ける 範囲半径20000メートル 効果時間1分 魔力消費10 幸運補正

【聞き耳】Lv9 聴覚を一時的に増加させ、範囲内の音や声を聞き分ける 範囲半径90メートル 魔力消費0 知力補正

【読唇】Lv4 対象の唇や表情が視認できる状態であれば、聞こえずとも言葉を理解することができる 理解度はスキルレベルによる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【罠生成】Lv8 捕縛/殺傷を目的とした罠の生成作業が巧みになる 使用者の想像をだいぶ補助する 魔力消費190まで 技術補正

【罠解除】Lv7 Lv7以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を解除する 魔力消費85 技術補正

【罠探知】Lv8 自然発生した危険域、Lv8以下の【罠生成】によって生成された特殊罠の察知する 範囲は視覚に依存 効果時間10分 魔力消費19 幸運補正

【鑑定】Lv9 対象物品の能力、効果、原料、素材情報を識別する 識別深度は自身のスキルレベルによる 無機物のみ対象 魔力消費0  幸運補正

【心眼】Lv9 対象の所持する技能を覗き見る 生物のみ対象 魔力消費5 幸運補正

【魔力譲渡】Lv7 対象に自身の魔力を譲渡する 魔力消費に対し譲渡できる魔力の割合は85% 魔力補正

【付与】Lv5 装備品に属性か特定スキルを付与することができる 付与数、組み合わせ、定着時間はスキルレベルと対象装備による 魔力消費50 定着完了まで1秒毎に17消費 幸運補正

【泳法】Lv8 水泳技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【調教】Lv8 調教技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【写本】Lv4 見本となる本や文章を複製する 速度はスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【自動書記】Lv3 意識を向けた対象の言葉や文字を一定時間書き記す 効果時間18分 魔力消費5 幸運補正

【魅了】Lv4 対象の心を惹きつけ、興味と好意を持たせる 異性に対してのみ有効 多重発動不可 効果時間4時間 魔力消費40 幸運補正


 ◆純パッシブ系統スキル

【毒耐性】Lv9 毒への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【麻痺耐性】Lv5 麻痺への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【睡眠耐性】Lv6 睡眠への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【石化耐性】Lv6 石化への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魅了耐性】Lv6 魅了への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【呪い耐性】Lv4 呪いへの耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【魔力最大量増加】Lv9 魔力最大量を90増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力自動回復量増加】Lv9 魔力自動回復量を45%増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【剛力】Lv10 筋力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【明晰】Lv9 知力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【金剛】Lv10 防御力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【封魔】Lv9 魔法防御力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【疾風】Lv9 敏捷値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【絶技】Lv9 技術値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【豪運】Lv8 幸運値が40上昇する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【物理攻撃耐性】Lv10 物理攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【魔法攻撃耐性】Lv8 魔法攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【火属性耐性】Lv9 火属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【土属性耐性】Lv8 土属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【風属性耐性】Lv8 風属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【水属性耐性】Lv8 水属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【雷属性耐性】Lv7 雷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【氷属性耐性】Lv7 氷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【闇属性耐性】Lv7 闇属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【光属性耐性】Lv6 光属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【鋼の心】Lv10 精神攻撃に対する抵抗がかなり増加する 威圧にも有効 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正


 ◆その他/特殊(使用可能)

【神託】Lv1 職業<神官>専用加護スキル 女神達からの言葉を授かることができる 使用条件1日に1度のみ 任意発動不可 魔力消費0 魔力補正

【神通】Lv2 職業<神子>専用加護スキル 女神達と意思の疎通を図ることができる 使用条件1日に1度のみ 使用制限時間2分 魔力消費60 魔力補正Ⅱ

【地図作成】Lv4 3倍までの縮小、拡大が可能 魔力消費0 魔力補正Ⅱ

【魂装】Lv6 自ら命を奪った魔物の魂を身に留め、抽出された能力のうち1種を自身へ付加させる 魂装上限数6 魔力消費5 魔力補正Ⅱ

【奴隷術】Lv8 奴隷契約を結び、対象を『魂縛』もしくは『隷属』させることが可能になる 最大所持コスト400 奴隷契約時のみ魔力消費30 魔力補正

【魔物使役】Lv8 服従させ、対象を使役することが可能になる 最大所持コスト800 使役時のみ魔力消費30 魔力補正

【威嚇】Lv7 前方7メートルの範囲に対し【威圧】効果を与える 魔力消費45 敏捷補正

【転換】Lv8 最大レベルまで上がったスキルの余剰経験値を蓄え、指定スキルの経験値に転換することが可能になる 転換率16% 常時発動型 魔力消費0 魔力Ⅱ補正


 ◆その他/特殊(使用不可)

【獣血】Lv4 使用不可


 ◆その他/魔物(使用可能)

【突進】Lv8 前方に向かって能力値340%の速度で突進する 移動範囲は任意指定 最大距離5メートル 消費魔力19 敏捷補正

【噛みつき】Lv8 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値330%の補正を行う 魔力消費17 筋力補正

【光合成】Lv7  太陽の光を浴びれば自然治癒力と魔力回復量が微増  常時発動型 魔力補正

【硬質化】Lv7 一時的に身体を硬質化させ、効果時間内は防御力が12倍になる 効果時間1秒間 魔力消費17 防御力補正

【物理防御力上昇】Lv4 防御力が12%上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【強制覚醒】Lv9 生存している同種族を強制的に目覚めさせる 範囲:1800メートル 魔力消費50 技術補正

【状態異常耐性増加】Lv7 あらゆる状態異常耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【招集】Lv7 【呼応】スキルを持つ周囲の魔物を強制的に呼び集める 効果範囲:周囲半径210メートル 魔力消費17 知力補正

【穴掘り】Lv8 上手に穴を掘る 効果時間8分 魔力消費2 筋力補正

【酸耐性】Lv8 酸への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【踏みつけ】Lv8 下方に向けてのみ、筋力値340%の威力で攻撃を加える 魔力消費19 筋力補正

【嗅覚上昇】Lv5 嗅覚を一時的に上昇される 上昇度合いはスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【洞察】Lv4 視界に収めた生物との力量差を少し掴める 魔力消費0 魔力補正

【咆哮】Lv7 前方7メートルの範囲に対し【威圧】効果を与え、自身に掛けられた精神ダメージを確率で無効化させる 魔力消費55 魔法防御力補正

【旋風】Lv6 周囲720度を能力値280%の威力、速度で薙ぎ払う 使用時は僅かに移動可能 魔力消費19 敏捷補正

【睡眼】Lv3 対象の目を見ながら発動することにより眠らせることができる。 能力効果を説明した上で対象が承諾していれば100% 能力説明をしていない、もしくは理解できなければ、成功確率はスキルレベルと対象の耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費9  魔法防御力補正

【爪術】Lv8 爪形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【発火】Lv6 自身、もしくは自身が触れている物を任意の範囲で発火させる 効果を切れば火は消えるが、非接触状態になればその火は直ちに制御を失う 熱量はスキルレベルと知力による 魔力消費:10秒毎に5消費 魔力補正

【火炎息】Lv7 前方に火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費50 魔力補正

【灼熱息】Lv6 前方に巨大で広範囲な火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費75 魔力補正

【白火】Lv1 自身が扱う火に関する技能に限り、上位格となる白火へ変化させる 熱量はスキルレベルによる 魔力消費20 魔力Ⅱ補正

【炎獄柱】Lv5 吸い込み、捕食し、生物を食らう巨大な炎柱を、自身から15メートル離れた先に2本生成する 生成後の炎柱、内部の龍ともに制御は不可 スキルレベル上昇により動きが活発になる 発生時間10分 魔力消費90 魔力Ⅱ補正

【丸かじり】Lv7 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値450%の補正を行う 魔力消費38 筋力補正

【分解】Lv3 魔力を介して対象を分解する 分解速度は込める魔力量による 魔力消費減少割合20% 魔力補正

【吸収】Lv3 魔力を介して液体を吸収する 魔力消費0 幸運補正

【氷結息】Lv7 前方に氷結の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費50 魔力補正

【不動】Lv7 一時的に身体を硬直させ、効果時間内は防御力、魔法防御力が18倍になる ただし発動中は一切身体を動かせない 効果時間7秒間 魔力消費105 防御力補正

【石眼】Lv7 対象の目を見ながら発動することにより石化させることができる 未動作の対象ほど石化進行は速く、成功率は耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費17 魔力補正

【物理攻撃力上昇】Lv6 筋力が18%上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【衝撃波】Lv6 初動となる運動エネルギーを増加させ、波状に衝撃を加える 威力と範囲はスキルレベルによる 魔力消費45 敏捷補正

【地形耐性】Lv6 地形効果を受けにくくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鏡水】Lv5 魔法属性に分類される攻撃を自動で防御、反射する 反射精度はスキルレベルによる 魔力消費:10秒ごとに30消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正Ⅱ

【廻水】Lv6 広範囲の水を強制的に流動させる 範囲と速度はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に75消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正

【透過】Lv5 一定時間身体を透明化させる 効果時間2.5秒 魔力消費50 魔力補正

【封印】Lv5 対象のスキル発動を確率で阻害する 効果時間10秒 魔力消費50 知力補正

【恐怖】Lv6 自身を見ている存在全てを、強い恐慌状態に陥らせる 魔力消費90 魔力補正

【熱感知】Lv5 視界内の温度を視覚化させる その精度はスキルレベルによる 魔力消費0 魔力補正

【陽炎】Lv6 本来とは異なる位置にその姿を映し出す 魔力消費:1分ごとに10消費 幸運補正

【流砂】Lv7 範囲内の砂を任意に流動させる その範囲はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に40消費 ※砂地でのみ発動可能 敏捷補正

【砂嵐】Lv7 使用者を中心に多量の砂を巻き込んだ猛風を巻き起こす 効果範囲とその威力はスキルレベルによる 
発生時間10分 魔力消費110 ※砂地でのみ発動可能 防御力補正

【砂硬鱗】Lv5 物理、魔法属性に分類される攻撃を自動で防御する 反応速度はスキルレベルによる 魔力消費10秒ごとに30消費 ※砂地でのみ発動可能 魔力補正Ⅱ

【昼寝】Lv4 仮眠することで急速に体力と魔力を回復させる その効果はスキルレベルによる 魔力消費0 幸運補正


 ◆その他/魔物(使用不可)

【粘糸】Lv4 使用不可 魔法防御力補正

【脱皮】Lv6 使用不可 魔法防御力補正

【呼応】Lv7 使用不可  知力補正

【酸液】Lv7 使用不可 技術補正

【擬態】Lv7 使用不可 技術補正

【胞子】Lv5  使用不可 魔力補正

【泥化】Lv5  使用不可 魔力補正

【気化】Lv8 使用不可 魔力補正

【毒霧】Lv7 使用不可 魔力補正

【結合】Lv8 使用不可 防御力補正

【分離】Lv8 使用不可 技術補正

【火光尾】Lv5 使用不可 敏捷補正

【幻影】Lv8  使用不可 魔力補正

【影渡り】Lv6 使用不可 魔力補正

【属性変化】Lv7 使用不可 魔力補正

【地縛り】Lv6 使用不可 魔力補正

【絶鳴】Lv7 使用不可 魔力補正

【無面水槍】Lv6 使用不可 知力補正

【睡夢鱗粉】Lv4 使用不可 幸運補正

【膨張】Lv1 使用不可 魔力補正

【共食い】Lv4 使用不可 防御力補正

【甦生】Lv8 使用不可 魔力補正

【砂泳】Lv7 使用不可 敏捷補正

【粘液】Lv5 使用不可 魔力補正

【分裂】Lv6 使用不可 魔力補正



 ●ボーナスステータス値

 各スキルの隠し要素としてボーナスステータス値が存在。

 ステータス値が確認できない住民は当然として、ステータス画面上でも表記されないため、検証していかないとスキルそれぞれのボーナスステータス値は分からない。

 スキルレベル1・・・・・対応能力(+1)
 スキルレベル2・・・・・対応能力(+2)
 スキルレベル3・・・・・対応能力(+3)
 スキルレベル4・・・・・対応能力(+5)
 スキルレベル5・・・・・対応能力(+10)
 スキルレベル6・・・・・対応能力(+30)
 スキルレベル7・・・・・対応能力(+60)
 スキルレベル8・・・・・対応能力(+100)
 スキルレベル9・・・・・対応能力(+180)
 スキルレベル10・・・・・対応能力(+300)

 ※魔力のみ2倍  ※魔力Ⅱはさらに2倍



 ●スキルレベル上昇に必要なスキルポイント必要分(女神様への祈祷)

 0→1・・・・・・2ポイント
 1→2・・・・・・4ポイント
 2→3・・・・・・12ポイント
 3→4・・・・・・30ポイント
 4→5・・・・・・50ポイント
 5→6・・・・・・100ポイント
 6→7・・・・・・200ポイント
 7→8・・・・・・300ポイント



 ●レベル上昇による各能力上昇値

 レベル1~10・・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種3上昇、魔力量だけは6上昇
 レベル11~20・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種4上昇、魔力量だけは8上昇
 レベル21~30・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種5上昇、魔力量だけは10上昇
 レベル31~40・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種6上昇、魔力量だけは12上昇
 レベル41~50・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種7上昇、魔力量だけは14上昇
 レベル51~60・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種8上昇、魔力量だけは16上昇
 レベル61~70・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種9上昇、魔力量だけは18上昇


 ●未取得からスキルレベル1の必要経験値を『100』とした場合のスキルレベルと必要経験値、及び魔物から得られるスキル経験値の関係性(推定値)

 スキルレベル1取得に必要な経験値は100  
 スキルレベル1所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり20


 スキルレベル1から2に必要な経験値は200  
 スキルレベル2所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40


 スキルレベル2から3に必要な経験値は600  
 スキルレベル3所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり120


 スキルレベル3から4に必要な経験値は2,000 
 スキルレベル4所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400


 スキルレベル4から5に必要な経験値は20,000 
 スキルレベル5所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000


 スキルレベル5から6に必要な経験値は60,000 
 スキルレベル6所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり12,000


 スキルレベル6から7に必要な経験値は200,000
 スキルレベル7所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40,000


 スキルレベル7から8に必要な経験値は2,000,000?


 スキルレベル8から9に必要な経験値は20,000,000?



 ●名前の上がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中の国

 ◎パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯


※所持している本の一覧は諸般の事情により消去。
14章終了時点の登場人物紹介(小ネタ的なネタバレ有り)

 本作は登場する国やキャラクターがそれなりに多いため、14章終了時点での国別登場キャラクターを少しずつ載せておきます。
 以前やった11章終了の内容に書き足したりしているので、重複する部分もありますがご了承ください。
 作中で「このキャラ誰だっけ?」となった場合はこちらをご覧いただくと、「あ~この人ね」って(たぶん)なれると思います。
 

 ※国単位でやっているので、下界にいない人物を加える予定はありません。
 ※キャラ名が公表されていない重要キャラというのもいたりしますが、名無しは基本対象外とさせていただきます。
 ※その他で一覧に載っていないキャラは、必ずではありませんけど作者の判断で追加するかもしれませんので、要望があればコメント欄にお願いします。

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【アースガルド王国】


 〇アースガルド王国-拠点(上台地)


 ・アリシア(愛の女神)
 世界を管理する女神達のリーダー的存在。
 固有最上位加護は【神通】、他にも主人公に詫びとして【神託】のスキルを授けている。
 実直ではあるが短絡的。
 とある理由もあって残念女神の代名詞的な存在になっており、転生者達に顔が割れているため、主人公が旅する下界へ満足に下りられないという枷を女神の中で唯一背負っている。
 代わりに下台地を含む『拠点』の管理者として常駐し、様々なスキルの知見を深めながら、自身が最も好きになれる何かを模索中。


 ・フィーリル(生命の女神)
 固有最上位加護は【蘇生】
 当初は気軽に話せる存在として『友達』ができたことに喜んだが、主人公が死に直面してからは『母』であることを願った。
 もう一度死ねば終わりという危機感から、女神の中で最も主人公を心配しており、世界を巡る旅にも内心では反対している。
 ほんわかした雰囲気の割には意外と計算高く、主人公を転がすのが上手。


 ・フェリン(豊穣の女神)
 固有最上位加護は【地形変動】
 最も女神らしくない女神であり、人懐っこい性格をしているが学ぶことは苦手。
 料理の工程に興味はないが、素材や出来上がった料理に対しての興味は非常に強い。
 聞きかじった程度の知識から主人公の第一夫人を狙っているものの、腹芸が苦手なためリステに勝てず、何か手はないかと考えるものの何も浮かんでいない。
 良くも悪くも主人公とは一緒に新しい料理を開拓する程度の、凄まじくピュアな関係が続いている。


 ・リステ(商売の女神)
 固有最上位加護は【地図作成】
 最も下界に詳しく女神の中では知識も豊富。
 冷静沈着で計算高くもあるため、唯一頭の中を覗き、この世界にとって謎の存在である主人公を陥落させた。
 しかし強さへの探求が尽きない主人公とは対照的に、自身は初めての感情が抑えられずどんどんのめり込むことに。
 ヤンデレ化が加速していることに本人は気付いていない。


 ・リガル=リル(戦の女神)
 固有最上位加護は【魂装】
 女神の中で唯一のエルフ種であり、エルフの素体とも呼ばれている。
 戦いや強さへの興味は非常に強いが、主人公が現れるまでは戦ったことすらなかった名前だけの女神。
 そのせいもあって戦う喜びと興奮から一度主人公を殺めており、罰としてつけられた『リル』という名が定着している。
 現在はわだかまりも解消され、トラブルを避けるために用意された『姉』というポジションを本人は気に入っており、それ以降は主人公を気にかけ、諭すような場面が多く見られるようになった。


 ・リア(罪の女神)
 固有最上位加護は【神罰】
 女神の中で最も容姿は幼いが、最も危険な女神でもあり、気分一つで大陸の広域を焦土化させる力を持つ。
 感情を表に曝け出すことはほとんど無かったが、主人公が現れたことでそのような場面が多く見られるようになった。
 お互いがお互いに警戒対象ではあるものの、内心では『友達』のような存在とも思っており、そんな関係がお互い長く続けばと思っているが……



 〇アースガルド王国-下台地


 ・ゼオ・レグマイアー
 元々は魔人であり、災禍の魔導士、魔王という呼び名も存在した、亜人を代表する古代の魔導士。
 その強さと甚大な被害から、歴史上数えるほどしかない神罰の対象として、過去に半身を焼かれて死にかけた経験を持つ。
 現在はカルラの眷属として吸血人種になり、主人公の血液がないと活動できない。
 将来は自身が同族である魔人種を探すという夢を描きつつも、力の戻っていない現在は拠点で大工や主夫業に精を出している。
 非常に整理整頓好きであり、天然の中二病患者でもある。



 ・カルラ・ウォルブド・アッケンリーベル
 とてつもなく眉目秀麗で中性的な少年。
 吸血人種であり、魔力を消費することで容姿を若返らせることができる。
 実年齢は凄まじく長いらしいが、その理由は知らされておらず、主人公も無理に聞き出そうとは思っていない。
 当初はゼオを蘇らせることだけを最優先に考えていたが、主人公が悪い奴ではないと知り、今では役に立とうと拠点の仕事に邁進している。
 ゼオが大好き過ぎて、毎日一緒の布団で寝ている模様。


 ・ロッジ
 元『五頭工匠』の一人で、我を通したために居場所を失ったドワーフ種。
 鍛冶の腕前は非常に優秀で、より上位の素材、未知の素材から新たな装備を生み出したいという願望が強い。
 鍛冶と酒とパンツにしか興味がなく、その3つに囲まれながら、暇な時間は有り余る素材を利用して素材の合成実験をしている。
 ロキが行った仕返しについては知らされていない。


 ・エニー
 ニーヴァルのひ孫で、年齢は若返った主人公よりも僅かに若く、ジンク達3人衆の中に混ざれば違和感は何もなくなる。
 ニーヴァルに才能があると認められ、付き人として宮殿内で共に生活をしていたせいもあってか、とにかく生意気。
 物怖じしないその性格は大物の予感を感じさせるが、それは今後の努力次第といったところ。
 現在はゼオに師事し、魔導士のエキスパートになるべくと修行中であり、日々湖やカルラに向かって魔法をぶっ放している。
 人間嫌いのゼオが相手ではあるが、相手によって態度を変えないエニーの性格もあってか関係は非常に良好。


 ・アルトリコ
 先祖返りにより、巨人族の血が強く出た女性。
 体長は軽く2メートル以上あり、【痛覚遮断】という見慣れぬスキルを所持している。
 集中すると他が見えなくなるため、来客に気付かないことも多いが、それだけ知識欲は高く、ニーヴァルに次ぐ博識になると噂されていた。
 その大きさ、そしてやや特徴的な顔の形状から表に出ることが儘ならず、一年を通して宮殿内から出るようなことは無かった。
 現在はロキに連れられ拠点の下台地に移住、図書館の管理者として、本に囲まれて生活するという本人にとっては夢のような生活を送っている。


 ・ケイラ
 同じく先祖返りにより、魚人族の特徴が強く表面化している子供。
 その体表はほんのりと青く、よくよくみれば手や足に水かきのような薄い膜も備わっていた。
 種族固有スキルである【水中呼吸】を所持しているが、活用できた場面は一度もない。
 奇怪な容姿から親に捨てられ、孤児施設にいたところをニーヴァルに拾われている。
 戦争により追い出される格好となったが、まだやりたいことまでは見つかっておらず、初めて友達と呼んでくれたエニーとだけは離れたくないと思っており…
 現在はエニーやアルトリコと共に人目を気にする必要のない下台地へ移住し、人生初めての泳ぎを湖で練習しながら、アルトリコやカルラの仕事を手伝って生活している。


 ・ジェネ
 主人公が初めて使役した魔物で、元はCランクのゴブリンジェネラル。
 材木運びや薪割り、荷運びなど、ゼオやカルラの手伝いをして日々過ごしており、徐々にやれることが増えてきている模様。
 ひたすら魔物や人の死骸を食い続けているためか、身体も徐々に大きくなってきている。


 ・ブタ君
 カルラが森の中で見つけてきた野生の豚。
 ゼオに調教されており、魔物が万が一入ってきた時用の見張り役を担っているが、一度もそのような事態に陥ったことはない。
 皆から食事の残りを貰いながら裏庭で自由に過ごしている。


 ・ウィグ
 ヘルデザートで発見した、Sランクに該当する覚醒体予備軍の魔物。
 元はAランクのウィングドラゴンであり、体長は発見当時で1.5倍ほどと既に大きく、体表も緑から黒へと変色が進んでいた。
 まだ新しいスキルが発現していないため、下台地の残飯処理班としてお金にならない魔物の死骸などを食べながら経過を見守られている。
 拠点周辺の魔物にも勝てるウィグが登場したことで、監視をしていたブタ君の役目は完全に終わったが、皆に可愛がられているので誰も気にしてはいない。



 〇アースガルド王国-ベザート

 ・ヤーゴフ
 元ハンターギルド、ベザート支部のギルドマスター。
 ハンターの上に立つような体躯には見えない老齢の男性で、観察眼が異様に鋭い。
 冷静で頭が回り、道義は優先するが人並み以上に欲は強く、商人気質な部分も目立つ。
 主人公が異世界人というだけでなく、『転移者』であることまで知っている数少ない人物。
 移住したベザートにはまだハンターギルドが存在しないため、独自に仮運営をしながら皆の生活がなんとか回るよう、町の中心となって動いている。


 ・アマンダ
 ハンターギルド、ベザート支部のナンバー3であり受付嬢だった女性。
 欲には忠実で、男もお金も大好きなギリギリアウト気味のお姉様。
 ハンターは若い受付嬢の前に並ぶので、いつもガラ空きのカウンターで暇そうにしていたが、本気を出せば仕事はかなりできる。
 自称情報通で、噂好きが高じて聞き耳のスキルが勝手に育っていった。
 古株で実際情報には詳しく、現在は『新奇開発所』の所長としてロキの案が製品化できるか協議しつつ、町の職人に仕事を振り分けている。


 ・ペイロ
 ハンターギルド、ベザート支部の遺留品管理担当者。
 パルメラ大森林で見つかった謎の遺留品がきっかけで、ヤーゴフの野望に巻き込まれた悲しい過去を持つ。
 ベザートが発展することには賛成だが、リスクを負うくらいなら現状維持を選ぶ保守派。
 ハンターギルド職員ということもあって異世界人の話をちょくちょく耳にしており、自身も元ハンターだったからこそ、異次元とも言える能力保有者に強い恐怖と警戒心を抱いている。


 ・ダンゲ
 旧ベザートの町長であり、場所を移した新ベザートでもその役職を引き継ぐ町の中心的人物。
 立場は平民なので、町民からも慕われる気さくで面倒見の良い爺さんといったところだが、人を見る目はあり、怒らすとなかなかに怖い。
 最初は主人公に対してどう接するべきか悩んでいたようだが、最近ではその人となりを理解し、相手が王という立場も忘れて説教する場面が増えてきている。
 そんな時は100%主人公が悪いため、おとなしく怒られている異世界人の王を見て、町長の威厳が爆上がりしていることに本人は気付ていない。


 ・ロディ
 ハンターギルド、ベザート支部の解体場主任。
 気さくなおじさんで、狩場や魔物の素材など、ハンターが知っておいて損はない情報を聞かなくても教えてくれたりする。
 見た目だけで言えば一番ギルドマスターに見えるくらいマッチョなオヤジ。
 現在は独自運営されている仮のハンターギルドで、以前よりも大量に持ち込まれるようになったホーンラビットを泣きながら捌いている。


 ・ジンク
 お子様3人衆の一人でリーダー。
 父親がハンターだったことから、幼いながらも基礎的なハンター知識が備わっている頼もしい存在。
 主人公の影響から外の世界にも強い興味を持ち始めている。
 なんでも卒なくこなせる有望株で、美形な母親に似て将来はモテそうな雰囲気を醸し出しているものの、本人にまだ自覚は無い。
 ベザートが移動後、通っていたロッカー平原がだいぶ遠くなってしまったことから、本格的にEランク狩場であるルルブの森に挑戦しようと準備を進めている。


 ・メイサ
 お子様3人衆の一人。
 目立つラベンダー色の髪色と瞳が特徴的な女の子で、とにかくよくしゃべる。
 薬屋の娘で将来は薬屋を継ぐはずだが、ジンクと主人公の影響で、最近は魔物を倒すことが少し楽しくなってきている。
 得意技はザルを使った魚掬い。残念ながら集中力と羞恥心は無い。


 ・ポッタ(ポッタチオ)
 お子様3人衆の一人。
 身体が大きく力持ちで、母親と兄弟が全員同じような顔をしている。
 臆病でのんびりとした性格のため、常に戦わない荷物持ちを担当していた。
 修業を兼ねた旅行で少し改善が見られ、武器と盾を握りながらEランクハンターを目指している。
 家庭環境から勉強をする機会が無かったというだけで、いざとなれば一番頭が回るという噂もあったりするが、そのような場面を見た者は非常に少ない。


 ・メリーズ
 おばちゃんシスターでベザートの教会では最も古株。
 豪快で気さく、主人公に職業やステータスに関して多くのことを教えてくれた。
 さりげなく掃除をサボるのが上手い人。


 ・トレイル
 信仰が厚く、人の良いおじいちゃん神官。
【神託】を受けることのできる職業加護の持ち主で、日に3回を上限に職業選択の対応をしている。
 最近耳が遠くなってきたのが悩みの種。


 ・クアド
 つぶらな瞳が特徴的な犬獣人で、スチア連邦にある貧しい集落の出身。
 行商をしながら世界を旅していた期間が長く、物の知識や商品価値には非常に詳しい。
 旅の中で偶然見つけた米の地域価格差に目を付け商売を軌道に乗せるも、故意に価格差を生み出し利益を得ていた貴族と商人に目を付けられ潰されかける。
 主人公に救われ、ついでに大きな借金を背負わされていたが、本人はまったく悪い気などしておらず、逆にその場限りの関係性で終わらない繋がりを持てたことに感謝していた。
 元々が貧しいため、ある物はなんでも売ろうとするくらいに商魂逞しい。


 ・ベッグ
 クアドに買われた奴隷。
 元はキウス商会で輸送の仕事をしていたが、野盗に襲われ積み荷を失った責任を取らされ奴隷落ちしていた。
 馬車を扱っていたためそれに関連するスキルは備わっており、その大柄な体格もあって同時に買われた奴隷たち17人のボス的な存在になっている。
 全員犯罪奴隷ではないため仕事は真面目。ご飯がお腹いっぱい食べられることに喜びを感じている。


 ・パイサー
 ベザート唯一の装備屋店主。
 元Cランクハンターで、地味に【付与】スキルも所持しているため、田舎町には非常に有難く頼もしい存在。
 事情により妻はいない。
 駆け出しハンターだった子供を亡くしたことから、ベザートのハンター達を何よりも守れる存在であり続けようとしている。
 そのため野心や欲は限りなく薄い。
 現在はクアド商会内部にある装備屋で既製武具の販売をしつつ、ついでに一定の知識があることから魔物の素材や鉱物類も販売している。
 ピンからキリまで、手頃な中古武具が山のように運ばれてくるため、自分自身で製造する機会が無くなってしまったのが最近の悩みの種。


 ・ミザール
 元ベザートの魔石屋店主。
 20代半ばくらいに見える妙齢の女性で、非常に軽く、ノリが良く、クアドと波長が合うと分かってからは、子弟コンビのように二人で独自の世界を突き進んでいる。
 様々な魔石はもちろんのこと、興味のあった魔道具もビックリするほどの量と質を兼ね備えて次々入荷してくるため、そんな魔道具に囲まれて幸せそうに仕事をしているが……
 そんな姿を眺める数人の元奴隷従業員の視線に、本人はまったく気付いていない。


 ・マギー
 ベザートにある雑貨屋の娘で、算術が多少できることからクアド商会に正規雇用された、会計係の若い女性。
 当時は職に困る町民も多かったため、お手伝いから正規に雇ってもらえた幸運な女性として、町の中ではそんなこともあるのかと少しばかり噂になっていた。
 クアド商会やニューハンファレストが人員募集の掲示を出すと、すぐに人が集まる流れを作った陰の功労者であるが、本人は計算の練度を上げるのに必死でまったく気にしてもいない。


 ・ウィルズ
 マルタにある高級宿ハンファレストの支配人だった老人。
 元々はとある上位貴族に仕え、表と裏の仕事を担っていたことから、一部の地位ある者達や実力者からは名が知られている。
 全てを卒なくこなせる非常に優秀な人物であり、また恐れられる人物でもあり。
 戦争で宿に被害が出ていることを予想し、その後の動向に注目している人物も多かったが、資材がまったく入らない中で手を差し伸べた主人公の判断が切っ掛けでベザートの住人になった。
 現在はニューハンファレストという名で貴族や他国の役人など、相応の立場がある来訪者向けに宿を提供しており、ロビーで目を光らせるウィルズの姿を見て、いろいろな意味で安心する宿泊者も多い。


 ・ノディアス
 小金蟻の情報を聞き、故郷であるマルタに戻っていたSランクハンター。
 止むを得ないとは言え、多くのハンター達が国から脱出していく中、祖国を守るために立ち上がった数少ない人物。
 しかし異世界人という、次元の違う存在を目の当たりにして自信を喪失。
 小金蟻討伐は断念し、復興作業を手伝いながら貯めた金でこのまま定食屋でも開こうかと計画している中で、既にベザートへ移住していたウィルズと出会う。
 結果、故郷に近く、料理の修業もでき、面白そうな店もあるベザートを気に入り、料理人としてニューハンファレスト内のレストランで働いている。
 だが日々の修行も忘れておらず、夜な夜なクアド商会裏手の森からは、ズン、ズンと、何かを打ち付けるような重い音が耳を澄ませば鳴り響くという。


 ・レイミー
 Dランク狩場を擁するリプサムの元ギルド受付嬢だった女性。
 その容姿はハンター達からの人気が非常に高く、それだけ請け負う仕事も多かったため、金の勘定や計算には強い。
 夫が誘拐事件に巻き込まれ、誰も動いてくれない現実から、主人公に探索を懇願。
 結果的には夫を亡くし、実家のある田舎町ミールのハンターギルドに勤めていたが、ロキに声を掛けられ、当時の恩義からすぐに移住を決断した。
 その能力を活かし、現在はクアド商会の会計常務や帳簿など、店長クアドのサポートをしている。
 主人公が店に顔を出すとテンションが上がるうちの一人。


 ・ボーラ
 レイミーの母親。
 元々は侯爵家の料理番をやっていたこともあり、貴族向けの料理や素材に精通している。
 ただ貴族の嫌な面も多く見ており、傲慢で偉ぶるような存在に嫌気がさして田舎町ミールに移住。
 庶民向けの小さな料理屋を開いて、手頃な価格帯で食事を提供していた。
 娘に偉ぶるようなタイプの人ではないと説得させられ、渋々転居に同意はしたものの、想像を遥かに超える庶民派の王に、さすがにこんなのでは他国と張り合ってはいけないと強い危機感を募らせている。
 隙があれば指摘して改善を促しているが……
 ボーラのスパルタ教育が先々で役に立つのはまだまだ先の話である。


 ・インド人
 カレーショップ『かぁりぃ』の店主。
 肌の黒さと、カレーを提供してくれるからという理由で主人公が勝手にインド人と思っているだけで、本当にインド人かは分かっていない。
 というか何者なのか、誰も分かっていない。
 作るカレーが庶民向けではないため、現在はボーラに誘われニューハンファレスト内のレストランでその特徴的な味を振舞っている。
 主人公のアドバイスによって生まれた料理『かぁりぃらいす』は、好評過ぎて周辺国で噂になるほど。




【ラグリース王国】


 〇ラグリース王国-マルタ


 ジルガ・オフィスト・レイモンド伯爵
 ラグリース南部の広域を領地とする上位貴族であり、元Sランクハンター。
 主人公からは心の中でゴリラ伯爵と呼ばれている通り、見た目は違和感を覚えるほどに肌が黒く、対照的に頭髪や髭などは純白に近いほど白い。
 身体も2メートルを超すほどの巨体であり、明らかに普通ではないと思えるほど見た目が通常のソレとは異なっている。
 そのため長く人間至上主義を貫いてきた王国内での立場は微妙なモノで、上位貴族でありながら他の貴族連中とは折り合いが悪い。


 ・モーガス
 かつてはレイモンド伯爵と共にパーティを組んでいた、元Sランクハンターでもある使用人。
 家督を継ぎ、正式にレイモンド家の当主となった際、主に付き従うことを望み、ハンターを辞めてでも執事になる道を選んだ。
 レイモンド伯爵が最も信頼している人物であり、実際にラグリース内では並ぶ者を探すのが難しいほどに優秀。
 特に知識は豊富で、国外の情勢も多く耳に入れている。


 ・オランド
 ハンターギルド、マルタ支部のギルドマスター。
 Aランクハンターではあるが、金や権力といったモノに弱く、ギルドを成長させることで武力とは別の力を伸ばそうとしていた。
 しかし戦争で衰えた自身の力量を思い知り、失った片目を戒めとした上で考え方を改めようと、鍛錬や模擬戦をやり始めている。
 現在は復興作業を行いながら張り出た腹と戦う日々。


 ・イーノ
 マルタを拠点に活動するBランクハンター。
 口が悪く軽薄、かなり早い段階でBランクに到達したため、調子に乗っていたところを主人公に凹まされた。
 その後はマルタにAランクの強者が集うようになって現実を知り、口の悪さは変わらないもののハンターの仕事自体は真面目に行なっている。
 Aランクハンターに模擬戦を挑み、倒されては昇格が遠いと嘆く日々。


 ・ララン
 マルタを拠点に活動するBランクハンター。
 イーノと同じく才能に溺れて調子に乗り、上には上がいることを理解してからは比較的真面目にハンター活動をしている。
 元々は知り合い程度だったが、同じ凹まされた同士という境遇もあってか、今ではイーノとパーティ仲間であり恋仲になっている。そのため二人の連携は巧み。


 ・ニロー
 ラグリース王国監査院 マルタ支部の監査主任。
 主人公と姉を見つけて、主人公だけではあるが王都に誘導した功績からマルタ支部の監査支局長に昇格している。
 しかし戦争によりその支局も倒壊。
 なんとか生きながらえたが、職務復帰できるような状況でもないため、今はレイモンド伯爵の下で復興作業に当たっている。
 自分が掘り起こした主人公に国は救われ、その主人公が宗主国の王となったことで、繋がりのある自分も新しい立場に着けるのではと画策していたりもするが、果たして。


 ・ファンメラ
 ラグリース王国監査院 マルタ支部の監査員。
 主人公と姉を見つけた功績から監査主任に昇格。
 しかしかつて見たリルの美貌が忘れられず、職務よりもあの姿を探し求めることに注力していた。
 戦争による警報が響く中でも変わらず、結果、逃げ遅れて戦死。
 身なりの良い服装から上官だと判断されたため、その亡骸は尋問の跡が多く残り凄惨を極めた。


 ・ジョイス
 元マルタの衛兵長。
 主人公発見時にスキルを確認した功績と勇気が称えられ、一代限りの騎士爵に叙爵。
 レイモンド家に仕えていたところで戦争に発展した。
 街の防衛に大きく貢献したものの、この戦で妻子を亡くしている。


 ・ソルゾイ
 マルタの衛兵長。
 ジョイスの後任として、班長から衛兵長に命じられて間もなくの戦争だった。
 そのため作戦会議中に犯した、領主の会話に水を差すという無礼を未だに引きずっている。
 が、当の本人は無事防衛できた喜びから、そのようなことは既に忘れていた。


 ・セイフォン
 レイモンド伯爵に仕える騎士の長。
 のちに加わったジョイスの上役にも当たる。
 長く仕えていることもあって、騎士長の立場ではあるものの伯爵の良き理解者。
 好奇心が勝るその性格に振り回され、しょうがなくお守りのように同行している。
 内心、何かあってもこの人は死なないだろうと1000回くらい思っているが、決して誰かに漏らしたりはしない。


 〇ラグリース王国-リプサム


 ・アマリエ
 Dランクハンターでありヒーラー職。
 誘拐事件に巻き込まれて夫を亡くし、自身も大きなダメージを負ったが、その後はリプサムで別のパーティに加入しハンター業を続けていた。
 戦争時には志願し、南部マルタの救護隊員として参戦しており、そこで久しぶりに主人公と再会している。
 戦後も回復魔法の使い手として、マルタでの活動を継続中。


 ・エステルテ
 Dランクハンターであり、呪術魔法を得意とする希少職『シャーマネス』に就いていた。
 同じく誘拐事件で夫を亡くし、誘いも受けていたことから国を跨いで東へ。
 その誘いとは積極的に勧誘を行なっていた傭兵稼業であり、ヴァルツ領内でチームを組みながら様々な仕事をこなすも、1年にも満たない期間で主目的であった戦争へ。
 多くの思いを抱えながら中央侵攻部隊に混ざり、絶望の中、主人公の手によって沈められている。
 当然数多といる中の一人であるため、その事実を主人公は知らない。


 ・アルバック
 リプサムの衛兵長。
 奴隷事件の際、ロキに法律の知識と、その法律がまともに機能していない現実を告げた人物。
 マルタ防衛のためリプサムから参戦するも、先行して突入していた傭兵に討たれ戦死している。


 〇ラグリース王国-王都ファルメンタ


 ・ヘディン・グラウト・ラグリース
 ラグリース国王。
 戦争や争いごとを嫌うが故に、損耗の回避を異世界人に頼ろうとする節があった。
 実際に救われてからは畏怖の感情が最も強く、しかし苛烈な性格でもないことが分かったため、名を借り、共に歩むことが平和への近道であると判断している。


 ・ニーヴァル(ばあさん)
 ラグリース王国の筆頭宮廷魔導士であり、ラグリース公表戦力の最上位に位置する『火仙』の二つ名を持った老婆。
 重ねた歳と知識、そして王家3代に渡って仕えた長さから現国王も孫のように扱っており、それが許されるほどの存在でもあった。
 戦争ではその責任を一身に背負い、呪具を使用してでも国を護ろうとするも、最上位クラスの傭兵に敗北。
 しかし国を守った英雄として、その名は深くラグリースの歴史に刻まれる。


 ・ラディット
 ラグリースの近衛騎士団長であり、『槌覚』の二つ名を持つ男。
 戦力としてはラグリース国内で2番手に位置し、戦争では東の境界を破壊するという勅命を受けて無事成功させた。
 その結果10万を超えるヴァルツ兵の餓死者を出している。
 その後は逃げたヴァルツ兵を殲滅するため、抱える兵を指揮する日々。


 ・カムリア
 ラグリース王国監査院の次官。
 平民出から実力でのし上がった男であり野心家。
 異世界人を管理下に置き、その力を利用できないかと画策し続けていた。
 しかし肝心の対象がラグリースを従える宗主国の王となってしまったことで失脚。
 主人公を利用しようとする存在が新たな火種になると危険視され、ヘディン王が一掃したため現在は要職から大きく外されている。


 ・オルグ
 ハンターギルド、ラグリース全域を統括するジェネラルマスター。
 いつもニコニコと、肩を揺らしながら笑っている印象の強い好好爺。
 しかし相当な実力者で、決して怒らせてはいけないというのがギルド内の不文律になっていた。
 ニーヴァルとはお互いにクソジジイ、クソババアと呼び合う仲で、戦後は度々宮殿内の庭園で静かに佇むオルグの姿が目撃されている。


 ・ワドル
 商業ギルド、王都支部2号館の3階で登録許可の判断を下す品評の担当員。
 頭髪が綺麗な7:3分けになっており、いつも主人公にはその髪型で発見されている。
 地図を持ち込んだ主人公を対応したのは偶然だが、その後はお互いに担当意識が芽生え、なんだかんだと率先してやり取りを継続させていた。
 今では品質も信用されており、細かいチェックなどはほとんど行われてない。


 




【エリオン共和国】


 ・ハンス
 公表している4人の異世界人のうちの一人で、国家元首。
 得意とする【魔物使役】は古代種の竜を従え、【空間魔法】による転移まで可能とする。
 かつてはあまりの実力差に主人公が腰を抜かすほどであったが、そこまで苛烈な性格ではなかったので、現在は友好的な関係を結べている。
 元アメリカ人の酪農家。


 ・タルハン
 腹がぽっこりした中南米出身の元奴隷転生者。
 授かったスキルは【庭師】レベル10、飼われながら貴族の華やかな世界を見続けた男。


 ・ルビエイラ
 ガリガリな上に喉が潰れた元奴隷転生者。
 授かったスキルは【歌唱】レベル10、喉が枯れた後も見世物として舞台に立たされ続けた過去を持つ。


 ・メイビラ
 白い肌に白い髪、ベールのような帽子で顔を隠し、さらに黒い布で目を隠した女性。
 受け答えも特徴的で、疑問形の時だけは特にレスポンスが遅く、上を向いて考え込む仕草をしたのち、ゆっくりと返答する。
 フィーリルは何かを知っているようだったが詳細は一切不明で、立ち位置からエリオン共和国の幹部であることが窺えた。
 誰も知らないとされている【空間魔法】の取得条件を一部でも知っていた人物。


 ・サガン
 狼の獣人で、ハンスをボスと呼ぶ。
 最初に訪れた、2名の元奴隷転生者を癒し場まで連れてきた人物。
 同じくエリオン共和国の幹部であると予想されるが、それ以外は不明。


 ・たんぽぽちゃん
 宮殿内の癒し場に生息している謎のペット(のうちの1匹)。
 体長30cmほどの白い球体型の生物で、触った者を虜にするほどふわふわつるつるした毛並みをしている。
 魔物ではなく動物、調教済みで非常に大人しい。





【旧ヴァルツ王国】


 〇旧ヴァルツ王国-グリールモルグ(ラグリースからの玄関口)


 ・ベロイア
 傭兵ギルドの案内人。
 ラグリースから入ってくる者の中で条件を満たしそうな人物に声を掛け、傭兵ギルドに斡旋していた。
 自身も傭兵として中央侵攻部隊に混ざり、主人公に焼かれて戦死している。


 ・ミルフィ
 傭兵ギルドの受付嬢。
 貴族からも声が掛かりそうなほどの美貌の持ち主であり、その容姿と巧みな話術で悩む者に傭兵登録させる仕事も担っていた。
 それ以上を知っている主人公には効かなかったため、その後は冷たいというか、ちょいちょい毒を吐かれる素の状態で対応されていたが、主人公はその方が良いくらいに思っていた。


 〇旧ヴァルツ王国-ローエンフォート(Bランク狩場エントニア火岩洞)


 ・フィデル
 Aランクハンターであり、レイド主催者の一人。
 囲った後衛の女で編成を固め、募集を掛けた捨て石の近接にボスを削らせながら固定メンバーが安全に、より報酬を得るという仕組みを作った張本人。
 主人公も捨て石要員の予定だったが、予定外にも倒してしまったために計画が狂った。
 囲っていた女も含め、全員が死亡。


 ・アディラ
 ハンターギルド、ローエンフォート支部のギルドマスター。
 種火石を求め、一時的に訪れる足の付きにくい強者が狙われていたこともあり、フィデルの悪行に気付けなかった事実を正式に謝罪した。
 そのような経緯もあり、主人公にはその後様々な面で協力的になるが、それはのちのお話。


 〇旧ヴァルツ王国-所在不明


 ・ジョルジア(爆走獣人)
 旧オーベル跡地で主人公を監視していた、ネコ科と思われる縞々模様の獣人。
 傭兵であり、ヴァルツ国内ランキングは当時35位、爆走という面白い二つ名を付けられていたが本人はカッコいいと思っている。
 勧誘対象として国から依頼を受けていたと堂々宣告されたため、主人公には見逃されていた。
 この男の持ち帰った情報が、ヴァルツ崩壊の大きな要因になっていることを当人は全く把握していない。
 ヴァルツ国内ランキング1位のジオール一派であることを公言している。


 ・ジオール
 ヴァルツ国内ランキング1位の傭兵。
 詳細は一切不明であるが、大陸全土を対象とした非公表のオールランカーにも名を連ねるという噂もある。
 ラグリースへの戦争には納得できず、派閥として不参加を表明。
 結果として生き残ったが、その後は不明。


 ・バリー・オーグ
 ヴァルツ国内ランキング2位の傭兵。
 ハーフエルフであり、本家エルフほどでないにしろ長寿で、ニーヴァルの若い頃も知っていた。
 混血という理由からは忌み子として扱われていた過去があり、望んで里を捨てているため背負うモノが何も無い。
 理解不能な力に潰され戦死、主人公に全てを奪われる。


 ・ファニーファニー
 ヴァルツ国内ランキング3位の傭兵。
 非常に珍しい【獣血】所持者で、他者を自然と圧するその見た目からも強く特徴が表れていた。
 濃さは違うも同じ匂いのするレイモンド伯爵が真っ当な道を歩めていることに強い怒りを覚える。
 変身中の無防備な状態から予備動作に入られ、主人公の【空間魔法】で消滅させられる。


 ・ルエル・フェンシル
 ヴァルツ国内ランキング4位の傭兵。
 国内でも強い影響力を持つフェンシル伯爵家の令嬢で種族は人間、氷血の異名を持つ。
 氷魔法と剣技を得意とする魔法剣士であったが、4位相当の実力があったかは意見が分かれる。
 主人公に燃やされ、唯一残されていた特殊付与武器だけが奪われた。


 ・モゥグ
 ヴァルツ国内ランキング5位の傭兵。
 変わり者が多い傭兵の中では比較的まともで、武人のような気質がある牛頭の獣人。
 強者との闘いを求め、相手にも敬意を払うことのできる男だったが、そのような感情が大きな負傷を負う切っ掛けとなる。
 不死身のように立ち上がるニーヴァルに敗れて戦死、手にしていた武器は戦闘を引き継いだバリーに奪われた。


 ・ビアス=フォウ
 ヴァルツ国内ランキング6位の傭兵。
 1位のジオールと同派閥であることは分かっているが、それ以外の詳細は不明。


 ・ユークリッド
 ヴァルツ国内ランキング7位の傭兵。
 超長距離射撃を得意とする弓の名手、種族は人間。
 鳥に乗り、騎乗効果も上乗せして一方的に魔法の矢を打ち続ける様は恐怖しかなく、総合的な傭兵の評価は非常に高い人物だった。
 しかし、主人公が空を飛べたために撃墜される。


 ・ロブザレフ
 ヴァルツ国内ランキング8位の傭兵。
 剣聖の異名を誇る剣の達人。
 剣の技術だけでなく、剣そのものにも強い興味を示し、全てを注ぎ込んでいた。
 しかし張り合える相手が周辺国では見当たらなくなり、そのせいで全てに対しての意欲がなくなる。
 意欲的でないという理由から8位にされているだけで、実力がもっと上位であることは傭兵全員が周知していたこと。
 バリーや軍部の最高戦力ガルファも、ロブザレフだけにはあまり強く出れないでいた。
 剣の戦いに拘らなくなった主人公に首を毟られて死亡。


 ・エヴィンゲララ
 ヴァルツ国内ランキング9位の傭兵。
 珍しい【土操術】の使い手。
 非常に強いコンプレックスを持ち、被害妄想から弱者相手には苛烈な攻撃を加える。
 しかし強者にはとことん弱く、ゴマを擦って生きてきた結果は上位傭兵になっても変わらなかった。
 主人公にミンチにされて死亡。


 ・ガルファ
 ヴァルツ軍の最高戦力であり、戦争時の総司令官を務めていた人物。
 二つ名は剣仙であり、軍人として必要なスキルは幅広く取得していた。
 軍部の精鋭と傭兵をまとめ上げて総力戦に挑むも、主人公には歯が立たずに死亡。
 全ては雑兵という餌を与えてしまったことが原因だが、その正確な理由には最後まで気付けなかった。


 ・アトナー
 戦争では南部侵攻部隊の司令官を務めた人物。
 二つ名は槍覚であり、軍内では知将としても名が知れていた。
 しかしイレギュラーな存在に全てを壊され、最後は自暴自棄に。
 納得して死ぬつもりが、余計な後悔まで抱えて死ぬハメになった。


 ・ルイド・ベイリガン・ネスト・ヴァルツ
 旧ヴァルツの王で、戦争の元凶とも言える人物。
 転生者マリーにハメられ借金漬けにされ、その金は最後の最後まで道楽のために使われていた。
 自分達王家は神であり、それ以外は自分達を気持ち良くさせるための便利な道具と本気で思っており、その考えがリアと主人公の逆鱗に触れた。
 結果的に王を含む王族は火炙りの末に輪廻の循環から外れ、永劫の罰を背負うこととなった。







【フレイビル王国】


 〇フレイビル王国-ロズベリア(Aランク-クオイツ竜葬山地)


 ・バルク
 現四頭工匠の筆頭であり、転生者マリーの資本で作られた鍛冶屋バルニールの顔役。
 利益追求を何よりも優先したため製造効率は上がり、周囲の金回りは非常に良くなったが、押し通すためにロッジを含む一部の反対派に対して強硬手段を取った疑いがもたれていた。
 結果的には作られた枠の中で金儲けに走っただけと判断されたが……


 ・グロム
 普段はクオイツ竜葬山地を主戦場とする、Aランクハンターの盾職。
 ヴァラカン討伐で主人公以外に生き残った唯一のハンターであり、主人公を命の恩人だと思っている。
 大人で空気も読めるため、再会した時も実力差を理解し、無理な同行やパーティの誘いなどは行わなかった。
 ちなみに大人な対応はここが初ではなく、ヴァラカンの時にも主人公に一度は眠らされたが、床の熱と轟音ですぐに目を覚ましており、フィデル達が一掃される様子は途中からそれとなく眺めていた。
 女神以外で主人公の黒い魔力を目の当たりにしたのはグロムが初であるが、命の恩人であることに変わりはなく、この時も空気を読んで寝たフリをしていた。
 当然主人公はこの事実を知らない。


 ・オムリ
 ハンターギルド、ロズベリア支店のギルドマスター。
 力よりも頭脳と商魂でギルドの長になったタイプで、系統はベザートのヤーゴフに近い存在。
 主人公が【空間魔法】を所持していることに気付き、なんとかその力を町と大陸中央の発展に結び付けようと動く。
 条件付きで転送契約の話が進んだ際には上手く乗せられたと心の中で歓喜していたが、次の国にオークションがあるという事実を把握し、お金が必ず必要になってくることを理解していた主人公が実は途中から乗り気であったことには気づいていない。
 お互いビジネスパートナーとして良好な関係を継続中であったが、主人公が首を突っ込んだ鍛冶工房バルニールの一件から欲を出し、ついでとばかりにレサ奴隷商館や領主の一掃を企む。
 その計画は成功したものの、主人公に警告の意味でやり返されてからは、病人のように痩せたという報告が多数上がっている。


 ・シャイニー・レサ
 かつてレサ奴隷商館のトップだった人物。
 詳しい情報は出ていないが、必要悪程度では温いと判断され、クロイスに殺されたことだけは判明している。


 ・クロイス
 フレイビル国内傭兵ランキング3位であり、レサ奴隷商館の番人と呼ばれる男。
 国内最高峰の暗殺者であり、その技能は権力者も欲しがるため、強さだけではない『力』も多く所持していた。
 本来ならば強い痛みの中で多くの情報を吐くことになるはずだったが、強者ゆえの特権か。
 手を抜いては危険と主人公に判断されたため、あっさりと命を落とすことができた。
 特殊武器『陰虚縛鎖《チェーンウィーカー》』を奪われている。


 ・イェル・サーレン
 商業ギルドロズベリア支局の支局長。
 その立場を利用して、商会などを相手に大口の金貸し業をしていた。
 部下である副支局長が裏でオムリと通じ、手口や貸付額などの情報を流していたため、得意とする権力争いに負けた結果とも言える。
 局長の座を狙っていただけの副支局長にとっては、異世界人が二人も絡むほどの大きな話になるとは思ってもいなかったようだが。


 ・サザラー
 フレイビル国内で最大手となるサザラー商会を纏めていた商会長。
 商売の手腕というよりは、あまり所持者の多くない【魅了】スキルとその妖艶な見た目を武器にのし上がったタイプであり、他の大商会とも様々な意味で繋がりが深い。
 マリーに負けず劣らずの金の亡者であったが、どう足掻いても太刀打ちできないと悟ってからは従順な犬に成り下がった。
 それも金の亡者であるがゆえである。
 そのため主人公が資産のすべてを奪うと告げた時は想像以上に激しく抵抗したが、無表情のまま痛みを与えてくる主人公と、その背後で見つめる女が身近にいる狂った医者と被り、死ぬ以上のことが待ち受けていると悟って抵抗を諦めた。


 ・ミクロ
 元々はアルバート王国でも指折りの医者だったが、その気質が問われて燻っていたところをマリーに拾われ、実験に適しているという理由でレサ奴隷商館に配属された。
 当初は様々な薬の開発と副作用の調査が主であり、それでもミクロ本人は満足していたが、ある時を境に突如命じられた『人造魔人』の実験から道を大きく踏み外していく。
 死ぬ前に活かせる命を活かして何が悪いというのがミクロの持論であり、それは皮肉にもミクロを毛嫌いしていたイェルやサザラーの根底にある考えと一致していた。


 ・アトスターク侯爵
 ロズベリアという大陸中央でも指折りの大都市を手中に収める大貴族。
 が、実際は世襲でその立場を継いだだけであり、とりわけ秀でた能力はなく、仕事は配下に任せてひたすら酒と飯と女を貪る怠惰な生活を送っていた。
 そんなガマガエルのような男にマリーが近づいたことでフレイビルの衰退は急激に加速するわけだが、その時マリーが持ち込んだ手土産は、人間の血がかなり濃い獣人の女だった。


 ・ジャスパー
 フレイビル国内傭兵ランキング34位の獣人。
 潔癖症で他人の汗や臭いが苦手、回し飲みも無理という、この世界にとっては過酷過ぎるハンデを背負っており、常に一人だったことから自然と孤狼という二つ名がついた。
 だからこそ押し込められたゴミ箱は悶絶するほどの耐え難い苦痛で、この男ほど様子を見に訪れてしまったことを後悔した者はいなかった。


 ・ユッテ・モントーレ
 旧ヴァルツ領、モントーレ伯爵家の次女と名乗る女性。
 人攫いにとっては入れ食いといってもいい旧ヴァルツ領の中で、さらに質も求め始めたチンピラ共に運悪く標的にされてしまった犠牲者の一人であるが、どこまでいっても貴族という立場が抜けておらず、危うく主人公に放置されそうになっていた。
 主人公が1階に下りた時、裸足のこの女性も出るに出れず、群衆の中で立ち往生していたようだが……






 〇フレイビル王国-ギニエ


 ・ホレス
 ハンターギルド、ギニエ支店のギルドマスター。
 いろいろ勘違いし、猫獣人の受付嬢から肉球ビンタを喰らって鼻血出していたちょっと可哀そうな人。
 根っからの善人で、身銭を切ってでも町の外に救出目的での依頼を出し、町の問題が解決すれば幼い領主のフォローに全力で回った。


 ・アシュー・バーナルド
 元フレイビル国内ランキング25位の傭兵。
 職は不明だが杖を所持する後衛の魔導士で、闇魔法や風魔法を得意としていた。
 人心掌握に長け、弟や妹という自身の、そして組織内の特別枠を作ることで、全体の競争力と忠誠心を高めていた。
 が、実際は自分しか信用しておらず、平気で弟を切り捨てる残虐性を持ち、金の管理は全て自分自身で行なっていた。
 主人公はそんな姿に少なからず自分を重ね、嫌悪感を示している。


 ・アスク・バーナルド
 元フレイビル国内ランキング38位の傭兵であり、組織の中で形上の弟を勝ち取った人物。
 アシューを崇拝しており、兄のために役立とうと邁進していた。
 結果、主人公の実力を判断するための餌に利用され、命を落とす。


 ・ラッド・ノグマイア
 長く地下に監禁されていたノグマイア子爵家の子供。
 偽った家族の死因を国へ報告するための傀儡として生かされており、地下では感情が死んだように生気を失っていた。
 主人公に救出され、現在はノグマイア家の当主として奮闘中。
 主人公も奴隷術を使用するなど相応のサポートはしていたが、町民からのサポートが手厚いのは、ノグマイア家の領地運営が評価されていたからに他ならない。


 ・アンリ
 ノグマイア家で働く給仕係で、まだ幼かったために生かされていた。
 ラッドとは幼馴染であり、丁寧な言葉遣いではあるも、気を使わないやり取りが行われている。
 気になる異性の相手としてお互い意識しているのだが、身分の違いから結びつくかはなんとも言えず。
 そんな微妙な関係を、身体中に藁をくっつけた一人の少年が悔しそうに眺めている姿がよく目撃されている。


 ・サイラル
 ノグマイア家の馬小屋で働く少年。
 ラッドやアンリとは幼馴染であり、同様に子供だからという理由でアシューの粛清からは逃れていた。
 アンリに恋をしているも、アンリはラッドを見ており……
 仕える身として応援したい気持ちと、失敗に終わってほしい気持ちと、ごちゃごちゃに混ざりながら二人の様子を日々窺っている。


 ・ラーベラ
 ノグマイア家で働くメイドで、現在はメイド長。
 最低限一人は仕事を理解している者が必要という理由から、次々と殺されていく使用人達を前に誓いの言葉を吐かされ生かされた。
 バーナルド兄弟を恨みながらもずっと耐えてきたため、今は解放されて精力的に屋敷で仕事をこなしている。




 〇フレイビル王国-王都グラジール

 ・オスカー・ロルフィオン・フレイビル
 フレイビル王国の王。
 多くのドワーフ種が住まう国内の均衡を保つため、またドワーフ種が得意とする鍛冶産業を国内に留めるために代々王家はドワーフの血を取り入れており、身長は140cm程度と一般的な人間に比べればかなり小さい。
 どちらかというと脳筋寄りの王様ではあるが、それは他の王と比較してという意味であり、先々を考えて行動に移す頭は持っている。
 だからこそ、黙って蝕まれるのを待つくらいであれば、対マリー路線に舵を切ろうとしているが、果たして――。


 ロズワイド侯爵
 フレイビル王国の重鎮の一人で、国内の傭兵ギルドをまとめている人物。
 深い事情も知らぬまま主人公をヴァルツの戦争に参加させようとしていたのもこの男だったため、謝罪を受け入れてもらうまでは生きた心地がしないでいた。
 できれば謝罪以外にも伝えたいことがあるようだが……
 また余計なことをしてしまうのではと言い出せずにいる。




【オルトラン王国】


 〇オルトラン王国-サヌール


 ・マグナーク
 ハンターギルドのサヌール支店、その中にある初級ダンジョンフロアで仕事をしている鑑定師。
 特にオークションからの産物には詳しく、希少物品の買取と相場相談も兼業している。
 最初だけ身に着けていた異質な鎧(蒼竜の鱗鎧)に強い興味を惹かれ、とってつけたような理由で持ち込まれるおかしな付与付き装備に驚愕。
 この子供がおおよそ普通ではないことを理解し、今では一番の興味が主人公自身に変わってきている。 


 ・アラン
 ハンターギルドのサヌール支店、その中にある初級ダンジョンフロアのオークション出品を担当している。
 横で仕事をしているマグナークが珍しく興味を示したことから、自然とアランも注目するようになった。
 まるで貴族のような金の動かし方をしているが、傲慢な振る舞いはまったく見られない主人公を気に入っている。


 ・ビクター
 転生者マリーの奴隷であり、初級ダンジョンの仕入れ担当をしている男。
 マリーの名を出せば誰も彼もが押し黙るということもあり、それが自分の力だと勘違いしていた。
 主人公に目を付けられ、現在ではマリーにバレにくい形で飼い殺しにされたまま、マリーの私財を吸収する重要な役割を担っている。


 ・アジオン
 初級ダンジョン内でボス狩りを行なっていたパーティのリーダー。
 30層に子供が一人ということもあり、かなり強く警戒はしていたが、ボスは奪い合いというダンジョン特有のルールに染まっていたため、主人公の思考と実力を見誤る。
 結果、オートヒーリング効果の実験台にされ、治癒されたそばから魔物の攻撃が上書きされていく中、死ぬまでに1時間以上の時間を要したという。


 〇オルトラン王国-ドミア


 ・オーラン男爵
 オルトラン王国南西部の領主。
 田舎ではあるが国内有数の田園地帯であり、流通制限と価格操作を行い利益を貪っていた。
 そのためなら邪魔な商人や生産者を殺すことも厭わない性格であったため、主人公に目を付けられ潰されている。
 最後は暗闇に閉ざされた蟻の巣の奥地で、三日三晩オートヒーリングにより強制的に生かされながら、身体を喰われ続けるという凄惨な死を遂げている。


 ・キウス
 領主であるオーラン男爵と結託し、流通制限と価格操作を行なっていた人物。
 国内の主要な町に店を構えるゴールドランクの商人で、特に拠点でもあった田舎町ドミアでの発言権は強い。
 他の商会の纏め役でもあり、オーラン男爵の子飼いである傭兵バーシェを使って相場を崩そうとするクアドを潰そうとしていた。
 自身が悪に染まっていることを自覚し、ただ家族までは極力巻き込みたくないという思いで一人王都に住んでいた。
 商会の在庫や私財はほぼ主人公に奪われたが、想像以上に協力的であったことから、死に方だけは苦しみもない、綺麗な終わり方で死体は遺族に引き渡されている。


 ・バーシェ
 情報を求めてオーラン男爵に飼われていた傭兵。
 順位は不明だが国内ランカーであり、槍の扱いに長け、魔物使役を得意とするその実力はAランク相当のハンターに匹敵する。
 主人公が護衛につくクアドの商団を潰そうとするも失敗、逆に使役する魔物を皆殺しにされた。
 オーラン男爵に辿り着いたあとも協力的であったため、最後は痛みのないあっさりとした死に方をし、仲間と称した魔物と、そして子供だろうと思われる遺骨と一緒に高台の土地で眠っている。


 ・ナムクリッド・オーラン
 オーラン家の長男。
 色濃く当主である父親の性格を継いでいるため傲慢不遜。
 どのような理由があったとしても貴族である父親でありオーラン家が正しいと思い込んでおり、主人公を悪と断定したことで逆鱗に触れる。
 身体を真っ二つにされただけなので、死に方としてはかなり楽な部類。


 ・アルス・オーラン
 オーラン家の次男。
 主人公が対話をした中では唯一常識的な思考の持ち主で、家に仕える者達からの信頼も厚い。
 主人公との交渉、譲歩により、父親を切り捨てでもオーラン家を守ることを選んだ。
 内心ではこの機会を幸運と捉えるほど冷酷な一面も存在するが、まだそのような姿をはっきりと表には出していない。
 当主として、ドミアを含む領内の改革を行なっている真っ最中。


 ・ユース・オーラン
 オーラン家の三男。
 長男と同様、父親の性格に強く影響されており、家族以外を家畜程度にしか捉えていなかった。
 当時13歳という年齢から主人公に見逃され、説教されただけで生き延びる。
 反省しているのか、していないのか。
 今後も生き延びられるかは、監督者となった次男アルス次第。                





【ジュロイ王国】


 〇ジュロイ王国-カルージュ


 ・レイムハルト辺境伯

 ラグリース王国-オーバル領と隣接する、ジュロイ王国南東部に広域の領地を持つ大貴族。
 楽に甘い汁が吸えるという当時の部下の誘いに乗っかり、オーバル領の土地の一部や金、それに早々降伏したオーバル侯爵の私財まで丸ごと奪おうとしていた。
 しかし主人公が介入したことで全ての計画が失敗に。
 8000人の兵が目の前で皆殺しにされてからは悟ったように大人しく言うことを聞いていたため、他と比べればまだ楽な死を遂げている。


 ・オーバル侯爵
 ラグリース南西部に広い領土を持つ大貴族。
 貴族としての特権は十分に得ておきながら、担うべき責務を果たすことなく領民を捨てて亡命。
 そこでも強い権利を主張した上、いざラグリースが勝ったとなれば本気で国へ帰れると思っていた救いようのない人物。
 最後まで反省も謝罪もなかったため、家族含めてゆっくりと捩じ切られるという、拷問のような苦しみを味わいながら死亡しているが、実際に一番苦しい思いをしたのは横にいた妻である。


 ・タナート
 オーバル侯爵の甥にあたり、オーバル侯爵の代理として出兵の総指揮を取らされた人物。
 誰もが向かう先は死地であると理解していたが、それでも国を、町を、家族を守るためにと周囲を鼓舞して戦地である王都へ向かい、そして勝戦後に人の死体しかない町を見て深い悲しみと絶望に暮れていた。
 そのため、オーバル家の捩じ切れた死体を見た時、誰よりも喜んでいたのは身内であるこの男だったが、その気持ちが分かるだけに否定する者は誰もいなかった。
 その後は主人公が裏で手を回したこともあって叙爵。
 広域だった領地の一部ではあるが、男爵として領地運営をしながら復興作業に取り組んでいる。


 ・ロイエン子爵
 オーバル領虐殺事件の元凶とも言える人物。
 失敗したのは介入した主人公のせいだと深く恨むも、全てが明るみに出た際は高を括り、できる限り楽な死を迎えるために王や主人公を挑発していた。
 しかしその考えを主人公に見透かされて、逆の生き地獄に。
 眠ることも許されず、延命のための食事を強制的に摂らされながら、殴られ、刺され、潰され、削がれ、抉られる日々。
 執拗に主人公が回復しに来るため、その生活は各町を転々とした後も一月以上続き、ある時糞尿に顔を埋めて窒息死している姿を発見された時は人なのか疑わしい状態にまでなっていた。
 が、その亡骸さえも虫に食われ、干からびて骨になるまで放置され続けたという。


 ・アロンド王
 ジュロイ王国の国王。
 悪ではないが善良でもないという、ある意味一般的な王であり、そのバランスを取るのが非常に上手い人物。
 そのため主人公の制裁も正直にあるべきことを伝え、自身の命を天秤に掛けたことで躱すことに成功した。
 また戦力として抱えている面は強いが、異世界人ルッソとの関係は非常に良好であり、大陸中央の覇権が難しいと理解してからは西の進軍に備え、無理のない範囲で自国戦力の増強に励んでいる。
 実子に国を継がせるか、それともルッソを国の王にしてしまうか、密かに悩んでいるが誰にも打ち明けられていない。


 ・ルッソ
 自身をシングルチーターと呼び、憧れから【刀術】だけを選択した異世界人。
 生まれた地に刀がないという致命的な問題から奴隷としての苦しい生活を余儀なくされていたところ、異世界人の発掘目的で動いていたジュロイ王国に拾われる。
 とは言っても生活は強く拘束されたものではなく、ラグリースの戦争が始まる前までは《デボアの大穴》で蟻を相手に修行をしていたこともあったりと、本人はかつてと比較して異世界生活を謳歌している様子。
 次は主人公の国にあるという、噂の巨大商店で買い物をしようと画策しているが……


 ・アウレーゼ
 通称"ボスハンター"と呼ばれる、各地の狩場に出没するボスだけを追いかけるSランクハンターの一人。
 と言ってもその目的は様々で、アウレーゼは主にレイド戦の高揚感と、得られる希少素材から生み出された特殊武具に対しての興味が強い。
 一応ジュロイ王国に雇われる形で、討伐隊の運営や商会を通した素材の提供を行なっている。
 興味の対象が被り、また利害も一致することから、主人公とは持ちつ持たれつの協力関係に。
 統率力に優れた筋肉質の大柄な女性で、ほとんど身体を守れていない防具を身に着けていることから、主人公の中では密かにアマゾネスさんと呼ばれている。


 ・リューク
 ジュロイ王国西部 《嘆きの聖堂》を主戦場とするAランクハンター。
 アウレーゼと違ってリュークは常駐しており、黄金蟻を求めてマルタに遠征していた時は、リュークがこの場に残って代理で討伐部隊の管理をしていた。
 主人公は既に顔見知りなので問題ないが、唐突に現れた新米ハンターが溜めた骨を荒らしたりしないか。
 監視と勧誘の役割を果たしているリュークもまた、実は裏で国と契約している雇われハンターだったりする。





【エルグラント王国】

 ・レグナート
 エルグラント王国の諜報部に所属する元Sランクハンター。
 異世界人疑惑が浮上していた主人公を追い続け、そして陰で主人公に振り回されていた人物。
 その足取りはフレイビルの竜葬山地から始まり、オルトラン、旧ヴァルツ領と国を跨ぐ往来を数度繰り返していたが、最終的には『種火』が必ず必要になるであろうと、旧ヴァルツ領のBランク狩場《エントニア火岩洞》で網を張っていた。
 頭一つ抜きん出た強さからすぐに有名人となり、レイド戦にまでちゃっかり参加していたが、その事実までは国に報告していない。



【ヴェルフレア帝国】

 ・キンセ・ドルーチェ
 ラグリース王国内で旧ヴァルツ軍の残党狩りをしていた少女。
 目的は情報収集で、国からの命令により新たな異世界人のスキル構成や戦力を調査していた。
 立場は15番隊隊長であり、旧ヴァルツ国内で12位の傭兵をあっさり潰しているが、それ以外の詳細は不明。



【ファンメル教皇国】

 ・ルクレール司教
 枢機卿の一人であり、教会の新設や神具の運搬などに対して強い権限を持つ人物。
 それ以外は不明。
473話 各国の動き

 大陸北西の大国――、エルグラント王国。

 その地の中心であり象徴とも言える王城の一室で、王を含む重鎮達の他、戦場から戻ってきた高官も加わる会議が開かれていた。

 中心となるのは、前線で指揮を執るこの男。


「王太子殿下、こちらが協定の書面でございます」

「……よし、水の都ハーディアとウドラ三国連合は共闘の約束を取り付けられたんだね」

「はっ、手前のトワン共和国が呑み込まれた場合という条件付きではありますが、都合良く帝国の蛮族共をその地に誘導できれば西、北、東からの包囲網により帝国を一気に抑え込むこともできましょう」

「できればトワンが潰れる前に参戦してほしいところだけどしょうがないか……アイオネストはどうなっている?」

「申し訳ありません。アイオネスト王国はまだ返答を渋っているようで、交渉は難航していると魔鳥からの報告が届いております」

「あそこが同盟を結んでくれれば、エルフもうちに付いてくれる可能性が出てくるんだけどね」

「仕方ありますまい、殿下」

「ナーク卿……」

「距離がある上に亜人も多く住まう国。所詮は人間同士の争いと、未だ他人事のように冷ややかな視線でこの戦を見ていることでしょう。あの者らは、目前まで己の危機が迫らねば分からんのです。かつて多くの亜人を呑み込んだプリムス大戦の時のように」

「そうであっても、根気良く交渉を続けていくしかないさ。既に多くの国が帝国に呑み込まれたという事実は、向こうだって把握しているんだろうから」

「承知しました。ならば難攻不落のファンメル教皇国含め、継続的に外交を進めて――」

「レグナート特使! 戻られました!」


 唐突に兵の声が室内に響き、革鎧を身に纏った一人の男が部屋に入ってくる。

 この時、書簡を持たせた王太子――勇者タクヤは当然として、この場に集まる多くの重鎮達がレグナートの追っていた人物を把握していたため、その一挙手一投足を見守るように場が静まり返った。

 そのような中で、レグナートはこの国の頂点。

 静かに事態を見守っていた国王の前で膝を突くと、聞いただけで身が竦む、低くもはっきりとした声が部屋の中に響いた。


「よくぞ戻った。早速報告を聞かせてもらおうか」

「はっ! 長く後を追っていた接触対象――、現アースガルド国王『ロキ』との接触に成功しましたことを、まずはご報告致します」


 その瞬間、僅かに沸き立つ場。

 しかし報告を促した男は表情一つ変えず、沈黙を以て言葉の続きを促す。


「新たに王太子殿下から拝命しました同盟国としての引き入れですが、誠に申し訳ありません。ロキ王からは希望に添えられないと、断りを入れられました」

「それは、検討の余地なく、ということか?」


 広い室内に響く、重い声。

 再度ザワついた声はピタリと止む。


「はっ。時間を置いても考えは変わらないと、そのように……」

「獣人の王ハンスと似たような台詞か。やはり、そう上手くはいかぬものだな。特に【空間魔法】持ちは」


 溜息交じりに視線を向けた先には、息子である勇者タクヤが腕を組みながら眉間に深い皺を寄せ、落胆した表情を見せていた。


「レグナート、彼は――ロキはなんと言っていた? 断るにしても理由があったはずだし、その内容によってはまだ同盟を結べる可能性だってあると思うんだけど」

「ロキ王は同盟を組む利点がないと。しかし、だからと言って敵対などということもないと告げられました」

「つまり、静観ということか……」


 この時、勇者タクヤは僅かに自身の顔が歪んだことを自覚した。

 一部には異世界人同士の消耗を望む者達がいることも把握していたからだ。

 お互いが消耗し、片方が消える。

 人の不幸を嘲笑うかのように、その時を待つ者達にロキも含まれているのではないかと、そう勘繰りもしたが……


「ただ、こうも言われました」

「?」

「まだ外に目を向けるには早過ぎるというだけで、許容を超えた『悪』であれば勝手に動く――、つまりは帝国に与するどころか、敵対する可能性もあると」

「ほう?」

「『悪』……?」

「はっ、そこに国も背景も関係ないため、初めからどこの国とも組まないのだと、そう告げられました」


 ここまで聞き、勇者タクヤはその意味を理解して肩を強張らせる。

 決して静観などではない。

 むしろ正反対……

 必要があれば全方位への攻撃を示唆する言葉に驚愕し、直後にはかつて届いたラグリース王国からの手紙を思い出す。


「そういえば、地図を悪用したら国の中枢を吹き飛ばすと……父上、内容はそのように書かれておりましたよね?」

「うむ、なるほどな……だからどことも同盟を組まない。いつでも攻撃を加えられるように、か……ふははは、これはまた厄介者が……レグナート!」

「は、はっ!」

「おまえの目から見て、第五の異世界人ロキとやらはどうだったのだ?」


 酷く抽象的な質問。

 だが、レグナートは王が何を求めているのかすぐに察して答えた。

 あの時の恐怖を思い出すように。


「一見すれば王という立場などまったく感じさせない、人当たりの良い子供ですが……同盟の利点を示す中で、こちらがアースガルドへ攻め入る可能性に触れてしまった時、あの王は本気で我が国への報復を示唆しました」

「「……」」

「その時の表情を思い返すと……あれは――、誇張や虚勢でもなく、本気でできると思っており、何があっても実行に移すであろう目をしておりました」

「ッ……!」

「そ、それと……」

「怯むな、レグナート。ここでの遠慮がエルグラント王国の今後に大きな影響を及ぼす可能性もあるのだ。おまえの感じたことをそのままに申してみよ」

「はっ……、今後の共闘を見据え、最後に私は、数多の異世界人を抱える帝国が怖くないのか? と、そう問うたのです」

「……して、その答えは?」

「言葉はなく、恐怖を感じている様子もなく、ただ、嗤っていました」

「「……」」


 これが武芸に疎い文官の言葉であれば、全てを鵜呑みにするようなこともなかっただろう。

 しかしレグナートはSランクのハンター資格も有する諜報員。

 その者が思い返しただけで憔悴したような表情を見せるほどの相手とは、いったいどれほどのものなのか。

 大半が想像すらできずにいる中で、王と勇者タクヤは思考に耽る。


 ――如何に、この爆弾のような男と敵対しないように立ち回れるか。

 ――如何に、この危険極まりない存在を帝国にぶつけるか。


 考えている中身がお互いに大きく異なることを知ったのは、もう少し先の話になる。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 大陸南西の大国――、ヴェルフレア帝国。

 時期は異なるが、似たような会議は帝国城内でも行われていた。


「……ってなわけでしたけど、どうします~?」

「どういうことよ? 『覇者』はこの世界にただ一人って女神から聞いてたんだけど」


 玉座で胡坐を掻き、頬杖を突いた男。

 その男は不愉快そうな顔を隠しもせず、報告に訪れた少女を見下ろす。


「ん~そんなの私に聞かれたって分かりませんよぉ~。捕まえた連中の話を聞いてたら、なーんか特殊っぽい感じが似てるなって思っただけで、実際は基礎魔法の応用次第で可能な現象なのかもしれませんし~」

「はぁ、まあいいや。サーシャ、相当数の雑魚を取り零すような相手だし、おまえなら多少不測の事態があったところで勝てるでしょ?」

「……逃がしたのか、逃げられたのかで、まったく内容は異なると思いますが」

「どっちだっていいから、うちに付くか早めに確認してきてくれない? 反応が渋いならそのまま潰してきちゃっていいからさ」 

「同意し兼ねます。以前同じようなノリでハンス氏に喧嘩を売り、手痛い程度では済まない損害を被ったのはお忘れですか?」

「いや、覚えてるけど。何、そんなに危ないと思う?」

「当然でしょう。出来立ての小国とは言え、一国のランカー傭兵を丸ごと相手取っているような相手なのですから」

「そんなの俺でもできるし、サーシャだってやろうと思えばできるだろ?」


 この言葉を受け、女性は手をこめかみに当てながら、わざとらしく聞こえるように溜め息を吐いた。


「はぁ……私にもできたとして、だから私の方が強いという証明にはならないでしょう? それに相手はまず間違いなく【空間魔法】持ちですよ?」

「ったく、問題はそこなんだよなぁ。まぁだから向こうに取られるくらいならこっちに加えるか、先に潰しておきたいって話なんだけど」

「……ただエルグラントに付くことはありませんよ。少なくともこのタイミングでは」

「なんでよ?」

「先日知らせの手紙が届いていたでしょう? まさか、目を通されていないんですか?」


 サーシャと呼ばれた女性の冷ややかな視線。

 慌てて玉座で胡坐を掻く男は答える。


「あー見た見た、見たって。中央のショボい国が属国になりましたとか、そんなどうでもいい報告寄越してきたやつだろ?」

「そこではありませんが、それです。地図を悪用すれば中枢を吹っ飛ばす――つまりどこにでも攻撃を加える可能性を示唆しているのですから、今回知らせを寄越したラグリース王国のように、属国として手中にでも収めるようなやり方しか取らないのだろうと推察できます」

「はっはー新たな国盗りゲームの参戦者か! って、それならやっぱ早いとこ潰した方が良くねーか? あ、なんなら俺が直接行っちまうか!」

「またそんなことを……」

「はーい! はいはい、はーい!」


 そこで勢いよく手を挙げたのは、報告に訪れていた先ほどの少女。

 意見があると言わんばかりに言葉を続ける。


「なら、あたしが下調べに潜入捜査なんてどうです~? こないだ行ってきたばかりなんで多少土地鑑はありますし、ベザートだかって町の場所もいくつか情報は拾えてますし~♪」

「おっ、じゃあドルーチェも一緒に――」

「ダメです」

「「え」」


 しかし、ピシャリと会話を切ったのは、横に立つサーシャという女性。


「ドルーチェ、あなたのスキルはそう簡単に替えが利かないのです。失うリスクを考えれば、そこまで対象の近くに向かうことは許されません。それに――」


 空気に重さがあると錯覚してしまうほどの重圧。

 向けられた眼差しは、玉座で胡坐を掻く男よりも冷たかった。


「あなた、すぐに|遊《・》|ぶ《・》でしょう? そのようなくだらない切っ掛けで新たな敵を作るなど、現状まったく得策ではありません。エルグラントが恥を捨ててでも近隣国に協力を仰ぎ始めたおかげで、少しずつ連動した動きも見られるようになってきているのですから」

「……だってよ」

「そんなぁ~」


 ここぞとばかりに功績を求めた少女は消沈するも――。


「しょうがねーなぁ。ほら、今回の褒美にシトリア海岸の土地を少しやっからさ。プライベートビーチに海岸から見える無人島付きだ。あの辺りは人も店も残してあるから楽しんでこいよ」

「きゃ~! さっすがシヴァ様、分かってるぅ~♪」

「はぁ~……………このような戦時の只中でバカンスにでも行こうものなら、あなたの居場所は一切なくなりますからね? 行くならせめて勇者タクヤを――エルグラント王国を片付けてからにしなさい」

「「「……」」」


 静まり返る場。

 このやり取りを、本来玉座に座すべき一人の男も黙って聞いていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 某所にて。


「マリー様、先ほどフレイビル王国から通信魔道具による知らせが……」

「……」

「ロズベリアのレサ奴隷商館が襲撃されたとのことです。ハンターギルドが介入しているようで、奴隷の多くは既に解放されたと」

「クロイスがいて? 幹部連中と、アトスターク侯爵は?」

「死体が見当たらないため、幹部の消息は不明。しかし侯爵は屋敷が丸ごとなくなっているということですから、もう、恐らくは……裏鉱山がどうなっているかはすぐに調査させております」

「……侯爵まで標的にされたってことは、奴隷解放だけが目的ということでもない。既に裏鉱山も手を回された後だろうね」

「また、第五の異世界人ですか」

「ハンスが他所の面倒事に首を突っ込むわけがないんだから、それしか考えられないだろう。ふふっ、それにしてもあの屋敷まで丸ごと掻っ攫うとは、いよいよ遠慮がなくなってきたねぇ」

「良い加減、そろそろ潰しに掛かりますか?」


 また一つ、計画がすんでのところで綺麗に潰されたのだ。

 掛けた時間、投資した金額を考えれば、今回ではなくヴァルツの策が頓挫した時点で行動に移してもおかしくないほどの損害だった。

 しかし――。


「本当におまえは顔と身体だけだね、シェム。未だに小僧の寝床は割れていないんだろう?」

「それは……はい」

「もし真正面から仕掛けて取り逃がしでもしたら、そこからは待ったなしの本格的な潰し合いの開始だ。そうなれば当然相手も全てを失うけど、それ以上にこっちも戦力を削ぎ落とされて大損害を被る。そうなった時に喜ぶのは誰だい」

「戦うしか能のない、西の連中と、それに獣人の王、ですね……」

「ハンスんとこも然り、【空間魔法】持ちの戦いっていうのはそういうもんさ。親玉を確実に潰せる絶好の機会でも掴むか、全てをなげうつ覚悟を持つか。どちらも難しいうちはその好機を掴むための土台でも作っておくしかない」

「承知しました。では早速」

「ああ、要の部分にはまだ気付いちゃいないだろうけど、それでも西の阿呆共と違って最低限の知恵は回りそうな相手だ。偽装と本命、両方混ぜて潜らせときな」
474話 自由都市ネラスへ

 時刻は昼時。

 この時間なら大概のお店は開いているだろうし、お財布の中身だってロズベリアの悪党共を叩いたおかげで、総額表示が1700億ビーケを超えているのだから潤沢も潤沢。

 面子は最近ガルガルと噛みつき合っているリステとフェリンだが、今日は二人とも凄く機嫌が良さそうなのでここも問題無しだろう。


「おっしゃ! 行こうか!」

「はーい!」

「行きましょう。この街にお店があるはずですから」


 そう言って俺達3人は、各国の王都でもまず見ない高さの建物から細い裏路地に向けてヒョイッと飛び降りる。

 場所は『自由都市ネラス』。

 上空から見ると端から端まで視界に収められるので、ラグリースの王都と比べればまだ規模は小さい。

 しかし密度がまるで違う。

 限られた土地を奪い合うように、所狭しと高さのある建物が立ち並ぶ様はこの世界の大都市を彷彿とさせ、今まで訪れた国と比べても、この一帯だけ文明度合いが1段か2段は高いようにも感じられた。

 こんなのワクワクしない方が嘘であるが、今回の目的はあくまで服屋。

 これほど大きく密集した街をくまなく探索しようと思えば、どれほど時間が掛かるか分からないのだから、リステが以前言っていた通り、気晴らしも兼ねて少しずつこの街は楽しんでいこうと思う。

 ここで多くの時間を費やしても、根本的な強さには直結しにくいだろうしね。


「ねぇリステ、どこら辺に目的のお店があるかは分かってるの?」


 今回の情報元はリステということもあって聞いてみたが。


「いえ、分かっているのは出所がこの都市のどこかであることと、表立って売ってはいないということまでですね」

「ん? つまり看板を出していないってこと?」

「そういうことかと。非合法な物を取り扱う"闇店"ということでもないでしょうし、不思議ではありますが」

「ん~……」


 ――【広域探査】――『服屋』


 一応確認してみるも、数えきれないほどの反応を拾ってしまうため、このやり方で探すのは現実的じゃない。

 だが、たぶん俺の予想が当たりなら、コッチであれば反応を拾える可能性は高いはずだ。


「フェリンとリステって【広域探査】のレベルいくつ?」

「私は『9』ですね」

「あ、私『10』だよー」

「おぉ、それじゃフェリンは【広域探査】担当、リステは【魂環魔法】ってヤツをお願いしてもいい?」

「いいけど、何調べるの? お店?」

「いや、【広域探査】で『異世界人』を探してほしいんだよね。俺のレベルじゃ予想が当たったとしても弾かれそうだからさ」

「え?」

「なるほど。作っている者を直接見つけるわけですか」

「そそ、俺の想像する衣類をこの世界で作っているってことは異世界人の可能性が高そうだし、表立って店を開いていないってことはデザインしている人が少量を個人的に売っているってことじゃない? それに看板を掲げていないのは、拉致を警戒しての防犯対策っぽい気がするし」

「了解! それじゃ私は異世界人を探してみるね!」

「私はそれらしい衣類を身に纏った者がいたら、入手経路の確認ですか?」

「んだね。あとは当人っぽい人を仮に見つけたとしても、いきなり訪ねたんじゃ素性を隠す可能性があるから、一応その確認もかな」

「分かりました」

「俺は――、うん。とりあえず仮面をどっかで買ってくるわ。二人とも目立ち過ぎてこのままじゃ趣旨が変わりそうだし」


 細い裏路地に降りたというのに、もう数人が興味深げな視線をこちらに向けているのだ。

 このままいくと、またそのうちアホに絡まれて死体が積み上がる。

 今日はフェリンの癒しも兼ねているというのにそんな気がしてしまい、それぞれが人を撒くように一度この場を離れ、改めて俺が仮面を用意したタイミングで合流した。


 そしてより高く、より豪奢な建物が集まった中心地に向かっていくも――、


「二人とも、首痛くならない?」

「そう言われましても、これは……」

「うんうん、そう言われましても!」


 見ているとリステは左右に、フェリンは左右とさらに上にも首をブンブンと動かしていた。

 特にリステのこんな姿は珍しいような気もするけど、ここは商人の聖地みたいな場所だろうしなぁ……

 今歩いているのは大通りだと思うが、道沿いに並ぶ店は見慣れぬ素材や系統のまったく違う雑貨がズラリと並び、ご飯屋もガラス越しに見える料理は見覚えのないモノが多く、漂う匂いはどれも美味そうなのだ。

 それに街を歩く人達も、今まで渡り歩いた国と違って肌の白い人達が多く混ざっており、自由都市という言葉に強く納得してしまうくらい、ここは良くも悪くも余計なルールが無いように感じられた。


(鎖で繋がれた人間や獣人が、馬車や荷車を当たり前のように引く街か……)


「ロキ君は、意外と普通なのですね」

「ね~私なんてさっきから全部気になっちゃってんだけど!」

「いやいや、そのうちじっくり見たいなとは思うよ。ただ背が高いだけの建物なら地球でこれ以上も山ほど見てるし、俺が一番気になるのはここより中に入った方だろうから」

「中?」

「武闘場とか裏オークション会場、あとは奴隷商館とかね。そういう規模の大きそうなヤツはこの手の路面店が並ぶ通りになさそうでしょ?」

「たしかにー!」

「近いうちにまた来ましょう。私もオークションはぜひ参加――……ロキ君」

「うん」


 最低限の会話。

 それだけで済むくらいに、正面から歩いてくる一人の女性は目を引く衣類を身に纏っていた。

 奇抜ということはなく、どちらかというとシンプル。

 それでいて周囲から浮くほど洗練されたように見えるその装いは、明らかに見慣れた地球寄りの服で、やはり気になるのか、多くの人達が視線を向けている。

 鼻高々といった様子で歩くその女性は、さして特別な存在にも見えないが……


「どう?」

「中心地より、だいぶ北側……地下市場、5番街、壁に描かれた、緑の花……鉄扉の先……、紹介……? 合い言葉――『ベレッツァ』」

「北側の地下市場か……フェリン、この位置じゃ何も反応拾えないんだよね?」

「うん、全然だね」

「オッケー、それじゃ一旦お昼ご飯食べたら反対側に向かってみようか」


 果たしてどんな人物が待ち受けているのか。

 少しワクワクしていることを自覚しつつ、フェリンの嗅覚が一番の当たりと告げたお店に入っていった。
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本日書籍2巻とコミック1巻が昨日同時発売でございます。
廃人の悪い特徴が少し薄まり、もうちょっと賢くなった主人公を皆様どうぞよろしくお願いします!
ちなみに書籍3巻とコミック2巻はどうやら10月くらいらしい。
475話 隠れ潜む者

 これもきっと、土地が限られているからこその結果なんだろう。

 中心部から放射状に何本も延びた地上の大通り。

 その脇には、所々で地下鉄の入り口のように階段が設置されており、『地下5番街』という看板を目印に下ると、若干湾曲しながら延びていく1本の地下道が存在していた。

 意外にも魔道具で灯りはそれなりに確保されており、下水とは違う、臭いの無い水が深く掘られた中央の溝を流れていたりはするものの、両側は3人並んで歩いても余裕があるくらいには十分な道幅が。

 そして両脇には寂れた商店街のように、ポツポツと小規模なお店が地下で営業をしていた。


「お~往来している人達は案外普通に見えるけど、ちょっと怪しい雰囲気が出てきたね」

「ねっ! 売ってるモノが上よりもさらにゴチャゴチャしてるし」

「流れてきた盗品を売っている者もチラホラといますね」

「あ~地下ってそんなイメージあるわ」


 話しながらも、俺達はフェリンの先導で移動を続ける。

 既に『異世界人』の反応を掴んでいるようで、その動きに迷いはなく奥へ奥へと。

 そして、


「あ、あれが緑の花じゃない?」


 壁というよりは、天井の壁面に描かれた緑色の花の絵。

 そしてすぐ近くには、分厚そうな鉄の扉が存在していた。

 この地下が居住区にもなっているのか、このような鉄扉は道中でいくつも見かけているが……


【探査】――『異世界人』――


 扉の奥から1つ、反応を拾えるのだ。

 どうやらここで間違いないらしい。

 3人で頷き合い、代表して俺が鉄扉の前に立つ。


 コンコンコン――。


 そしてノックをすると、目線の位置にあった開閉可能な覗き窓が少し開いた。

 小さな鉄柵の先に見える顔の雰囲気からすると、相手は女性か。


「……」

「……」

「合い言葉は?」

「ベレッツァ」

「そう……誰からの紹介?」

「……」


 んん??

 待て待て、そんな話は聞いていないんだが?

 いや、リステは『紹介』という言葉も呟いていたけど、まさかここで紹介者の名前まで出せとか、そんな変化球を投げてこないでよ。

 困って少し離れた位置から見守るリステに視線を向けるも、力なく首を横に振ってるし……

 これはもう、正直に伝えるしかないな。


「すみません。紹介者の名前は聞いていないのですが、こちらで服を作ってくれると聞きまして」

「……それじゃあ、少し待っててもらえる?」


 小窓が閉じ、遮られる視界。

 と同時に、扉の奥から僅かに走る音が聞こえ、次第に遠退いていくのが聞こえた。


 ――【気配察知】――


「………………」


 おいおい、マジか。

 どんどん離れていく気配は、すぐに有効範囲である50メートルも超えていく。

 これは――たぶん、逃げたんだろうな。

 範囲の広い【探査】で確認しても対象が離れていくので、どこかに通じる出口でも別にあるのだろう。


「はぁ……逃げたっぽいから、ちょっと追ってくる。先に帰ってていいよ」

「「え?」」


 ここまで警戒しないと、戦闘特化型ではない異世界人は暮らすこともできないのか?

 そのことを不憫に思いながら、先ほど覗き穴から見えた室内の光景を目印に部屋の中へ転移。

 自室も兼ねた、薄暗い作業部屋を一瞥してから、全力で彼女の後を追った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「とりあえず落ち着いてください。危害を加えるつもりはありませんから」

「いや! やめて! 触らないでよ!」


 真っ暗闇の地下道。

 構造的には先ほどの入り口より1つ外側を回る地下道へ抜けるための隠し通路だったんだろう。

 細い道の途中で、その女性は光源魔道具を地面に放り投げたまま、身体を守るように蹲っていた。

 落ち着かせようと思って肩に触れたが、今は何をやってもダメらしい。


「えっと、あなたが異世界人なのはもう理解しています」

「……」

「ただあなたを利用しようとか、どこかに攫おうとか、そんな気はまったくなくて、自分の服を作ってもらいたかっただけなんです」

「そんなの、信じられるわけないじゃない……」

「え?」

「心から信用のできる女性になら教えてもいい。それがうちのルールだったのに、なぜ男のあなたが紹介者の名前も分からずに、合い言葉を知ってここまで辿り着いたの?」

「……」

「そりゃ答えられないわよね……どうせ脅して、乱暴して、強引に聞き出したんでしょ!? また私を利用するために!!」


 あぁ、この人もか……

 過去に何かがあったことを推察させる、強い恐怖と憎しみの籠った瞳。

 それは違う、誤解だと否定したいし、食い物にするつもりなんてサラサラないけど、ここで正直にリステの行ったことを伝えていいものなのか。

 記憶を読み取るという、自分自身ではまだできない芸当でここまで辿り着いたからこそ答えに詰まってしまう。


「……誓って無理やり聞き出したなんてことはありませんけど、自分の手の内を明かす気はないので、どうやって合い言葉を知ったかは触れないでおきます。ただあなたが嫌がることをするつもりはありませんよ、僕も同じ異世界人ですから」

「ッ……!?」

「それに、今までにも幼少期から奴隷にされた異世界人を見てきました。現状に不満を感じ、抜け出したいと思うなら、その手助けをしたいとも思っています。もちろん無理強いするつもりはありませんけどね」

「同じ異世界人だから大丈夫なんて、そんな保証どこにもないでしょ……」

「それはごもっとも。実際なんでも利用しようとする悪いヤツだっています。なので、そうですね―――、本来は依頼するといくらお金が掛かるんですか?」

「え?」

「服ですよ、服。勝手が分からないので素材もそちらでお願いするとして、全身をカッコよくコーディネートしてもらうのにいくらくらい必要なのか、余裕をもった金額を教えてもらえれば今お支払いしますよ」

「そ、そんなの、全身なんていったら20万、30万ビーケくらいは当たり前に……」


 強い違和感。

 この感覚が正しいのかは分からないけど、俺はソッと拳ほどの大きさがある硬貨を1枚差し出しながら女性を眺める。


「なに、これ」

「白王金貨と言います。1枚で価値は1000万ビーケあるので、これくらいあれば素材もある程度自由に選べるんじゃないですか?」

「は……? こっ、こんな大金……私がこのお金持って逃げたら、あんたどうするつもりなのよ!?」

「正直、この程度の金額であればどうもしませんよ。ただ二度とあなたを救い出そうとは思わないでしょうけど」

「……」


 決してお金のためにここを訪れたわけじゃない。

 その気持ちが少しは伝わったのか、幾分冷静さを取り戻したようにも見える女性に確認の言葉を投げ掛ける。


「あなた、かなり奴隷というか、誰かに利用されていた期間が長かったんじゃないですか?」

「……28年間、奴隷だったわ。たぶん3歳の時から、ずっと地下に閉じ込められていた」

「3歳から……だから価値観がズレているというか、想像以上に良心的な値段で商売されていたわけですか」

「……え?」

「新品となれば、今僕が着ている庶民的な服でも上下で20万ビーケ以上はします。となればこの世界で革新的とも言えるデザインの服が似たような価値なんてことはさすがにないでしょう? 手前の部屋に積まれていた素材を見ても、粗悪品だけ選んで使っているという感じはまったくしませんでしたし」

「……」

「でもあなたは、ここまで警戒して、逃げられるように対策も取って、それでも地球の知識を活かした服作りをやめられなかった。リスクが高いことぐらいご自身でも分かっていたでしょう?」

「だって、しょうがないじゃない……自分のデザインした服を喜んでくれてる人達がいて、次を期待してくれる人達もいて、それが私の夢だったんだもの……そんなの、やめられるわけないわよ……」


 金儲けのためではなく、誰かが喜んでくれるためか。

 こうなると余計に応援したくもなるが、しかし結局は本人の気持ち次第。

 望まれもしないのに無理やり保護しようとするほど、仏のような思考は持ち合わせていない。


「まぁ服を作ってほしくて訪ねたのは事実ですから、依頼は正式にさせてもらいます。その上で今のリスクある環境から抜け出し、もっと幅広い層にあなたの服を着てほしいという思いがあるなら言ってください。その時は僕なりに協力しますので」

「協力って……何をするつもりなのよ?」

「ん~あなたが何を最優先したいかにもよりますけど、適した場所に案内しますよ。うちならある程度の望みは叶うと思いますから」

「うち……? っていうか、今更だけど、あんた何者なの?」


 そう問われ、ほんと今更だなと思いながらも自己紹介をする。


「僕はロキ、元日本人で、今はアースガルドという国の王をやっています」
476話 ノアという女性

 身の安全、潤沢な素材を活用した服の製作、今までできなかった自由な暮らし。

 いくつか思い浮かぶ中で、ノアと名乗った彼女が一番に望んだのは、自分のデザインした服を多くの人達が着ている――、その姿を眺めることだった。

 こういう思考はよく分からないが、それが一番ということであれば行先は決まっている。


「ここがベザートという町になります。家はまだこの建物の部屋がかなり余ってるので、そこの一室を自由に使ってください。お金が貯まったら自分で家を建てるなり、好きにしてもらってかまいませんから」

「……」


 だいぶ混乱しているようだけど、とりあえず黙ってついてきてくれているならそれでいい。

クアド商会の横に設置した、少し古めかしい雰囲気の漂う木造家屋。

 元々は使用人用の住まいだったと思われるそれは、完全に部屋の区切られた集合住宅になっており、誰も人の住んでいる気配がないならいいよねと、ついでに侯爵家から持って帰ってきていたのだ。

 地図の複製作業で在宅勤務をしていた人達の仕事場として、あとは商会で働くみんなの寮や休憩所にでもなればいい。

 その程度の用途しかなかったので、空き部屋に収納していたノアさんの私物を放出し、仕事道具や衣類の素材は置き場に困って隣の部屋に置いておく。

 貴族家の所有物だけあって作りはしっかりしていそうだし、案外この建物は今後も役に立ってくれそうな気がする。


「さ、さっきから、いきなり場所が変わったり、モノが突然現れたり……いったい何が起きてるの……?」

「ここまで移動してきたのも荷物を別の空間にしまっていたのも、どちらも【空間魔法】ってやつなんで、あまり気にしない方がいいですよ」

「あーそういうこと。こんな映画の中にしか出てこないようなスキルを願った異世界人が、自由に外を歩けるわけか」

「それはまったく否定できないところですね」


 言いながら、改めてノアさんのスキルを【心眼】で見通す。


「でも【裁縫】【細工】【加工】がレベル10のトリプルチーターも相当凄いと思いますよ。それに良いか悪いかは別として、ノアさんは幼少の頃からずっとその腕を磨き続けているわけですし」

「トリプルチーター……確かに3つだね。戦闘の役にはまったく立たなかったけど」


 それは3つともボーナス補正が『技術』だから。

 狙った所に当てる、逸らす、ぶつけるといったテクニックの面で影響はあるにしても、筋力や防御力と違って数値が上昇したことによる恩恵は体感しにくい。

 その代わり、本業の服飾ではかなりの効果を発揮していたはずだが。


「まぁこれからは戦闘なんて考える必要ありませんよ。そのために少しテコ入れしますから、僕についてきてください」


 そう伝え、荷物を置いた後に向かった先は町の中にある教会。

 移動しながらノアさんの職業が<服飾師>であることや、魔物の討伐経験はないこと。

 それに祈祷によるスキル取得やレベル上昇の経験がないことも確認し、状況を理解した上でいつか異世界人を保護した時用に考えていた手順を踏んでいく。


「トレイルさん、この女性に職業選択をお願いしたいんですけど、今日はいけます?」

「おやロキ王、まだ大丈夫ですよ」

「それじゃあお願いします。僕も横で聞いてますんで」

「「え?」」


 二人とも驚いているけど、いちいちこんなところで解説していたら終わらないからな。

 それこそ王様特権発動で真横に居座り、狙っている職業の一つが出たところでトレイルさんのお告げを止める。

 よしよし、技術値が高いおかげか、無事候補に挙がってくれて助かったな。


「ノアさん、職業は中級職の<|襲撃者《レイダー》>にしてください」

「はぁ? せっかく<上級服飾師>もあったのに、なんで私がそんなわけの分からない職業に就かなきゃいけないのよ!?」

「まぁまぁ、細かいことは後で説明しますので、とりあえず言う通りにしておいてください。終わったらすぐに移動しますからね」

「え? どこに?」

「クオイツです。今から竜を倒しに行きますよ」

「……あんた、頭のネジぶっ飛んでるって言われない?」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 約4時間後。

 ニューハンファレスト内のレストランでガツガツ飯を食っている女性がいた。

 そう、狩場から帰還して急激にバージョンアップしたノアさんである。

 最初は散々振り回したせいで不貞腐れていたが、戦利品の竜の肉で作ってもらったステーキにやられたらしい。


「こ、こんな美味しいお肉、食べたこと、ないわよ、ほんとに」

「竜のお肉って言ったら高いけど絶品で有名ですし、作っている人の腕がいいですからね。あ、ちなみに若返りのお肉とも呼ばれてるみたいですよ」

「マジ?」

「マジです」

「それじゃいっぱい服作って、毎日食べられるようにならないと!」

「ふふ、そうですね。これでノアさんが異世界人と断定されることはなくなりましたし、存分にこの世界の生活を楽しみながら、好きなだけ服作りに没頭しちゃってくださいよ。ここからノアさんの作る服が広がっていくことを楽しみにしていますので」

「まさか私が【隠蔽】までレベル10になるなんてねぇ……」

「Aランク狩場だと、祈祷を使ってもレベル9までしか引き上げられないですからね。シーフ系の職業加護で得られる【隠蔽】ボーナスはレベル10にもっていくなら必要ですけど、そのうちSランク狩場を見つけたらそのボーナスにも頼らなくて済むようになるはずですから」

「そうしたら職業を<上級服飾師>にして、さっき言ってた【転換】っていうスキルで他のスキルを上げていくんでしょ?」

「他のスキルを上げるか、【転換】をさらに上げて効率を伸ばすか、ですね。もう【転換】もレベル2まではさっき上げましたし、あとは好きな服作りをしていたら勝手に余剰経験値が溜まっていきます。そこから何を伸ばすかはノアさんの自由ですよ」

「了解。それにしても、よくこんなややこしそうな話を把握できるわね。これもゲームに慣れてるからなの?」

「ん~それもあるでしょうし、無駄を省いて効率を考えるのが好きだからというのもあると思います」

「そう……そんな人が私のために時間を割いてくれたんだから、感謝しなくちゃね」


 そう言って食事の手を止めたノアさんは、背筋を正して俺を真っ直ぐに見つめる。


「本当にありがとう。最初はここに来ても半信半疑で、騙されてるんじゃないかって不安でいっぱいだった。けど、町の人達があんた――いえ、ロキさんに向ける視線とか、気さくに話しかけている姿を見て、大丈夫なんじゃないかって、この町なら私もやっていけるんじゃないかなって思えてきて……今となってはあの時勇気を出して良かったって、本気で思ってる」

「一度大きな傷を負うと、なかなか人を信用できなくなりますもんね。ちなみにノアさんを囲って利用していた連中はどこのどいつなんです?」


 ロッジの時と同じ。

 一応把握しておき、いつか機会があれば探ってみようか。

 その程度の軽い気持ちだったが。


「それなりの貴族だったっぽいけど……たぶん、もう無いわよ?」

「え?」

「戦争があって、私が監禁されていた屋敷も燃やされたから。それもあってあの地下から抜け出せたわけだけど、後から聞いた話じゃもうその国はなくなっちゃったみたいね」

「国がない……もしかしてノアさんは、大陸西側の出身ですか?」

「そうよ。それで戦争と追っ手から逃げるように東へ移動して、命からがらあの自由都市に辿り着いたってわけ」


 ここまでの話を聞き、なぜ奴隷であったはずの彼女が自由都市の地下にいたのか、その流れをようやく掴むことができた。

 攻め込まれた可能性が高いとなれば、帝国の攻撃が逃走劇の切っ掛けか。

 そして隠れるように、それでいて夢は諦めきれないまま、あの地下でひっそりと身を隠しながら服を作って生活していた――。

 30代半ばくらいに見えるノアさんの見た目や、西側の戦争が活発になった時期を考えれば、まだ身を隠して数年といったところ。

 元から隠れる生活が当たり前だったからなのか、最初にスキルを覗いた時点で【隠蔽】がレベル5まで上がっていたことには少し驚いたけど、それでも人によっては突破してくるわけだし、間に合って良かったな、本当に。

 そんなことを考えていたら、食事を終えたノアさんが先ほどまでとは違った顔付きでこちらを向く。


「さて、それじゃ本格的にお礼をしないとね」

「?」

「服よ。あんた、それが目的で私のところに足を運んだんでしょ」

「あ、あぁ、そうでした。素材は横の巨大商店にいろいろと置いてありますから好きに選んでもらって――、って一応確認ですけど、男の服も作れますよね?」

「え? なんでよ?」

「いや、そういえば紹介って、女性だけに限定されてたよなーと思って」

「あ~それは女性だけにしておけば貴族とか権力者とか、無理やり何かしてくるようなヤツらがだいぶ減るかなって、それだけの理由よ。レディースしか作れないわけじゃないわ」

「おぉ! それじゃあ、ぜひカッコいいやつをお願いします!」

「カッコいいって、もっと具体的に教えなさいよ」

「具体的? えーと、威厳があって強そうで、あと機能性は確保しつつも黒くてヒラヒラしてる感じ? あ、髪型が強制的にオールバック風になりそうなので、その髪型に似合う雰囲気のやつがいいです」

「………あんた、もしかしてバカなの?」

「ッ!?」


 これはビックリ。

 侮られない服を作ろうと思っているのに、案を出したら侮られるどころか可哀そうな子を見るような視線を浴びていた。


「そんなんで分かるわけないでしょ! えーと書くモノは……」

「あ、はい、どうぞ」

「準備が良いわね。ヒラヒラってロングのトレンチコートみたいことを言ってるの? それならこうして、こんな感じで……それにその幼さが残る顔で威厳って言ったらちょっと顔を隠した方がいいだろうし、今の時期ならロングストールでも巻いて、あんたの言うヒラヒラを表現してもいいんだろうけど」


 サラサラと、木板に描き起こされていくそれっぽいデザイン。

 それを見て、直感的に思う。

 これはやべぇ……よく分からないし結構毒舌だけど、この速度、この精度は間違いなく本物だ。

 今までの人生で欠片も接点の無かった本物のプロが目の前にいる。


「すごっ……あ、この辺りからベルトのようなモノでヒラヒラさせるともっと好みに寄るといいますか、僕の心が限界突破しちゃう感じがしますし、あと夏場の着用も考えるとストールよりフードを付けてしまって、怪しさも同時に醸し出してしまうという案も……」

「……一応確認しておくけど、あんた、中身いくつ?」

「……32歳、あ、もう33歳になってます」

「そう………………お互い、大変よね」

「いや、本当に」


 そう言いながらも、目の前で羽根ペンを動かすノアさんは、初めて見せる柔らかい笑みを湛えていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 自由都市ネラス、地下5番街。

 緑の花の近くにある鉄扉には、一枚の木板が立て掛けられていた。


『誠に勝手ながら、アースガルド王国に居を移すこととなりました』


 この内容を見て、プルプルと震えながら頭を抱える女性が一人。


「ノ、ノア様が転居っ!? 大変……っていうか、アースガルド王国っていったいどこなのよ……?」


 この世界では唯一無二とも言える革新的なデザイン性。

 それでいて女性のみの紹介制度という間口の狭さから、店の入り口に立つことすら困難であったため、出回る流通量は非常に少なく、真似できる<服飾師>などまともに存在していなかった。

 ここでなければ購入できない逸品。

 おまけに値段が明らかに安いとなれば熱狂的なファンと化し、ノアを教祖のように崇めるような女性達までいたわけで。


「皆に伝えなきゃ……こうなったら、そのアースガルドって国に移住も……」


 紹介だからこそ急速に広がる、転居の事実。

 自由都市ネラスの小さなネットワークが決起集会の如く賑わっていることなど、ロキとノアは知る由もなかった。
477話 もう一人

 拠点の上台地。

 向かうとまだ夕方とあってか、アリシアが一人でモコモコした暖かそうな服を作っていた。

 あれはきっと、エニーとケイラちゃんの寝間着かな。


「あれ? リステとフェリンは戻ってない?」

「まだ二人で探索しているんじゃないですか? ロキ君に置いていかれたから、別の仕事をすると言っていたので」

「え」


 置いていったとは違うと思うんだけど……

 というか、別の仕事って何してんだ?

 首を捻っているとアリシアが二人を呼んでくれたようで、目の前に青紫の渦が二つ生まれる。


「あら、こちらに戻っていたのですか」

「途中で気配が消えちゃったけど、上手くいった?」

「まさかあそこで逃げられるとは思わなくて、ごめんね。無事説得っていうか保護はできて、今はベザートの方にいるよ。服をいっぱい作るって張り切ってた」

「え? 保護……? もしや、転生者だったのですか!?」


 ガバッと立ち上がり、唐突に声を張り上げるアリシア。

 そうか、可能性が高いかなと俺が勝手に予想していただけで、アリシアは服を作りに行ったと思ってたんだもんな。


「【裁縫】【加工】【細工】の3つを与えられた女性。"自分のデザインした服を皆に着てほしい"っていうのが望みだったはずだよ」

「……覚えています、はっきりと。その女性も、やはり……?」

「うん。3歳で奴隷落ちして、そこから28年間屋敷の地下に閉じ込められていたみたい。そこまで詳しくは聞いていないけど、最低限道具を扱えるようになってからは自分が作りたい服じゃなく、貴族向けの高く売れる服をひたすら作らされたって言ってた。西の戦争が切っ掛けで逃げ出せたみたいだけどね」

「そう、ですか……」

「能力だけでは誰かに利用されて食い物にされる。それはもう今更だし、凹んでいたって都合良く救われるわけでもない。大事なのはどこにいるか割り出し、その人が今どのような状況なのか把握することだと思うよ」

「本当にその通りですよ、アリシア」

「ちなみに、今日行った自由都市って所、もう一人転生者いたから」

「「え?」」


 俺とアリシアの声が重なる。

 観光の続きでもしているのかと思ったら、仕事ってそういうことだったのか。


「やっぱり奴隷商館?」


 思わず問えば、【広域探査】で確認していたフェリンは首を横に振った。


「ううん、そっちも調べたけど反応はそこからじゃなかった」

「接触することなどできないので姿は分かりませんが、中心部にあるかなり高い建物の上階から反応を得たようですから、支配階級の可能性が高そうですね」

「へぇ~なるほど……いや、二人ともかなりナイスだわ。話を聞く分には保護するようなタイプじゃなさそうだけど、一応あとで調べておくよ」

「ふふ」

「ぬふふ」

「お、お願いします!」

「あ、そうそう。話が逸れちゃったけど、そのノアさんっていう服作りのスペシャリストに服の依頼は頼んでおいたから、もうちょっと待っててね。素材にも拘って全身作るってなるとそれなりに時間掛かるみたいだからさ」


 そう言いながらついでにやっちゃうかと、そこら辺に落ちていた太めの枝を拾い、風魔法でスパスパと3面が平らになるよう三角柱を形成していく。


「んん? 何やってるの?」

「次の国をどこにしようかと思ってね。まだパルモ砂国でSランク狩場を掘り当てる作業は続くから、大国以外ならどこでもいいかなーって」

「どこの国で悩んでいるのですか?」

「んーと、ガルム聖王騎士国にスチア連邦、あとは東じゃないけど、今日行った自由都市の横にあるトルメリア王国かな? 遅かれ早かれボス討伐で向かうことになりそうだし」

「トルメリアは確かに、一度通過しましたけどそこまで大きな国ではなさそうでしたね」

「フィーリルがガルム聖王騎士国を通過して北に向かっているので、聞けば何かしらの情報は得られると思いますが……呼びますか?」

「いいよいいよ。邪魔しちゃ悪いし、それに今回はクジで決めようと思ってるからさ」


 言いながら、3面にそれぞれの国を書いていく。

 順番が多少前後するくらいで、結局全部回るのだ。

 パルモ砂国の時と違って優劣が付けにくいのであれば、恨みっこ無しのコロコロクジで決めても問題ない。


「ほい、地面にくっついた国が次の行先きでーす」


 そう言って放り投げた枝は放物線を描き、転がることもなく地面にポトリと落ちる。

 全然コロコロしてないし……

 でも近かったフェリンがそれを笑顔で拾い、俺に見えるよう向けてくれた。


「はい! 次はスチア連邦だって!」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 次の国が決定したあと、情報を確かめるために改めて自由都市ネラスへ飛んだ。

 商業都市の支配階級ならばあり得る。

 そう思い、マリーの存在を強く疑ったが、どうやらそれは俺の勘違いだったらしい。

 まぁ冷静に考えると、あのズル賢い女がそう簡単に探査系で居場所を割らせてくれるとは思えないしな。

 ハンスさんも【隠蔽】は当たり前のようにレベル10で所持スキルは覗けなかったし、マリーもこの辺りの"最低限"は備わっていると考えた方が無難。

 しかし――、


(【建築】がレベル10の男か……)


 都市の中央に存在する、この一帯でも1位か2位を争うほどの高さを誇る建物。

 そのほぼ最上階と言っていい上層には、頭髪の多くを白く染めた男がいた。

 個室には豪勢な調度品が並び、重厚感のある机に向かう姿はどう見ても奴隷の立場とは思えない。

 小奇麗な身なりからして、大成した商人というよりは国の役人のような雰囲気を感じさせるが……

 改めて宙に浮きながら周囲を見渡すと、うちの拠点にある倉庫を超えるほどの高さがありそうな建物が何棟も立ち並んでいるのだ。

 おまけに俺のような適当な作りにはまったく見えないわけで、そうなれば自然とこの予想に辿り着く。


(もしかしてこの人が、今の自由都市を作り上げた張本人なのかな……)


 最初にも感じた、他所と文明度合いにズレを感じるほどの都市。

 その要因がなんとなく掴めたような気はするも、他に情報がないのだから今できることはこのくらいだ。

 奴隷のような苦しい環境に立たされていないのであれば。

 もしくは許容を超える悪党でもなければ俺の出る幕じゃない。

 平和に暮らせているのならそれでいいし、今後もこの都市には訪れるのだから、良くも悪くも目立った動きがあれば俺の耳にも何かしらの情報が入ることだろう。

 その時に俺は、味方、中立、敵のどの立場につくのかな……

 そんなことを少し考えながらこの場を後にし、現状をアリシア達に報告した。
478話 秘境、スチア連邦

 場所は茶色い荒野がどこまでも広がるオルトラン王国。

 その南東部に存在する、かつて勝手に作った傭兵バーシェの墓の近くから南部を広く眺める。

 この付近に連なる山々の稜線が国境になっており、眼下に広がるスチア連邦は景色が一変して緑に覆われていた。

 そして手元には一枚の木板。


「うーん……」


 書かれていたのはクアドお手製の地図だ。

 幼稚園児が描いたラクガキのような適当さを醸し出しているが、とりあえず北西――、つまりオルトラン側から馬車で3日半ほどの場所に、スチア連邦の首都『タルサラム』という町があり、そこまでは交易もあって確実に人が出入りしているとのこと。

 しかし問題はそこから先で、特に南部は秘境も秘境。

 出身であるクアドもどうなっているのかまったく分からないらしい。

 たぶんハンスさんのエリオン共和国と繋がっているはずだけど、さてさて、どうなるかな?

 期待と不安が入り混じる中――。

 この時はまだ、そうそうに探索が中断するとも知らず、日中はスチア連邦、夜間はパルモ砂国でSランク狩場探しという生活をスタートさせた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 そして約2時間後。


「えっ、ここしかハンターギルドないんですか?」


 マッピングを進めながら辿り着いた首都『タルサラム』、そのハンターギルド内で俺は、縋るように受付のハムスターみたいなお姉さんへ情報を強請っていた。

 いつもの流れで真っ先に資料室へ。

 本には見覚えのあるFランクとEランクの魔物しか載っておらず、他に有力な上位狩場はあるのか。

 いつもならばここで情報を収集し、移動ルートを選定するのがお決まりの流れだったのだ。

 しかし――。


「ここだってできてからまだ10年も経ってないんだよ? みんな自分達で使っちゃうから、お金に換える習慣は『タルサラム』から離れるほど無くなってくるしね~」

「確かに、建物は綺麗な感じがしますけど……」


 そういえばクアドも、この国にハンターギルドなんてあったっけ? とか言っていたことを思い出す。

 首都とは言うも、規模感で言えば今まで見てきた中規模の町程度。

 直前に自由都市を見ているだけに、木造の平屋ばかりが目立つ建物や、道端でキャンプファイヤーの如く火をくべ、大鍋で料理をしている姿など、文明は他所より1段階遅れているような印象を受けるのだ。

 お姉さんが言う通り、首都から離れた田舎になると、部族単位で自給自足や物々交換が主流の生活でもしているのだろう。

 なんせ上空から見れば、はっきりと分かる街道がこの町で終点になってしまっているくらいなのだから。


「それでも、こう……狩場の話を聞いたりとかありません? あっちの方面にかなり強い魔物が出るよ~とか」

「ん~、ずっと東の方にBランクの狩場があるとは聞いたことがあるけど……同じスチアでも奥地は縄張り意識がかなり強いし、君、見るからに人間でしょ? 余計に危ないから興味本位で行かない方がいいんじゃないかなー?」

「そうですか……情報ありがとうございます」


 有益な情報は聞けた。

 が、これもある程度は予想できたことだ。

 傭兵バーシェはBランクのソルジャーアントを大量に従えていた。

 そいつらをわざわざラグリースの≪デボアの大穴≫から調達したとは考えにくく、他の魔物は近場のヘルデザートに存在していたのだから、この近辺にもソルジャーアントの生息域があるだろうとは思っていたのだ。

 まず東にあるこの狩場が濃厚――、つまりスチア連邦の最高位狩場は、既に散々狩り倒した蟻の巣である可能性が高いということになってしまう。

 はぁ――……

 その事実に気付いてちょっとテンションが下がってきたけど、こればっかりはしょうがないもんな。

 行かなきゃ分からないこともあるのだから、とりあえず今回は東側から攻めてみるか。

 そんなことを考えながら、人間は10人に1人も存在しない獣人だらけの町を探索。

 スチア連邦唯一らしい教会は辛うじてあったが、傭兵ギルドは首都のこの町にも存在しないこと。

 大きな広場で開催されている市場は連日開いているようで、ここはかなり賑わっていることを確認したのち、北側のマッピングを埋めるようにパルモ砂国を左手に見ながら東へ向かった。




 ……そして、日中の移動を続けて2日目。

 眼下の森がいつの間にか草原に変わり、そしてどこまでも続く畑へと変わり、それでもそのまま東へ進むと、視界の先に町が見え始める。

 なぜか昨日訪れた首都と同じような規模感であり、建物も不思議と首都より立派。

 よく分からないまま、それでも町があれば向かうわけで。

 パッと見渡す中で8割が人間。

 獣人もいるにはいるが、首都と圧倒的に比率が違うことで強烈な違和感を覚えた――というより、この時点でもう俺の中では確信に変わっていたと思う。

 だから、


「すみません、ここってどこの国ですか?」

「ん? アルバート王国だけど? なんだ、あんた迷い人か?」


 町を歩く人にそう言われても驚くことなく、お礼を言いながらすぐに地図を確認する。

 ははは……いやいや、おかしいな。



 |国《・》|境《・》|線《・》、どこにいったよ?
479話 急報

 判明した事実をどう扱うべきか。

 そう考えた時、俺の足は自然とこの場所に向かっていた。


「少しだけ緊急の用件でして、ハンスさんいますか?」

「え? あ、あなた様はロキ王……少々お待ちを!」


 宮殿の前で少し待つと、前回とは違いメイビラさん達が出てくることもなく中へ通される。

 相変わらず銀毛の獣は噛みつきそうな勢いで唸ってるけど……

 なんのスキル持ってるんだろうな、アレ。


「おうロキ、緊急って聞いたけどどうした? 何かあったか?」


 お互い見つめ合っていると、焦った様子でこちらに向かってくるハンスさん。

 少しだけって兵士の人には言ったけど、こりゃ上手く伝わってないな……


「急にすみません。とんでもなく緊急というわけではないんですけど、ハンスさんの耳には入れておいた方が良さそうな事実が判明しまして」

「いや、重要な情報だってんなら別に構わねーよ。前の部屋だ、俺はメイビラとか呼んでくるから、先に入っててくれ。案内頼むぞ」

「ハッ! お任せを!」


 そう言われ、兵士に見覚えのある部屋まで案内されて暫し。

 いつぞや見た面子がゾロゾロと部屋に入ってきたところで、ハンスさんがいつになく真剣な表情のまま口を開いた。


「んで、何があった?」

「はい、その前に一つ確認を。ハンスさんは北部のスチア連邦が今どのような状況かご存じですか?」

「ん? どのような状況って、12の代表種族は健在で、今は兎獣人の――名前はヒヨルドだったか。ソイツが持ち回りで首長をやっているはずだが」

「なるほど……つまり、スチア連邦の就くべき人が現状はトップになっているということですよね?」

「そりゃそうだな」

「では伝えに来て正解でした。結論からお伝えすると、スチア連邦はもう既にアルバート王国に呑み込まれています」


 数秒、部屋が静寂に包まれ――。

 その後、部屋が一気に騒がしくなる。


「………は? 待て、どういうことだ? 目立つ争いなんて起きていないはずなのに、呑み込まれただと……?」

「目立つ争いが起きていないというのも事実でしょうね。僕がマズいと思って伝えに来たのもそこで、この事実はまず世に公表されていません。いつから切り替わったのかは知りませんけど、首都『タルサラム』に住む住民も、それこそハンターギルドの受付嬢までまだスチア連邦のままだと認識しています」

「マジかよ……?」


 唐突にこんな事実を突きつけられたのだ。

 ハンスさんと言えど、動揺するのも当然だろう。

 だが、終始不動だった――、というより表情の動きが分からないだけだが、ハンスさんの背後にいた山羊の獣人が、静かに当然の疑問を口をした。


「……失礼を承知の上で、それでも事が事だけに問わせていただきます。ロキ王が偽りを提言しているという可能性はどのようにして否定できますか?」

「僕自身では無理ですね。現状ではスチア連邦とアルバート王国の間にあるべき国境線が存在しておらず、その国境線は僕の所持するスキルでしか判別することができません」

「ならば――」

「もちろん、ハンスさんとマリーの衝突を望んでこんなことを言っていると思われたのなら、それこそ戯言だと思って気にしなければいいでしょう。ただ世界を旅する中で僕もおおよそマリーの性格が分かってきましたから、後々になって気付いた時には既に手詰まりとならないよう気を付けてくださいね」

「我が国が、手詰まりですと?」

「マリーは時間を掛けて、徐々にその国を侵食していく。これが計画の始まりなのか、それとも終盤なのかは分かりませんが、後になればなるほど対処に掛かる労力と難度は増すと思いますので」

「それは、そうかもしれませんが……」

「やめておけ、ドズル。そんなもんヒヨルドを締め上げれば答えなんて分かるし、そもそも王宮を吹っ飛ばすって言ってるロキがそんな回りくどいことなんてしねーだろ。それより……おい、地図持ってこい」

「はっ……は? お見せして、よろしいので?」

「目の前にいるのは各国の地図を作ってる張本人だぞ? 空まで飛べるやつに周辺環境隠したってなんの意味もねーよ。それより情報寄越しにわざわざ来てくれたんなら、ついでにもう1つか2つでも協力してもらった方がいい」


 この発想はハンスさんらしい。

 山羊の獣人が渋々といった感じで持ってきたお手製地図を広げると、俺へ説明するようにハンスさんが指で示していく。


「お前が作ってるようなのと比べりゃ雑な内容だが、見ての通りだ。うちとスチア連邦の間はかなり険しい岩山だらけで、まともに往来できるような場所は北東にある谷底の一部だけ。仮に北部を押さえられたところでそこまで大きな支障にはならない」

「元から北東の一部はアルバート王国と隣接しているわけですか」

「ああ、昔は間に1つ国があったんだけどな。派手な争いもなく、気付けばアルバートに下ってやがった。よくよく考えりゃ今回と同じだ」

「……東から南東部にかけては?」

「一言で言えば"魔境"ってヤツだな」

「え?」

「多種多様な亜人が住んでいることは分かっているが、それらを纏め上げる国はないとされている。それぞれが独自のルール、価値観を持ってるから、それなりの衝突と危険も覚悟しておかないと立ち入れない地域だ」

「ということは、もしマリーがこの地まで手に入れると、エリオン共和国はうちを背にして囲まれるということですよね」

「俺がいるんじゃ囲ったところで効果は薄いように思えるが……いや、先に俺自身を潰すこと前提で動いてやがるのか?」

「マリーの最終的な目標がこの大陸を丸ごと手に入れるということならその可能性もあるでしょうし、アレは2つ3つと同時に策を遂行する傾向がありますから、他にも狙いがあるのかもしれません」

「狙いねぇ……メイビラ、うちを包囲する以外に何か思いつくか?」

「………スチア連邦の支配を伏せるということは、その地でまだ発覚されては困る何かを進めているとも取れます。とすれば――、支配と言っても総意を得られたというわけではなく、現在も水面下で12の代表種族と交渉が続いているのでは?」

「だとすると、俺の耳に入るほどの内紛にも発展しそうなものだが……いや、そうであってほしいところだな。アイツらが全て敵に回るってなると、相当な脅威になる」

「えっと、ハンスさん達でも、ですか?」


 些か疑問に感じる言葉。

 ハンスさんは当然として、ここにいる半数以上はスキル自体が覗けないし、覗けた人達もいくつかのスキルが当たり前のようにカンストしているのだ。

 にもかかわらず、面倒や厄介ということではなく、『脅威』というほどの話になるのだろうか?

 もちろんアルバート王国の戦力と合わせてということなら分かるけど、どうもニュアンス的にはスチア連邦の戦力単体を指しているようにも思えるし……

 この俺の問いに口をへの字に曲げ、溜息交じりにハンスさんは答えてくれた。


「族長や長老と呼ばれているような連中は単純につえーし、何より厄介なのはアイツらの種の結束だ。明確な敵と判断すれば、人間と違って女子供だろうと種族全てが牙を剥いて襲い掛かってくる。対してうちは戦えない連中も多い」

「なるほど……」

「厳密にはそれぞれの下に就く種族まで敵に回ることとなりましょう。ともすれば、その数は優に100万を超えるかと」

「はぁ~しゃーねぇ。族長にそれぞれ会って確かめてくる。サガン、おまえは何人か連れて、『外』の様子を見てきてくれ。ソイツらがもしマリーの手に落ちていたらいよいよだ」

「ボスにも寄らなかった連中がマリーに靡くとは思えないが……御意」


 あくまで俺は気付きを伝えに来ただけで、これはエリオン共和国の問題だ。

 あまり他所のやり方に口を挟むべきではない。

 それは分かっているが……

 1つや2つ協力しろと言ったのはハンスさんだし、しょうがないな。

 俺はマリーが大嫌いで、そのマリーが敵対国の囲い込みや戦力強化という、分かりやすい目的だけで動いているとは思えないのだ。

 まだ他にも狙いがありそうなもの。

 ならば期間を限定して、こちらでも調査してみるか。


「ハンスさん、元々スチア連邦があったのはどの辺りまでか分かります?」

「ん? アルバートとの境界ってことか?」

「そうです」

「となると、ハッキリしたことは言えねーが……さっきも示した北東部でまともに往来できる谷底、この少し東部――、だいたいこの辺りまでは確実にスチア連邦の領土だった」

「了解です。となると、2週間――、いや、10日ほどでいいんで、ハンスさんが動く前に時間をくれません?」

「構わないが、理由は?」

「マリーの狙いが他にないかも、サラッと確認しておきたいんですよ。フレイビルでは主要都市の領主を落として、下部組織に奴隷を集めさせながら、裏では国にも秘密の採掘場を作らせたり人体実験までしてましたからね」

「マジかよ……」

「ハンスさんが12の代表種族と接触することで、内密にしておきたい何かがより深くに隠される可能性もある。だから10日間、僕も遅かれ早かれやることですので、先にこの一帯だけ調査を進めてみて、その結果をハンスさんにもお伝えしますよ」

「恩に着る。それじゃ俺も、先にやるべきことをやっておくか」


 そう言いながらパシッと拳を叩くハンスさん。

 おいおい、今はあまり目立った動きをしてほしくないのだが……

 大丈夫だろうか?


「マリーはこちらが国境の変化を掴んでいる事実なんてまず知りませんから、今が情報を掴むチャンスなんです。派手なことして勘付かれるようなことはしないでくださいよ?」

「大丈夫だ、まっっったく問題ねーよ。ロキん所にちろっと行くだけだからな」

「あーそれなら……ん?」


 何を言っているんだとハンスさんの顔を見上げたら、ニヤッと笑いながら肩をがっしり組まれてしまう。

 うげっ、これは逃げられそうもない。


「おーし、このままロキの国――アースガルドへ連れてってくれ」
480話 魔物塚

「おぉ~すげーな! 魔物もいるし、このよく分かんねーバランスの悪さが良い味出してんじゃねーか」

「う、うるさいですよ!」


 転移した先は町の入り口。

 少しだけ上空に転移したため、左手に見える庶民的な街並みと、右手に見えるデカ過ぎな建物とが同時に見えたのだ。

 特に特徴的な石材を用いたニューハンファレストの存在感が強いので、ここだけ観光地にあるリゾートホテルのような雰囲気を醸し出してしまっているし、バランスが悪いのなんて百も承知である。


「くははっ! どんな町であろうと、そこに住んでる連中が笑えてんならそれが一番だ。気にする必要はねーよ」

「まぁそうですよね。僕もそれを一番に目指しています」

「なら十分成功してそうじゃねーか。人が増えるほど大変にもなってくるけどな」

「望んで増やそうとは思ってませんよ。僕は僕でやりたいこともありますし」

「どっかで聞いたセリフだ。そんなことを言ってるやつほど人が増えるし、なぜか勝手に増えていく」

「そんな人が周りにいるんですか?」

「経験談だ」

「……なるほど」


 そのままハンスさんが今回うちに来た理由。

 いざという時に連絡を取れる手段くらい整えておきたいという目的を果たせる場所へ。

 恥ずかしいが、うちの窓口といったらここしかない。

 中にいたダンゲ町長とペイロさんにハンスさんを紹介すると、ペイロさんは尻に竹槍ぶっ刺されたような顔して悶えていたが……

 まぁ死ぬわけじゃないし放っておいてもいいか。


「おし、そんじゃこの小屋に鳥を飛ばすようにするぜ」


 そう言ってハンスさんが懐から取り出したのは、黒く小さい1羽の鳥。

 放すとその鳥は何かを確かめるように上空を旋回し、その後どこかへ飛び立っていく。


「あれだけでいいんですか?」

「あぁ、あの鳥は【調教】してあっからな。あとは帰りながら勝手に道を覚えて手紙を届ける」

「へぇ~便利なもんですね……うちもやった方がいいのかな」

「そりゃそうだろ。自分で飛んじまえば解決って思うかもしれないが、できるってだけでなんでも背負えば、本当におまえの力が必要な場面で身動きが取りづらくなる。人を頼って任せなきゃ国なんざ回らないぜ?」

「さすが先輩、勉強になりますね」

「かかかっ! 仕事をサボる口実にもなるしな!」


 冗談なんだか、本気なんだか。

 この雰囲気がハンスさんの魅力なんだろうと思いながら、ついでに金持ちそうなこの人を顧客化させるためクアド商会へ。

 高級店に入り浸るハンスさんをクアドに任せ、俺はスチア連邦の調査を始めた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 国土の大半は森に覆われ、時折集落のような家が見え隠れするも、そこに繋がるまでの獣道は木々に隠れてほとんど見えず。

 そんな光景が続く中、マッピングを進めて3日目には話に聞いていたBランクの狩場を発見した。

 周囲の密林から浮き出たように、砂色の土が剥き出しになった小高い山がポツンと存在しており、その山には無数の穴が。

 そこから魔物が這い出ているようで、渦巻き状に踏み固められた足場に陣取りながら魔物を狩る人の姿が多く見られる。


「蟻と、芋虫……あとは、蜂か……?」


 蟻は予想通りソルジャーアントだし、芋虫も砂漠で見たサンドワームと同じだろう。

 しかし蜂は初めて【飛行】を手に入れた思い出深いファンビーよりも大きく、腹の縞模様も赤と黒で色が明らかに違っていた。

 新種であることは嬉しいけど――


「これはどういうことだろうな……」


 ――それ以上に気になるのは、その巨大過ぎる蟻塚に多くの人間も混じっていることだった。

 ハンターギルドの受付嬢は、"奥地はナワバリ意識が強く、特に人間は危ないから近寄らない方がいい"と、確かにこう言っていたはずだ。

 にも拘わらず、この地がナワバリなのか?

 猪の姿をした獣人も多くいるが、確実にそれ以上の人間がここで狩りをしているのはおかしな話だし、お互い姿を認識しているのに険悪な様子もまるで感じられない。

 それになぜか狩場から東へ、唯一と言ってもいいくらい上空からでも僅かに認識できる道が長く長く延びているのだ。

 ここにいる人間がどこから入ってきているのかなど容易に想像できるというもの。

 となれば、問題は何を狙っているのかだが……

 より確かな情報を求め、森の中へ。

 気配を消しながら様子を窺うと、狩場の入り口近くに大きめの小屋があり、そこで猪獣人と一緒に荷車へ積み込みの作業を行なっている人間がいた。

 そして荷車は東へ向かう獣道を進んでいくので、ソッとその中身を覗くと、蟻の頭部と蜂の腹部だけが積み込まれているようだった。


「……」


 情報がなく、未だ名前も分からぬ蜂は、スキルに【麻痺針】レベル3という分かりやすいスキルを備えているのだ。

 これで全てかは分からないにしても、一つの狙いがおおよそ見えたところで視線は狩場へ。

 今露骨に動いてバレるわけにもいかないため、姿を隠すためにも俺は迷わず魔物が湧き出る穴の中へ突入した。

 この蜂、なぜか【呼応】持ちなので、レベル6までもっていくだけならそう時間が掛かることもないだろう。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「……」

「……」

「出てこないな……」

「なんだぁ?」


 男達は、人の背丈ほどもある穴を見つめながら呟く。


「おいジェンキー、そっち魔物出てるか?」

「いや、急に動きが止まった。そっちもか?」

「ああ、まったく出てこなくなった……リドリーさんよ! こんなことあるのか!?」


 そう問われ、頂上付近で現場を監督していた猪獣人の男は困惑の表情を浮かべた。


「いや、中で『魔物塚の主』と戦えば自然と近い状況にはなるが、まだ生まれる時期でもない。かと言って誰かが穴に落ちた程度で魔物の動きが止まることもない」

「じゃあ、なんなんだよ? 1匹も出てこないとかおかしいだろ」

「確かに、それはそうなのだが――」


 ズズズッ……


「?」


 ズズズズズズズ…………


 この時、通常の音とは違う、蠢く多量の気配と僅かに感じる地面の震動に気付いた者達がおり、それぞれが顔を見合わせる。

 魔物塚と呼ばれる土山は高さもそれなりだが、それ以上に幅があるため、とても内部まで【気配察知】で見通すことはできなかった。

 だから表面の一部のみではあるが、なぜか魔物は本来の動きとは正反対の内部へ向かっているようで、「ギギッ」と。

 鳴き声なのか、呻き声なのか……兎にも角にも恐怖をそそられる不気味な音が、穴の内部から響いていた。


「お、おい、リドリーさんよ! やっぱ誰かが中にいるんじゃねーか!?」

「バカを言うな。私が上で見張っていたし、中は光も通さぬ迷宮だぞ? 準備も無しに入れば大抵の者は出てくることもできずに死ぬ」

「んなことは分かってっけど、今までこんな―――、って、あれ、湧いた」

「え、こっちは全然だぞ?」

「んあ、こっちも湧いた。なんだったんだ?」

「分からんが、解決したのだからどんどん狩ってくれ、"今日のノルマ"まではまだまだ遠いぞ」


 そう時間も掛からず狩場は平常に戻ったため、最初は困惑していた者達も次第に記憶は薄れ、誰も先ほどの現象を気に留める者などいなくなる。

 結果、誰も上に報告することなく、いつも通りの日常は過ぎていった。
481話 貸し一つ

 調査開始から10日後。

 予定通りハンスさんの下へ向かうと、もう慣れた様子で建物の中へ通される。

 前回と同じ部屋、既にエリオン共和国の重鎮達も待機していた。


「わざわざ済まなかったな」

「いえいえ、ほんのついでですから」


 マッピングを行い、各地に点在する狩場を見つけ、自らを高めていく。

 結果的にグレー文字ではあったが、【麻痺針】はレベル6までもっていけたし、他にもいくつか魔物専用スキルのレベルを1つずつ上げられた。

 10日程度の探索結果としてはまずまずの内容だろう。


「確定的なのが1件と疑惑が1件。マリーというよりはアルバート王国としておきますけど、スチア連邦で動いているのは間違いなさそうですね」

「そうか……具体的には何をしていた?」

「1つは魔物素材の収集です」


 言いながら、予め回収していた素材を机の上に置く。


「蟻の頭部と、蜂の腹か……?」

「ですね。スチア連邦の中央よりも東部寄り、乾いた土が大きく盛られたBランクの狩場は知ってます?」

「あーっと、確か"魔物塚"って呼ばれているヤツか。穴から魔物が這い出てくる土が剥き出しの山だろ?」

「それです。そこのナワバリは猪の獣人で間違いないと思うんですけど、その狩場に多くの人間が入り込んで取引をしている様子でした」

「ドズル、あの魔物塚のナワバリは猪の連中で間違いないか?」

「間違いありません」

「だとしたら普通じゃありえねー話だな。本来なら人間なんて見かけたら武力行使で追い出すような連中だ」

「僕が行った時は平和に共闘していましたけどね。猪獣人はサンドワームを、人間はこの素材を求めてそれぞれ狩った獲物をトレードし、荷車を使って東の町『スティナ』に運ばれているところまでは確認しています。ちなみに『スティナ』は森を抜けた先にあるアルバート領土内の町になりますね」

「獣人は食料と皮を、アルバートは――、チッ、狙いは『酸液』と『麻痺薬』か?」

「それしか考えられません。そして猪の種族がアルバート側に落ちていることもまず確定でしょう。接触を避けるために住処は一切調査していないので、具体的な見返りまでは定かじゃありませんけど」

「いや、十分だ。そっちは俺らの方でやるから気にしなくていいとして、もう一つの疑惑は?」


 その言葉に、もう一度頭の中で情報を整理する。

 こちらは何を目的にしているのか、魔物塚と呼ばれる狩場と違ってはっきりとは見えてこないからだ。


「スチア連邦の南部に、一部が狩場にもなっている広い湿地帯があるのはご存じで?」

「あることは把握している。リザード種の連中がナワバリにしている一帯だろ?」

「でしょうね。竜にも蜥蜴にも見える姿をした、それこそファンタジーの世界でよく見かけるような雰囲気の人達がいましたから」

「確かあそこには……あぁ、睡眠薬まで狙ってやがるってか?」

「【胞子】を振り撒くマイコニドがいたので、どうやって抽出するのか分かりませんけどその可能性もあると思います」

「ん? そこがはっきりしないから疑惑ってことか?」

「それもありますね」

「んん?」


 ハンスさんは疑問を浮かべた表情をしているけど、俺だって同じなのだ。

 知った情報をそのまま伝えて、あとはこの人達に判断してもらうしかない。


「僕が知り得た情報をそのまま伝えますと、スチア連邦南部からアルバート王国に抜けるような人の動きまでは確認できませんでした。ただマリーが【空間魔法】持ちということを考えれば、どこかに集積して一気に回収という方法も取れるので、はっきりとしたことは言えないというのが一つ。そしてもう一つ、僕が一番納得できていないのが、先のBランク狩場よりも強い連中が複数人その湿地帯にいたことです」

「それは、人間ってことだよな?」

「もちろんです。マイコニドの生息していた湿地帯はDランク相当、どう見てもAランク、もしくはそれ以上の連中が適正の狩場ではありません。リザード種と交戦という雰囲気もなく、既に立ち入る許可は得ており、その上で狩場とは関係のない場所を徘徊している様子でした」

「……」


 さて、俺の知り得た情報でこの人達にピンとくる何かがあるのか。

 少なからず期待して反応を待つも、沈黙が続いている時点でかなり厳しそうだな……


「具体的にどの辺りを徘徊していたか分かるか?」

「いえ、湿地帯の中でもかなり奥、それこそ険しい岩山が聳え立つその周辺としか。上空から眺めようにも連日霧が凄くて、はっきりとした規模や活動範囲が分からなかったんですよね」

「あそこは常に霧が立ち込める地帯だからな……現実的に最も可能性が高そうなのは、うちに裏から入り込むためのルート探しか」

「ちなみに『外』と呼ばれていた南東部の方面はどうだったんですか?」

「俺も境界付近を直接確認しに行ったが、あの反応からしてまず間違いなくマリーの手には落ちてねーな。生活環境が変わっている様子もなかったし、どこに顔出しても"立ち入るな、何も求めていない"の一点張りだ」

「となると、差し迫って戦争に発展するほどの事態というわけでもなさそうですかね」


 そう告げるも、ハンスさんは頬杖を突きながら、未だかつてないほど険しい視線で机の上に置かれた地図を睨む。

 その姿は俺が見ても怖いと思えるほどだった。


「だと良いがな。俺も直接状況を確認してから族長連中と会って、あとはアイツらの反応次第だ。狙いが他所であるうちは干渉するつもりもねーが、もしうちに狙いを定めて何か企んでやがるなら先手を譲るつもりもねぇ。それこそ俺が丸ごと潰してやる」

「……進展があったら教えてください。鳥が届けてくれる手紙で十分ですから」

「これだけ協力してもらったんだから当然だ。ただそれ以外にも相応の礼をしないと、国のメンツに係わっちまうな。ロキ、何か俺に協力できることはねーか?」

「え、急にそんなこと言われても出てこないんですけど」

「別になんだっていいぜ? 貸し一つにしておいてもらってもいいしな」

「うーん……じゃあ、貸し一つということで。ただその前に事実確認だけやっちゃってくださいよ」


 一瞬【空間魔法】の件でもお世話になったし、たんぽぽちゃんを譲ってもらえればそれでいいかくらいに思ったけど、さすがにハンスさんの貸しは重さが違うからなぁ……

 ここは慎重に、ハンスさんの協力が本当に必要と思った時のためにとっておこう。

 そう考え、少しだけモフモフさせてもらったあとにベザートへ向かった。


 はぁ。

 それにしても、クアドになんて言うかなぁ……
482話 魔王、膝を突く

 クアド商会の高級店。

 カウンターの中で俺も時折お会計を担当しながら、今回の調査で判明した事実を横のクアドにコソコソと伝えていく。

 どういった経緯があったにせよ、クアドの祖国が消えてしまったのだ。

 それなりの覚悟を以て伝えたつもりだったが――


「そうっすか」


 意外過ぎるほど薄い反応に、思わず俺の方が戸惑ってしまう。

 いつもなら、「マジっすか!? マジっすか!? マジっすか~!?」って大騒ぎしそうなのに……

 まさか、仕事中はテンションを抑えるとか、そんな芸当ができるほど成長してきたのか?


「な、なんていうか、思ってた反応と違うね」

「いや、驚いてはいるっすよ? ただ異世界人が台頭し始めたっていうのに、スチア連邦は種族同士が協力するような雰囲気もあまりなかったっすからね。場所からして2つにほとんど挟まれているようなもんでしたし、いつかこうなるんじゃないかって思ってたっす」

「あぁーそっか……なるほどね。でも家族とか心配じゃないの?」

「家族って言ってもうちはスチアから全員逃げちまってるっすから。あそこは何よりも『力』が重視されるんで、外の世界に興味があったり従属の立場になる種族は国外に出ちまう連中も多いんすよ」

「え? それじゃクアドが国に戻ることって全然なかったんだ?」

「ないですし、戻れないっすね。昔からの習わしで、一度外に出た連中って種族に関係なく爪弾きに遭うんっす。酷いとそれで殺されちまうこともあるんで、一度土地を捨てた連中はそう簡単に戻れねーんすよ」

「うわっ、めんどくさ……」


 これもハンスさんの言っていた種の結束ってことに繋がるんだろうけど、古いというか田舎臭いというか。

 少なくともウチでは絶対に真似しようとは思えない考え方だ。

 まぁいい。

 従属とか他にも気になることはあるけど、ひとまず懸念材料が解消されたのだ。

 これで余計な心配をしなくても済む。


「クアドがそこまでスチア連邦に拘ってなくて助かったよ」

「え?」

「黒幕はまず間違いなく、俺が大嫌いなマリーだろうからね」

「あー……あの異世界人っすか」

「今回の件はよほどの事がなければ関与するつもりもないけど、スチア連邦がマリーの側につくなら、いずれ俺は敵として潰す側に立つ可能性もあるわけだからさ」

「俺っちはもうアースガルドの一員ですし、そこは気にしなくていいっすっよ。悪い奴らをとっちめるロキさんを応援してるっすから!」

「そっか、ありがとね」


 この言葉を聞いて、ようやく安心からホッと息が漏れる。

 細かいことまで気にしたら何もできなくなるけど、それでもクアドは俺の大事な仲間。

 家族がいたら事前に救出しておくべきか、かつて生活を共にしていたであろう部族の仲間はどうすべきかといろいろ考えていただけに、何かあってもこれで憂いなく行動に移せる。

 まぁマリーの性格を考えれば、詰めの甘い段階で露骨な行動を取るとは思えないけどね。

 気持ちがスッキリしたところで、今回得た魔物素材を奥の倉庫に放出。

 その後、服の進捗を確認しにノアさんの部屋へと向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 できてたらいいな。

 でもまだできてはいないだろうな。

 そんな気持ちで戸を開け、視界の端で人型の模型に掛けられた服を見た途端、電撃を食らったように俺の身体が硬直する。


「はがっ……!?」

「あら、来たのね。銀細工の最終調整をしているところだからちょっとだけ待ってて。すぐ終わるわ」

「は、ぁ……」

「?」


 デッサンでおおよそのイメージは掴んでいたはずだ。

 しかし、これは……想像していた出来を遥かに超えている。

 アニメやファンタジーの世界で確実に強者だと分かるような人が着ていそうな、それはそれはめちゃんこカッコ良さげな服がそこに鎮座しておられた。

 細身ながら動きやすそうなコート、要所要所には用途不明のベルト状の何かが垂れており、肩や背面の一部には変色したサラマンダーの革だろうか?

 鱗の備わった黒いレザーが使われていて、ソイツが非常に良いアクセントにもなっている。

 そして俺が立ち尽くしている間も、裾や袖の部分などに精巧な作りをした銀の飾りが付けられていき、俺はただただ黙ってその工程を見守る。


「ふぅ……あんたが要望したデザイン、機能性は兼ね備えられたと思うけど、どう?」

「いやいやいやいや、最高ですよ、ほんとに」

「ふふっ、それは良かったわ。早速着てみてちょうだい」


 そう言われたら着るしかないだろう。

 恥ずかしげもなくポンポンと服を脱いで袖を通すと、ノアさんが横で解説をしてくれた。


「その姿で戦うことも多いって聞いたから、パンツもコートも多少厚みを持たせて耐久性を重視しているわ。横の不愛想な鍛冶師にお勧めされたから、火に耐性の強いレザー素材も混ぜてあるけど、どう? ヤボったさは感じない?」

「全然です。うん、身体も――、凄く、動かしやすい」

「腰回りや袖はベルトで調節可能、あんたの言っていたヒラヒラだけは理解に苦しみ過ぎて、しょうがなく意味のない銀細工付きの革紐を腰から何本か垂らしておいたわ」

「やべーっす、ノアさんは天才だと思います」

「知ってるわ。ちょっとフードも被ってみてちょうだい」

「あ、はい」


 ふむ。

 かなり目深になるが、幼さを隠すためという話だし、だからこそ意味もあるんだろうな。


「なるほど……………まぁいいじゃない。威厳もあるし、凄く強そうに見えるわよ」

「ちなみにカッコいいですか?」

「え?」

「だから、カッコいいですか?」

「そっ、そうね……カッコいいと思うわよ。私なら怪し過ぎて絶対に近寄らないけど……」


 いいじゃない。

 近寄り難き恰好良さ。

 そんなのも嫌いじゃない、というか宇宙で一番大好物まである。


「ふふ、ふふふっ、ありがとうございます! これ、内容が素晴らしいので追加報酬、美味い肉でも食ってください。僕は早速自慢してきますんで!」

「え、ちょっ……」


 ふははっ、これを見て、確実に羨ましがりそうなのが拠点に一人いるからな。

 俺は今まで着ていた服も忘れたまま、意気揚々と下台地へぶっ飛んだ。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 時刻は既に夕暮れ時。

 いつもの食卓には馴染みの姿が揃い、当然目的の人物もそこにいた。


「ふふふ……ふふふふふっ……」


 向こうから気付いてほしくて。

 自分で横から強風を吹かせてヒラヒラさせつつ、怪しい微笑みを振り撒きながら向かっていくと、早速料理を作っていたゼオが反応してくれる。


「何者か!!」

「あいっ!?」


 いきなりオタマをぶん投げてくるとはどういうこと!?

 避けたからいいものの、せっかく新調した服に熱々スープがぶっかかるところだったじゃないか!


「ちょい! 俺だって、俺!」

「む……ロキ、なのか?」

「そうだよ。ふふっ、どうかな、この服」 


 目の前にあった。

 それだけの理由で風呂の上に立つと、横から別の声が飛んでくる。


「ちょっとなにそれー! どこで買ったの!? その服ボクも欲しいんだけど!!」

「なるほど? さすがカルラ、お目が高い」


 そしてゼオはというと、なぜかその場でよろめき膝を突いていた。


「な、なんということだ……齢3000年から5000年、我が人生の中で、これほど心に刺さる服は見たことがない……」

「はっはーそうでしょうそうでしょう! ここだけの話、俺と同じ異世界人が作ってくれた服だからね。世界最高峰ってやつですわ!」


 ぶはは!

 予想通り、ゼオはあまりの格好良さに衝撃を受け、立つことすらままならない様子。

 それにカルラもゼオが復活した時ばりに目を輝かせているので、相当な好感触とみていいだろう。

 ふふ、ならばしょうがない。

 考えてみたら一度もベザートに連れていったことがないし、次は二人の服もお願いしに――。


「えー確かに見たことない服だし凄そうだけどさ……なんか、怖くない?」

「え?」


 それはエニーの声だった。

 横で話しかけられたケイラちゃんも頷きながら答える。


「うん、ちょっと……怖い、かな。帽子のせいかもしれないけど……」

「帽子……これでどう?」

「あ、だいぶ良くなったんじゃない? それでもまだちょっと怖いけど」

「うん。でもロキさんっぽいかも? 似合うというか、強そうというか」

「いやいやいや、おまえらどう見ても暗殺者だろコレ……しかも相当殺ってそうな、かなりやべぇ暗殺者だ」

「あ、私も真っ先に思ったのがそれでした。その帽子を取ったらロキさんの顔がちゃんと見えるので、格好良いというか、なんか凄そうには見えますけどね」

「え、いや……これから髪型改造計画まで入るんですけど……」


 あれ、威厳を求めたら恐怖が滲み出るとはこれ如何に。

 でも本来の目的は舐められないようにすることだし、ちょっとベクトルが違うだけで完全に間違っているわけでもないか。

 それより、だ。

 出来上がったご飯を皆で食べながら、ボーッと二人を眺める。

 うーん。

 今更ながら、カルラのスキルも覗けないことには驚いたが……


「ねぇ、二人とも、強くなってない?」


 先ほど飛んできたオタマの速度がかなり速かったから、というのもある。

 しかしゼオとカルラを見ていると、【洞察】を使わなくても前と違うことがなんとなく分かるのだ。

 ちょっと強くなったとか、そんな感じではない気がする。


「ふむ……いつぞや装備の話になった時、ロキに強さを求められたのでな。それもあってしょうがなく選んだのだ。しょうがなくな」

「選んだ? あ、まさか……」

「うむ。職を、だな……我は|大魔道《メイガス》とやらになってみた」

「ボクは|血の王《ヴァンパイアロード》だって~」

「おぉ~おめでとう! しかも二人ともめっちゃ凄そうだし……ん? っていうか、|血の王《ヴァンパイアロード》なんて職業、あの本に載ってたっけ?」


 |大魔道《メイガス》はばあさんの|魔女《パルマキス》と同じ、特級職と呼ばれる超上位の位置付けに名前が載っていたのは覚えている。

 しかし、|血の王《ヴァンパイアロード》とな?

 そんなの載ってなかったはずだし、そもそも職業名からして吸血人種専用っぽい気もするんだが……


「なんかね~リコに本借りて像の前で悩んでたら、声が頭の中に響いたんだよね。ボクは|血の王《ヴァンパイアロード》に就けるよ、秘密だよ、って」

「世の中は不思議なこともあるものですよね~。早速新情報として、職業一覧が載っている本に追記しちゃいました!」

「カルラだけズルいよね! 絶対女神様のお告げだよ!」

「……一応確認するけど、カルラって【神託】のスキル持ってるの?」

「持ってないと思うよ? 聞いたことないもん」

「あーそう……」


 まず、まったく秘密になってねーしって突っ込みどころもあるが。

 カルラの吸血人種に関連する職業なんて、存在したとしても古くに絶滅してたんじゃ記録に残っていないのも当然の話。

 本に載ってなきゃこの拠点では選びようもないわけで、これはきっとその事情を知っているアリシアが助けてくれたんだろうな。

 どうやったのかは分からないけど、もしかしたら毛嫌いしていたゼオ達が歩み寄ってくれたお礼だったのかもしれない。


「まぁいいや、これで二人も職業加護の恩恵を受けられるとして――、あれ、それだけでそんな強くなったわけじゃないよね?」

「うむ。あとは、あれだ。ロキの言っていた【転換】のレベルを、祈祷とやらで、上げてみた」

「おぉ! いくつまで上げたの?」

「レベル10だ」

「ぶっ!」

「ボクも~!」


 やってることがえげつない。

 まぁ今まで溜め込むだけ溜め込んでまったく使わなかったのだから、そりゃゼオくらいの強者なら一気に上げられもするだろう。

 しかし、当たり前のように言っているカルラも上げられるものなのか?

 レベル10までに必要なスキルポイントは未だ未知数だが、全て溜めたとしても確実にレベル60程度では足らない。

 それに【転換】を所持しているということは、他にスキルレベル10のスキルがあるということだし、どうも見た目上の強さと予測できる強さとでズレがあるようにも思える……

 うーん、カルラは謎が多過ぎて、ほんと分からんな。


「いきなり最大まで上げたのは驚いたけど、これで他のまったく伸びていなかったスキルも伸ばせるようになってくるね」

「うむ。これで増々実践的な修行ができるというもの。覚悟するのだぞエニー、それにカルラもだ」

「ボクも!?」

「ふふーん、望むところだし!」

「間違っても図書館に魔法を飛ばさないでくださいね」

「できれば湖にも……」

「じゃあどこにぶっ放すのよ!?」

「カルラに撃ちゃーいいだろ。血を飲ませとけばたぶん死なないんだから」

「ボクに!?」


 時間を合わせてここに来れば、いつも同じ、ガヤガヤとした賑やかな食事。

 そんな光景に温かさと安らぎを感じつつも、密かに明日、二人をベザートへ連れていくことを計画した。
483話 ガルム聖王騎士国

 翌日。

 俺は予定通り、ゼオとカルラを引き連れ、ベザートの町を訪れていた。


「ほえ~こっちは結構人が多いし、凄く町っぽい雰囲気になってるんだね」

「ふむ……もっと小さいかと思ったが、想像以上に賑わっているな」

「まだまだいろいろな部分が手探りの発展途上だけどね。いずれエニーも連れてくるから、三人には何かあったらこの町を助けてあげてほしいんだ」


 今回連れてきたのは服作りだけが目的じゃない。

 何かあった時に、ゼオがすぐこの町へ飛べるように――、そのためのマーキングも兼ねて訪れていた。

 もしかしたら俺の代理として、ゼオにはこの町でしてもらうことがあるかもしれないし、緊急時となれば俺と一緒に守ってもらうことだってあるかもしれない。

 その時に町がどこにあるのか分かりませんではお話にならないからな。


「当然、我に協力できることはいくらでもしよう。しかし――」

「なんか、すっごく見られてるよね」


 先ほどから、様々な視線がこちらに向けられているのは分かっていた。

 悪感情の籠った雰囲気ではないので、さほど気にもしていなかったが……


「二人は目立つし、しょうがないよ」


 赤い瞳であることもそうだし、ゼオは浅黒い肌に長い灰色の髪を靡かせた、明らかに只者じゃない感が漂いまくる高身長イケオジ。

 そしてカルラは単純な顔面偏差値の度合いで言えば、女神様達と張り合うくらい整い過ぎているのだ。

 見た目だけでは性別がはっきりしないし、中性的な恰好を好むため、それぞれが好奇――というよりは、好意にかなり寄った熱い視線を浴びていた。

 まぁ鼻の下が伸びているような人達だけでなく、中には固まったようにその場から動かなくなる者もいたりするが。


「あ、今、『ふぉっ』って悲鳴上げた人、絶対ロキのこと見てたよ」

「うむ、間違いないな。そのイメチェンとやらは、そこまでする必要があったのか?」

「俺もやり過ぎじゃないかなーとは思うんだけどさ」


 今朝上台地に行って服が出来上がったことを報告したら、もの凄い速さで現れたリステとフェリン、それに途中からはフィーリルも加わり、アリシアが監修する中で俺の頭を散髪しつつ捏ね繰り回していたのだ。

 フードを被ったら分からないよと言っても聞かず、とても拒否できるような雰囲気ではなかった。


「俺が舐められると、この町にも危険が及ぶからって、上の"アーシェ"達がね」

「ふむ……確かに、王たる者、舐められるのはよくないな」

「うん、ならしょうがないのかも」

「そう、しょうがないんだよ。状況に応じて使い分けるけどね」


 そうこうしていると目的の場所へ。

 部屋の扉を開けると、ノアさんは昨日で燃え尽きたのか。

 殺人現場の死体のように、だらしない恰好のまま床で直接寝ていた。

 この人、見た目は結構美人なんだけどなぁ……


「おはようございまーす」

「んあ……さむっ……かゆっ……………ハヒッ!? ちょっ、鍵は! って、この部屋鍵がないんだった……」

「不用心だから、誰かに付けてもらった方がいいですよ。それよりノアさんに服を作ってもらいたいって人達を二人紹介しに来ました」


 そう言うと、某アニメのような『3』をした目がクワッと見開き、横にいたゼオとカルラを見定め、生唾を呑み込む。


「そっちの大きいのは脚も長いし、申し分ないくらいのモデル体型ね……どんな服でも似合いそうだわ。それに小さいそっちの子は、中性的な美と妖艶さも兼ね備えていながら幼さも残していて……、何よこれ、最高の素材じゃない」

「ロキ、なんかこの人、ちょっと怖いんだけど……」

「うむ、なんというか、気配が只者ではないな。まるで肉食獣のようだ」

「ちょっと変わってるけど、俺じゃ間違いなく到達できないその道のプロだし、そう機会も作れないんだから、どんな服を着たいのか真剣に相談した方がいいよ?」


 そう伝えると二人はおっかなびっくりといった感じでイメージを伝え、出来上がったラフなデザインに目を見開いたまま硬直。

 その後は興奮した様子であれやこれやと要望をぶつけていた。

 ノアさんもがんがん突っ込んでるし、これはなんとも長くなりそうだな。


「ゼオ、俺はそろそろ次の国に向かうけど、帰りは自分達だけで大丈夫?」

「うむ、カルラと二人なら何も問題ない」

「それじゃこれ、多めに払っときますんで、二人が満足できる服をお願いしますね。一つ仕事を終わらせたばかりですし、時間はそんな無理しなくていいんで」

「あんたってほんとにお金持ちよね……まぁいいわ、これだけの予算を頂いちゃったんだし、二人には望み以上の服を仕立ててあげる」

「「「おぉ!」」」

「安心して私に任せておきなさい!」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ゼオ達と別れたあとに訪れたのはフレイビル東部。

 山間に建つ砦を上空から通過し、俺は次の国『ガルム聖王騎士国』に突入した。

 まさかこんなに早く次の国に移るとは思わなかったけど、国もなければまともな町もなく、ひたすら移動を続けながら魔物と人の反応を確認していただけだったからな。

 ハンターギルドがないというのは非常にストレスを感じることが分かったので、お次はそんなことがないようにと願いながら空の旅へ。

 そのまま山を下った先に中規模の町を見つけて降下する。


「おぉ~綺麗だな」


 統一されたオレンジ色の建物。

 よく見ると赤レンガのようで、小路にまで敷き詰められた石畳といい、全体的に纏まりのある綺麗な街並みをしていた。

 そして、そのままハンターギルド、存在していた傭兵ギルドへと順に足を運び、中央の支柱に貼り出された依頼を眺めてホッと息を吐く。


「こっちはまだ紛争中だったか……」


 今回ガルム聖王騎士国に決めた理由がコレだ。

 スチア連邦は気付かぬうちに国が消えており、パルモ砂国もすでに搾取の体制が盤石の様子。

 となれば紛争中と言われていたガルムもかなり怪しいわけで、既に決着がついてしまっている可能性まで考えていたわけだが、この依頼ボードを見れば答えは分かる。


「ウェズラーグ旧市街地戦、ウォズニアク王政派の応援求む……親アルバート派の侵攻を許すな、ダンヘイル砦守備隊の参加者募集、報酬は能力によって応談……トラナ領域南部の守備隊員急募……」


 この他にも貴族の警護やら主要施設の警備依頼がボードに隙間なく並んでいるのだから、今現在も紛争真っ只中であることは疑いようもなく、たぶん敵側に悟られたくない重要依頼も裏には存在しているのだろう。

 これは事前に分かっていたことだが、国土の西側が現国王の体制維持を望む王政派であり中立派。

 東側がマリーに付くことを望む親アルバート派となっており、依頼を見ているとこの国の騎士も一部が向こう側へついているように思える。

 ふーむ……

 マリーとアルバート王国の邪魔はしたい。

 しかしあまり露骨な動きを取れば、強欲ババアがブチ切れて本格的な戦争に発展する可能性もある。

 それにウォズニアク王政派というのも対抗はしているようだが、応援するほどの中身なのかも分かっていないしなぁ。

 ならばまずは、マッピングを進めつつもう一つの目的。

 最大の蔵書数を誇る『クルシーズ高等貴族院』を探してみるかと、端に追いやられていた野盗情報をいくつか確認し、『ガルム聖王騎士国』の旅を開始した。
484話 不合格

 ガルム聖王騎士国の旅を開始してから約2週間。

 まったく引き当てられる気がしないまま、都合21回目のSランクチャレンジが失敗し……

 カウント用の専用木板にグギギと、ナイフで憎しみを込めた正の字を追加しつつ、俺はこの国のやや西部に位置する巨大な街『王都ゲルメルト』に戻ってきた。

 時間は早朝。

 本来なら【昼寝】を使って少し寝るところだが、情報収集していく過程でこの王都の東側に『クルシーズ高等貴族院』があることは掴んでいたのだ。

 昨日、町に辿り着いた時は既に日も暮れた後の時間帯。

 直感で選んだ小粋なお店で晩御飯を食べた後は、すぐにヘルデザートのSランク狩場探しを開始したので、ここが目的地である王都だということくらいしか分かっていなかったのである。

 となれば、寝ている場合じゃないでしょうと屋台巡りで朝ご飯を食べ、ハンターギルド、傭兵ギルドと寄りつつ、かなり広大で自然豊かな学院へと向かった。

 そして――、槍を持つ門番っぽい人から衝撃の言葉を受ける。


「な、中には生徒、もしくは職員でなければ立ち入れませんが?」

「……」


 いやいや、そんな常識的なことを言われましても。

 俺がバカ正直に、「ここの本を読みたいんですけど」なんて聞いたのが間違いだったのか?

 強引に潜入する方法はいくらでもあるが……

 そんなことをしてしまえばコチラが悪党。

 俺の嫌う連中と似たような存在になってしまうし、すべての本に目を通したいので、ちょっと潜入したから解決という話でもない。


「えーと、お金で入場券が買えるとか、何か裏技は?」

「あ、ありません……」


 そして、裏技もないらしい。

 困ったな……なんで俺はここを図書館くらいに思っていたのだろうか。

 各国の宮殿には案外サクッと入れるものだから、ここもなんとかなるだろうくらいに思ってしまっていた。


「失礼」


 そんな時、看守室から出てきたのは、数名いる門兵とはまったく違う。

 かなり上等そうな鎧を身に纏った一人の老人だった。

 かなり強そうだし、これが噂の聖王騎士というやつだろうか?

 その老人は歩きながらも言葉を続ける。


「それほど読まれたいなら、この学院に入学されてはいかがかと」

「え?」

「そのような考えで入学される方も非常に多いですよ。ここだけにしかないとされる書物もそれなりにありますから」

「でも僕、貴族じゃないですよ?」


 貴族院と名が付いているくらいなのだ。

 その点を心配したが。


「貴族の比率が高いというだけで絶対ではありません。名門中の名門ですので相応にお金は掛かりますが……商家やハンター、もしくは傭兵稼業で稼がれている方々の子息子女も入学されていますし、幅広く資格は与えられますので種族も問われません。興味があるようでしたら、あちらの建物でより詳しい話を聞かれてみては?」


 そう言いながら、一度さりげなく視線を上から下へと泳がせる。

 舐められないとはこういうことか。

 このお爺さんが特殊という可能性もあるけど、この丁寧な言葉遣いといい、相応のお金がありそうだと判断しているのだろう。

 手で示された方へ目をやると、身なりの良い子供が大人と共に敷地の手前にある豪奢な建物へと向かっていく。

 目の前には立派な馬車も数台停まっているし、あそこが説明会場ってことなのかな。


「ありがとうございます。うーん、それなら話だけでも聞いてみますか」


 俺の目的はここにある本の知識を丸ごと得ること。

 理想は複製まで作りたいわけだが、だからと言ってそれ以外の時間をここで浪費したくはない。


(都合良くいけばいいんだけどな……)


 大陸最大の蔵書数という、そう簡単には切り捨てられない場所だからこそ、様々な考えが浮かんでは消え――、

 俺は祈るような気持ちで示された建物へと向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 中に入ると一人の女性が付き、俺を一瞥すると、こじんまりした部屋へ案内してくれた。


「『クルシーズ高等貴族院』の入学に関する説明をさせていただきますが、本日ご両親はご不在ですか?」

「いないと無理でしたか?」

「いえ、そういったわけではありません。ただお金の話もありますので……ちなみに現在年齢はおいくつで?」

「14です」

「なるほど、入学には問題ありませんね。ではこのまま説明に入りますので、特に費用面はご両親にも――」


 その後は淡々と、そして事務的に説明される内容を、俺は咀嚼しながら呑み込んでいく。

 そう、こっちはそれなりに必死だ。

 地球によくある学校の仕組みとは異なっており、なまじ余計な知識を抱えているからこそ、無駄な混乱を招くし余計な疑問も湧く。


 そして約20分後。

 決まった流れのように一通りの説明が終わり、「何も質問が無ければこれで以上となりますが――」と言い始めたところで辛抱たまらず口を開いた。


「いくつか確認を含め、質問しても大丈夫ですか?」

「ええ、もちろんですよ」

「入学金はその都度3000万ビーケ、それと1クール……1期毎に200万ビーケ、年間4期で合計800万ビーケの授業料が発生することは理解しましたが、それ以外に掛かる費用はありますか?」

「学院生の9割以上は敷地内の寮で生活していますので、もし利用されるなら朝夕の食事付きで1期毎に90万~1200万ビーケの寮費が掛かります。料金の差はどの寮を選ばれるか次第ですね。それと望まれる科の制服をお持ちでない新学生は必ず作る必要がありますので、別途400万ビーケほどの費用が発生します」

「せ、制服……それは着用しないと学内の『王立図書院』には入れないんですかね?」

「もちろんです。学院生であることの証明にもなりますから」

「分かりました。騎士、魔導士、官吏の科目選択期日は?」

「12日後が今期入学募集の締め切りとなりますので、それまでに選択科目を教えていただければ。その時に諸々のお支払いや寮のご案内、あとは制服が必要な方は採寸を測らせていただくことになります」

「なるほど、だいたいは入学希望と同時ですね。それで入学したら1期毎に3度ある試験のうち、規定水準に2度到達しなかった場合は即退学。ただ入学金を再度支払えば何度でも入学し直せるということですよね?」

「いえ、何度でもということはありません。学院の入学条件は12歳から15歳まで。なので16歳以上の年齢を申告された方や、明らかに外観からその年齢ではないと判断できる方は入学をお断りしています」

「申告、ですか?」

「学院側では本当の年齢など知りようがありませんし、見た目からでは年齢を推測しにくい亜人の方々も多く存在します。なので偽りだとはっきり分かるような状況でもなければ、こちらとしては申告を基に受け入れざるを得ないのですよ」


 ……よく言うわ。

 そう思って短く溜息を吐く。

 戸籍が存在しないのだから言っていることは間違っちゃいないんだろうけど、その状況を利用し、間口を広げて入学金で稼いでいるのは学院側だろうに。

 入学に試験のようなモノはなく、話を聞く限りは『学年』という考え方もない。

 3か月に1度、年4回入学できるタイミングがあり、そこから計12期で構成される3年間、3回に2回は試験クリアという条件を一度も脱落することなく通過し続ければ、最終|階位《クラス》と共に卒業を証明してくれる。

 そしてそのクラスがより高いほどスーパーエリートコースの切符になるようだけど、そもそもどれほどの割合で卒業できているんだろうな……

 まぁ俺は卒業なんてどうでもいいので、本題はこっちの方だが。


「ちなみに、3回に2回は試験を通過しておけば、授業は受けなくてもいいんですか?」

「構いませんよ。履修済の得意科目の時は自己鍛錬や自己学習、それに図書院で読書に励まれる方も多いですから」

「それは良かった。あとは――うん、こんなものかな?」


 入学時期がバラバラの人達相手にどうやって試験をやってんだろうとか、クラス分けって何を基準にやっているんだとか。

 他にもポツポツとした疑問はあるにしても、卒業ではなく本の読破が目的の俺にはあまり関係ないこと。

 仕組みが面倒なら短期集中で目的を済ませ、とっとと退学しようと思って結論を下す。


「では入学しますので手続きお願いします。お金はこの場で支払いますので」

「え?」

「ですから、入学します。寮は不要、制服は所持していないのでお願いします。科目は――騎士、でいいかな」


 初めから魔導士はないと思っていた。

 もう隠す気はないけど、不必要に黒い魔力を見せる理由もない。

 しかし、官吏はどうだろうか?

 一瞬、選択して真面目に勉強すれば国の運営に役立つんじゃないかとも思ったが、その考えを打ち消すように浮かんだのはハンスさんの言葉だった。


『なんでも自分でやろうとするな。人に任せろ』


 その通りだなと思う。

 俺にしかできないことがあり、やりたいこともある。

 ならば自分で担おうとするのではなく、担える人材を見つけてくればいいのだ。

 そう考えると……うん?

 もしやこの学院って、人材の宝庫になるのだろうか?

 そんな考えが頭をもたげたところで、目の前の女性が口を開いた。


「は、白王金貨……し、承知しました! ではすぐに手続きを取らせていただきますので、ご両親はお近くにいらっしゃるのですか?」

「え?」

「一応規則でして、当学院は希少な書物を多数抱えております。もし破損や焼失などが起きた場合、親元にご相談させていただく事例もありましたので、お国と家名、もしくは商売を営まれていらっしゃるようでしたら、屋号なども入学時には頂戴しておりました」


 きっと俺が子供ということで、何かあった時の保証人のような存在を求めているんだと思うけど……

 どうしよう。

 親だと言って無一文のフィーリルを連れてくるわけにもいかないし、家名なんてモノもない。

 俺自身が世界を旅するハンターとでも言っておけばなんとかなりそうなものだが、もしそれで身元不十分とか言われ、入学できなくなると話がややこしくなってしまう。

 というか、だ。

 好んで他人に名乗ることはなかったけど、用が終われば去る気満々のこの場面で、俺は素性を隠す必要があるのだろうか?

 それに先ほど頭を過った人材登用という面でも、短期とは言え俺自身の素性を明かしておいた方が後々の縁に結び付く可能性もあるのでは?

 リスクはあるやり方だが、なんせうちには政治に協力すると言っておきながら趣味にひた走ったままの愛の女神様がいるのだ。

いざとなれば変なのが混ざらないよう、判別に協力してもらうくらいは問題ないはず。

 ――そう考えると、答えは早かった。


「国はアースガルドです」

「アースガルド……? えっ、と、浅博で申し訳ありません。大陸のどの辺りにある国なのでしょう?」

「中央みたいですね。ラグリース王国の南、パルメラ大森林の内部に新しく興した国なので、知らなくても当然だと思います。あ、名はロキで、家名はありません」

「………ロ、キ……? あの、異世界人の?」

「あ、はい」

「ほ、本物、ですか?」

「はい」


 受付のお姉さんでも知ってるもんなんだな。

 そしてこんな時にあまり疑われないとは、さすがイメチェン、舐められない服である。

 あとは入学時期までガルムのマッピングを進めておき、極力日中は図書館に入り浸れる時間を作っておけば問題ないだろう。

 2回目の試験がある2か月後。

 それまでに蔵書数次第だが、図書館の用事を済ませることが当面の目標か。


「ふ、不合格……」

「……?」


 そう思っていたが。


「不合格です!」

「なんでやねん」


 なぜか。

 試験がないこの学院で、俺は不合格を突きつけられていた。
485話 カタツムリ副学長

 目の前には怯えた表情を見せる、カタツムリのようなクルクルの髭を鼻の下から生やしたおじさん。

 俺の「なぜ?」という疑問に、先ほどの女性は慌てて裏へ引っ込み、代わりに出てきたのが説明会場の責任者であり、学院の副学長を名乗るこの男性だった。


「聞かれたから答えたという、それだけなのですが……僕が一転して『不合格』になった理由を教えてもらえませんか?」

「そ、それは、あなたが――ッ、大変失礼いたしました。ロキ王様が、異世界人だからです」

「それは先ほどの流れから分かっていますので、異世界人だから駄目という理由を知りたいのです。あと気を使う必要はありませんから、言葉は普通にしてください」


 そう告げると、目の前のおじさんは1度大きく呼吸を整え、額に汗を浮かべながらも意を決したように言葉を吐き出す。


「まず間違いなく、ロキ王がこの学院に入学されれば、生徒も、教師陣も、内部は大きく混乱します」

「……」

「ご自身がどれほどの影響力をお持ちか、ご理解されていますか? 異世界人に恐怖する者達もおりますし、今は別の異世界人を起因とした内部分裂により、国が東西に大きく割れているのです」

「東部が親アルバート派であることは、多少ですが理解しています」

「そんな中で、現王政派であり中立を掲げるクルシーズ高等貴族院に、別の異世界人であるロキ王が入学されたとなればどうなりますか? 王政派が東部を抑え込むためロキ王を擁立した、もしくは縋り下ったと見る者たちも多く現れることでしょう」

「僕はただ、この学院にある本で勉強したいだけなんですけど……」

「そのお気持ちは決して否定しませんし、本来ならば歓迎させていただきたいところです。しかし今は時期が悪い……この学院は国を跨ぎ、大陸中から高貴な家柄に生まれたご子息、ご息女、さらには一部の王族までもが学ばれております。だからこそ中立であらねばならず、現王政派の下で現状を打破しなければならないのです」


 この言葉を聞いて、呆れた顔を隠すように頬を掻く。

 はぁ……もっともらしいことを並べちゃいるが、時期が悪いって。

 あまりにも現実が見えていなさそうな考え方に一瞬マリーの手先を疑うも、それっぽい反応は【探査】で拾えず。

 ということは天然なのだろうが、随分と理想論を掲げた人だな。

 この人は5年10年、さらにはもっと先の将来的なクルシーズ高等貴族院を見ているのだろう。

 ここで俺という別の異世界人を交ぜれば、マリーに傾いている東へ対抗したように見え、対外的に中立という立場を示しづらくなる。

 結果、何かしらの派閥――それこそマリー派や勇者タクヤ派など、既にどこかへ属している国、もしくは個人から嫌厭される可能性を危惧している。

 そんなところだろうとは思うけど……


「一つ、教えてください。今の考えはあなた個人によるものですか? それとも王政派、つまりは王の考え方であり方針になるのでしょうか?」

「そ、それは……もちろん国王陛下も同じお考えでしょう。中立とはマリーを含め、どの異世界人にも寄らないということ。今までもこれからも、ガルム聖王騎士国はそう在らねばならないのです」

「……なるほど。つまり中立派の皆さんはそのまま国が消えることも止む無しと、そうお考えなわけですね」

「え?」


 そんなのは今をしのぎ切れたらの話。

 まだ対抗できているとしても、傭兵の募集を見ていればどこもかしこも人材が不足している様子は見て取れるのだ。

 それに今はあくまで内戦のようだが、もしマリーがその気になって自国の軍でも攻め寄こせばあっという間に決着だろう。

 あの女のことだから、戦力を削りあって弱っていくガルムを眺めながら高笑いしていそうなものだけど……

 それとも、抱えている問題を解消できるほどの手札でも持っているのか?


「実は僕、傭兵業もやっていましてね」

「王が、傭兵……?」

「戦地での守備隊要員や要人警護、それに施設警備も広範囲に渡ってかなりの募集が掛けられていましたよ。ここ、クルシーズ高等貴族院も」

「……」

「どこもかしこも人材不足で、傍から見ればまったく余裕があるようには見えませんでした。内戦でコレですから、とても背後のアルバート王国が加担すれば戦況を維持できるとは思えませんけど……この国の王様は何を以て中立を掲げる学院をこれからも守れるとお考えなんですかね?」

「そ、それは……」


 ……まだ、何か考えがあるのか?

 かなり動揺しながら言い淀むも、それでも何か対抗策があるような、絶望には染まりきっていない表情を見せる副学長。

 それが何かは分からないが。

 まぁいい。

 俺が想定する最悪は、この学院が親アルバート派やマリーの手に落ち、本の情報を得る機会が失われること。

 このろくに自国の情勢も把握できていなさそうな男が抱える自信など信用ならないし、そうなる前に多少の無茶はさせてもらうか。


「話を聞くに、あなたは何よりもこの学院が大事なわけですよね?」

「この学院があってこそのガルム聖王騎士国ですから」

「ならば、この学院をアルバート派の手に渡したくはないでしょう?」

「それは当然のことですが……?」

「でしたら僕を生徒にしておく利点は大きいと思いますよ? ガルム国内の争いに余計な首を突っ込むつもりはありませんけど、自分自身が襲われたとなれば話は別。ここにいる間はついでに学院を守るようなものですし、わざわざ金は払って護衛を望む者がいるなら、これほど素晴らしいことはないでしょう?」


 そう告げるも――、この薄い反応は違うな。

 そう分かり、角度を変えて言葉を続ける。


「少なくとも、人手不足で戦力を欲しているこの国のお偉いさんは喜ぶ可能性が高いと思いますけどね。逆に中立派だからあり得ないと、その機会をもしあなた個人の判断で勝手に切り捨てれば、最悪は相当な責任問題に発展する可能性もあると思うんです。それこそ、副学長をクビ、とか」

「……10日ほどお時間をいただけますか? 私では判断致し兼ねますので、上の者に相談してから回答を……」

「承知しました。ではまた10日後の――そうですね、正午にでもここへ訪れましょう。良い返答が聞けることと、あなたのこの功績が称えられて学長にでもなられることを願っていますよ」

「やれる限りのことはやらせていただきますので」


 大事なのは学院ではなく、自分の椅子。

 結局のところ、このカタツムリはただの権力バカか。

 それでもこの男の伝え方と誰に伝えるか次第。

 敢えて狙っているであろうポジションを言葉にしたのだから、これで同じ毛色の可能性がある学長には報告しないと思うけど……

 まだ俺の入学が認められない可能性もあるし、他にもこの男が抱えていた妙な自信など、不確定な要素はいくつかある。

 そうなった場合は――


(いやいや、エニーと護衛役にカルラを潜り込ませるとか、それはさすがにないよなぁ……)


 説明会場を出てからもそんなことを考えつつ、空の旅は再開された。
486話 それぞれの残された道

 ガルム聖王騎士国は俺が抱えている書物の中で、非常に多く名前の登場する国だった。

 国の歴史はこの一帯で最も古く、長い伝統を誇る聖王騎士――特にその中でも聖騎隊と呼ばれる騎馬部隊が非常に強いようで、過去に多くの侵攻を跳ねのけたという歴史書の類や、戦術書にも国名や聖騎隊という名前が挙がるほど。

 馬の育成にも優れ、何やら特殊な育て方をするガルムの馬はかなりの高値で取引されるような情報が残されていたし、当然のことながら学院に関連する情報もいくつか存在していた。

 一方で狩場に関する有力な情報は拾えず、その点はあまり期待できないと思っていたが。


「結局、新規スキルは得られずで終わりか」


 王都を出てから9日目。

 トータルでも3週間ほどでガルムのマッピングが一通り完了したことを確認し、今まで回った国の中でも一番の小国であること。

 そしてまともに狩れた狩場が一ヵ所も無かったことに溜息が漏れる。

 1種だけ『赤兎馬』と呼ばれる、Cランクの真っ赤な巨馬の魔物が北東部の高原に生息していたけど、所持スキルは【俊足】や【突進】といった既知のモノばかり。

 素材目的で多少狩った後はすぐにその場を離れ、俺はマッピング作業を再開させていた。


 しかし――。

 改めて狩場を訪れ、上空から周囲を広く見渡す。

 初見では見逃した違和感も、各町を一通り回った今ならばはっきりと分かる。


「なるほどねぇ……」


 馬の『色』が微妙に違うのだ。

 ハンターギルドが示す狩場の『赤兎馬』は鮮血のような赤さをしていたが、少し離れた麓では赤茶けた色や光の加減によっては濃紫にも見えるボルドー色、もう少し色味を落とした赤褐色の馬も存在していた。

 周囲を厳重に見張り、隠すように作られたその一帯は広く太い鉄柵で囲われており、今ならばここが人工的に作られた放牧場であることが分かる。

 そして色だけでなく、生物としての本質も異なっていた。


「これは魔物……こっちも魔物……あ、ここからは動物になるのか」


 活かせるかは分からないし、活かしたいとも思わないけど勉強にはなる。

 育て方とは言うも、実際は魔物と動物の配合による結果。

 ここはその振り分けでもしているんだろうな。

 赤みが強いほど馬体が大きくなり、しかし体内に魔石を有する魔物になるため、制御には【魔物使役】が必須となり扱いが難しくなる。

 しかし色味が西側で多く見られた栗毛や黒鹿毛に寄れば、魔物の血も多少は継いだ動物の枠に収まるため御しやすくもなる。

 何が一番求められているのかは分からないけど、東に行くほど赤みの強い巨馬に騎士や兵士達が跨っているのだから、これが聖騎隊の要になっているのは確定的か。

 フィーリルが連れてきたデカい馬もかなり赤かったし、どうせ生物としての興味が湧いてこの辺りからパクってきたのだろう。


 大陸中央よりもやや東寄り。

 西と東の騎士や兵士達が多く集まっていた地域を線で繋げば、おおよそ親アルバート派の占拠率は国土の3割以上4割未満といったところ。

 町の多くは人が普通に生活しているので、お互いに戦える者同士がやり合っているという、まだ常識的な戦いを繰り広げているようだが……

 マリーが金でも支援しているのか、西と比べて傭兵の報酬は東側の方が高く、ギルドの受付嬢と会話をすれば、兵の不足を補うように傭兵連中の多くが東側へ付いていることはすぐに理解できた。

 兵数はまだ西の王政派が有利なのかもしれない。

 しかし馬で負け、質もランカークラスの傭兵が混ざるとなればたぶん負け、お互いが兵を磨り潰しているのだから国力は低下する一方。

 加えてアルバート王国と直接的には隣接していないものの、既に落ちていると思われるパルモ砂国を通じて戦力を送り込めるとなると――。


「あーあ。この国ももう、詰んでないか……?」


 当初はまだ粘っていると思ったが、そんなこともない。

 俺にはもう、マリーがほぼ無傷に近い形でガルム聖王騎士国を手に入れる、その一歩手前の段階にしか映らなかった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 時はガルムの東端にロキが辿り着く1週間ほど前まで遡る。

 ガルム聖王騎士国の頂点であるウォズニアク王とこの国の宰相ベントル。

 そして国の象徴でもある聖王騎士の長――、聖王騎士総団長ハーゼンを含む国の重鎮達が話し合いを進める中、高官に付き添われて現れたのはこの男。


「副学長のニトイか。緊急を要する重大事案が発生したと聞いたが?」

「ハ、ハッ! 取り急ぎお耳に入れておかねばならない問題が発生致しまして!」


 ニトイはまさかの御前会議に参加するとは思いもしなかったが。

 それでも宰相に言葉を返しつつ、異世界人が突如として説明会場に現れたこと。

 そして一度は断ったものの、強く入学を希望していることを伝える。


「狙いはやはり、所蔵している本か?」

「左様でございます。ただ厄介なのは途中まで身分を伏せたまま入学の手続きを進めており、一度了承とも取れる返答をうちの若い者がしてしまっている点でして……」

「それで、なんと言っているのだ?」

「必要な費用は支払った上で、在学している間は学院の護衛くらいするから入れてほしいと。どうやら傭兵稼業にも触れているようで、私では正誤の判断まで付きませんでしたが、国内の戦況を多少は理解しているようでした」

「第5の異世界人ロキですか……これを好機と捉えるべきなのか、悩ましい相手が自ら転がり込んできましたね」

「え?」


 この時、副学長ニトイは僅かに驚きの声を漏らす。

 まさか中立派であり、王政派としても強い力を持つ聖王騎士総団長が、肯定的とも捉れかねない答えを選んだからだ。

 さらに王が尋ねたことで、宰相も続く。


「宰相はどう思う?」

「人物像を測りかねますからな……しかし彼の者がフレイビルで転送を成功させたことは紛れもない事実。ともすれば【空間魔法】所持者を安易に拒否したところで、過去の甚大なる被害が再度繰り返される恐れもございます。ここは受け入れつつ、もう一人の候補者として言動に注視すべきかと」

「よ、よろしいのですか? 中立という立場だからこそ得られた我が国の信用が、ここで崩れるやもしれません。『赤馬』の交配施設は東部反乱軍の手中にあると聞いておりますし、学院だけはなんとしてでも守らねば我が国の財政が――」

「なぜ、学院の副学長でしかないお前が、国の財政にまで口を挟む?」

「ッ……」


 言外に、心配なのは自身の立場だろう? という宰相からの射貫くような厳しい視線。

 耐え切れず、返す言葉もないまま背を丸めた副学長ニトイに向け、王は静かに口を開いた。


「親アルバート派――その旗手となるダムラット辺境伯を中心に説得を試みてもう2年。その間にどれほど東部の戦線が押され、我が国の騎士や兵が死んだか分かるか?」

「い、いえ……」

「仮に中立を示し、交渉を続けながら現状維持に努めたところで所詮は内戦の続く国。まだ距離があるとは言え、戦火が次第に近づいている中で入学者の減少を止められはせぬ」

「それは、間違いございません……」

「もうこの国に残された手立ては余りにも少ない。理想だけで国は守れぬ……何者かの庇護下に入らねば、民の生活は守れぬのだ」

「そ、そんな……」


 金が尽きれば、当然国は潰える。

 こちらの兵が尽きてもそれは同じで、さして広くもない領土は『赤馬』と想定以上の資金で傭兵を押さえた親アルバート派が戦況を有利に進め、西へ西へと支配領域を広げてゆく。

 かと言って親アルバート派を殲滅し、仮に東部の土地を取り戻したとしても結局は国内戦力。

 まだ僅かながらに生き残る道へと繋がるものの、双方の削り合いで大きく戦力の低下した状況を他国が放っておくとは思えず、それこそマリーがこれ見よがしに次の手を打ってくるだろう。

 だからこそ望みを捨てず、多くの兵を引き連れ反旗を翻した貴族たちの中心人物――ダムラット辺境伯の首を狙うのではなく、説得という方法を粘り強く試みたが……

 まだ規模のそう大きくなかった2年前でも傾くことはなかったのだ。

 勢力が拡大し、攻勢に出ている現状では尚更に傾くとは思えない。

 そのような情勢を理解していたからこそ、王政派の貴族を集め、説得も含めた話し合いが行われ始めたのは既に1年近くも前のこと。

 ガルムにとって不倶戴天の讐敵とも言えるマリーは論外として、他の誰を頼り庇護下に入るべきなのか。

 それしか国を存続させられる道は残されておらず、その筆頭に勇者タクヤのいるエルグラント王国の名が挙がっていた。

 外交取引もあり、西の戦地で聖王騎士の力を借りられるなら後ろ盾になると、そこまでの提案を受けていたのだ。


 だが、新たに浮上した第5の異世界人ロキがわざわざこの地に訪れたとなれば、果たしてどのような人物なのか確認したくもなるというもの。

 王子や王女ならまだしも、現役の王が入学を求めるなど、長い歴史を遡っても前代未聞過ぎて意味が分からないが……

 ヴァルツ王家を吹き飛ばし、各国に脅しを掛けるなど過激な面が目立つも、民を守るために建国したという話も伝え聞くのだから、マリーのように性根が腐りきっているとも思えなかった。


「よし、異世界人ロキの入学を許可する前提で、余が自ら伝えに行こう。人となりをその場で見定める。それとこの件は国の明暗を左右する事案ゆえ、箝口令を敷く。ニトイ、早急に戻り、説明会場内にも周知徹底させよ」

「へ、陛下が外を出歩かれてはさすがに危険が過ぎます!」

「その通りです。東の連中がどこでお命を狙っているか……!」

「何を言うか。相手は一国の王、ならば余が相手をしないで誰がする。ハーゼン、おまえも同行すればそう危険が降り掛かることもあるまい?」

「そ、それは、もちろん全力でお守り致しますが……」


 この時、まともな返答もできぬままそのやり取りを眺めていた男は、徐々に理解し始めた国の現状に震え始めていた。

 学院さえ無事であれば、なんとかなると思っていた。

 ある意味では、預かった子供達が最大の盾になるのだ。

 仮に王都を――、学院を攻め込もうものなら、大陸中を敵に回すことになる。

 そんなこと、たとえマリーでもできやしないと、そう高を括っていたのに……

 なぜ、忠誠を誓い、中立派に尽くしている副学長の自分を差し置いて、どこかへ下るような話を|勝《・》|手《・》|に《・》進めている?

 そのようなことになれば、学院の運営に心血を注ぎ、ようやく手にしたこの立場は――。


 男は恐怖と怒りで拳を震わせながら、心密かに決意を固める。

 ガルムの象徴である学院を守るために、自分がなんとかしなければ、と。
487話 王の懇願

 約束の日。

 指定した時間に先日の説明会場へ向かうと、入った瞬間から異様な空気の重さを感じる。

 その場にいる人間が例外なくピリついており、中には顔の蒼褪めた連中もいるのだから、よほどのことだと思うが……

 なんだ?

 俺はまだ何もしていないぞ?

 よく分からないまま案内され、前回とは別のやたら広い応接室に通されると、ソファには神様みたいな髭の蓄え方をした爺さんが。

 そして背後には――ああ、これは相当強いね。

 今まで見た人間の中では、ハンスさんという例外を除けばトップクラスにやりそうな気配のする男が、鈍く輝く金緑色の鎧を身に纏って佇んでいた。

 目が合うと、スッと立ち上がる爺さん。


「お初にお目に掛かる。ワシはウォズニアク・クライセム・フォン・ガルム。ガルム聖王騎士国の王をやっている」

「え」

「私は聖王騎士の総団長を務めております、ハーゼン・フォン・バルクラッドと申します。以後、お見知りおきを」

「……ロキです。えーと……んん? これはどういうことなんでしょう?」


 連れてきてくれたお姉さんに視線を向けるも、既にトンズラこいてその場におらず。

 状況からして俺が部屋を間違えたということはなさそうだが……

 まさかあのカタツムリ、王様に直接進言したのだろうか?


「副学長であるニトイから、ロキ王がうちの学院に入学を希望していると聞いたのでな。その返答を伝えにこうして訪れたのだ」

「わざわざ王様が、ですか?」

「うむ。前代未聞だが、他所の国の王が自ら入学を希望しているのだ。ワシが対応せねば失礼だろうと思うてな。それに新たな異世界人がどのような人物か、この目で確かめたかったということもある」

「なるほど」


 後者が王様の本音だろうけど……まぁいいか。

 だからと言って俺が何をするわけでもない。

 唐突過ぎて緊張する暇すらなかった。


「我が国が長い歳月を掛けて集めた蔵書から学びを得たい。代わりに在学中は護衛をすると、そういう報告を受けているわけだが、これは間違いないだろうか?」

「そうですね。ただガルムの内紛に首を突っ込む気はありませんから、あくまで自分の身を守るついでで、いる時は学院も守りましょうという程度ですが」


 ふむ、と。

 髭を扱くウォズニアク王。

 カタツムリがどう伝えたかは分からないけど、少し予定と違ったというような表情だな。


「ちなみにロキ王は、かの【空間魔法】所持者だと聞いておるが……なぜ、そうまでして入学を求める?」

「と、言いますと?」

「わざわざ入学をしなくても、その気になれば目的は果たせるだろうて」

「あぁ、そういうこと……確かにやろうと思えばできるでしょうけど、僕はそれが許容されない『悪』であると認識しているので、単純にやろうとは思わないだけです」

「『悪』だから、か……その若さだ。てっきり本だけではなく授業にも参加し、生徒との交友や繋がりも求めているのかと思ったわ」


 そう言って笑みを零す王様へ、少しばかり気になったことをぶつける。


「そこまで暇じゃありませんよ。それにしても具体的に【空間魔法】を名指しするとは、まるで一度被害に遭われたような口振りですね?」


 そう告げると笑みは一瞬で消え、ドス黒い感情を必死に隠すような、険しい表情をウォズニアク王は見せた。


「まだ先代が王の時代だ。同じように本を読ませてほしいと、そう告げてきた女がおった。しかし明らかに入学条件である年齢を満たしていなくてな……」

「……」

「まだガルムが中立の立場を強く示していた時代でもある。異世界人であると告げられようとも丁重に断りを入れたらしいが、しかしその翌日には学院が抱える蔵書は綺麗に跡形もなく消えていた。公開せず別に管理されていたモノも含めて、すべてだ」

「それは、なんとかなったんですか……?」


 待て待て待て。

 気の毒には思うし、マリーくたばれとも思うが、同じくらい今の所蔵数も気になってしまう。

 内容によっては俺が入学する意味すらなくなるんだが?


「うむ……国の重要機密ゆえ、詳しくは答えられぬがな。かつて抱えていた蔵書は全て元に戻してあるとだけ伝えておこう。だが、希少な書物が丸ごと奪われたことには変わりなく、戻すために10年以上の歳月と多大な費用が掛かったのも事実」

「それは、そうでしょうね」

「そして今、そんな輩に誑かされた貴族連中が謀反を起こし、東から国を落とさんと戦を仕掛けているのだ……マリーの掌で転がされ、利用されていることにも気付かずな。ふふ……ふふふ……これほど滑稽なこともあるまい?」

「そんなことはありませんよ。どこもかしこも、僕が通ってきた国はみんなマリーに苦しめられていましたから」


 それらしい影響を受けていなかったのはジュロイくらい。

 大陸の東部に向かうほど侵食され終わったか、もしくは現在進行形で侵食が進んでいると判断しても間違いじゃないだろう。

 あのハンスさんがいるエリオン共和国だって、何もされていないという保証はどこにもない。

 それに、うちだって。


「……ロキ王、学院への入学は許可する。ただ……いや、違うな。それとは別の話として、折り入って頼みたいことがある」

「……」

「我が国を――、ガルムを、救ってはもらえぬだろうか?」


 あまりにも唐突な話だった。

 目の前で、歳は60を超えたくらいか。

 多くが白髪に染まった老人であり、一国の王が、しわがれた声を震わせながらゆっくりと俺に頭を下げる。

 護衛でもある背後の精強な男も、悔しさを滲ませた表情を浮かべながら王に倣った。

 いいように振り回され、遊ばれ、国が衰退していく様を見せつけられているのだ。

 苛立ち、苦しさ、悔しさ……その気持ちは俺にだってよく分かる。

 でも……


「この国を、一通り回ってきたんですよ。東の地も、国境まで。だから、八方塞がりだなって……この状況ですから、正直に言えばそう感じてしまいました」

「そうか……」

「謀反を起こした東部の連中を一掃する――、もしそれができたとしても、あの兵数では、その後が続かないでしょう?」

「一時凌ぎにしかならん……そう思って我らは約2年、ひたすら守りに徹し、親アルバート派の説得を試み続けてきた。削り合いこそがマリーの狙いだろうからな」

「でも上手くはいっていない。となれば、もう解決の方法は二つに絞られてくる。一つは大元であるマリーとアルバート王国を直接叩くこと――しかし自国のためならまだしも、ガルムを救うためにというのはさすがに違うでしょう? それこそうちの抱えるリスクにまったく見合いません」


 これには深く頷き、分かっているとでも言いたげな表情。

 となれば、望みはこちらか。


「もう一つは僕がガルムの盾となり、叩かれ難い環境を作ってしまうか、ですが……これも残念ながら僕は望みません」

「ラグリースのように、属国へ下るという条件が付いたとしても、か?」

「ですね。ラグリースは止むを得ない事情もあって承諾しましたけど、管理もしきれない土地を増やすことに僕はなんの魅力も感じませんから」

「誰よりも上に立つことを、望まぬわけか……」


 それが、土地を求める理由なのか?

 だったら何よりも"強さ"を求める俺には不要なことだ。


「それに――これがある意味、一番大事なことですね」

「?」

「僕は、勇者じゃない」

「……」

「潰すべき悪党も、そのタイミングも、誰かの願いや望みで決めるつもりはありません。なので申し訳ありませんけど……適任が他にいるのではないですか?」


 わざわざ物語を作ってまで、自分を勇者だと名乗る人物がいるのだ。

 切羽詰まっている……それは分かるが、少なくとも初対面の俺に打診するような内容ではない。

 頼る相手を間違えているだろうと、適任者の存在を示唆すれば、ウォズニアク王は用意していたかのように答えを返す。


「勇者タクヤのいるエルグラント王国には、ロキ王が難しいなら頼むしかないと思っていた……それしか残された手立てがないゆえにな」

「止むを得ず、ですか」

「勇者タクヤの名を借りる条件の一つが、西の戦地に聖王騎士を送り込むこと。これが何を意味するか、ロキ王も分からぬわけではあるまい」

「……」


 戦地とは言うも、従属的な立場なら最前線に配置されるのが常。

 アルバートの脅威に晒されているというのに守りはより手薄となるし、そもそも戦力を求めているエルグラントが、ガルムの危機に合わせて戦力を送り込めるのかという疑問も浮かぶ。

 仮に戦力を送れたとして、それでも距離を考えればまず急場には間に合わないのだから、結果的には勇者タクヤという異世界人の名前だけを借りるといったところか。

 これだけでも十分利用されている感は否めないが。


「条件の一つということは、他にもあるんですか?」

「戦費の負担や良馬の無償提供など、要項はそれなりにある。それにワシの娘と孫娘も3人、エルグラントへ引き渡すことになる……」

「なるほど……勇者タクヤは消去法の結果なんですよね? 個人的に一番まともなのは、エリオン共和国のハンスさんだと思いますが?」

「真っ先に打診した相手だ。しかし"手に余る"と、あっさり断られた」

「そ、そうですか……」


 重苦しい沈黙。

 ハンスさんの返答を聞いても、そうですよねと、同意することしかできない。

 それが現実なのだ。

 まず守るのは自国であり、他所を同列に並べることなどできやしない。

 そんなのは当たり前のことで、誰彼構わず救おうなど傲慢でしかなく、結果本当に大事なモノを取りこぼすことになる。

 だと言うのに――


「土地の代わりに賄える何かがあるのなら、それでもいい。憎きマリーの手に、このまま黙って落ちたくはないのだ……これ以上我が国の兵を……民を苦しめたくはないのだ……頼む……頼む……」


 ――皺がれた手と声を震わし、懇願する王。

 その姿を見て、大きく溜息を吐きながらも思考は巡る。

 うちが損害を被らない方法か……


「――もし、ですよ。当初進めていた『説得』が成功し、親アルバート派となった東の連中がこちらに戻ってきたとしたら、その時はどうなりますか?」

「……戻ったからとて、アルバートに太刀打ちできるなどと宣うほど慢心するつもりはない。が、一丸となれば、容易く攻め落とされはせぬ……絶対にな」


 王はそう言い、背後で立つ総団長も同意を示すように恐ろしい眼力で深く頷く。


「そうですか。ならばせめて、それだけでも試してみますか? ガルムにとっての理想でしょうし」

「それはそうだが……しかし、2年掛けても見込みは――」

「だから、僕が裏で動くんですよ。その『説得』に」

「ロキ王が?」

「もちろん相応の報酬は頂きますし、必ず成功させるなんて無責任なことも言えません。でもこのまま勇者タクヤの名前に縋って賭けに出るよりは、上手くいけば見通しも明るくなるのではないかなと。まあ、一傭兵からの提案だと思ってください」

「傭兵……そういえばロキ王は、その立場でありながら傭兵稼業もしているという話だったな。傭兵に良い印象などまるでなかったが、そうか……そうだな、ならばぜひ依頼をさせてもらいたい。成功した暁には宝物庫を開くゆえ望むだけの褒美を――ただし、孫娘だけは勘弁してくれ」

「あの、娘さんも忘れないであげてくださいね?」


 今までとは違う、人を生かすことが目的の依頼。

 正直に言えば、凄まじく面倒な内容だが。

 それでも表立つことなくマリーに打撃を与え、ガルムの情勢を改善させるとなればこのくらいしか思い浮かばないのだ。

 それにこの国だからこそ引き出したい報酬もある。

 その後、情報の擦り合わせは1時間以上に渡り、対価の話も概ね纏まってから入学のための手続きが開始された。
488話 老獪

 某所にて。

 スラリとした眉目秀麗な若執事が、扉越しに屋敷の主へ声を掛ける。


「マリー様、国から通信が」

「内容は? 大した話じゃないなら後にしな」

「第五の異世界人、ロキに関係することです」

「……そうかい」


 入室を許可され、男は淫靡な臭いが漂う中で手にしていた書類を渡す。

 するとマリーはガウンを羽織り、椅子に深く腰掛けながら流し見たのち、一度大きく溜息を吐いた。


「次はガルムか。案の定、さらに東へ進路を取ってきたってわけかい」

「そのようですね。まだ不確定要素も多い情報ですが、あの男が再びマリー様の邪魔立てをする可能性もあります。今回は事前に情報を得られただけ朗報かと」


 そう、マリーにとっては朗報だ。

 アルバート王国を介して入った情報は、予期せぬルートからの密告であり。


 ――本の知識を求め、異世界人ロキがクルシーズ高等貴族院に入学しようとしている。

 ――ウォズニアク王自らが中立の立場から脱却し、勇者タクヤ、もしくは第五の異世界人ロキに庇護を求める可能性を示していた。

 ――学院の存続と自分の立場を保証してくれれば、今後も協力は惜しまない。


 このような内容の手紙が、副学長ニトイの名でアルバート王国に直接届いていると記されていた。

 マリーにとって、一部は今更な情報だ。

 王政派の中にも内通者を忍ばせているため、ガルム王家がハンスに助力を断られ、勇者タクヤに縋るしかないことなどだいぶ前から把握していた。

 だからこそ、この内容が真実である可能性は高いと判断できるわけで。


「コイツは厄介だね……」


 マリーは誰に聞かせるでもなく、静かに呟く。

 縋る先が勇者タクヤのいるエルグラント王国だから放っておいたのだ。

 あそこが後ろ盾につくなら、庇護とは名ばかりで介入なんてできやしない。

 遠地へ戦力を送る余裕などないし、まず今も、マリーが西部へ様々な物資を供給し続けているのだ。

 アルバート王国と敵対をするということは、供給を絶たれるだけでなく、アルバート王国がエルグラント王国の敵であるヴェルフレア帝国へ与することにも繋がるため、戦況が一気に傾くことくらいあちらも十分理解しているだろう。

 しかし――、第五の異世界人ロキは違う。

 同じ空間魔法持ちの時点で距離など関係なく、単体戦力がゆえに行動を制約できる弱みも握れていない現状では自由に動き回られてしまう。

 向こうも国を興した以上、【空間魔法】持ち相手にそう簡単には手を出してこないだろうが……

 それでもこちらから、あからさまな火種を放り込む必要はない。

 そうマリーは判断していた。

 勇者タクヤかシヴァのどちらか。

 もしくは双方とロキが西でやり合い、共倒れでもしてくれればマリーにとっては一番都合が良いのだ。

 わざわざ自分が真正面から潰すべき相手ではない。


「いや、……違うな。逆にこれを、好機と捉えるべきか」

「え?」


 当初はそのように考えていたが、マリーは暫し思考を巡らせたのち、狡猾な笑みを浮かべる。

 子供姿だと聞くロキは正規の方法で入学するつもりなのだろう。

 そして王も絡んでいるとなれば、まずその話が潰えるとも考えにくい。

 なんせ王家は【空間魔法】持ちを一度断り、過去に痛い思いをしているのだから。

 このままいけば学院生になるということ。

 つまりは所在の特定が容易になる……この利点は恐ろしく大きい。


「ふふっ、面白い。どう動くつもりなのか、少し様子を見てみようじゃないか」


 だからこそこのような結論に至り、その反応は目の前の若執事を困惑させた。


「様子を……つまり時間を与えるということですか?」

「ああ、そうだね」

「それでは目的とされる本の知識も与えてしまうことになると思いますが……あ、もしやマリー様が改めて学院の書物を丸ごと奪うわけですか? それであの男に罪を擦り付けるとか」

「はぁ……シェム、だからおまえは顔と身体だけだと言われるんだ。そんな分かりやすい動きを取るわけないだろう?」

「そう、ですか……」

「ロキの学院内での動き、目的を絞り込むためにはある程度の時間が必要なのさ。ガルム王家の後ろ盾となり、表立ってこちらの計画を潰す意図があるのか。このままアルバートに入り、私と本当に事を構えようとしている単細胞なのかを判別するためにもね」

「なるほど、本だけが目的ではないと」

「欲の尽きない『人』という生き物の目的がたった一つなわけあるかい。それにロキという人間の中身を探るには良い機会だ。書物から深い情報に辿り着く資格があったとしても、あの数なら相応に時間は掛かる……まだ焦る必要はないのさ」


 分かったような、分かっていないような。

 反応に困って苦笑いを浮かべる若執事――シェムに、マリーは鋭い視線を向けながら言葉を続ける。


「そのニトイっていうのに、地位はくれてやるから院内でロキがどう動いているのか監視、報告を命じときな。それと――、分かってるね?」


 ゾクリ、と。

 老獪極まるその表情に、シェムは背筋を震わせながら答えた。


「承知しています。保険も、忘れずに」
489話 騎士科のロッキー

 あれから約3週間。

 既にガルムの地図を作り終えてしまった俺は、終日砂漠で、それこそ通算のチャレンジ回数が50回を超えるくらいには狩場探しを繰り返していた。

 しかし一辺倒というわけではなく、その間マルタのレイモンド伯爵が視察も兼ねて訪れ、ベザートを少し案内したり。

 リルからの【神託】があって戻ってみると、ジュロイの王様とルッソ君がお忍びで、コソ泥みたいな動きをしながら買い物に来ていたり。

 それに夜は依頼遂行のための調査や『説得』の方法を試していたので、方々飛び回りながらなんだかんだと忙しい日々を送っていたわけだが……


「入学生の方は、そのまま真っ直ぐお進みください~」


 ようやくこの日がやってきたかと、濃いグレーの真新しい制服を着用し、周囲の人達に目を向けながら入場門を通過していく。

 話に聞いていた通り、親――、というか大人が同伴している生徒もそれなりに多い。

 この光景を見て、


「なんで私も連れて行ってくれないんですか~!?」


 昨晩、報告会のついでで学院に入学して勉強してくると伝えた時、半べそになりながら訴え掛けていたフィーリルの顔が脳裏を過る。

 寮が絡むからだと思うけど、入学時には親も同行するケースが多いという情報をなぜか掴んでいたフィーリルは、自分も自分もと、それはもう必死にせがんでいた。

 たぶん、憧れでもあったのかな。

 それを止む無く断るしかなかったことに、改めて罪悪感が生まれてしまう。

 でもしょうがない……これはしょうがないのだ。

 フィーリルを連れていけば、もう確実に、これ以上ないほど目立つ。

 あんな母親、どこを探したっていないのだから。

 それにここでは、俺が異世界人だとバレてはいけない。

 仕事を引き受けた状態での入学に当たり、双方見解一致の上で決められたルールが"素性を隠すこと"だった。

 まず何度か『説得』を試みた感触として、生かして解決に導くというのは想像以上に難しく、とても数日でどうこうできる問題ではないことが既に分かっていた。

 それに確定と疑惑、恣意的か故意的かでは損害を被った側としても受け止め方が違う。


 ヴァルツを潰した時は、蓋を開けてみればマリーが大きく絡んでいた。

 フレイビルでロッジの敵を討とうとした時も、裏で暗躍していたからマリーの様々な悪事が結果的に潰れたというだけで、最初からあの女を狙い撃ちして潰しに掛かったわけではない。

 そもそも名前が『鍛冶工房バルニール』であり『レサ奴隷商館』の時点で、マリーの名前なんて表に出ていないわけだしね。


 しかし、今回は違う。

 既に周知された親アルバート派の説得――つまり確信的にマリーの邪魔をするわけで、直接アルバートやマリーに攻撃を加えるほどではないにしても、間接的な攻撃として敵対の意思を示すことになるわけだ。

 となれば戦争リスクは増すわけで、もう少し方々からマリーの悪事であり、繋がりであり、収入源をそれとなく潰して奪っておきたい俺としては、今回身分を隠して事に当たることを前提に考えていた。

 安易に殺すことはできず、ロキという名を使っての脅しも行えないとなれば、そりゃ説得も難儀するってわけである。

 それにガルム側も、副学長のカタツムリが言っていたように大きな混乱を招くのは避けたいし、学院内にもアルバート王国出身の生徒は多くいる。

 既に在籍している生徒を排除することなど難しく、生徒数の減少からそのような手立てを取りたくはないようなので、余計な情報漏洩を防ぐという意味でも、生徒はもちろん大半の教師陣にすら俺という存在は明かさない方が良いだろうと。

 話し合いの末、身分を伏せるという方針で俺は活動することになっていた。


「はい、騎士科希望のロッキー様ですね。寮の希望は無しでしたら、そのまま右手の12番校舎3階へ。案内が出ていますので4番の部屋に向かってください。部屋の机が埋まりましたらすぐオリエンテーションが開始されますので、再入学の場合でもそのまま部屋の中で待機するようにしてくださいね」

「分かりました」


 大きな敷地を移動し、言われた番号の部屋に到着すると、似たような年齢の学生達が30人くらいおり、再入学組なのかな?

 新品には見えない制服を着崩した生徒達が、部屋の一角で談笑しながら自己紹介まで始めていた。

 ん~大半は人間っぽいけど、少しだけ獣人も混ざっているんだな。

 そして50ほどの席が埋まったところで始まるオリエンテーションを、早く終われ終われと祈りながらやり過ごす。

 どうやら最初のクラス分けは1ヵ月に1回、計3回試験を行なった1期分の平均点で決めるらしく、それまでの期間はヒヨコ組として、騎士科で固められたこの団体で多くの授業を受けていくらしい。

 そして、大事なことだと強調しながら、この学院内では身分差など関係ないと教師のおじさんは言っていたけど……


「オルトラン王国、バルバロッド侯爵家が次男、リードル・バルバロッドだ。家督を継ぐ可能性もあるが、認められた武の才を今は伸ばすべく――」

「オデッセン王国、アゾット子爵家の次期当主、ラライン・アゾットです。父は4ヵ国で店を構えるプラチナランクの商人でもありまして、特に『命脈のジルコニア』で得られるダンジョン装備には強く――」

「テリア公国、国内傭兵ランク2位であるカームの息子、ケニッグという。父を超すため、そして自分がこの歳でどれほどの立ち位置にいるのかを確認するために入学した。手合わせはいつでも――」


 なぜだろうな。

 教師の指示で始まった自己紹介は、誰も彼もが真っ先に出してくるのは家柄や親自慢ばかり。

 話を聞いていると、コネ作りや名前を売ろうとしている連中も多いように感じる。

 まぁ大陸中から親が金持ちの、しかも似たような年齢の令息令嬢が集まってくるのだから、社交場の要素が強いのはしょうがないことなんだろうけど。

 でもそうなると、こういう立場の人はツラいよなぁ……


「あ、あの、レフィです。領主様から才能があるって、それで特別に入学させてもらって……これっていうのはないんですけど、皆さんよろしくお願いします」


 自信無さげに下を向き、肩を窄めた少女。

 周囲の視線が名乗りと同時に様々なモノへと変わる。

 その光景を何も気にせず、教師はただ眺めているだけだし……

 先ほど言っていた身分差とは、教師陣に歯向かうなという意味での言葉だったのか?

 そう勘ぐってしまうほどの体たらくっぷりに、見ていてイライラが募ってしまう。

 まともなフォローもできないなら、立場が悪くなりかねない自己紹介なんてさせんじゃねーよ。


「次」

「ロッキーです。平民出で親もいませんし、皆さんのように自慢できることは何もありません。以上です」


 真っ直ぐに教師を見据えると、中途半端な姿勢のまま目を見開いて硬直しており、伯爵やら侯爵という名前以上に教室内がざわつく。

 空気のように過ごそうと思っていた10分前とは正反対の状況になってしまっているが……

 どうせ授業には出ないのだ。

 後悔は一切ないし、ここにいる人達と接点を持つこともまずないだろう。


 そして――。


「本日はこれで以上だ。ここからは希望者のみ学内食堂で昼食後、学院内の施設を案内していく。希望者はそのまま教室で待機するように」


 この言葉を聞いて、真っ先に教室を飛び出す俺。

 魔力を放つこともできない状況ではろくに修行もできず、ステータス画面を眺めて今後の計画を練り続けるだけの時間が辛過ぎたというのもある。

 が、それ以上に皆が昼飯を食おうとしている今のうちに場所取りをする気持ちで、学院内のどこかにある図書院へと向かった。
490話 呪いの言葉

 移動しながら【探査】を繰り返し、道中教師と思われる大人にも確認しながら『本』の反応が強い場所へ。

 すると中央にある本校舎の北側。

 見通しの良い丘の上に王立図書院は存在していた。

 蔦や苔の茂った赤レンガ造りの大きな建物で、周囲にはあまり人もいないし、少し先には巨大な池も広がっていて、なんだかとっても雰囲気の良さそうな場所である。


(コーヒーでも飲みながら外で本が読めたら最高じゃん)


 そんなことを思いながら中に入ると、入口に入ってすぐに行われたのは数人の守衛による持ち物検査だった。

 まず求められたのはオリエンテーションで配られた学生証で、誰が中に入っているのかしっかり記録しており、その管理は厳重そのもの。

【広域探査】だと反応が拾えなかったので、阻害して本の所在も多少は隠すようにしているんだろうな。


「魔道具や武器、それにインク類の持ち込みは厳禁です。本の持ち出しも固く禁じられているので、閲覧は図書院の中でのみとなります。破損には十分注意してください」

「分かりました」


 そして大きな扉の先へ。


(ふぉ~っ!?)


 すぐに周囲を見回し、驚きと興奮で暫しその場に立ち尽くす。

 中は薄暗い照明が灯っており、吹き抜けの高い壁際は湿気対策なのか?

 2階部分に所狭しと書物が並べられていた。

 日本にいた頃の図書館とは比較にもならないが、それでも想像していた以上に量が多く、規模感で言えばうちの図書館より5倍……いやいや、背後の壁面にまで本が並んでいるところを見ると、10倍近い量がここに所蔵されているのかもしれない。

 そして1階は中央に広く並べられた机と椅子が。

 数人の守衛が見張る中、10人程度の生徒達が静かに本を読んでおり、奥の1階壁面にはズラリと古めかしい扉が並んでいた。

 ウォズニアク王から聞いていた通り、アレが俺の狙っている場所。

 外で読んでいる生徒もいるのに……いけるか?

 不安に駆られて素早過ぎる徒歩で突撃していき、扉の前に掛けられた札を順に凝視していく。


(使用中、使用中、使用中、使用中……あったぁ~空室!)


 ガバッと開けると中は2畳程度の小さな個室で、ハンターギルドの資料室と似たような感じ。

 机と椅子が備え付けられているだけだが、個室さえ押さえられればもう俺の勝ちは揺るがない。

 適当に見覚えのない本を2冊調達し、内側から簡素なカギを掛けたら準備完了だ。

 書物用にカットされた羊皮紙やインクを取り出し、早速本の複製に取り掛かる。


 ――【自動書記】――【写本】――


 本来は禁止されている行為。

 しかし俺の場合は特別だ。

 なんせここの王様から許可を貰い、個室さえ確保できればバレないだろうという相談までしているからな。


 "所蔵する本の複製許可を得ること"


 これが傭兵として殺さずの依頼を請けたもっとも大きな理由であり、俺が最優先して求めた対価の一つでもあるのだから、ここからは全てをコンプリートするつもりでひたすら手を動かすのみである。


「ふふ……ふふふっ……あとはスキルを併用したとして、どれくらい複製に時間がかかるかだな……」


 一人そう呟きながら、リコさんに用意してもらったうちの蔵書リストに新しい1冊を書き加えた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ガルム聖王騎士国の東南東にはダンヘイル砦と呼ばれる要塞が存在する。

 山間の峠道を塞ぐように作られており、西に進めばそのまま王都まで通じる交通の要所。

 内紛が始まって以降、東の侵攻が止まらぬことを危惧した王政派が先々を見据えて建造した巨大防衛施設であり、現在4か所で展開されている大規模戦地のうちの1ヵ所でもあった。

 そんなダンヘイル砦を落とすべく、親アルバート派の一角として指揮を執っていたのが、若くして第3聖騎隊の隊長を務めていたロイト・シュトラングという男。

 その求心力と統率力は、打倒王政派を掲げる東部でも非常に大きな存在感を示していたが……


 周囲は寝静まった深夜。

 一際大きな天幕に明かりを灯し、籠城され、得意の騎馬部隊が思うように使えぬ地形に頭を悩ませながら、如何様に攻略すべきか攻め手を検討していたところで――、


 カタッ。


 僅かな、音を拾う。

 小石が跳ねたような、そんな音。


「……」


 陣を敷いているとは言え、場所は山中だ。

 夜間に鳴き声が聞こえることもあるのだし、見張りを立てているとはいえ、野生の動物が入り込むくらいはあるだろう。

 そう思ったが――。

 ロイト・シュトラングはすぐさま【気配察知】を使用し、続けて【探査】で『王政派』の存在を確認する。

 王政派は防戦に徹し、決して攻めに転じない。

 幾度となく対話による解決を求められ、戦力の削り合いを避けようとする目的があることは理解していたが、しかしこの場の指揮官である自分の首を取りに来る可能性は常にあると覚悟もしていた。


 3秒、5秒、10秒――。


 息を殺し、周囲の様子を窺うも、何かが動き出す気配は感じられない。

 ならば、気のせいか。

 静かに息を吐いて視線を戻し、改めて斥候に作らせた周辺地図に目を向けた時。


 ススッ……


 次は、布が擦れる音だった。

 咄嗟に脇へ置いていた剣を握り、反射的に天幕の入り口へ視線を飛ばすと――。



 その存在は、既に天幕の中にいた。


「ッ……!?」


 余りの出来事に、ロイト・シュトラングは声にならない呻きを漏らす。

 肩をゆっくりと左右へ揺らしながら佇むソレは、間違いなく、我らと同じ聖王騎士の甲冑を頭部まで身に纏っていた。

 一瞬、砦を守護する王政派の暗殺かと疑うも、何かがおかしい。

 その者は霞がかったように輪郭がぼやけており、よくよく目を凝らせば、僅かに、背後が透けているようにも見える……


「……ッ……ッヅァアアアッッ!!」


 まったく理解できないことを、理解した。

 その瞬間には不思議と身体が動き、ロイト・シュトラングは纏わりついた感情を吹き飛ばすかのように声を張り上げながら、手に持つ剣を投げつけるも――


「!?」


 ――その剣は身体をすり抜け背後の天幕を突き破り、闇の森へと消えてゆく。

 対して目の前のソレは何事もなくその場に佇み、甲冑の隙間からロイト・シュトラングを眺めているようだった。

 そして、存在を証明するかのように語り掛ける。


『貴様の決断で国が大きく割れ、どれほどの同胞が死に絶えた……結果、得られたモノはなんだ……? これから、得られるモノはなんだ……? 武器を、放せ。過ちを悔い改め、肥やした私財を擲ち、ガルムに忠義を尽くさぬ限り、我は貴様らを許さぬ……絶対に、許しはせぬ……』

「…あぐッ………な、なんという……」

『貴様らが、我ら同胞に武器を向け続ける限り、必ず、何を以てしても、全員を呪い殺してやる……地獄の苦しみを……死を願うほどの、生き地獄を……覚悟せよ……我らが同胞を、国を裏切っての栄光、充足など、絶対に許しはせぬ……』


 目の前で吐き捨てられる、積年の恨みが煮詰められたような呪いの言葉。

 ロイト・シュトラングは、ただその言葉を聞くしかなかった。

 止める手立てなどなく、しかしこの場を逃げ出すわけにもいかず。

 荒い呼吸のまま、顔の伏せられたソレを眺め、聞き続けるしか――。


 しかし目の前のソレは、突如として黒い瘴気のような何かを纏わし、煙のようにその場から消えてゆく。


「はっ……はぁっ……ふっ……」

「なっ……何事……今のは、いったい……し、シュトラング子爵!! ご無事でありますかッ!?」


 そして、天幕の入り口にはもう一人、取り乱した目撃者が。

 奇声で異変に気付き、様子を見に来た部隊の副官だった。


「エ、エキネ……おまえも、見たのか……?」

「は、はっ……聖王騎士の、姿が……黒い、霧に覆われながら、溶けるように……」

「……エキネ、このことは他言無用だ……広まれば部隊の士気を大きく乱すことになる……な、何が、呪い殺すか……そんな、もの……」

「承知、しました……しかし――、………いえ、なんでもありません……」


 魔物にも近しい存在がおり、吟遊詩人の歌に登場することだってあるのだ。

 どの国にも『悪霊』などという、実在するかも疑わしい存在くらいは認知されていた。

 しかし、この二人が真に恐れたのは霊そのものに対してではない。

 二人は理解していたのだ。

 貴族としての身分を有し、武芸だけでなく相応の知識を持ち合わせているからこそ、『呪い』は確かに、実在することを。

 人間が扱った記録はほとんどなく、対象に何かしらの『害』を与える程度のことしか二人は把握していなかったが……

 死者が『呪い』を扱うなど、果たしてあり得るのだろうか?

 事態が呑み込めずに沈黙が続く中、騒ぎを聞きつけ、こちらに走り寄る複数の足音が聞こえ始めたことで、ロイト・シュトラングは纏わりつく怖気を隠すように首を振った。


「さぁエキネ、おまえも周囲を鎮めたらもう寝ろ。ここを破れば王都にも手が届くのだ。他の部隊も足並みを揃えようとしている中で、我らが攻め手を緩めるわけにはいかぬのだぞ?」

「はっ……勝ちましょう、絶対に」


 気丈に振る舞い、それに答える副官。

 二人ともが経験にない恐怖を味わったが、しかし目前に死が差し迫っているわけではないのだ。

 出血もなければ痛みもない。

 となれば大きな志を持って動く彼らの気持ちが、そう簡単に折れることはない。

 だからこそ、謎の現象が東部で広がりを見せていくことに、まだ彼らは気付けないでいた。
491話 同類

 授業に出ることもなく、朝一番に図書院へ向かい、閉館ギリギリまで居座り続ける。

 そんな生活を数日続け、徐々に右隅の小部屋が俺の定位置になってくると分かってくることもある。

 まず1日の複製量。

 これは現状のスキルだと、朝から晩までどんなに集中して進めても、本の冊数で言えば平均2冊程度。

 出来上がった羊皮紙の厚みだと、小指の長さ程度を積み重ねるのが限界だった。

 かつてリコさん達に依頼していた時は、2ヵ月で10冊程度。

 そう考えれば転写速度の上がる【写本】と、手が勝手に動いてくれる【自動書記】を魔力消費も気にせず常時使用しているわけだから、これでもかなり速いことは間違いないのだが……

 1ヵ月でおおよそ60冊。

 ここの本は推定2000冊。

 10日に1度は学院自体が休校するようだし、そうなると既に所持している本を差し引いたって、コンプリートまでに3年くらい掛かるじゃねーかと。

 そんな事実に直面した俺は頭を抱え、作業しながら打開策を考え続けていた。

 なんといっても自動だから、書いている間はその本を読みながら【魔力纏術】の修行をするくらい結構暇だからね。

 手っ取り早いところで【写本】のレベルを上げれば速度が上がる――だからちょっと悩むも、【転換】の余剰経験値を使ってレベル4からレベル7に上げた。

 時間は有限、必要経費だと思って割り切るしかなく、結果小指から中指を超えるくらいまで一日の転写量が伸びてくれた。

 体感で言えば2倍弱、本で言えば4冊分くらいだ。

 しかし、まだ足らない。全然足らない。

 それでも1年半とか、Sランク狩場を掘り当てない限りはマッピングがひたすら止まることになるので、そこまで悠長に時間を掛けている余裕もなかった。

 コッソリ拠点に未所持の本を持ち帰り、リコさんとケイラちゃんに頑張ってもらう手もあるが、そこまで速度が爆上がりするわけでもないし……

 困りに困ってどうしようと。

 辿り着いたアホみたいな作戦が【二刀流】だった。

 いや、スキル使ってんのか分からないけど。

 とりあえず本を2冊用意し、ペンを左右同時に持ち、2枚の羊皮紙を机に広げ、それぞれの目で1冊の本を眺めるという荒業を何度か繰り返していたらいけた。

 いちいちページを捲るのに作業を止めないといけないので、単純に効率2倍というほどではないが、これで1日の転写量が掌くらいまで大きく伸びたのである。

 まったく内容が頭に入っていないので、暇な時に読み直す必要はあるが、速度を追い求めるという目的で見れば快挙と言ってもいいくらいの閃きだ。

 ちなみに調子こいて両足まで使い、狭い個室で一人四刀流とかほざいて大爆死したのは言うまでもない。

 まず足の指でまともにペンが持てないし、インクは床にぶちまけるし、4冊も同時に本なんて読めるわけないしで、高い羊皮紙と時間を無駄にしたのだから二度とやることはないだろう。

 まぁ失敗したおかげで【魔力纏術】を用いた疑似的な腕をもう1本作り、二刀流をしつつ左手で本を捲りながらさらなる最効率を目指すという謎の案も出てきたので、まったくの無駄というわけではなかったと思うが。

 そんなこんなでひたすら時短を目指しても、今のところの作業完了予定は推定10ヵ月後とかだいぶ先のお話。

 Sランク狩場が見つけられれば夜間のマッピングも進められるし、全てを自分でやらなくても、当面の読み物に困らないくらいのストックを抱えられたら、あとはガルム側に複製を代行してもらうという手もあったりはするけど……

 少なくとも一期分だけで終わるような作業量ではないことが確定したので、試験も少しは頭の中に入れておいた方が良さそうなことがここ数日で分かってきた。


 そして――。


「やぁ、おはよう」

「おはようございます」


 分かったのは複製のペースだけではない。

 同類と言っていいのかは分からないけど、俺と同じレベルで図書院に入り浸っている人間がもう一人いた。

 朝から二人、開館するのを少し並んで待ち、閉館の声が掛かるまで居座り続ける。

 そんなことをしていると、3日目には挨拶程度だが話しかけられるようになっていた。

 ――小雨が降る、この日も。


「ねえ、君って騎士科でしょ?」

「そうですけど」


 制服の形状を見れば、学科は一目で判別できる。

 上着が腰あたりまでで短ければ騎士科、お尻を隠す程度なら官吏科、ローブまではいかないが、膝くらいまでの長さがあれば魔導士科。

 茶色の髪にいくつもの水滴を付けたこの人は、官吏科の先輩のようだった。


「騎士科で図書院に通い詰める人って珍しいね。しかも新入生っぽいし」

「そうなんですか?」

「騎士科は武闘館や外の修練場で身体を動かしている人達ばっかりだよ。君はやらなくていいの?」


 そう言われて先輩に目をやると、薄い水色の瞳は俺を物珍しげに――、というよりは興味本位なのか?

 見上げる視線は少し探っているようにも感じられた。


「身体を動かすことはいつどこでだってできますけど、本の知識を得る場はここしかありませんから」

「ふーん、親の言いなりでこの学院に来ているような人達とはちょっと違うんだね。騎士科なのに歴史書や魔導書なんかも手に取っているのはそのせい?」

「……人の読むモノを確認するために、先輩は個室を使わないんですか?」

「ははっ、私が個室を使わないのは狭い所が苦手ってだけ。それに君が私は個室を使わないと認識しているのと同じで、単純に珍しいなって思って見ていただけだからそんな気にしないでよ」


 はぁ。

 変なのに目をつけられたかな……

 そう思っていると、入口の扉が開いた。


「またいつもの二人か。今日は食べ物を持ち込もうとしていないな?」

「大丈夫です」

「では時間になったらちゃんと自主的に退館するように。君達いつも"あとちょっと"って粘り過ぎだから」

「はーい」

「気を付けます」


 荷物検査を受け、競い合うように二人同時に中へ入る。


 のちにユマと名乗った、3年前から入学しているらしいこの少女。

 図書院が開くまでのほんと数分ではあるが、同い歳の先輩から得られる情報により、図書院へ通うだけだった俺の学院生活にほんの少しの変化が訪れるのはもう少し先の話である。
492話 待ち望んでいた来客

 いつものように、隅の個室で本の複製に励んでいると、視界の縁が青く点滅する。

 仲魔からの呼び出し――。

 ステータス画面を確認すると、入口の黒象ギリオ君からだった。

 先日はハンターギルドの本部から視察が来たって話だったが……今回は誰だ?

 そう思って個室の中からそのまま転移すると、ギリオ君の前には赤い髪にムキムキの腹筋が特徴的な大柄の女性。

 グリムリーパー戦でお世話になったアウレーゼさんがいた。


「おぉ! お久しぶりです~とうとう時期が来ましたか?」


 用件は分かっているのだ。

 開口一番に問いかければ、アウレーゼさんはニヤリと笑って答えてくれる。


「あぁ、今回はクイーンアント戦だよ。明日の予定だから一応前日に足を運んでみたけど、ロキの予定は大丈夫だった?」


 キタキタキターッ!

 表ボスはもうボーナスタイムのようなもの。

 そんなの、何よりも優先して参加するに決まっているでしょう!


「もちろんですって。あ、明日なら今日はこの町でゆっくりしていってください。もし何か買い物するなら、荷物を運ぶくらいのサービスはしますから」

「え、マジ!? それじゃお言葉に甘えちゃおうかな!」


 足取り軽く、人の出入りが激しいクアド商会へ向かっていくアウレーゼさん。

 その動きを止め、制服姿のままだが一旦ニューハンファレストに連れていく。

 この人は結構お金持ちっぽいからね……ふふふ。

 ウィルズさんに伝え、客人ということで宿泊費はタダのVIP扱いに。

 気持ちよくクアド商会で散財してもらえる環境を作ってから、俺は図書院の個室へすぐに戻った。


 そして、翌日。

 輸送サービス付きの効果は絶大だったようで、大量に買い込んでくれた荷物をジュロイの王都『フォブシーク』にあるアウレーゼさんの自宅に運んだ後、|俺《・》|達《・》|三《・》|人《・》は久しぶりに訪れる《デボアの大穴》の入口に転移した。


「すまんなロキ殿、俺まで運んでもらって」

「いえいえ、このくらいの距離なら二人も三人もさほど変わりませんから」

「戦争の影響もあってかなり参加者が少ないんだ。こんな時くらい鍋じゃなく盾を握ったっていいだろう?」


 そう、急遽参加することになったのは、ニューハンファレストの料理人であり、Sランクハンターでもあるノディアスさんだった。

 どうやら昨日宿泊した時にレストランで鉢合わせたアウレーゼさんが誘ったようで、料理長のボーラさんから夕方までには戻るようにという条件で許可も得られたらしい。

 それもあって久しぶりに大きな盾を持つノディアスさんの下へ、見覚えのある人達が騒がしく駆け寄る。

 戦争の時、マルタの東でゲンコツを食らっていた、元パーティメンバーの人達だ。


「うお~ノディさんにロキ王様も! 今回は不安過ぎたけど、こうなるとやっぱ安心感が違うよな~!」

「ねえねえノディさん、盾持つのはどれくらい振りなの?」

「身体が鈍らんようにしょっちゅう握ってるぞ? 昨日も裏庭の巨木相手にシールドバッシュ100本を――」

「はいはい、話は歩きながらでも十分だろう? 移動を開始するよ!」


 どうやらここのリーダーもアウレーゼさんらしく、内心このくらいの数ならまとめてボス部屋まで転移できるんだけどなーと思いながら大人しくついていく。

 チラホラ会話に出ていた通り、数で言えば20人ちょっとと、今までのレイド戦を考えればだいぶ少ないようだが……


「そういえば、マルタのハンターギルドは正常に稼働しているんですか?」


 こないだベザートに顔を出したゴリラ伯爵も、かつてと同じくらいまで町の機能を取り戻すには、早くて2年はかかると言っていたのだ。

 横を歩いている、オランドさん達と共に戦っていた記憶だけはある優しそうな顔したおじさんに声を掛けると、なんとも微妙な返答が返ってくる。


「決して正常とは言えません。《ボイス湖畔》の魔物は非常に素材需要も高いのですが、『蟻』は食すことができず、固い外殻も町の復興に必要な素材とは言い難いので、実質買取不可に近い状況が続いています。今は素材を外に運び出すための馬車も余っていませんし、泊まれる宿がまだ少ないですから、安定した素材量もないマルタには外の商人も買い付けに来ていないようですね」

「そうですか……マルタで活動していた上位層のハンターはなかなか厳しい状況ですよね」

「元からデボアは癖があって事故の起きやすい狩場でしたし、今は地図もありますから多くが他所へ遠征に出ていますよ。それもあってこんなに参加者が少ないんですけど」


 人手が少ないのは若干俺のせいな気もするけど、こればかりはしょうがないよなぁ。

 より死ににくく美味しい狩場があるなら、多くがそちらに魅力を感じるのは当然のこと。

 しかし……なるほど。

 聞いた話が事実なら、俺にとっては悪い話じゃない。


「それならクイーンアントの素材は、皆さんが良ければ僕が買い取ろうと思っていましたけど、道中の蟻も全て買い取りますよ。ギルド買取の単価はおおよそ把握しているので、人数割りで報酬に足しておきますから遠慮なく狩っちゃっていいですからね」

「えっ、良いの? 普段はそのまま捨ててくし、死人が出ないようにしてくれるだけでも大助かりなんだから、無理はしなくていいよ?」


 アウレーゼさんは心配したようにこちらへ振り返るが、とんでもない。

 狩る人が減れば、獲得総量は減り、素材価値は上がる。

 蟻の湧く狩場はここだけじゃないので絶対とは言えないけど、ギルド買取の値段でいいならまず俺が損を被ることもないので、お互い利点があるだろうというそれだけの話だ。


 道中の戦闘自体はまったく問題なさそうなので、光玉出したり【鼓舞】してバフを掛けたり。

 勝手に集まり道を塞いでは倒されていく蟻の死体を、最後尾で忙しなく回収しながら進むこと2時間ほど。

 怪しい卵が地面から大量に生える、懐かしの大部屋に辿り着いたところで、以前とは違う光景が視界に入る。

 奥の祭壇のような高台。

 そこには大きな腹を抱えた、遠目からでもかなり目立つ巨大な蟻が居座っていた。
493話 『穴』

 道中、クイーンアントに対してどう戦うのか。

 通常の半分以下という人手不足も考慮された話し合いが行われていたため、淀みなく各人が準備に入る。

 ちなみに今回も俺は、一人遊撃隊。

 本音を言えばとっとと倒して図書院に戻りたかったけど、あまりにもおんぶに抱っこなそのやり方をアウレーゼさんは許してくれず。

 逆に俺がいるからこそ、安全マージンをいつもより削った攻め手が試せないかと、全体に発破を掛けて戦術の幅を広げようとしていた。

 マルタが最寄りである以上、今後も人手不足が続く可能性は高いからね。

 そんな前向きな考えを持たれてしまうと、俺は「じゃあギリギリまで見守りましょう」と言うしかない。


『土よ、我が声に応じ、石となりて競り上がれ、何よりも硬い、妨碍の壁を、"岩壁《ロックウォール》"』


 だから参加者の一人が、真っ先にボス部屋の入口をゴツい大岩で塞ぎ始めたけど、この賭けとも言える行動だって静かに見守る。


 そして全員が配置につき、酸対策用だという厚手のローブを被ってから始まったクイーンアント戦。

 やはり要はノディアスさんらしく、先頭に立って盾を握りヘイトを奪っていくが、今までとはまた質の違うボスだなーと、始まった戦いを見てすぐに思ってしまった。

 正直、このボスにはあまり面白みがない。


 スキル構成を見ても、


 クイーンアント:【指揮】Lv8 【鼓舞】Lv6 【丸かじり】Lv7 【不動】Lv6 【産卵】Lv7 【状態異常耐性増加】Lv6 【魔法防御力上昇】Lv5 【威圧】Lv6


 このようになっており、まずこのクイーンアントはその場から大きく動くことがなかった。

 いや、正確にはすぐ腹がデカくなり、動けなくなった、かな。

 こちらが近寄り戦闘態勢に入った途端、パンパンになっていた腹の先から、オベベベベベ~っと大量の卵を周囲に勢い良く吐き出す。

 これが所持するスキル、【産卵】の効果なのだろう。

 壁や元から存在していた卵に当たり、割れるように孵化するモノ。

 卵のまま床に転がるモノと様々だったが、まぁ数は多い。

 そして皆に群がる、孵化した幼体蟻。

 対してクイーンアント本体は、腹の萎んだ時だけ少し動くが、それでもヘイト管理しているノディアスさんを捕食しようと脚を動かしながら頭を下げるくらい。

 そうこうしているうちにまた腹が膨れ始め、一定時間経過で再び卵を周囲に撒き散らす。

 この繰り返しだ。

 だからこそ、本来であれば真に恐ろしいのは、孵化した中に紛れている飛行型のレヴィアントだろう。

 あいつは【招集】持ち。

 呼ぼうと思えばボス部屋の外にいる蟻まで呼べるわけで、その侵入を防ぐために、今回はボス部屋入り口を岩壁で塞ぐという荒業を作戦に取り入れていた。

 自分達の逃げ道も塞ぐというかなりリスクの高いやり方なので、本来はこんな危険なことはせず、入り口側に最低3パーティを配置し、雑魚処理班として応戦するようだが……

 今回は参加者が少ないこと。

 いざとなれば俺がヘルプに入るため、今後を見据えた一つの実験として試してみるという話だった。


「間違っても範囲攻撃は撃つんじゃないよ! 斬撃や刺突だ! 頭が動いている時を狙って腹に穴を空けろ!」


 アウレーゼさんの指示が飛ぶ。

 周囲の卵を自分達で割らないよう意識しつつ、クイーンアントの使用する【不動】の隙間を縫い、無駄に指揮系統の取れた雑魚を始末しながら攻撃を重ねていく。

 ボスという強烈な強さを誇る個体を討伐するというよりは、如何に酸を撒き散らす雑魚蟻の猛攻を躱すかが決め手となるようなレイド戦。

 もし【招集】で集まった外の蟻まで大量にボス部屋へ侵入させてしまうと、確殺レベルでもなければ範囲魔法もろくに撃てず、ジリ貧になって雑魚蟻に喰われる。

 そういうことなんだろうけど、ここまでくればもう安泰。

 近接である程度固めた構成なら、Aランクハンター20人程度でも時間を掛ければ十分倒せる見込みが――。


「あ」

「げ」

「えっ?」


 その時、俺を含む何人かの声が重なる。


 あぁ。

 途中まで順調に思えたこの作戦にも大きな『穴』があったらしい。

 そういえば連中は、『穴』を掘るのが得意だった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ノディアス! マズいぞ! 塞いでいた外の蟻が壁に穴を空けようとしている!」

「ボス部屋の壁をか……? そんな話聞いたこともないぞ!?」

「いや、でも間違いなく、っていうか……あぁ、これは本当にマズい……壁が、崩れる……」


 アウレーゼを含む、多くの参加者達が眺める先には、様々な場所から泡のようにボコボコと、土壁を突き破って侵入してくる蟻の群れ。

 しかもその数が多過ぎるため、穴の空き過ぎた箇所から徐々に壁が崩落し始めていた。

 そして――。


「ひっ……」


 誰かの小さな悲鳴が、地鳴りのような響きに掻き消される。

 空き始めた大穴から、濁流の如く押し寄せる、黒い塊。

 まっすぐこちらに向かってくる様子から、既にクイーンアントの指揮下に入っていることは明らかであり、それぞれが押しのけ合って迫ってくるため、周囲に散乱する卵もその塊に呑み込まれ、さらに幼体が生まれることでその数を増やしていった。

 もう範囲攻撃に制限など掛けている場合ではない。

 しかし、アウレーゼは瞬時に判断する。

 まず、これほどの数を――、広範囲を押さえ込めるのか?

 仮にできたとしても、高位の魔法であるほど詠唱には時間が掛かる。

 もう今から動いたのでは、ロキでも……

 口を動かすよりも先に不安が頭を過り、アウレーゼは思わず上空へ視線を向けると、ロキもまた、アウレーゼを眺めていた。


「もう、交代でいいですか?」


 淡々とした言葉。

 その顔に焦りはなく、しかし平然とし過ぎていることが逆に周囲の不安を募らせる。


「頼む! この策は失敗だ! 皆を救ってくれ!」


 間に合わなければ、外側にいる人間から、呑み込まれる。

 誰もが焦燥に駆られる中、宙を浮くロキが無言で下へ視線を向ければ――


「えっ?」

「は?」

「な、なんだ、これ……」


 濁流の如く押し寄せていた蟻の動きはなぜかピタリと止まり――。


 ギギッ……ギギギギッ……


 まるで標的を変えたかのように、一斉に上空を見上げ始めていた。
494話 クイーンアント戦、その後

「ねぇノディアス、これってどういうことか分かる?」

「俺は盾職だぞ? 亜人が得意とする旧型詠唱で唱えているんだろうというくらいで、魔法のことなど聞かれてもよく分からん……」

「いや、魔法のことだけじゃなくてさ」

「何が起きてるのかはよく分からないけど、でも凄く綺麗だよね……」


 アウレーゼやノディアス達が困惑するのも無理はない。

 参加者は急激に盛り上がった地面の上から、眼下に広がる池の様子を眺めていた。

 そう、これは池だ。

 ずり落ちた巨体のクイーンアントだけが唯一水面から顔を出しているくらいで、あとは綺麗に水の底へ沈んでしまっている。


 蟻の動きが一斉に止まったあの時。

 アウレーゼ達を一瞥したロキは、下から上へと、何かを呟きながら手を軽く振った。

 その途端、皆の立っていた地面が綺麗にそのまま迫り上がり、その高さは部屋を軽く一望できるほどにまで昇った。

 ノディアスが引き付けていたクイーンアントは高台から転がるように落下していったのだから、ただ闇雲に地面を押し上げたというわけでもないのだろう。


 距離があるため、どう詠唱したのかは聞き取れなかった。

 恐ろしい音を立てながら生み出された、溢れんばかりの水の時も同じだ。

 こんな魔法を見たことがないし、なにより事象の発生までがあまりにも早過ぎる。

 アウレーゼは助かったという事実を忘れて困惑するも、周囲が全員同じ表情をしていることで、これは答えの出ない疑問なんだということをすぐに悟った。


 今はようやく少し落ち着きを取り戻したが……

 改めて下を眺めると、徐々に水位が下がっていく水の上を、ロキは何かを探すようにゆっくりと歩いている。

 歩く毎、水面を放射状に延びていく稲妻は、薄暗いこの部屋の中を照らし、見ていて息を飲むほど幻想的にも感じられた。

 それに、突然のことで気が動転していたとは言え、大地が隆起したあの時。

 部屋に広く残されていた卵が、一斉に孵化を始めたようにも見えたのだ。

 仮に魔法だとして、そんなことができるのか?

 どんな魔法を使えば、地面を覆うほどの蟻の動きを、瞬く間に止められる?

 そしてなぜ、ロキは魔法を放つ時。

 魔物のような黒い魔力を手足に纏うのか。

 分からないことはあまりにも多いが――。


「ノディアス、あんたの気持ち、少しだけ分かったよ」

「だろう? だがおまえはまだ若い、簡単にこっちへ来るなよ」

「当然。幸い私の目標は人じゃなくボスだからね。この目で姿を全部拝むまではしぶとく現役を続けるつもりさ」

「えっ、なになに、ノディさん、レーゼさんにもフラれた――ふぎっ」


 アウレーゼは眼下に広がる光景を見て笑う。

 あまりにも理解が及ばなくて、それこそひたむきに上を目指し、強さを追い求めていた連中からすれば、ノディアスのように心が折れてしまうことだってあるだろう。

 でも自分は違う。

 強さは必要だと理解しているが、あくまでボス討伐という目的のためについてきた結果でしかない。

 "異世界人"という、隔絶した能力を所持する者との繋がりが、自分の人生に今後どれほどの影響を与えてくれるのか。


(もっとだ……もっと広く、もっと深い情報を……裏ボスっていうのが見つけられるくらいに……)


 そのために、自分は果たして何ができるのか。

 ロキの姿を目で追いながら、アウレーゼは討伐隊とは別の組織《クラン》について考え始めていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 【招集】で余すことなく集めた蟻を潰し、卵も全て破壊されていることを改めて確認。

 無いとは思うが、キングアントの出現条件を潰した上で、クイーンアントの【不動】が終わるのを待つ。


「……4、3、2、1……はい、お疲れ様」


 その言葉と同時に、クイーンアントの首を全力で斬り飛ばした。


『【産卵】Lv1を取得しました』

『【産卵】Lv2を取得しました』

『【産卵】Lv3を取得しました』

『【産卵】Lv4を取得しました』

『【産卵】Lv5を取得しました』

『【産卵】Lv6を取得しました』

『【状態異常耐性増加】Lv8を取得しました』

『【魔法防御力上昇】Lv1を取得しました』

『【魔法防御力上昇】Lv2を取得しました』

『【魔法防御力上昇】Lv3を取得しました』

『【魔法防御力上昇】Lv4を取得しました』


 そして【転換】のポイントを確認後、レベル7までは必要なら上げると決めていたスキルを1つ上げ――


『【魂装】Lv7を取得しました』


 ――すぐに使用する。


 ――【魂装】――


 すると得られた結果は防御力『667』。

 とりあえず枠は一つ広げたので無条件に採用だ。

 ここからしばらく――、それこそ【転換】がレベル10に到達するまでは、よほどのことがない限り【魂装】は7枠のまま。

 あとは地道に少しずつ数値を上げながら入れ替えていく選別作業の始まりだ。

 まぁそれはいいとしても。


「一見ショボそうに見えて、3つ目がまさかのクイーンアントとはなぁ」


 スキルを覗いて、あ、こいつショボいと。

 最初は軽く凹んでいたのだ。

【産卵】なんて俺が産めるわけもなく、100%グレー文字だろって思っていたら案の定だし、【不動】はすでに持ってるし。

 ただ、割合上昇系のスキルを所持しているのは熱い、熱過ぎた。

 黒象から得られた【物理攻撃力上昇】と、懐かしいボイス湖畔の蟹から得られた【物理防御力上昇】。

 魔物専用であることがほぼ確定の『割合上昇系』は、ようやくこれで3つ目。

 魔法防御力もあるということは、まず知力や敏捷など。

 他の項目もレアスキルとして、どこかの魔物が所持している可能性はこれで濃厚になってきたな。

 いや~いいねいいね。

 想像以上に強くなれたことにホクホク顔のまま、無理やり上げた地面の上からこちらを覗く皆を救出。

 全員に感電死した大量の蟻を集めてもらい、


「えーと、一人当たり8500万ビーケってところですね。どうも、おつありでした!」


 なかなかの分配金をその場で精算。

 皆もホクホク顔になったところで初のクイーンアント戦は終了した。



 そして、夜。

 下台地の庭に大量の蟻を放出後、資材倉庫で別の素材を弄っていたロッジにクイーンアントを渡す。


「ほいこれ、新しいボス素材だよ」

「おう、例のクイーンアントか。実物を見るのは初めてだが……コイツは想像以上にデカいな!」


 言いながらも、手の届く範囲をペタペタと触るロッジ。

 その感触ですぐに理解したのか、腹回りは特に使い勝手が良さそうだと独り言のように呟いていた。


「みたいだね。昨日話したボスマニアの人も同じこと言ってたよ。魔法に強くて弾力性と伸縮性もあるから、装備素材としてはかなり優秀で市場価値が高いって」


【鑑定】で覗いても、特性が魔法攻撃耐性になっているのだから間違いない。

 腹の辺りなんて卵を産む前はかなり伸びていたし、マントやローブはもちろん、関節を覆う部分なんかもこの革を使用すれば動きやすそうだ。


「魔法全般に対しての耐性か。ならカルラがしょっちゅうエニーがぶっ放す魔法の標的になってるから、アイツ用にマントでも作ってやるか。おまえはどうする? なんか作るか?」

「うんうん。革の色が黒いし、ローブを1個作ってほしいかな」

「了解だ。そのくらいならすぐ終わる」

「あ、あと、ボスマニアの人もローブ作ってほしいって」

「んあ? 構わないが、サイズは?」

「んー身長180cmくらいの人。ムキムキだけど太ってはいない。あと乳はデカい、凄く」

「いや、ローブに乳は関係ないが……そうか、凄くデカいか。分かった、任せとけ」


 ロッジが何を分かったのか不明だけど、アウレーゼさんはお金じゃなく素材に手を加えたローブを報酬にしてほしいという話だったからな。

 20メートルくらいはある魔物なので大した素材量でもないし、より多く作ることでロッジの技術も上がる。

 となればお互い得のある話なわけで、あとは予定通り、出来上がったら注文品としてパイサーさんに預けておけば問題無いだろう。


 ここでふと、バルニールならこの素材加工でいくら取るのか。

 そんな考えが頭を過ったが……


(望まれたわけでもないしな)


 先日様子を見に行ったら、バルニールは既に看板が外されていた。

 けどそれらの事情を伝えたところで、ロッジの喜ぶ姿はあまり想像できない。

 そんな理由から伝える必要はないと判断し、サラマンダーレザーの鎧を着込んで終わりの見えない夜の砂漠へと向かった。
495話 助言

 食堂で人気だという、パンにソーセージとチーズを挟んだホットドッグのような食べ物を齧りながら、学院内の掲示板を一人眺める。


(うまっ……ん~ユマ先輩の言っていた通りだなぁ……)


 目の前に貼り出されていたのは、学院内で生徒が選択できる授業の一覧。

 午前中はそれぞれが選択した科目――、俺なら騎士科になるので、まだヒヨコ組のうちはクラス単位で動く団体授業というのも多いようだが……

 剣術や槍術、騎乗など、その科目に沿った専門的な授業がそれなりに選べるようになっており、午後になるとその数は増大。

 科目の枠を飛び越え、騎士科が火魔法の授業を受けるといったことも可能なコマが2枠あり、最終の一際長く設けられた選択授業ではジョブ系の枠。

 それこそ建築や錬金といった仕事に直結するものから作法や舞踊といった嗜みに通じるものまで、かなり豊富な専門授業が用意されていた。

 いや、設定時間の長さを考えれば、これはもう放課後の部活っぽく見えてくる。


「最初のオリエンテーションで説明されたでしょ?」


 先輩は呆れたようにそんなことを言っていたけど、途中からはステータス画面しか見ていなかったのでまったく聞いてもいなかったのだ。

【魔法学】や【魔道具作成】なんかはちょっと興味も湧いてくるし、少し大学っぽい雰囲気だなーと思いつつも、まぁそれはいいとして。

 問題は横にある院内施設の一覧。

 こちらが非常に重要だった。


「『第二計測塔』、『武闘館』、『南森林観測地』……あーこれが先輩の言っていた『旧図書院』か……」


 "階位《クラス》によっては出入りが制限されている施設や授業もある"


 今朝こんな話をユマ先輩からされた時、俺はさして動揺もしなかった。

 それこそ、ふーん、って感じで。

 図書院だけに用がある俺としては、どこに制限が掛かろうと足を運ぶ予定もないのだから、ノーダメージだと思っていたわけだが。


「『旧図書院』は三階位以上じゃないと入れないよ?」


 そんな話をされた時、俺は放心したようにその場で固まってしまった。

 入学してからもう1ヵ月。

 昨日、完全にすっぽかした初回の試験は終わっているのだ。

 そんな日まで当たり前のように図書院通いしているから、先輩も疑問に思って俺に確認してきたみたいだけど……

 わざわざ試験直後に言わないでよっていう気持ちと、図書院ってここだけじゃないのかよっていう気持ちと。

 それに、まだ本があるのかよって。

 そんな感情も大きく混ざっていた。

 だから図書院を抜け出し、わざわざ確認しに来たのだ。

 考えてみれば、学院内で食べる初めての昼食。

 昼時だからか、内紛絡みで減ったという割には人が多く、こんなに生徒数のいる学校だということも今日初めて知ったくらいである。


(どの道、今いる図書院の蔵書もまだまだフルコピーには時間がかかるのだから、試験をスルーしたこと自体はまったく問題ない……けど、これでさらに作業時間が延びる……『旧図書院』には――、それに存在を仄めかされた『旧旧図書院』には何冊の本が存在しているんだ……?)


 一番の問題はここだった。

 仮に探査系で場所を特定できたとしても、その数まではよほど少なくなければ把握できない。

 施設案内にも表記されている『旧図書院』と、今は校内施設の一覧にも載っていないが、昔は間違いなくあったらしい『旧旧図書院』。

 この2つが新たに出てきたおかげで、ゴールがまったく見えなくなってしまっていた。

 もう転写速度にそこまでの伸びは期待できないし、もっと根本的に何かを変えねば学院から抜け出せなくなってしまう。

 ガルムの王様に聞けば、もしかしたら本の総数くらいは教えてくれるかもしれないが。


(マズいな……どうせなら全てをコンプしたいところだけど、もしガルムに複製作業を任せたとしたら、マリーの窃盗事件の時で回復まで10年以上……そんなの俺が悠長に待てるわけもないし……)


「あっ、この人! この人です!」

「あら、まだ学院にいたとは、良かったじゃないですか」


(となると、割り切って数年学生を続けながら暇を見て図書院に通うか、もしくは女神様達にひたすら深夜バイトをお願いするくらいしか……)


「あの……ロッキー君、だよね?」

「ん?」


 名前を呼ばれて振り向くと、そこには二人の学生が立っていた。

 うち一人は見覚えのある顔。

 あの時、無駄な自己紹介のせいで、悪い意味での注目を浴びていた――確か、レフィと名乗った少女だったか。

 そして横には似たような歳の、髪を緩く巻いた金髪の少女も立っている。


「えーっと……そうですけど、何か用でしたか?」

「私、同じクラスのレフィです! その、用というか、ずっとお礼を言いたいと思ってて……あの時、庇ってくれてありがとうございました!」


 そう言って急に頭を下げた少女。

 庇うというより、あの状況を平然と放置している教師に苛立ってやったことなのだ。

 お礼を言われる筋合いはまったくないんだが……

 でもまぁ、顔を見ているとたぶん、大丈夫そうなのかな。


「気にしなくていいですよ。ここを見ているとクラス単位の授業もあるようですけど、あれからは特に問題ないですか?」

「うん! 王女様にも目を掛けていただいてるから」


 そう言って少女が横の金髪少女に視線を向けると、短いスカートを摘まんで優雅にお辞儀をした。

 おぉ凄い、これがカーテシーというやつか。

 何気に初めて見た気がする。


「ノイス・ラ・フェスタル・グリニッドと申します。同じ1期生ですので、気軽にノイスと呼んでください」

「あ、えーと、騎士科のロッキーです」


 学年という考え方がない代わりに、3ヵ月を1期とし、卒業までの12期のうち、今が何期目かを示すことがある。

 自分は通算で14期目くらいだと、なぜか自信満々に語っていたユマ先輩からそう聞いていたので、1期というのが同じタイミングでの入学であることは理解するが……

 何やら仰々しい名前に優雅な所作。

 先ほどは王女様と呼ばれていたし、この雰囲気はたぶん本物なんだろうな。

 それに、名前の『グリニッド』か。

 はっきりとした位置関係までは分からないけど、大陸北東に位置する大きな漁港を持つ国という情報を書物の中で見かけた記憶がある。

 まぁ、だからなんだという話だし、なぜわざわざ俺に自己紹介したのか分からんが。


「では、僕はこれで」


 そう言って立ち去ろうとすると、レフィと名乗る少女の方から呼び止められた。


「あ、待って! その、言いにくいんだけど……ロッキー君を探している人達がクラスの中に結構いて……」

「ん? 探している?」

「うん。あの、私の代わりに、目立っちゃったから……それで、だと思う。ごめんなさい」

「……あぁ、そういうことですか」


 申し訳なさそうに俯く姿は、自己紹介のあの時と同じだ。

 おおよそ何が起きているのか、雰囲気からすぐに察する。

 そしてこの王女様が、なぜ俺に名を告げたのかも。


「だから、何かあれば私に言ってください。レフィも私が近くにいることで下らぬ考えを持つ者が近寄ることはなくなりましたし、必要があれば力になりますから」

「わざわざありがとうございます。でも僕なら大丈夫ですよ。授業に出るつもりもありませんから」

「えっ? それじゃロッキー君は、普段何をやってるの?」

「図書院で勉強ですよ。今はその方が重要だと思っていますので」


 そう告げ、今度こそその場を立ち去る。

 魔導士科の王女様か。

 あれはただの優しさや正義感からなのか、それとも他に狙いでもあるのか。

 あの表情と雰囲気はどちらなのかな?

 去り際の、あの少し作ったような笑みを思い返しながら、足早に人目の付かない場所へ移動。

 もう自室と化した図書院の個室へ転移した。
496話 悪霊(本気Ver)

「ッ……ぁあ、……っ……」


 声にならぬ悲鳴を上げ、眼を見開き、寝た姿勢のまま硬直している副官を一瞥してから次の場所に転移する。

 幾度となく試行を重ね、ようやく形になってきた悪霊役。

 本当の意味で『説得』ができるならば、それが一番理想だろう。

 そう思って亜人差別を止めさせたラグリースの時のように、戦争回避を目的に女神様が教会経由でアプローチを掛けるのは無理なのか。

 ダメ元でアリシアに確認してみたものの、過剰な干渉に当たるということで、それはもうあっさりと却下されていた。

 あの時はリアの神罰が根本の原因だからと、呼びかけた理由も当時聞いていたので、まぁ予想通りの結果ではあったが……

 そうなると自分でなんとかするしかなく、もはや『説得』ではなく『脅し』になってしまっているけど、それでも心が折れてきていることは間違いないのだ。

 殺さずの依頼もしっかり守れているのだから、今のところは順調と言ってもいいだろう。


 さて――時刻は深夜3時。

 なんと本日は2度目のご登場だ。

 3時間ほど前は副官を対象にしたので、岩肌の目立つ北の戦地で、既に何度も顔を見ている親アルバート派の指揮官を探す。


 ――【探査】――『カーマン・テリウム』


 しかし、いつもの大きな天幕にはおらず。

 闇に紛れて上空から少し探すと、一般兵の寝泊まりする小型天幕の中に敵将がひっそりと紛れていた。


 ――【気配察知】――

 ――【魔力感知】――

 ――【熱感知】――

 ――【聞き耳】――


 しかも一人じゃ怖いのか、外に見張りを立て、中でも誰かと一緒に寝ているらしい。

 ははは、どうやらだいぶ効いていらっしゃるようだ。

 まぁ、白旗をあげるまで止めないが。


 ――【透過】――


 まずは姿を消して、


 ――【呪術魔法】――


 足跡を残さないよう【飛行】しながら、天幕越しに中の人間へ即効性のある『睡眠』、『麻痺』、『毒』を魔力消費量など度外視で入れていく。

 目視せずとも指定箇所に魔法を放てることは、リルに殺された最初の模擬戦辺りから分かっていたこと。

 一番反応の掴める熱源を頼りにすれば、天幕越しでも狙って対象にデバフを入れることは容易かった。

 見張りを立てようと、恐怖で眠れず目だけを瞑っていようと関係ない。

 今この時だけは強引に眠らせ、身体をそのまま縛り付ける。

 毒はまだ、腹痛を誘う程度の弱いモノ。

 尻が決壊するだけで、この程度ならば死ぬことはない。


 準備ができたら一度その場を離れ、ベストな立ち位置の確認だ。

 一番重要であり難しいのはココ。

 位置ズレを起こさないよう、かなり俺自身が距離感を掴むために特訓した。


 ――【風魔法】――『風』


 まずは天幕をほんのりと揺らし、


 ――【遠話】――『カーマン・テリウム』


『ぁ゛………ぁ゛……ぁ゛…ぁ゛ぁ゛っ……ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……ぁ゛……』


 最近ではこれも明らかに反応があるので、場を盛り上げるために呪音とも呼べるナイスな呻きを耳元へお届け。



 ――【魔力纏術】――魔力『1000』

 ――【陽炎】――


 ――【強制覚醒】――


 そして、起こす。

 部隊の連中も、纏めて、強制的に。


「あびゃぁあああああッ!?」

「うぅ……また、か……また……」


『絶対に、許さぬ……武器を放さぬ限り、貴様らの臓物が、腐り落ちるほど……呪って、呪って、呪い殺して――……』


 一斉に周囲の天幕がざわつき、中から漏れ出る悲鳴。

 そんな中で、思い付きの呪詛をこれでもかと吐き散らす。

 いつ音を上げるかは分からない。

 たまに聞こえる会話から、並々ならぬ決意というか。

 なんとしてでも耐えて進もうとする意志や覚悟は相手からも感じられた。

 でも少しずつ……少しずつだ。

 徐々に重く、積み重なり、対象が広がることで恐怖が増し、いつか心が壊れる前にポキリと折れる。

 そう信じて俺は動くしかない。

 都度、"武器を放せ"と、救いの道は示しているのだ。

 耐えるのなら、何度でも。

 このままいけば、最終的に相手部隊は眠ることすらできなくなる。

 そうなる前に、早くマリーを切り捨て、元の王政派へ戻ってくれれば――。

 そう思いながら【陽炎】を消し、魔力回復も兼ねて夜の砂漠に転移した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 この世界には……って言っても俺だけだけど、可視化されたステータスがあるわけで。

 その数値を見れば、間違いなく俺の『幸運』が低いわけはないと思っていた。

 けど、今となっては本当にこの数値って仕事してんのかよ、と。

 疑心暗鬼になってしまうほど、目の前には憎しみの込められた『正』の字がズラリと並ぶ。


「とうとう、100回か……」


 2つ目の城下町エリアは12回目で引き当てたのだ。

 内心、100回も潜ればまず到達するだろうくらいに思っていたが、どうやらその考えは甘かったらしい。

 ちなみに草原エリアが91回、城下町エリアは9回。

 中階層とも言える2つ目の突入率を考えれば、いい加減そろそろ引き当ててもいいと思うんだけどなぁ……

 しかし昔やっていたゲームのように、コンマのあとに0がいくつも並ぶような確率だったら、俺の異世界人生が砂漠の徘徊という謎の行動だけで終わってしまう。

 そんな恐ろしい想像をしながら目の前の木板を下にズラすと、逆さにしても顔に見えそうなダンゲ町長の禿げ頭が見えてきた。

 はぁ……ちょっと現実から目を逸らしたのに、まだ髭が逆立っていらっしゃる。


「100回ってなんじゃ! 100回って! 木板で顔隠したって問題は解決せんぞ!」

「それは重々承知しておりまして。いや~どうしましょうね。とりあえず余ってる奥のデカい家でも貸し出します?」


 そう言いながら立てた親指をクイッってやったら、また怒られた。


「アホか! どこの世界に引っ越し先の借り住まいが貴族の豪邸なんて、そんなバカげた話があるんじゃ!?」

「ですよねー」


 唐突な仲魔からの呼び出し。

 と言ってももう慣れたもので、早速ベザートに飛ぶと、眼下にはかなりの人だかりができていた。

 チラホラと見覚えのある顔が確認できることから、それがフレイビル北部の街――ロズベリアで捕まっていた強制奴隷の人達であることはすぐに分かったわけだけど……

 如何せん、数が多過ぎたのだ。

 それはもう、ダンゲ町長が茹ダコになってクレームを入れてくるくらいに。

 選別をしない代わりに、自分達で辿り着くくらいやる気があるなら歓迎するって言っちゃったし、ギルマスのオムリさんにちょっと"分からせる"ため、その規模も大きくしちゃったからな。

 一応町長には事前に伝えていたけど、ただでさえ移民や俺宛ての来訪で日々てんやわんやしているのに、馬車が一気に50台以上も纏めて入ってきたことで堪忍袋の緒が切れたらしい。

 ……住まわせる家もないのだから当然である。


「自分で蒔いた種だししょうがないか……」


 日中とは言え、寒空の下、簡素な服を着た人達が待っているのだ。

 そんなことを言っている場合じゃないと立ち上がり、奥で他人事のようにやり取りを眺めていたペイロさんへ声を掛ける。


「ペイロさん、出番ですよ」

「え?」

「だから、出番です」

「こ、今度は何させるんですかぁあああ!!」


 なぜか逃げ出そうとするペイロさんの首根っこを掴み、俺はベザートの南西部へと向かった。
497話 何卒女

 以前ベザートの南西部に、なんちゃって貴族街として拓いておいた広大な土地。

 その一角に、公衆便所が長く連なったような複数の長屋と、その手前にはクアド商会でもあまり売れ行きのよろしくない、倉庫の肥やしになっていた大量の家具が並べられていた。

 もちろんやっつけ仕事で建てたのも、ゴッソリ運んできたのも俺である。


「えー皆さん、ここが一時的な借り住まい用に建造した単身用の"国営アパート"です。家賃はひと月に5万ビーケ、一人一室まで利用可能なので、ここにある家具を欲張らない程度に選んで使ってください。お金が厳しい方や個室は不要という方は、アチラに見える2つの大きな建物が無料なので、男女別に寝泊まりしてもらうことになります」


 言いながら視線を向けた先には、体育館くらいの広さをイメージした、2つの似たような建物が。

 それぞれ中は仕切りもなくガランとしており、こちらはお金がない人用の集合避難所といったところだ。

 私物がほぼない人達ばかりなので、金がない、とりあえず雑魚寝で十分ということならこちらでいいだろうし、6畳程度の個室を求めるなら有料でも問題ないだろう。

 敢えてダサく、それでいてそこそこの値段設定にしたのは、ビリーコーンのような宿の価格や大工の仕事を守るため。

 リルが相変わらずユニコーン肉を大量に獲ってきてくれるので、今は贅沢言わなきゃ教会でタダ飯を食うこともできるわけだし、そう難しい金額というわけでもないはずだ。


「あくまで一時的な利用を想定していますので、皆さんそれぞれ得意なこと、できることでお金を稼ぎ、貯まったら川の向こうには大工の人達も多くいますから、自分の家を持つようにしてくださいね」


 そう伝えると、やる気になっている者も多くいる中、不安げな表情を浮かべている者もチラホラと見かける。

 最大の問題はここから仕事を見つけることだと思うが、それは今後の会議で詰めていく部分。

 まだ具体的に話せる内容でもないので、まずは先に"ここの管理者"を紹介しておこう。


「では、皆さんにご紹介します。この一時的な移民区画の管理をしてくれるペイロさんです」

「ぺっ、ペイロです! 名簿管理、家賃の徴収、それに必要物資の配給など、皆さんがちゃんと暮らせるようこの場所の管理、支援をしていきます。何かあれば私に相談してください!」


 そう言って、皆の前で挨拶をするカチコチのペイロさん。

 度重なる来客対応でだいぶ肝が据わってきたダンゲ町長は、横にいたペイロさんの管理方法を十分把握していた。

 ニューハンファレストができたことで対応もかなりスムーズになったようだし、もうあそこは町長一人に任せても大丈夫だろうと、新たな職場へ連れてきたわけだ。

 今は緊張しているようだけど、ここなら身分を笠に着て横柄な態度を取るような人もまずいないだろうし、細やかな管理が得意なペイロさんの強みを最大限に生かせそうな気がする。

 本人もそう感じたのか、道中にやってほしいことを伝えた時は案外乗り気だったしね。


 たぶん、パッと見た感じでも500人近くはいそうな移民の方々。

 話を聞いているとこれでも『第一陣』らしく、まだまだ強制奴隷にされた希望者がロズベリアに多く残されていると。

 その話を聞いた途端、ペイロさんはハメやがったなって顔して俺を見ていたが……

 ひとまず、ズラリと並んだその人達の名前や年齢、種族と、個室か雑居のどちらが希望なのかを確認。

 そして今後かなり重要になる"得意なこと"、"就きたい仕事"をペイロさんが確認しながら記帳していき、俺はその姿を横目に『反応』を確認していく。


 ――【探査】――『間者』


(ん~ここには無しかな……)


 この手の分かりやすい方法で全てを防げるかは分からない。

 でもたまに、反応を拾えたりもするのだ。

 やらないよりはマシだろうと、一通り確認していき――


「あれ?」


 ここで特に見覚えのある顔を発見する。

 向こうも俺を、今にも死にそうな顔して見つめていた。


「あ、あ、あの、いつぞやは、大変な、ご無礼を……」


 あの時と比べれば、随分と謙虚になっているが……

 ユッテ・モントーレ。

 レサ奴隷商館の4階にいた、旧ヴァルツ領にあるモントーレ伯爵家の次女だとか言っていた女だ。


「なぜ、あなたがここにいるんですか? 散々家まで送れと騒いでいたのですから、帰る家はあるんでしょう?」


 当然の疑問。

 問いかけると、目の前の女は膝から崩れ落ち、ゴンと鈍い音が鳴るくらい額を地面に打ち付けた。


「誠に申し訳ありませんでした! あ、あなた様が宗主国の王だとはつゆ知らず、救っていただいたのにあるまじきご無礼を……本当に……本当に申し訳ありません!!」


 結果、俺を含めてドン引く周囲。

 どう考えても、俺が悪の大王みたいな雰囲気になってしまっている。

 なんなんだよ、これは……


「ちょっ……つまり、ユッテさんは謝りに来たんですか?」

「左様でございます……私はどうなっても構いません……何卒、モントーレ家には……家族にはご容赦下さいますよう、何卒……お願い申し上げたく……」
 
「いやいや、元から何かする予定なんてありませんし、まず気にしてもいませんでしたから。そんなに心配なら早く家に帰ってあげてください」


 顔を見るまで忘れていたくらいだし、こちとら舐められることには慣れているのだ。

 間者とは違う意味で変なのが混じっていたことに肝を冷やすも、なぜか目の前の女は土下座したまま動かなかった。


「えっと、もう、大丈夫なんですけど」

「……」

「……まだ、何かあるんですか?」

「あの……私をここに、置いていただけないでしょうか……」

「え」

「これ以上ないほどの無礼を働いた私を、父は絶対に許しません……もう、帰る家も、ないのです……」

「いやいや、僕がわざわざ言いふらすようなことは――」


 咄嗟に言葉が衝いて出るも、周囲には多くの観衆が固唾を飲み、この状況を見守っていた。

 ビックリするくらい無音の目撃者達。

 まるで今がオンステージの劇場である。


「なんでもやります! やらせていただきますので! 何卒! 何卒っ!!」


 先ほどから何卒と連呼している何卒女を前に、俺は思わず空を見上げる。

 どうしたよ。

 さっきまで自分はどうなっても構わないとか言ってたのに、めっちゃ生に執着してんじゃん……

 まぁ生き延びられるならそうしたいってのは分かるけど、貴族家の女など、どう扱えばいいのか分からないのだ。

 歳はたぶん、二十歳くらい……家に帰れないって言っている時点でまず未婚なのだろう。

 スキルは何かが特別際立っているわけではなく、ただ貴族としての教養を受けているからか、全体的に幅広く伸びたバランス型。

 そして見た目は、かなり良い部類となると――、うーん。

 ……あり、なのかな。


「一つ、重要なことを」

「はい」

「これは他の皆さんにも言えることですが、アースガルドには貴族がおらず、身分差というものも存在しません。他所の王侯貴族だろうと周囲に害を振り撒けば、容赦なく魔物の餌にする――そんな国です。なのでここに住むとなれば、貴族という立場を捨てることになりますけど、それでいいんですか?」

「もちろんです。もはや私に、貴族という身分は存在しておりません。その上でできることをさせていただきたいと、そのように考えております」

「そうですか……じゃあ早速、ユッテさんはここの補佐についてもらいましょうか。ペイロさーん!」

「「え?」」


 多分、大丈夫だろう。

 話している内容は本心っぽいし、何かの罠であれば、あの時点で既に奴隷落ちしていたことが不自然になる。

 反省し、もうここでしか生きる道がないと覚悟を決めたのなら、あとは見守りながら応援するだけ。

 元貴族という立場なら管理は得意分野だろうし、これからさらに増えていく中で一人では苦しそうなペイロさんの補佐をさせておけば、良い相乗効果が生まれるんじゃないかな。

 早速独身三十路男のペイロさんが、前髪弄りながら今まで見たこともないキメ顔作ってこっちを見ているし。


「じゃあ、ここは任せましたよ。僕は仲魔を1匹こちらに回したら、もう少し拡張したり物資調達を進めてきますので」


 各個人の情報収集は、得意なペイロさんがやってくれる。

 ならば、俺は俺にしかできないことを。


(今日はもう、複写作業はちょっと厳しそうかなぁ……)


 そんなことを考えながらマンティコアを1匹移動させ、余りまくっている家具や衣類を調達しにクアド商会の倉庫へと向かった。
498話 新たなギルドと新たな財源

 場所は夜の寺小屋。

 と言っても通じるから俺がそう言っているだけで、実際は町長の主導で日中に暇なじじばば達が子供相手に勉強を教えている学習塾のような所だ。

 夜のニューハンファレストは宿泊客で混み合うため、とてもじゃないがあそこのレストランを借りての会議はできなかった。

 部屋が広く、物があまりないため見渡せる。

 集会場としてここを選んだ理由はそれだけである。


「まずはこんな時間に無理を言ってすみません。第四陣が昨日ベザートに入り、これで移民者の数は約2000人超。そろそろ動くべきだろうということで、こうして皆さんにお集りいただきました」


 集まった面々はベザートの主要メンバーはもちろん、各方面で親方や店主の立場にいる人達も多い。

 あれから既に10日ほど。

 当初は金持ち用の区画として作った空き地も、今となってはスラム街の一歩手前。

 迫力満点の魔物が居座っていることもあって悪さをする人間はいないが、日増しに増える移民者に対応するため国営アパートの数もどんどん増えていき、日中から寒さを凌ぐ焚き火があちこちで乱立していた。

 しかし、移民の流入もようやくこれで一区切り。

 だからこうして集まってもらったのである。


「ペイロさんと、あとは移民したうちの一人であるユッテさんに、移民者それぞれの『履歴書』を作ってもらいました。名前、年齢、性別、種族、それに得意なことやできること。過去に携わった仕事の年数や、人によっては該当の所持スキルレベルまで申告された方もいます。
 希望する大まかな職種ごとに分けてありますので、人手不足で雇用したい、育ててみたい、一緒に働いて仕事の幅を広げたいなどあったら言ってください。給金を支払えることは前提で、のちほどペイロさん達が引き合わせてくれますので」

「ふむ……ハンターギルドや商業ギルドのやり方に近いと言えば近いが――なるほど、さらに掘り下げた内容をこうして書き起こしているのか」


近くにあった木板を手に取ったヤーゴフさんが、興味深げにその内容を見て呟く。


「ですね。この世界はスキルを目的に人攫いが発生しているので、さすがに常時公開というわけにはいきませんけど……今後は専用のギルドでも作って、働き手を探している人にこうして候補者の一覧を案内できれば、お互い効率的にマッチングさせられると思いますから」

「専用のギルドだと?」

「ええ、ハンターギルドも商業ギルドも、短期的な仕事の斡旋はあっても長期雇用の募集は見かけないなーと思ったので。だったら身近にいる労働力をもっと本格的に探せる職業斡旋ギルドがあっても良いと思うんですよね。アマンダさんとかならすぐにできそうですし」

「え……ま、まぁ仕事を振ったりはしているけど……ロキ君が主導してやらないの?」

「僕は強くなってこの国を護ることが一番ですから。金と案があれば出しますけど、実務に時間をかけたくないんです」

「あーそうだったわね……愚問だったわ」


 以前と違い、飲食以外はだいぶお金の動きが良くなってきているのだ。

 生き死にに直結するので教会の炊き出しはまだ継続しているが、それだって消費量を考えれば、あと数ヵ月も継続していたら十分だっただろう。

 多くの移民者が入るまでは、だが。


 次々と木板が拾われてはペイロさんに渡され、後ろに拾った人の名前を書いて戻される。

 人気のある人は複数の希望が入り、あとは給金含めた雇用面の調整をしていくという寸法だ。


「なぁ、2000人超って割には数がだいぶ少なくねーか?」


 そう言ったのは、相変わらずガタイが良い解体場主任のロディさん。

 確実にハンターが増える――というかもうだいぶ増えているようなので、本格的に解体が得意な人材でも探しているんだと思うが。


「僕が動くべき人達、あとはどうしても雇用に向かない人たちは省いていますから。そこにあるのはおおよそ600人分くらいですかね」

「ん? 向かないってのは? 素行不良か?」

「いえいえ、犯罪奴隷や借金奴隷は綺麗に省いていますから、その類いじゃないですよ。【農耕】【畜産】【採掘】が得意で、かつ志望している方々はここに並べてもしょうがないでしょう?」


 こう伝えると、「あぁ~」と各所から納得したような声が聞こえる。

 うちは決められた方面に開墾してくれれば、今のところはいくらでも農地を広げていいよというやり方なので、よほどの初心者でもなければ【農耕】に雇い雇われという感覚は持っていないし、【畜産】は元々ベザートがその方面に弱く、かつ周囲が魔物の巣に覆われているためやや不向きな環境だ。

 まぁ【畜産】希望者は拓けた安全な土地と、そこで育てる動物がいればとりあえずは動けそうなので、そのくらいなら俺でもなんとかできるだろうが……

 しかし【採掘】は、そもそも近くに掘るような山がないので、奥地で鉱脈を見つけてもう一つ町を作るでもしない限りは無理。

 それに実行したところで完全にその町が孤立するので、しばらく石畳などの公共事業に従事してもらいながら、別の仕事に目を向けてもらうしかないだろう。

 現状町の中で求められている仕事を一手に取り纏める――、そういう意味でも、職業斡旋ギルドはぜひほしい。

 誰か、早く作ってくれないかな……


「ロキが動くべき者達というのは?」


 そんなことを思っていたら、ヤーゴフさんから突っ込みが入る。

 これは相当興味がありそうな顔だ。

 町を大きくしたい人だしね、分かる分かる。

 だから言っちゃおう。

 ヤーゴフさんが本気で動いてくれるかもしれないから。


「この町にはまだ無く、先行投資が必要になるであろう業種、ですかね」

「ほう?」

「宝石商、孤児院運営、教師、運送、酒造り、装飾品制作、魔道具製造、洗浄士、錬金術師――、兵士希望なんて人も結構いましたけど、お店とか建物とか、何かしらの土台が必要になりそうな仕事ですね」

「あ、魔道具の人!」

「ですです。予定通り来てくれたみたいなので、魔道具と装飾品、それに錬金術師の人なんかも、『新奇開発所』の敷地内で一緒にやってもらったらいいんじゃないですか?」

「そうね。一度それぞれ会って話を聞いてみるわ」

「宝石商と、あと運送の人はうちで雇っちゃってもいいっすよね?」

「うん、本人達がいいって言うなら、クアド商会で面倒見ちゃってもいいよ。追々独立したいって言うなら応援してあげればいいし」

「酒造りってのはそのままなんだろうけどよ。洗浄士ってのはなんだ? うちの店でも綺麗にしてくれんのか?」


 たぶん冗談で言ったんだろう。

 でも正解なんだな、靴屋のおやじ。


「そういうことも有料でしてくれる人です。元は【家事】技能の優れたメイドさん達なんですけど、貴族のいないこの町にメイドを継続して雇う人ってたぶんいないでしょう? だから時間制にして、一時的に家事の手伝いで人が雇えるお店でも作ってあげようかなーと。当面はニューハンファレストとクアド商会、あとは奥に転がっている貴族の家の管理が主な派遣先になるでしょうけどね」

「かぁ~掃除や洗濯に金を払うとか、優雅なやつもいるもんだねぇ。うちはカカアがやってくれるから十分――」

「ちなみに、とある国の侯爵が容姿重視で集めた人達なので、ビビるくらい可愛いし綺麗な子達ばかりですけどね。人間だけでなく、見た目がかなり人間に寄った獣人の子達も多いですし」


 そう伝えると、ピクッと。

 靴屋のおやじを含む、多くの男性陣が反応した。

 うん、これなら問題ないだろう。

 こっそり頼む人が現れると断言できる。


「ふむ、その洗浄士とやらの興味は尽きないが……店が必要な連中はロキ王が金の工面をしてくれるとして、孤児院やら教師、それに兵士なんかも商売とは違うじゃろうし、風呂の管理をしてもらっている連中と同じ国庫からの支出じゃろう? 風呂収入も増えるんじゃろうが……それだけで足りるんかの」

「かなり余裕があると思いますよ。国営アパートの選択率は現在で約6割、今後変動はあるにしても既に月6000万ビーケほどの収入が風呂の利用料とは別に入ってきますから」

「なんと!?」

「その中から教師志望の方に給金を支払い、ここで子供達に勉強を教えたら良いと思いますし、兵士希望の人達ものちの憲兵隊員として、過剰にならない程度にペイロさん達とうまく調整してやってください。孤児がどれくらいいるとか、町の治安維持に兵がどれほど要りそうとか、そういうのはダンゲ町長やヤーゴフさん達の方が僕より断然詳しいはずですから」

「承知した。暫定的にはなるが、予算資料を作成しておこう」


 あとは皆に任せても大丈夫。

 そう感じた俺は、会議を抜けて足早にニューハンファレストを目指す。

 馬車の都合で一旦この動きは止まり、第一陣がロズベリアに戻ったらまたすぐに移送が始まる。

 そう俺に教えてくれたのは――


「あ、いたいた。お待たせしました」

「先に一杯やらせてもらっていたから気にしなくていいぞ。って、王様相手にこんな口調で本当にいいのか?」

「いいんですって。僕もその方が楽ですし、みんなこんなもんですよ」


 ――ヴァラカンで共に戦った、Aランクハンターのグロムさんだった。

 昨日到着した第四陣の護衛指揮官だった彼と偶然再会し、それならついでに飯でも食いましょうと、この日約束をしていたのだ。

 ばっちり知られていたロズベリアの一件など、お互い積もる話に花を咲かせたわけだが、そこで出てきたのは残りの希望者数で――


「少なく見ても、まだ5000人はいるぞ」


 ――この言葉を聞いた途端、酒も飲んでいないのに軽く眩暈がしてしまう。

 やはりというか、鉱山の解放はやり過ぎだったらしい。

 おかげでオムリさんは病人のような顔つきになっているようだが……

 やっちまったもんはしょうがないし、それはいいとして。


「ロズベリアは、あれから大きな混乱とか起きてないですか?」


 鍛冶工房バルニールを一旦清算したということは、オスカー王が対マリーの路線に大きく舵を切ったということ。

 その結果が町に影響を与えているのか、少し気にはなっていたのだが。


「鉱物の流れが一時的に止まったことでの混乱はあったが、でもそれくらいだな。逆に……街では噂になっているぞ?」

「ん? なんのですか?」

「ロズベリアは第五の異世界人ロキによって救われた。あの者は英雄だ、とな」

「え」

「どこから声を出している。バルニールは名を『フォルジュ』と改め、国の運営に切り替わって値段も10年前と近い水準に戻ったし、不定期とは言え転送による物流で纏まった収入を得ている者も多い。それに人攫いの件は……内容も、規模も、それこそロキが一番理解しているだろう?」

「まぁ、それは、そうですね」

「侯爵家が潰れ、一番大きかったサザラー商会も潰れ、多くの行方不明者が突然街に生還したのだ。俺も含めて、誰も彼もが事態の真相を知りたがったし、多くの移民者達が救ってくれたロキ王の下へ行くと自慢げに語るのだから、噂が広まらない方がおかしい」

「……」

「ロキ、これからだぞ。触発され、奴隷に落とされたわけでもないのに、移住を検討し始めている者達もいる。たぶんだが、想像以上に多くの人が流れる」

「マジですか……」

「どこにいれば安全なのか。ここ数年は武器を握れる俺だって考えることがあるんだ。戦えぬ者達ならば尚更だろう?」


 そう言って、グロムさんはグラスの酒を呷った。

 安全か……

 西は純粋な武力で土地を奪われ、東は気付けば足元が泥沼に変わって首まで浸かる。

 かと言って中央も多くが経済的な危機に直面し、どこも真綿で首を絞められている真っ最中だろう。

 そう考えれば、まだここはマシなのかもしれないけど、それでも絶対に安全というわけじゃない。

 リルの監視を掻い潜り、後先考えずに大暴れされれば、この程度の規模など一瞬で詰む。

 脳筋という印象しかない、帝国辺りに狙われれば……


「かつてのレイド戦の時もそうですし、誰かを害して何かを成そうとする『悪党』がいなくなれば、どこにいても平和で安全に過ごせるんでしょうけどね」

「そうだな。それが理想――、しかし何よりも難しい、理想だ」


 それでも、できることを少しずつやっていくしかない。

 町も、悪党も、少しずつ。


 その日は久しぶりに俺も酒を飲み、翌日グロムさんは、また来ると告げてロズベリアへと戻っていった。
499話 主導する者、流される者

【写本】をレベル7まで上げ、二刀流状態で転写している以上、ここから劇的な速度アップを図れる方法はない。

 だというのに、ベザートの変革期とも言える状況でちょいちょい町に戻ることも増えたため、以前よりも1日の成果量が落ちることも多くなっていた。

 Sランク狩場が見つかればまた別の方法も出てくるけど、まだ見つからないし、見つかる気がしないし。

 そんなわけで、日常化してきたのがこのやり取りだった。


「ユマ先輩、今日はこれです」

「ん~、7番目は無駄、10番目は私も読んでないやつだからここ置いといて」

「あざっす!」


 朝一番に目分量で自分の転写速度より少し上回るくらいの本を抱え、オープンスペースにいるユマ先輩の下へ直行。

 そこで先輩ジャッジの『為にならない本』だけを弾き、そこから転写作業に入るのである。

 中には勇者タクヤの『魔王討伐伝』や『イケてる髭の整え方』など、どうしようもないガラクタ本も存在している。

 かと言って表題だけでは中身の判別が不十分になる――、そこで協力を仰いだのがユマ先輩だった。

 なんせ3年近く図書院に通い詰めている生粋の読書家だ。

 学生でいられるうちに完全読破を目指しているようなので、俺の求めている内容を伝えつつ本を見せ、判別してもらい、先輩に未読の本を届けながら自分も無駄を省く。

 意外とこの流れがハマっており、二刀流だと中身を理解できないのでサラッと眺めた印象くらいだが、今のところ俺の求めていない貴族の自慢話系は綺麗に除外されているように思える。

 不合格を食らった本は別にリスト化し、ガルム側にのちほどゆっくり複製してもらうとかでも十分だろう。


「って、明日2回目の試験日だよ? ロッキーは1回目サボってんだから、明日落ちたら即退学なのにこんなとこいて大丈夫なの?」

「え? 騎士科なら実技ですよね?」

「そうだろうから余計にマズいんでしょ。再入学するにしたって1ヵ月は出入りできなくなるからね?」

「ん~まぁ、大丈夫なはずですけど」


 問題があるとすれば、授業に一度も出ていないので、どんな試験を行い、何を合格基準にするのかまったく分からない点だ。

 さすがに学生の試験なので、そこまで無茶な内容は求めてこないと思うが……

 まぁ参加さえしておけばなんとかなるだろう。

 そんな軽い気持ちで翌日を迎えた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 魔法の演習場として利用される、敷地内の巨大な人工池。

 なぜかひよこ組の騎士科は、試験会場がこの人工池と掲示板に貼り出されており、推定400人くらいの少年少女達が池の横の広場で冷たい風に晒され縮こまっていた。

 これから何が始まるのか分かっていそうな顔をした連中もいるが、どちらかというと不安げな様子で佇んでいる子供達の方が多い。

 たぶん1回目の試験はまた別の場所で行われていたのだろう。

 というか、池も場所によっては氷が張っているしマジで寒い。


 パンパン!


「よーし、そろそろ始めるぞ!」


 そんな中で、一人の教師が手を叩きながら野太い声を張り上げた。

 生徒達の視線が一斉にその男へ向く。


「今期2回目の試験は長距離走だ! 制限時間は20分。時間内にこの池の周囲を1周できない者は不合格とし、逆に速い者はタイムに応じて加点する。3分毎に鐘を鳴らすから、時間配分の目安にするように」


 途端、湧き上がる生徒の悲鳴。

 てっきり誰かと模擬戦でもするのかと思っていたら、まさかのマラソン――体力測定か。

 改めて池を眺めると、小さな町の一つくらいならスッポリと収まってしまいそうなほどに広大だ。

 だから魔法の演習場にもなってるんだろうけど……

 うーん、20分以内ってどうなんだ?


「いくら技術に長けていようと、体力の無い者に騎士は務まらない。戦ともなれば守るべき者も守れず、ヘバったやつから敵に狙われ死んでいく。ただし、スキルで己の体力を補うことは可能だ。体力、魔力、それに頭も使い、この程度の制限時間くらいは軽く乗り越えてみせろ」


 そう言って強面の教師はニヤリと笑い、壇上を降りていった。

 なるほど。

 身バレ厳禁なので派手なことはできないけど、速度を上げるためのスキルなら、アクティブ、パッシブとそれぞれにある。

 20分となると、【身体強化】でちょうど2回分か……

 さすが異世界、結局はスキルも含めた総合力の勝負らしい。


 ご~ん。


 鐘の合図と共に始まった、騎士科ひよこ組によるマラソン大会。

 俺が目指すは、可もなく不可もなくの立ち位置だ。

 1回目をサボっているので、いくらここで高い得点を得ようとクラス判定に使われる平均点は期待できないし、今はユマ先輩にも手伝ってもらっている状況なので、いきなり旧図書院を目指す理由もない。

 一般的なペース配分が分からず、様子を見るため人混みの中に潜り込んでいると、


(おお?)


 全力疾走と見紛うほどの速度で駆けていく生徒も一定数いた。

 体力、持つのかな?

 そう思うも、すぐにその理由は判明する。


「うわ、地面ぐちょぐちょじゃん……」

「ちょっと! 泥が跳ねてんだけど!」

「くそ、滑るし、走りにく過ぎるだろ、これ!」


 池の周囲は舗装などされていない。

 朝露のせいなのか、それとも元から道に水が被ってたのかは分からないけど、地面はだいぶぬかるんでいた。

 たぶんこうなることを分かって、避けるために先行した。

 経験者ならそう考えそうな作戦だ。

 それに同じコースを辿るなら――、


 ――【逃走】――


 あぁ、やっぱりだな。

 後ろの生徒から追われていることを意識すれば移動の速度が上がるわけで、それでも意識的に速度を抑え込めば疲労の貯まり具合が違うことはすぐに分かった。

 不思議な感覚だが、なるほど。

 頭も使えっていうのはこういうことか。



 次第に生徒の集団は縦に長く分散していき、周囲の呼吸も少しずつ荒くなってくる。


 ご~ん。


 そして遠くから響く、3回目の鐘の音。

 半分くらい通過した頃には、だいぶ周囲の動きは露骨になっていた。


(またか……)


 泥に足を取られ、ふらついて、俺に当たる。

 最初は偶然かと思っていたけど、あまりにも頻度が多く、当たりの強さは池に落としてやろうという意思が透けて見えた。

 それに――、見覚えのある連中ばかりだな。

 俺を囲うように走っているのは、2ヵ月ほど前、初めて入った教室で自己紹介をしていたのと同じ顔。

 ソイツらが揃って俺を見ながら気持ち悪い笑みを浮かべていた。

 まだ多くは大して息も上がっていないのだから、敢えて俺のペースに合わせ、標的にしようとでもしているのだろう。


 さて、どうするか。

 ペースを上げて、強引に突き放してもいいけど……


 いやいや、それは違うよなぁ。

 俺だからいいが、もしこの悪意があの少女に向けられていたら――、人はあっさり潰れてしまうんだ。

 身分差が重く圧し掛かる世界であれば尚更に。

 だから、やっていることの重みを、痛みを。

 遊び半分であろうと、俺自身に向けられた悪意にはしっかりお返しをして、ちゃんと分からせてあげないとな。


 ――【魔力纏術】――魔力『500』


 目立たぬよう、足裏だけに魔力を纏わりつかせ――


(また、コイツか……)


【気配察知】で狙っていると理解した途端、魔力を地面の泥の中に残したまま、その一歩だけを大きく踏み込む。


「うおっ」


 身体を寄せたつもりが対象はおらず、空を切る相手の身体。

 そのままたたらを踏んだ足元の魔力を、池に向かって一気に引いた。


「おおっ!?」


 すると、ソイツは滑るように張った氷を割りながら池の中へ落ちていく。


「えっ?」

「リードル君!?」

「お、おい、足を滑らして落ちたぞ!?」


 後ろは少し騒ぎになるが、今は試験中だ。

 俺は当然助けないし、仲間であろうと自分のタイムを気にして助ける者はいない。

 なかなか薄情な連中である。


「あぶっ! やば……ってか、足が、……攣って……たすけ……!」


 あとは自分が何をやろうとしていたのか、極寒の池の中で身をもって味わっていればいい。

 誰かが助けてくれるかもしれないし、誰も助けてくれずに最悪は死んでしまうかもしれない。

 でもそれは、誰かを落とした時も同じこと。

 あとは人徳と運次第だろう。

 そして、目の前で現実的な痛みを知れば、同じ過ちを犯そうとする者はこの場にただの一人も現れなくなる。


(ほーんと、悪党に無駄な優しさや温情は、付け上がらせるための餌にしかならんわな)


 そんなことを考えながら快適にマラソンを終え、予定通り無難な結果で試験を終えた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「くそっ! なんで俺が不合格なんだよ!! お前らが助けてくれなかったからだろ!?」

「え、でも試験中だし……」

「ああ、ちょっと先に見張りの先生もいたしな。落ちたことを報告しに行った方が間違いなかった」


 試験をわざわざ無駄にして、冷たく汚い池になんて入りたくない。

 誰もがそう思っていたものの、さすがに口にはしない。

 そして一応の納得をしたオルトラン王国、バルバロッド侯爵家の次男、リードル・バルバロッドは、カタカタと震える身体を温めながら恨み節を吐く。


「あの平民野郎、調子に乗りやがって……なぁヘイレン、ほんとにアイツは図書院にいないのか?」

「たぶんね。奥の個室まで『ロッキー』って名前で何回か調べたけど、一度も僕の【探査】に引っかからなかったよ」

「ヘイレンの【探査】レベルで見つからないなら、本当にいないだろ」

「じゃあどこにいるんだよ? 修練場の方は第一も第二でも見たことがない。てっきり辞めてんのかと思ったら、なぜか今日はいるし……」

「寮区でも見かけた人がいないなら、普段は学院内にもいないんじゃねーか?」

「そうかもしれないけど、今日合格を狙ってきたってことは、諦めてないってことでしょ。ということは明日から教室に来る可能性もあるんじゃない?」

「くくっ……俺に恥かかせるなんて、絶対に許さねぇぞあの野郎……よし、アイツの机、今から花壇にしてやろうぜ!」

「「「……」」」


 主導する者、流される者。

 綺麗ごとだけでは済まない一面は、どこの世界であろうと変わらない。

 一同は来ることのない男のために、せっせと外の花壇から花を運んでいた。
500話 お返し

「マリー様、最重要監視対象である第五の異世界人、ロキに関する報告が届きました」


 若執事シェムから渡された報告書を手に取り、マリーは真剣な眼差しでその内容に目を通す。

 が、すぐに舌打ちを漏らし、報告書を突き返した。


「大して代わり映えのしない内容だね」

「今回から試験を受け始めたということは、学院生活の延長を求めていることが分かったくらいでしょうか」

「あとは偽名だけでなく、目立つ行動も控えているね。王が直々に緘口令を敷いたくらいだ。こっちに情報が洩れているとも知らず、健気に存在を隠そうとしてるんだろうさ」

「なるほど……」


 ロキの学院内に関する報告が届けられたのはこれで4度目。

 その度にマリーは苛立ちを募らせていた。

 当初は千載一遇のチャンスとばかりに寮を探り当て、寝ている最中に殺せる可能性を僅かながら期待したものだが、【空間魔法】の所持者相手にそう都合の良い話はなく……

 そこからはこれといった進展もないまま、ロキが学院生活のすべてを図書院の個室で過ごしているという報告ばかりが届いていた。


 一見すれば、まるで機械。

 もしくは中身の枯れた爺だろうか?

 学院と言えば青春時代でも思い返して心が浮き立ちそうなものだが、この男の報告内容を見る限り、本という目的以外は一切無頓着にも思えてくる。

 しかし、マリーは分かっていた。

 目的が無いのではなく、まだこちらが見えていないだけなのだ。

 空間魔法所持者であれば、個室の中からいくらでも移動はできる。

 それに本から知識を得た先で、この男は何をしようとしているのか。

 対策の立てようがないのだから、行動の指針が掴めない相手ほど怖い相手はいない。


「ようやく表へ出てきたってのに、相変わらず人脈を広げる動きもなければ、若い女に現を抜かす様子もなし……東部、ダムラット辺境伯の報告は変わらずかい?」


 先日、遠目からではあるが、直接戦地の状況を見て回ったのだ。

 若執事シェムは、マリーが予想する通りの答えを口にする。


「はい、依然として主要4か所の戦況は膠着状態にあり、王政派に明確な攻撃の意思は見えないと。武器を捨てるよう説得が続いている模様です」

「ロキは未だ東部の反乱軍に手を出していない。つまり、ガルムの後ろ盾を拒否した。うちと真正面から対立するような動きは避けたと見るべきだが……そうなると緘口令を敷いたまま、ロキが素性を隠す意図はどこにある……」

「貴族院だからこそ、王だと判明すれば騒ぎにもなるでしょうし、誰にも邪魔をされず、静かに本を読みたい、とか?」

「……」


 王政派の中に紛れた内通者からも、宮中は変わらず現状維持という程度で、新しい情報は出回っていないと報告が上がっていた。

 ならば何かしらの理由はあるのだろうが、それがなんなのか、今手元にある情報だけでは判断がつかない。

 シェムが言っている程度の狙いである可能性もあれば、こちらに悟られることなく遂行しておきたい目的を持っている可能性もある。

 となれば――、


「もう様子見は十分、そろそろ動くかね」


 仮にこのままロキを放っておいたところで、東部の親アルバート派が攻撃を受ける可能性は極めて低い。

 動くつもりなら、この2ヵ月という期間を無駄に空ける理由が見当たらないからだ。

 対ガルム用の策に支障は見当たらず、そう遠くない未来に損耗なく土地と軍馬の配合施設、それにクルシーズ高等貴族院も丸ごと手に入れることはできるだろう。

 しかしこのまま放置するということは、もし良からぬ策を練っていた場合にこちらが不測の事態に陥る可能性があり、かつ学院生活を続けようとするロキに知識を吸われ続けるということ。

 そうなると今は良くても、先々で大きな損害に繋がる恐れが出てくる。

 ヤツに――、ロキに知識を与えてはかなり危険な気がする。

 直感ではあるが、分別関係なく本を読み漁っているという報告内容からも、自然とマリーはそう思えてしまった。


「動くとは、具体的に何を? あ、籠っている図書院に奇襲を掛けるおつもりですか?」

「ふん、それで解決するなら悩みやしないよ。闇討ち専門のクロイスが殺られた時点で、小僧が起きているタイミングでの奇襲は相当難しい。僅かな可能性に賭けて狙ったところで、替えの利かない戦力を無駄に減らすだけだろうさ。それに暗殺なんて露骨なやり方が失敗した日には、そのままアルバートに乗り込んでくる可能性だってある」

「うっ……じゃあ、他に何が――」

「だから自前ではない軍を使って揺さ振る。ダムラット辺境伯に命じときな。もうこれ以上は待てない、兵の損耗なんて気にせず全軍王都に攻め入れとね」


 ここは強硬策に切り替えてでも、先々に対しての不安を断ち切る。

 そのためにマリーは大きく舵を切った。


「え? それではせっかく手駒にした親アルバート派の聖王騎士を捨てるということですか?」

「それだけじゃない。学院も捨てる」

「あ、あの、金のなる木を……いや、でもそうか。ついでとばかりに学院の書物も消し炭にして、ロキにこれ以上の知識を与えないようにするわけですね。マリー様は既に書物を所持していらっしゃるわけですし、親アルバート派とは言え、内乱の末に起きた結果となればこちらには飛び火しにくい」


 ポンと手を叩き、若執事シェムは感心したようにそう呟くも、マリーは冷めた表情でタバコパイプに火を落とし、細く煙を吐きながらその姿を眺めるばかり。

 どうやら回答が不十分だったらしい。


「だからお前は顔と身体だけだと言われるんだ、シェム。目的は複数持たせることで、濁り、晦《くら》ませ、より大きな効果を引き出せると、いつもそう言っているだろう?」

「はい……それは、もう」

「この小僧の性格を考えてみな。なぜ土地も得ずにヴァルツと争い、レサ奴隷商館を綺麗に潰してくれた?」

「え、っと、妙な正義感を持ち合わせているような……? あっ、そういえば、そのような報告も入っていましたね」


 少女を庇うような動きをしたため、一部の生徒達から睨まれていると、そのような報告もされていたのだ。

 今までマリーの計画を潰してきた経緯を考えても、ロキにはそのような側面があるようにシェムは思えた。

 相対した相手は死体すら残らず消えていく、歪で恐ろしい正義感だが……


「じゃあそんな性格の持ち主が、王都や学院を踏み荒らそうとする反乱軍の侵攻に直面したらどうする?」

「助けるために、戦う?」

「ふふっ、自分も巻き込まれる形で襲われるんだ。ロキが聞いている通りの性格と実力なら、兵を失いたくない王政派の前で東部の連中を蹂躙する可能性は高い。自発的であろうと、ガルムに頼まれた結果であろうと、後ろ盾を願った頼みの綱に国としての止めを刺されるんだから、一部からは大いに恨まれるだろうさ」

「なるほど……」

「それにあの厄介な機動力は、ロキであろうと簡単に捕まえられるもんじゃない。大規模戦闘となって打ち漏らせば、巻き添え食らって貴族や王族のガキ共も、反撃に出た王政派の騎士達も、王都に住む住民だって大量に巻き込まれて死んじまうかもしれないねぇ……」

「学院には、アルバート王国出身の者達も多くいると思いますが……?」

「だからなんだい」

「……」

「ロキを大陸中の敵に回してやる機会はここくらいでしか作れない……ふふっ、全部、無理やりにでも実現させるんだ、必ずね」

「ど、どうやって、ですか……?」


 あまりにも強欲過ぎる指示にシェムは顔を引きつらせながら問うも、マリーから答えは返ってこない。

 代わりにスラスラと、狡猾な笑みをうかべながら書き連ねたのは一枚のメモ書き。

 マリーは大きく煙を吐きながらそれを差し出し、封もされていないその内容に視線を落としたシェムは目を剥いた。


「それぞれ今日のうちにでも指示を出しておきな」

「いや、しかし……ここまで派手に動かれると、心配されていた火種を落とすことになるのでは……?」

「何言ってんだい。こっちは当初の予定通り、本気でガルムを落とそうとしているだけ。素性を隠しているロキが学院にいることなんて知らないんだ……ふふ、ふふふっ、今までのお返しってやつさ」

「お返し……」


 いやいや、だから、それが火種に繋がるのでは?

 シェムはそう思って疑問を口にしようとするも――


「これでついでに、他の目的もいくつか果たせそうだね」


 独り言のように呟いたこの言葉を聞いて、口を噤んだ。

 追い付かないのだ、思考が。

 マリーが何を考え、何を狙っているのか。

 横にいて会話をし、時折解説を受けるも、それでも理解が及ばない。


「手配を、進めてきます……」


 だから言う通りに動いておけば、間違いない。

 そう思って部屋を出るも、立て続けに裏で動いていた策を潰されたせいか。


 "本当に、大丈夫だろうか?"


 シェムはそんな疑念が湧いたことを自覚し、振り払うかのように首を振った。

 どこまで踏み込み、転がすか。

 相手を読み解き制御するのは、この方の得意とするところ。

 最も覇者に近い存在であるマリー様に、間違いなど起こりようはずもないのだから。
501話 反乱軍の覚悟

 ガルム聖王騎士国の東部に位置する、国内で2番目に大きい街『オルナート』。

 交易都市として複数の街道が交差する東部の中心地であり、親アルバート派の活動拠点にもなっているこの場所で今、幹部による緊急会議が開かれようとしていた。

 戦地から集まるのは反乱軍の中核をなす人物達。

 とは言っても戦場を留守にするわけにはいかないため、各部隊の指揮官と補佐する数名の同行者が一時帰還したくらいであるが……


「あっ」

「む……」


 部屋に入ってそうそう、お互いに顔を見合わせた面々は、そのやつれた青白い表情を見てすぐに事情を察した。


「まさか……ラネード伯爵、あなたも、ですか?」

「シュトラング子爵……その様子はやはり、おぬしもか」

「ということは、テリウム子爵も、それにブルーイン男爵まで……」


 この言葉に、無言で頷く二人。

 つまり主要戦場を任されている全ての指揮官が同じような悩みを抱えているということ。

 そして、この場に呼び寄せた人物。

 一番遅れて部屋に入ってきたダムラット辺境伯も――、というより、誰よりも憔悴し、血色の悪い顔色をしているのはこの男だった。


「なんということ……ワシだけが業を背負えば済む話かと思っておったが、そうか。皆も同じことで悩まされているわけか」

「つまり、この『悪霊騒ぎ』で呼び寄せたわけではないと、そういうことですな?」

「その通りだ、ラネード伯爵。だが、まずは確認をしておこう。何をされ、各部隊にどの程度の被害が出ている?」


 各戦地は遠く、気軽に意思の疎通を図れるような場所にはない。

 それぞれが自分達だけに起きている問題であり、軍人でもあるがゆえに、ただただ負けてはならぬと。

 この怪現象で心に傷を負うなど恥ずべきことであると強く認識していた。

 だから誰もが、自分からは決して言い出せなかったのだ。

 士気の低下に繋がるような体験を、他所の部隊に吹聴できるわけもない。

 しかし全員が同じ悩みを抱えているとなれば話は変わる。

 気持ちを理解し合える仲間同士、ただひたすら耐えていた感情が決壊したかのように言葉が吐き出された。


「深夜、同じ聖王騎士の鎧を纏った亡霊が黒い靄を纏い、天幕の中で身体を揺らしながら佇んでいるのです! 身体は僅かに透けており、斬りかかろうと鎧に触れることすらできやしない!」

「そ、そうなのだ! 現れる度に"呪い殺す"と、ひたすら目の前で呪詛を吐かれる毎日……最初は数日に1度だったものが、今では日に3度現れることもある……もう気が狂いそうだ」

「なぜかここ半月ほどは、悪霊が呻きながら現れる度に末端の兵まで目を覚ましてしまうのです。連日の寝不足もたたって我が部隊の士気はボロボロ、戦闘の継続すら怪しくなってきています」

「あの、呪いの影響はどうですか……? 最近は悪霊が現れると必ず身体が硬直し、一切身体が動かせません。それに、臓物を腐らせてやると……起き上がれない私を覗き込むようにして呪いを吐くのです。それからはもう腹が下って下って、戦地でまともに立つことすらままなりません……」

「私も皆と同じだ……最近は叫んだ拍子に黒い何かを体内に入れられた。蝕まれたのか、それからは視界が霞むことも多くなってきて、頭が割れるように痛むし、抜け毛も酷い」

「「「!?」」」


 4名にとって、ダムラット辺境伯の言っていることは初耳だが。

 しかし同じような現象に悩まされていることを知り、これは冗談でも幻想でもなく、紛れもない事実なのだと。

 改めて認識したことで強い危機感を募らせる。

 それに、少しずつ広まっているのだ。

 指揮官から、副官、そして各部隊の一般兵へと……


「……このような状況ですから正直に言いましょう。我が部隊ではこの不可思議な現象に慄き、戦線を離脱した者が既に複数名出てしまっています」


 そう告げたのはカーマン・テリウム子爵だが、目を見開き驚いたのはオルナートで全体指揮を執るダムラット辺境伯のみ。

 他は同調するように頷いた。


「こちらも同じようなもの。特に直接あの悪霊を目の当たりにした者や、呪いの影響を受けた者は酷い有様です。離脱というよりは、もはや精神が錯乱しての脱走と言ってもいい……」

「まともに眠れぬ者も多いですからな。こちらも似たようなもので、朝になったらもぬけの殻になっている天幕も出てきていますし、噂が広まり武器を握れなくなっている者も現れ始めています」

「うむ……"武器を放せ"と言われ続けているのだから気持ちも分からなくはないが、目前の敵兵を斬るのが怖いとなると、戦場では使い物にならなくなる」

「「「……」」」


 この時、"武器を放せ"という言葉に反応し、偶然にも4人の指揮官は同じことを考えていた。

 戦地を離れ、オルナートに一時帰還するまでの道中、4人には一度も『悪霊』が現れなかった。

 武器を放した途端に久しぶりのまともな睡眠を得られたことで、余計に『悪霊』の呪いが本物であると確信してしまう。


 誰かが、どこかのタイミングで討ってしまったのだ。

 かつての同胞、仲間の中でもとびきりマズい相手を。

 祖国の裏切りという、強い恨みが渦巻く中で。


 ――少しばかりの沈黙。

 そんな中で声を発したのは、唯一の聖騎魔導隊を纏めるシャトル・ラネード伯爵だった。


「して、ダムラット辺境伯。緊急招集の目的が悪霊騒ぎではないとのことですが、我らを呼び寄せた理由とは?」


 この言葉にハッと我に返った辺境伯は、神妙な面持ちで懐から1枚の書類を取り出す。


「マリーからのお達しだ。いい加減、王都と学院を押さえろと。唐突に期日まで指定された」

「なるほど……」


 ラネード伯爵は渋面のまま数度頷き、他の指揮官もなぜこのような指示が下りたのか、その理由についてはすぐに理解した。

 打倒を掲げる王政派は守備一辺倒で説得に回っていたのだから、東部反乱軍からすればわざわざ損耗の激しい戦い方を選ぶ必要はない。

 それに交配の成功した赤馬と引き換えに、マリーからは少なくない資金援助がなされていたことも大きいだろう。

 慎重に慎重を重ね、兵と民の被害を最小限に抑えることを何よりも優先して戦いを進めてきた結果、大きな損耗や敗退もないまま西へ侵攻を進めて早2年。

 未だ王都には辿り着けておらず、確かに時間を掛け過ぎているという自覚はありつつも、この安全策を好しと多くの者達は捉えていた。

 しかし、こうして上の指示が下りれば事情も変わる。

 形振り構わず、攻める必要が出てきたということ。


「まったく、この状況で敢行の指示が下りてくるとは……我らは女神からも見放されているのでしょうか」


 悪霊などという謎の現象まで各地で発生しているのだ。

 呪いによる被害は確かに出ており、これ以上攻めれば余計に大きくなる――ほぼ間違いないであろうその可能性に、思わず心は拒絶しそうになるが。


「それでも、やるしかなかろう」

「そうですね。我らが死のうと、その先がある」

「せめて、生き残る者の多い道を」

「ああ、茨であろうと、道があるならば突き進むのみよ」


 男達は止まらない。

 ガルムの未来を掴むために、確固たる意志で戦う道を選ぶ。

 だが、そうだとしても――。

 まず目先の問題をどう解決させるか。

 悪霊騒ぎの影響が大きい中、王政派の堅固な守りを突き破らねば王都へは辿り着けない。


「ダムラット辺境伯。ここで各所に散っている傭兵戦力を、主戦場となる4ヵ所に纏めることは可能でしょうか?」


 だからこそ、最南部の主戦場を任されていたブルーイン男爵は進言する。

 この国の傭兵は、そう強くない。

 中立を掲げているがゆえに傭兵ギルドの参入にも消極的だった過去があり、内乱の発生と共に止む無く設立の許可が下りたとは言え、まだ国内での稼働は2年弱と、周辺国と比較してもかなり日が浅かった。

 歴史があり、名誉でもある聖王騎士になれなかった、もしくは除名された脛に傷のある者達や、国外からの流れ者など……

 少数や単独での行動を得意とする傭兵達が各地で動いているが、強硬策を講じるのならば1つに纏めて戦力を集中させたいところ。

 しかしダムラット辺境伯は首を横に振る。


「マリーの意向で、こちらが雇っている傭兵は全て王都に向かわせるとのことだ。何か別の目的があるらしい」

「し、しかしそれでは――」


 言いかけたテリウム子爵の言葉を、ダムラット辺境伯は手で制する。


「問題ない。ここにはその打開策まで記されている」

「打開策、ですか?」

「これより8日後、おぬし達が仕切る主要4ヵ所の戦場にそれぞれ1名ずつ応援戦力を派遣するそうだ」


 応援戦力。

 それは結構なことだが、しかし1名という数に指揮官の面々は眉を顰める。

 各戦場、それぞれ王政派は数万という規模で防衛線を張っているのだ。

 突き抜けた個体戦力が存在していることは十分理解しているが、それでも多くの聖王騎士を抱える相手にどれほど張り合えるのか。

 削るのではなく、打ち破ることが必須条件にもなるため、各々が懐疑的な視線を漂わせる中、シュトラング子爵が冷静に問い掛ける。


「もしや国外――アルバート王国からの応援ですか? あの大国からでしたら、1名と言えど期待は持てそうですが」


 しかし、ダムラット辺境伯は再び首を振った。


「いや、俄かには信じ難いが……たぶん、それ以上だろう」

「え?」

「オールランカーが各戦場に参戦するらしい。よほど高額なのか、あくまで王政派の守りに風穴を開けるまでが仕事、王都攻めには参加せんようだがな」


 この言葉に、一同はピシリと呼吸を忘れたように固まる。

 噂でしか聞いたことはないが、噂だけはよく耳にする名が出たからだ。

 対象者は公表されておらず、選ばれた者にしかそのリストを見ることもできない。


「なんと、オールランカーですか……」

「傭兵の中でも頂点に君臨する者達となれば、確かに問題ないのかもしれませんな」

「ふむ。つまりどこも王政派が壊滅的な打撃を受けることは必定であり、我らはそのまま走り抜け、王都の手前で一つに合流しろと、そういうことでしょう」

「先行した傭兵連中は、王都を守護する兵の陽動でも任されているのだろう。ならば我らは王を打ち砕くのみ。悪霊などと言っている場合ではないな」

「ああ、今更後戻りなどできようはずもないのだ。真にガルムを――、我らが祖国を守るため、亡霊諸共打ち砕くぞ」


 抜けた後はどこで合流し、どのようにして王の下まで辿り着くのか。

 覚悟を決めた男達の会議はその後も続く。

 それぞれが信じる道のために。








 その時、どこかで強欲な女は笑っていた。
502話 失敗

「ねぇロッキー、君って帝王学まで学びたいの? しかもだいぶ古そうなやつ」

「いや、まったく」

「じゃあ3番も無し。5番は――うん、やっぱり読んだことないかな。このまま置いといて」

「ざっす!」


 いつもの流れ。

 そのまま個室に籠り、2冊の本を眺めながら黙々と手を動かす。

 そして閉館すれば夜の砂漠に繰り出し、合間合間に幽霊の役をやりながら、震える手で『正』の字を刻むのだ。

 どうせ今日もSランク狩場は見つからず、指揮官の心が折れることもない。

 それでもいつか来る日を信じて、ただ堅実に積み重ねていく1日が始まるはずだったが――


「ロキ王! ロキ王はおりませぬかッ!!」


 生徒の出入りも増えてくる昼時。

 個室に居てもはっきりと分かるくらい、バカデカい声が図書院の中に響き渡った。

 おかげでビクッと硬直し、息を止めて様子を窺う俺。

 声の雰囲気からして只事じゃない。

 それは分かるが……ロキ王って。

 隠さなきゃいけない名前を誰かに呼ばれ、どうしたらいいか分からず個室の中で縮こまっていると、


 バン! 

「ひっ!?」


 バン! 

「ふぉっ!?」


 バン!

「なっ、なんだよぉ!」


 次は何かを強く叩いたような音が、小さな悲鳴に交じってどんどんこちらに迫ってくる。

 どう考えても個室のドアを強引に開けているとしか思えないんだが……?

 というか、待て待て。

 今開けられるのは、非常にマズい。

 一目で複製品を作っているのがバレバレだし、脇からもう一本腕を生やしているのも見られてしまう。


「います! いますから! ちょっちょ待って!」

「ロキ王!」


 もうしょうがない。

 急いで片付け、隙間から覗くようにソッとドアを開けると、こちらを覗き込むようにデカく厳つい顔が、団子のように3つ並んでいた。


「おぶっ!?」


 しかしよく見ると、その顔の1つはかつてウォズニアク王の後ろに佇んでいた、聖王騎士のトップ。

 ハーゼンさんであることが分かる。


「えぇ……なんなんですか、これ……」


 事情を知る知り合いなら尚更だ。

 バラしてくれたことに文句でも言ってやろうと、そう思ったわけだけど。


「ロキ王、説得は失敗です」

「え?」

「東部反乱軍が全ての防衛拠点を突破、全軍がこの王都に向かってきています」

「……えっ?」

「だから、あなたの説得は失敗したのです!」

「マジ、ですか……?」


 あまりに唐突で予想外な報告を受け、暫し俺はその場で固まった。



 犯罪者とは違う。

 が、事が事だけにこの場で話す内容でもなく、ゴツい兵に連行されるような形で図書院の出口へ向かう。

 途中、本を読んでいた多くの生徒達が見守る中に、ユマ先輩もいた。

 立ち尽くし、信じられないモノを見るような眼差しを向けられるが、今はどう声を掛けたらいいのかも分からない。

 外は不穏の流れを表すかのように、分厚い雲が広がっていた。


「少し整理させてください。東部反乱軍というのは『オルナート』の街を拠点とし、東寄りの4ヵ所で王政派の防衛線を攻めていた連中で間違いありませんよね?」

「間違いありません。厳密には小規模な戦場や小競り合いの場なども他にありますが、主要な反乱軍はその者達です」

「そうですか……で、全軍が突破したと?」

「突破した上で集結し、一丸となってこちらに向かってきている模様です」

「到着予定日時は?」

「急報を伝えに寄越した魔鳥との速度差を考慮すれば、推定1時間~2時間ほどでこの王都まで辿り着くかと思われます」


 車かよ。

 内心そう思ってしまうほどの速度に、そりゃ高く取引もされるわけだと一人納得をする。

 原因はどう考えても、魔物との配合によって生まれる『赤馬』だろう。

 理由がはっきりしているのだから、その点はすんなり受け入れられるが……

 問題は、なぜ足並みを揃えたように全軍がいきなり突破してきた――というより、|突《・》|破《・》|で《・》|き《・》|た《・》|か《・》だ。

 今日だって夜中に顔を出しており、久々に指揮官が全員揃っているなと思ったくらいで、目立つ異変や予兆のようなものは感じられなかった。

 あれほど脅しを掛けたにもかかわらず、このような行動に移せるのか。

 そんな疑問と驚きも当然あるが。

 それよりも、数ヵ月と膠着していた戦場を1ヵ所だけでなく、4ヵ所全て突破してきたことの方が明らかに異常だろう。


「なぜ突破されてしまったかは聞いてます?」


 だから聞いた。

 すると、総団長のハーゼンさんは、眉間に深い皺を寄せながら答えてくれる。


「各所から一報は届いていますが、どれも定かな情報ではありません。共通していることは、今までにない特異な攻撃を受けて防衛線が壊滅したと、そう記されていました」

「なるほど……」


 となると傭兵、もしくはバックについているであろうマリーが自国の戦力でも寄越したのか、まずそのどちらかだろう。

 まぁ、どちらでもいい。

 外部戦力の介入であろうことが分かれば、どちらでも。


「一応確認ですが、ハーゼンさんがわざわざ僕に事情を報告しに来たのは?」

「そ、それは……陛下からのご指示です。かつてロキ王が仰られた、学院にいるうちはついでに守るという、あのお言葉が真実かどうか……」


 濁しちゃいるけど、要はしくじった責任を取れと、そういうことだろう。

 報酬の一部として結果が出る前から本の複製を認めてもらっていたわけだし、そう言われても仕方ないが。


「確かにそう発言しましたけど、それだと王都に向かってくる反乱軍を僕が殺すことになってしまいます。仮に掃討が成功したとして、結果的に困るのはガルムでしょう?」

「しかし、説得が不発に終わった今、もうその方法しか……もちろん! 我が王政派の聖王騎士も兵を纏め、戦線に立つための準備を早急に進めております。なので何卒、お力添えを……!」

「何を言ってるんですか」

「え?」

「僕はまだ諦めてませんよ、説得。報酬の一部も前借りでいただいちゃってるんですから」

「いや、ですが、反乱軍は王政派の打倒を目的に掲げ、陛下の首を取りに来るわけでして……王都を目前に、今更説得に応じる可能性など皆無では……?」

「最終手段として、ここでも失敗したら戦うしかないんでしょうけどね。でも最後まで、やるだけのことは――」


 ――ドン!


 唐突に。

 遠くで聞こえた、鈍い衝撃音。

 自然と音の鳴る方へ目をやると、それは南西の方角。

 たぶん学院の外――市街地のような気がする。


「これってもう、反乱軍が到達してるんじゃ……」

「さ、さすがにそのようなことは……!」


 否定するハーゼンさん。

 しかし。


 ――ドン、――ドンッ!


 立て続けに、しかもまったく違う方面から大きな音が鳴り響く。

 うち1つはそこまで遠くない。

 東……方面からすると、学院の敷地内か?

 そのことを理解した時。

 横で同じ景色を眺めていたハーゼンさんが、鬼の形相で吠えた。


「ただちに警護に当た『ちょっと失礼』うぇええええええええい!?」


 だから、飛んだ。

 二人して上空に。


「一度冷静に。多方面からの攻撃ですし、まずは状況を把握しておきましょう」

「ロ、ロキ王! 私、高い所だけはダメなのです! 高い所だけは!!」

「今はそんなこと言っている場合じゃないですって。それより見てください、学院の外周を」

「ハッ……ハッ……兵が、いない……」

「ですよね。4ヵ所の主戦場だけでも結構な数の兵がいたと思うので、ハーゼンさんの言っていた通り、まったく見当たらないなら反乱軍はまだこの王都に辿り着いてはいないはず」

「で、では、この攻撃は……」

「反応を確認したら、先ほど鳴った爆発音の一つと方面が一致したので、まずこの手の攻撃は単独行動を得意とする傭兵の仕業でしょう」

「傭兵……これから来る本隊のために、連中を陽動にでも使うつもりなのか……?」

「それは――、どうなんですかね」


 何とも言えないところだ。

 マッピングを進めながらガルム東部を巡った時は、各町に被害が出るようなやり方を取っている様子はなかった。

 それこそ戦う意思を示した兵と兵だけがぶつかり合う、弁別のある戦争をしているように感じられたし、だからこそ俺が説得を続けていたというのもある。

 まぁそんな綺麗事だけを言っていては本丸など叩けないと、今はそう思っているのかもしれないけど……

 何かしらの不可解な介入が確定している時点で、これらの動きが迫る反乱軍の手引きによるものなのか。

 まずそこから疑問が生まれる――と。

 そう伝えれば、ハーゼンさんは暫し黙りこくっていたが、もう顔馴染みと言ってもいい指揮官の連中に直接確認すれば、この辺りの答えだって見えてくるだろう。


 となると、問題は各方面で起きている散発的な攻撃をどうするか。

 横にいるハーゼンさんに視線を向けると、同じことを考えていたのか自然と目が合う。


「ロキ王……」

「分かってますよ。この騒ぎをどうにかしろってことでしょう? 僕が追い詰め過ぎてこんな事態になっている可能性も否定できませんしね」

「追い詰め……どのような説得をされていたのかは分かりかねますが、できれば学院を――、学院にいる生徒を守っていただきたいのです」

「わざわざ学院の生徒を指定するのは、命の価値が重いからですか?」

「否定はできません。学院の子供達に大きな被害が及べば、大陸中から目の敵にされてガルムは瞬く間に沈みます。その事実を理解しているからこそ、反乱軍が学院に手を出すことだけはないと判断しておりましたが……ロキ王の仰る"不可解な介入"を示すように、今も学院への攻撃は続いている」


 言いたいことは分かる。

 攻撃を加えられていると言っても、今は学院の外周を覆う防壁付近に煙がいくつか上がった程度。

 だからこうして状況把握に努めていられるが、もし東部の防衛線を壊滅させたような連中が纏めてここに来れば、事態はまったく違うものになるだろう。

 ハーゼンさんを含む王政派もその意味を理解しているから、被害が出れば致命的になる学院を俺に託そうとしている。

 そういうことだと思うが。


「……生徒数がどれほどかはご存じで?」

「7000人ほど、ですね」

「……」


 なんせ学院は広大だ。

 それこそ、ここの敷地だけで小規模の町がいくつも呑み込めるほどに。

 そして敷地内に点在する施設を利用するため、生徒が広く分散してしまっている。

 理想は東に面し、真っ先に戦場にもなり兼ねないこの敷地から可能な限り逃がすことだろうが……

 反乱軍が到着するまでに散っている生徒を集められるとは思えず、それだけの数を安全な場所へ逃がすための魔力が足りるとも思えなかった。

 かと言ってこれほどの広域に結界を張ったところで、いくら魔力をブチ込もうと秒で剥がされる未来しか見えてこない。


(ゼオ達に協力してもらうか?)


 一瞬、そんな考えが頭を過ぎるも。

 想定される敵戦力を考えれば、どうしても躊躇いが生まれる。

 特にゼオは、力が戻ってきているとは言ってもまだBランクかAランクのハンター程度。

 万の敵軍に風穴を開けられるような連中が相手では、さすがに分が悪すぎる。

 それでも、仕事として引き受けた以上は、なんとかするしか……




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 目を強く瞑り、情けなくも股間を強く握りしめながらの降下中。


「ふふ……ははは……」

「ロ、ロキ王……?」


 突然の乾いた笑い声に、ハーゼンはギョッと目を見開く。

 中空をぼんやりと眺め、気でも触れたかのようにフツフツと笑う姿は異様で、思わず上空から自身が落ちていることすら忘れてしまうほどだった。

 それは地上に降りても変わらずで。


「ほ、本当に大丈夫、ですか?」

「ええ、もう諦めたというか、開き直ったというか……そんな感じです」

「い、いやいや、ロキ王! ここで諦められてしまっては……!」


 咄嗟にハーゼンは口を挟むも、違うと言わんばかりにロキは首を横へ振り――


「ああ、そういう意味ではありませんから、ご心配なく。人の数で言えばアチラの方が遥かに多いでしょうし、どうぞハーゼンさん達は王都の市街地防衛にでも回ってください。というより却って邪魔になりそうなので、学院側には誰も応援など寄越さない方がいいですね」


 ――そう言って気だるげに周囲を見回した。

 いったいなんなのだ……

 様子が先ほどまでとは明らかに違うが、それでも今は任せるしかない。

 早く……早く、戻って確認しなくては。

 先ほど上空から確認した時、南西で大きな煙の上がっている場所は、街の『収容所』と方角が一致していた。

 遠目からでは不確かだが――、もしあそこが反乱軍の狙いなのだとしたら、市街地は大混乱に陥る。

 改めて悩み、思考に耽るほどの時間などハーゼンには残されていなかった。


「し、承知しました。では学院の方はお願いいたします」


 あとはお互いにやれることをやるだけ。

 そう思いながら、部下と共に急ぎ宮殿へ戻ろうとした時。


「あぁ、そうだ。事前に2つ、確認しておきたいことが」

「はい?」

「僕が説得を試みるのは、あくまでガルムの反乱軍に対してだけ。それ以外の学院に踏み込む『侵入者』は好きにしちゃってもいいんですよね?」


 その問いに、ハーゼンは迷うことなく頷く。

 当然だ。

 王都を、そして学院に攻撃を仕掛けた連中を生かす理由はない。

 何かしらの介入があって動いているとなれば、尚更である。

 その答えにロキは軽く笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「それと、生徒や教師を生かすためなら、あの辺りの景色が変わっても許してくれますか?」

「え?」


 しかしこの問いに対しては、返答に詰まる。

 学院内には想定訓練や様々な環境下での授業が行えるよう、森や川、小高い丘などの多様な地形が人の手も加えられて作られているが、生徒の命と天秤に掛ければ、多少の地形変動や建物の損壊くらい止むを得ないと普通は判断することだろう。

 金と時間を掛ければ修繕、回復できるのだから、他国に問題が広がる事案よりは遥かにマシと言っていい。

 だがハーゼンはこの時、自分の想定している戦闘と、ロキの想定している戦闘の規模がまったく違うのではないかと、直感的にそう思ってしまった。

 ハーゼンも際立った強者であるがゆえに、常識のだいぶ先を想定できてしまったと言い換えてもいい。

 異世界人が本気で防衛に回ると、この地は――学院はどうなってしまうのか……

 しかしハーゼンにはやはり、ここで悩み、思考に耽るほどの時間など残されていなかった。

 人命と、その先に繋がる国の存続より大事なことなどない。

 ないのだ、きっと。

 そう判断し、黙って頷くしかなかった。
503話 防衛戦の開始

 できれば避けたいことだった。

 俺の一番の目的はガルムを救うことでも、学院の生徒を助け出すことでもなく、ここに集められた本の知識を得ること。

 この場を乗り切ったらゴールなどというわけでもなく――、というより乗り切れた場合は尚更に、本の複製権利を行使すべく図書院へ籠ることになる。

 それが求めていた対価の1つなのだから当然だ。

 俺がここの生徒だからという建前はあるにしても、発覚すればマリーへの敵対意識は少なからず煽るだろうし、目立てば今後が確実にやり難くなる。

 そう思っていたが……ユマ先輩を含むあの場にいた生徒達にはバレたわけで、こうなってしまえばどうしようもない。

 もう、開き直るしかなかった。

 はぁ……

 本当に、面倒な仕事だ。


 ――【拡声】――


「緊急事態です。現在この学院は外部からの攻撃を受けており、1時間もせずに大規模な戦場へ変わる可能性があります。学院の敷地内にいる生徒、及び教師は、直ちに中央付近にある第一修練場へ集まってください。繰り返します。生き残りたければ、直ちに、第一修練場へ集まってください」


 これでどこまで伝わり、どれほどの数が動くのか。

 それは分からないが、漫画やアニメのように都合良く全員を生かせるとも思っていないのだから、危機感を覚えたやつから動き始めていればとりあえずは問題ないだろう。

 どうせこの後、嫌でも動くことになるだろうしな。


 さて、いくか。

 収納から取り出したのは、ばあさんの遺品でもある破天の杖。

 それを天に掲げ、上空から唱えた。


『精霊よ、生み出せ、"断層《フィールド》"』


 かつてラグリースの戦地に突如として現れ、その後ゼオに教わり理解した、土属性による広域魔法。

 まずはこの地を、隔離するために。

 学院の外周を眼下に収め、既に攻撃を受けている東側から、侵入など不可能なほどに地面を持ち上げる。

 想像するのは、拠点を上下に隔てる断崖絶壁。


 ズズズズズズズズズズズズ………


 ――うん、高さは十分。

 あと必要なのは、大規模魔法でもそう簡単に打ち砕かれないほどの幅か。

 そこまで細かい範囲指定はできないので、外周の石壁や塔のような施設は一部が無茶苦茶になってしまっているが……

 ハーゼンさんにちゃんと許可は取ったのだ。

 この程度は大した問題でもないだろう。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




『緊急事態です。現在この学院は外部からの攻撃を受けており――……』


「……なんだ? 拡声魔道具か?」

「え? 今、外部からの攻撃って言ってませんでした?」


 突如として響いた謎の避難勧告。

 誰が発したかも分からないソレは、外の衝撃音に気付いていなかった屋内の教師陣にも伝わった。

 しかし前例がなく、そしてあまりにも唐突な出来事であったため、誰もが状況が呑み込めずに呆然とするばかり。

 そんな中で、職員室に初老の女性が走り込んでくる。


「何をしているのです! 早く! 生徒の避難誘導を始めなさい!!」


 怒鳴り散らしたのは、クルシーズ高等貴族院の学長を務めるセトナ・フォン・ニケラート。

 教師陣の中で唯一国から知らせを受け、ロキの入学に関する件や、素性を隠す理由などを聞かされていた人物である。

 だからこそ、先ほどの避難勧告を誰が行ったかすぐに理解し、職員室へ駆け込んだのだ。


「が、学長! これは、いったい……?」

「私も詳しいことまでは分かりません。ただ、これが遊びや冗談の類いでないこと、くらい……?」


 その時、誰もが動きを止め、不気味な音に耳を傾けながら、ゆっくりと己の足元を見た。

 自分の足が、そして地面が震動している。

 さらに、ズンと。

 大きく揺れたと同時に、外から明らかに異常だと理解できるほどの悲鳴やどよめきが聞こえてきた。


「「「……」」」


 この時、この場に居合わせた教師陣は、呼吸も忘れてその光景が出来上がる様を。

 天変地異かと錯覚してしまうほどの現象を、ただ静かに見つめていた。

 王都全域を覆う20メートルほどの石壁などちっぽけに思える巨大な壁が、地鳴りを轟かせながらいくつも同時に生み出されているのだ。

 それは一見すれば山脈のようで、今自分の足が、先ほどの震動で震えているのか、恐怖で震えているのかも分からないほどだった。

 だが、真っ先に我に返った学長が再び叫ぶ。


「聞きなさい! 外周部に近い場所で授業を行なっている生徒達も多くいるはずです! 騎士科の先生方はただちに救助と誘導を! 魔導士科、官吏科の先生方は第一修練場へ集まった生徒に混乱が起きないよう纏めるのです! 国際問題にならぬよう、一人も死なせてはなりません!!」


 国際問題という、その言葉を聞いて。

 今どれほどの危機に直面しているのかを改めて認識した教師陣は、焦りも隠さず外へ駆け出していく。

 ただ一人。

 学長以外にも密かに事情の一部を知る、この男を除いて。


「副学長! ニトイ副学長ッ! 何を呆けているのですか! 私はすぐにこの事実を王都へ知らせに向かいますから、現場の陣頭指揮はあなたが執りなさい。身を挺してでも生徒達の命を守るのです!」

「そ…んな……」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 現実を直視したのか。

 下からは僅かにどよめきが聞こえる中、【探査】で人の反応を確認しつつ【精霊魔法】を連発して即席の防壁を築き上げてゆく。

 するとそれなりに数の多そうな傭兵連中も動くわけだが、予想に反して学院から逃げていくような者はおらず、中へ中へと、こんな状況でも内部へ潜り込もうとしていた。

 軽く暴れ、王都の守備兵を動かす程度を目的とした陽動ならば、まず取らないであろう動き。

 学院の内部に踏み込まなければ、達せない目的がある――、そう感じた時には、眼下でいくつかの悲鳴が聞こえ始めていた。


「キャアアッ!!」


 制服の形状からすれば魔導士科だろう。

 逃げ惑う複数名の生徒に狙いを絞り、武器を振り上げて迫る一人の傭兵と思しき男。

 素早く動く小さな的は狙い難く、急ぎ滑空するが――


「ああ゛っ!」


 ――間に合わず、少女の背中が斬られた直後に、俺もその男の腕を斬り飛ばし、首を潰す勢いで掴み上げる。


「ぐ、ヴぉ、ェええ……えッ!」


 そして、空いた手で唱えた。


 ――【神聖魔法】――『癒せ』


 だいぶバッサリいかれているけど、傷がそこまで深そうには見えない。

 この程度ならまだ間に合うだろう。

 ならば今はこの男だ。


「あなた傭兵ですね。依頼者と、依頼内容は?」

「誰、が……ふざ……『風』、ぐげ、ッああ!?」

「足先から少しずつ細切れにしていきます。時間がないのでとっとと答えてくれませんか?」

「いっ、異世界人のマリーだ! 王を討りやすいように、東から反乱軍が抜けられる通り道を作って……いでぇ……ッ! 戦力になっちまうここの教師や生徒達も殺せるだけ殺しておけって!」

「なるほど。ちなみに規模は? 何人くらいこちらに来ているんですか?」

「そこまでは俺だって知らねーよ! そ、それより早く、止めてくれ……!」

「そうですか……お疲れ様でした」

「ぁ……ッ!」


 これはたぶん、本当だろうな。

 巨大な街の中心部にある宮殿や王宮を目指すなら、下手に市街地を潜り抜けるよりはこの学院を突っ切ってしまった方が軍の移動も楽だろうし、何よりあっさり街の中心部へ近づける。

 赤馬の性能を活かせば尚更だろう。

 それに騎士科や魔導士科というくらいなのだから、教師は当然として、生徒の多くも普通の人間よりは戦える。

 才能だけで入学したあの少女のように、中には軍部で言う華級クラスや、中にはそれ以上の実力を持つ子供だっているのかもしれない。

 そう考えれば戦力にはなるのだろうが……

 しかし教師は別としても、子供達が反乱軍と戦うことなど想定するものなのか?


「あ、あの! ありが――」

「早く、第一修練場へ」


 まぁ、いいか。

 目的がはっきりしてきたのであれば、こちらも動きやすくなる。

 念のため、ハーゼンさんに確認を取っておいて本当に良かった。


 ――【拡声】――


『これより、学院の敷地内に踏み込んだ侵入者は、生徒や教師に危害を加える目的があると判断し、誰であろうと『執行』の対象とします。死にたくなければ入ってこないでください』


 あとは制服から付与を施してある武装用の服に着替えているとはいえ、魔力が保つかどうか。

 そこは傷を負う生徒の数と、第一修練場に張った結界の持続具合。

 それに今のところ目立つ強者はいないように思えるが、この場面での肝と言えるコイツで殺しきれない侵入者がどれほどいるか次第だろう。


 ――【闇魔法】――


『侵入者だけを、追尾しろ』


 かつてカルラに教わり、ギニエの黒猫相手に試した名も無き魔法。

 あの時はできなかったことも、スキルレベルが上がり、【闇魔法】の知識が増した今では可能だと確信できる。

 対象を――、学院の敷地に侵入してくる者だけを、できる限り素早く追尾し、そして殺す。

 それまでは無害な魔力の状態に止め、暗殺者クロイスの鎖をすり抜け身体だけ拘束したように、生徒や障害物は通過させてしまえばいい。

 周囲に浮かぶ、拳程度の無数の黒玉。


「殺せ」


 それらは、弾けるように飛散した。
504話 悪計

 反乱軍が要所を抜け、一丸となって攻めてくる――。

 その情報が宮殿に伝わり、王都ゲルメルトの守備兵や聖王騎士が慌ただしく動き始めた頃。


「いい頃合いだな」

「さーて、やったりますか」

「中は――、チッ、面倒だな。かなり地中に罠が仕込まれている」

「ふーん、そんじゃ最初は大人しくついていきますかね」


 王都南西に位置する『収容所』の裏手に、二人の傭兵が姿を現した。

 男達は周囲を覆う外壁を苦もなく乗り越えていき、広い敷地内を素早く移動していく。


「し、侵入者だ! き、貴様らどこから入ってきた!?」


 収容施設までは障害物もない、一見すれば見通しのいい空き地だ。

 看守が男達の姿を見つけ、わらわらと集まってくるが。


「はっ、大したスキルもない連中ばかりだな」

「聖王騎士がいなくて感謝感謝、ってね!」


 気にせず、傭兵の一人が詠唱を開始した。


「う、おぉおっ!?」

「え? えっ!?」

「ちょっ……うぶッ……」


 上空に生成されたのは、いくつもの巨大な岩の塊。

 1つ1つが人ほどの大きさもあるソレらは矢のような速度で飛来し、轟音を立てながら看守諸共収容施設の壁を破壊していく。

 濛々と立ち上る砂煙。


「やり過ぎたんじゃないか? 中まで死人が出たら意味ないぞ?」

「1万人近くいるって話だし、多少なら大丈夫だって。それに――、うん、情報通りで分厚いし、硬いわ、ここ。これでも丁度いいくらいだった」


 視界が開けてくると、収容施設の分厚い壁にはいくつかの穴が開いていた。

 そして傭兵の男は中で叫ぶ。


『おう、お前らを解放しにきてやったぞ! もうすぐこの王都ででけぇ戦争が始まる! このまま現王政派が勝っちまえば、お前らは死ぬかよくて元通りの強制労働。だが、反乱軍が勝てば協力者は無罪放免にしてやるって話だ! やることは簡単、この王都でせいぜい暴れな。特に反乱軍の通り道となる学院だ! 王の首を刎ねやすいように手助けしてやれば、おまえらはこの先自由を得られる!』

「「「うぉぁああああああああああああっ!?」」」


 悪党共の巣窟に響く、【拡声】を用いたこの解放宣言。

 当然、沸かないわけがない。

 早く出せ、俺がやってやると。

 荒ぶる男達は、鉄格子を掴みながら気炎を吐き散らす。

 その姿を二人の傭兵は満足そうに眺めながら、囚人を次々と解放していった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ガルム聖王騎士国内に3店舗の店を構える、中規模の商会――『パドン商会』。

 今、その商会が所有する倉庫に多くの装備と、様々な性質を持つ男女が集まっていた。

 街の裏側に顔の利く連中が集めた人材。

 その面々に向かって、商会長パドンが口を開く。


「よく集まってくれた。割のいい仕事を求めて足を運んでくれた諸君をまずは歓迎しよう」


 そう、割の良い仕事だ。

 しかし誰もその仕事内容を聞かされていなかった。


「内容は簡単だ。まずはコイツを着てもらう」


 そう言ってパドンの背後から姿を現したのは、全身鎧を身に纏った一人の男。

 その姿を見た者達から、ポツポツと感想が漏れる。


「街の兵士が着てる鎧と似てねーか……?」

「似てるっていうか、同じに見えるけど」

「……正規品だろ。胸元に刻印まで刻まれている」

「その通り、これはとある事情により流出した紛れもない正規品だ。諸君には各自この鎧を纏って、まずは今日という1日を活動してもらいたい。仕事内容は、この鎧を着て王都を混乱させること。王を守護する兵の陽動が目的なのでな」

「「「……」」」


 混乱させるとはどういうことか。

 具体的な行動が見えてこず、反応に困る者達が大半を占める中。


「報酬は! その仕事をこなせば、俺はいくら貰える!?」


 何よりもまずは得られる金だと。

 話が逸れたことで、全体の興味もそちらに向いた。

 誰もが、一番に知りたいのは得られる報酬額だったからだ。

 だからパドンは答える。

 揚々と、その額を。


「一人、3000万ビーケ」

「「「???」」」


 静寂に包まれる倉庫。

 金を求める庶民にとって、想像くらいはできるも、あまり現実味のない金額だった。

 割の良い仕事と聞いて、大半が想像したのは数十万ビーケ。

 多くてもう1つ桁が増える程度で、ここまでの額は誰も想像していない。


「成功報酬で一人3000万ビーケを約束しよう。条件は王政派の陥落――、つまり反乱軍が現国王の首を飛ばした時、この鎧を身に纏って生き残っていた者に報酬を一括で支払うこととする」

「つまり、現国王がやられるまで、無償で働けってことか……」

「ふむ。一応そういうことにはなるが、安心していい。もう3時間ほど……今日の昼過ぎには、この王都で反乱軍の総攻撃が始まる。それこそ王政派と反乱軍の総力戦だ。かなりの可能性で今日中には結果が出るだろう」


 国を二分する、現国王を支持する中立派の者達と、異世界人マリーを擁するアルバート王国を支持する者達。

 この2勢力がもう2年近く戦っていることくらい、国民なら誰もが知っていた。

 だから、あまりにも唐突。

 そうは思っても、数時間後に迫る戦争の知らせをあり得ないと一蹴するような者はこの場にいない。

 それどころか、とうとう始まるのか、と。

 そう感じる者達の方が多い中で、目の前に積まれた武具と、提示された3000万ビーケもの報酬、そして自分達に求められている仕事内容と。

 思考が繋がった者達から、恐怖、興奮、緊張……様々な感情に支配されていく。

 ――その表情を眺めながら、パドンは言葉を続けた。


「これだけの報酬だ。それがほぼ間違いなく、たった1日で手に入る。だからこそ、諸君にこなしてもらう仕事の意味は大きいのだ。間違っても自分だけは安全な場所で身を隠そう、どこかで鎧を脱いでしまえばやり過ごせる……そんなクソに塗れた考えを持つ愚者がいれば、まずこの策は通じない。数で勝る王政派が守りを固め、王を砕く前に兵站も捨てて特攻を仕掛ける反乱軍が殲滅させられるだろう」

「「「……」」」

「分かるかね? 諸君は新生ガルムを未来へと導く、選ばれた戦士なのだ。諸君一人一人の行動が、勝敗を左右するほどの大きな影響を及ぼす。及ぼしてしまう。だからこそ、やり遂げ、生還した者には支払うのだ。3000万ビーケという大金を」

「お、俺は……俺達は、具体的に何をやりゃいい。何をすれば、ここを守る兵を混乱させ、反乱軍が勝利できる?」


 名も無き勇士の言葉。

 この質問に、パドンは満足したように微笑みながら答えた。


「難しく考える必要はない。兵が持ち場を離れてでも動かなければいけない状況を作るだけでいいんだ。もし、諸君ら"偽装反乱軍"が、広い王都の各所で大暴れしたらどうなる。住民が反乱軍に虐殺されているとなれば、守備を担う兵の一部も動かざるを得ないだろう? なーに、人なら誰しも、10人や20人くらい殺したいと思うヤツらがいるのは当たり前。そんな憎むべき相手を巡回する守備兵のフリでもして、背後から切り捨ててやればいいのだ。簡単だろう?」

「で、でも、そんなことしちまえば、いくら反乱軍が勝とうと、もう俺達に居場所なんて……」


 そんな疑問が出た時に、カキンと。

 わざとらしく立てた金属音が、倉庫内に鳴り響く。


「見ての通りだ。ガルムの兵が使用するプレートヘルムはこのようにして顔を隠せる。性別も、種族も、こうしてしまえば何も分からん。それとも諸君は、わざわざ名乗りながら斬り捨てるような、酔狂な趣味でも持ち合わせているのかね?」

「「「……」」」

「反乱軍が無事勝利すれば、勇気ある諸君の行動は事情を知る上層部から英雄視される。この鎧の仕入れ先もそちらの繋がりになるため、間違っても罰せられるようなことはない。なので、各々がどこで動くかは自由だが……血筋が良いというだけで何を成したわけでも、成すほどの力があるわけでもないのに、我ら庶民を見下し下僕のように扱う、あの学院のガキ共を殺しても同じであることは伝えておこう」

「ッ……俺はやる! やってやるぞ!」

「お、俺もだ! 鎧と武器をくれ!」

「わ、私も!」

「ちょっ……俺が先だろ! 押すんじゃねーよ!」

「大丈夫だ。数に限りはあるが、ここだけでなく、他の倉庫にもまだ多少は置いてある。勇敢な戦士がこれだけいるとは喜ばしいこと。ハハハ、今宵は諸君と祝杯を挙げられそうだな」


 そう告げ、部下に「時間になるまでここから一人も出すな」と告げたパドンは、スッと笑みを消して次の倉庫に向かう。

 まだだ。

 まだまだ、全然足らない。

 あとどれほどの自殺志願者を集めれば、用意された武具は捌き切れるのか。

 決して、余らせることなどできない。

 そんな報告、できようはずもない。

 最悪は、自分が抱える者達にも……

 焦りから、パドンは伝う汗を必死に拭った。
505話 間に合うか

 王都中央の宮殿広場。

 ここには王宮の守備を任された複数の部隊が待機しており、奥にはそれらを纏める部隊長が集まっていた。


「北門のモスタン第二聖弓隊長からも通達! 反乱軍と思しき潜伏兵による被害報告は既に200以上! 各所で住民への攻撃が始まっており、兵を割いて制圧に向かわせているようですが、防衛態勢の維持がもう難しくなってきているとのこと!」

「北部もか!?」

「となると、西と同様だな。距離を考えればまず脱獄囚の仕業じゃない」

「いったいどうなっている……」


 彼らの中心には、フレイビルの地図を参考にして作られた王都の簡易地図が。

 色分けされた多くの駒が配置されており、当初は5ヵ所に集約されていた王都の守備戦力も、この30分ほどで広く分散してしまっている。

 そしてまた、その駒を少し動かしながら総団長であるハーゼンは指示を出した。


「予備隊を2班、早急に北部へ回せ。それとギャレイ、ディグ、街中での部隊騎乗を許可する。南北に分かれ、周囲2~3kmを目安に状況を確認。暴れている連中がいれば容赦なく始末しろ。ただし学院内部には間違っても侵入するなよ」

「承知しました」

「物見の警音が鳴った場合のみ早急に戻ります」


 物見塔に動きがなければ、少なくとも見える範囲に東部反乱軍の姿は確認されていない。

 ならば精々が2~3km。

 敵軍の移動速度を考えれば、持ち場を離れたとしてもこの程度の範囲が限界だった。

 当然、王都全域などまるで対処できておらず、東西南北に配置された各部隊がそれぞれ陣形を崩し、奔走しているこの状況……

 危うい。

 危ういが、住民が殺されている上に火を放たれ、さらに金品まで奪われているとなれば、対応しないわけにはいかなかった。

 最たる原因は、脱獄囚の存在。

 ハーゼンの嫌な予感は的中し、戦に備えて聖王騎士が不在のタイミングを狙われ、何者かに収容所を襲撃されていた。

 結果、中の囚人が逃げ出し、見境なく暴れて王都に大きな混乱を招いている。

 それだけでも大事だと言うのに。


 "兵士が、住民を殺している"


 各方面から立て続けに入った報告は、まさに耳を疑うような内容だった。

 それぞれがどれほどの規模か分からず、なぜ侵入されているのかも分からず。


 ――傭兵のように、先に一部が潜伏していたのか。

 ――それとも、逃げ出した囚人が兵を襲い、装備を奪って動いているのか。

 ――もしくは寝返った、最悪は部隊が丸ごと敵に回った可能性も、反乱軍の生まれた経緯を考えれば無いとは言いきれない。


 さらには異世界人ロキが主導してこのような騒ぎを起こしているという、当人が素性を隠していたからこそ、本来ならば起きようはずもない噂を一部の部隊長や班長が真に受けたことで、余計に場は混乱し、統率が乱れ、被害は王都の市街地から滲むように広がっていった。

 敵は元仲間であり、約2年という歳月を戦ってきた経験から、どのように考え攻めてくるのか。

 想像くらいはできてしまうため、これは明らかに、反乱軍の取る動きではないと。

 司令塔となる中央部隊も多くの者達が感じ取り、ハーゼンがロキの説得から戻った時には既に酷い空気が漂っていたのだ。

 だからこそハーゼンは、出撃しようとする2部隊の面々に、不甲斐ないと思いながらも声をかける。


「敵の攪乱に惑わされるなよ。事情があってロキ王の存在は陛下自ら緘口令を敷かれていたが、あの理解し難い東の防壁といい、ロキ王が学院を守護されているおかげで我らは市街地に戦力を集中できているのだ。陽動であろうと、目の前の敵を叩けば数は減る。今はただ、暴れる連中を駆逐することにだけ集中してくれ」


 本来ならば最も注力せねばならない、学院内部の警護を捨てているからこそ回せる戦力は大きい。

 中央にまでは聞こえていなかったようだが、ロキの言い放った『死にたくなければ入ってくるな』という警告の言葉と。

 先ほど馬を駆って宮殿に現れた女性。

 ニケラート学長の、『不可思議な黒い球体が乱れ飛び、宮殿に向かうまでの道中は侵入者の死体だらけだった』という言葉を反芻しながら部下へ思いを伝える。

 あの魔法に造詣の深い学長ですら、理解の及ばない何かを行なっているのだ。

 あとは諦めていないという、ロキの『説得』が成功するのかどうか。


「反乱軍の到着も、もうそろそろか……」


 そう呟きながら、ハーゼンは東の空を眺め――


 カラン。


 手に持つ駒を1つ、地面に落とした。


「な、なんだ、あれは……」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 黒玉の追尾を潜り抜け、西から生徒の塊に走り寄る一人の男。

 一瞬、魔法を撃ちそうになるが。


(くそ……)


 魔力消費と、それに巻き込む可能性を考え、すぐさま降下。

 直接侵入者の首を斬り飛ばすと、タイミングを見計らったように別方向から複数の弓による射撃と、いくつもの巨大な火球が生徒を襲う。


『……三面、氷壁』


 結界が存在していることを理解した上での、物理と魔法、同時攻撃。

 いやらしいところを突いてくるが、【氷魔法】ならどちらにも対処できる。

 さっきからちょろちょろと火球を放ってくる野郎は――、あの女か。


 ――『転移』――


「やっと捕まえた」

「は、反則でし……ッ、ぐっ!?」


 斬り殺し、すぐに弓を放った存在を探すも、案の定だな。

 もう背後の森に逃走しており、探査系での反応は拾えなかった。

 自然と出来上がっていた、共闘してのヒットアンドウェイ。

 敵も必死に逃げ道を残しつつ、それでも生徒の首を狙い続けてくる。

 そのことにうんざりしながらも、すぐに上空へ。


『侵入者だけを、追尾しろ』


 今はこの魔法に頼るしかなく、東の大地を意識しながら上空を旋回し、燃費の悪いこいつを何度も撃ち続ける。


 何かがおかしいと、そう感じたのはもう30分以上も前の話だ。

 東の防壁は広域に渡って完成し、傭兵連中の侵入もほぼ不可能と言っていいほど防げたはずだった。

 しかし、何かの間違いかと思ってしまうほどに、西の王都市街地から入ってくる|別《・》|の《・》侵入者が多く、そして今も止まらない。

 繰り返し警告をしても侵入し、好んで生徒の命を狙ってくるのだから、始末することに躊躇いはなかったが……


 一部、建物に火を放っていた連中もおり、生徒の護衛についていた教師陣を無理やり各図書院の警護に回らせたため、大量の生徒が集まる第一修練場は俺一人で対応するハメになり。

 未だ教師に連れられ、逃げ遅れた生徒がこちらに向かってくるため、下手に広域の魔法で一掃したりこの場を離れることもできず。

 対象のみを追尾して殺す"黒玉"は、俺の身体から離れればそう長くは魔力の状態を維持できず、精々1分程度で消滅してしまい。

 それでも侵入してくる者達が止まらないのだから、俺は魔法を放ち続けるしかないわけで、まさにジリ貧。

 加えて油断すれば結界が剥がされるため、張り直しの魔力もかなり重く圧し掛かっていた。


(まだ、来ない……魔力が2000を切った……もう、決断しないと……どうする……)


 これから反乱軍に対処せねばならず、説得の結果次第で大規模な戦闘に発展する可能性もある。

 特に個体戦力の高い外部戦力まで混ざっていた場合を考えれば、この魔力残量は相当マズいと言えるが、しかしそれ以上に危機的なのは、このままだと反乱軍が到着してもこの場を離れられないということ。

 王都市街地と隣接する、学院の西側にも巨大な防壁を築けば侵入者は防げるものの、やってしまえばまだ命を狙う侵入者も残る中で生徒達の逃げ道を塞ぎ、ハーゼンさん達に警護を引き継ぐことも不可能にしてしまう。

 それでも、塞ぐか、否か。

 もう決断しないと、魔力も、時間も、間に合わなく――




「よぉ、随分大変そうだな」




 その時。

 宙に浮く俺の肩に、一瞬重みが圧し掛かる。

 肩に回された、覚えのある腕。


「借り、返しにきたぜ」


 そう言われて振り返れば、そこには待ち望んでいた人が。


「もうギリギリ過ぎですって!」

「がはは! これでもかなり急いだんだぜ? 7000人のガキ共を強引に外へ逃がすってなったら、連れてくる魔物はどうしても選ぶからな」


 遠目には、竜……竜、なのか?

 遠過ぎてよく分からないが、空を飛ぶ複数の何かを引き連れ、ハンスさんがようやく応援に来てくれた。
506話 行く手を阻む者

(あれは、なんなんだろうな……)


 学院の敷地に横たわる、4体の巨竜。

 大きさや色はまちまちだが、どれも表ボスの比ではなく――、っていうか、興奮し過ぎてもうヤバい。

 一番大きいのは100メートル以上ありそうだし、語彙力が崩壊するほどいかつくカッコ良過ぎな竜である。

 単純な大きさだけで言えば、地下にいる腐敗のドラゴンの方がさらにデカいけど……

 それらを4体も使役しているハンスさんにまず驚くし、そもそもこの竜はどのランクなんだって疑問も湧く。

 明らかに、うちの覚醒体予備軍であるウィグよりも強いのだ。

 それはもう、段違いと言ってもいいくらいに。

 ガハガハ笑いながら飯ばかり食っているウィグは、あれでも一応Sランク魔物。

 となるとそれ以上は確実なわけで。

 SSランク狩場とか聞いたこともないけど、どこかに生息しているのだろうか?

 それとも自力であそこまで育て上げるのか?

 スキル構成も面白いし、ヨダレが出るほど興味深い魔物だ。

 これは落ち着いたらダメ元でも、ハンスさんにおねだり作戦を実行してみるとして――


「こっちはオッケーです。完全に塞いだんで、もう追加で侵入者が入ってくることはまずありません」

「おう、了解。にしてもすげーな……やることが派手過ぎんだろ」

「いやいや、ハンスさんには負けますから。ちなみにどうですか? 一気にいけます?」


 今も生徒達が教師陣に誘導されて、それぞれの尻尾からおっかなびっくり竜の背中に移動している。

 まだ内部に潜む侵入者は駆逐できていないし、防壁も俺と同じように【精霊魔法】が使えるなら戻すことは可能。

 それこそ地面を押し上げただけなので、【土魔法】だって時間を掛ければ戻したり穴を開けるくらいのことはできるだろう。

 だから生徒を、安全な場所へ移動させる。

 それが一番手っ取り早いと思って、防壁を作るよりも前に、ハンスさんへ『ここで借りを返してくれ』と。

 転移してまで真っ先に応援要請したわけだし、いざとなれば東側には誰もいない方が気兼ねなく戦えるからな。

 誰かを守りながらというのは、酷くストレスが溜まる。


「そのためにコイツらを連れてきたんだ。一遍に運んじまう」

「おぉ~さすが……それじゃ今のうちに残っている連中を始末してきますので、もし反乱軍が来ちゃったら生徒の護衛だけお願いしますね」

「おう。ただ約束通り、ガルムの内戦には参加しねーぜ?」

「ええ、そちらは僕一人で対応しますし、相手の反応次第では争いにならないよう説得するつもりですから」

「説得ねぇ……まぁいい、こっちは任せておけ。ここに辿り着いている生徒の命だけは保証してやる」


 そう言ってパチンと指を鳴らした途端、生徒達を囲うように四方を向いて待機していた巨竜がそれぞれ大口を開く。

 エグいな、これは……

 こんなの自ら喰われに行くようなもんだし、まともな神経の持ち主ならビビッて近づけないだろう。

 借りをいきなり消費したのは痛いが、ハンスさんに任せておけば間違いはない。

 そんな安心感からホッと一息吐いて、俺は【飛行】を開始。

 まだ生き残っている侵入者から強引に情報を拾いつつ、逃げ遅れている生徒を探して回った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 魔物である赤兎馬との配合によって生まれた『赤馬』は、そのスピードもさることながら、スタミナも通常の馬とは大きく異なる。

 とりわけ血の濃い最上級赤馬ともなれば、魔石を持たない動物の枠であっても半日は走り続けると言われるほど。

 軍として足並みを揃えても驚異的な移動距離を叩き出すことに変わりなく、朝から移動を続けていた東部反乱軍は、昼過ぎに目的地となる王都近郊へ辿り着いていた。

 殲滅ではなく軍の通過を優先したため、王政派に生き残りがいないわけじゃない。

 既になんらかの形で侵攻の情報は得ているだろうが、それでも止まらずに南北へ分かれ、このまま王都に対して挟撃を仕掛ける。

 ――その予定であったが、先頭を走るロイト・シュトラング子爵が突如移動の速度を緩めたことで、軍全体が詰まり始める。

 王政派の軍がもう東部に出張ってきたのか?

 後続を走る騎士や兵士達がそう思うも、次第に全容を現し始めるソレに戸惑い、多くが言葉を失った。

 そして完全に停止する、軍の行進。


「……エキネ、私はまた、幻を見ているのか?」

「いえ、大丈夫です。私も見えておりますので」

「では、通い慣れたはずのこの道を私は間違えたとか?」

「それもないかと。ここまでは見覚えのある光景が続いておりましたから」

「では、道を塞ぐアレはなんなのだ?」

「山、でしょうか。なぜあるのか、皆目見当もつきませんが……」


 本来ならば、このまま進むと正面に学院を覆う防壁や見張り塔が現れ始め、街道は北と南門に続く左右の二手に分かれるはずだ。

 しかし、その手前。

 街道が分かれるより前に、高さ300メートルはあろうかという断崖絶壁が聳え立っていた。

 このまま左右に分かれたとして、道無き草原をひた走れば門に辿り着けるのか?

 それすらも左右に渡って崖しか見えないのでは判断がつかない。

 そんな状況に業を煮やしたのか、ダムラット辺境伯や他の指揮官までもが先頭にやってくる。


「動きを止めた理由はこれか……」

「ええ、辺境伯はこれに、何か思い当たる節がおありで?」

「いや、まったくない。間諜の報告に間違いがなければ、昨日までは存在していなかったはずだ」

「となれば、魔法なのでしょうが……あまりにも規模が大き過ぎ……ん?」


 最初に気付いたのは、見上げるように崖の上を眺めていたカーマン・テリウム子爵だった。

 頂上付近から、小さい何かが飛び出したように見えたのだ。


「なんだ……?」


 距離はある。

 だからその黒い点のようなモノが最初は何か分からず、暫く目で追っていたが……


「……ダムラット辺境伯、人です。人が、浮いて……こちらに向かってきております」

「なんだと? 黒い何かが浮いていることは分かるが……鳥ではなく、真に人なのか?」

「間違いありません」

「……」


 その後、続く言葉はなく。

 代わりに、何人かの息を呑む音だけが聞こえた。

 空を飛ぶ者――、その噂をダムラット辺境伯や指揮官だけでなく、多くの者達も耳にしたことがあったためだ。


 第五の異世界人、ロキ。


 もしそうであるならば、目の前の理解し難い現象にも自ずと納得ができてしまう。

 だが、なぜこの場に……?

 混乱から抜け出せずにいると、宙を浮いていた男は静かに地面へ降り立った。

 そして真っすぐにダムラット辺境伯を見ながら言う。


「探す手間が省けて助かりましたよ、ダムラット辺境伯」


 なぜ、異世界人ロキは辺境伯を――、反乱軍の長を知っているのか。

 周囲の者達は疑問に思いながら武器に手を掛け、庇うように身体を前に出すが。


「僕はロキと言います。まず最初に言っておくと、今この時点で僕はあなた達の敵でもなければ味方でもない。ただ強引にここを抜け、王都に向かおうとすれば『明確な敵』と判断するしかなくなりますのでご注意を」


 このなんとも言えぬ言葉に、シュトラング子爵は構えを解かぬまま、武器を抜こうとしていたその手を静かに、そしてゆっくりと放した。

 これだけの聖王騎士を前に、一切物怖じしていないのだ。

 目の前で空を飛んだこともそうだが、この肌がひりつくような只ならぬ雰囲気は間違いなく本物。

 下手に刺激を与えてはこの好機を潰すことになると理解し、周囲の人間にも目で促す。

 そして――。

 ダムラット辺境伯とロキとの、約10万に及ぶ反乱軍の命を天秤に掛けた対話が始まった。
507話 『悪』の定義

 都合良く、反乱軍の高官達は大半が先頭に集まっていた。

 が、外部戦力と思しきスキル構成をした人物は、少なくとも見える範囲にはいない。

 その事を理解したところで、ダムラット辺境伯が口を開いた。


「噂に聞く第五の異世界人が私を知っていようとはな……して、そなたが我らの前に突如として現れた理由は?」

「いくつか確認したいことがありまして」

「確認したいこと?」

「ええ、あなた方反乱軍の目的は理解しているつもりですが、今回、このタイミングで侵攻の指示を出したのはマリーですか?」


 なぜ、あそこまで精神的に追い込んだのに、それでも攻めてこられるのか。

 この唐突な質問に対し、辺境伯は警戒をそのままに眉を顰める。


「……」

「違うなら違うで構いません。ただ親アルバート派と名乗って内戦を続けていたくらいですし、正解なら隠す意味もないと思いますけど」

「確かに、そうであるな。その通り、マリーの指示だ」

「……ということは、東部の戦線に外部戦力を投入してきたのもマリーですか」

「ふむ、情報は伝わっているか……左様、我らがあまりにも時間を掛け過ぎたのでな」


 そう言って、なぜか少し満足げに顎ヒゲを扱く辺境伯。

 悪霊騒ぎを知ってマリーが結果を急いだのかは分からないが、ここまでは一つの違和感を除けば最も可能性の高い、ある意味想定通りの回答だ。

 となると、問題はここから。

 この問いにどう返すかで、対処の仕方も大きく変わってくる。

 だから辺境伯だけでなく、上等な鎧を纏った指揮官の面々にまで視線を向けた。

 僅かな表情の変化でさえも、見逃さないように。


「ちなみに今、王都の中がどのような状況になっているかはご存じで?」

「状況だと? そなたがこのように待ち構えていたということは、王政派の連中が住民の避難指示でも進めながら待ち構えているのではないのか?」

「……市街地ではいくつもの火の手が上がり、学院は傭兵や兵に扮した住民、それに解放された囚人など、既に数千という規模で襲われていますが?」

「は?」

「傭兵に、囚人……? 何を、言ってるんですか……?」

「そ、その通りだ! なぜ我らが到着する前からこのようなことが……予定通りこちらが突破した状況は伝わっているならば、ハーゼン騎士総団長が真っ先に無関係な者達の避難を進めているはずだろう!?」

「学院に甚大な被害が出れば確実にガルムは終わる……反乱軍と乏しめられてまでこの国の未来を残そうとした我らは、いったい今まで何を……」


 だが、これは違うなと。

 表情や吐き出す言葉からすぐに理解した。

 辺境伯だけではなく、蒼白した指揮官の面々も、今王都の中で起こっている現状を知らない。

 傭兵を雇い、陽動や混乱を招くために指示を出したということはなく、それどころか事前に王都攻めを気付かせ、被害を最小限に抑えようとしていた節もある。

 となると、やはりダメだな。

 先ほどから衝動は強く、フツフツと余計な感情が込み上げてくるも、これはダメ。

 この中に反応の拾えない外部戦力も紛れているのだろうが、少なくとも王政派と長らく戦ってきた反乱軍の兵士達は、俺の考える『悪』の定義から明らかに外れていると再認識する。


 しかし――そうなると、今王都内で起きていることはなんなんだ?

 現王政派の打倒をより確かなものとするために、反乱軍の嫌がりそうな手は敢えて伝えず、裏でマリーが推し進めた……

 そういうことだと思うが、ならばなぜ、マリーはわざわざ学院まで標的にしたのかが分からなくなる。

 囚人は反乱軍の通り道にするためだとか言っていたが、当人達がこの調子なら、仮に周囲の石壁が崩壊していようと学院の中など通り抜けたりはしないだろう。

 それに辺境伯を新たなガルムのトップに据えたところで、大陸中から目の敵にされれば確かにこの国は終わりそうだし、マリーが金を生む学院を無駄に手放すとも思えない。

 微妙にズレが生じているような、この気持ち悪い感覚……

 しっくりこないが、しかし今は目の前にあるこちらの問題を先に片付けるべきか。


「学院の方はご安心を。全員を、というわけではありませんし建物も大きな被害が出ていたりしますが、ほとんどの生徒は無事ですので」

「ま、真か!?」

「ええ、そのための壁でもありますから」


 そう言って後ろを指差すと、納得はしていないようだがいくらか表情が和らぐ。

 だが、それも束の間。

 次の言葉で、すぐに表情は険しいモノへと変化した。


「ただ僕は学院の警護に当たっていたので、市街地の状況がどうなっているのかまでは分かりません。早めに確認しておきたいというのもあるので、単刀直入にお伝えしますけど、マリーになんてついていないでとっとと王政派に戻ったらどうですか?」

「……それを、なぜ第五の異世界人であるそなたが言う。まさか、あのウォズニアク王が現状を脱却するため、そなたに庇護でも求めたのか?」

「そうですね。断りましたけど」

「んなっ……で、ではなぜここにおる! なぜ、学院の警護などをする!?」

「傭兵として仕事を引き受けたからですよ。当初は勇者タクヤに頼るつもりだったようですけど、あそこが提示している条件を呑んだのでは、マリーが喜ぶだけかなと思ったので」

「……ウォズニアク王が……陛下が、そのようなことを仰せになられていたのか……?」


 まただ。

 何かを誤認しているのか。

 正しく状況を掴めていないであろうことから起きている、気持ちの悪いズレ。

 愛想が尽きて反乱軍でも主導しているのかと思いきや、どうもそういうわけではなさそうに思える。


「……本当は忠誠を完全に失ったようには見えず、マリーを呼び捨てにするようなあなた方と、一つに纏まることを望んでいましたけどね。だからこそ王政派は戦力の削り合いなどという第三国の喜びそうな道は選ばず、根気よくあなた方を説得し続けていたのでしょうし」

「「「……」」」

「それに今回の件でも十分理解されたでしょう。あなた方には知らされていない策が王都の中で実行されている。解放した囚人や、どこかから集めてきた鎧で捨て駒の偽装兵を生み出し、無関係の子供達を容赦なく殺そうとする卑劣な策が。それでも親アルバート派を名乗り、マリーに付くんですか?」


 長い沈黙。

 それぞれが苦渋の色を浮かべるも、絞り出すように声を発したのは辺境伯だった。


「……改めて、問う」

「?」

「そなたはガルムの後ろ盾になることを断ったのだな?」

「はい、そうですね」

「ならば答えは決まっている……付かざる、を得ないのだ……我らには、それしか……ガルムには、親アルバート派と名乗るしかもう残された道がないのだ!!」

「……そうなると、僕も強行策に出るしかなくなるんですけど」

「学院を守ってくれたことが事実であれば感謝はしておるが、それでも止むを得ん。元から退路など考えてもいない。ガルムの未来を掴むため、ここでそなたが敵として立ちはだかるならば打ち倒し、そして前に進むのみよ!」

「「「ウォオオオオオオッ!!」」」


 空気が、震えた。

 そう感じるほどの裂帛の叫び。

 それは伝播し、次々と武器を掲げ、即座に後方まで臨戦態勢へと入っていく。

 この並々ならぬ決意と覚悟は、俺のまだ把握できていない事情があるからなのだろう。

 俺が後ろ盾になれば問題は解消されるという話ならば、おおよその見当くらいはつくが……

 だがこの場で聞ける雰囲気も、答えてくれるような雰囲気もなく、そのような問答を繰り返している時間もない。

 やはりスキルレベルが上がろうと所詮はジョブ系。

 俺に大した【交渉】のセンスは無いらしい。


 はぁ――……


「武器を向けないでくださいよ。こちらも必死に耐えているんですから」

「なんだと……?」


 言いながらも、再び宙を舞う。

 やはり、どこかに混ざっているであろう外部戦力は沈黙したまま。

 行動に移すこともないのなら、もうさほど気にする必要はないか。


 ――【魔力纏術】――魔力『1000』


 ろくに回復もできておらず、魔力はスカスカ。

 それでもまだ、このくらいの策は実行できる。

 下は予想通り騒がしくなるも、今はただ、視線を一点に俺自身へ。

 人によってはかなり尾を引くかもしれないが……

 とびきりキツいのをお見舞いすれば、しばらくは時間を稼ぐこともできるだろう。


 ――【拡声】――


『武器を放さないあなた方に、本当の"呪い"がなんなのか教えてあげますよ』


 ――【恐怖】――



『しばらく、この場で、死んでいてください』
508話 果たせた目的、果たせなかった目的

 いったい何が起きているのか。

 血の臭いに時折焦げ臭さが混ざり、周囲には夥しい量の死体が転がっているこの惨状。

 相応の家柄に生まれ、今まで何不自由なく育てられてきた少年少女にとってはまるで理解が及ばず、現実感もないまま教師陣に誘導され、岩のような肌をした竜の背に移動していく。

 我先にと一番の巨体に乗り込み、最も安全で見晴らしの良さそうな竜の首根に陣取ったこの少年も。


「くそっ……なんで俺がこんな目に……父上に報告してやる……絶対に……」

「「「……」」」


 数人、行動を共にする子供達もいたが、先ほどから幾度となく呟かれる言葉に返す者はいない。

 それこそ気が気ではなく、誰もそんな余裕はなかった。

 今は姿の見えない、一人の少年。

 貴族でもまったく知見のない、不思議な衣装を身に纏い、襲い掛かってくる連中を上空から次々と殺していたのは、間違いなく自分達が遊びの標的にしていたあの少年だった。

 いくら戦闘技能に優れた生徒でも、本気で自分達を殺しにかかってくる相手との実戦となれば武器など握れず、群衆の中へ中へと、弱者を盾にするかのように隠れる者達も多くいたのだ。

 実際は守られていたという事実があったとしても、加害意識のある者達はそれ以上にあっさりと人を殺し続けていた事実に恐怖が込み上げる。

 それにあの少年は、巨竜に乗って現れた青髪の男とも親しげに話していた……

 幸い学院内ではまともに会えなかったため、直接何かしたのは試験の時の長距離走くらいだが、しかし、面白半分に凍った池へ突き落とそうとしてしまった事実を本人は気付いているのか。

 窮地を脱したというのに生きた心地がせず、くだらない虐めに参加していた者達は漏れなく消沈していた。


「よーし、そろそろ出発するぜ。相手次第じゃここも戦場になる可能性だってあるが、本当にあんたらは残るんだな?」


 青髪の男が、竜の背に乗ることを拒否した大人達へ視線を向ける。

 この場にいないことが判明している生徒を探し出し、保護するために残ると判断した、80名ほどの教師達。

 お互いに、たぶんもう、生きている可能性は低いと。

 そう分かっていながら、それでも教師達までここを去るわけにはいかなかった。


「ひ、一人とて、見捨てるわけにはいきませんので」

「そうか……ならあと数人の生徒くらい、あんたらが気張って守り抜いてみせろよ」

「承知しております。生徒達を、よろしくお願いします」


 言いながら、残ることを選んだ教師陣が一斉に頭を下げた。

 決して本人が名乗ったわけではないが、一部は『ハンス』と呼ばれていたことまで聞いており、この複数体の巨竜が何よりの証明になっている。

 目の前にいるのは世界の4強と呼ばれる異世界人であり、エリオン共和国の元首。

 カチコチに固まった教師陣は当然として、半数以上の生徒達も、この青髪の人物が何者なのかくらいは想像ができていた。


「おう、アイツとの約束だからな。このくらいは任せておけ」


 そして、浮き上がる巨体。

 方々から悲鳴が聞こえる中、次第に視界は広がり、閉ざされていた防壁の外に生徒達とハンスの目も向く。

 東の地で、何が行われているのかも。


「おーおー、こいつは想像以上にやべぇな……」

「「「……」」」


 この時、ただちに状況を把握したのは、竜頭に立ち、わざとらしく片手で目元を翳していたハンスのみ。

 生徒達はおおよそでしか状況を掴めていなかったが、それでも東の大地を覆うように広がる赤馬と兵士の大軍くらいは、盲目でもなければ一目で分かる。

 それに【遠視】スキルに多少なり自信のある者達は、少なからず何が起きているのかを理解し始めていた。


「なんだ? 相手が全員倒れているのか……?」

「いや、馬は動いているのも多いな……ただ、兵はもう全員死んでるんじゃないか?」

「私達を守ってくれていた人が、一人でやっつけてくれたの?」

「学院の生徒だって言ってるヤツもいたけど、アレは何者なんだよ? っていうか、どうやって馬を生かしたまま人だけ殺せるんだ?」

「「「……」」」


 寮生活をしていては、いくら貴族という立場であろうと情報を得る機会は大きく減る。

 子供であれば尚更だ。

 すぐ近くには知っていそうな人物もいるが、何者か予想がついている生徒達は恐れ多くて声を掛けることすら躊躇われた。

 まったく空気が読めず、予想も付いていないこの少年には関係ないようであったが。


「なぁ、青髪のおっさん! アイツ何者なんだよ!」

「リ、リードル君!?」


 周囲がどよめくも。

 ハンスは気にした様子もなく、高笑いしながら答えた。


「くははっ! んなもん、あとで本人に直接聞けよ。学友ってやつなんだろ?」

「違う! あんな平民と一緒にするな!」

「平民ねぇ……なるほど、そういうことかよ」


 誰もロキの身分や立場を知っている様子がないことから、おおよその事情を理解したハンス。

 だからこそ、忠告の意味でも釘を刺す。


「おう、そこの威勢が良い坊主。ガキだから許されている部分だってあんだろうし、親を引っ張り出すのだけは止めておけよ」

「はぁ?」

「お前の頼みの綱である父親がしゃしゃり出てくれば、話の展開次第では帰る家が無くなっちまうぜ? もっと大きな力に潰されてな」

「……?」


 理解したのかしていないのか。

 これ以上はハンスも後方に視線を向けることなく、


「シグがあんだけ警戒するわけだ……」


 東の地を一瞥したあとは避難先を求め、西へと舵を取った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 時間はほんの少し前。

 王都ゲルメルトの北部に位置する山中で、二人の女性が苦し気に呻いていた。


「はぁ……はぁ……なんだっていうんだい、これは……」

「ぐっ……私にも、まったく見当が……【回復魔法】も、まったく効果が、ありませんね……」

「ふぅ――……反乱軍が綺麗に潰されちまってるんだ。あのガキが何かをやったのは間違いないんだろうけど」


 問題は、何をやったのか。

 数km離れたこの位置に何かしらの魔法を打ち込めるとは思えないし、間違いなくこちらには気付いていないはずなのだ。

 にも拘わらず、攻撃とは違う、状態異常の影響を確実に受けていた。

 その証拠に今も身体は小刻みに震え、足がふらつく。

 横にいる女――アギーラに至っては、腰が抜けたのか未だ片膝を突き、立つことさえできずにいた。


「どうしますか、マリー。反乱軍はあの有様ですし、予定通り、何発か撃ちますか?」

「もう動けんのかい?」

「もう少し時間をもらえれば。なので急ぐようでしたら、射程範囲内までの移動と、即時退避は、あなたの転移にお任せすることになります」

「それは構わないが……」


 そう、これも予定していたことだ。

 理想はロキの討ち漏らした反乱軍が王都を掻き回し、その隙にさらなる混沌を生み出すことだったが、実力次第では綺麗に殲滅されてしまう可能性も捨てきれない。

 だからこそ保険として、連れてきていたアギーラが姿を隠したまま王都の各所に広域魔法を放ち、反乱軍の代わりに大きな混乱を生み出す。

 そのような準備もしていたが、問題はタイミングだ。

 射程内に入るということは、相手の探査範囲内にも入りかねないということ。

 マリー自身は問題ないとしても、アギーラの存在が探知されれば、同時に自分の存在まで把握されてしまう恐れもある。

 それが考えうる最悪。

 ならば、アギーラが回復するまで待つべきか。

 そのような考えを巡らせていたところで――


「「……」」


 突如、学院を覆うように聳え立つ崖の奥から数体の竜が浮かび上がってくる。

 これほど離れていてもその存在感は凄まじく、それが誰の所有物であるのかすぐにマリーは理解した。

 そして先ほどとは異なる震えが込み上げ、強く拳を握り込む。


「なんでハンスのヤツまでここにいるんだい……!」


 こればかりはマリーの想定から完全に外れた動き。

 横にいるアギーラも、冗談じゃないとばかりに強い難色を示す。


「……マリー。さすがにロキとハンス、2名の異世界人を相手にするなんて聞いていませんよ。これは明らかに契約違反でしょう」

「……」


 あの男が誰かと組むわけがない。

 頭ではそう分かっていても、望遠魔道具を通して見える光景は、多くの人影を背に乗せた竜が羽ばたいており、その先頭には見覚えのある青髪の男が立っているのだ。

 どう考えても共闘して護りについているとしか思えないこの状況。

 逃がした先でガキ共を襲うという手もなくはないが……

 ここからの動きは、事前準備なしの強硬策になる。

 その後のリスクを考えればとても上策とは言い難く、下手に踏み込めばロキとハンスの二人と同時に戦争をおっ始めることになりかねない。

【空間魔法】持ちを、同時に二人も――。



 はぁ……



 何かを諦めたような、深い、深い、マリーの溜息。


「……仕事は終わりだ、アギーラ。もう帰るよ」

「報酬さえ貰えるのなら喜んで。しかし、あなたがあっさり引くとは珍しいですね、マリー」

「ふん、同時に相手しても勝てはするだろうが、代わりにこちらの手札をほぼ全て使い切ることになる。そんな割に合わないことするわけがないだろう」

「ふふ、それでもあの二人を前にして"勝てる"と言えるんですから、あなたも大概ですよ」

「それに一番の目的は果たせたんだ。スキルを覗けないのは予想通りだったが……ふふ、ふふふっ、そのツラ、ようやく拝めたよ、ロキ」


 今はまだ、抱える戦力を失うわけにはいかない。

 いつか来る、その時まで……


「こうなっちまったら、暫くは北かね」


 そう言い残し、二人の女性は誰に気付かれることもなく、この地を後にした。
509話 語られる真実

 影響しているのは、力量差か。

 ついでとばかりにそのようなことを検証しながら、既に回復し始めている面々を眺める。

 さすがに今回が初使用というわけではなく、【恐怖】は適当な野盗を相手に何度か試していた。

 その結果、漏れなく白目を剥いて痙攣し、その場で意識を刈り取れることは把握していたが、如何せん野盗連中は途方もなく弱い。

 強さがピンキリな反乱軍を相手に今回使用したことで、初めて影響の差というモノが見えてきたわけだ。

 よく見る全身鎧を着た一般兵はピクリとも動かない中、派手な白金の鎧を着た連中はもぞもぞと、這いつくばりながら小刻みに身体を震わせているのだからまず間違いないだろう。

 考えてみたら、俺もグリムリーパーから【恐怖】を喰らった時は、ビクンと身体が痙攣したくらいで済んでいたわけだしね。


「ロキ王! ロキ王ーッ!」


 そんなことを考えていたら、後方から野太い声が。

 視線を向けると、馬に騎乗した100名近い人影がこちらに向かってきていた。

 先ほど【遠話】で事情を一方的に説明し、ここに来てくれと伝えた総団長のハーゼンさん達だ。


「ロ、ロキ王! 突如巨大な竜が飛来し、学院の子供達をどこかに!!」

「ああ、それは伝え忘れていましたね。応援要請したハンスさんが、安全な場所に避難してくれているだけなので大丈夫ですよ」

「んん? ハ、ハンスとは、あのエリオン共和国の……?」

「ですよ。なので今なんとかすべきはこっちの反乱軍です」


 おいおい、大丈夫か?

 ハーゼンさんも【恐怖】を喰らった後みたいにフラついているが、まだまだやることはたくさんあるのだ。

 背中を押して強引に辺境伯の下へ連れていくと、なぜかウォズニアク王までその後ろをついてきていた。

 え?

 王の命が反乱軍の目的なのに、何やってんだこの人?


「えーと、王が外に避難してくるほど街の中も危ない感じですかね?」

「いや、各所の鎮圧はまだ続いているが、余を狙うような動きは見られぬ」

「じゃあ……」

「ハーゼンから反乱軍の鎮圧と、何やらのっぴきならぬ事情がありそうだという報告を受けたのだ。ならば余が直接話を聞くべきだろうと、そう思った次第である」

「うーん、全然まだ油断できないんですけど……」


 マリー側の外部勢力がどこに潜んでいるのか分からないのだ。

 一国の王様にしては随分と武芸が達者なようだが、どデカい範囲魔法なんかを撃たれでもしたら守り切れる自信はまったくない。


「ロキ王、こればかりはしょうがありません。陛下は王であると同時に一人の聖王騎士でもありますので、命の危険があるからと引くようなお方ではないのです。私も全力でお守りしますから」

「なるほど……そういえば、僕の時も直接会いに来てましたもんね」


 はぁ、こうなってしまえばしょうがないか。

 それに王がいるなら話が円滑に進むという利点もある。

 ならばと気持ちを切り替え、


 ――【結界魔法】――『燐光』


 辺境伯を中心に、僅かな範囲の状態を回復させた。


「まず初めに忠告を。必要だろうと判断してハーゼンさん達に来てもらいましたが、僕と、それに王政派の皆さんが求めているのはあなた方との対話です。この期に及んで強引な武力解決を図ろうものなら、後ろで寝ている人達も含めて全員を容赦なく殺しますから、そのつもりでいてください」

「ぜ、全員を……承知した……」

「それでとりあえず確認しておきたいのは、マリーが東部の戦線突破用に用意した外部戦力は今どこにいます? この軍の中に紛れているんですか?」

「いや、アレはあくまで突破のために用意された戦力で、事前に王都までは同行しないとマリーから知らせが届いていた」


 そう言ってダムラット辺境伯は懐から手紙を取り出す。

 中身を検めると、確かにそのような文面が記されてはいるな。

 まぁマリーは全てを反乱軍に伝えていないので、この手紙の内容を完全に信用することはできないが。

 それでも依然として探査系で反応は拾えないし、ここまでやっても攻撃に入る素振りが見られないので、この中に混ざっていない可能性は高いと判断しても良さそうである。


「では本題に入りましょうか」


 一度言葉を切り、未だ苦しそうな辺境伯と指揮官の面々を眺める。


「ダムラット辺境伯、あなたはなぜ謀反を起こし、反乱軍を率いて王の命を狙ったのですか?」

「……」


 このように問うも、辺境伯はジッと地面を睨み、一切口を開こうとはしない。

 案の定かな。

 そう思っていると、先に言葉を発したのはウォズニアク王だった。


「ロキ王がそのように問うということは、マリーに唆され、その後の地位や金に目が眩んだわけではないと?」

「それは違うでしょうね。地位や金が目的なら、僕があれだけ呪い殺すと、実害付きで脅したんです。いくらマリーから命令が下ろうと、そのような状況下でわざわざ死地に出向くとは考えにくい。地位も金も、どちらも生きてこそ意味のあるものですから」

「呪い……いや、余計な詮索はよそう。つまり、自らの死を覚悟してでも成し遂げるべく目的があり、余の命を取りに来たということか」

「ええ、でもこうして王都まで攻め込まずとも済む選択はあった。そうですよね?」

「左様……そなたが……いや、そなたでなくとも、マリーに比肩する力の持ち主が、ガルムの後ろ盾となってくれれば……」


 これで、確定だろう。

 あれほどの脅しにも屈さず、強い意志を持ち。

 会話の節々から、下手をすれば王以上にガルムの未来を憂いているのではないかと、そう感じさせるほど辺境伯の言葉には重みがあった。

 にも拘わらず反乱軍を纏め上げ、後ろ盾が現れれば手を引けるというのならば、もうこれくらいしか出てこない。


「辺境伯。もしかして、あなた方が王を討って傀儡にでもならねば、アルバート王国が強硬策に出るとでも脅されていませんか? もう落ちているパルモ砂国からアルバートの軍を移動させることは可能なわけですし」


 そう伝えると目を見開き、驚いた表情で辺境伯は俺を見つめる。


「パルモ砂国の内情を、知っておったのか……?」

「ええ、ヘルデザートで掘り起こされた遺物の流れが明らかに不自然でしたから」

「そうか……」

「……」


 間違ってはいない。

 そんな感触だが、まだ何かが違うような反応も窺える。

 だが、これ以上は……

 そう思っていると、横から口を挟んだのはシュトラング子爵。

 どうやらこの人も喋れるほどには回復したらしい。


「辺境伯、我らがこうして敗れた今、内情を口にしても結末は同じ。ならばもう、よろしいのではありませんか……?」


 この言葉に瞳を閉じ――。

 5秒、10秒……大きく一呼吸を置いてから、辺境伯は意を決したように言葉を発する。


「確かに、敗れたならば、もう同じか……正確には2ヵ国だ」

「え?」

「南東のパルモ砂国と、北東のテリア公国。ガルム東部と隣接する両国が既にアルバート王国の手に落ち、我が領土を攻め入る準備ができている」


 この爆弾発言に、ウォズニアク王とハーゼンさんが目に見えて動揺する。

 俺もテリア公国という国の由来を何かの書物で見た記憶があるため、二人ほどではないが驚きを隠せないでいた。


「な、なんという……パルモ砂国の王家は健在であるし、テリアに至っては我がガルムの古き王家から枝分かれた血筋だぞ? 属国に下ったなどという話も聞いておらぬし、なぜダムラット辺境伯はアルバートの手に落ちていると、そのような情報を掴めたのだ?」

「それは約2年前の夏、東部を中心とした貴族会合に突如マリーが現れたからです。パルモとテリア、それぞれの軍部を総括する将軍を引き連れて」


 そこから静かに、ゆっくりと語られた辺境伯の言葉に、王も、俺も、ハーゼンさんも。

 誰もが口を挟むことなく、様々な感情を抱きながら暫し聞き入った。


「ワシはガルム最東の地を守る立場でありますから、両国の将軍とも面識があり、そのどちらもが本物であることはすぐに分かりました。そして言ったのです。表向きは何も変わっていないように見えるが、パルモもテリアも、アルバートとは既に従属の関係にあると。
 この2国がアルバートの強力な支援の下ですぐにガルムへ侵攻、東部から余すことなく蹂躙もできるが、できれば手荒な真似はしたくないとも言っておりました。だからワシに――、いやその会合の場にいた者達に向かってガルムの政権を奪えと。要はワシに傀儡の王になれと、そう言ったのです。代わりに成し遂げればガルムという国も残し、物資が多く出回ることによって、今よりも豊かな生活が送れるようになるだろうと。
 ……その話には、確かにと思わせるほどの信ぴょう性がありました。パルモもテリアも、国が荒廃したという話は聞いておらず、それどころか生活の水準が向上したなどの噂を耳にしておりましたので」

「だから、反乱軍を率いるという選択を選んだわけか」


 感情の定まらない瞳で、静かに問うハーゼンさん。


「その選択を選ぶしかなかったのです。拒絶すれば侵攻は始まり、我が領土から順に西へ西へと踏み荒らされていく。多くの民は死に、いずれガルム聖王騎士国の歴史は潰え、アルバートに名が変わる……そのような選択をワシは選ぶことなどできなかった」


 この辺境伯の言葉に、黙って聞いていた他の指揮官達も、自らの責任を求めるように追随していく。

 十分、納得できる言葉だ。

 部外者ではあるが、辺境伯の立場を考えれば、その判断が最良ではないかとも思ってしまう。

 しかし――、


「なぜ、辺境伯は主であるウォズニアク王に、そのことを相談されなかったんですか?」


 一つだけ、腑に落ちない点。

 相談すれば、自国の兵士達が潰し合うという、不毛な争いをしなくても済んだのではないか。

 そう思ったが。


「マリーはワシに話を持ち掛ける前、穏便に済ませるためにアルバートへ下れと、陛下に何度も打診していると言っていた」


 こう返され、ウォズニアク王に視線を向ければ、険しい表情のまま僅かに首肯する。

 そういえばそうだったな。

 当時は中立派だったということもあるだろうが、本の盗難疑惑で苦しめられた過去があり、ガルムの王は何があってもマリーにだけはというくらい拒絶している節があった。


「だからだろう。マリーはこの件に関して、陛下を含む王政派へ絶対に情報を漏らすなとワシ達に口止めをした。漏れた時点で破棄と見做し、軍事侵攻に移るとも。それに内部からすぐに情報は拾えるから、漏らせばすぐに発覚するとも言っていた」

「ッ……」

「内部から、か」

「なるほど、てっきり家族でも人質に捕られているのかと思っていましたが……家族どころか領地の住民が人質のようなもので、ガルムという国を残すため、そして住民の命と生活を守るために謀反を起こし、王政派の兵を倒してでも進むという選択をしたわけですか」

「……だからとて、罪が消えるわけでもない。この手で――、ワシの指示で多くの同胞を葬ってきたのも事実。陛下……全ての責は反乱軍を纏め、指揮を執ったワシにございます。いかような処罰も受ける所存でありますれば、ガルム存続のため、他の者達の命だけは、どうか……お救いいただきたく……」


 そう言って額を静かに地面へ擦り付けた辺境伯。

 外野が口を出すべきではない。

 それは分かっているが、これはあまりにも――。


「ロキ王、案ずるな。そのような圧を放たずとも、分かっておる」

「え?」

「この一件、余にも落ち度はあるのだ。ガルムの歴史に縛られ、中立という立場に拘り過ぎていたこともそうであるし、説得は続けていたというのに情報が回るのを恐れ、お前たちにその立場を崩したことも伝えられなかった。良し悪しは別として、勇者タクヤの後ろ盾は得られるとでも伝えておけば、何かが変わっていたのかもしれん」

「……」

「お互いに、国を守ろうとしたのだ。ガルムという国を、あのアルバートからな。ならば余がすべきは粛清などではなく、国の存続を願いながら亡くなった兵達へ報いるためにも、一丸となってガルムを守り通すこと。そうであろう? ダムラット辺境伯よ」


 王の言葉に辺境伯は、暫し項垂れたまま微動だにしなかったが……

 顔を上げた時には先ほどと変わらない、大きな覚悟を背負った目をしていた。


「……陛下のお命を頂きに参ったのです。如何なる極刑をも覚悟の上でございましたが、もし許されるのならば、これから始める可能性の高い東部侵攻を死地とし、 万の兵を道連れにすべく死力を尽くしましょう」


 よく見れば、他も顔つきは同じ。

 結局辺境伯と、それに指揮官連中も死に場所を求めて、これからの戦に備えようとしている。

 生徒でいる代わりに学院を守り、東部反乱軍を説得するという、傭兵としての仕事はこれで果たせたと思うが……


 なんとなく。


 この人達にはあまり死んでほしくないなという気持ちと。


 知らずとは言え、精神的にだいぶ追い詰めてしまったことへの罪悪感と。


 それに、高みの見物を気取って何かを狙っていたマリーへの苛立ちや気持ち悪さと。


 でも下手に大きく動いて、ベザートの皆を危険には晒したくないという気持ちと――。



 他にも、様々な感情が入り混じる中。

 手薄である今が最も危険だからという理由で、フラつきながら東部へ引き上げていく元反乱軍の後ろ姿を、俺はハーゼンさんから声が掛かるまでボンヤリと眺め続けていた。
510話 後始末

 反乱軍の侵攻を止められたら終わりというわけではない。

 ガルムがやるべきことは山積みであり、急ぎ王都内へ戻ったハーゼン達は、いない間も進められていた市街地の鎮圧にすぐさま取り掛かっていた。


「南部、テニアン第二聖騎隊長が概ね南部の鎮圧に成功したとの報告が! 予定通りこのまま1部隊を残して全軍が南西に回るそうです!」

「よし、【水魔法】と【魔力譲渡】の使用が可能な者達も追加で向かわせろ。そのまま西部の鎮火を並行して行なう」

「承知しました。しかし最も火災の激しい北西部までまったく手が回りませんね」

「既に【土魔法】の使い手を可能な限り集めて向かわせているんだ。延焼を防ぐために火災地域を土で囲い、火を塞き止めるくらいしか今は対策が取れん」

「そうなると住民の避難が……」

「分かっている。ナズリー! いけるか!?」

「大丈夫です、一応」


 呼ばれた現聖騎魔導隊の隊長ナズリーは、聖王騎士でありながら通常の恰好とは異なり、赤みの強いレザー装備を身に着けていた。

 それは後方に続く部下達も同様で。


「テサリア通りを境に土壁を築き、火の回りをここで止める予定だ。お前たちはその内に入り、鎮火しつつ住民を救助、内部に偽装兵が残っていれば始末しろ」

「住民は西と北へ避難誘導すればよろしいですか?」

「それで構わん。ただしあまりに状況が厳しいとなれば止むを得ん。ナズリー、お前の判断で外周の防壁を破壊し、避難経路を確保することも許可する。住民と、そして自分達の命を最優先しろ。いいな?」


 火が回る中、徐々に逃げ道が塞がれていくのだ。

 いくら魔法に秀でていようと、魔力は有限。

 火に囲まれた中で尽きてしまえば、当然死ぬ。

 耐性装備を身に着けたとしても、どれほど動け、熱さに耐えられるのか。

 現場の状況がはっきりとは分からないため、選ばれし聖騎魔導隊の隊長と言えど相応の覚悟が必要だった。

 だからこそ、一度ナズリーは空を見上げ――


「分かりました。そうなる前に、彼が救ってくれることを祈ります」


 静かにそう告げ、部隊を引き連れ現場に駆ける。

 その時、ハーゼンが出ている間に現場を纏めていた副団長マリクも、釣られるように上空を見上げていた。


「彼は……ロキ王はなぜ、私達に力を借してくれるのでしょう」


 素朴な疑問だった。

 副官マリクは立場上、ロキがガルムの属国化を拒んだと聞いていたからだ。

 なのに今も――、あれは魔道具なのだろうか。

 水が吹き出す、人ほどの大きさがありそうな何かを持ちながら市街地の上空を飛び回り、度々滑空を繰り返していた。


「なぜだろうな。『説得』と言っていいかは分からぬが、戦わずして東部の侵攻を塞ぎ、あのハンス殿を巻き込んでまで学院の守護に尽力してくれたのだ。陛下と取り交わされた傭兵としての仕事は、もうこれ以上ないほど果たされたはずなのだが」


 本来ならば、さらなる対価を求められて然るべき。

 それでもこの急場に手を貸してくれるだけ有難い話なのだ。

 しかし、王都へ戻ってくる途中もそのような話は一切出なかった。

 何もないまま、こうして市街地を上空から鎮火して回ってくれている。


「勇者じゃない、か……」

「なんですか、それ?」

「ロキ王に助力を求めた際、陛下が直接言われた言葉だ。自分は勇者じゃない、だから他を当たれとな」

「……私は自称勇者より、ロキ王の方が遥かに勇者様だと思いますが」

「違いない。だからこそ巷に流れているあのよく分からぬ噂は、何としてでも払拭せねばならん」

「その通りですね……こうして尽力いただいている方を、首謀者という立場のまま放っておくなど断じてあってはならないこと。流言の出所と、真実の流布は沈静化後の最重要事項と捉えて動きます」


 その言葉を聞きながら、ハーゼンは再び姿の見えなくなった空を見上げる。

 まだ全ての難が消え去ったわけではない。

 国を二分する内戦が解消された代わりに、テリア公国とパルモ砂国――隣接する二国が敵に回る可能性は濃厚となった。

 王都の鎮圧が無事に済んだとしても、即急に市街地や学院の被害状況を確認して復興を進めていかねばならないし、東に向けての対応策だってすぐにでも練る必要が出てくる。


「マリク、今のうちにこれからのことを陛下へ具申しておきたい。少し、この場を任せてもよいか?」

「問題ありません。緊急で何かあればお声掛けします」


 強者であり、軍部のトップだからこそ見える視点。

 果たして、ガルムの未来は自らの予想するように流れていくのだろうか。

 ハーゼンは緊張した面持ちで宮殿の中へ向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 時刻は宵の口。

 目印に伝えた光玉をいくつか宙へ浮かし、散乱していた周囲の死体を回収していると、連絡してからさほど時間もかからずに空から4体の巨竜が姿を現す。

 こちらへ近づくにつれ、帰還を喜ぶような声もあれば、空の旅を惜しむ残念そうな声もあって。

 とりあえずこの騒がしさから、生徒の多くが無事であることはすぐに分かった。


「ありがとうございました。近くにいてくれて助かりましたよ」

「ロキが【遠話】を使えて本当に助かったぜ……」


 そう言って竜の頭から飛び降りたハンスさんは――あれ?

 急に老け込んだというか、足元がフラついているし、どうしたんだろう。


「大丈夫ですか?」

「遠慮のねぇガキどもを相手にするのがこれほど疲れるとはな……」

「あ、もしかして一度も降ろさなかったんですか」

「降ろすとまた乗せるまでが面倒ってのもあるし、何より降ろせるような場所がなかった。あのクソババアが絡んでいる可能性を考えりゃ、近くの町だろうと安心はできねーしなぁ……それにこんなのを町の近くにでも降ろしたら確実に混乱する」

「それは、確かに」

「あ~あぶねぇ……あと少しで|エリオン共和国《うち》まで連れ帰るしかねーのかと思って、久々にビクビクしちまったぜ」


 なんというか、孫を相手にした後の燃え尽きたおじいちゃんみたいだな。

 でも責任感の強い人で助かった。

 結局大規模な戦闘にはならなかったが、ハンスさんが協力してくれたおかげで、鎮火ついでに街中の悪党共を集中的に狩れたのだから。


「んーで、町中の火事はだいぶ落ち着いたように見えたが、他はもう大丈夫そうなのか?」

「ええ、予定通り反乱軍は『説得』できまして、一応死者の出ない平和的な解決を。街の方も暴れていた連中はだいぶ減らしましたし、残った教師陣と、それに僕も学院の敷地内は確認したので、もう生きている侵入者は残っていないはずです」

「ほーう、あれが『説得』で、平和的な解決か。俺には全員くたばっちまってるように見えたがなぁ……」

「いやいや、ちょっと荒いやり方ではありましたけど、馬が一部使い物にならなくなったくらいで全員死んでいませんし、最後はちゃんと納得して、国が一つに纏まってから帰っていきましたからね?」

「くはは! 死んじゃいないことくらいはすぐ分かったけどよ。それにしても、ガルムの内乱が解決したか……なるほどな」


 一瞬、何か考える素振りを見せるハンスさん。

 だが、すぐ切り替えたように指示を出し、竜の垂れ下がった尻尾から続々と生徒達が降りてくる。

 待ち受けるのは教師陣と、それにどうしてもとお願いされて俺が連れてきたガルムの役人達だ。

 この騒動を国として詫び、国内紛争が解決したことを伝えるなんて言っていたが、果たしてどれほどの生徒がこの地に残るのか。

 幸い南部に広がる寮区はほとんど無傷なので、生活の面で大きな支障が出ることはないだろうけど、普通に考えればここまで被害の出た場所に残っていたいとは思わないだろう。

 そんなことを考えながら、俺は俺で侵入者の遺体を回収。

 数名ではあるが、出てしまった生徒の遺体を目立たない場所に並べていると、どうやら生徒達の移動も全員完了したらしい。


「おう、終わったぜ。そいつらは――、学院の生徒か」

「ええ、やるだけはやってみたんですけどね。それでも守り切れませんでした」

「多少話は聞けたがな。広域にこれだけの生徒達が散っている中で、数百じゃきかないアホ共が四方から襲ってきたんだろ? それで被害が2人だけなら、俺から言わせりゃ奇跡みたいなもんだぜ?」

「それでも、他にやりようはあったのかな、とか。もっと知識があれば別の方法も取れたかも、とか……なんていうか、やっぱり考えちゃうんですよね」

「ったく、現実は物語のように都合良くはいかねぇよ。それにここはそんな優しい世界でもねーだろ」


 そう言われ、恐怖に引き攣った子供の死顔から、ポンと肩に置かれたデカい手に意識が向く。

 そうだな。

 初めから、今の自分ではたぶん無理だと分かっていたことだ。

 それでも強引に都合の良い未来へ変えたいなら、やはり俺自身がこの世界の知識を誰よりも深め、そして強くなるしかない。


「ふぅ……ハンスさん、ほんとありがとうございました。兎にも角にも助かりましたよ」

「これも頼まれた仕事のうちだから気にすんな」

「ちなみにですが、一応ここの王様が戻ったらハンスさんにもお礼を言いたいということで……どうします?」


 念のための確認。

 対してハンスさんは顔を顰め、俺の肩に手を置いたまま耳元で小さく呟く。


「"一応"なんて言うくらいだから分かってんだろ? 俺はロキの借りを返しにきただけ、面倒だし会うつもりはねーぜ?」

「ですよね~なんとなくそう言うと思ってました」

「……ちなみにロキは、この国をどうするつもりなんだ?」


 いつものような軽いノリではない。

 これは間違いなく、エリオン共和国のトップとしての言葉。

 それが声色から分かるも、これといって狙いがあるわけでもないしなぁ。


「僕はこの学院の生徒としてこの国にいただけですし、特別何かするつもりはありませんよ」

「ここまで手を貸してやったのにか?」

「ですね。なんとなく、この国はあまり潰れてほしくないとか、それ以上にマリーの好きなようにさせたくないっていうのはありますけど……でも傭兵として、報酬と引き換えに少し手伝ったというくらいですから」

「そうか……まぁいい。ロキはこれからガルムの王に会うんだろ? それなら俺の代わりにこいつを渡しておいてくれ」


 そう言われて差し出されたのは、くるくると丸められた一通の手紙。

 一応羊皮紙ではあるが封はされておらず、国のトップが送る手紙にしては不用心というか、こんなんでいいのかと首を傾げてしまうくらい雑な感じが否めない。


「それは構いませんけど……それこそ、ハンスさんが直接渡さなくていいんですか? 封もされていないんじゃ中身も見えちゃいますし」

「別におまえが先に見たって構わねーよ。後々の面倒事を避けるために、ここへ来たのはロキとの個人的な貸し借りが理由だっつー経緯を軽く記しているだけだしな」

「あーなるほど」


 国として動いたのではなく、ガルムを救うためでもなく、ただ俺との借りを返すため。

 継続的に頼られても困るというのが根底にあるのなら、会わずに今回の理由だけは説明しておくのも当然か。

 ガルムにはガルムの、エリオンにはエリオンなりの事情や考えがあるのだろうけど……

 巻き込んでしまった当事者として、最低限この程度の後始末くらいはやっておくべきだろうと手紙を受け取る。

 そして最後に。


「また落ち着いたら顔を出せよ」


 そう告げて去っていくハンスさんと従える巨竜を眺めながら、どこかホッとしたように大きく息を吐いた。


「ちょっと、殺り過ぎたかな……」


 まだ十分耐えられる範囲ではあるが。

 それでも明らかにあの時の――、8000人の時よりも衝動が強い。

 そのことを自覚しながら、俺は仕事の報酬を得るべく宮殿へと向かった。
511話 意外な決断

 喧噪に包まれ、兵や役人が慌ただしく駆けていく姿の目立つ宮殿内部。

 その中を案内の兵に連れられ進んでいくと、奥まった場所に存在していた荘厳な雰囲気の漂う部屋へ通される。

 中には数名の見知らぬ男達。

 身形からしてこの国の重鎮だろう。


「お待ちしておりました、ロキ王」


 そして部屋には、今声を掛けられたハーゼンさんと、目的のウォズニアク王もいた。


「無事生徒達も学院に戻りましたよ」

「ふむ……予想はしていたが、やはりハンス殿は顔を出してはくれないか」

「ですね。その代わりにこれを、預かってきた本人からの手紙です」


 僅かながら落胆した様子で受け取るウォズニアク王。

 まぁしょうがないか。

 一度は断られた相手だとしても、急場に手を貸してくれたとなれば誰だって期待くらいするというもの。

 今だって一時的に凌いだというだけで、東に対しての備えもしていかなければならないのだろうし、これからがガルムにとっての正念場。

 そう思っていたが、ウォズニアク王が手紙に目を向けて暫し――


「……ッ!?」


 なぜか急に目を見開き、驚愕の表情を浮かべながら固まっている。

 ん?

 なんだ、その反応は?

 俺との借りを返しに来たという程度の理由で、そんな表情になるとは思えないんだが。

 しかしウォズニアク王が背後で険しい表情をしていたハーゼンさんに手紙を見せれば、そのハーゼンさんまで声を漏らすほどに驚いていた。

 いやいやいや、何が書かれてんだよ、ソレ。


「あの……僕もそれ、見ていいですかね? ハンスさんには見ていいよと言われまして……」


 人様に宛てた手紙の中身を見ようとするのもどうかと思うが、こんなの気になってしょうがない。


「それは構わぬが……ふふ、ふははっ……ロキ王には本当に感謝してもしきれんな。この繋がりがなければ、間違いなくガルムにこれほどの転機が訪れることはなかった」

「……」


 驚きと喜びが混じったような、信じられないといった様子で頭を軽く振るウォズニアク王。

 何がなんだか分からないまま差し出された手紙に目を向け――、そしてようやく、二人が何に強く反応を示したのか理解する。

 途中までの内容は至ってシンプルなものだ。

 言われていた通り、突如巨竜を引き連れてこの王都へ訪れた理由と、実際にこの地で行なったこと。

 それに対し詫びは入れつつも、継続的にガルムを支援する気はないという旨がはっきりと記されていた。

 俺が想像していた内容そのままと言ってもいい。

 しかし、後から加えられたように見える、最後の一文。


「――自分がこの地を訪れ、そして行なった事実は、公にしても構わない、ですか」

「ハンス殿の考えまでは分からぬが……ガルムにとって、この言葉がどれほど大きな意味を成すことか」

「……確かに、そうでしょうね。あれほど派手な登場をしたのですから、噂くらいは黙っていても広まるんでしょうけど、本人の同意があるとなしとではまったく意味が違う」


 なんせガルムという国が本人の許可付きで、"ハンスさんに護ってもらった"と他国へ伝えられるのだ。

 それが今回限りかどうかなど、外の人間からしたら分かりようがない。

 このように文面を残した以上、ハンスさんも望んで自分からは言わないだろうし……

 マリーの手の者が内部に紛れているという懸念材料はあるにしても、事実をそのまま公言するだけで、ガルムは『異世界人の守護』という虚構の防壁を得ることになる。

 そしてこのような流れになれば、当然俺にも――、そう思っていたところで言葉を発したのは、意外にも後ろで控えていたハーゼンさんだった。


「ロキ王、差し出がましいことは重々承知の上でお願い申し上げます。どうか、ロキ王がこの王都を護られたという事実も公にさせてもらえないでしょうか?」

「……ハンスさんがこんなことを言い始めたら、そうなりますよね」

「まさか想定していた以上の話が降ってくるとは思いもしませんでしたが、先ほどまでこの件に関して協議を重ねていたのです。この一件、必ずしも東部との戦争に発展するわけではないと」

「パルモ砂国とテリア公国が攻めてこない未来ですか」

「左様です。もし私が隣国の軍部を任されているとしたならば、仮に噂程度であったとしても、ロキ王とハンス殿という二人の異世界人が守護された国など、軽々しく攻めようとは思いません。少なくともその噂の真偽を確かめるために多くの時間を割くことでしょう。そうしなければ返り討ちに遭い、自国が滅ぶ未来しか見えないからです」

「……」

「噂でもそれほど慎重になるのですから、国として公言され、かつ当の本人から異論の声は上がらず、その王都は防壁と呼ぶには巨大過ぎる断崖が東部を囲うように覆っていたとすれば――私ならば仮に王の勅命であろうと、国の未来と民の命を優先して固辞することでしょう。結果、自分の首が飛ぼうともです」


 うーむ。

 ハンスさんが何を狙ってこのような承諾を自ら示したのか、はっきりしたところまでは分からない。

 が、自分に置き換え、果たしてこの同意にデメリットが存在するのか思案しても、いまいちコレといったものは浮かんでこなかった。

 強いて挙げれば、必要以上の繋がりから属国や同盟国まではいかないにしても、本来生まれることのなかった責任が生じることくらいだろうか。

 しかし、それも――。


「ハンスさんと同じで、あくまで今回行なったことに対してのみ。仮にガルムが今後窮地に陥ろうと、なんら僕が責任を負うものではない。それでいいわけですよね?」

「もちろんです。それだけでもガルムにとっては大きな希望になりますから」


 そう言いながらハーゼンさんはウォズニアク王に視線を向けると、ウォズニアク王は一つ頷き、引き継ぐように言葉を続ける。


「ここまで自国のみで対抗できるようお膳立てをしてもらったのだから、これ以上ロキ王に何か求めるべきではないと分かってはいるが、できれば争いなど……東の者達を戦火に巻き込みたくないというのが本音なのだ。直接的な庇護や助力をこれ以上求めるつもりはない。国の泰平を目指すため、ロキ王に護られたという事実だけでも公にすることを許してほしい」


 重鎮の前だというのに、机へ額を擦り付けるように頭を大きく下げるウォズニアク王。

 その姿を目の当たりにして、これ以上慎重に考えてもしょうがないかと自分の中で結論付ける。

 実際は東の二国が攻めあぐねたとしても、大元のアルバートでありマリーがどう動くかまでは分からない。

 でもこの選択が戦争回避の可能性を大きく上げることは間違いなさそうなのだ。

 本を読み終えていないのに、また争い事で周囲がバタついても俺が困るだけだし、戦争を嫌う女神様達にとっても、きっとこの結果は朗報になることだろう。


「僕の場合は本の複製という目的があるので、ハンスさんとは少し状況が違いますけど……まぁ僕だけダメって言って断る強い理由もないですし、必要があれば公にしてもらっても構いませんよ。誰かさんが僕の名前を叫び散らかしたせいで、あの時、図書院にいた生徒にはもうバレてしまいましたし」

「あ、あの時はこれ以上ないほど緊急の事態でして……!」

「それより僕がここに来た目的は分かっていますよね?」


 俺に明らかな損がないなら好きにしたらいい。

 それより手紙の配達はあくまでついで。

 俺は今、傭兵としてここに来ているのだ。

 本も大事だが、ある意味これのために頑張ったと言ってもいいのだから。


「おぉ、そうであったな。この奥がガルム聖王騎士国の宝物庫だ。例のモノもここに収めておるので、どれ、わしが案内するとしようか。他にも気になるモノがあれば言ってくれ、ここまでしてもらったのだから奮発するぞ?」


 もうなんですか、その魅力的な言葉は。

 さすがにこれだけ被害の出ている状況で、金目の物をがっつこうとは思わないけど、そんなことを言われたらもう1つか2つ、目ぼしいモノを見つけたら強請ってしまおうか。

 むふふ……

 思わず顔がほころぶのを我慢しながら、王やハーゼンさんと共に宝物庫の中へ足を踏み入れた。
512話 人物像

 普段なら見張りの兵以外は動く者のいない、夜更けの宮殿内部。

 しかしこの日に限っては静まることもなく、慌ただしい人の出入りは王の執務室であろうと変わらなかった。


「陛下、そろそろお休みになられた方が……」

「何を言う。まだまだ問題は山積しているというのに、この状況で悠長に寝てなどいられるものか。それよりハーゼン、市街地はどうであった?」


 今しがた入室してきた騎士総団長ハーゼンに、すぐさま用件を問うウォズニアク王。


「はっ、副団長マリクから報告があり、火災に次いで脱獄囚や偽装兵の暴動も概ね鎮圧が完了したと。尋問の結果、囚人を解放したのは人間と思しき2名の傭兵。また住民を金で雇い、偽装兵に仕立て上げたのが『パドン商会』であることも判明しました」

「傭兵はロキ王が既に始末している可能性も高そうだが、パドン商会か……関係者は捕らえられたのか?」

「いえ、それが商会に出向いたところ、人はおろか、棚の一つすらないほどもぬけの殻だったようでして。既に逃げた後と判断し、王都周辺を探索させております」

「そうか……となると、噂の出所はまだ断定できぬか」

「はっ、今のところパドン商会が絡んでいるかも不明、少なくとも10を超える箇所から同様の噂が生じておりますので、ロキ王を貶める狙いがあって組織的に動いていたことだけは分かっております。しかしそれも、許可を下ろしていただいたことで、すぐに払拭できるかと思いますが」

「左様であるな。許しを得たのであれば、私が直接民草に真実を語ろう。この街を――、いや、二分する国内の争いを解決し、ガルムという国を救ってくれたのは紛れもなくロキ王だとな」


 何も公にするのは国外に対してだけではない。

 ロキは外に向けての戦争予防策程度にしか考えていなかったが、ウォズニアク王とハーゼンは当然のように国内の統制にもその事実を利用しようとしていた。


「これで後は宰相殿が進められている内通者の炙り出しと、今後の学院がどうなるかですね」

「うむ。断崖の向こうを確認してきた者達からは、一部施設の破損や倒壊はあるにしても、ロキ王の指示で教師陣が全て防衛に回ったおかげか、図書院の蔵書に影響は一切無いと聞いている。なればあとは生徒達とその親次第だろう」


 我が子に他では得られぬ知恵をつけさせたいという殊勝な考えで子供を通わせる者もいれば、近い年齢層の繋がり、人脈を作るために。

 またはクルシーズ高等貴族院の卒業という、一定の社会的地位を得るために通わせている者。

 中には今いる場所より安全だからと、子供だけでも戦地から避難させる目的で通わせていた、大陸西方の貴族達も数多くいる。

 入学の理由など人それぞれなのだから、こればかりはどうなるのか、王といえどもはっきりとした答えは見えてこない。

 しかしそれらもロキとハンスが許可を下したことで、大きく好転する可能性が高いと踏んでいた。

 なにせ二人の異世界人に護られた街。

 このようなことは大陸広しと言えど前代未聞であり、安全を買ってでも欲しいと願う者達にとっては、これからの『王都ゲルメルト』こそが安息の地と捉えられてもおかしくはない。


「いずれ、この恩には必ず報いんとな……」

「ええ、口を挟むべきではないと堪えましたが、あの程度で喜ばれていたことに、私は申し訳なさが先立ちましたので」

「確かに、宝物庫の中身を空にされても文句など言えんと思っておったわ」


 数時間前、宝物庫の中で嬉しそうに小さな『玉』を握りしめていたロキの姿を思い返し、二人はふと思う。

 ハンスとロキには貸し借りがあったと聞くが、ガルム聖王騎士国がロキから受けた借りはまだほとんどと言っていいほど返せていない。

 だからこそ、ガルムの英雄にもし何かがあれば、全てを賭してでも、その力に――。

 しかしそのような決意など、当の本人は知る由もなかった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 多くの者達が寝静まるような時間帯。

 ようやく戻ってきたこの国の元首に、今か今かと帰りを待っていた一部の重鎮達が駆け寄る。


「戻ったぜ~こっちは何も問題なかったか?」

「…………はい、問題ありません」

「思っていた以上に時間が掛かったな。こっちはって、ボスの方は問題でも起きたのか?」


 なにせ使役した巨竜を4体も引き連れ、他国へと出向いたのだ。

 狼の獣人――サガンが心配そうに問うと、ハンスは苦笑いを浮かべながら冗談交じりに答える。


「あ~いろいろあり過ぎだ。まさか俺が"おっちゃん"と呼ばれ、悪ガキ共に圧し掛かられるわ、髪の毛を引っ張られるわ……もう散々だったぜ」

「は?」

「…………これは、戦争ですか?」

「バカ言うなよ。ガキ共と少し遊んだだけでそんな大事《おおごと》にするか。でもまぁ、借りを返す目的とは言え、行った意味はあった。それは間違いねーな」

「ダカラ、ソンナニ上機嫌ナノカ?」


 一般的な人のソレとは明らかに違う声。

 歪な言葉を発したのは、少し離れた位置で床に寝そべる銀色の獣だった。


「くははっ! さすがシグ、相変わらず鼻が利くっつーか鋭いじゃねーか。ウチの得になりそうなネタが転がってたから、ついでに拾ってきただけだけどな」

「フム……アノ小僧ガ絡ンデイテカ」

「だからだ。衆目の中でロキと行動を共にした――その事実があのクソババアに対して大きな牽制になる」

「お、お待ちください。ガルム聖王騎士国の内乱は、片方がマリーを担いでいることが原因のはずですが……まさか、現地にあの女がいたのですか!?」


 どよめく場。

 大陸の4強と呼ばれ、普段からいがみ合っているような者達同士が鉢合う。

 そのような事態、一歩間違えれば大陸の覇者を懸けた頂上決戦の勃発だ。

 借りを返すためとはいえ、そこまで危険な場所に出向いていたのかと、慌てたように山羊の獣人ドズルは問うも、違うとばかりにハンスは首を横に振った。


「いや、だから外に向けて発信させることにした」

「え?」

「ん?」

「ヌ?」

「…………ガルム聖王騎士国に、ということですか?」


 一瞬、意味が分からないとばかりにその場の会話が止まるも――。

 長考していたのか、それともいつもの癖か。

 溜めたように言葉を吐き出したメイビラの言葉にハンスは頷く。


「そういうこった。あの女の性格を考えりゃーどこかで見ていた可能性もなくはないだろうが、どちらにせよこれでクソババアも相当動きにくくなるだろ」

「確かに、異世界人二人が相手となれば、今まで以上にマリーも警戒するのだろうが……」

「マサカ、アノ小僧ト組ムツモリカ?」


 唸るように吐き出した、腹に響くほどの低い声。

 この場にいる者達が気にするのは銀毛の獣が示すこの反応であり、ハンスを含め、一斉に視線を向ける。


「組みやしねーよ。ただ他所からは組んだように見えちまったんなら、ついでにその状況を利用しちまった方がいいだろう? まだ見えてねーってだけで、ババアがウチにちょっかい掛けている可能性だって捨て切れねぇわけだしよ」

「グルゥ……」

「シグ、ロキの存在がそんなに不安か?」

「ナゼカハ分カラヌガナ、アノ小僧ヲ見ルト心ガザワツクノダ」

「ふーむ。シグ特有の感覚も十分参考にはなるでしょうが……ハンス様、ロキ王の様子はどうだったのですか?」


 参考にはなるが、特異過ぎてその感覚を誰も共有はできない。

 ならば先ほどまで直接行動を共にしてきた人物が目の前にいるのだ。

 聞いた方が早いだろう――そう思ってのドズルの問いに、ハンスは少し考える素振りを見せながらも答える。


「至って普通――、いや、どちらかというとかなりお人好しの部類だろ。生徒という立場で巻き込まれたからっていうのもあるんだろうし、クソババアを嫌う個人的な感情だってあるんだろうが、ついでで他所の国内紛争まで解決しようとするか? しかも国の後々を考えた綺麗なやり方でだ」

「ないな、と思ったが、ロキ王がわざわざウチに影響のありそうな不穏な動きを知らせてくれたから、今回の貸し借りに繋がったんだったな」

「ああ、俺じゃ間違いなくやらねーようなことも、アイツは誰かのためと思えばやっている節がある。しかも見返りなんて二の次でだな」

「なら――」

「だが、シグが危ぶむ理由もなんとなく分かる。俺でも何をやったのかさっぱり分からねー能力で、数万という規模の軍兵を制圧していたからな。あれがもしかしたら『魔物の力』なのかもしれねーが……シグが警戒してんのもそこだろ?」

「グルゥ……」


 そう問われ、銀毛の獣は首を僅かに傾げる。

 薄っすらと何かを感じる、匂うという程度の感覚に、はっきりとした答えなど見えてはこない。

 しかし、時間も時間。

 その強さゆえにシグも警戒しているのだろうという空気感が漂う中、ハンスの解散という一声により、場はお開きとなったわけだが――。


 なぜ、ハンスが初めてロキを連れてきた時は、何も感じることがなかったのか。

 それが強さという理由になるのだとしたら、人はこうも急激に強くなれるものなのか……?

 まるで守護獣のように、誰もいなくなった宮殿の入り口を陣取る銀毛の獣は、横たわりながら見えない疑問の答えを探し続けていた。
513話 2つ目

 騒動があった翌日の下台地。

 朝風呂に入りながら色の異なる綺麗な玉を見比べていると、背後から聞き慣れた低い声が聞こえてくる。


「今日はのんびりしているのだな」

「あ、おはようゼオ。やっと取り掛かっていた仕事が一段落ついてさ」


 いつもなら朝方まで幽霊役をやりつつ、砂漠でSランク狩場の掘り当て周回。

 その後に【昼寝】スキルを使用して3時間ほど睡眠を取ったら、慌ただしく図書院へ向かっていたのだ。

 作ってもらったサンドイッチを齧りながら風呂に入ることも多かったため、確かにこれだけのんびりとした朝は珍しいと言える。

 まだやることもあるし様子は見に行くつもりだけど、今日なんて早く向かったところで図書院が開いていないだろうしなぁ。


「そうか。ゆっくりできるのなら、そろそろ資材倉庫の整理でも……む? これはまた、随分と不吉なモノを手にしているな」

「えっ? もしかしてゼオは知ってるの?」


 考えてみれば、ゼオとは今までこの話をしたことがなかった。

 不吉という言葉は気になるが……

 もしかしたら、何か有力な情報でも持っているのでは?

 期待感を膨らませ、前のめりになりながらゼオへ視線を向けると、目を細めながら答えてくれる。


「ふむ……我が知っているモノとはどちらも色味が違うように見えるが、その内包された魔力量の多さは『魔宝石』だろう?」

「そうそう、請け負った仕事の報酬に貰ってさ。今集めてるんだけど、違いが分かるってことは、もしかしてゼオも過去に魔宝石を入手したことがあったりする?」

「1度だけな」


 静かにそう告げたゼオの表情を見て――、あぁ、これは違うなと。

 途端に自身の昂りが薄れていくのを感じる。

 俺にとっては垂涎もののイベントアイテムだが、本来ならば新しい情報だと、浮かれながら話す内容ではないのだ。

 過去に倒したであろう当事者が相手ならば、尚更に。


「……その時はかなり被害が出たの?」

「ああ、突然湧いて出た奇怪な魔物に何万という規模の亜人達が殺された。救援の報が入り現地へ辿り着いた時には、既にかなりの広域が侵食されていてな……生きている者など一人も見かけなかったくらいだ。あれほど厄介な魔物を我は他に知らない」

「そっか……だからコイツは不吉なわけか」

「災いの根源とも呼ばれる魔石だぞ? 所有体が一度この地に現れれば多くの死者を生み出し、天災を上回る規模で周囲を急激に荒廃させる。我の時だけでなく、過去の伝承でもそう言い伝えられてきた」

「ごめんね、嫌な記憶引っ張り出しちゃって」

「いや、それは構わぬが……不吉というのはそういう意味だけではない。我が心配しているのは、どちらかというともう1つの方だ」

「ん? どういうこと?」

「ソレは我らにとって大した使い道もない、過去の惨事を後世に伝えるための象徴的な道具に過ぎなかったが、人間共――プリムスの連中はその風変りな魔石を魔宝石と呼び、執拗に狙っている節があった。だから亜人達の間で広まったのだ。災いを呼ぶ、不吉な魔石とな」

「当時の人間が……」


 その理由はおおよそ分かる。

 今だってこの魔宝石を無限燃料にして活用しようとする動きがあると、マルタのギルマス、オランドさんは言っていた。

 ということは今よりも文明が発達していた古代の時代ならば、実際に活用方法が見出されていた可能性は高い。

 そして当時の人間達と争ったゼオならば、この魔宝石に強い警戒を示すのも当然か。


「まず言っておくと、俺は既にこの魔宝石の使い道を理解して集めようとしている」

「ふむ……」

「でもそれは――、まぁ、過去のプリムスが実際何に利用しようとしていたのかは分からないけど、誰かを攻撃するために集めているわけじゃない。というか、ゼオの望みにも一歩近づける可能性があるんじゃないかと思っている」

「なに? どういうことだ?」

「ん~口で説明するのも難しいんだけど……念のため試そうと思っていたし、なんなら今から行ってみる? その場所に」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 かつて1度だけ訪れた、パルメラ大森林の中心地。

 俺とゼオ、そしてゼオが行くなら自分もとダダを捏ねたカルラの3人で転移すると、例の黒いマンホールは場違いな雰囲気を醸し出しながら、変わらずその場所に存在していた。


「ほう、これは異様な光景だな……」

「ここが森の中心部なの?」

「そそ、中心っていうか、人でいうヘソみたいな場所かな?」

「へ~ロキもよくこんなの見つけたよね~」

「魔物の生息域を正しく理解した上で次を目指せば、自然と見つけられるようにはなっていたからね」


 被っていた土を風でどかし、中央の窪みに2つの魔石を転がすと、以前と同様――いや、以前よりも強く光りながら伸び始めた線は、周囲に存在する6個の穴に届きはしないまでも少し近づいていた。


「よしよし、これで新たに入手した2つ目も本物なのは間違いないかな」

「ふむ。ロキの言う通り、これは間違いなく反応を示しているな。魔宝石が複数個必要になる仕掛けか……確かに興味深い」

「でしょ? まずは周囲6ヵ所の穴に、この伸びた線を到達させることが目標かなって思ってるんだ」

「なるほどな」

「ただ到達できたとして、そこから何が起きるかはまだ分かっていない。何かしらの情報が拾えればと思って本も漁ってるけど……ゼオとカルラはなんか分かったりしない?」


 一応期待も込めて話を振ってみるが、二人とも明らかに初見という反応を見せている時点で期待は薄い。


「こんなのがあるなんて、今まで聞いたこともないよ?」

「うむ。我もこのようなモノが存在することを今初めて知ったからな……だが、一つ」

「ん?」

「ロキよ、この黒い円盤が同胞の消息に繋がるという線は薄いのではないか?」

「一応、理由は?」

「その顔はロキも気付いているだろう? この黒き謎の円盤は、魔人種が消息を絶つよりも前に存在している可能性が高い。反応を示す魔宝石は我らが生きた時代にもあったわけだからな」

「そうだね。魔人種のために生み出されたモノではないと思うよ」


 この円盤を設置したのはフェルザ様だ。

 となると人が生まれるよりも前――、それこそこの世界が生まれたのと同時に設置されていた可能性すらあるわけで。

 想定されていた魔宝石の使用用途がこのマンホールに限定されているのなら、仮に起動できたからと言って、魔人種とすぐにご対面という可能性は低いのかもしれない。

 だが――。


「それでも何かしらの切っ掛けにはなるんじゃないかなって、俺は思ってるんだ」

「ふむ……」

「ゼオはかつて同族を見つけるために、広域を自分自身で探し回ったわけでしょ? でも魔人種の痕跡すら発見することはできなかった」

「その通りだ」

「そしてここに、そのゼオも知らない用途不明の何かが設置されていて、この何かが魔人種との繋がりを明確に否定できるほどの根拠は、俺もゼオも持ち合わせていない」

「……」

「結局さ、俺は当然として長生きのゼオもカルラも、まだまだこの世界の知らないことっていっぱいあるんだよね」

「確かに、そうだな」

「その一つ一つを解明していけば、次の新しい扉が開けて、また進めば次の扉が開けて……いつか扉の先にある道が一つに繋がることもあるだろうし、そうして進んでいく中でいずれ答えに辿り着けるんじゃないかなーって」

「ふっ……そのような考えだから、いつぞやも我に見つけられると言ってのけたわけか」

「そうそう、元いた世界じゃフラグっていうんだけどさ。俺、そういうの見つけるのは結構得意なんだ」


 そう言ってニヤリと笑うと、ゼオも自然と笑みを零す。


「それにね、これは根拠も少なからずある勘ってヤツなんだけど……」

「む?」

「たぶん、ここをクリアできれば、相当答えまでは近づけると思うよ」


 なんせ、この問題はあまりにも大きく、そしてハードルが高い。


 ――人類未踏とされる大森林の最奥とも呼べる中心地。

 ――説明書きなど何もない、神が設置した謎の円盤。

 ――動かすための大前提が、現状最難関とも呼べる裏ボスの複数体撃破。


 現状分かっているだけでもこれだけの関門が待ち構えているのだ。

 こんなのゲームであれば終盤も終盤なのだから、魔人種の失踪がこの世界にとって大きな問題であるほど何かしら繋がる率は高い。

 そう告げると、ゼオは感心したように頷いていたが――。


「これさー、作った人って絶対師匠が苦手なタイプだよね」


 唐突に意味の分からない言葉を発したのはカルラだった。

 すぐに興味を失ったのか、円盤の上に土を掛けて遊んでいたのは分かっていたが、今は何かを穿るように円盤に指を立てている。


「え?」

「カルラ、何を言っているのだ?」

「見てよこれ。線の太さが違うし、まず真っすぐじゃないし」

「「……」」


 カルラがスッと立ち上がったことで隠れていた部分も視界に入り、何を言わんとしていたかがおおよそ掴めてくる。

 中心から延びる6本の線。

 この溝にカルラはセコセコと土を詰めて遊んでいたようで、今は茶色く伸びる線が円盤の上には出来上がっていたわけだが。


「んん? 2本だけ、少し線が太い?」


 漆黒と呼べるほど異様に黒いため気付かなかったけど、溝に土が入ると2本だけ茶色い土の線が太いようにも見えてくる。


「それにこの1本だけ僅かに左へ逸れているな。先に延びる円の中心を捉えていない。ふん……なんと雑な作りか……」

「でしょ~? 師匠こういうの嫌いだもんね。きっとすんごい適当な人が作ったんだよ」

「……」


 整理整頓好きで几帳面なゼオだ。

 あからさまに不快な表情を浮かべているその気持ちもなんとなく分かるが、俺はゼオのそれとは別種の気持ち悪さに襲われ、自然と全容を確かめたくて空を舞う。

 すると漆黒のキャンパスに浮かび上がったソレは、5時55分を示す時計のようにも見えてしまった。
514話 おまえか

「分からんなぁ……」


 あの円盤を生み出したのが神様だと知っていたからこそ、意図的とも取れてしまったあの歪な作り。

 だとしたらなぜ、フェルザ様はあのような不出来なモノを生み出したのか。

 故意であれば意味もあるのだと思うが、それがまったく分からず、悶々とした気持ちのまま作業を進める。

 パッと上空から見た時は、一目で分かってしまったために強い印象を持ってしまったものの、実際のところは時計で言えば1分とか、その程度の僅かなズレだろう。

 だが中心から均等に分かれていると思っていた6本のうち、1本だけが少し歪んで伸びていることは事実であり、その1本と逆側に延びる1本だけが他の4本よりも幅広く溝が彫られていた。

 だから長さに違いはなさそうなのに、長針と短針を示す時計を思わず連想してしまったわけだが……


「僅かなズレ……6本のうち2本だけを太くする意味か……」


 アリシアがこの事実から何かに気付いてくれれば良かったけど、念のために報告しても唸りながら考えるばかりで、答えに辿り着いた様子はまるでなかったからなぁ。

 まぁ今回でより謎が深まってしまった部分もあるマンホールだが、一方でゼオとの会話の中から新しく分かったことも出てきた。

 それは裏ボスの行動範囲だ。


「おぉ、ロキ王様、ようやく光が……! 反対側が見えてきましたぞ!」


 ゼオはかつて自身で魔宝石持ちの魔物を一体始末したほか、他種族との繋がりから他にもいくつかの討伐事例を知っていた。

 その中には一部の部落に古くから伝わる伝承も含まれており、全てが真実と言い切れるようなものではないみたいだけど、どの内容にも共通しているのは、出没した地域一帯が放っておけば甚大な被害を受けるということ。

 そう聞くと当然とも思えるし、恐ろしくも聞こえてしまうが、しかし逆に言えば、その一帯から極端に大きく動かないであろうことも分かってきたのだ。

 つまり何かしらの条件が整ってしまい、不意に裏ボスを湧かせてしまったとしても被害は一定の範囲内で留まり、広域とは言っても国そのものや隣国、はたまた大陸全土が未曽有の危機に晒されるわけではないと。

 話の共通点からそう予想がついた時、かつてリルが魔物の被害で国が丸ごと潰れたような事例はないと言っていたのを思い出し、そういうことかと一人納得してしまった。

 もちろん湧かしたのなら責任をもって絶対に倒す。

 そのくらいの覚悟で挑むのは当然だが、万が一失敗した時にそのまま好き放題移動され、各所で甚大な被害が広がり続けるわけではなさそうだと分かっただけでも、やはり安心感は違う。

 もし倒せずに撤退した場合、そのまま裏ボスはその地に出現し続けたままなのか、それとも周囲をボロボロにしたらまた条件が整うまで消えてしまうのか。

 まだまだ分からないことも多いが、その辺りはこれから自分自身で試していくしかないだろう。


「ロキ王様? もう開通されましたぞ?」


 ゼオがかつて得た魔宝石は、収納したまま魔力が尽きた時にそのまま消失したという。

 これは俺にとって残念な知らせだけど、代わりにゼオが対峙した裏ボスの特徴と、おおよその出現場所を教えてもらえたのだ。

 1万年という時を経て、再びその地を訪れれば湧かせることができるのか。

 条件は自分で調べないといけないが、もし『再湧き』が確認できたのなら、いろいろとやり方や考え方も変わってくる。

 そのサイクル次第では――


「ロキ王様! もうその辺りの壁はカチンコチンですぞ!?」

「……んあ? あぁ、すみません。ちょっと考え事をしておりまして」


 おぉう、ビックリ。

 黙々と穴を掘っていたというか、壁を圧縮して空洞を広げていたら、いつの間にか反対側に到着していた。

 振り返ればまっすぐ伸びたトンネルの先は、市街地の景観が小さく映し出している。

 うん、これだけ高さと幅があれば、馬車も十分擦れ違えるかな。


「こんなんで大丈夫そうですか?」

「もちろんでございます。わざわざ通り道まで用意してくださり、ロキ王様のご高配、誠に痛み入ります」

「いえいえ。経験上これだけ固めればまず問題ないとは思いますけど、所詮は素人が応急的に開通させただけですからね。今後も継続的に利用されるつもりなら補強するなり、そちらの王様としっかり話し合ってから活用してください。何かあっても僕は責任を取れませんから」


 そう告げると、学院の管理を任されているらしい数人の役人と、学院側の敷地で俺を待っていた老齢の女性が深々と頭を下げる。


 今回ガルムは、分かりやすい守護の象徴として、この絶壁をそのまま残す決断を下した。

 それについてはお好きにどうぞという程度の気持ちだが、問題は侵入者を防ぐために学院の全周囲を崖で囲ってしまったことで、敷地が完全に隔離されている点にあった。

 なので宝物庫にあったいくつかの装備品とトレードで、俺が簡易的なトンネル工事を請け負ったのだ。

 ひとまずこれで人の往来や物資の運搬も滞りなくできそうだし、抱えていた問題の一つは解決したと言えるが。


「学院はこのまま運営できそうなのですか?」


 問題はそれだけではない。

 本校舎に向かう道中、横を歩く女性――この学院の学長だと言うセトナさんに問うと、疲労困憊といった様子にもかかわらず、無理に笑顔を作って答えてくれる。


「ロキ王様と、そしてハンス様にご助力いただいたことで、学院の損壊は最小限に収まっております。これで寮区に生活物資も運べますから、あとは念のために学院施設の点検と敷地内の最終確認を終えれば、3日後には再開もできることでしょう」


 しかし、俺の聞きたかった答えは返ってこない。

 僅かであろうと、生徒も死んでいるのだ。

 関連施設がどうのというより、果たしてどれほどの生徒がこの学院に残るのか。

 肝心の生徒がいなくなれば、入る金も途絶えて閉校という可能性がチラつくわけで、どちらかというとそちらの心配をしていたわけだが……

 学長は、違和感を覚えるくらいその点を問題視している様子がない。

 まぁ俺としては、黙々と本を複写させてもらえる場所があれば文句はないんだけどさ。


 生徒は最終確認を終えるまで寮の自室で待機ということらしく、セトナさんと共に静けさの漂う校舎内へ。

 するといくつもの机が並ぶ大きな部屋で、学院の職員と思しき大人達が出迎えてくれた。

 王族や貴族の子供達をあれだけ抱えていたとなれば、被害の程度次第では責任問題にまで発展していたんだろうからなぁ……

 セトナさん同様、顔に色濃く疲れを滲ませている人達ばかりだが、それでもどこかホッとしたような表情を浮かべていた。


「ちなみに、これで全員ですか?」

「はい、予定通り、職員は全員この場に集めております」


 この言葉を聞き、ズラリと並んだ職員一人一人の顔とスキルを確認していく。

 これが傭兵としての最後の仕事だ。

 反乱軍との対話の中で感じた気持ち悪さと、小さな違和感。

 その理由は、市街地を鎮火しながら悪党を始末していく過程でおおよそ理解していた。

 当初は市街地で動く悪党どもから、背後関係やマリーに繋がる情報でも引き出せればと、その程度の気持ちだったが……

 大した規模でもない商会の名や囚人を開放した傭兵以外にも、なぜかこの王都と学院に大きな混乱と被害を齎し、ガルムの掌握を狙う首謀者として|俺《・》|の《・》|名《・》|前《・》が挙がるのだ。

 しかも一人二人ということではなく、距離が大きく離れた場所でも、俺を知らない人物が俺の名を口にする。

 ずっと身分を伏せていたのに、図書院で身バレした数時間後には広い王都の各所でそんな話が出てくるのだから、こんな不思議な話はない。

 宝物庫の中でそのことを告げたら、王とハーゼンさんは俺に知られたくないと思っていたのか、かなり焦った様子で言い訳を並べていたが。

 しかし、実際に反乱軍が到着する前からその噂が流れており、聖騎隊の士気にもかなりの影響を及ぼしていたというのだから、地味ではあるがその効果は予定通りにいけば覿面だったのだろう。

 この王都全域に混乱と数多の死者を生み出したという理由で、ガルムの住民と、子供を通わせていた各国の権力者達からも恨まれる。

 もしかしたらそんな大悪党から王都を救うために、親アルバート派である反乱軍が攻め入った――、そのような筋書きまで作っていたのかもしれないが……

 なんにせよ、この策を実行に移すとなれば、どうあっても必要不可欠な人物がいるはずなのだ。


 ――【探査】――『間者』

 ――【探査】――『内通者』

 ――【探査】――『マリーの手先』


 俺がガルムに出入りしていることを知る人物は非常に少ない。

 宮殿内では様々なワードで何人か該当したものの、アルバート王国出身者というだけで反応が拾えてしまうくらい精度は甘いため、情報だけを渡し、絞り込む作業は新たなやり方を試したいというウォズニアク王とハーゼンさんに任せていた。

 ここでもその予定だったが――


「へえ」


 ――視線は、一人の小太りな男で止まる。

 おかしいなぁ……

 この男、以前は『白』だったのに、なぜか今は『黒』に切り替わっている。

 となれば、コイツだけはもう確定的。

 これ以上泳がす必要もない。


「僕の情報をマリーに売った犯人は、おまえかぁ」


 言いながら視線を向けた先。

 そこには他の教師陣と違い、俺が訪れた当初から身体を強張らせていた人物。

 カタツムリのようなクルクル巻きの口髭を生やした副学長が、顔面を蒼白させたまま後退りしていた。
515話 強制ダイエット

「セ、セトナ学長! ニトイ副学長が、連れ去られてしまいましたが!?」

「そうですね……」

「そ、そうですねって、いいのですか……?」


 騒然とする職員室。

 雰囲気を一変させたロキが、抵抗するニトイを掴み上げてそのまま消える様を、この場に居合わせた職員全員が目の当たりにしていた。

 誰がどう見ても只事ではない。

 学内派閥『ニトイ派』に属する教師の一人が、その場で立ち尽くす学長に声を掛けるが。


「一応、判別するという話は聞いていましたから」

「え?」

「それに彼は、あのマリーに情報を売ったと、そう口にしていました。もしそれが事実であれば、副学長は過去に類を見ないほどの国賊になる……既に国王陛下もこの件を承知しているのかもしれません」

「し、しかし……!」

「それに私が王宮へ事態を告げに出向いている間、生徒を誰よりも守るべき立場にもかかわらず現場の指揮を放棄し、生徒を盾にして身を隠していたなどという報告も複数入っています」

「……」

「今後生徒達からも情報を集めた上で国に報告しようと思っていましたが……もし事実なら確実に処分が下るわけですから、現場にいた彼が事情を理解し、先んじて動いてくれたのかもしれませんね」

「そう、でしたか……」

「それより――」


 続く言葉を失った一人の男性教師に、セトナ学長はゆっくりと視線を向ける。


「彼がもし今後も学院の生徒を続けるのなら、引き続き担任はあなたになるのです。一国の王であり我が国の英雄に対して、くれぐれも粗相がないようお願いしますよ?」

「……も、もちろん、です」


 授業には一切出てこないのだから、まだマシと言えなくもない。

 しかしそれでも異世界人であり、王などという立場の者が自分の受け持ち生徒になるなど、こんな不運があってたまるか。

 そう男は己の運命を呪いながらも、かつての出来事を回想する。

 もう既にやらかしてしまっている気もするが……

 そんな事実、口が裂けてもこの場では言えない。

 それにもし、副学長に協力したことまで発覚してしまったら――。

 額に汗を浮かべる男の様子を、セトナ学長は静かに見つめていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 当初は俺一人で処理してしまおうと考えていたが、身分を伏せての入学が決定した時、ウォズニアク王は俺の存在に対して緘口令を敷いていると言っていた。

 つまり俺の情報を漏らしたというだけの問題に留まらず、王の命令に背いたという相当重そうな罪をこのカタツムリは背負っていることになるわけで。


(そうなると、自分達で始末をつけたがるだろうからなぁ……)


 裏切ってマリーの手駒となり、途方もない損失をフレイビル王国に負わせたアトスターク侯爵の時と同じ。

 生きたまま連れていくと、案の定ウォズニアク王とハーゼンさんは目の色を変えた。


「わ、私はただ、学院を守ろうとしただけで……お、おぉ、ッ……ぅぐ……お、許しをぉおお……!!」


 ここ最近は適度にやらかしてくれる、厳つい顔をした高所恐怖症のおっさんくらいにしか思っていなかったけど、このような場面を見ると最初の頃の印象を思い出す。


(怖いねぇ……)


 直接カタツムリに手を掛けているのは、慣れた道具の扱い方からしても、明らかに拷問や尋問の類いを専門とする人。

 ただその横で仁王立ちしたまま睨みつけるハーゼンさんは、普通の人なら確実にチビるくらいの怒気と威圧感を放っていた。


「ちなみにこれが、怪しい反応を示した職員の一覧です」


 そんな姿を座って眺めるウォズニアク王に、俺は1枚の木板を差し出す。


「本当に済まぬな、ロキ王。宮殿内にも奴隷術に掛からない者が3人ほどいた。早ければ今日のうちにも割り出すことができそうだ」

「それは良かった。ただ注意してくださいよ。マリーの性格を考えれば内通者が一人とは限りませんし、奴隷術に掛かるのなら『白』と、そう判断するのは少々軽忽だと思いますので。現に目の前のアレは奴隷術に掛かってしまうわけですから」

「うむ……潜り込まれていたということは、今までのやり方では穴があるということ。うちの宰相を中心に奴隷術による判別を行なってみたが、他にも炙り出しのための方法を検討せねばならんな」


 内通者の割り出しが【探査】一発で解決するのなら、どこの国だってそこまで頭を悩ませたりはしない。

 便利なようで扱いは非常に難しく、その精度は確認したい内容が簡潔であればあるほど増し、より多くの注文を付けるほど甘く、そして曖昧になってくる。

 しかも経験上、過去にまで遡ってしまうのは間違いないのだから、反応があったからと言って安易に裁けば冤罪も生まれるわけだし……

 それに【隠蔽】で発覚を未然に防ぐのは当然として、そもそも【探査】の網に引っかからないようにする方法だってなくはないのだ。

 裏工作が得意そうなマリーの場合、俺が思い付く以上の方法を取っている可能性もありそうで、それが怖い。

 そんなことを話しながら考えていると、一区切りついたのか。

 ハーゼンさんが険しい表情のままこちらに歩み寄ってきた。


「他に気になることがあればさらに詰めますが、いかがでしょうか」


 そう言われ、俺にも見えるよう差し向けられた木板をウォズニアク王と二人で眺める。


「「……」」


 いつ、どこで、どのようにしてマリーの下につき、何を求められて今まで行動に移したのか。

 書かれている内容を見て、俺は思わず頭を抱えそうになる。

 あまりにも露骨過ぎる内容だ。

 反乱軍が攻め入ったタイミングを考えても、まさかと思っていた嫌な予感はこれでほぼほぼ的中だろう。


「少し、代わりましょうか」

「え? ロキ王……?」


 戸惑うハーゼンさんを後目に、涙と鼻水で濡れ、ご自慢のカタツムリがミミズのようになってしまっている副学長の下へ向かう。

 だいぶ足の肉を削がれたせいか、既に立つことができず、鎖に繋がれた両手を支えに項垂れていたが……

 俺が目線を合わせるようにしゃがみ込むと、副学長は分かりやすく肩を震わした。


「現王政が崩れ、別の者が上に立てば今まで築き上げた地位が崩れ去るかもしれない。だからあなたは地位の保障と引き換えに、大金を生む場所なら大事にしそうなマリーに自ら下ったわけですよね? 僕という手土産を抱えて」

「……」

「黙っていると、余計に強制ダイエットが進むと思いますけど」

「あひッ……そっ、そう、です……」

「その結果マリーから返答があり、学院内での行動や交友関係、それに読んでいる本の種別まで、僕に関連することは事細かに報告されたようですが……それ以外の調査は命じられなかったのですか?」

「それ、以外……?」

「ええ、例えば学院内にいる教師陣の戦力や、アルバート王国に所属する生徒の数にそれぞれの家柄など、攻め込むに当たって必要であろう、しかし宮殿内に潜んだ内通者では判断が難しそうな、学院の内部情報に関してです」

「そ、そのようなことは一度も……ただ、ロ、ロキ王様に関係する情報を、寄越せとしか……ですから、私も裏切られたのです……忌々しいあの女に――」

「口、毟りますよ」

「ヒェッ……」


 分からないな。

 こう聞けば、マリーは学院を潰すつもりなどなかったように思える。

 が、大きく指針を変えた。

 いや――、初めから俺の情報だけを強請っていたのだから、様子見から切り替えたのか?


「4度目……」

「?」

「あなたは4度、マリーに僕の情報を流したということですけど、最後の4度目はどんな内容を報告したんですか?」

「さ、最後は……ロキ王様が2度目の試験を受けられ、目立たぬよう合格されたこと……あとは、月に200冊を超える勢いで、本を読まれていることくらいしか……」

「……」


 マリーがこの男に求めたことを知れば、そのまま狙いや警戒している部分も透けてくる。

 そう思っていたが……なるほど。

 クルシーズ高等貴族院に入学する以上、俺に本を読む目的があったことくらい向こうだって察しが付いていただろう。

 しかしそれが主目的であり、学院生活の延長を図ってでも読み漁ろうとしたその行動を嫌った。

 そう考えると、傭兵や一部の侵入者がなぜ図書院を燃やそうとしていたのかも説明がつく。

 つまり、マリーにとって重要な情報がこの学院には眠っているということ。

 その知識に俺が触れないよう、本とともに学院を捨てる判断までした……

 10年以上前とはいえ、かつて抱えていた蔵書を全て奪ったマリーからすれば、大半は手元にある知識だ。

 その方が得だと判断したならばあり得る話か。

 そして、ついでとばかりに在籍する生徒達と、あの特攻がマリーの指示ということなら、反乱軍も丸ごと利用した。

 そう考えれば、反乱軍も知らなかった王都の混乱と、なぜか出回っていたあの噂にも納得できる。


 はぁ――……


「もうお察しかと思いますけど……すみません。王都にここまでの被害が出たのは、僕が学院に出入りしていたからでしょうね」


 結局マリーは、標的をガルムという国ではなく俺に切り替えた。

 だからこそ、学院や市街地にあそこまでの被害が出てしまった。


「断じてロキ王が謝ることではない。切っ掛けはこの男であり、原因はその情報を基に動いたマリーであろう。ロキ王がいなければ内紛は解決することなく、いずれはお互いが正義を掲げたままアルバートに呑まれていたのは間違いないのだ」

「陛下の仰る通りです。ロキ王に護っていただいた学院は軽傷で済み、我らが対応した市街地は広域に被害が出てしまった。それはマリーの策に踊らされ、対処しきれなかった我らの力不足ゆえの結果です」

「……そうだとしてもですよ」


 根本の原因が自分ではないことくらい分かっちゃいるが、だからと言ってすんなり納得できる問題でもない。

 俺への嫌がらせのために、周囲の無関係な人達まで――、いや、それだけじゃないか。

 自国の人間であろうと平気で死に追いやる、マリーという存在を必ず消す。

 その程度しか、詫びる内容など思い浮かばないが……


「急いだ方がいいかな……」


 盗んでもガルムは元に戻しているのだから、効果は薄いと理解しているだろう。

 それでもマリーには、本を奪い去るという強硬手段がまだ残されている。

 それに万が一、ガルムが蔵書全てを復元させた方法を知られれば、知識を得る機会が完全に失われてしまう可能性だってあるのだ。

 マリーには俺が生徒であることがバレている以上、このまま学院内の図書院に通い続けて平気なのか?

 周囲の安全性を考慮すれば、そんな疑問も強く湧いてくるが……

 兎にも角にも、情報は早く得ておいた方が無難。

 そのために何か打てる手はあるのか。

 俺の指定した追加情報を聞き出すためにハーゼンさん達が拷問を再開し始めた横で、ウォズニアク王との協議はその後も小一時間ほど続いた。
516話 秘蔵院

 ガルム聖王騎士国の北部。

 大陸を分断するように東西へ長く延びたエイブラウム山脈が途切れ、裾野には魔物のいない小さな森と、長閑な穀倉地帯が広がっている。

 そんな場所に、俺はウォズニアク王と二人で訪れていた。

 片隅に存在する、人口わずか40人前後だという小さな村。

 北へ抜ける主要な街道からもだいぶ距離があり、旅人はおろか、国の役人ですらこの村の存在を把握しているのか疑わしいくらいであったが……


「こっ、国王陛下! ようこそいらしてくださいまして!」


 農具を放り投げて駆け寄った男は、随分と軽い出で立ちだというのに王であることを素早く理解し、慌てながらも大きく頭を下げる。


「変わりはないか?」

「それはもう! ただ、今回は時期が早いような……」

「うむ、またも緊急でな」

「そ、そうでしたか」


 不安げな表情を浮かべながら、横にいた俺にチラリと視線を向けてきた男は、それでも道を譲るように横へ逸れる。

 先には森の中へと続く、人が一人通れる程度の獣道。

 その入り口には紐で吊るされ、村人の洗濯物が干されていた。


「いろいろと凄いですね……」

「我が祖先はこれが最適だと判断したのだろう。おかげで4000年近く前からあるとされているが、ただの一度も襲撃や盗難の記録は残されていない」


 これには、でしょうねという感想しか出てこない。

 それくらい上手いやり方だなと思ってしまう。

 金銀財宝や希少なお宝、珍しい魔物や古代の武具でも、隠されているならなんだっていい。

 人は表に出ていない何かを探そうと思うと、まず怪しさや違和感を切っ掛けに動くもの。

 しかしこれだけ場所も、それに対応する人まで『普通』にされてしまうと、その切っ掛けすら掴めない。

 自分に置き換えてもこんなところはスルーが当然で、闇雲に【探査】なんて使うことはないだろうし、ここを知るウォズニアク王から直接場所を割り出すでもしない限りは辿り着ける気がしなかった。

 しかも――


「探査系で反応が拾えませんけど、相当高位の結界魔道具でも置いているんですか?」


 そう問えば、王は少年のような笑みを零しながら答えてくれる。


「もちろん備えてはおるが、どちらにせよ|深《・》|い《・》ぞ? 魔道具の存在を探知され、そこから発覚に繋がる恐れもあるのだからな」

「なるほど……」


 そのままウォズニアク王と俺は、森の中へ。

 少し進むと草や木々に隠された、人がすれ違うには難しい大きさの岩穴がひっそりと存在しており、覗くと内部は開けた洞窟のようになっていた。

 そんな場所を、王は自ら魔法で光玉を生み出し、慣れた様子でツカツカと踏み込んでいく。

 さすが、王も聖王騎士だとハーゼンさんが言うだけはある。

 ほんと良くも悪くも腰が軽いというか……

 供もなしにここまで動くのだから、明らかに他所の王様とは質が違う。


 そして小1時間後――。

 言われなければ素通りしていたであろう、迷宮のような地下空洞の途中にひっそりと存在していた仕掛け扉。

 王が手順を踏んで開けると、その中は全体的に薄く緑がかった、不思議な雰囲気が漂う石造りの部屋が広がっていた。


「ようやくだな。ここが目的の場所、ガルムでもほんの一握りの者しか知らぬ『秘蔵院』だ」

「……」


 そう言われても、すぐに言葉は出てこない。

 なんせ左右の壁には、図書院で見た数よりも明らかに多い本がズラリと並んでいるのだ。

 それに本の形状とは異なる石板のようなものや金板書。

 それにあれは――たぶん、大きさからすると源書の完品か。

 兎にも角にも、これがガルムの抱える蔵書のすべて。

 本とその先にある知識を求めて動いていた俺からすれば、この光景を見て興奮しないわけがない。

 しかも、だ。


「ではロキ王、早速回収していってくれ」

「……了解です」


 秘匿された地に足を踏み入れただけでなく、これらをすべて俺が預かれる。

 そう考えると、ガルムではスキルの伸びがほとんどなく、金銭面も大した規模ではない商会を1つ空にしただけ。

 旅の目的であり醍醐味とも言える戦果はかなり寂しいモノがあったけど、魔宝石といい、これほどの数の本といい……

 他では手に入らないレアモノをこれだけ得られたのだから、差し引きでいえば圧倒的にプラスと言ってもいいくらいだろう。

 まぁ結果的にそうなったというだけで、俺にとってはただ運が良かっただけなのかもしれないけど。


 結局俺は、マリーのせいで――、いや、マリーのおかげで図書院通いを断念せざるを得なくなった。

 それがこの隠された地へ案内されることになった一番の理由だ。

 ウォズニアク王も俺と同様の懸念を抱えていたようで、標的が俺へ切り替わったにもかかわらず学院へ通い続ければ、またマリーの妨害で大きな被害が出てしまうかもしれない。

 それこそ最悪は妨害程度で済まず、俺を殺しにかかるほどの大規模な攻撃により、再び生徒達や市街地を危険に晒す恐れが出てきてしまう。

 そうなると、誰がどう見たって詰み。

 一番の収入源は潰え、子を失った多くの権力者達から恨まれたガルムはまず確実に崩壊する。

 しかしだからと言って、俺が本の複製を諦めきれるわけでもない。

 傭兵として真っ先に要求した対価なわけだし、ウォズニアク王もそのことを十分理解していたからこそ、残された唯一の方法として緊急時用の原本でなんとかするしかないと。

 そのような結論になったわけだ。

 なのでさすがにこの本すべてを貰うということではなく、あくまで一時預かり。

 それでも堂々と拠点に持ち帰って複製作業を進められるわけで、出来上がり次第借りた本を返していけば、図書院に影響を与えることなく俺の目的は達せられる。

 そう、俺からすれば大変ありがたい提案だったわけだが――。


「複製が終わった本は、ここに運んでおけばいいですか? それとも先ほどの村人に渡した方が?」

「直接ここに運んでもらった方が都合が良いであろうな。村の長は時折魔石の補充でここを訪れる程度。本を抱えてここまでの道程を度々通わすのは骨が折れるだろうし、何より発覚の危険性が格段に増す」

「了解です」


 問題は、ウォズニアク王だ。

 ガルムからすれば、この場所は国の存続に影響を及ぼすほどの秘匿事項。

 以前は重要機密だと、このような場所があることすら伏せていたわけだし、この地を伝え、原本に手を出すなど本来は苦渋の選択であるはずなのだが、なぜかその様子がまったく感じられない。

 それどころか――、まただ。

 先ほどから引っ掛かりを覚えるくらいには柔らかい表情をすることが多く、今もこれが面白いと、王自らお勧めの本を俺に教えてくれていた。

 ここに来るまでもガルムで有名な郷土料理や、もっと北にあるらしい天然風呂の話なんかをずっとしていたし……


(まぁ、いいか……)


 先ほどは冗談だと思うけど、笑いながら俺が所持していた方が安全とまで言っていたくらいだ。

 様々な考えがあって演じているのか、それとも苦しさを見せないように努めているのかは分からないが、良からぬことを企んでいるような雰囲気は一切感じられない。

 ならば良くしてもらった分は、別の形でちゃんとお返しをすればいいだけ。

 人付き合いがそうなのだから、国との付き合いだってきっとそんなものだろう。


「もう、ゆくのか?」


 無事、本の回収を済ませ、宮殿に送り届けてすぐに王は問う。


「ええ、今は僕が離れていた方がこの国も安全でしょうから」

「そうか……結果的に追い出すような格好になってしまって済まんな」

「そうは思ってませんよ。それに僕は僕で学院通いの期間を大幅に短縮できたわけですから、逆に感謝しているくらいです」


 マリーには俺がこの地から離れ、学院や市街地の被害を嫌って本を諦めたと思わせた方が油断を誘えるし、周囲を巻き込みながら俺を狙うような動きもひとまずは収まるだろうからな。

 ハンスさんと俺がこの国に関与している。

 対外的にこの効果は大きいかもしれないが、再びガルムを標的に切り替えるかはマリー次第。

 しかし反乱軍を使った国家転覆という、数年掛かりの策は不発に終わっているのだから、ここから何か動くにしても、相当慎重にはなるだろうと予想している。

 ――少なくとも、俺が動く時間を作れるくらいには。


「それより例の件、マリーを油断させるための貴重な材料ですし、滞りなくお願いしますね。それと、彼が吐いた協力者の排除も」

「当然だ。ニトイ派と呼ばれる一部の教師だけでなく、図書院の守衛まで味方に付けているとは思わなかったが……マリーに与するような動きをする輩は必ずこちらで始末を付けよう」

「お願いします。ご自慢の郷土料理を食べにきたら国が無くなっていたとか、そんな姿は見たくないですから」


 この国が今後どうなるのか、それは誰も分からない。

 市街地の復興、生徒の確保、内通者の炙り出しに、東部の動きだって今後も注視していかなければならないだろう。

 見通しは決して明るいものではない。

 でも、極力は存続できる道を。

 何かあれば、多少なりは力に。

 そのためには――視線は自然と、東へ向く。


「まずは確認してみないとな」


 一人そう呟き、俺は上空から学院と、その南部に広がる寮区を数秒ぼんやりと眺めてから、次の行先に目を向けた。
517話 魔王が去ったあと①

 教師が整地したことで戦闘の跡もすっかり消えた、クルシーズ高等貴族院の第一修練場。

 そこには休校明けの学院生徒達が集められ、国の役人やセトナ学長が改めて事態の説明や今後の学院方針について語っていた。

 と言っても生徒の多くは成人前の子供達。

 それなりの教育を受けてきた者が多いとはいえ、小難しい話となれば興味は薄く、この惨事がガルムの内戦によるものだとして、いったい誰が自分達を助け、今後この学院は大丈夫そうなのか。

 休校中に様々な噂が飛び交っていたこともあり、生徒達の話題はその2点に傾注していた。

 身銭を切っていない子供達に、逃がさないための授業料免除や寮費の値引きなんて、どうだっていいのである。

 そして、自分が行くと言って聞かない王をなんとか宥め、自らこの場に立ったガルム国軍のトップ、ハーゼン騎士総団長から語られる真実。

 その内容に生徒達は大きくざわついた。


 ――竜を引き連れ生徒達を一時的に避難させたのは、エリオン共和国の元首であり異世界人の一人であるハンスであること。

 ――それまで学院を一人で護り、今も残る外周の巨大防壁を築いたのは、第五の異世界人でありアースガルド王国の王、ロキであること。

 ――そしてこの地を攻めた黒幕が、異世界人であり四強の一角とされるアルバート王国のマリーであること。


 二人からは公表の許可を得ているため。

 また反乱軍や傭兵などの供述から、マリーがこれまで以上に明確な敵であると判明したことで、特に最後は遠慮や配慮なんてものもなく。

 この学院と皆の命を狙ったのはマリーでありアルバート王国なのだと、怒気も孕んだ強い口調で告げられた。

 そして、その後の様子を食い入るように見つめる数名の大人達。


「ふむ……あの二人の印象がよほど強かったせいか、今は興奮している生徒の方が遥かに多いようですが、やはり、反応は様々ですな」

「それはそうでしょう。特にアルバート王国出身の子達は相当混乱しているでしょうから」


 国が大きく、そして比較的近くでもあるため、アルバート王国出身の生徒はこの学院にも多い。

 学長達がそのような感想を漏らした通り、生徒の大半は興奮した面持ちだが、愕然とする者や蒼褪める者。

 中にはアルバート王国出身と思われる生徒を強く睨みつける者までいた。

 生徒達の関係性を分かつ恐れもある、危険な言葉を吐いたことは学長や役人、それに今しがた説明を終え、檀上から降りてきたハーゼン本人も理解していたが……

 それでも、ただ黙って事態を見守りながら防衛に回るつもりはない。

 この場にいる大人達は事前に協議を重ね、強い覚悟をもって生徒達への説明に臨んでいた。


「ふぅ……必要不可欠なことだと頭では分かっているが、それでもあまり気持ちの良いものではないな」

「仰る通りですな、ハーゼン騎士総団長殿。しかしこの場にいる子供達の多くは"特別"、それこそ扱い次第でガルムにとって毒にも薬にもなります」

「承知している。だからこそ我らは、ガルムにとっての特効薬となり得るこの子達を、なんとしてでも守り通す責務がある」

「ええ、あとはお任せください。ここからは私の仕事、各方面に不和が生じないよう、偽ることなく事を進めていきますので」


 今回マリーは、アルバート王国出身の子供達を事前に逃がすことなく、学院を含む王都の攻撃に踏み切っている。

 この事実は重く、そして実際に命を狙われ怯えながら逃げ惑った、生き証人とも言える子供達がこの場に多く残されたのだ。

 これがただの子供であれば大した影響も見込めないが、親の多くはそれぞれの国で相応の立場と力を有する権力者。

 そのような者達が、マリーに命を狙われたと、大事な子供に泣きつかれればどう思うのか。

 各国にはアルバートでありマリーに対して、今まで以上に強い敵対の感情を残すように仕向け、特に戦争の機運が高まったパルモ砂国とテリア公国には、その関係に大きな亀裂が入ることを期待して。

 またアルバートそのものに対しては、直接的な手段までは取らずとも、国の中枢をグラつかせ、国力の低下と内部崩壊を誘う。

 その程度の反撃くらいは当然のように狙っていた。


 再び壇上に上がったセトナ学長は、一度生徒達を見回してからゆっくりと口を開く。


「当事者である皆さんにはこうして事実をお伝えしましたが、くれぐれもアルバート王国出身の生徒達に憎しみの目を向けないでください。亡くなった生徒の一人もアルバート王国の出身……この場にいる皆さんが同じ被害者であり、原因は被害も顧みずにこの国を手に入れようとした異世界人マリーにあるのですから」


 この言葉に、それもそうかと。

 飛び交っていた刺々しい眼差しは分かりやすく和らいだが、しかしそうなると新しい問題も生まれてくる。


「それで、結局ここは安全なんですか! 国内の争いは解決したって言いますけど、僕は命を脅かされてまでこの学院で学びたくなんてない!」

「そ、そうですよ! 第五の異世界人はここの生徒なんですよね? また何かあれば、彼が守ってくれるんですか!?」


 当然とも言える、生徒からの疑問。

 これにセトナ学長は、予め用意していた答えを返す。


「ロキ王の入学はもとより一時的なもの。今回で目的を達せられたわけですから、もう既に学院を去っています。|な《・》|の《・》|で《・》|皆《・》|さ《・》|ん《・》、安心してくださいね」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ちぇ~、もう魔王に会えないのか」

「残念、一度お話ししてみたかったなぁ」

「そうですね。楽しみにしておりましたのに」

「ねっ! 物語の魔王ロキみたいで怖そうだったけど、凄かったし、なんかカッコよかったし!」

「わ、私は魔法のことが聞きたかっただけで――」

「でもさ、これでこの学院も安全になったってことなんだろ? なら良かったじゃん」


 セトナ学長から告げられた言葉に、多くの生徒は思い思いの感想を漏らしながらも、どこか安心した様子を見せていた。

 王子や王女という立場ならまだしも、一国の王がなぜこの学院に生徒として在籍していたのか。

 そもそも学院にいたことすら知らなかったのだから、理由なんて尚更に知るわけがない。

 が、子供達からしても、王が生徒という立場になるなど、明らかに普通ではないことくらいすぐに理解できる。

 そのため先ほどの言葉から、異世界人ロキはこの学院を予め守るために潜伏していたのではないかと、そのように考える者が多くいたのだ。

 事実として、上空から大地を埋め尽くさんばかりの兵士と対峙している姿を生徒達は目撃しており、学院が戦場になるという警告と避難指示の後は、四方から襲い来る凶賊を迎撃し続けていた。

 学長が偽りのない範囲で仕向けた結果ではあるが……

 自然とそう判断し、そして納得してしまう事由は、各生徒の中にいくつも存在していたのである。


 しかし――。

 中には別の考え、別の反応を示す者達も僅かながらにいた。
518話 魔王が去ったあと②

「目的を達した? ありえないでしょ……」


 思わず呟いたその少女は、ロキの目的を知っていたはずだった。

 朝から顔を合わせ、夜に二人して摘まみ出されるまで、同じ建物で同じことをし続けていたからだ。

 本人の口から直接目的を聞いたわけじゃない。

 それでも少女からすれば、あの後輩は間違いなく自分と同種だと。

 そう確信が持てたからこそ、学長が告げた言葉に疑念を抱いてしまう。


「絶対にまだ本は読破できていない。それは間違いないのに、なんで……?」


 貴族の役に立たない自慢話以外は大概読み漁っていたのだから、何か特定の情報だけを求めていたとは考えにくい。

 ただ――、本を読むこと、知識を得ること以上に大事な何かがあった可能性はある。

 それが学院を守ることであったとしても別に驚きはしない。

 でもそれならば、用事を終わらせてから前の生活に戻ればいいだけ。

 わざわざ学院を去る必要なんてなく、試験だって受ける必要もなかったはずだ。

 それでも、途中で投げ出し、去った理由――


 ここで少女は一つの予想に辿り着き、ビクリと肩を震わす。


「まさか、目途が立った……?」


 最初はなんの冗談かと思ったが、自分を先輩と呼ぶ猫みたいに警戒心の強かった後輩は、紛れもなく異世界人で王様だった。

 このような場で改めて説明されたのだから、それはもう間違いないだろう。

 となれば、どのような方法を取るのかは分からないけど……

 国の窮地を救う代わりに本を求める。

 こんな話があっても不思議ではない。

 もし、それが正解で、学院を去る理由になったのだとしたら――


「もしかしてロッキーは、旧旧図書院の本も……非公開の本も手にしたの……?」


 かつてはこの学院内に収められていた、しかし今は所蔵している事実だけが公表されている、どこにあるのか、どうすれば閲覧が可能になるのかは一切不明な古代の希少書物。


『昔は目にする機会も少なからずあった。けど私には"昔の亜人達が残したとされる書物"であろうことくらいしか理解できなかったよ』


 少女は祖母からこのように聞かされていたため、執着と言ってもいいほどの強過ぎる興味が、仮説と言えど新たな指針を生み出していく。


「アースガルド王国か……」


 書物でもその名を見たことがないし、どこにあるのかだって分からない。

 それでも少女は可能性を考え、その国の名を小さく呟いた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「俺達は、助かったのか……?」

「あ、ああ。本物の異世界人で王って言われた時は、何もかも終わったって思ったけど……ここから去ってくれたんだ。さすがにもう何もないんじゃないか?」

「よ、良かったぁ~!」


 生徒達が集まる修練場の一角で、腰を抜かしたようにその場でしゃがみ込み、人目も気にせず安堵の言葉を口にする者達がいた。

 そう、かつて平民出だと自己紹介で言い放ったロキを標的にし、"遊び"と称して虐めに加担していた騎士科の生徒達である。

 ロキ自身が認識しているのは、試験で行われた長距離走の時の一度だけ。

 しかし実際は発覚していないというだけで、教室の机は花壇にされ、実技の授業用に与えられた木剣にはべっとりと油が塗られ、クラス内では知らずに酷いあだ名が付けられていたりと……

 何一つ成果の表れていない嫌がらせを幾度となく繰り返していた。

 そのため加担した生徒達は、今日まで噂に耳を塞ぎながら不安な日々を送り、先ほどハーゼンから異世界人であり王であることを告げられた時には、自分だけでなく実家まで消し飛ぶほどの覚悟をしたわけだが。

 結果的には何事もなく終わったように見えるこの状況を、どう受け止めればいいのか。

 次第に冷静になってきたことで、より確かな安心を求めるようにお互いが確認の言葉を交わす。


「やっぱさ、気付いてなかったってことは、ないよな?」

「教室内のは、一度も顔を出していないならほんとに知らないままの可能性もあるだろうけど、あの試験の時は直接囲っちゃってるし……」

「ええ。あんな多対一の戦闘を軽々こなすような人が、長距離走の時の嫌がらせくらい気付かないわけがない」

「ってことは、許されたのか、それか、最後まで相手にされなかっただけか?」

「獣人の国の王様も言ってたじゃん。子供だから許される部分もあるだろうし、親は引っ張り出すなって」

「そうそう。父上が昔、異世界人は心が大人のまま生まれるって言ってたんだ。だからたぶん、あの程度の悪戯じゃ怒ったりしないんだよ」

「なーんだビビッて損した。じゃあ俺達もう安心していいってこと――」

「で、でもさ……!」


 緩み始めた空気を割くように響く、甲高い声。

 堪らず声を上げたのは、この中でも一番年下の少年だった。


「気付いていたんなら、一番やる気になってたリードル君が池に落ちたのって、偶然じゃないんじゃないの……?」

「「「……」」」


 その言葉を聞き、皆があの時の光景を思い返す。

 割れた氷の中へ吸い込まれるように落ちていき、その後は掴んだそばから氷が割れ、自力で這い上がることもできずに必死な形相で藻掻いていた。

 教師が近くにいたから良かったものの、あのまま放っておけばどうなっていたのか。

 自分達がやろうとしていたことを、そして自分自身が落ちた時のことを想像し、思わず身体が震え上がる。


「嫌だって、言えば良かったんだ……最初からちゃんと、そんなことはしたくないって……」


 多くはその場の空気に流された結果。

 恐怖と後悔から泣き出してしまった少年を見て、安心感を得たいがために楽観的な言葉を選んでいた者達は口を噤み、眉間に深い皺を寄せた。


「まぁ、そうだよな……」

「次会うことがあったら、許してもらえるまで謝るしかないでしょう。あの時はごめんって」

「平民って聞いて、何しても許されるって思ったのが間違いだったわけだしな……でも、リードルは大丈夫なのか?」


 気掛かりのなのは、この場にいない一人の少年。

 誰よりも率先して行動に移し、そして池に落ちたその少年は、こんな危険な国にいたくないと、開通の知らせが入ってすぐに学院から抜け出していた。

 彼の実家はオルトラン王国。

 近隣国だからできることだが……


「マズいでしょ。相変わらず父上に言いつけるとか言ってたし、まず、ロッキーが異世界人で王様ってことをアイツ知らないままだぞ?」

「それ、かなりヤバくない?」

「「「……」」」


 この時、全員が友達をやめて他人の振りをしようと心に誓ったが、当の本人はそんなことなど露知らず、西へと向かう豪華な馬車に揺られていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 一方、ここでも二人の少女が、公表された事実に感想を漏らしていた。


「やはり、当初の私の予想は当たっていましたね」

「え?」

「忘れもしない、あの欠片も興味のなさそうな顔! 名乗った私にあんな顔を向けるんですから、ただ者ではないと思っていましたけど……ふふ、噂通り、王という立場であったのならばしょうがありませんね。それでも悔しいですが!」

「「「……」」」


 騒がしかった周囲の時間が若干止まるくらい、一人の少女はらしからぬ大声を張り上げていたが、興奮から当の本人は気付いていない。


「でも王女様、顔がちっとも悔しそうじゃないですよ?」

「ッ……そ、そんなことはありません。それとレフィ、何度も言っていますが『ノイス』です」

「あぅ……」


 どう見ても、顔がニヤけている。

 そんなことは誰が見ても一目瞭然だが、しかしレフィと呼ばれた少女は空気を読んでこれ以上突っ込んだりはしない。

 クラスの男子達から庇ってもらった恩義だってあるし、自分にもその気持ちがなんとなく分かるからだ。

 特に王女様――ノイスは侵入してきた悪漢に背中を斬られ、あわやとどめをというところで助けられた。

 学科が違うのだから二人は受ける授業も違う。

 興奮しながら話すノイスの言葉がどれほど美化され脚色されているかは不明だが、そんな出来事があったと背中を見せられても、血で赤黒く染まった長い斬り痕が制服に残されているだけ。

 肌はまったく判別できないほど綺麗に治されているし、話に聞く助け方を本当にされたのならば心が傾いてしまうのも無理はない。

 そう思いながらレフィは横目に視線を向けると、今度は意気消沈したようにノイスの表情は沈んでいた。

 とっても忙しい王女様である。


「ノ、ノイス……?」

「しかし、まさか学院を去るとは思いませんでしたね……結局私はお礼を言いそびれたまま、これではグリニッド王家の名が廃ってしまいます」

「緊急だったんですし、さすがにそのくらいでは廃らないと思いますけど……」

「いいえ、本来であれば王宮にお招きし、歓待させていただくのが――いえ、相手が一国の王ともなれば、私達がアースガルド王国に出向くべきなのでしょうね」

「そういうもの……え? 今、私達って言いませんでした?」

「言いましたよ? レフィは私の供として同行させる予定ですから」

「ええ!?」

「その気にさえなれば、あなたは並みの兵より遥かに強いのです。もう気心も知れた仲ですし、供には最適でしょう? それに王女という立場で向かうのですから、国からお金もそれなりに出るはずですよ?」

「……」


 平民出のレフィにとって、その申し出は大変魅力的だ。

 王女の護衛という立場なら安いわけがなく、立場の差はあれど今では昼食を共にし、偶然選択が一緒だった【芸術】の授業では、粘土で作り上げる謎の産物をお互いに見せ合っては笑い合う日々。

 旅のお供に重圧を感じることはあっても、嫌という感情は生まれてこない。

 しかし――、遠慮や配慮という考え方が染みついた平民の立場だからこそ、レフィはノイスの提案に対して不安を覚える。


「私達がそのアースガルドという国に向かったとして、ロッキー君はちゃんと会ってくれるのかなって思っちゃうんですけど……」

「え? どういうことですか?」

「だってロッキー君は王様なのに学院にいて、ここを守って安全になったから、また次の場所に向かったんですよね? そうなると、行ってもそこにいるのか分からないし、いても凄く忙しいのかなって」

「それは、確かに……日常の大半を宮殿で過ごされている、私のお父様とはまったく違いますね……」

「それに、私も普通にお話ししちゃったから実感が薄いんですけど、やっぱり異世界の人じゃないですか」

「……」


 どこも生き残ることに必死で、できれば異世界人を新たに見つけて自国で抱えようと。

 それが無理だとしても、深い繋がりを持てるように各国が動いていることくらい、王族の立場であるノイスも承知していた。

 となると、あの程度の挨拶などなんの意味もなく、有象無象の一人として相手にもされず、そもそも記憶にすら残っていないのではないか。

 悪い意味で、あの時の興味無さ気な表情が頭にチラついてしまい――。

 今にも泣き出しそうな表情を浮かべるノイスを見て、これはやってしまったと。

 横にいたレフィは、あわあわと焦りながら思わず口にした。


「あ、あっ、でも! ロッキー君が好きな物をお土産に持っていけばいいのかも!」


 その場を取り繕うように出てきた、とても子供らしい発想。


「……え?」

「前にロッキー君は図書院で勉強してるって言ってたじゃないですか! 今はその方が大事だからって」

「え、ええ、授業に出ない理由をそう説明されていましたね」

「ということは、本に凄く興味があるのかなって。騎士課にはいませんけど、よくここにある希少な本を目的に入学したって話は聞きますし……」

「な、なるほど……それならうちにも、門外不出の『海洋』に関連する本がいくつかあったはず……でかしましたよレフィ!」

「え、えへへ……そう、ですか?」


 頭を掻きながらも、門外不出って、外に持ち出しちゃダメなんだよね? と心の中で自問自答するレフィ。

 何かマズいことを言ってしまった気もするけど……

 どの道、卒業までには時間が掛かるのだ。

 動けたとしても、まだまだ先の話。

 それなら今は、友達が元気になったんだしそれで良いかと、結局最後は二人して笑っていた。
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ここまでご覧いただきありがとうございました。
ここで15章、ガルム聖王騎士国(学園編)は終了となります。
そして本来なら、ロキの手帳と地図の更新を挟んで16章突入、変わらず隔日ペースでいきまーすと言いたいところなのですけれども……
なんと! ビックリなことに! 16章がまだ終わっておりません!
投稿開始してから約2年。
仕事もあるためいつかこの日が来ると分かってはおりましたが、とうとうストック不足に悩まされる日がきてしまいました。
申し訳なーい!
なのでしばらくは毎週土曜日の週一投稿にしつつ、ストックを溜められるなら溜め、余裕が生まれたらその章の終わりまで少し加速させる。
そんな感じで進めていこうかなと思っています。
投稿ペースが落ちてそのまま行方不明なんてことはまったく予定にありませんので、WEB版と書籍版、どちらの物語もまったりとお楽しみください。

※他サイトの絡みもあり、16章開始は8/5予定になります。
ロキの手帳⑫

★ご要望があったので、【転換】余剰経験値を追加しております。

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 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:62  スキルポイント残:287 (技能の種により+43)

 魔力量:16010/16010 (740+15270)

 筋力:   8250 (403+7053)  ゲイルドレイク(+794)
 知力:   5978 (404+4954)  ガルグイユ(+620)
 防御力:  7774 (397+6023)  ヴァラカン(+687) クィーンアント(+667)
 魔法防御力:5717 (397+4515)  ガルグイユ(+805)
 敏捷:   4239 (397+3640)  ウィングドラゴン(+202)
 技術:   9873 (396+9477)
 幸運:   7367 (397+6556)  グリムリーパー(+414)

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》

 【転換】余剰経験値:『5,099,261』

 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv7 【暗殺術】Lv8 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv10 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv10 【闘気術】Lv5


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【神聖魔法】Lv4 【呪術魔法】Lv5 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv10 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv7
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10 
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7 
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6 
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv7 【装飾作成】Lv5 
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv5 【飛行】Lv8 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv9 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv9 【忍び足】Lv9 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv7 【自動書記】Lv7


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv6 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv8 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv7 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv8
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7 【転換】Lv8


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv7 【突進】Lv8 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv8 【招集】Lv8 
【硬質化】Lv7 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv8 【咆哮】Lv7 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv5 【火炎息】Lv7 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv6 【丸かじり】Lv7 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv7 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4 【魔法防御力上昇】Lv4
【不動】Lv7 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv6 【廻水】Lv6 【鏡水】Lv5 【透過】Lv5 【恐怖】Lv6 【封印】Lv5 【熱感知】Lv5 【陽炎】Lv6 
【流砂】Lv7 【砂嵐】Lv7 【砂硬鱗】Lv5 【昼寝】Lv4


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv6 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv6  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv7 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv6 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1 【甦生】Lv8 【共食い】Lv4 【粘液】Lv5 【分裂】Lv6
【砂泳】Lv7 【麻痺針】Lv6 【産卵】Lv6




 ◆戦闘・戦術系統スキル

 【剣術】Lv10 剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

 【短剣術】Lv9 短剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

 【棒術】Lv8 棒形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

 【体術】Lv10 己の身体で打撃を加える場合に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

【斧術】Lv9 斧形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槍術】Lv9 槍形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槌術】Lv8 槌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【鎌術】Lv7 鎌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

 【弓術】Lv9 弓形状の武器を所持している限り、攻撃動作、射程距離にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 技術補正

 【杖術】Lv9 杖形状の武器を所持している限り、魔法効果、魔法発動時間、防御動作にプラス補正が入る 魔力消費0 知力補正

 【盾術】Lv9 盾を所持している限り、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 防御力補正

【投擲術】Lv9 投擲飛距離に90メートルのプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で投擲速度/命中率のプラス補正を行う 魔力消費21 技術補正

【挑発】Lv9 注意を自分に向けやすくする 発動範囲90メートル以内 対象を中心とした半径1メートル以内の生物に発動 魔力消費21 防御力補正

【狂乱】Lv8 使用後は全ての通常攻撃動作に能力値290%の限定補正を行う。ただし制限時間が経過するまで、周囲の生物に対する通常攻撃動作以外を行うことができなくなる。 使用効果時間8分 魔力消費0 筋力補正

【二刀流】Lv8 両手に別々の武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【威圧】Lv10 見定めた1対象を相手にかなり強い恐怖を与え、行動阻害、精神錯乱を誘発させる 魔力消費5 魔力補正

【捨て身】Lv9 無手の状態に限り、筋力値、敏捷値を一時的に280%まで上昇させる 効果時間1分 魔力消費45 筋力補正

【指揮】Lv9 スキルを使用した指揮者の思考が、指揮下にある味方へと伝達されやすくなる。度合いはスキルレベルによる。 範囲:1800メートル 使用効果時間30分 魔力消費90 知力補正

【鼓舞】Lv9 半径45メートル範囲内の味方に対して全能力値を30%向上させる。同スキルによる重複不可。スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費44 幸運補正

【身体強化】Lv10 魔力を使用して筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 効果時間10分 魔力消費50 技術補正

【騎乗戦闘】Lv9 騎乗している状況に限り、全能力値145%のプラス補正が入る また騎乗している生物にもプラス補正が適用される 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【両手武器】Lv9 両手で一つの武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【暗器術】Lv7 暗器に該当する武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 敏捷補正

【射程増加】Lv9 射程距離が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【手加減】Lv10 スキル使用時に限り、致命打を与えても対象生物を一時的に延命させることができる 効果時間1分 対象生存時間60秒 魔力消費50 技術補正

【暗殺術】Lv8 急所攻撃に限り、能力値180%の上方補正を常時行う(魔力消費0) 任意で1分間、【忍び足】【暗器術】【隠蔽】のスキルレベルを1上昇させる 魔力消費40 敏捷補正

【闘気術】Lv5 体力の消耗と引き換えに、使用中は筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 魔力消費0 敏捷補正


 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv9 魔力消費90未満の火魔法を発動することが可能 知力補正

【土魔法】Lv9 魔力消費90未満の土魔法を発動することが可能 魔法防御力補正

【風魔法】Lv9 魔力消費90未満の風魔法を発動することが可能 敏捷補正

【水魔法】Lv9 魔力消費90未満の水魔法を発動することが可能 防御力補正

【氷魔法】Lv9 魔力消費90未満の氷魔法を発動することが可能 防御力補正

【雷魔法】Lv9 魔力消費90未満の雷魔法を発動することが可能 知力補正

【光魔法】Lv8 魔力消費80未満の光魔法を発動することが可能 幸運補正

【闇魔法】Lv8 魔力消費80未満の闇魔法を発動することが可能 魔力補正

【無属性魔法】Lv8 魔力消費80未満の無属性魔法を発動することが可能 魔力補正

【回復魔法】Lv9 魔力消費90未満の回復魔法を発動することが可能 防御力補正

【神聖魔法】Lv4 魔力消費400未満の神聖魔法を発動することが可能 魔力補正

【結界魔法】Lv6 指定箇所を中心に『防壁』『封魔』『燐光』『遮蔽』『遮断』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による
 魔法防御力補正

【呪術魔法】Lv5 魔力消費150未満の呪術魔法を発動することが可能 魔力補正

【時魔法】Lv5 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に対し、敏捷値±250%の減少か増加を選択して発動することが可能 減少の最終数値は対象の抵抗値によって決定し、マイナスになることはない 魔力消費:10秒毎に75 知力補正

【精霊魔法】Lv4 広範囲の『土水風火』属性精霊を一時的に使役し、魔法を行使することが可能になる 魔力消費100 魔力補正

【空間魔法】Lv6 一時的に亜空間と繋がり、その空間を活用することができる。 魔力消費:50%減 空間使用範囲と接続時間による 魔力Ⅱ補正

【魔力操作】Lv9 魔力操作が向上し魔法への応用が利きやすくなる また魔法発動時間が45%減少する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力感知】Lv9 使用者の周囲に存在する魔力の流れ、濃度に対して敏感になる 範囲半径45メートル 魔力消費0 魔力補正

【省略詠唱】Lv8 精霊への単体魔法イメージ伝導割合が80%まで上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【発動待機】Lv8 魔法発動可能状態から最大16秒間待機が可能になる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【多重発動】Lv2 属性に関わらず、発動待機中にもう2種の魔法を発動することが可能になる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【魔法射程増加】Lv9 魔法の射程が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力纏術】Lv6 具現化した魔力を装着武具、または身体に纏わせ強化させる 強化による上昇値は込める魔力量とスキルレベルに依存 効果時間6分 魔力消費:込めた魔力量の15% 魔力補正

【土操術】Lv3 流した魔力量に応じて土石を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる 防御力補正


 ◆ジョブ系統スキル

【狩猟】Lv10 狩猟技能が向上し、獲物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【解体】Lv10 解体技能が向上し、より素早く正確に解体を行うことができる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【採取】Lv9 採取技能が向上し、採取物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【話術】Lv8 対話能力がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【料理】Lv10 料理技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【農耕】Lv10 農耕技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【釣り】Lv9 釣り技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【家事】Lv10 家事技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【裁縫】Lv8 裁縫技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鍛冶】Lv7 鍛冶技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【芸術】Lv7 芸術技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【描画】Lv7 描画技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【建築】Lv9 建築技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【採掘】Lv10 採掘技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【細工】Lv7 細工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【加工】Lv8 加工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【伐採】Lv10 伐採技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【交渉】Lv8 交渉技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【畜産】Lv10 畜産技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【作法】Lv8 作法技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【舞踊】Lv7 舞踊技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【歌唱】Lv8 歌唱技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【薬学】Lv7 薬学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【演奏】Lv7 演奏技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【錬金】Lv6 錬金技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【彫刻】Lv6 彫刻技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【酒造】Lv8 酒造技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【庭師】Lv8 庭師技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【医学】Lv7 医学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【装飾作成】Lv5 装飾作成技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術

【魔法学】Lv5 魔法学の技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔道具作成】Lv4 魔道具作成技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正


 ◆生活系統スキル

【異言語理解】Lv10 人族が扱う言語であれば、知識が無くても全ての専門的な用語を理解し会話をすることができる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【獣語理解】Lv8 動物や魔物の言葉が理解し、意思の疎通をだいぶ図れるようになる 魔力消費0 知力補正

【視野拡大】Lv10 上下左右の視野がやや広がる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【遠視】Lv10 かなり遠くを見通せるようになる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【夜目】Lv10 暗闇の中でもかなり視界を確保できる 魔力消費0 幸運補正

【視界共有】Lv4 指定した対象に触れることで、一定時間視界を共有する 効果時間24分 多重発動不可 魔力消費30 幸運補正

【気配察知】Lv10 使用者の周囲で動く存在に対して反応が敏感になる 範囲半径50メートル 魔力消費0 技術補正

【探査】Lv9 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径270メートル 魔力消費0 幸運補正

【広域探査】Lv4 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径1400メートル 魔力消費0 幸運補正

【隠蔽】Lv10 Lv10以下の察知、看破、調査系統スキルを欺ける 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【俊足】Lv9 走る動作に補正がかかり、移動がかなり速くなる 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【忍び足】Lv9 使用時は無音で移動することが可能になり、スキルレベルに応じて気配を隠すことができる 魔力消費1分毎に10消費 技術補正

【逃走】Lv9 何かに追われている状況に限り、能力値310%の速度で走ることが可能 魔力消費30秒毎に10消費 敏捷補正

【縮地】Lv5 前方に向かって能力値250%の速度で距離を詰める 移動範囲は任意指定 最大距離10メートル 魔力消費25 敏捷補正

【跳躍】Lv9 跳躍動作に補正がかかり、通常よりも高く跳べる 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【空脚】Lv5 足場のない空中で踏み込み、6段までの【跳躍】を行うことが可能になる 魔力消費:1段毎に5消費 筋力補正

【飛行】Lv8 浮遊した状態で上空を移動することができる 魔力消費:1分毎に2消費 魔力補正Ⅱ

【算術】Lv9 算術能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【暗記】Lv9 暗記能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【騎乗】Lv9 騎乗能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【拡声】Lv9 声音を一時的に増加させ、声を広く届ける 増大する声音は元の大きさに影響する 魔力消費0 魔力補正

【遠話】Lv4 範囲内の特定対象に直接声を届ける 範囲半径20000メートル 効果時間1分 魔力消費10 幸運補正

【聞き耳】Lv9 聴覚を一時的に増加させ、範囲内の音や声を聞き分ける 範囲半径90メートル 魔力消費0 知力補正

【読唇】Lv4 対象の唇や表情が視認できる状態であれば、聞こえずとも言葉を理解することができる 理解度はスキルレベルによる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【罠生成】Lv8 捕縛/殺傷を目的とした罠の生成作業が巧みになる 使用者の想像をだいぶ補助する 魔力消費190まで 技術補正

【罠解除】Lv7 Lv7以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を解除する 魔力消費85 技術補正

【罠探知】Lv8 自然発生した危険域、Lv8以下の【罠生成】によって生成された特殊罠の察知する 範囲は視覚に依存 効果時間10分 魔力消費19 幸運補正

【鑑定】Lv9 対象物品の能力、効果、原料、素材情報を識別する 識別深度は自身のスキルレベルによる 無機物のみ対象 魔力消費0  幸運補正

【心眼】Lv9 対象の所持する技能を覗き見る 生物のみ対象 魔力消費5 幸運補正

【魔力譲渡】Lv7 対象に自身の魔力を譲渡する 魔力消費に対し譲渡できる魔力の割合は85% 魔力補正

【付与】Lv5 装備品に属性か特定スキルを付与することができる 付与数、組み合わせ、定着時間はスキルレベルと対象装備による 魔力消費50 定着完了まで1秒毎に17消費 幸運補正

【泳法】Lv8 水泳技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【調教】Lv8 調教技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【写本】Lv7 見本となる本や文章を複製する 速度はスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【自動書記】Lv7 意識を向けた対象の言葉や文字を一定時間書き記す 効果時間42分 魔力消費5 幸運補正

【魅了】Lv4 対象の心を惹きつけ、興味と好意を持たせる 異性に対してのみ有効 多重発動不可 効果時間4時間 魔力消費40 幸運補正


 ◆純パッシブ系統スキル

【毒耐性】Lv9 毒への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【麻痺耐性】Lv6 麻痺への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【睡眠耐性】Lv6 睡眠への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【石化耐性】Lv6 石化への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魅了耐性】Lv6 魅了への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【呪い耐性】Lv4 呪いへの耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【魔力最大量増加】Lv9 魔力最大量を90増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力自動回復量増加】Lv9 魔力自動回復量を45%増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【剛力】Lv10 筋力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【明晰】Lv9 知力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【金剛】Lv10 防御力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【封魔】Lv9 魔法防御力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【疾風】Lv9 敏捷値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【絶技】Lv9 技術値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【豪運】Lv8 幸運値が40上昇する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【物理攻撃耐性】Lv10 物理攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【魔法攻撃耐性】Lv8 魔法攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【火属性耐性】Lv9 火属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【土属性耐性】Lv8 土属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【風属性耐性】Lv8 風属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【水属性耐性】Lv8 水属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【雷属性耐性】Lv7 雷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【氷属性耐性】Lv8 氷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【闇属性耐性】Lv7 闇属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【光属性耐性】Lv6 光属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【鋼の心】Lv10 精神攻撃に対する抵抗がかなり増加する 威圧にも有効 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正


 ◆その他/特殊(使用可能)

【神託】Lv1 職業<神官>専用加護スキル 女神達からの言葉を授かることができる 使用条件1日に1度のみ 任意発動不可 魔力消費0 魔力補正

【神通】Lv2 職業<神子>専用加護スキル 女神達と意思の疎通を図ることができる 使用条件1日に1度のみ 使用制限時間2分 魔力消費60 魔力補正Ⅱ

【地図作成】Lv4 3倍までの縮小、拡大が可能 魔力消費0 魔力補正Ⅱ

【魂装】Lv7 自ら命を奪った魔物の魂を身に留め、抽出された能力のうち1種を自身へ付加させる 魂装上限数7 魔力消費5 魔力補正Ⅱ

【奴隷術】Lv8 奴隷契約を結び、対象を『魂縛』もしくは『隷属』させることが可能になる 最大所持コスト400 奴隷契約時のみ魔力消費30 魔力補正

【魔物使役】Lv8 服従させ、対象を使役することが可能になる 最大所持コスト800 使役時のみ魔力消費30 魔力補正

【威嚇】Lv7 前方7メートルの範囲に対し【威圧】効果を与える 魔力消費45 敏捷補正

【転換】Lv8 最大レベルまで上がったスキルの余剰経験値を蓄え、指定スキルの経験値に転換することが可能になる 転換率16% 常時発動型 魔力消費0 魔力Ⅱ補正


 ◆その他/特殊(使用不可)

【獣血】Lv4 使用不可


 ◆その他/魔物(使用可能)

【突進】Lv8 前方に向かって能力値340%の速度で突進する 移動範囲は任意指定 最大距離5メートル 消費魔力19 敏捷補正

【噛みつき】Lv8 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値330%の補正を行う 魔力消費17 筋力補正

【光合成】Lv7  太陽の光を浴びれば自然治癒力と魔力回復量が微増  常時発動型 魔力補正

【硬質化】Lv7 一時的に身体を硬質化させ、効果時間内は防御力が12倍になる 効果時間1秒間 魔力消費17 防御力補正

【物理防御力上昇】Lv4 防御力が12%上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【強制覚醒】Lv9 生存している同種族を強制的に目覚めさせる 範囲:1800メートル 魔力消費50 技術補正

【状態異常耐性増加】Lv8 あらゆる状態異常耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【招集】Lv8  【呼応】スキルを持つ周囲の魔物を強制的に呼び集める 効果範囲:周囲半径240メートル 魔力消費19 知力補正

【穴掘り】Lv8 上手に穴を掘る 効果時間8分 魔力消費2 筋力補正

【酸耐性】Lv8 酸への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【踏みつけ】Lv8 下方に向けてのみ、筋力値340%の威力で攻撃を加える 魔力消費19 筋力補正

【嗅覚上昇】Lv5 嗅覚を一時的に上昇される 上昇度合いはスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【洞察】Lv4 視界に収めた生物との力量差を少し掴める 魔力消費0 魔力補正

【咆哮】Lv7 前方7メートルの範囲に対し【威圧】効果を与え、自身に掛けられた精神ダメージを確率で無効化させる 魔力消費55 魔法防御力補正

【旋風】Lv6 周囲720度を能力値280%の威力、速度で薙ぎ払う 使用時は僅かに移動可能 魔力消費19 敏捷補正

【睡眼】Lv3 対象の目を見ながら発動することにより眠らせることができる。 能力効果を説明した上で対象が承諾していれば100% 能力説明をしていない、もしくは理解できなければ、成功確率はスキルレベルと対象の耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費9  魔法防御力補正

【爪術】Lv8 爪形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【発火】Lv6 自身、もしくは自身が触れている物を任意の範囲で発火させる 効果を切れば火は消えるが、非接触状態になればその火は直ちに制御を失う 熱量はスキルレベルと知力による 魔力消費:10秒毎に5消費 魔力補正

【火炎息】Lv7 前方に火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費50 魔力補正

【灼熱息】Lv6 前方に巨大で広範囲な火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費75 魔力補正

【白火】Lv1 自身が扱う火に関する技能に限り、上位格となる白火へ変化させる 熱量はスキルレベルによる 魔力消費20 魔力Ⅱ補正

【炎獄柱】Lv5 吸い込み、捕食し、生物を食らう巨大な炎柱を、自身から15メートル離れた先に2本生成する 生成後の炎柱、内部の龍ともに制御は不可 スキルレベル上昇により動きが活発になる 発生時間10分 魔力消費90 魔力Ⅱ補正

【丸かじり】Lv7 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値450%の補正を行う 魔力消費38 筋力補正

【分解】Lv3 魔力を介して対象を分解する 分解速度は込める魔力量による 魔力消費減少割合20% 魔力補正

【吸収】Lv3 魔力を介して液体を吸収する 魔力消費0 幸運補正

【氷結息】Lv7 前方に氷結の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費50 魔力補正

【不動】Lv7 一時的に身体を硬直させ、効果時間内は防御力、魔法防御力が18倍になる ただし発動中は一切身体を動かせない 効果時間7秒間 魔力消費105 防御力補正

【石眼】Lv7 対象の目を見ながら発動することにより石化させることができる 未動作の対象ほど石化進行は速く、成功率は耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費17 魔力補正

【物理攻撃力上昇】Lv6 筋力が18%上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【衝撃波】Lv6 初動となる運動エネルギーを増加させ、波状に衝撃を加える 威力と範囲はスキルレベルによる 魔力消費45 敏捷補正

【地形耐性】Lv6 地形効果を受けにくくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鏡水】Lv5 魔法属性に分類される攻撃を自動で防御、反射する 反射精度はスキルレベルによる 魔力消費:10秒ごとに30消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正Ⅱ

【廻水】Lv6 広範囲の水を強制的に流動させる 範囲と速度はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に75消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正

【透過】Lv5 一定時間身体を透明化させる 効果時間2.5秒 魔力消費50 魔力補正

【封印】Lv5 対象のスキル発動を確率で阻害する 効果時間10秒 魔力消費50 知力補正

【恐怖】Lv6 自身を見ている存在全てを、強い恐慌状態に陥らせる 魔力消費90 魔力補正

【熱感知】Lv5 視界内の温度を視覚化させる その精度はスキルレベルによる 魔力消費0 魔力補正

【陽炎】Lv6 本来とは異なる位置にその姿を映し出す 魔力消費:1分ごとに10消費 幸運補正

【流砂】Lv7 範囲内の砂を任意に流動させる その範囲はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に40消費 ※砂地でのみ発動可能 敏捷補正

【砂嵐】Lv7 使用者を中心に多量の砂を巻き込んだ猛風を巻き起こす 効果範囲とその威力はスキルレベルによる 
発生時間10分 魔力消費110 ※砂地でのみ発動可能 防御力補正

【砂硬鱗】Lv5 物理、魔法属性に分類される攻撃を自動で防御する 反応速度はスキルレベルによる 魔力消費10秒ごとに30消費 ※砂地でのみ発動可能 魔力補正Ⅱ

【昼寝】Lv4 仮眠することで急速に体力と魔力を回復させる その効果はスキルレベルによる 魔力消費0 幸運補正

【魔法防御力上昇】Lv4 魔法防御力が12%上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正



 ◆その他/魔物(使用不可)

【粘糸】Lv4 使用不可 魔法防御力補正

【脱皮】Lv6 使用不可 魔法防御力補正

【呼応】Lv7 使用不可  知力補正

【酸液】Lv7 使用不可 技術補正

【擬態】Lv7 使用不可 技術補正

【胞子】Lv6  使用不可 魔力補正

【泥化】Lv5  使用不可 魔力補正

【気化】Lv8 使用不可 魔力補正

【毒霧】Lv7 使用不可 魔力補正

【結合】Lv8 使用不可 防御力補正

【分離】Lv8 使用不可 技術補正

【火光尾】Lv5 使用不可 敏捷補正

【幻影】Lv8  使用不可 魔力補正

【影渡り】Lv6 使用不可 魔力補正

【属性変化】Lv7 使用不可 魔力補正

【地縛り】Lv6 使用不可 魔力補正

【絶鳴】Lv7 使用不可 魔力補正

【無面水槍】Lv6 使用不可 知力補正

【睡夢鱗粉】Lv4 使用不可 幸運補正

【膨張】Lv1 使用不可 魔力補正

【共食い】Lv4 使用不可 防御力補正

【甦生】Lv8 使用不可 魔力補正

【砂泳】Lv7 使用不可 敏捷補正

【粘液】Lv5 使用不可 魔力補正

【分裂】Lv6 使用不可 魔力補正

【麻痺針】Lv6 使用不可 敏捷補正

【産卵】Lv6 使用不可 魔力補正Ⅱ



 ●ボーナスステータス値

 各スキルの隠し要素としてボーナスステータス値が存在。

 ステータス値が確認できない住民は当然として、ステータス画面上でも表記されないため、検証していかないとスキルそれぞれのボーナスステータス値は分からない。

 スキルレベル1・・・・・対応能力(+1)
 スキルレベル2・・・・・対応能力(+2)
 スキルレベル3・・・・・対応能力(+3)
 スキルレベル4・・・・・対応能力(+5)
 スキルレベル5・・・・・対応能力(+10)
 スキルレベル6・・・・・対応能力(+30)
 スキルレベル7・・・・・対応能力(+60)
 スキルレベル8・・・・・対応能力(+100)
 スキルレベル9・・・・・対応能力(+180)
 スキルレベル10・・・・・対応能力(+300)

 ※魔力のみ2倍  ※魔力Ⅱはさらに2倍



 ●スキルレベル上昇に必要なスキルポイント必要分(女神様への祈祷)

 0→1・・・・・・2ポイント
 1→2・・・・・・4ポイント
 2→3・・・・・・12ポイント
 3→4・・・・・・30ポイント
 4→5・・・・・・50ポイント
 5→6・・・・・・100ポイント
 6→7・・・・・・200ポイント
 7→8・・・・・・300ポイント



 ●レベル上昇による各能力上昇値

 レベル1~10・・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種3上昇、魔力量だけは6上昇
 レベル11~20・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種4上昇、魔力量だけは8上昇
 レベル21~30・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種5上昇、魔力量だけは10上昇
 レベル31~40・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種6上昇、魔力量だけは12上昇
 レベル41~50・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種7上昇、魔力量だけは14上昇
 レベル51~60・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種8上昇、魔力量だけは16上昇
 レベル61~70・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種9上昇、魔力量だけは18上昇


 ●未取得からスキルレベル1の必要経験値を『100』とした場合のスキルレベルと必要経験値、及び魔物から得られるスキル経験値の関係性(推定値)

 スキルレベル1取得に必要な経験値は100  
 スキルレベル1所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり20


 スキルレベル1から2に必要な経験値は200  
 スキルレベル2所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40


 スキルレベル2から3に必要な経験値は600  
 スキルレベル3所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり120


 スキルレベル3から4に必要な経験値は2,000 
 スキルレベル4所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400


 スキルレベル4から5に必要な経験値は20,000 
 スキルレベル5所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000


 スキルレベル5から6に必要な経験値は60,000 
 スキルレベル6所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり12,000


 スキルレベル6から7に必要な経験値は200,000
 スキルレベル7所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40,000


 スキルレベル7から8に必要な経験値は2,000,000
 スキルレベル8所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400,000?

 スキルレベル8から9に必要な経験値は20,000,000?



 ●名前の挙がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 ▲スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ◎ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中だった国

 ◎パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯

 テリア公国……ガルム聖王騎士国の東に隣接する国

 グリニッド王国……大陸北東に存在する海洋国家
************************************************
近日中に最新ワードルマップも追加してきます。
地図(ワールドマップ) 15章終了時点



15章終了時点のマッピングデータです。
物語の補完用にどうぞ。


 ●名前の挙がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 ▲スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ◎ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中だった国

 ◎パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯

 テリア公国……ガルム聖王騎士国の東に隣接する国

 グリニッド王国……大陸北東に存在する海洋国家
519話 賢者

 新たな行先は自分の中で決定している。

 しかしやることも多く、まずは何から片付けていこうか。

 そう考えた時、俺の足は自然と一番喜びそうな人のところへ向かっていた。


「やっほ~って、今日はケイラちゃんもここにいたんだ」

「あっ、ロキさんこんにちは~」

「……」

「リコさん、ロキさんが来たよ」

「おふっ、ぇあ!? いつの間に!?」


 リコさんは相変わらずだな。

 ご飯を食べたりしている時は普通なのに、本を触っている時だけはよほど集中しているのか、周りの動きに気付かないことも多い。

 今もケイラちゃんに脇腹を突かれて、ようやく覚醒したように顔を上げた。

 ツンツンするための棒まで用意されているのだから、もう完全に常習犯である。


「ふふふ……今日はリコさんにとっておきのプレゼントがありまして!」

「そ、その口ぶり……さては新しい本ですね! しかもとっておきとなると、相当希少な本を手に入れられたのでは……?」


 俺の表情を見て何かを悟ったのか、期待に目を輝かせながら答えるリコさん。

 うーん。

 欲しい物があれば好きに資材倉庫から持っていっていいとはいえ、店の一つすらない拠点生活。

 こう問えば、日常生活の中で望んでいる物を引き出せるかなって思ったけど、やっぱりこの人はどこまでいっても本しか頭にないらしい。


「正解、リコさんなら分かると思うけど、クルシーズ高等貴族院に行ってきてさ」

「え? ま、まさか……あそこに収められている秘蔵の書物を得られたとか!?」

「そうそう。全部持ってきたから、まずは整理を手伝ってよ。ケイラちゃんもね」

「ふぁ……?」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 棚をいくつも増設し、まずは今回預かってきたレンタル書物を机の上に取り出していく。

 ややこしいけど最初が肝心。

 預かり物の中にも既にうちが所有している本はあるわけで、どの本を複製すべきなのか。

 その割り出しを行うために、先ほどから鼻息の荒いリコさんが積み上げられた本の表表紙を確認しつつ、選別とリスト作成に没頭していた。

 俺が学院で複製していた分も含め、今うちにある700冊ほどの本は、タイトルだけなら全て頭の中に入っているらしく、見ただけで重複かどうかすぐに分かるらしい。


「凄い……見たこともない本が、こんなに……はぁ……はぁ……凄過ぎて……あぁ、そんな……ロマンドの続編まで……あ、 『実用された騎乗生物』はもううちにありますね」

「あ、はい」

「はぁ……こんな、そそられる名前ばかり……はぁ……あはぁ……ちょっともう、我慢なんてできないんですけど……チラ見したい……」

「「……」」


 ただ本の整理をしているだけなのに、なぜかケイラちゃんの教育に悪いような気がしてきたが。

 とりあえず未所持のレンタル本は俺がどんどん本棚に並べていき、ケイラちゃんは念のためリコさんの重複判定に間違いがないか、うちの在庫リストと照らし合わせながら確認。

 問題ないようであれば、重複本は秘蔵院へ早めに返却するため、俺が次々と収納していく。


 そんな流れ作業を続けて30分ほど。

 選別作業も中盤に差し掛かったところで、常に聞こえていた荒い吐息が「うっ!」という天に召されたような呻きに変わり、そのまま静かになる。

 え、死んだの!?

 それともまさか、こんな所で賢者モードに……

 ビックリして思わずリコさんに視線を向けると、そのリコさんもなぜか泣きそうな顔してこちらを見つめていた。


「……?」

「うぅ……読めません……」

「え?」

「読めない文字が出てきちゃいました……」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 何枚もの木板に分けて書かれた複写のリスト。

 それらを机に上に重ねながら、ようやく作業が終わったことにホッと息を吐く。


「ふぅ~お疲れ様。そっちは全部で何枚だった?」

「こっちは32枚でした。ということは、ロキさんの方と合わせると、えーと……全部で、2600冊くらい……?」

「おっ、正解! 本だけだとそのくらい、追加の源書や金板書なんかも含めたら2700冊弱ってところか」

「やった~!」

「だいぶ多いけど、当面の目標はこの2700冊の複製を終わらすことだから、ケイラちゃんも無理がない程度に手伝ってもらえると助かるよ」

「大丈夫ですよ。書きながらいろいろなことを知れるのは楽しいですから。それに最近、また【自動書記】のレベルが1つ上がったんです!」


 そう言って嬉しそうに作業台へ向かうケイラちゃん。

 ご飯を食べている時も、ちょくちょく職業を変えながら、黒曜板でスキルチェックをしているって言ってたからなぁ。

 今は自身の成長を実感できることが楽しいのだろうと、そんなことを思いながらもう一人に目を向ける。

 定位置ともいえる椅子に座ったまま、グッタリと項垂れているリコさんを。


「おーい、リコさーん。凹んでないで元気だしてよ」

「うぅ……だって、読めない本が100冊以上もあったんですよ!? それにあっちの石板やいくつかの金板書に至っては、文字の一つすら理解できません!」

「それはしょうがないよ。遥か昔にどこかで使われていた言語とか、特定の亜人種だけが使ってた言葉なんだろうしさ」

「でも、ロキさんは読めてるじゃないですか……」

「それは……まぁ」


 こればかりは【異言語理解】のレベルが違うのだからしょうがない。

 リコさんの【異言語理解】はレベル7。

 それでも町中ではまず見かけないくらい十分高いし、様々な本や文字に長く触れてきたからこその結果だろう。

 ただ今回は一部がマイナー言語過ぎて、レベル7でも足らなかったというだけの話である。

 まぁ当人にとってはその程度と、軽く流せる内容ではないんだろうけど。

 生粋の本好きが、目の前にある、明らかに希少と分かる本の中身を読めないのだ。

 内容は違えど、その気持ちは分かるからなぁ……

 となると、確認するには丁度良いタイミングか。

 そう思って口を開く。


「リコさんはさ、もうずっと本に携わって生きていくって決めているの?」

「それはもう……!」

「念のための確認だけど、ほんとに?」

「え?」

「例えば俺なんかは、その先の強くなりたいという目的のために情報が必要で、だから本を読むわけだけど、リコさんも俺と同じだったりしない?」


 重要なのはここだ。

 リコさんが本好きで、知識欲が強いことくらい今更だし、そんなことは十分理解している。

 以前にオーマや《夢幻の穴》の情報を伝えた時も、真実に書き換えるという、情報の精度や管理に執着しているような様子も窺えた。

 でも先ほどから、特定の分野に殊更強い反応を示していたような感じがして、横で作業をしながらどうにも気になっていたのだ。

 もし俺のようにその先を見ているのなら、今ここでエニーのような強引なやり方は取るべきじゃない。

 現状ではフェリンの反応から何かしらの方法がありそうだと予想をしている程度で、スキルポイントのリセットに関する情報はまったく拾えていないのだから。


「それは……確かに、別の目的というか、今も本に興味を抱いて読み続ける理由はあります」


 そう言ってリコさんは一度、視線を手元に向ける。

 優先的に選んだのだろう。

 そこには『歴史に埋もれた古代人種の痕跡』という名の本が置かれていた。


「最初はなぜ、自分だけって……父か母の出自が特別だったのか、一種の病によるものなのか、寿命は、抱えるスキルの影響は……おばあ様に拾われてからは、それこそ呪うような気持ちで巨人族について調べ始めたんですよね」


 そう言ってリコさんはクスッと笑い、急に話を変えた。


「知ってました? 私って記憶力がなぜか良いんですよ」

「え? それは前々から思ってたけど……」

「かつておばあ様が仰ってくれたんです。自分より記憶力と理解力に優れているのは、きっとおまえの頭が大きいからだって。ほんと、失礼しちゃいますよね!」

「……」

「でも、少し救われた気がして、悪い部分だけじゃないんだって思えて、そこから少し目的が変わったんです。いつの時代に、どのような場所で、どのようにして巨人族は生きていたのか。興味があることに変わりはありませんし、こうして私のような存在が僅かながらに生まれて悩みを抱えているとなれば、より正確な情報を後世に残すべきだとも思っています」


 そう言って僅かに視線を横へ向ける。

 その先には下を向き羽根ペンを握るも、完全に作業の手を止めているケイラちゃんがいた。


「そっか……」

「それに、いつかこの大きい頭で、ラグリースで一番の博識と呼ばれたおばあ様を超えたいですしね」


 ばあさんなりの慰めだったのか、それとも本当に巨人族との因果関係があるのかは分からない。

 でも今のリコさんから悲壮感など感じられず、こうして笑顔で自分の目指したい未来を語れるのだから、それなら俺だって自重無しの全力で後押しすべきだろう。


「了解。だったらどうせだし、本気で一番を目指しちゃおうか」

「え?」

「大陸一の大賢者とか、格好良くない?」


 そう告げると、数秒、固まったように目だけをパチクリさせたあと。


「ふふ、そうですね。どうせなら目指しちゃいますか」


 そう言って、リコさんは朗らかに笑った。
520話 また、その時に

 俺は確かに、本気だと言ったはずだ。

 だから早速連れ回した。

 パワレベ会場の恒例となってきたクオイツに。


「ロギざぁ~ん゛! 私、暗い所も魔物も苦手なんですぅ~!!」

「シャーラップッ!!」


 拠点周辺でカルラやエニーに任せても良かったが、それだとどうしても時間が掛かって複製作業に遅れが出てしまうからな。

 わざわざ人目につかないよう、光も届かない地下の奥地まで来ているのだ。

 経験値の漏れがないように、片っ端から【挑発】かまして敵を誘き寄せているので、俺の横で泣きべそ掻いているリコさんからすれば恐怖しかないだろうが……

 これが一気に引き上げるには一番手っ取り早い。

 そしてついでに、これで3度目となる転送物流の準備も進めておく。

 たぶんだが、今日はもう一度ここへ来ることになるからな。

 久しぶりに見たオムリさんは病気でも患ったのか、先日強制ダイエットを食らっていたカタツムリと同じくらいゲッソリしていたけど……

 前回やり過ぎちゃった感もあるので、今日は明日の朝まで荷物の準備に充てていいよと伝えて一度帰還。

 すぐさまリコさん改造計画に取り掛かった。

 そして――


「はい、それじゃあまずは、預かったこっちの服に着替えてね。頭にはこのハチマキ」

「え? "死んでも諦めません"って、どういう――」

「この2本の短剣は腰の辺りにでもぶら下げといて」

「は、はぁ」

「あと、これを足元に。常に踏んづけとく感じでいいから」

「これは、健康器具、ですか……?」

「一応『盾』だけど、ちょっとトゲトゲしているやつだし、足ツボマッサージにも使えるんじゃない?」

「……」

「で、これがメインで付けておく用の指輪と首飾り、あと魔力残量が厳しくなってきた時用に、サブアクセも2種類用意してある――」

「ちょ、ちょっと待ってください! まったく理解が追い付いてなくて、これは何をやってるんですか!?」


 そう言われて、おや? と思いながらも暫し考える。

 そういえば、付与について詳しく書かれた本はうちになかったな。

 となると、本からしか学べていないリコさんが知らないのもしょうがないのか。

 ふーむ……


(いずれ、無い分野は自分達で本を作っていく必要もでてきそうかな……)


 そんなことを考えながら解説を加えていく。


「まずね、目指せ大賢者っていう、大きな目標のために記憶や理解力の強化を図ろうと思ったら、やっぱり『知力』かな~って。それで各装備に【明晰】レベル9の付与を2個ずつ付けたんだ」

「ブホッ!? 自分の【明晰】より遥かに高い……ちなみに、この頭に巻く布も、ですか?」

「そうそう。防具は2種だから、適当な布に気合の文字を書いただけだけど、これを頭部用の防具に見立ててるのね。あとは武器2本と盾、これで武器と防具の付与は最大になっているから」

「ただの服どころか、布に【付与】なんて可能なのですか? それに盾は地面に置いているだけですけど」

「服だって元々は革や布だし、完成後の用途を想像できているといけちゃうんだよね。たぶん【魔道具作成】なんかも同じ原理で生み出すんだと思うけど……まぁそれはいいとして、自分が<付与師>でもない限りは結構なお金がかかるし、その布切れが破損扱いになったら【付与】も消えちゃうから、誰もそんなことをやろうとしないってだけ。あと装備は触れてさえいれば【付与】効果が発動するから、作業する時だけ足を乗っけておけば邪魔にならないでしょ?」

「確かに……」

「装飾品もその辺りは同じなんだけど、この指輪だけは特殊付与装備だから、一応まだ付与は施していない」


 所持していたのはサザラーの女商会長か、それともアトスターク侯爵か。

 ロズベリアの大掃除をした時に、いつの間にか所持していたものだが――


『知力の指輪』・・・【知力増加】Lv2


 このようになっており、自分で試した結果、装備すると知力が200上昇することが判明していた。

 そこそこ希少なのかもしれないけど、この程度の固定値上昇であれば俺が使うことはない。

 なら適当なアクセに【明晰】レベル9の【付与】で知力を90底上げするより、付与無しのままでもリコさんの強化に使ってしまった方が意味もあるだろう。


「これでリコさんの知力は装備だけで740底上げされているから、実感はしにくいだろうけど、経験上間違いなく無意味ということはないはずだよ。あと【自動書記】の常時使用で、もし魔力の自然回復が追い付かないようなら、ケイラちゃんとの共用ということで、その時はこっちの首飾りに付け替えてね。一気に魔力回復量が跳ね上がるから」

「あ、ありがとうございます。これが、ロキさんの見えている世界なわけですか……」

「そそ、職業選択のボーナスと祈祷の調整で【異言語理解】がレベル9、【写本】がレベル9、【自動書記】はレベル8。ここまで主要スキルを底上げすれば相当作業効率も変わるから、あとは実際に作業をしながら今までとの差を感じてみてよ。例のSランク狩場が見つかれば、さらにスキルレベルも伸ばせるだろうからさ」

「はい!」


【異言語理解】レベル9でも、まだ解読できない文字がいくつかあるという。

 でもその手前に触れていない知識が山ほどあるのだから、そのくらいは最後のお楽しみにしておいたっていいだろう。

 必要があれば、そのくらいは俺がリコさんに教えたっていいわけだしな。

 さて――、ハチマキを頭に巻き、集中モードに入ったリコさんはこれでいいとして。

 今までの話を聞いていたせいで、普段は見せない物欲しそうな眼差しを向けるケイラちゃんにも、少しばかりのプレゼントを渡す。


「はい、ケイラちゃんにも、これね。まだ魔力総量が少ないから、魔力を底上げする耳飾りを二つ。あとこの盾をリコさんみたいに足元に置いて踏んでおけば魔力回復量もだいぶ上がるから、さすがに常時とはいかないだろうけど【自動書記】を長く使えるようになるよ」

「あ、ありがとうございます……! で、でも、私も……」


 リコさんとは明らかにやっていることが違うのだ。

 言わんとしていることは分かる。

 だけど。


「ケイラちゃんにはまだ早いかな」

「そ、そうですか……」

「あのやり方っていうのは取り返しのつかない、凄く怖いやり方でもあるんだ。もし後々になって何かが違うと思っても、一度伸ばしてしまったスキルは修正がきかないから、他の道まで閉ざされてしまう」

「……」

「だからケイラちゃんが、本当にやりたいことを見つけた時。その時はエニーやリコさんみたいに、俺が全力で応援するからさ。まずは人生を懸けてでもやり遂げたいって思うほど興味の惹かれる何かを見つけてみてよ。時間が掛かってもいいんだから」

「は、はいっ! 約束ですからね!」


 才覚があり、育った環境も特殊だったエニーとは違う。

 まだ10歳やそこらの女の子だ。

 そう簡単に見つかるものでもないだろうし、仮に見つかったとしても心変わりくらいはして当然だろう。

 だったら後悔させないためにも、周りが慎重なくらいの方が丁度良い。

 まだ自分の決断に責任を負えない、子供であればだ。


(さて、もう一人はどう判断するかな?)


 当初からどうすべきか悩んでいたのは、リコさんではなくもう一人の方。

 その確認をするため、新しく入手した源書にサラッと目を通したあと。


(さすがに2700冊となるとこの二人だけでは……一応女神様達にも本気で相談しておくか……)


 そう思い、一度上台地に寄り道をしてからベザートへ飛んだ。
521話 凡俗だからこそ

 やってきたのはクアド商会。

 今は奥まった場所まで棚が設けられ、やっとお店らしくなった店内で、慌ただしくバックヤードから補充用の商品を運んでいる人達がいた。

 しかし、暫く眺めても目的の人は見当たらない。

 うーん、探査でも反応が拾えないし、どうしたものか。


「こんにちは~ベッグさんってどっか出かけちゃってます?」

「なんだ、ボスか。ベッグの兄貴なら配達に行ってるよ」

「ってことは町の方かな?」

「そうそう、詳しい場所までは分かんないけど、お客さんの家に家具を運んでくるって、一緒に出てったから」

「そっか~どうしよっかな……」

「ボスは空飛べるんだし、探してんなら上から眺めればすぐ分かるんじゃないか? 最近は連結したやつ使ってるから、あれならすぐ判別できそうだしさ」

「ん? 連結?」

「なんかトロッコだかの話が出た時に思い付いたらしくて、最近は馬車の後ろにもう1台荷車を繋いでんだ。まぁよく外れて、積んでいる荷物地面に転がしているみたいだけど……」

「な、なるほど……それじゃちょっと探してみますね」


 すぐさま上空に舞うと、まだ大通りの一部だけではあるけれど、少しずつ石畳みに変わってきていることが一目で分かる。

 そしてその先。

 まだ土が剥き出しの脇道で動きを停めているそれっぽい馬車と、大きな家具をお客さんと一緒に運んでいるベッグさんを発見した。

 邪魔にならないよう、近くに降り立って馬車を眺めてみるが……うーん。

 馬車の後ろに何本か革紐を通し、それで後部の荷車を引っ張っているだけって感じだな。

 素人目から見てもやっつけ感のある雑な作りに、そりゃ後ろの荷物も転がすだろうと苦笑いを浮かべてしまう。

 それぞれの底を鉄板で補強して、ヒッチメンバーでも付けてから牽引すれば安定するのだろうか。


「うおっ!? なんでこんなとこでボスが寝てんだよ!」


 馬車の底を覗き込みながらそんなことを考えていると、どうやら作業が終わったのか。

 ベッグさんが横で怪訝な表情を浮かべながら立っていた。


「いや、ちょっと気になって、馬車の補強案を……それよりもう配達は終わりました?」

「あ、あぁ、終わったけど、どうしたんだ? 店長なら店だぞ?」

「いやいや、今日はベッグさんに用があって、とりあえず行きましょうか」

「え? どこに?」

「馬車置き場です。ちょっとベッグさんに相談したいことがあるんですよ」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 最近は訪れる商人達の情報交換の場にもなっているようで、いつの間にか出店まで並ぶようになった馬車置き場。

 その場所に着いてそうそう、ベッグさんは感嘆の声を上げる。


「す、すげぇな……こんなデカい馬は生まれて初めて見た……」

「でしょう? 大陸でも有数の良馬で、今回縁があって8匹だけ譲り受けたんです」


 もちろん馬は、ガルムの『赤馬』だ。

 ウォズニアク王は好きなだけ持ってけとか、閉店間際の八百屋みたいなことを言っていたけど、家や資源と違って動く生き物だからな。

 収納ではなく転移で運ばないといけないため、どれも3メートル以上はあるこの赤馬だと、ベザートまで運ぶのに8匹が限界だったのである。


「で、俺に用があるってのは?」

「そこなんですけどね。ベッグさん、この馬の管理者になってみません?」

「ん? 管理者?」

「ですです。移民組の中で荷運びの仕事を希望されていた方達は、今ベッグさんの下についているんですよね?」

「ああ、俺と同じように配達の仕事をやってもらっている」

「でしたらベッグさんに、せっかくもらったこの馬を有効活用してほしいんですよ。通常の馬よりも力がありますから、より大きな馬車でも用意して配送用に活用したっていいですし、半日は休まず走り続けるようなので、他国への輸送用に活用したっていい。どう使うかも含めてお任せできればなって」


 コストがカツカツ過ぎて、俺ではこれ以上仲魔を増やすのは難しいし、いずれはうちと他国を繋ぐ鳥の管理者も必要になってくる。

 生き物全般を扱える人間は、これからのベザートに必ず必要になってくるのだ。

 そんな先々の話にも少し触れると、ベッグさんは馬を見つめながら徐に一歩二歩と踏み出し――しかし、すぐに足を止めて振り返る。

 その顔は明らかに恐怖で引き攣っていた。


「い、一応確認するが、コイツらは【調教】レベル2の俺でなんとかなるもんなのか……?」

「今は僕の管理下にあるので安全ですけど、それだけでは難しいですね。半分は魔物なので」

「はぁ!? じゃあ、俺なんかに務まるわけ……っていうか、新しく来た中で魔物に馬車を牽かせていたってやつが一人いる! まずはそいつに声を掛けた方が――」

「知ってますよ。でも僕は、元奴隷組の皆を纏められて、真面目に働いてくれているベッグさんにできればお願いしたいんですよね」

「……」

「ただ、無理は言えません。強引に管理できる状態まで能力を引き上げることになるので、後々心変わりがあったとしても、そこから他の道へはかなり進みづらくなります。なのでもし、ベッグさんにそれほどの覚悟が――」

「んだよ、嬉しいじゃねーか」

「え?」


 それは少なくとも、すべてを説明しきれていないこの段階では想定していない言葉だった。

 エニーやリコさん、それにノアさんとも明らかに状況が違う。

 あの3人は自身の望む未来が鮮明に見えており、俺はその環境を整えるための強引な後押しをしただけだが、ベッグさんの場合はそもそも配送という仕事を望んでやっているかも不明――というより、巡り合わせでたまたまその仕事を手にした可能性の方が高いくらいだろう。

 今後の人生を決定づけるほどの重要な分岐点。

 だからこそ、もっと慎重に判断すると、そう思っていたが……

 俺を見下ろしながら、ベッグさんは不敵な笑みを浮かべていた。


「ボスは、店長のことをなんて呼ぶ?」

「へ? クアドだけど」

「じゃあ、俺は?」

「?」

「俺のことは、なんて呼んでる?」

「え、っと、ベッグ……ん? ベッグ、さん?」


 なぜか混乱し、たどたどしく答えを吐き出す。


「気付いてたか? ボスは俺やアイツらをだいたいは"さん付け"で呼ぶが、たまに呼び捨てになったりもする。その口調だってそうだ。俺らは砕けている時を、ボスの機嫌が良い時って呼んでるけどな」

「……」

「ギニエって町の酒場で、いつか言ってくれただろう。もう俺達のボスで、仲間なんだから固い言葉は使わないって」

「言った……間違いなく……」

「だから、まぁ……仕事のできる店長だけが特別なんだって、正直に言えばそう思ってた。今だって俺がアイツらを纏めちゃいるが、俺より頭の回るやつ、能力の高そうなやつらが次々やってくるんだ。すぐ立場も変わるだろうって」

「ごめん……ごめんね。そんなつもりじゃ……!」


 ヘドロのようにこびり付いた、俺の悪い癖だ。

 無意識に壁を作り、自分を守ろうとしてしまう。

 少しずつ良くはなっているんだろうけど……

 人が怖いという|思い《トラウマ》は、今もまだ心のどこかで燻り続けたまま消えることがない。


「なんでボスが謝んだよ。俺は嬉しいって言ったろ?」

「そうだけど……」

「ちゃんと俺を見てくれていた。おまけにこんなとんでもないチャンスまで寄こしてくれたんだ。なら内容はよく分かっちゃいねーが、全力でやるしかねぇだろう」

「いや、でも、これからの人生を左右するほどの決断になるんだよ? あまり前のめり過ぎると不安になるんだけど、そこら辺ちゃんと理解してる?」


 思わずそう問うも、なぜか「はぁ~」と特大の深い溜息を吐かれてしまった。


「分かってねーのはボスの方だぞ?」

「え?」

「俺らみたいな大した能力もねぇ、どこにだっている凡俗はな。そもそもアレだコレだと仕事を選り好みしている場合じゃねーんだよ。生きるために、まずは自分でもなんとかやれそうな仕事を見つけて、辛かろうがなんだろうが、よっぽどじゃなけりゃーその仕事に噛りつく。家業のある連中でもなければそんなもんだ」

「あっ、それは……」


 かつての俺だ。

 やりたいかどうかではなく、自分にもできそうだと思える仕事を探し、必死にそこで食らいついていた。


「ボスには正直に言っておく。俺は別に馬車を動かすのが好きってわけでもねーし、荷物を運ぶのが好きなわけでもない。動物はまぁ結構――いや、だいぶ好きな方だが、魔物なんて怖いからほんとは近寄りたくもねぇ!」

「なんか、顔と体格に似合わないこと言ってるよね」

「しょうがないだろ……でもな、今だって店長と一緒に俺達も纏めて拾ってくれたことは感謝してるんだ。チャンスをくれるってんならそれこそ死ぬ気で働いて、ボスの役に立ちたいって思ってる。その判断を後々になって悔やむなんてありえねーよ」

「そっか……」


 やっぱりベッグさんは、あの3人と違う。

 けど、それでもいいじゃないか。

 誰も彼もが才能を得ているわけではないし、都合よく自分の望む仕事を手にしているわけでも、見つけられているわけでもない。

 それでも今を必死に生き、チャンスを掴もうとしているんだ。

 俺はベッグさんを信頼し、ベッグさんはその期待に応えようとしてくれている。

 それだけで十分だろう。


「それじゃあ、ベッグさんにお願いするよ。数はお願いすれば増やすこともできるから、この馬達を皆の生活に役立ててあげてね」

「おう! 結局"さん付け"のままだけど、見てくれてるって分かったんならもうなんだっていいか!」

「あ、あはは……その顔だとどうしてもね……直せるなら直すからもう許して!」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 こうして数時間後には、スキルポイントにある程度の余力を残しつつ、【獣語理解】と【調教】をレベル5まで。

 解放された【魔物使役】は一気にレベル8まで引き上げた<|魔物使い《テイマー》>のエキスパートがベザートの町に誕生した。

 ロキから管理を引き継ぎ、本格的に配送事業をスタートさせたベッグは、元奴隷組や新しく配送の仕事に加わった移民組と一緒に、仕事の幅を少しずつ広げていくのだが……

 元より自分の力量を弁えているからこそ、ベッグはより多くの意見を求めて町民に『馬で何かやってほしいことはないか?』と聞いて回った。

 その結果、とある女性の要望からまったく想定していなかったことまでやり始めていると、丸投げしたロキが気付くのはもう少し先の話になる。
522話 スチア連邦のその後

 魔物使いベッグが爆誕した後。

 馬車置き場の横にある小屋で溜まった手紙を確認していると、俺が渡したお土産の茶を啜りながら、ダンゲ町長が声を掛けてくる。


「一つの手紙にそこまで時間を掛けるとは珍しいのぉ……」

「そりゃそうですよ。最重要とも言える隣国からの、その後を記した手紙です。場合によってはそのまま異世界人同士の戦争に発展するかもしれないんですから」

「ふーむ、前回は一月くらい前じゃったか」

「ですね。あの報告があったんでそれなりに安心はしていたんですが……」


 ハンスさんからの手紙はこれで2度目。

 一度目は学院通いをし始めた頃に届いており、俺の調査から予想されていたことは概ね事実で、持ち回りで首領になっている兎人族を筆頭に、猪、リザード、それに虎の代表4種族がマリーの傘下に下ったと渋々ながら認めたこと。

 また唐突の訪問であるにも拘わらず、総じてマリーからの支援を受けているだけで、ハンスさんが治めるエリオン共和国に対して攻撃の意志はなく、また支援を受けている事実をとやかく言われる筋合いもないと。

 そう告げたようで、ハンスさんとしても上げそうになった拳をひとまず引っ込めることになったと、このような一報が届けられていた。

 そして今回はというと、さらに時間を掛けて各方面を調査した詳しい内容が記されており――、なるほど。

 マリーの手口や狙いも、この報告内容に目を通すと薄っすらとではあるが見えてくる。


 きっかけはガルム同様、マリーの投降を促す勧告から。

 アルバートに下ったとしても一方的に不利益を被るということはなく、むしろ生活が豊かになるという常套句であろう言葉と共に、まずマリーは大量の魔道具を無償でばら撒いたという。

 ハンスさん曰く、魔道具はどこにでもある使い古されたようなモノばかりだったようだが、大半は森の奥地で未だ物々交換が当たり前の原始的な生活をしている連中だ。

 その程度でも大きく生活が向上したことは間違いなく、マリーに求められたノルマを満たせば、さらに性能の良い魔道具を分け与えてもらえる。

 加えて魔物塚を筆頭に、獣人達ではあまり活用できない魔物素材を食料や日用品への加工が容易な素材に交換していることから、傘下に下ったことを認めた4種族は、どこもこの支援を好意的に受け止めていたという。

 真っ直ぐに提案しただけなら牙を剥く連中を、魔道具や食料というアメで懐柔させただけ。

 その程度なら双方が認め合った関係性なので、さほど否定する話でもないと思うが……問題はここからで。

 なぜこの条件でも下っていない種族が半分以上おり、また下った4種族もその事実を納得しながら伏せていたのか。

 ハンスさんも当然疑問に思ったらしく、踏み込んで聞き取りをした結果見えてきたのが貢献と選別、そして切り捨てだったらしい。


 スチア連邦には今後も変わらずに自治権を与え、最も貢献した種族長に持ち回りではなく、継続的な首領を任せたい。

 その場合、今ある代表種族は12も不要で、半分か、多くても8あればいい。


 マリーが各種族長へこのように伝えたことで、族長や長老という立場の者達に大きな衝撃が走り、未だかつてないほど種族同士の関係性がギクシャクしているという。

 誰もがスチアの代表種族は自分達であると疑わず。

 だからこそ揉め事が起きないよう、首領は持ち回りとして種族間の均衡を保っていたというのに、その関係性が崩れ――というより敢えて崩す流れを生み出し、付け入る隙間をマリーが作ったのだろう。

 それこそ今は、どの種族が代表に選ばれるのか、選考中の段階。


「自分達が首領になってから公表するつもりだった」


 そんなことを、後々の立場も考えて我先にと下った4種族は口走っていたというのだから、これが餌に釣られて真っ先に転がされた阿呆の代表種族ということなのかもしれない。


 そして慎重になっている種族はというと、魔道具や食料の供給は有難がっているようだけど、貢献と呼ばれるその内容が気に食わないらしい。

 まぁ、そう思って当然というか、そう思わない先の4種族が問題だと思うが……


「ここでも人集めねぇ……」


 マリーの言う『貢献』の内容は不透明だ。

 ハンスさんの手紙にはそう記されており、周辺狩場の環境が異なるせいもあってか、各種族に対して言っていることが共通していないらしい。

 邪推すれば――、というよりマリーならきっと、見えないゴールの中でより種族間を競わせ、自分達が従属の立場であることを刷り込もうとでもしているんだと思うけど……

 ただ各種族に共通して明かされていることもあり、それが『人の手配』だったという。

 各代表種族には下につく種族もいると羊獣人のドズルさんも言っていたのだから、ノルマに合わせ、下部の種族から人を売り払うように引き渡す判断をしたのが先の4種族であり、慎重になっているのが残りの8種族。

 しかし縄張りとも言える一定の土地を管理、守護する12の代表種族を減らすというのが慎重派にも重く圧し掛かっているようで、顔色から折れてマリーに下る種族は今後も増えるだろうとハンスさんは手紙に記していた。

 そして――。


「何もしないハンスさんと、人間至上主義の国を守り、多くの獣人を斬り捨てながら東へ侵攻している俺か……」


 マリーがこのように触れ回っているため、特に俺がスチア方面で身分を明かす際は気をつけろと、そのような忠告も残されていた。

 説得の材料に、さぞ俺は都合が良いのだろう。

 今のラグリースには獣人だって普通に出入りしているが、森の中から出てこない連中がそんな事実を知るわけがない。

 俺を仮想敵と見做して危機感を煽り、いずれスチアという土地が高い確率で戦場になるのだから、今のうちに付くべき相手を見定めろというマリーの言い分は、確かに口車に乗ってしまうことで現実に近づくのかもしれないけど……


「随分な言われようじゃな」

「ほんとですよ……でも否定する者がいなければ、戯言だろうと真実になってしまう。まったく接点がなかろうと、想像力だけで敵意はいくらでも育ちますしね」

「……言葉に、妙な重みがあるの」

「たくさん、経験しましたから」


 土地を求めているであろうことは当然として、狙いは代表種族の懐柔、戦力の確保、それとも敵に回った時を想定しての分断か。

 全てとも言えそうだし、ここには記されていないが、かつて沼地を徘徊していた者達の行動を考えれば、まだ他にも狙いがあるのかもしれない。

 この手紙ではその程度のことしか分からないけど、しかし間違いなく言えるのは、マリーが都合良くアメだけをバラ撒くなんて、そんな善人染みたことをするわけがないということだ。

 となると、やはり――。

 国が豊かになったという話だけ聞いていたテリア公国は、果たしてマリーに何を要求されているのか。

 俺は大きな不安を抱えながら、その地へと向かった。
523話 3つの手紙

 反乱軍による王都攻めが失敗してから2日。 

 時刻は既に夕方だが、テリア公国の西端とも言える中規模の交易都市『ウバル』に俺は到着していた。

 町の中は武装した兵士が目立ち、身なりやスキル構成から明らかに傭兵と思われる連中の姿も多く見かける。

 このような光景、他所の町ではまず見られないのだから、ガルムに攻め入る準備はできているという、ダムラット辺境伯の言葉が偽りでないことはすぐに分かったわけだが……

 情報が錯綜しているのか。

 明らかに町の中は混乱しており、先ほどから店で食事休憩する俺の前を、幾人もの兵士達が焦った様子で駆けてゆく。


「今度はルベンの見張り塔からだ! 国境のガルム兵がさらに増加して数は約500! もう明らかに見張りの数じゃない!」

「どうなってるんだ!? 連中は自分達の王都を攻めたんじゃなかったのかよ!?」

「知るか! まさかあいつら、ここにきて負けちまったんじゃないのか?」

「攻め込んでまだ2日だぞ? 仮に負けたんなら生きてここにいる方がおかしいだろ」

「じゃあ勝った……ん? いやいや、勝ったんなら余計に意味が分からねーし。あっ、もしかして、初めから攻めたように見せかけておいて、実は攻めていないんじゃ……?」

「……あの騎士道とやらに煩い聖王騎士が、民や土地を捨てて隣国に逃げるなど考えにくいか。俺は至急本部に知らせてくるから、誰か第四と第五部隊の様子を見てきてくれ!」

「……」


 今のガルムに攻めの考えなどない。

 反乱軍が長く抱えていた、裏の事情を漏らせば始まるというテリアとパルモの侵攻に少しでも備えようとしているだけだろう。

 しかし、相対する相手からの見え方は違う。

 攻められる理由に心当たりがあるのならば、尚更に。


(ウォズニアク王は早急に手紙を送りつけるって言っていたけど、まだ届いていないのかな……)


 このままでは、お互いが疑心暗鬼の中で戦争に発展し兼ねない。

 本来ならば、俺が気にする場面ではないのだろうけど……

 食事の手を止め、暫し考えを巡らせていたところで街中に警笛が鳴り、明らかに【拡声】だと分かる野太い声が響き渡る。


「ゼクオン将軍閣下からの緊急招集命令である! ウバル配属のテリア兵及び雇用された傭兵は、前線部隊を残して至急バグラム聖堂前に集合されよ! 繰り返す、ゼクオン将軍閣下からの緊急招集――……」


 この声に強く反応し、表情を強張らせながら、一斉に同じ方面へ向かっていく兵士達。

 なるほど、この町には将軍もいるわけか。

 階級制度は国によって違うのだから、はっきりとしたことは分からない。

 でもこれがダムラット辺境伯を脅した時に居合わせた、テリア国軍のトップであるならば――。


「あんた、緊急招集だぞ。話を聞いてなかったのか?」

「え?」


 それは唐突な声掛けだった。

 振り返るとそこには、先ほどまで少し離れた席で飯を食っていたはずの、革鎧を身に纏う男が立っていた。


「見ない顔だが、その身なりはあんたも傭兵だろう? 契約中は一時的に軍の指揮下に入ってんだから、こんな時間でも一応顔は出しておかないと後でドヤされるぞ?」

「そうですね……なら一応行っておきますか」


 行けば、テリア公国が今後どのように動くつもりなのか分かるかもしれない。

 俺はどこか見覚えのある町の様子に目を向けながら、兵や傭兵達に紛れて移動を開始した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 現在は駐屯する軍の臨時本部にもなっている、バグラム聖堂内の一室にて。

 目の前に突きつけられた理解し難い現状に、頭を抱えて呻く数名の男達がいた。


「ぐっ……どうなっておるのだ……勇者タクヤが名ばかりの後ろ盾になるという話だったはずなのに、なぜ……!」

「ゼクオン将軍閣下、ひとまずは落ち着いてくだされ」

「落ち着いてなどいられるものか! 気付けば我らが窮地に立たされているのだぞ!?」

「そ、それはその通りなのですが、早急に兵と傭兵を統制せねば、さらなる混乱を招くことになりますぞ……?」


 この数時間で、各所の見張りからガルムの兵が国境付近に集まってきていると。

 そのような報告が立て続けに入ってきていることも、もちろん悩みの種ではある。

 が、それ以上に悩ませる――というより絶望の淵に追いやられている原因は、目の前の机に広げられた3通の手紙だ。


 1つめはガルム聖王騎士国から。

 2年も続いた国内の争いは、二人の異世界人による助力のおかげで無事に片付き、この件では隣国として多大な迷惑を掛けてしまったこと。

 また旗手となるダムラット辺境伯を含む多くの者達から、マリーと共にゼクオン将軍が貴族会合の場に現れ、ガルムへの侵攻を仄めかし、あまつさえ口を割れば東部から蹂躙するなどと恫喝された話が出ていると。

 強い言葉で真偽を問う書簡がテリア公国の大公宛てに届けられていた。


 次いで2つめはマリーから。

 ガルム転覆の策が二人の異世界人によって阻まれたこと。

 そのため、すぐにアルバート王国の属国に下ったことを各国へ公表せよという指示と共に、可能な限り兵の損耗を回避しろという……ある意味無責任とも取れる言葉が最後に添えられ、こちらも大公宛てに届けられていた。


 そして最後の3つめは、テリア公国の大公であるウルアキム・テリアからだ。

 この2つの手紙が突然自身の手元に届いたことで、心を大きく乱したのだろう。

 幼子のような震える文字で、『なんとかしてくれ』と、届けられた2通の手紙と共に、ただそれだけが記されていた。


「まず、この件が事実かどうかということですが」

「事実、でしょうなぁ……」

「ガルム聖王騎士国だけならまだしも、マリー様――」

「あぁ!?」

「し、失礼いたしました! あのクソババアまで2名の異世界人に阻まれたと記しているのです。となると、これはもう揺るがない事実として受け止めるしかないかと」

「ですな……第一から第五まで、前線部隊全てに対して兵を当てようとしているのです。この手紙では真偽を問う段階のようですが、後ろ盾を得たとなれば、報復もかねて攻め入ってくる可能性だってゼロではないでしょう」

「ふぅ――……パルモ側も同様と見るべきか」

「まさか、うちだけということもありますまい。同じ梯子を外された者同士、共闘できれば幾分は楽になるやもしれませぬが……」


 その言葉に居合わせた者達は、恐ろしい速度と練度で戦場を駆け巡る聖王騎士の姿を思い浮かべる。

 数次第ではあるが、まともに相手をするには、少々荷が重い――。

 だというのに、パルモ軍と都合良く合流できるかも怪しく、仮にできたところで策も何もないのだから、後に続く言葉もないまま沈黙が広がる。

 それにだ。

 敵はガルムの兵や聖王騎士だけではない。


「ここに最悪は、乗り込んでくるかもしれないわけですか……獣人の王と、第五の異世界人が」

「「「……」」」


 まさに、絶望だった。

 そうなればもう、勝てる見込みは皆無に等しい。

 マリーもそのことを理解しているのか、届いた手紙にも守りに入った様子が露骨に表れていた。


「このような状況だというのに、我が国への戦力提供は無し。従属の立場であることをすぐさま公表しろというのが、せめてもの対抗策なのだろうが……」

「強欲という名の通りですな。テリアに残されたのは土地と人くらい。抜け殻となった我が国に割く戦力などないということでしょう」

「ふふ、ふふふっ……我が国の強みを根こそぎ奪い、訳のわからぬ策に無理やり巻き込んだ挙句、失敗したとなればあっさり切り捨てて、最後はアルバートの盾にでもしようというのか……? ふふふっ、怒りでどうにかなってしまいそうだ……」

「ゼクオン将軍閣下……」

「このまま強欲クソタレババアの指示に従うのも口惜しい。それこそ死を覚悟の上でガルムに乗り込み、我が国の置かれている状況を説明――」

「冗談は止めてくださいよ」

「「「え?」」」


 それは突然だった。

 ゼクオン将軍の背後に立ち、その首を絞めるように手を回していたのは、冷たい目をした一人の少年。

 気付けばそこにおり、首に手を回された本人は、未だ何が起きているのか理解もできていない。


「そんなことをすれば戦争になり兼ねないでしょう? 自暴自棄になるのは勝手ですが、周囲を巻き込むくらいなら今この場で僕が殺しますよ?」

「「「……」」」


 相手は将軍、テリア国軍の頂点だ。

 当然弱いわけがなく、『槍仙』の他、『風華』の二つ名も有する、軍人の中でも稀有な存在であったが……

 異様な身形のその少年は特に気にした様子もなく、それこそただの子供を扱うように、自国の将軍を手に掛けようとしていた。

 瞬間、取り巻きの高官達は思う。

 きっと、自分達は動向を見張られていたのだ。

 戦争を止めようとする動きから、戦力維持を命じたマリー側が仕向けた暗殺者なのだろうが……

 クソババアって言ったのは、自分じゃないと。
524話 懐柔

「本当にあなたが、第五の異世界人ロキ、王……?」

「だから、本当ですって」


 なんでこんなに疑り深いんだ?

 身形から高官と思われる連中は、なぜか俺をマリー側の人間だと思ったようだが……

 まぁそんなことはどうでもいいか。

 用があるのは目の前で項垂れたまま動かないこの男。


「一通り話は聞きましたよ、ゼクオン将軍」


 そう告げると、男は全てを諦めたような虚ろな瞳をこちらに向けた。


「なぜ、殺さない……何が、目的だ」

「テリア側の動向と、今後の安全が確保されそうなのかどうか。その確認ついでに、目立つ悪党がいれば潰してやろうくらいに思っていましたけど……」


 言いながら一度周囲を見回すと、後ろめたさからなのか。

 分かりやすく動揺したのち、全員がサッと目を逸らした。


「特にあなた、マリーのことを相当恨んでますよね?」


 このような切迫した状況で語られていたのだ。

 マリーをクソババアと罵るところも含め、あれが正しく将軍の本音なのだろう。


「当然だ……巻き込むだけ巻き込んでおいて、いざ状況が変わればこうしてあっさり切り捨てるのだぞ!?」


 怒りに任せて叩いた木製の机は割れ、載っていた手紙がヒラヒラと舞う。

 俺の足元にはマリーらしい、冷酷で冷徹な手紙が広がっていた。


「この対応の速さはさすがですねぇ。まぁマリーからしても、できれば予備戦力としてあなた達を残しておきたいという程度で、僕やハンスさんを完全に食い止められるとは思っていないでしょうけど」

「「「……」」」

「でも勘違いしないでください。先ほども言ったように、僕はあなた達の殲滅を前提にここまで来たわけじゃありませんから」

「ど、どういう……」

「見捨てられてしまった残念な皆さんに相談がありまして、どうせならマリーにギャフンと言わせたくありませんか?」


 俺がこの場で姿を晒した理由だ。

 目の前の連中を仲間にしようなどとは思わないけど、これほど恨む気持ちが強いのならば利用はできる。

 それにあくまで今のところはだが、テリアの連中は俺が手を下すべき『悪党』という印象まで持てていない。

 確かに将軍はマリーと共にガルムの貴族達を脅したのだろうけど、そんなのはマリーが主導しているだけだと容易に想像ができるし、テリアは命令に応じていつでも攻められるよう、自国内で戦力を西に寄せていただけ。

 ガルムに踏み込み、無関係な人達を蹂躙したわけでもないし、会話の中で、テリアの強みは根こそぎ奪われたとも言っていた。

 となると、テリアの連中も辺境伯と同様、マリーに従う以外の選択肢がなかった可能性もある。


「ど、どういうことだ……? 貴様も我らを利用するつもりか!?」

「ん~利用と言えば利用になりますけど、無茶なことを要求するつもりはありませんよ。手紙の通り、マリーからは兵を無駄に損耗するな――、つまり、今は極力争い事に巻き込まれないよう大人しくしていろと、そういう指示が下りているわけですよね?」

「……」

「なら実際にそうしておいてほしいんですよ、僕としてもね」

「それだけ、なのか……?」

「当面はそうですね。ガルム側は自国の防衛に回ろうとしているだけで、他所へ攻め入るつもりなんてまったくありません。あなた方が大人しくしているだけで、とりあえずこの方面の争いは落ち着くんですよ」

「……」

「そしてこの手紙の通り、マリーはあなた方の戦力も当てにしている――、どこかで必ず、あなた達の戦力を活用しようとするはずなんです。そのための属国化でもあるんでしょうから」

「で、あろうな……」

「だからそんな指示が下りた時、真っ先に僕に知らせてほしいんです。あなたの立場なら簡単でしょう?」


 そう伝えると、ゼクオン将軍の眉がピクリと跳ねる。


「……先手を打つと、そういうことか?」

「そういうことです。別にあなた方の戦力を浪費するつもりも、当てにするつもりもない。現状アルバート王国の支配領域はこのテリアが北西端なわけですから、ここを起点にした軍事侵攻の動きを事前に把握できるだけでもだいぶ邪魔がしやすくなる。仮に別の地へ派兵の要請となっても、それはそれで狙いが絞りやすくなりますしね」

「なるほど……我らは、あの強欲鬼クソババアの指示に従ったフリをしつつ、いざという局面で情報を流すだけでいいのか」

「ええ。僕がマリーと対立しているのは今回の通りですから、あなた方を裏切るようなことはありませんし、普段の生活に干渉するつもりもありません。その時だけ、ほんの少し動く程度でマリーの立てた計画が悉く潰れていくとしたら――どうです? だいぶスッキリしませんか?」


 実際はそう都合良くもいかないだろう。

 マリーが単独で動く策謀に対しては効果がないし、まったくの別方面でテリアの兵に関係なく動かれれば把握はできない。

 それでも、相当な鬱憤が溜まっていたんだろうな。

 将軍だけでなく、周囲の高官もみるみると瞳に光が戻っていくのを感じる。

 そう思った矢先、突然真顔になった将軍は、慌てたように膝を突いた。


「度重なる無礼、大変失礼いたしました。あまりの事態に我を失っておりましたが……テリアに攻勢を加えるでもなく、我らに平和の道を示していただいたこと。そしてマリーに雪辱を果たす機会を設けていただいたこと、感謝の言葉もございません」

「あーいえ、そんな畏まらなくても、先ほどのままでいいですからね。僕もあなた方と同じ、マリー憎しで動いているだけですから」

「さ、さすがにそれはあまりにも……」

「それよりゼクオン将軍、あなたはガルム東部の貴族会合に、マリーと共に参加した。これは間違いないんですよね?」

「え? ええ、それは間違いありません」

「その時、パルモ砂国の軍部を纏める人間も一緒にいたと聞いていますが、事実ですか?」

「間違いありません。パルモ砂国のヘロイト将軍も共に参加しておりました」

「なるほど。では僕が連れていきますから、その人を紹介してくれませんか? できればテリアと同じようにしておきたいんですよ」


 テリア公国だけでは正直弱い。

 西側はガルム聖王騎士国としか隣接しておらず、できればフレイビルやオルトランと隣接しているパルモ砂国も押さえておきたかったわけだが――。


「あちらは残念ながら、この策を通すのは少々難しいかと」

「え?」


 将軍から返ってきたのは、俺の予想していない言葉だった。
525話 物欲センサー

「それじゃこの子をお任せしますので、ちゃんと皆さんで大事に飼ってくださいよ。アースガルドの場所は先ほどお伝えした通りですから」

「ニャー」

「し、承知しました。鳥使いは可能な限り早めに向かわせますので」


 上手く見通しの立った部分と、立たない部分と。

 なんでも都合良くいくわけがないし、こんなものだろうと思いながらテリア西端の交易都市『ウバル』を後にする。

 結局パルモ砂国の方は、よくよく将軍達の話を聞く中で確かにと思う部分もあり、軍のトップを情報源とする作戦は一旦様子見というか、とりあえず今は止めておこうという結論に至った。

 理由は状況の違いだ。

 テリア公国にもアルバートからの支援はある。

 しかし強みであった主要産業がマリーに奪われ、今となっては家畜さながら餌を与えられ、人という資源を生み出し供給する国でしかないと。

 自嘲気味に将軍は話し、俺は俺でパルモ砂国の事情を把握しているからこそ、安易にその言葉を否定することもできなかった。

 広大なヘルデザートを抱えるパルモ砂国は今現在も魔道具であり、武具であり、掘り起こすことで古代の資源を生み出し続けている。

 現代では手に入れることが不可能なほどの一品はそう滅多に出ないだろうけど、並みの武具であろうと戦争が頻発している西へ流せば金に。

 魔道具だってたぶん、相当な数が掘り起こされているからスチア連邦にばら撒き、別の足掛かりとして利用しているのだろう。

 直接言葉にはしなかったが、国としての重要度――利用価値で言えば、パルモ砂国の方が圧倒的に上。

 支援は間違いなくパルモの方が手厚く、テリアのようにマリーを恨んでいない可能性があると言われてしまうと、こちらも慎重にならざるを得なかった。

 下手に接触することで情報が洩れ、せっかく懐柔できたテリア軍部との関係までマリーに破壊される可能性があるわけだしね。

 まぁそれでも、クソババア連呼の罵倒大会をしてくれたお陰で方向性が定まり、そのまま1ヵ所はアンテナ役として成功したのだ。

 先ほど、町中で拾ってきた野良の子猫を1匹託してきたので、何かあれば【魔物使役】で管理されたテリア用の猫が俺の視界を青く光らせ、緊急の用件があった場合は知らせてくれるだろう。

 なぜ魔物使役にGランクの枠として、普通の動物までコスト『1』で組み込めるのか。

 あの厳ついおっさん達が育てるのかと思うとちょっと笑えてくるけど、ようやくその意味と有用性を理解できた気がする。


 そして、その日の夜。

 パルモ側の状況が気になり、ガルムの南東部に広がるとパルモとの国境付近を上空から偵察したり。

 テリアとは違って守備用の戦力が送られている可能性もあるというから、パルモ砂国の王都『シュノイ』の傭兵数を少し確認してみたりして。

 他にもアルバート側から軍が入ってきているか、国境付近にいくつも存在する町の様子など、気が付けば転移を繰り返して移動していたため、いつも以上に意識から抜け落ちていたんだと思う。


「あ」


 なんとなしに入った、その日の1回目。

 気付けば俺は、絵画の飾られた赤い壁が目立つ、ロビーのような部屋の中心に立っていた。

 まったく身に覚えのない場所。

 一瞬、状況が呑み込めずに固まるも、次第に何が起きたのかを理解し、同時に身体の底がグツグツと煮え滾ったように熱くなる。


「は、ははっ……やっと……やっとか……!」


 都合、288回目。

 意識から完全に抜け落ちた時に限ってくるとは……

 どうやらこの世界にも、物欲センサーなるものはあるらしい。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「マリー様、よろしいですか?」

「ったく、何度も何度も……今度はなんだい!」


 扉越しに聞こえる、明らかに不機嫌と分かる声。

 若執事シェムは、最近このような状況が増えてきていることに言い知れぬ不安と、強い胃の痛みを感じつつも言葉を返す。


「国からです。例の副学長がその後の状況を報告してきたようで……」

「ああ? 今更アレが?」

「はい。ただ内容からすると、今回は良いご報告になるかと」


 そう、今回は朗報なのだ。

 きっとこれで、マリー様の機嫌も良くなるはず。

 そう思いながら通された部屋で書類を渡すと、露骨に苛立っていたマリーの表情は、見慣れた狡猾な笑みへとみるみる変化していった。


「へえ、あの小僧……これ以上の被害を避けるために自ら手を引いたのか」

「そのようですね。このまま学院に通えばまた大きな被害が生まれるかもしれないと、退学を願い出たようです」

「ふふふ、こいつは傑作だ。とんだお人好し……本当に物語の勇者様でも目指してんのか、この阿呆は」


 周囲を巻き込み、その犯人に仕立て上げることで救った者達から忌み嫌われ、ガルムを含めた大陸からの居場所を無くしてやる。

 下らない正義感を振りかざすようなやつにはそれが一番効くだろうと、そう分かっていたにも拘らず、一度は助力を断ったはずのハンスまで介入してきたことで全てが水の泡に。

 結果、噂の種は各所に仕込んだものの、被害がそこまで拡大しなかったのだから大した影響は見込めず、時間と金を掛け、もう少しで得られる予定だったガルムの全てを取りこぼすはめになったマリーは、一人損を被ったことで酷く荒れていたわけだが……

 自身の被害が拡大したからではなく、これ以上他人の被害を拡大させないために目的を捨てて去るなどという、マリーからすれば微塵にも理解できない思考をしてくれたお陰で、情報を与えないという当初の狙いが形となったことに驚きを隠せないでいた。


「しかし、このような判断をしたということは、マリー様が狙いをガルムから異世界人ロキに切り替えたことにも気付いたということですよね? 向こうからすれば目的を阻まれたわけですし、今後の動きが少々心配ではありますが……」

「ふん、目的を阻まれたなんてお互い様さ。こっちにちょっかいかけてきてんだから、疎ましく思われている自覚くらいはあるだろうよ。それにあのハンスが今回動いたのだって、警戒を強めたあの男なりの意思表示と当てつけだろう」

「まさかこれほど早い段階で、一部とは言え動きを悟られるとは思いもしませんでしたからね」


 一部の代表種族から、ハンスに乗り込まれて危うく殺されかけたと、ある種クレームに近い報告が入っていた。

 そのせいで中断せざるを得なくなった計画もあり、スチアが上手くいっていないこともマリーの機嫌を大きく損ねる要因になっていたわけだが、これで少しは機嫌も持ち直しただろうと。

 若執事シェムはホッと胸を撫でおろしながらマリーに視線を送ると、そのマリーは先ほどと違い、訝し気な視線で手紙の後半に目を向けていた。


「何か、問題でもありましたか?」

「いや……」


 そう否定はするも、やはり表情は変わらず、視線も手紙を見つめたまま。

 緩く自らの顎を摩り、何か綻びを見つけて思考に耽っているようにも思える。


「マリー様……?」

「なぜニトイは、今更私に連絡を寄こしてきた」

「え?」

「親マリー派と呼ばせた反乱軍は敗れ、目的を変えたことで学院諸共ニトイを切り捨てようとしたのだから、今更報告する義理はないはずだが」


 対して若執事シェムは、特に悩むことなく答えを返す。


「マリー様に見切りをつけられたことなど、まだ知らないのでは? そのためにも噂を流し、異世界人ロキを首謀者に仕立て上げようとしたわけですから」

「確かに、それはそうだが……」


 言いながらもゴソゴソと、マリーは引き出しから数枚の羊皮紙を取り出し、机に並べる。


「筆跡は全て同じか。シェム、潜らせている他からの連絡は?」

「いえ。ガルム王家が各国に通達したとみられる知らせが届いたばかりですから、まだ広く情報は回っていないと思いますし、これ見よがしに記されたあの言葉が事実なのかもしれません」

「……」


 二人の視線は、改めてガルム王家から届いた手紙に向く。

 アルバート王国宛てに届いた手紙には、ハンスとロキという二人の異世界人から大きな助力を得て、内部に紛れた虫は一掃し、内紛は解決に至ったこと。

 そのため学院は安全であることをアピールするような内容が書かれていた。

 正面から刺激することを避けてか、マリーの行ないを糾弾するような事柄は書かれていない。


「内部ねぇ……おまえに任せた『保険』はどうなっている?」

「学院の管理を任されている役人から一人、ニトイと異世界人ロキの動向を報告させる目的で用意していたのですが、連絡が……」

「チッ、だからおまえは顔と体だけって言われるんだ。普通は警戒心が薄まる女生徒にでもやらせるべきだろうが!」

「えぇっ!? 頭が回る連中の方がいいかと思って……お、お許しを……!」

「はぁ……ってことは、ニトイだけ網から逃れた可能性もあるわけか」

「い、今まで学院に潜らせるようなことはありませんでしたし、アルバートに属する生徒や教師も巻き込んだことで、ガルムや異世界人ロキの警戒網から外れているのかと!」

「ふん、なら仕方がない。ガルムだってしばらくは様子を見るというだけで、いずれは必ず手に入れるんだ。利用できるうちはコイツから情報を抜いておきな」

「承知しました!」









 いつかは発覚することだろう。

 しかしまだ、副学長ニトイが情報操作だけを目的に生かされていることは知られていない。

 椅子に拘った男が、自らの延命のためにどこまで踊れるのか。

 そんな男の姿を、肉を削ぐための鉈を握った数名の男達が、陰から静かに見つめていた。
526話 楽しい狩りの時間

 不思議な空間だ。

 順当にいけばここは古城の中だと思うけど、天井は見上げるほど高く、窓がないため外の景観は拝めない。

 代わりにあるのは、壁際に並んだ3つの階段。

 両脇の2つは上階、中央の1つは下階へと繋がっているようで、他に通路や扉はなく、見渡す範囲で魔物の姿も見られなかった。

 上か、下か。

 全部回ることは確定なのだから、どちらでもいいが。


「ん~やっぱり強いのは、上かな?」


 なんとなく、そんな判断からまずは長い階段を下りてみると、下のフロアは想像していた光景とまったく違う、石と岩だらけの地下空洞が広がっていた。

 明かりは乏しく空気はジメジメとしており、床や壁などの多くは石造りであるものの、所々が崩落したように道を塞いでいる。


 ゴンッ!


 だがこれも、草原エリアや城下町エリアと同じだ。

 蹴とばしても岩を動かすことすらできないのだから、フェルザ様が意図してこのような作りにしたということ。

 ならば気にしてもしょうがない。

 ワクワクしながら先に進んでいくと、ようやくここに来て初めての魔物が目の前に現れてくれた。


「おっ、ランクは予想通りだけど……ここでも出るのか」


 影からいきなり現れたのは、ジュロイの 《嘆きの聖堂》奥地にいたデスナイト。

 斬りながら他の反応にも目を向けると、上空の岩陰からは火岩洞でよく見かけたファイアーバットに、今までパルメラ大森林でしか見かけなかったガーゴイルまで、そこに巣でもあるかのようにわらわらと飛び出してくる。

 そして――、広い通路の隅で隠れるように生えていたのは、沼地に見られる|マイコニド《キノコ》の上位種、マタンゴかな?

 付着した鉱物と共に、焦げ茶色の大きなカサがユラユラと揺れており、鼻の奥がムズムズするこの感じは【胞子】をバラまいている最中といったところか。

 これでBランク帯の魔物だけが4種。

《夢幻の穴》は、今までランク毎に5種ずついたのだから、この流れならたぶんもう1種もどこかにいるはずだが。

 そう思って迷路のような薄暗い空間をフラフラしていると、視界の先に赤い瞳が二つ、こちらを見つめていることに気づく。

 その上には特徴的な長い耳。

 一見すればホーンラビットだが、その黒みがかった体表は魔物図鑑通りなら、上位種であるアルミラージのはずだ。

 ふむふむ。

 鬱陶しく近づいてくる魔物を蹴るかチョップで捌きながら、覗いたスキル構成を次々にメモしていく。


 ・城内部(下層/地下)

 ガーゴイル:【飛行】Lv3 【絶鳴】Lv5 【爪術】Lv4
 ファイアーバット:【火魔法】Lv4 【飛行】Lv4 【火属性耐性】Lv5
 マタンゴ:【胞子】Lv4 【麻痺耐性】Lv3 【毒耐性】Lv2 【睡眠耐性】Lv3
 アルミラージ:【睡眼】Lv3 【突進】Lv5 【空脚】Lv3
 デスナイト:【甦生】Lv5 【剣術】Lv5 【影渡り】Lv2


 城の地下と名付けたこのエリアはBランク魔物だけしかおらず、その中で新種魔物は2種。

 新規スキルがなかったのは残念だけど、マタンゴの【胞子】や耐性系と、それに入手手段がかなり限られていた【睡眼】持ちを新たにここで発見できたのだから、まずまずの結果と言えるかな。

 しかし――。

《夢幻の穴》は今まで素材流用価値の高い魔物が続いていただけに、この『城の地下』はちょっと意外な魔物構成だ。

 この薄暗い環境もそうだし、全体的にちょっといやらしい魔物が多く、ひとつ前の荒廃した城下町に比べれば、同じBランク帯でも難易度が高いように感じてしまう。

 加えてこうも生息域がはっきりと分かれてしまっているのだから、極小確率を潜り抜けて辿り着いたこの古城内部で、わざわざ地下のBランク狩場に行く人なんてそうそういなかっただろうし……


「これが典型的な、不人気狩場ってやつね」


 そんなことを一人呟きながら、再び上階へ。

 ロビーと呼べそうな先ほどの入り口から長い階段を上ると、今度は広大な部屋と魔物が俺を迎えてくれる。

 先ほどの地下とは違って5種全てが視界に入り、既知の魔物からすぐにここがAランク帯だということは分かったが。


「あっはぁ……」


 次々とスキルを覗く中で、1種の魔物に目が留まる。

 身に覚えのない魔物、身に覚えのないスキル。

 その名前からおおよその効果は想像できるが、それでも早く、試したい。

 逸る気持ちを抑えきれず、襲い来る魔物の死体回収も後回しにしてツカツカとその対象へ近寄っていく。

 さて、どうなるか。

 まずはコイツでいってみるか。


『指電』


 パンッ!

 指先から放たれる、線のような細い雷光。

 それは見据えた金色の羊へと、一直線に向かっていく。

 が。


「へえ……」


 パリパリと、音を鳴らし。

 俺の放った雷を吸収――、というよりは纏ったまま、何事もなかったように平然としている金色羊。

 とてもダメージを負っているようには見えず、そのままお返しとばかりに頭上から黒い魔力の渦が生まれ、今度は俺に向かって【雷魔法】が放たれる。

 敵はAランクの魔物だ。

 いくら耐性があろうと、一瞬、眠気が飛ぶような刺激が走るも、今はそんなことなどどうでもよくて。


「……なるほど、俺の雷を利用したわけじゃないのか」


 金色羊は、変わらずバチバチと音を鳴らして雷を纏ったまま。

 先ほども自前の魔力を使って【雷魔法】を撃ってきたのだから、受けた力をそのまま放出する能力はなさそうであることを理解する。

 となると、これはどうかな。


『撃ち抜け、雷槍』


 次は先ほどよりもそれなりに強めだ。

 放った魔法は、金色羊の身体を飲み込むように突き抜けていき――。

 一応、数秒待つも。

 後には金色から黒色に変色した、原形を留めていない羊の死体が転がっているだけ。

 つまりこれで、スキルの許容限界を超えたということか。


「【帯電】ねぇ……」


【発火】と近い性質を持っていそうなこのスキル。

 当たりかどうかはまだ分からないけど……

 それでも内心、かなり期待していることを自覚しながら、俺は【集敵】効果のある邪魅の乱槍を片手に、Sランク手前のこの狩場でスキル取得を目指した。
527話 楽しい楽しい狩りの時間

『【帯電】Lv3を取得しました』


 視界の片隅にこのアナウンスが流れ、とりあえず目標としていたスキルレベルまで到達したことを確認してから、さらに上へと続く階段に腰掛ける。

 どれどれ、変化は起きているかな。


【帯電】Lv3 雷を身体に留め、一時的に帯びることができる 可能な総量はスキルレベルによる ※自ら生み出した雷は不可 常時発動型 魔力消費0


 帯電なのに雷に限定されているところがなんともファンタジーっぽいけど……うーん。

 やはり、レベル1から順に確認しても、詳細説明の内容は変わらずか。

 となると、他スキルでたまに見られるレベル6。

 次はここで詳細説明に変化が起きるかどうかだな。

 自分自身に雷が撃てれば大きく世界は広がりそうだが、元々自分で撃った魔法は一度手元から離れないと効果がないことは分かっていたんだ。

 そこまで求めてはあまりに贅沢、そう思って納得するしかないだろう。

 なんせこのスキル、【発火】と違ってパッシブ型の時点で相当優秀だろうしなぁ。

 先ほど試したように、キャパを超えるほどの【雷魔法】を食らえばなんの意味もなくなるが、軽微であれば蓄え、こうして身体を伝って武器にまで纏わせることができるのだ。

 目の前にはバリバリと音を鳴らし、放電したように迸る邪魅の乱槍。

 眺めていると次第に治まっていき、時間にすればだいたい15秒ほどで効果が消えた。


「受ける魔法の威力が同じなら、効果時間はレベルが上がっても変わらず。でも【帯電】レベル2で、金色羊の【雷魔法】レベル4は受け止められるくらいか……」


 このことから、ショボい【雷魔法】ならよほど連発でもされない限りは無効化し、逆に直接的な攻防にそのエネルギーを転用できることになる。

 となれば、放出なんてできなくていいし、できたところでするつもりもない。

 強者が放てば貫通してくるだろうけど、それだってまだまだスキルに伸びしろがあるわけだし、撃たれた威力が上がれば効果時間が伸びる可能性もある。

 そう考えるとかなり夢があり、対人向けの面白みがあるスキルと言ってもいいだろう。

 問題は魔物図鑑でも見たことがない、この名前も分からない金色羊しか今のところ所持しておらず、そのスキルレベルも『1』ってところだが……

 まぁ【転換】でも技能の種でも、強引に引き上げる方法は残されているのだから、いざとなればどうとでもなるか。


 さて――、それじゃあ検証も終わりだ。

【帯電】の効果ももう切れたし、これ以上焦らしプレイをしたら身体に悪い。

 そう思って、中層となるこのフロアの魔物情報を纏めてから|本《・》|命《・》のフロアへと向かった。


 ・城内部(中層)

 オーランベアー:【突進】Lv5 【噛みつき】Lv4 【爪術】Lv5
 フンババ:【突進】Lv5 【狂乱】Lv5 【旋風】Lv3
 クァール:【闇魔法】Lv4 【闇属性耐性】Lv3 【噛みつき】Lv5
 金色の羊:【雷魔法】Lv4 【帯電】Lv1 【突進】Lv4
 キマイラ:【飛行】Lv1 【爪術】Lv5 【毒霧】Lv3 【火炎息】Lv3




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 高揚感と期待。

 階段を一歩一歩上るごとに、胸の高鳴りは増していく。

 この世界に来て、今までにも度々このような気持ちになることはあったが、ここへ到達するまでに費やした労力と時間から、今は張り裂けそうなくらいにその感情が膨れ上がっていた。


 あと少しで、姿が見える。


 あと少しで、スキルが覗ける。


 あと少しで――。


「ふふ、ふふふふっ……」


 上っている最中から見え始めた巨躯の魔物が静かにこちらを見つめ、別の魔物がすぐに俺を敵と認識したのか、物凄い勢いで走り寄ってくる。

 書物から名前くらいは連想できる魔物が2体。

 まったく知らない魔物が3体か。

 スキルは――、


「あはっ、あはははははっ!!」


 寄ってきたのは、薄く青みがかった綺麗な狼だった。

 跳ねたと同時に空中で大口を開け、キラキラと光り輝く白色の息を撒き散らす。

 今まで食らってきたモノとは違う、もっと細かい粒子のような氷晶。


 ――【発火】――


 それが何かをすぐに理解し、火を纏いながら宙へ飛び掛かる。

 想定したよりもだいぶ素早いが、だからと言ってこの程度を捕まえられないことはない。


「グガッ……!」


 そのままお構いなしに地面へ強く叩きつけると、早速視界の片隅でアナウンスが流れ始める。


『【凍結息】Lv1を取得しました』


 が、今はそれどこじゃないな。

 すぐ近くには、俺と同じように身体を燃やした、真っ赤な竜が迫ってきていた。

 コイツも情報にない魔物。

 だが。


「邪魔!」


 5メートル近くはありそうなソイツを思い切り蹴飛ばし、続く魔物をはっきりと視界に捉える。

 今興味があるのは、その後ろからこちらに駆けていた二足歩行の巨大な牛。


「グゴォアアアアアアアアッッ!!」


 これは書物で見た魔物――ミノタウロスのはずだ。

 いやいや、しかし、こいつが所持するスキル。

 どこかで身に覚えがあると思っていたが……そうか。

 拠点の倉庫に、このスキルが【付与】されたアクセを見かけたんだったな。

 いまいち効果が分からないままになっていたけど。


「フン!」


 放たれた【咆哮】を強引に解きながら太い首を斬り飛ばすと、視界の片隅でアナウンスが流れ始めた。


『【底力】Lv1を取得しました』


 これで上手くいけば、詳細説明からもう少し情報が得られるようになる。

 まぁ、さっきから上空で何かやっている派手な鳥と、こちらを見つめたままゆっくりと移動している、一番の巨体を片付けてからだが。

 スキル名から連想できる効果が合っているのか。

 確かめるためにスタスタ近寄っていくと、


 ドンッ!


 20メートルくらいはありそうな目の前の巨竜――アースドラゴンは、その巨大な足で強く足踏みをする。

 と、同時にブレる視界。

 やはりか。

 思わず膝を突いてしまうほどの強い揺れは、紛れもなく|地《・》|震《・》だ。

 ふふ、そうかそうか。

 Sランク魔物ともなれば、こうして広域の大地まで揺らしてくるのだから面白い。


「あはは! 飛んじゃったら意味ないけどねぇ!」

「グガァアアアアアアアッッ!」


 勢いをそのままに、邪魅の乱槍を首に深く突き刺すも、この程度では仕留めきれず。

 しょうがなく特大剣を取り出し、強引に太い首をぶった斬ることで、ようやく目の前の巨躯は崩れるように倒れていった。


『レベルが63に上昇しました』

『【烈震】Lv1を取得しました』

『【烈震】Lv2を取得しました』


 さて、これで新種は残すところ一体。

 そのまま宙を舞い、色彩豊かな、しかしなんとも不気味な文様の翼を羽ばたかせる、孔雀のような魔物の前に躍り出る。

 敢えて最後に回したこの魔物。

 効果の蓄積によって何かしらの症状が出るかと少し警戒していたわけだが、今のところは身体が不調になったわけでも、動かしづらいと感じたわけでもない。

 直接的な攻撃に出ることなく、滞空しながらまだ俺に何かしらのデバフを与えようとしているんだろうが……


「全部耐性あるから、そう簡単に【呪術魔法】は効かないよ」


 それでも、ここに用があるのは俺だけじゃない。

 本格的に影響を確かめるなら、もっと時間が必要か。

 そんなことを考えつつ手を伸ばし、目の前の3メートル近くはある孔雀の細い首を毟った。
528話 呪いとは

 狩りを一旦切り上げ、下台地に転移すると外は明るい時間帯。

 腹の空き具合と眠気から、籠っていたのは半日にも満たない程度だろうと予想しつつ裏庭へ向かうと、ウィングドラゴンのウィグとブタ君が気持ちよさそうに寝そべっていた。


「あれ? ジェネとカルラは?」

「ジェネは向こうで薪を、カルラはゼオの所に遊びいった。それより主、腹が減ったぞ」

「……」


 寝そべりながら、器用に尻尾だけを左右へ振って方向を示すウィグ。

 このだらけっぷり、いったい誰に似たんだろうか?

 確かにここ最近は魔物を満足に狩れず、クイーンアント戦で持ち帰った大量の蟻の死体も、今は綺麗にバラされ跡形もない。

 だとしても一応Sランク魔物なんだから、自分で餌くらい捕ってこいって話だが……まぁいいか。

 ここからは死ぬ気で食ってもらわないといけないのだ。

 腹が減っているのなら、なおのこと都合が良い。


「ウィグ、食事の時間だよ。ここが溢れかえらないように頼むね」


 そう言って魔力の自然回復量を上回り、マイナスに転じ始めるほどにまで溜まった魔物の死体を目の前に放出した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ふむ……それであの量になったわけか」

「そそ、Sランクの魔物は大概大きいけど、特にアースドラゴンが表ボス並みだからねぇ……」


 視界の先には、堆く積もった死体の上で動く2つの影。

 見学しにいったエニーと強制連行されたケイラちゃんの姿は見当たらないけど、早速仲魔の2体が食事も兼ねた解体作業に入っていた。

 まぁウィグの役割は硬い外皮を大雑把に切るくらいで、あとはただひたすら食うだけだが。


「売り物になりそうなお肉も食べさせちゃっていいの?」


 そう問うカルラに、驚くほど味が濃厚な竜の肉を齧りつつ頷く。


「いいと思うよ。半日くらいであの量だし、当分このペースが続くだろうから、いくら急いで解体したって間に合わないでしょ? かと言ってあのままの状態で他所のハンターギルドに持っていったところで、大抵は処理に困るだけだろうし」


 王都ファルメンタのオルグさんか、あとはロズベリアのオムリさん所に持っていけばSランクでもなんとかしそうな雰囲気はあるが、他の小さな町じゃバラすことすら難しいだろうからなぁ。

 少しずつ暖かくもなってきたんだ。

 放っておいて腐らすくらいなら、ウィグとジェネに食べてもらって、成長を促した方が有意義ってもんだろう。


「美味しい血が飲み放題なのは嬉しいけどさ。当面って、どれだけ狩るつもりなの?」

「諸々のレベル上げもあるし、他の階層にだって籠る必要があるから――、どうだろ。最低でも2週間くらいは通うんじゃない? それにまだ、目的の鉱石だって確認できてないし」

「うへ~」


 分かりやすくげんなりするカルラ。

 しかしその横で、酒のつまみに炙ったキノコを齧っていたロッジが、興味あり気に片眉を上げた。


「当ては外れたか?」

「いや、まだ分からないよ。デカいから多く見えるだけで、狩った数はまだ数百とかその程度だし。それに予想していた範囲で、その下の鉱物までは拾えてるからね」

「ほう、量は?」

「アダマントなら――、これだけ」


 そう言って机の上にゴロゴロと、重量感のある金緑色の鉱石を転がす。

 魔物が大きいと付着している鉱物も大きく、一つ一つがおにぎりくらいの大きさはあるわけだが、それでもバケツ一杯にも満たない程度の量しか集まっていない。


「半日でこれか」

「んだね。シルバーとかミスリルならこれの数十倍は拾えてんだけど」

「いや、十分過ぎるだろ。市場価値で言えばこれだけで軽く億はいく。探している連中が個人なら、2~3年掛けてようやく集められるくらいの量だ」

「へえ~まぁしばらくアダマントだけはベザートに流さないでこっちの資材倉庫に置いておくから、魔物素材も含めてロッジの好きに弄っちゃっていいよ。前と違って今は売り場もあるし、少量なら製品をそのまま現金化もできなくはないからさ」

「へへっ、ボス素材をようやく触り終えたってーのに、ここに来てからは暇になることがねーな!」


 そう言いながら顔はだらしなくニヤけてんだから、未知の魔物素材に触れることが楽しみで仕方ないんだろう。


「あーあと、リコさんにはコレね」


 渡したのは待望とも言える、城内部の魔物構成と所持スキルの一覧だ。

 結局、最後に纏めた上層のスキル構成はこのようになっていた。


 ・城内部(上層)

 アースドラゴン:【烈震】Lv4 【踏みつけ】Lv5 【丸かじり】Lv5 【物理防御力上昇】Lv3
 ミノタウロス:【咆哮】Lv4 【捨て身】Lv5 【底力】Lv3
 燃える竜:【発火】Lv3 【火属性耐性】Lv5 【灼熱息】Lv4
 青白い狼:【凍結息】Lv3 【俊足】Lv5 【爪術】Lv4
 孔雀:【呪術魔法】Lv4 【飛行】Lv2 【魔法射程増加】Lv4


 魔物の名前が分からないやつは、しょうがないのでそれっぽい特徴を残しておいたが、『真・魔物図鑑』を作ると息巻いていたリコさんなら喜ぶ。

 そう思っていたわけだけど――。

 肉汁滴る孔雀肉を握ったまま、小さく呻いたリコさんは具合の悪そうな顔色で俯いた。

 あれ……

 今までは魔物が所持するスキルの情報も喜んでいたのに、おかしいな。

 もしや一番当たりっぽく見えた孔雀肉が、実は大ハズレだったのか?

 【鑑定】じゃ可食って出てたんだけど……


「リコさん、大丈夫?」

「大丈夫ですけど、大丈夫じゃないです……」

「え?」

「だってこの上層って場所、遠くから何かをしてくる魔物が多そうですし、スキルを見るだけでも凄く強そうじゃないですか!」

「あ~それはねぇ。Sランク狩場だし、しょうがないと思うけど」


 口ではそう言いながらも、ここでリコさんが何を言わんとしているのか理解する。

 前回は鼻水がズビズビになるくらい無理させちゃったもんなぁ。


「Sランク狩場が見つかったらとは言ってましたし、やっぱりここで貢献を溜めるんですよね……?」

「ん~その予定ではあったんだけど……」


 新たなパワレベ会場になればいいとは思っていたし、そのための事前調査も狩りと並行しながら行なっていた。

 安全地帯とまではいかないが、各階層を繋ぐあの長い階段には魔物が湧かないのだから、万が一討ち漏らしたとしても、『封魔』の結界を張っておけばブレス系ならある程度は遮断できると思うが……


「ねえゼオ、【呪術魔法】の、特に呪いの効果ってどんなのか分かったりしない?」


 問題は孔雀が持っているコイツだ。

 麻痺と睡眠は死に直結しないのでまだいいとしても、毒と呪いの2つは対処の仕方がはっきりと定まっていないためどうしても怖い。

 特に呪いは、先日まで悪霊役をやっておいてなんだが、その効果すら俺自身がよく分かっていなかった。

 このままだと強い耐性がありそうなゼオと、あとは食らっても死ぬイメージがまったく湧かないカルラ以外は危なくて連れていけそうにない。


「以前にも言った通り、我も【呪術魔法】には詳しくないからな……」

「うん。だからせめて、ヒントになるようなことだけでも分かればなって。せっかく見つけたのに、このままじゃエニーの特訓の場としても使えなくなっちゃうからさ」


 そう告げると、ゼオはデカいキノコを咥えたまま瞳を閉じ、暫し考え込こんだのちにボソリと呟く。


「呪いとは、精神の汚染だ」

「ん?」

「毒は身体の汚染であり、直接表に現れるモノ。呪いは表面化せず、心を蝕むモノとされている」

「あーそういうこと」

「だが、何を以て心を病むかなど人それぞれだからな。呪いを放った者も受けた者も、その効果をはっきりと認識できないからこそ、具体的なことがあまり分かっていないのだ」

「……あまりってことは、一部は分かってるの?」

「強力な呪いを食らった者の末路なら、少しはな。気が触れて周囲と自身を傷つけ、最後は望むように死へと至る」

「マジか……」


 うーん。

 これは、キツイな。

 呪いの影響を受けているのか、いないのか。

 受けていたとして、どれほど進行が進んでいるのかも分からないのでは、俺自身だって気付いていないだけでその影響を――

 そう思っていた矢先、ゼオは先ほどからリコさんの手元にある、魔物のスキル構成が書かれてた木板を手にした。


「ふむ……ロキよ、【神聖魔法】は所持していないのか?」

「ん? 持ってるけど」

「ならばそこまで心配する必要はない。この魔物が所持する【呪術魔法】はレベル4、ならば【神聖魔法】のレベル4以上であれば効果を打ち消すことができるはずだ」

「え? そういうことなの?」

「【神聖魔法】と【呪術魔法】は対なる存在だからな。このように【呪術魔法】を放つ対象が特定できており、かつレベルがそう高くないのであれば大した脅威にはなり得ん」


 言い換えれば姿を見せない高レベルの【呪術魔法】使いだと、とんでもない脅威になり得るということだが……

 まぁ今はいいか。

 俺の【神聖魔法】はレベル4。

 ギリギリだろうと間に合っているのだから、魔力消費さえ気にしなければ蓄積したデバフは浄化できる。

 となると、飛び跳ねるほどSランク狩場の発見を喜んでいたのもいるし、まずはこちらから先に試してみるべきか。


「よし……それじゃあ一度、戦える人間で潜ってみようか」


 目的のうちの1つ。

《夢幻の穴》をゼオ達の修業の場として活用する場合、俺抜きでも上層がなんとかなるのかどうか。

 そのことを、興奮した様子で戻ってきたエニーにも伝えた。
529話 潜ってみよう

「おぉ~!? いいじゃんいいじゃん!」

「カッコいいけどさ! なんかまた雰囲気が怖くない!?」

「さすが私と言いたいところだけど、これは素材が良過ぎるわね」


 ここに来て初めての本格的な戦い――、つまり初陣であると。

 ちょっと何言っているか分からない理由を並べていきなり着替え始めたゼオと、それに釣られた相変わらずパンツを履かないカルラの姿を見て、俺とエニー、それに製作者であるノアさんも、鼻の下を伸ばしながら感嘆の声を上げていた。

 場所はベザートの西区にあるノアさんの作業場。

 機を狙っていたらしいゼオの催促により足を運ぶと、依頼していた服は無事に出来上がっていたわけだが。

 俺はあの時途中で帰っていたため、二人の決めた服をこうして見るのは初めてのことだった。

 だからこそ思う。

 二人とも実は、異世界人なんじゃないのかなって。

 それくらい完成度が高いというか、もうこのままの姿でゲームの世界にいてもおかしくなさそうなのだ。

 しかもめっちゃ強い敵キャラとして、である。


 ゼオは意外にも近接戦をこなしそうな軽レザーを身に纏いつつ、背には大好物のマントを。

 全体的に黒を基調としながら金の差し色が所々に入り、マントに入った派手な文様にも同じ色が使われていた。

 俺がヒラヒラならゼオはトゲトゲしていて、攻撃的な印象を強く与えてくれる装いだ。


 そしてカルラはというと、この世界にいる貴族や王族とはまた違う、なんとも高貴な雰囲気を漂わせる恰好をしていた。

 ゴシックではあるんだろうけど、まったくフリフリとはしておらず、スーツのように綺麗にまとまっているというか。

 黒を主色に赤を要所要所で混ぜているのも雰囲気に合っているし、服好きなカルラのセンスが光る一品に仕上がっている。

 まぁどちらも相当ノアさんの補助というか、地球の知識補正が入ってはいるんだろうけど。


「あんた達3人が並ぶと、より凶悪な集団に見えるわね……」

「ノアさん、それって誉め言葉なの知ってました?」

「ふっ、確かにな」

「これがロキの言っていた近寄り難き恰好良さってやつ?」

「その通り!」


 お互いがお互いに衣装を眺め、ニヨニヨが止まらない3人。

 そして横には、そんな俺達の姿を羨ましそうに見つめる者が一人いた。


「ねぇ、ロキ……私も……」

「おやおや~? 作ると怖ーい集団の仲間入りですけど、よろしいんですか~?」


 大人気ないなとは思いつつも。

 ここに連れてきた時点でエニーの服も作ってもらおうとは思っていたのだ。

 その前に、生意気な小娘をギャフンと言わせても、たぶん罰は当たらない。


「うぅ……見慣れたらそうでもなくなってきたし! っていうか、カッコいいってちゃんと思ってたし! 私だって欲ーしーいー!」

「しょうがありませんなぁ。それじゃ我ら3人に混ざっても違和感のない服を」

「そうであるな。しっかり監修せねば」

「任せて。エニーに似合いそうな怖可愛い服のイメージはもうできてるから」

「「……」」


 こうして背後から3人、エニーの服にあれこれ注文を付けまくってノアさんにブチ切れられてから、《夢幻の穴》の城内部へと向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「すっごー! 立ってると余計に大きく見えるし!」


 Sランク魔物に興奮しているエニーの声を聴きながら、俺はゼオへ問いかける。


「どう?」

「ふむ、あの宙を浮く派手な鳥以外は見覚えがあるな。何をしてくるかは概ね理解している」

「了解。それじゃとりあえず見てるからね。エニーもカルラも、頑張って」

「もちろん!」

「う、うん」


 職業選択を通して大魔道《メイガス》となり、さらに祈祷から【転換】を取得して過去の強さにまた一歩近づいたゼオが、果たして今どの段階にいるのか。

 それはこのような場で試してみなければ分からないし、エニーだってまだスキルポイントは温存しているはずなのに、日々の修行と職業選択の影響だろう。

【火魔法】はレベル7と初めて会った時よりも1つ上がり、ばあさんが得意としていた【魔力纏術】もレベル3を所持するまでになっているのだ。

 一番安定していそうなカルラが不安気な表情を浮かべているのは少し気になるが……

 ゼオと共にここで安定して狩ることができれば、経験値効率や気兼ねなく戦える場所、それに獲得できる素材など利点は非常に大きいわけで、できれば階層を下げずに上手くいってほしいなーと。

 内心そう願った3人の戦いは、派手な魔法の初撃から始まった。


「いっくよー!」


 そう叫んだエニーは、炎の津波とも言える波状の広域魔法を前方へぶっ放す。

 その光景を見て思わず頭を抱えそうになると、既にゼオとカルラは俺よりも早く頭を抱えていた。

 ゼオに師事しているせいなのか、魔法の規模に対して発動までがかなり速かったのは素直に凄いと思う。

 しかし……途方もないアホなのか?

 初見な上に、自分の力量で渡り合えるかも分からないランクの狩場。

 にも拘わらず広域魔法を放ったせいで、まだこちらに反応していなかった魔物まで一斉に近寄ってきていた。

 まぁ当の本人は背後にいる俺に向かって渾身のドヤ顔決めているので、まったく気付いていないが。


「阿呆が! 満足に捌くこともできぬ魔物を搔き集めてどうする!」

「いだーっ! って、全然死んでないし!?」


 振り下ろされるゼオのゲンコツ。

 青白い狼の【凍結息】で炎を相殺されたのも大きいんだろうけど、燃えながら地に落ちていく孔雀を2体確認できるだけで、あとの地上にいる魔物はダメージをあまり負っている様子が見られない。


「それどころか、あっちの竜は身体中から火を噴いて元気になってない……?」


 カルラが燃える竜に向かっていくつもの氷岩を放って足止めし、そのまま背丈の2倍はあるハルバードを振り回す。

 すると綺麗に吹き飛ぶ、燃える竜の太い首。

 拠点周辺でAクラスの魔物を相手にしていた時よりも明らかに力強いのは、この一撃を見ただけでもすぐに分かるが……

 続くミノタウロスの身体を真っ二つに割るより前にハルバードの柄を握られ、勢い良く振り回されたカルラの身体は軽々と宙を舞っていた。


「エニー! 右方の狼から火槍を放て! 1体ずつ確実に潰すのだ!」

「わ、分かった!」

「カルラは燃える竜だ! その武器でないと満足に近寄れん! 水でも氷でも、上手く牽制しながら仕留めろ!」

「うん!」


 指示により固定砲台と化したエニーが狼の【凍結息】を次々と貫通させていく中、勢いよく駆け出したゼオは筋肉の塊のようなミノタウロスへ蹴りを放ち、そのまま肉弾戦へと持ち込む。

 しかしその攻撃はあまり効いている様子がなく、逆にミノタウロスが殴りつける度にゼオの表情が大きく歪んだ。

 魔導士なのになぜ?

 そう思うも、一つ一つの攻防を試すようなあの動きは、きっと今の地力を確かめているんだろうな。

 身体から薄く噴き出した黒い魔力は次第に厚みを増し、徐々に対応してきたと思った途端――


「?」


 ――ミノタウロスの首が不意に飛び、ポトリと地面に転がる。


 え?

 何が起きた?

 あまりに一瞬の出来事で、見ていたはずなのに何をやったのか分からないまま、ゼオは焦げて煙を立てながらゆっくりと近づいていたアースドラゴンを次の標的に見据えて駆け出す。

 その動きに反応したのだろう。

 片足を大きく上げ、【烈震】の準備に入るアースドラゴンだが。


「ふん、させるか」


 その言葉と同時に、ゆらりと。

 突如跳ね上がった速度で一気に駆け寄りながらも、手が動く。

 脚を撫でるような、そんな動き。

 と同時に数メートルはあろう、支えていたアースドラゴンの太い脚が輪切りにされ、体勢を崩して下がったその首もまた、ゼオが触れるように手を翳すと、勢いよく切断されズレて転がっていく。

 今度はなぜか、頭と胴の間をさらにもう一度斬られたように、3つの部位にバラされていた。


(なんだ……あれは……?)
530話 10年ぶり

 疲れた様子で階段付近に戻ってきた3人を、手だけ動かしながら出迎える。


「お疲れ様~」

「はぁ……はぁ……ちょっと、なんでロキも魔物狩ってるの! ちゃんと見ててくれた!?」

「もちろん、ずっと見てたよ。【火魔法】以外にもだいぶ手数が増えてたし、近接戦もこなすなんて凄いじゃん。1回吹っ飛ばされてたけど」

「でっしょ~!」


 ビヨーンと鼻が伸びたように見えるエニーの背後には、床へ倒れたまま動かない多くの死体。

 結局一度も手を貸すことなく、3人は40体近くの魔物を倒してきた。

 後半になるほど役割がはっきりとし、俺が一人で狩り始めてしまうくらい安定した戦いを繰り広げていたのだから、これなら今後もまず問題はなさそうに思える。

 まぁ、短時間であれば、だが。


「ただエニーは魔力の自然回復に頼り過ぎだから、場面に合わせて消費を上手くコントロールしていかないと、今みたいにすぐ魔力が枯渇してバテるよ?」

「うぅ……それいつも師匠に言われるやつ~」

「実戦となればより実感もできたであろう。まだまだ無駄が多く、調整と選択が甘い。増えてきた手札を今度はどのようにして活かすか、それが次なる課題だ」


 横でゼオが渋い表情のまま言うも、あとは場数と慣れ次第だろう。

 そう考えるとここは3階層――いや、城内部に拘らなければ城下町と草原の5階層から選べるのだし、場面に応じた手札の取捨選択を養うならいい修業の場にもなるはずだ。

 そしてそれは、横で同じように息を切らしているカルラにも同じことが言えるのかな?

 あまり体力がないようなイメージは持っていなかったけど、考えてみればカルラが戦う場面など拠点周辺の極僅かな時間だけで、ほとんど見ることもなかったしなぁ。


「大丈夫? 顔色がいつもよりさらに悪いけど、少し血、飲んどく?」

「あ……欲しい、ちょうだい~」


 そう言っていきなり俺の人差し指を咥えるカルラ。

 これがそこらのおっさんなら、喉の奥を連打突きしているところだが……

 不思議とカルラの場合は嫌な気分にならないので放っておくとしよう。

 今はそれより、謎解きの答えを早く知りたいしな。


「で、ゼオのやってたやつってなんだったの?」

「む?」

「あの撫でると魔物がバッサリ斬れていくやつ。魔法じゃないと思うんだけど」


 ゼオは俺もまだ所持していない【無詠唱】持ち。

 だから最初は言葉にしないまま【風魔法】でも使っているのかと思ったが、何度見ても魔力をそのタイミングで放出している様子がない。

 それに勘違いでなければ、代わりに黒い糸というか、『線』のようなモノが時折動いていた気もするのだが……

 ずっと気になって眺めていた疑問の答え。

 それをゼオは、大したことはないと言わんばかりにあっさり教えてくれる。


「あれも【魔力纏術】だ」

「んん?」

「魔力消費を抑えて戦うとなると、これが最も有効だったのでな」


 言いながら、ゼオは手の甲をこちらに向ける。

 すると纏わりついていた魔力が指先に集まり、そのまま2本の線が上空へ伸びていく。

 長さで言えば1メートル程度。

 だが針金――というよりシャープペンシルの芯に近いソレは、あまりに細く、薄く、そして形成までが異常とも思えるくらいに速い。

 直感的に、これをまともに食らえば俺も死ぬやつなんじゃないかなと、そう感じてしまうくらい目の前の技能が恐ろしく映ってしまった。

 こっそり試してみても、あの速度で形成なんてまったく無理だし、あれほどの切れ味を残すなんてイメージもまったく湧かない。


「2本……だから切り口が1つだったり2つだったりしていたのか」

「うむ。あの太さの首や脚を落とすとなると、今の我では2本が限界であったが、誰も死なせずに倒す程度であれば問題なかろう」

「あぁ、そこも試していたわけね。ははっ、ははは……衰えたなんて言うけど、やっぱり凄いよ」

「何を言うか。持ち帰る素材分の魔力を残したというのもあるが、可能な限り消費を抑えたところで、この程度の時間しか満足に戦えぬのだぞ? 昔の我が見たら、情けなくて涙を零すであろうな」

「……」


 今だから2本ということは、かつてはさらに多くの数を生み出し、左右の手を凶器に変えて暴れまわっていたかもしれないのだ。

 魔力が少なく、かつ回復手段が限られているという理由から、消費の激しい魔法系統に制限を掛けてもなおこの強さか。

【体術】も明らかにできる人の動きだったし、本当にゼオの全盛期はどれほどの強さだったんだろうな……

 そして受ける強さの印象と実際の強さの違いから、兼ねてよりその可能性が高いと思っていた【洞察】は、やはり基礎ステータス値の影響を強く受けていることは間違いないだろう。

 ゼオのように能力を存分に引き出せるほど練度が高いと、想定以上に強いこともある。

 どこぞの剣を扱う爺さんでも感じたことだし、癖のように使ってしまっている【洞察】は過信しないよう注意しておかないと、いざという場面で足を掬われそうだ。

 そんなことを考えながらゼオの収納量を確認。

 最後にマーキング目的で一通りの階層や草原エリアなどを巡りつつ、『城の地下だけは|匂《・》|う《・》|か《・》|ら《・》闇雲に探索しないように』と忠告をして、俺達は拠点に帰還した。


 そしてその日の夜に、ひとまずリコさん、ノアさん、ベッグと順々に壮絶な悲鳴を聞きながら仕上げのパワレベをしたあと。

 拠点に溜まった素材が消化しきれていないため、少しでも小さい魔物を狩ろうと、地下のBランク帯で怪しい箇所を探りながらスキル経験値を稼いでいたところ――


「……っし、やっときたか」


 念願の1つ目。

 拠点に1つだけある薄水色の鉱石が、ガーゴイルの腹に付着していることを確認する。

 魔物がさほど大きくないため、鉱石の量も小粒だ。

 それこそ、その辺に転がる小石程度しかないが……

 それでも、予想していた通りにここで得られた。

 この事実は凄まじく大きい。


「数は――1500か2000匹に1つくらいか?」


 ざっくりではあるけど、今のところ2日に1つドロップするかどうか。

 それでも確率的にこのくらいのペースで落ちてくれるならば十分。

 外に流すことを考えなければ、確実に必要量は調達できる。

 それに3人もゼオの魔力量次第ではあるが、修行の一環として2日1度くらいは階層を変えつつ挑むと言っていたのだ。

 オリハルコンはSランクの上層だけという縛りもないことが分かったので、長期で見ればそちらからの素材にも期待がもてるだろう。

 日中は極力マッピングに充てて、夜は全力狩りでレベルとスキル経験値と、オリハルコンを回収して……


「いやーこれは始まったな、本格的に」


 本だって読みたいし、やりたいことが多過ぎて、まったく時間が足らない。

 となるともう、これは10年ぶりくらいの本気を出すしかないなと。

 一人そんなことを呟きつつ、再び魔物の乱獲を開始した。
531話 女神会議②

 場所は拠点の上台地。

 だいたい10日に1度くらいという報告会のため、ベザートの監視を務めるリル以外の5人がいつもの食卓に顔を出す。

 今回はどこの国の、どんなご飯だろうか。

 それぞれが期待に胸を膨らますも。


「「「……」」」


 いつもの石机には料理が並んでおらず、調達してきてくれるロキの姿も見当たらない。

 そんな中で、一人席についていたアリシアが静かに口を開く。


「……今、【神通】で状況を確認しました。例の新しい狩場が忙しいようで、できればまだ離れたくないそうです」

「え? 今回もですか……?」

「ええ、ロキ君の方は緊急の用件もないため、こちらに重大な報告がなければ、テリア公国のマッピングが終わったタイミングでまとめて伝えると。次回までには間違いなく終わるようですね」


 そう言われ、フェリンとリステは目を見合わせたあと、様子を窺うように周囲へ視線を向ける。

 誰か、呼び戻せるほどのネタはないのか。

 目がそう訴えかけるが、誰も口を開くことはない。


「一応、皆が美味しいと言っていた孔雀肉は、下の食糧庫にたくさん置いてくれているそうですが……」


 そうは伝えるも、一番喜びそうなフェリンの反応が薄いことで、アリシアの声も尻すぼみになる。


「そっかぁ……なんか、寂しいね……」

「しょうがないでしょう。兼ねてより探していたSランク狩場をようやく見つけたのですから。それにここだけでなく下台地も、それに地下の秘密部屋にだってほとんど帰ってきていません」

「え? そうなの? 下は魔物の死体で物凄いことになってるけど」

「少しでも顔を見たくて、夜間や早朝は特にロキ君がいないか反応を探っていましたが……あれはただ置きに来ているだけ、またすぐに狩場へ戻っているのだろうと思われます」


 そう言って、沈痛な面持ちで悲しみに耐えるリステ。

 そのストーカーチックな行動に、若干この場の空気がおかしなことになるが。

 しかし、ここでロキに理解を示したのは意外な人物だった。


「たぶん、今が一番楽しい時。なら、そのうち落ち着く」


 ロキからの挑戦状とも取れる新しい趣味を見つけ、拠点にいる時間のほとんどを魔法陣の作成に費やしているリアが、頬や衣類に跳ねたインクをつけたままそう伝える。

 今までだって顔を見せない期間が続くことは何度もあったのだ。

 ただ今回はだいぶ長いという、それだけの話。

 リアはそう思って皆に伝えるも、フィーリルだけは至極当たり前のことでありながら、女神では気付きにくい点を口にした。


「はぁ~また心配を掛けて……ロキ君はちゃんと寝てるんですかねぇ~」

「え?」

「ん?」

「?」

「人は普通、眠らないと生きていけないんですよ~私達と違って」

「ああ、そうでした……私としたことが、まずはそのことを心配すべきだというのに……」

「確かに、リステの言っている通りであれば、ロキ君がいつどこで寝ているのかまったく分かりませんね。あれだけのペースで魔物の死体が増え続けているということは、実際に動き続けているのでしょうし」

「最初の頃みたいに、どこかの宿で寝てる?」

「この短期間でまた一国の地図が完成するというのですから、そんな時間もないように思えますが……」

「ん~? ってことは、もしかして私達に近づいたってこと?」

「「「え?」」」


 一瞬、フェリンの言った言葉の意味が分からず、4人の女神は固まったようにフェリンを見つめるのみだったが――


「だってロキ君って、フェルザ様直轄の『神使』でしょ? 悪を滅し、世界を導く存在って、まさにその通りだと思うし」


 ――続くこの言葉に、リステがハッとした表情を浮かべる。


「ま、まさか、神格化し始めていると、そういうことですか?」

「分かんないけど、そういうことなんじゃないの? ロキ君の言っていた隠れているスキルっていうのも、何か繋がりがあるのかもしれないし」

「うーん、何を以て下級神と呼べるかは分かりませんけど、リガルがいたら二つ返事で納得してしまいそうなほど強くはなりましたもんね」

「普通に考えれば絶対無いと言い切れる話でも、ロキ君に限っては既に前例のない変異を遂げていますしねぇ~」


 思いがけないところから始まった、ロキの神格化疑惑。

 いつも通り、当初の問題はどこかへ飛んでいき、あーでもないこーでもないと話が盛り上がる中、静かにそのやり取りを眺めていたリアが言いかけた言葉をそっと飲み込む。

 先ほどはこれ以上ないほど気持ちの沈んでいた二人が、今こうして元気を取り戻し、より強い繋がりができたかもしれないと嬉し気に話しているのだ。

 ならばわざわざ水を差す必要はない。

 それでも――


「寝ないのは、魔物も同じだと思うんだけど」


 自ら確かめるようにボソリと呟きながら、一人作業へと戻っていった。
532話 Sランク狩場の成果

「――――痛でっ……」


 目の前は地面だった。

 どうやら前から倒れたらしく、鼻の頭をぶつけて擦りながら起き上がる。


 ――【闇魔法】――


『……突き抜けろ、"黒玉"』


 そして。


 ――【昼寝】――


 そのまま暫し、視界は暗闇に染まり――


「――――あだっ……」


 お次は、視界がグルグルと回っていた。

 どうやらミノタウロスに殴られたらしく、すぐ近くにあった死体の山に突っ込み動きが止まる。


 ――【闇魔法】――


『……突き抜けろ、"黒玉"』


 あぁ――……眠い、眠過ぎる……

 だからあと、もう少しだけ。


 ――【昼寝】――


 そしてまた、すぐに視界は暗闇に染まり、周囲の魔物を掃除した1分後くらいには何かに起こされる。


「――――寒っ……」


 それが熱なのか、寒さなのか、それとも地面の揺れによるものなのか。

 殴られることもあれば、踏まれることも。

 立って寝ているので、地面に倒れた衝撃に驚いて気付くことだってある。

 でも無駄なく起きられるのであれば、なんだっていい。

 50回ほど繰り返せば、大きな睡魔の波は少しだけ引いてくれた。

 そして周囲の穴が開いた死体を片っ端から回収し、高速で風呂に入ったらすぐにマッピングを開始する。

 ここ1か月ほどはこの繰り返しだ。

 強引にその時の眠気を払うだけであまり疲れは取れていないけど、得られる成果と自身の成長を考えれば気持ちもグッと軽くなる。

 それに深い睡眠を1分近く取れている時点で、昔よりは遥かに楽だしな。

 この世界にインターバルタイマーが10個くらいあれば、またどこかで最高効率を叩き出すためにやってしまいそうな気もするけど……


「おし、おしおし……レベルもある程度上げられたし、ひとまずはこんなところかな」


 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:67  スキルポイント残:616 (技能の種により+47)

 魔力量:11467/17684 (830+16854)

 筋力:   8785 (448+7543)  ゲイルドレイク(+794)
 知力:   6023 (449+4954)  ガルグイユ(+620)
 防御力:  7970 (442+6174)  ヴァラカン(+687) クィーンアント(+667)
 魔法防御力:5967 (442+4720)  ガルグイユ(+805)
 敏捷:   4395 (442+3751)  ウィングドラゴン(+202)
 技術:   9918 (441+9477)
 幸運:   7412 (442+6556)  グリムリーパー(+414)

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》

 【転換】余剰経験値:『6,030,741』

 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv7 【暗殺術】Lv8 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv10 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv10 【闘気術】Lv5


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【神聖魔法】Lv4 【呪術魔法】Lv7 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv10 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv7
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10 
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7 
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6 
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv7 【装飾作成】Lv5 
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv6 【飛行】Lv9 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv9 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv9 【忍び足】Lv9 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv7 【自動書記】Lv7


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv7 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv8 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv7 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv8
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7 【転換】Lv8


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv9 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv7 【突進】Lv8 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv6 【爪術】Lv9 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv8 【招集】Lv8 
【硬質化】Lv7 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv8 【咆哮】Lv8 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv5 【火炎息】Lv7 【発火】Lv7 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv7 【丸かじり】Lv8 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv7 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv7 【魔法防御力上昇】Lv4
【不動】Lv7 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv6 【廻水】Lv6 【鏡水】Lv5 【透過】Lv5 【恐怖】Lv6 【封印】Lv5 【熱感知】Lv5 【陽炎】Lv6 
【流砂】Lv7 【砂嵐】Lv7 【砂硬鱗】Lv5 【昼寝】Lv4 【帯電】Lv4 【凍結息】Lv6 【底力】Lv6 【烈震】Lv7


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv7 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv6  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv7 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv8 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv6 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1 【甦生】Lv8 【共食い】Lv4 【粘液】Lv5 【分裂】Lv6
【砂泳】Lv7 【麻痺針】Lv6 【産卵】Lv6


 ステータス画面を眺め、全てのスキルが最低目標値を超えたことを確認。

 それに地下のデスナイトが所持する【剣術】レベル5がかなり美味しく、【転換】の余剰経験値もここ一月ほどで100万近くは稼げた。
 
 ついでに怪しいかなと思って探索していた地下空洞は、これといって目新しい発見はできなかったけど……

 それでも、ようやくという達成感と解放感からググッと背中を伸ばし、俺は一度拠点へと帰還した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「あらら~随分溜まっちゃったねぇ」

「なんで他人事みたいに言ってんだよ。大半はロキが狩ってきた魔物なんだろ?」

「うむ、落ち着くのを待っていたのだから、一刻も早くどうにかしてくれ。上階まで魔物の素材だらけで、これでは必要な物も満足に取り出せん」


 首を大きく上に傾けながら話す、俺とゼオとロッジの3人。

 風呂から出てきて早々に連行されたのが、拠点の資材倉庫だった。

 まだ、外には途方もない量の死体が転がっているけど。

 それでもカルラ達が解体を進めてくれたらしく、様々な革や爪、それに羽や毛など、食い物じゃない素材がそこかしこに山積み――というよりこれは、押し込められている、だな。

 多過ぎて、もう奥から物を取り出すという行為を諦めたような置き方をされていた。


「ごめんごめん。まだ向こうに解体待ちの死体が溜まってるし、一旦ここのは全回収してベザートの方に運んできちゃうよ。ちなみに、どう? 使い勝手の良さそうな素材とかあった?」


 ロッジにそう問うと、ニヤリと笑みを浮かべながら饒舌に語り始める。


「ああ、やっぱり良いな、Sランク魔物ってやつは。まず何よりも驚いたのが、自分の身体を燃やして突っ込んでくるっていう褐色の竜の革だ。いろいろ試してみても、今まで触ったどの素材より火に対しての耐性が高い。その分、革はちと薄くて軟いが、後衛用の火耐性特化装備を作るなら、今までのボス素材と比較してもコイツは上回る。それは青白い狼みたいな魔物も似たようなものだな。あっちは氷っつーか、冷気に対しての耐性がかなり高かった。専門外だが、あの毛皮は装備だけじゃなく服とか床敷とか、単純な寒さ対策にも相当強いはずだぞ」

「うむ。我も遥か昔は、寝床にコヤツの毛皮を敷いていた記憶がある」

「へえ~特化型っぽいなとは思ってたけど……そっか、装備以外の使い道もあるもんね」


 お風呂管理の仕事をしている人達は石を温めるために火を頻繁に扱ってるので、防火用の仕事着とか手袋を支給してもいいかな、とか。

 味もかなり良い大型の食材が容易に得られるようになったので、クアド商会やニューハンファレストの地下に巨大な冷蔵食糧庫を作って、そこで管理する人の作業着にしてもいいのかな、とか。

 そんな妄想をしていると、ロッジはまだ話したりないと言わんばかりに言葉を続ける。


「だがやっぱり一番はあのデカい竜だろう。加工が面倒に感じるほど固い竜鱗、だが革自体は扱う部位を選べばそれなりに弾力もあるんだから、装備にかなり向いた素材なのは間違いない。それでいてあの量だからな……軍があの素材で装備を統一でもしたら、相当戦力は上がるんじゃねーか?」

「ん~でも加工できる人間がいたらでしょ?」

「まぁな。感触としては俺でなんとかってところだから、たぶんSランクでも上位に分類される素材だろう」

「なるほどね……」


 回収しながら、少しだけどうするか悩むも。

 素材の市場投入は、過去に幾度となく経験していることだしな。

 今更かと気持ちを切り替え、こちらが気になっていた件に触れていく。


「あと、オリハルコンはどう? 一旦ここらで狩りのペースは緩めようと思うんだけど、渡している量で何か作れたりする?」

「ゼオ達が回収してきた分もあるからな。量だけなら細身の剣くらいはいけそうな気もするが……どこまで俺が扱えるのか、それはやってみないと何も分からない」


 そうは言いながらも、ロッジはジッと俺を見据えたまま、視線を逸らさない。

 明らかに、俺のゴーサインを待っている。

 ウズウズしてたまらない――そんな顔だ。


「ロッジのペースでいいよ。腕を磨く用の素材はもう安定して仕入れられるし、俺は追加の素材を調達しながら、出来上がりを楽しみに待ってるからさ」

「さらにその上もありそうだってのに、こんなところでのんびり構えてなんかいられねーよ。くくっ、ようやくこの手で触れるんだ。こっからは俺が死ぬ気でやる番だろうが」


 好きなことをやれているから、というのもあるんだろうけど。

 それでもみんな、なんだかんだで働き者だなぁ……

 となると、これは想像以上に早く出来上がる可能性もあるのかな?

 それなら、そろそろと思っていたアレを、もう少しだけ待っても――。

 そんなことを考えながら今ある素材を一通り回収し、一度リコさんの所に寄ってからベザートの町に転移した。
533話 希少素材の捌き方

 荷車を使い、慌ただしく商品の補充に向かう人達を横目に、広大なバックヤードを一人フラフラと歩き回る。

 テリア公国のマッピング中も、立ち寄った町で見覚えのない食材や素材があれば纏まった量を買っていたので、まったく売り物の補充をしなかったわけではない。

 だが大量と言える荷物をここまで運んだのは、ガルム聖王騎士国で中途半端な商会を潰した時が最後。

 そこから1ヵ月近くは経っていたので、現状どの程度スペースが空いているのか確認したかったわけだが。


「ん~予想以上に減ってるかなぁ……」


 移民絡みで、かなりの場所を取っていた家具が大量に捌けたというのもある。

 ただそれを差し引いても想像していたよりかは減っていて、荷物が占める割合はバックヤード全体の3割程度といったところ。

 まぁそれでも初期に開拓したベザートの敷地くらいは広さがあるので、店の売り場が何回か空っぽになっても商品が尽きることはないだろうけど、このバックヤードを作った時は半分以上荷物で溢れていたのだから、だいぶ減っていることは間違いない。

 それだけ、物が売れているということ――


「おいおい、そこの兄ちゃん。入口に見張りもいただろうに、どうやって入ってきたんだ? ここは売り場じゃないから入ってきちゃダメなんだぞ!」

「ん?」


 ――声の方に振り向くと、熊みたいなガタいをした毛深いおじさんが、荷車に大量の荷物を積んだままこちらを見ていた。

 どう見ても獣人。

 こんな特徴的な人は忘れるわけないと思うんだけど、新しい従業員だろうか?

 先ほども元奴隷組とは違う人が荷車を押していたし、知らぬ間にどんどん従業員が増えているっぽい。


「もしかして迷子か? なら俺についてきてくれれば外まで連れてってやるが」

「あーと、なんて言えばいいか……ここのオーナーみたいなもんなんです。なのでお手数ですけど、店長のクアドを呼んできてもらえませんか?」


 そう言いながら、広く空いた一角に持ってきた素材を放出していくと、見た目からは想像できないほど可愛らしい悲鳴が背後から聞こえた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 一通り売り物となる素材を放出し終えた頃にクアドは顔を出したが、どうやら素材を見せても知識が追い付かなかったらしい。

 ならばと二人で魔物素材を担当しているパイサーさんの所に向かうも、やはり反応は変わらず。

 渋い表情のまま、見せた魔物の素材に首を傾げる。


「前にも言ったと思うが、俺は元Cランクハンターだぞ? 流通の多い素材なら、仕事柄もう少し上のランクでも知っている魔物はいるけどよ……Sランクってお前、そんな高位の素材なんか一度も触れたことすらねぇよ」

「一応、うちの大賢者に聞いたら、これだけは情報が引っ張れたんですけどね」


 そう言って1枚の木板を見せると、クアドとパイサーさん、それにパイサーさんと同じ場所で働いているおばちゃんまで一緒になって覗き込む。


「ミノタウロスの角は粉末にして飲むことで興奮し、夜の男の味方に――……どういうことっすか?」

「要は精力剤ってことなんだと思う。なんか荒ぶってるっていうか、そんな魔物だったし」

「あら! やだよ王様ったら、こんな昼間に!」


 パシン!


「「「……」」」


 なぜ、俺はバシコンと尻を叩かれたのか。

 よく分からないが……


「んーで、この黒い毛皮は――……かつて貴婦人に人気を博した超高級毛皮か。クァールなんて魔物は聞いたこともないし、かなり限定した場所に生息しているのか?」

「自分も聞いたことはないっすね。でもこの艶やかで吸い付くような肌触りは凄いっすよ。上物の毛皮はいくつも触れてきましたけど、これだけ滑らかで柔らかい毛並みは他にないっす」

「確かに、かなり高そうな雰囲気はするがよ……身に着けると女性の魅力が1段階上がるって、なんだよこれ?」

「うーん……いつの時代かも分からない書物に載っていた情報みたいですからねぇ」


 言いながらも視線は、この場で唯一の女性であるおばちゃんに向く。

【鑑定】してもそんな情報は出てこないのだ。

 羽織ってもらえれば、何か分かるかもしれないが。


「やだよまったく、うちの王様ったら! そんな見つめられたって何も出やしないよ!」


 パシン!


「「「……」」」

「と、とりあえず、一番の問題は相場の分からないこれらをいくらで売るかっすよね」

「んだな。量は相当あるみたいだし、鉱物や他の魔物素材みたいに反応見ながらどんどん捌いちまうか?」


 パイサーさんはそう言うも、俺は大きく首を横に振る。


「いや、Bランク程度の魔物素材ならそれでいいんですけど、Sランク魔物は全種。それにAランク魔物も、このクァールと金色の羊は――そうですね、クアドとパイサーさんが予想する価格の、さらにその10倍の値段で売ってみましょうか」

「は?」

「10倍って……つまり売れなくてもいいってことっすか?」

「うん、それでも構わないよ。最初は表に並べる量も極少量でいいからさ。パイサーさんも、もし大口の注文希望が入ってもこの7種だけは難しいって断っちゃってください。何かあれば僕の名前を出しちゃってもいいんで」

「それは構わないが……理由は他国の軍事転用を恐れてか?」

「それが一番ですね。Sランクなんかはそう簡単に装備加工できないと思いますけど、それでも一部のドワーフとか、絶対できないってわけじゃないですし」

「確かにな」

「一番ってことは……あっ、もしかして市場価格の操作も狙ってるっすか……?」


 そう言うクアドは、この市場価格操作で破滅の一歩手前まで追い詰められているからなぁ。

 かなり不安そうな表情を浮かべているが、以前とは違うのだから勘違いしないでほしいところだ。


「うん。でも『米』の時とはまったく状況が違うからね。売れなければ素材を獲ってきた俺が困るだけ、誰に迷惑を掛けるわけでもない」

「それは、まぁ、その通りっすね」

「それにこんな上位の素材、仮に本来のあるべき適正価格が分かったとしても、間違いなく相当高いと思うよ。それこそ、普通に生活している町の人達じゃまず手が出せないくらいに」

「そりゃそうだろ。AランクやSランクなんて、装備素材で言えばハンター達の憧れ、大半の連中が一生掛けて目指す最終装備みたいなもんだぞ? そんなのがここに余るほどある方がおかしいんだ」

「素材は元から金持ちしか手を出せず、装備に流用される恐れもある。だから食料以外は極少量を高値で流してみて、まずは様子を見るって感じかな? 特にクァール、金色羊、孔雀、燃える竜。この4種の魔物は、もしかしたらここ数千年狩られていなくて、市場に一切素材が出回っていない可能性もあるからさ」

「はぁ?」

「え……ちょっ、それ、とんでもない話じゃないっすか!?」


 ゼオが孔雀と金色羊は今まで見たことがなく、クァールと燃える竜も上級ダンジョンでしか戦ったことがないと言うのだ。

 ダンジョンならば、魔物と対峙することはできても素材は得られない。

 つまりこの4種は《夢幻の穴》でしか素材を得られない可能性があり、ダークエルフ達の作ったオームが魔導国家プリムスに踏み荒らされて以降、新たに素材が調達されないまま今日に至っている可能性だって十分ある。

 ならば相場と呼べるモノが存在していない今がチャンスだ。

 希少性は維持したまま、まずは多くが吹っ掛けていると思われてもしょうがないほどの値段から食いつくラインを探る。

 あまりにも反応がないなら他所の狩場で出回っている可能性もあるし、それならそれでここを出入りする商人達が、値引き交渉の材料にあちらではこのくらいだったと情報を伝えてくるだろう。

 それまで売れなかったとしても金銭面で困るわけではないし、最終的に素材が余り過ぎれば仲魔達の餌にするだけ。

 もしバラ撒くにしたって、その素材が出回っても大した脅威とは思わず、より上位の素材が安定的に得られる状況になってからでも十分なはずだ。

 一つ懸念材料があるとすれば、ここのバックヤードに隠すべき大量の素材を置いておくことだが――。

 離れた森の中に新たな隠し置き場を作っても、補充が大変になるだけだしなぁ。

 それにここは入り口に黒象のギリコと、すぐ近くでリルも監視している。

 嵩張る魔物素材を窃盗なんてそう簡単にはできないだろうし、余っている結界魔道具をしっかり稼働させておけば、大抵の相手にはその存在も隠せるはずだ。


「それじゃ、また出かけてくるから、あとよろしくね」


 用事も済んだし、ダンゲ町長の所に寄って来訪者のチェックでもしたら少し寝て、あとは夜までマッピングを進めるか。

 そう思って店を出ようとすると、クアドに呼び止められる。


「そういえば、新奇開発所のアマンダさんが、ロキさんがここに来たら連れてきてくれって言ってたっす。トロッコと水着がどうのって」

「あ、ほんとに?」

「あとヤーゴフさんも用があるって言ってたっすね。たぶん、新しいギルドのことっす」

「ん?」

「ロキさんが自分で言ってたじゃないっすか、職業斡旋ギルド。あれ、ヤーゴフさんが初代ギルマスになって建てたんすよ? それで最近うちも何人か新しい従業員を雇ったっす」

「お、おぉ!」


 マジかマジか。

 かなり興味を持ってくれている雰囲気はあったけど、まさかあの人が直接動くとは思わなかった。

 それにトロッコと水着か。

 どちらも俺がお願いしていたことなので、そんな報告を受けてしまうと今からワクワクしてしまうな。


「それじゃ先にアマンダさんのところ行ってみるよ」


「あ、じゃあ自分も一緒に行くっす。トロッコの大きさとか聞かれて、こっちの要望も伝えてたんで」

「了解、お店は大丈夫?」

「俺っちがいない時はミザールさんに高級店任せてるんで大丈夫っすよ。あの人、最近魔石だけじゃなく宝石にもハマり出してるんすよね~」

「はは、忙しいだろうけどお給料は高いから、別の趣味でも見つけようとしてるんじゃない?」

「あーそれはあるかもしれないっすね。レイミーさんなんて、最近ワイン収集にハマって、出入りする商人に注文まで――」


 なんだかんだで、みんな楽しそうに生活しているならそれで良し。

 移動中にクアド商会で働くみんなのことを聞きながら、二人アマンダさんの待つ新奇開発所へと向かった。
534話 魔法学と魔道具作成

 かつては町の外れに広い土地を構え、その中心にポツンと存在していた新奇開発所。

 しかし今は敷地に大小様々な建物が建ち、外で何かの作業をしている人達の姿もチラホラと確認できる。

 そして目的の場所は、以前と変わらず用途の分からない物がそこかしこに転がり、アマンダさんを含む3人の女性が中で机を取り囲むように何かを弄っていた。


「こんにちは~」

「あら、ロキ君。よく来てくれたわね」

「お? それはネジですか?」

「そうそう、そうなのよ! 自由都市ネラスに質の良いネジがたくさんあるって分かってね。商人に取り寄せてもらったのがうちの試作品とどう違うか、今みんなで検証していたの」


 そういえば以前に案を出したことはあったけど……なるほど。

 自由都市ネラスには普通に出回っていたわけか。

 考えてみれば、あそこは【建築】レベルが突出した異世界人がいるしなぁ。

 となると張り合ってここでも作るべきかはなんとも言えないところだが、地図が繋がるようになって、こうして一部に留まっていた物や情報が少しずつでも広まっているのなら良い傾向だ。

 それこそコツコツとマッピングを進めてきた甲斐があるってもんである。


「ってロキ君の用事はこっちじゃなかったわね。トロッコと水着、試作品はできてるわよ」

「いや~それを聞いて楽しみにしてたんですよ」

「それじゃあ……ジュジュ、ロキ君を彼の所へ案内してもらえる? 私も準備できたらそっちに行くから」

「はーい」

「ん? 彼とは?」

「クレイブっていう、魔道具職人のことですよー」

「ちょっとお堅い青年だけど間違いなく優秀だし、慣れると扱いやすくて凄く良い子なの」


 そう言って怪しげに微笑むアマンダさん。

 なんだ?

 久しぶりに魔物臭がフワリと香った気もするが……

 気にせずジュジュと呼ばれた女性の後をついていくと、敷地内の別の建物へ。

 そこには俺自身も見覚えのある、眼鏡を掛けた20代半ばくらいの男性が、黙々と彫刻刀のようなモノで木を削っていた。


「クレイブさん、ロキ王様が来ましたよー」

「む、これはこれは国王陛下、このような汚らしい作業場にようこそおいでくださいました」


 そう言ってすぐに頭を下げ、膝をつこうとする目の前の男性。


「あー前にも言いましたけど、ほんと皆と同じように普通な感じでいいですからね」

「いやしかし、私を絶望の淵からお救いいただいた国王陛下に対し、さすがにそのようなことは……」

「えーとですね、どちらでもいいのではなく、普通にしてもらった方が僕は嬉しいんですよ。あまりにも堅苦しいのは疲れてしまうので」


 丁寧な対応をなかなか崩そうとしない人には、こう伝えるのが最も効果的だ。

 それが最近になってようやく分かってきた。


「うっ、そ、そこまで仰られるのでしたら……」

「それはさておき、ここまで連れてこられたってことは、トロッコを動かす送風魔道具ができたんですかね?」


 そう告げると、クレイブさんは待ってましたと言わんばかりに眼鏡を掌でクイッと押し上げる。


「ええ、強力な風を発生させる魔道具はほとんど出来上がっておりまして、あとはロキ王のお力をお借りできればとお待ちしていたのです」

「へ? 僕が?」

「はい。ロキ王は風を生み出し、森の木々を物凄い勢いで伐採していると聞きましたので、こちらに【風魔法】を宿してほしくてですね」

「宿す……?」


 首を傾げる俺の前で取り出したのは、鉄板のような薄い金属の板に描かれた――、おぉ、これは魔法陣か。

 ギルドカードと同じ、プレスして浮かび上がったように見えるそれは机いっぱいに広げられ、既視感のある幾何学的な文様が描かれていた。

 うーん……

 先ほどから理解がまったく追いついていないけど、目の前の男性はプロで俺はど素人。

 言われるがまま魔法陣に手を添え、レベル5と指定された【風魔法】を『大丈夫だから』言われて発動させる。


 ――【風魔法】――『風玉』


 すると本当に何も起こらず、代わりに魔法陣が反応を示すように黒い魔力を吸い込み、ほんのりと青く輝いた。

 まあ、それはいいとして。


「おぉ、これが噂の……よし、ありがとうございます。これでようやく魔道具が完成したので、早速トロッコに取り付けてみましょうか」


 流れるように、鉄板を別の木の枠に収めようとしているクレイブさんを見て、いい加減辛抱たまらずに待ったを掛けてしまう俺。


「ちょっ、ちょっと待ったー!」

「え?」


 できたのはいいが、さすがに何も分からな過ぎてこのままでは気持ち悪い。


「先ほどから何をやっているのかまったく分かっていなくてですね、軽く解説してくれませんか? 軽~くでいいので」

「それは構いませんが……ロキ王も魔道具制作に興味があるのですか?」

「ですね。って言っても自分で作ろうとか、そんな大それたことまでは考えていないんですけど、どういう仕組みで作られているのかなーって。原理とか構造に興味があるんです」


【付与】と同じ原理で魔道具は作られているのかと思っていたのに、想像していた工程とまったく違うのだ。

 作れる人が希少で話を聞く機会も簡単には得られないし、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。

 そんな熱い視線に気づいたのか、クレイブさんは笑みを浮かべながら頷き、その横でやり取りを見守っていたジュジュさんは「これ長くなるやつだ」と呟きながら頭を抱えた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「へ~だから素材を固い鉄板にしているわけですか」

「錆には注意しないといけませんけど、木材よりも遥かに保ちますからね。それにこのような威力の出る魔法を宿すとなれば尚更ですよ。持ち運ぶには便利な羊皮紙に同じ魔法陣を描いても、発動させた瞬間に千切れ飛んでまず不発に終わりますから」

「なるほどなぁ……想像以上に【魔法学】と、そこから繋がる【魔道具作成】って面白いですね。【付与】とは仕組みがまったく違くて奥深い」

「ロキ王に共感いただけるとは嬉しい限りです。なんでしたらこれを機に、かつて魔導王国プリムスが辿り着いたとされる【魔法学】の深淵を共に目指しませんか?」

「えっ?」


 なんか横のお兄さんがちょっと怖いこと言ってるけれども。

 でも少し興味を惹かれてしまうくらいには面白いというか、世界を一変させる可能性のある分野なんだろうなとは思えてしまう。

 なんせ【付与】と違い、【魔法学】を修めた<魔法学師>は起動式とも呼ばれる魔法陣を描くまでが仕事で、その魔法陣に魔法やスキルを宿す必要まではないのだ。

 その作業は該当スキルのレベルを満たしていれば別の誰かであってもいい。

 先ほど俺が行ったように、出来上がった魔法陣に実体となるスキルを宿せば、あとは必要魔力を込めるだけで誰でも発動できるようになってしまうし、魔法陣を器となる魔道具に組み込めば魔力消費を魔石で賄ったり、もしくは魔法陣だけでは発動のしようがない一部のスキルも発動することができてしまう。

 それこそファンタジーで夢のような道具が完成してしまうわけだ。

 まぁその分、耐久面とか大きさには常に悩まされるみたいだけど。

 手軽に持ち運べる羊皮紙に魔法陣を描き、剥き出しのまま【火魔法】を発動させるとどうなるか?

 そんなの高価な羊皮紙がすぐに燃えるし、【水魔法】であれば魔法陣がビショビショになって消えてしまい使い物にならなくなる。

 それに<魔法学師>の腕にもよるらしいが、高位の魔法やスキルほど魔法陣が複雑で大きくなるため、器となる魔道具だって巨大化して気軽に持ち運びができやしない。

 だからゲームのような『スクロール』としての機能は果たせず、大量の兵がそれぞれ大魔法の魔法陣や魔道具を持って突撃してくるなんてことはまずあり得ないらしい。

 代わりに固定砲台化した防衛設備としては、宿すスキル次第で恐ろしく優秀な力を発揮しそうだから、この分野は余計に興味も湧いちゃうんだけどねぇ……

 って、そういえばラグリースはそんな魔道具を所持しているって、昔貰った史書に書かれていたっけな。


「あ、ほんとにまだここにいたっすか。ロキさーん、もうアマンダさんも準備できてトロッコの所にいるっすよー」


 そんな妄想に浸っていると、クアドがこちらの建物に顔を出す。

 どうやら結構長い時間話し込んでいたっぽいけど、ベザートの今後にだって影響のありそうな面白い話が聞けたのだからしょうがない。


「了解、すぐ行くよ」


 そう伝え、丸い筒と木製の箱に起動させるためのレバーが付いた、小型大砲みたいな魔道具を抱えて俺達は外へ向かった。
535話 トロッコ発車実験

 案内されて建物の裏手に回ると、積み込みのし易さを優先したのだろう。

 背は低いけど幅と長さがある、荷車をだいぶ巨大化したようなトロッコが、俺が絵付きで伝えた30メートルくらいのレールの上で待機していた。

 背後にはこの大砲のような魔道具を備え付ける箇所が備わっており、稼働実験も兼ねているからかな?

 トロッコには木材がこんもりと載せられているので、既に準備万端といった様子だ。


「では早速、取り付けてきますので」

「お願いします。結構大きいけど、ちゃんと動いてくれるかな」

「上手くいけばトロッコを連結させて、2番、3番目に送風魔道具を設置するって案も出てるんすよ。なのでまずはこの1台でどれほど動いてくれるのか、ここからが見物っすね」


 そして準備万端はこちらだけじゃないらしい。

 横には包まるようにローブを羽織った女性が、不敵な笑みを浮かべながらこちらに視線を向けていた。


「遅かったじゃないロキ君、待ちくたびれちゃったわよ」

「あ、いやーすみません……ベザートの今後に大きな影響を及ぼす重大な話になりまして……」


 言いながらも、嫌な予感をひしひしと感じ、口がいつものように回らない。

 明らかに、肌を見せまいと隠そうとしているのだ。

 アマンダさんがこれから何をしようとしているのかは察しがつくし、ジュジュさんともう一人。

 助手の立場であろう女性が足元の丸い台座を押さえ、その上に堂々たる様子でアマンダさんが立っているわけで……

 こんなの、まるでお立ち台。

 この気合の入れように、想像を遥かに超える水着だったら俺の目はどうなってしまうのかと、今から視線を肩越しに漂う雲にでも合わせておくべきか悩んでしまう。


「いつまでもこの格好じゃ肌寒いし、あちらの取り付け準備をやっている間に私の方からお披露目しましょうか」

「ゴクッ……」


 クアドだろう。

 横で、唾を飲み込む音が聞こえる。

 異様な緊張感に包まれる中、バッとアマンダさんはローブを宙に放り――


「お、おぉ……?」


 ――その下に隠された姿が曝け出す。

 何かあれば、直接アマンダさんに遮蔽結界でもぶち込んでやろうかと思っていたけど、これは……


「あれ。なんか、普通に良いじゃないですか」


 拍子抜けしたというか、なんというか。

 アマンダさんは地球でよく見る、ビキニタイプの水着を着ていた。

 かなり際どいデザインだし、両手を自分の後頭部に回して、こちらへ見せつけるようなボージングをしていることにはちょっとイラッとくるけど、悔しいかな。

 なかなかスタイルがいいので似合ってしまっている。


「でしょう? 一番の自信作よ。ラグリースからスネークバイトの革を取り寄せて作ってみたの」


 ポーズを変え、大して主張していない乳を寄せながら答えるアマンダさん。


「いくつか案を出したのは僕ですけど、よく想像通りというか、上手く形にできましたね」


 この世界にブラジャーがあればなんてことはないのかもしれないけど、今まで悪党の私物や売り物を押収してきても、ネグリジェみたいなモノばかりで見たことがなかったのだ。

 だからこそ奇想天外な水着が生み出されるのではと警戒もしていたが……


「ふふ、噂になっている凄腕の服飾師にだって相談したんだもの。ロキ君もノアって女性、知ってるでしょ?」

「あ~そういうこと」


 この言葉を聞いて深く頷く。

 ノアさんが監修しているんならこの完成度も理解できるし、安心して見ていられるわ。

 ……そう思っていたが。


「ふぐっ」


 普段聞かないような声が横から漏れ、思わず視線を向けるも犯人はどう見たってクアドしかいない。

 プニプニした気持ちよさそうな両手で口元を覆い、アマンダさんの水着姿をガン見していた。

 尻尾が凄まじい勢いで回転しているので、これは嬉しいとかプラスの感情なんだろうな、たぶん。

 そして――、


 ガコッ。


 トロッコの方からも、変な音が聞こえる。

 目を向けると、鼻血を垂らしたクレイブさんがよろめきながら、それでもなおアマンダさんを食い入るように見つめていた。

 というか、手にかけているそのレバーの向き、マズくない?

 そう思った時にはもう遅く、大砲のような吹き出し口から勢い良く突風が噴出される。

 いやいや、近くにアマンダさん達がいるんだけど。


「あばばばばばばっ!」

「ひぎぃいいいいい!!」

「と、飛ばされるぅー!!」


 台座を支えながら地を這うように身を屈め、飛ばされまいと必死に耐える助手の二人。

 そしてアマンダさんは――なんだ、これは。

 腰を入れ、突風を一身に浴びながらもまだ台座の上で耐えていた。

 そこら辺の葉っぱや小枝に襲われ、髪の毛は空へ昇るように舞い、歯が剥き出しになるくらい顔がアバアバしているが、それでも震えながらポージングを維持しようとしている気合はいったいどこから来るのか。

 それになぜか、ここに来てお立ち台が回転し始めたことで、余すことなくアマンダさんの半裸を全方位から見せつけられる。


(くっそ……くだらないもん開発してやがる……)


 だが、アマンダさんは耐えても、近くの小屋が耐えられなかったらしい。

 バキバキと、勢いよく壁の木板が剥がれだし――


「あ」

「あばぁあッ!!」


 何枚かがアマンダさん達に直撃。

 3人の身体やお立ち台と一緒に、胸を覆っていた水着までヒラヒラと宙を舞った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「これはちょっと無しですね……」


 そう言った俺に、身体中に擦り傷を作った新奇開発所の3人とクアド、それにクレイブさんも悔しそうに頷く。

 トロッコは確かに進んだ。

 だが動きは非常にゆったりとしたもので、2個3個と連結しようものなら、今の出力ではまともに機能しないことはすぐに予想できてしまった。

 それに1台動かすだけでも周囲の被害が大きく、今回は小屋が破損し、直撃しないような場所に置いていた荷物や木製テーブルなどもどこかへ吹き飛んでしまっている。

 こんなのをバックヤードで使おうものなら、他の商品を破壊しながら進んでいく未来しか見えてこない。


「筒をもう少し上方に向けて出力調整を図るなど、改良の余地はあるかと思いますが……」

「結局、この『馬』が凄過ぎるのよねぇ」

「ブヒーン!」

「この鉄の棒が敷いてあるとだいぶ楽なんだろうな。まだ全然余裕だってよ」


 レールがあるならこれはどうかと、ベッグさんを呼んで試しに赤馬で牽かせてみたら、それはもう皆が唖然とするくらいスイスイと運んでしまったのだ。

 半日くらい平気で動くようだし、どう考えてもこちらの方が平和で現実的。

 バックヤードと売り場を繋ぐクアド商会の中と、あとは中央区と東区の農地を繋ぐレールを使った大型の運搬方法は、もうこれで決定しちゃってもいいだろう。

 そうなると、この大砲みたいな魔道具はどうするんだって話になるが。


「まぁ失敗して気付くこともありますし、これはこれで活用方法が他にありそうですしね」

「そうなの?」

「この辺りなんて風で飛ばされて凄い綺麗になっちゃいましたし、もう少し威力を弱めた魔道具に車輪付けたら落ち葉の集積とか町の掃除には役立つと思うんですよ。あとはこの強い風力を活かすってなったら――、やっぱり風車かな」


 言いながら皆の顔を眺めると、反応示したのはクレイブさん一人だけ。


「あの風でクルクルと羽が回るやつですか」

「ですです」

「羽が回るって、いったい何に使うの? っていうか、それはロキ君の世界だけじゃなく、ここにもあるものなの?」

「今のところテリア公国でしか見かけていませんけど、この世界にも間違いなくあるものですね。風で回る羽を動力に換えて、単調な動きを繰り返す装置って言えばわかりやすいですか? 風があればずっと回転させることができるので、粉挽きとか絞り油、大量の果実を絞ったりもできるでしょうし、あとは伝わるか分かりませんけど遠心分離機としてハチミツを抽出したりもできるはずですね」


 他にもできることは多いのだろうけど、なんとなくのイメージだけで詳しいことまでは分からないしな……

 あとは延々木の棒でペシペシと叩くこともできるはずだから、洗い物を置いて洗濯機の代わりくらいにはなるかもしれないか。

 うーん洗濯屋……ついでにクルクル回して乾燥させちゃうコインランドリーもこの世界なら仕事になるか……


「作れさえすれば、いろいろと応用が利きそうっすよね」

「確かに……人のいない所ならさっきの魔道具を使っても支障はないわけだし、今度奥の空き地で試してみようかしら。その時はクレイブ、あなた風車を知っているみたいだし協力してくれない?」

「も、もちろんですよ! 私にできることなら喜んで!」

「……」


 あ、あらら?

 まさかここで、いかにも真面目そうなクレイブさんとアマンダさんがくっついたりするのだろうか……?

 いや、いいけど。

 全然いいんだけど。


 しかし、可能性が高いかなと思っていたら、やっぱりそうか。

 顔を赤くしながらやる気になっているクレイブさんを見て、たぶんこの人はテリア公国から逃げてきた人なんだろうなと。

 そんなことを思いながら、ベザートのトロッコ運搬計画にGOサインを出し、俺はヤーゴフさんの所へ向かった。
536話 職業斡旋ギルド

 ベザートの町の南寄り。

 と言っても今はこの辺りが町の中心部だろうという場所に、3階建ての『職業斡旋ギルド』は存在していた。

 中に入ると、ムワッと熱気が漂うほどロビーの一角は人で溢れており、5つある真新しいカウンターにも人の列ができている。

 見覚えのない顔ばかりだし、ロズベリアの奴隷とはまた違う移民の人達っぽいが……


(みんなが見ているのは――あぁ、日雇いね……開拓者の大規模な募集か)


 人が増えれば見合った土地が必要なわけで、少しずつ中央の居住区が南に拡張されていることは知っていた。

 伐採に木材や石材の搬出、整地など。

 今までやっていた道の石畳計画以外にも様々な仕事が載っており、決して高給とは言えないが、数日働けば個室の国営アパートが借りられる程度にはお金も稼げるらしい。

 これならご飯は教会からタダ飯が出ているので、この町で暮らすだけなら余裕だろう。

 そして、横には長期雇用向けの木板もいくつか貼られていた。


『今までの経験、培ったスキルを活かしたこの町の仕事を紹介します。詳しくは受付カウンターまで』


 ご丁寧にこのような案内板までデカデカと貼りだされているので、これを見てみんな自分の情報を登録しているんだろうな。


 賑わっているロビーを横目に、俺はそのまま3階へ。

【探査】の反応が示すままに奥の一室で声をかけると、聞き慣れた声が返ってくる。


「ロキか。待っていた、入ってくれ」

「遅くなりました~」


 言いながら部屋の中を見て、思わず苦笑いしてしまう。

 ハンターギルドの時と同じかそれ以上だな。

 大量過ぎる木板に囲まれ、仕事以外の要素がこの部屋にはまったく見当たらない。


「相変わらずですね」

「まったく、あまりの忙しさに目が回りそうだ。異世界人の名が及ぼす影響は凄まじいものだな」


 そう言いながらも、ヤーゴフさんは珍しく笑っていた。

 この人以上に町の拡大を実感できている人は、いてもダンゲ町長くらいだろうしなぁ……


「まさかヤーゴフさんが直接動かれるとは思いませんでしたよ。ハンターギルドの方は大丈夫なんですか?」

「向こうはサブギルドマスターのイリーゴに任せている。ロキも面識くらいはあるだろう?」

「ええ、数度会話をしたくらいですけど」

「数が多いとは言え魔物の処理に専念させているのだから、こちらよりは遥かにマシなはずだ。それにまだ、正式にギルド本部から認可されたわけでもないしな」

「たしか視察には来ていたんですよね?」

「ああ、あまり国や領主には興味を示さない連中が、珍しく幹部まで連れてロキに会いたがっていた」

「え?」


 なんだ?

 ハンターギルドの本部に知り合いなんていないはずだけど。

 疑問に感じて首を傾げていると、ヤーゴフさんは溜息を吐きながら答えてくれる。


「ロキがハンターだからだろう。そしてクアド商会ができてから、ギルドに素材を卸す機会がめっきり減った。違うか?」

「あ……」

「良質な素材が得られていた大陸西部の狩場は、国による独占という形でいくつも封鎖されているんだ。現場が参ってしまうほど素材を卸すロキの存在は、ギルド本部にとって相当有難かったはずだ」

「そういえば、Sランク狩場の1つが帝国に占有されているって、ロズベリアのオムリさんも言ってましたね」

「帝国に所属する人間でなければ立ち入ることができず、素材も制限が掛けられ滅多に表へ流れてこない。となれば、本部がロキに様々な期待を寄せてしまうのもしょうがないと言えるが……その全てに応える義理も責務もロキにはない」


 だから、視察時に俺を呼ばなかった。

 そう言わんばかりになんとも言えぬ表情を浮かべたまま、手元の冷めていそうな紅茶に口を付けたヤーゴフさんを眺めつつ、さてどうしたものかと思考は巡る。

 と言っても、ハンターギルドは今の段階じゃ答えに悩む必要もないか。

 確かに俺が大量の素材をギルドへ卸せば、その地域を中心に資源が回り、多少なりは豊かになるのかもしれない。

 希少素材となれば尚更だ。

 だが、知り合いやこの国の人達が豊かになるならまだしも、その影響を受けるのは欠片も接点のない赤の他人。

 わざわざクアド商会という基盤を作ったにも拘わらず、各地に素材をバラまき高値で捌くチャンスを棒に振るなんてバカげているし、精々俺に損がない程度で、ジェネやウィグに食わせている餌の中でも需要の高い余り素材があれば、それはしっかり省いて他所に流していこうという程度で十分だろう。

 だが、問題は帝国だ。

 ゼオから《夢幻の穴》の城内にいる魔物情報は確認しており、見覚えのない魔物や上級ダンジョンにいた魔物とは別に、素材として活用していた魔物の狩場情報も聞いていた。

 ゼオはフェンリルと言っていたが、青白い狼は大陸北東のSランク狩場に。

 アースドラゴンは大陸西部のSランク狩場に生息していると、確かにそう言っていたのだ。

 帝国が独占できていると思っていた高位素材が、なぜか市場に流れ出す。

 となれば、アースドラゴンの素材を売り出すことで反感を買う恐れはあるだろうけど……


(この手のタイプは変に気を使えば、余計調子に乗るだけだろうしな)


 帝国の気質を想像すると、どうしてもそんな結論に行き着いてしまう。

 近くに土地があるというだけで奪い、我が物としただけでなく独占して利益に繋げているわけで。

 そんな図々しいやつらに遠慮なんて、ジッとしているのでもっと毟り取ってくださいと言っているようなもの。

 そもそも俺は相手のテリトリーに踏み入って何かをしたわけではないし、全ての素材を得ているわけでもないのだから、これでイチャモンをつけてくるようならそれこそ『悪』でしかなく、そんな害虫は殺処分してしまった方が世のため人のためってもんだろう。

 結果的にその選択がベザートの住民を危険に晒すかもしれないが……

 土地を求めて侵攻を続けている以上、遠慮をしたところで結末は同じ。

 それに稼げる時に稼いでおかないと、俺がこの町にお金を落とすこともできないしな。


「ちなみに、仕事は足りていますか?」


 そう、まず何よりも見るべきは自分の足元だ。

 表に出ている長期雇用の募集はさほど量があるわけでもなかった。

 不足しているのなら、先ほど思いついた洗濯屋のように、他にも無い知恵絞って仕事に繋がりそうな案を捻り出すべきかと構えていたが。


「いや、逆で人手が足りていない。だからこの形がロキの想定している『職業斡旋ギルド』と相違ないか確認しておきたいのとは別に、この件も相談できればと待っていたのだ」

「ん……んん?」


 まったく予想外の言葉が飛び出てきたせいで、なんと返せばいいのか、言葉に詰まってしまう。

 下には人がいっぱいいたけど、そんな大規模な工事でもしようとしているのか?


「税を無くした影響が徐々に広まっているのだろう。この地で商売を成そうと考えている者が多く、人材を求める声に対して|技能《スキル》が追い付いていなくてな」

「あー……つまり、即戦力を求めているってことですか?」

「そういうことだ。早い段階で地盤を固め、他所を出し抜きたい。誰も彼も考えることは同じらしい」

「なるほど」


 知識と経験のある優秀な人材は取り合いになり、箸にも棒にも掛からぬ人達は日雇いで食い繋ぐ。

 地球にいた頃を想像すれば、それもまたあるべき姿なのかもしれないけど……

 俺自身がいくら努力を重ねようとも抜け出せず、ただ生きるために心を殺して藻掻いていた立場だからこそ、なんとかできないものかと考えてしまう。

 完全になんて、そんなのは無理だと承知しているけど、それでも才能に恵まれず、出遅れてたまま道が閉ざされている人達に少しでも光が当たるのならば――


「学校……養成機関、ですかね。今、この町に必要なのは」

「ふむ。具体的な中身は?」

「そう難しいものではありませんよ。一定の費用を支払えば誰でも通える、専門の技能を身に付けるための施設だと思ってもらえれば。【建築】でも【裁縫】でも、それぞれの分野で得意とする講師を雇い、学びたい人達に通わせればいいわけですよね?」

「なるほど……ロキが見慣れぬ服を着て、貴族院に通いだしたという話を耳にしていたのでな。話が早くて助かると言い掛けたが、誰でもということは、つまり若い連中だけではないということか」

「ですね。あの給金なら日雇いでもちゃんと働けばお金に余裕は生まれますから、そこから抜け出すために授業料を払ってでも、新たに技能を身に付けたいと思うかは人それぞれ。やる気のない人を救う義理はありませんけど、やる気があるなら大人であろうと老人であろうと、新しく道が開けたって良いと思うんです。集まった授業料の一部を講師の雇用費や維持費などに充てれば、差分はまた別の形で国の収益になりますし、技能の優れた人間が多く生まれれば、それもまたこの国の財産になりますしね」


 貴族院でも近いことはやっていたけど、本当にその手の技能が必要なのは、身分という絶対的な武器のない庶民の人達だろう。

 それに子供だけなんてもったいない。

 そもそも絶対数が少ないし、即戦力が欲しいというのにいつ働けるんだという話になってしまう。

 大人だからこそ現実を直視し、本気で学びにくる。

 即戦力が欲しいなら分母は多いに越したことはない。


「となると、問題は教えられる人材の確保か」

「ええ、そこは適任者が見つかった分野から少しずつ始めていくしかないと思います。でも、結構面白いと思いますよ。広大な土地にいくつもの専門施設が立ち並ぶ、年齢も種族も関係のない学校。西区の奥に作っても、今ならトロッコ輸送での移動だって実現可能ですしね」


 初期費用くらい、先行投資だと思って俺が出すのだ。

 あとは教えられる人材がどれほど集まるのか。

 マイナーな仕事やスキルほど時間は掛かるかもしれないけど、幸い移民者が真っ先に顔を出す職業斡旋ギルドは既にできているわけで、ここで大体的に公募すれば少しずつでも人は集まってくれるだろう。

 いざとなれば、俺がどこかで勧誘したっていいわけだしね。

 ただし――


「もしそんなものを作ったら、今まで以上にヤーゴフさんは忙しくなると思いますけどね」


 まず間違いなく、訪れるであろう未来。

 一応、忠告はするが。


「くくっ、面白い。音を上げたくなるほど多忙極まる発展がこのベザートに訪れるのならば、それこそ私の本望というものだ」


 そう言って、やはりヤーゴフさんは笑っていた。
537話 公都調査

「えーと、ここに並べている野菜を一通り頂けますか? 差し支えなければ、今ある在庫の半分くらい」

「えっ? 今、なんて?」

「だから、一通りの野菜を在庫の半分くらい買うことはできますか? 支障があるようでしたら、問題ない範囲で構いませんので」

「な、ないない! 丸ごと買い取ってくれたって何も支障はないよ!」

「あ、そうですか? じゃあ全部いっちゃいましょうか」

「ぶっ……ほんとに?」

「お、おいおい、そこの旦那ぁ! うちのも見てってくれよ。この辺で取れた新鮮な果物だって一通り揃えてるし、アルバートから入ってきた食い物だって多い。纏めて買ってくれるなら安くしとくぜ!」

「ん~じゃあ地場の食材だけ纏めて頂こうかなぁ」


 ここはテリア公国の中心部にある公都『ベレーザ』。

 その一角にある一番大きな市場で、それぞれの値段を改めて確認しながらいつものように買い物を行う。

 傷みやすい葉物も多いが、クアド商会で売れ残っても最後は教会とボーラさんがまとめて調理してくれるので、大量に買い込もうとまず無駄になることはない。



 この国で動き始めてから1ヵ月弱。

 ようやくマッピングも完了し、あとは恒例となる国の中心部を見て回ればテリア公国の旅も一区切りだ。


「お待たせ、リステはもう大丈夫?」

「はい、周辺の食材や雑貨は見て回れましたので」


 そう言いながらも、スルスルと俺の腕に手が伸びる。

 普段はあまり表情を崩さないリステだけど、今日は心なしか嬉しそうだなぁ……


「ごめんね、あまり上台地に顔出せなくて」

「何に夢中になっていたかは、下の様子を見ていればすぐに分かりましたから。それにこうして、私が託した地図の作成を進めてくれているではないですか」

「そこはまぁ、好きでやっているっていうのもあるし、特にテリアは気になることが多かったからさ」


 話しながら俺とリステの視線は周囲の街並みに向く。

 どこに立ち寄っても大なり小なり見られた姿だが、特にこの公都は、それが酷い。


「見覚えのある光景ですね」

「でしょ? リステなら分かると思うけど、全体的に物価は高いし、路地は浮浪者が溜まってどんよりしてるし……旧ヴァルツの王都『エントラ』と近い雰囲気があるよね」

「ええ、あそこまで酷いわけではありませんが……」

「この国はどこの町に行っても似たり寄ったりだったよ。貧富の差が激しいっていうか、表と裏の差が大きいっていうかね」


 食べ物はあるし、生活に必要な物資だって十分売られている。

 ただそれらがしっかりと住民に行き渡っていない。

 少し外れた薄暗い路地には痩せた人達が地べたで何人も寝ているのに、大通りは綺麗な身なりをした人が屋根のない豪奢な馬車に乗り、そのような光景を気にも留めず談笑に花を咲かせていた。

 それに――。


「この辺りは、お店自体が開いていないのですね」


 散策していると、通りは大きいのに物寂しく陰気な雰囲気が漂う、シャッター街のような場所が見つかる。

 建物の入り口には、似たような印の看板が未だに多く掲げられていた。


「ここがテリア公国の主要産業、<魔法学師>と<魔道具技師>が集まっていた場所の一つだろうね。旅をしながら情報を拾ってたけど、かつては【魔法学】を研究する4つの大きな流派が存在していたみたい」

「【魔法学】というと、魔法陣ですか?」

「そうそう。魔道具を生み出すための基礎であり要の、丁度リアがドハマリしているアレ」

「なるほど。しかし今はこの有様……その一角が潰えてしまったわけですか」

「一角じゃなく、全部ね。4つの流派全てが異世界人のマリーに奪われた――って多くの人は言うけど、話を聞いていると実際は荒事もありきの買収になるのかな。あっさり国を出た流派もあれば、最後まで抵抗して、一部が西や北へ逃げたって流派もあったみたいだから」

「そうですか……」


 この国は獣人もチラホラと見かけるが、9割の種族は人間だ。

 裏で属国にした後なのか、それとも前からなのか。

 それは分からないが、特定地域に種族単位で根を生やし、大規模な鉱山も身近にあったドワーフ達とは状況が違うのだから、人材と環境を丸ごとを自国内に抱え込んでしまった方がマリーとしても安心できたのだろう。

 どちらにせよ、テリア公国の主要産業はゴッソリと引き抜かれ、蛻の殻にされた。

 狩場も一番高くてCランク程度だし、こうなるともう、他に優位性を保てないテリアに抗うすべがない。

 ゼクオン将軍が言っていた通り、あとは人材の確保を目的に飼い殺す人間牧場の出来上がりだ。

 ――と、不意に回されていた腕の力が強まる。

 視線を向けると、不安げな表情を浮かべたリステがこちらを見つめていた。

 そのことに気づいて、すぐに表情を緩める。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」

「いえ……フェリンからも、その異世界人の話は聞いていましたから」

「そっか……」

「やはり次は、その問題の国を?」

「そうだね。何かあった時にはすぐ動けるようにしておきたいし、それこそ今までの国とは違って丸裸にしてやろうかなって」


 ガルムでは明らかに標的を俺に変えてきたのだ。

 このくらいやり過ぎということはない。

 ただ――、と、言葉を続ける。


「安心してよ。いきなり戦争をおっ始めるとか、そんなつもりじゃないからさ。まずは目的のマッピングついでに敵地の視察をして、ついでにマヨネーズとかソースも調達しようかなって」


 そう笑いかけると、リステは自らの手を口元にあて、あっと小さく声を漏らす。


「そういえば、ロキ君がかつて言っていましたね。東の商人から情報を得たことがあるとだけお伝えしましたが、それも次の国に?」

「うん。うちの怖い料理長ボーラさんが、アルバートから流れてきているはずだって」

「そうですか。ふふ、ジャガバタでしたっけ。ようやくロキ君の夢が叶いますね」

「そうなんだよね~。それに優秀な人材をかき集めているってことはさ、他の分野でも面白い発見ができそうじゃない? それこそ見たこともない魔道具とか、あとは凄い薬とか。それに海にも面しているはずだから、そっちもかなり楽しみなんだよね。海産物とか海の魔物とかさ!」


 何もマリーを潰すための準備だけしに行くわけじゃないのだ。

 楽しみにしていることだって多くある。

 そう伝えると自然とリステにも笑みが零れ、その姿が見られたことで俺もホッとしてしまう。

 こうして二人で出歩く機会はそう多くない。

 せっかくであれば、こんな時くらいリステが笑っていてくれる時間であってほしい。

 だからこそ――

 その前に飛び切り危険なことをするとは言えないまま、市場調査も兼ねた公都の探索は続けられた。
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3巻の原稿も終わってストックも少し余裕ができたので、20~30話分くらいは更新頻度を増やすと思います。
その時の気分で投稿するので不定期で、暇な正月辺りにでも楽しんでください。
538話 オリハルコンの武器

 商業ギルドのワドルさんに7か国目の地図を渡した後。

 下台地の資材倉庫に向かうと、目的の人物は見慣れない形状の剣を眺めながら何かをしている最中だった。


「おっ、それは誰用?」


 随分と幅のある、湾曲した1メートルほどの剣。

 金緑色に輝くそれは、形状で言うならマチェットに近い。


「ああ、ジェネがSランク魔物の解体に苦労していたから、どうせなら俺の修行も兼ねて、専用の武器でも作ってやろうかと思ってな」

「なるほどね。解体用の武器にしてはめっちゃ豪勢じゃん」


 笑いながらそう言うと、ロッジは苦笑いしながら肩を竦める。


「アダマントの素材を余らせているなんて、大陸広しと言えどここくらいだろうからな。後で届けてやってくれ」

「了解、ありがとね。それで、俺が依頼していた方だけど……」


 言いながらも視線を彷徨わせるが、それっぽい色味をした武器は見当たらない。

 やっぱり難しかったのかな。

 そう思ったわけだが。


「もちろんできてるぞ」


 と、布に包まれた武器を脇から大事そうに抱えるロッジ。

 ゆっくり捲ると、鉱物の時よりも透明感の増した、青白い細身の長剣が姿を現す。


「まだもう少し、本来の性能を引き出せそうな感触はあるが……コイツが今俺の打てる最高の武器だ」

「おぉ……なんというか、凄い綺麗だね……」

「ああ、だが中身は凶悪だぞ。硬度や靭性は魔鉱《ミスリル》辺りじゃ比較にもならないし、ゼオに少し協力してもらって調べてみたら、魔力の伝導率は驚くほど低かった」

「んん? それってどうなの?」


 思わず頭に疑問符が浮かび、首を傾げてしまった。

 ニュアンス的にロッジは伝導率の低さを利点のように語ったが、比較対象として出てきたミスリルは、その魔力伝導率の高さを長所として、当時パイサーさんから説明を受けたような気もする。

 この疑問に、ロッジは短い腕を組みながら軽く頷く。


「どっちが良い悪いって話じゃねーが……伝導率が低けりゃ魔力は通しにくいんだから魔法に対しての耐性は上がる。だが魔法の威力を増幅させるための媒体としては向いていないから、特に杖はオリハルコンを使う利点がない。火や氷なんかを乗っけた属性付与も不向きな素材だろうな」

「あーそういうこと……じゃあちょっと試してみようか」


言いながら、目の前の青白い剣に向かって手をかざす。

気になるのは、今ロッジからも話が上がった【付与】の個数だ。

いくら切れ味が鋭くても、伝導率の低さから付与があまり乗せられないとなると、扱いが少々面倒なことになる。

できれば最低でも2つ。

理想を言えば、このほぼ最高ランクに近い素材なら3つの多重付与ができればと、そう願って唱えるも。


「……駄目だ。2つまではあっさり付いたけど、3つ目がまったくだね」

「ふむ。今までと同じような反応か。この素材で『定着』って状態にも入らないとなると――、俺がまだ性能を完全に引き出せていないからかもしれないな」


そう言ってロッジは申し訳なさそうに顔を伏せるが、それはたぶん違うだろう。


「いや、俺の【付与】がまだレベル5だから、どう考えても足を引っ張っているとしたらそこだよ。まあ最低限2つ付けば現状維持だし、そこはいいんだけど」


【付与】をレベル7までもっていけば、確実に三重付与が実現するというのなら今この場で迷わず上げる。

だが、惜しいという感触も得られていないこの状況なら様子見だ。

オリハルコンの装備はまだこの1つだけだし、何よりも優先して【転換】のスキルレベルを上げた方が、最終的には目指す先に一番早く近づけるしな。


それよりだ。

手に取り軽く振ると、この武器の異常さがすぐに分かる。


「……この武器、かなり軽くない?」

「ああ。鉄やアダマントよりもだいぶ軽いくせに硬いんだから、特に鎧や盾なんかを作れば、それこそ物理と魔法の両面に強い、近接職の理想を詰め込んだような装備が生まれるはずだ」

「へ~良いじゃない。絶対作ってもらうわ、オリハルコンの鎧」

「だったら早く素材を集めてこい。全身ってなると、この長剣に使った素材量の10倍以上は必要だけどな」

「あの、1年くらい待ってもらえますかね……?」


 一瞬、他にもやることを考えたら1年程度じゃまず無理じゃない? って思ったけど、防具に関してはダンジョン産の特殊付与装備もないのだから、これがほとんど最終装備みたいなものだろう。

 ならば時間が掛かってもしょうがない。

 コツコツと素材を溜めていくその工程も楽しもうと俺は気持ちを切り替え、ロッジに礼を伝えたら裏庭に回った。


 そして――。


「あ、主からの賜り物……ッ!? ウォオオオオオオ!!」

「あ、主!? 我のは……我のはないのか!?」


 武器を天に掲げ、魔物なのに横で涙を流しながら大喜びしているジェネと、自前の爪で十分硬い皮も切れるのに、嫉妬して首を振り回しながら唾を飛ばしてくるウィグ。

 そんな2匹の横で、溜まりに溜まった穴の中身を眺める。

 グリムリーパーが生み出される、《嘆きの聖堂》に合わせて作った穴は、『魔物用』が既に満杯を超えて溢れるほどに。

『人間用』は6から7割ほどの骨が溜まっていた。

 ふーむ、魔物の方は倉庫にも骨が大量に置かれていたので、だろうなと分かっていたが……

 人の方は、ガルムの内乱で悪党の死体を相当数ここへ運んできたというのに、骨だけになると案外少なくなるものなんだな。

 となると、現状試せる選択肢は3つ。

 さて、まず何からいくべきか。

 悩んでいると背後からカルラの声が響く。


「そんなとこに座って何してるのー?」

「そろそろ裏ボスに挑もうかと思ってさ」

「裏ボス?」

「あーと、魔宝石を所持する魔物って言えば分かる? ゼオが昔に倒した経験あるみたいだけど」


 そう伝えると、カルラは軽く頷く。


「うん。どこかに出てるの?」

「いや、成功するかは分からないけど、可能性のあるパターンを試して出現させようかなって」

「へ? わざわざ自分で生み出そうとしてるの?」

「そう。倒せば、間違いなく俺は強くなれるはずだし、魔人の消息にも一歩近づけるかもしれないから」

「そっか……」


 そう呟いたカルラは、静かに俺の横へ腰を下ろすと、同じように穴の骨を見つめる。

 間違いなく賛同はしていないであろう重苦しい空気に、なんと言葉を掛けようか少し悩むが……


「ロキ、死なないでね」


 体育座りをしたまま、顔だけをこちらに向けたカルラの言葉に、俺は当たり前だと言わんばかりに大きく頷く。


「慎重に慎重を重ねて、自分自身が納得できる強さに到達するまでずっと我慢してたんだ。当然、死ぬつもりなんかないよ。ベザートの町だってあるし、ゼオに血もあげなきゃだしね」


 そう伝えると、一度視線を逸らし、少しの間を置いてカルラも口を開く。


「……師匠のことが心配っていうのもあるけど……僕も今のこの生活が、凄く楽しいからさ」


 この言葉に一瞬虚を突かれたが、自然と笑みを浮かべてしまう。

 カルラはゼオのためについてきたという印象がどうしても強かった。

 でもこうして本人の口から今の生活が楽しいなんて言葉を聞いてしまうと、壊さないようにしなきゃという感情が余計に大きくなる。


「そっか……なら尚更に死ねないね。ふふふ、覚悟しててよ? 見たこともない魔物を回収してくる予定だからさ」

「え~それ解体しろってことでしょー? 硬いのは凄く手が疲れちゃうんだよなぁ……ウィグにやらせてもいい?」

「だめ! 見なくても大雑把なのが分かるから!」

「あ、主ぃいいい!?」

「お任せを。賜ったこの宝剣で、私がどんな魔物でも解体して――」


 あれ、ジェネってこんな喋り方だったっけかな……

 背後から聞こえる声にそんなことをふと思いながら、瞳を瞑り、大きく呼吸を吐いて再び思考に耽る。

 絶対に死なない、死にたくはない。

 だが、強くありたいという欲求は止められず、いつかどこかでこの大きなハードルを越えなければいけないことなど、初めてキングアントという怪物を目の当たりにした1年以上も前から分かっていたことなのだ。

 リルとの模擬戦を行い、Sランク狩場でさらに己を高め、オリハルコンの武器と、それに一度はリルに壊されたけど、また改めて作ってもらったボス素材の防具があればもう十分。

 今がその時だろう。

 あとは何から試していくか……

 周囲への影響も考慮しつつ、一人覚悟を決めながら挑む順番を決めていった。
539話 何が生まれるのか

 仮眠を取り、魔力と体調を万全にした俺は、ジュロイ王国内にあるBランク狩場。

《嘆きの聖堂》の敷地内に建てられた宿屋へ向かっていた。


「――というわけで、リュークさん。念のため、一時的に避難してもらえませんか? 送迎は僕がやりますし、向こうの飲食代や宿泊費も全てこちらでもちますので」

「それは構わないが……本当に一人でやるのか?」


 既に少し酒が入り、ほんのり顔を赤くした副隊長リュークさんが、困惑した表情で問いかける。


「完全受肉体の強さが分からない以上、それが一番安全でしょうから」

「いや、でもそれだとロキに何かあった時はどうするんだよ」

「最悪、僕一人なら上空に逃げられますし、時間さえ稼げればその場からの離脱もできます。ただ周囲に人がいれば、迂闊にそのような行動も取れなくなるんです」

「それは確かに、そうなんだろうけどさ……」


 かつては共闘もしているのだ。

 隊長であるアウレーゼさんから裏ボスに関する話も聞いているようで、本気で心配してくれているのは分かるけど……

 だからといって、参戦というのはさすがに現実的じゃない。


「今回は確実に生まれることが分かっている完全受肉体と、それにもう1パターンも試します。初回だからこそ何が起きるか分からないので、今回だけはお願いしたいんです。どうなったのか、結果はそれぞれ報告しますから」


 利用している狩場を夜間とは言え、占有するために移動してもらうわけで。

 頭を下げると、リュークさんは大きく息を吐きながら首を振った。


「はぁ……分かったよ。ただ、ロキ。隊長が話してくれた計画は俺も面白そうだなって思ってるんだ。こんなところで死なないでくれよ」

「ん? 計画?」

「あれ、聞いてないのか? 隊長は裏ボスの情報を広く集めるためにも、|組織《クラン》を立ち上げようと各方面を回っているんだ」

「へえ、そんなことを……」


 まったくの初耳だが。

 しかしボスに強い興味を示すアウレーゼさんなら、そのような行動を起こしていても不思議ではない。

 まぁそのうちまた会えるのだから、その時にでも本人から詳しく話を聞けばいいだろう。

 それよりも今は、目の前のハードルを越えることに集中する。


「安心してください。何が生まれるかは分かりませんが――、どちらにせよ、一人であれば本気でやりますので」


 そう告げると、リュークさんは一歩後退り、俺を見つめながらゴクリと喉を鳴らした。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 奥にある宿屋と、それに入り口にある宿屋も、滞在していた人達はまとめてジュロイ王国の王都フォブシークへ移動してもらった。

 狩場にも人がいないことは確認したし、深夜のこの時間帯にわざわざこんな不気味な場所で狩り始める者もまずいない。

 これで少なくとも周囲5kmほどは、俺以外に人なんていないだろう。


「さて、それじゃいくか」


 付近の魔物を掃除してから一人呟き、まずは一番不発に終わる可能性の高そうな『外部の魔物の骨』を放出していく。

 溜め始めた時期や骨の大きさを考えると、ヘルデザートに生息していた魔物や、拠点周辺のAランク魔物。

 あとは《夢幻の穴》の『草原』や『城下町』にいた魔物の骨が大半だろう。

 FランクからAランクの、【甦生】スキルを持たない魔物を投入すると果たしてどうなるのか。

 何も起きない可能性が最も高く、仮に起きても素材の質という観点から事故が起きる可能性は極めて低い。

 そう思っていると――


 ゴゴ……ゴギギッ……ボギ……ギゴゴゴッ……


「いけたか……」


 ――かつてと同じように、骨を擦り潰す不気味な音を奏でながら、祭壇とも呼べそうな穴が淡く光り始める。


 作動はした。

 ならば第一関門は突破だ。

 あとはここから、何が生まれるのか。


 ――【気配察知】――

 ――【魔力感知】――

 ――【身体強化】――

 ――【忍び足】――

 ――【魔力纏術】――魔力『5000』


 念のための長期戦も視野に入れ、消費を抑えたこの段階からまずは様子を見る。

 そう判断して【広域探査】を使用しながら様子をうかがっていると。


「……いた」


 かつて見た姿形とは違う。

 以前よりも小さくて歪な、グリムリーパーかも疑わしい存在が壁面を這うように移動していた。
540話 次に繋がるヒント

「ふーむ……どうしたもんかな……」


 目の前に転がる、体長5メートルほどの骨の塊。

 グリムリーパーとも違う、この謎の魔物を眺めながら一人唸る。

 当たりだがハズレ。

 この魔物を表現するならまさにコレで、狙いは外していなかったわけだが、コイツ自体は気合を入れたのが馬鹿馬鹿しくなるくらいに弱かった。

 スキル構成を覗いてもグリムリーパーの超劣化版といったところで、わざわざ他所の骨を集めて反復する利点は見当たらず、この骨も強度や大きさを考えればさほど価値があるとは思えない。

 これが、この狩場特有のスキル【甦生】を所持しない魔物を放り込んだことによる弊害なのか。

 それともSランク魔物の骨で統一すればもっと大きな変化が起きるのか。

 それは分からないが……


「ん~やっぱり最低限、『肉』を付けさせなきゃダメなのかな?」


 そう呟きながら魔力残量を確認し、全快になったことを確認してから次の準備に入る。

 放出し始めたのは、前日にここで回収したBランクの魔物達だ。

 特に腐肉の塊であるトロルデッドを中心に狩りまくったので、これなら肉が足らないなんてことはまずないだろう。

 こちらは確実に強化版が生まれる。

 あとはそこから、進化を遂げるのかどうか。

 再び自己バフを掛けながら戦闘準備に入り――


「チッ……これもハズレか」


 ――天井に張り付いたグリムリーパーの姿を確認し、思わず舌打ちが漏れる。

 腹部はもちろん、頭部から多脚に至るまで、鋭利な爪以外はしっかりと腐肉に覆われており、骨は見える範囲で一切露出していない。

 しかし、スキルを覗くとかつてのグリムリーパーが所持していた内容と同じ構成。

 スキルレベルも違いが見られず、狙いは失敗に終わったことを理解する。

 ただ強くなっただけ――、そんなボスになんの需要があるというのか。


「くそっ!」


 あくまで本命は3つ目だと分かっていたけど。

 それでも腹いせに、俺は腐肉で覆われたグリムリーパーの頭を全力で蹴り飛ばしながら、ほかの選択肢を模索した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ただいま~」


 朝、リュークさん達を元いた宿屋に送り届けてから下台地に顔を出すと、皆が食事を摂っている最中だった。


「あ~その顔は絶対空振りした時の顔だ。ボク分かるんだからね~」


 カルラがグラスに並々と入った血を飲みながら面白そうに言う。

 はぁ……

 カルラに突っ込まれるほど顔に出ていたとは。

 でもしょうがないだろう。

 何か起きるかもと、内心はかなり期待していたのだから。


「正解。次に繋がるヒントは得られたけど、今回はダメだったわ」


 言いながら、完全受肉体の死体を皆の前に放出すると、大騒ぎするエニーやケイラちゃんに混ざってロッジが強く反応する。


「む、そいつがグリムリーパーの本来の姿ってやつか」

「そうなるのかな。ちゃんと受肉させてみたんだけど、それだとただ強くなっただけで、根本的に魔物の性質が変わるようなことはなかったんだよね」

「ふむ……具体的にどう強くなった?」

「ん? だいぶ素早くなって硬くなったのと、あとは振り下ろしてくる鎌の威力も、骨だけの時よりはだいぶ上がってたと思うけど」


 それでも苦戦するようなことはなく、とっとと倒してしまったのでさほど印象には残っていなかった。

 だが食事の手を止めたロッジは、グリムリーパーの死体を触りながらグルリと回り、納得したように頷きながら感想を漏らす。


「この皮の弾性はクイーンアントに近いが、厚みも十分あるからより物理耐久寄りか? 見ただけで身が竦むような独特の感覚も以前と変わらないし、防具素材としてはかなり優秀だろう」

「へ~そうなんだ? じゃあもしかしてこっちも活用できそう?」


 言いながら追加で取り出したのは、もう一つの受肉体。

 原型はグリムリーパーに近いものの、複数の魔物を混ぜたその姿は歪と表現するしかなく、左右が非対称なのは当然として、一部には以前の魔物の原型がそのまま張り付いたように残されていた。


「な、なんだこりゃ……」

「不気味な姿だが、要所要所に見覚えがあるな。これは《夢幻の穴》のSランク魔物を混ぜているのか?」

「そそ。ここに溜めてた魔物の骨じゃ、変なのが生まれたけどだいぶ期待外れだったから、すぐ城内に籠ってそのまま穴にぶっこんでみたんだよね」

「ふむ。その結果、このような奇怪な魔物が生み出されたわけか」

「せっかく人払いもしたし、どうせならと思ってさ。ただそれでも裏ボスには変化しなかった。形状はちょっと変わってきてるし、強さはそっちの受肉したグリムリーパーよりも強かったから、方向性は間違っていないと思うんだけどね」


 よりランクの高い魔物を突っ込めば、強い変化が起きる可能性もある。

 しかしそれを試すには、現状『表ボス』くらいしか投入する魔物がいない。

 さすがにそれは――、ちょっとやり過ぎだろう。

 そもそも素材が足りないし、もし手元にあったとしても、この段階だとまだ勿体ないと感じてしまう。

 生み出したグリームリーパーの骨を再び穴に大量投入して、さらに進化させるっていうのが一番手っ取り早いし、なんとなく本命な気もしてくるんだけどね。


 ゼオと話している間も、ロッジは真剣な眼差しで不気味な魔物の死体に触れていく。

 そして出た結論はこれらしい。


「こいつは素材に回せねーよ。混ざり過ぎてて特性を生かしにくいし、この辺りなんざまんまアースドラゴンの皮と同じだ。強化されている感じがまったくしない」

「はぁ~そっか。それじゃコイツは丸ごとジェネ達のご飯かなぁ」

「ふふ、残念。ボクの出番はなしだったね」


 確かに、受肉体のグリームリーパーは見るからに腐肉なので、解体したところで餌に回すくらいしか使い道もないだろうが……

 そんなことを言うカルラに、目を細めながら言葉を返す。


「まぁ、次が本番だけどね。ほぼ間違いなく出るはずだし、少し寝たらすぐ行ってくるから覚悟しておいて」

「え!」


 それだけを告げ、一度休憩を取るために秘密基地へ移動した。
541話 恐怖か、それとも興奮か

「懐かしいなぁ……」


 旧ヴァルツ領西部の町、グリールモルグ。

 目的地《イスラ荒野》の最寄りとなるこの町で、俺が真っ先に向かったのはハンターギルドだった。

 いくら俺自身の立場があろうと、ハンターギルドは国と一定の距離を置く独立組織。

 一時的とは言え、知り合いでもないハンター達の行動に制限を掛けるなど、やれ横暴だ、独占だと。

 否定的な言葉も覚悟していたわけだが、面会を求めたギルドマスターに事情を伝えると、意外にもスムーズに俺の要望を了承してくれた。


 "イスラ荒野の南端に凶悪な魔物が出現する恐れがある。念のための確認と、発見した場合の討伐を目的としているので、ここで活動するハンター達の安全を確保するためにも、本日の夜間はイスラ荒野への立ち入りを制限してほしい"


 このように伝えたこともあり、大真面目な避難勧告と受け止めてくれたらしい。

 まさか俺自身が故意に湧かそうとしているとは思っていないだろうけど、嘘は言っていないし、偶然にも条件が重なって別の誰かが湧かせてしまう可能性だってゼロじゃないのだ。

 碌に草すら生えていないイスラ荒野の中であれば小さな村も存在していないので、誰もいない深夜にひっそりと実験をしておけば、距離のあるこの町に危険が及ぶこともまずないだろう。


 ハンターギルドでの用事が済んだら、お次は町の傭兵ギルドへ。

 俺のようにハンターと兼業の人間も多くいるわけだし、一応余計な被害が及ぼないようにと重い足取りで向かってみたわけだが。


「……」


 当然と言えば当然か。

 あの戦争で俺がヴァルツの傭兵を大量に殺しているのだから、中は閑散としており、人の姿はもちろん、中央の支柱に貼られた依頼も片手で収まる程度しか貼られていなかった。

 罪悪感というほどではないにしても、旧ヴァルツ領の傭兵ギルドを衰退させたのは間違いなく俺。

 だから自然とヴァルツの傭兵ギルドだけは避けていたので、こうして懐かしの人と目が合うと、なんとも言えない気まずさでいっぱいになる。


「お久しぶりです、ミルフィーさん」

「……まさか、ここに顔を出されるとは思いませんでしたよ、ロキ王様」


 やっぱり、恨まれているのかな。

 冷たく感じる眼差しと口調で言葉を返してきたのは、かつてお世話になった受付嬢。

 以前はその容姿も相まって華やかな印象があったのに、今は俺を見つめる表情も含めて、どこか影のある雰囲気を漂わせていた。

 そのせいで、余計に聞きづらくなるが。


「傭兵ギルドはあれから……」


 ここが属国の治めている場所だからとか、そんなことは関係ない。

 俺のせいで、ラグリースの蹂躙とはなんら関係のない人に大きな影響を及ぼしているのなら、それは真正面から受け止めるべきだろうと言葉を吐き出す。


「見ての通りです。あの戦争に参加した傭兵は、未だまったくと言っていいほど戻ってきておりません。国内登録傭兵の8割以上が参加したのですから、ヴァルツの傭兵ギルドはもう崩壊したと言っても差し支えないでしょう。ここの支店も今月で閉めますしね」

「え?」

「それでもラグリースからの新規登録者が少なからずいたので、まだ保った方です。他所はもっと早くに潰れていましたから」

「そう、でしたか……」

「ヴァルツの傭兵でいる限りロキ王様に殺されると噂が立ち、参加しなかった者達も多くが東へ逃げました。それに国内の傭兵ギルドを纏めていたオズワード公爵が王家と共に消息を絶って以降、ヴァルツの貴族達が恐れて後任すら決まっていなかったのですから、当然と言えば当然の結果なのでしょうね」

「……」


 言われてふと見上げると、ずらりと並んでいた国内傭兵ランキングは全て木板が外され、今は収めるための枠だけが寂しく取り残されていた。

 傭兵であれば多くが憧れ、そして目指すであろう|目標《ランカー》が存在していない。

 そんなことは各国を回っていても初めてだし、それだけでヴァルツの傭兵ギルドがまともに機能していないであろうことは理解できる。

 ラグリースには元々傭兵ギルドなどなかったのだから、余計に必要性が薄いと感じて後回しにされているのかもしれない。


「だから見納めにでも来られたのかと思っていましたが、違ったのですか?」

「違いますよ。別件の、お願いがあってここに来たんです」

「こんな何もないところに、今更? ……って、ごめんなさい。非は明らかにヴァルツ側にあったと、もう分かっているのに、つい……本当に、ごめんなさい……」


 言いながら、両手で顔を覆って俯くミルフィーさんを見て、どうしたものかと思考は巡る。

 気持ちは分からなくもないのだ。

 手にしていた職を、もう少しで失う。

 にも拘わらず、戦争に向けて多くを吸い上げられた影響はまだ色濃く残り、ここに来るまで少し眺めただけでも町には貧しさや侘しさが強く表れていた。

 たぶん、この雰囲気は次の職も決まっておらず、先がまったく見えない不安に駆られているのだろう。

 この人だけに限った話じゃないと、分かってはいるが……


「ミルフィーさんさえ良ければ、ここを閉めた後にでも一度、アースガルドに足を運んでみませんか? きっと、あなたに適した仕事が――、というより、僕が個人的にぜひやってほしいと思っている仕事もありますから」


 領土内に傭兵ギルドを再建させるかどうか。

 それはラグリースのヘディン王が考えることであって、俺が関与する話ではない。

 だが、|アースガルド《うち》には傭兵ギルドがない。

 だからこそ、癖のある傭兵連中をその美貌と話術で上手く転がしていたミルフィーさんには、任せたい仕事が多くある。

 無理に傭兵ギルドを建てなくても、職業斡旋ギルドの一部として近いことを担ってしまえばいいわけだしな。


 混乱しながら、それでも俺が訪れた目的を聞き入れてくれたミルフィーさんにお礼を伝え、これで下準備は済んだとばかりにイスラ荒野へ移動。

 黙々と一人、条件であるポイズンクラウドの魔石を回収していった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 途中からは【夜目】を使用したので視界は明瞭だが、時刻はもう23時を回っていた。

 月明りが照らす乾いた台地に一人佇み、霧を纏わせ動き始めたポイズンクラウドに、用意していた魔石の欠片を少しずつ放り込む。

 以前に怪しい挙動を示した時の魔石量は、市販の皮袋に収めていたのだからおおよそ把握できていた。

 これだけあれば、あの時と同じ反応も引き出せるだろう。


 ふぅ――……


《嘆きの聖堂》のように、可能性を追うのとは違う、本物の反応。

 今でも忘れることのないあの感覚は、それくらい気持ち悪くて異質だった。

 ほぼ、間違いなく出る。

 裏ボスは出現する。

 だからか、異様な緊張感に襲われ、魔石を掴む手にも汗が滲む。

 だが、この日、この時のために。

 まずは裏ボスを打倒しようと、今日まで積み重ねてきたのだ。

 あくまで通過点。

 目指すのはさらにその先だ。

 ならば、なんとしてでもここは越える。

 越えてみせる。


 そして――

 盛り上がるように舞い上がった霧が次第に黒く、そして小さくなり始めたところで手を止め、その動きを静かに見つめる。

【洞察】は使えない。

 あまりにも大きなステータス差があった場合、その反動は俺にとって致命傷になる。

 だから代わりに使用したのは【心眼】だった。

 これならスキルだけではあるが、敵の動きを多少は予測できる。


 そう思っていたからだろう。

 霧はずっとポイズンクラウドのスキルを示していたのに、次第に収束し、霧というには濃密過ぎる黒い塊が上空から降りてきた時。


「あぁ……これは……」


 突然レベル9の【心眼】が弾かれたことで、俺の身体は恐怖によるものか、それとも興奮からなのか。

 自分自身でもよく分からないまま、ブルリと強く震えた。
542話 雨

 最低でも【隠蔽】はレベル9以上で確定か。

 当然のように【広域探査】も弾かれるし、黒過ぎて視界に映る情報だけでは何も分からないが……

 唯一目の当たりにした裏ボス――キングアントが小さかったこともあり、ある程度の大きさまで収束すると思っていた黒い霧の塊は、巨大なまま上空で何かを形作ろうとしていた。

 収縮に近い動きを繰り返すことになんの意味があるのか、スキルが覗けないため予測もできない。

 だから距離を取り、視線を外すこともなく自己バフを掛けていく。


 ――【気配察知】――

 ――【魔力感知】――

 ――【身体強化】――

 ――【忍び足】――

 ――【魔力纏術】――魔力『5000』

 ――【時魔法】――『自己加速、ファースト』


 すると、一度上空で動きを止めた黒い霧は、次第に横へ横へと、それこそ空を覆い隠す雲のように広がっていき――


「雨……?」


 ポツポツと、上空から振ってきたのは大粒の雨だった。


「ッ……『封魔』結界」


 だから咄嗟に、どちらか悩みながらも結界を張る。

 濡れた個所に痛みが走ったということもあるが、何より【夜目】を通して見たその雨粒は、全てが紫色に染まっていた。

 こんなの、ただの雨であるはずがない。

 酸というよりは、たぶん毒。

 元はポイズンクラウドの集合体でもあるのだから、そう考えるのが自然だった。


「さて、どうしたものか……」


 思案しながら目を細め、探るように上空を眺める。

 薄く広がった分、密度は薄れて僅かに背後の空が透けていた。

 ポイズンクラウドの特性を引き継いでいるのだとしたら、この黒い霧のどこかに魔石――裏ボスであればあの小さな魔宝石が存在しており、黒い霧を操るその魔宝石を破壊すれば勝利と。

 そういうことになるのだろうが、この可能性はまずないだろうとすぐに俺は切り捨てていた。

 最大とも言える戦果を壊すことで勝利とする。

 そんなことをフェルザ様が仕組むとは思えない。

 あのどんぐり頭の性格に難があることは重々承知しているが、こと"ゲームらしさ"という点では実直というか、この世界の仕組みに拘りのようなモノを強く感じられたので、用途も存在している希少なリザルトをぞんざいに扱うようなことはまずしないだろう。

 となると、未だ発見できていないが、魔宝石を内包している魔物の本体がこの黒い霧を操りながらどこかに潜んでいるか。

 もしくはポイズンクラウドのようにあの黒い霧が本体そのもので、魔宝石を壊す以外の勝利条件が存在しているのか。

 今までとは勝手が違い、分からないことばかりだが……


「まずはあの霧を散らしてみるか」


 空を見上げながらそう呟いた時。


 ドン! ドン! ドンッ!!


 黒い霧からいくつもの太い線が地上に降り注ぎ、その度に激しい音を轟かせながら土煙を上げてゆく。

 一瞬、雷か?

 そう思うも、そのうちの1本が地上に接触後、突然消失することなく俺に襲い掛かってきたことで、別の何かであることを認識する。


「ぅ、ごぉ……!?」


 明らかに質量のある存在。

 硬く、そして重く、凄まじい速さで鈍器を振り回されたような、そんな衝撃に思わず手でガードはしたものの吹き飛ばされてしまう。

 結界の外に放り出されれば、降り注ぐ紫の雨。

 肌の露出した部分は焼かれたような痛みを覚え、鎧に守られている箇所も、ガルグイユの革が次々と黒く変色していく。


「痛っ! 『封魔』結界――ッ!?」


 しかも、終わらない。

 広域に次々と降り注ぐ、天の裁きかと思わせる黒い柱――そう、あれは鞭のような性質を持つ柱だ。

 それらはもう俺を敵と認識しているのだろう。

 地面に衝突した直後には方向性を変え、次々と俺に襲い掛かってきていた。

 1つ2つと躱すがあまりに数は多く、そして四方から襲ってくるため、このままではジリ貧。

 一度捕まると、座標固定の結界内から弾き飛ばされ、毒の雨に打たれる。

 ならば、どうする。

 斬る……斬ってみるか。

 こいつを斬ってダメージを与えられるのかは謎だが……

 手にかけたのは、腰に佩いていたオリハルコンの長剣。

 ロッジは確かに、魔力伝導率が低いと言っていた。

 ならば硬く、そして魔法にも強いこの剣がこの場では最も適している可能性が高い。

 元は上空を漂っている霧のはずなのだ。

 魔法や魔力によって構成されているのなら、そいつごとぶった斬る。

 そのつもりで、地を這うように迫る黒い塊に向かって剣を振りかぶった。


【剣術】――『力刃』


「おらッ!」


 が、手ごたえはまるでない。

 空を切ったように俺の剣は地面を叩きつけ、物質だったはずの黒い塊は煙の如く俺の身体を突き抜けてゆく。

 と、同時に起きる、身体の異変。

 痛みはないが……なんだ?

 目を、覆われているのか?

 俺の視界は黒く霞み、すぐに手で拭うも晴れることはない。

 この時、ゲームに長く浸っていたせいなのか。


「おいおい、これってまさか、『盲目』のデバフか……?」


 すぐにこの現象がなんなのか想像してしまい、高位の【隠蔽】持ちにそれは反則だろうと冷や汗を垂らした。
543話 防戦一方、だが

 戦闘を開始してから、まだ5分程度。

 しかし防戦一方とも言えるこの状況の中で、少しずつこの魔物の特性が判明してきた。

 空を覆う、異質な黒い霧。

 厄介なことに、あれが気体と固体の形状を使い分けてくることは確定だろう。

 半紙に墨汁を垂らしたような、背後がまったく透けないほど濃密な箇所は固体化を可能とし、それこそステータスの暴力と言っていいほどの勢いで襲い掛かってくる。

 当初は柱のような形をした殴打を目的としていたのに、俺がそこまで効いていないと判断したのか。

 今となっては先端を鋭利なモノへ形状変化させて襲ってくるのだから、動きも一辺倒というわけではないらしい。

 そして固体化したとしても、まともに斬ることもできなければ、掴むこともできやしない。

 こちらが攻撃の意思を見せれば固体化をすぐに解除され、盲目効果を与える霧の形状のまま襲ってくるのだから、防戦一方になるのも仕方のないことだろう。


「ああ、くそ……うざったい攻撃だ」


 ――【神聖魔法】――『治療』


 幸いデバフは解除できているので、魔力があるうちは視界を潰されるような事態は防げているが……

 軽くはない消費魔力を考えると、早い段階で攻勢に出なければ、後々になって攻撃の手が足らなくなる可能性も考えられる。

 加えてかなりの広域を汚染するように濡らし続けるあの雨だ。

 とてもじゃないがこの領域から外れて戦うなんて現実的ではなく、仮に外れればどこかに隠れているのか、ダメージを与えられる何かに手が届かなくなってしまう。

 倒すためには、無敵とも言える黒い霧の攻撃を掻い潜りながら、この領域でどうにか敵を割り出し破壊するしかない。



 ――普通ならば、そんなことを考えるのだろう。



「いつまでも|下《・》にいると思うなよ」


 まずは、5秒ほどの時を稼ぐ。


 ――【不動】――


(痛っでぇ……!)


 四方から次々と襲い来る、固体化した黒い霧の槍。

 回避を捨てたために何本も魔力で覆った鎧に突き刺さるが、それでも今はこの5秒を稼ぐために頭部を下げて腕で守り、ぐっと堪える。

 そして――もう十分か。


 ――『転移』――


 黒い霧の上、透けたその先にある空へ飛ぶ。

 当然だが、紫の雨は降っていない。

 黒い霧が上空に向けて攻撃を繰り出す可能性はあるにしても、結界内で動きを制限されるよりかは、よほどこの方が戦いやすく――

 そう思ったが、黒い霧よりも早く俺の顔に向かって飛んできたのは、高速の『線』だった。


「っお……ッ!?」


 咄嗟に仰け反りながら距離を取るも、紫色の線はレーザーの如くその状態を維持したまま、追尾するようにこちらへ迫る。

 すぐに10本――、いや20本くらいはあるのか?

 線同士が交差するたび激しい飛沫を上げているので、あの線も高速で射出されている水なのだと思うが、次々と数が増えるし、黒い霧は俺を墜とそうと様々な形状に変化しながら襲ってくるし……

 上を取れば勝ち筋が見えると思っていたのに、どう考えても下より攻撃が苛烈。

 ズルは許しませんと言わんばかりの猛攻に若干戸惑いながらも、ならば次だと反撃に出る。


「だったら、とっとと吹き飛ばしてやるよ!」


 下で不気味に蠢く黒い霧。

 こいつを散らせば何かが見えるのか。

 真っ先に感じた疑問の答えを探るように、予め背負っていた『破天の杖』を左手に握り、回避を続けながら詠唱する。


『聖霊よ、生み出せ、暴風《ストーム》』


 裏ボス相手に手加減なんて、そんなくだらないことをするつもりはない。

 今自分ができる、最大級の風魔法を。

 生み出した暴風は全方位へ走る津波にように黒い霧を巻き込み、霧散させながら突き進んでゆく。

 次第に開け、ぽっかりと大穴が空いたように広がっていく黒い霧の海。

 効果は間違いなく出ている。

 ならば次に備えて追撃だ。


 ――【多重発動】――『貫け、光矢』――『散らせ、竜巻』――『封じろ、凍結』――


 隠れている何かが現れたなら、着弾の最も速い【光魔法】でまずは直接的なダメージを。

 もし追加で黒い霧を生み出すようなら、すぐさま散らせるように【風魔法】を。

 そしてまた隠れてしまわないよう、動きを少しでも封じられるように【氷魔法】を。

 対象を確認したらすぐに放ち、尚且つ自身も『転移』して直接攻撃を加えられるように息を殺し、かつ目を凝らして何かが露出するかもしれないその瞬間を待つ。

 すると――、あれはなんだ?

 右前方の遥か先。

 魔物には見えないが、あからさまに不自然な黒い球体が1つ、宙に浮いているのを確認する。

 何かを守るように固体化しているのか?

 小さそうに見えるその塊はかなり濃密で、あれが黒い霧の核《コア》だと言われてもなんら違和感はない。

 まぁそれならそれで、その塊を砕くだけだ。


 ――『発動』――


 待機状態にさせていた3種の魔法を、一斉に黒い塊に向けて放つ。

 しかし――


「当たってない……?」


 撃ち込んだ魔法によってダメージを与えたような雰囲気はなく、それどころか着弾したかどうかというところで、魔法の軌道が逸れたように見えた。

 まぁいい。

 黒い霧を新たに生み出していないのならば、とりあえずは構わない。

 それなら近づいて破壊する。

 また気化して襲ってくるのかもしれないが、多少黒い霧に呑まれようと周囲を固めるように守るアレは大きくないのだから、完全に視界が潰される前に中身を曝け出してやればいい。

 その覚悟で転移をしようとした時。


「ッ……ぐ、あぁ!?」


 一瞬、気配を拾って飛び退くも、全ては躱し切れず。

 背後から強烈な痛みがいくつも走り、直後には皮膚の奥を焼かれような痛みと熱が加わる。

 咄嗟に後ろを見回すと、霧散したはずの黒い霧が背後で集まり、いくつかに分離した状態で細い槍のような刺突や紫の水流を俺の背中に向かって繰り出している最中だった。

 様々な耐性や防御力、それに纏わせている魔力のお陰か。

 幸い腹の中までは貫通していないようだが……

 毒が体内に回っていることは明らかで、脳が揺れたように平衡感覚を失い、宙を浮きながら思わずフラつく。

 それでも、まずは体内に食い込もうと動き続けるこの黒い槍を断ち切りたい。

 その想いで背後に剣を振り回すと、やはり固体化は解除され、ふわりと浮いた黒い霧は俺の身体を覆うように通過していき、再び視界は軽度の盲目にさせられる。


「は、はは……」


 黒く滲む視界。

 周囲に目を向けると、散らしたはずの黒い霧が小さく集まり、数百という塊を作ろうとしている光景が映し出されていた。

 先ほどの攻撃を考えれば、あの一つ一つが独立して紫の水流を飛ばし、また黒い霧を凝縮させて固体化した攻撃を行なってくるのだろう。

 そう考えると、頭の中は冷静なはずだったのに、自然と笑いがこみ上げてくる。


 表ボスを簡単に討伐できる程度には強くなったはずだった。

 それなりに自信もあったはずだ。

 だが、これは――。


「ああ、クソ……強いなぁ……」


 ここまで苦戦するのはいつぶりくらいだろうか。

 リルとの模擬戦だって、なんでもありのスキル全開放で挑んでからは圧倒できていたというのに、この癖が強過ぎる魔物はそうさせてもらえない。

 それどころか未だ正体も掴めないまま、こちらばかりが命を削られるようにダメージを受けている。


 ――【神聖魔法】――『治療』


 悔しいけど、結局俺はまだまだ弱い。

 このクラスが相手では、とてもじゃないが無傷に近い、スマートな勝ち方など難しいらしい。

 ならば、ここからは泥臭い耐久戦だ。

 腹の中までは貫けていないと分かったのなら、それこそ死ぬ気で耐えて、潰してやる。


 ――【鏡水】――

 ――【闘気術】――

 ――【結界魔法】――『封魔』――魔力『2000』――


 詠唱を口にできなくなるため、ここで【不動】は使えない。

 それでも予測される猛攻撃に耐えるべく、燃費も意識しながら防御に意味のあるスキルを発動させていく。

 そして――――


『聖霊よ、生み出せ、大地《アース》』


 俺は上空に、空を覆うほどの巨大な大地を生成。

 多くの黒い霧を巻き込むように、島のようなその大地を地上へ落とした。
544話 暗霧

 威力を考えれば、結界もそこまで長くは保てないだろうと思っていた。

 だがものの10秒足らずで剥がされ、全方位から凄まじい速度で飛来してくる紫の水流や黒い霧の槍にただただ耐える。


『……聖霊よ、生み出せ、大地《アース》』


 今は、回復を挟む余裕もない。

 血なのか、それとも胃の内容物なのか。

 痛みと吐き気から込み上げてくる何かを強引に飲み込み、ひたすら詠唱を唱え続ける。

 幸いここは一面が赤茶けた荒野だ。

 これだけ土属性の【聖霊魔法】を連発しようと、聖霊の反応が弱まることはなかった。


『聖霊よ、生み出せ、大地《アース》!』


 お陰で、だいぶ攻撃の手が緩んできている。

 あと、ちょっと。

 ちょっとなんだ。

 上空に漂い、好き勝手に暴れてくれたあの黒い霧を地に叩き墜とす。

 多くが次々と落ちてくる分厚い大地に逃げ場を塞がれ、土に埋もれたまま身動きがとれなくなっている頃だろう。


『聖霊よ、生み出せ、大地《アース》……!』


 ついでに意味のありそうなあの黒い球体も、そのまま圧し潰す。

 そのつもりで、盲目であろうとなぜか見えるステータス画面から魔力残量を確認しつつ、ただひらすら巨大な大地を落としていく。

 すると、30発くらいは唱えただろうか。

 ようやく俺への攻撃が完全に止まり、思わず顔を上げる。


 ――【神聖魔法】――『治癒』


「ああ、いってぇ……」


 腹や背中がこの程度じゃまったく治りきっていないことを把握しつつ周囲を見回すと、黒い霧は掻き消えたようにまったく存在していない。

 下はかなりの広域が土石に塗れ、盛り上がった大地は土砂災害があった後の山のような、丘とも呼べない荒れた地形を広域に作り出していた。

 だが、一切ログが流れていないのだ。

 有象無象の魔物ならまだしも、相手は裏ボス。

 ならば間違いなく、これでは倒せていない。

 そう判断し、半分以下まで減少した魔力を少しでも回復すべく、予め用意していた魔力回復ポーションをガブ飲みしながら眼下を眺めていると、視界の片隅で、ボン、と。

 僅かな爆発音を響かせ、地面の一部が吹き上がったように上空へ土を吐く。

 そして這い出るように現れたのは……ようやくお出ましたか。

 トカゲのような形状に近いが、真っ先に思い浮かんだのは"クリーチャー"という言葉で、全身黒いその姿は地を這い、歩きながら脚の数を増やしたり背中の一部から触角が生えたりと。

 周囲から滲み出る黒い霧を吸い上げ、再び僅かに宙を浮く、1メートルほどの球体形状に変化しようとしていた。

 だから咄嗟に目の前まで躍り出て、その動きを阻害する。


「させるか!」


【剣術】スキルも使用した、上段からの振り下ろし。

 案の定、変化の途中にあった黒い塊は霧と化し、俺の身体を覆うように攻撃してくる。

 防ぎようもなく、再び盲目のデバフを受けて黒ずむ視界。

 だが、それでも確かに見えた。

 なりかけの球体が黒い霧となって舞う中で、その中心部には一際黒い、こぶし大ほどの球体が存在していた。

 あれは魔宝石そのものではない。

 唯一霧に変化しなかった、魔宝石よりもう一回り大きな何か。

 となれば、まず間違いなく魔宝石を覆う最後の防御機能であろうことは想像がつく。

 ようやく見えてきた、この魔物の倒し方。

 中心のアレを破壊すれば、きっとコイツに勝てる。

 ならばもう、ここから絶対に逃がしはしない。


「ハッ!!」


 今度は外さない。

 そのつもりで、再び隠されようとしていた中心の核に狙いを定めて斬りつける。

 ガキン!

 しかし、激しい音を響かせながら僅かに俺の剣筋は横へ逸れてしまった。

 球体に弾かれたというよりは、その手前……

 となると、これはもう間違いない。

 先ほど魔法を打ち込んだ時と同じ違和感を覚えて確信する。


「おまえも【結界魔法】持ちか!」


 しかし、相手の手札をまた一つ暴いたからと言って、必ずしも討伐の難易度が下がるわけではなかった。

 その後も数度、結界などお構いなしに攻撃を加えるも。


「ふ、ふざけ……硬過ぎるだろうが!?」


 その硬さに、剣を振り下ろしながらも思わず吠える。

 まったくダメージが通っていないわけではないのだ。

 ガラスが砕かれたような煌めく何かが飛び散っているのだから、攻撃を加えるたびに結界を破壊していることは分かる。

 だが、あまりにも再生の速度が速い。

 砕いた傍から掛け直され、そうこうしているうちに盲目の進度が深くなっていき、俺から距離を置こうとする黒い霧を見失いそうになる。


 ――【神聖魔法】――『治癒』


「ふっ……はぁ……」


 手は――緩められない。

 欲を言えば『収納』からもう1本、破天の杖とは違う斬撃性能の高い武器を取り出したいが、そのためには【空間魔法】特有の動作停止が必ず必要になる。

 ここで5秒近くも動きは止められない。

 止めれば距離を取られ、防戦一方の現状から攻勢に転じられる可能性も出てくる。

 ならば……一瞬、オリハルコンの剣を持つ右手を左手首に添え、解除をしてから手首を捻り、左手を大きく振り被る。


 ――ガキンッ!


 すると飛び出る、爪を想定した隠し武器。

 本来は対人用、今までも暗殺者のクロイス相手にしか使用したことはなかったが、緊急時となればそうもいっていられない。

 暗器とオリハルコンの長剣による二刀流。

 異常に再生が速いのなら、その速度を上回る勢いで攻撃を加えて破壊する。


 ――【時魔法】――『自己加速、セカンド』


「うらァッ!!」


 さらにギアを上げて連撃を加えるも、息は上がり、気を抜けば足がもつれそうになる。

 既に【闘気術】との併用だ。

 魔力、体力ともに消耗が激しい。

 だが、ガリッと。

 今までは違う感触を手に感じるのだから、もう少し。

 あと少しで、破壊できる。

 そう思っていたところ、突然黒い霧が逃げ惑うように退いていたその動きをピタリと止めた。

 と、同時に突如繰り出される、前方からの刺突。

 棘のように伸びた無数の針が、俺の腹に突き刺さってからも怪しく蠢く。


「ふぐっ、はは……ッ!」


 この魔物……気化して俺を盲目にしたところで逃げられないと悟って、玉砕覚悟の攻勢に転じてきやがったのか!


「これが裏ボス……なんて倒し甲斐のある――ッ!? 【硬質化】――、ッぁあああッッ!!」


 咄嗟に頭を下げながらスキルを唱えると、直後には俺の背中や頭部目掛けて、黒い霧の槍や紫の水流が飛んでくる。

 やはり【硬質化】では魔法属性に分類される攻撃の威力は減衰できないらしく、前と後ろからの強烈な痛みに血反吐を吐きながらも、なぜか顔は笑ってしまう。


「さっきみたいに不意打ちかましたつもりだろうが、おまえ【隠蔽】はレベル9だろ……! レベル10の【気配察知】だけは通ってるんだよ……!」


 それに結界はそこまで万能なモノではない。

 自分から攻撃を仕掛けるということは、自らの結界で阻まれないように解除したということ。

 より攻撃が通りやすくなったこの場面で、背後を気に掛ける余裕はない。


 ――【炎獄柱】――【白火】――

 ――【土魔法】――『大量の、砂』――【砂嵐】――【砂硬燐】――


 ならば【魔力纏術】によって纏わせた魔力を全て背後に回し、壁のように厚みを持たせて盾とする。

 加えて周囲に展開しておけば攻撃の一部を消滅してくれそうな【炎獄柱】と、周囲の黒い霧を妨害してくれるであろう【砂嵐】を。

 そして無理やり生み出した砂の一部を自動防御に回しておけば、多少は流水や黒い槍の攻撃も緩和してくれるはずだ。

 代わりにここからは、致命傷となる顔と胸だけを死守して他の防御は捨てる。

 そのつもりで足を止め、次々と腹に突き刺さる黒い霧の槍に意識を飛ばしそうになりながら、それでも両手の武器で黒い霧を強く斬りつける。


 ――【時魔法】――『自己加速、サード』


 求められるのは速度。

 どちらが先にくたばるか、正真正銘の削り合いだ。

 固体化したところで、金属のような硬さがあるわけではない。

 普通の魔物よりかは遥かに硬い――その程度であれば、斬りつけることで黒い霧は少しずつ削られていく。

 ポトポトと落ちる、固体化した黒い霧の一部。

 本当なら落ちた傍から気化し、また身体の一部にでもしたいのだろうが……

 足元から魔力を這わせて作動させた【土操術】が、すぐに破片の一部を飲みこみ地中奥深くへ引きずり込む。

 だが、それでも。


「くそ……! まだ、吸収して……」


 先ほど大地を落とした時に閉じ込めた多くの黒い霧。

 それらが各所から少しずつ漏れ出ていることは分かっていたが、今この状況でも、コイツは地表に漂うそれらを吸収している。

 肉を断つように斬り落とし、なおかつ破片を地中に埋めても少しずつ再生して元に戻っていくのだから、そう判断するしかなかった。

 つまり、まだ速度が足りない。

 この程度じゃまだ、足りていないのだ。


 ――【時魔法】――『自己加速、フォース』


 だからもう、ステータス画面を確認する余裕がなく、魔力残量が不明のままでも、さらにギアを引き上げるしかなかった。

【時魔法】の魔力消費は10秒単位。

 消費魔力はこれでまた、大きく上がる。

 喉が――、身体が乾いたような、魔力を急激に失った時のあの独特の感覚に襲われるも、それでも止まれない。

 止まればたぶん、俺は死ぬ。

 それが分かっていたから、一太刀でも多く斬りつけ、黒い霧を削ぎ落とし、中心部の球体を曝け出すしかなかった。

 あと、少し……もう少しで……


 ――【時魔法】――『自己加速、フィフス』


「ふぐっ……」


 身体中から湯気が吹き上がるような感覚と、意識が飛びかけるような、強烈な痛みが同時に襲う。

 一瞬だけ蘇る、過去の嫌な記憶。

 腹に刺さったまま蠢いていた黒い霧の刺突が、俺の背中まで突き抜ける。

 ふざけんな、あとちょっとなんだ。

 再生していく速度よりも削る速度が上回り、俺の腹に穴が開くたび、黒い霧も少しずつ小さく、細くなっている。

 あとは間に合うかどうか。

 違う……そうじゃないだろう。

 ここまで来たんだ。

 あと少しのところまできたんだ。

 だったら意地でも間に合わせろよ……!


「ガアァアアアアアアアアッッ!!」


 今まで致命傷だけは避けようと、多くをガードに回していた左手。

 その手も防御を捨て、全て、攻撃に回す。

 すぐに伸びてくる黒い霧の刺突は鎧を突き抜け胸に食い込むが、腹があれだけ粘ったのだ。

 それにミノタウロスから得た【底力】というスキルなら、死の瀬戸際であるほど俺の防御力と魔法防御力は上がるのだから、そう簡単には貫通しない。

 あまりにも危険な攻撃の時だけは【硬質化】で耐え、魔力枯渇との瀬戸際の中でも無心で両手を振るう。

 そして――再び視界に入る、中心の核《コア》。

 見つけた途端にスキルを叫びながら、俺はその横っ腹を抉るように、飛び出た暗器の刃ごと左腕を突き刺していた。


 ――【体術】――『剛力』――【爪術】――『貫手』――【硬質化】――


 すると、崩れ始めた黒い核の中で、丸みを帯びた感触が手に触れる。

 ようやく――本当に、ようやくだ。

 そんな思いで掴みながら左手を引き抜くと、内部が紫色をした、今までよりも一回り大きい気がする魔宝石が。

 そしてその姿を拝んだのと同時に、残された黒い霧も、それこそ本当の霧のように溶けて消えていった。


――【魂装】――


『レベルが68に上昇しました』



『レベルが69に上昇しました』



『レベルが70に上昇しました』



『レベルが71に上昇しました』



『レベルが72に上昇しました』



『レベルが73に上昇しました』



『レベルが74に上昇しました』



『【省略詠唱】Lv9を取得しました』



『【紫水】Lv1を取得しました』



『【紫水】Lv2を取得しました』



『【紫水】Lv3を取得しました』



『【紫水】Lv4を取得しました』



『【紫水】Lv5を取得しました』



『【紫水】Lv6を取得しました』



『【紫水】Lv7を取得しました』



『【魔力感知】Lv10を取得しました』



『【結界魔法】Lv7を取得しました』



『【昇華】Lv1を取得しました』



『【昇華】Lv2を取得しました』



『【昇華】Lv3を取得しました』



『【昇華】Lv4を取得しました』



『【昇華】Lv5を取得しました』



『【昇華】Lv6を取得しました』



『【昇華】Lv7を取得しました』



『【昇華】Lv8を取得しました』



『【昇華】Lv9を取得しました』



『【穢れた霧】Lv1を取得しました』



『【穢れた霧】Lv2を取得しました』



『【穢れた霧】Lv3を取得しました』



『【穢れた霧】Lv4を取得しました』






『称号:《|暗霧《ダークミスト》を討てし者》を獲得しました』

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あけおめ、ことよろでございます。
今年も変わらず、WEB版は黙々と書きたいことを書いていきますのでよろしくお願いいたします。
また、詳細分かり次第追ってお伝えしたいと思いますが、書籍3巻は1月25日、コミック2巻は2月25日発売。あと書籍4巻とコミック3巻が今年の夏~秋くらいの予定で諸々進行しております。
ちょっとね、物語の中身がもうだいぶ変わってきているんで、それなりに時間は掛かっちゃうんですけど、こっちでは伏せられていることがあっちでは明かされている、なんてことが両パターンでありますので、どちらの物語も楽しんでいただければ幸いです。
545話 ボス談義

「あぁ、もう無理……しんどすぎる……」


 疲労と痛みからその場にへたり込み、急激に回復した魔力で【神聖魔法】を連発しながら、流れるアナウンスをボーッと眺める。

 さすが裏ボス。

 まず【魂装】の結果がエグいことになっており、魔力『6288』とか、今までとは比較にならないほど大きな数字が表示されていた。

 それにレベルだって一気に7も上昇したのだから、やはり強さの設定が表ボスとはまったく違うし、ソロとペアという違いはあるにしても、この上がり具合はキングアントより格上だったのではないかと思えてしまう。

 収納から取り出した2つの魔宝石を見比べても、やっぱり今回の魔石の方が少し大きいしなぁ。

 そして得られるだろうと思っていた称号のアナウンスも無事流れたわけだが――


「やっぱりステータスに影響しないタイプなのかな……」


 せっかくならこの機会に判別できればと思ってステータス画面を眺めていたのに、スキル取得の段階ではその度に上昇していた数値が、称号獲得の時にはピタリと動きを止めていた。

 スキルの【物理攻撃力上昇】や【魔法防御力上昇】のように、パーセンテージ上昇型でステータスの数値に反映されないパターンもあるにはある。

 だからプラス効果なしと断定できるわけではないけど、せっかくならドドーンと全ステータスが1000上昇するとか。

 裏ボス討伐というお祝いで貰える称号なのだから、分かりやすい形で大サービスしてくれてもいいのにと思ってしまう。

 まぁそうは言っても、変動がなかったのだからしょうがない。

 次だ次と気持ちを切り替え、新しく取得したスキルに目を向けていく。

 まずは――、これか。


【紫水】Lv7 自身が扱う水に関する技能に限り、毒属性を与えた紫水へ変化させる 毒性の強さはスキルレベルによる 効果時間10分 魔力消費105


 あまり好んで使いたいとは思えない、なんとも外道臭の漂うこのスキル。

 しかし、相当強いことは間違いない。

 先ほどまで散々苦しめられていたからというのもあるけど、この既視感ある詳細説明は、【白火】の親戚みたいなものだろう。

 広域にも影響を与える属性強化や属性変化系が弱いわけはなく、それこそ【廻水】あたりと同時に使えば――とは思ってみたが、自分の身に着けている鎧が視界に入り、これは無しだろうと思わず首を左右に振った。

 変色し、ボロボロの鎧を見てしまうと、よほどの急迫した場面でもなければ使用禁止だ。

 使えば魔物にしろ人にしろ、素材として活かせなくなるのだから、貧乏性の俺にはとても扱いづらい。

 それに効果時間の設定はあるにしても、一度毒に塗れた餌をジェネやウィグに食べさせるというのは気が引けちゃうしね。


 では、一番レベル上昇が低かった【穢れた霧】はというと…………んえ?

 こちらは詳細説明を思わず二度見。

 自分の想像していた以上のスキルであることが判明し、驚きから変な声が漏れてしまう。


【穢れた霧】Lv4 黒く穢れた霧を生み出し、触れた者の五感を順に奪っていく 範囲、進行の速度はスキルレベルによる 魔力消費80


 盲目だけかと思っていたら五感全てとは……なんと凶悪なことか。

 一瞬、なぜ俺は盲目効果しか分からなかったのかと疑問に思ったが、たぶん"順に"という部分が重要になるのだろう。

 つまり最初に奪われるのは『視覚』だということ。

 検証すれば、それぞれの順番も判明するのだろうけど……うーん。

 カルラに使うのはちょっと怖いので、これはどこかで野盗でも見つけた時に実験してみよう。


 そして、暗霧《ダークミスト》がレベル10を所持していた【昇華】はというと、残念ながらグレー文字の使用不可になっていた。

 たぶん、あの気体と固体を使い分けていたのがこのスキルだったのかな。

 それならしょうがないというか、人の身体でそんなことできたら最強どころの騒ぎではないので、生物ですらない魔物だからこその特権と思って納得しておくしかないだろう。

 まったく、そんないらぬ特性のせいで、期待していた魔物素材は魔宝石以外に一切無し。

 これじゃまたカルラに笑われそうだと苦笑いを浮かべながら、周囲に目を向け頭を掻いた。


「あー……この地形、どうしよ……」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 翌朝。

 泣きながらピストン回収した山のような土石を、あったらあったでいずれ何かに使えるかもしれないと。

 そんな適当な理由からベザートの奥地に放出した俺は、その足でニューハンファレストの屋上に向かう。


「おはよー特に問題なし?」

「うむ。間諜だろうという者はチラホラ見かけるが、異世界人はあの【刀術】を持つ者以降――……って、どうしたロキ!? ボロボロだけど大丈夫なのか!?」


 今日はスナイパーではなく、涅槃仏のようにだらしなく横たわりながら町を眺めていたリル。

 こちらに振り向いた途端目を見開き、慌てたように転がりながら立ち上がる。

 身体は治したけど、血だらけだし鎧の破損も酷いからなぁ……

 でも真っ先に伝えるべきは、模擬戦にも付き合ってくれたリルだと思っていた。

 それにリルならきっと、喜んでくれるかなって、そう思って。


「はは……ちょっとね。久しぶりに死ぬかもって思ったけど、それでもなんとか倒せたよ、裏ボス」


 素直にそう告げると、驚きは一瞬で。

 すぐにニカッと笑みを浮かべながら口を開く。


「お、おぉ!? そうか、倒せたのか! 良かったじゃないか。それだけボロボロにやられたということは……ふふ、やはり手強かったか?」

「そりゃもう、今まで倒した魔物の中じゃ断トツも断トツ、というか突き抜け過ぎだよ。デバフに特化したいやらしい敵でさ~あのキングアントより強いかも」

「ほう、それほどの魔物か。具体的に何をしてきたのだ?」

「それがさ、攻撃を片っ端から無効化してくる霧の魔物で――」


 ワクワクしているリルに買ってきた屋台飯を渡し、二人で屋上から町の様子を眺めつつ、ボス戦談義に花を咲かす。

 理不尽なボスの能力や強さに感嘆の声を上げ、それでも自分ならこうする。

 こんな攻め手もあるのではないかと、そんなゲーマーにありがちな会話ができるのは、リルと、あとはゼオくらいのものだろう。

 今日は目出度い裏ボスの初討伐、たまにはこんな時間があってもいいじゃない。

 そんな気持ちで、小一時間ほどダークミストの攻略法や、キングアントはあの時どんな動きをしていたのか。

 今まで聞いたことがなかった具体的な敵の動きなどを聞いていると、一区切りついたタイミングでリルがボソリと呟く。


「叶うのならば、私もそのダークミストと戦ってみたいものだな……」


 たぶん、俺に聞かせようとは思っていない言葉。

 だけど俺も頷く。

 お互い、同じ気持ちだ。

 相対する相手が強ければ強いほど燃えるリルは、俺が強かったと太鼓判を押すダークミストに興味を示し。

 俺もまた、リルの話を聞いていると、あの時は観戦することすらままならなかったキングアントと叶うのならば戦いたい。

 そう思ってしまうが。


「一応さ、もう一度出現させられないか試してみたんだ。けど、まったく同じ工程を踏んでもダメだった。長く時が経過した後ならまだ可能性はあると思うけど……そう上手くはいかないよね」


 言いながらも魔宝石を取り出す。

 再湧きの可能性を確認するために朝まで掛かってしまったけど、結局2度目は魔石を食わせてもポイズンクラウドが大きくなるだけ。

 黒い霧に変化するようなことはなかった。

 まぁ表ボスだって半年ほどのリポップ周期が存在しているのだから、裏ボスなら尚更に長い周期が設定される可能性もある。

 それにたぶん、鍵になるのはこの魔宝石の存在だ。

 相変わらず中は煙のようにモワモワと動いているのだから、こいつが"生きている"限り、再湧きしないのではないか。

 勝手に可能性が高いと踏んでいるだけで確証は得られていないし、このタイミングでキングアントやダークミストの魔宝石をわざと『消失』させるなんて、そんな恐ろしい検証は怖くて試せないけど。

 でもいつか、ゼオがかつて倒したという場所で再度同じ裏ボスが出現すれば、よりその可能性が高まるのではないかと。

 そんなことを二人で話しながら、楽しいボス談義の時間は過ぎていった。
546話 バイト代で買い物を

 Sランク狩場のスキル収集が一段落し、念願だった裏ボスの討伐も無事に終わった。

 グリムリーパーだって試せば別の裏ボスを湧かせられる可能性はあるけれども、本気で狙うとなれば準備には相当な時間が掛かるし、やったところで確実に湧くわけではない。

 ならばそれはまた別の機会にしておき、ひとまず次の国へ向かう前に、ここらで一旦やるべきことを先に終わらせておこうと。

 そんな気持ちで俺達3人は自由都市ネラスへ訪れていた。

 目的は探索と買い物、そして特訓である。


「はい、それじゃ二人のバイト代ね」


 そう言って、手伝ってもらっているお礼に金貨を10枚ずつ。

 金額にすると、一人10万ビーケを渡す。


「おぉ~これが働いた証!」

「ふふ、ありがとうございます~」


 1か月ほど前に、2700冊という複製リストが出来上がってすぐの話だ。

 勉強会の一環としても丁度いいかと、ベザートの監視業務に携わるリル以外の5人には、本の複製という超重要な深夜バイトをしてもらっていた。

 スキルを1つしか持ち込めないし、それぞれやりたいこともあるようなので、5人で1日5~10冊程度の非常に緩いペースではあったが……

 監督者のアリシア曰く、その程度だから意外と好評で、自分の調べたいことを確認するついでに作業をするという流れは、一人も投げ出すことなく今日まで続いていたらしい。

 こんな報告を受けて、あの女神様達がと。

 なんだかちょっとウルッときてしまったのは秘密である。

 それにフェリンが趣味で育てている上台地の農作物は、既にいくつも収穫期を迎えていた。


 "野菜や卵なんかが量産できたら、ベザートでみんな食べてくれるから俺が買い取るよ"


 かつてこのように伝えた案を実行に移すとなると、フェリンとフィーリルは遅かれ早かれお金を得るわけで。

 リステと違ってまともな金銭感覚が備わっていないままではまずかろうと、そんな理由から、世界を直接見て回っている能天気な二人を特訓しにきたわけだ。

 だからバイト代だって豪快にケチったわけではない。

 渡すと渡しただけ使いそうだから、今日のお小遣い用にとりあえず渡しているだけである。


「えーと、フェリンは新しい農作物の種が欲しくて、フィーリルは生き物とか花だよね?」

「うんうん!」

「そうです~おっきくて可愛い動物がいてくれると嬉しいですね~」

「え……いや、それはたぶん相当難しいと思うけど……花屋くらいはあるんじゃないかな、うん」


 早速フィーリルがお金を握り締め、キラキラした笑顔でアホなことを言っている。

 仮に売ってたって10万ビーケで買えるわけがねぇ……

 でもこの笑顔を守るために、追加でお金を渡してしまいそうな自分が怖い。


「ロキ君はオークションを見てみたいんでしょ? なら私は一度来てるからなんとなく街も分かってるし、別行動にする?」

「いや、俺も一緒に行くよ。ベザートで農業やる人がかなり増えてきてさ。他と被らないように新しい作物の種がほしいって話も出ているみたいだし、そろそろ畜産用の動物と、あと各国と連絡を取るための鳥も揃えておきたいんだよね」

「私が育ててるやつでいいならあげるよー? 元々はロキ君から貰った種だし!」

「私の所にもいろいろな種類がいますから、繁殖して数を増やしている動物なら移してもらってもいいですよ~?」

「あ、ほんとに? それならお言葉に甘えちゃおうかな~もちろん買い取るからさ」


 そんなことを相談しながら、自由都市ネラスの本格的な街ブラ探索を開始したわけだが……

 うーん、特訓の意味は果たしてあったのか。

 思わず首を傾げてしまう。


「うふふ、これもどうぞって貰っちゃいました~!」

「わたしも! おじさんがオマケしてくれるって!」

「あ、ああ。今回は屋台飯か……凄いね、いやほんとに」


 行く先々で、いろいろなモノを貰ってくる二人。

 種苗屋を見つけて入ると、おまけだと言って購入代金よりも遥かに高い希少な種をいくつも貰い、小動物の専門店に入れば安価なヒヨコを買ったはずなのに、なぜか大変珍しいという綺麗な毛並みの子ザルまでフィーリルは抱いていた。

 俺だって一緒に買い物をしているのに、それどころか一番お金を使ってるのは俺なのに、なんのオマケも特典もない。

 店主のオヤジ達は揃って二人の顔を眺め、乳を眺め、尻でUターンしてからまた顔を眺めてと、凄く幸せそうな顔をしていたので何かしてあげたくなる気持ちも分からなくはないけど……

 花屋に立ち寄った時は女店主だったのに、それでも処分品やらなんやらで大量のサービスをしてもらっていたのだから、分け隔てなく誰にでも気さくに話しかけている二人だからこそなのかもしれないな。

 俺は当然として、リステでもたぶんこうはいかない。


「ね! やっぱり仮面なんていらないでしょ?」

「下界の様子を見て回っている時も、仮面なんていちいちつけたりしませんしね~」


 両隣でニコニコと、おやつの串肉を頬張りながらそんなことを言う二人。

 確かに今は、俺がノアさん仕様の普段着を着用していることもあってか、誰も近寄ったりはしてこないけど……


「あのさ、二人とも容姿が普通じゃないんだし、変なのに絡まれたりしないの?」


 そう問うと。


「めんどくさいことになっても、走って逃げちゃえば誰も追いつけないし!」

「そうですね~それにあまりにも煩いようなら、その口を閉じてしまえばいいわけですしね、うふふ」

「……」


 フェリンはまぁいいとして。

 フィーリルの危険な香りがぷんぷん漂う答えには、しつこく絡んだヤツが悪いよなと。

 詳しく中身を聞くのが怖くて、思わず閉口するしかなかった。
547話 ペンディオラオークション

 午前中はプラプラと大通りを歩きながら目的の品を購入し、二人もお小遣いの範囲内でおまけたっぷりの買い物を終えた後は、街の大通りから少し外れた位置にあるオークション会場へ訪れていた。


「いや~あっさり着いた良かったね」

「ね! 最初はこんな地図じゃ分かりにくそうって思ったのに」


 フェリンはそう言うが、今手にしているモノは地図というより、パンフレットとかでよく見かけた案内図に近い。

 大雑把に中心から帯状に広がる大通りが何本か記載されており、通り名や地下街に通じる入り口の番号のほか、武闘場やオークション会場といった主要な大型施設の位置が、ざっくりと簡易的なイラスト付きで記されている。

 たぶんここに俺の作った地図が持ち込まれ、それを参考に誰かが作った。

 そういうことなんだろうけど、省ける部分は省き、要点だけを押さえて分かりやすく纏めたこの内容は、どうにも同じ異世界人が作ったように思えてしまう。


(もしかすると、上層階にいたあの建築家が作ったのかな?)


 そんなことを考えながら、大陸最大の取引数と謳われているオークション会場に足を踏み入れていく。

 と言っても今日はあくまで下見だ。

 本でこのオークション会場の特徴はおおよそ把握しているつもりだが、実際どの程度のモノが競りにかけられているのか。

 出品物の数や質、それに開催頻度とかを事前に確認しておきたかった。


「こんにちは。初めてなんですけど、こちらのオークションに参加したいと思っていまして」


 受付の若い男性に声を掛けると、俺を一瞥後、若干ぎこちない笑みを浮かべて口を開く。


「ようこそ、ペンディオラオークションへ。当オークションは商業ギルド会員に参加利用資格がございます。商業ギルドカードはお持ちでしょうか?」

「ええ、カッパーランクですが……これでいいですか?」

「ありがとうございます。どのランクでも参加は可能ですよ。ただしカッパーであれば、会場利用時には一番遠方となる4階のお席を。また入札は事前に預けられた保証金額までが上限となりますので予めご理解ください」

「あーなるほど、ここでランクの差が生まれるわけですね……分かりました。ちなみに連れが2名いまして、商業ギルドの会員でなくても出入りは可能ですか?」

「ええ、2名までであれば可能です。従者をお連れの方も多いですから」


 その言葉を聞いて、入り口辺りでキョロキョロしていた二人に合図を送る。

 商業ギルドの会員のみオークション参加資格があることは分かっていたけど、建物の出入りにまで制限が掛かっているのかは本を見ても分からなかったからな。


「大丈夫だったの?」

「うん、同伴は2名までだって。危なかったわ」

「あら~丁度良かったですね~」

「えーと、それで出品物の一覧なんですけど――……もしもーし?」


 今となっては驚くこともない。

 受付のお兄ちゃんは、フェリンとフィーリルを見つめたまま茫然と立ち尽くしていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「なんだか、とってもよく喋る人でしたね~」

「私全然覚えられなかったんだけど!」


『185番、名工イシュアが生み出したとされる逸品、青蘭六支棚でございます。右側面にやや焼けの跡はございますが、現存する中では稀にみる美品で――……』


 背後で二人が話す声と、館内に響く競売人の軽妙な進行を聴きながら、壁に掛けられた本日の出品リストをズラーッと眺める。

 リスト全てに番号が振られており、最末尾は『414番』。

 つまりこれだけの数が、今日一日で競りに掛けられるわけだ。

 しかも3日に1度のペースで開催されているというのだから、大陸最大の取引数というのも頷けるほどの出品数である。

 まぁオークションの形態がハンターギルド運営のタイプとは違うので、出品数が増えるのも当然といえば当然なのかもしれないけど。


 俺もなんだかんだと毎月通っているハンターギルド運営のオークションは、出品物のメインがダンジョン内のドロップ品であり、それ以外の外部出品物は時価総額1000万ビーケ以上という価値のボーダーが定められていた。

 代わりに出品料は存在せず、成約すればその額に応じて一定割合の手数料が発生するため、月1開催で出品物がそう多くなくとも、高額品ばかりが集まるハンターギルドは纏まった手数料を得ることができるという仕組みだ。

 対して商業ギルド運営のペンディオラオークションは時価総額のボーダーを一切設けておらず、代わりに出品する際はいくつかの段階に分かれた出品料を必ず取るようにしている。

 つまり極端な例を挙げれば、家の使い古した洗濯板だって出品しようと思えばできるわけで。

 リストを見ていても出品物は多岐に渡り、大半はよく分からないモノばかりだけど――、うん、やっぱりいくつかはあるね。

 中には見覚えのない魔道具やうちで所蔵しているか分からない書物。

 それに特殊付与の装備も、低位素材だが1つ出品されているので、できれば積極的に参加しておきたい。

 が、問題は本気で狙うとなると、かなりの時間を取られてしまう。

 これが一番のネックになっていた。

 一応商業ギルド側に手数料を払えば代理参加もしてくれるようだが、それでもこれだけ多くの出品物が出ているとなると、リストを確認し、欲しい物をまとめ、それぞれいくらまで入札してもらうのか。

 これらを決めるだけでも纏まった時間が必要になるし、それにここはあくまで『表』のオークション。

 どうせなら案内図にも載っていない、隠されているからこそより強い興味が湧いてしまう『裏』のオークションに時間は使いたい。

 何か、上手い策はないものか。

 リストを眺めながら暫し考え込んでいると――


「ロキ君~! 320番のレッドサーフェスタイガーという動物は私もまだ飼えていません~! 絶対可愛いと思いますし、凄く欲しいですぅ~!」

「え?」

「わ、私も257番のコレ! 黄金ガエルって凄く美味しくて有名なんだよ! なのに珍しい魔物でなかなか獲れないはずだから……ね! 一緒に食べようよ!」 

「え? えっ?」


 俺の後ろにいたはずのフェリンとフィーリルが、急にリストを指差しながら騒ぎ出す。

 レッドサーフェスタイガーなんて名前からして狂暴そうだし、黄金ガエルってあの、ボイス湖畔で見つけられなかったアレか?

 美味しいとは聞いたことがあるけど、確かギルド買取でも軽く50万ビーケは超えたような……

 絶対君たち、残りのお小遣いで足らないよね?

 そんな目で左右に立つ二人の顔を眺めるも、あまりにオネダリビームが強烈過ぎて、ウッと呻きながらすぐに目をそらしてしまう。

 あかん。

 今日サービスしまくってた親父達はこれを食らっていたのか。


「と、とりあえず、俺も何個か欲しいのあるし、せっかく開催しているんならどんなものか、記念にちょっとだけ参加してみる? 記念にね」

「やったね! いこいこ~!」

「落とせたらいいですね~!」


 小さく溜め息を吐きながらも、ずっと忙しくてフェリンとは前ほど食べ歩きができていないし、フィーリルは学院の入学式で半べそになるほど凹ませてしまったし。

 なら、たまにこうして出かけた時くらいはしょうがないか。

 そう思い、だったら落とせるまでとことん入札してやるわと密かに誓いつつ、受付で纏まったお金を預けてから3人で会場に向かった。
548話 波乱の幕開け

「たっだいま~今日はご馳走だよー!」


 上台地に転移した時には既に日が傾いており、フェリンの号令のような掛け声に合わせて、いつもの食卓にリステとリアが姿を現す。

 結局半日近くオークション会場にいたようで、狙っていたモノは落札できたが、想定外にお金を使い過ぎてしまったような気もする。


「あら、お昼に大量のヒヨコをロキ君が連れてきたと思ったら、今度は大きな虎ですか?」


 目を瞬くアリシアに、フィーリルが満面の笑みで答える。


「そうなんです~まだ飼っていない動物がオークションに出品されていたんで、ロキ君に買ってもらっちゃいました~!」

「は、はは……まさかこの虎1頭で2億7000万ビーケもするとは思わなかったけどね……」


 赤兎馬と同じ、しかも天然物だ。

 基はレッドマーブルタイガーという、俺もまだ見たことのないAランクの魔物らしく、近隣に生息している普通の虎と交配することで極稀に生まれるかなり希少な生物らしい。

 あの競売人は魔石を持たないから扱いやすいだの、護衛と騎乗も兼ね備えたペットとして最適だの、綺麗に赤く染まった毛皮は王族も好んで求めるほど美しく滑らかだの。

 まあ~ペラペラとこの動物の凄さを語ってくれちゃってたが……

 それに感動していたのは横のフィーリルだけで、俺は果てしなく吊り上がっていく価格に心の中で泣いていた。

 それに比べたら、フェリンが飛び跳ねるほど大喜びしていた黄金ガエルの死体なんて105万ビーケで落札できたのだから、安い……いや、安いのかは分からないけど、相対的に見たら破格である。

 フェリンは良い嫁さんになりそうだ。

 そんなことを考えていると、一人視界の隅で肩を震わしている人物が。


「ロ、ロキ君……? オークションは私と一緒に行ってくれる予定では……?」

「……」


 確かにリステとは、そんな約束をした記憶がある。

 今日は下見だと思っていたので、まさかここまで本格的にオークション参加するとは思っていなかった。

 そしてリステが、ここまで動揺するとも思っていなかった……

 これは波乱の幕開け。

 このままでは開戦の予感がしてならない。


「何を言ってるのかね」

「え?」


 だからか、若干口調がおかしくなったけど、それでも咄嗟に言い訳の言葉が口を衝く。


「表オークションなど所詮は前座、本命は裏オークションにあるのだよ。その潜入調査をいずれリステとやろうと思っていたけど……そんなメインイベントだけじゃ不満かね!?」

「ッ!? まったく不満じゃありません!」


 ふぅ~危なかった。

 最近のリステはだいぶチョロいが、少し情緒不安定だなと思いながら嫌な汗を拭う。

 と、急に横から伸びてくる手。


「頑張ったから、バイト代」

「あ、はい」


 犯人はリアで、10万ビーケを渡すと数秒眺めた後、小脇に抱えていた壺の中へ大事そうに入れていた。

 ちょくちょく壺持ってんな、この人。


「なんか、欲しいのあるの?」

「釣りの道具」

「そっか。ならバイト頑張らないとね」

「うん。だからこれがいっぱいになったら、私も連れてって」


 そう言われ、どんだけ凄い釣り道具買うんだよと苦笑いを浮かべてしまう。


「そんな貯めなくても買えると思うけど、いいよ」


 そしてアリシアにもバイト代を渡しておく。


「何か欲しいモノがあったら言ってよ。代わりに買ってきてもいいし、自分で買い物してみたいっていうならお面くらい買ってくるからさ」

「あ、ありがとうございます……!」


 渡す10万ビーケなんて形だけのものだ。

 本当に欲しいモノがあるのなら、なんだかんだで結局俺が買ってしまうのだろうけど……

 それでもこうしてお金に興味を持てば、人の生活や仕事にだって目が向く可能性があるし、マリーがこの世界で何をしているのかも理解しやすくはなるだろう。


「さ、せっかく凄い希少なお肉買ってきたんだし、早くリルも呼んで報告会始めようよ」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ロキが行ってくると告げ、次の国に向かったあと。

 リガルも含めた6人の女神達は、眉間に深い皺を寄せたまま上台地の食卓から動けずにいた。

 決して食い過ぎたからではない。

 いや、二人はその可能性もあったが、ロキが告げたテリア公国の現状と、そして次に誰がいる国に向かうのかを告げたのが主な原因だ。


 "主要な産業を根こそぎ奪われたあとは支配下にある管理者を置き、殺さない程度に人を育てて引き抜く『人間牧場』と化していた"


 久しぶりに行われた報告会でロキがこのように発言し、実際に公都でその光景を見て回ったリステも間違いないだろうと肯定したことで、5人は食事の手をピタリと止めた。

 奴隷も多くいる世界だ。

 人という資源が当たり前のように売り買いされていることくらいは承知していたが、しかし国単位というのは今まで聞いたことがない。

 しかもそのような行為をしている者が、自分達が呼び込んだ異世界人だという事実。

 その時フェリンとフィーリルからは笑みが消え、リガルは天を仰ぎ、アリシアは両手で掻き毟るように頭を抱えた。

 そして、リアは――


「どうする?」


 ロキが去ったこの時を待っていたかのように、より一層光の消えた瞳でアリシアを見つめる。


「さすがにまだ、私達が直接動くというのは……」

「でもさ、ドワーフがいる国で無理やり人を攫って、それで奴隷にしていたのもそのマリーって人間だよ? その奴隷を使って気持ち悪い実験をしてたのも……」

「私が通ったガルム聖王騎士国が大きく荒れていたのも、確かその人物が原因ですよねぇ~?」

「その者が大陸東部に拠点を構えているから、周辺国は強い影響を受けていたのだろうがな」

「しかし、頻発している大陸西部の争いに多くの武具を流し、拍車を掛けているのもその者だと聞いています。それにロキ君が国を興す切っ掛けとなった大陸中央の戦争も、確かその者が元凶だったわけですよね?」


 リステが視線を向けると、当時ロキと行動を共にし、記憶からその事実を探ったリアが静かに頷く。


「ふむ……となると、些か目に余るか……」

「うん、私はもう、【神罰】の対象に――」

「ちょっと待ってください」


 アリシアの硬い声に、願望を口にしたフェリンは言葉を止める。

 フェリンだけではない。

 フィーリルとリステ、それにリアも、そうすることを望んでいるかのような雰囲気を感じ取ってのことだった。


「過去に3度、下界に【神罰】を落とさざるを得なかった時のことを、皆は覚えていないのですか?」

「覚えてるよ! 覚えてるけど、でも……」

「……規模が違うと、そういうことでしょう?」


 言葉にしにくい様子のフェリンに代わって冷静にリステが問うと、アリシアは深く頷く。


「その通りです。過去にフェルザ様から許可の下りた事例は、いずれも種の存続に関わるようなものばかり。話を聞けば聞くほど、その異世界人の動きは看過できませんが……だからといって【神罰】というのはさすがにやり過ぎでしょう。フェルザ様からも間違いなく許可が下りません」

「その前に連絡が取れていないがな」

「うっ……だからこそ、余計に勝手なことなどできないのです! それにロキ君が対処に向かってくれています。だから、きっと、その異世界人の、件も……」


 言いながら、アリシアは自分のあまりにも無責任な発言に耐えきれず、途中で言葉を失う。

 内心では皆の考えだって分かっているのだ。

 転生者をこの世界に呼んだのは自分達。

 にも拘わらず、爆弾を抱えたロキに解決を委ねようとしてしまっている。

 ロキはリステにも伝えたように、戦争をしに行くわけではないと。

 それこそ、マヨネーズや海など、楽しみがあって行くんだと、次なる冒険の地に想いを馳せながら、先ほどまで楽しそうに話していた。

 だが、既に敵と言ってもいい間柄の国に向かって、争いごとなど何も生まれないと楽観視するほど思考が停止しているわけではない。

【分体】とは言えリガルに勝ち、裏ボスと呼ばれる存在も倒したと言うのだから、ロキがやられるような場面はあまり想像できないが……

 隠されているというスキルが未だ謎に包まれているからこそ、ロキにはあまり、人を殺めてほしくなかった。


「本当に、ごめんなさい……」


 不甲斐なさから思わず謝罪の言葉を口にし、アリシアだけでなくこの場にいる者全員が、穏便な解決を心の中で願った。
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 ここまでご覧いただきありがとうございました。
ここで16章は終了、ロキの手帳と地図の更新を挟んで17章『アルバート王国編』がスタートとなります。
 なんせ(私の中では)大きい国なので、途中であっち行ったりこっち行ったりと慌ただしい章になりそうですが、引き続きまったりとお楽しみください。
ロキの手帳⑬

【Web版】行き着く先は勇者か魔王…563話目

ロキの手帳⑬
 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:74  スキルポイント残:1113 (技能の種により+47)

 魔力量:25194/25194 (964+17942) 暗霧(+6288)

 筋力:   8852 (515+7543)  ゲイルドレイク(+794)
 知力:   6270 (516+5134)  ガルグイユ(+620)
 防御力:  8037 (509+6174)  ヴァラカン(+687) クィーンアント(+667)
 魔法防御力:6094 (509+4780)  ガルグイユ(+805)
 敏捷:   4853 (509+4142)  ウィングドラゴン(+202)
 技術:   10045 (508+9537)
 幸運:   7065 (509+6556)  

 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》《暗霧を討てし者》

 【転換】余剰経験値:『7,250,692』

 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv7 【暗殺術】Lv8 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv10 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv10 【闘気術】Lv5


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv7 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5 
【神聖魔法】Lv4 【呪術魔法】Lv7 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv10 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv9 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv10 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv7
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10 
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7 
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6 
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv7 【装飾作成】Lv5 
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv6 【飛行】Lv9 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv9 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv9 【忍び足】Lv9 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv7 【自動書記】Lv7


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv7 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv8 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv7 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv8
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7 【転換】Lv8


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv9 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv7 【突進】Lv8 【旋風】Lv6 
【睡眼】Lv6 【爪術】Lv9 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv8 【招集】Lv8 
【硬質化】Lv7 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv8 【咆哮】Lv8 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv5 【火炎息】Lv7 【発火】Lv7 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv7 【丸かじり】Lv8 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv7 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv7 【魔法防御力上昇】Lv4
【不動】Lv7 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv7 【廻水】Lv6 【鏡水】Lv5 【透過】Lv5 【恐怖】Lv6 【封印】Lv5 【熱感知】Lv5 【陽炎】Lv6 
【流砂】Lv7 【砂嵐】Lv7 【砂硬鱗】Lv5 【昼寝】Lv4 【帯電】Lv4 【凍結息】Lv6 【底力】Lv6 【烈震】Lv7 【紫水】Lv7 【穢れた霧】Lv4


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv7 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv6  
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv7 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv8 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv6 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv6 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv1 【甦生】Lv8 【共食い】Lv4 【粘液】Lv5 【分裂】Lv6
【砂泳】Lv7 【麻痺針】Lv6 【産卵】Lv6 【昇華】Lv9




 ◆戦闘・戦術系統スキル

 【剣術】Lv10 剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

 【短剣術】Lv9 短剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

 【棒術】Lv8 棒形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

 【体術】Lv10 己の身体で打撃を加える場合に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

【斧術】Lv9 斧形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槍術】Lv9 槍形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【槌術】Lv8 槌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【鎌術】Lv7 鎌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

 【弓術】Lv9 弓形状の武器を所持している限り、攻撃動作、射程距離にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 技術補正

 【杖術】Lv9 杖形状の武器を所持している限り、魔法効果、魔法発動時間、防御動作にプラス補正が入る 魔力消費0 知力補正

 【盾術】Lv9 盾を所持している限り、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 防御力補正

【投擲術】Lv9 投擲飛距離に90メートルのプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で投擲速度/命中率のプラス補正を行う 魔力消費21 技術補正

【挑発】Lv9 注意を自分に向けやすくする 発動範囲90メートル以内 対象を中心とした半径1メートル以内の生物に発動 魔力消費21 防御力補正

【狂乱】Lv8 使用後は全ての通常攻撃動作に能力値290%の限定補正を行う。ただし制限時間が経過するまで、周囲の生物に対する通常攻撃動作以外を行うことができなくなる。 使用効果時間8分 魔力消費0 筋力補正

【二刀流】Lv8 両手に別々の武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【威圧】Lv10 見定めた1対象を相手にかなり強い恐怖を与え、行動阻害、精神錯乱を誘発させる 魔力消費5 魔力補正

【捨て身】Lv9 無手の状態に限り、筋力値、敏捷値を一時的に280%まで上昇させる 効果時間1分 魔力消費45 筋力補正

【指揮】Lv9 スキルを使用した指揮者の思考が、指揮下にある味方へと伝達されやすくなる。度合いはスキルレベルによる。 効果範囲:周囲半径1800メートル 使用効果時間30分 魔力消費90 知力補正

【鼓舞】Lv9 半径45メートル範囲内の味方に対して全能力値を30%向上させる。同スキルによる重複不可。スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費44 幸運補正

【身体強化】Lv10 魔力を使用して筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 効果時間10分 魔力消費50 技術補正

【騎乗戦闘】Lv9 騎乗している状況に限り、全能力値145%のプラス補正が入る また騎乗している生物にもプラス補正が適用される 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【両手武器】Lv9 両手で一つの武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【暗器術】Lv7 暗器に該当する武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 敏捷補正

【射程増加】Lv9 射程距離が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【手加減】Lv10 スキル使用時に限り、致命打を与えても対象生物を一時的に延命させることができる 効果時間1分 対象生存時間60秒 魔力消費50 技術補正

【暗殺術】Lv8 急所攻撃に限り、能力値180%の上方補正を常時行う(魔力消費0) 任意で1分間、【忍び足】【暗器術】【隠蔽】のスキルレベルを1上昇させる 魔力消費40 敏捷補正

【闘気術】Lv5 体力の消耗と引き換えに、使用中は筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 魔力消費0 敏捷補正


 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv9 魔力消費90未満の火魔法を発動することが可能 知力補正

【土魔法】Lv9 魔力消費90未満の土魔法を発動することが可能 魔法防御力補正

【風魔法】Lv9 魔力消費90未満の風魔法を発動することが可能 敏捷補正

【水魔法】Lv9 魔力消費90未満の水魔法を発動することが可能 防御力補正

【氷魔法】Lv9 魔力消費90未満の氷魔法を発動することが可能 防御力補正

【雷魔法】Lv9 魔力消費90未満の雷魔法を発動することが可能 知力補正

【光魔法】Lv8 魔力消費80未満の光魔法を発動することが可能 幸運補正

【闇魔法】Lv8 魔力消費80未満の闇魔法を発動することが可能 魔力補正

【無属性魔法】Lv8 魔力消費80未満の無属性魔法を発動することが可能 魔力補正

【回復魔法】Lv9 魔力消費90未満の回復魔法を発動することが可能 防御力補正

【神聖魔法】Lv4 魔力消費400未満の神聖魔法を発動することが可能 魔力補正

【結界魔法】Lv7 指定箇所を中心に『防壁』『封魔』『燐光』『遮蔽』『遮断』『強化』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による 魔法防御力補正

【呪術魔法】Lv7 魔力消費210未満の呪術魔法を発動することが可能 魔力補正

【時魔法】Lv5 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に対し、敏捷値±250%の減少か増加を選択して発動することが可能 減少の最終数値は対象の抵抗値によって決定し、マイナスになることはない 魔力消費:10秒毎に75 知力補正

【精霊魔法】Lv4 広範囲の『土水風火』属性精霊を一時的に使役し、魔法を行使することが可能になる 魔力消費100 魔力補正

【空間魔法】Lv6 一時的に亜空間と繋がり、その空間を活用することができる。 魔力消費:50%減 空間使用範囲と接続時間による 魔力Ⅱ補正

【魔力操作】Lv9 魔力操作が向上し魔法への応用が利きやすくなる また魔法発動時間が45%減少する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力感知】Lv10 使用者の周囲に存在する魔力の流れ、濃度に対して敏感になる 効果範囲:周囲半径50メートル 魔力消費0 魔力補正

【省略詠唱】Lv9 精霊への単体魔法イメージ伝導割合が90%まで上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【発動待機】Lv8 魔法発動可能状態から最大16秒間待機が可能になる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【多重発動】Lv2 属性に関わらず、発動待機中にもう2種の魔法を発動することが可能になる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【魔法射程増加】Lv9 魔法の射程が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力纏術】Lv6 具現化した魔力を装着武具、または身体に纏わせ強化させる 強化による上昇値は込める魔力量とスキルレベルに依存 効果時間6分 魔力消費:込めた魔力量の15% 魔力補正

【土操術】Lv3 流した魔力量に応じて土石を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる 防御力補正


 ◆ジョブ系統スキル

【狩猟】Lv10 狩猟技能が向上し、獲物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【解体】Lv10 解体技能が向上し、より素早く正確に解体を行うことができる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【採取】Lv9 採取技能が向上し、採取物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【話術】Lv8 対話能力がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【料理】Lv10 料理技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【農耕】Lv10 農耕技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【釣り】Lv9 釣り技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【家事】Lv10 家事技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【裁縫】Lv8 裁縫技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鍛冶】Lv7 鍛冶技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【芸術】Lv7 芸術技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【描画】Lv7 描画技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【建築】Lv9 建築技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【採掘】Lv10 採掘技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【細工】Lv7 細工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【加工】Lv8 加工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【伐採】Lv10 伐採技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【交渉】Lv8 交渉技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【畜産】Lv10 畜産技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【作法】Lv8 作法技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【舞踊】Lv7 舞踊技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【歌唱】Lv8 歌唱技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【薬学】Lv7 薬学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【演奏】Lv7 演奏技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【錬金】Lv6 錬金技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【彫刻】Lv6 彫刻技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【酒造】Lv8 酒造技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【庭師】Lv8 庭師技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【医学】Lv7 医学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【装飾作成】Lv5 装飾作成技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【魔法学】Lv5 魔法学の技能が向上する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔道具作成】Lv4 魔道具作成技能が少し向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正


 ◆生活系統スキル

【異言語理解】Lv10 人族が扱う言語であれば、知識が無くても全ての専門的な用語を理解し会話をすることができる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【獣語理解】Lv8 動物や魔物の言葉が理解し、意思の疎通をだいぶ図れるようになる 魔力消費0 知力補正

【視野拡大】Lv10 上下左右の視野がやや広がる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【遠視】Lv10 かなり遠くを見通せるようになる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【夜目】Lv10 暗闇の中でもかなり視界を確保できる 魔力消費0 幸運補正

【視界共有】Lv4 指定した対象に触れることで、一定時間視界を共有する 効果時間24分 多重発動不可 魔力消費30 幸運補正

【気配察知】Lv10 使用者の周囲で動く存在に対して反応が敏感になる 範囲半径50メートル 魔力消費0 技術補正

【探査】Lv9 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径270メートル 魔力消費0 幸運補正

【広域探査】Lv4 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径1400メートル 魔力消費0 幸運補正

【隠蔽】Lv10 Lv10以下の察知、看破、調査系統スキルを欺ける 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【俊足】Lv9 走る動作に補正がかかり、移動がかなり速くなる 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【忍び足】Lv9 使用時は無音で移動することが可能になり、スキルレベルに応じて気配を隠すことができる 魔力消費1分毎に10消費 技術補正

【逃走】Lv9 何かに追われている状況に限り、能力値310%の速度で走ることが可能 魔力消費30秒毎に10消費 敏捷補正

【縮地】Lv5 前方に向かって能力値250%の速度で距離を詰める 移動範囲は任意指定 最大距離10メートル 魔力消費25 敏捷補正

【跳躍】Lv9 跳躍動作に補正がかかり、通常よりも高く跳べる 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【空脚】Lv6 足場のない空中で踏み込み、7段までの【跳躍】を行うことが可能になる 魔力消費:1段毎に5消費 筋力補正

【飛行】Lv9 浮遊した状態で上空を移動することができる 魔力消費:1分毎に1消費 魔力Ⅱ補正

【算術】Lv9 算術能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【暗記】Lv9 暗記能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【騎乗】Lv9 騎乗能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【拡声】Lv9 声音を一時的に増大させ、声を広く届ける 増大する声音は元の大きさに影響する 魔力消費0 魔力補正

【遠話】Lv4 範囲内の特定対象に直接声を届ける 範囲半径20000メートル 効果時間1分 魔力消費10 幸運補正

【聞き耳】Lv9 聴覚を一時的に増加させ、範囲内の音や声を聞き分ける 範囲半径90メートル 魔力消費0 知力補正

【読唇】Lv4 対象の唇や表情が視認できる状態であれば、聞こえずとも言葉を理解することができる 理解度はスキルレベルによる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【罠生成】Lv8 捕縛/殺傷を目的とした罠の生成作業が巧みになる 使用者の想像をだいぶ補助する 魔力消費190まで 技術補正

【罠解除】Lv7 Lv7以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を解除する 魔力消費85 技術補正

【罠探知】Lv8 自然発生した危険域、Lv8以下の【罠生成】によって生成された特殊罠の察知する 範囲は視覚に依存 効果時間10分 魔力消費19 幸運補正

【鑑定】Lv9 対象物品の能力、効果、原料、素材情報を識別する 識別深度は自身のスキルレベルによる 無機物のみ対象 魔力消費0 幸運補正

【心眼】Lv9 対象の所持する技能を覗き見る 生物のみ対象 魔力消費5 幸運補正

【魔力譲渡】Lv7 対象に自身の魔力を譲渡する 魔力消費に対し譲渡できる魔力の割合は85% 魔力補正

【付与】Lv5 装備品に属性か特定スキルを付与することができる 付与数、組み合わせ、定着時間はスキルレベルと対象装備による 魔力消費50 定着完了まで1秒毎に17消費 幸運補正

【泳法】Lv8 水泳技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【調教】Lv8 調教技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【写本】Lv7 見本となる本や文章を複製する 速度はスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【自動書記】Lv7 意識を向けた対象の言葉や文字を一定時間書き記す 効果時間42分 魔力消費5 幸運補正

【魅了】Lv4 対象の心を惹きつけ、興味と好意を持たせる 異性に対してのみ有効 多重発動不可 効果時間4時間 魔力消費40 幸運補正


 ◆純パッシブ系統スキル

【毒耐性】Lv9 毒への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【麻痺耐性】Lv7 麻痺への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【睡眠耐性】Lv6 睡眠への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【石化耐性】Lv6 石化への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魅了耐性】Lv6 魅了への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【呪い耐性】Lv4 呪いへの耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【魔力最大量増加】Lv9 魔力最大量を90増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力自動回復量増加】Lv9 魔力自動回復量を45%増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【剛力】Lv10 筋力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【明晰】Lv9 知力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【金剛】Lv10 防御力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【封魔】Lv9 魔法防御力値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【疾風】Lv9 敏捷値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【絶技】Lv9 技術値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【豪運】Lv8 幸運値が40上昇する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【物理攻撃耐性】Lv10 物理攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【魔法攻撃耐性】Lv8 魔法攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【火属性耐性】Lv9 火属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【土属性耐性】Lv8 土属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【風属性耐性】Lv8 風属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【水属性耐性】Lv8 水属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【雷属性耐性】Lv7 雷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【氷属性耐性】Lv8 氷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【闇属性耐性】Lv7 闇属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【光属性耐性】Lv6 光属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【鋼の心】Lv10 精神攻撃に対する抵抗がかなり増加する 威圧にも有効 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正


 ◆その他/特殊(使用可能)

【神託】Lv1 職業<神官>専用加護スキル 女神達からの言葉を授かることができる 使用条件1日に1度のみ 任意発動不可 魔力消費0 魔力補正

【神通】Lv2 職業<神子>専用加護スキル 女神達と意思の疎通を図ることができる 使用条件1日に1度のみ 使用制限時間2分 魔力消費60 魔力Ⅱ補正

【地図作成】Lv4 3倍までの縮小、拡大が可能 魔力消費0 魔力Ⅱ補正

【魂装】Lv7 自ら命を奪った魔物の魂を身に留め、抽出された能力のうち1種を自身へ付加させる 魂装上限数7 魔力消費5 魔力Ⅱ補正

【奴隷術】Lv8 奴隷契約を結び、対象を『魂縛』もしくは『隷属』させることが可能になる 最大所持コスト400 奴隷契約時のみ魔力消費30 魔力補正

【魔物使役】Lv8 服従させ、対象を使役することが可能になる 最大所持コスト800 使役時のみ魔力消費30 魔力補正

【威嚇】Lv7 前方7メートルの範囲に対し【威圧】効果を与える 魔力消費45 敏捷補正

【転換】Lv8 最大レベルまで上がったスキルの余剰経験値を蓄え、指定スキルの経験値に転換することが可能になる 転換率16% 常時発動型 魔力消費0 魔力Ⅱ補正


 ◆その他/特殊(使用不可)

【獣血】Lv4 使用不可


 ◆その他/魔物(使用可能)

【突進】Lv8 前方に向かって能力値340%の速度で突進する 移動範囲は任意指定 最大距離5メートル 魔力消費19 敏捷補正

【噛みつき】Lv9 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値360%の補正を行う 魔力消費19 筋力補正

【光合成】Lv7  太陽の光を浴びれば自然治癒力と魔力回復量が微増  常時発動型 魔力補正

【硬質化】Lv7 一時的に身体を硬質化させ、効果時間内は防御力が12倍になる 効果時間1秒間 魔力消費17 防御力補正

【物理防御力上昇】Lv7 防御力が21%上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【強制覚醒】Lv9 生存している同種族を強制的に目覚めさせる 範囲:1800メートル 魔力消費50 技術補正

【状態異常耐性増加】Lv8 あらゆる状態異常耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【招集】Lv8  【呼応】スキルを持つ周囲の魔物を強制的に呼び集める 効果範囲:周囲半径240メートル 魔力消費19 知力補正

【穴掘り】Lv8 上手に穴を掘る 効果時間8分 魔力消費2 筋力補正

【酸耐性】Lv8 酸への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【踏みつけ】Lv8 下方に向けてのみ、筋力値340%の威力で攻撃を加える 魔力消費19 筋力補正

【嗅覚上昇】Lv5 嗅覚を一時的に上昇される 上昇度合いはスキルレベルによる 魔力消費0 幸運補正

【洞察】Lv4 視界に収めた生物との力量差を少し掴める 魔力消費0 魔力補正

【咆哮】Lv8 前方8メートルの範囲に対し【威圧】効果を与え、自身に掛けられた精神ダメージを確率で無効化させる 魔力消費60 魔法防御力補正

【旋風】Lv6 周囲720度を能力値280%の威力、速度で薙ぎ払う 使用時は僅かに移動可能 魔力消費19 敏捷補正

【睡眼】Lv6 対象の目を見ながら発動することにより眠らせることができる 能力効果を説明した上で対象が承諾していれば100% 能力説明をしていない、もしくは理解できなければ、成功確率はスキルレベルと対象の耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費15  魔法防御力補正

【爪術】Lv9 爪形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【発火】Lv7 自身、もしくは自身が触れている物を任意の範囲で発火させる 効果を切れば火は消えるが、非接触状態になればその火は直ちに制御を失う 熱量はスキルレベルと知力による 魔力消費:10秒毎に5消費 魔力補正

【火炎息】Lv7 前方に火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費50 魔力補正

【灼熱息】Lv7 前方に巨大で広範囲な火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費80 魔力補正

【白火】Lv1 自身が扱う火に関する技能に限り、上位格となる白火へ変化させる 熱量はスキルレベルによる 魔力消費20 魔力Ⅱ補正

【炎獄柱】Lv5 吸い込み、捕食し、生物を食らう巨大な炎柱を、自身から15メートル離れた先に2本生成する 生成後の炎柱、内部の龍ともに制御は不可 スキルレベル上昇により動きが活発になる 発生時間10分 魔力消費90 魔力Ⅱ補正

【丸かじり】Lv8 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値480%の補正を行う 魔力消費41 筋力補正

【分解】Lv3 魔力を介して対象を分解する 分解速度は込める魔力量による 魔力消費減少割合20% 魔力補正

【吸収】Lv3 魔力を介して液体を吸収する 魔力消費0 幸運補正

【氷結息】Lv7 前方に氷結の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費50 魔力補正

【不動】Lv7 一時的に身体を硬直させ、効果時間内は防御力、魔法防御力が18倍になる ただし発動中は一切身体を動かせない 効果時間7秒間 魔力消費105 防御力補正

【石眼】Lv7 対象の目を見ながら発動することにより石化させることができる 未動作の対象ほど石化進行は速く、成功率は耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費17 魔力補正

【物理攻撃力上昇】Lv6 筋力が18%上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【衝撃波】Lv6 初動となる運動エネルギーを増加させ、波状に衝撃を加える 威力と範囲はスキルレベルによる 魔力消費45 敏捷補正

【地形耐性】Lv7 地形効果を受けにくくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鏡水】Lv5 魔法属性に分類される攻撃を自動で防御、反射する 反射精度はスキルレベルによる 魔力消費:10秒ごとに30消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力Ⅱ補正

【廻水】Lv6 広範囲の水を強制的に流動させる 範囲と速度はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に75消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正

【透過】Lv5 一定時間身体を透明化させる 効果時間2.5秒 魔力消費50 魔力補正

【封印】Lv5 対象のスキル発動を確率で阻害する 効果時間10秒 魔力消費50 知力補正

【恐怖】Lv6 自身を見ている存在全てを、強い恐慌状態に陥らせる 魔力消費90 魔力補正

【熱感知】Lv5 視界内の温度を視覚化させる その精度はスキルレベルによる 魔力消費0 魔力補正

【陽炎】Lv6 本来とは異なる位置にその姿を映し出す 魔力消費:1分ごとに10消費 幸運補正

【流砂】Lv7 範囲内の砂を任意に流動させる その範囲はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に40消費 ※砂地でのみ発動可能 敏捷補正

【砂嵐】Lv7 使用者を中心に多量の砂を巻き込んだ猛風を巻き起こす 効果範囲とその威力はスキルレベルによる 
発生時間10分 魔力消費110 ※砂地でのみ発動可能 防御力補正

【砂硬鱗】Lv5 物理、魔法属性に分類される攻撃を自動で防御する 反応速度はスキルレベルによる 魔力消費10秒ごとに30消費 ※砂地でのみ発動可能 魔力Ⅱ補正

【昼寝】Lv4 仮眠することで急速に体力と魔力を回復させる その効果はスキルレベルによる 魔力消費0 幸運補正

【魔法防御力上昇】Lv4 魔法防御力が12%上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【帯電】Lv4 雷を身体に留め、一時的に帯びることができる 可能な総量はスキルレベルによる ※自ら生み出した雷は不可 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【凍結息】Lv6 前方の広範囲に凍える息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費75 魔力補正

【底力】Lv6 死の危機に瀕するほど防御力値と魔法防御力値が向上する 上昇上限値はスキルレベルによる 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【烈震】Lv7 一定以上の衝撃を加えることで、その場を中心とした広域の大地を揺るがす 範囲、持続時間、揺れの強さはスキルレベルと加えた衝撃による 魔力消費160 敏捷補正

【紫水】Lv7 自身が扱う水に関する技能に限り、毒属性を与えた紫水へ変化させる 毒性の強さはスキルレベルによる 効果時間10分 魔力消費105 魔力Ⅱ補正

【穢れた霧】Lv4 黒く穢れた霧を生み出し、触れた者の五感を順に奪っていく 範囲、進行の速度はスキルレベルによる 魔力消費80 魔力Ⅱ補正



 ◆その他/魔物(使用不可)

【粘糸】Lv4 使用不可 魔法防御力補正

【脱皮】Lv6 使用不可 魔法防御力補正

【呼応】Lv7 使用不可  知力補正

【酸液】Lv7 使用不可 技術補正

【擬態】Lv7 使用不可 技術補正

【胞子】Lv7  使用不可 魔力補正

【泥化】Lv5  使用不可 魔力補正

【気化】Lv8 使用不可 魔力補正

【毒霧】Lv7 使用不可 魔力補正

【結合】Lv8 使用不可 防御力補正

【分離】Lv8 使用不可 技術補正

【火光尾】Lv5 使用不可 敏捷補正

【幻影】Lv8  使用不可 魔力補正

【影渡り】Lv6 使用不可 魔力補正

【属性変化】Lv7 使用不可 魔力補正

【地縛り】Lv6 使用不可 魔力補正

【絶鳴】Lv8 使用不可 魔力補正

【無面水槍】Lv6 使用不可 知力補正

【睡夢鱗粉】Lv4 使用不可 幸運補正

【膨張】Lv1 使用不可 魔力補正

【共食い】Lv4 使用不可 防御力補正

【甦生】Lv8 使用不可 魔力補正

【砂泳】Lv7 使用不可 敏捷補正

【粘液】Lv5 使用不可 魔力補正

【分裂】Lv6 使用不可 魔力補正

【麻痺針】Lv6 使用不可 敏捷補正

【産卵】Lv6 使用不可 魔力Ⅱ補正

【昇華】Lv9 使用不可 敏捷補正



 ●ボーナスステータス値

 各スキルの隠し要素としてボーナスステータス値が存在。

 ステータス値が確認できない住民は当然として、ステータス画面上でも表記されないため、検証していかないとスキルそれぞれのボーナスステータス値は分からない。

 スキルレベル1・・・・・対応能力(+1)
 スキルレベル2・・・・・対応能力(+2)
 スキルレベル3・・・・・対応能力(+3)
 スキルレベル4・・・・・対応能力(+5)
 スキルレベル5・・・・・対応能力(+10)
 スキルレベル6・・・・・対応能力(+30)
 スキルレベル7・・・・・対応能力(+60)
 スキルレベル8・・・・・対応能力(+100)
 スキルレベル9・・・・・対応能力(+180)
 スキルレベル10・・・・・対応能力(+300)

 ※魔力のみ2倍  ※魔力Ⅱはさらに2倍



 ●スキルレベル上昇に必要なスキルポイント必要分(女神様への祈祷)

 0→1・・・・・・2ポイント
 1→2・・・・・・4ポイント
 2→3・・・・・・12ポイント
 3→4・・・・・・30ポイント
 4→5・・・・・・50ポイント
 5→6・・・・・・100ポイント
 6→7・・・・・・200ポイント
 7→8・・・・・・300ポイント



 ●レベル上昇による各能力上昇値

 レベル1~10・・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種3上昇、魔力量だけは6上昇
 レベル11~20・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種4上昇、魔力量だけは8上昇
 レベル21~30・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種5上昇、魔力量だけは10上昇
 レベル31~40・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種6上昇、魔力量だけは12上昇
 レベル41~50・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種7上昇、魔力量だけは14上昇
 レベル51~60・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種8上昇、魔力量だけは16上昇
 レベル61~70・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種9上昇、魔力量だけは18上昇
 レベル71~80・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種10上昇、魔力量だけは20上昇


 ●未取得からスキルレベル1の必要経験値を『100』とした場合のスキルレベルと必要経験値、及び魔物から得られるスキル経験値の関係性(推定値)

 スキルレベル1取得に必要な経験値は100  
 スキルレベル1所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり20


 スキルレベル1から2に必要な経験値は200  
 スキルレベル2所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40


 スキルレベル2から3に必要な経験値は600  
 スキルレベル3所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり120


 スキルレベル3から4に必要な経験値は2,000 
 スキルレベル4所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400


 スキルレベル4から5に必要な経験値は20,000 
 スキルレベル5所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000


 スキルレベル5から6に必要な経験値は60,000 
 スキルレベル6所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり12,000


 スキルレベル6から7に必要な経験値は200,000
 スキルレベル7所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40,000


 スキルレベル7から8に必要な経験値は2,000,000
 スキルレベル8所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400,000


 スキルレベル8から9に必要な経験値は20,000,000
 スキルレベル9所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000,000



 ●名前の挙がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 ▲スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ◎ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中だった国

 ◎パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯

 ◎テリア公国……ガルム聖王騎士国の東に隣接する国

 グリニッド王国……大陸北東に存在する海洋国家

 

約15,300文字
 

ロキの手帳⑬を編集







カクヨム記法の挿入詳細 

ルビ
加茂川かもがわの水
加茂川《かもがわ》の水

傍点
絵画の鑑賞
《《絵画》》の鑑賞
本文を整形

段落先頭を字下げ
地図(ワールドマップ) 16章終了時点



16章終了時点のマッピングデータです。
物語の補完用にどうぞ。


 ●名前の挙がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 ▲スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ◎ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中だった国

 ◎パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯

 ◎テリア公国……ガルム聖王騎士国の東に隣接する国

 グリニッド王国……大陸北東に存在する海洋国家
549話 それぞれの思惑

 Sランク狩場を保有する大陸北東のアイオネスト王国と並び、東部最大の大国と称されるアルバート王国。

 テリア公国の東端からそんな国を広く眺め、どう攻めようかと思案する。

 といっても、このタイミングで大々的に攻撃を仕掛けようなんて、そんなアホなことをしてベザートを危険に晒すつもりはない。

 けれど俺に標的を変え、これでもかというくらいの嫌がらせをしてきたのだから、マリーを抱えるアルバート王国は紛れもない敵国。

 そんな国を相手に、商業ルートの開拓なんていうポジティブな考えで地図を作る気にはなれなかった。

 だから今回やろうとしているのはただのマッピングではなく、嫌がらせのためのスーパーマッピングだ。

 より詳しい地図を作って丸裸にし、ギャフンと言わせてやる。

 そんな計画を引っ提げ、どんな地図を作れそうか暫し唸っていたわけだが。


「んー……とりあえず、レベルを上げてみるか」


【地図作成】はレベルを上げる毎に拡張されていく印象があったので、それらの内容を確認してからでも遅くはないという結論に至る。

【転換】の余剰経験値を確認すると『7,250,692』。

 中途半端に100万だけ経験値を突っ込んでしまっていたので、できればあと1900万を早いとこ溜めて『転換』のスキルをレベル9に上げ、さらに溜めているスキルポイントでレベル10を一気に狙いたいところだが――

《夢幻の穴》の城内地下にいた、【剣術】Lv5持ちのデスナイトでそこそこ余剰経験値は稼げているからな。

 30万ポイントくらいは必要経費だと思って割り切ろうと判断し、【地図作成】のレベルを上げていく。

 さて、どんな機能が追加されるのか。


『【地図作成】Lv5を取得しました』

【地図作成】Lv5 地図上にスキル使用者が認知している土地や地域名称を大枠で加えることが可能


「昔フィーリルが言っていたやつがこれか? 手書きでメモしなくて済むから地味に嬉しいやつだな……次」


『【地図作成】Lv6を取得しました』

【地図作成】Lv6 5倍までの縮小、拡大が可能


「えーと、5倍だと……あ~小さい村までいけて、川に架かる橋もギリ反映される感じか。オッケー、次」


『【地図作成】Lv7を取得しました』

【地図作成】Lv7 任意で等高線を反映させることが可能


「……なるほど?」


 言いながらも、突然10年以上聞かなかった言葉が表示されたため、数秒固まる。

 等高線って、久しく見た記憶がないアレのことだろうか?

 そう思いながら地図に反映させてみると、重なるように浮かび上がるアメーバみたいなウニウニした数多の線。

 やっぱりそうだ。

 どうやら地図に、高さの表示が追加されたらしい。

 うーん……

【自動書記】任せとは言え、この線を売り物の地図に反映させるとなると物凄く時間がかかるだろうし、そもそもこの世界の人って、等高線の意味を説明なしに理解できるのかって疑問はあるが。

 でもまぁ、軍事目的としての利用を考えるなら、土地の高低差も把握できた方が有利に事が進むのは間違いないだろうし、決して他国に握られて気持ちのいい情報ではないだろう。

 アルバート専用と思えば、俺も描き起こす気力が湧いてくるしな。


「さーて、それじゃまずは国の輪郭を確認して、そこから余さず、マリーの領地や根城なんかも割り出してやりますかね」


 言いながらヒョイッと足場の岩を蹴りあげ、【飛行】を開始。

 アルバート王国のマッピングをついにスタートさせた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ロキがアルバートに入って数日後。

 某所にて、慌ただしく廊下を駆ける人物がいた。


「マリー様、緊急です。北西部『サンタナ』の近郊で、国境を監視する複数名の兵士が、空飛ぶ人物を目撃したと……」

「はぁ………入んな」


 扉越しでも分かる、長く深い溜息。

 若執事シェムは、それでも声色から機嫌が頗る悪いわけではなさそうなことに安堵しつつ、マリーに報告書を渡す。


「北東に向かって飛行する、明らかに鳥とは異なる黒い人型か。こうなると分かっていたんだから、今更驚きはしないが……」

「しかし想定していたよりも、だいぶ早いですよね」


 ラグリースから東へ東へと進路を取っていたのだ。

 ガルムで一悶着があってから、まだ一月ほど。

 マリーからすれば遅かれ早かれとは思っていたわけだが、そうだとしてもあまりに早い。


「テリアとスチアの地図はどうなっている?」

「まだ市販化まではされていないようですが、テリア公国の方はもう準備段階に入っているという報告が入っています」

「スチアは?」

「えっと、そちらはまだ、一切報告がありません」

「ということは、一月も掛からずあの小僧はテリアの地図を作り、そのままうちに入ってきたってわけかい」

「こちらに近づくほど、地図の出来上がる速度が早くなってきているような?」

「間違いない。となると、スキルレベルが上がっていると考えるのが自然か……」


 敵ではあるも、かつては地図が当たり前の世界に生き、その有用性を十分理解している異世界人だからこそ、マリーはその驚異的な能力に舌を巻く。

 市販化された順番を考えれば、地図を誰が生み出しているかはすぐに見当がついていた。

 奴隷化でもして手中に収めれば、どれほどの富と力を齎すことか。

 と、同時に出てきた引っ掛かり。


「しかしなぜ、スチアは飛ばした?」


 南北に繋がるガルム聖王騎士国、パルモ砂国は既に地図が出回っており、エリオン共和国も地図は公表されていないが、ハンスと共闘するくらいなのだから出入りくらいはしているだろう。

 にも拘わらず、その間にあるスチア連邦には寄らずアルバートへ入ってきていることに、僅かながらの違和感を覚える。

 だが、若執事シェムにとっては当然のことだったらしい。


「それはやはり、怒っているからでは? すぐアルバートに乗り込んで攻撃を仕掛けるほどではないにしても、大陸中の嫌われ者にする策は途中で撤退せざるを得なくなったことでバレてしまった可能性が高そうですし、学院通いも中断させられたわけですから」

「ふん、予定を狂わされているのなんてお互い様。損失の規模で言うならこっちが怒りに任せて、豆粒程度の小さな町を吹き飛ばしてやりたいくらいだ」

「は、はは……たしかに」


 言いながらマリーは別の可能性――人の命を軽んじるような策を用いたことが、くだらない正義感を持つ小僧の癇に障った可能性もあるのではと予想したが。

 どちらにせよ、派手な動きはまず取らないし、取れない。

 テリアを経由しているのなら感情に任せてということは考えにくいし、現状唯一確認できる、ロキの治める町――ベザートの様子を聞いてもまず攻勢をかけることが目的ではないと踏んでいた。


「国に連絡しておきな。間違っても国軍なんて引っ張り出して、事を大きくするんじゃないとね」

「承知しました。しかし、それではあの異世界人を好きにさせ、我が国の地図まで作られてしまうのでは?」


 シェムが感じた当然の疑問。

 これにマリーは、分かっていると言わんばかりに眉間に深い皺を寄せる。


「んなことは分かってるんだよ。だが、どう止める? 強硬策に出ればハンスまでしゃしゃり出てくるかもしれないこの状況で、おまえは止められる術でもあんのかい」


 問われ、シェムは嫌な汗を感じながら必死に思考する。

 ここで口籠っては、それこそ逆鱗に触れてしまうと経験上理解していたからだ。


「と、止める術は確かにないのかもしれません……しかし、公表すればベザートを襲うと伝え、出来上がった地図をこちらで買い取るなどの交渉に持ち込むことはできるのでは?」


 この答えに片眉を上げ、すぐさま言葉を返すマリー。


「少しはマシな答えが返ってくるようになってきたが、それでも30点だね」

「うっ」

「8割……いや、小僧なら9割は成功しそうなものだが、それでも脅しの言葉はそのままこちらに跳ね返ってくる可能性がある。実行に移せるほどの力ある相手に『襲う』なんて言葉を使って、残りの1割を引いたらどうなると思う?」

「逆に、こちらが襲われるわけですか……」

「最悪は、ハンスまで使役する魔物と共に先手を打ってくるだろう。それでも大きな見返りがあり、先々の展望がより明るくなるのであれば交渉に持ち込む価値は十二分にあるが、今はまだこちらが大損する可能性の方が遥かに大きい」


 ロキの性格をより深く読み解けていれば、あるいは考え方、答えが変わったかもしれない。

 しかし、今までどれほど上手く隠れ、力を蓄えてきたのか。

 ここ1年ほどで急に名が浮上してきたばかりの、出自もはっきりとしない人物が相手では、その者の『質』を正確に読み解けるほどの材料は得られていなかった。


「それに地図は、何も不利益ばかりを被るわけじゃない」

「そうなのですか?」

「ああ、公表されれば新たな販路としてその土地は注目される。しかもその国が大陸一豊かなアルバート王国だったとしたらどうなる?」

「お、おぉ……私が他国の商人でしたら、稼げると見込んで足繁く通うかと。事実、この国はどこよりも様々な物で溢れていますし、交易も盛んです」

「ガルムの件で煩く喚いている貴族連中は多いが、どうせ地図があろうとなかろうと既に周辺国の多くは牙を抜いているんだ。ハンスと、それに西の連中にまでうちの地図が流れるのだけは厄介だが……ロキはうちだけを標的にまっすぐ東へ向かってきたわけじゃないんだから、大陸中央も、それに西方だって同じように、あの小僧は次々と地図を作って世に公表していくつもりなんだろう。だったら今のうちは好きにさせとけりゃいいんだよ。このペースなら西側のケリがつく前に大陸広域の地図は完成し、ついでに地図を作りにいった小僧が西の戦争に首を突っ込むことになる」


 そう言いながら狡猾に笑うマリーの姿を目にして、若執事シェムは機嫌がさほど悪くなかった理由をここでようやく理解する。

 マリー様はこうなるであろうことを予め分かっていたのだ。

 地図を公表されることでの利益と不利益はどちらもあるが、利益の方が格段に多いと見込んでいる。

 話の通り、隣国の多くは産業や戦力などを抜き取られ、アルバートにとっての利益に繋がる動きを取りながら壁の役割を担っているだけ。

 とてもじゃないが攻め込める状況ではないし、マリー様がいなければこの国は瞬く間に凋落するのだから、貴族連中が騒いだところで王家がマリー様に物言いできるわけもない。

 現状考えられる障害は、ちょっかいをかけた途端に途方もない反撃が来る獣人の国――エリオン共和国と、拒絶だけで未だ詳細が何も分からない魔境の亜人達。

 そして今、最も危険視されている異世界人ロキくらいのものだ。

 西はこちらに目を向けている余裕などないのだから、障害にもなりはしない。

 ならば、問題ないだろう。


「シェム、相手は【空間魔法】所持者なんだから途切れ途切れだっていい。追えるだけロキの動きを追うよう指示を出しておきな」

「それは、地図以外の目的を探るため、ですか?」

「ふん、分かってきたじゃないか。人という欲深い生き物なら必ず目的は複数あるんだ。それこそ私を直接殺るために、この屋敷を探り当てようとしているのかもしれないしねぇ……ふふふ」

「……」


 マリー様が久方振りに余裕を見せているのだから、ようやく本調子を取り戻したということ。

 そう判断し、シェムはマリーの指示を遂行すべく一礼したあと、来た時よりも軽い足取りで廊下を駆けていった。
550話 長官候補

 大国アルバートだからと言って、突然町や人の様子に大きな変化が生まれるわけではない。

 ハンターギルドは当然として傭兵ギルドも存在しており、情報収集のために立ち寄れば、少し町の規模と比較して売っているモノの種類が多いかなと感じる程度。

 あとはどこも似たような穀倉地帯や未開の土地を眺めながら、日中は丸ごとアルバート王国の探索に費やし、夜も自身に課した最低限のノルマ。

 グリムリーパーの変色した黒い骨集めのため、何もない日は《嘆きの聖堂》に8時間ほど籠るというサイクルを繰り返していた。

 あくまで確率が高いと思っているだけ。

 表ボスであるグリムリーパーを素材にしたら裏ボスが確実に生まれるというわけではないし、Sランク狩場の魔物を丸ごと穴に放り込み、強化版の受肉体グリームリーパーを湧かせてしまった方が回転は速いけれど……

 なんとなく直感で、ゲーム的な正攻法ならこちらかなと。

 そんな理由から、長期戦覚悟の挑戦にも手を付け始めていた。

 それにやっぱりデスナイトの【剣術】レベル5がかなり美味しいしね。

 1日狩れば余剰経験値を50万以上は溜められるので、これなら各スキルのレベル9も1か月ほど粘れば見えてくる計算となり、かなり現実味を帯びてくる。

 そして安定的な経験値稼ぎができるようになると、やっぱり有用スキルは少し寄り道をしてでも上げたくなっちゃうわけでして。


「おお、すげっ……2時間切りか……」


 気持ちよく目覚めてすぐに腕時計を確認すると、寝る前からまだ1時間40分ほどしか経過していない。

 魅惑のスキル、【昼寝】を安定のレベル7まで上げた効果は、すぐに睡眠時間の短縮という形で表れていた。

 これでまた稼働時間が増え、1日の効率が上がる。


「ふふふっ……」


 そして今日もまた、昨日見つけたCランク狩場《マーム洞窟》の奥地に椅子を置き、一人持ち込んだ本を読みながら狩りに励むのだ。


『殺せ、黒玉』


 周囲に飛散した魔法は、新種も含めた魔物のみを撃ち抜いてゆく。

 目新しいスキルを所持していたわけじゃないし、素材なんて欠片も期待できないけど。

 それでも、不足を補うにはいいスキルを3種の魔物は所持していた。


『【粘液】Lv7を取得しました』

「ん、先にこっちが上がったか」


 上部には鍾乳洞が存在し、ポタポタと水滴が地面を濡らす、湿気の強い暗がりの洞窟。

 中はそれぞれ違う特性を持つ、微妙に色の違うスライムのみが出現する狩場になっていた。

 体内の水を【水魔法】で操り、先日倒した暗霧の超劣化版みたいな攻撃をしてくるタイプと、ネバネバ絡む【粘液】を飛ばしてくるタイプに、蟻の得意な【酸液】を撒くタイプ。

 視線を本に向けていれば効率的にリポップされ、数分毎に自動追尾魔法を放つだけで周囲には核となる魔石だけが転がっていく。


「【酸液】はレベル8まであと6%、【分解】と【吸収】も今日中にはレベル7まで――」


 確認中、不意に眺めていたステータス画面の縁が青く点滅する。

 呼び出しているのは入口の黒象ギリオ君、つまりはダンゲ町長からの呼び出しということだ。

 ならばしょうがない。


「残念、続きはまた明日」


 そう呟きながらパタンと本を閉じ、周囲に散乱した魔石を回収してからベザートに転移した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 さてさて、客か、それとも激おこクレームか。

 少しドキドキしながら入口の小屋に向かうと、懐かしい人物がガタリと床を鳴らし、緊張した面持ちで席を立つ。


「おお、お久しぶりでございます。私のことは覚えておいででしょうか?」

「あっ」


 丸っこい身体に、ピカリと光るハゲ頭。

 かつてリルのスキルを覗かれたことで一悶着あった、ラグリースの監査院に所属する人物がいた。


「ニローさんじゃないですか。お久しぶりです、どうされたんですか?」

「なんと、名まで覚えていただけていたとは感激の至りでございます。ロキ王様におかれましては――」

「ちょいちょいちょい、普通でいいですからね。というか普通にしてください、気持ち悪いんで」

「ほらな、言った通りじゃろ?」


 背後から、やっぱりという呆れ顔で突っ込みを入れるダンゲ町長。

 事前にアドバイスはしてくれていたっぽいけど、そう簡単に納得してくれる人ばかりじゃないもんなぁ。


「それで、ラグリースの監査院所属の方が急にどうしたんですか? ヘディン王から何か指示でもありました?」


 そう告げると、ニローさんは苦笑いを浮かべながら、少し沈んだ表情で顔を左右に振った。


「ははは……監査院の所属とは言っても今や名ばかり、活動の拠点にしていたマルタがあの有様でしたからな。ここ1年ほどは街の復興作業に追われ、今もマルタの支部はまともに機能しておりません」

「あーそうですよね……」

「しかし、ようやくその作業にも目途が立ち始めましてな。兼ねてより考えもあったもので、国とは関係なしにこうして足を運ばせてもらったわけです」

「ん? 国とは関係ない?」


 疑問に感じて顔を上げると、先ほどとは違い、ニローさんは力強い眼差しで俺を見つめていた。


「ロキ王様、このアースガルド王国に監査院――諜報機関は存在していますかな?」


 問われ、当然首を振る。

 やっと連絡用の鳥を調達してきたくらいなのだ。

 まだそこまで着手できておらず、女神様達にその一部を担ってもらおうとしていた。


「早めに動いた方が良いとは思っているんですけどね。人材の問題で、まだ足掛かりすら築けていないのが現状です」


 正直な答え。

 さて、これにニローさんはなんと返すのか。

 言いながら反応を確認すると、表情は変えずに小さく頷き、口を開く。


「そうでしたか……ならば折り入ってのご相談がありまして、私にアースガルド所属の諜報員をやらせてもらえませんか?」


 やはりか。

 諜報活動をしていた人間がその手の話を振ってきたのだ。

 だったらこれかと思って投げたボールを、ニローさんもしっかりと投げ返してきた。

 だが、真意はどこにある?

 町の雑貨屋程度なら何も気にしないが、諜報となれば話は別だ。


「なぜ、突然そんなことを?」

「理由はいくつかありまして、1つはまだ国を興してから日が浅く、そこまで手が回っていないだろうと予想していたのです。アースガルドは宗主国、この国が傾けば必然的に生まれ故郷のラグリースも傾き、再び危険に晒される。それだけは回避したいというのが一番にあります」

「なるほど」

「それに諜報というのは欺瞞の世界ですからな……どこの国も担う人間の採用には神経質になるものです。その点、私はロキ王様と面識があり、私がラグリースの諜報員であることも把握されている。全てとはいかないまでも、見知らぬ者を採るよりは諜報員としての信用も得られるのではないかと、そう思った次第です。それに今のうちなら出世もしやすいのでは、と……まぁ個人的な欲と打算も少なからずあります」


 そう言ってニローさんは禿げた頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

 確かにその通りだな。

 先ほども真っ先に浮かんだのは二重スパイで、技能もそうだが、その人を信用できるかどうかというのが非常に大きい。

 当然移民に経験者、希望者がいたからとて、そう易々と任せましょうとはいかず、まずはどこかから潜り込んでいないか素性を確認することから始まるだろう。

 その点、ニローさんがラグリースの諜報員であったことは間違いないわけで。

 もちろんどこかの国に引き抜かれ、今現在は他国の諜報員になっている可能性だってゼロではない。

 が、こんな時、素直に自分の欲を打ち明けられる人はまずセーフだろうなと。

 経験上の判断からそんなことを思いつつ、続く言葉に耳を傾ける。


「それに30年、諜報の世界に身を置いていますからな。自分が動くのは当然として、人材の育成にもそれなりに自信はあるつもりです」

「それは頼もしい。ただ仮にうちで諜報活動をされるとして、ラグリースの方はどうするんです? えーと、伝わるか分かりませんけど、出向という形を取るんですか?」


 そう問うと、内容が通じたようでニローさんは首を横に振った。


「いえ、いくら属国と言えど、他国に所属する人間が諜報を担うなどおかしいな話ですから、正式に辞職する予定です。それでも、結果的にはラグリースを守ることに繋がると思っていますし、あのような状況と立場でマルタや王都の防衛に尽力され、私の家族を含む多くの命を救っていただいたロキ王様には心からの尊敬と感謝をしております。私がその恩をお返しするとしたらこのくらいしかできることがない……残りの人生を懸けてでも、このアースガルド王国が揺らがぬよう貢献をさせていただきたいのです」


 その覚悟の籠った言葉、眼差しを受けて、念のためリルに記憶を探ってもらおうかと思っていたけど、これは不要だなと。

 そう感じて、自然と大きく頷く。


「分かりました。それではアースガルド所属の監査院『長官候補』として、この国と、それにラグリースの人達が平和に過ごせるようぜひ力を貸してください。僕もできる限りの後押しはするつもりですから」

「も、もちろんですが、長官候補……いや、一人もいないのなら必然的にそうなるのかもしれませんが……長官候補……?」


 なんだなんだ。

 出世欲があるというから、よくある"幹部候補"なんて曖昧な言葉は使わず長官と限定したのに、候補というのが嫌なのか?

 どうせこの人を中心に動いてもらうことになるんだし、別に今から長官でも構わないけど……

 長官という立場なら、それこそ諜報という世界のエキスパートになってもらわなければならない。


「もう長官にしちゃってもいいですけど、その場合、相当な覚悟が必要になりますよ? 一生、その手の裏の世界で生きる覚悟が」


 そう告げると、別に威圧したわけじゃないんだが。

 ニローさんはゴクリと喉を鳴らし、それでも覚悟の決まった表情でゆっくりと頷いた。
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書籍3巻の特典を活動報告に更新しておきました。
書籍の方でも少しずつ世界が広がり、良くも悪くも廃人らしく動き回っていますので、ぜひもう1つの世界線も応援していただければ幸いです。
また、WEB版の方も1月末まではハイペースで更新していく予定ですので(たぶんあと10話くらい)、こちらはこちらでまったり気長に楽しんでください。
551話 異端審問官

 諜報員というのは誰にでも務まる仕事ではない。

 自然とそう思えてしまうほど、初めて見るニローさんの所持スキルは幅が広かった。

 となると、ここから尖らせるか、それとも万遍なく伸ばすべきか。

 それも候補に挙がる職業次第かと、神官のトレイルさんが読み上げていく職を黙々と書き写していく。


「ど、どうですかな……?」


 大幅にレベルやステータスが上がったことで、聞いたことのない職業がいくつも出てきたためだろう。

 不安げな表情を浮かべるニローさんに対して、俺は職業一覧の本と見比べながら答える。


「んー……なかなか良いと思いますよ。上級職の<執行人《エクスキューショナー》>がありましたし、この<異端審問官《インクイジター》>っていうのはちょっと怪しい感じもしますけど、特能級に該当する職業みたいですしね」


 そう告げると、本人よりも先にトレイルさんが驚きの表情を浮かべながら口を開いた。


「先ほどは神託中のため口を挟みませんでしたが、<異端審問官《インクイジター》>は相当希少な職ですよ? 神に仕える"五神職"の1つであり、教皇様の直下に極少数名しか存在していないとされています。まさかファンメル教皇国から遠く離れたこの地で適任者にお目にかかれるとは……」

「「え?」」


 俺とニローさんの驚く声が重なる。

 小さなベザートの町にもいたくらいだ。

 神官はそこそこの人数がいると分かっていたけど、同じ特能級でも<異端審問官《インクイジター》>というのはそんなに希少職なのか……

 それに五神職とはなんだ?

 今までの異世界人生で聞いたことのない言葉に俄然興味が湧いてしまう。


「その、五神職というのは?」

「神に仕える仕事の中でも、特殊なスキルを賜るとされる5つの職業のことですよ。【神託】を授かる<神官>から始まり、<祭司><異端審問官><大判官>、そして『六道神教』の象徴とも言える<神子>と、この五職を聖職者達は五神職と呼んでいるわけです」

「お、おぉ~なるほど。<神子>は【神通】だとして――あったあった、<祭司>は【神儀】ってやつか。でも<異端審問官>と<大判官>はスキルが載ってないですね」


 俺が五神職と言われてもピンとこなかった理由がコレだ。

 職業一覧の本にはそれぞれの職が載っているけれど、スキルまで載っているモノ、載っていないモノとがあって、同じ聖職者としての繋がりがあるとも思っていなかった。

 "改正版"とはいえ、まだまだ情報の精度が甘い。

 手に取る本を見て、思わずそう感じてしまったわけだが。


「先にもお伝えしました通り、<異端審問官《インクイジター》>と、それに<大判官《ジャスティシア》>もなれる者は非常に少ないですし、何よりその2職はファンメル教皇国も情報を表に出すことがありません。私もどのようなスキルを賜るのか知らないのですから、世に情報が出回っていないのも当然のことだと思いますよ」


 トレイルさんからこのように言われてしまうと、ニローさんを見つめる視線にも熱が籠ってしまう。

 おいおいおい、あんたすげーよニローさん!


「こ、これはなれと、目が訴えかけているような……」

「いえいえ、そうは言ってません。ただ<執行人>は【暗器術】の補正なんて書かれていますし、どちらかというとダメージディーラー……直接動いて敵とやり合うような職だと思うんです。できればそういった部分は育てた部下に任せて、現場の指揮監督を僕としてはお願いしたいわけなんですけど、《《長官のニローさん》》はどう思いますか?」


 そう告げると、禿げたおっさんの頭と瞳がギラリと光る。


「ふ、ふふ……そう言われてしまっては敵いませんな。だったらなりましょう! その<異端審問官>とやらに!」

「まぁそう気合を入れなくても、気に入らなければすぐに職は変えられますしね。あ、ただ一つ、確認を」

「はい?」

「どのような基準でなれる職業の候補が決まるのかは分かりませんけど……例えばニローさんは亜人が嫌いとか、そんな感情があったりします?」


 なんせ日本にいた頃の知識だと、ちょっと怖いというか、過激な印象しかない異端審問官だ。

 もし『六道神教』――教会と距離を置き、もしくは金銭的な事情から置かざるを得なくなり、自らの祖先を敬っているような亜人達に嫌悪感を抱いていたりすると少々マズい。

 個人の好き嫌い程度なら自由だけど、それを公に持ち出され、この国の亜人達を排除でもしようものなら、俺がニローさんを強制排除しなくてはならなくなってしまう。

 そんな不安が頭を過ったが、当のニローさんはあっけらかんとしていた。


「いえ、まったくですな」

「あ、そうっすか」

「今まではただ接点がなかったというだけで、好きや嫌いといった感情も持ち合わせておりませんでしたが……今となっては逆に好ましく思っているくらいです。優れた力と体力でマルタの復興に誰よりも尽力してくれていたのは、ヴァルツ領から出稼ぎに来ている獣人の方達ですからな」


 そう言って人の良さそうな笑みを浮かべるニローさんを見て、これなら大丈夫かとホッと胸を撫で下ろす。

 が、どうやら続く言葉があったらしく……


「ただ――」

「ん?」

「我が祖国と、そしてロキ王様が治めるアースガルド王国を脅かす存在は、誰であろうと決して許しはしません」


 その言葉と、目だけは冷めきった笑顔を見て、ああ、ニローさんってこんな一面もあるんだと。

 俺は頼もしさの中に、ほんの僅かな恐怖も覚えてしまった。
552話 【神磔】

 明日にでもすぐに家族を連れてくるというニローさんの仮住まいは、ノアさんの仕事場兼自宅にもなっているアパートの一室でいいとして。

『暗部』と名付けた如何にも怪しい諜報担当部署は、今後ベザートのどこに拠点を置こうか。

 空をフラフラと飛び、どうしようか悩みながら森を開拓していく。


『精霊よ、切り倒せ』


 最近の開拓作業は簡単だ。

 森の中で【精霊魔法】を連発するだけで、相当開けた土地が出来上がる。

 まずは余裕をもって、森のど真ん中に降り立ったら風の精霊に木を切ってもらい。


『精霊よ、吹き飛ばせ』


 切った木は町の方向に軽く吹き飛ばし、あとで回収しやすいようにざっくりと纏めておく。


『精霊よ、均せ』


 そして切り株だらけの大地を何度かモコモコと均していくと、大きい石や根っこの千切れた切り株が地表に浮かび上がってくるので、また吹き飛ばせるモノを吹き飛ばしておけば完成だ。

 あとはヤーゴフさんかダンゲ町長に伝えておけば、仕事を求めている人達がその素材を町に運び、また別の誰かが何かに役立ててくれる。

 資材の回収から整地まで全て一人でこなしていた昔と違い、今はこれくらいまでやっておけば十分だろう。

 と、そんなことを考えながらモコモコさせていると、背後から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


「ロキ王様~! ここでしたかー!」

「あ、結構時間掛かりましたね」


 その声と姿はニローさんで、腹を揺らしながら、それでもかなりの速度でこちらに向かってきていた。

 どうやら教会でのスキルレベル上げが終わったらしい。


「西に行ったり南に行ったり! ロキ王様がすぐに移動してしまうから、追いかけるのが大変だったのです!」

「あ、はは……すみません。ついでに養成機関と畜産業が行なえる土地も拓いていたもので。それよりどうでした?」


 ちょっと怒られてしまったため、話を無理やり逸らすように問うと、ニローさんは息を切らしながらもニヤリと笑みを浮かべて頷く。


「予定通り、まずは各スキルのレベルを推奨値まで上げきってから<異端審問官(インクイジター)>に就きました。職業補正も込みでの主要スキルはこのように」

「……おお、だいぶ良い感じじゃないですか!」


 黒曜板を書き写したのだろう。

 わざわざ一覧にしてくれたスキル内容を確認すると、あまり敵には回したくない諜報のエキスパートが爆誕していた。


「【心眼】レベル10、【隠蔽】レベル10、【気配察知】レベル9、【忍び足】レベル8、【聞き耳】レベル8……おっ、【広域探査】も取れたんですね」

「ええ、ロキ王様に教えていただいた前提条件の【探査】レベル10も、職業補正在りきではありますがもっていけましたのでな。頭の中に響いた【転換】というスキルも、最後にレベル4までは取得できましたし……まさか私が、到達したら後世に名を遺すとまで言わる天級――スキルレベル10を、しかも複数到達させてしまうとは……あの"地獄"でいろいろなモノを失ってでも耐えた甲斐があったというものです」


 そう言ってどこか遠くへ視線を向けるニローさん。

 今までと違い、いきなりパワレベ会場が城内のSランク狩場だったので、ニローさんは腰が抜かしたまま失禁したり、泡を吹いて気絶したり。

 それにまだ少しは残っていた両サイドの髪の毛も、片方が燃えてチリチリになっていたので、終わった頃には生きた屍のようになっていた。

 自分の汚れたパンツを握り、下半身丸出しのまま虚無の瞳をこちらに向ける姿は俺がチビリそうだったくらいだ。

 しかし、代償と引き換えに得られた結果は、俺の目から見ても正直エグい。

 <異端審問官(インクイジター)>はパッと見た感じだと、『探す』とか『見つけ出す』という行為に特化しているようで、繋がりのあるスキルはかなり幅広い範囲でスキルレベル+2の上昇補正が付いており、その影響は索敵や様々な覗く行為だけに留まらず、【夜目】や【遠視】などの視覚系、それに俺は未だ活用したことがない【罠生成】や【罠解除】といった罠系にまで及んでいた。

 その分【剣術】や【身体強化】、それに魔法系統など、直接的な攻撃に繋がるようなスキルの上昇は見られないようだが……

 まぁ当初の狙いが人材の育成と現場の指揮監督なので、こちらが期待していた通りの結果になったと言える。

 それに――


「【神磔】……これが<異端審問官《インクイジター》>の固有スキルですか」


 まだうちで抱えている源書にも情報が載っていない、過去に一度も見かけたことのないスキル。

 さらにオマケで、この謎スキルもついてくる。


「【転換】の時と同じように、職業を選択したら頭にそのスキルが響きましてな。とりあえず1だけ取得しておきました」

「なるほど、もう試してみました?」

「まさか、効果も分からないようなものを無暗やたらと発動したりはできません」

「ん~……じゃあついでに、ここで試しちゃいましょうか」


 一度飛び、ニローさんの目の前に連れてきたのは1匹のゴブリン。

 さて、どのような効果が生まれるのか。


「【神磔】」


 少し距離を取って眺めていると、ニローさんがスキル名を唱えてすぐ、浮き輪のような、何本もの光の輪がゴブリンの周囲に発生し、縮みながら締め上げるように身体を拘束していく。


「「……」」


 10秒、20秒……

 その輪は消える事なく、ゴブリンはギィギィ喚くも、身体を僅かに身動ぎさせる程度。

 倒れたまま起き上がることができず、だがダメージを負っている様子もなく――時間にすれば1分程度だろうか。

 不意に拘束していた光の輪が消え、ゴブリンは何事もなかったように牙を剥いて立ち上がった。


「拘束系で持続時間は1分程度。対象へのダメージはゴブリンでもピンピンしてるくらいですから、見る限り何もなさそうですよね」

「ですな。職業の特性を考えれば、捕縛専用スキルといったところでしょうか?」

「んーそうなんでしょうけど……今度は僕を対象に、ゴブリンと纏めてやる感じで撃ってもらえません?」

「え? よろしいのですか?」


 まだ一度しか発動していない未知のスキルだ。

 不安げな表情をニローさんは浮かべているが、食らわなきゃ分からない要素はまだいくつもあるわけで。

 まだレベル1だし、即死じゃなければ大概はヤバい効果であっても時間が解決してくれるだろう。


「遠慮せずやっちゃってください」

「で、では……【神磔】」


 すると、予定通り俺の周囲に浮かび上がる光の輪。

 しかしゴブリンには発生せず、急激に締まり拘束される俺を睨みながら、その汚い爪を立てようとしていた。


「う、おっ……ニローさん、ゴブリンを巻き込むような感じで撃ちました?」

「ええ、ただロキ王様だけに……」

「となると、少なくとも現状のスキルレベルでは単体効果ですね。んーで、ん、んんん!? ンギギギぎぎぎぎぃっ!!」


 力任せに外そうとしても叶わず。

 ならばと【身体強化】と【闘気術】を発動しようとして、ここでふと気付く。


「おおっ!? これ! スキルも発動できないんですけどぉー!?」


 ぴょんぴょんと。

 強引に跳ねてみるとそこそこは飛べるので、たぶん身体能力――というよりステータスは落ちていない。

 しかし【飛行】もできないのだ。

 マジでスキルが発動できず、焦ったところで足を滑らす。


「いでっ」


 そして地面に転がったら最後。

 もがもがと足掻くも手足が拘束されているため立ち上がることすらできず、そんな俺を見ながら先ほどのゴブリンが舌舐めずりして噛みついてくる。

 まぁ皮膚を撫でられているような感覚しかないけど……


『火』


 やっぱり、魔法もダメ。

 諦めて念のために転移を試みるも、案の定発動することなく1分ほどで俺を締め上げていた光輪が解除された。


「これ、ヤバいですよ!」


 となれば、開口一番こんな言葉を叫びたくもなる。

 スキルは何も発動できず、武器などまったく振れず、走って逃げるどころかまともに歩くことすらできないのだ。

 食らったからと言って、ただちに俺が死ぬようなことはないだろうけど……

 拘束されている1分間で何をされるのか。

 幸いとも言える拘束時間の短さだって、スキルレベルが上昇すれば延びる可能性もあるわけだし、こんなスキルを所持する相手など敵に回したくないというのが本音である。


「ま、まさか、スキル無効化の能力まであるとは……」

「似たようなスキルは僕も所持しているんですが、これは明らかに上位互換……というより、比じゃないほど強力過ぎる気がします。その分、何かしらの致命的な欠点を抱えている可能性もあるので、いざという時のために検証できる部分は検証しておきましょうか。必要があれば、魔力は僕が回復させますから」


 耐性、射程、魔力消費量、使用回数……

 今まで得られたスキルのことを考えると、欠点になり得そうな候補はいくつも挙がる。

 そのうち何かが該当してくれているのか。

 いくら扱える者の数が少ないとは言え、敵に連発された時の、この抗いようの無さを考えれば何かは絶対にあるだろうと思いながら、より細かい【神磔】の仕様判定が始まった。
553話 人生の転機

「ニローさん、さすがにそろそろ切り上げましょうか」

「い、いえ、あと1度か、2度くらいであれば……!」

「いやいや、8度もこなせば十分情報は得られましたから」


 息も絶え絶えといった様子のニローさんにそう告げると、内心では相当しんどかったのだろう。

 気持ちが途切れたようにその場でボテッと尻もちをついた。

 そんなニローさんの横に俺も腰掛け、強力過ぎると感じた【神磔】の仕様とその欠点を後々のために纏めていく。


 まず一つ、魔力消費量は具体的な数字までは分からないけど、かなり重い。

 パワレベの影響で現在推定レベル60前後くらいだと思われるニローさんが、たった8度の使用だけで身体の強い渇きを感じると言うのだ。

 スキルボーナスの加算分もあるし、ニローさんの魔力初期値なんて分かりようもないので、総量は予測でしかないけど……

 たぶん1度に100か200。

 レベル1でもこのくらいの魔力は消費しているのだろうと思われる。

 加えてこの疲労っぷりだ。

 動いてもいないのに、3度目から急に息を切らし始めたことで何かあると疑ったが、疲れと身体の芯からダルさを感じるという症状は、俺自身が【闘気術】を使用した時と酷似していた。

 つまり、体力の消費だ。

 その分使用回数の制限はないように思えるけど、たぶん並みの人間では10度も連発しては撃てない。

 というより、仮に4度5度と短時間で撃てば、もうそこからは自分自身がその場から逃げる余裕などなくなる。

 そんなリスクあるスキルにもかかわらず、検証した結果スキルの射程は僅か5メートル程度と、スキルレベルの上昇によって延びる可能性はあるにしても、かなり対象に近寄らなければ発動もできない。

 加えて"重ね掛け"はできず、一度かかったスキルの効果は1分毎の効果切れを確認してからでないと再発動できなかった。

 つまり、対象を長く拘束させておきたいなら、ずっと射程圏内の5メートル付近にいなければいけないということだ。

 これだけ分かれば、もう問題はない。

 ニローさんが今後このスキルを運用する上で、気を付けなければいけない部分も浮き彫りになったし、俺がいずれどこかで食らうことを想定した時も、これだけ情報を拾えていれば十分対策が取れる。


「僕はもう把握できたんで、ニローさんにこれは渡しておきます。特に体力の消費は表面上の一時的なモノでなく、数日身体が動かせなくなるような深いモノでしょうから、連続使用は極力控えてくださいね。そんなことをしなくても、今のニローさんなら大抵の人間は捕まえられるはずなので」

「そう、ですな……この疲れが普通と、違うことくらいは分かります。しかし、使い方次第で、このスキルは大きく、化ける」

「ええ、だからファンメル教皇国が情報を表に出さないように、僕達もこのスキルの情報は秘匿しておきましょう。その方がいざという場面で大きな効果を生みますし、ニローさんの安全を確保することにも繋がるでしょうから」

「承知しました。ふふふ、私と、ロキ王様との秘密……こういうのもなんだか、いいものですな……」

「はは……できればおじさんとではなく、女性と秘密は共有したいものですけど」

「確かに、言いながら、私も、同じことを思いました」


 柔らかい赤土が剥き出しの、何もない場所で男二人が笑い合う。

 強い武器を得られたのと同時に、重い枷を背負わせてしまった気もするけど……

 こうして本人がやる気になっているのだ。

 ならば、俺が止める理由なんてない。

 諜報部の長として、本当に必要な場面が来た時にはこのスキルを使って拘束、場を制圧してくれる。

 そんな未来に期待しながら、俺達は町に帰還。

 一応ヤーゴフさんと、それに面識はあったようだが支配人のウィルズさんも紹介し、こうして初の公的機関とも言える『暗部』がひっそりとアースガルド王国に誕生した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ベザートの南側。

 川の反対側に見えた"移民区"と呼ばれる広い土地を通過し、いずれこの辺りが中心部になるという、まだ資材ばかりが目立つ開けた土地や、先ほどまで実験を行なっていた、この辺りで畜産業を行なうという西区の広大な更地も通過したさらにその先。

 道の終点となる森の入口で、運ばれてきた大量の積み荷を順に降ろす。


「本当にここでいいのか?」

「ええ、いずれこの辺りも拓けるということですし、私の仕事はあまり表に出るような類いのモノではありませんのでな」

「そうか……まぁボスが絡んでいるんなら問題ないか。また足りないモノがあったら言ってくれ」


 そう言って馬車を牽きながら帰っていく大柄な男と、見たこともない赤毛の立派な巨馬に目を向ける。


「ふぅ……全くもってありえんな」


 ロキ王様の希望もあり、【心眼】は最大のレベル10になるよう調整をした。

 つまり今は、ほぼ全てと言っていいほど、視界に収めた対象のスキルを見通せるようになったわけだ。

 だからこそ、【魔物使役】レベル8などという……

 国が大事に抱えて重用し、場合によってはその有用性から存在自体を伏せる可能性すらあるような能力の持ち主が、当たり前のように商会の荷運びなどをやっているという事実にただただ驚愕する。

 それに仮住まい用にと割り当てられたあの部屋。

 一応隣人に挨拶をと思って顔を出したら、寝癖を跳ね散らかした不健康そうな女が現れたが……あの女に至ってはロキ王様と同じ。

 そもそもスキルを見通すことすらできなかった。

 つまり、【隠蔽】のレベルが10であるということ。

 そんな人間がよく見る一般的な者達に混ざって生活をしているのだから、ほとほとアースガルドという国の異質さが窺い知れる。

 どのような事情かは分からぬし、住民である以上余計な詮索をするつもりもないが、きっと私と同じ。

 ロキ王様に押し上げられた者達なのだろう。


「ここから、始まるのだな……」


 随分と軽く感じる家具を担いで川を渡ると、少し森に入った大樹の根本には地下へと続く階段が。

 いずれはこの辺りも伐採し、その時に上物を町の大工に作らせるという話だったが、石造りの広い地下空間だけは先ほどロキ王様に造っていただいていた。

 私を含む諜報員の詰所で、いくつかの大部屋と個室がズラリと並び、尋問部屋や牢屋、それに倉庫としても今後活用できるようになっている。

 その部屋の一室。

 やや他よりは大きめの部屋に、運んできた家具や目を剥くほど高額な魔道具を置き、椅子に深く腰掛けながら一人思考に耽る。

 まさか、こうまでとんとん拍子に話が進むとは思わなかった。

 なにせ私が望んだのは諜報だ。

 出自や家族構成などの身辺調査くらいは入って当然であるし、本来ならば諜報員とは志願者を採るなどという危険は冒さず、勧誘によって能動的に人員を確保するもの。

 最初の出会いからして決して良いモノとは言えず、だからこそ駄目元であろうと、家族にも言わぬままこうして訪れ、私なりに正直な気持ちを伝えたつもりだったが……

 そんな私を、こうもあっさりと信用してくれた。

 そして、夢にも思わないほどの能力を与えてくれた。

 あの内を覗くような目は、ただ人が良いなんてことでは決してない。

 信じるに足ると、そう判断し、長官などという立場まで用意してくれたのだ。


「これほどの高ぶりは……いや、人生でも間違いなく、経験のないものだな……」


 僅かに震える自らの手を見つめていると、自然とそんな言葉が口から吐き出された。

 まさに、人生の転機。

 ここからは同じ日陰でも、今までとはまったく質の異なる日々が始まるのだ。

 この恩は何があろうと必ずお返しする。

 そのためにも――


「まずは人材の勧誘と、大掃除ですかな」


 この町は、あまりにも小蠅が目立つ。

 アースガルドと、そしてラグリースを掻き回す存在など、私が決して許しはしない。

 いくつかの道具を持って一人静かに階段を上がると、既に外は月明りもない闇に染まっていた。
554話 揺らぎ始めた大国

 場所はアルバートの中心地、王都『ロミナス』。

 城塞都市でもあるこの街の宮殿内部には今、ある者の声に応じて50を超える貴族達が集まっていた。

 そして呼びかけた貴族達の若き中心人物――レオン・フォート・セルリック侯爵が、周囲を一瞥してから渋面を作るビーネ宰相に口を開く。


「前例にないほどの重大な事案だとお伝えしたはずですが、それでも陛下はこの場に来てくださらないのですか?」

「いくらセルリック卿の頼みとはいえ、あまりに唐突だったものでな……それで、これだけの数が集まって何用なのだ?」


 そう問われ、諦めの混じった溜息を吐きながら、セルリック侯爵は数枚に渡って書き記した羊皮紙を渡す。


「まずは、こちらを」

「む? これは……」


 目にした瞬間、僅かに声を漏らすも続く言葉はなく、暫しの間、眉間に深い皺を寄せながら報告書を眺め続けるビーネ宰相。

 そして、何かを悟ったようにハッとした表情で顔を上げた。


「ま、まさか、ここにいる者達が皆、子を襲われたというのか……?」

「正確にはこれでも一部です。確認が取れていない貴族は他にもおりますし、学院に子を通わせていた我が領内の商人や騎士からも同様の報告を受けております。例外なく、生徒全員が襲われたという話のようなので」


 言いながら、セルリック侯爵は目を細める。

 この事実を、予め宰相は知っていたのか、否か。

 しかし――


「……その様子、ビーネ宰相も元凶となるマリー侯爵からはなんら報告を受けていないようですね」

「当然だ……というよりガルムからもこのような報告など受けていない。これ見よがしに二人の異世界人から助力を得て、内部に紛れた虫は一掃したと。それに内紛の解決や学院が安全であることを――ん? そういえば、なぜか学院は安全になったと強調しておったな……」

「つまり、我が国との抗争を恐れ、直接の言及は避けたということでしょう。しかし子供らは正直だ。こうして手紙や傍につけていた供を伝い、すぐに情報は広まります」

「……」

「ビーネ宰相。この件を受け、マリー侯爵に対する処遇は如何様にされるおつもりか?」


 この時ビーネ宰相は、セルリック侯爵のあまりに険しい顔つきに。

 いや、背後にいる貴族達の中には怒気を超え、殺気を感じるほどに目を血走らせている者もいることで、この事態が偽りや謀の類いではないことをすぐに理解するが。


「陛下にはこの旨、ありのままに伝えると約束しよう」


 それでも、どこまで引き出せるのか。

 おおよその結果が見えてしまうだけに、この程度の言葉しか返すことができない。

 だがセルリック侯爵は、その返答を見透かしたように抑揚のない声で問うた。


「つまり、伝えはするが、陛下は動かれないと?」

「……セルリック卿こそ分かっていよう。元より賛否があることは承知している。特に卿のような歴史ある大貴族にはな」


 人によっては棘を感じる言葉。

 セルリック侯爵は僅かに視線を鋭くさせるが、ビーネ宰相はその眼差しを正面から受け止めた上で言葉を続ける。


「しかしこの国が大陸有数の強国と称されるほどの立場を築けているのは、マリー侯爵の力によるところがあまりに大きい……もし下手な処罰を理由に離反でもされたらと、私でさえ考えてしまうのだ。陛下であればなおのこと慎重にもなるだろう」

「……聡明な陛下であれば、今回の一件でよりマリー侯爵がこの国を利用しているだけだと、お分かりになるはずですが?」

「仮にそうだとしてもだ。現に兵を損耗させることなく領土は拡大を続け、国は大きな蓄えを残したままより強く、そして豊かになっている。それに対外的な牽制や抑止という面でも、4強と言われる一角が国に属しているという事実は大きい」


 この言葉に多くの貴族達は、悔しさを滲ませながらも納得するしかないといった様子で小さく唸るが、北西部に広域の領地をもつ大貴族、セルリック侯爵は一人、片眉を上げて異を唱えた。


「抑止という面でも一人、まったく効いていない者がいるようですけどね」

「ふむ……そういえば、真っ先に報告を寄越したのはセルリック卿だったか。ならば丁度いい。各方面に急ぎ指示書を手配する予定だったが、ここに集まった者達には先に伝えておこう」


 言いながら宰相の視線は、セルリック侯爵の肩越しに佇む多くの貴族達に向けられていた。

 そして放たれる、衝撃の事実。


「今現在、第五の異世界人ロキが、我が国の領内に足を踏み入れている」

「「「!?」」」


 この発言に場がどよめく。

 この場にいる貴族達は、大なり小なり学院を含むガルム王都『ゲルメルト』の襲撃を――生徒の立場であった異世界人ロキが、その襲撃に対処したことも聞いていたのだ。

 対立の気配が濃厚になってきている中での来訪に、目的は? 今どこに?

 何か大きな被害は出ているのか?

 衝いて出た疑問が場をざわつかせる中、ビーネ宰相は軽く手を上げ、予め用意していたかのように言葉を続ける。


「静まるのだ。あの者がいずれこの地に辿り着くことくらい予見はできていた。断片的な追跡情報ではあるが、今のところは北から東へと進路を取りつつ、各町の市場で買い物をする姿と、あとは一部の狩場での目撃情報が上がっているくらいで、特段目立つ問題行動は起こしていない」


 この言葉に多くの者達が目を瞬かせる。

 話を聞くだけならただの観光、もしくは武者修行でも行う放浪の旅人だろう。

 大きな争いに発展していないことでにわかに安堵の空気が漂う中、セルリック侯爵は一人、冷めた眼差しをビーネ宰相に向けていた。


「空を舞うと噂の彼が、この世界に地図を生み出していることなど今更な話でしょう。つまりビーネ宰相は我が国の地図が作られ、そして世に出回ることを問題視されていないように聞こえましたが?」

「そうまでは言っていない……が、マリー侯爵も既に異世界人ロキの情報を掴み、その上で派手な動きなどできやしないのだから放っておけと指示が出ている。地図は黙って作らせておいた方が今は利点が多いのだそうだ」

「……販路が拡大し、その利点を最も享受できる者にはそう見えるのでしょう。しかしこの一件で間違いなく我が国は多くの敵を作った……いつ攻められるかも分からぬ西方の地を守る私としては、自国の情報をみすみす外部に漏らすなど、正気の沙汰とは思えませんけどね」

「言葉を慎め、セルリック卿。この件は既に陛下も納得されていること。そのお考えを愚弄する気か?」

「……」

「話が逸れたが、陛下からのご命令である。第五の異世界人ロキとの不要な接触、揉め事は一切禁ずる。他の者たちも、急ぎ戻り領内に周知徹底させよ」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 宮殿を出た貴族達はセルリック侯爵家の王都別邸に再び集まったものの、先ほどのやり取りを目の当たりにしていたため、用意された軽食にも手を出すことなく各々が不満を漏らしていた。


「くそ……ビーネ宰相に任せて本当に大丈夫なのか?」

「陛下に直接進言する機会を与えられぬのだからしょうがないだろう」

「もし揉み消されでもしたら、厄介なことになるな……」


 宰相の言う通り、確かにマリーがアルバート王国に与えた功績は大きく、この国を強く、そして豊かにはしている。

 だが、王が心酔と表現しても差し支えないほどマリーに傾倒し始めてからというもの、王だけでなく国そのものの様子までおかしくなってきているのだ。

 この件を切っ掛けに、少しでも目を覚ましてくれればと、そう願っていたが……


「宰相はたぶん、まだ飲まれていない。でもあの様子じゃ、あまり期待はできないだろうね」


 この屋敷の当主であるレオン・フォート・セルリックがこう発言したことで、より重苦しい空気が漂う。


「しかし、このままでは到底納得が……」

「その通りです! アルバートの将来を担う子供達だというのに……!」

「これでなんらお咎めが無いようでは、あまりに我らを軽視し過ぎていると言わざるを得ません」


 さして気にするほどでもない、不安混じりの言葉。

 しかし――


「軽視……うん、そうだね。確かに、軽視だ」


 この時、セルリック侯爵の独り言のような呟きを耳にした周囲の者達は、大貴族という立場だからこそ、癇に障ってしまったのではないかと肝を冷やした。

 自らを異世界人と呼ぶマリー侯爵がこの国で台頭し始めてから、みるみると王家に重用されていた大貴族が力を失い、地方へと追いやられたためだ。

 歴史の古いセルリック家もその例に漏れず、中央の要職から外され、西の辺境で国境を広く守らされていた。

 なんと声を掛けるべきか、周囲の貴族達はお互いに視線を交わしながら様子を窺うも、続く予想外の言葉に目を瞬かせる。


「軽視されているのなら、軽視できないようにすればいい、か……」

「セ、セルリック侯爵……?」

「ああ、ごめんね。独り言だったけど……まあでも、そういうことでしょ、結局」

「え?」

「えーと……?」

「ど、どういうことでしょう?」


 あまりに断片的で、周囲はとてもじゃないがついていけない。

 その様子を見て、セルリック侯爵は苦笑いを浮かべながら補足した。


「ビーネ宰相の動き次第だけど、あの感触だとマリー侯爵の信用を削ぎ落とせるかは怪しいわけでしょ?」

「え、ええ、そうでございますな」

「でも、陛下が目を覚ましてくれなければ状況は好転しない。仮に大陸の覇権を握ろうと、このままでは傀儡の国に成り果てるか、もしくは王家も消されて直接マリー侯爵が次代の王として頂点に立ってしまう。まず、間違いなくね」


 言われ、その言葉を耳にした貴族達は揃って大きく頷く。

 どこに居を構えているかも不透明な者が侯爵という立場を与えられ、余計な口を挟む者達は外へ追いやりながら国を作り変えているのだ。

 既に実権を握っていると言っても過言ではなく、その結果多くの民にとって恩恵が得られているのであればまだ納得もできようものだが、劇的な変化を肌で感じたのはもう20年以上も前の話。

 今となってはその動きも鈍化しており、領土を広げ、西の戦争が激化していく中で稼いだとされる富はいったいどこへ消えているのか、誰も把握などできていなかった。

 そして、今回の件である。


「ならば、マリー侯爵に頼らずともなんとかなることを証明するしかない。丁度我が国最大の脅威とも言える異世界人ロキがこの国に踏み込んできているわけだしね」

「つ、つまりそれは、我々で第五の異世界人ロキを倒すと、そういうことですか……?」


 この言葉に周囲の貴族達は顔を見合わせ、なんとも言えぬ複雑な表情を浮かべる。

 それはそうだ。

 子供達から学院の顛末は少なからず聞いている。

 つまり、生徒達を――我が子を守ったのが異世界人ロキであることも、ここに集まる貴族達は把握していた。

 マリーを擁するアルバート王国の所属である以上は敵ということになるが、それでも子の命を救ってくれた恩人だ。

 そのような相手を倒すということに、できるできないよりも以前に躊躇いが生じる貴族達だが、その様子を眺めていたセルリック侯爵は首を横に振った。


「さすがにそんな物騒なことを前提に考えたりはしないよ。何も殺し合いだけが解決の方法じゃないでしょ?」

「それは、確かに……」

「うちの子からも、ロキという名の異世界人に助けてもらったと聞いているし、下手を打てばそのまま戦争に発展する恐れだってある。だから候補として除外まではしないけど、あくまでいくつもある選択肢の一つ……本音を言えば話の通じそうな相手だし、まずは直接腹を割って話してみたいかな。各町を巡っているようなら、いずれはうちの領都か、この王都にだって立ち寄るんだろうからね」

「し、しかし、セルリック侯爵。それでは先ほどの命令に背くことに……」


 ビーネ宰相は確かに、陛下からの命令であると言っていたのだ。

 勅令に背くことがどれほどの罪になるものか。

 場は張り詰めた緊張感が漂うも、当の本人は片肘を突いたまま薄く笑みを零していた。


「はは、気が抜けていたのか、それともわざとなのか知らないけど、宰相はマリー侯爵の|指《・》|示《・》って言っていたでしょ? つまり陛下を介してはいるけど、余計な接触をして邪魔をするなというマリー侯爵の本音がここに表れているわけだ。となれば、思い通りになんてさせないでしょ。もはや私達の敵は、マリー侯爵なのだから」

「「「……」」」

「子の命を危険に晒されてでも泥船にしがみつきたい者は、このまま黙って行く末を見守っていればいい。だけどね、宰相の返答次第では全てを……それこそ、命を懸けてでも私は動くよ。次代を担う子供達に豊かで明るい未来を残す、それが私達貴族の務めなのだからね」


 そう告げた途端、貴族達の瞳に闘志とも呼べる強い光が灯り始める。

 揺らぎ始めた大国アルバート。

 反乱の火種がより大きなモノとなるかは、王の導き出す答え次第であるが……

 セルリック侯爵はこの時、既に飲まれているであろう王の返答を予測していた。
555話 宰相の苦悩

「陛下、今しがたセルリック卿を中心とした西方の貴族達が帰りました」

「ほむ。で、何用だったのか?」

「それが……一応、こちらを」


 約束は約束だ。

 ビーネ宰相はセルリック侯爵に渡された報告書を差し出すと、手に握っていた菓子の汚れも気にせずに王は掴み取った。

 そして――


「こほほっ! マリーめ、また無茶をしよって!」


 なぜか王が腹を抱えて笑ったことで、ビーネ宰相は頬を引き攣らせながらも本題に移る。


「本日集まった総勢50名を超える貴族達は、皆が学院に通わせている我が子の命をマリー侯爵に狙われたと憤慨しておりました。厳正なる処罰を求めての嘆願でございましたが、如何いたしますか?」


 処罰とは言うが、あの者達もマリー侯爵を排除できるなどとは思っていない。

 多くがセルリック卿の派閥に属する者達であったことを考えても、実際はあまりにも強いマリー侯爵の影響力を削ぐことが目的だろう。

 ならば陛下に事実を伝えることが何よりも重要であり、さらに一部に対して事実の公表と本人からの謝罪、それに多少の見舞金でも引き出せれば僥倖か。

 宰相がそのように考えていると、王から唐突に質問を返される。


「ちなみに、何人だ?」

「え?」

「何人死んだのかと、そう聞いておる」

「それは、学院の生徒達全体で二名のようです。我が国に限定すれば一名、オーリッジ子爵の嫡男が賊に腹を裂かれて死亡したと」

「こほっ!? こほーっほっほっ!! なんと、騒ぎ立てた割にはたったの一人か! それで処罰とは片腹痛い……あやつらは余を笑わせにでも来たのか?」

「い、いえ、決してそのような雰囲気では……」


 戸惑う宰相をよそに、異様なほど肥えた腹を激しく揺する王だが、ひとしきり笑った後は人が変わったように真面目な表情を宰相に向けた。


「宰相よ、全ては結果なのだ。策を弄してガルムを落とそうと攻め動き、その結果こちらにも僅かな被害が出たということだろう? だが軍を用いて正面から攻め入れば、万という兵が当たり前のように死ぬ。正攻法とは比較にもならぬほど我が国の被害は少ないわけだが、その状況で余は何を罰しろというのだ?」

「……」


 子供と軍人では前提が違う。

 ビーネ宰相はそう思うも、決して言葉にはできない。

 何よりも実利を求めるマリー侯爵の影響が強く、仮に口を開いたところで真意はまるで伝わらないだろうという確信があった。

 だが、これだけは伝えねばならないと、意を決して宰相は重い口を開く。


「最も損失の少ない策を進められているということは理解しております。しかし彼らの、あれは単純な親心でしょうな……だからこそ簡単には解けないあの感情を蔑ろにされては忠義が薄れ、今後の領地運営にも影響を及ぼしかねません。何か上手い落としどころを作れればと、そのように考えておりまして――」


 が、瞬く間に興味が薄れ、再び菓子に手を伸ばし始めた王の様子を見て、やはり無駄だったかと。

 そう諦めかけた時、王がまるで独り言のように言葉を吐き出した。


「マリーのことだ。どこまで策が進んでいるのかは分からぬが、次はガルムか、それともグリニッド辺りか。もしくは魔境の一角を刈り取ってくるなんてこともあり得る……また余の与り知らぬところで軍も金も使わずに土地を奪い、諸々の美味い手土産を持ち帰ってくるのかと思うと……こほほっ、あれほど優秀な人物を手放せるわけがなかろう」

「……」

「宰相よ。先ほど忠義が薄れ、領地運営に影響を及ぼしかねないと、そう申したな?」

「え、ええ、左様でございます」

「こほっ、そのような釣り合いのとれぬ材料で余から譲歩を引き出そうなど……お前も|耄碌《もうろく》したものだ」

「そ、そのようなことは……」


 咄嗟に顔を伏せて否定するも、頭の中を巡るのは釣り合いのとれぬ材料という言葉。


「そうなれば切り捨てるだけ。仮にアルバートの貴族全員を天秤に掛けたとしても、余は迷わずマリーを取るぞ?」

「ッ……」

「余の視界に収めてほしくば、まずは結果を、存在価値を示せ。土地を、金を、人を……ありとあらゆるモノを、余の下に持ち帰ってこい。そこで初めて、一考の余地が生まれる。それは宰相、お前もだ」

「し、承知、しました」


 難しいであろうことは分かっていた。

 それでも、何かしら彼らが納得し得るモノを引き出せればと、そう思っていた。

 しかし、弔いの言葉すら得られず、これほどのことがあってもマリー侯爵を信じて疑うことがない。

 これでは、あまりにも――。


「ケイオス様、豊かさとは、なんなのでしょうか……」


 追い出されるように執務室を出た後、かつて仕えた先代の王の名を呟き、ビーネ宰相は物思いに耽る。

 果たしてこの国に、誰もが笑い合える未来は訪れるのか。

 大きく溜息を吐いてから自室へと戻り、酷く失望させると知りながらも、セルリック侯爵に結果を伝えるべくペンを執った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「えーと、ここがビガート要塞で、こっちがカッセル川第二鉄橋と……」


 表示させた地図に、町での情報収集で仕入れた要地の名前を加えていく。

 行商を装い、背にデカい籠を背負って仕入れをしながら聞いて回ると、楽にこの手の名称くらいは手に入れることができた。

 すぐに役立つ内容ではないけれど、何事もコツコツと。

 少しずつアルバートの輪郭を捉えていく地図を眺めながら、これは想像していた以上かもしれないと思わず唸ってしまう。


「うーん、やっぱりデカいよなぁ……」


 既に50以上の町に寄り、国境の要所と思われる建物だっていくつも越えてきたが、それでも大陸の東端には辿り着けていない。

 東に進んでいるはずが気付けば豪快に北上し、ようやく東に国境線が延び始めたと思ったら、なぜか西へと大きく逆戻りをしてから再度北上する。

 建物の雰囲気に大きな変化を感じて確認すると、案の定十数年前までは別の国だったというのだから、隣国を吸収し続けた結果がこの他所にはない歪な国の形を作り出しているのだろう。

 それでも、市場に少しずつ変化が起きているのだから、たぶんもうそろそろ。

 話を聞く限りでは、目の前に広がる山をいくつか越えれば、きっと……

 そう思いながらマッピングを続けること数日。

 空を飛んでいると、不意に谷間から覗く青い景色が。


「うおっ……やっときたか!!」


 高度を上げると地球となんら変わらない、群青の海原が視界の先には大きく広がっていた。
556話 海の狩場

 新しい町に着いたらまずはハンターギルドと傭兵ギルドに立ち寄り、軽く情報収集してからその町の市場を回るのがお決まりの流れだった。

 しかし、辿り着いたこの港町、『ニッカ』は違う。

 真っ先に向かったのは様々な店が立ち並ぶ商店街で、止まらなくなってきたヨダレを呑み込みながら首を忙しなく左右へ振る。


「違う……ここも違う……ここは……あっ、すっごいそそられるけど今じゃない……こっちのお店はどうかな……」


 飲食店から漂う香ばしい香りと店先の様子から、おおよそ何を提供しているのかは想像がついた。

 だが、今俺が求めているモノは違うのだ。

 ずっとずっと、ずーっと食べたいと思いながら我慢していたアレ。

 それがまず、この町にあるのかどうかだが。


「ふお……ッ!」


 スキルでスーパーな視力を獲得している俺は見逃さない。

 調理場で、その皿に盛られているモノ!

 それはまさしく、『アレ』ではないのかね!?

 チャーハンを発見した時以来の高揚感を覚えながら凄まじい速度で店に駆け寄ると、店内は注文待ちであろう老夫婦が一組いるだけだった。

 うーん。

 期待に満ち溢れて突撃する店はいつも空いているなと、不思議に思いながら店内へ。

 着席してすぐ目に入ったメニューを見て、俺は勝利を確信する。


「ははっ……『お刺身定食』とか、いつ以来だよ……!」


 ボイス湖畔で|蟹《マッドクラブ》を生で食ったというのはあるけれども。

 それ以外だと初っ端の遭難中に腹が減り過ぎて噛った、味のしない川魚くらいしか記憶にない。

 まともな生魚なんて、それこそ日本にいた時以来。

 あまりにも久しぶりの刺身に、心が躍りまくってケツが浮いてしまいそうな勢いである。

 しかし……

 どれどれと、紐で結ばれた木板のメニューを捲ったところで謎の数字が視界に入り、思わず三度見をしてしまう。


「レ、レモラの刺身定食、40万ビーケだと……?」


 いやいや、ぶっ飛びすぎだろ、このお刺身定食。

 普通のは2000ビーケとか3000ビーケくらいなのに、1つだけ異次元な存在感を示しているこのネタはなんなのか。


「ほーいお待たせ、青魚とイカ、それに貝の盛り合わせだよ。お酒のおかわり持ってこようか?」

「ああ、それじゃ妻の分も頼むよ」

「ふふふ、今日も美味しそうねぇ」

「……」


 皿に盛られた海鮮の山。

 運ばれる先客の料理にゴクリと喉が鳴るも、やはり気になるのはこのアホみたいな値段の料理だ。

 まだ俺が読んだ本の中ではこの名前を見た記憶がないし、もしやレモラとは、黄金ガエルのようなレア魔物の食材なのだろうか?


「あの、このレモラっていうのはかなり希少な魚なんですか?」


 だから聞いた。

 すると店主は少し驚いたような表情を浮かべる。


「ん? 大きな籠を背負ってたし、てっきりグリニッドから来た行商かと思ったら……お兄さんは別の国から?」

「ええ、もっと西の方から行商とハンターをしつつ旅をしておりまして、先ほどようやく海に辿り着いたんです」

「へ~内陸から来たんじゃ知らなくてもしょうがないね。ハンターもやってるなら、レモラはCランクの魔物って言った方が分かりやすいかな? 昔は祝い事で口にできる程度の高級魚だったんだけど、今となっては滅多に入ってこないこともあって、とてつもない値がつくようになっちゃってさぁ……」

「なるほど……んん?」


 目を細めながら壁のメニューを眺める店主の言葉に、一度納得しかけた首がどんどん傾く。

 Cランクの希少な魔物だから価値が高いというのは分かるけど、昔はもっと庶民的だったというのはどういうことだろうか?

 希少種なんて今も昔も、出会える数にそう大きな変化は生まれないと思うんだが……

 それともまさか、魔物なのに絶滅危惧種なんて、そんなことがあり得るのか?


「えーと、このレモラっていうのは、滅多に発見できない希少種だから高いってことですよね?」

「ん~滅多に発見できないのはその通りなんだけど、希少種っていうのとはまた違うんじゃないかな。どこかには大量にいるんだろうし」

「へ?」

「あーいや、なんて言ったらいいんだろ……僕もまだ子供の頃だったからあまり詳しくはないんだけど、なんでか魚人との取引が無くなったせいで海洋の魔物が入ってこなくなったんだ。ねぇゲンさん、そういうことでいいんだよね?」


 店主が話を振ったため、自然と俺の視線もそちらへ向く。

 ゲンさんと呼ばれた身なりのいい老人は先ほどから気持ちよさそうに酒を呷っていたが、トンとグラスを机に置いた時には眉間に深い皺を寄せていた。


「そうだな。まだこの地がアルバートに統合される前、私が『トマリ』の商業ギルドにいた時だから、もう20年くらいは経つか……」 


 まだアルバートにのみ込まれる前の話。

 もうこの時点で嫌な予感しかしないが……


「少年、君はハンターでもあるというが、例えば海の魔物を狩りたいとなったらどうするね?」


 唐突に振られた質問によって思考が切り替わる。

 まさにこれから、俺は海の魔物を狩ろうとしているわけで。

 ゲンさんと呼ばれた老人はまだ酔っている様子もなく、どこか試すような視線を向けてくるものだから、何か意味があるのだろうと真剣に答えを探す。


「まずはハンターギルドに行って、周辺の狩場情報を得ますね。それで、狩場が浜辺くらいならまぁいいとして、沖合とかになったら……うーん」


 海上から攻撃を加えて済むならそれでいい。

 が、海中に潜っていて魔物の姿が見えないようなら、【水魔法】で気合の制御をしつつ一時的に潜るか、もしくは釣りの要領で撒き餌でもして、海面付近まで誘き寄せるという手もあるのかな。

 ステータスが存在することで、俺自身がどれほど水圧に耐えられるのか。

 実際に試してみなければ分からないことも多い。

 経験がまったくないことで悩む俺のそんな姿を、ゲンさんは面白そうに眺めながら口を開いた。


「海の魔物は陸と大きく違うぞ? まず君は狩場情報を探るというが、狩場が明確なのは君が大丈夫だろうと予想した浜辺くらい。陸地から見える程度の近海であろうと、なんら目印や境界のない海では魔物の生息域すら曖昧だ」

「なるほど……」

「加えてより狂暴で大型な高ランクの魔物を狙おうと思えば、必然的に陸から離れて沖へ出ることになる。船を借り、船頭を雇って無事その周辺海域に辿り着けたとしても、そこから海中の魔物を釣り出し、どう狩って町まで持ち帰るか。それに地図が世に出始めたことで今後に期待する声も多いようだが、未だまともな海図もないこの世の中では、一獲千金を狙って沖へ向かうも陸へ戻ってこれずに遭難する事例だって多い」

「あー……だから魚人以外ではまともに狩れず、取引が止まって20年以上経った今でも希少性と価値だけが跳ね上がっているというわけですか」

「そういうことだ。まだ若いというのに中々察しがいいな、少年」


 そう言って店主が持ってきた新しいお酒をグイッと気持ち良さそうに口へ含み、その隙に奥さんは……んん?

 まさか、あれは醤油か?

 記憶よりもかなり色味の薄い茶色の液体を皿に垂らし、待ちきれないとばかりに刺身を摘まむ。

 俺もとりあえず注文だけはしておきたいが、どうにもゲンさんの纏わせる勉強会のような雰囲気がそうさせてもらえない。


「海洋の魔物は、水中での活動を容易に行なえる魚人種の専売だ。人間や他の亜人ではまったく太刀打ちできないし、沖にあるとされるBランク以上の狩場に至っては、魚人の案内がなければまともに辿り着くことすらできん」

「となると、気になるのはなぜ魚人が取引を止めてしまったか、ですよね」

「うむ……足の代わりにヒレを持つ彼らは、逆に陸地の魔物を満足に狩れない。だからこそ、持ちつ持たれつの関係が築けていたはずなのだがな」

「……つまり、取引が止まってしまった原因は分からないと?」


 そう聞こえたため一応確認をするが、ゲンさんは大きく首を横に振る。


「いや、止まった原因ははっきりとしている。なんせ私も当時、商業ギルドの職員として現場に立ち会っていたのだ。何度もその光景を目の当たりにしていた」

「……」

「原因は魚人達の不可解で一方的な取引条件の引き上げだ。釣り合いが取れていないとある時から急に不満を漏らし、最初のうちはその条件を飲んでいたが……際限なく上がっていく要求にしびれを切らして、当時の商業ギルド支局長が魚人種との全面的な取引の停止を商人達に命じたことが決定打となった。それ以降、ぱったりと魚人種の姿を見かけることはなくなったからな」

「ということは、魚人達もその状況に不満を漏らしたり抗わなかったということですよね?」

「うむ……だから不可解なのだ。彼らは海洋の魔物を抱える代わりに、陸地の魔物を――いや、それだけではないか。鉄器や生地、それに彼らが喜んでいた宝石類だって手に入れる機会を失った。彼らにとっても相当大きな痛手であるはずなのだがな」


 となれば、答えは簡単だ。


「でもそれって、この地域というか……アルバートにのまれる以前の国だけに起きた話ですよね?」


 その手の暗躍を得意とする人物が裏で手を回した。

 テリア公国と同じ、狙った国を弱らせるために取った手段の一つ。

 そう思っていたわけだが。


「いや、違う。当時はまだそこまで大きくなかったアルバートも、それに北のグリニッドや南のマラガだって同様の問題を抱えて品が薄くなっていた。だから商業ギルドが下した決定も旧サターニア王国だけでなく、魚人種と取引をしていた4国が共同で動いた内容だったことは間違いない。足並みを揃え、魚人達の目を覚まさせようという狙いが強く含まれていたからな」

「あ、あら……?」

「だから、マラガやサターニアがアルバートに併合された今となっても、この問題は解決されていないのだよ、少年」

「あ」


 考えてみればその通りである。

 強欲ババアの差し金なら、国を吸収した後も制限を掛ける必要性は薄い。

 属国であることを後々公表したテリア公国と違い、ここは紛れもなくアルバート王国の領土であることを、【地図作成】のスキルが証明してくれているのだから。


「うーん……」

「あなた、いい加減その辺りにしておかないと、この子がいつになっても食べられないじゃない。それにあなたの分のお刺身だってもうないわよ」

「んなっ! いつの間に!?」

「そうやってクドクドと、回りくどい話なんかしているからよ。パッと結論を言ってあげなさいよ、パッと!」

「ち、違うんだ、母さん。長年貴族を相手に仕事をしているとね、こんな癖がよくついてしまうもので……」

「そうやって若くて目のありそうな子を見つけると、すぐ調子に乗るんだから!」


 これは――……喧嘩ではない、のかな。

 完全に奥さんの勢いに負けてしまっているゲンさんを少し哀れに感じ、いろいろと教えてもらったお礼にと声を掛ける。


「いやいや、貴重な情報には感謝していますから。お礼にご馳走しますので、どうぞお二人とも好きなモノを注文してください。あ、店主さん、僕はこのレモラのお刺身定食というやつで。海を見れた記念に、どんなモノか食べてみたいです」

「「!?」」

「お、おおっ!? その若さでこの定食を頼むとは……でも済まないねお兄さん、レモラは今日入ってないんだよ」

「あ、そうなんですかぁ残念……なら、お刺身の盛り合わせ定食にしようかな……とりあえず5人前で」

「「「!!?」」」


 こちとらお腹が空き過ぎて死にそうなのだ。

 早々と注文を決め、テーブルの上に置かれた茶色い液体を手に取り少し舐めてみると――


「おぉ……!」


 俺が知っている味とは少し違うけど、それでも醤油っぽい味がしっかりしている。

 まさかマヨネーズやソースよりも先に醤油が見つかるとは……

 となると、もしかして味噌も探せばこの国にあるのだろうか?


(ふふ……ふふふっ……食も海の魔物も、だいぶ俺好みの展開になってきたじゃない)


 海で早く魔物を狩りたいのに、市場で探すモノはいっぱいあるし、その前に通りで見かけた海鮮焼きだって食べておきたいし。

 ああ、やりたいことで溢れた日常の、なんと幸せなことか。


「ほーいお待たせ、とりあえずお刺身の盛り合わせ3人前だよ。今朝取れた新鮮なやつばっかりだから沢山食べてってね~残りの2人前は別のネタにしてあげるから」

「おほーありがとうございます!」


 数年ぶりとなるまともなお刺身を味わいながら、ゲンさんから貰った情報も加味しつつ今後の行動計画を練っていった。
557話 情報次第

 帰り際に店主から醤油の仕入れ先を確認し、ルンルン気分で訪れたハンターギルド。

 その資料室で、予想とは違う内容に一人唸る。


「ん~海の狩場は《サザの浜辺》と《フーリン海岸》の2か所だけ、しかもFランクとEランクか……」


 まぁガルグイユのように、危険と判断されて資料本から情報が消されるパターンもあるにはあるのだ。

 受付で聞けば何かしら分かるだろうとカウンターに向かい、そしてすぐに納得する。


「あーなるほど、レモラは"はぐれ"なわけですか」

「ですです。あの魔物は船の底に張り付いて沖へ引っ張ろうとする習性があるので、たまに近海で漁をする船が引き当てるんですよ」


 魔物は狩場という生息域に縛られているが、だからと言ってその狩場を絶対に出られないわけじゃない。

 街道なんかでも稀にゴブリンやスローモンキーが出現したりするし、ターゲットにされて追いかけられれば狩場の外であろうと普通に出てくる。

 そういうことだと思うが。


「つまり、資料本だと海の狩場はEランクまでしか載っていませんでしたけど、沖の方にはレモラが生息しているCランク狩場もあるということですよね?」


 当然の疑問を口にすると、猫獣人の受付嬢は顔からスッと笑みを消す。


「まさか、レモラを狙いに行こうとか思ってませんよね?」

「え?」

「この質問をされている時点で、あなたが内陸から来られた方だとすぐに分かります。同じ質問を毎年毎年、何人もの方達からされていますので」

「……」

「皆さん、行けば稼げる、Cランクなら大丈夫だろうって、海の怖さも知らずに沖へ向かおうとするんです。中には船を確保するために、嫌がる漁師の方達を脅してまで。でも、ほとんどの方達は戻ってきません。陸なんかまったく見えなくなるくらい沖合へ出なくちゃいけないから」


 さすがに、脅すというのは論外だが……

 それでも受付嬢の話を聞いて、どこか納得してしまう自分もいた。

 かつてルルブの森で狩場開拓をした時のアルバさんやミズルさん達も同じだ。

 多くが命を張ってでも金を掴む気概があるからハンターをやっているわけで、桁の違う金を稼げる可能性があると知れば、リスクを承知の上で行動に移そうとする者達がいたって仕方のないことだろう。

 だが、自分の言葉で死地に向かわせ、そして多くが実際に戻ってこないのだとしたら、目の前の受付嬢が嫌がるのも当然の話。

 ならば――暫し逡巡するも、これが最も良策と。

 そう判断して『収納』からギルドカードを取り出す。


「僕は死にませんし、確実に戻ってこれます。だからヒントだけでもいいので、Cランク帯の魔物がいる場所を教えてもらえませんか?」

「うっ、Aランク……で、でも、陸と海とじゃ勝手が違うんです! いくらAランクハンターの方であっても――」


 なんとか説得を試みようとする受付嬢。

 その前に手を伸ばし、トントンとギルドカードを軽く叩く。


「違くて、ここ」

「……えっ? ロ、キ…………………え? まさか、本物じゃないですよね?」

「いえ、本物です。なので僕が帰ってこれなくなることはありません」


 そう言って目の前で少し浮くと、人に近い肌をした受付嬢の表情がみるみる蒼ざめていく。

 なるほど、俺はマリーのお膝元だとこういう反応をされるのか。

 一つ参考にはなったが。


「ギ、ギル、ばぶーっ!!」

「シーッ」


 何もしていないのに騒ぎ立てられるのは不本意だ。

 咄嗟に受付嬢の口を閉じると、理解したのか怯えた表情で頷いた。


「はっ……はっ……な、何が、目的なんですか……?」


 そう問われたので、今の気持ちを素直に返す。


「山盛りの海鮮丼が食べたいんですよ。いや、理想を言えばお寿司かな」

「は?」

「先ほどこの町の定食屋に寄ったんですけどね。お刺身定食を頼んだら、一緒に出てきたのがまさかのパンでビックリしちゃったんです。いや、そういう文化なのかもしれないですし、否定するつもりはないんですけど……でもやっぱり、僕としては生モノならお米と合わせたいんですよ」

「は、はぁ……」

「それにレモラって、脂がノッていてかなり美味しいんでしょう?」

「えっと、そのような記憶だけは……はい……」

「なら食べてみたいじゃないですか。魚人種との取引は止まったままのようですし、それなら自分で獲りにいくのが手っ取り早いかなって」

「……」


 今はとりあえず、ご飯と一緒にお刺身を食べたい。

 その思いが通じたのか、少し警戒心は薄れてきたようにも見えるが……

 もう一押しが必要か、肝心の狩場情報が出てこない。

 まず間違いなく、陸なんかまったく見えなくなるくらいと口にしたのだから、目の前の受付嬢も多少なりはCランク狩場の情報を握っているはずなのだ。

 この世界の海が地球と似たようなモノなら、あんなに広く深さもある場所で、どの程度の大きさかも分からない狩場を彷徨いながら探し当てるなど、他に選択肢がなかった場合の最終手段のようなもの。

 目星を付けられるならそうしたいわけで、どうにかこの受付嬢から情報を引き出したい。

 となると――、あと俺にできることはこのくらいか。


「ちなみにお姉さんも、レモラは久しく食べてないんですよね?」

「そう、ですね……あそこまで高額になると、一部の限られた方達しか食べられませんから」

「なるほど。では狩場情報をもし教えてくれたら、その内容に応じて今日か明日、このギルドにレモラをある程度卸すとお約束しますよ。20年以上前の、魚人種と取引をしていたくらいの値段でね」

「えっ!?」

「情報のお礼として卸すのですから、そこからどうするかはギルド次第。高値で売り捌いてもいいですし、ギルド職員で分け合っても構いません。これなら利点も十分あるでしょう?」

「た、確かに……その、量はお渡しする情報次第ということなんですよね?」

「ですね。実は僕、こう見えて海鮮モノには煩い方でして……レモラに限らず、いろいろな海の魔物を食べてみたいと思ってるんですよ。なので|幅《・》|広《・》|く《・》狩場情報を教えてもらえると助かります」

「……分かりました。では先ほどとは違う意味で、うちのギルマスを呼んでも大丈夫ですか? その方がお互い実りある話ができると思いますので」

「ええ、そういうことでしたら大歓迎です」


 町の漁師や住民に聞いても情報を得られたかもしれないが、幅広くとなるとハンターギルド以上を探すのは難しい。

 さて、これでどの程度情報を拾えるのかな?

 人気のないカウンターに寄りかかり、期待に胸を膨らませながら、階段を駆けていく受付嬢の後ろ姿を眺めた。
558話 当時の4か国

 ギルドマスターの部屋に案内され、数度の会話を交わした後。

 イーゴと名乗る、こんがり肌の焼けた初老のギルマスから差し出されたのは、少し年季が入った数枚の木板と1冊の本だった。


「こちらがかつて、魚人と取引をしていた頃にうちで扱っていた海洋魔物の記録と、あとは当時まだ案内人が常駐していた頃、ここの資料室に置いていた本です。倉庫から引っ張り出してきたので、埃塗れですが……」

「おお、ありがとうございます。それでは早速拝見を」


 会話の中に、少し気になる言葉もあったが。

 それでもまずは情報だと、渡された資料に目を通す。


「なるほど……やはり以前は沖にあるCランクの狩場も管轄されていたわけですか。それに当時の取り扱い品目を見ると、管轄外の魔物も混ざっているようですね」

「ええ、魚人は自分達が狩った魔物を広く――と言っても魚人種が住むミノ諸島を中心とした当時の4か国に対してですが、交易を目的に荷運び用の船まで作って卸していましたからね。別の地域のCランク魔物と、それにBランク魔物も稀に持ち込まれておりました」

「ほほぉ、Bランク魔物ですか」


 俺が分かりやすく興味を示したからか。

 正面に座っていたイーゴさんは、緊張した様子のまま身体をグイッと前に傾ける。


「さらに旧サターニア王国最大の港町『トマリ』には、稀にAランクの海洋魔物まで持ち込まれ、その度に競りが盛り上がったという話も過去には聞いております。つまりAランクまでは、東の海のどこかに存在しているということでしょう」

「どこかに……つまり、ギルドも詳しい場所までは把握されていないと?」


 定食屋にいたゲンさんも、Bランク以上の狩場はまともに辿り着けないと言っていた。

 だからダメ元の確認ではあったが。


「その通りです。いくつかあるCランクの狩場であれば、まだ大陸の地形や町などを目印にある程度の場所は把握しています。しかしそれでも遭難事故が多発するため、当時は大半のハンター達が主要な港町に常駐していた魚人の案内人を雇い、狩りの補助や先導の依頼をしていたのです。Bランク以上となればさらに沖へ出るのですからとても……私もそうですし、魚人が去るまでは『トマリ』に僅かながらいたとされる、Bランク狩場に出向いていたハンター達であっても、かなり大雑把な海域くらいしか分からないはずです」

「ん? それでも、多少は絞れるのですか?」

「彼らが新鮮な魔物素材だけを持ち込んでいたのは有名な話で、この町『ニッカ』にAランク魔物が持ち込まれなかったように、各町に運ばれる魔物素材の傾向ははっきりとしていました。それに当時管轄していた国や地域からも、狩場の位置関係をおおよそ絞り込めるかなと」

「さすが、当時を詳しく知っているからこそのやり方ですね。では分かる範囲で構いませんので、今から僕が描く簡易の地図を基に、各狩場のおおよその場所を示してもらえませんか?」


 お手製の海洋地図ができれば、今後の狩場巡りが非常に捗る。

 そう思っての提案に、イーゴさんは真剣な眼差しのまま深く頷く。


「レモラを卸していただけるのならば喜んで。ちなみに、情報の濃さで量が決まるというお話ですよね?」

「ええ、そのつもりです」

「でしたらこちらもおおよそにはなりますが、魚人種が住むとされるミノ諸島の場所もお伝えしておきましょうか。そうすれば聞き出せるかどうかは別として、最も詳しい者達に直接確認するという選択肢も得られるはずですので」

「おお、それはナイスなご提案……しかしその口ぶり、ミノ諸島の場所までは掴めていないのですか?」


 ふと気になった疑問を口にすると、イーゴさんは眉間に皺を寄せながら答えてくれる。


「我々と交易をしていた魚人種がいるくらいなのですから、存在していることは間違いありません。ただ昔から辿り着けたという話を一切聞かなくてですね……近年でも交易の再開を目的に国が何度も使節団を送っているようなのですが、目的も達せないまま大半の人間はそのまま行方知れずに。命からがら戻ってきた一部の者達は、総じて怪現象に襲われたという話を聞いています」

「怪現象、ですか……?」

「ええ、何もない海上からふいに『歌』が聞こえてくるとか……とはいえ空を舞うロキ王でしたら、人間では辿り着くことさえ困難な場所でもなんら問題はなさそうに思えてしまいますけどね」

「歌……魚人で歌か……貴重な情報ありがとうございます。これは奮発してレモラを持ち帰らないといけませんね」

「ふふふ、楽しみにしておりますよ。町に住む多くの者達にとって、あれ以上に恋い焦がれる味というのは他にありませんから」


 緊張も解けたのか、そう言って笑みを零すイーゴさんのその発言に、俺はおやおやと。

 若干顔を引き攣らせる。

 町に住む多くの人達とか、さすがにちょっと規模がデカ過ぎな気もするが……

 でもまぁ言うてCランクの魔物だし、それなりにデカい魚ならなんとかなるのかな?

 そんなことを考えながら、イーゴさん監修のお手製海洋地図を作り上げていった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 クアクアと、綺麗な白い鳥が空を飛び、先日作っていた送風魔道具と雰囲気の近しいモノを備えた漁船がプカプカと浮かぶ港の一角。

 そこで俺はたこ焼きという名の、たこを鉄板の上で焼いて塩辛いタレをつけた、たこ焼きだけど焼きだこな気もする食べ物を齧りつつ、先ほど出来上がった海洋地図を眺めていた。

 今も普通にハンター達が通うDランク以下の狩場を除外すると、目の前に広がる大陸東部の海に存在するのはCランク狩場が2か所、Bランク狩場が1か所、Aランク狩場が1か所の計4か所。

 こう聞くとCランク狩場が思っていたよりも少ないように感じてしまうが、同じ魔物構成の狩場が広域に渡って複数個所存在しているようで、それらを同一と見なした場合は2か所というだけ。

 実際には10か所近くの上位狩場が点在しており、この地図にも一定範囲を囲うように塗り潰した狩場の予測場所が描かれていた。

 まぁこの辺りは、先ほどイーゴさんから説明を受けていたのでいいとして。

 今こうして改めて見ていたのは、本当にあのマリーが魚人の件に絡んでいないのか。

 会話の中で何度も出ていた、当時の4か国がどのような並びで存在していたのかも目の前の地図に表されたことで、ふつふつと疑念が湧き上がってしまったためだ。

 位置で言えば、今俺がいる『ニッカ』は現アルバート王国の最北東に位置しており、港町でありながらすぐ北にあるグリニッド王国の玄関口にもなっているため、町の規模としてはそれなりに大きい。

 また南には旧サターニア王国でも最大の港町『トマリ』があり、ここが僅かながらに通う者達もいたとされるBランク狩場 《アムスト海域》の管轄であったため、目的の狩場はその東から南東にかけての沖合だろうとイーゴさんは予測していた。

 そしてさらに南にはマラガ王国という、かつてはこの辺りで最も大きかった国が。

 当時、通う者すらいなかったとされるAランク狩場 《モデア海底谷》の管轄国がマラガであったため、重点的に探すのならばこの地の東ということになり、逆にニッカよりも北のグリニッド王国。

 そして元々は旧マラガ王国の南部に存在していたというアルバート王国寄りの海域は、どちらもCランク狩場までしかない上に魔物は他と重複しているので、探し回る利点は限りなく薄いだろうとも教えてくれた。

 となると、明らかに弱いのだ。

 海に対して、当時のアルバートが。

 その分、内陸にAランク狩場を1つ抱えていて、資源としての価値は非常に高いようなことをイーゴさんは言っていたけど……

 当時の力関係は統合されてしまった旧マラガ王国の方が上だったというのだから、それだけBランクやAランクの新鮮な海洋魔物を運んできてくれる魚人の存在は大きかったということ。

 マリーからすれば力のあったマラガ王国は疎ましい存在で、かつその源であった海洋資源は喉から手がでるほど欲しかっただろうし、魚人に対してなんらかの行動を起こす動機は十分過ぎるほどにあると言える。

 だからマラガ、サターニアという良質な海洋狩場を抱えた国がアルバートにのみ込まれ、Cランク止まりのグリニッド王国は20年近く経った今でも後回しにされたまま、マリーの目は西へ。

 海から内陸に向かったとすると、辻褄が合うような気もするが……


「うーん……動機は十分、土地を奪ったところまでは成功しているのに、それでも魚人との取引を復活させない理由はなんだ……?」


 マリーが海洋魔物の資源を独占しているというのならまだ分かりやすい。

 しかしゲンさんもイーゴさんも、魚人達が去って以降はレモラを含むCランク魔物が稀に上がるくらいで、Bランク以上などまったくと言っていいほど市場に流れていないというのだ。

 裏で手を引いていたと仮定しても、最後の部分でしっくり来る答えに辿り着けない。

 実際は関与していないのか。

 それとも復活させない……もしくは復活できない理由でもあるのか。


「まあ、行けば、何かは分かるのかな」


 自然と目は地図の端。

 Aランク狩場の予測場所付近に付けられた印に向く。

 旧サターニア王国と旧マラガ王国の間にあるとされるミノ諸島。

 国としての体裁は整えておらず、当人達からすれば"縄張り"というくらいの認識のようだが……

 今、この場所はどうなっており、魚人種はどのような生活を営んでいるのか。


「さーて、順番に巡ってみますかね!」


 考えれば考えるほどワクワクしてしまい、まずはこの辺りの狩場からだと。

 勢い良く立ち上がった俺は、尻をパンパンと叩きながら遠目に映る白い砂浜を見つめた。
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ハイペースな更新はここで一旦終わり、次回からまた週一更新に戻ります。
と言っても、またストックが溜まればどこかで放出するかもしれませんので、引き続きWEB版と、それに別の世界線を進む書籍版をまったりお楽しみください。
559話 海の魔物、ヤバいです

『ニッカ』の町から30分ほど南に歩けば到着する白い砂浜。

 半島のように海へ突き出したこの浜辺がFランク狩場のようで、網を振り回しているパンイチ姿の爺さんから、木の棒を握ってギャーギャー騒ぐ子供達まで。

 他の浜辺とはまったく違う賑わいを見せていた。


「ん~いい雰囲気だねぇ……」


 魔物のいる狩場なのに、まるで近所の公園にでも来たような。

 どこかほのぼのとさせられるこの光景に懐かしさを感じつつ、かなり久しぶりとなるFランク狩場に足を踏み入れる。

 なんと言ってもここは海。

 今までとはまるで環境が違う。

 イーゴさんが用意してくれた資料に目を通すと、ザッと20種類くらいはまったく見覚えのない、もしくは名前だけしか知らない魔物がこの海にはいるようで、それは入門とも言えるFランク狩場であろうと変わらなかった。

 所有するスキルは当然として、素材そのものの価値も、低位狩場であろうと見逃せない。

 果たして当たりと言える魔物がいるのかどうか。


「よし、おしっこ飛ばしてきたぞ! 今のうちだ! 叩け叩け!」


 少し離れた位置で子供達がフルボッコにしているのは、人の頭よりも大きいヤドカリみたいな魔物――あれが『キシュキシュ』か。

 たぶん、殴られて詠唱を阻害されているのだろう。

 木の棒の方が長くて全然届かないのに、それでも必死に振り回しているその異様に大きなハサミがとっても美味しそうに見えて、俺も思わずその姿を探す。

 どれどれ。

 おしっこと呼ばれていた【水魔法】を躱し、捕まえてすぐに貝殻から引き抜くと――うん、これはちょっとグロいが十分エビだな。

【鑑定】では可食と出ているし、茹でて食べればまず間違いなさそうである。

 しかし、俺は元日本人。

 食べられるのなら、やっぱり生でも食べたいわけで。

 イーゴさんに言われた、海に限らず魔物に寄生虫は寄りつかないという言葉を信じ、ハサミを割って出てきたぷりぷりの身を口の中へ放り込む。


「おほぁ……このサイズでこの甘味とか、やっば……」


 控えめに言ってもクソ美味い。

 これは金を払ってでも、継続的に仕入れたいレベルのネタだ。

 そう判断して早速『海鮮仕入れ候補』にキシュキシュとメモをしていると、視界の片隅で包丁を持った婆さんが貝と戦っていた。


「カーッ! 早く今晩のおかずにならんか!」


 ……凄いな、あの婆さん。

 大きそうな二枚貝が放った風の刃を、あの包丁でぶった切ったのか?

 そのまま滑り込むように貝の中へ包丁を突き刺し、強引に開いて中身を取り出していた。

 なんというか、職人のような洗練された動きである。

 ふーむ……あれも美味そうだな。

 波で濡れた砂浜から少し顔を出している二枚貝の魔物――『ブリーズシェル』を見つけ、飛んでくる風の刃を手で払い除けながらテクテクと近付いていく。

 うん、近付くと分かる、ハマグリなんて目じゃないこのデカさ。

 持ち上げると貝のくせして派手に暴れるし、隙あらば【風魔法】を放とうとするし、そりゃあ魔物なんだからこのまま持ち帰れるわけないわなと。

 先ほど婆さんがこの場で身を取り出していたことに納得しつつ貝を開くと、予想と違ってその中身はアサリやハマグリの類いではなく、ホタテや平貝に近い雰囲気を醸し出していた。

 となると、小粒な魔石なんぞよりも遥かに存在感のある、まるでステーキのような貝柱に目がいくわけで。

 可食と分かるや否や、俺は夢中で噛り付いて再び感動に震える。


「うおっ……なんという歯切れの良さ……それにこの濃厚な甘み……」


 しかも大口開けて噛ったところで、少し欠けた程度にしか感じさせない大きさのなんと魅力的なことか。

 こんな贅沢、今までの人生で味わったことがないし、これまた余裕の合格。

 お次はちょっと醤油とバターを用意してリピート確定である。

 というか、海の魔物ヤバくないか?

 この世界は美味いモノが多いけど、こと魔物に関しては、ある程度ランクと味が比例するものだと思っていた。

 しかし、海の魔物はFランクでこれ。

 普通の町民が食材を求めに足を運んでいるし、この人混みを見ても、俺の味覚が日本の懐かしさ補正でバグっているなんてことではないだろう。

 となると、まさか、アレもなのか……?

 この狩場に生息している、最後の一種。

 少し離れた砂浜を器用に歩いている、ピンク色をしたヒトデの魔物――『パロ』に目がいく。

 ちょっとキモいし、所持するスキルや見た目からはまったく美味そうに見えないんだけど……

 しかし周りは避けるでもなく、どちらかというと嬉々として狩っているのだ。

 ならば今晩のおかずになるタイプなのだろうと拾い上げ、キシャーと威嚇するその口から真っ二つに割いてみる。

 すると。


「うわー……」


 ピンク色のツブツブをした何かがびっしりと詰まっており、見た目の気持ち悪さに思わず言葉を失う。

 一応可食ではあるらしいし、魚卵と言われればそれっぽく見えるけど……

 先ほどまでその辺りを歩いていたヒトデという、今まで間違いなく目にしたことのない不気味な情報が邪魔をして、コイツをわざわざ食べようとは思えない。

 そんな俺を見兼ねたのか、網を握った裸の爺さんが心配そうに声を掛けてきた。


「なんじゃお前さん。見ない顔だが、どこか怪我でもしたのか?」

「あーいや、これってほんとに食べられるのかなーと思いまして……」


 すると爺さん。

 俺が背負っていた籠に軽く目を向け、フンと鼻を鳴らす。


「行商人が仕入れの見定めにビビっとったら仕事にならんじゃろうに。ほれ、指でホジりながらガブッといってみぃ。酸味と甘みが絶妙で、そこらの時期を外した果実より余程ほど美味いぞ」


 そう言って指で掬うような仕草をする爺さんの網には、確かに目立つピンク色の死骸が何匹も放り込まれていた。

 魔石と討伐部位だけが目的なら、わざわざこんな魔物を何匹も引き摺って歩いたりはしないか。

 となると……うん、爺さんの言う通りだな。

 かつて気合を入れながら食べたジャイアントワームと同じ。

 こんなところでビビッてちゃ、俺自身が大きく損をする可能性だってある。

 そう判断し、恐る恐る口に入れてすぐ脳裏を過ったのは、子供の頃によく食べていたグレープフルーツだった。


「お、おぉ……確かに、ちょっと強めの酸味と甘みがなかなか……それにこのツブツブも割るたびに味が広がるし、こうして食べてみると新鮮でなんか良いですね」

「じゃろ? まぁたまに当たって、ちろっと腹を下したりはするがな! んがははっ!」

「え゛!?」

「でもこの町じゃ大人も子供も、食後にはだいたいコイツを食うのが習慣じゃ。足が早いから、なかなか外にまでは運ばれんようじゃがのぉ」

「なるほど。じゃあもし僕が仕入れられ――……って、いやいや、それはまだ早計か」

「んがはは! まずは一人前になって、少年には良い馬車を用意してもらわんとな。期待しとるぞー!」


 何を勘違いしたのか。

 パンパンと肩を叩き、笑いながら次の獲物へと向かっていく爺さんの後ろ姿を眺めながら、少しばかり海産物の仕入れについて考える。

 同じアルバート国内でも、内陸の一部に多少干物が出回っていた程度。

 それにこの地でレモラを求める声に触発されたせいか、これだけ美味しいならみんなにもって。

 まず間違いなく、俺自身が動かなければベザートにこの手の海産物は届かないからこそ、勝手に使命感のようなものを感じてしまっていたが……

 そもそもそんな食文化もなかった人達に、この手の食材が喜ばれるのかなんて分からないのだ。

 結局はベザートに住む人達の反応と、あとはクアド商会での売れ行き次第。

 ここで焦ってもしょうがないだろうと小さく首を振り、改めて魔物のスキルに目を向ける。

 先ほど爺さんは"たまに当たる"と言っていたけど、その原因はたぶんコイツの所持するスキルのせい。

 名前からして十中八九はグレー文字だろうけど……

 それでもまずは、今までありそうでなかった【毒牙】というスキルを、最低でもレベル3くらいまではゲットしておかないとな。


 ――【広域探査】――『パロ』


 一人そんなことを思いながら、先ほど倒したピンク色のヒトデに目を向けた。
560話 どっちなんだい!?

 Fランク狩場の南部に点在していた岩礁の一つに腰掛け、先ほどの魔物と、それに目の前の浅瀬で狩ったEランク魔物の死骸を眺めながら情報を纏めていく。

 Fランク狩場《サザの浜辺》
 キシュキシュ(やどかり):【水魔法】Lv1
 ブリーズシェル(二枚貝):【風魔法】Lv1
 パロ(歩くヒトデ):【毒牙】Lv1

 Eランク狩場《フーリン海岸》
 フーア(泥人形):【泥化】Lv2 【擬態】Lv1
 ポートイール(ウナギっぽい):【気配察知】Lv1 【噛みつき】Lv2
 スパインタートル(甲羅に刺のある亀):【噛みつき】Lv1 【硬質化】Lv1


「これで6種……こんなもんかな?」


 予想通り、パロの【毒牙】がグレー文字だったのはいいとして。

 身体中に大量の海藻をくっ付けて【擬態】していたフーアという魔物からは、ワカメや昆布っぽい、出汁の取れそうな海藻を得られたし。

 ポートイールという、齧りながら足に絡みついて海中へ引きずり込もうとする蛇……というよりウナギやアナゴみたいなヌメヌメした魔物は、焼いて塩でも掛けたら美味しくなりそうだし。

 それに長い刺を甲羅から大量に生やしたスパインタートルという亀は、ちょっと齧ってみたら淡泊過ぎてあまり味がしなかったけど、鍋に放り込んだら化けそうな気がするし。

 それぞれに素材としての特徴があるので、今後の食事には期待が膨らむ一方なのだが、内心期待していたスキルはこの段階になっても手に入らない。


「うーん……【水中呼吸】があれば、この先の狩り方だって大きく変わると思うんだけどなぁ……」


 今はまだいいのだ。

 俺でも足がつく程度の浅瀬で済んでいるのだから。

 しかし次のDランクからは、陸が遠目に見える程度の近海が狩場となってくるので船は必須。

 まぁ俺の場合はその限りじゃないにしても、魔物がある程度深い場所にいると、今までのような狩り方ができなくなってしまう。

【水中呼吸】が魚人種の種族固有スキルなのだとしたら、しょうがないのかもしれないけど……


「先に他のFランクとEランク狩場を回ってみて、それでもダメだったらDランク狩場に期待するしかないか」


 取得できなければたぶん、今までのような周りに配慮した狩り方はできない。

 となると、せめて人のいない時間帯に……  

 そんなことを考えながら、素材目的で各魔物を手当たり次第に狩っていった。


 そして、夜。

 人気のない暗がりの海で【広域探査】を使用し、事前に聞いていた目印と魔物名から目的のDランク狩場を特定していく。


 ――『サハギン』――

 ――『キラーロブスター』――

 ――『タニファ』――


「んー……そこまで深くはなさそうだけど、20メートル……30メートルくらいか……?」


 はっきりとした距離感は掴めないが、タニファの反応が海底と思われる似たような深さで広がっており、そこから極端に深い反応は一つも拾えない。

【地図作成】を開いて等高線を表示してもこの辺りは平坦に近いようだし、まずはそのことにホッと安堵の息を吐く。

 この程度なら息を止め、海の中に潜ってもまだなんとかなるだろう。

 しかし、100メートル、200メートル……もしかしたら地球のように1000メートルを超える深海が存在し、そんな場所に生息している魔物だっているかもしれないのだ。

 だからこそ、可能性の広がりそうな【水中呼吸】を、苦もなく狩れる浅い段階から早めに――。

 そう思っていたわけだが、海岸線を南下しながら低位狩場を巡ってみても、所持する魔物は見つからず。

 となるとDランク狩場に期待するしかなく、服を脱ぎ、祈るような気持ちで海中にダイブすると、さっそく姿を現したのは人のような手足を持つ魚――サハギンだった。

 自ら加工したなんてことはないだろう。

 たぶん漁具、もしくはハンターが所持していたんだと思われる錆びた槍を突いてくるその姿を見て、


(くそ……)


 俺は思わず悪態をついてしまう。

 決して水中だから動きにくいとか、そんなことではない。

 それどころか予想以上に身体を動かせるのは、【泳法】と自身のステータス、それに【地形耐性】の影響ももしかしたら出ているのかもしれないけど……

 名前から連想できる魔物の姿を想像し、一番このサハギンが【水中呼吸】を所持している可能性が高いと踏んでいたのだ。

 しかし結果は【槍術】【捨て身】【跳躍】の3種のみ。

 期待外れの結果に怒りのグーパンチをお見舞いすると、凶悪な魚顔が弾けたように砕け、血を巻き散らしながら遥か彼方へと飛んでいってしまった。


(やべ、素材が……)


 すぐにやり過ぎたと、後悔するも。

 その血肉に反応し、群がるように湧いてくる魔物達を見て、思わず笑みが零れてしまう。

 餌が必要になる可能性は考えていたが……なるほど。

 考えてみれば魔物同士でも死体を食らうわけだし、素材価値がない魔物の残骸をバラ撒いても十分釣れるわけか。

 これは――……【水中呼吸】があれば好都合という状況は変わらないにしても、乱獲を目的とした場合。

 それに攻撃の届きにくい深部の魔物を釣るという意味でもかなりデカい。

 はさみではなく、鎌のような手を振り回しながら近寄ってきたキラーロブスターを素手で締めつつそんなことを考えていると、後方から大口を開けて迫る、オオサンショウウオのような魔物が視界に入る。

 資料本には海トカゲと表記されていたので、これがタニファで間違いないと思うが。


「……ん、ヴォッ!?」


 そのスキルを確認した瞬間、驚きから海中にいると自覚しているにもかかわらず声を漏らしてしまった。

 まてまて……

 これは|ど《・》|っ《・》|ち《・》なんだ?

【毒牙】よりはまだ可能性がありそうな気もするけど、しかし仮に白文字なら、俺は軽く人間を辞めてしまいそうな気も……

 動揺する俺の気持ちなど知るわけもなく、血肉に釣られて迫りくる魔物の動きは止まらない。

 ――結果。


『【急速再生】Lv1を取得しました』


 すぐに流れ始めた新スキルの取得アナウンスを、俺は両手が塞がったまま視界の端で捉えていた。


(マジでこれは、どっちなんだい!?)
561話 実験の結果

 海中では、水が邪魔して魔物を『収納』しにくい。

 そんな理由から氷を生成し、海上に無理やり作った人工島の上で俺は実験を繰り返していた。


「566……567……オッケー、6回目は9分半くらいか」


 目の前には『黒鎖』で捕縛した海トカゲ――タニファと、足元に転がるいくつもの腕。

 パスッ――。

 そして今、赤黒い血とともに再生した直後の腕が氷の上に転がる。

 少々残酷ではあるが、今後のためにも重要な実験だ。

 まさかの白文字であった【急速再生】。

 このスキルが問題なく使えるタイプなのかどうか。


【急速再生】Lv2 自身の損傷、欠損箇所を素早く再生する 再生速度はスキルレベルによるが、回数を重ねる度、部位にかかわらずその速度は永続的に低下していく 消費魔力200


 このような詳細説明では分からないことも多く、スキルを所持するタニファを利用して確認してしまうのが最も安全で手っ取り早かった。

 腕を切断すると自前の【急速再生】レベル2を使用し、タニファは元に戻そうとする。

 最初は"急速"という名の通り、淡い光で包まれた傷口がモコモコと、不気味に蠢き始めてから僅か5秒ほどで元に戻り、そこからは回数を重ねる毎に3倍近いペースで完治までの時間が増加。

 そして、ある程度規則性を掴めてきた7回目はというと――


 ――【神聖魔法】――『元に、治せ』


 1回目と同じ、傷口が光る前に俺の【神聖魔法】ですぐに回復をさせる。

 ちなみに1回目の時は3度スキルを唱え、元に戻るまで計12分近くの時間を要していた。

【回復魔法】では賄えない、深い傷を治す場合には必須とも言える【神聖魔法】だが、しかしそこまで万能なわけではない。

 スキルを使えば瞬く間に傷が治るなんていうことはなく、ジンワリと、それこそ滲むように回復効果が広がっていくため、裏ボスの闇霧に腹を刺されまくった時も意識がぶっ飛びそうになりながら、何度も何度も【神聖魔法】を繰り返して自分の傷を回復させていた。

 もちろん唱えるスキルレベルや、術者の『知力』もその速度に大きく影響してくるのだろうが……

 兎にも角にも、【神聖魔法】では腕を復元させるとなると1度の詠唱ではとても済まず、時間だってそれなりに必要となる。

 それが【急速再生】であれば、一定回数までは【神聖魔法】で治すより速く、かつ魔力消費も抑えられるのだ。

 あとは一番の懸念。

 詳細説明にある、『永続的な速度の低下』という恐ろしそうなデバフが【急速再生】だけでなく、【回復魔法】や【神聖魔法】での回復にまで影響してしまうのかどうか。

 もし影響してしまうならリスクが大き過ぎると思っていたわけだが。


「お? 同じ時間……あぶねーこっちは影響なしか」


 結果は1回目と同じ、12分ほどで腕は再生された。

 となると現状では6回目まで、【神聖魔法】より【急速再生】の方が再生速度は優秀ということ。

 まぁ今後どちらのスキルレベルも上がることで、この回数は変わっていくだろうけど……


「どのみち、いざという時の緊急用だな、これは」


 目安を知れたことで、このような結論に達する。

 スキルレベルの上昇で、永続的な低下デバフがその都度解除されるなんてこともまず考えにくいし、特に最初の1度目は希少だ。

 使わなければ、どうあっても死ぬ。

 そんな場面までスキルレベルを上げつつ温存しておこうと心に決め、次々と氷島の上に飛び上がってくるサハギン達を一掃。

 人の出入りがあるDランク狩場は夜間の今が素材も経験値も稼ぎ時だと、一部の死骸を細切れにしながら周囲の海にばら撒き、再び海中へと潜っていった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 時刻は朝の9時ごろ。

 クアドと共にニューハンファレストに向かうと、予想通りロビーには宿泊客の姿がほとんど見らえず、レストランも残された食器を片付ける従業員がいるくらいでガランとしていた。

 そんな中、厨房で茶を飲みながら休憩している人達を発見し、声を掛ける。


「おはようございまーす」

「ん? なんだ、うちの王様じゃないか」

「クアドさんも一緒か。なら丁度いい、奥深い甘みを求めて作り上げた『オニオンかぁりぃ』を食ってくかい? あんたは辛いの食ったら気絶するしな」

「え、なんすかソレ!?」

「それならついでに、最近俺が常連客から教わった『カツレツ』も用意しようか? 食い盛りのロキ王なら、何枚でも食えるだろうし」

「はうっ!」


 狩場に船が来るギリギリまでは粘ってやろうと、朝までずっと飯抜きで狩りをしていたわけで、そんな提案をされるとめっちゃ食いたくなるんですけどー!

 でも今回ばかりは目的が違うのだ。

 前のめりになって尻尾を振っているクアドを制止し、厨房の広いテーブルにドンドンドンと。

 いくつもの素材を並べる。


「これは……」

「先日、ようやく東の海に辿り着きまして、これらはその海で狩ってきた魔物なんです。とりあえず第一弾って感じですけど、商会で売る以外に、こちらでも使える素材があるかなーって」


 言いながら3人の顔を眺める。

 より正確に言えば、この手の海産物を扱えるかどうか。

 難しいならいずれ時間を作って俺が知っていることを教えるか、もしくはニッカ辺りの料理人を一時的に何人か雇い、ここに連れてきてしまうのもありだろう。

 そう思っていたが。


「ふっ、懐かしいな……キラーロブスターにリリークラブまで、まさか海の魔物を大陸中央で目にするとは思いもしなかった」


 すぐに反応を示したのは、Sランクハンターでもあるノディアスさん。

 それにこの口ぶり――、ただ知っているというだけではなさそうだ。


「もしかして、狩ったこともあるんですか?」

「ああ、俺がまだBランクの頃だから、もう20年近くは前になるのか。当時は案内人がいないとかでDランク狩場までしか行けなかったが、それでも狩った魔物と、それにコイツらの味の良さは未だによく覚えている」

「おお!」


 さすが世界の狩場を多く巡ったノディアスさん。

 全部知っているというわけではなさそうだけど、これなら魔物素材もここの料理に活かせそうだし、ベザートにも次第に情報が流れるだろう。

 そう思っていると、珍しく口角を上げた料理長ボーラさんが、顎を擦りながら俺に問いかける。


「ロキ王、魔物素材もいいが、普通の海産物は?」

「あー市場に海の幸が並んでいましたし、そっちも仕入れられますよ。ただ何かのついでにまとめてって感じなんで、そこまで高頻度で通うとかはできませんけど」

「それでも構わないさ。どっちかっていうと、普通の海産物の方が小さくて扱いやすいからねぇ……」


 ふと、感じた疑問。

 しかし、俺より先にインド人が口を開く。


「なんだ、ボーラさんも扱えるのか。世界を旅するようなタイプには見えなかったが……さすがだな」


 対してボーラさんは、苦笑いを浮かべながら首を横に振った。


「見立ての通りさ。ラグリースを出たのだってここに来た時が初めて、魔物1匹殺せない女が世界を旅するなんてできるわけないだろう。だから若い頃、世界を旅した本物の女傑に教えてもらったのさ」


 女傑か……

 ラグリースを出たことのなかった人がそう呼ぶ人物となると、これはもう一人しか出てこない。


「もしかして、ニーヴァルのばあさんですか?」

「ああ、そうだよ。大層な役職に就いてからは少し落ち着いたけど、それでも自由気ままな風のような人でね。私がかつて勤めていた屋敷で会食があった時は、ツマらないからってよく厨房に顔を出して料理を教えてくれたんだ。私達に、外のこんな料理を作ってほしいってね」

「ははっ、婆さんらしいですね」


 亜人の友人がいるようなことも言っていたし、宮殿に部屋を与えられる前はそれこそノディアスさんのように、大陸を自由に旅していたのだろう。

 そこは十分納得できるが、しかし……


「ちなみに、海産物はどうやって手に入れてたんですか? まさか、川やボイス湖畔の魔物ってわけじゃないでしょうし」

「そうだ、俺もそこが気になっていた。ラグリースで海の幸なんて一度も見たことがないぞ?」


 先ほど感じた疑問をそのまま口にすると、すぐにノディアスさんも同調し、そんな俺達をボーラさんは少し呆れたような表情で見つめる。


「まったく、二人とも貴族というものを知らなすぎだよ。あの連中は"普通じゃ到底叶わないこと"にこそ価値を見出し、金を注いで愉悦に浸る。特にアホみたいな金を持っている上位貴族はね」

「「??」」

「うちの王様ほどじゃないにしても、やってやれなくはない方法があるだろう? 【氷魔法】と【魔物使役】の使い手がいれば」

「あー……」

「ふむ、そういうことか」

「私がかつて勤めていた屋敷ではそうしていたというだけで、他にもやりようはあるのかもしれないけどね」


【氷魔法】はこの手の海産物を扱うなら特に必須と理解していたが、なるほど、【魔物使役】か。

 それなら大きさにもよるだろうけど、空から直接運ぶという手段も取れてしまう。

 確かに、コストを度外視すれば、できなくはない。

 そう理解した二人を横目に、ボーラさんは俺が取り出した魔物に鼻を近づけ、感触を確かめるようにソッと撫でる。


「でも、こいつは凄いね。氷漬けにされたわけでもないのに、鮮度落ちしている様子がまるでない」

「時間の経過が発生しない、それが【空間魔法】の特性ですから」

「ふふ、こうして海産物に触れるのは15年振りくらいか……しかもこれだけ素材が良いとなれば心も滾る。ロキ王、早速試作して品目に加えていくつもりだから、無理がない範囲で素材を用意してもらえると助かるよ」

「ふははっ、確かに滾るな! そんなに鮮度が良いなら、目が覚めるほど美味かった刺身だっていける。となると――ロキ殿、名は忘れたが、例の薄茶色い調味料もぜひ調達をお願いしたい」

「海産物のかぁりぃか。茹でるか、煮込むか、揚げるか……これでまた新境地に辿り着けそうだ」


 これら言葉を聞き、俺とクアドは示し合わせたように顔を見合わせる。


「ね? ロキさん、やっぱりこっちにも必要になるって言ったでしょう?」

「うん。これだけやる気になってくれているなら、作る価値はあるね」


 イーゴさんと約束した納期は昨日か今日。

 それまでにCランク狩場を探し、レモラを大量納品しないといけないのに……

 もうちょっと期日に余裕を持たせておけば良かったなぁと、若干後悔しながら気合を入れる。


「うし! それじゃあパパッと、地下に冷蔵庫を作りますか!」
562話 かつて見た夢

「終わったっすよー」

「む? ロキ殿は?」


 もう少しで昼の客が入り始めるという時間帯。

 仕込みで忙しい料理長ボーラの代わりに対応したノディアスは、なぜか一人で現れたクアドに疑問を感じて問いかける。


「ロキさんはもう海に戻ったっす。なんでも今日中に大量のCランク魔物を卸さないといけないみたいで」

「ははっ、飯も食わずに行くとは、相変わらず忙しいようだな。それにしてもCランクとなると、その魔物も近いうちにここへ運ばれてくるわけか」

「っすね。なんでもAランク狩場までは情報を掴んでいるみたいで、それもあってここまで大きくしたみたいっすから」

「魚人の力も借りずに、海洋のAランク狩場を……」


 この時、ノディアスは狩場のランクに気を取られて後半を聞き流していたが、クアドと共に降りた階段の先で地下の光景を目の当たりにし、驚きから身体を硬直させたまま目を見開く。


「な、なんだ、この広さは!?」

「だから言ったじゃないっすか、大きくしたって。まあ奥は商会の食料品売り場と倉庫にも繋がってるんで、ここは共同の食糧貯蔵庫みたいなもんっすけどね」


 言われてノディアスは納得する。

 既に冷えている石造りの地下空間は他にも上階へと繋がる階段がいくつかあり、かなり奥の方では纏まった数の者達が何かの生き物を解体していた。

 しかし、大量の野菜や肉はあれど、先ほど見た海の魔物はほんの一部しか見当たらない。

 かなり数はあると聞いていたが……

 ノディアスが不思議に思っていると、察したクアドが右手に見える石壁を指差す。


「ロキさんは"冷凍庫"って言ってましたけど、より温度の低い保管庫は壁の向こうっす。あ、本当に寒いんで、入り口にある毛皮を被った方がいいっすよ」

「冷凍、庫……?」


 それは、ギルドの解体場に備え付けられた、素材を凍らせるための魔道具のことだろうか……?

 ならば人が入れるような大きさではないと思うのだが。

 よく分からないままついていくと、確かに石壁で仕切られた部屋が別に設けられており、その入り口には薄く青みがかった毛皮が何枚か掛けられていた。

 だがノディアスは部屋よりも前に、その毛皮に意識が向く。


「これは、まさか……」


 かつて仲間と共に挑んだ、アイオネスト王国に存在する最高峰のSランク狩場。

 目の前の毛皮は、そこで凍えそうになりながら狩ったフェンリルの毛皮にしか見えない。


「これが一番暖かいらしくて、とりあえずの寒さ対策にロキさんが置いてったっす。そのうち作業用の服に加工してもらうみたいっすけどね」

「……」


 無造作に置かれているこの毛皮がいったいいくらするのか、この犬獣人は分かっているのだろうか?

 ノディアスは事も無げに語るクアドに不安を覚えるが、次の瞬間には情けない声が口から漏れる。


「フオッ!?」


 さ、寒い……なんだこの寒さは!?

 ドアの隙間から抜けてくる冷気が尋常ではなく、それこそフェンリルの吐き出す息と同じくらい冷える気がする。


「店長!? も、もしかして、この中にフェンリルがいるのか!?」


 これくらいしか実現可能な方法が思い浮かばない。

 ノディアスが本気で問うと、クアドは感心したように声を上げる。


「おお! なるほど、そんな手もあるっすか。ん~これはロキさんに報告しておいた方が良さそうっすね」

「え? いや、そういう話じゃなくて……」


 じゃあなんだというのだ。

 急いで毛皮を被ったノディアスは、早く閉めろと急かされて入った冷凍庫内ですぐに部屋を見回したが、それでも理由が分からない。

 先ほどの冷蔵保管庫より小さいとは言え、それでも職場となるレストラン以上の広さがありそうなこの部屋にも棚が無数にあり、先ほど見た海の魔物や肉もその一角に山となって置かれていた。

 いくつかの魔道具も置かれているようだが、アレだけでここまでの広域を冷やせるとは到底思えず、いったい何がこの異常な寒さを生み出しているのか。

 ノディアスは困惑しながら視線を彷徨わせていると、ふと、棚に置かれたモノではなく、その奥の壁に意識が向く。


「店長、あの棚の奥の、壁……なのか? あれは、なんだ?」

「氷っすね。あれがここを冷やしているんで」

「あれが氷? 水のように透明なんだが……それに氷じゃ、精々冷えても横の冷蔵庫くらいだろう?」

「自分もよく分からないっすけど、物凄く冷たくて、物凄く溶けにくい氷をロキさんが【氷魔法】で試してたらあれができたっす」

「そ、そんなこともできるものなのか……」

「ただそれでもやっぱり溶けるは溶けるみたいで、ここの管理用にいずれ【氷魔法】の使い手を雇わないといけないって言ってましたし、ノディアスさんの言っていた魔物がいれば解決するのかもしれないっすね」

「……」


 それはそれで、Sランクの魔物を使役しなければいけないのだから、相当大変だと思うが。

 しかし、町にAランク魔物を複数配備しているロキ殿か、もしくは最近頭角を現し始めた魔物使いのベッグ殿であれば、もしかしたらSランク魔物の使役だって可能なのかもしれない。


「ふ、ふはは……ここだって2時間程度で作ったのだろう? 相変わらず、やることなすこと常識外れだな、うちの王様は」

「そのせいでこっちは振り回されてばっかりっすけど……でも、美味しい海の幸を――、いや、それだけじゃないっすね。世界中のいろいろな食材を、ベザートに住む人達が食べたい時に食べられるようにって、そんな理由でこの環境を整えてくれたんすから、自分は頭が上がんねーっすよ。海産物は肉と違って受け入れられるか心配みたいっすけどね」


 美味いモノを届けたい――。

 かつて自分が思い描き、そして潰された夢。

 今それを、米だけではなくもっと大きな規模で、ロキが代わりに動いてくれている。

 自然と揺れる尻尾を見て、ノディアスはクアドの背中を優しく叩きながら声をかけた。


「そうか……なら俺に任せておけ。昔の記憶を掘り起こして、食ったことのない連中にどれほど海の幸が美味いか、たっぷり味わわせてやるさ」

「へへっ、自分も食ってみたいんで期待してるっすよ。あと、さっき奥で解体していたベンゼ夫婦の子供を一人そっちに預けてもいいっすか? トニーっていうんすけど、魚とかの扱いを学ばせたくて――」


 また一つ、新たな食文化が取り入れられ、大きな変革を遂げようとしているベザートの町。

 しかしこの出来事がアースガルドだけでなく、大陸中央にどれほどの影響を及ぼすのか。

 この時点ではまだ、誰一人として予想できないでいた。
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今日がコミック2巻の発売日だったので、記念ということで。
私としては、早く主人公が悪党をぶっ殺していく絵がみたいので、応援よろしくお願いしまーーす!!
563話 嬉しいけども

 腹の減りをガブ飲みした魔力ポーションで誤魔化しながら空を飛び、目的の狩場を探していく。

 先ほど湯水の如く魔力を使ったためにカツカツだが、まぁいうてCランクだし、行けばなんとかなるだろう。

 そんな気持ちで目印となる魔物を探しながらフラフラしていると、ようやく単体ではない、纏まった数の反応を同じ方面から拾い始めた。


「へ~この辺りは上空からだとまだ陸地が見えるのか……えーと、ニッカとサイユの町の間辺りから真っ直ぐに東、と」


 マッピングされた地図を眺めながらより正確な位置を把握し、さてどうしたものかと思考を巡らす。

 聞いていた通り、Cランク狩場は日中だというのに船の姿がなく、これなら多少派手に動いても支障はなさそうだが……


「ん~とりあえずどんなものか、軽く覗いてみるか」


 そう判断し、倒した魔物の置き場用に程よい大きさの氷島を作ってから海へ潜ると、すぐに近寄ってきたのは不気味な複眼を持つエイのような魔物――スカードレイだった。

 先端は【麻痺針】か。

 異様に長い尾を器用に振り回してくるが、大した速度でもないので対処に困ることはない。

 強引に掴んで手繰り寄せ、腹部に手刀を差し込み中の血肉を掻き出すように引き抜く。

 すると想定通り、付近にいた魔物の動きは活発になるが、寄ってくるのは他のスカードレイと、水中を跳ねるように動く、馬と魚が融合したような姿をした魔物――ケルピーのみ。

 肝心のレモラは離れた位置で何匹か泳いでいるものの、こちらに寄ってくる気配はまるでなかった。

 そしてその理由を、レモラのスキルを覗くことですぐに理解してしまう。


(げえっ! 嬉しいけど、ここでかよ!)


 心境は複雑だ。


 レモラ:【突進】Lv3 【逃走】Lv2 【洞察】Lv2


 レモラの所持スキルはこの通りで、懐かしのレイラードフェアリー以降、一度も見かけることのなかった【洞察】持ち。

 希少かつ、それなりに使用頻度も高い有用スキルの底上げができるという面では凄く有難いけど、なぜよりによって数を集めなきゃならないコイツなんだという気持ちに襲われる。

 これはまず、いくら餌を撒いても向こうからは近寄ってこない。

 かと言ってこちらから追おうにも、回遊魚みたいな速度でずっと泳いでいるし、ちゃっかり【逃走】まで所持しているのだからそう簡単には捕まえられないだろう。


(海上から攻撃を加えたとしても、この深さじゃ……それに魔力が心もとないとなると――まずはソレを試してみるべきか)


 名前からして、まず水中専用と思われるスキルが目の前に存在しているのだ。

 ひとまず血肉に釣られて寄ってくる目の前の魔物を一掃し、死体は氷島にどんどん放り投げていく。

 すると。


『【水蹴】Lv1を取得しました』


 すぐに目的のケルピーから、このCランク狩場で唯一となる新スキルを取得。

 一度氷島で呼吸を整えながら詳細説明を確認すると、このように表示された。


【水蹴】Lv1 水中で踏み込むことを可能とし、素早く移動することができる 速度はスキルレベルによる 魔力消費5


 うん、癖の少なそうなスキルだ。

 先ほどもケルピーはほぼ静止に近い状態から前脚を掻き、強い加速を得ながら移動していたので、【空脚】の水中版みたいなものだと思うけど……

 この手のタイプなら試す方が早いと再び潜り、すぐにその特性を理解する。


(お、おっ、おっ!)


 まるでそこに壁があるかのように。

 スキルを使用することで勢いよく加速し、連続使用や急な方向転換も可能にしてくれる。

 速度はスキルレベルによるとあるけど、まず間違いなく先ほどのケルピーよりは素早く動けているので、使用者の筋力なんかも影響している可能性は高そうだ。

 となると……いけるか?

 やってみないと分からないが、試す価値は十分にある。

 そう判断し、数匹で固まりを作っていたレモラに近づくと――


(は、速~っ!?)


 相手はカジキのような、ゴリゴリの魚っぽい見た目をした魔物。

 素手で捕まえるなんて絶望的な速度差で逃げられるが、こっちには飛び道具だってある。


(ナメんなよ!)

『指電』


 その後の素材を活かせるように。

 最小の加減で【雷魔法】を放つと――んんん?

 海中だからか、今までのように真っ直ぐ狙った対象には飛んでいかず、途中で溶けるように拡散してしまう。

 が、それでも雷の一部に触れ、1体のレモラがようやく動きを止めてくれた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ポリポリと、頭を掻きながらどうしたものかと考える。

 スカードレイやケルピーに混ざって横たわる、2メートル近くはあるレモラの死体。

 とりあえず狩れたし、この大きさなら1匹でも百人前くらいは余裕でありそうな気もするが。


「うーん、問題はどうやってコイツを大量に狩るかだな……」


 思いの外、狩るのが大変なこの魔物をどう乱獲すべきか。

 Cランクとは思えない難易度に頭を悩ませる。

 いくら餌は巻いても俺がいたんじゃ寄ってこないし、強引に海中戦を繰り広げたところで呼吸がもたず、追いかけっこの末に1匹2匹を狩るのがやっと。

 ならば動きを止めてやろうと【廻水】で海に巨大な渦を作ってみたが、泳ぎの得意な海の魔物が相手では大した効果は得られず。

 かといって上空から"天雷"をぶっ放してみても、レモラが泳いでいる深さまでは届いていないようで、スカードレイが2匹死体となって浮かんでくるくらいしか成果を得られなかった。

 休憩を挟みながらコツコツやっていけば、それでも1日に30匹くらいは狩れるのかもしれないけど……


「違うよなぁ……それは違う……」


 費やす時間と成果が釣り合っているとは思えず、そんな非効率的なことをやろうとはどうしても思えない。

 となると、残された方法は一つ。


「……デカい船、買うか?」


 背にいくつもの吸盤を備えたレモラを眺めながら、そんな発想に行き着いてしまう。

 漁師が船を出すと、稀にはぐれが船底に張り付き、沖へ引っ張ろうとする――。

 その特性を皆が理解しているため、船に必ず1つは雷撃を放つ魔道具を用意して自衛しているとイーゴさんは言っていた。

 ならばその特性を逆手に取ればいいわけで、船を用意し、底へ張り付いたレモラに【雷魔法】を撃てば狩れるということ。

 俺を見ると逃げるレモラも、視界に収めることが発動条件となる【洞察】の特性を理解していれば、船から顔を出さないことで対策はできる。

 しかし、問題はいつ船を入手できるのか……

 纏めて効率的に狩るなら極力デカい船の方がいいわけで、そうなると金銭面はいいとしても、製造の期間が大きな障害になってしまう。

 納期問題を抱えている身としては今すぐにでも欲しいわけで、ボロくてもいいから中古か、もしくは所有者を見つけ、一時的にレンタル契約を結べるかどうか。

 というか、この世界に海賊がいたら一番手っ取り早いのでは?

 となると、高速で商業ギルドと傭兵ギルド、それに一応港も回って――。


 どれくらい、大型船の入手方法を模索していただろうか。


「ん?」


 ふと、吹く"風"が気になり、顔を上げる。

 ここは海上なわけだし、ずっと潮風は吹いていたと思うが……

 周囲を見回しても、360度海しかないので何も景色は変わらない。

 が、徐々に頬を撫でる風が強くなり、レモラの死体がこちらへ滑ってくるのを見て。


「…………この氷島、動いてね?」


 そんな疑念が口を衝いて出た時、既に俺は笑いを堪えられないでいた。
564話 今更な話

 既に日も暮れ始めた頃。

 ニッカのハンターギルドに向かうと、ガタリと音を立て、先日の受付嬢が出迎えてくれる。


「あっ! ど、どうでしたか……?」


 伝えていた期日になっても俺がなかなか来なくて、不安を募らせていたのだろう。

 既に換金待ちや横のお食事処で酒を飲んでいるハンター達もおり、受付嬢の対応に怪訝な表情を浮かべているが、そんな周囲の様子に気づかないほど視線は真っ直ぐ俺に固定されていた。

 それだけ、期待もしていたということ。

 ならばまずは安心させておかなくちゃな。


「ええ、ちゃんと獲ってきましたよ。なのでどこか置き場所まで案内してくれませんか? 可能な限り大きな所を」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 その後、呼ばれて出てきたイーゴさんと共に向かったのは、港の近くにある冷蔵用の倉庫だった。

 この時のために空けておいたらしく、魔道具で冷やされた倉庫内は綺麗に片付いていたわけだが。


「「……」」


 早速放出し始めたその量を見て、イーゴさんと、それに数を記録するため同行していた受付嬢は揃って言葉を失う。


「もう十分だと思ったらストップって言ってくださいね」

「……」

「あのー、聞いてますかー?」

「あ、いや! もうその辺で! その辺で結構です!」


 なんだ、まだ200匹も放出していないのに、もういいのか?


「まだこの倉庫に入りますよ?」

「いやいやいや、これ以上あっても腐らせてしまうだけですから!」

「というかギルマス。素朴な疑問なんですけど、こんな量、いくら昔の値段とは言え、うちですぐに支払えるんですか……?」

「うっ! そ、それは、方々に声を掛ければなんとか――」


 今がアホみたいに高騰しているというだけで、昔からレモラは高級魚。

 過去の記録にも、素材のランク次第ではあるが1匹150万ビーケ前後で取引されていたので、それなら今回もその値段でと事前に取り決めはしていた。

 保存の問題で困っているだけなら、大サービスでここを一時的な冷凍庫にしてもいいけど……

 ニッカは町の規模としてはそこそこ大きいものの、今はEランクまでが管轄の元中規模ギルド。

 買取費用の負担が大き過ぎるとないう話なら、余りはこっちで使うわけだし無理をさせるべきではないな。


「まさか、これほどの量を納めていただけるとは……しかもまだ、抱えているわけですよね?」

「ですね。余ったら余ったで、自分達で食べるなり売るなりしようと思っていましたから」


 そう伝えると、イーゴさんは少し考え込むように顎に手を当て、眉根を寄せた。


「レモラは魔物なのに警戒心が強く、昔から狩りにくいことで有名でした。魚人種でもそう簡単には捕まえられず、囮の船を用意しても別の魔物が船底に穴を開けて沈めようとしてくる……なのに、これほどの数をどうやって……?」


 聞けるものなら聞いてみたい。

 その程度の、独り言のようにも聞こえる問い掛けだが、さすがにこの疑問をバカ正直に答えるわけにはいかない。

 ここの住民ができるかどうかは別として、具体的なやり方を知ればマリーが動き、あの女の資金源にされてしまう可能性だってある。

 だが……少しだけ逡巡したのち、俺は静かに言葉を返す。


「そこまで分かっているのなら、その穴で沈まないよう、対策をすればいいんじゃないですか?」

「沈まないよう、対策……」


 ほんの少しのヒントくらいは。

 船でなくとも浮かぶモノなら釣れるということに気付き、使い手次第ですぐに穴も修復できる氷島を同じように作るのか。

 それとも未だ見かけたことのない、強度に優れた鉄船の製造という方向に流れるのか。

 もしかしたらまったく別の答えに辿り着くのかもしれないし、時間だって掛かるのかもしれないけど……

 でも、単身で乱獲に成功した者がいる。

 その事実があるだけでも、きっと大きな足掛かりにはなるだろう。

 レモラを求める声が多いのならば、きっと。


「それじゃ、僕は楽しみにしていたレモラを食べてきますので、後はお任せしますね」

「え、ええ。お金は極力早めに……明日の朝までには用意させていただきますので!」

「はーい」


 そんなことを言われても、今はお金よりご飯なのだ。

 ぐぅぐぅ鳴り続ける腹を摩りながらレモラというお土産を抱え、俺は先日の食堂に向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「すまない、遅くなったな」

「ほんと遅いですって、ギルマスも早く手伝ってくださいよ~! 上から滑り落ちてくるレモラに、私もう何回轢かれたと……って、あれ? 応援を呼びに行ったんじゃ?」

「大丈夫だ、ちゃんと応援も連れてきている。皆、それではよろしく頼むぞ」


 ギルドマスターのイーゴが振り向きながら声を掛けると、倉庫の外にいたであろう男女が大きな包丁片手にゾロゾロと倉庫内へ入ってくる。


「おお~すげぇ! 本当にレモラがいっぱいだ!」

「これは久々に腕が鳴るねぇ。あんた達はお嬢ちゃんの手伝いをしてあげな」

「よっしゃ、俺達は端からどんどん捌いてこうか! 氷と入れ物、それに綺麗な水も用意しておいてくれ」


 この場にいる多くは、過去にレモラを捌いたことのある町民達だ。

 しかし受付嬢の目は、最初にイーゴと倉庫へ入ってきた一人の老人に向く。


「ゲンさんまで、どうして?」

「ああ、私が声を掛けたのだ。今回の不足分を工面してもらおうと思ってな」

「あー……」


 この時、受付嬢は納得したようなしていないような、そんな微妙な表情を浮かべていた。

 ゲンさんと呼ばれた老人――ゲンリーは町でも有数の資産家であり顔役だ。

 そのため資金の調達先と言われてれば納得できないこともないが、それでも結局は個人。

 本来ならば商業ギルドに資金を融通してもらうか、もしくはレモラの一部を商業ギルドにそのまま売却するのだろうと受付嬢は思っていただけに、真っ先に出てきた『どうして?』という疑問が、理由を聞いてもなお残り続けていた。

 そんな様子を見てゲンリーは手招きし、周囲を気にしながら受付嬢に小声で呟く。


「このレモラを狩ってきたのは第五の異世界人ロキであろう?」


 この言葉にギョッとし、思わず横のギルマスに勢いよく顔を向ける受付嬢。

 自ら名乗ったのはロキ自身だが、同時に面倒事は避けたいからここだけの話にしてくれと、先日ハンターギルドを訪れた時からそう言われていたのだ。

『犯人はコイツかぁ~!』と、受付嬢は牙を剥き出しにして可愛く睨み付けるも、イーゴは肩を竦めながら首を振った。

 そしてゲンリーは勘違いを正すべく口を開く。


「今日、マスカード伯爵の使いがこの町を訪れてな」

「え? 領主様の使い?」

「ああ、第五の異世界人がアルバート王国に入ったようで、無下に追い出すというのも現実的には難しい。ゆえに不要な接触、揉め事は一切禁ずると、国王陛下の命令でアルバート全域に通達が下りたようなのだ」

「こっ、国王、陛……」


 この時、受付嬢は一度呼吸が止まりかけ、言葉を言い切る前にレモラの山へと再び視線を向けた。

 接触なんてそんな生易しいモノではなく、既にここまでの取引をしてしまっている。

 国王陛下の命令なんて、破ったら余裕も余裕で死罪確定。

 なんなら5回くらい殺されてもおかしくない……

 悲しみと絶望から自然と出てくる鼻水をずび~っと啜り上げ、受付嬢は大粒の涙を浮かべながら吠えた。


「それ、遅過ぎでしょ~!!」


 すると、同じ状況に立たされているイーゴが口を開く。


「私だって先ほど知ったのだ。気持ちは分かるが、この地はアルバートの中でも端の端……既に起きたことで嘆いても仕方がない。それに禁じられているのは不要な接触、あちらからハンターギルドに足を運び、取引を求められたのだから止むを得ないだろう?」

「でも、こんな普通じゃない量……」

「分かっている。だからゲンさんを連れてきたのだ」

「……?」


 なんのことだか、意味が分からず。

 首を傾げる受付嬢に、ゲンリーは顎髭を摩りながら覗き込むような眼差しで問い掛けた。


「君は、あの少年――異世界人ロキを見てどう思ったかね?」

「え? そう言われても、直接何かされたわけじゃありませんし……」

「ふむ。つまり、伝え聞くような話とは違うと、そう思ったのではないのか?」


 これといった答えが出せず、困惑した様子の受付嬢にゲンリーが助け舟を出すと、ここでようやく納得したようにゆっくりと頷く。

 受付嬢が答えに詰まった一番の理由は先入観だ。

 異世界人ともなれば憶測や推測も含めて様々な情報が流れてくるが、多くは身勝手に振る舞い、人を人とも思わず残虐の限りを尽くして諸国を荒らすというモノ。

 それは新興勢力を明確な敵に仕立て上げたいというアルバート側の思惑も多分に含まれているが、それ以上に大きな影響を与えていたのは勇者タクヤの登場する『魔王討伐伝』だ。

 突如として世界に現れ、混沌を齎した魔王という存在と名前が同一であり、また立場も同じ。

 となれば自然と結び付けてしまうもので、子供達を中心に魔王ロキという、まるで恐怖の象徴のような二つ名が巷で囁かれることも多くなってきていた。

 そしてゲンリーもまた、当初は受付嬢と同じ感想を抱いていたと漏らす。


「素性も知らぬまま、一度食事を共にした機会があってな。商人としては失格も失格、お人よしが過ぎるが……とても礼儀正しい好青年だったよ」

「え? 失格って、ギルマスと普通に交渉してましたよ?」


 受付嬢はさすがに言い過ぎではと指摘するが、ゲンリーは訂正する気はないとばかりに大きく首を振った。


「いくらこれほどの量を狩る自信があったとしても、わざわざ数十年も前の取引相場に合わせて、しかもその価格すら確認せずに売却する必要性などどこにもない。情報の対価と考えるのなら、先にその情報自体の価格を決めて支払うか、もしくはその価格に合わせて必要数のレモラを差し出すのが筋というものだろう」

「まあ、それが一番損をしないような気はしますけど」

「金に困っていないからそのような判断をしたとも取れるが……私の時もそうだったのだから、たぶんあの少年は恩を感じた相手にはより大きな恩で返そうとする気質でもあるのだろう。時に当事者や周囲が過剰と思ってしまうほどにな。ふっ、とても伝え聞く傍若無人な姿とは掛け離れたモノだ」


 この時、イーゴは確かにと納得し。

 受付嬢は、相変わらずゲンさん回りくどいわ~と思いながら聞いていると、ようやく話が本題に入る。


「さて、私がここに来た理由を話そうか。イーゴから相談を受け、この件、私も商業ギルドに話を振るのは得策ではないと、そう判断したから資金の援助を引き受けたのだ」

「現商業ギルドの支局長はアルバートの旧家出身。これだけの量を誰が――、という部分はこのような通達が下りている以上すぐに割れるだろうが、『どのように狩ったか』という話は今後間違いなく突っ込まれる。向こうにとっては喉から手が出るほど欲しい情報だからな」


 付け加えられたギルマスの言葉に、ハッとした表情を浮かべる受付嬢。

 そういえば先ほど、答えとは言えないまでも、その後に繋がりそうなヒントをギルマスは貰っていた。


「いくらマリーの息が掛かった商業ギルドといえど、相手がハンターギルドならばそう無茶はできん。だがもし情報を掴めば、異世界人マリーにもそのまま伝わるということ。そうなると、あの強欲が金のためにこの地を利用しようとする可能性も大いに出てくる」

「あ、だから、極力借りは作らないように……」

「そういうことだ。それに昔の値段で町民に振舞った後は、残りの半分を私の裁量で自由に動かしてよいのだろう? ならばこれだけの数だ、どう転んでも私が損を被ることはない」

「さっすがゲンさん、そういうところはちゃっかりしているんですね」

「当然だ。それにどうせなら我らが祖国を潰してくれたマリーより、この町に粋な図らいをしてくれた少年の肩を私は持ちたいのでな」


 この時、ゲンリーの表情から受付嬢はなんとなくこれが本音かと感じ取ったが……

 自分も、それにギルマスだってきっと、気持ちは同じなのだ。

 祖国を盗られて気分のいい者など、売った一部の役人や貴族を除けば誰もいない。

 だから敢えて触れずに作業を再開させる。

 外にはもう、昔食べたレモラの味を忘れられない町民達が多く集まっていた。
565話 策動

 大した娯楽もなく、街灯すらないこの世界では早寝早起きが基本であり、深夜に好んで起きているような物好きはまずいない。

 それは今まで回ってきたどの国でも同じだったが――時刻はもう丑三つ時。

 このような時間であろうと、どんちゃん騒ぎのできる場所が一か所だけあった。

 そう、誰も寝ることのない上台地である。


「ぬおーっ! うっまーい!」

「ふふっ、この鉄火丼というのはほんと美味しいですね~」

「フィーリル、お刺身でお酒を楽しむというのもなかなか……」

「み、見てみろフェリン! ぷりっぷりだぞ! とんでもなくぷりっぷりだぞ!?」

「ちょっと、目の前でプラプラさせないでよ! 今順番に食べてるんだからそこ置いといて――」

「……おかわり、大盛で」

「はいはい、まだご飯もいっぱいありますからね」


 獲ってきた魔物に加えて朝の市場で買っておいた普通の魚介類も大量にあるので、毎度の食卓はいつも以上に豪華絢爛。

 だがその中でも特に強い存在感を示しているのはやはりレモラだろう。

 最初は見た目がカジキっぽいなと思っていたが、このねっとりとした濃厚な味わいはまさにマグロで、どう考えても普段俺が食っていた安っぽいやつじゃないし、中トロや大トロみたいな脂の乗った部位までしっかり存在していた。

 肉とジャガイモとチャーハンの茶色い生活から、醤油と海鮮とご飯の彩り豊かな生活へ。

 丼にして同時に掻き込める幸せを噛みしめていると、口の周りに米粒をつけたリルが欲深い質問を飛ばしてくる。


「ロキよ、次はいつこの刺身とやらを食べられるのだ? 報告会の時なら、意地でも見張りを抜け出して参加したいのだが」

「ん~食材は用意しようと思えばできるんだけどねぇ……」

「なんだ? 何か問題があるのか?」

「うん。問題っていうか、こんな食べやすい状態に捌けないの。ここにあるのだって全部やってもらってるし」


 貝や甲殻類はまだ自分でもなんとかなるが、魚は三枚おろしがどういったモノか多少知っているくらい。

 超ド級のインドア派が自ら魚を捌く機会などあるわけもなく、今回だって夕飯を食っている最中、余ったレモラと引き換えに定食屋のおっちゃんが全てやってくれていた。


「ロキ君って【料理】スキル低いんだっけ?」

「いや、レベル10だよ。ただ【解体】にしろ【料理】にしろ、どっちもジョブ系だから即効性はないし、今はまだその手の修行に時間を割こうとも思ってないからさ」

「あーそっか……」

「だからまぁ、こんな感じの刺身が食べたいと思ったらその都度、捌ける人のところに持っていかなきゃいけないんだけど……すぐできるわけじゃないからちょっと面倒なのと、それにたぶん、この先の知識までは持ってなさそうなんだよね」

「「「??」」」


 俺の何気ない一言。

 しかし、ここで一斉に皆の手が止まり――、フェリンとリルが、ゴクリと喉を鳴らしながら同時に声を上げる。


「この先、とは……?」

「あ、変な言い方してごめんね。地球の俺が元いた国に、この刺身を利用した"寿司"って料理があるんだけど、それがどうもこの世界にはなさそうでさ」


 新しく作った地下の食糧貯蔵庫に海のCランク魔物を吐き出し、その足で念のためにボーラさん達にも確認したが、やはり寿司の存在を知る者はいなかったのだ。

 つまり東の海だけでなく、他の方面にもあまり期待がもてないということ。

 ……それでも良い機会か。

 それっぽく寿司の形を作って皆に見せてみるも――


「この料理は……すみません、商人の記憶から見えたことはないと思います」


 ――最も知っていそうなリステを含め、全員が首を横に振ったことで、日本人っぽい勇者タクヤが西で広めている可能性もかなり低いであろうことが判明してしまった。


「まあしょうがないか……海鮮丼をこうして食べられるだけでも幸せってもんだし、また時間に余裕がある時はこんな感じで調理してきてもらうよ。いずれアリシアが魚の捌き方を覚えてくれれば回数も増やせるだろうし」


 どの道、海苔やワサビなど、まだ不足しているモノもあるのだ。

 いずれ趣味に走れるほどの余裕が生まれたら、その時は自分が寿司作りに挑戦してみようかなと。

 その程度に考えていたわけだが――、気付けば皆の視線はアリシアに向けられていた。


「アリシア、分かってるよね? 今日から猛特訓だよ!」

「え?」

「日々料理の腕を磨いているわけですから、数十年は魚の捌き方に時間を割いてもいいんじゃないですか~?」

「うん。料理を極めて、そのまま上位格の寿司も作れるようになったらいい」

「え? えっ?」

「世界で唯一、寿司の作り方を知るかもしれないロキ君が目の前にいるなど、幸運以外の何物でもありません。それなら余すことなく教わったらいいじゃないですか。言葉にし難いのでしたら、もちろん了解を頂いてからにはなりますが、記憶を読み解けばいいのですし」

「そうだな……後世に希少な食文化を残し、人々の生活を豊かにする――それも世界の管理者として重要な役割ではないのか?」

「「……」」


 なんだか寿司で世界を救うくらい、壮大な話になっている気がするんだが……?

 毎度毎度思うことではあるけど、本当にこの人達は大丈夫なのだろうか?

 よく分からないまま、言われるがまま、俺はかつて笠原さんに連れていってもらった回らない寿司屋の記憶を掘り起こした。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 コンコンコン――。


「支局長、戻りましたのでご報告を」

「構わん、入れ」


 ノックに反応した男――ポージは、入ってきた部下の姿を舐めるように見つめる。

 すると居心地の悪そうな表情を浮かべながら、その男は先ほどまでの結果を口にした。


「ギルドマスターのイーゴに直接確認を取りましたところ、やはり素材を提供したのは異世界人ロキで間違いないようです。しかしそのやり方については、ハンターとして素材を売りにきたから買い取っただけであり、具体的な方法など確認していないとのことでした」

「チッ、在り来たりな答えを……他の従業員は? 直接窓口で対応した者もいるだろう?」

「はい、そちらも念のために確認しましたが、直接対応したらしい猫獣人の受付嬢には、あなたはあの異世界人ロキに具体的なやり方を根ほり葉ほり聞けるんですかぁ~? と、もうこんな顔と口調で煽られる始末でして……」

「ぐっ……」


 支局長ポージは、部下のその顔と口調にイラッと青筋を立てながらも大きく溜息を吐く。

 空を飛び、噂では【空間魔法】まで所持しているという異世界人ロキ。

 当然その者にしかできない狩り方というのもあるだろうが……もし、我らでも対応可能な策があるのだとしたら、この東の海は再び大きな金を生み出すことになる。

 そうなれば大きな点数稼ぎになり、上手くいけばマスカード領の管理を――いや、もしかしたら旧サターニア全域を任せられるかもしれない。


「もう異世界人ロキは町を出たのだな?」

「はい。それは間違いないようです」


 異世界人ロキに関する情報が飛び込んできたのは昨日。

 噂通りアルバート王国の地図を作り始めたのならば、すぐに町を移動するのは必然であり、他で騒ぎになっていないのだから、今後は再び内陸か、もしくは南方に向かっていくと予想できる。

 となると――……


「ふふふっ」


 昨夜ハンターギルドは、何かの間違いかと思うほどの安さでレモラを振舞っていたのだ。

 古狸のゲンリーも絡んでいるようだし、あの男が何かしらの入れ知恵をしたのかもしれないが……

 海洋の知識など碌になさそうな異世界人ロキを相手に、大量のレモラを安く買い叩いたというのは間違いないだろう。

 そしてこの事実を、他の海岸都市や町はまだ知らない。

 私が先んじて各商業ギルド支部に情報を伝え、事前に対策を取っておけばハンターギルドに後れを取ることもなくなり、結果として安く買い叩きながら狩り方の情報だって得られる可能性も高まるだろうし、さらには――


「この先Bランク……いや、もしかしたらAランクさえも、魚人の案内無しで攻略してしまうかもしれん……」

「……異世界人であれば、あり得ないとは言えないですよね。事実として、あれほどのレモラを立ち寄ったついでに狩っているわけですし」

「ふふ、ふははっ! ただちに羊皮紙と鳥使いを用意しろ! すぐに沿岸部の町や都市へ手紙を送る!」

「え? 『トマリ』だけでなく、町や他の都市にもですか?」

「Cランク以上の狩場が近くにある場所は全てだ。今回のように、異世界人ロキが立ち寄った先々で魔物を現金化していく可能性がある。しかも魚人種が大陸から消える以前の、破格の相場でな」

「た、確かにそうですが、しかし全てとなると、Cランクは広域に広がっている箇所も複数ありますからとんでもない費用に……それにこのままでは、国王陛下のご命令に背くことになるのでは……?」

「チッ、だからお前はうだつが上がらんのだ! 商業ギルドの人間ならば商機を見逃すな。国に大きな利益を齎す接触が不要に当たるとでも言うのか?」

「え、いや……」

「ここからは時間との勝負、異世界人が到着する前に情報を届けねば意味はない。が、もし各所で先んじた動きが取れれば……くくっ、くははははっ!!」


 上手く事が運べば、想像しただけで笑いが止まらぬほどの莫大な利益がアルバートに舞い込んでくるだろう。

 そしてその功績の多くは自分のモノとなる。

 切っ掛けを作り出した自分が――。


 部下の心配を他所に、支局長ポージは黙々と手を動かす。

 その日、ロキを利用するために書いた手紙は100通以上にのぼり、支局長室には時折聞こえる高笑いと共に、夜な夜な明かりが灯り続けたという。
566話 一緒に

 もうそろそろ夕飯時かな。

 そう思って数日振りに下台地へ飛ぶと、まだ食卓には3人の姿しか見えず、今日はケイラちゃんが当番なのか。

 火に薪をくべながら何かを焼こうとしているところだった。


「あれ、ゼオ達は?」

「アイツらならまだ狩場だ。もう通い始めて1か月以上経つってーのに、エニーが相当夢中になっているみたいでな。日を追うごとに帰り時間が遅くなって、ついでに持ち帰る素材量も少しずつ増えていってる」


 言いながらロッジが親指をクイッと背中の方へ向けると、裏庭には以前ほどではないにしても、魔物の小山が出来上がっていた。

 なんだなんだ、最近こっちには魔物を放出していないのに、結構頑張ってるじゃん。

 これはそろそろ、倉庫整理をしておかないとゼオに怒られるなぁ……

 そんなことを思いながら、今いる3人にお土産を渡す。


「今日はこの3人に用事があったから丁度いいや。ほい、まずはリコさん、Cランクまでの海の魔物と所持スキルの一覧ね。たぶんこれで、いるか分からないレア種以外は出揃っているはずだから」

「わーありがとうございます! 1、2、3、……全部で20種!? ひゃ~海だけでも結構いるものなんですね……」


 そう、Cランクまででもう20種だ。

 ちなみに各ランクの魔物と所持スキルを一覧にすると、このようになっていた。


 ・Fランク
 シーマウス(砂と同じ色したネズミ):【突進】Lv1
 キシュキシュ(やどかり):【水魔法】Lv1
 ブリーズシェル(二枚貝):【風魔法】Lv1
 リリークラブ(踊るカニ):【挑発】Lv1 【穴掘り】Lv1
 パロ(歩くヒトデ):【毒牙】Lv1

 ・Eランク
 フーア(泥人形):【泥化】Lv2 【擬態】Lv1
 ポートイール(ウナギっぽい):【気配察知】Lv1 【噛みつき】Lv2
 スパインタートル(甲羅に刺のある亀):【噛みつき】Lv1 【硬質化】Lv2
 メイドーマ(イソギンチャクっぽい):【光合成】Lv1 【麻痺針】Lv1
 ビッグモレー(デカいウツボ):【丸かじり】Lv2

 ・Dランク
 キラーロブスター(手が鎌のエビ):【威圧】Lv1 【鎌術】Lv2 【旋風】Lv2
 サハギン(手足のある魚):【槍術】Lv1 【捨て身】Lv1 【跳躍】Lv3
 タニファ:(海トカゲ):【毒牙】Lv2 【急速再生】Lv2
 ノッケン(クラゲっぽい):【隠蔽】Lv4 【麻痺針】Lv2 【分裂】Lv1
 ストーンバード(狩場を示しくれる鳥):【遠視】Lv2 【飛行】Lv3 【土魔法】Lv1

 ・Cランク
 レモラ(吸盤のあるカジキっぽい):【突進】Lv2 【逃走】Lv3 【洞察】Lv2
 スカードレイ(複眼のエイ):【視野拡大】Lv3 【麻痺針】Lv2 【熱感知】Lv2
 ケルピー(角のある半馬半魚):【水蹴】Lv2 【突進】Lv3 【噛みつき】Lv2
 イピリア(クリオネ?):【属性変化】Lv3 【水魔法】Lv3 【雷魔法】Lv3
 ケートス:(セイウチのような海獣):【突進】Lv3 【丸かじり】Lv2 【威圧】Lv2


 現状では各ランク毎に5種ずつ。

《夢幻の穴》と同じ流れなので、Bランク、Aランクも5種ずつ存在している可能性が高そうだ。


「その代わり、場所が変わっても魔物の構成や比率が変わるだけ。ハンターギルドの情報だと、大陸北東や北部の海でもそれと同じ魔物が生息しているみたいだよ」

「地形分類が様々にある陸地と違って、海は海、みたいな?」

「たぶんね。魔物じゃない普通の魚だと、場所によって気候や温度も全然違うから、まったく違うモノが獲れるらしいけど」


 リコさんにリポップの話をしても、ゲームの概念がなければ混乱させるだけだろうしなぁ。

 説明はこのくらいで十分だろうと、お次は食卓の横にそれぞれの魔物を放出していく。


「ロッジにはこれ。一応ハンターギルドの資料室にあった素材情報は纏めておいたんだけど、どう? 触ってみたい素材はある?」

「ふーむ……地場の方じゃ亀の甲羅が盾にされるくらいで、あとは食用と日用品への加工ばかりか」

「そそ、だから今までは全部ベザートの方に運んじゃってたんだけど、ロッジが欲しいなら今のうちにこっちへ回しておこうかなって」

「この辺りのランクなら、無理して装備素材に回す必要はなさそうだが……しかし、鋭利な針を持つ魔物が多いな」


 木板を持ちながら、ペタペタと魔物を触っていたロッジが興味を示したのは、意外にもノッケンという名のクラゲみたいな魔物が持つ長い触手だった。


「この中の3種が【麻痺針】持ちの時点で、弱らせてから殺しに掛かる気満々だよね。海じゃ一度引きずり込まれたらそう簡単には抗えないし」

「こんな透明で見えにくそうな針が大量に襲ってくるとか、海に落ちたヤツは悪夢でしかないだろ。だが……弾力もあるし、この特性なら暗器として利用できるんじゃねーか? まあお前がそんなモノに頼らなきゃならない場面というのもいまいち想像できないが」


 言われて、確かにと納得する。

 いくら弾力があろうと、その気になれば簡単に引き千切れるわけで、そんなの振り回して麻痺効果を狙うなら【呪術魔法】を唱えるだろうし、なんならその前に頭を潰してしまった方が確実で手っ取り早い。

 が……それは俺ならという話。

 別に自分自身が使えるかどうかの基準で決める必要などない。


「いいんじゃない? エニーとかカルラの隠し武器にしたっていいし、少し用途を変えてケイラちゃんやリコさん達の護身用にその針を利用したっていいわけだしね」


 そう言って、同じ【麻痺針】を備えるスカードレイの長い尾を引き千切り、ブンと軽く振り回す。


「おお~なんか凄いですね!」

「あ、私知ってますよ! それは拷問の時に使う『鞭』というやつでしょう!」

「お、だいぶ情報が偏ってるけど、リコさん正解!」


 この世界に鞭のスキル補正はなさそうだし、扱うなら間違いなく訓練は必要だ。

 しかし近接戦を不得手とする人向けに、中距離用の状態異常と拘束を狙える武器があってもいいじゃない。

 そんな話をすると、ロッジが魔物を眺めながら地蔵のように固まってしまったので、これは素材をキープしておいた方がいいかなと思いつつケイラちゃんに視線を向ける。


「ケイラちゃんはとりあえずこれ、焼くと絶対美味しいからさ。みんなで食べてよ」

「えっ、あ、はい……」


 次々と魔物素材を渡していくと、若干戸惑いながら、それでも素直に焼き始めるケイラちゃん。

 ただ、自分の用事はこれかぁと、肩を丸めて小さく呟く姿を見て、そんなわけがないとばかりに口を開く。

 なにせ今日は、誰よりもケイラちゃんに用があってここに来ているのだから。


「ケイラちゃんはさ、ご先祖様っていうか、繋がりのある魚人種に会ってみたい?」

「え?」

「今夜このままBランク狩場がありそうな海域に行ってみて、それで順調に探索が進めば、魚人種が縄張りにしているとされるミノ諸島にも明日くらいには向かえると思うんだ。だからケイラちゃんがもし会いたいなら、連れていくこともできるかなって」


 こう問い直すも、あまりに唐突過ぎたのか。

 動揺したまま少し視線を彷徨わせ、なぜか最後は縋るような眼差しでリコさんを見つめるケイラちゃん。

 対してリコさんは、目を伏せて少し考える素振りを見せたのち、一人納得したように小さく頷く。


「ケイラ、会うか会わないかは他の誰かが決めるのではなく、あなたが決めるべきことですよ」

「でも、私どうしたらいいか……」

「会って会話を交わし、魚人種の生活や生き方を直接目にすることで、ケイラの今後の人生が豊かになる可能性もありますし……逆に、自分の血筋と種の特性を深く知ることで、大きく気を落とすことだってあり得ます」

「「「……」」」


 真面目な表情で語るリコさんの言葉を、この場にいる3人は黙って聞いていた。

 言っていることはその通りで、この行動が必ずしもケイラちゃんのプラスになるとは限らない。

 だからこそ本人の意思や考えを尊重しようと思っていたが……

 まあ、今すぐ結論を出す必要はないのだ。

 ようやく『トマリ』という南方の大きな港町に着いたので、早ければ明日にはミノ諸島に着くかもしれないというだけ。

 ここ20年ほどの情報はまったく拾えていないわけだし、まずは俺一人で見て回り、その情報を基に行ってみるか判断したっていい。

 一人そのようなことを考えていると――


「ただ、こうして目の前に選択肢が与えられ、悩めることは凄く幸せなことだと私は思いますよ」


 ――リコさんがこのように発言したことで、困惑していたケイラちゃんの表情が大きく変わった。


「私……行きます。行ってみたいです」

「え、ほんとに?」

「会ってどうしたいとか、まだ頭の中がふわふわしていて、何も決まってないですけど……それでも魚人種に会えば、何かが変われそうな気もするから」

「そっか……じゃあ一緒にミノ諸島を探検してみる? ロッジに超特急で護身用の武器でも作ってもらってさ」


 笑いながらそう言うと、ケイラちゃんは笑顔で大きく頷き、リコさんは母親のような優しい笑顔でその姿を見つめていた。
567話 見えない壁

 昼も沿岸部を中心にマッピングを進め、夜になって再びマルタくらいの規模感がある大きな街。

 トマリの周辺に戻ってきた俺は、早速東に広がる未開の海へと飛び込んでいく。

 おおよその場所を掴めていたCランク狩場と違い、ここから先は予測や推測が多分に含まれた曖昧な情報だ。

 それにどこからともなく謎の歌が聞こえるという情報もあるため、名称の割れている2体の魔物を【広域探査】に掛けつつ、周囲の海ではなく、マッピングされていく地図をひたすら眺めていた。


 ――【広域探査】――『ゴアスケイルフィッシュ』

 ――【広域探査】――『カプリコーン』


 ヘルデザートを探索した時のように、足を踏み入れたことのない地域なら、マッピングを端から埋めるように移動していけば漏れや重複調査を防ぐことができる。

 Aランク狩場の予測海域はさらに南方なので、このやり方で最初に出会えるのは果たしてBランク狩場か、ミノ諸島か、それとも話に聞く怪現象なのか――。

 小島1つ見当たらない海の地図が次第に広がっていく中で、最初に訪れた変化は風に乗って微かに届く『音色』だった。


「これが、噂の……」


 一度地図を閉じ、飛びながら周囲に視線を向けるも、目新しい何かがあるわけではない。

 だが、次第に近づいてはいるようで、歌というよりは女性が声で奏でる綺麗な曲が、徐々にはっきりと聞こえていた。

【広域探査】で発生源を探るも、それらしい反応は拾えない。

 しかし、数時間掛けてようやく拾えた変化だ。

 この先にきっと何かがある。

 そう思って地図を再び開いた時。


「……なるほど」


 東に直進していたはずが大きくズレ、既にマッピング済みの北へ向かっていることで現状を少なからず理解した。

 かつてゼオとカルラが眠っていた、あの洞穴を隠すように設置されていた古代の魔道具。

 アレと似たような現象が、今俺に身に起きている。

 となれば、どうするか……

 地図を拡大し、ギリギリマッピングが完了している地点に戻って再び周囲を見渡す。

 やはり美しい音色が風に乗って聞こえてくるくらいで、他にそれらしい異変はない。

 なので結界の類いかと、適当に微弱の【雷魔法】を放ってみるも。


「ん?」


 以前とは違って弾かれた様子もなく、俺の放った魔法はそのまま直進しながら霧散してゆく。

 魔道具と音色。

 現象から同一の効果かと思ったが、どうやら似ているだけで何かが違うらしい。

 まぁそれならそれで、何がこの怪現象を打ち破れるのか、持ち得る手札で試すまで。

 俺は自然と笑みを零しながら、目の前の"見えない壁"を壊すべく攻略に着手した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 そして翌日。


「ロキがここまで沈んでるって珍しくない?」

「うむ……」

「そんなことよりお腹空いた! 今日のご飯は何――」

「まてまてまてーい!」


 下台地で机に突っ伏し、自作のマイお箸を握りながらゼオ達の戻りを今か今かと待っている男がいた。

 そんなの、もちろん俺である。


「そこの薄情小娘。稀に見る俺の大ピンチに、ちょっとくらい手を貸そうとは思わないの?」

「えーだってロキが解決できないってよっぽどじゃない? 師匠やカルラみたいに昔のこと知ってるわけじゃないし……あ、でも今日久しぶりにオリハルコンが1個落ちたよ!」

「それナイスゥ! って、そっちも大事だけど、今は違くてだね。実は――」


 皆で食卓を囲み、意外と好評だった海鮮モノや肉を摘まみながら事情を話す。

 当初は歌で惑わし、進路を強制的に塞ぐ程度。

 それなら抜く方法なんていくらでもあるだろうと。

 目の前のギミック攻略を楽しむくらいのノリで挑んでいたわけだが、見事に全て押し返され、最終的には歌の聞こえない抜け道探しに奔走した結果、地図には歪な楕円系の不可侵エリアが出来上がっていた。

 耳を塞ごうが、海や上空に逃げようが、それでも踏み込もうとするとあの音色が聞こえてくるのだから、魔物ではなく魚人種が【拡声】でも使っているんだと思うけど……

 はっきりと聞こえ始めたら最後。

 いくら意識しようが明後日の方向に後退させられるし、転移の繰り返しによる強行突破や、それこそ自身に強烈な【風魔法】をぶつけて強制的な移動で内部に食い込もうとしても戻されてしまうので、もう理解不能なレベルの鉄壁っぷりである。

 正攻法と呼べる類いの方法は一通り試しても通過できそうにない。

 だから何かお知恵を。

 そんな俺の言葉に、心配そうな顔をしたケイラちゃんが口を開く。

 ここに来てすぐ、予定通りに進んでいないことだけは伝えたが、本人も乗り気だっただけに相当気にしているっぽい。


「そんな広範囲となると、歌っているのは一人や二人じゃないってことですよね?」

「だね。場所によって微妙に聞こえる音色も違ったし、魚人種が組織的に侵入を妨ごうとしているんだと思う」

「ふむ……となると、1万年という時を経ても未だ引きずっているというわけか」


 ゼオの、この意味深な言葉に皆の視線が向く。


「どういうこと?」

「声で人を惑わすのは、魚人種と鳥人種の女だけが稀に発現するという後天的な能力だ。その効果は非常に強力ゆえ、かつては鳥人種がプリムスに狙われ、種の存続が危ぶまれるほど数を大きく減らしていた。生息域の問題から魚人種はさほど影響を受けていなかったはずだが、当時の出来事が今の時代にも伝わっているのなら、安易に人を寄せ付けようとは思わないだろうな」

「なるほど、そんなことが……」


 だから生活物資のために人との交易はしていたけど、ミノ諸島に人間が立ち寄ったという話は出てこないのか?

 それに魚人種だけでなく、鳥人種も………あっ。

 思わず声をあげながら資材倉庫の上階を眺めると、それに気付いたゼオが頷く。


「うむ。石化していた小さいほうの鳥人種も持っていたはずだ」


 あの時は大して気にも留めなかったけど、【惑声】という見覚えのないスキルを所持していたことは覚えている。

 ということは、もしかしたら誰の手も届かない安息の地を求めて、逃げるようにパルメラの奥地へ潜ろうとしていた可能性もあるのか。

 予期せぬところから繋がった鳥人種の情報。

 暫しそのことに思考を巡らしていると、鼻の頭を赤くしたロッジが貝を穿りながら呟く。


「さっきは正攻法って言ってたし、警戒している理由を聞くと、尚更に術者を潰すような強引な方法も取れないわけか」

「そうなんだよねぇ……今回はこっちが無理やりお邪魔しようとしているわけだし」


 ある程度のゲーム知識があれば、今回の声による阻害は"セイレーン"だろうと想像がつくわけで。

 自然現象ではなくスキル使用者がどこかにいると予想できるのだから、無差別に広域魔法をぶっ放せばいずれ道は開けたのかもしれない。

 だがそれは、あまりにも後先を考えないやり方だ。

 少なくともケイラちゃんと魚人種を引き合わせようとしているやつが取っていい方法じゃない。

 だから、なんとか被害を与えない正攻法で声の阻害を突破したい。

 そんな問い掛けに、リコさんがパンと手を叩き、思い出したように声を上げる。


「あ、ちなみに魚人にまつわる本はもう読みました?」

「いや、まだ読んでないと思うんだけど、どんな内容?」

「物語なので真実かどうかは分からないですけどね。浜辺で怪我をしていた魚人を助けた人間が、お礼に魚人の住む都に案内され、そこで手土産を持たされるというお話です」

「あー! それって、箱を開けたら急に老けちゃうとか、そんな話でしょ!」

「全然違います。中身は希少な宝石でしたから」


 違うんかーい。

 遊び心のない物語だなと心の中で文句を垂れつつ、しかし、その内容からふとあることに気付く。


(案内……無条件に弾かれているわけではなく、認められれば中に入れる可能性か……)


 そう考えると、あの内部にあるとしか思えないBランク狩場だって、かつては案内人と共に出入りしていたハンター達だっていたのだ。

 認められ、ちゃんと接点を持てれば……

 と、その時。

 なんでもないという感じで、肉を齧りながらエニーが言う。


「なら本人も行きたいって言ってるんだし、ケイラを連れてっちゃったらいいんじゃないの?」

「え?」

「だって、魚人と一緒なら通過できるかもしれないんでしょ? ケイラなら認めてもらえる可能性もありそうじゃん」

「……」


 そう上手くいくのか?

 すぐに疑問は湧くが、絶対にないとも言い切れないこの提案に。


「……ナイス、試してみるわ」


 そう告げ、小さく頷くケイラちゃんを見つめた。
568話 魚人の町

 夜は普通に寝るケイラちゃんに合わせて翌日の日中に出発した俺達は、昨日足止めを食らったポイントで一度周囲を見渡す。


「凄く綺麗な音色ですね……」

「うん。でも魚人がこの音色で阻害しているわけだから、もし仮に俺達が突破できたとしても歓迎されるなんてことはまずない。そこはもう覚悟できてる?」

「はい、大丈夫です」

「よし、それじゃ行ってみようか」


 ケイラちゃんを背に乗せ、まずは上空からの侵入を試みる。

 俺は目を閉じて画面いっぱいに広がる地図を、ケイラちゃんは周囲を確認しながら、何が異変があれば教えてくれと伝えたが。


「ロキさん! いきなり凄い曲がってますよ!」


 背中をペシペシと叩かれながらの突っ込みに、ですよねーと思いながら答えを返す。


「地図を見てても自分が曲がってくの分かったわ。それじゃ、次は本命っぽい海から……って、ケイラちゃんは俺が曲がっていくのが分かったの?」

「え? それはもう、少しという感じでもなかったから」

「……オッケー、それじゃもう少しこのまま試してみようか。今度は俺も直接見てるよ」


 おおよそ状況は理解できたと思うが、それでも確認だ。

 今度は俺も正面を見据えながら|真《・》|っ《・》|直《・》|ぐ《・》|飛《・》|ぶ《・》と、案の定ケイラちゃんに背中を叩かれすぐに突っ込みが入る。


「ロキさんまた! また曲がってます!」

「あーやっぱり? 間違いなく、俺は真正面を見据えて飛んでたし、飛べてたんだけどね」


 でもこれで確定だろう。

 俺はどういう原理か、認識ごと捻じ曲げられて真っ直ぐ進めないようにされているけど、ケイラちゃんにはそれが作用していない。

 当初は海という環境だと狩場の境目が不明瞭で目印もないから、そのために魚人の案内人がいると思っていたが、あくまでそれはCランク狩場までの話。

 Bランク以上は本当の意味で案内人がいないと辿り着けないとか、魚人種もなかなか面白いことをやってくれる。

 ということは――うん、これ以上俺が深く考えてもしょうがないだろうな、これは。


「情報が入ると余計なこと考えそうだし、俺はもう何も考えずに目を閉じて案内に従うからさ。無意識にしょっちゅう曲がると思うけど、ケイラちゃんの思う正面に向かって上手く俺を誘導してよ。そうすればそのうち目的の場所に辿り着けると思うから」

「わ、分かりました。それじゃ曲がってほしい方向の肩を叩くとかでいいですか?」

「オッケ~それじゃ出発!」


 船なら影響を受けない魚人が引っ張ればそれで済むのだろうけど、俺達の場合はそうもいかない。

 右へ左へと、ポンポン肩を叩かれながら【飛行】を続けること約1時間。

 あくまで外周部だけ、ドーナツ状に音色の網を張っていることが分かってからは楽なもので。


「あ、ロキさん! 島が見えてきましたよ!」

「だね~人が住んでそうなのはどれかな」


 俺達は無事、大小様々な島が存在するミノ諸島に到着した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 上空から見た規模感で言えば、Dランク程度の狩場を抱える中規模の町と同等くらいだろうか。

 大きな港に降り立った俺達は、正面に延びる道を度々ジャンプしながら進んでいく。


「いや~凄いね。結構いろいろな場所を旅してきたけど、今までの中で一番衝撃的かも」

「ほんと、凄い……凄いです……これが、私の……」


 共通しているのは、足の替わりとなる長い尾ヒレくらいか。

 獣人同様、様々な特徴をもった半人半魚の魚人種が多数存在しており、逆にそれ以外の人種はまったく見かけない。

 だからだろう。

 町も魚人種に合わせて作られていて、道の代わりとなる水路がそこかしこに張り巡らされていた。

 外から見える範囲だと、石造りの建物の中まで水を引き、浸からない高い場所で生活をしているという感じか。

 せっかく来たのだし、できればどんなモノがこの町で売られているのか、買い物くらいはしてみたいが。


(これはちょっと、厳しいかな……)


 恐怖とは違う、周囲からの好奇と強い警戒が入り混じったような眼差しを見ていると、そう感じてしまう。

 警戒心の薄い子供達ならちょくちょく話しかけてくるんだけどなぁ。


「ねぇねぇ! お姉ちゃんは私達と同じなの?」

「うん、そうだよ。私はあなた達と同じ血が少し混じってるの」

「お兄ちゃんも?」

「ううん、俺は人間だよ。少しこの町を見学しに来たんだ」

「うわー人間だ~! でもあんまり怖くなさそぉ~!」


 今日は無駄に警戒されないよう、商人っぽい恰好で来てるしね。

 しかしそれでも人間と聞くと一度隠れるように水中へ潜り、少し離れた位置からこちらの後をついてこようとするし、近くに親がいれば手を取り引き留めようとしていた。


「本当はここで食事も摂りたかったんだけど、やっぱり予想通りだねぇ……」

「でもこうして魚人種の生活様式を見ることができましたし、直接お話しすることだってできましたから。それに本番はこれからなんですよね?」

「まぁね。だいぶ取り囲む準備ができてきたっぽいし、そろそろ来るんじゃないかな?」


 警戒網を潜り抜けてここに来ているのだ。

 となれば当然、取り締まる立場にいる者達が黙っていないわけで。

 暫く町の様子を眺めながら、通りの先にある宮殿のような建物に向かっていると、四方から動きを合わせたように槍を持って武装した魚人達が現れる。

 そして正面には、明らかに位が高いと分かる豪奢な鎧を身に纏った黒い肌の魚人が、器用にヒレを立たせて俺達の前に立ちはだかった。

 スキル構成を見ても明らかに武闘派。

 兵士でこれならかなり強い部類だ。


「侵入者よ、まずは聞こう。お前達がここを訪れた目的はなんだ?」

「いくつかありますけど、魚人の血を引くこの子に本物を見せてあげたかったっていうのが一番ですかね。あとはこの町のお店や市場なんかも見て回れたらなと」


 そう告げると、目の前の魚人は一瞬ケイラちゃんに目をやり、納得したように軽く頷く。


「ふむ……つまり、お前は商人ということになるのか?」

「ですね。行く先々で市場調査と仕入れを行っているので」

「なるほど……まあいい。掟により、この島への上陸を許可していない者は侵入者と見做し、処遇は我らが族長の判断に委ねることとなる。この槍の餌食になりたくなければ大人しくついてまいれ」


 そう言って槍の石突を上手く利用し、蛇のように陸地を移動し始めた兵士の後をついていく。

 チラリと後ろを振り返ると、囲むように移動する兵士達に混ざって一人、背後にも突出した力量の兵士が槍を構えて張り付いていた。

 どうやら逃がすつもりはないらしい。


「大丈夫だよ」


 予めあり得る展開の一つとして伝えてはいたものの、それでも不安げな表情を浮かべるケイラちゃんの背中をゆっくりと摩る。


(さて、俺を本気で倒せると思っていそうなのだから、この人達はどう見てもセーフだが、この先はどうなるかな……)


 交易が止まって約20年、情報が途絶えていた魚人種の現状はどうなっているのか。

 ここから本当の姿が見えてくる。

 全力で感知系を作動させながら思考を巡らしていると、町の規模に似つかわしくない大きさの宮殿が目の前に広がり――


「侵入できた理由はその娘か……」

「……」


 案内された奥の広間にて、頬杖を突き、|片《・》|膝《・》|を《・》|立《・》|て《・》|て《・》座る青白い肌の男が俺達を静かに見つめていた。
569話 真っ黒

「あっ、足……」


 横で小さくケイラちゃんが呟くのも無理はない。

 族長と思われる男には2本の足が生えており、特徴はケイラちゃんより色濃く出ているも、尾ビレを持つ魚人種よりは人に近い存在のようにも見えてくる。


「族長の御前だ! 頭くらい下げぬか!」

「よい」

「し、しかし……」

「俺がよいと言っているのだ。それでも不服があるのか?」


 ギロリと鋭く睨みつけると、先ほどまで状況を伝えるために耳打ちをしていた黒い肌の魚人は、委縮したように頭を下げながらズリズリと後退った。

 なかなか強いと思っていた、位の高そうなあの兵士がこの反応か。

 周りに配置された兵の武装や立ち位置を見ても、強さがそのまま立場に繋がっているように見える。


「一つ、そなたに確認しておきたい」


 と、族長が俺を真っ直ぐに見据えながら言葉を発した。


「この島に辿り着けた理由は察したが、どのようにしてここまで来たのだ?」

「ん? 空から、ですね」

「そうか……そなたの目的は聞いた。もうこの時間だ。さほど品は残っていないだろうが、市場への立ち入りならば許可しよう。ただしこの町の滞在は今日だけ、同行する兵も二人つけさせてもらう。分かっていると思うが、魚人の多くは人間をまともに見たことすらないのでな。あまり長く町をうろつかれてしまうと混乱を招く」

「いえ、それでも許可を頂けるならありがたいですよ」

「それと、その娘はこちらで引き取ろう」

「「え?」」

「見ての通り、私もその娘と同じ足付きだ。この地であれば今までのように偏見の眼差しを向けられることもないし、生活にだってすぐ慣れるだろう」


 確かに言っていることは間違っちゃいないんだろうけど……

 思わずケイラちゃんを見つめると、ケイラちゃんも泣きそうな顔をしながらこちらを見つめ、大きく首を左右へ振った。

 まあ、そうだよな。

 それに俺の仲間なんだから、はいそうですね、などと言えるわけもない。


「そんなつもりで連れてきたわけじゃないので、さすがにそれは遠慮しておきますよ」

「む? なぜだ? その方がその娘にとっても幸せだと思うが?」

「それは人によるでしょう。少なくとも今は、そのような目を向けられる環境で暮らしていませんしね」

「だが、それは人里から距離を置いた結果ではないのか? 一時的であればそれもよいが、人目を避けて一生を過ごすのは――」


 これは、自分も同じ境遇だったからなのか?

 見方によっては親身とも言える説得に、思わず懐疑的な視線を向けてしまう。

 まず間違いなく、この族長は黒――、他の兵士達と違って、俺が誰だか理解している可能性が高い。

 でなければ、ここまで"どうやって来たか"なんて、普通はそんな疑問を抱くこともないだろう。

 この世界なら羽でも生えていない限り、『船』しか選択肢がないのだから。

 確認のために聞き、俺が『空』と答えたから確信に至った。

 たぶんそんなところだと思うが……

 そうなると余計に、ケイラちゃんをここに留めておきたい理由でもあるのかと、そんな考えが頭を過ってしまう。


(『転移』の効果を知らず、再び島に来られる事を避けようとしている? もしくは女性のみ、後天的に得る可能性のある【惑声】を警戒して……)


 はっきりとした答えは見えない。

 が、唐突にここまで踏み込まれたことで、すべてを隠しきれるモノでもないと開き直っているのか。

 十分情報を得られたので、しておきたかった判別も終えられた。

 となれば長居は不要と、ケイラちゃんにここへ残るよう説得を続ける族長の言葉を止める。


「すみません。先ほど言われたように、もう時間も時間。できれば早めに市場を確認しておきたいので、そろそろ……」

「ッ……そうか、そうだな。では――、おい」


 族長が視線を飛ばすと、その先にいた豪華な鎧を着た魚人が二人、ズルズルと尾ビレを引きずりながら前に出る。


「この者達がそなたらに同行する。時刻は夕暮れまで、以降は我ら魚人の縄張りに侵入することを堅く禁じさせてもらう。精々悔いがないよう、市場調査とやらを済ませるのだな」


 そう言って不満そうに眉根を寄せる族長に対し、頷きながら答えを返す。


「ええ、そのつもりですが……縄張りとは、この島ということでいいんですよね?」

「違う。そなたらにも当然、ここへ来るまでに『歌声』が聞こえただろう? アレが我ら魚人の縄張りを示すモノ。その中にこれ以上踏み込んでくるなと、そう言っているのだ」


 焦るように吐き出したこの言葉に、いよいよ本性を現し始めたなと、思わず口角を上げる。


「あなたはもうご存じだと思いますけど、僕はハンターでもありますからね。その縄張りと主張される領域の中にBランクやAランク狩場をもし隠されているのなら、僕は行きますよ」


 そう告げると、族長はここでようやく、分かりやすいくらいに顔を歪めた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 到着した時には既に手を回されていたのかもしれない。

 残リモノの魚や僅かな日用品だけが残る閑散とした市場を軽く見て回り、一度島を離れてから下台地に転移すると、ケイラちゃんが緊張を解すように大きく息を吐きながら俺に問う。


「ロキさん、本当にあんなこと言っちゃってよかったんですか? 族長の人、最後は凄く怒っていたように見えましたけど……」

「いいのいいの。白だったら使わせてくださいってお願いするか、もしくは取引でも持ち掛けようかと思っていたけど、アレはもう真っ黒だったからね」

「真っ黒?」


 首を傾げるケイラちゃんに、少し覚悟を決めて事実を告げる。


「うん。残念だけど、魚人種はもうマリーの手に落ちちゃってる。最後のあの反応で確信した」


 交易を閉ざして約20年の間、大陸由来の物資は入っていないはずなのに、町では小奇麗な衣類を町民が当たり前のように纏っていた。

 宮殿に至っては、目に見える範囲でも調度品や嗜好品で溢れていたのだ。

 一部は島内で生産されたモノだってあるのかもしれないが、アルバート国内の町とさほど変わらない生活水準で生活しているとなると、当然それらを島に運んでいるヤツがいるわけで。

 状況を考えれば、そんなことを実現可能なのはマリーくらいしかいないだろう。

 そのことをケイラちゃんに伝えると、押し黙ってしまうが。


「でも、幸い落ちているのは族長と、あとは他にいても上にいる一部の魚人だけだろうから……どうかな。もしかしたらまだ持ち直せるのかもしれないけどね」

「そうなんですか……?」

「あの他より強そうな黒い肌の魚人とかは、俺のこと最後まで気付いていなかったからさ」


 気付いていないということは、マリーや族長から俺の情報が伝わっていないということ。

 つまり伝えることで不利益が生じる――利用されている側である可能性が高いということになる。

 それでも力ある者が上の立場に立つような状況であれば、命令一つであっさり敵に回るのだろうけど、指揮系統が崩壊すれば状況が一変する可能性だってあるのだ。

 まだ釈然としない部分もいくつかあるが、それも狩場に行けば何かが分かるかもしれない。

 そんなことを考えていると。


「できれば、ロキさんの敵になってほしくないなぁ……」


 小石をコツンと蹴りながら、横で独り言のように小さく呟く声が聞こえる。

 まだ子供だし、ケイラちゃんは武器を握って戦うタイプでもないので、そこまで大陸の情勢を伝えてはいない。

 それでも皆で食事を摂る時はそのような話になることが多く、特に東は異世界人マリーが悪巧みを繰り返し、既に獣人の国――スチア連邦が落ちていることも。

 それに俺とマリーが敵対のような関係にあり、いずれマリーについた獣人達が敵に回る可能性だってあることも聞いていたはずだ。

 だからこうなった以上、心配する気持ちもよく分かるが。


「本当にね……」


 この先を考えると、俺も今はその程度の言葉しか返すことができなかった。
570話 潜水

 今まで得られた情報と、それに族長のあの反応からしても、まず縄張りと称するこの領域内に最低でも1つはあることが分かっていたのだ。

 夕食後、再び下台地を離れて海へ向かった俺は、1時間程度の探索でBランク狩場 《アムスト海域》の場所を特定することはできていた。

 しかし。


「かなり深いな……」


 等高線通りであれば、この付近は深さが1000メートル近くありそうなことも厄介だが、それ以上に浅海域での魔物の反応があまりに薄い。

 この事実に深い溜息を吐く。

【広域探査】で魔物の反応が得られるのは、水深100メートルくらいになってからだろうか。

 そのため先ほどから試しで餌となりそうな死肉を撒いちゃいるけど、寄ってくるのは普通の小魚ばかりで、一向に魔物が海面付近まで浮上してくることはなかった。

 もっと深くに餌を放り込めば、多少は釣れるのかもしれないが……


「……本気で潜ってみるか」


 Bランクでこれなら、名前からして既に怪しいしAランク狩場《モデア海底谷》はさらに深くなる可能性が高そうだし、それならどこまで潜れるのか一度試してみるべきかと。

 大きく息を吸い込み海へダイブする。

 ここからは【泳法】頼みでひたすら泳ぎだ。

 動きのある水の中では転移するだけでも数十秒と時間が掛かるし、移動先が水の中だと【空間魔法】が発動しないので、空と違って転移の繰り返しというのはまったく現実的じゃない。

 かと言って【水魔法】で強引に海水を操作したとしても、まだ水圧の影響がはっきりと見えていないこの状況では、安易にそのようなリスクの高い方法を取ろうとは思えなかった。

 20~30メートル程度なら既に経験しているので何も問題はない。

 50メートル……80メートル……

 夜ということもあり、【夜目】を使用しなければ完全な暗闇であろう海中を潜っていくと、たぶん到達までは30秒も掛かっていないだろう。

 そのくらいで海中を漂う、まだ情報にない魔物を発見する。

 見た目はナマコ……いや、人の身体よりもだいぶデカい毛虫か?

 全身から生えた毛がフサフサと靡いており、伸縮を繰り返しながら移動するその姿は非常に気持ちが悪い。

 それに――なるほどね。

 スキルを覗き、特徴を理解した俺は、離れた位置からどんなものかと【雷魔法】を放つ。


『雷槍』


 すると毛虫の身体を突き抜けた途端、赤黒い血と共に青い液体が海中を漂い、それは溶けるように消えていく。


(なるほど……【酸液】持ちを海中で潰すと、あーやって周囲に広がるわけか……)


 おまけにこの毛虫は【分裂】まで持っているので、中途半端な力量の近接がチクチク攻撃しようものなら、ソイツも含めて周囲が大惨事になると予想できる。

 なのに『ニッカ』の町では素材としての取引実績がなかったのだから、一応数体は回収するつもりだが、たぶん食えないし素材としての価値もろくにない、ただただ面倒な魔物ということになるのだろう。

 それに比べると――ははっ。

 血肉に釣られて近寄ってきた古代魚のような見た目の魔魚、『ゴアスケイルフィッシュ』を視界に収め、俺は思わず顔がニヤついてしまう。

【突進】と【硬質化】は良いとして、ここで【呼応】持ちとはなんと有難い魔物か。


 ――【挑発】――


 とりあえず1体を誘き寄せるも、外殻の存在する3メートルくらいの硬い魚で、迫力は凄いが倒すのに苦労するようなタイプではない。

 となると、やることは一つ。


 ――【招集】――


 呼吸が苦しくなってきたため一度浮上し、例のごとく海上に氷島を浮かべてから、その付近で搔き集める。

【招集】の有効範囲はレベル8の現在で240メートル。

 海中で戦うと寄ってきた魔物をただ殺すだけになってしまうが、これならある程度の数は誘き寄せられるし、大量の素材を活かすことだってできる。


「ふはは! 大漁じゃーい!」


 レモラが庶民も食べられる高級魚なら、こちらは貴族でなければ食べられない高級魚と言われていたらしいのだ。

 まあ当時は魚人種任せで纏まった数が入ってこないから、必然的にそうなっただけだろうが……

 それでも味にはかなり期待できそうだと、ワクワクしながらほとんどの死体を収納し、いることが分かっている残りの1種を求めて再び海中に潜ること数回。


(やっぱり、この辺りが限界かな……)


 ステータスと、それにもしかしたらスキルの影響だってあるのかもしれない。

 200メートル近く潜っても目立った身体の異変は感じられないが、水圧どうこうとは別に呼吸が持たず、【水魔法】をいろいろ試してもこれ以上深くには潜れないでいた。

 それにあくまで到達できただけ。

 悠長に狩っていられるような状況ではないというのに、もう1種の魔物――『カプリコーン』はさらに深い位置にいてまったく手が届かない。

【空間魔法】じゃ空気の出し入れなんてできなかったし、周囲の海水を操作して水のない空間を作り、そのまま空気を海中に持っていく案もそこまで長く維持することなんて無理だったし……

 これはもう最終奥義でケイラちゃんを連れてきて、人工呼吸で酸素を取り入れるしか方法がないのでは?

 そんなことを考えながら、石で無理やり作ったタライと共に海中へ潜っていると。


(うおっ!?)


 不意にかなりの速さで槍が飛んできたため、仰け反った拍子に支えていたタライを手放してしまう。

 ああ、ばかばか!

 俺の酸素ボンベが!


「む、あれを避けるか」

「だが所詮は人間、あのような可笑しなモノを抱えて狩りをしているようでは話にならん」

「ああ、武具も身に着けていない今が狙い時。このまま水中で仕留めるぞ」

「覚悟せよ。お前に恨みはないが、これも我ら魚人の生活を守るためだ」


 周囲に視線を向けると、俺を宮殿に案内したあの黒いのを含む、派手な鎧を纏った4人の魚人が上から見下ろしていた。

 水中で普通に喋っていることにも驚きだが……なるほど。

 分かりやすい餌を海上に置いておけば族長が釣れるのではと期待していたら、先に来たのはこの連中か。

 どのような事情があるにせよ、こうしてあからさまに俺を殺しにかかってきている以上、ソイツは殺す。

 そんなのは当たり前のことだが……


「あなた方、今すぐ退かないと、間違いなく死にますよ?」


 それでも、命令されて来たのであろうこの4人に忠告の意味で告げると、海中では声がよく聞こえなかったのか。

 4人の魚人種は揃って訝しげな視線を俺に向けた。
571話 養殖疑惑

 人の忠告を無視して動き始めた魚人達は、突出しているといってもハンターでいえばAランクか、一人二人くらいSランクに該当しているかもしれないという程度。

 海中とは言え、当初は戦闘になったところでそこまで苦戦するものでもないと思っていたわけだが。


(想像以上に厄介だな……)


 引っ張られて上手く身動きが取れない中、現状をどう切り抜けるか。

 苦しくなってきた呼吸に若干の焦りを感じながらも思案する。

 兎にも角にも空気を吸いたい――そんな考えなど、当然のように相手はお見通しで。

 海上への通り道を塞ぐ魚人達がとったのは、敵ながら思わず感心してしまうほどの連携だった。

 1人が俺に【挑発】を撃ち、反則かと思うほどの速度で引っ張りながら、別の二人が俺に【水魔法】と【氷魔法】を放って足止めと攻撃を加えていく。

 そしてもう一人はというと、俺が強引に抜けようとした時のために一定の距離を保ちながら常に張り付いており、抜けたと同時に【威圧】と【挑発】で行動阻害とカバーに回っていた。

 誰も安易に近寄ってこようとはせず、狙いが俺の窒息であることは明らか。

 かと言って、あまり派手なことをしてここで逃げられたくもないし……

 そんな時、3度目の【挑発】が唱えられたタイミングで、いい加減にそろそろ動かなければ呼吸がマズいと感じてこちらも同時に放つ。


 ――【挑発】――


「んなっ!?」

「ぐおっ!」


 スキルレベルに自信があったのだろうけど、一方的に撃てると思ったら大間違い。

 俺の方がスキルレベルは上だ。

 まずは離れた位置から魔法を撃っていた二人をこちらに引き込み、そのままカバーに回っていた魚人の男にも【挑発】を放つと、槍を前面に向けて目を血走らせながら迫ってくる。


「く、くそッ! なんという射程か!?」


 こうなると、俺を引っ張っていた魚人もそれどころではない。

 血相を変えて俺に向かってくるので、その前に呼び寄せた3人を始末しておこうと迎え撃つ。


「魚水五法、飛瀑、くごォ……!?」


 真っ先に辿り着いた【水魔法】の使い手に対し、腸《はらわた》を引き抜くように腹を抉ると、すぐ後ろに控えていた【雷魔法】の使い手が決死の形相で吠える。


「近づけば勝てると思うな! 魚雷三法! 夜月の雷放!」


 目の前で自身が雷を纏ったような状態で突っ込んでくるため、モノは試しと口元を覆うように掴みながらその雷を【帯電】で吸収。

 そのまま背後から差し向けられた槍を躱し、カバーに回っていた魚人の胸に手刀を差し込むと、全身を激しく痙攣させながら白目を剥いたので、そのまま手元の槍を奪って掴んでいた魚人の喉に突き入れた。


「ゴハッ……な、なぜ……俺の、雷が奪わ、れ……」


『【水中呼吸】Lv1を取得しました』

『【水中呼吸】Lv2を取得しました』

『【水中呼吸】Lv3を取得しました』

『【水中呼吸】Lv4を取得しました』

『【水中呼吸】Lv5を取得しました』

『【漁猟】Lv1を取得しました』

『【漁猟】Lv2を取得しました』

『【水中呼吸】Lv6を取得しました』

『【泳法】Lv9を得しました』

『【造船】Lv1を取得しました』

『【水中呼吸】Lv7を取得しました』



 ……不思議な感覚だ。

 空気を吸っているわけではないのに、苦しかった呼吸が徐々に緩和されていくのを感じる。

 ふふ、素晴らしい……

 一応詳細説明も確認しておきたいところだが――いや、まずは残りを始末してからだな。

 そう思って動きを止めていた一人に目を向けると、慌てたように身を翻して後退する。

 と、同時に視界の隅でもう1つの影が。


「ぞ、族長!」

「怯むな! 殺られた者の命、決して無駄にはせん! このまま海底まで引きずり込むぞ!」


 ようやく本命のお出ましか。

 俺の作った氷島の上で様子を見ていたことは掴めていたが、このまま踏み込んでくるのかどうかまでは分からなかった。

 部下を生贄に時間稼ぎをしておいてよく言うわと思うも、無事に釣れたのならば、大人しくしていた甲斐があったというもの。

 情報を抜くためにもすぐには殺せないので、まずは部下の方から――、そう思って再び視線を向けると、及び腰だった魚人の腕には青紫の魔力が纏っていた。


「魚光三法! 日輪の照耀……、ッぐァ……!?」

「うおっ……」


 辺りを照らす、眩いほどの強烈な光。

 咄嗟に握っていた槍をぶん投げるも、まともに目を開けていられるような状況ではなく、腕を交差させて顔を覆ってもさほど効果は感じられない。

 まず間違いなく【光魔法】……これは使えそうだし、有難くパクらせてもらおう。

 そんなことを心の中で呟いていると、スルリと脇から腕が伸び、族長が俺を背後から羽交い絞めにしていた。


「捕ったッ! これでもう、貴様が日の光を浴びることは二度と無い!」

「……」


 俺を捕まえたまま、物凄い勢いで底へ底へと泳いでいく族長。

 途中までは水圧の影響を気にしていたわけだが、この男が平気なら、たぶん俺も平気なのかなと。

 そう思った途端、あることに気付き、思わず忠告をする。


「……口も塞がなきゃ詠唱されますよ」

「ッ……知っておるわ……!」


 すると背後から慌てたように俺の口を塞ぎ始めるので、なんか違うなと思いながら行動に出る。


 ――【魔力纏術】――魔力『5000』


「っごォ……!? ぎ、ぎさまぁ……ッ……」

「密着していたから、背中から腹を貫いただけ。そんな驚かないでくださいよ」


 そう告げるも、族長は自分の腹を貫いた黒い槍を抜くのに必死だ。

 まあ、形状変化させた返しが背中側にあるので、自分の腹を豪快に裂く勢いでいかないと抜けないが。

 それより、だ。


「あなた、もしかして養殖……マリーにドーピングでもされました?」

「な、なに……?」

「どうも中身《スキル》と実力があまり伴っていないというか、戦闘経験が薄そうというか。本当の強者と戦ったことがあるのかなって思いまして」


 覚えていた違和感をそのまま口にすると、族長は口籠りながら顔を歪め――急にハッと、我に返ったように驚愕の表情を浮かべる。


「というより、なぜ、貴様は普通に喋れているのだ……? こ、呼吸は!? もうとっくに悶え苦しみ、意識が途絶えている頃合いだろう!?」

「ふふ……それより自分の心配をした方がいいですよ。ここまで深ければマリーが近くにいたって邪魔などできないでしょうし……それでは、じっくりとお話を伺いましょうか」
572話 見えてきた狙いと今後

 翌日になってミノ諸島の中心地である魚人の住む町に向かうと、宮殿付近は俄かに騒がしくなっていた。


「どうだった!?」

「駄目です。飲み屋街の方も見当たりません!」

「だとしたらいったいどちらに……魚穎番衆の4人も見当たらないし、やはりまだ出掛けられたままなのか?」


 集まっていた兵の会話をこっそり聞いていると、明らかに行方不明の族長を探しているご様子。

 精鋭を示す派手な鎧を着た兵も慌てているので、族長が言っていた通り、今回の件も含めて事情を知っている者は相当限られているらしい。

 となると、どう切り出そうか少し悩むが……


「あーすみません。ちょっといいですか?」

「む? 随分と装いが違うが、お前は昨日の商人か。なぜまだこの町にいる? 族長に踏み入るなと言われただろう?」

「そう思って島を出たんですけどね。お宅の族長に襲われたんで、こうして来たんです」


 言いながら身体中に穴の開いた死体を放り出すと、場は一瞬にして静まり返った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 カツカツと、俺の立てる足音だけが廊下に響き渡る。

 種族の長が殺られたのだ。

 死体を見せることで、激高して襲ってくる可能性もそれなりにあるとは思っていた。

 しかし――


(思いのほか冷静だな……)


 そんな感想を抱きながら、先行して水路を泳ぐ魚人に案内されて1つの部屋の前に立つ。


「こちらです。金庫番頭のノトフ様も中にいると思いますが……」

「ノトフ殿に確認すれば、本当に全てが分かるのか?」

「それを僕に聞かれたって困りますよ。あなた方の族長がそう言ったから、こうして僕も来ているわけですし」

「……」


 表情からして、全てを納得しているわけではない。

 それでも後ろから付いてきていた精鋭部隊――魚穎番衆の頭だという3メートル近くはありそうな大男が頷くと、左右に立つ筋肉質な見張りが二人がかりで水路を塞いでいた石壁を持ち上げる。

 1つ、2つ、3つ……原始的ではあるが、金庫というだけあって幾重にも閉ざされた扉を通過していくと、見た目での判別が難しい魚人の中であっても、これは明らかに歳を食っているなと。

 すぐに分かるナマズのような髭を生やした魚人が、俺達の姿を見て何かを悟ったように目を細めた。


「族長ではなく、人間がここに……つまり、族長はお前さんに敗れたわけか」

「ですね。そして族長が死に際、他に事情を知る唯一の人物としてあなたの名を口にしたものですから、直接話を聞ければと」

「話……話か。それで、何が聞きたい?」


 この老人に動揺はなく、開き直りというよりは諦めに近い雰囲気を醸し出しながら椅子に腰かけようとするので、まずは把握しておきたかった部分の確認をする。


「マリーとの取引を記録した帳簿はありますか? 卸している素材の品目と量、それに個別の取引価格も知りたいので」


 俺の知りたかったことはある程度族長本人の口から聞けたと思うが、この辺りはこのノトフという爺さんに任せていたようで、正確な内容まで把握していなかった。

 予想通り、マリーとの取引は裏で行われている。

 となると、あとは何かしらの邪魔ができるのかどうか。


「最も新しいモノがこれだ」


 机の上に置かれた数枚の木板を眺めていると、真っ先に反応したのは横で一緒になって眺めていた魚穎番衆の頭だった。


「ま、待て……ノトフ殿、今はこれほど安くなっているのか? それにこの、『男』と『女』というのは……」

「ふむ、順番にいこうか。まず安いというのは、かつてザンキが大陸に出入りしていた頃の価格と比較してだろう?」

「そうだ。人間が取引を打ち切ると打診してきた頃の価格は今もはっきりと覚えているが、あの時と比べれば5分の1……いや、それ以下ではないか」

「ふん……そんなモノ、族長の恩人だとかいうあの女が一手に取引を担ってから半年ももっておらんよ。あれこれと理由を付けては買値を下げ、もう10年以上前からこの価格だ。それでも族長は、大陸の人間と取引をしていた当初よりはまだ高いと、取引の再開など検討もせずに了承しておったがな」

「……」


 チラリと視線を横に向けると、大男は精鋭部隊の長であるにもかかわらず、明らかに初耳だと分かるくらい驚愕の表情を浮かべていた。

 族長の言う通り、やはり魚穎番衆という精鋭集団は、都合良く利用されていた側で間違いないか。


「えーと、ザンキさんですよね? あなたはかつて、大陸で案内役を務めていたわけですか?」

「いや、私は主にAランク狩場の担当だからな。案内役は他の者達の持ち回りだったが、魚穎番衆がここの護衛の他に狩りや大陸からの案内役を務め、人間との取引にも携わっていた。私も大陸の大きな町に魔物を何度も売りに行っている」

「なるほど……で、当時――値段が上がる前と比較すれば、Bランク素材は僕の把握している情報より少し高い取引額になってますけど、Aランク素材もこの取引額なら少しは高いということで間違いないんですか?」

「……ああ、本当に少し、だがな」

「そして、族長があの足付きに代わってから、値上げの指示があったと」

「そうだ。我々が狩る海洋魔物の価値はもっと高いと言われ、指示通りに動いてみるとそう時間も掛からず10倍近い値まで付くようになったのだ。だから当時、大陸で生活されていたからこその知識と力を以て、我ら魚人の生活を豊かに導いてくださると、そう思っていた」


 あくまで過去形ね……

 これは、今このような事実を知ってということではなく、ニュアンス的にはもっと前から。

 それが、きっと――


「ノトフさん、この『男』と『女』というのは?」

「文字通り、魚人一人当たりの買値だ。子供のみ、特に男児は一定以上の能力がある者に限定されていたが――」


 ドンッ!


「どういうことだ!?」


 突然目の前の机が豪快に圧し折れ、木の板が宙を舞う。

 激高したのはザンキさんだが、よく見れば案内役の兵や他に数人付いてきていた魚穎番衆も殺気立った表情をしていた。


「だから今、それを説明しておったというのに。『表立った交易が途絶えた以上、人間との関係が疎遠になり過ぎても望ましくない。だから魚人種の今後を見据え、優秀な魚人を対岸アルバート王国の中枢で働かせる』――、外じゃそう言われておったのだろう?」

「そ、そうだ! だから、俺だってしょうがなく息子を……いつか立派になって戻ってくると、そう信じて……!」

「ザンキの息子もおったのか……酷な話だが、それは方便というやつでな。実際は人の売買、大陸で言う『奴隷』と何も変わらん」

「そ、そんな……そんな話など一言も聞いていないぞ!?」

「当然だろう。あの女に言われて動いていた族長と小間使いにされたワシしか知らぬし、いくら指示されたとは言え、あの阿呆に踊らされてワシを20年以上こんな所に幽閉しているのだから伝えようもない」

「くっ……」

「それに、数多の子を売った金が20余年前と比べて豊かになったと、今も錯覚しているであろう町の者達の生活物資に換わっているはずなのだ。……阿呆が自分のために金を使っていなければな」

「「「……」」」


 はぁ……

 敢えて口を挟まず聞いていたが、相変わらず酷いモノだ。

 きっとケイラちゃんのように、マリーもどこかで族長という、魚人種を落とす切っ掛けを偶然見つけたのだろう。

 潜らせて内部から魚人達を掌握し、大陸との交易を止めさせた上で資源の独占を狙いつつ、若く優秀な人材を引き抜いていく。

 自分の利益が最大限になることだけを考えているのだろうから、マリーが動けば周囲はボロボロ。

 そんなのは今までにも見てきたというのに、やはり慣れるものではない。


「ちなみに唯一事情を知る存在として、ノトフさんが族長から選ばれた理由は?」

「ふん、ワシは魚人の長老であり、元々前族長の相談役でもあった。だからあの男が族長に成り代わった時も、力だけで何も知らぬあの男に魚人とはなんたるかを教えていたのだ。そうしたらワシにわけの分からぬ役職を与えてここに閉じ込め、さらに面倒な事は全て丸投げしてきおったのだから、よほど疎ましく思われていたのだろう」

「なるほど……前提が魚人のためではなく、マリーのために族長の座についているわけですからね」


 そんな男に魚人のアレコレを説明したところで、邪険に扱われるのも無理はない。

 となると、他は全員が被害者。

 ここに俺が『執行』すべき対象はもういない。

 その確認は取れたものの、問題はここからどうするのか。

 本来は俺が気にすることじゃないと思うが、立場の高そうな二人はちょっと険悪な雰囲気だし、肝心の族長はスパイみたいなモノで俺が殺してしまっているからな……


「一応、魚人種の今後に繋がりそうなことをお伝えしておきますと、 族長は【奴隷術】に掛かっていたので、早ければもうマリーは族長の死を理解している可能性があります。が、だからといって動きを止めるのか、それは僕にも分かりません」

「……取引の継続を望む可能性もあるというわけか」

「ええ。族長が死んだところで既に下地は出来上がっていますし、ノトフさんというパイプもありますからね。もしマリーなら、一番楽なノトフさんを新たな族長にしてしまうか……もしくは立場に強さが必要なら、適当な人物に金と弱みを使って無理にでも従わせようとするんじゃないですか?」


 そう言ってザンキさんを見つめると、"弱み"に思い当たる節があるため、顔を歪めながらすぐに目を逸らした。

 しかしその姿を見ていた別の魚穎番衆が、覚悟を決めたような眼差しで口を開く。


「つまり抗うためには、我ら魚人が一丸となって武力で対応するしかないということか?」

「いや、それも難しいでしょうね。まず相手が都合よくあなた達の得意とする海《フィールド》で戦ってくれませんから」

「だ、だが、陸戦であろうと我ら魚穎番衆の力と連携があれば――」


 個人ではなく、魚人という種に対して搾取の体制が整ってしまっているのだから、反旗を翻したいという気持ちも分からなくはないのだ。

 だが、覚悟だけでどうにかなるものでもない。

 人との表立った交易を止め、情報が入らなくなった弊害が出てしまっていることを強く感じ、思わず言葉遮るように事実を伝えた。


「ちなみに、その連携とやらを使って派手な鎧を着た魚人の方達が4名、あなた方が得意とする海の中にいたら襲ってきたので、止むを得ず僕が始末しています。それに、その気になればですが――たぶんこの規模なら、1時間も掛からずこの町を殲滅できるんじゃないですかね」

「……え?」

「もう一人、僕の知っている異世界人も本気で動けばできそうですし……そうなると、マリーも損になるからしないというだけで、やろうと思えばできてしまう可能性があるんですよ。まず【空間魔法】を所持している時点で、取引のために訪れているこの地には音色の阻害など関係なしに来られますし、同時に戦力だって送り込めるわけですから」

「「「……」」」


 だから一番の問題は、武力ではない別の方法で、マリーの搾取を止められるかどうか。

 暫し考え込んでいると、横で鼻を鳴らし、『そういうことか』と小さく呟く声が聞こえる。

 視線を向けると、ノトフさんは何かに気付いたように、冷めた表情で俺を見つめていた。


「ワシには強さのことなど分からぬが、要はあの女の後釜をお前さんは狙っているわけか」

「へ?」

「……俺も同じことを考えていた。結局俺達魚人を都合良く統治したいだけじゃないかって。何者かは知らないが、あんたに縋る代わりに相応の対価を寄越せって、そういうことなんだろう!?」

「くそ……子供達まで金で買われているっていうのに、あんたはただ平和に過ごしたい俺達にいったい何を求めるんだよ!」

「いや、何も求めていませんけど」

「え?」

「というか、困るので簡単に縋るのは止めてもらえませんか?」

「「んっ?」」

「こっちだって必死に魚人だけで対抗できる手段がないか探しているのに……ちょっとは自分達でも解決策を考えてくださいよ」

「「「……」」」


 このままではラグリースの二の舞。

 そんな手間と責任だけが増える方法なんて真っ平ごめんである。

 横でノトフさんが「あれ~?」とすっとぼけた声を漏らしているけど、魚人からしてみれば、養殖とは言えそれでも明らかに一番強かった族長が死んだだけで一歩前進なのだ。

 あとは自分達の土地くらい自分達で守れと、本当なら声を大にして言いたい。


「い、一応、もしここを統治すると、かなり希少な海の魔物素材が安定して手に入るんだが……?」

「素材は自分で獲れますから大丈夫です」

「「「……」」」

「さ、先ほど族長の死体をどこからか出し入れしていただろう? 商人ならその力を使って、あの女のように大きな利益に繋げられるんじゃないのか?」

「たまにならいいですけど、定期的に訪れなきゃいけないのは仕事みたいで嫌なんですよ。それより大陸の人間が取引の再開を希望してこの地に人を送っていたみたいですし、そっちと取引を再開させたらいいじゃないですか」

「「「……」」」

「結構可愛くてボン、キュッ、ボボンな女、いっぱいいるけど?」

「残念ながら、尻はほどほどの大きさが好みでして」

「「「……」」」

「いや、待て。族長を倒す強き者が次代の族長になる、それが魚人の習わしだ。つまりお前が次の族長ということに――」

「僕、人間ですよ? 魚人の族長に人間選んでいる時点でおかしいでしょう。それにこれでもとある国の王をやっているので、尚更に無理ですよね」

「「「……」」」


 いったいなんなのだ。

 さっきまで反対していたくせに、今はやたら強めの押しで族長になれとか、もう考えを放棄しているとしか思えない。

 と言っても、魚人種だけでマリーに対抗する術なんてそう簡単に思いつくものでもないけど……

 俺だって必死に考えても逃げの引っ越しくらいしか出てこないし、いやでも――、魚人なら海の中に逃げるという選択肢も有り得るのか?

 そんなことをブツブツ呟いていると。


「ふ……ふはは……」


 暫く静かにしていたノトフさんが急に笑い出したため、俺を含め、自然とその場に居合わせた者達の視線が集まる。

 そして――


「こうまでして拒絶されると、それはそれで魚人としての誇りがズダズダに切り裂かれる思いだな……ふん、良かろう。どう頭を捻ったところで我らにもう後はなさそうなのだ。今となってはワシしか知らぬ、魚人のこれ以上ない秘め事も条件に加えてやろう」


 そう言って、終始諦めに近い表情を浮かべていたノトフさんは、ここに来て初めて生を感じさせる挑戦的な笑みを浮かべた。
573話 魚人種の秘め事

 念のため周囲に目を向けるも、誰もそれらしい情報が浮かぶ者はいないらしい。

 それどころか、本当にそんな話があるのかと。

 派手な鎧を着た魚穎番衆の面々はお互いに顔を見合わせると、思わずといった様子でノトスさんに問い掛けた。


「い、一応確認だが、本当にそれほどの情報はあるのか? 相手は族長も倒した一国の王……下手な内容では逆に我らの立場が危うくなるし、まずそのような情報など私らには見当も付かんぞ」

「ふむ……我ら魚人ではその価値を碌に見出せぬのだから、正直に言えば、知ってどう受け止めるかは人によって異なるだろう。だが――」

「……」

「もし大陸にその情報が漏れれば、まず間違いなく魚人は滅ぶと言い伝えられてきたのだ。安易に立ち入れぬよう歌姫に歌わせているのも、元を辿ればソレを隠すため。古来より魚人種の族長と相談役の二人だけが情報を抱え、いざという時の武器として途絶えさせぬよう、かつ決して外へ広まらぬよう管理されてきたのだから、他が知る由もない」

「では、あの族長も?」


 誰もが思う当然の疑問を俺が口にすると、ノトフさんは首を横に振る。


「その秘め事を伝えるためにも、ワシはあの者に魚人という種の命を背負う覚悟を持ち、手本となって導ける存在であれと、口煩く説いてきたのだ。……結果、伝える前に幽閉されたがな」

「「「……」」」


 幸か不幸か、目の前から排除したために族長は情報を手にすることができず、マリーにも伝わらなかったというわけか。

 いざという時の武器……それは文字通り武装や兵器としての武器になるのか。

 それとも今行われている交渉事のように、自分達を守る最後の切り札という意味での武器なのか。

 どちらかは分からないが……

 ふふ、面白い。

 魚人では扱いきれない代物とはいったいなんなのか。

 こうなると俄然興味も湧いてくる。


「ちなみに、その情報を教える条件は?」

「マリーとかいう異世界人の女から我ら魚人を守ってほしい。あれほど我々に利用価値を見出そうとしないのだ。逆にそなただからこそ信用できる」

「まあ、そうなりますよね……ただ――」


 一度言葉を止め、思考は巡る。

 いくら興味の惹かれる情報であろうと、俺のやりたいこと、やるべきことを我慢してまで得ようとは思わない。

 守ると言ってもその意味合いは広く、ノトスさんがどこまで俺に求めているのか。

 長く外とのやり取りが断たれていた分、異世界人の認識がだいぶ大陸とはズレていそうな人達が相手となると……

 交渉事としてはかなり下手なやり方だが、先にこちらのできることを伝えてしまった方が話も進みやすいか。

 そう判断して再び口を開く。


「僕にも優先してやるべきことがありますし、自国には守るべき人達だっています。たとえどんな情報が目の前にあろうと、ここに常駐して魚人の人達を守れという条件であれば呑めません。それは分かりますよね?」

「うむ……」

「なので、僕にできることとなると、2つ――いや、一応3つ、ですかね」


 そう言って目の前で指を1本立てる。


「1つは僕の名前を貸すこと。さすがに族長というのはどうかと思いますけど、ノトスさんが就かれていた相談役とか、僕が魚人とこの島に大きく関わっていることを外に公表するくらいであればまだ許容できます。今回の襲撃にどこまでマリーが関与しているのか知りませんが、失敗すれば僕がある程度首を突っ込んでくる覚悟くらいできているでしょうし」

「な、名前だけでそんなに変わるのか?」

「大陸ではその名前欲しさに各国が異世界人を求めていますからね。お互い大きく踏み込めば大惨事になることは分かっているので、僕が本格的に関与し始めたことを知ればマリーも安易に手は出せなくなるはずです。妥協点でも作っておけば尚更でしょう」

「妥協点?」

「先ほどお伝えした、大陸の人間を相手にした交易の再開ですよ。交易をしていた当時と違って、その相手はマリーがいるアルバート王国の人々になるわけですから、それなら不満には思っても怒り狂うほどの話ではないでしょう?」

「ふむ……なるほど」


 俺からすればそれでも少々不本意だが、地理の関係でアルバートを取引相手から外すというのは、国そのものがなくなりでもしない限り現実的じゃないからな。

 それにニッカの人達だってそうだし、対岸に住む人々は海洋魔物の素材を求めているのだ。

 マリーが独占していた素材をどこでどう活用していたのかは未だハッキリとしないが……

 20年以上前にコソコソと築き上げた独占市場をぶち壊すだけでもそれなりの痛手になることだろう。

 そう思いながら2本目の指を立てる。


「ついで2つ目。それでももし、大きな揉め事に発展してしまった場合、呼び出しがあればすぐにここへ来ることは可能です。僕が使役した魔物や動物に緊急であることを伝えてもらうと、寝ていない時であればそれが分かりますので」

「ほう。そうするとあの女のように、いきなりここへ現れるわけか」

「そういうことになります。あまり頻繁に呼び出されても困っちゃいますけど、人よりだいぶ寝る時間は短いので、高い確率ですぐに反応することはできると思います」


 ここで一度言葉を切ると、ノトスさんは周囲に目を配り、ザンキさんなど魚穎番衆の面々が納得したように頷く。

 となると3つ目。

 これはできれば拒否してもらった方が俺としては楽だが、仕上げとばかりにまた指を立て、現実的にできる最後の提案を行う。


「そして3つ目。これは先ほど対策を考えている時に思い浮かんだことで、それでも不安が残る、子供達を奪われないように対策を取りたいということなら、ここに住む人達の一部を僕の国に移住させることも可能かもしれません。もちろん無理強いするつもりはまったくありませんけどね」

「ん? かもしれない、というのは?」

「移住先が川や湖の周辺でも問題ないようなら、そこまで難しい話じゃないんです。ただ海じゃないととなると、たぶんうちの国も南側は海に面しているはずなんですけど……まずは調べるところから始めないといけなくなります」

「なんじゃ、王なのに自分の国を把握しておらんのか?」

「は、はは……まだ国を興して1年とかですし、森ばかりでとにかく広いんで、あまり調べる気にならないんですよねぇ」


 これには苦笑いしかできない。

 いつかやらなきゃいけないことだと分かっちゃいるが、行きたい所が多過ぎるこの現状では、どうしたって自国の調査は優先順位が低くなる。

 南側がどんな状況なのか見に行ったところで、まず俺はちっとも強くなれないだろうし。


「それならば断然海だろう。移住した先でだって生活に必要な物資を調達するための金はいる。金になる獲物を見つけるなら断然海だ」

「ああ、獲れる獲物だって海の方がデカくて美味いしな」

「だがそれは、海の中なら大概は襲ってきても始末できる俺達だからだろう。女や子供となると、場所によってはそうもいかんぞ?」

「それはそうだが……しかし魚人たる者、最低限己の身を守る程度の強さは必要だ。となると、それなりの場所に身を置かねば――」


 何やら魚穎番衆の面々が横で熱い議論を交わし始めたが、まだ決定事項というわけではないのだ。

 俺にできることを伝えた上で、あとはどう判断するのか。

 話の流れから、最も決定権を抱えていそうなノトスさんに目を向ける。


「とりあえず、魚人を守るという意味で僕が動けるのはここまでです。その範囲内で納得できるようなら情報と引き換えに協力しますし、それ以上を望まれるようならその情報自体を諦めることにします」

「ふむ……ちなみに期間は設けるのか? あまりに短過ぎては安心できんでな」

「ん~いや、特にそれは。どちらかが上に立って一方的に何かを得るという話でもありませんし、これを切っ掛けにお互い末永く良好な関係が築ければいいんじゃないですか? 僕が動く期間なんて、実質的にはそう長くないでしょうしね」


 この言葉に、ノトスさんだけでなく魚穎番衆の面々まで首を傾げる。


「どういうことだ?」

「魚人の人達だけじゃないんですよ。僕がここに辿り着くまでにも、多くの人達がマリーに狙われ、財産、家族、居場所――様々なモノを失い苦しんでいました。だからね、もう決めているんです。僕がいずれ、必ず殺すって。そうすればこの地にも再び平和が訪れるでしょう?」

「あの女、他所でも似たようなことをやっておるのか……」


 このように伝えたことで、情報など出さずともいずれ解決する見通しを与えてしまったかもしれないが……

 ノトスさんは暫く考えに耽ったあと、ザンキさんに視線を向けながら問い掛けた。


「ザンキ、族長が不在の状況となると、長老のワシと魚穎番衆の頭であるお前さんである程度のことは決めていかねばならん。ワシは頼むべきだと考えているが、どう思う?」

「……秘められた情報があると漏らした時点でノトス殿を締め上げ、力ずくでその内容を吐き出させることだってできただろう。にも拘わらず、わざわざこのような提案をしてくれているのだ。我らは……住民の一部移住も含め、このお方に託すべきだと思う。子供達と、それに魚人の未来を守るためにもな」


 そう言ってザンキさんが他の面々に視線を向けると、その場に居あわせた人達も異論はないとばかりに揃って深く頷いた。


「では……ふふ、そういえばここまでの話をしておいて、まだそなたの名前すら聞いていなかったな」

「ああ、そういえばそうでしたね。改めまして、僕は異世界人ロキ。大陸中央に存在するアースガルドという国の王をやっています」

「そうか。ではロキ王、古来から続く魚人種の秘め事と引き換えに、我ら魚人をその名と力でお守りいただきたい」

「分かりました。一人も死なせないなんて、そんな大それたことは言えませんけど、魚人に明るい未来が訪れるよう僕も協力します。それとうちの国が海に面しているかは1日もあれば分かりますから、明日にでもお伝えしますよ」

「承知した。ではその内容だが――」


 言いながらノトスさんがザンキさんに視線を向けると、すぐに理解したのか。

 ザンキさん達が金庫というよりは牢屋になっていたこの部屋から一斉に退出していく。


 ふぅ――……


 今から、いったいどれほどの情報が飛び出てくるのか。

 俺を信用してこの提案を持ち掛けたのだろうから、もし想像以上に情報の中身がショボかったとしても、ピコピコ動くその髭を毟り取るくらいで勘弁してやろうとは思っていたが……


「さて、もうよいか……この話を聞いて、ロキ王がどう動こうとワシにそれを止める権利はない。何が正解で、何が間違った使い方かももはや分からぬしな」

「……」

「だが、できることなら争いではなく平和のために使ってほしいと、そう願っておる」

「正直、この段階ではなんとも言えませんが……分かりました」


 その返答に軽く頷いたノトスさんは、なぜか急に話を変えた。


「ではロキ王、この島を含む一帯がなんと呼ばれているかは知っているか?」

「ん? それは、『ミノ諸島』ですよね?」

「そうだ。町がある最も大きなアオキノ島を始め、大小約40の島がこの一帯には存在している」

「……」

「しかし、そのうちの1つは元々なかった島だ」

「ない……というと、海底火山が起きて後々に出来上がった、とか?」


 ないものができたというのならそれかと、在り来たりな予想が外れることを期待して答えてみると、案の定ノトスさんは首を横に振る。


「違う。遥か昔、その島は空から突然降ってきたと、そう言い伝えられておる」

「空……」

「かつては存在していたとされる浮遊大陸。その全てか、一部かまでは分からぬが……降ってきた残骸が島の1つとして今も残っており、長い時を経てなお、その島は時折動くこともあったという。そしてこの事実は、当時その光景を目の当たりにした魚人しか知らない」
574話 動く島

 じいさんの髭を毟るなんてとんでもない。

 これは想像以上に情報の中身がデカいんじゃないのか?

 そう思いつつ、真っ先に感じた疑問をノトスさんにぶつける。


「島が動くって、ノトスさんもその事実を確認されているんですか?」

「いや、ワシが生まれるより前から、北側にある島はまとめて立ち入りを禁止していたのでな。動くというのがどれほど前の話なのかも分かってはいないが……」

「が?」

「忘れた頃に、波とは違う妙な音が風に乗って聞こえてくることはある。ワシらは決まって海が怒っていると言うその音も、もしかしたら何か繋がりがあるのかもしれん」

「なるほど……」


 どのような特性があるのか、この程度の情報だけでははっきりとしない。

 しかしかつては空にあり、今なお動く可能性があるとなると、原因はまず間違いなくコイツだろう。


「たぶんそれって、浮遊石ですよね?」

「ほう。その存在を知っておるとは、若そうには見えてさすが一国の王だけあるな」

「書物でその内容を少し目にした程度ですけど、古代の時代には存在していた希少鉱石――ああ、なるほど。魚人では価値が見出せないというのはそういうことですか」

「うむ。海や水があってその本領を発揮できる我らが、空を目指したところで何一つ利点などない。だが、人間ならば話は違うだろう?」

「ですね……翼を持たない者にとっては夢や憧れ、空を舞いたいと願う人間は山のようにいると思います」


 にも拘わらず、羽も無しに飛んでいるという情報は出てこず、空を飛ぶ類の人工的な乗り物があるという話も一度として聞いたことがないのだ。

 近年――と言ってもどの時代を指しているかは分からないが、その書物が書かれた時代には既に存在が確認できない幻の鉱石という扱いになっていたのだから、大陸に伝われば魚人が滅びると言い伝えられるほど警戒していた理由にも納得できる。

 実際マリーがこの情報を手にしていたら、魚人にどれほどの被害が出ようと我が物にしようとしていただろうしな……


「先ほどは立ち入り禁止と言っていましたけど、さすがに僕が行くのは許可してくれますよね?」

「情報だけ伝えて行くなというのもおかしな話だしな。断崖ばかりで周囲は危険な場所だが、ロキ王なら問題なかろう?」

「じゃあ早速行ってみますか。ノトスさんは場所を分かっていそうですし、ちょっと案内してもらえません?」

「うん? それは構わないが……なんだ、なぜ襟を掴む――……………ギョぇえええええええ!?」


 なんだ、やたら落ち着いているこの爺さんも慌てることがあるんだな。

 そう思いつつ、転移した先から眼下に広がるアオキノ島と、その先に見えるいくつかの島に目を向ける。


「な、なんじゃこの高さは!? 落ちる!! 落ちてしまうぞ!?」

「大丈夫ですよ。僕はその浮遊石がなくても元から飛べますので」

「へ? は、羽も無しに、か……?」

「羽がなくても飛べますけど……出せばもっと速く飛べますね」


 そう言って、少々おどろおどろしい黒い羽を生み出すと、ノトスさんは上空にいることも忘れたように静まり返って目を見開く。


「い、異世界人がどれほど脅威に見られているのか、今ようやっと分かった気がするわ……」

「まあ、異世界人だから、という特徴ではないですけど。それで、どちらを目指せばいいんですか?」

「あの先に見える山の右手、一番奥の方にある、周囲を崖に覆われた島がそうだが……既に飛べるのなら、ロキ王にとってさほどこの情報に価値はなかったのではないのか?」


 指を指しながら言葉を続けたノトスさんは、ほんの少し前とはまた違う不安げな表情を浮かべていた。

 だから、まだなんとも言えないところだけど。


「今更情報の中身で約束を違えたりはしませんよ。それにもし……いや、あとは行ってから判断してみますか」


 俺の予想通りならそうとも限らない。

 その言葉を飲み込み、俺達二人は示されたその島へと向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 いくつかある島の一番外れに、外周が切り立った崖で覆われた、他とは少し異なる雰囲気のする島――ルフオミ島は存在していた。

 崖の内側はそこまで高くはない山と盆地が半々程度に存在しており、大きさは初期の頃のベザートが収まるかどうかという程度なので、そこまで大きいわけではない。

 そんな場所に降り立つと、周囲の木々から鳥が一斉に羽ばたいていく。


「魔物の気配は無し……どこも鬱蒼と生い茂っていますし、今は野生動物の住処って感じですか」

「であろうな。少なくとも魚人がここで何かをしたという記録は残されていない」

「なるほど。でもかつては、この地で人の動きも少なからずあったんでしょうね」


 ノトスさんはこんな所をまともに移動できないため、フヨフヨと浮いた状態で探索していると、どう考えても人の手が入ったと分かる石垣の一部が所々に残されていた。

 どれほど古い時代のモノなのかは分からないが……

 魚人は立ち入っていないというのなら、かつてここへ落ちてくる前の時代に誰かがこの地で暮らしていたか、もしくはここで何かをしていたということ。

 となると、やはり――。

 答え合わせのために、反応を探りながら山の方面へ向かっていると、木々の隙間から覗くぽっかりと空いた穴が見えてくる。


「む、あれは洞窟か?」


 宙吊りにされたノトスさんがソレに反応を示すが、それじゃ正解とまでは言えないだろう。


「まず間違いなく坑道の跡でしょうね。あの一帯は明らかに浮遊石の反応が薄い。かつて人は、ここで浮遊石を採掘していたんだと思います」

「浮遊石を……でも薄いということは、まだあるにはあるのだろう?」

「ええ、どうします? ガスとか魔物は大丈夫そうなので、一応この中も軽く調査してみますけど、ノトスさんは一度町に戻りますか?」

「いや、せっかくここまで来たのだ。この機会に自分の目でも確認し、できればより正確な情報を後世に残したい」

「では、もう暫くこの状態で」


 光玉で視界を確保し、いくつもの分岐を越えながら、なんら補強もされていない坑道内を進んでいく。

 そして目を付けていた大きめの反応がだいぶ近くなったところで坑道も行き止まりになったため、そこで足を止めた。


「ちょっと掘りますね」

「え?」

『穴』


 何度か繰り返し、斜め上に穴を拡張していくと見えてくる半透明の石の塊。

 一見すると地球にある水晶石のようなソレは光玉の光で僅かに輝いており、いくつか取り出してみるとなんとも言えない不思議な感覚に襲われる。


「これが浮遊石か……ノトスさん、見つけましたよ」


 そう言いながら、下で待つノトスさんに渡すつもりで、手に持ついくつかの塊を軽く投げてみた。

 すると。


「ん?」

「お~」


 速度を落としながらそのまま下に転がっていく石と、途中で動きを止め、空中でフワフワと揺れ動いている石。

 そして俺の方へ戻ってこようとする石と、様々な動きを見せてくれる。


「ははっ、面白い特徴ですね。この浮遊石は」

「……小さいモノだけこちらに転がって……大きさで動きが変わるのか?」

「みたいですね。質量が大きいほど浮力が増す。ただ剥き出しの状態だと小さい塊でも結局天井に張り付いているので、ここにある土のように、何かしら重しとなる支えがあって意味を成すんだと思います」

「支えがなくなれば、次々と浮上し地上から消えていくわけか……こうして実物を目の当たりにすると、希少と言われる所以がよく分かるな」

「ですね。そしてこの島が落ちてきた理由もこれで理解できます」

「ふむ。かつて何者かが採り過ぎたわけか」

「ええ、ここの地下やもっと奥にはまだ相当量の浮遊石が存在していることは分かりますので、たぶん当時も、それが分かっていたから掘り進めて……結果、島の自重を支えきれなくなったんでしょうね」

「では良かったな、ロキ王。それだけの量があるなら、使う分に困ることはあるまい?」


 ノトスさんのその言葉に暫し思考は巡る。

 普通に考えればその通りで、まだ相当量の浮遊石が眠っているのだから、この希少鉱石を用いていったいどんなことができるのか。

 革新的な何かが生まれるかもしれない未来にワクワクするのだろうけど、技術者としての経験がないからかな……

 なぜか俺のワクワクはそちらに向いていない。

 それよりも。


「――正直、少しずつ持ち出して使うよりは、この島自体を再び浮き上がらせたいんですよね」


 俺の興味はそちらの方へ向いてしまう。


「なに? この島を再び浮かせたとして、それでロキ王に何か利点でもあるのか?」

「ん~まあ、新しい秘密の基地ができたりとか……|凄く夢《ロマン》があるじゃないですか」

「ロ、ロマン……」

「それに、こうして元からある島の形が今もしっかり残されているのなら、まずは維持することを優先すべきかなって。使ってない島が一つどこかに飛んでいくくらいなら問題ないですよね?」

「………………うむ」


 浮遊石であろうという予想はついていたのだから、この島に来る途中も【広域探査】でその反応は探っていた。

 しかし島の周囲には存在せず、この島がそのまま塊のように反応を示すだけ。

 それは当時、支えきれるほどの浮力を失ったこの島が、ゆっくりとゆっくりと、大きく砕けることもなくこの海に落下してきたからだろう。

 ならば大きな塊でしかできないことを先に試すべき。

 ノトスさんには少々言いづらいけど、もし実現すれば俺の抱える弱点を1つクリアにできるかもしれないからな。


「削るか、もしくは足せるのなら足すか……取り急ぎ何かに使いたいわけでもないので、暫くここに置いておきますよ。この大きさじゃ、まだ『収納』して持ち帰ることもできなさそうですし、浮かしたところで制御ができなければなんの意味もありませんしね」

「ロ、ロキ王にその辺りは任せるが、何かする時は一声掛けてくれ。いきなり島がなくなっていたりすると大問題になるのでな」


 こうして島の探索を終え、思いがけない発見と戦利品を獲た俺は、アルバートのマッピング作業や海洋魔物の討伐を一時中断。

 Bランク狩場までしか把握していなかった自国の南部調査を開始した。
575話 南部調査

 かつて狩りをするために潜ったパルメラ南部のBランク狩場から、爆速で南下すること約2時間。

 樹海が途切れたその先は予想通り海が広がっており、俺はそこから海岸付近をひたすら東に向かって進んでいた。

 探索も兼ねて探しているのは、できる限り条件に合致した環境だ。

 目的にしている魔物の気配は時折確認できるので、あとは住むのに良さげな地形があってくれるといいんだけど……


(ん~しっかし、本当に誰もいないんだな)


 碌な調査もしないまま、パルメラは全域が魔物の巣であるという情報を鵜呑みにして国を興したので、先住民というわけではないが、人間や亜人がどこかに住んでいる可能性だって十分あると思っていた。

 特に海岸付近なら町の1つや2つくらいあってもおかしくなく、できればそんな人達と魚人が上手く交易でもしてくれればなーと。

 そう願っていたわけだが、上空から見ている限りでは人工的な建造物などただの1つも見当たらない。

 どこまで飛んでも昼ドラに出てきそうな崖が続いており、このままでは俺がマリーのように専属の取引相手として、生活に必要な物資を届けないといけなくなる可能性が高くなってきたことに思わず軽い溜め息が漏れる。

 まあ3つ目を提案した時点でこのパターンも想定していたので、なったらなったでマリーを殺し切るまで、移住する魚人の人達には様々な面で頑張って動いてもらうしかないんだけど。

 そんなことを考えながら、いくつもの探し物を並行して行っていると、ふいに頭の中で溌剌とした声が響く。


(ロキくーん! こっちに良い場所あったよー!)


 逆方向を調査してくれていたフェリンからの【神託】だ。


 ――【神通】――


「他の条件はどうだった?」

(人は全然いませんけど、レモラという魔物のいる狩場は結構近いですよ~!)

「おお! それじゃすぐ確認するよ。ごめん、こっちに迎え来れそう?」

(これで場所特定できてるから大丈夫だよーそこから動かないでね!)


 単純に広過ぎてしんどいという泣き言を言ったら、元から協力的で何かとついてきたがるフェリンと、魚人の保護という言葉に強く反応したフィーリルが【飛行】と【広域探査】をそれぞれ持ち込み協力してくれていた。

 今後の交流や取引が行える可能性を考えると、できればミノ諸島に近い東側の方が移住先としては無難。

 しかし何よりも優先すべきは安全面だろうと一人納得し、迎えに来てくれたフェリンと共にその場所へと向かう。

 そして。


「へ~木材に困ることはなさそうだし、地形も今まで見た中で一番良いかも」

「でしょ? こんな感じでぐちゃぐちゃってしてるといいんだよね?」


 フェリンのこの言葉に、改めて周囲を注意深く眺めながら頷く。

 今いる場所は複雑な入り江が多く存在しており、海水が大地を割るように深くまで入り込んでいるため、一見すれば大陸と繋がっていそうに見える島もいくつか存在していた。

 氷河なんてまったく見当たらないけど、北欧辺りにあるフィヨルドと似たような雰囲気だ。


「そうそう。帝国がかつて、東にある獣人の国に海から攻めたことがあるらしいんだよね。そうなるとまず間違いなくこの海域を船で通っているわけだし……海に面したあからさまに分かりやすい町なんか用意したら、何かちょっかい掛けられるかもしれないからさ」

「私にはランクというものが分かりませんけど、この周囲4か所から魔物の反応を拾えるので、資源を目的にするなら活動しやすそうですね~」

「……あれ、3か所しか拾えないな。もう1つは沖の方?」

「ですね~ロキ君の言っていたレモラという魔物の反応も海の奥の方から拾えますよ~」


 うーん、【広域探査】のレベル差か。

 1つはホーンラビットがかなり広い範囲で反応しているから、パルメラ大森林の一部として陸に広がるFランク狩場。

 それに同じFランクのキシュキシュや、Eランクのポートイールも別々の場所から反応を拾えるので、そう考えると『F』『F』『E』『C』という狩場を抱えることになるわけか。

 これならマルタ並み……だいぶ当たりの環境と言ってもいいだろう。

 となると――あと確認しておくべきことはこれか。

 そう思って二人に視線を向ける。


「あまり他所の国と近いんじゃアレだし、俺は念のためにここからもう少し西側の様子も見てくるから、その間に二人のセンスで町の下地を作ってほしいんだよね」

「前みたいな感じでいいの?」

「いや、目的は保護だからさ。こんなのはどうかなって思って……ゴニョゴニョゴニョ」


 3人以外誰もいないというのに、顔を近づけ秘密の内緒話みたいな雰囲気で話すと、フェリンはすぐに目を輝かせ、フィーリルは若干呆れた表情で苦笑いを浮かべる。


「ロキ君は本当にそういうのが好きですねぇ~」

「えーでも楽しそうじゃん!」

「でしょ? 目的を最優先に考えた結果でもあるわけだし、たぶんここはマリーの目から逃れるために、子供達が多く住むんだろうからさ」

「はあ……しょうがないですねぇ~。それなら私も久しぶりに本気で頑張っちゃいますか~!」

「ふふ! 私の得意分野だからね! まっかせてー!」

「それじゃ30分ぐらいで戻ってくるからお願いね。俺も戻ったらすぐに手伝うからさ」


 フェリンはこんな性格だからいいとして。

 フィーリルもこれだけやる気になってくれているのなら、こないだ高いバイト代を払った甲斐もあったのかな?

 そんなことを思いながら、他に住んでいる人がいないのか。

 西側の海岸調査を進めていった。
576話 持ちつ持たれつ

 翌日。

 ノトスさんとザンキさんの二人に対し、うちの領土南方が広く海に面していたこと。

 その一角に身を隠すには適した場所があり、周囲にはランクも様々に4か所の狩場が存在していること。

 そして小さな町の下地作りは多少済ませていることを伝えると、意味が分からないといった様子だったが、すぐに町を挙げての移住者選別が行われた。

 と言っても俺はその状況をまったり見守っていたわけではない。

 ただ眺めていたって時間の無駄なので、気になっていた残りの1種を求めて再びBランク狩場 《アムスト海域》へ移動。

 深い海域に生息していたヤギと魚が混ざったような魔物――カプリコーンをしばきつつ、適度に【招集】を連発してはゴアスケイルフィッシュを搔き集めていた。


「カプリコーンが海の魔術師ポジションだとして――」


 浮かべていた氷島で、リコさんに渡すための魔物所持スキルリストを作成し、一人唸る。


 ゴアスケイルフィッシュ:【突進】Lv4【硬質化】Lv2【呼応】Lv3

 カプリコーン:【氷魔法】Lv3【雷属性耐性】Lv3【魔法射程増加】Lv3【魔力感知】Lv4

 巨大な毛虫:【噛みつき】Lv4【分裂】Lv3【酸液】Lv4


「ん~結構探してみたんだけどなぁ……」


 眺めることで一層感じる強い違和感。

 でもまあ、そろそろいい時間だ。

 一度ベザートで『収納』の中身を綺麗に吐き出してから、そのあとザンキさんにでも聞けば答えが分かるのかな?

 そんなことを思いつつ、クアド商会地下の貯蔵庫に移動。

 魔力が減少するほど溜め込んだ素材を大量放出し、再び魚人の町へと向かったわけだが。


「お、多い……ですね」


 集まっていた魚人の数を見て、思わず言葉が詰まる。

 種の存続と子供達を奪われないためとは言え、開拓を前提に見知らぬ土地へ行くわけだから、希望者など精々数百人程度かと思っていた。

 しかし、目の前にいる魚人の数はどう考えてもそんなもんじゃない。

 規模感で言えば、かつてジュロイで8000人近く殺した時の、あの半分くらいはこの場にいそうな気がする。


「子の命を何よりも優先したいと願う親が多くてな」

「だとしてもですよ。ノトスさん、周囲に何もないような環境から生活を始めなければいけないって、ちゃんと伝えました?」

「当然伝えている。だから子供達だけ移住させれば済む話でもなく、親以外に狩りを行える者など、新天地での生活が維持できるようにワシらも人は選んでおるつもりだ」

「……」


 正直に言えば、俺もフェリンもフィーリルも。

 全員揃ってだいぶ調子に乗った自覚があるので、この数でも受け入れることは可能だ。

 だが問題はどうやってあの場所までこの数を運ぶのか。

 そっと瞳を閉じ、考えるフリをしながら【地図作成】を使用するも――やはり距離はそれなりにあり、子供が多いことを考慮しても精々50人程度。

 俺の魔力が全回復であることを前提にしたって、生かした状態で人を『転移』させるとなると、このくらいが限界になってくるような気がする。

 かといって、これほど子供が多いのに自力で来いというのは無茶な話だし、今後に期待が持てるあの島もさすがにまだ使えない。

 まともに制御できる保証なんてどこにもなく、何より隠す目的で引っ越しをするのに、あんな目立つモノで移動していたら本末転倒だ。


「……今後も含めた安全を考慮すると、どうしても移住先に向かう手段は限られてきます。今日だけでどれほどの人を運べるかは分かりせんので、日を置いて少しずつ移動してもらうことになるかもしれませんけど、それでも大丈夫ですか?」

「もちろんだ。キリュウ、ここに残るワシらも協力する。最低限こちらがその順番で揉め事を起こさぬよう、対応せねばならん」

「ええ」


 ノトスさんに呼ばれ、言葉を返しながら一歩前に出たのは黒い肌をした大柄な魚人。

 この人も派手な鎧を身に着けているので、魚穎番衆の一人であることがすぐに分かる。


「初めまして、ですね。私が新しい移住先で長を任されることになったキリュウです。以後、よろしくお願いします」

「え、あ、よろしくお願いします」

「キリュウはかつて、大陸に住処を構えて案内役を務めていたのでな。一番人間に慣れておるし、ワシらにはよく分からぬ大陸の文化というモノにも詳しい。大概の海の魔物は狩れる力も持っているので、移住先を任せるには適任であろう」

「へえ、向こうに住んでいたことも……」

「と言っても沿岸部に住処を作り、その町の人達やハンターと交流を図っていた程度ですけどね」


 そう言って苦笑いを浮かべるキリュウさんは、確かに当たりが柔らかく、人とのやり取りに慣れていそうな感じがする。

 ノトスさんの横で、新族長になったせいなのか。

 今まで以上に般若みたいな怖い顔して突っ立っているザンキさんとは大違いだな。


「それでは魔力が勿体ないですし、早速動きましょうか。まずは誰を優先して運ぶのか、とりあえず30人くらいの塊をいくつか作ってもらえますか? 生き物ではない荷物なら、後からどうとでもなりますので」


 そのように伝え、慌ただしく動き始めた面々の中でザンキさんだけを呼び止める。


「む? どうしたのだ、ロキ王」

「周辺狩場に詳しそうなザンキさんに聞いておきたいことがありまして……まずAランク狩場ってどんなところですかね? これが終わったら行ってみようかなって思ってたので、おおよその場所とか狩場の環境を教えてもらえるとありがたいんですけど」

「ふむ。本来は口外してはならぬ内容だが、我ら魚人はロキ王に未来を託すと決めたからな……」


 はい、そう言われたので聞きました。

 無理なら意地でも自力で探し出すけど、住民の運搬を進めるためにこっちも女神様達と交渉するのだから、せめてここくらいは楽をさせてほしい。

 そんな願いが通じたのか、ザンキさんは言い淀みながらも言葉を発する。


「Aランク狩場 《モデア海底谷》はこのミノ諸島から東南東――約20㎞ほど沖へ向かった海底谷に存在している。だが、さすがにあそこは……どう考えても人間が狩れるような場所ではないぞ」

「と、言いますと?」

「海底谷そのモノは大陸から長く延びているので発見も容易だ。しかし未だどこまで続いているのか分からないほど深くなる箇所があり、その一帯が《モデア海底谷》と呼ばれる魔物の生息域になっているからな。魔物もゆうに1000メートルを超えた深さにしか生息していないし、内部は迷路のように入り組んでいて全容も把握できていない。魚人でも限られた一部の者しか狩れぬのだから、いくらロキ王と言えど、辿り着くことすら困難だと思うが?」

「へえ~それはまた、随分と面白そうなところですね……ふふふ」

「え?」

「ちなみに、普段生息している種類とは異なる、飛び抜けて強い魔物をザンキさんは倒したりしていませんか? 特にBランク狩場の《アムスト海域》で」


 強引に話を変えると、ザンキさんは眉間に深い皺を寄せ、余計に怖くなった顔面のまま唸り始める。

 んー……すぐに答えが出てくるかと思っていたのに、これは当てが外れたかな。


「そのような魔物に出くわしたことはない。珍しい個体ということなら数年に1度、桃色の肌をした一回り小さいケートスが港に入ってくることはあるが、あれはこの上なく美味なのであって、決して強くはないしな」

「ほほぉ……Cランク狩場にいる、ザンキさんくらい大きな海獣ですか」

「うむ。我らは雌のケートスと言っているが、稀に見ることができるくらいで詳しいことはよく分かっていない」


 数年に1度の頻度であれば、まずその桃色ケートスはレア種だろう。

 それはそれで有難い情報だが……そうか。

 ゴアスケイルフィッシュが【呼応】持ちなら、まず【招集】を持つボス的な魔物も存在する。

 そう踏んでいたけど、魚穎番衆の頭だった人が知らないのであれば読みは外している――というより、海洋魔物の性質を考えると重複した狩場は他にもあるので、このミノ諸島周辺にはいなくても、別のBランク狩場にはいるかもしれないのか。

 うわー海の狩場って思っていたよりもヤベぇ……

 想像以上の厄介さに思わず頭を抱えそうになっていると、横でザンキさんが独り言のようにボソリと呟く声を耳が拾う。


「いや、待てよ……あの目玉が、もしかしたらその類いになるのか……?」

「んお? 目玉とは?」

「あ、ああ。私が直接目にしたとかではなく、そのような言い伝えというか、魚人ならどこの家でも子供への躾に使う言葉があってな。一人で勝手に海へ出たり夜更かしをしていたりすると、海底の奥底から巨大な目玉が現れ連れていかれると。私も小さい頃はよく親に言われて、震えていたものだ……」

「……」


 聞いている最中は、巨大な目玉という言葉に惹かれ、もう少し踏み込んだ質問をしようとしたが。

 どこか懐かしむように西の海を見つめ、力なく笑いながら告げたその言葉の意味を理解し、俺は思わず口を噤んだ。

 そうだな。

 この人は幸せな未来があると信じてマリーに子供を預け、そのまま奴隷の一人として奪われている。

 連れ去られた子供達が今どこで何をしているのか……

 そもそも生存しているのかすら、現状では何も分からない。


「お待たせしました、ロキ王。まずは最初の30名が決まりましたよ。既に準備もできています」

「あ、ああ、分かりました。ザンキさん、ありがとうございます。参考になりました」


 キリュウさんから声を掛けられ、慌てたように返事をしながらザンキさんに礼を言う。

 しかしザンキさんはその言葉に反応せず、暫し俺をジッと見据えていた。

 そして、大きな身体を揺らし、目の前で器用に頭を下げ始める。


「ロキ王、新たな魚人種の族長として……そして、一人の親としても、一つロキ王に頼みたいことがある。子供達を――、いや、連れていかれた子供達が今、どこで何をしているのか、何かのついでだっていい。少しでも知る機会があれば、教えてはくれないだろうか……?」


 この言葉と同時に、今まで騒がしかった周囲の声がピタリと止む。

 当事者として、同じように子を奪われた者もいるのだろうし、新族長が早々に頭を下げたことで、何事かと様子を見守っている人達も多いのだろう。

 ザンキさんの場合、こうして断りづらい環境を狙ったというより、先ほどのやり取りがあってこんな話になったんだろうが……まあ、しょうがないか。

 足のない魚人では内陸に連れていかれた時点で救出なんて無理なわけだし、どうせなら出かかった|本《・》|音《・》の方に答えておこう。


「所在を追い求めて探し回るとか、さすがにそこまでのことはできませんけど……もしどこかで魚人を見かけたら、その時はしっかり連れ帰りますよ」

「ッ……感謝する……!」


 そう告げると、先ほどの静寂が嘘のように周囲は沸いた。
577話 魚人の隠れ家

 ようやくこれで10組目。

 元から【魔力譲渡】を引き受けてくれていたフェリンとフィーリルの協力もあり、移住先の広場にはもう500人ほどの魚人が集まっていた。

 しかし、皆同じ反応だな。


「はい、到着です。見える範囲で遊ぶくらいならいいですけど、まだ外に出たりはしないようにしてくださいね」

「「「……」」」


 もうちょっと子供達は喜んでくれるかと思ったんだが、いまいち反応が薄いというか、キョロキョロしているばかりで騒ぐ様子がない。

 人間の子供と違うからかな?

 そんなことを思いながら、すぐ別の場所で待機している二人の所へ向かおうとすると、この町の町長になるキリュウさんが、おずおずと手を挙げながら口を開いた。


「あの、ロキ王。そろそろここがどのような場所なのか、説明してもらいたいのですが……?」

「ん? ここがそのまま、皆さんの住む新しい町になりますよ」

「いや、それは分かっているのです。ただ、どう見ても洞窟の中ですよね? なのに壁や天井から光が漏れていますし、上から水は降ってきますし……このような地形を今まで見たことがないんですけど」

「でしょうね。掘って固めて整えて、こちらで無理やり作り替えていますから」

「「「??」」」


 うーん、本当は運べるだけ運んでからと思っていたけど、しょうがないか。

 今後訪れる人達にはキリュウさんから説明してもらおうと考えを切り替え、一度このタイミングでここがどのような場所なのかを伝える。


「まず、こうして移住計画が始まった切っ掛けは、これ以上被害が増えないよう、異世界人マリーから身を隠すため。そして最悪を想定した場合に魚人の住処を分けておき、万が一にも種が根絶しないようにという意味も含まれています」

「ええ、そのように族長と長老からも聞いております」

「なのでこのような造りにしたんです。ここは大地の一部をくり抜いて作られた魚人の隠れ家。場所は複雑に入り組んだ入り江の奥にありますから、海からは当然として、上空からもこのような町があることは分からないようになっています。それに陸路での到達も、少なくとも周囲数百kmに渡って人は住んでおらず森ばかりですし、厳密には大陸とも繋がっていませんから不可能と言っていいでしょう」

「そ、そんな場所を……しかし、そこまでの僻地となると、私達はやっていけるのでしょうか……?」


 キリュウさんの不安はごもっともで、普通ならそんな環境でまともな生活など営めない。


「だからまあ、当面は僕がマリーのように、皆さんが獲ってこられる資源と引き換えで生活物資を届けるようにするしかありません。なので無理がない程度に頑張ってくださいね」


 そう言って、事前に準備していた一枚の木板をキリュウさんに渡すと、周囲にいた人達も覗き込むように見つめる。


「こ、これは……」

「この周辺を描いた『地図』というモノです。簡易的ですが、黒く縁取った部分に記載の魔物がそれぞれ生息しているので、これなら迷子になることもないでしょう? 余った素材は1階の奥に大きな貯蔵庫を設けているので、そこに置いておいてもらえれば僕が回収しますから。レモラを頑張って獲ってきてもらわないと、なかなか大きなお金にはならないですけどね」

「上空からの景色を描き写しているのか……凄いな」

「キリュウ、大陸にはこのような便利なモノがあるのか?」

「私が向こうにいた頃はこのようなモノなどなかったはずですが……いや、それより今は魔物ですね。レモラが近海にいるのなら、そうお金に困ることはなくなりそうです」

「ああ、それにFランクやEランクの狩場も近くにあるなら、子供達に狩りの訓練だってさせられそうだな」

「お、おい、ここのFランク狩場はミノ諸島にもなかった陸地みたいだぞ!? それなら俺達だって新しい挑戦が――」


 パンパン!

 この町を支える狩り担当の面々が盛り上がっていたので、一度手を叩いて意識をこちらに向けさせる。

 まだ説明しきれていないのだから、その辺りは俺の運搬作業を再開してからやってほしい。


「この魚人の隠れ家は5階層で、1階は港としても使える吹き抜けの水場と先ほどお伝えした貯蔵庫の他、向こうの町にはお店がいくつも存在していたので、それ用に少し大きめの部屋を多く確保しています。ちなみにここは僕も把握しきれていなかったんですけど、魚人の人達は教会って利用してました?」

「ええ、してはいましたが……あくまで残されていた道具を利用していた程度でしょうか」

「道具というと、黒曜板ですかね」

「そうです。いつの時代に置かれたのかも分からない黒い板と、それに女神像はミノ諸島にも設置されていますから、我々のような狩人と島を守る歌姫達は祈祷でスキルを授かったり、自分の所持スキルを確認したりということはしていました。ただ大陸で案内していたハンター達のように、何かしらの"職業"に就くということまではしていませんでしたが」

「なるほど……」


 周囲ではこの"職業"という言葉に、まるで初耳のような反応で驚く人達が多くいた。

 つまり一時は大陸に住み、人間やハンター達と交流のあったキリュウさんだから知っている程度の情報であり、魚人の住むあの町には<神官>の立場に就く者がいなかったということ。

 となると――


「一応、ここの一室にも女神像と黒曜板は設置してあります。上手に利用されていけば、いずれもしかしたら職業選択に必要不可欠な<神官>の適性を認められる方が現れるかもしれません。そうなると様々な面で成長が速くなるので、魚人の未来はより明るくなると思いますよ」


 大陸に住む人間と違い、魚人はファンメル教皇国の管理体制を知らないのであっさりしたモノだな。

 多くは馴染みがないのだから、よく分かっていないような顔をしているが、これであとはフィーリルにでも事情を伝えておけば、魚人の中から神官職が生まれ、それぞれが望む職業に就いてより効率的に成長できる未来が訪れるかもしれない。


「それでは説明の続きを。ここの2階以降は居住区です。大量の小部屋がありますから、あとは皆さんで割り振って自由に使ってください。内側の部屋は光が入らないので、光源魔道具が必須になっちゃいますけどね」

「ロキ王、あのクルクルと回っているモノはなんでしょう? 水も流れているのですが……」

「あれは――ここで一番の特徴となる『ウォータースライダー』ですね」

「……?」


 他はだいたいフェリンとフィーリルが手掛けているけど、あれは俺の自信作。

 よくぞ聞いてくれましたとばかりに答えを告げるも……駄目だな。

 この無反応っぷりは、誰一人として伝わっていないパターンだ。

 それなら誰か実験台に……そう思って見回すと、俺とケイラちゃんに話しかけてきた子供が鼻を穿りながら近くに立っていたので、丁度いいやと抱きかかえる。


「うわー」

「ちょっと遊ぼうか。ここに来た時みたいに、少し動かないでいてね」


 そして5階へ転移し、ポイッと手を放す。

 すると、断続的に響く子供の叫び声。

 しかしそれは楽しげなモノで、グルグルと回りながら次第に下りていき、先ほどの広場へ豪快にダイブした。


「ぶはーすっげぇー!! 何これ! 楽しいんだけどぉ~!?」


 これに子供達が大きく反応して大騒ぎになるが、とりあえず大人にだけ事情が伝わっていれば問題ないだろう。


 ――【拡声】――


「というわけでして、子供達が多いことから作った遊具みたいなモノだと思ってください。ウォータースライダーは5階から直接この広場まで下りるタイプですが、各階層を通りながら、この広場の周りを大きく回るようにして下りてくる『流れっぱなしのプール』もあるので、そちらは普段の上り下り用にでも使ってください。一応手すり付きのスロープも用意していますけどね」

「この水は、どこかの川から引いているのですか……?」

「いえ、どちらも水を生み出す強力な魔道具を埋め込んでいます。真水なので飲み水としても利用できますけど、いくつかある守ってほしいことの1つとして、触れて壊すことだけはないよう徹底して子供達にも教えてあげてください。今の時代では作れないであろうモノを使用していますので」

「「「……」」」


 使っているのはヘルデザートの奥底に埋められ水を放出し続けていた、あの大きなラッパ形の魔道具だ。

 希少だが今のところ決まった使い道もないので、こうした形で活用してみたが……

 うん、周囲は海だし、この環境なら常時使用でもまったく問題なさそうだな。


「お、恐ろしく希少なモノが使われているのですね……分かりました、子供達にも触らないようにと徹底させましょう。それで、他に我々が守らなければいけないこととは?」


 そう問うキリュウさんに軽く頷く。


「2つ目は、ミノ諸島の周辺海域でも歌われているあの歌――というよりスキルを、ここでは使わないようにしてほしいんです」

「え? この地を隠すためにも、【惑声】は非常に強力だと思いますよ?」

「ええ、強力なのは理解しています。ただあの歌は声が届く範囲に必ずスキル使用者が存在し、隠したい何かがあることを自ら告げていることになりますから」

「それは、確かに……」

「そうなると力技で破る方法もなくはないので、ここまで周囲に何もないなら切っ掛けすら掴ませない方が存在を隠せるんです。海で狩っている姿を航行する船に見られたとか、そんな事態になればまた話は変わりますけどね」


 よほど自信があったのだろう。

 力技で破るという発言にキリュウさんを含む大人達はざわつくが、高射程と高威力の範囲魔法を連発できれば実際にできなくはないのだ。

 ガルム聖王騎士国のド田舎に隠された秘蔵院のように、何も手掛かりを得られない方が探す側としてはキツい。

 否定せずにそのまま見つめていると、ここに来ている魚穎番衆の面々が顔を見合わせ頷いた。


「承知しました。では外での活動も、極力荷積みの船は視界が遮られた場所でしか使わないなど、方針を決めて動くようにしていきましょう」

「お願いします。そして最後に、これは守ってほしいというより僕からのお願いですが、ぜひ水場に強い皆さんの力で、この南部に広がる広い海を可能な限り探索してもらいたいのです」

「探索、ですか……」

「ええ。今のところ文献でも情報がまともに出てきていませんし、誰も住んでいないのですから調べようとする人だっていません。船が通る可能性はあったとしても、海図がなければ陸地がある程度見える範囲でしか航行していないでしょうしね。なので沖合いは特に未開の領域である可能性が高いわけです」

「なるほど……目的は新しい狩場ですか?」

「もちろんそれもありますが、より正確にお伝えすれば"違和感"ですかね……海に詳しい皆さんから見ても普通じゃない場所や環境――、それにもしかしたらどこかに島や別の陸地があって、そこに同じ魚人種が住んでいる可能性だって否定はできないでしょう? ノトスさん達も、他の海域に魚人が住んでいるかは分からないという認識なのですから」


 分からないから自分達だけの可能性もあり、こうして種を残そうと大きく動いた。

 でも分からないのだから、もしかしたら人目に付かない所でひっそりと生活を営んでいる魚人がいる可能性だってある。

 そう告げると、この場に集まっていた大人達が再び騒めくが、今回の返答は早かった。


「こうして我々の居住場所まで用意してもらい、さらに生活まで支えてくれようとしてくれているのです。拒否などできるわけがありませんし、我々にだって探索をする利点は大きい……新たなこの町の長として、喜んで海の探索に協力することをお約束しましょう」

「ええ、くれぐれも無理がない程度に、頑張ってみてくださいね」


 どちらが上ということもない、持ちつ持たれつの関係。

 好んでやりたくないという気持ちは今も変わらないが、定期的に生活物資の供給を行いつつ、代わりに海の資源調達と、周辺海域の調査を広く行ってもらう。

 その結果、得られるモノは果たしてあるのか……

 面白い発見があることを密かに期待しながら、一通りの説明を終えた俺は再び運搬作業を再開した。
578話 馬鹿のせいで

 日も暮れ、そろそろ夕飯時ということもあって本日の運搬は時間切れ。

 様々な町を転々としながら上台地に戻ると、食卓には疲れ切った顔をした女神様達が待ち構えていた。

 俺もだいぶゲッソリしている自覚はあるが、女神様のこんな姿を見るのは初めてだな……


「お待たせ、いろいろと回って大量に買ってきたから、今日は死ぬほど食べてね。お礼にお酒もいっぱい買ってきたから」


 そう言いながら次々並べていくと、一斉に伸びる手。


「うぅ~こんな魔力使ったの初めてだからお腹空いたよぉー」

「私もです~喉がカラカラで、もう早くお酒を飲みたくて飲みたくて~」

「ええ、本当に……今日は一段と美味しく感じそうですね」

「腹が減り過ぎて、いつもの5倍食べられそうな気がする……」


 神界で神様としての仕事をしていたリアとアリシアはまだ余力がありそうだが、他の4人はエネルギー補給とばかりに早速食べ物やお酒を口にしていた。

 あくまで身体がスカスカになったような独特の感覚に襲われるだけだから、飲み食いしたって魔力が急に回復するわけじゃないんだけどね。


「それで、全ての人達は運べたのですか?」


 調達してきた刺身を使い、覚束ない手で寿司を握り始めたアリシアに俺は首を振る。


「いや、まだ残ってはいるけど、皆のお陰でもう1000人は切ったんじゃないかな。【魔力纏術】の特訓だけならそんなに魔力は使わないし、あとはマッピングの合間にでも俺一人でゆっくり運んでくよ」

「えーそれなら明日も手伝うよ? 今日よりは早く終わるだろうし」

「そうですね。その方がロキ君もやりたいことをやれるでしょうし、先ほどフィーリルから聞きましたが、移住した魚人の多くが祈りや職業選択に興味を示したとか?」

「うん。今までは魔物と戦ったり、歌で阻害している人達しかまともに利用していなかったっぽいからさ。上手に利用していればいずれ魚人から<神官>が生まれて、職業選択までできるようになったらもっと生活が豊かになるよって話をしたくらいだけど」


 俺自身は生まれてこの方無宗教だし、布教活動なんて自分がやられて面倒に感じることを誰かにやりたいとは思わないので、あくまで利用した方が魚人にとっても実利があると伝えただけ。

 それでも女神様達の立場からするとやっぱり嬉しいようで、リステは優しく微笑みながら頷く。


「ならばこの程度の協力くらいはさせてください。種を残すために住処を分けて保護するというのは、私達からしても是非やっていただきたいことですから」

「そっか、ならお言葉に甘えて明日中には終わらせちゃおうかな……でもそこまで保護を推奨するってことは、やっぱり魚人の存在は他じゃ確認が取れないの?」


 なんとなく答えに予想が付きつつ問い掛けると、初めから魚人の保護に意欲的だったフィーリルが答えてくれる。


「そうですね~昔は他の地域でも魚人の反応があったんですけど、下のゼオさんが丁度いたくらいの時代に多くの反応が途絶えてしまいましたからねぇ~」

「あくまで神像を通して反応を拾っていただけ、もしかしたらどこかで生き長らえているかもしれんがな」

「なるほど……」


 つまり、ゼオも把握していないところで、魚人もプリムスに狙われていたということ。

 理由は当然、鳥人と同じであの【惑声】というスキルのせいだろう。

 脅威と感じて殲滅を目的に動いていたのか、それとも別の狙いがあったのか。

 アリシアの作ってくれた、手まり寿司みたいに丸いお寿司を食べながら暫し考えていると、ふいに目の前でニギニギしていたその手が止まる。


「……ちなみに、争い事の方は大丈夫ですか? 今回の件に転生させた者が関与しているという話ですし、大きな戦争に発展するとか、そのようなことは……」


 その声に釣られて見上げると、アリシアは不安そうな表情を浮かべながら俺を見つめていた。

 だから笑顔を作り、軽く頷く。


「マリーの支配下にあった族長が数人の部下を使って襲ってきたけど、そんな大きな争いにはなってないよ。1日経っても目立つ動きがないし、向こうも様子見って感じじゃないのかな?」


 そのように事実を告げると、アリシアだけでなく、顔に出やすいフェリンやリルまでホッと安心した様子を見せていた。

 まあ、今回の襲撃に失敗した事実を理解しているのなら、俺が大々的な報復にでないか焦っているのはマリーの方で、余計に被害が拡大するような選択など自ら取ってきたりはしないだろう。

 テリア公国の見限り方や、方々から能力のある人材を搔き集めていることを考えても、今は足取りが追いやすいこの状況を利用して、ローコストで俺を殺し切れそうなら狙うかもしれないという程度。

 基本は戦力の温存と拡充を最優先に考えているんだろうからな。

 だが行く先々で俺がマリーの暗躍を潰して回っているのだから、当然こちらに対するヘイトは溜まり続けているわけで。


(削っていけばそのまま黙って消えてくれるわけもないのだから、いつか必ず限界を迎える……どこかで、必ず……)


 そんなことを思いながら、お礼も兼ねた報告会の時間は過ぎていった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 一方その頃。


「マ、マリー様! どうでしたか!?」


 自室に現れて早々、焦ったように声を掛ける若執事のシェム。

 しかし、主の表情は渋い。


「……駄目だね。まさかとは思ったけど、この時間で町から一切反応が拾えないんだ。まず間違いなく殺られている」

「では、やはり犯人は……?」

「最近は沿岸部からの報告ばかり入っていたんだ。どう考えたってあの小僧以外にいないだろう」

「くっ……またしてもマリー様の邪魔を……!」


 長い時間を掛けて下準備を進め、魚人を実質的な支配下に置いていたのだ。

 要となる族長が殺されたことでシェムは怒りを露わにするが、一方マリーはというと深く椅子に腰掛けたあとは、こめかみに指を押し当てながら宙天を見上げていた。


「マリー様……? どうされたのですか?」

「……普通過ぎるんだよ」

「え?」


 言っている言葉の意味がまるで分からず、その場で固まるシェム。

 その姿に視線を向けることなく、マリーはそのまま言葉を続ける。


「魚人共に偽りとはいえ豊かさを与えていた族長が死んだんだ。普通なら大きな混乱を招いてもおかしくないだろうに、いつもと同じ――いや、今まで見てきた中でも一番町は|静《・》|か《・》だった」

「そ、それは、族長と一緒に魚穎番衆とかいう精鋭部隊や町の住人も多く殺されたとか?」

「にしては町で争ったような雰囲気がまるでない。数までは分からないにしても、魚人の反応は前と変わらず広く確認できたし、宮殿をいつも通りの兵数が見張りについている時点で、魚人共にとっては今が平時と変わらない認識なんだろうさ」

「なるほど……ということは、まだ魚人の連中は族長の死に気が付いていない――」


 言いかけ、シェムは気付く。

 それでは尚更におかしいと。

 マリーが『コストが戻っている』と告げてからもう半日以上経つのだから、基本的には宮殿にいる族長が襲われて、死んでいることにすら気付かないというのはさすがにないだろう。


「あの歌はかなり強力な防壁だが、鉄壁というわけじゃないんだ。万が一に備えて私は確かに、もしロキと名乗る異世界人がミノ諸島に現れたとしても、余計な手出しはするなと伝えたんだけどね……」


 怒りを滲ませたマリーの声にハッとし、シェムもここで事態を察する。


「ま、まさか……族長がマリー様の指示を無視して、異世界人ロキを襲った……?」

「状況から判断すると、その可能性が最も高い……今更なんの目的があって低位の狩場まで巡っているのか知らないが、ロキの目的の1つは間違いなく魔物だ。大方生息域の深い高位狩場に侵入し、海なら殺れると判断したあの馬鹿が私の指示を無視して動いた結果、殺された――どうせそんなところだろう」

「では町に混乱が起きていないのは……あっ! マリー様に取って代わり、異世界人ロキが統治したということですか!?」

「さぁね。領土の拡大を狙って侵攻を繰り返しているタイプじゃないんだから、統治や支配には大した興味もないだろうが……町の様子があれだけ落ち着いているということは、魚人共の拠り所になった可能性は高いか。あの馬鹿か長老のジジイがこっちの情報を吐いてりゃ、うちの信用なんざガタ落ちだろうからね」

「うっ……」


 どこか達観したように語るマリーの予測に、シェムは呻きを漏らすことしかできない。

 高位の海洋資源を安価で独占し、かつ才能のある子供達を標的にして、もっともらしい理由を付けては奪っていたのだ。

 信用のガタ落ちどころか、魚人がアルバートに牙を剥く可能性もあるわけで、問題はここから――そう思っていたところで、マリーも同じ言葉を吐き出す。


「問題はここから、どう出てくるか……」

「ええ、魚人の連中が子供を取り返そうと、海を越えて襲ってくる可能性もありそうですよね。今のうちに国へ通達しておきますか?」

「ふん、水場でしかまともに動けない連中なんて、沿岸部の町に多少の被害が出る程度で大した脅威にもなりはしないよ。それより問題はロキの方だ」

「え?」

「向こうからすれば、海中なら殺し切れると判断して、私が襲わせたと思っている可能性が高い」


 憎々しげな表情でそう告げられ――シェムは数秒、様々な想像を巡らせてすぐに顔を引き攣らせる。

 確実性がないと却下されたが、かつては他の四強を殺しきる選択肢の一つとして、自分が主であるマリー様に進言したこともあるのだ。

 どの程度異世界人を追い詰めたかにもよると思うが……

 ここから先、どんな報復が待ち受けているのか分かったものではない。


「もしかして、事情を知っていそうな魚人の長老に直接委細を確認されなかったのも、そのせいですか?」

「ああ、くだらない正義感で魚人を保護でもしているつもりなら、私が再び接触することで余計に刺激を与えかねない。あの馬鹿のせいでこうなっちまった以上、もう一旦は魚人から手を引くしかないのさ」

「……」


 実際、族長が動かなければ、今も魚人を手中に収められていたのか。

 それは分からない。

 だがマリーと魚人の繋がりは、少なくとも大陸東部では表に出ないよう、この20余年細心の注意を払ってきたのだ。

 族長が余計なことさえしなければ、狩場巡りを目的にしている異世界人ロキが、一時的か継続的かは別として、独占していた海洋資源を世に流出させる程度の被害で済んでいた可能性が高い。

 そう、海洋資源も、希少な魚人という人的資源も、どちらも完全に手放さざるを得なくなったこの状況よりは、遥かにマシな結果で済んでいた可能性が高いのだ。

 そのことに、シェムは後悔の念に駆られて顔を歪める。

 だが、今回ばかりはどうしようもない。

 粗暴で欲深く、上に立つ者としての素養がないと知りながらも、それでも魚人の血を優先し、当時あの者を選ぶことでしかミノ諸島に潜り込める方法はなかったのだから。

 そして功を焦り、目の前の状況を好機と判断して勝手に動きそうな者は、まだ他にも確実にいる。

 二度と……二度とこのようなことがあってはならない……

 今一度国へ念を押し、怪しい動きをしていた者には見せしめを兼ねてすぐにでも粛清を。

 今ある感情を押し殺すように、若干震えながら握りこまれたマリーの拳を見て。

 若執事シェムは不安の残る現状の中でも、今は優先して取るべき行動を取っていくしかないと動き始めた。
579話 モデア海底谷

 緊急の連絡用となる鳥を配置し、一通りの荷物もミノ諸島から持ってきた。

 あとはクアド商会で見繕った生活物資と食料を適当な空き部屋に放り込めば終了だ。


「このくらいで大丈夫そうですか?」

「ええ、まだお渡しできるほどの漁獲もないというのに、いきなりこれほどの支援をいただけるとは本当にありがとうございます。早速これから周辺地域の探索を進めつつ、ロキ王に十分なお返しができるよう様々な素材を調達してきますので」


 そう言って頭を下げる新町長のキリュウさんに、あまり畏まられてもなぁと思いながら苦笑いを浮かべる。


「せっかくこうして新天地で生活を始めるわけですから、まずは皆さんこの生活を楽しんでくださいよ。素材の調達はゆっくりでも大丈夫ですから」


 望んで損をしたいとかそんな話ではなく、まだ海産物は売り始めてから日が浅く、需要がまったくと言っていいほど追い付いていないのだ。

 ニューハンファレストのレストランではかなり好評という話を耳にするので、早くベザートの人達もその美味しさに気付いて、いっぱい食べてくれたらいいんだけどな。

 まあ肉と違って海産物の知識を持つ人が、料理長のボーラさんとSランクハンターのノディアスさんくらいしかいないから、そう簡単な話じゃ――……


「……」

「ん? ロキ王、私の顔に何か付いてます?」

「いや、少し気になったことがありまして……魚人の人達って、やっぱり海産物を捌ける人は多いんですよね?」

「それはもう、私達は毎日海の幸を食べて生きていますから、幼子でもなければ大抵の魚人は捌けますよ。逆に獣の構造はあまり詳しくないので、兎や豚を捌けと言われても素材の多くを無駄にしてしまいそうですけどね」


 なるほど?

 となると、今お肉屋ペンゼさんの息子とインド人がボーラさん達に捌き方を習っているはずだけど、この隠れ家で希望者を修業させるか、もしくは魚人をベザートに連れていってもその動きを加速させることはできるわけか。

 ふーむ……


「もし、ですよ。技術の習得を目的に、うちの国に住む人達を一部この隠れ家へ連れてくるとか、もしくは人間や獣人、あとはたまに見かけるドワーフと交流を図りたい魚人の人達なんかがいれば、一時的に内陸の町に滞在させるとかもできるんですけど……どう思いますか?」

「技術の習得、ですか……?」

「ええ、大陸に住む人達ってほとんどが海を見たことすらないですからね。魚人が兎や豚の捌き方に詳しくないように、海産物の捌き方も分からなければ、どの生き物のどこが美味しくて、どんなところを食べると危険なんてことも分かりません。だからせっかく皆さんが獲ってきてくれても、上手に活かし切れないなって思ってまして……」

「なるほど……」

「もちろんそれは逆も然りで、魚人の人達だって苦手な分野を学ぶこともできると思うんです。例えば獣の捌き方に詳しくなれば、近くにいる陸生の魔物や動物だって今後上手に活用できたりとか、ですね」

「……」


 考えるのはリスク。

 キリュウさんを含む、過去に人との交流があった人達は、皆が魚穎番衆という魚人の中でも戦う力に秀でた人達ばかりで、いざとなれば自己防衛だってできたわけだ。

 しかし、この提案だとそうはいかない。

 多くの魚穎番衆はBランクとAランク狩場があるミノ諸島に残っているし、こちらに回ってきた人達もあくまで狩り担当なのだから、主に戦う力のない魚人がその役割を担うことになる。

 大昔に暴れ回ったプリムスの非道がこの時代にも伝わっているのなら、人に警戒心を抱くのは当然の話だし、無理強いなどするつもりはないが……


「まあ、お互いに得られるモノがあると思っての提案ですので、じっくり皆さんで検討してみてください。絶対にしなきゃいけないわけではありませんから」

「そうですね……狭い世界の中で生きてきた我々魚人にとっても、まず間違いなくプラスになることだろうと理解しています。なので少しだけ、皆の意見も聞きたいのでお時間をください」


 そう答えるキリュウさんの周囲で、たまたま居合わせこちらの話を聞いていた人達の顔色を見ていると――


(案外、興味がありそうな人って多いのかな?)


 ――そんなことを思いながら、魚人の人達が『サントラス』と名付けたこの隠れ家をあとにした。




 ▼




 一度ベザートで細かい用事を済ませ、ウズウズしながら明るいうちはアルバート国内のマッピングを。

 そして夜になり、ザンキさんに教えてもらった方面をフラフラしていると、俺の【広域探査】でもギリギリじゃないかと思えるほど深い位置から魔物の反応を拾い始める。

 よしよし、とりあえずはAランク狩場 《モデア海底谷》に無事到着だ。

 いつものように氷島を海面へ浮かべ、まずは様子見とばかりに海中へ。

 相変わらず水圧の影響をさほど感じないまま潜り続けていると、【夜目】を通して見える視界の先で、海底谷と呼ぶに相応しい不気味な地形が徐々に姿を現す。

 かなり幅広い海底の亀裂は一層深い暗闇が広がっており、底がどうなっているのか、この段階ではまったく確認できない。

 だが、魔物の反応はこの奥から確かに拾えるのだ。

 今更苦戦するとは思わないが、このAランク狩場の魔物情報は一切手にしていないからこそ――


『割れぬ、光玉よ、行け』


 ――生み出した無数の光源を穴の底へ放り込むと、次第に光玉は数を減らしていき、いったいどこへ消えたのか。

 数分後には、再び底の見えない暗闇の谷間が静かに広がっていた。


「……」


 とはいえ、等高線通りであれば、底は深いところでも推定2000から2500メートルくらいで止まるはずだ。

 この段階で身体に異変を感じられないのなら、まだある程度は潜っても問題ない。

 そう判断して谷の底へ向かうと、暫くして出迎えてくれたのはワニをより凶悪にしたような巨躯な魔物だった。


「エグっ……」


 所持スキルは既知のモノばかりでハズレだが、底から大口を開けて迫ってくる姿と、避けた俺の横をゆっくりと通過していくその巨体は表ボスとなんら遜色のない風格が漂っており、その大きさは30メートル近くあるだろうか?

 なんなら戦った魔物の中では一番大きいアースドラゴンと同じくらいの体躯をしていた。

 こんなの、今は始末の仕方を面倒に感じるくらいで済むけど、駆け出しの頃に出会っていたら失禁確定レベルの怪物である。


「ふん!」

「ゴガァアアッ……!?」


 動きが素早いわけでもないので横から雷撃付きの腹パンをかまし、さすがにこの深さじゃなぁと思いながら【水魔法】を使用。

 魔物の死体を強引に海上へ押し上げていく。

 Bランク狩場までは好んで取っていたこのやり方だが……


「あー無理無理、時間掛かり過ぎだわ」


 さすがにこの巨体と、それに海上までの距離を考えるとあまりに非効率的。

 ならばと海中での『収納』を試みると、やはり纏わりつく水が邪魔して時間は掛かるが、それでも40秒ほどでこの巨大なワニの回収に成功した。

 まあまだマシというくらいで、それでも時間が掛かり過ぎだけどね。

 そして収納後、次にこちらへ迫ってきたのは巨大なムカデっぽい魔物だ。

 スキルを覗くと新規ではないが、かなり久しぶりに見る個性の強いスキル持ちで、どう使うのか興味津々で見守っていると、ムカデは硬そうな外殻の切れ目を自ら切り離し、3分割に分かれた状態で身体を回転させながら襲ってくる。


「うおー生物で【分離】って斬新だな……」


 今までこのスキルを所持していたのは、エントニア火岩洞にいたフレイムロックのみ。

 時間の無駄なので、今回はその姿を見る前にとっとと始末してしまったけど、このムカデも同じように【結合】を所持しているので、放っておけばまた1つに戻ったりするのだろう。


「ん~想像以上に微妙かなぁ……」


 海の狩場は他が良かっただけに、なんともこの《モデア海底谷》は旨味が薄い。

 新規スキルはおろか、スキルのレベルアップも見込めなさそうだし、素材も価値はあるのだろうけど乱獲に適した環境ではないので、1度来れば十分なのではと思ってしまう。

 ワニもムカデもやたらとデカいから、それぞれ10匹ずつでも狩っておけば素材量は十分そうだし――……

 潜りながら、いるはずのもう1種を探していると、ふいに俺の視界から光が失われていく。

 それだけ深く潜ったのだと、最初はそう思っていたが、冷静に考えれば俺は【夜目】を使用しているわけで。

 暗がりでも視界をある程度は確保できるスキルのはずなのに、こんなことがあるのだろうか?

 そんな疑問を感じ始めた時。

 反応を捉え、向かっていた魔物の手前で、不思議な黒い球体らしきモノが薄っすらと海中に漂っているのを確認した。

 間違ってもダークミストみたいなヤバいタイプじゃないことは分かるが……

 近づくほど視界から色彩が失われ、球体っぽい何かが闇の中で溶け込むように同化していく中で、その後方。

 当初から魔物の反応があった箇所に目を凝らすと、壁と一体化したように動かない謎の魔物を発見し、覗いたことで見えた所持スキルに目を見開く。


「…………【月喰】って、なんだよ、そのスキル」
580話 今までで一番ツラい狩場

 倒そうと近づくと、よく分からないまま俺の視界は暗闇に染まり、慌てて"光玉"を生み出すも、その光ですら浮遊する黒い何かの中へとすぐに吸い込まれていった。

 狙っていた魔物自体は動かないので、【気配察知】だけでは反応が拾えない。

 しかし探査系と、それに【魔力感知】でも反応はしっかりと掴めているので、そこにいることは間違いないし見失うこともなさそうだった。

 なら、とりあえず撃ってみるか。

 そう判断してかなり大きめの雷槍をぶっ放すと、あっさり絶命する謎の魔物。

 と、同時に【夜目】を通した俺の視界が急に晴れたので、やはり原因はこの魔物が所持していた見知らぬスキル――【月喰】であろうことを理解する。


「ん~見た目はデカいアンコウか……?」


【擬態】が解除されると、身体の過半を豪快に貫かれた5メートルくらいはありそうな魚がおり、頭から長く伸びた釣り竿のような突起物の先は、先ほど俺が薄っすらと見ていた黒い玉に繋がっていた。

 アンコウは【月喰】の所持レベルが2だったため、そもそも使えるタイプなのかもまだ分からない。

 が、ここで唯一の新規スキルだ。

 密度が低く、広く分散するように生息している魔物をシバきながらこのアンコウを狙っていき――


『【月喰】Lv1を取得しました』


 アナウンスが流れてすぐにステータス画面を確認。

 白文字であることに思わずガッツポーズをとりながら詳細を確認すると、このように書かれていた。


【月喰】Lv1 光を飲み込む黒渦を生み出し、最大量に達するまで周囲を完全な暗闇に染める 対象範囲、飲み込める量はスキルレベルによる 魔力消費50


【穢れた霧】とはまた質の違うタイプ。

 使いどころは難しいが、なにせ【夜目】も無効化してくるのだから、面白いスキルであることは間違いない。

 あとはレベルも最低限上げておきたいところだが。


「ここで無理に動く必要もないか……」


 この段階までいくと下手に狩りにくい狩場で粘るより、【転換】の余剰経験値で上げてしまった方が効率も良いので、まずは見かけた魔物を適度に狩りながらこの海底谷と、その谷間に沿った岩壁の奥。

 この先がザンキさんの言っていた迷路だろうと思いながら、いくつか存在しているポッカリと空いた横穴に視線を向けた。




 ▼




 想像以上に厄介だな。

 外の狩場を一通り確認した俺は、そんなことを思いながら脇から延びる海底洞窟の内部へと侵入していた。

 多少は期待したものの、内部に生息している魔物は巨大なワニがほとんど現れなくなったというくらいで同一。

 なので生み出した光玉を前方に走らせても暫くするとアンコウに吸収されてしまい、迷路を攻略するためのアンテナの役割は果たせなかった。

 かと言って地図を開いても、ここは地下に広がる海底洞窟。

 等高線もこの空間までは反映してくれないので、【夜目】を通しているというのに薄暗く、おまけにクソ寒い海中をひたすら泳いで探索していくしか方法がなかった。

 と言ってもさすがにこれだけだといつ終わるか分からないので、代わりに吸収されない"黒玉"は出しまくっているが。


『殺せ、黒玉』


 前方に向かって無数の黒玉を飛ばし、魔物を始末しながら先を探索させる。

 そして俺はというと、その黒玉の反応を【広域探査】で確認し、無理やり頭の中でここのマップを描いていた。

 スキルで獲得したスーパーな記憶力頼みの力技だが、海中ではまともにメモ書きなど残せないし、転移で強引にここを抜けても泳ぎじゃないと再びここへは戻ってこれないので、いろいろ考えてもこれくらいしか方法がなかったのだ。

 どう考えたって魚人専用に作られた狩場だからだと思うけど、俺にとっては今まで廻った中でも過去一でやりづらく、そしてツラい狩場であることは間違いない。

 まあそれでも、ここで引くなんて選択肢はないけど。

 ただの狩場であればこんな横穴の迷路を作る必要はなく、外にそれらしい表ボスも見当たらなかったのだ。

 となると、高い確率でこの奥にはボスがいて、魚穎番衆の面々も倒していないというのだから、このまま進めば鉢合わせる可能性が高い。

 そう思って彷徨うこと4時間ほど。


「あー……きたかな、これは」


 今までのような、自然に形成された幅も高さもバラバラな地下洞窟という雰囲気から、まるで人工的に作られたトンネルのような……

 直径15メートルほどの幅で均一に掘られた穴は、綺麗に湾曲しながら長く長く続いていた。

 同じ海水で満たされたその空間を少し探索するも魔物はおらず、同じような太さの穴が綺麗に交差していたことで、こんな不自然な地形があるならいよいよここはボスフィールドで確定だろうなと。

 そう思った時。


 ゴゴゴゴ……


 地鳴りのような音と共に海水が急に流れ始め、下から穴一面と言っても過言ではないくらいに大口を開けた何かが俺に向かって迫ってきていた。
581話 早く、寄越せ

 咄嗟の判断だった。


 ――【水蹴】――


 勢いよく水中を蹴って交差していた横向きの穴へ逃げると、向かってきていた謎の何か――いや、魚か。

 サメに近い巨大な魚はそのまま進行方向に沿って上の穴へと抜けていく。

 しかし、凄いな……

 先ほどまで、今までの中でもかなり大型な部類の巨大ワニを見ていただけに、ゴオゴオと音を立てながら真横を泳いでいくアホみたいなデカさの魚に思わず鳥肌が立ってしまった。

 いったい何メートルあるんだ、コイツは?

 さすがにハンスさんが連れてきたあの竜ほどではないと思うけど、それでもなかなか途切れないその全長はゆうに50メートルを超えていそうなくらいに長い。

 そして――


「んお? コイツも【鏡水】持ちか」


 ついでとばかりにスキルを覗くと、同じAランク狩場であり同じ水場。

 共通する部分が多いせいもあってか、ガルグイユが持つ【鏡水】をこのサメも所持していた。

 加えて、見覚えのないスキルが2つ……

 今真横からブチ抜けば、たぶんそのままこの表ボスは殺しきれるだろうけど――いやいや、さすがに初見の、しかもボス魔物でそれは無しだろう。

 得られたスキルが白文字なら詳細は確認できるにしても、やはり文字よりは直接そのスキルを目にした方が効果も分かりやすいわけで。

 死が目前に迫る裏ボスでもなければ、最低限手本となる使い方を確認してからでも遅くはないと、握った拳を少し緩める。

 すると巨大な魚が目の前を通過して間もなく、背中を押されたように海水が激しく流れ出し、碌に身動きも取れないまま流される俺。

 敢えて何も逆らわずに身を任せていると、その俺を追うように、再び後方から猛烈な勢いで巨大な魚が迫ってくる。

 なるほど……交差したこの空間は巨大なパイプのように繋がっているのか。

 そしてこの、ヒレのない俺では無理やりスキルを使わないと抗えないほどの強い流れ。

 それが【水流】と表示された未所持スキルの1つなのだろう。

 まあどう考えても水場限定だし、仮に使えたとしても敵を外へ逃がし兼ねないこのスキルには、さほど魅力を感じないが……

 鋭利で巨大な歯に掴まり、ボスに押されながら緩く曲がるパイプのような水の道を進んでいくと、途中で二手に分かれる分岐がいくつか存在し、立体的な8の字を描くように度々交差点のような交わる箇所を通過していく。

 グルグルと回りながら泳ぎ続けるこのボスを相手に、魚人がレイド戦を繰り広げるとしたらどう倒すのか。

 常に喰われる危険性があるのだから決して弱くはないだろうが、それでも単調過ぎる動きに飽きが生じ、余計なことまで考え始めていると――


「ん?」


 ――掴んでいた歯を含むボスの身体が、一瞬だけフワッと光る。

 それが久しぶりに見る、【硬質化】の合図であると理解したその瞬間。


「ッだ……ぁ!?」


 顔面から腹に掛けて、声が漏れるほどの強い痛みが走って思わず蹲る。

 な、なんだ……?

 何かにぶつかった……というよりは、明らかに斬られたであろう大量の斬り傷が俺の半身に刻まれており、噴き出した血はすぐに海水と混ざり合っていく。

 ボスが僅かに光ったあの時、視線を逸らしたことで何かに攻撃されたのか?


「……」


 なぜかボスも顔面に無数の傷を作っているが、その巨体にぴったりと合わせたような通路を泳ぎ続けたままで、視線を前方に向けてもその先で行く手を遮るような障害物はない。

 ならば、次は絶対に見逃さな――


「うぐ……ッ」


 俺は確かに、前を見据えていた。

 だから間違いなく何もなかったし、【気配察知】や【魔力感知】でも何かがあるような違和感は拾えなかった。

 なのに、また……また何かに無数に切られ、目を見開いていたせいで片目が滲んだように視力を失う。

 もう原因は分かっているんだ。

 このボスが持つ、見覚えのないもう1つのスキル。

 まず間違いなくこのスキルのせいだということは分かっているけど、しかしこうして目の前で食らっても対処法が思い浮かばない。


「ふは……ふははは……!」


 そのことに思わず笑いが込み上げてくる。

 こんなところで血を流す予定などなかったというのに、まさかここまでの傷を負い、片目まで失っているのだ。

 このスキルがもし白字なら、使用場面は限定されるだろうが、それでも間違いなく強い。

 いや、もし水場の使用に限定されず、地上や空中でも同様の効果が見込めるのなら――


「ははっ、あはははは……………もう、いいや。そのスキル、早く寄越せ」


【魔力纏術】――『魔力10000』――【身体強化】――【闘気術】――【硬質化】――【爪術】――【衝撃波】――


 ゴッ!!


「ゴガァォオオオオオ……!?」


 鼻先から腕を突っ込み、頭部を吹き飛ばすつもりで内部から【衝撃波】を放つ。

 これだけデカいと頭部の切断も儘ならず、かと言って【鏡水】持ちに魔法を無暗に撃ちたくはないため苦肉の策。

 それでも穴という穴から赤黒い血を噴出させて動きを鈍らせるが……やはり表ボスだけあってタフだな。

 ならば。


『暴れろ、"黒玉"』


 豪快に開いていた口の中に無数の黒玉を放り込み、そのデカい口を縫うように、指先から伸ばした5本の具現化した魔力で上下の口を貫通させ、強引に縮める。


「ングゥウウウ"ウ"ウ"ウ"……」


 これなら反射したって口の中。

 再びどこかに当たっても、ダメージは全てこのボスが請け負ってくれるのだから無駄にならない。

 しばらく、跳ねるように頭を上下に動かしていたサメは次第に力を失い――


『【水属性耐性】Lv9を取得しました』


『【水流】Lv1を取得しました』


『【水流】Lv2を取得しました』


『【水流】Lv3を取得しました』


『【水流】Lv4を取得しました』


『【水流】Lv5を取得しました』


『【水流】Lv6を取得しました』


『【水流】Lv7を取得しました』


『【熱感知】Lv6を取得しました』


『【熱感知】Lv7を取得しました』


『【鏡水】Lv6を取得しました』


『【座陣刃】Lv1を取得しました』


『【座陣刃】Lv2を取得しました』


『【座陣刃】Lv3を取得しました』


『【座陣刃】Lv4を取得しました』


『【座陣刃】Lv5を取得しました』


 絶命を示すアナウンスが視界の隅に流れ始めたことで、俺はホッと小さく息を吐いた。
582話 座陣刃

【神聖魔法】――『癒せ』


 負った傷を治しながらボスの死体を回収しようとし、今更ながらにふと思う。


「なるほどねぇ……」


 先ほどまでは殺し切ることだけに集中していたので気付かなかったけど、ボスが死に、少しずつ落ち着き始めた水の流れはいつの間にか逆向きになっていた。

 第一段階は背中を押すように水が流れていたのでまだボスから逃げやすく、段階が進むと正面から水が流れてくるため、逃げる力のない者からボスの口に放り込まれる――これが、このボスフィールドの特徴だったらしい。

 まあ今となっては表ボスくらいなら力技で解決してしまうので、もう段階などあまり関係はないが。

 んー……

 転移を使ってあっさり来られる場所ではないし、海上から【広域探査】を使用しても湧きの有無を確認できる深さではない。

 それならザンキさん達にここの情報を教えてしまって、今後は素材を俺が金で買い取るというやり方もありっちゃありだけど、問題はあの人達が安定してこいつを倒せるかどうか――。


 ゴゴッ……。


「…………」


 そんなことを考えていると、聞きなれない音を微かに耳が拾い、暫くして、海水が不自然に揺れたような、そんな気がした。

 誰かが来た?

 いやいや、そんなわけがないだろう。

 こんな場所、【水中呼吸】を持っていなければまず辿り着けないし、魚穎番衆の面々はここに来られるほど途中の迷路を攻略できていないはずだ。

 それに何かが動いたというか、ズレたような……そんな低く響くような音だった。


(どうする……)


 ボスの死体を回収したら、もうここを出ようと思っていた。

 正直に言えばまだ途中の迷路も、それにこのボスフィールドだって全てを把握しきれたわけじゃない。

 ただ慣れない海中での行動は想像以上に負担が大きく、先ほどの攻撃で鎧の一部が裂かれたこともあり、中に入り込んだ海水のせいで寒さの限界を迎えていた。

 だが、ボスの討伐後というこのタイミングでいかにも怪しいフラグが立つと、さすがに話は変わる。


(コレは明らかに違うしな……)


 "海底の奥底から巨大な目玉が現れて連れていかれる"


 ザンキさんの言葉を思い返し、再び目の前のボスに視線を向ける。

 海底の奥底から現れるという点では間違っちゃいないけど、この魚が"目玉"かと言われると、そんな印象を持つ者などまずいないだろう。

 ということは、いつ巷に広まり始めたのかも分からない。

 子供の躾に使われる程度の怪しげな魔物が、本当に存在している可能性も出てきたということ。

 そしてもし実在するのなら、それは――……


 念のため暫くその場で待つが目玉の魔物は現れず、そのまま巨大な魚を収納したら、悩みながらも転移はせずに泳ぎ始める。

 身体が震え、魔力は道中で燃費の悪い"黒玉"を使いまくっていたため、まだ半分程度しか回復してない。

 とても万全とは言えない状況だが、それでも不可解な音の原因と、突入するためのルートくらいは突き止めておきたい。

 そう考えると自然に身体は動いていた。


 わざわざこんな状況で動かなくても、せめて一度休んでからにすればいいじゃん!


 横にリステがいたら何も言わずに泣きそうな顔をし、フェリンがいればこんなことを言いそうだけど……

 フェルザ様が表ボスを倒しただけでそのまま裏ボスを目の前に登場させてくれるような、そんな|ク《・》|ソ《・》|温《・》|い《・》|仕《・》|様《・》にするわけがないからな。

 もし仮にいるとしても、もう1つか2つ、何かに気付くかクリアしないと対峙できない。

 そう判断して、ボスフィールドの途中に存在していた分岐点を調べていると――


 ゴゴッ……。


 再び、何かを動かしたような低く重い音が微かに響き、海水を揺らす。


「……ほらな、やっぱり」


 たぶん、これは閉まった音……要は|時《・》|間《・》|切《・》|れ《・》だ。

 それを証明するかのように、ボスフィールドや手前の迷路を隈なく探索するも、どこかが開いたような怪しい箇所は見つけられなかった。


 はぁ……


 どうやらここも、再びボスが湧きそうなタイミングを狙ってリピート確定らしい。




 ▼




 もう1回とエニーに強請られ、目の前でスキルを発動する。


 ――【座陣刃】――


「ほい、発動させたよ」


 すると、食事中だというのに数名が周囲をキョロキョロと見回した。


「え~やっぱり全然分かんなくない?」

「ですよね……背後の家とか森も普通に見えてますし」

「これでどっかに大量の刃が仕込まれてるってんなら、俺は怖くてその場から動けねーよ」


 カルラとケイラちゃんが揃って首を傾け、角度を変えて発見しようと試みる中、ロッジは早々に諦めジョッキを呷る。


「こうしてみると、やっぱりボスの持つスキルは特徴的というか、過激なモノが多いですよねぇ……」


 そしてリコさんはと言うと、初めから探す気はないようで、俺が渡した追加の魔物情報を眺めながら感心したように声を漏らしていた。


「はは……ボスはそんなもんっていうか、本気で殺しにかかってくるから倒せば名誉になって評価されるし、見返りに大きな戦果も得られるわけだからね」

「じゃあ、今回出会えなかったという裏ボスはもっと凄いスキルを……」

「かもね。まあまだいると確定したわけじゃないし、今回の表ボスが再湧きてくれないと、出会うための最低条件すらクリアできないっぽいんだけどさ」


 あまりにも情報が出回っていないからだろう。

 ダークミストを倒して以降、知識欲から裏ボスに興味を持ち始めたリコさん相手にそんな話をしていると、横の唸り声が次第に大きくなってくる。


「うぅ……ううーっ!」

「エニーよ、何も分からんのか?」

「全然! ってか、師匠はどこにあるのか分かってるの!?」

「正確な場所というわけではないが、方角くらいはな。ロキよ、スキルの発動――というより『設置』に、目視による場所の指定が必要なのだろう?」


 俺に向けられたゼオのこの言葉に、さすがと思いながら軽く頷く。


「正解。厳密には場所と面の範囲指定のためにも、発動時は必ず目を向ける必要があるって感じかな」


 今回の目玉である【座陣刃】は、詳細説明だとこのようになっていた。


【座陣刃】Lv5 一定範囲内に、発動した者以外には不可視の刃を設置する 密度と強度はスキルレベルによる 効果時間3分 魔力消費140


 だが、実際に食らった経験も踏まえて試していくと、多少は応用が利くことも判明していた。

 それは設置面の変化だ。

 何も気にしなければ、10メートル四方程度の平面が生まれ、その中で散らばるように、俺だけが見える大小様々な刃が出現。

 宙に浮いたまま一切動くことなく、触れた者を傷つけて行く手を阻んでくれる。

 が、この面はある程度であれば操作――というよりはイメージによる調整が可能で、形を円にしたり横に長く引き伸ばしたり、表面積が大きく変わらなければ変化を加えられることも判明していた。

 こんなの、広範囲に渡って顔面から血を流していたあのボスを見ていなければ、ずっと気付けないままだったかもしれない。


「エニーよ。対人の基本は"視線"だ。相手が何かを狙う時、多くは目が連動する。己の知識で補えない何かが来ると思ったら、最低限狙いの位置や範囲だけでも特定しろ」

「えー急にそんなこと言われても、私魔物としかちゃんと戦ったことないし……ロキ、もう1回! もう1回やって!」

「ん? まあ、いいけど…………【座陣刃】」


 このスキルは重い燃費さえ気にしなければ、さらに発動させて設置個所を増やすことも可能だ。

 言われた通りに追加すると、今度はエニーがしたり顔で明後日の方向を指さす。


「分かった! 今のはあっちの方でしょ!」

「ぶーハズレ」

「え?」

「そして戦い慣れた者ほど、相手が気付いたことを利用して"間"をズラし、逆手に取って罠に嵌める。また一つ勉強になったな、エニー」

「うぅ……うぅうううーっ! 目なんて見なくったって分かるし!!」

「「「え?」」」


 プルプルと震えだしたエニーは突然立ち上がると、両手を天にかざして大声で叫ぶ。


『降り注げ、"村雨"!』


 すると雨雲があるわけでもないのに、バケツをひっくり返したように降り注ぐ大雨。


「お、おいおい! まだ食ってる最中だってのに、飯が水浸しになるじゃねーか!」

「あああ! 洗濯物だってまだ干したまんまだし、向こうで革もいっぱい干してんだけど!?」

「時と場合を考えんか、このバカモンが!」

「ひぎゃー!」


 いきなりズブ濡れにされて周囲は大騒ぎだが……なるほど。

 こうして広く一帯に降り注ぐと、そこだけ宙で不自然に水が跳ねるため、すぐに何かがあることくらいは分かってしまう。

 水で満たされ、勢いよく流れていたあの時では気付けなかった、不可視の罠の弱点か……これは使う前に知れて良かったかもな。

 そして得意の【火魔法】ではなく、ここですぐに【水魔法】を選択するあたり、この小娘はバカなのか頭が良いのかよく分からない。


「はぁ……エニーよ、不可視の罠を判別する方法として、今のやり方が決して悪いとは思わないが、なんのために強い魔導士になりたいのか、その目的を忘れたのか?」

「そんなの忘れるわけないし! みんなを守れるようになるためにも、私は大ばあちゃんみたいに強くなりたいの!」

「ならばこの程度のことで逃げようとするな。一番の脅威となり得るのは自然災害でも魔物でもなく『人』だ。その脅威から守りたいモノを守るためにも必要不可欠な技術なのだから、1日でも早く要領を掴んで自分のモノにしろ」


 ゼオのこの言葉に、エニーは「ほんと?」とでも言いたげな表情で俺を見るので、少し考えながらも軽く頷く。


「自然災害も魔物も……それに疫病だって、全部大変なのは間違いないけど、それでもあっという間に数万人という規模で人は死なないでしょ。でもラグリースで起きた戦争は、たった数日で百万人以上が死んだんだから、人が一番の脅威というのは俺も正解だと思うよ」

「そっか……」

「だからもし人との戦いを不得手と感じているようなら、今後ベザートやラグリースに危機が迫ったとしても、エニーをその場には連れていけない。足手纏いになり兼ねないから、いくら魔物相手なら強かろうとここでお留守番だよ」


 敢えて不得手と纏めたが、それは強さに直結する技術的な部分もあれば、魔物とは別種の覚悟を問われる部分だってある。

 かつての自分を重ね、中途半端な気持ちでは足手纏いになるか、最悪は敵に利用されてさらに被害を拡大させる可能性だってあるわけで。

 エニーなら大丈夫だろうと、内心そう思いながら強い視線を向けると、予想通りの反応が返ってくる。


「絶対嫌だし! 経験したことがなくて分からないだけなんだから、苦手とか勝手に決めないで! ほら、カルラ! すぐ特訓だよ!」

「え、ボク!?」

「カルラだって分からなかったでしょ! 血ばっかり飲んでないで早く!」


 そう言ってズルズルと引き摺られているその表情を見て――


(どちらかというと、危ないのはカルラの方か……?)


 なんとなくだがそんなことを思いつつ、今日ここに来た一番の目的。

 ほげーっと二人のやり取りを眺めていたケイラちゃんに、サントラスという魚人の隠れ家ができたことを伝えた。
583話 多過ぎ問題

 正直に言えば、ミノ諸島に辿り着いたあたりからどうしようかは悩んでいた。

 そもそもこの地図に"端"という考え方があるのか疑問だが、RPG好きなら世界の"端"というのは大変魅力的に映る場所で……

 何もないまま地図の反対側へ出てしまう可能性も大いにあったが、ゲーム的な要素の強いこの世界ならば、歴史には残っていない隠し的な何かがひっそりと存在する可能性だって低くはないと思っていたのだ。

 だが、本格的に探そうと思うと相当な時間が必要になる。

 地図に反映されるかも怪しい小島から、探査も届かない海底奥深くまで、何ら得られるモノがないかもしれないのに、今このタイミングで広大な海の探索に手を出すのは、さすが順序が違うかなと。

 そう判断して、日中は賊をプチプチと潰しながらアルバート領内のマッピングを。

 夜は【転換】のスキル経験値を貯めつつ、再びグリムリーパーの骨集めに勤しんでいると、不意に視界がチカチカと青く点滅する。

 あれ、またか。

 昨日も報告することが溜まっているという理由で、ヤーゴフさんとダンゲ町長の二人に呼び出されたのだから立て続けだ。

 人が増え、町が大きくなってきているのだから仕方ないことではあるが……


(マンティコアのマイティー君から呼び出しってことは、南側か?)


 町の入り口を見張る、いつものギリオ君からでないことに首を傾げながらベザートへ飛んだ。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 カツン、カツンと、歩く度に音が響く。

 今は隠すように作られた、『暗部』の拠点となる石造りの地下空間。

 その中を歩いていくと、手前にあった大きめの部屋には鉄の拘束具や縄で縛られた者達がそこかしこに転がっていた。


「凄い数ですね……全部で何人くらいですか?」


 そうニローさんに尋ねると、嘆息を吐きながら答えてくれる。


「用意した部屋がまったく足りていないのですから、100人は確実に超えておりますな……ロキ王様、さすがにこの数は放っておき過ぎですぞ」

「ですよねー……」


 呼び出された理由がコレ。

 動き始めたニローさんから、多過ぎる間者の処遇をどうするのか。

 俺と会うこともないまま間者の捕縛が粗方済んでしまったらしく、いい加減指示を仰ぎたいという話だった。

 まあ、そりゃそうだよね。

 明らかに諜報員とは違う、世話係のような人が数人見えるけど、それでもこれだけの数を処分保留のまま生かし続けるのはさぞかし大変だっただろう。


「して、どうされますかな? 聞けば国法もまだ整備されていないようですし、ラグリースのやり方に合わせてもよろしければ、私が責任を持って対処しますが」

「ちなみにラグリースではどうしていたんですか?」

「情報を吐き出させるだけ吐き出させてから首を落とすのが基本ですな。ラグリースが――というより、他所の国であっても間者の対応など似たり寄ったりでしょう」

「あ、どこもそんな感じなんですね……」


 案外重いんだな。

 そんな感情が伝わってしまったのだろう。

 ニローさんは若干冷ややかな視線で俺を見つめる。


「……これだけいればロキ王様が気付かないわけもないでしょうし、今まではどうされていたのですかな?」

「えーと、この国の出禁を伝えて、また来たら殺しますよって。それで町の外に、こう、ぽいっと放り出していましたね……」

「はぁ~~~だからこれほどの数に……いくらなんでも甘過ぎますぞ、ロキ王様」


 もう横から聞こえてくるクソデカ溜め息だけで察しています。

 ただ、俺が日本人ということもあってか、どうにも受け止め方が違うのだ。

 かつて俺の動向を監視していた爆速獣人の時にも思ったこと。

 直接的な敵意がない監視や情報収集なら、それこそ日本でもそこら中で行われていたわけだし、これで極刑というのはどうにもしっくりこない。

 そんな俺の考えを正すように、ニローさんは言葉を続ける。


「断言しますぞ。戦争の切っ掛けは様々にありますが、こと開戦の決定打となるのはこの者達が自国に上げる情報です。動向、戦力、資源、他国との関係性……内通者を潜らせてより精度の高い情報を拾い、勝てる見込みが高いと判断するから戦を起こす。だからあの時、ラグリースも襲われたのです」

「……」

「国を守りたくば、内に入り情報を拾い上げる者達を決して許してはなりません。その情報一つで国が滅び、数百万ではきかない死者が生まれることだってあるのですから」


 そうか……そうだな。

 そもそも扱う情報の質が違うし、うちに敵意や害意がなかったとしても、アースガルドと他国の関係性を調べ上げ、繋がりが薄いようなら第三国に攻勢を掛けるという流れだって十分あり得るのだ。

 収集された情報から広がる影響を考えれば呑気なことは言っていられないし、拾われる情報の程度で対処に差をつけるなんてことも現実的ではない。

 ならば……暫し考えを巡らせ、答えを出す。


「分かりました。では一部を除き、今回はひとまず解放しておきましょうか」

「へっ? ロキ王様、今の話を聞いておりましたかな……?」


 ニローさんだけでなく、口に布を噛まされた他国の間者も俺の言葉に様々な反応を見せるが、話をじっくり聞いた上での結論だ。

 どうせなら無駄にはしたくないし、これが自分の中で一番しっくり来るのだから仕方がない。


「ちゃんと聞いていましたよ。だからここにいる皆さんは、自国に戻り次第よーく所属する組織や国に伝えてください。アースガルドは他国からの諜報活動を堅く禁じ、うちの領土内で諜報活動をしていると判断した時は、程度に限らずもう人としての扱いはしないってね」


 そう告げると、多くの間者は布を噛まされていても分かるくらいに、嘲笑ともとれる笑みを浮かべた。
584話 良くも悪く、普通じゃない国

「へ、へへ……恩赦、感謝する」


 最後の一人が汚い笑みを浮かべながら町の外へ去っていく。

 そんな姿をぼんやり眺めていると、心配そうな表情をしたニローさんが横でボソリと口を開いた。


「本当に良かったのですか? まだこちらはあの者達から何一つ情報を抜いておりませんし、最後の男などあからさまにロキ王様を舐めておりましたが……」

「良いんですよ。あとは町の入り口にも『間諜の類いは立ち入り禁止、これ以上踏み込めば地獄を見る』とでも看板を立てておけば十分でしょう」


 リステにバレたら釣るなと怒られそうだが、この甘く見える対応が理由でベザートに直接危険が舞い込むとは思えないし、より町の安全を確保したいという狙いがあっての行動だからな。

 早速二人して暗部の拠点に戻ると、人の気配が消えた地下には3人の男女が取り残されており、拘束具を付けられたままう~う~と煩く喚いていた。


「さて、始めますか」


 ツカツカと近づき、順に口の布を解いていくと、喋れるようになった途端不満の言葉を漏らし始める。


「な、なぜ他の者達は解放されたのに、私達だけ残されたのですか!」

「そうよ! 私より長くここで動いていたやつらだって大勢いたのに!」

「そ、その通りです。もう二度と貴国には立ち入りませんし、国にもしっかりと伝えますので、私も早く解放して――」


 おかしな話だ。

 なぜか解放しないこちらが悪いような話になっているので、たまらず言葉を被せるように事実を伝える。


「いやいや、無理でしょう。あなた達3人は|2《・》|度《・》|目《・》なんですから」


 すると、すぐに言っている意味を理解したのか。

 1人はハッとした表情を浮かべ、他の二人もマズいと感じたのか、言い訳の言葉を並べ始めるが。


「ち、違います! 私は今回、初めてで……」

「私もです。2度目なんて、そんな……!」

「いやー残念、あなた達の顔や当時の所持スキルもしっかり覚えているんですよね。言ったでしょう? 次に入ってきたら殺しますよって」

「そ、それは……」

「でもあなた達3人|だ《・》|け《・》は、僕の忠告を無視して再び入ってきた。だからもう、うちの長官が予定していた通りに情報を吐かせるだけ吐かせてから殺してしまってもいいんですが――……一応確認です。生きて再び故郷に戻りたいですか?」


 このように告げると、先ほどいち早く察して焦っていた男が声を荒らげる。


「ま、まさか、俺に裏切れという話ではないだろうな!? もしそうなら断固としてお断りだ! 我が忠誠は祖国に対し――っがァアアアッ!?」

「「「!?」」」

「じゃああなたに用はないので、のちの拷問まで静かにしておいてくださいね」


 逃亡防止とこちらの監視を楽にするため両足を切断し、【回復魔法】で止血だけしてから強制的に眠らすと、すぐに次の対象へ目を向ける。


「そこで転がっている男の言う通り、二重間者として今後知り得た情報を可能な限りこちらへ流してくれるようなら生かしますけど……どうします?」

「「……」」


 これでこちらに靡く者は現れるのか。

 悩むその様子を窺っていると、意外にも一番先に口を開いたのはニローさんだった。


「失礼ながら……なぜ、この者達を……?」

「一番手っ取り早くないですか? 個人差はあれど、諜報員としての経験とスキルはあるわけですし」

「それはその通りなのですが、二重間者など各国の諜報を司る機関が最も警戒するところ。特に国外の諜報を任された者達は、下手に口を割らぬよう【奴隷術】を掛けられていることが一般的なのです」

「へ~そうなんですか」

「へ~って……ロキ王様、だから二重間者などそう上手くはいかないですぞ。仮に泳がせても知り得た情報は碌に聞き出せませんし、何より寝返ったと見せかけてこちらの情報だけを都合よく抜き取られる恐れもあります」


 ニローさんは必死にこの提案が意味をなさないと説得してくる。

 しかし、本当にそうなのだろうか?

 事実なら俺の思い描く計画も変更しないといけないが、障害が【奴隷術】だけであればそこまで支障をきたすとは思えない。


「でもニローさんは、そんな【奴隷術】の掛かった相手から情報を引き出そうとしているわけですよね?」

「え、ええ。どれほどの制約や制限を掛けられているかは、人によって違いますからな」

「ですよね。限りあるコストの中で、各国に散る諜報員それぞれに多くの縛りを設けるなど現実的ではないでしょうし、かと言ってあまりに縛りが大枠過ぎては機能しない。だから『自分の素性を話すな』とか『自国に関する情報を喋るな』とか……この辺りが一般的なんじゃないですか?」


 マリーに縛られていた奴隷達は、どれも必要最低限という感じだったのだ。

 言いながら間者の二人に目を向けると、二人共が勢いよく目を逸らす。


「その通りです。もしや、ロキ王様も【奴隷術】を……?」

「ほとんど使うことはありませんけどね。でもまあ、それなら――というより奴隷契約を結んでいるからこそ、より情報を抜きやすくなるんじゃないですかね? 相手は奴隷化しているというだけで油断しますし、彼らは『間者』なわけですから」

「ん? どういうことですかな?」

「泳がせれば、彼らは監査院のような自国の諜報を司る機関にいずれ戻るわけでしょう? そしてそこには各国から拾い集めた情報が集まっているわけですから、彼らは各方面の情報を得やすい立場にあると思うんです。奴隷契約時の制限が掛かりにくい、別の諜報員が調べた第三国の情報を」

「それは確かに、その通りですな……い、いやいやしかし、危うく納得しかけましたが肝心の腹の中は見えませんぞ。本当に寝返ったのかどうか、奴隷化されていてはこちらが【奴隷術】で強制力を持たすことも叶いませんし、今はその気があってもいずれ心変わりをするなんてこともあり得ます」


 行動に移すことはできても、抱えるリスクが段違いに高い。

 そうニローさんは説くも、あくまでそれは一般的な国の話。

 うちは良くも悪く、普通じゃない。


「…………腹の中、見えるんですよね」

「「「え?」」」

「実際はどう思っているのか。心の中も、それに人の記憶も見えるので、寝返ったかどうかなんてすぐに分かるんです」

「じ、冗談、だろ……?」

「そんなの、聞いたこともない、けど」

「い、異世界人とは、そんなことまでできるのですか……」

「まあ、その役目は僕じゃないですけどね」


 やるのは当然、ニューハンファレストの屋上で毎日暇と戦っている女神様しかいない。

 驚愕しているニローさんは未だリルを俺の姉だと思っているだろうし、必要な場面でここに登場させてもなんら違和感は生まれないだろう。

 リルも買い食いしたくてお小遣いが欲しいと言っていたしな。


「それにたぶんですけど、心変わりはそんなにしないと思いますよ。ちゃんと動いてくれているなら余計な干渉をするつもりはありませんし、僕の目的はうちを含め、どこかで起こりそうな戦争を未然に防ぐことであって他国侵攻ではありません。あなた達の祖国や大事な人達を奪おうなんて気はさらさらありませんから」


 このように告げると、目の前で膝を突いていた二人の顔色が変わる。


「……一つ、確認をさせていただきたい」

「なんでしょう?」

「なぜロキ王は、自国ならまだしも他国の戦争まで未然に防ごうとするのですか?」


 この質問にどんな意図があるのかは分からないが、酷く真剣な眼差し。

 ならば俺も真剣に答えよう。


「自分は高い位置からふんぞり返って戦争を起こし、他人の命で身勝手な都合を押し通そうとする生ゴミが死ぬほど嫌いだからですよ」

「ふ、ふふ……ふはは! どんな偽善者ぶった答えが返ってくるのかと思いきや、これはこれは……失礼を承知の上でですが、逆に好感が持てましたよ、ロキ王様」

「……私も一つだけ。西で起きている大規模な戦争に介入されない理由は?」

「うちが実害を被っているわけではありませんし、そもそも西側で異世界人同士がなぜ戦っているのか、僕はその理由すら知らないのですから、このタイミングで介入するほどの動機がないんです。それにどこぞの権力者を数人始末すれば回避できるような戦争と違って、規模も質も、それにうちが抱えるリスクだって段違いに大きくなるでしょうからね」

「つまり自国に被害が及ばないなら、他所でどれほど人が死のうと構わないと?」

「随分な暴論ですねぇ。構わないとは思いませんけど、自分が守るべき対象を蔑ろにしてまで動く義理も理由もないというだけです。僕は神様でもなければ勇者でもありませんので」

「……」


 たぶん、この女は西側から。

 敢えて口にした勇者という言葉に僅かながら反応があったことを考えても、勇者タクヤのいる国か、もしくは協力関係にある国の可能性が高そうな気もするが……

 |こちら《アースガルド》はまだ、判断できるほどの情報がない。

 そう受け止めてくれたなら、この手のタイプは率先して西側の状況を伝えてくれるはず。

 そう思っていたら、ニローさんが先ほどまでとは違う、どこか納得したような表情で口を開く。


「……先ほど多くの者達を解き放ったのはそのためですかな?」

「ええ。あれだけいれば大概の国には伝わるでしょうし、まず間違いなく人を替えるなりして戻ってくる。でも次からは捕まえれば強制的な二択です。これで即戦力となる諜報員もある程度は確保できるでしょうし、結果的にこの国やラグリースだって安全を拾えるんじゃないかなって」

「ふ、ふふっ……まず間違いなく、他じゃ真似をできないやり方でしょうなぁ……」

「なのでニローさんは間者の捕縛と、あとは本気でこちらへ付く気になった人達の管理や情報の集積と精査をお願いします。拒絶した者や偽った者の後始末は全て僕が請け負いますので、好きに尋問や拷問はしてもらって構いませんけど、くれぐれも殺さないようにしてくださいね」

「というと、生かしたまま何かの策に組み込まれるのですかな?」

「いや、僕が綺麗に食べちゃおうかと思いまして。…………冗談ですけどね」

「「「……」」」


 あれだけ人としての扱いはしないと忠告したのだ。

 それでも踏み込み、尚且つこちらに協力しないというのならもはや害でしかなく、そんな存在は心置きなく捻り潰せる。

 そのためにも、まずはリルに事情を話して、直接ここへ転移できるようにして……


「ん?」


 暫し段取りを頭の中で考えていると、再び視界の端が青く点滅する。

 いやいや、ベザートにいるんだからすぐに向かえるけど、最近本当に多いな。

 今度はどこに――


『ロキ、緊急だ、すぐに私の下へ来い。明らかに普通じゃない者が現れた』


 ――頭の中に響く切迫した声。

 それは今しがた考えていたリルのモノだった。
585話 どデカい収穫

「む、早いな」

「あんなこと言われたら当然でしょ。それより普通じゃないって、どういうこと?」


 パッと見渡した限り、町が大きく混乱しているような様子はない。

 それもあって、少し安心しながら目撃者であるリルに状況を確認すると、意外な答えが返ってくる。


「たぶん、ロキと同じ類いの人間だろう」

「え?」

「私はアリシアのように微細な波長の区別などつかないが、この辺りでは見ない不思議な恰好をしていたし、何より私が【神眼】を使ってもスキルを覗けなかった」

「マジか……」


 てっきり異世界人――転生者の誰かが現れたのかと思っていた。

 というより、俺がこの世界に訪れてもう2年。

 当初はそんな可能性も考えながらここを開拓したつもりだったけど、リルがこの屋上で監視をするようになってからは一度も話題に上がることがなく、転移者の存在自体俺の頭の中から消えかかっていたくらいだ。

 それがまさか、ここに来て本当に現れるとは……


「とりあえず、その転移者はどこにいるの?」

「入り口にある小屋だ。いつもいる髭の凄い男が引き取っていた」

「了解、ありがとね。それと町の安全強化でリルにやってもらいたいバイトができたから、この件が落ち着いたら紹介するわ」

「え? ほんと……」


 なんか後ろで言っているけど、今はそれどころではないのだ。

 屋上から飛び降りてすぐに小屋へ向かうと、歳は30代半ばか、後半くらいだろうか?

 作業着だと分かる上下揃いの服を着た男の人が、豪快に喉を鳴らしながら水を飲んでいた。

 机の上に放り出された作業用ヘルメットに印字されているのは……漢字か。


「おおロキ王、早速来てくれたか」

「ええ、町に被害や混乱は?」

「それはないはずじゃ。東区で農作業をしていた住民が、森から突然現れたこの者に助けを求められたみたいでな。そのまま真っ直ぐここに連れてきたと言っておった」

「なるほど……なら間違いないですね。この人は以前に可能性があるとお伝えしていた『転移者』です。ここからは僕が対応します」

「うむ」


 小屋の周囲で様子を窺おうとする者はいないことを把握し、さて、何から確認していこうか。

 正面の椅子に座ろうとすると、男は目を見開き、まじろぎもせずに俺を見つめていた。


「……何を言っているのかは分からないが、君は日本人なのか?」

「そうですけど……えーと、アーユーチャイニーズ?」


【異言語理解】を通して翻訳された言葉を耳が拾っているため、なんの言語を喋っているかは判断できないが、どう見たって目の前のこの人は東洋人。

 それでいて俺の喋る言葉が理解できず、漢字を使っている可能性が高いとなると、もう中国とか台湾くらいしか出てこない。

 その予想は当たったようで、ブワッと涙を浮かべながら何度も頷き、縋るように俺の手を両手で掴む。


「あ、ああ……やっとだ……やっと、わけの分からないこの世界で、初めて……ありがとう……ありがとう……!」


 いったいどれほど森の中を彷徨っていたんだろうな……

 中腰になって手を伸ばした男の左腕や腹には乾いた血が大量に付着しており、指は食い千切られたのか。

 欠損した部分を覆うように衣類を破いた布が巻かれていた。


 ――【神聖魔法】――『治癒』


「ッ!?」

「もう大丈夫ですから。ただ――、まずは僕の言葉を理解してもらうためにも、最低限スキルを取得しにいきましょうか」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 ベザートに辿り着くまで、レベルが上がるほど魔物を倒しているのか。

 言葉が通じないのでは何も分からないため、とりあえず教会に足を運んでみたがスキルは取得できず。

 ならばしょうがないと軽くレベリングを手伝い、身振り手振りに筆談まで使って【異言語理解】のレベル3を取得してもらってからようやく会話が始まった。

 と言っても、目の前の彼は食べながらだが。

 確実に腹が減っているだろうと思ってニューハンファレストのレストランに連れてくと、涙を流しながら次々と口の中に食べ物を放り込んでいく。

 その気持ち、分かるわぁ……


「では食べながらでいいので、まずお名前を教えてもらえますか?」

「あ、ああ、リー・シャーロンだ。君は?」

「僕はロキと言います。この国――って言っても国と呼べるほど人は住んじゃいないんですけど、一応王をやっていますので、リーさんのことは責任を持って保護するつもりですから安心してください」

「ぶふッ!?  お、王……? えっ、いや、すまん……じゃなくて、すみません。もしかして俺は、物凄く失礼なことを……」

「いえいえ、ある程度は融通を利かせられるという意味で伝えただけですから、言葉遣いなんて気にしなくていいですよ。こんな見た目ですし、堅苦しいのは嫌いなので」

「そ、そうか……しかし、まさかの王様で、日本人なのにその名前か……」


 頭を抱え、状況を整理するように大きく息を吐いたリーさんは、今までとは違う生気を感じる眼差しで俺に問い掛ける。


「聞きたいことは山ほどあるが、とりあえずここがなんなのか教えてほしい。剣やら魔法などと言っていたし、本当に俺はゲームのような世界に紛れ込んでしまったってことでいいのか?」

「……そうですね。地球とは明らかに違う、ゲームと現実が混ざったような不思議な世界であることは間違いありません。そして――」


 一瞬、出会って間もないリーさんを相手に、俺がこの世界に来た本当の経緯を伝えてしまってもいいものか、躊躇いを覚えるも……

 2年越しに見つけた、転移者としての情報を擦り合わせられる初めての相手。

 ここしかチャンスはないと覚悟を決めて言葉を続ける。


「――生きてあの森から抜け出せたのは、知る限りだと僕に次いでリーさんで二人目。他は遺留品の一部がいくつか森の中に残されていた程度で、死体すらまともに残ってはいませんでした」

「そうか、他にも……俺だってヘルメットがなかったら、まず間違いなく初日に死んでいた」

「ちなみにリーさんは、なぜこの世界にいきなり飛ばされたのか。何か思い当たる節があったりしますか?」

「いや、まったくだ。今の生活にうんざりしていたっていうのはあるが、そんなの特段珍しい話でもないだろう? 自ら望んだことはないし、何かしらこうなることが予測できていたのなら、さすがにこんな格好で来たりはしない」

「ですよね……だから擦り合わせをしたいんです。なぜ僕達が選ばれたのか。剣やら魔法と先ほど口にしたのですから、ここへ来る前に、こう――どんぐりのような頭をした存在に会っていますよね?」


 もしかしたら、この人には伝わるんじゃないか。

 そんな可能性も考慮し、敢えて口にしてみたが。


「ん? 急に言葉が聞き取れなくなったが、今なんて言った? 俺はいきなり目の前が暗くなって、そしたら―――――――――――んだ。最初は不覚にも面白そうだなって思ってしまったがとんでもない。いきなり辺り一面が森の中なんて詐欺にもほどがある」


 やはり駄目。

 どんぐり頭に繋がるような話は以前と変わらず伝わらないし、逆に俺も何を言っているのか分からなかった。

 しかし、何も収穫がないわけじゃない。

 おおよそ同じようなやり取りが行われ、俺達は同じように森の中で捨てられた。

 となると、俺とリーさんはどこまで同じで、どこかに違いがあるのか……

 今までのような推測ではなく、はっきりとした答えが見つかるかもしれないのだ。

 緊張から喉の渇きを覚えながら1つ1つ確認していく。


「順番にいきましょう。まず最初、僕は『見つけた』と背後から声を掛けられたんですけど、そのようなことは?」

「いや、それは無かったな。急に地面の下に落ちるような感覚があって、工事中の穴に落ちたんだってその時は思っていた」

「なるほど……ちなみに面白そうと感じたということは、断らなかったわけですか?」

「ああ、魔法やらスキルが飛び交うゲームは若い頃にどっぷりハマっていたから、その時はなんとなく、むしゃくしゃしていたこともあって丁度いいかなって」


 リーさんとだけなら、ある程度分かりやすい気もするが……

 俺とリーさんと、それに情報としては断片的だが、古城さんにも繋がる共通点となるとそう簡単には見つからない。

 なので一度共通点から意識を外し、別の取っ掛かりに注目する。

 断らなかったということは受け入れたということ。


「では|何《・》|も《・》スキルを得ずにこの世界へ降り立ったと?」

「そうだが……なんだよ。もしかしてロキは、特別になんか貰えたりしたのか?」

「ですね。僕は何かしらくれるのが普通だと思っていたので、ゲームのようにステータス画面を見られるようにしてもらったのと、あとはゴネにゴネて年齢を若くしてもらっています。元々の歳は30ちょっとだったので」


 そう告げると、リーさんは掻き込んでいた料理の皿を乱暴に置いた。


「は、はぁ!? ちょっ……それはさすがにズルくねぇか!? いや、強さには直接関係ないのかもしれないけどよ……」

「たぶん、そこが大きいんですよね。だから2つとも特例で認められたのかなって」

「いや、ステータス画面は俺だって見えるんだから、その年齢を若返らせてもらった方だ。あの野郎……キャラクリできるなら最初からそう言えって――……」


 怒りながら、それでも食事の手を止めないリーさんを前に、俺は暫し硬直する。

 ほーら、きた……

 転移者同士だからこそ分かる話。

 どデカい収穫1発目だ。
586話 固有スキル

 スキルを得たという認識がないのに、リーさんはステータス画面を見ることができる。

 これはいったいどういうことなのか。

 踏み込んだ質問をすればするほど、俺はあの時フェルザ様に一杯食わされたことが分かってくる。


「つまり、ステータス画面を開けば自身のレベルと魔力を含めた計8種の能力値が表示されていて、スキルツリーも一通り確認できるわけですか」

「そうだな。ただ一部派生形か? 今の俺じゃ中身が分からないスキルもそれなりにあるようだが」

「でも百種以上の基礎スキルは表示されているわけですよね? おまけにその中からいくつか選んで、既に森の中で取得されたと」

「ああ。初めてモグラみたいなのが石を飛ばしてきた時、俺は間違いなくこのままじゃ死ぬって分かったし、実際【探査】がなかったらこの町に辿り着けていなかっただろうからな」

「なるほど……」


 当初はステータス画面を見られると言っても、例えば各能力値や取得スキルのみでスキルツリーは表示されていなかったり。

 もしくはスキルポイントを使用しての取得には制限が掛かっていたりと、何かしら俺のステータス画面とは違いがあるかもしれないと思っていた。

 だって俺はあの時、駄々を捏ねに捏ねてようやく捥ぎ取ったわけだし、フェルザ様だってお手製で凄いと言っていたのだから。

 しかし、実際はどう考えても中身が一緒。

 何も求めずとも備わっていた転移者の基本仕様にも拘わらず、俺は特別に与えてやった感たっぷりの演出をかまされていたわけである。

 あのどんぐり頭が……

 会って直接文句を言ってやりたいところだが、その手段がまったく見当たらないのが恨めしい。

 まあ、それはいいとして。

 やっぱりこの世界では強いな、MMO経験者というのは。

 リーさんの精神面がタフだったというのも当然あるだろうけど、慣れというか、一度スキルを取得しなければ詳細説明が表示されない意地悪仕様だというのに、遭難から始まる危機的な場面を切り抜けるため、適切に必要なスキルを取得していたように思える。

 となると、問題はここから。

 なんとも言えない緊張感を紛らわすよう、一度大きく呼吸を整えてから再び切り出す。


「【探査】を取得されて難を切り抜けたことは分かりました。でもそれ以外のスキルは使わなかったんですか?」

「【回復魔法】とか【水魔法】とか、欲しいスキルはいくつもあったさ。ただとにかく村でも集落でもいいから、まずは人が生活している場所を見つけないと俺はもたないって思ってな。魔物との戦いは極力避けていたから、それ以上はスキルポイントが足らなくて取得できなかった」

「……そうでしたか。ちなみにスキルツリーを一通りスクロールしたあとの最下部に、<その他>枠があるのって知ってます?」

「ん? ちょっと待ってくれ……あー確かにあるけど、それがどうかしたか?」

「そこに何も表示されていませんか?」

「いや、何もないが。あ、若返ったって話だし、ロキはここに特殊なスキルでも表示されているのか?」

「ですね。って言っても、それはこの世界で生活しながら取得したモノで、最初に得られたであろうスキルは今も『空白』のまま、何かがあることくらいしか分からない状態なんですけど……」

「へ~聞いたこともない仕様だな。"隠しスキル"と言えば聞こえはいいが、本人にも分からないんじゃ意味がないだろ」


 リーさんの言葉にその通りと深く頷きながら、また1つ、曖昧だった疑問の答えが導き出せたなと一人納得する。

 俺に隠されたスキルは、転移者特有の共通スキルなのか、否か。

 その確証を得るためにも、先ほどまで<デボアの大穴>で軽くレベリングを手伝っていた。

 入り口まで釣った蟻を俺が【手加減】で瀕死にし、貸し出した武器でリーさんが止めを刺す。

 これで俺と能力が同じなら、たった1匹であろうと<その他>枠に魔物の専用スキルがいくつか並ぶはず――そう思っていたわけだが、あの時リーさんが反応を示していたのは自身のレベル上昇のみで、今もこうしてスキルが表示されていないというのだ。

 これで魔物なり人なり、殺すことでその生物からスキル経験値を奪えるというのは、俺だけの固有スキルであることが間違いなくなった。


(となると、問題は3つか……)


 下に続くスキルがなければあるのかないのか、存在自体が不明な『空白』スキルを、リーさんは果たして所持しているのか。

 これは魔物専用スキルでなくとも、【魔物使役】や【転換】、それに女神様から貰える特殊な職業加護系統のスキルも<その他>枠に入るので、さすがに【奴隷術】は取得条件の問題で回避したいが、確かめる術はあるわけだからさほど大きな問題ではない。

 まずは空白スキルの有無と、もしあった場合、いくつ空白スキルを所持しているのか。

 その数によっては――というより、俺だってあの場ではフェルザ様から何も知らされることなく、実際は隠しスキルを所持していたのだ。

 まず間違いなく、リーさんも俺と同様に何かしらの特殊な固有スキルを抱えている。

 いったい、それがなんなのか……


 気付けば腹も満たされたのか。

 リーさんの食事の手も止まり、それでも二人の会話は続いていく。

 と言っても、俺はほぼほぼ質問に答える側だ。

 話の流れからスキルや魔法、それに魔物だけでなく、この世界には長い歴史があって。

 悩みを抱える女神様が、俺達とは違う『転生者』をこの地に呼び寄せている事実を伝えると、リーさんは過去の俺と同じ。

 とてもじゃないが納得しきれないといったような表情を浮かべていた。

 でも――


「その代わりに、リーさんだけが持つ固有のスキルを抱えている可能性があります」

「それはつまり、若返ったことだけでなく、他にもロキは何か特殊なスキルを持っているってことか」

「ええ。詳細は伏せさせてもらいますけど、リターンは大きく、孕んでいるリスクも大きい……そんな普通じゃないスキルです」

「じゃあ俺も、普通じゃないスキルを……」


 想定していたよりも、薄い反応。

 それでも、リーさんの考えを確認するために言葉を続ける。


「なので、どうしますか? 先ほどは2匹だけだったので、ある程度のところまでレベリングを手伝ってもいいですし、何かしたいことがあるなら協力しますけど」

「……ちなみに、戻る手段は見つかっているのか?」

「いえ、残念ながら。というより、今まで望んで探そうと思ったこともありませんでしたね」

「そうか……まあ、そうだよな。王様になっているくらいだし、ロキの話を聞いていても、きっと楽しんでるんだろうなって、そんな気はしていた」

「ですね。僕はこの世界が好きですから」

「はぁ……なんの因果か、俺ももう、一生この世界の住人か……」


 大きな溜め息と共に椅子の背もたれに体重を乗せ、天を仰ぎ見るように呟くその言葉には、絶望とか悲嘆といった感情はあまり含まれているように思えなかった。

 まるで、納得しきれていない自分に言い聞かせているような、そんな雰囲気だ。


「なぜ僕はこの世界に選ばれたのか。その理由を知るためにも、ずっとリーさんとの共通点を探していて……もしかしたら"この世界を楽しめそうな人"が呼ばれていたのかなって、そんな可能性も考えていたんですけど、少し違ったみたいですね」

「そりゃあなぁ……確かにステータス画面がいきなり開いた時は、なんともいえない既視感と懐かしさから、年甲斐もなくワクワクしたってのは正直ある」

「……」

「でもよ、木の上とか穴倉見つけて無理やり寝ようとしても、俺の腕や指を食い千切ろうとするアイツらの姿が脳裏に浮かんで離れないんだ。さっきだって、ロキがいるって分かっていても、デカい蟻を目の前にして足がずっと震えていた。本気で殺そうとしてくるアイツらが、今も怖くてしょうがない……」


 思い返してもみても、自分にはそこまで縁のなかった感情だ。

 でも、自分を食い殺そうとしてくる相手に恐怖を覚えるなんて普通のことで、一度心に深く刻まれたその感情は、俺のように強くなることで解決というわけにはいかないのかもしれない。

 突然始まってしまったリーさんの新しい人生。

 俺がとやかく言う話ではないし、真っ当な道であれば好きなように生きたらいいと思うけど……


「それなら、とりあえずこの町でゆっくりしながらリハビリでもしてみますか? 幸いというか、町の警護は上位のAランク魔物が担当していますので、ここで暮らしていればいずれ見慣れるかもしれませんし」

「ああ、あの見るからに強そうなのか。正直、あれのせいで余計に魔物が怖くなったっていうのもあるが……」

「う゛」

「でもまあ、町の人達は何も気にせず横を歩いていたしな。そのAランクっていうのに慣れておけば、小さな魔物くらいはいずれ屁でもなくなるってか?」


 そう言って笑みを零すリーさんに、俺は安心からホッと息を吐きながら頷く。

 最初は誰だって戸惑いの連続だ。

 でもいずれ心に余裕が生まれれば視野も広がり、挑戦してみたいことだっていろいろと出てくるかもしれない。

 それまではのんびりと、今できることでもしながら心の傷を癒せばいい。

 そんなことを考えながらクアド商会に寄り、衣類や家具など生活物資を一通り調達してから、ニローさんやノアさんも住むアパートの一室へ案内した。
587話 仮説

「――というわけで、彼はとりあえず商会の横にあるアパートで暮らすことになりましたから、よろしくお願いしますね」


 リーさんと別れたあと、対応した結果をダンゲ町長に伝えると、もじゃもじゃのアゴ髭を扱きながらフムと頷く。


「保護する流れになるだろうとは思っておったが……転移者という存在をいまいち掴めておらんでな。そのリーという者は普通の人間と捉えて問題ないのか?」

「そこなんですけどねぇ……」


 町長からすれば当然の疑問だろう。

 実際はノアさんやエリオン共和国で暮らしているルビエイラさん達のように、戦闘技能はからっきしな異世界人だっているにはいる。

 が、ヤバいから名が広く知れ渡るわけで……

 町長を含む大半の人達は、そんな突出したタイプの異世界人しか知らないからなぁ。

 そして俺からすれば、この問いかけは答えに詰まる内容だ。

 何かしらの特殊なスキルを所持している可能性は極めて高いが、傍から見てもなんらおかしな点は見当たらないし、本人だってまったくその性質を理解していない。

 ただまあ……


「僕が少し手を加えましたけど、それでも今の段階でルルブに通うアルバさんやミズルさん達と同等くらいの力量であることは間違いありませんよ。わけも分からないまま魔物に襲われたせいで、彼は今まともに魔物と対峙できないほど怯えていますしね」

「ふむ……ならばそう心配するほどでもないか」

「それに、話した感じでは人柄も問題ないと思いますよ? 食事は教会の炊き出しがあるわけですし、しばらくゆっくり休んだらいいとは言ったんですけど、それは申し訳ないからって早速働こうとしていましたし」

「ほう。となると、今頃は職業斡旋ギルドにでも足を運んどるのか」


 現状無一文なわけだし、当初は日雇いでもやり始めるのかなと、俺もそう思っていたが。


「いや、彼は今、アマンダさんの所にいますよ」

「なんじゃ、あそこにいるということは開発でもするつもりなのか?」

「ん~彼は現場の人ですし、そこまで大袈裟な話じゃないっぽいですけどね。話の流れで、リーさんの想像する"鉄管"がここで作れるのか確認したいっていうから連れていったんです。アマンダさんなら加工が得意な人をいろいろ知っているはずなので」

「まったく話が見えないんじゃが……」

「伝わるか分からないんですけど、リーさんの元々の仕事って水道管の工事業者みたいなんです。だから上手くいけばこの町に下水が通るかもしれないですね」

「???」

「つまり、この町のトイレ事情が大きく変わるかもしれないってことです」




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 その日の夜。

 マッピングを終えて上台地に向かうと、リルも含めた女神様達が待ち構えるように勢揃いしていた。

 当然、求めているのはリーさんの件。

 だから俺も、木板に纏めた情報を先んじて渡す。


「おまたせ。ご飯と一緒にこれも渡しておくから、まずは確認してみてよ」

「えーと、確定、ほぼ確定……こちらの板は不明ですか」

「そそ、マッピング中に考える時間が結構あったからさ。自分なりに整理してみたんだ」


 確定事項と捉えていい内容、考察することで見えてきた事実など、一緒に渡したご飯など見向きもせずに眺める女神様達の姿は非常に珍しい。

 それだけ関心が高く、皆にとっても重要性が高いということ。

 食事を並べながらそんなことを思っていると。


「ッ!? あの者も、ロキと同じようにステータス画面とやらが見えるのか……」


 ステータスという数値に最も興味を示していたリルが、手に持つ木板を眺めながら呟く。


「だね。それはもう確定。スキル化まではほぼ確というくらいでまだ確証を得られていないけど、『転移者』が標準的に備えた能力であることは間違いないと思うよ」

「何も求めずともリーと名乗る人物は手にしていて、その内容にも相違点が見当たらない……なるほど、確かに求めてようやく得られたというロキ君とは状況が異なりますね。ただそうなると、私達が呼び寄せていた『転生者』も、実はこの能力が備わっている可能性があるのではないですか?」


 リステのこの質問に、俺はすぐ首を振る。


「いや、それはないよ。『転生者』であるノアさん――自由都市ネラスの地下で服を作っていた人は、ステータス画面を見られないし存在すら知らないからね」

「あっ、あの時の者ですか……」

「あれ? このステータスを見られるやつって、スキルにはなってるんだよね? 望んだら機能が追加されたって、前にロキ君が言ってなかったっけ?」

「うん、だからほぼ確。スキルのレベル上昇に伴う機能追加っぽい動きがあったわけだから、9割9分スキル化はされていると思うけど、もしリーさんが空白スキルを所持していなかったら、俺は監視でもされていて任意で機能が追加された……勘ぐった見方をすれば、スキルの1つだと思わされていた可能性もあるって感じかな」


 そう告げると、聞いてきたフェリンは明らかに分かっていないような顔して頷いていたが、横のリステとアリシアが頷いているのでまあ問題ないだろう。


「新たな転移者が空白スキルを所持しているかどうかは、まだしばらく確認が取れそうにないのですか~?」

「そこは俺も早めに知りたいし、やりようはあるんだけどね。その人、欠損部位が出るくらい傷を負ってたから、もう魔物に対してトラウマっていうか、心が怯えちゃってるっぽいんだ。想像しただけで身体が震えるような状態なのに、無理やり強い魔物がいる場所に連れ回してパワレベっていうのも酷だし……あーそうだ、アリシア」

「はい?」

「もしリーさんに【神託】とか、<その他>枠に回る職業加護スキルを与えることが可能なら、空白スキルの有無はすぐに判別できたりもするんだけど……どう思う?」


 唐突に話を振られたからだろう。

 顎に手を当て、暫し考え込むアリシアの様子を眺めていると、先に口を開いたのはリルだった。


「【神託】くらいならいいんじゃないのか? 何か問題が起きれば、そのリーとやらを教会に呼び出せるしな」

「うん。それに使うだけで場所を特定できるから、もしどこかに逃げられても居場所を追いやすい」


 リアの言葉を聞いて、俺も最初はそんな目的で与えられたのかなーと思うと、なんとも悲しい気持ちに襲われるが……

 逆の立場になれば分かること。

 スキルを覗けないというだけでも警戒度は跳ね上がるのに、その一部が通常の枠から外れた異能である可能性まであるのだ。

 俺だって不安を覚えるのだから、世界の管理者たる女神様達ならば、余計に対策を講じようとするのも当然のことだろう。


「そうですね……では教会まで来てもらえれば、その時【神託】を授けることにしましょうか」

「了解。それじゃ教会には俺も同行するから、取得後に空白スキルを所持しているかどうかはまたその時に伝えるよ」

「分かりました。その数が分かれば別に判断できることもあるようですし、よろしくお願いしますね」

「あとは、このロキの考察か……」


 リルが再び手に取った木板。

 そこには現状の情報から判断できる考察を纏めていた。


「ロキ君と今回の人、それに古城さん……? 古城さんって、前に私が鞄を拾ってきた人だっけ?」

「そうそう、この3人に分かりやすい共通点があれば、新しい発見でもあるかなーって思ったんだけど、今のところはさっぱり。ただ、俺とリーさんに共通しているこのステータス画面は、もしかしたら付けたくて付けたわけじゃないのかなって」

「どういうことだ?」

「ん~なんとなくなんだけどね。リーさんは望まずとも見えるわけだから、たぶん俺だって同じだったわけでしょ? ステータス画面がほしいなんて注文した覚えはないし、何も言わなくてもたぶん、俺にも備わっていた」

「ふむ……」

「じゃあなぜ、このステータスが存在しない――というより隠された世界で、俺達転移者だけは標準装備にしたんだろうって、その目的を考えてみたんだけど……見当たらないというか、辻褄が合わないんだ」

「「「んん?」」」


 こう告げると女神様達は一斉に首を傾げるが、それは俺も同じ気持ちだ。


「だってさ、これで空白スキルの部分がちゃんと明記されていたら、このステータス画面は俺に固有スキルの存在やその中身を理解させるためなんだって納得できるけど、その肝心の部分をわざわざ空白にして存在自体隠しているわけでしょ? そのせいで俺はある程度を理解するまでにどれくらいだろ……リアと初めて悪党を始末した時だから、この世界に来て半年くらいは掛かったわけだし、ノーヒントのせいで未だ分からない部分を抱えながらやり繰りしているわけだし」

「確かに、ステータス画面という機能に与えられた役割を果たしていないように思えますね……」

「でも、望まずともリーさんには備わっていて、俺も多分備わっていたわけだから、このステータス画面を活かし切れていない感じは、付けたくて付けたっていうより、見せたくない部分だけは|し《・》|ょ《・》|う《・》|が《・》|な《・》|く《・》|隠《・》|し《・》|た《・》っていう方が正解に近いのかなって。それなら、俺やリーさんに【神眼】が通らない理由とも繋がるでしょ?」

「「「……」」」


 正直、マッピング中に暇だからこんなことを考えていたというだけで、仮にこの予想が正解だったとしても、だからなんだっていう話にはなる。

 けど、こうした予想がどこかで紐づいて、大きな答えに辿り着くことだってあるかもしれないのだ。


「あとはそこにもチラッと書いたけど、俺がこの世界に来る6年くらい前って言ってたかな。その時点でこの世界には存在しない地球の遺留品が見つかり、俺がここに来て2年経った今でも、まだリーさんという転移者が運ばれている。しかも転生者みたいな"時の逆転現象"は起きていなくて、地球で俺が攫われてから丁度2年後くらいにリーさんがここへ飛ばされているんだ」

「時の逆転現象とは~?」

「私達が魂を呼び寄せてから――いえ、この世界に来た転生者からすれば、地球で死亡した時期からこの地に再び生まれるまでの順序……ここにズレが生じているようですよ。ロキ君に教えてもらわなければ、私達では気付けなかったことですけどね」

「なるほど……それが、転移者にはない。だからこの仮説に行きつくわけですか」

「うん。少なくとも8年間、こうして俺やリーさんのような転移者がこの世界に運ばれているということは、俺自身も悪党をそれなりに潰して回っているつもりなんだけど、それでもまだフェルザ様は納得していない。その目的を遂行できていないってことになる」

「まだまだこの世界に悪い人達はいっぱいいるってことなのかもしれないけど……」

「いくら潰しても、罪を負う者が消えることはない」

「ああ。それに人口が大きく減少し始めた切っ掛けを考えれば、そのような些末な存在が目的とは考えにくいだろう」

「残念ですけど、もう理由ははっきりしていますからねぇ~」

「ということは……」

「約8年前という時期を考えても、そういうことでしょう」


 大陸の東部は既に俺が状況を伝え、確実にマリーは殺すとまで明言しているんだ。

 大きな動揺は見られないが、それでもアリシアだけは下唇を噛み締め、自責の念に駆られている様子がありありと伝わった。

 が、今更後悔したところで時は戻せないから悩んでいるのだろうし、俺からすれば今更な話。

 重要なのはそこじゃない。


「リル、一応リーさんのことは注視しておいてね」

「む? ここには問題ないようなことが書かれていたが、危険なのか?」

「ううん。強いわけじゃないし、話しやすくて良い人って印象しか持っていない。ただ、もし俺と同じような目的でこの世界に飛ばされたんだとしたら、今世界で暴れまわっている元凶の転生者を討てるくらいの何かを持っている可能性があるわけでしょ?」

「能力は違えど、ロキと同じような性質をもし持っているとしたら……確かにそうだな。その通りだ」

「まあ、それも空白スキル次第だし、持っていたとしたって相応に時間は掛かるだろうけど……って、まずっ! もうご飯が冷めてきてるよ!」

「えーちょっとちょっと!」

「くっ……燃やすか!? 火で燃やして温まるなら、今から【火魔法】を――」


 我に返ったように、ギャーギャー騒ぎながら食事を摂り始めた女神様達を眺めつつ、自身が立てた仮説の結果を反芻する。

 良い話を一つも聞かない帝国のシヴァとは、先々で敵として向かい合う未来をなんとなく予想していたが。


「いずれは、勇者タクヤと戦う日も来るのかな……」


 一人そんなことをボヤきながら、少し冷めたチャーハンを口にした。
588話 空白

「どうです? 何か聞こえました?」

「あ、ああ……『本当に困ったり苦しくなったら、教会でその気持ちを吐き出してほしい』って、頭ん中に若そうな女の声が……凄いな。これがこの世界の女神様なのか?」

「ええ。なんでも答えてくれるってわけじゃないんですけど、僕もこの世界に飛ばされた当初はアレコレ聞いてましたよ。いきなりじゃ分からないことだらけですからね」

「さっきも喋り方が普通の人間っぽかったし、なんだか|GM《ゲームマスター》みたいだな……って、女神様にそんなこと言ったら失礼か」


 翌日。

 教会で【神託】を取得してもらった後の帰り道で、リーさんはそんなことを言う。

 GMとは、なんともMMO経験者らしい言葉だが、あながち間違いというわけでもないだろう。

 管理者として相応しいステータスと重要な情報を持つものの、|開発者《フェルザ様》とは違うので全てが分かるわけではない。

 与えられた権限にしても、罰則不明の制限がいろいろとあるみたいだしなぁ。


「それはそうと、少しは気持ちも落ち着きました?」

「お陰様でな。不思議なほど飯が美味く感じるし、人も親切で優しい。この町に辿り着いても未だ驚きの連続だが……それは良い意味での刺激になっていて、多少は生活を楽しむ余裕が生まれてきたかなって感じてるよ」

「それは良かった……って、ん? なんでこんな所に穴?」


 どうやら期待の新人として初日からアマンダさんに捕食されたらしく、新奇開発所が彼の職場というか、居場所になったのはまあいいとして。

 その裏庭には、いつの間にかテニスコートサイズくらいの穴が出来上がっていた。


「さすがに向こうほどの速度で作れるわけじゃなさそうだけど、それでも俺の想像する下水用の管くらいなら問題ないって言うからさ。重機なんてあるわけないだろうし、それなら俺が掘るしかねーかって、昨日余ったスキルポイントで【土魔法】をレベル1だけ取得してみたんだ」

「え? ってことは、これをリーさんが一人で?」

「ああ。少し試すだけのつもりが面白くて、ついつい魔力がカラになるまでやっちまった。昼間のうちはいいけど、夜は危ないからちゃんと埋めろって怒られちまったよ」

「……ちなみに、"詠唱"はどうしました?」

「んあ? それっぽく、『穴よ開け~』って呟いたら普通に掘れたんだが、もっとちゃんとしたやり方があるのか?」

「あーいや……」


 俺やゼオと同じ、術者のイメージが強く魔法に影響される旧型の詠唱を唱えたということなら、そこは問題ない。

 魔法を覚えたての人が、一人でいきなりここまでのことをやるっていうのも驚きだけど、そこもレベルは20くらいあるのだから納得しておこう。

 しかし……なぜ魔法を使えているのか。

 この答えが分からない。

 リステは以前、俺が森の中で遭難中に魔法を使えなかったのは、神の眷属である精霊が外の世界から来た俺を認識していなかったから。

 だから女神様達と出会ったことが切っ掛けで、使えるようになったのではないかと予想していた。

 だが、リーさんは直接女神様達と顔を合わせたわけじゃないし、使ったタイミングは昨日なのだから【神託】を授かる前。

 話の内容からすると、昨夜に俺が女神様達へ報告していた頃にはもう【土魔法】を使用していたことになる。

 リステもあの時、聞いたことのない現象に戸惑いながら、可能性の高そうな答えを探していたわけだから、実際は違ったのかもしれないけど……

 もしかしたらリルに姿を目撃されたことが、精霊に認められる切っ掛けになったのだろうか?

 それとも――……って、マズい。

 肝心のことを聞き忘れるところだった。


「そうそう、リーさん。ステータス画面の<その他>枠をもう1回見てくれません? 先ほど貰ったスキルがそこに表示されているはずなんで」

「おお、そうだったか。どれどれ……」

「……」


 敢えてそれ以上は触れない。

 傍から見たら、とてもそこに何かが表示されているとは思えない。

 でも俺だから確かにあるんだろうなと分かる瞳の動きを追っていると、眉間に深い皺が寄ったと同時にその動きが止まり――。


「ロキが言っていた"空白スキル"ってのはこれか……」

「……いくつ、ありました?」

「2つ、だな。空いたスペースを考えれば間違いなく2つだ」


 俺と同じ、2つの空白スキル。

 この答えを聞き、やはりリーさんも特異なスキルを抱えている可能性が極めて高いこと。

 そして若返っているのは俺だけなのに、リーさんと俺は空白スキルの数が同じなのだから、これで俺の『若返り』に関する事象が、スキル化されていないことも確定した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 日中の上台地にはアリシアとペットの猫ちゃんくらいしかいない。

 それでもすぐに、リーさんは空白スキルを抱えていて、その数が2つであったこと。

 そして、その結果に伴う事実と予測を伝えておいた。

 ついでにリーさんが、既に魔法を使えていたことも。

 アリシアはその意味をまったく理解していなかったし、何が切っ掛けで使えたのかははっきりとしないままだが、空白スキルは若返りが候補から完全に消え、【神眼】を弾くという転移者に備わった謎の能力も俺にレベル上昇の影響が一切見られないのだから除外。

 これで正体は『ステータス画面』と『固有スキル』であることがほぼほぼ確定的になったのだ。

 そうと分かったのなら、その情報をできる限り利用するまで。

 さしあたって欲しい追加機能はないけれど、とりあえず今後寝る時はステータス画面を開いたままにでもしておいて、少しでも経験値が貯まりそうな行動を取っておいた方がいいだろうし、俺の固有スキルに関しては――……こっちはどうしたものかな。

 本当はもう、経験値としての価値が薄い野盗連中なんかは放っておけっていうことになるんだろうけど、平気で人に害を振りまく存在自体が嫌いでやっているわけだしなぁ。

 そこは損得の話だけでもないので、症状に大きな変化が現れるまでは様子を見ていくしかないか。

 と、そんなことを考えながら南部にある魚人の隠れ家『サントラス』に飛ぶと、丁度町長のキリュウさんが何人もの魚人達と船の荷物を降ろしているところだった。


「こんにちは~」

「あ、ロキ王! すぐそちらに行きますので少々お待ちを!」


 凄いなぁ……

 ミノ諸島やニッカで見た船よりは全然小さいけど、それでももう何隻もの小型船を稼働させ、船の上には見覚えのある魔物がこんもりと載せられていた。


「順調そうじゃないですか」

「ええ、安全のために魚穎番衆の面々が周辺海域の調査から始めているので、まだまだ手探りといったところですけどね」

「それでもEランクの海洋魔物は既に得られているようですし、魔物とは違う海産物もかなりの量が獲れているんですね」


 言いながら船の上に転がる黒いトゲトゲした物体を凝視する。

 俺の知っているサイズよりだいぶデカい気もするが、あの特徴的な姿形は絶対ウニだ……ウニで間違いない。

 この世界にも存在していることに感謝を。

 食える美味いウニであることを願いながら、あとでつまんでみようと心に誓う。


「人の手がまったく入っていないからでしょうか。想像以上に魚貝類が豊富で、漁の経験が浅い子供達にとっても良い訓練の場になっていますよ」

「ほっほ~それはそれは……枯らさない程度に頑張ってくださいね。僕の周囲ではかなり好評なので」


 二人で話しながら向かった先は、広場の近くにある貯蔵庫。

 そこで住民用の食糧とは別に分けられた素材を一気に回収し、代わりにクアド商会から調達してきた生活物資を放出していく。

 うん、鮮度維持のためだろうけど、魚なんて綺麗に内臓を抜かれているし、これは楽でいいね。


「それで、交流の件は結論が出ました?」


 そして今日来た一番の目的。

 技術の習得を主軸とした異種交流の話を振ると、キリュウさんは僅かに苦笑いを浮かべながらすぐに頷く。


「はい。正直に言えば技術というより、人間の生活に興味を示している者が多くて驚きました。これはきっと、ロキ王が治めている町だからでしょうね」

「あー……もしかしてここみたいに奇抜というか、遊べるような町を想像してません?」

「若い世代からそのような話があがっていたので、たぶんその通りだと思います。もちろん我ら魚人が持ち得ぬ知識や技術に興味を持つ者、逆にこの地へ来てくれるならそれらを教えられるという年長者の声もありました」

「テーマパークのような作りにしたのはここだけですからね……でも一定数希望者がいるなら進めていきましょうか。間違いなく他所の国と比べたら安全とはいえ、それでもここよりは危険が伴うことを理解してもらえる人であれば、5~10名ほどですかね……そのくらいなら受け入れられるよう態勢を整えますし、希望者を募って同等くらいの戦闘技能に長けていない人達をこちらへ連れてきますので」

「承知しました。では今晩のうちに希望者から人員を選出しておきますので、また都合のよろしい時にでもいらしてください。日が暮れた後であれば、一部の魚穎番衆以外はここにおりますので」


 ヤーゴフさんには先日会った時に、こうなるかもしれないと事情だけは伝えてあるからな。

 あとは海産物を扱って何かしらの仕事に繋げたい人を職業斡旋ギルドで募れば、移民の人達を中心に5~10人の希望者くらいすぐ集まるだろう。

 こちらから人間を送るにしても、魚人をベザートで受け入れるにしても、どちらもこの『サントラス』の情報が漏れる恐れはあるが……

 仮に漏れたところで、洞窟のような魚人の町がどこかに存在していると知られる程度。

 正確な場所は俺と女神様しか知らないのだから、いくら当事者に聞いても場所の特定なんてできるわけがないし、ベザートに魚人がいると知れば、より一層マリーは魚人種に対してちょっかいを掛けづらくなるはずだ。


(あとは、魚人が住む環境だよなぁ……)


 そんなことを考えながらベザートに帰還。

 素材をクアド商会の地下に放出し、ヤーゴフさんに募集の開始を伝えたら、旧マラガ領とも呼ばれる、現アルバート王国中部のマッピングを再開した。
589話 探し求めていたモノの1つ

「うーん。旧マラガ領だけであれば、内陸にDランク狩場があるみたいですけど、他に中高位狩場と言ったらもう海くらいしか……」

「そうですか。あ、近々魚人の誰かが交易の再開を希望してこの町に訪れると、こちらのギルマスに伝えておいてもらえますか?」

「……え?」


 固まる受付嬢に礼を言い、小さく嘆息を漏らしながらハンターギルドをあとにする。

 これでもう、旧マラガ領に入ってから12件目。

 大きな町だしここなら情報を拾えないかと期待してみたが、道中立ち寄った他のギルドと変わらず、付近に新規魔物の見込みがありそうな狩場はまったく見当たらなかった。

 この辺りは狩場と言えば海だし、魚人種を相手にした交易で栄えていたんだろうしなぁ……

 まずアルバート王国の輪郭を捉え、規模を把握してから内に入ろうとしているのだ。

 しょうがないとはいえ、暫く魔物方面での戦果は期待できなさそうだと、諦め交じりに息を吐きながら町を巡る。

 今までは軽く市場を見て回る程度だったが、最近では規模のそこそこ大きそうな町だといつもこの調子だ。

 マリーが何かしらの能力に秀でた人材を集めているせいか、他では見かけなかった回復効果が(中)のポーションや、初めて見る用途も分からない日用品がチラホラと売られていたりするし、何よりクアド商会の在庫にそろそろ不安を覚えてきたというのも大きい。

 商会の売り物を根こそぎ回収したのは、ガルム聖王騎士国の時が最後。

 以降は資産を抱えた悪党と出会えていないので、物が売れるばかりで補充が心許なくなってきていた。

 それもあって地産と思われるモノは、食材から工芸品まで幅広く纏め買いしていたわけだが。


「んお?」


 大通りの一角で珍しい光景が目に入り、俺の足が止まる。

 路上で露店を開く姿などよく見かけるものだが、そのお店は地面ではなく、固定した馬車の幌を片側だけ捲って何かを並べていた。

 大きな金属の器。

 その中に蓋をされたいくつもの壺が並んでおり、よく見ると器の中は大量の氷と水が入っていて、壺の中身を冷やす目的でやっていることが分かる。

 なんだこれ。

 キッチンカーみたいな見た目も気になるが、冷やしているその中身も気になってしょうがない。

 もしやこの世界ではまだ見かけたことがない氷菓子でも売っているのだろうか?


「あのー、これは何を売っているんですか?」


 思わず問うと、おっさんは良い笑顔で壺の蓋を1つ開けてくれる。

 目に飛び込んできた色。

 そしてすぐに香る匂いが鼻をかすめて衝撃が走った。


「おおっと兄さん! こいつは糞じゃないんだからそんな顔して驚かないでくれよ。実は料理に様々な花を咲かせるとっておきの調味料でな」

「もしかしてソースですか!?」


 パッと見の雰囲気が凄くそれっぽい。

 興奮しながらその名を口にすると、おっさんは目を丸くしたあと、興味深そうに俺を見つめる。


「なんだ兄さん。もしかしてギアラン地方の出身か?」

「あー、いえ。風の噂でこのような調味料があるという話を耳にしてから興味があって、ずっと探していたんです」

「ほう。こいつを探し求めるとは、若いのに良い嗅覚をしている。どうだ? 俺が独自に考案したモノもあるし、特別に味見してみるか?」


 言いながらおっさんが壺の蓋を次々に開けてくれる。

 すると別の調味料でも入っているのかと思っていた中身は、赤みの強いモノからほぼ真っ黒というモノまで、ソースばかりがずらりと並んでいた。

 聞いたことないけどこのおっさん、どうやらソースを専門に扱う人らしい。


「こいつは濃厚なコクと旨味の塊だ。出来上がった料理に合わせて直接掛けてもいいし、こいつを混ぜて煮込むことで味に深みが増す料理だって多い。それこそ俺が独自に調合したこいつなんかは、そこらのパンに付けただけでいくらでも――……」


 おっさんが目の前で力説してくれる中、少しずつ手に垂らされたソースを舐めていくと、かなり甘さが際立つモノから舌に痛みを覚えるほど辛みが強いモノまで様々だ。

 とんかつソースがあれば嬉しいくらいに思っていたけど、これはもう調味料というレベルじゃない。

 先ほど舐めたのは記憶にあるグレイビーソースにかなり近かったし、今垂らされたのはハンバーグがすぐに思い浮かぶのだから、どう考えてたってデミグラスソースだろう。


「……これは全て、あなたが作られているのですか?」

「いや、正確には俺とカミさんの二人だ。こうして俺が売り歩いている間は代わりにカミさんが作ってるからな」

「なるほど……先ほどギアラン地方と言っていましたけど、そちらだとこの手のソースが多く出回っているわけですか」


 探り探りの会話。

 だが目の前のおっさんは気にした様子もなく、反応の良い俺に喜色を浮かべながら答えてくれる。


「だな。って言っても広まっているのは一部で、かなり手間が掛かるソースはそれなりの店や貴族様にしか卸していないはずだから、知らない連中の方が多いと思うが」

「そんな高価なソースを、わざわざ移動してまで……」

「ギアランの地で生まれた至高のソースだ。料理に革命が起きるほど美味いんだから他所にも広めてやりたいが、特にこれからの季節はあまり日持ちしなくてな。俺くらいしかこうして他所に回って売り歩けないんだ」


 そう言うとおっさんは視線を落として、ブツブツと長ったらしい詠唱を唱え始める。

 すると青紫の魔力が掌に灯り、その後すぐに拳大ほどの氷塊が2つ生まれて鉄の器に落ちていった。


「そのための氷か……凄いですね。これほど沢山のソースを作れて、尚且つ【氷魔法】まで扱えるなんて」

「凄いのは一からこれらのレシピを編み出した天才料理人ビスカだ。俺らは教わった作り方を忠実に再現しているだけだからな」

「……」


 話しぶりからこの夫婦ではなく、別に生み出した人がいるだろうなと思っていたけど、なるほど。

 天才料理人ビスカか……

 対面できれば間違いなく判別できるのだから、会えるものなら会ってみたいところだが、さすがにこれ以上話を逸らしては失礼か。

 そう判断しておっさんに本来の目的を告げる。


「とりあえず、全て売ってもらえますか? この味を広めたいという目的もあるようなので、無理がない程度で構いませんから」

「へ? 全てって、全種類ではなくここにあるのを全てか?」

「ええ。このトマトソースだけはパルモ砂国に近いのがあったかなというくらいで、他は今まで見かけたこともなかったので」

「い、いや待て待て。そんな安いもんじゃないし、さっきあまり日持ちしないって言っただろう? 凍らせておけばあと半月くらいは大丈夫だが、常温なら今日か明日には食べきらないと味や風味が落ちて腹を壊すぞ」


 おっさんは心配そうに止めてくるも、その辺りは心配ない。

 ボーラさんに渡せばレストランですぐに消費してしまうだろうし、俺だって肉や野菜にかけて食べたいのだから、今回の分は俺が個人的に収納しておいて、拠点の食事用にとっておいてもいいだろう。

 それより今後、ボーラさん達がこれらのソースを再現できなかった場合に安定して手に入れられるのか。

 そちらの方が俺にとっては重要だ。


「お金はもちろんこの場で支払いますし、喜んで食べそうな人達が僕の周りには多いですからね。消費しきれないという心配はないのですが、逆に不足した場合はどこで買い求めればいいのでしょう? そのギアラン地方にお店を構えているのなら、いずれ立ち寄った際はまた購入させてもらいたいんですけど」

「あ、ああ……西に延びるヒエゴ街道を馬車で6日から7日移動してバハラズマ山道を抜けると、その先がギアラン地方だ。玄関口となるカイナの宿場町からさらに5日ほど北西に向かったアニスタの町に俺の店『トムズソース店』がある……」

「ここから山を越えて内陸に入ったアニスタの町、そこにあるトムズソース店ですね……ありがとうございます」


 結局店主のトムズさんは戸惑いながらも、この町にはまた来ればいいからと、壺ごと俺にソースを売ってくれた。

 言われた代金を払い、次々と収納――と言っても端から見たらその場で消えたようにしか見えないだろうが、渡された壺を仕舞っていると、店主のトムズさんがボソリと呟く。


「見た目からして、そこらの町民ではないと思っていたが、兄さん……あんた、何者なんだ?」

「しがない旅人ですよ。ただあなたと同じように、素晴らしいソースの味をもっと多くの人達に知ってもらいたいなと思っただけです」

「……そうか」


 手間を掛けてまで隠しはしないが、だからと言ってペラペラと素性を明かしたりもしない。

 ここは敵地。

 ニッカの受付嬢みたいに余計な先入観を持たれている可能性があるし、ビスカという人物が存命なのか。

 まずはそこからだと思うが、仮に生きていて上手く隠れ潜んでいる場合、俺が異世界人であることが伝わると最悪は身を隠す可能性もありそうだしな。

 まあどちらにせよ、こうして天才料理人と、さも当たり前のように吹聴されている時点で急ぐ必要まではない。

 そう判断し、町の探索をひとしきり終えたあとは、沿岸部を南下しながらマッピング作業を再開させた。
590話 異種交流の開始

「もうみんな揃ったから、そろそろ行こうか」

「は、はい……!」


 緊張感の伝わるその返答を聞き、小さな肩にそっと手を触れ転移する。
 向かった先は、魚人の隠れ家サントラス。

 そこには町長のキリュウさんをはじめ、他の魚人や別の希望者達も待っていた。


「お待たせしました。この子が最後の希望者、ケイラちゃんです」

「よ、よろしくお願いします、ケイラです!」


 兼ねてより進めていた異種交流。

 魚人は好奇心が強いのか、表情は明るく期待に満ちている様子だが、ベザートから連れてきた8人は皆が揃って不安げな表情を浮かべ、キョロキョロと周囲や今来たケイラちゃんに目を向けている。

 間違いが起きないよう、まったく戦えないような人を条件に選んでいるから余計にだろうな……


「では皆さん、事前にお伝えしていた通り、ひとまず3カ月ほどを目安に双方希望者の入れ替えを行い、他種族との交流を図っていただきながら新しい技術の習得に励んでもらいます。もちろん事情があって戻りたい場合は対応しますが、得られた技術がそのままのちの仕事に繋がるでしょうから、ぜひ楽しみながら頑張ってくださいね」


 そう告げると、魚人側の代表であるキリュウさんが一歩前に出る。


「確かに9名、私が責任を持ってお預かりします。魚人側はこちらの希望者10名です。皆、今後に活かすための技術ももちろん大事ですが、同じくらいに他種族が織り成す文化や生活様式も見て学び、沢山交流を図ってくださいね。きっとその経験が今後の生活だけでなく、心も豊かにしてくれるはずですから」


 その言葉に返事をする魚人の一団は、パッと見た感じだと若そうな人達が多い。

 こちらは一番小さいケイラちゃんから、上はおばあちゃん一歩手前くらいの人までいるので、この辺りの人選には結構な差がある。


「若そうな人達が多いのは今後を見据えてですか?」


 思わず問うと、キリュウさんは苦笑いを浮かべながら答えてくれた。


「それよりも体力重視ですね。魚人街と違って人間の住む町は水路など整備されていないでしょう? どうしても我ら魚人が陸地を移動するとなると、体力が必要不可欠なんです」

「あーなるほど」


 かつて魚人の兵士が槍の石突を杖替わりに、尾ひれをくねくねと這わせて蛇のように移動していたことを思い出し、それもそうかと納得する。

 小一時間掛けて多少は整備したつもりだが、あくまで町の一角。

 なにぶん初めてのことだらけで、あとは実際に生活してもらわないと、どこに不備があるのかも分からない。

 諸々の不安を抱えながら参加者の私物を出し入れしたり、貯蔵庫の物資を回収したり。

 やるべきことをやってから広場に戻ると、最初は不安そうにしていたケイラちゃんの周りに、魚人の町でも俺とケイラちゃんに声を掛けてきた少年など、多くの子供達が集まっていた。

 その様子を見て少し安心する。


「ケイラちゃん、そろそろ行くよ。今度はエニーも連れて、また様子は見にくるからさ」

「はい! ロキさん、私絶対に成長してみせますから!」


 望んで魚人の人達と生活を共にしてみたいと言ったのはケイラちゃんだ。

 少し練習すればなんでも卒なくこなし、スキルの習得を誰よりも喜んでいたケイラちゃんが、どのような結果を得られれば満足するのか。

 それは分からないが、彼女だけは魚人の特性でもある【水中呼吸】を引き継いでいるため、期間の縛りなど設けず本人が納得するまで居てもいいと伝えていた。

 もしかしたら、このまま魚人とサントラスでの永住を望むのかもしれないけど、それならそれで応援しようと。

 そんなことを考えながら別れを告げ、魚人の希望者10名を引き連れベザートへと転移した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 一通りの作業が終わった頃にはもう完全に日が暮れていた。

 それでもこのくらいの時間ならまだ間違いなくいるだろう。

 そう思って職業斡旋ギルドを訪ねてみると、1階の受付業務は既に終わっていたが、目的の人物は建物の上階にいることを【探査】が示してくれる。


「こんばんは~」


 声を掛けてから部屋に入ると、まるで倉庫のように積まれた木板の隙間からヤーゴフさんが顔を覗かせた。


「滞りなく済んだのか?」

「ええ、お陰様で。魚人の方は10名でしたので、早速新しい湖に案内しておきました。学び舎の方にも案内したら、皆が目を輝かせながらすぐにでも通いたいと言っていましたよ」

「そうか。まさか『グラーツ養成学校』最初の生徒が、書物でしか存在を知らなかった魚人になるとは、世の中本当に分からんものだな」


 職業斡旋ギルドと並行して進めていた、仕事に通じる技能を得るための学校。

 国の公共事業として、ニューハンファレストよりもさらに西側の森を広く拓いていたわけだが、ジョブ系は当然として、武術や魔法系統の各スキルにも極力対応できるように。

 そして大量の移民の人達にも仕事が回るようにという副次的な目的もあり、初めからかなり広大な規模で建造が進められていた。

 なのでまだグラーツ養成学校と名付けられた施設は未完であるものの、それはあくまで全体像を見た時の話。

 いくつかに分けられた棟の一部は竣工していたため、使えるところから先に使い始めていこうという話は、先日魚人をこの町に連れてくるとヤーゴフさんに伝えた時から持ち上がっていた。


「ちなみに講師希望者はどれほど見つかりましたか?」

「ロキが条件に加えた職業加護込みでスキルレベル6以上の到達者だと現状6名、スキルレベル5まで落とせば約20名ほどだな。その中にはスキル被りもあるから、各スキルにつき講師を1名と考えた場合はさらに減る」

「ん~やっぱりそう上手くはいかないですよねぇ……」


 本音を言えばそんなものかと思ってしまうけど、こればかりはしょうがないこと。

 レベル6以上のスキル所持者というだけでもだいぶ該当者は絞られるのに、さらに講師への転職も求めているのだから、尚更に条件は厳しくなってしまう。

 手に職がある時点で、職業斡旋ギルドの募集要項など見ていない可能性の方が高いだろうしなぁ。


「でもまあ、魚人のためだけに講師を雇うというのも勿体ないですし、講師の雇用条件をスキルレベル5に引き下げてでも始められるところから始めちゃいましょうか。それでも未経験者からすれば得られる知識や技術は多いでしょうし、スキルレベル6以上の講師に対しては兼業しやすいよう高位技能に限定した短時間の特別枠でも作って、その枠はより高めの授業料を別に設定してもいいでしょうしね」

「そうすれば、高レベルのスキルを持った講師に対して見合った報酬も支払いやすくなるし、後進の育成にも参加しやすくなるか」

「ですね。あとは職種にもよるでしょうけど、直接教えて人材を見定められるわけですから、自分好みの即戦力を捕まえやすくなるんじゃないですか? 学ぶ側だってその形態にすれば、既に基礎知識があって仕事に就いているような人達でも、自分の知らない応用技術だけを学ぶために特別枠の授業だけ参加することができると思いますし」

「なるほど……ふふ、ふふふ……やはりロキとこの手の話をするのは非常に面白い。心が沸き立ち、まるで若返ったような気分になる」

「そ、それは良かったですね……」


 鋭い眼差しで不気味に笑っているヤーゴフさんはちょっと怖いが、たぶん楽しんでいるのだろうから放っておくしかない。

 そう思って最近アルバートで発見した、お気に入りのデコポンみたいな巨大ミカンをそっと渡し、自分も一人で黙々と食べていると、正気に戻ったヤーゴフさんが巨大ミカンの皮を剥きながら口を開く。


「昨日のうちに町長と西の湖を見てきたが、魚人は水辺から満足に出られないのだろう? 滞在するに当たって何かしらこちらで支援が必要なのか?」

「あーその辺りは少し様子を見てみないとなんともですけど、問題なく生活できるようにはしたはずですよ。湖から延びる水路はクアド商会の脇を通ってセイル川に繋げてあるので、必要物資の調達はその水路を使ってできるでしょうし、先ほども移民区に出来始めた屋台の料理を大喜びで食べていましたしね」

「む? 魚人の生活様式はまったくの無識だったが、彼らは金を持っているのか?」

「昔は人間相手に交易もしていたくらいですし、生活の一部としてお金は持っているけど、でも少額でしたね。なので彼ら、まずはここで小舟を作ってから商売するみたいですよ」

「は?」


 ヤーゴフさんが驚くのも無理はない。

 あくまで一時的な滞在だし、当初は移民区で動いているペイロさんとユッテさんペアに頼んで、食事は教会の炊き出しを手配してもらおうと思っていた。

 が、とりあえずということで俺が奢った屋台の料理を食べて、どうやら彼らの考え方が変わったらしい。

 移民者相手にズラリと並んだ屋台の料理を制覇したいと言い出し、貝殻を加工して作った自分達の可愛らしい財布の中身を見て絶望。

 買い食いするためにここでお金を稼ぎたいとか、どこかの女神様みたいなことを言い始めたのだ。

 そのせいで俺は、彼らを送り届けたあとも細かい作業に追われていた。


「先ほど湖の畔にいくつかお店を作っておいたので、そこで夜間限定の屋台をやるみたいですよ。魚介を使った料理は彼らの得意分野でしょうし、幸いその材料はクアド商会に行けば大量にありますからね」

「海の幸を使った屋台か……ならば近いうち食いに行ってみるか」

「ええ。僕も魚人の料理は食いそびれていたので、暫く通おうと思っています」


 西区と呼ばれるセイル川より西側のエリア。

 その入り口付近にあるニューハンファレストやクアド商会のやや南側に位置する移民区と、ドデカい家がいくつか置かれている以外は広い空き地のままになっている高級住宅街。

 その西側に大きな湖を作り、クアド商会の西側で現在建設が進んでいるグラーツ養成学校の付近までその湖を広げていた。

 魚人用というだけならここまで大きくする必要などなかったが、高級住宅街やニューハンファレストの上階からもよく見えるので、景観という目的もあれば、学校で水を使った様々な実習もできるように。

 また西区の方にもいずれ農地が広がった時用の農地用水として、今後この水を広く活用できればという狙いもある。

 湖の中央付近に孤島を作り、そこに魚人用の簡易的なアパートを建てているので、これなら物珍しさから何かを企む人間が現れたとしても、そう簡単には近づけないだろう。


「ではそろそろ狩りに行きますので、学校の方はよろしくお願いしますね。一応僕が少し通ったクルシーズ高等貴族院と、それにかつていた別世界の学校がどのような内容だったかはこちらに纏めてありますから、運営の参考にしてもらえれば」



 職業斡旋ギルドにしろグラーツ養成学校にしろ、動かすために必要な人材は好きに雇用してくれと伝えている。

 なのでさほど運営面の心配はしていないが、学校の方まで纏めるとなると、もうおじいちゃんと言ってもいいヤーゴフさんの身体はもつのだろうか。

 いやしかし、他に校長先生みたいなポジションを担える人なんて思い浮かばないし、本人楽しそうだしな……

 そんなことを考えながら席を立つと、背後から思い出したように呼び止められる声が掛かった。


「そうだロキ、2つ相談しておきたいことがある」

「え?」

「ハンターギルド本部から、正式にベザート支店としての運営認可が下りたと報告があった」

「あ、そういえば本部からの視察があったって、前にヤーゴフさんが言っていましたね」

「ああ。それに伴い、元サブマスのイリーゴをギルドマスターとして運営に当たらせようと思うが、問題はないか?」

「もちろんです。その辺りはお任せしますけど……ちなみに支店として認可を受けると、どんな利点があるんですか?」


 素朴な疑問だ。

 ハンターとしての実績や預け金が他所のギルドに移っても引き継げるようになる。

 パッと思い浮かぶのはそのくらいだが、ベザートはFランクとEランク狩場が管轄の小規模ギルド。

 かつての俺のように、より上位の狩場を目指してマルタなどの外へ出ていく人達はいるだろうけど、支店として認可されたからという理由でこの町が得をするイメージは出てこない。

 そんな疑問に対し、ヤーゴフさんは軽く頷きながら答えてくれる。


「ロキがいるお陰で感覚が麻痺してしまいそうになるが、商人が間に入る前にギルドの支店同士で素材取引を直接行えるというのは大きな利点だ。それにこうして認可が下りれば、今後は情報も入ってくる」

「情報……」

「ハンターギルドは大陸の広域に存在しているからな。それこそ戦火にでも巻き込まれて閉鎖に追いやられれば、すぐにその情報がギルドの各支店に共有される」

「おお、特に西方の戦線を把握する上では大きいですね。暗部のニロー局長にその手の情報は共有しておいてもらえると助かります」

「承知した。それともう1つだが、この国に移住できそうな回復能力持ちの知り合いはいないか?」

「ん? 先ほどの講師とは別件でですか?」

「うむ。ここ最近、大規模な建設作業を進めていることもあって、事故による怪我人が多くてな。治癒所や診療所の類いを求める声はだいぶ増えてきているというのに、任せられるスキル所持者が一向に見つからないのだ」

「あーなるほど。ポーションだけじゃ治せる傷にも限界があるでしょうしね……」


 言いながら記憶を掘り起こす。

 ヒーラータイプの知り合いはいないこともないが、ただそのうちの一人は東に向かうと聞いただけ。

 今どこにいるのか、居場所すらはっきりとしていない。


「分かりました。一応知り合いがいるにはいるので当たってみますよ」


 そう告げて職業斡旋ギルドをあとにする。

 思い浮かぶ二人の顔。

 どんな返事が返ってくるかは分からないけど……


(元気にしてるのかな)


 それでも心なしか、会うことが楽しみになっている自分がいた。
591話 スタークス診療所

 翌日になって真っ先に向かったのは、ラグリース中部に位置するリプサムだった。

 彼女と出会った町であり、今も《ビブロンス湿地》に通っている可能性が高いだろうと、そう思っていたわけだが。


「彼女は1年ほど前の戦争から見かけていませんね。当時マルタに向かう救護部隊に参加していたことまでは分かるんですが……」


 ギルドの受付嬢からこのように言われてしまい、ならばまだ向こうに残っているのかと、だいぶ街並みが綺麗になってきたマルタに移動。

 顔の広そうなオランドさんを尋ねてみたら、眼帯までして顔面の凶悪さに磨きがかかった顔で唸りながら、それらしい情報をいくつか教えてくれた。


 大通りから外れた、民家よりは少しだけ大きいと感じる石造りの建物。

 看板には『スタークス診療所』と書かれており、【探査】が反応しているのだから、この中に目的の人物がいることは間違いない。

 ハンター相手に狩りではなく、町で治癒に専念する仕事をしてみませんかとお願いする予定だったわけだし、既にそれらしいことをやっているのなら提案自体は楽なようにも思えてくるが……

 考えを巡らせながら戸を開けると、むわっとすぐに血生臭い匂いが鼻を掠め、部屋の奥からくぐもった呻き声が断続的に聞こえてくる。

 ロビーは長椅子のような寝台がいくつかあるだけの簡素な作り。

 さすがに部外者がズカズカと中へ入っていくわけにもいかず、どうしたものかと立ち尽くしていると、暫くしてエプロンのような革の前掛けをした女性が赤く染まった布を手に、別室のドアを開けて入ってきた。


「あ、急患ですか? でしたら……って、えっ、あれ?」


 突然のことで混乱している様子だが、マルタで少しだけ見かけたあの時と変わりはない。


「お久しぶりです、アマリエさん。あなたに――……」

「ん、なんだアマリエ。知り合いか?」


 用件を伝えようとしたその時、俺の言葉に別の人物の声が被さる。

 アマリエさんの後に続いて現れたのは、目つきの鋭い年配の男。

 同じように血濡れた革の前掛けをしており、首や頬にも跳ねたであろう血が付着していたが、その男は片腕がなく、一人では外しにくいのだろう。

 右手にはめられた革手袋を、アマリエさんが自然な流れで外してあげながら男の疑問に答える。


「え、ええ。私の命の恩人なんです」

「そうか……」


 男はその答えにさして興味がないのか。

 俺に一瞥くれると、そのまま前掛けを外そうとする素振りを見せながら別の部屋へと消えていく。

 んーこれは……

 どんな関係性かは分からないが、どうにも気軽に誘えるような空気ではない。

 そう感じて、まずはこの状況から把握すべきかと言葉を変えた。


「マルタのギルマスから話を聞いてここに来たんですけど、ハンターであるはずのアマリエさんがなぜ診療所に?」

「同じ救護部隊としてマルタ入りしていた彼に誘われたんです。戦争の爪痕は大きく、決着がついたからと言って引き上げるわけにはいかないから手伝ってほしいって」
「なるほど……あの人も同じ救護部隊で派遣された方だったんですか」

「ええ。彼は私と違い、医師の立場ですけどね」


 この町に残って怪我人の治療に当たっていたのだから、アマリエさんは当然として、あの男も志の高い医師なのだろう。

 しかし彼の纏う雰囲気は、どうにもそれだけではないようにも思えた。

 間違ったことはしないが、生粋の善人というわけではない。

 身近なところで言えば、ヤーゴフさんに近しい印象……

 と、思考が横道に逸れたところでアマリエさんから声が掛かる。


「えっと、それでロキさんはどうしてこちらに?」

「……うちで【回復魔法】を使った治癒所を求める声が多くなってきたんです。それで真っ先にアマリエさんの顔が浮かんで、声を掛けてみようかと思ったんですけどね」


 自分でも、これは厳しいだろうなということが薄々分かっていた。

 その予想通り、アマリエさんは俺の言葉に驚き、自分を頼ってくれて嬉しいと言うが、その後は歯切れが悪く答えに詰まっているような、そんな様子。

 と、ここで医師だという男が険しい顔つきで戻ってきた。

 どうやら少し会話が聞こえていたらしい。


「おい、どういうことだ。彼女をどこかへ連れていくつもりなのか?」

「いやいや、声を掛けさせてもらったのは事実ですけど、無理やりとかではありませんから」

「そうか……優秀な彼女を引き抜くのは勘弁してくれ。補佐がいなくては満足に施術もできんのでな」


 そう言って、肘から先がない左腕を軽く上げる姿を見て。


「ではその腕、元に戻ったらいいんですかね?」


 疑問が口を衝いて出ると、男は一瞬目を丸くしたあとに冷笑を浮かべる。


「この腕は、20年以上前に失ったのだぞ?」

「え?」

「剣を佩いているということはハンターなのだろうが……その反応、知らずにこれまで過ごせてきたとは幸せなモノだ。いいか? |身《・》|体《・》|は《・》|傷《・》|を《・》|覚《・》|え《・》|る《・》んだ。だから負った傷を完治させずに放っておけば、同じ魔法であっても次第に効果が薄まり、いつしかなんの反応も得られなくなる。君の顔が綺麗なままなのも、彼女のような回復職が傷を負うたび手厚く介護してくれたからだろう?」

「ちょっとスタークス!? この人は――」

「あ、いや、大丈夫ですから」


 慌てたようにアマリエさんが叫ぶも、その動きを俺が止める。

 棘のある言葉なんざ今はどうでもよく、それより重要なのは彼が話すその内容だ。

 医学系の本は中身が難し過ぎて敬遠していたというのもあるが、この知識は今までで一度も触れたことがない。

 だが思い返せば俺は自分に対しても他人に対しても、傷を負ってすぐの状態でしか魔法による治癒を行った記憶がなかった。

 精々長いと言っても、生傷が残ったまま生還したリーさんの指や腹を治したくらいだろう。

 だから大した知識がなくとも問題なく治せたということか?


「……良い機会ですし、ちょっと試させてもらいますね」

 ――【神聖魔法】――『治癒』


 別に害があることをするわけではないのだ。

 途中までしか存在しない腕を手に取り魔法を発動させると、すぐに男の情けない叫びが聞こえる。


「うおっ!? な、なんだこの黒いのは……?」

「こ、これも魔力……? しかも、凄い濃密……」


 もう今更隠す気などない。

 気にせず様子を窺うも、男の言った通りでこれといった反応は得られなかった。

 ならば――、収納から取り出した破天の杖を強く握る。


 ――【神聖魔法】――『腕を、戻せ』


 そして皮膚で覆われた断端部を直視し、発動可能なレベル4の最大魔力をぶち込みながら、骨や筋肉が再生するイメージで魔法を唱えた。

 粘ついたように見える魔力が蠢きながら、暫く断端部に纏わりつくが。


「ん~……これでも駄目なのか」


 変化なし。

 つまりこの状態が正常であると、身体が覚えてしまっているということ。

 検証が済み、落ち込むというほどではないが、全力でやっても覆せないほど状態の定着は根が深いんだなと。

 そんなことを考えていると、男がボソリと呟く。


「……今唱えたのは、【回復魔法】や【神聖魔法】とは違う何かなのか?」

「いや、唱えたのは【神聖魔法】ですけど」

「そうか……過去に一度、高名な治癒師と出会い、【神聖魔法】による部位再生も試したものだが……いったい君は何者だ? かつてアマリエを助けたというのだから、リプサムのハンターではないのか?」


 問われ、なんと答えるべきか悩んでいると、代わりにアマリエさんが肘で男を小突きながら答えてくれる。


「お、王様ですよ!」

「は?」

「新しくできたアースガルド王国の! それにマルタや王都を救ってくれたのもこの人ですってば……!」

「……あの、異世界人と噂の?」


 固まったまま俺を見つめる男。

 なので小さく頷く。


「異世界人は噂ではなく、事実ですが」

「な、なぜ、そのような人物が、わざわざアマリエを……?」

「うちにまだ、【回復魔法】の使い手が常駐しているような治癒所がなかったんですよ。だからハンターをやっていると思っていたアマリエさんに声を掛けたというだけで、無理にどうこうするつもりはありません。その腕も治せませんでしたし」


 かと言って他に当てがあるわけでもない。

 どうしても見つからないなら、その時は希望する誰かを力技で、回復職にしてしまうしかないかと。

 そのように考えていたが。


「……アマリエ。お前はどうしたい?」


 男に問われ、アマリエさんは少し悩みながら答える。

 その目は一瞬、男の失われた腕に向けられた。


「私はロキさんに――いえ、ロキ王様に多大なるご恩があります。だから望まれれば力になりたい。でも、そうしたらスタークスの目指す治療が……」

「ああ、そうだな。医療に回復職の力は必要不可欠。だからというわけではないが」


 男は一度言葉を切り、俺を正面から見据える。

 その鋭い瞳には、貫くような強い意志が宿っているように感じられた。


「先ほどまでの非礼はお詫び致します。つきましては私も、アマリエと共に仕わせていただくことは叶わないでしょうか?」

「えっと、仕えるとかそんな大それた話ではないんですが……というか、ここの診療所はどうするんですか?」


 当然の疑問を投げかけると、男は頷く。


「抱えている患者がいるので今日明日というわけではないにしても、一度ここは閉めることになりましょう。戦争の終結からもう1年、当初は山のように加療を要する人間で溢れていましたが、マルタもだいぶ落ち着きを取り戻し、私達がこの街に居続ける理由も薄らいできたところでしたから」


 言いながら男は、見てくれと言わんばかりにロビーを手で示す。

 確かに俺が来た時から人はおらず、その後も誰一人この診療所を訪れてはいない。

 だが……なんだこの引っ掛かりは。

 本音を言えば、傷の治癒だけでなく病にも対応できるようになるのだから、医師という立場であるこの男はぜひベザートに欲しい人材だ。

 しかも【医学】のスキルレベル7とか、かつて人と魔物を組み合わせようとしていた狂人に次ぐくらいのスキルレベルとなると、探してもそう簡単には見つからないほどの逸材だろう。

 しかし男の表情を見ていると、己の我欲を満たすために何かを隠しているような、そんな雰囲気が感じられしまう。


「まずアマリエさんも、それにスタークスさんも、畏まられるのは苦手なので普通の話し方にしてください。それと仕えてほしいなどとは思っていなくて、あくまでうちの町――ベザートで、住民のための病院を開業してほしいんです。もちろんこちらがお願いしていることなので、開業までに必要なことがあれば僕も手伝いますけどね」

「それはつまり、ここと同じように、自由にやってもいいと?」

「ええ、それが多くの住民のためになるのなら」

「ならば尚更に好都合というもの。ロキ王様の期待に応えられるよう、痛みや不自由を感じて苦しむ患者を私がこの手で救ってみせましょう」


 ……これで地位や立場を求めているわけではないことが分かった。

 たぶんこの立地や建物の雰囲気からして、富を求めているということもないだろう。

 それなら町をボロボロにされて金どころではないマルタに残ったりはしない。

 となると、なんだ……

 俺があのイカレ野郎のせいで、高レベルスキルの医者は危ないと思い込んでしまっているだけなのか?


「……1つ教えてください。スタークスさん、あなたがうちに移りたい理由はなんですか? 医療と回復職の繋がりくらいは想像できますが、だからと言ってアマリエさんに拘る必要まではないと思いますし、あなたの本音を聞きたい」


 これで答えがアマリエさんと恋仲にあるとか、そんな話で済むならそれでいい。

 むしろその程度の答えであってほしいと思いながらの問いに、男は一度大きく息を吐いてから観念したように答える。


「……それはあなたがいるからですよ、ロキ王様」

「「えっ?」」


 全身を舐めるような眼差し。

 アマリエさんは横でお化けでも見たような驚愕の表情を浮かべ、自然と俺の手は股間を守るように覆っていた。
592話 呼び起こす医療

「んんっ、勘違いしないでいただきたい」


 男はすぐに訂正を入れると言葉を続ける。


「隠す気もないので、望まれれば全てを打ち明けるつもりですが、まず何からお伝えすべきか……そう、まず私は、"呼び起こす医療"を研究していましてね。……アマリエ、準備を頼めるか?」

「え? まさか、今から自分を?」

「ああ、見てもらった方が分かりやすいだろうと思ってな」

「でも、効果は……」

「先ほど施術した患者を再び触るわけにもいかないだろう。それにこんな機会そうあるものではない。改めて試してみたいのだ」


 何が始まるんだ?

 分からないまま、それでも何かを見せようとしている二人を眺めていると、男は用意された刃毀れの目立つナイフを魔道具で炙り始める。

 そして布を口に噛ませると――


「んぐぅううううう!!」


 血走った目で何度も何度も、失った腕の断端部に自らナイフを突き刺し、噴き出した血が置かれた器をはみ出し周囲を赤く染めていく。

 まるでその部位をぐちゃぐちゃに破壊するような行為。

 慣れない者が見たら卒倒してしまいそうな光景を眺めながら、呼び起こす医療とはそういうことかと。

 おおよそ意味を理解し始めたところで、噛んでいた布を吐き出した男が叫ぶように懇願する。


「も、もう1度! 【神聖魔法】をもう1度、この腕に掛けてはもらえませんか!?」


 まあ、そうくるよね。

 再び破天の杖を取り出し最大魔力で治癒を試みると、次第に出血は止まり、皮膚がゆっくりと傷を覆い隠すように先ほどの形へと戻っていった。

 俺の目には先ほどまでと変わらないように見えるが。


「ふ、ふふ……やはりだ……やはりロキ王様の【神聖魔法】は、何か奥底で疼くモノがある……それが今回でより大きく感じられた……!」

「あっ、形成も以前とは少し異なっているように見えますね……」


 二人はそれぞれ違いを感じられたらしい。

 特に男は度々感謝の言葉を口にしながら、明らかに興奮した様子で感じた異変や自分が意図的に傷つけた箇所など、詳細をアマリエさんに伝えていた。


「先ほども呻くような声が奥から聞こえていましたし、これを普段の診療でもやられているんですか?」

「重度の火傷や骨折をしたまま最低限の生活を強いられ、不完全な形で自然治癒をした者など山のようにいましたから、改善の見込みがある患者に提案し、その上で本人が望むならです。ただ大抵の者は痛みに慣れていない。だから最初のうちは麻痺薬や睡眠薬も適量使用しますよ。痛みが過去の身体を呼び起こすための重要な要素にもなるので、徐々に与える分量は減らしますがね」

「なるほど……で、僕が試したら今までにない異変を感じられたことで、僕の治癒を目的に、近くにいることを望んだというわけですか」

「正確には2度目からですが、その通りです。最早戻ることはないと諦めていた私の左腕が再び使えるようになれば、より高度で難解な治療も施せるようになる。そうすれば多くの患者を救えるでしょうし……ふふ、片腕を失った途端、私をゴミのように切り捨てた連中の鼻をへし折ってやれる……」

「……」


 アマリエさんと共にこの男を受けて入れていいものか、何かがありそうな気配がしていて悩んでいたが、最後の最後。

 粘つく感情ごと吐き出されたこの恨言が男の本音か。

 ……ならば問題ない。

 スキル構成からして武力で派手に解決するようなタイプではないし、抱えている感情が強い復讐心なら、下手な夢や希望を描く者より遥かに大きな原動力で動き続けるはずだ。

 それに切り捨てた連中というのがなんなのかは分からないが、理不尽を成果で以て見返そうとしているのなら、その想いが成就できるようこちらも応援したくなるしな。


「分かりました。こちらも【神聖魔法】はまだ改善の余地がありますし、スタークスさんには多くの住民を献身的に救ってもらえれば、僕からお礼に腕の回復を試みる。そしてアマリエさんには、無理がない程度に彼の補助と、あとは呼び起こすまでもない人達に魔法治療をお願いできればと思うのですがどうでしょう? 仮住まい用の家や職場となる診療所くらいはこちらで用意させてもらいますので」

「ええ、もちろんですとも!」

「わ、私もです。ただ場所が変わるだけですし、この程度で恩を返せるとは思えませんけど、この【回復魔法】が役に立つなら精一杯新しい町で務めさせていただきます」


 最初の印象とはまるで違い、怖いくらいに爛々と目を輝かせるスタークスさんと、やや不安げな表情を浮かべながら、それでも決意新たにといった様子で頭を下げるアマリエさん。

 そんな二人に対し、笑みを浮かべながらこちらも頷く。

 アマリエさんを目的にしていたら、なかなか尖った医師までついてくることになってしまったが……


(まあ、ベザートにとって損になることはないだろう)


 そんなことを考えながら、麻痺や睡眠薬も使うなら、やはりもう一人の探し人もいた方がいいだろうと。

 エステルテさんの行方を念のために確認した。
593話 今更

 あれから約20日ほど。

 日中はマッピング、夜間は変わらず 《嘆きの聖堂》で経験値稼ぎや素材集めを繰り返していると、ようやく辿っていた輪郭が繋がり、アルバートという国の規模感を把握することができた。

 ベザート関連の雑事をこなしながらだし、今までとは異なる詳細なマッピングを目指していたからというのもある。

 ただそれ以上に時間が掛かったのは、やはりこの国が今までとは比較にならないほど巨大だからだろう。

 人の住む地域だけを見ればそうでもないが、広さだけなら今までで最も大きかったパルモ砂国のさらに3倍から4倍。

 そのくらいはありそうなアルバートの国土に、マリーが与えているであろう影響力を感じずにはいられなかった。


 そしてその間、ベザートでも連日のように様々な出来事が起きていた。

 レストランでどこまでソースの再現が可能かサンプルを渡すついでに、俺が中身を勘違いした氷菓子の存在をいくつか伝えると、ボーラさんが過去一とも言えるほどの食いつきを見せたり。

 魚人の屋台が想像以上に盛況で、すぐに雨除けの天幕を張って椅子と机を適当に並べた即席レストランに拡張させたら、後日レイモンド伯爵が普通にそこで飯を食っていてビビったりと。

 小さな驚きや進展はいくつもあったが、やはり鍵となる人材が増えたことで、新しい施設がベザートでも動き始めたというのが一番大きいだろう。

 予定通りアマリエさんとスタークスさんがベザートに来てくれたため、マルタの診療所を模して作った建物に案内し、早速翌日からベザートで初となる病院を開業してくれていた。

 メイちゃん家を含む薬屋や、ベザートに1人だけいることは分かっていたポーションを生み出す錬金術師の仕事を奪わないよう、必要以上に料金を安くする必要まではないと伝えておいたので、あとは暫く様子見といったところだが……

 生活が安定して時間に余裕も生まれるようなら、特にスタークスさんはいずれ学校の特別講師も担ってほしいものである。


 また、以前に声だけは掛けていた傭兵ギルドの受付嬢ミルフィさんも、旧ヴァルツ領のグリールモルグから馬車を乗り継ぎ、わざわざこの町まで来てくれた。

 となると、彼女にはぜひやってもらいたい仕事がある。

 そう思って、職業斡旋ギルドの脇に増築という形で、もう1つの建物を建ててもらえるよう依頼しておいた。

 移民が真っ先に押し寄せる場所として、特に1階のロビーは常に激混みという印象だったからな。

 傭兵のような戦闘に発展する可能性がある仕事とそうでない仕事に分け、混雑を改善できればという話をヤーゴフさんとしていたので、気性の荒い連中も上手く転がしてきたミルフィさんなら、腕自慢達に適材適所の仕事を割り振ってくれるはずだ。


 それとだいぶ暖かくなってきたからということでアマンダさんに急かされ、クアド商会の屋上でプール作りに励んでいると、見覚えのある馬車が町の入り口で停車しているのが目に入った。

 まったく見なかったわけではなかったが、自然と懐かしさが込み上げてくるその馬車に興味を惹かれ、もしかしたらと思って確認すると、予想通りダンゲ町長と話していたのは、かつてマルタまでの道中を共にしたギルド専属御者のホリオさんで。

 正式にベザートがハンターギルドの支店として認められたことから、元々ラグリース南部を担当していたホリオさんがここも巡回の担当になったと聞いた時は、思わず声に出るほど喜んでしまった。

 ルート的に最南ということもあり、今後はベザートで寝泊まりする可能性もそれなりにあるようなので、お世話になったしホリオさん用の家をプレゼントすることが俺の中で決定したわけだが、どうせならその建造は建築のプロにお任せした方がいいだろう。


 こうして予定していた人、どちらか分からなかった人、想定もしていなかった人と。

 様々な人達が訪れ、少しずつ賑わう声も大きくなっていくベザートだが、しかしなかには探してもまったく見つからない人がいたりする。


 リプサムの受付嬢は事件解決後、彼女が東の国へ向かったと言っていた。

 アマリエさんも彼女から同じようなことを聞いたというのだから、行先に関してはまず間違いないだろう。

 しかしアマリエさんは当時、別の気になる言葉も聞いているという。

 それは彼女自身からではなく、彼女の横にいた見知らぬ男から掛けられた言葉――。


『あなたもその能力をお持ちなら、空いた時間に別の仕事をしませんか?』


【回復魔法】を所持しているのなら、国を出て東の地に向かえば今よりもずっと稼げると。

 そう説明を受けたらしいが、ラグリース生まれのアマリエさんは安易に国を出るという選択肢など選べず、また精神的に不安定だった当時はそこはかとない不信感もあったようで、その誘いは丁重に断ったと言っていた。


 その話を聞いた時、当然俺の心がざわついたのは言うまでもない。

 だからこうして、フレイビル王国の中で最も情報が集まっているであろう王都『グラジール』の傭兵ギルドを訪ねてみたわけだが。


「うーんエステルテ、エステルテ……いや、やはりそのような人物の登録は確認できませんね。つい最近の登録ということでしたら、まだこちらに情報が回っていない可能性もありますが、どちらにせよこれでは指名依頼をお引き受けすることができません」

「そうですか……ありがとうございます」


 やはりか。

 ここでも行方を捜している人物の足取りは拾えない。

 既にAランク狩場を保有するフレイビルの主要都市『ロズベリア』と、旧ヴァルツ領とフレイビルを繋ぐ中規模都市『サラトーナ』でも、同様にエステルテさんの傭兵登録は確認できなかった。


 ミルフィさんは、エステルテさんと思しき【呪術魔法】の使い手に心当たりはないと言う。

 しかし彼女がもし傭兵になっていたのだとしたら、フレイビルでは登録している様子がないのだから、さらに東へ向かうよりはヴァルツ内で動きを止めた可能性の方が極めて高い。

 旧ヴァルツ領の傭兵ギルドは既に潰れていたため、今更記録を辿るというのは難しいが、傭兵という駒を強く求めていたあの当時ならばそう考えるのが自然だろう。

 参加したのは全体の約8割で、残りは戦後、多くが東へ逃げたという話だけれど……


(あの時、もしかしたら混ざっていたのか……?)


 いよいよ可能性が高まってきたことで心臓の鼓動が早まり、嫌な感情が心を蝕もうとするも、振り払うように顔を左右へ向ける。

 もし仮にそうであったとしても、俺は後悔などしないし、してはならない。

 大地を埋め尽くしてもなお足りないと言わんばかりに敵が群がる中、もし顔を知る人物がどこかに混ざっていたとして、それを理由に俺は動きを止めるのか?

 止めたとして、誰が救われ、誰が犠牲になる?

 その結果、最も得をするのは誰だ……?


「はぁ…………今更だな……」


 初めて人を殺した時から決意し、それ以降も僅かな犠牲は覚悟の上で、悪の掃討を優先させてきた。

 だからこんな俺でも、自分が守りたいと思えるモノを守れてきたのだ。

 自己の満足を満たすための傲慢な正義感など大した役には立たないだけでなく、酔った思考の多くはただただ犠牲者を増やすだけ。

 それでも物語にありがちな勇者様のように、都合の良い我儘を押し通したいのなら、何があろうと実現できるだけの絶対的な力を身に付けるしかない。

 そう自分に言い聞かせ、エステルテさんの探索に区切りをつけた俺はベザートへと転移する。


 予定通りなら、もうそろそろ彼女が迎えに来る頃か。

 3日に1度はグリムリーパーを湧かせてもスキルレベルまでは上がらず、【魂装】の結果もしばらく更新できるほどの数値を引けていないため、海で巨大魚のボスを倒して以降はまったくステータスを伸ばせなかったが……

 ようやくだ。

 初見のボスを倒せば、また少しは俺も強くなれるだろう。
594話 山の狩場

 最寄りとなるジュロイ王国の北部に一度転移し、そこから進路は北へ。

 案内役のアウレーゼさんを背に乗せ、初のトルメリア王国を眼下に眺めながら、前方に見える山脈群へと向かって移動する。


「そのまま一番手前の山に向かってくれれば着くよ。ズケイラはその山頂付近にいるからさ」

「了解でーす」


 そう、今回はレイドボスのズケイラ戦だ。

 こいつは冬を越え、ボスフィールドの雪が解けたら現れるという少し特殊な周期になっているらしく、実質的には約1年に1度しかお目にかかれない希少な魔物。

 それもあって久しぶりの成長ができそうな機会にワクワクしていると、風切音が鳴る中で再び背後から叫ぶような声が聞こえた。


「そういえばロキは、結局一度もトルメリア王国に行かなかったんだ?」

「ええ。足を運んだのは自由都市ネラスまでで、あとはずっと大陸の東側を旅していましたから」

「へ~そっか。じゃあ私も知らないようなボスに出会えたんじゃないの?」

「ふふ、どうでしょうね~大砂漠を縦横無尽に走り回る大蜥蜴のボスとか、深海を泳ぐかなり巨大な魚のボスなんかはいましたけど」

「え~ちょっとちょっと! その話詳しく教えてよ!」

「うわっ、暴れないで! いくらアウレーゼさんでも落ちたら死にますからね!?」


 相変わらずこの人は、ボス関連の話題になると目の色が変わるな……

 興奮したアウレーゼさんを宥めながら少しの時間、出会った表ボスや裏ボスの話をしていると、次第に奥の方はまだまだ白い雪を被った山々が迫ってくる。

 大陸を上下に分かつエイブラウム山脈。

 その西端はここトルメリア王国で形を崩し、南北を通る道がようやく開き始めることは知っていたが、裾野は広く樹海が続いており、この樹海が《ウルバス山麓》と呼ばれるE-Dランクの複合狩場。

 そして抜けた先にある、他よりは標高の低い山に目的となるBランク狩場《トラウト山稜》があるようで、俺達はひとまず山の中腹に存在する広場へと向かった。


「へ~ここには家もいくつかあるんですね」

「そっ、ここの休憩所は《ウルバス山麓》と《トラウト山稜》の間にあってね。割高だけど寝泊まりや食事も摂れるから、私達はレイド戦の集合場所にしているんだ」

「なるほど。もう他の参加者は集まってるんですか?」


 見回しても人の姿がないため確認すると、アウレーゼさんは一番大きな建物の中へ案内してくれる。

 中は宿泊所のようで、管理人と呼ばれるおじさんに慣れた様子で話を聞きながら宿帳を確認すると、どうやらまだマルタから向かっている8名の参加者が到着していないらしい。

 と言ってもよくあることのようで、アウレーゼさんはなんでもないような顔をしていた。


「ここまで距離があるからね。調整はしているし、今日か明日くらいには到着すると思うけど、それまでロキはどうする?」

「それじゃ僕は狩場にでも行ってきますよ。この付近に必ずいるかは分からないので、何かあれば連絡用の動物を置いていきますから伝えてください。そうしたらすぐに戻りますので」

「了解。じゃあまたここに集合ということで」


 よしよし、時間が空いたのなら丁度いい。

 せっかくのDランクとBランク狩場。

 しかもトラウト山稜は珍しく5種類の魔物が生息しているというのだから、どんな魔物なのか見ておきたいと思っていたのだ。


(少しでも成長に繋がるスキルがあれば……)


 そんな思いを抱えながら、ひとまずは遠目に小さく見える最寄りの町へと向かった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「あっぶねぇ……」


 思わず声を漏らしながら、足元で毒霧を放つ、ナマコに大量の足が生えたような魔物――イングベーダーを摘まみ上げる。

 ここはDランク狩場のウルバス山麓。

 なので自分が危うく死にそうになったというわけではないが、ハンターギルドに寄らず真っ直ぐ狩場へ来ていたら、こんなに小さく、しかも数がビックリするほど少ない魔物の存在には気付けなかったかもしれない。

 そうしたら危うく戦果無し。

 まあ我慢できずにボスをチラ見したら、見覚えのないスキルを2種類持っていたので安心したけど、周囲の雑魚魔物からは新規スキルどころかスキルレベルも伸ばせずに終わっているところだった。

 それもこれも、翼持ちの魔物ばかりが生息する癖の強い狩場――トラウト山稜が期待外れだったためだ。

 顔は不細工なのに純白の羽がやたら綺麗なハーピーと、二人乗りくらいまでであれば空の旅に丁度良さそうなヒポグリフという2種の魔物が初見だった。

 が、どちらも所持するスキルは既知のモノばかり。

 となると、他に俺のステータスを伸ばせそうなのは、イングベーダーなどという名前からはまったく性質が予想できないDランクの魔物だけ。

 資料本にはだいぶ厄介そうな説明が書かれているし、頼むからその特性がスキル化されていてくれと。

 不安と期待を抱えながら、暫くは汎用性が高く高需要だというハーピーの羽を集めていたわけだが……

 狩場を移り、探し出した実物を見て安心した。

 ギルドの資料本通り、この魔物はかなり厄介であり、そして面白い。

 そう感じながら、近くにいたゴブリンファイターの首を刎ね、横たわる死体の上にイングベーダーを放り投げる。

 すると傷口から這うように侵入し、暫くして死んだはずのゴブリンファイターが立ち上がった。

 これがイングベーダーの持つ【寄生】の効果らしいが、首なしでもいけるとは驚きだ。

 生きている生物には寄生できず、身体を割ったり足を斬り飛ばすなど、戦闘の継続が困難なほどダメージを負うと再び這い出て死体を探すところまでは分かったが……

 資料本には稀に、狩場で死んだハンターがボロボロの身体で彷徨い、尚且つ生前に得意としていたスキルまで使用してくるというのだから興味深い。

 こんなのスキルは確認するまでもなく使用不可のグレー文字だろうけど、とりあえずレベル1だけでも取得し、欲を言えばイングベーダーを使役していろいろと実験してみたいところ。

 だが、町の警護やら連絡用の動物を各所に配置している今は管理コストに余力がなく、試すとしても【魔物使役】のスキルレベルが上がってからになるのかな。

 そんなことを考えながら森の上空を飛行し、【広域探査】でもすぐには見つからないイングベーダーを探し回っていると――


「ん……?」


 ……遠くで一斉に羽ばたく鳥の姿が視界に入る。

 よく見ると何かが森の中を素早く動いていて、そのせいで森がざわついている――そんな様子はどこか見覚えのある光景で。

 場所は違えど同じエイブラウム山脈の裾野にいたハンスさんのペット。

 ロキッシュがこちらに迫ってきた時にも同じような雰囲気だったことを思い出し、まさかと思いながら思わず近づく。

 上位種でも希少種でも、なんでもいい。

 普通ではない魔物がいるなら儲けモノだと、その程度の感覚だったが。


「んん……?」


 木々の隙間から見えたのは、素早く移動する人の姿。

 それだけなら魔物を狩りにきたハンターというだけだが、それらは集団で、周囲の魔物に目もくれず、ひたすら森の奥へと移動を続けている様子だった。

 その光景を見て、最初はマルタの参加者達かと思ったが、聞いていたより明らかに数が多いし、何より記憶にある彼らとは装備の質がまるで違う。

 その瞬間、嫌な予感が脳裏を過り、俺はすぐに先ほどの休憩所へと転移した。
595話 構想と現実

 アウレーゼさんに先ほど見た光景を伝えると、それだけで何かピンとくるものがあったらしい。

 深刻そうな表情で暫く考えこみ、その上で出た結論はBランク狩場よりもさらに奥。

 ボスの手前にある山道での待機だった。


「この辺りでいいんですか?」

「うん。来るなら間違いなくここを通るし、ロキもこの位置ならボスに届くんでしょ?」

「ええ、まあ……」


 と言っても、動くのは俺達二人だけ。

 先ほど森の中を疾走していた集団は、目的が移動のみなら1時間もかからずここまで登ってくる可能性が高いらしく、そうなると狩場に散ったレイド参加者を呼び戻し、さらに準備を整えるというのは難しいし、何より集めてしまうと逆に危ないとアウレーゼさんが漏らしたことで、これから来る連中がどのような存在なのか、おおよそ見当がついてしまった。

 しかしそうなると、なぜ? という疑問も頭に浮かぶ。

 俺が今のうちにボスを倒してしまい、素材や報酬だけは緊急事態ということで参加予定者全員に配れば、それでこの問題は解決だろう。

 にも拘わらずボスを放置したまま、わざわざこのような場所で待機する理由を求めると、アウレーゼさんの口から出てきたのは『クラン』という意外な言葉だった。


「以前にリュークさんから少しだけ聞きましたね。アウレーゼさんがボスレイドに特化した組織を作ろうとしているって」

「まだ手探りではあるんだけどね。私を含め、この世界にはボスハンターって呼ばれている連中がそれなりの数いるけど、そういったレイドを生業とするハンターの多くは縄張り意識が強いっていうか、抱えている情報は隠すみたいな習慣が昔からあってさ」

「周期とか、攻略法とかですか?」

「そうそう。だから死亡率が高過ぎて、いつの間にか放置されているボスなんかもどこかにはいるみたいだけど、それだってわざわざ縄張りの外にまで呼びかけて改善しようっていう風にはなりにくいんだ。そんなことして外の誰かが倒してしまったら、その縄張りを奪われることに繋がるわけだから」


 毎度参加者に死者が出ようと、倒せずボスを放置することになろうと、誰かに奪われるくらいならその方がまだマシという、そんな考え方をまったく理解できないわけじゃない。

 ゲームでも決まった時間経過で湧くレイドボスなら俺自身が同じように周期管理し、他者を介入させないようにひっそりと狩り続けていたわけだし、レイドという旨味がそれだけ大きいのなら、一度手にした流れを手放すものかと必死になる理由も分かる。

 思い返せば旧ヴァルツ王国のヴァラカンは、フィデルというクズも混ざってはいたけど、それでも主催者が複数人いて上手く回せていた事例であり、フレイビル王国のガルグイユなんかはまんま他所へ声も掛けられずに放置された典型。

 それに旧スチア連邦の魔物塚は、どう考えたとしても内部の形状からボスはいるはずなのだから、どうせあの場にいた猪獣人やハンター達が現在進行形で独占している真っ最中なのだろう。

 だが、それと今回の件になんの関係が?

 そう思う俺の顔を眺めながら、岩に腰掛けたアウレーゼさんが言葉を続ける。


「たぶん今こっちに向かってきてるのって、こないだ私が会ってきた別の討伐グループの1つなんだ。20人そこらの少人数なら、すぐ北のオデッセンとかラナンとか、その辺りを縄張りにしている連中で間違いないと思う」

「あー……ラナンってギルド本部と上級ダンジョンがある、ハンターの聖地と呼ばれている所ですか」

「そっ、あそこの連中にまだ煮詰めてもいない中途半端な案を抱えて近づいちゃった私もマズかったんだけどさ。軽く相談がてら話を振ってみたら、そことは少し揉めちゃってね」

「ん? 反対されたのではなくてですか?」

「最初は頭ごなしに反対というか否定されたけど、途中から気でも変わったのかな。提案を続けてたら自分達がそのクランを取り仕切ってやるから、お前達は方々で情報を拾ってこいって。ほんっと自分が考えたわけでもないのに、偉そうにしやがってあのクソオヤジ!」

「……」


 いったいどのような構想を描いているのか。

 良い機会だからとアウレーゼさんからも意見を求められ、クランという素案の中身を聞いてみると、確かに面白そうだが穴も多そうな印象を持ってしまう。

 彼女が把握しているだけでも4つはあるという、ボス討伐を生業とする一団。

 それぞれが独立して動くこれらの集団をまずは1つに纏め、お互いが抱える情報と人員を共有し合い、より確実で安全性の高い討伐を目指しながら大陸全土のボスと呼べる魔物を発見。

 適切に管理しつつ、いずれはその規模を生かして裏ボスの情報収集も進めたい。

 そんなアウレーゼさん個人の夢も詰まった壮大な計画だが、レイド戦に対する考え方や望むモノなど人それぞれ。

 生じるズレをどうにかしない限り、そう簡単に話が纏まるとは思えない。


「情報が共有されることでレイド参加者が増えたら、安全と引き換えに一人当たりの報酬は減りそうですよね」

「まあね。代わりに管理下のボスが増えれば、皆の倒す頻度も増えて結果的には一人当たりの報酬額が増えるかなって思ってるけど、子供がいたり自由な時間を求めてレイド戦に参加している連中なんかは長い移動を嫌ったりするからねぇ……それに少数精鋭でこれ以上の安全は不要って思っている連中だと、自分達が抱える情報の共有自体にどうしても消極的でさ」

「……それがここに向かってきているであろう人達なわけですか」

「そっ。エストニアより北はやつらの縄張りだし、何かきっかけがあれば、あとは強引に力で奪おうとでも思っているんだろうね」


 んー……

 相手の縄張りとは隣接しているようだし、ずっとここのボスが狙われていたのか。

 それとも交渉の材料に、アウレーゼさんが抱えている情報の一部でも吐き出したのか。

 なぜこれほど都合よく相手が介入できたのかは分からないが、少なくともアウレーゼさんは先にボスを始末するではなく、こうして待ち構える動きを取ろうとしているのだから、まだその連中を諦めてはいない。

 どうにかして説得しようとしているのだろうし、俺としても縄張り争いに首など突っ込みたくはないけど、アウレーゼさんの考えるクランは応援しておきたいし、しておかないと俺個人の都合も悪くなる。

 俺の知らぬところでこの先も周期管理を徹底されてしまえば、いつまで経ってもボスを倒せないという悲惨な事態に陥ってしまうからな。

 となると、説得に加わるか、もしくは……


(まあ全ては、相手の出方次第か)


 そんなことをぼんやり考えていると、視界の先で僅かに土煙が舞う。

 かなり素早い移動――、どうやら先ほどの一団が現れたらしい。
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ご覧いただきありがとうございます、ニトです。
大変待たせしましたということで、10/25発売開始の書籍4巻情報や特典などを活動報告に書いておきました。
WEB版をご覧の方でも楽しんでもらえるくらい中身が大きく異なりますので、興味のある方は活動報告をご覧ください。
それではよろしくお願いいたします!
596話 金壺眼の男

 勢いよく駆け上がってくる集団に対し、やはりアウレーゼさんは説得を試みようとしているのだろう。

 険しい表情を浮かべ、無手のまま行く手を塞ぐように山道の中央へ向かった。

 相手の一部は既に武器を手にしていつでも戦えるような状況に見えるが、そんな無防備で本当に大丈夫なのか?

 不安に思いながら岩に腰掛け様子を眺めていると、先頭を走る特徴的な目をした男と数秒視線がぶつかり――

 その後、後続の静止を促すようにゆっくりと片手を上げながら、その男は動きを止めた。


「ザウロ、このタイミングで踏み込んでくるなんて、嫌がらせのつもり?」

「ふん。嫌がらせも何も、ボスなど元から誰のモノでもないだろう? それより横の男はなんだ。用心棒でも雇ったのか?」

「んなわけないでしょ。まあどうせ私達が相手なら、ボスと同時に相手取っても勝てると思ったから来たんだろうし、結果的にはそうなっているのかもしれないけどね」

「……」


 再び、リーダー格だと思われる男の目がこちらに向く。

 パッと見は人間だが、獣人の血でも混ざっているのか?

 猿のような金壺眼をしており、この男と、それにもう一人か。

 二人の所持スキルは今の俺でも見通せないのだから、想像していた以上にこの集団は強い。

 そして相手も、俺のスキルが見えないとあって警戒したのだろう。

 暫くはお互い出方を窺うような沈黙が続いたが、そんな膠着した状況を崩したのはアウレーゼさんの問いかけだった。


「……ねえ、もっと真剣に考えてくれよ。ザウロの所以外は前向きに検討してもらえている。あんた達も参加してくれれば各所のレイドは安定するし、それだけ死者を減らせるんだ。それにザウロだって他のボス素材が手に入りやすくなるんだから、利点がないわけじゃないだろう?」

「言ったはずだ。レイドは不相応な弱者が無理をして参加する場ではないと。俺達が子守をする理由などないし、お前の案に乗ることで得られる利益より損失の方が遥かに大きいから不要と言っている。それにどう足掻いても、大陸中のボスを管理下に置くなど無理な話だしな」

「私はやる前から諦めるなんて性に合わなくてね」


 アウレーゼさんのこの言葉に、金壺眼の男は分かりやすく溜息を吐きながら肩を竦めた。


「だろうな。だからそれでもクランとやらを作りたいというのなら、俺の案に乗れと言ったはずだが?」

「冗談じゃないよ。ザウロは自分達が得をすることしか考えていないだろ。それじゃ後進は育たない」

「はっ、それこそ弱者の戯言だ。仮に戦力の不足が出たとしても、初見のボスであろうと対応できる連中を補充すれば事足りるというのに、なぜ俺達が後進の育成など考える必要がある?」

「それは土地に恵まれたあんた達だからできることであって、他じゃそんなこと――」

「……そこで見ていろ、アウレーゼ。少数精鋭こそがレイドで最も死者を出さずに済む方法なのだと、今から証明してやる」


 言い合いとは違う二人のやり取りを眺めていると、ザウロという男はまったく話が通じない悪党と違い、暴力一辺倒というわけではなさそうに見えたが……

 こちとらボスを前に、ずっと涎を垂らしたままお座りしている状態なんだ。

 アウレーゼさんの脇を通り抜けようとするその一団を見つめながら俺が立ち上がると、死合いが始める直前の、あの独特のヒリついた空気が流れ始める。

 こんな時のために、俺の魔法が届くであろう位置で待機していたわけだし、一先ずボスを始末するか、それとも先に仕掛けてくるのか……

 一部はスキルが見通せない相手。

 自分だけならまだしも、アウレーゼさんを守りながらというのは相当難儀だなと思いつつ自己バフを唱え始めると、ふいに心配していた当人が焦りを滲ませた声で叫ぶ。


「ま、待ってくれロキ! ここで動くと余計に説得が難しくなる!」

「……」


 それはそうだが、では説得に失敗し、自分の命も懸かっているこの状況をどうひっくり返す?

 他に手立てがあるのかと、アウレーゼさんに意識が向きかけた時、ザウロの丸い瞳がより見開かれ、唸るような低い声が口から漏れた。


「ロキだと……?」

「……」

「まさかとは思うが、あんた、第五の異世界人ロキなのか?」

「…………ええ」


 返答次第でどちらにも転ぶ可能性がある問いかけだ。

 もし俺を敵視している――それこそマリーの手中にある相手なら、数で大きく勝る上にアウレーゼさんを利用できるこの状況は即戦闘になってもおかしくないし、否定して俺を殺し切れる可能性の高い相手と判断されれば、それもまた戦闘の切っ掛けになり兼ねない。

 答えに一瞬悩むも、どちらもあり得るなら素直にいくべきかと肯定したら、ザウロは周囲がザワつく中でも俺から一切視線を外さず、思案するように顎を撫でながら問いかける。


「ここにいるということは、そのクランにあんたも参加しているわけか」

「まあそうですね」

「参加するというか、クランの会長はロキだがな!」

「??」


 クランの中身に賛同はしたけど、会長などという話は聞いていない。

 ビックリしてアウレーゼさんに視線を向けると、目鼻立ちのはっきりした顔を崩しに崩して俺によく分からないウィンクのアイサインを送っていた。

 マジか……

 話を合わせろと、たぶんそういうことらしい。


「おい、アウレーゼ。先日このことに触れなかった理由は?」

「まだその時はうちのレイドに参加してくれるというくらいで、クランの構想まではロキに伝えていなかったから」

「そうか……」


 ザウロはその返答に多くの言葉を発しなかったが、張り詰めた空気が緩みだしたのだから、考えていることくらいはなんとなく分かる。

 俺達と敵対してでもボスを奪うという強硬的な手段は選択肢から外したか……

 となるとここから襲ってくる可能性は極めて低く、ため息を一つ吐きながら説得の方向へ頭を完全に切り替える。

 余計な実務に時間を割く気はないのでクランの立場なんざどうでもいいが、やるならしっかりこの連中も味方に引き入れないと意味がない。


「ザウロさん、念のため確認させてください。あなた方は他所のボス素材もできれば欲しいけど、それ以上に少数精鋭で成り立っている自分達のレイド環境を崩したくない――その認識で間違いないですか?」

「ああ、その通りだ。参加者が増えれば取り分は減るし、かと言って俺達は方々走り回ってボスを狩って回れるほど暇じゃない。レイドがなけりゃ、普段は上級ダンジョンに籠っているんでな」

「なるほど……ではその辺りの問題が解決すれば、クランに所属してもらえるわけですか」

「俺個人の問題ではないのでな。話し合う必要はあるが、難がなければ反対する者も出てこないだろう」


 ふーむ……

 となると、何ができるか。

 アウレーゼさんの思い描くクランの中身と擦り合わせながら、俺が協力できる部分を模索する。


「そうですね……ボス素材なんて一部のハンターや貴族とかの金持ちしか求めないでしょうし、最初のうちは僕が個人的にお金を負担しますから、現金希望であれば現金を、素材を希望する参加者には素材の一部を報酬として渡し、残りは全てハンターギルドと同じ相場でクランが買い取るという形を取ってはどうかなと。ギルドと違って僕はすぐに現金化をする必要もないので、クランの所属員であれば不参加であって在庫の素材を現金で購入できる――これなら素材のために方々走り回る必要もなくなるでしょう? 代わりに参加した人よりかは割高にすれば、時間を割いてでもレイドに参加する意義も見出せますし、割高にした分はそのままクランの運営資金に回せますしね」

「え……ロキがそうしてくれたらこっちは凄い助かるけど、素材の回収はどうするの?」

「そこは他に良い案が出てくるまで僕が動くしかないでしょうね。まあ当面は全てのボスに参加して死者が出る前に始末する予定ですから、その場でボスの素材を回収していけば面倒はありませんし」


 言いながら目の前で手持ちの剣を『収納』して消すと、【空間魔法】の所持者であることがある程度知れ渡っているせいか、ザウロを含む一団はざわつきながも理解を示す。

 だが、次の提案はまったくの想定外だったらしい。


「あとはアウレーゼさんにも一度対応していますし、ボス素材の加工に当てがなければこちらで請け負うことも可能です。うちで抱えている鍛冶師が仕事をするので、クラン員ならロズベリアのドワーフ達に依頼するよりかは幾分安いくらいの手間賃をいただきますけどね。その代わりに高位の鉱物加工も『種火魔石』なしで請け負うので、費用や入手の手間を考えたらクランに在籍する価値はかなり高くなるんじゃないですか?」

「それは本気で言っているのか……? 種火魔石を必要としないなど、未だかつて聞いたこともないが」

「もちろん本気ですよ。その方法はお伝えできませんけど、こうしてオリハルコンの武器も集めた鉱物から完成していますからね」

「「「!?」」」


 再び表に出して鞘から抜くと、ザウロ達だけでなくアウレーゼさんまで顎が外れるほど驚愕している。

 オリハルコンの武器というだけで相当珍しいだろうからな。

 特に派手な装備をしている上級ダンジョンの住人達は興味津々だろう。


「オ、オリハルコンまで触れるとか、ロキの抱えている鍛冶師って何者なの……? もしかして、異世界人の仲間とか?」

「ふふ、それは秘密ですけど、ハンターのことを思って武具を作ってくれる人ですからね。きっちり仕事はこなしてくれますから安心してください」

「「「……」」」

「そして最後に、これはおまけ程度ですけど、この世界に隠れている裏ボスの出現情報を提供してくれたクラン員の方には、見合う報奨金を僕からお渡しするとお約束します」

「……裏ボスとは、一時噂にもなった魔宝石を有するというあれか?」

「そうです。今のところ、狩場内で特定の条件を満たすと出現することが分かっているので、狩場に存在する怪しい場所、怪しい噂、怪しい現象など、ハンターの皆さんだからこそ知っている情報がもしかしたら出現の切っ掛けになるかもしれません。あくまで成功報酬という形になりますけど、情報次第では億単位の報奨でも支払うつもりですから、ぜひこれはという情報があれが教えてください」


 そう告げると、ザウロの背後にいた面々が沸く。

 怪しい情報を吐き出すだけで、上手くいけば数億という金が入るのだ。

 俺が出した3つの案は全てクラン員が大きなリスクを抱えるモノではないし、これなら良い反応も得られやすいのではないかと、そう思っていたが……


「こちらからも1つ、確認しておきたい」


 一人、ザウロだけは思案した様子であまり感情を表に出さず、怖いくらいに俺を見つめながら問うてくる。


「なんでしょう?」

「あんたもアウレーゼ同様、大陸中のボスを管理下に置こうとしているのか?」

「僕の場合、アウレーゼさんと違って満足するまで効率的にボスを狩れればそれでいいという考えなので、管理下というと少し語弊があるかもしれませんけど、でもまあ大陸中のボスは必ず倒しますよ」

「つまり《ロスガイア大渓谷》も含まれているということだな?」


 男のこの言葉に、はっきりと顔に出るほど反応してしまったことが自分でも分かった。

《ロスガイア大渓谷》――書物で何度か目にした言葉だ。

 公に認知されているSランク狩場のうちの1つであり、現在は灰都リデュールと共に帝国によって占有されている大陸西方の狩場。

 だが、そうであっても俺の考えは変わらない。


「そこにボスが存在しているのなら、いずれ必ず狩りますよ。誰が占有していようともね」

「くくっ……くはははっ! 相手が帝国であろうとお構いなしか……了解した。ならば連れの連中は分からないが、少なくとも俺はそのクランとやらに所属させてもらおう。まさかここに来て、ボスの戦果よりも遥かに重く意味のある言葉を聞けるとはな……」


 その言葉に同調するように、背後のお仲間達もクランへの所属を表明しながら今まで以上に沸き立つ。

 誰も反対する者はいないし、この喜びようだ。

 ここにいるのはもしかすると、かつては《ロスガイア大渓谷》を主戦場とし、帝国に追いやられた残党のSランクハンター達なのかもしれないが……

 まあ俺が余計な詮索をしてもしょうがないしな。

 兎にも角にも、これで大きな障害が取り除かれただろうと思っていると、不意に予想もしていない言葉が飛んでくる。


「じゃあ会長、景気づけにあの大鳥のボスを倒してみてくれよ。俺達は手出ししないし、戦果の分け前だっていらない。自分達の上に立つ人間がどれほどのものなのか、観戦だけさせてもらえれば満足だからよ」

「え?」


 それはそれで楽だし有難いけど、でもいいの?

 勝手に動くわけにもいかず、自然とアウレーゼさんに目を向ければ、ぽりぽり頭を掻きながら渋々といった様子で頷く。


「はぁ……この状況ならしょうがないか。ごめんね会長。私からは皆に説明して謝っておくから、今回だけは任せちゃってもいい?」


 いや、会長というのは余計だけど。

 でもアウレーゼさんがOKを出してくれるなら、こちらとしてはまったく問題ない。

 時短に繋がることを喜びながら俺は大きく頷いた。
597話 ズケイラ戦

「なかなか厄介だな……大半は宙を舞っているというのに、あの"風"で要の遠距離攻撃を阻害してくるのか」

「そっ。だから第二段階は強弓の使い手や貫通性能の高い魔法攻撃に絞って外から攻めるか、無理やり地上に下ろして捕まえるかの二択になる」


 ズケイラとの戦闘を開始したロキの姿を、アウレーゼとザウロは二人並んで眺めていた。

 同じクラン員として、今後は情報の共有が成されるのだ。

 本来ならばどう戦うのが人的損害を減らし、かつ素材価値も損なわずに済むのか。

 初見となるザウロは当然として、一定の攻略法を確立しているアウレーゼであっても現行のやり方が最良などとは思っておらず、意見を交わしながらロキの戦闘を食い入るように見つめる。

 しかし――。


「……目の前で武器を消された時から理解していたが、間違いなく"本物"だな。まるで参考にならん」

「そりゃそうでしょ。だから取っ掛かりを掴むくらいの感覚で見た方がいいよ。真似はできないから」


 本来ならば高速で宙を舞い、人の塊に向かって滑空しながら攻撃を加えてくるそのタイミングを狙って、如何に地上へ縛り付けるか。

 それが対ズケイラ戦における第一から第二段階での最も安定した攻略方法であったが、背から不気味な黒い翼を生み出したロキは、ただ上空を舞うだけでなく、高速で動くズケイラよりもさらに速い速度で飛行し太い首を斬り裂いていた。

 この時点で飛行攻撃という、ズケイラが持つ強烈な優位性は潰されてしまっているのだから、誰がどう見てもロキの圧勝。

 それは間違いないのだろうが、敢えて加減しているように見えるのは、観戦を希望したザウロ達に対する配慮なのか。

 ロキは一度斬りつけるとすぐに距離を取り、様子を窺うように攻撃の手を止めていた。

 だからこそ見学組は、分かりやすく段階の移行を捉えることができていたわけだが――


「クァアアアアア!」


 その後ズケイラが何度か首に深い傷を負わされたことで、大きく啼く。

 すると周囲を取り巻く風の勢いは増し、ズケイラが巨大な翼を羽たかせる度に無数の羽根が舞った。


「あれが最終段階か?」

「だね。巻き起こす風に乗って大量の羽根を旋回させてくる。触れるとばっさりいかれるから、あれをされるともう近接は地上に縛り付けたとしても近寄れない」

「対処法は【土魔法】で土積を生み出し堰き止めるか、もしくは風で舞うほど軽いのなら、【水魔法】で強引に羽根を地面に落としてしまうのもありか……」

「戦力に余裕があるならね。あの羽根は1度舞い始めると暫く数は増えないし、何より火に弱い。換金効率を落としてでも安全策を取るなら、高位の【火魔法】で燃やしちまうのが一番手っ取り早いよ」

「あの羽根の価値を知っていて燃やすなど、俺達なら絶対に選ばない方法だな。ちなみに会長は取り巻く風そのものを無効化したようだが、それは試しているのか?」

「……わざわざボスの得意属性で張り合おうなんて考えたこともないからね。もしそっちに高位の【風魔法】を使えるやつがいるなら、次回のズケイラ戦に参加させてみてよ。ロキだって暫くは参加してくれるだろうけど、それでもずっとなんてことはないんだからさ」

「確かにな……分かった、伝えておく――って、終わったようだぞ」


 ゆっくりとした進行に見えて、結局は1分足らずで終わったズケイラ戦。

 他には一切攻撃を加えず首だけを切断という、素材価値を十分過ぎるほどに残した戦いは、観戦組が静かに見守る中であっさりと終了した。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




『【旋風】Lv7を取得しました』

『【烈風】Lv1を取得しました』

『【烈風】Lv2を取得しました』

『【烈風】Lv3を取得しました』

『【烈風】Lv4を取得しました』

『【烈風】Lv5を取得しました』

『【放天乱羽】Lv1を取得しました』

『【放天乱羽】Lv2を取得しました』

『【放天乱羽】Lv3を取得しました』

『【放天乱羽】Lv4を取得しました』


 ――【魂装】――


 切断したズケイラの頭部を収納しながらアナウンスを眺めていると、嬉しい数値に思わず声が漏れた。

 グリムリーパーの反復で【魂装】の数値ガチャはだいぶ煮詰まってきた感があったけど、ここにきて『敏捷+882』ならかなり当たりの部類だ。

 ホクホク顔で入れ替えし、そのまま新しく手に入れたスキルにも目を向ける。


 新種の1つである【烈風】は【灼熱息】や【水流】と同じ、ボスにありがちな広域属性魔法をそのままスキルにしたようなパターンで、俺でも使える白文字タイプ。

 そして【放天乱羽】という、字面からして派手に羽根を巻き散らしていたこのスキルは――まあそうだよね。

 残念ではあるけど俺に羽など生えていないのだから、グレー文字であることを確認しても、やっぱりという感想しか出てこない。

 白文字であった場合を想定し、ズケイラがこれらのスキルをどう使うのか。

 眺めていても意外性はなかったし、欲を言えばもう1つくらい実用性の高い目玉スキルでも抱えていてくれれば有難かったが、本来は空を飛ばれるというだけでかなり厄介なのだろうしなぁ……

 文句を言ってもしょうがないと気持ちを切り替え、もしかしたらこれでクリアしたんじゃないかと。

 胸の高鳴りを感じながらステータス画面を弄ろうとした時、こちらに走り寄ってくるアウレーゼさんの声を耳が拾った。


「大丈夫? なんかあった?」

「あ、ああ。大丈夫ですよ。それより素材はどうします? もう僕が買い取っちゃってもいいですし、参加予定だった他の人達にも確認が必要なら、今回は僕の分の素材だけ少し頂いてあとはお任せしますけど」

「いや、とりあえずロキの買取ということで回収しちゃっていいよ。今回参加予定だった連中は全員討伐経験者だから、このタイミングで素材が欲しいとはまず言わないだろうし」

「了解です」

「でさ、クランなんだけど、本部はベザートでいいんだよね?」


 問われ、そういえばそうだったなと思いながら遠慮気味に頷く。

 回収したボス素材を売るにしても、武具の製造を受けるにしても、必ず窓口は必要なわけで。

 それらが各所に分散していては面倒過ぎて俺が死ぬ。

 一瞬、ベザートよりも自由都市ネラスの方が足を運びやすいのではと思ってしまったが、人を雇用したり安全面を考慮すると他所じゃ自由が利きにくいしな……


「そうしてもらえると僕は助かりますけど、大丈夫ですか?」

「もちろん。私達からすればロズベリアに行くよりは全然近いし、他の国に建物建てて組織なんか作ろうとすると、その地域の役人や領主にまで話が広がって金だ権利だの面倒な話が出てくるからね」

「それにここから範囲を広げていくなら会長のお膝元に本部を置いて、より組織の頭であることを強調した方がいいぜ。他所への勧誘や協議はアウレーゼがやるみたいだが、その方が間違いなく舐められないで済む」


 んー……

 帝国やアルバートの領内なんかだと、逆に俺の名前が障害になりそうな気もするけど、だからと言って伏せたら円滑に進むわけではないだろうしな。

 だったらアースガルドと同じ。

 まだ俺の名前が表に出ていた方が、アウレーゼさんを含むクラン員の安全に繋がりそうかと、神輿のように担ぎ上げられた立場になんとも言えない感情を抱きながら一先ず納得する。


「はぁ……しょうがないですね。では形だけの会長でもいいならそれで構いませんから、クランの創案者であるアウレーゼさんが副会長として上手く回してくださいよ。最低限僕の方でボス素材の購入や装備の製造、加工依頼なんかが受けられるようにクラン本部は作っておきますから」

「おお……! もちろん任せてよ! ロキがここまでお膳立てしてくれたんなら、あとは参加してくれる皆が利点を強く感じられるように頑張るからさ!」


 抱えていた障害が取り除かれ、夢の足掛かりとなるクランの創設が目前まで迫ってきたことがよほど嬉しいのだろう。

 拳を強く握りながら目を輝かせるアウレーゼさんに、苦笑いを浮かべながら肝心な部分を告げる。


「それじゃ今回の分のお金を渡しておきたいので、先ほどの休憩所でいいですか?」

「あ、そうだね。なら落ちている羽根も全部回収しちゃうよ。超軽量武器にもなるこいつは貴族連中に良い値段で売れるからさ~これだけあったら結構皆の取り分も増えるんじゃないかな!」

「じゃあ俺達は先に引き上げるが、アウレーゼ。会長との用事が済んだら俺に声を掛けてくれ。俺とシュニッグだけは少しの間ここに残るから、こちらが抱えている情報含め、もう少し詰めた話を進めるぞ」

「分かった。それじゃ下で飯でも食って待っててよ」


 彼らは今回の取り分を放棄しているわけだし、当然と言えば当然だが……

 一団が去っていく中、皆の取り分が増えるからという理由で、一人黙々と地面に散らばっている羽根を拾うアウレーゼさんの姿を見て。


(はぁ……こういう人には手を貸したくなっちゃうんだよなぁ……)


 そんなことを思いながら、足元に落ちている羽根を拾った。
598話 ようやく、目標の1つに

 今後は各地のクラン員と連携するため密に連絡を取ったり、より遠方の狩場に赴いて交渉する場面も増えてくるだろう。

 本人が様々なレイドに参加したいという望みがあるのに、このままでは管理下のボスが増えれば増えるほど疲弊していく未来しか見えてこない。

 だからお金のやり取りを終えたあと、思わず聞いた。

 移動手段が欲しいかと。

 その問いにアウレーゼさんはよく分かっていないような顔をしながら頷いたが、続く「様々なレイドに参加することが何よりも求めている望みか?」という問いには、強い意志を感じさせる眼差しで頷いたため、俺の中でも決意が固まった。


「凄いね……これが新しい私の……」


 目の前には狩場を巡り、一緒に調達してきた魔物が2体。

《クオイツ竜葬山地》のウィングドラゴンと、午前中にいた《トラウト山稜》のヒポグリフだ。

 それに連絡用として各所で待機させるために、自由都市ネラスで帰巣本能の強い鳥を大量に調達してきた。


「僕が把握している魔物の中で、最も速く空を移動できるのはウィングドラゴン、速さと乗りやすさを両立できるのは馬の形状をしたヒポグリフかなと思います。鳥も使えば手紙のやり取りを行いつつ、いざとなれば呼び出しの合図を受け取ることもできるので、今日いたザウロさんなどを相手に上手く活用してみてください。使役した対象を通じて呼び出されている場合は視界が青く、対象が死にかけている場合は赤く点滅しますので」

「了解、恩に着るよロキ。今はまだ大丈夫でも、この先どうなるのかなって不安もあったからさ」


 普段は馬で陸路を移動しているというアウレーゼさんだ。

 レイドの常連だけあって元々のレベルが高く、数時間程度のパワレベでは【魔物使役】を開放させてレベル7に引き上げるくらいしかできなかったが、今後空路を利用できるようになれば相当各所への移動は楽になることだろう。

 そう思っていると、横にいた彼女がボソリと呟く。


「ん~もう私もベザートに住んじゃった方がいいかな……」

「え?」

「だってさ、鳥を利用して手紙のやり取りって言っても、ジュロイにある私の家に届いたんじゃ意味ないでしょ。独り身だし、大半は外に出てるんだから」

「あ~中身が確認できないわけですか」

「そっ。となると、誰かしらは人がいそうなクラン本部でやり取りするのが一番現実的だろうし、帰ってきた時にすぐ中身を把握するためにも近くに住んでいた方がいいのかなって。それに強そうな魔物が当たり前のように歩いているこの町じゃないと、こいつらを待機させておく場所にも困りそうだしね」


 言われて確かにと納得する。

 クラン本部なら窓口を設けるのだから日中は必ず誰かがいるわけだし、俺も立ち寄りやすいので内容を把握しやすい。

 アウレーゼさんはまだいまいち理解していないだろうけど、ウィングドラゴンに乗って移動すれば隣国くらい数時間もあれば到着するのだから、こちらに引っ越したところでさして支障はないだろうしなぁ……


「じゃあ引っ越し作業もやっちゃいますか? 持ち家ならそっくりそのままこちらに移動させますけど」

「ぶっ! 相変わらずロキって意味の分からないこと言うよね。でもできるならお願いしちゃおっかな! あの家高かったし!」

「あ、そういえばアウレーゼさんってばお金持ちなのか……」


 思い返せば一度だけ、買い物の宅配でアウレーゼさん家の玄関先にはお邪魔していた。

 若干お化け屋敷っぽくなっていたが、そこらにある一軒家の数十倍はありそうな大きな家が、王都の中心地に鎮座していたのを思い出したのだ。


「あの、家の規模的に移す場所が少し離れた所になりますけど、いいですか? その替わり庭は凄く広いので……」

「え、いいじゃんいいじゃん! 庭が広いならこいつらも喜ぶでしょ」

「……」


 内心どうしようとは思うも、言ってしまった手前、もうあとには引けない。

 やむなく貴族のような豪邸をそのままベザートに移し、こうしてまた一人、誰もいないベザートの原っぱに居を構える新たな住人が加わった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 探査を繰り返し唱えながら、先ほどまで絶叫していたアウレーゼさんの顔を思い出す。

 あんなデカい家、庶民が住む町に置いたら浮き過ぎて景観がおかしくなるからな。

 しょうがないとは言え、あそこまで何もない原っぱにいきなり我が家を移されたらそりゃビックリするだろう。

 まさか高級住宅街の最初の住人がアウレーゼさんになるとは思わなかったが……

 他に放置されている豪邸と同じ、お金さえ払えば元奴隷の美人メイド達が家の掃除や管理はしてくれるし、町中の移動にヒポグリフを乗ってもいいよと伝えているので、前より住みやすい環境になっていてもおかしくないはずだ……たぶんだが。

 ――そんなことを考えていると、ようやく5匹目のイングベーダーを発見する。


『【寄生】Lv1を取得しました』


 うん、グレー文字だが、分かっていたことなので問題ない。

 とりあえず取得さえしておけばあとはなんとかなる。

 そう思いながら、先ほど中断してしまっていたステータス画面に再度目を向ける。

 ふふ……ふふふ……

 数値を見ると、頬が緩んでニヤけてくるのが自分自身でも分かってしまう。

 1か月以上前から目指していた【転換】の余剰経験値。

 こいつがとうとう目標値の1900万に到達したのだ。

 これでやっとだ。

 やっと上げられる――。


(余剰経験値で【転換】をレベル9にしてくれ)

『【転換】Lv9を取得しました』


 そして問題はここから。

 現在貯めこんでいる俺のスキルポイントは『1120』。

 必要経験値量の判別で中途半端に経験値を突っ込んでいたこともあり、レベル9は【転換】の余剰経験値だけでなんとかしようと決めていたが、さらにレベル10もとなるとここから数年掛かる可能性だってある。

 なので暗霧を倒した辺りから、この最後の砦だけはスキルポイントでなんとかならないかと期待していた。

 このポイントで足りるのか、否か。

 足りてくれればここからは無駄のない、最高効率で余剰経験値を貯められるのだ。


(頼む、スキルポイントで【転換】をレベル10にしてくれ……!)


 スキルポイントを眺めながら、祈るように心の中で叫ぶと、急にその数値が変動する。


『【転換】Lv10を取得しました』


「……ッしゃぁあ!!」


 スキルポイントの残りは『120』――つまりスキルレベル10への上昇には、ポイントが1000必要だったということ。

 やはりそう簡単に上げられるモノではないし、なんならスキルポイントを使ってレベル10にするのはこれが最後になるかもしれないが、まあそんな先々のことなど今はいい。

 これで気兼ねなく、ずっと、ずっと、ずーーーっと上げたくても我慢し続けていたスキルを上げられる。

 そう思いながら、残りの余剰経験値をここぞとばかりに振りまくった。


『【闘気術】Lv6を取得しました』

『【時魔法】Lv6を取得しました』

『【神聖魔法】Lv5を取得しました』

『【神聖魔法】Lv6を取得しました』

『【精霊魔法】Lv5を取得しました』

『【精霊魔法】Lv6を取得しました』

『【広域探査】Lv5を取得しました』

『【土操術】Lv4を取得しました』

『【土操術】Lv5を取得しました』

『【白火】Lv2を取得しました』

『【白火】Lv3を取得しました』

『【白火】Lv4を取得しました』

『【多重発動】Lv3を取得しました』

『【多重発動】Lv4を取得しました』

『【神通】Lv3を取得しました』

『【狂気乱舞】Lv1を取得しました』

『【狂気乱舞】Lv2を取得しました』

『【死霊術】Lv1を取得しました』

『【死霊術】Lv2を取得しました』


「あっは……あははは……!」


 これでようやくスタートラインに立てた――そんな感覚だ。

 実用性があり、希少性の高いスキルをまずは上げやすいレベル7まで。

 それが終わったら今手に入れた【寄生】のような、ステータス目的のスキルを一定のレベルまで上げてもいいし、実用性最強とも言える【昼寝】のカンストを最優先に目指すのもありだろう。

 そんなことを考えているとついつい楽しくて。

 時間を無駄にしたことを恥じながら、クランの本部は眠くなってきたらやればいいかと。

 外周を終えたアルバートのマッピング作業を再開させた。
599話 意外な提案

 アルバートの内陸に踏み込んで6日ほど。

 自分では石でしか建物を作れないということもあって、ベザートの南部に天井高め、柱多めのかなり神殿風なクラン本部も無事完成し、その後はうろうろと黒塗のスクラッチを削るように移動していると、見通しのいい平地の先にかなり規模の大きそうな町を発見する。

 上空から見渡しても町の終わりがはっきりとは見えないのだから、規模感で言えばマルタよりもさらに上――それこそ各国の王都レベルか。

 町を分断するように中央を大きな川が流れており、この国は造船技術が発達していることもあって、かなり多くの船が人や荷物を積んで川を移動している姿が目に入った。

 これは買い物の捗りそうな町だな。

 そんなことを思いながら発見した市場やハンターギルドに立ち寄ったりしていると、ふと道の端で屯す男の武器が目に留まる。

 一見すれば腰に佩いた剣だが、その鞘は緩く撓ったように反っていた。

 それはかつて一度だけ見た、ジュロイの転生者ルッソ君が持っていたモノと似たような雰囲気で……


(あれは、もしかして刀か……?)


 そう思うと居ても立っても居られず、予定にはなかった近場の武具店に突入してみる。

 が、店内を見回しても目的の武器は見当たらない。


「あの、この店って刀は売っていないんですか?」

「んあ? 兄さん他所から来たのか。昔からここじゃなく、下流で造られたモンが少量この町に運ばれてきているだけだからな。トトアラ地区の武具店ならいくらかは取り扱っているはずだが」

「へ~なるほど。トトアラ地区か……」 


 この世界の『刀』とはどんなものなのか。

 クアド商会に置いておけば売り物にもなるわけだし、参考程度に数本購入してみようかというその程度の考えだったが、店主はなぜか訝しげな視線を俺に向ける。


「兄さん、刀に興味があるなら止めておけ。あれは興味本位で手を出すモンじゃない」

「ん? 希少性があって無駄に高いとか、そういうことですかね?」

「まあ値段も高いという話はよく聞くが……あれは町のゴロツキ共が持つような悪人の武器だぞ?」

「は?」


 いやいや、どういうこと?

 まったく理解ができずに困惑していると、そんな俺を眺めながら店主は言葉を続ける。


「一部の者達にしか造れない殺傷能力に特化した武器ってのは、ゴロツキ共にとって一種のステータスになっているんだろうな。身に着けているとその手の連中からは一目置かれるが、関係ない人間には危ないヤツだと危険視されて、刀を持っているだけで人が近寄らなくなる。あんたのその身なりじゃ特にだろうな」

「えええ……」


 なんだよ、刀のその立ち位置は。

 あまりに不憫過ぎて言葉を失うも、レアモノだとすぐに分かる武器で見た目もまあカッコよく、さらに攻撃的な印象が強いとなると、悪党連中が憧れる気持ちも分からんでもないかと思ってしまった。

 んー……しかしそんな理由なら、悪人だけに好かれているというこの状況には疑問が残る。

 現に俺だって、どんなモノかちょっと触ってみたいとは思っているわけだしな。


「でもその切れ味に惹かれて、純粋に刀を主武器としながら高みを目指すハンターだっているわけですよね?」

「どうだろうな……絶対にいないとは言い切れないが、少なくともこの町じゃ聞いたことはない。あんな壊れやすく値の張る武器で魔物と戦うなんざ、まともな神経の持ち主ならまず諸々のリスクを嫌って避けるだろうよ」

「あ~いざという場面でしか武器を使わない悪党連中と違って、ハンターは装備を酷使しますしね……サブ武器は必須だし、よほど素材価値の高い狩場でもなければ怖くて使えないのか」

「それこそ無理な話だろう。刀は武具の製造で有名なドワーフの連中だって造れないんだ。下流で造られている刀も当の昔に失われた技術をそれっぽく真似ているだけって話だし、高位素材を用いた等級の高い刀は人の手からじゃ生まれない」

「……なるほど。だから高みを目指す人ほど、未来が閉ざされている刀を選ぼうとはしないわけか……」


 この世界の物品は全て等級性だし、高位素材というのだからこの世界は玉鋼だけではなく、それこそミスリルやアダマントを素材にした刀なんかも存在しているのだろう。

 だから完全に道が塞がれているわけではないけど、他の入手手段といったらダンジョン産の現物ドロップを狙うしかないわけで。

 しかも等級の高い上級ダンジョン産の刀なんて言ったら、どれほどの金を積み上げる必要があるのか。

 ルッソ君の刀も王様からのプレゼントだし、まず個人がそう簡単に金で解決できるとは思えない。

 しかし、そうかそうか……

 ハンターでは金銭的な事情や入手の難易度からまともに手を出す人はおらず、悪党が見てくれやハッタリのために使う武器となると――


「ははっ」

「?」


 それはそれで俺にとっては都合が良い。

 店主に礼を言い、足早に向かった先は傭兵ギルド。

 悪党が好んで使っているのなら、その悪党共を容赦なく殲滅していけば希少な【刀術】のスキルを入手できるし、そのレベルも上げられる。

 そんな期待を持ちながら支柱に貼り出された依頼ボードを眺めるも、周囲は見通しの良い平野とあって野盗討伐の類いは見当たらない。

 念のために支柱を囲むように貼られた四面のボード全てにじっくり目を通してみるも、その結果は変わらなかった。

 実際に刀を佩いている者は見かけたわけだし、これだけデカい町ならまず間違いなく悪党もどこかしらに巣くっているとは思うが、諦めてより刀が出回っているであろう地域に期待するか、それともこの巨大な町で少し動いてみるか……


「随分とご覧になられているようですが、何かお困りですか?」

「ん?」


 唸りながら悩んでいると、小奇麗な身なりをした中年の男が背後に立っていた。

 どう見ても傭兵じゃないし、立ち振る舞いや服装の雰囲気からしてギルドのスタッフだろうか。


「あー、いや、この町は野盗や山賊の討伐依頼が見当たらないなと思いまして」

「ふむ……失礼ながら、討伐依頼で少額を稼がれるほどお金に困っているとは思えませんが、なぜそのような依頼を?」


 サッと上下に這わせた視線。

 男が俺に対して何を思っているのかは分からないが。


「なぜって、人に迷惑をかけることでしか生きられないような|存在《ゴミ》なんて、綺麗に消した方が皆幸せでしょう?」


 当然のように答えると、男は一瞬目を瞬かせ、顎に手を当てながら数秒考えこむように視線を落とす。

 そして、非常に興味深い言葉を返してきた。


「……対象が強過ぎて、とてもじゃないですが公にはできない案件もあったりしますが……もしよろしければご案内いたしましょうか?」

「ほっ、ほほぉ……?」


 様々な国の傭兵ギルドに顔を出してはいるけど、こんなパターンは初めての経験だ。

 まだ傭兵登録もしていない――と言っても最後に傭兵登録したのはオルトラン王国が最後。

 それ以降はグリムリーパー絡みで人の死体も集めているわけで、討伐証明として証拠の死体をギルド側に引き渡したくないということもあって、わざわざ傭兵登録などせずに討伐依頼だけを確認していたわけだが……

 登録もしていないし、常連でもない。

 ただ立ち寄っただけの俺に対して、わざわざ向こうからクローズドの案件を紹介してくれるなんて、今日はノアさんの洋服効果がだいぶ良い仕事をしてくれている。

 そんなことを思いながら、俺は大きく頷いた。
600話 敵の敵は…

 おかしいな……

 そう思いながら傭兵ギルドで一人、毒ではなさそうなことを確認してから、出された香りの強い紅茶に口をする。

 壮年の男に案内され、ギルドの個室に通された。

 てっきりそこで、クローズドの案件を紹介されるのだと思っていたのだから、そこまでは良かったのだ。

 しかし男は『急ぎ依頼主を連れてくる』とだけ言い残し、俺を部屋に残したままどこかへ消えてしまった。

 飲み物の他に数種類の果物や軽食まで運ばれてきたし、何やら普通じゃない待遇を受けているっぽいことは分かるが、なんでこんなことになっているのか……

 この待ち時間を無駄だなと感じつつも動くに動けず、【魔力纏術】で癖になっているゼオの真似事をしながら待機していると、暫くして先ほどのギルド職員に連れられ、フードを目深に被った何者かが部屋に入室してきた。

 と、その者は俺の前に立つや否やすぐにフードを捲りながら跪く。

 素顔は一瞬女性かと見紛うほど長い金髪を後ろに縛った、異様に端正な顔立ちの男……なのか?


「まずは大変お待たせしてしまったこと、並びにこのような姿で馳せ参じたことを深くお詫びいたします。ロキ王様」

「え?」

「私はこの一帯の侯爵領を治めております、レオン・フォート・セルリックと申します。ロキ王様におかれましては、堅苦しいやり取りを好まないという話も耳にしておりましたが、ご挨拶をさせていただく今この時だけはお許しいただきたい」

「……」


 まさか、侯爵という立場の領主がいきなり現れるとは……

 思わず連れてきたギルド職員に目を向けると、滴るほどの汗を浮かべながら一礼し、足早に部屋を退出していく。


「そうしてもらえると助かりますが、まずは確認を。これは|初《・》|め《・》|か《・》|ら《・》|予《・》|定《・》|さ《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|た《・》|こ《・》|と《・》ですか?」

「その通りです。ロキ王様がアルバート王国の全てを掴むかの如く外遊されているという事実は、我が国の貴族ならば皆が把握していること。なのでこの地に足を運ばれるその時をお待ちしていたのです。合わせて国王陛下よりロキ王様への接触禁止命令も出ておりますので、このようなお忍びでの恰好となってしまいましたが」

「なるほど……僕が立ち寄る場所なんて限られていますしね。情報には敏いようですし、傭兵ギルドで網を張っていたわけですか」

「申し訳ありません。この領都を発たれる前にと、こちらも必死だったものですから」


 謝罪の言葉は口にするが、薄く笑みを浮かべた表情は変わることがなく、そこに焦りや怯えのようなものも感じられない。

 向こうは向こうで俺を探っているのか、感情の見えない厄介そうな相手に嘆息を漏らしながら侯爵を眺める。


「それで、僕の前に現れた目的は?」

「まず何よりも、ロキ王様にはぜひ直接謝意をお伝えしたかったのです。我が子を救っていただことに心より感謝を。クルシーズ高等貴族院に子を通わせ、同じ思いを抱く者達を代表して深く御礼申し上げます」


 言いながら深々と頭を下げる侯爵に対し、纏う雰囲気と立場のせいか。

 なんともいえない違和感を覚えてしまう。


「あの学院にはアルバート王国に所属する子供達も多くいたようですし、子を救われたというその結果に感謝される気持ちも分かりますが……それは王命に背いてまで、直接僕に伝えなければいけないことでしたか?」


 理由は理解できるが、行動とリスクがあまりに見合っていない。

 感謝の意を示すということなら書簡でもできたわけだし、接触禁止だというのにこうして目の前に現れたことを俺がアルバート側に漏らせば、その時点でこの男は一巻の終わり。

 国賊として粛清され、侯爵という立場だけでなく命までも高い確率で失うだろう。

 その程度のことに気付けないタイプではなさそうに見えるし、そもそもなぜ、俺にそんな命令が出ていることを告げたのかも分からないが……

 疑心から素直な反応を返せず様子を窺っていると、侯爵は分かっていると言わんばかりに軽く頷く。


「覚悟の問題ですよ」

「……というと?」

「見境なく学院を襲わせたのがマリー侯爵であることは既に分かっています。しかし国王陛下は彼女に心酔しており、そのような暴挙に対してさえもなんら処罰を下すことはありませんでした。つまりこの国はもう終わっているのです。憎きマリー侯爵の盾となり、利用されるためだけに存在するただの器……それが現在のアルバート王国なのですから」

「……」

「だから私は知りたいのです。ロキ王様がどのような理由でこの地に踏み込んでいるのか、真なる理由を」


 先ほどとは違う、戦場に立つ者と同じような眼差しをした領主の覚悟に、これはまず本気だなと感じつつも暫し考える。

 たぶん謝罪というのはあくまで口実であり切っ掛け。

 俺の本当の目的を問いたいというのが目の前に現れた一番の理由だろう。

 ただ尋ねられただけでは俺が本音を語る義理も理由もないが、ここまで明確にマリーと現王政に対して敵意を示しているとなると話は変わる――それこそ協力関係を築ける可能性もあるわけだ。

 しかし、突然現れたこの男をどこまで信じていいものか……

 言葉を慎重に選んでいると、答えに詰まっていると判断したのか。

 侯爵は俺からの答えを促すように言葉を続けた。


「当初はアルバートにロキ王様が踏み込んできたと知った時、私を含む大半の貴族達は大きな争いになる可能性を強く警戒しておりました。学院の襲撃により我が国は多くの敵を作り、マリー侯爵とロキ王様の敵対関係も明確になったと判断していたのですから当然でしょう。しかし実際は町に硝煙が上がるようなことはなく、各町の市場で商人が蒼褪めるほどの金を落として回り、傭兵ギルドに立ち寄っては報酬も受け取らずに周辺の野盗討伐をこなしているという不可解な報告ばかりが上がってくる始末……それに沿岸部では長らく止まっていた魚人との交易も再開したと聞き及んでいますが、それも移動の経路と時期を考えればロキ王様が何かしらの関与をされているのでしょう?」

「……」

「……不思議なものです。マリー侯爵から攻撃を受けたはずのロキ王様が、まるでこの沈みゆく泥船を救おうとしているようにも見えてしまう……だから問いたいのです。ロキ王様はマリー侯爵を敵視し、アルバートを潰そうとされているのではないのですか?」


 なるほど……

 特に意識などしていなかったが、外からはそのようにも見えているわけか。

 だがまあ、これで侯爵が何を知りたいのかは理解できた。

 おおよそどのような答えを求めているのかも。


「一番の目的はマリーを殺すための下準備ですよ。他は正直、マリーに便乗して欲を満たしているゴミがいるならついでに始末しようというくらいで、武器でも向けてこない限りは国そのものに大した興味もありません」


 そのままに本音を伝える。

 すると、ここに来て侯爵ははっきりと感情が透けるくらいに大きく口角を上げた。


「やはり思っていた通りのお方だ。ならばぜひ、私からもロキ王様に依頼をさせていただきたい。マリー侯爵を一刻も早く始末し、この国を元の正常な状態に戻していただきたいのです」

「依頼ですか……そういえば、強過ぎる討伐対象の紹介という体で僕はあなたを待っていたんでしたね。しかしそうなると、依頼に報酬は付き物ですが?」

「もちろん考えております。と言っても異世界人の王を相手に金品が報酬では、私程度が何を用意したところで霞んでしまう。ですから報酬に、この立場だからこそ知り得た情報をお伝えできればと考えておりますが如何でしょう?」

「へえ、普通では掴めない情報ですか……ちなみにあなたがマリーの手の者でないことをどう証明しますか?」


 最悪はその情報に踊らされ、こちらが危険に陥ることだってあり得るのだ。

 学院に子を預けていたのなら、マリーを憎む動機としては十分。

 可能性は非常に低そうだが、それでも事が事だけに慎重な確認を取ると、侯爵は間髪容れずに答えを返す。


「信用いただけないようでしたら、私自身を奴隷化してもらっても構いません」

「その立場なのにですか?」

「ええ。ロキ王様なら私を奴隷化しても、国民を苦しめるような要求はしないと信じておりますし、この部屋を訪れたその時から、立場も自分の命も捨てる覚悟はできておりますから」

「……」


 強い眼差しだ。

 一瞬気圧されそうになるも、同時にこれなら心配はないかと安堵の感情も広がる。

 元からマリーは殺すつもりだったので、この依頼や報酬もおまけ程度の感覚しかなかったが、敵国の侯爵が持つ情報とはどのようなものなのか……


「僕には僕のやり方がありますし、いつ遂行できるとお約束できるモノでもありませんけど、それでもよろしければ共闘といきましょうか」


 言いながら右手を差し出すと、侯爵は力強く俺の手を握った。
601話 侯爵が持つ情報

 依頼の報酬――というよりはこちらの成功を促すために、セルリック侯爵はその立場だからこそ知り得た情報を提供してくれるという。

 となると、真っ先に浮かぶのはマリーの居場所だ。

 早速問うも、侯爵は静かに首を横に振った。


「残念ながらマリー侯爵の居場所ははっきりしていません。宰相曰く、陛下ですら正確な所在は把握されていないという話ですし、誰にも明かしていない可能性が高いかと思われます」

「そうですか……」


 少なからず予想していた答えがそのまま返ってきてしまい、これでは侯爵の持つ情報に価値などあるのかと小さく嘆息を漏らしてしまう。

 が、どうやら侯爵には話の続きがあったらしい。


「しかし2つ、所在を絞る手がかりとなり得る情報もあります」

「具体的には?」

「まず1つ、これは宮殿勤めをしていた父が生前に残した言葉なのですが、今は古代の通信魔道具を使用して国と連絡を取り合うマリー侯爵も、30年以上前は直接宮殿に現れるか、もしくは様々な鳥を使って国とのやり取りを行っていたそうなのです」

「30年以上前というと、まだアルバートが近隣国を吸収する前の時代ですか」

「その通り、旧体制のアルバートに大きな革新を齎し、"富を運ぶ者"と民衆からもてはやされていた頃ですね。父もまさかこのような未来が待っているとは思わず、所在がはっきりとしないマリー侯爵に対して単純な疑問を抱いただけだと思いますが……やり取りを行うための鳥は全て、王都『ロミナス』から必ず北北東の空に向かって飛んでいったと、そう漏らしていたのをはっきりと記憶しております」

「北北東か……でも30年近く前となると、既にマリーが拠点を変えている可能性も十分あり得ますよね?」

「もちろんです。しかしマリー侯爵の居所が割れたという話は、噂程度であっても耳にしたことがありません。となると、数十年と発見されていない場所をわざわざ移す理由もそう多くはないだろうと私は考えています」


 この言葉に、確かにそれもそうかと納得する。

 相手は【空間魔法】持ちなのだ。

 俺と同じように人里から遠く離れた秘境であろうと、大量の生き物でも運ばない限りは大した障害にもならないわけで、住処を隠して身の安全を最優先に考えるなら、発覚されていない場所を無理に移す必要はない。


「とはいえ絶対に移動していないとは言い切れないので、隠された拠点を探されるのでしたらもう1つ手掛かりもあるのですが……ちなみにロキ王様は、"モノ探し"はお得意ですか?」

「ええ、まあ……」

「では"シェム"という名を、探しモノの1つに加えていただければと」

「シェム?」

「マリー侯爵の拠点にいると思われる側仕えの男です。通信魔道具による連絡はもちろんのこと、マリー侯爵の名代として手紙にもこのシェムという名で各所に指示書が届くと聞いています」

「なるほど……マリーには探査系など通じないとしても、このシェムという男であれば引っかかる可能性があるわけですか」

「ええ。少なくとも私が知る限りで2度、名代の役割を果たす者は代わっていますから、もしその者を見つけられればそこがマリー侯爵の隠れ家ということになり、本人もその場にいるかもしれません」


 ふーむ……

 側仕えの男が何度か代わっているのなら、常に【隠蔽】スキルの際立った者など用意はできないだろうという考えだと思うが、それでもヒットする確率はせいぜい半々といったところか。

 マリーと直接的なやり取りを行える者だけが知る"シェム"という名で探す価値はあるとしても、ダンジョン産のアイテムを買い漁っているマリーであれば配下の強化だって行えるし、この世界には探査などを阻害するための結界魔道具だってある。

 莫大な金があり、かつヘルデザートも押さえているマリーであれば、感知や看破系統を完全封殺するような魔道具を所持していたとしてもおかしくはないだろう。

 そんなことを考えていると、侯爵は予想外の言葉を口にした。


「ですからもし隠れ家を見つけたとしても、そのまま単身で乗り込むようなことだけは避けていただきたいのです」

「え?」

「ロキ王様が殺されてしまってはアースガルドとアルバート、どちらの国も未来が潰えてしまいますから、くれぐれもご判断は慎重に。それこそ学院でも共闘されたという獣人の王と組まれるなどして、十分な戦力を集めてから挑まれることを――」

「あの……素朴な疑問ですけど、マリーってそこまで強いんですか?」


 俺が死ねば思惑通りに事が進まなくなるからだろうが、まるで説得するように語る侯爵の言葉に興味が湧き、遮るように口を挟む。

 決して油断とかではなく、そこまで警戒するほどの何かを侯爵は知っているのか。


「マリー侯爵本人の強さというのは測りかねます。【空間魔法】の所持者であり、全てを見通すなどという話はよく聞くのですが、実際に戦う場面など見たこともありませんからね。それに公的にも本人が人なり魔物なり、何かと戦ったという記録は残されておりません」

「つまり、未知数だから強く警戒しろと、そういうことですか?」

「いえ、それもなくはありませんが、どちらかというと強く警戒しなければならないのは周囲の"黒騎士"です」

「黒騎士……?」


 聞きなれない言葉に眉を顰めると、侯爵は頷きながら言葉を続ける。


「黒い仮面と黒いローブを纏い、マリー侯爵が人前に姿を晒す時、必ず共に現れ付き従っている者達のことです」

「ああ、護衛のような存在ですか。でも転移による移動が前提なら、そう数は多くないでしょう?」

「そうですね。私は国の催事や宮殿内で偶然見かけたことがあるくらいですが、その時は多くても4名程度でした。しかし、その中身に問題がある」

「中身……要人警護ということなら、それこそオールランカーと呼ばれている連中にでも護らせているんですか?」


 少数にも拘わらず、その戦力を相当脅威に感じている節があるのだ。

 消去法で出た答えを口にすると、侯爵は少し驚いたように俺を見つめる。


「公にはされていないというのに、ご存じだったのですか?」

「いや、黒騎士なんて見たことも聞いたこともありませんよ。ただ金のあるマリーなら、一時的にオールランカーと呼ばれている護衛を用意することもできるだろうと、そう思っただけです」

「そうですか……ならば王命に背いてでも出向いた価値があったというものです」

「?」

「勘違いされていますよ、ロキ王様。55名からなるオールランカーとその水準に近い傭兵は、その多くがマリー侯爵の私兵と思った方がいい。なにせ傭兵ギルドという組織を作った張本人がマリー侯爵なのですから」

「え?」

「もちろんその全てがマリー侯爵の隠れ家にいるなどということはあり得ないでしょうが、オールランカーに加われるかどうか、また絶対的な指標となるオールランクに関しても、マリー侯爵の裁量で決まるところが大きいという話ですからね。擦り寄る者もいれば、個人的な依頼を断りにくいと考える者もいることでしょう」

「……」


 これは驚きだな。

 大陸の東部にばかり存在し、まだ傭兵ギルドが出来上がって数年という国があるのも、そういうことかと思わず納得してしまう。

 金を生み出すだけでなく、軍に属さない他国の主要戦力をコントロールし、さらには強力な私兵をも手に入れるための個人的な組織か……

 それに一時は俺も貢献し、あまつさえ自国に取り入れる可能性まで考えてしまっていたわけだ。


「ふふ……ふふふっ……」

「ロキ王様……?」


 最初は本当に侯爵の情報が必要なのかと疑問に感じていたが、いやいや、そんなことはまったくなかった。

 マリーの私兵として、多くのオールランカーと対峙する未来。

 もしそんな事態になれば、多くのリスクを孕むことなど百も承知だが。


「ふふっ……あはは……」


 それでもこの先を想像すると笑いが込み上げてしまい、そんな俺を侯爵は今までにない表情で見つめていた。
602話 目指す未来のために

 アルバート王国の北西部に位置する領都『ザイロ』。

 その中心地に建つ堅牢な屋敷にセルリック侯爵が戻ると、腹心であり侯爵と共に派閥を取り纏めるステウローザ伯爵が応接室で出迎える。


「無事お戻りになられたようで何よりです。成果のほどは如何でしたかな?」

「うん。彼のやりたいことと私達の望みが重なっていたからだろうね。こちらには損失のない情報提供のみで無事に協力関係を結べたよ」

「おお、それは素晴らしい。早速私にも内容をお聞かせください」


 人払いを済ませ、二人だけの応接室でセルリック侯爵は語る。

 はっきりとはしなかったロキの目的がマリーを始末するための下準備であると分かり、居場所に繋がる可能性のありそうな情報や抱える戦力。

 それにロキから問われ、アルバート王国の侵攻状況やマリーを押す国内勢力など、協力者として一時的な奴隷化も受け入れた上で正直に明かしたことを聞かされると、ステウローザ伯爵は少し意外そうな表情を浮かべながら問う。


「第五の異世界人ロキは、我が国を敵視しているわけではないのですか」

「ん~この土地に住む者は別に見ているんだろうね。マリー侯爵の下で甘い汁を啜っているような連中がいれば始末する可能性は示唆されたけど、武器でも向けてこなければ国そのものを潰すつもりはないってさ」

「なるほど……やはり噂は噂。学院の子供達を救ってくれたという事実もそうですし、傭兵ギルドの職員が報告してきた通り、強い正義感を持っているというのは間違いないようですね」


 その言葉が聞いて、セルリック侯爵は多くのオールランカーが敵に回る可能性があると、そうロキに告げた時の光景が一瞬脳裏を過る。

 ほんの一時ではあったが、まるで人が変わったような、ただ見ているだけ総毛立つあの異質な雰囲気はなんだったのか……

 オールランカーに深い恨みでも抱いているのか。

 もしくは強者にありがちな強き者との闘いを求めているのだろうか。

 落ち着ける邸宅に戻ってきたこともあり、セルリック侯爵は用意された紅茶を口にしながら暫し思考に耽っていると、ステウローザ伯爵は顎髭を撫でながら目を細める。


「ちなみに、損失のない情報提供のみということでしたが、"ファルコム"については?」

「伝えてないよ。攫われたらしい魚人種の行方を問われた時はまさかって思ったけど、そんな話は聞いたこともないし、それ以上のことは聞かれなかったからね」

「そうですか……ふふふ。本当に、この上なく最上の結果ですな。これでマリー侯爵が消えたとしても、アルバート王国の国力は衰えることなく、他国に対して十分な優位性を保つことができる」

「だね。あとはどちらが勝つか……彼に死なれては私達の目指す最良の未来は確実に見えなくなる。そうならないよう強く忠告はしたけど、完全に沈むよりは遥かにマシだ。念のために例の策も継続して進めていくよ」

「いくら戦力を集めようと、人外極まる集団を相手に異世界人ロキの陣営が勝つ保証などどこにもありませんからな。止むを得ません。"魔天閣"の人員入れ替えも急がせましょう」


 アルバート王国に豊かで明るい未来を残すため、若き大貴族は異世界人の王をも利用し祖国とマリーに牙を剥く。

 しかしこの時はまだ、まったく想定もしていない未来が待ち構えていることを二人は知らない。

************************************************
今回の話は短くてすみません。
いつもなら次の話と合体させるなりするのですが、今回はまったくテイストが違うといいますか、話の雰囲気的にここで切るのが最良と判断したため止む無く終わらせております。
同じ章の中でも1つのターニングポイントになる話なので、そういうことだと思ってご理解いただければ幸いです<(_ _)>
603話 成長、そして焦り

「ん? なんだ、おま――……」

「て、敵襲……ッ!?」

「……」


 騒ぎ始めた見張りの喉を握り潰し、すぐに転がる死体を『収納』していく。

 ようやく探し出した、目的の人物がいる場所だ。

 ひっそりと存在していた洞窟内部に足を踏み入れると、外の異常を察して慌てたように武器を握り始めた者達が迎えてくれる。


「てめぇ、俺達が"黒鉄の刃"だって分かってんのか?」

「もちろんです」


 ほんと、毎度毎度似たようなセリフを吐く連中だな……

 どこかに逃げ道がないか、【探査】や【気配察知】で人の動きを探りながら見回すと、刀を持つ者が10人程度はいる中で一人、それらしい人物を発見する。


「ん~あなたが最も強いと噂されている刀の使い手、紅衣のヌーグさんですか」

「……不気味なガキだ。見覚えのねぇ面だが、まさか腕試しにでも来たつもりか?」

「まあ、強い方が嬉しいとは思っていましたけど……でもやっぱりそんなもんですよね」

「あ?」


 男の【刀術】スキルはレベル7。

 確かに今までの中では一番高いが、だからと言ってこの程度では特別何かを思うこともない。

 刀の峰を肩に乗せ、集団の後ろで余裕ぶるその男のさらに背後へ転移し、後頭部から剣を突き刺す。


『【刀術】Lv6を取得しました』


 お仲間達からしたら、頼りにしている男の口が豪快に割れ、その中から剣がいきなり飛び出ているだのだ。

 理解が追いついていないのだろうが、そのまま固まっていてくれれば好都合。

 片っ端から20人近くはいる男達の首を刎ねていると、一人が慌てて部屋の入り口へ逃げていく。


 ――【闇魔法】――『黒鎖』


「ほがっ!?」


 そんな男を縛り上げ、粗方始末したあとに近づくと、これまた何度も聞いてきたお決まりの命乞いが始まる。


「ま、待て! 金を隠している場所はここだけじゃない! 俺を生かせばその場所を教えてやるから殺すな!」

「へ~何か所ですか?」

「え?」

「隠しているあなた達の拠点は他に何か所あるんですかと聞いているんです」

「こ、ここ以外に6か所だ! あんた傭兵なんだろう? 俺を見逃してくれたら全部教えてやる! 絶対にあんたが受け取る報酬以上の金にはなるはずだ」

「じゃあ、あなたはもう用済みですね。その6か所に保管されていた金や強奪品の類いは全て回収していますし、攫われた人達も既に解放していますから」

「え? まさかそこにいた連中も全員――……」


 徒党を組んで近隣の小さな町や村を襲って回る連中なんて、生かしておく理由を探す方が難しい。

 いちいち答える気にもなれず、黙って顔に剣を突き刺したあとは他に隠れ潜む者がいないか。

 死体や洞窟に置かれていたモノを全て回収しながら見て回り、他に誰もいないと確信してから大きく息を吐く。


「さて、これでどこまで上げられるか……」


『【急速再生】Lv7を取得しました』

『【月喰】Lv6を取得しました』

『【嗅覚上昇】Lv6を取得しました』

『【神託】Lv3を取得しました』

『【神託】Lv4を取得しました』

『【膨張】Lv2を取得しました』

『【膨張】Lv3を取得しました』


 そして次にどのスキルを上げるべきか。

 思案しながらステータス画面を流し見る。




 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:74  スキルポイント残:127

 魔力量:25316/32674 (964+25422) 暗霧(+6288)

 筋力:   9655 (515+8346)   ゲイルドレイク(+794)
 知力:   6718 (516+5413)   グリムリーパー(+789)
 防御力:  7755 (509+6483)   グリムリーパー(+763)
 魔法防御力:7000 (509+5686)   ガルグイユ(+805)
 敏捷:   6476 (509+4315)   ズケイラ(+882) グリムリーパー(+770)
 技術:   10819 (508+10311)
 幸運:   8029 (509+7520)  


 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》《暗霧を討てし者》

 【転換】余剰経験値:『221』


 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv9     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8 【刀術】Lv6
【鎌術】Lv8 【暗器術】Lv7 【暗殺術】Lv8 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv10 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv10 【闘気術】Lv7 【狂気乱舞】Lv7


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv7 【空間魔法】Lv7 【時魔法】Lv7 
【神聖魔法】Lv7 【呪術魔法】Lv7 【精霊魔法】Lv7 【魔力操作】Lv9 
【魔力感知】Lv10 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv6 【省略詠唱】Lv9 
【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv7 【土操術】Lv7


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv10 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv7
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10 
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7 
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6 
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【漁猟】Lv6 【造船】Lv2
【医学】Lv7 【装飾作成】Lv5 【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv7 【飛行】Lv9 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv9 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv5
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv7 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv9
【逃走】Lv9 【忍び足】Lv9 【俊足】Lv9 【縮地】Lv6
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv5
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv5
【付与】Lv6 【写本】Lv7 【自動書記】Lv7


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv7 【睡眠耐性】Lv7 【魅了耐性】Lv7
【石化耐性】Lv7 【呪い耐性】Lv7
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv9
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv8 【光属性耐性】Lv6


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv6 【地図作成】Lv7 【魂装】Lv7 【神託】Lv4 【奴隷術】Lv8
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7 【転換】Lv10 【死霊術】Lv6 【水中呼吸】Lv7 


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv9 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv7 【突進】Lv8 【旋風】Lv7 
【睡眼】Lv6 【爪術】Lv9 【洞察】Lv7 【踏みつけ】Lv9 【招集】Lv8 
【硬質化】Lv7 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv8 【咆哮】Lv8 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv6 【火炎息】Lv7 【発火】Lv7 【白火】Lv7 【炎獄柱】Lv7 【灼熱息】Lv7 【丸かじり】Lv8 【分解】Lv7 【吸収】Lv7 【氷結息】Lv7 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv7 【物理防御力上昇】Lv7 【魔法防御力上昇】Lv7
【不動】Lv7 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv7 【廻水】Lv7 【鏡水】Lv7 【透過】Lv7 【恐怖】Lv7 【封印】Lv6 【熱感知】Lv7 【陽炎】Lv6 
【流砂】Lv7 【砂嵐】Lv7 【砂硬鱗】Lv7 【昼寝】Lv9 【帯電】Lv6 【凍結息】Lv7 【底力】Lv7 【烈震】Lv7 【紫水】Lv7 【穢れた霧】Lv6 【急速再生】Lv7 【水蹴】Lv5 【月喰】Lv6 【水流】Lv7 【座陣刃】Lv7 【烈風】Lv6


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv7 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv6  
【酸液】Lv8 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv7 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv8 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv7 
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv6 【睡夢鱗粉】Lv4 
【膨張】Lv3 【甦生】Lv9 【共食い】Lv6 【粘液】Lv7 【分裂】Lv6
【砂泳】Lv7 【麻痺針】Lv6 【産卵】Lv6 【昇華】Lv9 【毒牙】Lv4
【放天乱羽】Lv4 【寄生】Lv1



 侯爵と出会ってから約2カ月ほど。

 アルバートの北西部を起点に順々と地図を埋めながら南下し、周囲から死を望まれる札付きの悪党共を殺し回ってきた。

 結果、行く先々で強いと噂になっていた刀使いもようやく始末できたが、それでも俺の心が満たされるようなことはない。

 職業加護を得られないことによる一番の弊害。

 一月ほど前までは次々と有用スキルのレベルを上げられる喜びに浸れていたのに、煮詰まってくるほど今後必要とされる経験値量の膨大さを強く感じてしまい、狙っていた獲物を刈り取った嬉しさよりも、物足りなさに対する不満や焦りが先立ってしまう。


「ちょっとマズいかな……」


 殺った悪党の数はそれなりに多いものの、それでも2カ月という期間の中で数を重ねてきたのだから、たぶん反動とは違うはず。

 それよりはあの時、侯爵からオールランカーの多くが敵に回ると聞いたせい。

 ズケイラ戦で肩透かしを食らったくらいならまだすぐに気を取り直せたけど、今は大量の経験値が手に入る大きな獲物の命を狩りたくてしょうがない。

 しかし、魚人種の頭が襲撃してきた以降は怖いくらいに無風だ。

 セルリック侯爵曰く、マリー側も表立って事を荒立てたくないからわざわざ俺に対して不要な接触の禁止を命じ、さすがにそうですかと頷きはしなかったが地図の作成も容認しているようなことを言っていたので、たぶんこのまま動いたところでよほど隙でも晒さない限りは目立った動きをしてこないだろう。

 となると、やはりこちらから動いてマリーの居場所を探し出すしかない。

 一応居所が分からずとも出会える場所は1か所押さえているが、あそこは他国の町中。

 初撃で仕留め損ない戦闘となった際は周囲の被害が大き過ぎるし、黒騎士とやらが複数人同行しているようなら尚更だ。


「たぶん旧アルバート領までもう少し……まずは王都『ロミナス』の位置を把握して、そこからどうするかだな……」


 そう思うと居ても立ってもいられず、既に日が沈み始めた山間部のマッピングを再開させた。
604話 王都ロミナス

 王都『ロミナス』を目的地に定め、意識して行動し始めてからは早かった。

 悪名高い刀使いを始末して1週間程度。

 そのくらいで長く続いていた耕作地の先に、商人達が口を揃えて城塞都市と呼ぶのも頷けるほどの高い城壁が現れ始める。

 これほど堅牢な作りは他じゃ見たこともないのだから間違いないだろう。

 ここが大国アルバートの王都『ロミナス』だ。

 ラグリースの王都と同じように、層を分けるための城壁がいくつも町の内部に存在し、その先には他国の宮殿のような規模を誇るいくつもの施設と、華やかさとは無縁の無骨で巨大な城。

 そして監視目的なのか。

 敷地の脇には城壁の一部と繋がっている、城よりもさらに高く聳える塔のようなモノまで存在していた。

 実在するとは言い難い 《夢幻の穴》の古城を除けば、この世界で城と呼べそうな建物を見るのは初めての経験だ。

 規模感もいくつか見てきた主要都市よりさらに大きそうで、自由都市ネラスと同じくらい町の探索は楽しめそうなものだが。


「どれどれ……」


 それでも真っ先に向かったのはハンターギルドの資料室で、目的の情報を目にして暫し思考を巡らす。



 ――《シトラスの森》――

 王都ロミナスの北部に広がる、ミシュト山へと続く深い森。

 大陸でも屈指の難易度を誇る狩場であり、日が沈むと魔物の種別が3種から6種に増加するという珍しい特徴を持つ。

 そのため非常に死亡率の高い狩場であるが、それでも夜間に挑むハンター達が多いのは、最高級木材として名高いエルダートレントの存在が大きいだろう。

 富を求めて挑まんとする、腕に自信のある者達はくれぐれも注意してほしい。

 エルダートレントと同じく、夜にのみ現れる『ドリームシアター』と『カトプレパス』は、生息数は少ないものの睡眠や石化といった、どれほど力がある者でも強い耐性を持たなければ無力化されてしまう能力を持っている。

 素材に目が眩み、索敵を怠った者から死んでいく――それが夜のシトラスの森である。



 ふーむ……

 その下にある挿絵には、パルメラの深部で見かける『キュウキ』『オーランベアー』『マンティコア』が描かれているので、この手のパワータイプが通常枠。

 そして夜間になると追加でパルメラにもいる『カトプレパス』と、俺も過去に1度オルトラン王国で襲われた『ドリームシアター』という、状態異常を引き起こす癖の強い魔物が少数存在しているわけか。

 となると、ここでの初見は『エルダートレント』のみ。

 魔力を帯びた木材としてかなり強い需要があり、旧アルバート時代に国を支えるほどの金を生み出していたという話なので、この魔物はスキルの内容に拘わらず纏まった数を狩っておこうと思うが……

 俺がこの町に来て、真っ先にハンターギルドへ足を運んだ理由。

 ボスに関連する情報が載っておらず、自然と足は受付に向かう。


「あの、《シトラスの森》について伺いたいのですが、この狩場にボスのような存在は確認されていないのですか?」

「え? いないはずですけど……ですよね、サブマス?」


 若いせいか。

 少し不安げな表情を浮かべながら受付嬢が背後へ向くと、奥の事務スペースにいた壮年の男が代わりに答えてくれる。


「Bランク以上の狩場なら存在することも多い狩場の|主《ボス》は、シトラスの森じゃ一切確認されていない。他にもそのような狩場はあると聞くし、王都ロミナスがただの町だった数百年前から記録がないのだから、存在していないと断定してもいいくらいだろう」

「そうでしたか……ありがとうございます」


 サブマスと呼ばれていた男の言葉を聞き、|数《・》|百《・》|年《・》|程《・》|度《・》の記録しか残されていないのでは知らなくてもしょうがないかと、表情には出さずに一人納得する。

 町や国は変われど、狩場はいつの時代も変わらない。

《シトラスの森》――それはかつて、ゼオが魔宝石を持つ裏ボスを討伐した狩場。

 当時は狩場の周辺に亜人達が住んでいたらしいが、大陸南東という位置関係からしても、まず場所はここで間違いはないはずだ。

 表ボスはおらずとも、裏ボスが発生するスイッチは必ず狩場のどこかに存在している。

 そして現在湧く状態にあるのか。

 それは分からないが、もし再度ここで湧かせることができれば、裏ボスの再戦とその条件が何かしら見えてくる可能性もある。


(夜間限定というのは面倒だが、数日はここで狩ってみるか……)


 そう思案しながら傭兵ギルドや市場を巡り、まだ日暮れまで時間があるならマッピングの続きでも進めるかと上空へ移動。

 ついでにセルリック侯爵の父親が言っていたという、北北東の方角に目を向ける。

 地図と照らし合わせると、俺が初めて刺身を食べたことで強く記憶に残るアルバート最北東端の町『ニッカ』は、この位置から見ると北東という表現の方が適切だ。

 つまり北北東というくらいならそれよりは内側。

 海ではなく、山地も多い印象だったアルバート王国の内陸に潜んでいるか、もしくはまだ俺も足を踏み入れていないアルバートよりも北側のどこかに潜伏しているのかもしれない。

 だが、仮にそうだとしてもだ。


「欲の塊みたいな女が俺のように、穴倉の中で数十年もひっそり地下暮らしなんて、そんなこと絶対しないよなぁ……」


 そう考えればいくら僻地であろうと、それらしい建物が上空から見えてもおかしくないわけで。

 地図を眺めながら拡大と縮小を繰り返し、暫く北北東という方角に怪しい施設や建物がないか確認していると――


 ――ジッ――……


 不意に側面から聞きなれない大きな音が聞こえ、思わず地図を消して目を向ける。


「え?」


 しかし、そこに町の姿は見当たらない。

 代わりに見えるのは複雑に色が混ざり合ったような眩い光と、今までに感じたこともないほどの膨大な魔力の渦。

 それは瞬く間に俺を飲み込み、全身を溶かすように肌を焼いた。
605話 集う大きな力

 王都ロミナスの空を眩い閃光が照らし、多くの者達が足を止めて空を見上げる。

 そんな中、倒壊した建物から慌てて逃げ出す数人の男達がいた。


「くそ……まさか耐えきれずに土台まで崩れるとは……」


 先頭を走る男がひとまず外へ出られたことに安堵していると、追うように駆けてきた見張り兵が怒りを露わに声を張り上げた。


「子爵! お待ちくださいオーリッジ子爵! 備品の搬入と聞いていたのに、なぜいきなり撃たれたのですか!?」


 平民が貴族に苦言を呈するなどもっての外だが、今回ばかりは感情が表に出てしまうのも仕方がない。

 いつかマリーが王都を訪れるその日のために。

 同じ志を持つ者達より目を見張るほどの支援を得られたというから、まだ見張りの全てがセルリック侯爵側の人間に染まっていない中でも、無理やり"魔天閣"の内部へ通して運び入れたのだ。

 にも拘わらず、子爵が対異軍用防衛魔導砲レイヴンを発動させ、さらには国防の要となる魔天閣にまで致命的な損傷を生じさせている。

 こんな事態、間違いなく王家やマリーにもすぐに発覚してしまうし、いくらセルリック侯爵の派閥に属している貴族であろうと許容できるものではない。

 しかし当のオーリッジ子爵は一度大きく息を吐くと、額の汗を拭いながら答える。


「指示を受け、目的を達するために起動させたのだから問題ない」

「こ、これほどの事態が、問題ないですと……?」

「ああ。宙に浮かぶあの黒い人の姿は、間違いなく第五の異世界人ロキだ。まさか夜を待たずして目的を遂行できるとはな……」


 この言葉を聞き、兵の一人は眉を顰める。


「なぜ、異世界人ロキを……? 我々の目的はマリー侯爵ではなかったのですか!?」

「ふん……どちらも敵だ。決して許しはせぬ……マリー侯爵も、異世界人ロキも……それにこの……もな……」


 万が一外へ漏れれば大罪人として処罰されるほどの重要機密になるため、セルリック侯爵と異世界人ロキとの間に共闘関係が結ばれたことは、極一部の者にしか知らされていない。

 だからか。


「これも……セルリック侯爵の指示なのか……?」


 町中を警報の鐘が鳴り響く中。

 負傷した腕を抱え、ボソボソと何かを呟きながら崩れた城壁の方へと向かう子爵の後ろ姿を、数人の生き延びた兵士達は茫然と眺めていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「はっはー! まさかこの世界でとんでもねぇ花火が見れるとはな!」

「冗談言わないでください。あれだけの増幅魔道具と各種属性魔石を提供したとは言え、まさかここまでの威力とは……少々アルバートが持つ魔導兵器の威力を舐めていましたね」


 王都ロミナスの町中で、屋根に上った二人の男女が空を見上げる。

 上空は昼だというのに残光が広く空を漂い、雲を不可思議な色に染め上げていた。


「でもまあ予定とは違うが、これで確かめられたんだから良かっただろ。一発撃っただけで塔が壊れたみたいだし、連射性能皆無の一発屋なら今回みたいにデコイを用意するか、もしくは土台を先に破壊するなりして対策は取れるっしょ」

「それはそうですが……………って、見えますか?」

「ん……? ……あれって、まだ生きてんの?」

「にわかには信じられませんが、宙に浮いているということはそういうことでしょう」


 二人が見つめる視界の先。

 そこには霧のような残光に交じって、宙に浮かぶ点のようなモノが確かに存在していた。

 と、同時に男はクツクツと笑いだす。


「くくっ。生きてんなら好都合じゃねーか。これでマリーもご自慢の黒騎士を連れて、この町を守りに来るしかなくなっただろ」

「彼がまだ戦える状態ならそうなる可能性が高そうですね。上手くいけばこの王都は戦場になり、アルバートの力は大きく削がれる……加えて数名でもロキが黒騎士を道連れにしてくれれば儲けものでしょう」

「ひひ……ひはは……! 状況次第では漁夫の利を狙って、俺らが全員やっちまうのもありだよなぁ……そうだよ、それが一番手っ取り早いだろ?」

「こちらは二人だけだというのに、そこまでリスクの高い方法を簡単に認めるわけがないでしょう。そもそもロキの方は生きていたとしても既に手負い。そう都合良く事が運ぶとは思えませんし、そのような状況になるまで待っていては本来の目的を果たせなくなります」


 言われ、男は不貞腐れたように屋根の瓦を一枚蹴り飛ばした。

 しかしそれでも自然と笑みは零れてくる。


「とは言え、様々な噂が飛び交うようになったロキと、素性がはっきりとしない者も多い黒騎士の力量。それにもしかしたら、噂すら聞いたことがないマリーの戦いまで見ることができるかもしれないのです。あなたにとってこれほどの楽しみはそうないんじゃないですか?」

「ああ、ウズウズしてくるぜ……最初はこのクソ忙しい時に面倒な話を持ちかけんなって思ったが、なんたら子爵といかいう頭のイカれたおっさんには感謝しとかないとな」

「ええ、彼の身勝手な裏切りに報いるためにも、まずはやるべきことを優先して終わらせましょう」


 二人は屋根を駆け、警報に戸惑う民衆を他所に、町の中央へと向かう。

 勢力の異なる大きな力が、こうして王都ロミナスの中心部に集結しようとしていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 冷静に考えれば、他にも対処の仕様はあったのかもしれない。

 だがあの時は咄嗟に身体を丸め、溶けているのか、削られているのか、それとも燃えて灰になっているのか。

 意識が途絶えそうになるほどの痛みに耐えながら、徐々に失われていく自分の身体を回復させることに精一杯で。

 ひたすら【神聖魔法】を連発し、突き抜けるように流れ続ける光の終わりを待っていると、暫くして襲い来る圧から解放され、不意に痛みの和らぐ時が訪れる。

 恐る恐る目を開けると、様々な色が混ざり合った光の奔流は制御を失ったように空を薙ぎ、次第にその勢いを失いながら霧散していった。


「ぁ……ぐっ……」


【急速再生】までは使わずに済んだが、なんなんだよこれは……

 状況が呑み込めず、特に酷い腕の回復を待ちながら周囲を見回していると、次第に何が俺の身に起きたのかを理解し始める。

 なぜ倒壊しているのかは分からないが、元々は巨大な塔が建っていた場所。

 そこから残り火のように淡い光が立ち昇っており、その下にはひしゃげた巨大な鉄板が露出していた。

 よく見なくても、見覚えのあるあの刻まれた文様は魔法陣で間違いない。

 つまり、動かせない代わりに威力を最大限まで高めたような、設置型の魔法に俺は狙われたわけだ。


「ふふ……ふふふ……いてぇ、なぁ……」


 さすがにないだろう、これは。

 砲台が壊れたためか、町の一部や城壁にも被害が出ているっぽいが……

 それでも上空にいる俺を狙い撃ちしてきたことは明白であり、しかもこれは本気だと、嫌でも痛感させられるほどの異様な威力も伴っていた。

 言い訳の余地もないほどに、俺をここで殺し切るための明確な攻撃。

 そう思うと、なぜか笑いが込み上げてしまう。

 俺自身、そのような切っ掛けを作ったつもりはないし、少なくともこのタイミングじゃないだろうと思っていたが、そうかそうか。

 アルバートはこの王都を戦場にする覚悟で、俺が訪れる時を待っていたわけか。


「ふふ……ふはは……じゃあ――」


 セルリック侯爵には悪いが、さすがにここまでのことをされて、大人しく引くという選択肢はない。

 そんな実例を作ってしまえばマリーとアルバートが増長するだけ。

 こちらに対して警戒や遠慮は次第になくなり、悲惨な未来しか見えなくなる。

 一瞬、侯爵の|慎《・》|重《・》|に《・》|動《・》|け《・》という言葉が脳裏を過るも。


「――お望み通り、相手してやるよ」


 引くに引けない戦いの始まりに、覚悟を決める言葉を呟き。

 兵がぞろぞろと動き始めた、王城のある中央の区画へと降り立った。
606話 救援依頼

 屋敷の一室で、ベルのような金属音がけたたましく鳴り響く。

 それはさして珍しくもない光景で、使用人の一人がいつも通りに受けるも、しかし内容――というよりは掛けてきた人物にその使用人は慌てふためいた。


「シェム様! 王都からの連絡なのですが、私では対応が難しい内容でして……!」

「ん? 極秘用件?」

「い、いえ。いや、たぶんそうなのだと思うのですが、国王陛下から直接のご連絡です!」

「えっ?」


 それは若執事シェムも同様で。

 本来は決められた高官から連絡が来るというのに、王が直接という、今までにない事態に動揺しながら通信魔道具を手に取った。

 ――そして、ほんの数秒。

 報告を受けただけで頭が真っ白になり、すぐに王への無礼などお構いなしに魔道具を抱えて駆け出す。


「マリー様! マリー様ぁ!!」

「なんだい煩いね! そんな叩いたらドアが壊れる――」

「それどころではありません! 王都が! ディグアス城塞が襲撃を受けています!!」

「…………あ? なんだって?」


 この雰囲気は相当マズい……

 同室しているだけで吐き気を催すほどの緊張感が漂う中、それでもシェムは抱えていた通信魔道具を差し出すと、すぐに喚く子供のような声が室内に響き渡った。


「マリー! 聞こえておらんのか!? 早く救援に来い! このままでは余の身も危ないのだ! 早くしろッ!!」

「待ちな、ポラン王。まずうちに攻撃を仕掛けているのはどこのどいつで、規模はどの程度だい」

「だ、第五の異世界人ロキだ! 単身でうちに攻め込む阿呆などあやつしかおるまい!」


 その答えを聞き、マリーはやはりそうかという納得の感情に共に、その思考が他に考えられる人物がいないという消去法の結果でしかないことを理解し、なぜという疑問の答えを探す。

 自らの命と抱える国を危険に晒してまで、安易に攻撃を仕掛けるようなタイプではないと思っていたからだ。

 初めからそのつもりなら、アルバートの国内で数か月と時間を費やす前に各地や王都へ攻勢を仕掛けていただろうし、魚人の族長が勝手に動いた時も多少の覚悟はしたものだが、それらしい報復行為というのは確認できなかった。

 それだけ慎重であり、感情に振り回されて暴走するようなタイプではない。

 にもかかわらず、一人でうちの本丸に攻め込んできているという……


「……なぜこんなことになっている。思い当たる節は?」

「理由など今はどうでもいい! それより早く救援を――」

「いーや、大事だね。動機によって相手がどこまで本気なのかも変わってくる。それによっちゃ用意する戦力だって違うんだよ」


 襲撃とは言うが、果たしてどの程度のものなのか。

 言いながらマリーは、自身の身を何よりも案ずるポラン王が警護を寄越せと、大袈裟に言っている可能性も考慮していた。

 ある意味、今までの行動からロキの性格を信用し、自国の王を信用していないからこその問いかけ。

 対して王は、それが怒りによるものなのか、はたまた恐怖によるものなのか。

 僅かに震える声で答える。


「あまりに唐突過ぎて、余にもはっきりとしたことが分かっていないのだ。だが……轟音と共に、王都の空が極彩色に染まった」

「極彩色……? まさか……」

「ま、魔天閣から、異世界人ロキに向かって砲撃したらしいという報告が入ってきている……」

「あ゛あ゛ァ!?」


 聞いたこともない怒声と共に目の前の机が叩き割られ、様子を見守るシェムと魔道具越しの王は肩が激しく跳ね上がる。


「あれほど手を出すなと言っただろうが……ッ! なぜそんなことになっている!?」

「も、もちろん余が命じたわけではないぞ!? 逃げてきた見張りの兵はオーリッジ子爵が魔導砲を起動させたと言うが、当の本人は行方が分からず確認もとれておらん!」

「オーリッジだぁ……? またどこぞの木っ端貴族が手柄欲しさに余計なことを……!!」


 怒りに震えるマリーだが、冷静に努めようとすればするほど強い危機感も生まれてくる。

 今、城塞が襲撃されているというのなら、それはつまりロキが生きているということ。

 アレは元々異世界人を含む超戦力の侵攻に備えて開発された、古代魔導兵器に近い威力を誇る防衛装置だ。

 もしまともに喰らって生きているとしたらただ事じゃない。

 移動能力や一国の戦力を潰し切れるほどの火力だけでなく、常識から大きく逸脱した防御能力もロキは備えていることになる。

 そんな相手を殺し切るとなると……

 暫しマリーが思考に耽っていると、唐突に別の声が通信魔道具を通して発せられた。

 どこか達観しているような感情の薄い声。

 それはアルバート王国の宰相――ビーネのものだった。


「逆恨みなのか、それとも他に絡んでいる何かがあるのか……はっきりとした理由までは分かりませんが、少なくとも手柄欲しさとは違うでしょう」

「……なんだって?」

「お忘れのようですが、オーリッジ子爵はクルシーズ高等貴族院の襲撃で我が国唯一の実子を亡くした者。異世界人ロキだけではなく町の一部を巻き込み、防衛の要である魔天閣まで倒壊させてしまっているのですから、功績どころか我が国の損失も顧みない行為と言えましょう。……だから陛下を通してお伝えしたのです。子を思う親の気持ちを蔑ろにされては忠誠が失われると」

「「……」」

「もはや敵と言っても過言ではないオーリッジ子爵の消息が不明となると、再び我が国が大きな痛手を負う行動に移される恐れもある。この状況で|出《・》|し《・》|惜《・》|し《・》|み《・》をされては、マリー侯爵が築き上げた王都の全てを失うことになり兼ねませんぞ?」


 この言葉で、怒りに震えていたマリーの拳がぴたりと止まった。


「シェム……今、ここには誰がいる」

「え、っと……54位、47位、41位、36位、33位、28位の6名です。あと番外も1名ほど」

「そうかい、じゃあすぐに集めな。全員連れていく」


 本来ならば相手一人に過剰とも言える戦力だが、果たしてこれで足りるのか。

 現状の戦力にマリーは不安が過るも、かと言って方々巡り、他の素直に従う黒騎士を今から探し出すような時間はない。

 だが、それなら――。


「承知しました……私も共に向かいますか?」

「……いや、お前には代わりにやってもらいたいことがある」


 告げられたその内容に目を見開き、驚きながら頷くシェム。

 そしてマリーは一同を引き連れ、王都ロミナスへと飛んだ。
607話 報復

 迫ってきたら迷わず殺す。

 そんな忠告も空しく、四方八方から湧き出たように兵士達が群がり囲まれる。

 石材だけでなく、何かしらの金属も多用された重厚感のある城の入り口。

 そこですぐに俺は足止めを食らっていた。


「しーーーしゅッ!! なんとしても死守だ!! 絶対に螺迎門を通すなぁああああ!!」


 まあ、わざと足を止めているとも言えるが……

 マリーがこの付近に潜んでいるのか。

 何も反応が拾えないためそれは分からないけど、不確かな隠れ家を見つけ出すよりは、この場に現れてもらった方が俺としても都合が良いからな。

 あの女のことだ。

 俺がまだ生きていることを知り、尚且つ自分が必要としているモノを次々奪われていると分かれば、嫌でも止めにくるだろうと。

 そう思い、手始めに損耗を避け、方々から人を集めて抱えていたであろう大事な兵力を削ぎ落としにかかる。


「怯むなぁああああ!! 武器を突き出し道を塞げ! 相手は手負いだ! 身を挺してでも動きを止めろォ!!」


 しかし、酷い|面《ツラ》だ。

 先ほどから指揮官らしき人物が声を張り上げ、その度に兵士達が毒液か、それとも麻痺薬か……

 何かが塗りたくられた刃をこちらに向けて突撃してくるが、強く記憶に残る、かつてラグリースに侵攻してきたヴァルツの兵士達とは大違い。

 なんの覚悟もできておらず、この行為に対して夢や希望を抱いている様子もなく。

 ただ道を塞ぐための捨て石として、避けられない命令に絶望の表情を浮かべているのだから、あの奇をてらった塔からの攻撃が周知されたものではなかったことが窺い知れた。

 そんな中、じわりじわりと押し寄せていた衝動が、ジュロイで約8000人を始末した時の覚えある感覚まで到達したことに気付く。

 一瞬背後を振り向けば、城門前の広場に広がる大量の死体と、それらの死体を乗り越えて迫る兵士の群れ。


(まだ6000人弱……だいぶ早まってきてるな……)


 想定よりもペースが速く、このまま敵の本拠地で戦い続けた場合、どこまでこの衝動が強くなるのか。

 少し不安に感じつつ、目の前で奇声を発しながら振りかぶる兵士達を纏めて斬り飛ばしていると、再び指揮官と思しき男の叫びが響き渡る。


「避ける隙間を与えるなグズ共がッ! ここで身体を張らねばどこで国と陛下のお役に立てるというのだ!? 斬られようと腕を掴むくらいの気概を――……」

「さっきからうるせぇなぁ……」


 一度大きく飛び跳ね、そのまま上階から見下ろすように指示を飛ばしていた男の下へ向かうと、まったくこのような動きを想定していなかったのだろう。

 小さく悲鳴を上げながら後退るので、無言のまま近づき腹に剣を突き刺す。


「あが……ッ」

「ほら、どうしたんですか。腕を掴んで僕の動きを止めるんでしょう?」


 言いながら捩じり、刃を下に向けて僅かに押し込むと、その男は顔面を蒼白させながら懇願した。

 聞くに堪えない、ノイズのような言葉。


「ぉご……!? まっ、て……た、たすけ――……」

「……てめぇでできもしないことを、偉そうに指示してんじゃねーよ」

「あ゛あ゛あ゛……」


 そのまま真下に切り裂き、まだ意識のある頭を掴むと、抗いようのない死を理解したのか。

 先ほどとは一転して力なく俺を睨み、息も絶え絶えに恨み節を吐き出す。


「た、った一人で、何が、できる……マリー様が、来れば、貴様なんぞ……」

「そのマリーをこっちはずっと待ってんだよ、アホ」

「へぁ……?」


 用がなくなりそのまま放り投げると、異様に足の長い男は悲鳴と共に、いろいろなモノをぶちまけながら先ほどの広場へ落ちていく。

 ほんの少し前までの喧騒が嘘のような静寂。

 他にも聞こえていた指揮官らしき声はピタリと止み、固まったように上を見上げて動かない兵士達を眺めながら思考に耽る。

 自己回復のためにかなり消費した魔力を少しでも回復させておきたいのと、始末した数をカウントしておきたいという狙いもあって、比較的ゆっくりと攻め寄ってくる兵士を狩っていた。

 が、いくら警戒してもマリーが紛れて襲ってくるようなことはなかったし、先ほどの男もまだマリーがここにはいないような話しぶりをしていた。

 大した立場でもなさそうな男がそこまでの情報を握っているとは思えないが……

 この程度の動きじゃ足らないのか?

 それならもう少し派手に――いや、それこそ陛下がどうのと言っていたし、ケジメを付けさせるためにもこの国の王を直接探して狙ってみるか、もしくは始末した上でこの国が抱える宝物の類いを奪った方がマリーも動くのではないかと考えを切り替え、探査を使用しながら城塞内部を進んでいく。

 王の反応が拾えないのはこの城が広いからなのか、それとも魔道具か何かで守られているからなのか。

 相変わらず四方から兵士が武器を片手に駆け寄ってくるも、俺自身も動き続けているため、先ほどのように身動きがとりにくくなるほどの混戦になることはない。

 腹の限界を感じつつ、それでもこの国で仕入れた魔力ポーション(中)を飲みながら徘徊し、時に寄ってきた兵士から場所を聞き出しつつ探索を進めていると――


「へえ……これは凄い歓迎だ」


 ようやく謁見の間だと、一目で分かる広大な部屋に到着する。

 そこには数百人――もしくはそれ以上の人間がいるんだろうな。

 派手な鎧を着た兵士達が部屋の中央で身を寄せ合うように固まり、その両脇にはローブや軽装を纏った魔導士風の者達がずらりと並ぶ。

 近衛と思われる兵士達が玉座を隠すように陣取っているけど、肝心の王はその奥にいるのか。

 そしてこの中に、マリーは潜んでいるのか……


「巨大な砲撃型の魔道具で僕を殺そうとした。その責任をこの国の王に取らせるためここに来ましたので、そこをどいてくれませんか」


 一応声を掛けると、先頭に立つ一際派手な鎧を身に纏った男が言葉を返す。


「そのような提案が呑めないことなど、貴殿も分かっていよう。今、許可なく撃ち放ったオーリッジ子爵を捜索している最中だ。生きているのか死んでいるのか、それすら分からぬが……必ずその者は引き渡す故、それまで待ってはもらえ――」

「それこそ、無理な話だって分かっているでしょう?」


 生死不明の実行犯を差し出すだけで許されるなんて、そんな馬鹿げた話に納得するわけないだろう。

 そんなことが罷り通るのならば、切り捨て要員さえ作ればこの先なんでもありになってしまう。

 先頭に立つ男も、内心では分かっているんだろうな。

 余計な言葉を吐き出すことなく瞳を閉じ、何かを決心するように大きく息を吐くと、城の入り口付近にいた連中とはまったく異なる鋭い視線をこちらに向けながら剣を抜く。


「ならば国を――、陛下をお守りするため、貴殿とはここで戦うしかあるまい」

「……今戦えば、この場にいる人達は途中離脱も許されることなく確実に死にますが、本当にいいんですか?」

「ッ……国家存亡の機に臆してなどいられるものか! 総員、構えよ!! ここでの我らの動きがッ! 覚悟がアルバートの未来に大きな光を灯すと思え!!」

「「「ハッ!!」」」


 守るべき立場がある者ほど盲目的になりやすいのか?

 大層な覚悟だが、マリーが実効支配している時点でアルバートにろくな未来などありはしないだろう。

 まあセルリック侯爵と違い、こうして国の中枢に居場所がある者達にとってはまた見え方が違うのかもしれないけど……

 下層にいた連中よりも明らかに強い相手。

 堪らず一歩、また一歩と足を踏み出すと、分かりやすいくらいに表情が強張り、空気がヒリつくほどの緊張が伝わってくる。

 大義を抱え、死を覚悟した者達との戦いだ。

 ここでアルバートの精鋭集団を食らい尽くせば、俺はどれだけ強く――……


 抜き身の剣に手を添え、言い知れぬ高揚感に呑まれないよう指先を軽く傷つけながら一団に向かい歩いていると、不意に兵士達の一部が喜色を浮かべ、僅かに空気が緩んだことを肌で感じる。

 兵士達の視線は、俺よりもさらに後ろ。

 振り返ると、謁見の間を仕切る巨大な扉から、異質な雰囲気を醸し出す黒ずくめの存在が一人、二人と。

 一切の気配や焦りを感じさせない歩みでこの部屋へと入ってくる姿が視界に入った。


「ようやくか……」
608話 7人の黒騎士

 同一の不気味な文様が入った黒の仮面に黒いローブ。

 これが噂の黒騎士と呼ばれている連中で間違いないだろう。

 背丈の違いは見られるが、スッポリと頭からフードを被った存在が総勢7名、入り口を塞ぐように立ち並ぶ。

 と、しわがれた女の声が耳に届いた。


「ここに来るまで、どこもかしも通路は死体だらけ。随分と派手にうちの兵士を殺してくれたじゃないか」

「警告もお構いなしに斬りかかってくる兵士を相手にしただけで、これでもかなり遠慮はしたんですけどね。それにあなたがなかなか来ないから、兵が身体を張って僕を止めていたんでしょう?」

「はっ、まるで私を待っていたような言い草だね」

「その通りですよ。あの砲撃は冗談で済むような威力じゃなかった。僕を本気で殺そうとした責任はこの国の王とマリー、あなたにとってもらうつもりですから」
 
「……そうかい」


 目の前から声が聞こえてくる独特の感覚はたぶん【遠話】だ。

 敢えてこの距離でもスキルを使うのは、特定されるのを避けるためだろうが……

 当たり前のようにスキルは見通せず、気配などの感覚も掴めない7人の黒騎士を順に眺める。

異様にガタイの良いのが一人と、巨大な鎌を持ったヤツが一人に、杖を持ったヤツが二人。

 あとの三人に目立つ特徴はなしか……

 7人のうち、どいつがマリーなのか。

 全員が違う可能性も考慮し、後方にも意識を向けつつ黒騎士の動向を注視していると、先ほどのしわがれた声が独り言のような呟きを漏らす。


「まったく、ここまで予定が狂うことになるとはねぇ……」

「……」

「場所を変えようか。この町の南にある湖を越えれば、その先はだだっ広い平野だ。とりあえずそこに来な」

「なぜ、あなたの望む場所に行く必要が?」


 ここに現れるまでそれなりに時間も掛かっているのだ。

 狡猾な女がわざわざ指定する場所など、何が仕掛けてあるのか分からない。

 それに、まだ……

 一瞬、背後に目を向けようとしたところで、先ほどまでとは違う怒気も孕んだ声が耳に響く。


「これ以上ここで暴れるつもりなら、今すぐにベザートの町を消し炭にしてやる。ただの一人も生かしやしないよ。それでもいいなら好きにするんだね」


 それだけを告げると、こちらの返答も待たず7人の黒騎士が固まるように集まり、数秒後には転移だと分かる消え方でその場から全員が姿を消す。

 向こうは向こうで、自国を守るための行動をとっているわけか……

 罠があるのかないのか、そもそもどんな場所なのかも分からないが、こうなると仕方がない。


「……命拾いしましたね」


 改めて振り向きそう告げると、玉座を隠すように固まっていた兵士たちは、それでもなお茫然と立ち尽くしていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 静けさの漂う広間にコツコツと、徐々に離れていく一人の足音だけが響き渡る。

 そしてロキが巨大な入場門から消えていくその姿をひとしきり眺めたあと、緊張を吐き出すように大きく息を吐いた団員の一人が、堪らずといった様子で声を漏らした。


「わ、我々は助かったのですか……」


 するとその言葉に、周囲の者達も様々な反応を示す。


「ああ。マリー侯爵が救援に来てくださなければどうなっていたことか」

「間一髪だったな……本当に……」

「お、おい、お前達! まだ終わったわけではないのだ。気を緩めるな!」


 言葉だけでなく、極度の緊張からその場に座り込む者達もいる中で、思わずその様子に声を張り上げ叱咤する副団長。

 しかし、真正面から対峙していた近衛騎士団長ホーゼは剣を納めると、小刻みに震える手を隠すように強く拳を握った。

 同じ異世界人ということなら自国にはマリーという存在がいるし、普通ではないことだけは分かる黒騎士の面々もこうして幾度となく目にしている。

 しかしあれは……

 圧倒的な強者を前にした時とはまた違う独特の恐怖感が心を浸し、姿が消えた今となっても震えが止まらない。

 アルバート国軍の精鋭だけでなく、黒騎士やマリー侯爵を前にしても変わらない、あの目や雰囲気に中てられたのか。

 呼吸を整えながら自らを落ち着かせていると、副団長から声が掛かる。


「ホーゼ団長。ひとまず難は去ったようですが、どうされますか?」

「うむ……まずは陛下にご報告だ。ディグアス城塞――いや、できればこの王都ロミナスから一時的にでも避難していただく準備を進めなくてはならん」


 この言葉に周囲がザワつき、真意を確かめるように副団長が問う。


「それはつまり、まだこの王都で何かが起きると……?」

「さあな。宰相曰く、オーリッジ子爵は異世界人ロキだけでなく、アルバートという国そのものに恨みを抱いている可能性があるという。安否が分からぬ以上何をしでかすか分からぬし、異世界人ロキは確かに砲撃の責任を陛下とマリー侯爵に取らせると言っていた」

「だ、団長は、あの数の黒騎士とマリー侯爵が敗れ、再びあの男がここに現れるとお考えなわけですか……」


 信じられないといった様子で副団長が呟くと、ホーゼは否定とも違う、曖昧な態度で首を緩く横に振った。


「黒騎士が同時に6人動くなど聞いたことがないし、マリー侯爵自身も戦われるおつもりなのか、あのような恰好をされていたのだ。私だってまずないと思いたい。が……可能性がまったくのゼロではない以上、対策を取るのが我らの務めだろう。各部隊長と共に準備をしておけ」

「承知しました。しかしそうなると、近衛だけでなく王宮騎士や王宮魔導士部隊にも準備を進めてもらった方が良さそうですな」

「だろうな……他にも回せるよう献言してみるが、そうなる可能性は高いと思っておいてくれ」


 本音を言えば、戦力と人手を割きたい箇所は山のようにある。

 空を虹色に染めた魔導兵器によって、町は鳴り止まぬ警報と脱出を図ろうとする住民達で混乱状態。

 外周壁に近い町の一部も砲撃により破壊され、未だ被害状況ははっきりとしていないし、魔天閣の倒壊によって城壁や周囲の建物を巻き込み多数の者達が生き埋めになっていると報告も受けていた。

 それに一般兵では立ち入れない特殊な警備区画も城塞内部に複数あるが、このような状況であればいつにも増して陛下は強く身辺警護を求められるだろうと。

 分かり切った答えに溜め息を漏らし、一難去ったアルバートの精鋭部隊は慌ただしく動き始めた。
609話 湖の先へ

 警報鳴り響く王都の上空をしばらく南に向かうと、広く続いた農耕地の先にそう大きくはない湖を発見する。

 その先は木々も碌に生えておらず、よく街道に利用されるような見通しの良い平野が続いていたため――


「あれか……」


 ――上空からでもはっきりと分かる黒い塊を確認し、改めて周囲を見回してから近くに降り立つ。

 すると、岩に腰掛けていた黒騎士の一人がゆっくりと立ち上がった。


「呆れたね。本当に一人で来たのかい」

「……ああ。あなたならここで仲間を引き連れてくるわけですか」

「まったく、その若さで大した自信だよ。お前が死ねば、大事そうに抱えているベザートの町は全てを奪われ消えてなくなる。そいつを理解していないわけじゃないだろう?」

「もちろんです。だから僕は奪おうとする存在を許さない。周囲に害を振りまくことでしか生きられないような連中は必ず殺す」


 カルラのように、魔力を使用することで若返る能力がないことはもう分かっているのだ。

 いずれは俺がいなくても町が回るようにと思っているが、少なくとも今この段階では難しく、規則に縛られ直接手は出せないリルにアルバート王国との緊張が高まったことを伝え、ベザートに怪しい人物や異変が起きたらすぐに連絡をくれと報告しておくくらい。

 少しずつ戻ってきているとはいえ、まだあの魔力量ではゼオに頼るわけにもいかず、力で奪おうとする者達は多いというのに自衛の手段があまりに乏しい。

 と、ここでマリーが意外な言葉を口にする。


「はぁ……お前がどう思うかは別として、事実だけは伝えておくよ。まず今回の一件に私は一切関与していない。それこそうちの王を介して、面倒なことになるからロキには手を出すなと強く忠告していたくらいだ」

「……」

「にも拘わらず砲撃したのは、学院でお前が救わなかったオーリッジという子供の親だ。アルバート王国内で自分の子供だけが死んだことに恨みを抱いたんだろう」


 ……記憶にある名だ。

 確かに2つ並んだ遺体の前で、複数人の生徒がオーリッジと言う名を口にし哀れんでいた。

 だがさすがにそんなの、逆恨みもいいところ。

 見捨てる気などなかったが、あの時の俺ではどうしようもなかった。


「だからアルバートは……王やあなたは悪くないと、そう言いたいのですか? 元はと言えば、あなた達が学院の被害も顧みずに攻撃を加えたことが原因だというのに」

「責任の所在ではなく、砲撃の事実はそうだと言っているんだ。こっちは今このタイミングでお前と戦う気なんてなかった……どう転んだところで西の連中が喜ぶだけだからね」


 たぶん、マリーの語った内容は事実であり、本心なのだろう。

 だが、戦力など抱えていない俺にとっては、遅いか早いかの違いだけ。

 アルバートやマリーの事情など考慮する必要はない。


「……今、このタイミングと、そう言っているのが良い証拠じゃないですか。お互いに存在を疎ましく思い、それでも自国の被害を考えれば直接的な行動には移せないでいた。だったら決着をつける良い機会でしょう? 見てお分かりの通り、僕はたった一人だ。そこで侍らせている黒騎士とやらも、死ぬ覚悟があってマリーに加勢するのでしたら止めはしません」

「……」

「それとも、ここまであなたに有利な状況であってもビビって逃げ出し、またコソコソと裏で薄汚い暗躍に精を出すつもりですか? 結局は通りすがった僕に潰されるというのに」

「ふん、クソガキが……」


 正直、ここでどう動けば最善手になるかは分からない。

 下手に【洞察】を使うわけにもいかず、相手戦力は未知数のまま。

 しかし、マリーが及び腰……というよりあまり乗り気に見えないのは、今動いたところで利点が薄いというだけでなく、今ある戦力にそこまでの自信がないようにも思えてくる。

 だったらようやく掴んだこの機会を逃し、マリーに再び潜伏される方が面倒であり、厄介になる可能性が高い。

 アルバートだけでなく、旧スチア連邦やパルモ砂国の戦力。

 それに55名存在するというオールランカーを、同時に動かされる方が厄介極まりないのだから。


(唯一、仮にここでマリーを始末できたとして、残された他のオールランカーがどう動くのかは気になるところだが……)


 余計な欲を振り払うように大きく息を吐き、分かりやすく戦闘の意志を示すため自己バフを唱える。


 ――【身体強化】――

 ――【気配察知】――

 ――【魔力感知】――

 ――【発火】――

 ――【嗅覚上昇】――

 ――【熱感知】――

 ――【聞き耳】――

 ――【忍び足】――

 ――【魔力纏術】――魔力『5000』


 するとこちらの動きに反応し、相手も様々なスキルを使用しながら意見を口にする。

 初めて聞く、黒騎士達の言葉。


「よいではないか。奇しくも我らに数の利があるこの状況だ。始末できれば見返りも大きいのだろう?」

「ああ、それにどれほど強いのか、単純な興味もある。あれが噂に聞く火纏いだとして、あの黒いのは……純粋な魔力か?」

「……みたいですね。つまり人の形をした魔物ということ。女神も無粋な生き物をこの世に産み出したものです」

「くふっ、敵には違いないんだ。なんだっていいじゃねーか」

「そうだねぇ。もう1000年以上、ずっと退屈していたんだ。たまには命を燃やすような戦いに興じるのも悪くない。ねえ、ユーバ」

「仕事なら、殺す……それだけ……」


 仮面で口元も覆われているため、誰が喋っているのかまでは分からない。

 だが――


「はぁ……ったく、しょうがないね。やるからには勝ちな。援護くらいはしてやる」


 ひとまず、最重要人物が戦いの場に足を踏み入れてきた……

 この状況に打ち震えながら剣を抜く。

 こうなれば、もはややることは一つ。


 ――絶対に、マリーを逃がしはしない。
610話 黒騎士との戦い①

 重量感のある歩みで前に出てきたデカいのと、その後に続く、無手に見える二人の黒騎士。

 巨大な鎌を持ったやつは武器を構えるだけでその場から大きくは動かず、杖の二人を含むほか3人はお互いの距離を空けるように横へ広がりながら少し後退していく。

 相手の【隠蔽】により気配や魔力の動きを捉える感知系。

 それに探査系統スキルなども遮断され、基本的には視覚でしか相手の動きを捉えられないこの状況。

 互いに出方を窺っている今はまだ、全体を追いきれているが……


(とりあえず、後衛の首を1つ斬り飛ばしてみるか?)


 そう上手くいくとは思えないが、それでも支援に回ると言っていたわけだし、マリーが後方に陣取る3人のうちの誰かである可能性が高そうなのだ。

 強く警戒しながら動きを止め、転移の準備に入っていると――


「させん!」


 叫びと共に先頭のデカブツが大きく踏み込み、拳を掬い上げながら地面へ叩きつける。

 すると、爆発したように地面が吹き飛び、俺目掛けて土石が飛散。

 その中には明らかに魔法で生成されたと分かる、飛来速度のまったく異なる岩の槍まで大量に飛んでくるが、これはダメージを負わせる――というより、転移対策なのか?


【風魔法】――『風』――


 そう思いながら、極力魔力消費を抑えた形で周囲の土石を払うと、デカブツの後ろにいた二人の姿が忽然と消えていた。


(マズい……動きを止めたらダメだ……)


 直感的にそう感じて飛び退けば、先ほどまでいた場所に槍を突き出した黒騎士が弾丸のような勢いで降ってくる。

 が、それだけでは終わらない。

 想像以上の速さでそのまま流れるように槍を薙いできたため仰け反るも、避けたと思ったところからさらに穂先が伸びて頬を裂かれ、素早い引きと同時に接触していないはずの肩口まで抉っていった。

 理解の追いつかない現象とその強さに対する素直な驚き。

 槍を持った黒騎士は距離を取り、隠れるようにこちらへ走ってくるデカブツの背後へ戻ったが、もう一人はいったいどこへ消えたのか……

 軽く視線を這わせるも見当たらず、状況を確認するため大きく跳躍。

 そのまま上空から見渡すと、俺に寄ってきていたもう一人の姿は見当たらず、代わりに――なんだ?

 人型だが黒騎士よりも明らかに大きい、羽を生やした煌めく浮遊体が後衛の一人によって生み出されていた。


「ぐおっ……」


 と、急に踏み潰されたような衝撃が加わり、視界がブレる。

 過去に味わった覚えのある、強い身体への違和感。

 満足に飛ぶことができず、強制的に地面へ引き摺り降ろされた途端、踏ん張ろうとした足を取られて立つことすらままならなくなる。

 何事かと足元に視線を向けると、自分の影の中から湧き出た幾つもの黒い手が俺の足を掴み、片足がその影の中にめり込んでいた。


「抵抗……強過ぎ……もう、もたない……!」

「十分だ!」


 今抵抗がどうだと叫んだ女は鎌を持ったやつか……?

 状況を整理する暇もなく目の前に迫るデカブツ。

【闘気術】だと一目で分かる白気を身体中から発し、先ほどとは違う、甲から鉤爪を生やした金属製の拳を勢いよく振り下ろす。


 ――【剣術】――『力刃』


 足を取られて満足に踏み込めず、未だ身体も鉛を背負ったように重い。

 それでもこのままでは身体を貫かれるという危機感から剣を振り上げると、デカブツが唸るように声をあげる。


「ぐ、ぬ……なんという力……! だがッ!!」


 見た覚えのない行動だった。

 デカブツは振り下ろしていた手を開くと鉤爪を引っかけながら手首を返し、もう一方の手と合わせて俺の剣を両手で強く握る。

 狙いを理解し金属に覆われた指を切断するつもりで咄嗟に腕を引くも、掴まれた剣を抜くことができず――


「やれぇええ!!」


 デカブツの咆哮のような叫びと共に、再びその背後から現れる、槍使いの男。

 飛び上がってすぐに宙を何度か蹴り上げ、槍を前面に向けたまま凄まじい速度で迫りくる。

 それは仮面越しでも寒気がするほどの殺気に満ちていて――


「"竜点突牙《ドラゴンファング》"」


 ……対処しなければ殺られる。

 そう思ったと同時に空いた左手を突き出し、纏わせていた魔力を槍の形状に合わせて限りなく小さな盾へと変化させた。

 ――が。


(向こうも何かを、纏わせている……?)


 ただの魔力とは異なる、風の渦。

 それは鋭い槍の穂先に向かって激しく回転しており、自分の魔力だからか。

 厚みを持たせた魔力の盾を異常なほどの力で抉り、貫いてくる様子が手に取るように分かってしまった。


 こいつだ……

 こいつが特にヤバい……!


 ――【不動】――


 こちらは片手であり、掴まれた剣を手放し両手で対処するか一瞬悩むも、そうすれば今度はデカブツを自由にさせるだけ。

 一旦【不動】で耐えつつ、体勢を整え――


「?」


 ――突然視界に現れたのは、姿を見失っていたであろう黒騎士の一人だった。

 気配どころか、接近の予兆すら視認できていない。

 それこそ湧いたように忽然と真横へ現れ、気付いた時には鋭く光る刃が目の前に迫っていた。

 間に合うか、そもそも"重複"の効果があるのかも分からない。

 それでも、【硬質――


「あ、がっ……!?」


 首を、狙われた……

 間違いなくそうだと理解できるほど喉元に激しい衝撃と痛みを覚え、そのまま激しく吹き飛ばされる。

 転げる度に舞う鮮血。

 だがその光景が見えているのだから、まだ首は繋がって――……


 気付けば鮮血が舞う青い空の中に、別の色が混ざっていた。

 羽を生やして浮遊する、人型の存在。

 先ほど後衛の誰かが生み出していたソレは全てが小金色をしており、目玉などないというのに転がる俺を見下ろし、仰々しく片手を天にかざす。

 と、同時に空を数多の稲妻が走り、轟音と共に突き抜けるような衝撃が俺を襲った。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 雷光迸る浮遊体の攻撃により、辺りは視界を遮るほどの砂煙が濛々と立ち込める。

 そんな状況を嫌い、一度大きく距離を取った黒騎士の一人が様子を窺いながら呟いた。


「……やれたのか?」


 問われ、別の黒騎士は手に持つ血の滴った長剣に目を向けながら不気味に笑う。


「くふふ……致命打には違いなかったと思うが、刎ねた感触ではなかった。恐ろしく硬いな……まるで金属の塊を斬ったような感覚だぜ」 

「ふむ……まだ油断はできんぞ。あやつ、あの状況で剣を掴む儂の手を切り飛ばそうとしてきおったからな。お陰で武器を奪いそこなったわ」

「かなり形成の速い【魔力纏術】だったな。こっちも"竜点突牙《ドラゴンファング》"を防がれた上に、あの黒い魔力が蛇のように巻き付いて俺の腕を狙ってきやがった」


 言いながら、油断なく槍を構えた黒騎士は、金属で覆われた自らの右手を見つめる。

 手首に亀裂が入り、その隙間からは血が垂れていた。


「くふふっ……だがあれなら、もし立ち上がってきたとしてもやってやれないことはない。そんな感触だ」


 しかし、それでも血に染まった剣を持つ黒騎士は笑う。

 狙い通り、様子見という状況から畳みかけるように攻勢へ出たのだ。

 まだまだ手の内は隠しているのだろうが、それでも攻防を繰り広げれば速度や耐性だけでなく、戦いに対する慣れや機転、観察眼など見えてくるモノも多い。

 1対1なら迷わず避けたい相手でも、多対1というこの状況ならば押し切れる――前衛を務める3人の黒騎士がそのような手応えを感じていると、後方に陣取っていた者達も近寄ってくる。

 と、負傷していた槍使いの黒騎士は青紫の魔力に包まれ、瞬く間に傷が塞がった。


「こちらからは止めの"霊撃"含め、十分絶命に足る攻撃を加えていたように見えましたが……アレでまだ、死んでいないと?」

「くふっ……たぶん、だがな」

「僕は首を刎ねていないと聞いて安心したけどね。さすがにこの程度で死なれたんじゃ興覚めだよ」

「そ、そんなこと考えてるの、イグリアだけ……! あんなの、早く死んでもらった方が、良いに決まってる……!」

「そうかな? 僕には武器を突き合わせたユーゼスとザッハも、全力で戦えそうな相手を前にして、嬉しさから気持ちが高ぶっているように見えるけどね」

「「「……」」」


 その指摘はあながち間違いというわけではなく、名指しされた二人も敢えて否定の言葉を口にはしなかった。

 そんな様子を見て、釘を刺すようにしわがれた声が語る。


「お前達が何を思って戦おうと自由だけどね。首を刎ねるでも、心臓を潰すでもなんでもいい。確実に死体だと確認できるまでは絶対に油断するんじゃないよ。今この時だって、転移での奇襲を食らわないよう常に動き続けときな」

「あなたがそこまで警戒する姿は初めて見ますね、マリー。あなた自身の力に加え、この数の黒騎士で挑んでもまだ不安ですか?」

「……いろいろ試したが、状態異常の影響だって大して受けている様子がないんだ。それにあの男は、まだ不可解な能力を――……」


 マリーの言葉が途切れるも、そのことに触れる者はいない。

 全員の視線は砂塵の中に突如現れた、高く聳える2本の巨大な炎柱に注がれていた。
611話 黒騎士との戦い②

(いってぇ……って、マジかよ……素材がオリハルコンなのに刃が握り潰されるって、あのデカブツどうなってんだ……)


 逃げ場などないほどの巨大な雷撃によって砂煙が舞い、視界不良のこの状況を相手も警戒しているからか。

 追撃が止んだ隙に回復を重ねながら考える。

 疑問の答えに予測がつくモノ、つかないモノと様々だが、想像していたよりも遥かに相手が手強い――その事実に兎にも角にも驚きを隠せないでいた。

 傭兵の中でも最上位に位置する存在。

 それがオールランカーだと分かっていても、俺の中ではヴァルツの筆頭戦力だったバリーや虎獣人のファニーファニー。

 それにフレイビルの奴隷商館で襲ってきた暗器使いのクロイスなど、2位や3位といった立ち位置の実力者とも直接戦ってきた経験があるのだ。

 その基準に当てはめれば、各国のトップに君臨するような相手だとしてもそう苦戦するほどではないと思っていたし、マリーの言動からしてもそこまで連れてきた戦力に自信があるようには見えなかった。

 が、しかし……


(パーティとしての強み……? 単純な個体戦力の高さだけでなく、互いにスキルで能力を大きく引き上げているのか?)


 支援に回ると言っていたマリーの言葉を思い返し、さすがにこのままではマズいと認識を改める。

 卑劣な手を好むマリーが指定したこの場所に何かを仕掛けている可能性も考え、極力魔力は節約しておこうと思っていた。

 単独で挑んでいる以上、魔力が枯渇してしまえば俺は死ぬのだからそれが最善だと判断していたが、ここまで相手が強いとなるとそれは下策。

 こうして回復に多量の魔力を消費してしまっては本末転倒だし、それならその分の魔力を攻撃の手段に回した方が遥かにマシだ。

 魔力の消費量を引き上げてでも、敵が仕掛けてくる前に食い殺す。


 ――【炎獄柱】――

 ――【白火】――

 ――【土魔法】――『大量の、砂』

 ――【砂硬鱗】――

 ――【時魔法】――『自己加速、ファースト』


 そのつもりで攻防に有効なスキルを唱えていくと、次第に砂塵が薄れ、敵の姿が映し出されたことで思わず目を細める。


「……今度は水と氷ね」


 いつの間にか消えた謎の浮遊体。

 それと近しい存在が新たに二つ生み出されており、宙に浮く人型のそれは遠目でもはっきりと分かるくらい流動する水と、芸術的な美しさも感じられる氷で形作られていた。

 それに――先ほどまでいた雷の属性は姿を変えたのか……?

 今は小金色をした竜のような姿をしており、その上には先ほどの槍使いが騎乗しながら宙を舞い、槍を構えてこちらを見下ろしていた。

 どう見ても魔力で構築されたガスのような存在に思えたが、あんなモノに人が騎乗などできるものなのか。

 できたとして、なぜ身体中から放電したように稲妻を発している存在に触れてもダメージを受けている様子がないのか……

 それに――


(こっちはマリーが取り出したのか)


 デカブツは自分の図体ほどもある巨大な盾を地面に突き立てており、さらにローブで隠された身体は膨れ上がったように巨大化していた。

 と、ここでマリーだと分かるしわがれた声が届く。


「そいつがヴァルツの兵士達を焼いたっていう、龍が巣くう炎の柱かい」

「……」

「魔物と同じ黒い魔力を持つ者が狩場の|主《ボス》と同じ性質の能力を使用し、他にも怪しげなスキルを抱えている……お前を手駒にできたらさぞ役に立つんだろうねぇ……」

「……無理でしょ。ここであなたは死ぬんですから」


 言い終わったと同時に上空から薙ぐように飛来する、水の線。

 水の浮遊体から放たれたそれを避けると勢いよく地面を蹴り上げ、こちらに迫る2つの浮遊体から距離を取るように地上すれすれを飛行する。

 まずは始末したところで利点もない、ただ邪魔なだけの浮遊体を生み出している後衛に狙いを定め、潰す。

 そのつもりで動くと――なんだ……?

 進路を塞ぐように鎌使いが立ち塞がり、踏み込みながら大きく鎌を振り上げる。

 その背には人型に見える、上半身だけの大きな黒い影が憑依したように同じような姿勢を取りながら浮いていた。


「行かせない!」

『穿て、"雷槍"』


 だったら、先に殺してやる。

 不気味な影も打ち抜くつもりで全力の【雷魔法】を放つと、タイミングを合わせたように鎌使いの頭上から黒い渦が現れる。

 すると、まるで引き寄せられるように軌道を変え、その黒い渦に吸い込まれていく俺の"雷槍"。

 代わりにその渦は人の頭ほどの大きさまでみるみると小さくなっていった。

 鎌使いか、もしくは背後の影が何かしたのか?

 そのような素振りはまったく見られなかったが……


「……面白い魔法ですね」


 先ほどの影から延びる黒い手もそう。

 書物で見たことのない現象をいくつも目の当たりにしているのだ。

 一時的に【闘気術】を発動させ、殺傷能力の落ちた剣を数度振り抜きながら呟くと、器用に鎌を振り上げ応戦した鎌使いの女が苦しそうに呻きながら答えた。


「あっ、つ……お前と、話すことは、ない!」

「ああ、答えは求めてませんから大丈夫です」

「いぎィッ!?」


 怪しげな魔法も使う中衛型にしては想像以上に力が強く技量も高い。

 が、それでも力や【体術】は俺の方が上。

 攻防のさなかに空いた左手で手首を掴み、巻き込むように捻りながら顔面を膝で蹴り上げると仮面が砕け――


(額から、小さな角か……)


 ――鎌使いは素顔の一部を晒しながら吹き飛んでいく。

 と同時に上空から雷撃が降り注ぎ、僅かな痺れにより追撃を阻害されたところで降ってくる槍使い。

 今度は騎乗した雷竜までセットなのだ。

 より苛烈な攻撃になると予想し、槍の間合いから完全に外れるよう大きく回避しながら周囲を見渡しつつ状況を……


「ぐっ……またか」


 ズン、と。

 距離を空けている最中に圧し掛かる重みを強く感じ、体勢を崩す。

 その時、槍使いは全身に雷を帯びた身体で抉れた大地からこちらを見つめ、槍を突き出さんと構えていた。


「"竜点突牙(ドラゴンファング)"!」


 回転するように風の刃を巻き込み、さらに放電したような雷まで帯びた状態で迫る槍の穂先。

 だが、槍使いの立ち位置は変わっていない。

 この距離なら間違いなくその槍は届かず、精々帯びた魔法がこちらに飛来するくらい……そのはずなのに。


「逃がさん」


 幻でも見ているのかのように穂先は目前まで迫り、逸らそうと強引に伸ばした腕の一部を削りながら掠めていく。

 そして気付く事実。


(伸びたのか……?)


 咄嗟に掴んだ槍の柄が、先ほど降下してきた時とは明らかに長さが違う。

 その手の仕掛けが施された暗器の性質でも含まれているのか、それは分からないけど。


 ――【発火】――【白火】


「燃えろよ」

「っがぁあアアアッ!?」


 纏わりつく風と雷によって握るだけで顔が歪むも、それでも一度【発火】を解除し槍を掴んだまま再発動させて離すと、その槍を握っていた槍使いまで白い炎に包まれ火達磨になって転げ回り、いつの間にかそこにいた長剣使いがその姿を見て、周囲で揺らめく炎獄柱の範囲外へと退避していく。


「ちっ……」


 しかし、ここにいる連中は本当に傭兵かと、首を傾げたくなるほど厄介だな……

 これだけの相手が揃っているんだ。

 できることなら首を刎ね、回復される前に始末しておきたい。

 そんな考えは即座に否定され、追撃など許さないと言わんばかりに飛来する数多の魔法。

 それでも横に飛び退きながら空を蹴り、追うように燃え盛る槍使いを追おうとすると、背後から引き摺られるような独特の感覚を味わい、その勢いを強制的に殺される。

 と同時に水の浮遊体が槍使いを包み込んで後方へと運び、デカブツは鎌使いの近くで守るように巨大な盾を構えてこちらの動きを注視していた。


『ふぅー……精霊よ、生み出せ、豪雨《スコール》』


 ギアを引き上げたが、それでもまだ足らない。

 まだ……


 ――【鏡水】――

 ――【紫水】――

 ――【魔力纏術】――魔力『10000』

 ――【時魔法】――『自己加速、セカンド』


 オールランカーという存在だからなのか、それともマリーという司令塔が【指揮】でも使ってこの場を統率しているからなのか。

 個の戦果を最優先に求める今までの傭兵とは違い、共闘意識が強く連携も巧みだ。

 個別に潰していけばなんとなるという目論見は外れ、不利な長期戦を避けるために更なる魔力消費を余儀なくされてしまう。

 だが――


(かつてゼオが言っていた精霊の具現化……最高位の【精霊魔法】を使用しているのが左の杖持ちで、まず間違いなく【重力魔法】だと思われる能力を使っているのが右側の杖持ち……それに長剣使いは、一時的に姿を晦ましているのか……?)


 少しずつではあるが、誰がどんなスキルを使用しているのか判別も進んできている。

 優先的にどいつを食らい、奪うべきか。


「ふふ……悩ましいな……」


 そう思うと、決して楽観視できないこの状況下であっても零れる笑みを抑えられなかった。
612話 黒騎士との戦い③

「今度はなんだ……?」


 突然降りだした雨。

 それが魔法によるものであることはこの場にいる者達もすぐに理解したが、しかし視界を染めるその色に唖然とし、徐々に感じ始めた身体の違和感に驚愕する。


「マリー! こいつが何か分かるか!?」


 と、少し離れた位置にいた前衛の一人。

 長剣使いの男――ザッハが慌てたように叫び、マリーは眉を顰めた。


「いや、こんな現象、聞いたこともないが……イグリア、シーレ、心当たりは?」


 問われ、特徴的な耳を持つ長命種の二人が足を動かしながらも空を見上げ、代わりに答える。


「酸……いや、毒の雨か。冗談キツいねぇ。【呪術魔法】と【精霊魔法】の複合に見えるけど、それならもっと一時的なモノだ。こうして効果が持続している時点で意味が分からないよ」

「ええ。それにこれでは火炎に包まれても、もう安易に運べなくなりますよ。水精霊は水を拒めませんし、纏わりつく火を消す代わりに今後は肌を焼く毒液へ漬けることになりますから」


 その言葉にマリーは苦々しく顔を歪める。


「あの男、水の精霊体を潰しにきたってわけかい……」


 また1つ、能力を晒してきた。

 それはいいが、いったいあとどれほどの手札を隠し持っているのか。

 次々出てくる異質な能力に不気味さを感じながら、それでもまずはこの雨に対して対策を取ろうとするも――


「来るぞ!!」


 悠長に考え込むような時間はなかったらしい。

 盾を抱えた巨漢の男――ヴァルゴの叫び。

 地面を蹴り上げながら、地を這うように動くロキの姿は先ほどよりも明らかに素早く、そして不規則だった。

 誰に狙い定め、何を狙っているのか。

 目で追うのも難儀するほどの速度に焦心しつつ、マリーは【指揮】も使用し指示を出す。

 すると消火され、流動する水の精霊体に運ばれていた槍使い――ユーゼスの身体に幾重もの魔力が重なるように灯り、急速に焼け爛れた身体が回復されていく。

 と同時に赤碧玉の宝石があしらわれた杖を持つ男――イグリアは、その指示の内容に一瞬驚きながらも視線を這わし、行動に移した。


「回復するまで、もう少し時間はもらわないとね」


 魔力の灯った左手を突き出し、長く細い指を前方に弾く。

 それだけで目で追っていたロキの身体は弾かれたように後方へ吹き飛んでいくも、その結果にイグリアは驚嘆し、目を細めた。

 既に慣れてきたのか。

 魔法関連に対してとりわけ高い素養を持つ|同族《エルフ》であってもまず見かけないほど抵抗力が高く、さらに武器や黒い魔力を形状変化させ、素早く地面に突き刺し力技でも抗ってくる。

 そして、こちらの視界を塞ぐ目的も兼ねているのだろう。

 イグリアを巻き込むようにいくつもの巨大な竜巻が発生し、咄嗟に躱すも上空にいた氷の精霊体がその竜巻に削られていく。

 その光景を見たイグリアが危険を感じてさらに距離を取ると、2本の炎柱を従えたロキが追うように迫ってきたので、やはりこの攻撃を嫌がり真っ先に自分を狙ってきたかと、思わず仮面の下で笑みを浮かべながらその足を止めた。


「さあ、やろうか」


 吐き出した言葉とともに、宙を舞う拳程度の黒い球体を自身の周囲にいくつも生成。

 身体からにじみ出た魔力は同時に発動した【闘気術】によって燃え盛る炎のように噴き出すも、すぐに一部を残して握る杖へと収束していく。

 あの炎柱が大陸中央の洞窟内にいるボスと同一の能力なのだとしたら、中途半端に距離を取る方が危険だ。

 イグリアはそう判断して一気に踏み込むと、その動きに反応したロキも刃の一部が潰れた剣を素早く上段に振り被る。

 ――が。


「【重力魔法】の使い手と戦うのは初めてかな?」


 強い違和感。

 ロキが目を見開き、自らの握る剣に目を向けた。

 するとイグリアの周囲を浮遊していた黒い球体の1つが振り上げた手の側にあり、まるで握る武器を吸い込むようにその手を引っ張り上げる。

 当然、無防備に晒される脇腹。

 ロキが強引に力を込めて抗おうとした時には既にイグリアが杖の一部を魔力で刃に形成し、接触する直前だけ限界まで加重させた杖を横薙ぎに振り抜く。


「が……ッ!?」


 すると呻きに交じり、バキリ、と。

 いくつも枝を踏み鳴らしたような音を立てながらロキの身体が吹き飛んでいく。

 と同時にイグリアが指を鳴らすと、いつでも放てるよう【発動待機】させていた7つの高等魔法が同時に襲い掛かり、轟音と共に砂塵を巻き上げた。

 その様子を眺めながら、イグリアは咥内に溢れた血を吐き出し興味深げに眼を細める。


「かは、っ……あの状況で|攻《・》|め《・》を選ぶとは、恐ろしいねぇ……」


 あれほどの反応速度なら片足を上げることで脇腹への攻撃は防げただろうに、そうはせずイグリアの頭を吹き飛ばす勢いで顎を蹴り上げてきた。

 そのせいで顎は砕け、足元がフラ付き立つこともままならない。

 それに――


「反射した……?」


 毒々しく色づいたことで可視化された水の膜。

 魔法の一部が炎柱に触れて消失しただけでなく、その膜に触れた魔法の一部があらぬ方向へ飛んでいったように見え、顎の治癒を始めながら思わず笑う。

 この状況は死の淵――まさに生と死の挟間だ。

 極度の緊張感から冷たい汗が流れるも、同時にイグリアは抑えきれない高揚感にも襲われていた。

 これほどの相手、敵として相対する機会などそうあるものじゃない。

 今、この時が、楽しくて仕方がない。

 それに危険だが、この仕事は今いる中で自分にしかできないこと。

 なんとしてでもロキをこの場に留める。


「まだ生きているんだろう!? さあ! 僕を殺してみせてくれよ!」


 2本の炎柱は砂塵を貫き、上空で不規則に揺らめていていた。

 ならばまだ生きている。

 血を吐き散らしながらイグリアが叫ぶと、砂塵の中から雷光が出現。

 その速度に慌てて躱すとすぐに数多の黒い球体が現れ、移動を続けるイグリアを追尾するように迫ってきたため、止む無く【重力魔法】で頭上に『魔蛾渦』を生成した。

 すると迫る黒い球体は次々と生み出された渦の中に呑み込まれていくが、次第に小さくなって消失したと同時にロキが上空から滑空するように迫ってくる。


「くっ……」


 咄嗟に纏わせていた魔力を集めて盾とするも、振り下ろされた剣はあまりに重く、腕は鈍い音と共にひしゃげて、膝が軋む。

 それでも残る魔力を注ぎ込み、より濃密な【魔力纏術】を展開。

 その場で激しい攻防を繰り広げると、ロキが何かを悟ったように口角を上げた。


「あなた、【無詠唱】持ちでしょう?」

「……」

「なのに厄介な【重力魔法】を使ってこない。それはまだ、クールタイムが存在していて|使《・》|え《・》|な《・》|い《・》から?」

「さあ、どうかな……!」


 間違ってはいないが、既に使える!

 心の中で叫びながら発動し、横薙ぎに振り抜こうとしたロキの腕に狙いを定め、限界まで軽くする。

 威力を失ったその腕を掴み、加重させ魔力を纏わせた杖で即座に首を貫く――そのつもりで構えるが、ロキは突然動きを止めて大きく飛び退いた。


「先ほどの魔法を吸い込む渦も、僕の腕を引っ張り上げていた球体も、おおよそ5秒弱で消失していましたね。ということは、この辺りが【重力魔法】の継続効果時間でしょう?」

「ッ……!?」


 間違いなく、最初は何も知らなかったはずだ……

 それは戦いの中で分かっていた。

 にも拘わらず、特異であり、自身の絶対的な強みである【重力魔法】の中身を次々と見透かされていく焦りから、まだ間に合うと。

 イグリアは招くように指を動かし、距離を取ったロキの身体を強制的に引き寄せる。

 この時既にイグリアが握る杖の先は、針のように鋭く尖らせた棘が魔力によって形成されていた。

 だが、迫るロキの眼差しに焦りの色はない。


「来ると分かっている必殺の一撃ほど対処しやすいモノはない」


 ロキの言葉と同時に背筋が凍り、イグリアの手足がガタガタと震える。

【威圧】か?

 いやしかし、【威圧】に対して強耐性を持つ【鋼の心】は最高レベルに達している。

 いくら格上であろうと、大きく隙を晒すほどの影響を受けるとは思えなかった。

 それとも、マリーと番外の一人が受けたという、謎の――……

 閃光のようにいくつもの考えが脳裏を過るも、獰猛な笑みを浮かべた難敵は眼前に立ち、握る武器は明らかに自分の首を狙っていた。

 敢えて数秒動きを止められたことで、【重力魔法】の効果時間は既に切れている。

 再使用もまだできない。

 このままでは死ぬ。

 ここで、終わる……


「っがぁアアアアッッ!!」


 それは魂の咆哮とも言うべき裂帛の叫びだった。

 震える手で砕かれた片腕を掴み、杖と共に盾とすべく顔の横に添える。

 纏わせた魔力の全てをその一点に。

 ヴァルゴが刃の一部を潰した今ならまだ耐えきれる――その想いだけでイグリアは歯を食いしばり、振り被られた剣の行方を見つめると、


「――良くやった。もう十分だよ、下がってな」


 鈍い音と共に視界をちぎれた腕が舞う中、マリーの声が耳に届いたことでようやく目的を達せられたと知り、砕かれ満足に動かせない頬を無理やり上げる。

 十分過ぎるほどにこの戦いで生を実感できた。

 それにこの指示が下りたということは、|整《・》|っ《・》|た《・》ということ。

 これでもう、ロキは逃げられない。

 転げながら生きた片目で視線を向けると僅かに目を見開き、ロキは自らの影から伸びる数多の手によって引き摺られていく足を見つめていた。

 そして動く、巨漢の影。


「あなた……今までわざと速度を抑えていたんですか?」


 離れた位置で盾を構え、ユーバを守るようにその場を動かないでいた巨漢のヴァルゴが、いつの間にかロキの目前まで迫っていた。


「一時的に加速する術などいくつもあろう。それにワシだけ【時魔法】を掛けられないでいた。まあ敢えて、だがな」


 対してヴァルゴは答えながら拘束されたロキの近くに立ち、揺らめく炎柱の動きに注意を払いながら手にしていた金属棒を勢いよく地面に突き刺す。

 一見すれば不可解な行動。

 しかし、カキン、と。

 激しい金属音を奏でた途端、示し合わせたように上空を浮遊していた水の精霊体が舞い降り、切り離されたその一部がロキの身体に覆い被さった。

 当然呼吸ができず、また【紫水】によって汚染された水は一度術者の手を離れたためか、容赦なくロキの肌を焼いたため、嫌がり抜けだそうとするもその足がまったく動かない。


「?」


 もう影から伸びる手は消失しているし、その時とはまるで感覚が違う。

 不思議に思って目を凝らすと、地面から鈍色に見える泥のような何かが湧き出しており、それはロキの足元を徐々に覆っていた。

 瞬間、嫌な汗が噴き出す。

 まさかこの水は、俺の【発火】を消すために……

 理解した途端、ロキは剣を振り被って自らの足を切断しようとするも、それより早く近づいていたヴァルゴがその手を掴んだ。


「させんよ。この場所に誘導された時点でお前さんの負け、もう逃げられん」


 その言葉を証明するかのように、膨れ上がったヴァルゴの身体から液状化した金属が流れ出し、足だけでなく掴まれたロキの両腕まで侵食していく。

 そしてロキは、ヴァルゴの持つ能力を確信した。


「金属を操っている……だから手に持つ装備が度々変わっていたわけですか……」

「左様。唯一、お前さんがワシと同じスキル所持者であった場合のみ、この策は失敗に終わるところであったが、その様子を見るに杞憂だったようだな」


 誘導――その言葉を聞いてロキがイグリアに目を向けると、半壊した顔面を震わせながら高らかに笑った。


「く、ははっ……まさか何もないこの場所に、巨大な鉄塊が埋められているなんて思わないよねぇ……! ヴァルゴ、この男は何をしでかすか分からないよ。悠長に窒息するのを待たない方がいい」

「無論、そのために時を稼いでもらったのだからな。もう準備はできている」


 水の精霊体に身体を覆われ、ヴァルゴが流動した金属をロキの身体に流し続けている限りは満足に転移などできず、そのまま窒息する可能性の方が高い。

 が、この策を立て、指揮を執るのはマリーだ。

 僅かでも生き永らえる可能性を残すくらいなら、確実に目の前で死体に変える――そのために指示を受けた各人が動き出していた。


『呪界――"|百羸《びゃくるい》"』


 離れた位置で巨大な鎌を地面に突き立て、血走った眼でロキを見つめるユーバが独特の手印と共に詠唱を唱えると、ロキとヴァルゴの足元に不気味な文様が広がっていく。

 そしてもう一人。

 ロキに殺されかけたユーゼスもまた、まだ治りきっていない焼け痕を全身に残したまま雷竜の精霊体に跨り、怒りを露わにしながら紫電を纏わせ上空を漂う。

 その時ザッハは気配を消し、誰の視界に収まることなく息を殺して静かにその時を待ち、離れた位置から魔力を供給され続けている水と氷の精霊体は目を見張るほど巨大化し、ロキの周囲を不規則に動く炎柱そのものに取り付きその動きを止めていた。

 ロキを殺しきるための場――その準備が整い、マリーの合図と共にヴァルゴは盛大に叫ぶ。


「ワシ諸共やれぇえええええいい!!」








 ……間違いないはずだ。

 何があろうとこのまま拘束し続ける――それが与えられた役割でもあるため、ヴァルゴは目の前の男を見つめ、自問自答する。

 手足は当然として、ロキの身体は既に胸部まで金属の塊に覆われていた。

 理想は口や目元まで覆い、スキルによる足掻きを可能な限り潰すことだが、しかしその時間を待たずともケリはつくのだ。

 あとは晒されている頭部を誰かが潰せば終わる――そのはずなのに、ヴァルゴは嫌な緊張感を拭えず眉を顰める。

 それもこれも、目の前の男が想定とは異なる様子を見せているから。

 もう間もなく死を迎えるというのに、ロキの表情に怒りや焦りのようなものは感じられず、まるでこの事実を受け止めているかのように静かだった。

 それは今までにも対峙し、自分の無力さを心底から理解した力なき者達の末路に似ていて……

 既に毒の雨も止んでいるし、この男はその程度だったのか? と。

 死の直前まで抵抗される覚悟をしていたヴァルゴはこの静けさを不気味に感じていると、上空からの巨大な雷撃に視界が染まるその瞬間――微笑んだように見えたロキの口が大きく裂けて弧を描き、その後すぐに覆う水が赤く染まっていく。


「は?」


 そしてボトボトと、濁った水の中に落ちてくる、何かの欠片。

 ヴァルゴが何事かと見やると、雷竜の精霊体と共に上空から攻撃を仕掛けていたユーゼスの身体が大きく裂けてバラバラにされており、姿を隠していたザッハもまた、ロキの横から剣を振り抜く姿勢のまま、身体中にいくつもの亀裂が走り、勢いよく血を噴出させていた。


「ザッハ!?」


 ヴァルゴから見て、ザッハはまだ生きているようにも見える。

 だから慌てて声を掛けるも――


「ぐふっ……な、ぜ……」


 血に染まる水の中から伸びた腕。

 それは指を広げて掴むようにザッハの仮面を破り、目や咥内を貫いていく。

 あり得ない……

 完全に腕を拘束しているのだ。

 何が起きているのか理解ができず、ヴァルゴは崩れるザッハから視線を外しロキに視線を向ける。

 すると背から黒い腕が生えており、その手にはユーゼスが愛用していた|特《・》|殊《・》|な《・》|槍《・》が握られていた。


「ま、まさか……」


 そして、弾けるように伸びる槍。

 その矛先はヴァルゴの背後へ向けられており、すぐに呻きが漏れたことで、何が起きたか振り向かずとも理解する。

 イグリアだ。

 誘導と足止めのために死力を尽くしたイグリアが、ユーゼスの武器をそのまま利用され殺された……

 そう確信し、ヴァルゴは久方ぶりの恐怖を感じながらも叫ぶ。


「ワ、ワシにその手の攻撃が効くと思うな! このままお前さんの身体を金属で覆い尽くし、呼吸を――ッがぁ……」


 込み上げる勢いに耐えきれず、ヴァルゴは激しく吐血しながら霞む視界の中でロキを見つめる。

 するとロキを覆っていた水はうねりながら上空へ舞い上がり、赤く染まる球体となって浮遊していた。

 制御された精霊体の一部であるはずなのに、なぜこのような動きを取っているのか見当もつかない。

 と、解放されたロキが一度大きく息を吸い、背から伸びた不気味な黒い手でヴァルゴの仮面を外す。

 そして再び白き炎を纏い、語り掛けた。


「あなたに物理的な攻撃が効かなそうなことくらい分かっていましたよ。身体中を大量の金属で覆っているんでしょうから」

「な、なら、なぜ……」

「だから、腹の中を直接掻き混ぜたんです。あなたほど的が大きいと狙いやすい」

「そ……そんな、こと……どう、やっ……ごがぁあああッ!?」


 再び腹の中を強烈な痛みが走り、視界が黒く塞がっていく。

 ヴァルゴはロキと繋がっているため、この場を逃げ出すことも叶わない。

 そしてすぐに歩き始めたロキの足音と、他は誰も聞こえていないだろう。


「ははっ、一人も逃がさねぇよ……」


 小さく漏らした呟きを耳にしながら、己の死を悟ったヴァルゴは倒れることもできず、最後の時を思考に充てる。

 マリーの策に嵌めれば逃げようはないと、そう思っていたが……

 この男はいつでも周囲の水を取り除き、覆う金属すら溶かして自由を得ることができたのだ。

 しかし、敢えてそれらをしなかった。

 それは――


「嵌めた、つもりが……嵌められ、たの、か……」


 意識が途切れる直前に敗れた理由を理解し、ヴァルゴは静かに息絶えた。
613話 黒騎士との戦い④

『【空脚】Lv8を取得しました』

『【槍術】Lv10を取得しました』

『【闘気術】Lv8を取得しました』

『【調教】Lv9を取得しました』

『【威嚇】Lv8を取得しました』


ああ、最高の気分だ。

だが、まだまだこれから。


『【暗器術】Lv8を取得しました』

『【暗殺術】Lv9を取得しました』

『【縮地】Lv7を取得しました』

『【読唇】Lv5を取得しました』

『【読唇】Lv6を取得しました』

『【忍び足】Lv10を取得しました』

『【視界共有】Lv6を取得しました』


まずはこの拘束を解くために。

――【廻水】――


『【遠話】Lv6を取得しました』

『【遠話】Lv7を取得しました』

『【重力魔法】Lv1を取得しました』

『【重力魔法】Lv2を取得しました』

『【重力魔法】Lv3を取得しました』

『【重力魔法】Lv4を取得しました』

『【重力魔法】Lv5を取得しました』

『【魔力最大量増加】Lv10を取得しました』


覆う水を排除する。


『【薬学】Lv8を取得しました』

『【発動待機】Lv9を取得しました』

『【多重発動】Lv8を取得しました』

『【多重発動】Lv9を取得しました』

『【無詠唱】Lv1を取得しました』

『【無詠唱】Lv2を取得しました』

『【無詠唱】Lv3を取得しました』

『【無詠唱】Lv4を取得しました』

『【魔力纏術】Lv8を取得しました』

『【芸術】Lv8を取得しました』


そして呼吸を整え、苦しげに呻く目の前のデカブツに目を向けた。

まるで声が違うし、さすがにこいつはマリーじゃない。

そう思いながら念のために仮面を外して確認すると、見えてきたのはゴツゴツとした岩の肌。

巨漢の素顔に少し驚くも、だからと言って何か考えが変わるわけでもなく、【発火】で身体を覆う金属を溶かしながら、マリーの下で戦うことを選んだ代償を払ってもらうべく止めを刺しに掛かる。


――【闇魔法】――『破ぜろ、"|黒薔薇《ローズボム》"』


懐かしい魔法だ。

かつてドハマリしていたゲームではよく世話になったモノだが、まさかこの世界でも使うことになるとは思いもしなかった。

生み出した|魔力球《種》を体内に送り、その中で無数の茨を咲かせて暴ぜさせる。

本来は時限式の魔法というだけだが、魔力体と物質。

両面の特性を持つ【闇魔法】なら、動きを止めた巨漢相手にこのような使い方もできると思っていた。


「だから、腹の中を直接掻き混ぜたんです。あなたほど的が大きいと狙いやすい」

「そ……そんな、こと……どう、やっ……ごがぁあああッ……!?」


これでこの男も終わり。

それより今は、劣勢に転じて逃げ出しかねないマリーの動きを妨害する方が重要だ。


「ははっ、一人も逃がさねぇよ……」


――【精霊魔法】――『精霊よ、生み出せ、|豪雨《スコール》』

――【紫水】――


『【探査】Lv10を取得しました』

『【鉱操術】Lv1を取得しました』

『【鉱操術】Lv2を取得しました』

『【鉱操術】Lv3を取得しました』

『【鉱操術】Lv4を取得しました』

『【鉱操術】Lv5を取得しました』

『【彫刻】Lv7を取得しました』

『【彫刻】Lv8を取得しました』

『【光属性耐性】Lv7を取得しました』

『【石化耐性】Lv8を取得しました』

『【石化耐性】Lv9を取得しました』


満足にアナウンスを眺めている余裕もなく、残る3人に目を向ける。

ひとまず、鎌の女は後回しだ。

先ほどまで足元に広がっていた紋様から霊体のような人影が浮かび上がり、身に纏う|防具《蒼竜の鱗鎧》もお構いなしに次々と俺やデカブツの身体の中へ消えていったが……

いったいどのような効果があるのか。

不気味ではあるものの、今のところ何も異変は感じないし、少なくともあの鎌使いは侯爵から聞いていたマリーの容姿と明らかに違っていた。

だったら先に狙うべきは後衛の二人だ。

こちらの状況に気付き、盛大に霧を生み出しながら離れていく黒騎士と、鎌使いの所へ走り寄る杖持ちの黒騎士。

鎌使いの女も状況を理解し、その杖持ちに向かって走り始めている。

そして精霊体は、雷竜が気付けば消失しており、水と氷の人型は走る杖持ちを守るような動きをしていた。

どっちがマリーだ?

一瞬悩むも、勢いよく地面を蹴り上げ、杖持ちの方に狙いを定める。

仮にマリーが離脱を図るなら、足を使うよりは転移に必要な5秒程度の時をどうにかして稼ごうとするだろう。

今更合流したところで何を狙っているのか、それは分からないが……


霧に向かって牽制の【風魔法】を数度放ちながら向かうと、視界の先に生み出された氷色の壁がみるみるうちに巨大化していく。

それはかつての戦争で見た氷壁がかわいらしく思えるほどの規模で、よほど俺との接近戦を避けたいのだろうとは思うが――


――【火魔法】――『|炎拳《バーンフィスト》』


拳に魔力を込めて打ち抜くと、目の前の氷壁は大きく爆ぜながら抉れていき、その中を白く煌めく【灼熱息】を吐きながら駆けていく。

すると、相手の想定よりも早く壁を抜けてきたからだろう。

まだ合流できていない杖持ちが足を止め、細身の剣を抜きながら焦りも隠さずに叫び散らす。


「くっ……この世界の異物め……!」


それは清らかさを感じさせる女の声。

この時点で杖持ちがマリーじゃないと予想できたが、ここまで来たならついでだ。

真っ直ぐに降下し剣を振り下ろすと、魔力の纏わりついた剣を両手に掲げて抗ってくるも、所詮は後衛。

耐えきれずに自らの剣が仮面を割って頭部にめり込んでいき、ほどなくして抵抗する力は失われた。

と、同時に強く地面を踏みつける。


――【烈震】――


そしてすぐに地面と空を蹴り上げ、大地に広がる霧に向かっていくつもの広域スキルを放っていく。


『【時魔法】Lv8を取得しました』

『【精霊魔法】Lv8を取得しました』

『【精霊魔法】Lv9を取得しました』


――【水流】――


『【魔法射程増加】Lv10を取得しました』

『【裁縫】Lv9を取得しました』

『【魔力自動回復量増加】Lv10を取得しました』


――【烈風】――


『【結界魔法】Lv8を取得しました』

『【無詠唱】Lv5を取得しました』

『【心眼】Lv10を取得しました』


――【雷魔法】――『天雷』


『【広域探査】Lv8を取得しました』

『【医学】Lv8を取得しました』


エルフだった女も消えた今、残すは逃走しているようにも見えたアイツだけ。

ならば転移を阻害し続け、必ずここで殺し切る。

そのつもりで追うと、薄らいだ霧の中で片膝を突き、左手をこちらに向けて掲げる黒騎士の姿を確認する。

何かを放つつもりか……?

そう判断して両手で顔を覆いながら接近すると、


「ま、待て! 待ってくれ! もう降参するから止めてくれ!」


叫ぶ|男《・》|の《・》|声《・》が聞こえてきたことで、困惑しながら少し距離を空けて降り立つ。


「……あなたは誰ですか?」

「私はビズィ。番外の一人であり、元オルトラン王国の傭兵ランキング1位――」

「で、マリーは?」

「し、知らない! この戦地が見えるところにはいる、んごぉ……ッ!?」


これ以上は不要と感じ、【縮地】で一気に近づき首を力任せに刎ね飛ばす。


『【神聖魔法】Lv8を取得しました』

『【魔力操作】Lv10を取得しました』

『【光魔法】Lv9を取得しました』


死ぬ覚悟があるならかかってこいと、わざわざ戦う前に忠告までしているのだ。

人の命を狙っておいて、白旗振ったら助けましょうなんて、そんな温い判断をするわけがない。

それよりだ。

王城では俺の目の前で転移し、途中途中に戦況を把握していると分かる内容で話していたのだから、7人の中にマリーはいると思っていた。

しかしこの男の言い分を信じるなら、マリーは黒騎士を移動させただけでこの戦いに参加していなかったか、もしくは途中で入れ替わり、この付近で戦いを見ていたということになる。

もしくは、ないと候補から外していた鎌使いがマリーの可能性もあり得るのか?

そう思って先ほどまでいた辺りに視線を向けるも、


「ん……?」


なぜかその姿が見当たらない。

どういうことだ……?

怪訝に思いながら周囲を見回そうとした、その時。


「?」


背後でまだ効果の続いていた【砂硬鱗】が僅かに反応を示したことで、半歩身体をズラしながら振り向く。

と、同時に何かが鼻先を掠め、直後には吐き気を催すほどの重い衝撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

何が起きた!?

混乱しつつも立て直し、迫る相手に応戦するも――


(はえぇ……ッ!!)


その動きは素早く、既に切っていた【時魔法】の自己加速を一気に『フォース』まで引き上げるが、それでも防戦一方。

ガードに回した腕を弾かれ、その直後には何かに手首を斬り飛ばされるも、そちらに意識を回している余裕すらない。

せめて態勢を整える時間を。

僅かでもいいから動きを止めろ……!


「っがぁアアアアア!」


叫びながら威圧の上位互換である【咆哮】を唱えると、一瞬怯み、仕切り直しといわんばかりにその相手は距離を取る。

黒い仮面に身体を覆う黒いローブ。

相手は今までにも見てきた黒騎士だ。

しかしその手には刀が握られており、黒いローブの隙間からは白髪とも銀髪ともとれる、長い髪がしな垂れていた。
614話 黒騎士との戦い⑤

(なんなんだ、こいつは……?)


 伸ばした魔力で即座に腕を回収し、接合に入りつつも全神経を研ぎ澄ませて刀使いの動きを注視する。

 先ほどまで相手にしていた黒騎士達も十分強かったが、異様な雰囲気を漂わせたこの相手は強さの質が違った。

 手首を斬り飛ばされた攻撃は未だ何をされたのか理解できておらず、単純なステータスでも優位に立てている気がまったくしない。

 不測の事態に備えて極力魔力を残すため。

 どこまでギアを引き上げれば勝てるのかという今までのような戦い方ではなく、それこそ暗霧のような、持てる全てを出し切らなければこちらが殺られる可能性も頭を過る。

 魔力残量は多少回復しても3割弱……

 これなら1分程度は全力でやっても十分お釣りがくるか。

 そう判断して再びスキルを唱え始めると、さらに視界の端で黒騎士が湧く。

 それは刀使いよりも小柄な存在で、早々に口を開いたことでその人物が何者なのかを理解した。


「こっちは終わったよ。で、殺れそうなのかい?」

「……不意を突いたはずの初撃を躱し、私と斬り合ってもこれほどの殺気を滾らせているのだ。本領を発揮されたらどうなるか、やってみなければ分からんよ」

「そうかい……だったらここまでだね。さすがにアンタまで失うのは想定していない」


 いったい何が終わったというのか。

 気になるところだが。


「このまま帰れると思っているんですか?」


 リルから何も連絡が来ていないのだから、ベザートに大きな問題が発生したとは考えにくい。

 だったら二人になったことで余計にキツくなったが、それでもここで素直に帰すわけにはいかないだろう。

 勝手に幕を下ろそうとしているマリーに苛立ちを覚えながら忠告すると、その本人は刀使いの横に立ち、こちらに視線を向けて鼻で笑う。


「ふん、できるさ」


 ――じゃあ、やってみろよ。


 ――【闘気術】――

 ――【時魔法】――自己加速、『エイトス』

 ――【縮地】――


 今の俺が引き出せる最高速を。

 先ほど得られた【時魔法】のレベル8まで使用し、一気にマリーの真横まで踏み込みながら、仮面で覆われた顔面目掛けて剣を横薙ぎに振るう。

 このまま、刀使いまで纏めて斬り潰すくらいのつもりだった、が。


「……」


 どういうわけか剣身が途中から消失し、全力で振り抜いた斬撃はなんの抵抗もないまま空を切る。

 意味が分からず、バックステップで距離を取りながら雷光を横薙ぎに放ってみるも、結果は同じだ。

 なぜかマリーと刀使いに届く直前で雷光は消失し、だがある場所を境に再び雷光が現れ、空中を溶けるように消えていった。

 一瞬だけ視線を右手に向けると、何事もなく刃の一部を潰された剣はそこに存在している。

 マリーに接触する直前、雷光が僅かに歪んだような気もしたが……

【陽炎】のような幻影というよりは、あの周辺だけこちらから干渉できないように隔離でもされているのか?

 そう当たりをつけ、何か抜け道がないか探っていると、淡々とした様子でマリーが語る。


「だが、このままでは腹の虫が治まらないのだろう? だったら、ロキ。お前が口にした通り、うちの王に砲撃の責任を取らせるから好きにしたらいい」

「……」

「だが、許容できるのはここまでだ。もしうちに大規模な攻撃を仕掛けてきたら、その時はベザートとラグリースにも報復を行うから覚悟しておくんだね」


 それだけを一方的に告げると、マリーはその場から姿を消してしまう。

 しかし刀使いはその場に佇み、手にする刀を力なく下げたままこちらを見つめていた。


「やはりか。ふふ……人に興味を抱くのは久方振りだな。またいずれ世界のどこかで相まみえることになろう。その時を楽しみにしている」

「……え?」


 斬りつけた時、仮面の隙間から覗く灰色の瞳はこちらを凝視していた。

 たぶん、先ほど全力で引き上げた速度に反応を示したんだと思うが……

 いや、そんなことよりだ。

 この男も明らかに転移だと分かる消え方で、マリーのあとを追うように姿を消した。

 その事に何よりも驚く。

 まさかマリー側の陣営に、本人以外で【空間魔法】の使い手がいるとは、本当に何者なんだよアイツは……


 その後、暫くは警戒を解かずに周囲を注意深く窺うも、消えた二人が再び奇襲してくることはなく、鎌使いの行方も分からないまま。

 人の気配が消えた大地に大きな変化は訪れず、本当に戦いの終わりを迎えたのだと理解し、大きく息を吐く。

 王城では死体が積み上がるほどの兵士を殺し、黒騎士も6人始末した。

 結果、今後の戦いに大きく役立ちそうな希少スキルも得られたし――やはりだ。

 ステータス画面を開くと『419,556,027』という、今までとは桁の違う余剰経験値が表示されており、この戦いで得られた戦果は目を見張るほどに大きい。

 だがそれでも。


「はぁ……あんなの反則だろ」


 触れることすらできないあの現象はいったいなんだったのか。

 のちほどゼオや女神様達に確認するとしても、今はマリーを仕留めきれなかったという事実に後悔や悔しさが募り、大きく溜息を吐きながら思わず空を見上げる。

 あの女だけはできればここで、何を優先してでも始末しておきたかった。

 そうしないとまず間違いなく面倒事がより大きくなり、今後の対処が難しくなっていく気しかしない。

 まあ大規模な攻撃を仕掛けなければ、王を始末しようとベザートやラグリースには攻撃しないと口にしていたのだ。

 お互いこれ以上傷口を広げないための妥協案ということであり、暫くは大人しくしているつもりなのかもしれないが……


「……後悔させてやるよ」


 一方的な条件を突きつけ、あとは脅しておけばなんとかなると思っていそうなマリーのやり口が気に食わず、ボソリと呟きながら戦いの跡が残る大地を一人彷徨う。

 戦ってきた相手は世界でも指折りの強者と言っても過言ではない連中だ。

 戦果はこれだけでなく、槍使いが所持していたダンジョン産の特殊な付与が施された武器や、必ず身に着けているであろう2つのアクセなども回収しておこうと思っていた。

 が、一向にその死体が見当たらず、次第にマリーが口にしていた"終わった"の意味を理解し、苛立ちを覚える。

 身体の一部だと分かる欠片や血痕の跡はあるのに、1つも装備品が見つからない。

 つまりそれは、俺があの刀使いとやり合っている間にマリーが全て回収したということ。

 鎌使いもたぶんその時回収し、どこか安全な場所に転移させたのだろう。

 そういう相手だと、分かっていたことだが……


「マジであの、強欲クソババアが……やっぱり今から意地でも探し出して――」


 "強欲"という二つ名が広く定着している理由を心底理解し、思わず悪態を吐いていると、不意に辺りが一面暗くなる。

 それは日が陰ったという程度ではない収まらない暗さで、自然と振り返りながら空を見渡すと――


「え?」


 湖が存在する北の空に、ぼんやりと赤く輝く大きな塊が存在していた。
615話 主の帰還

「おお、無事お戻りになられましたか! って、あれ……」


 主が転移先に指定している部屋から出てきたことで、若執事のシェムは声を上げて帰還を喜ぶ。

 しかしその後に続く人物は、素顔の一部を晒したユーバしかいない。

 そのことに気付き、なんと声を掛ければいいのか戸惑っていると、マリーが世にも珍しい言葉を投げ掛けた。


「シェム、今回ばかりは助かったよ。感謝する」

「あ、父上の件ですか?」

「ああ、私が頼んだくらいじゃ動いてくれなかっただろうからね。お前の父親が来てくれなければ諸々の回収すらままならなかった」


 父親と言っても歳の差は通常のそれと全く異なるが、戦力不足を危惧したマリーに頼まれ、シェムが手を貸してもらえるよう頭を下げて依頼していた。

 そしてシェムは、マリーのこの言葉で参加した他のランカー達がどのような結末を迎えたのか理解し、思わず口を開く。


「父上が参戦しても、第五の異世界人を倒すのにそれほどの被害があったわけですか……」

「来たのは他が殺られた後だったからね。それにあの男はまだ始末できていない」

「え?」

「お前の父親が勝てるか分からないと判断するくらいだ。今回は和解条件を突きつけ撤退したが、確実に殺るとなればオールランカーの中でも最上位クラスを4、5人は用意する必要があるだろう」

「うっ……」


 シェムは癖の強過ぎる父親を想像し、それがどれほど難しいことなのかをすぐに理解して呻きを漏らす。

 が、それ以上に大事なことに気付き、はっとした様子で声を荒らげた。


「ということは、マリー様のあのお力まで破られたのですか!?」


 もしそうなのだとしたら、覇道の道を根底から揺るがすほどの一大事だ。

 しかしマリーは分かりやすく溜息を吐くと、椅子に深く腰掛けながら首を左右に振った。


「私がこんなところで手札を晒すわけがないだろう。それにあの男を誘導するため、戦場は分かりやすい目印がある王都南のシラズ平野を選んだんだ。ロキを殺せても、うちの王都まで壊滅したんじゃ意味がない」

「そ、そうでしたか……」


 その言葉に一瞬シェムは安堵し、いやいや違うと自らを否定する。

 世界有数の強者たるオールランカーが5名と番外が1名死亡したというのに、第五の異世界人を倒し切れていないのだ。

 最も厄介な存在が想定以上に強いと知れたことで、これは暫く屋敷も国も大荒れになるだろうと。

 シェムが心密かに覚悟を決めるも、仮面を取ったマリーの表情にさほど不穏な空気は感じられず、それどころか薄っすらと笑みを零していた。


「んん? てっきり事態はより深刻になったと思っていたのですが、違うのですか?」

「確かにかなりの守備兵が死に、まず戦いになっても生き残ると思っていたヴァルゴまで殺られたんだ。戦力的な痛手はかなり大きいが、それでも差し引きで言えば十分プラスだろうよ」

「これでプラス……あ、ユーバ殿が生きて戻られたということは、もしかして……?」

「ああ、"呪印"を成功させた。と言ってもあの男は何か裏があるとしか思えないほど全般的な耐性が高いからね……スキルそのものの効果にはあまり期待できなさそうだが、だからこそ副次的な効果が生きてくる」

「副次的な効果?」


 すぐに退室したためこの場にはいないが、ユーバの持つ種族固有スキルは特殊であり極めて希少だ。

 シェムは知識が追いつかずに首を傾げると、その姿を見たマリーがわずかに口角を上げる。


「居所の特定さ。と言っても方位を掴めるくらいらしいが、呪者であるユーバだけはやつがいる場所を感覚で掴める。十分な戦力さえ集められれば、無防備な就寝時に奇襲も狙えるわけだ」

「なるほど……本来の効果があまり期待できないからこそ、いつまで経っても気づかない可能性があるわけですか。それに呪者がユーバ殿なら、仮に気付けたとしても解除が難しい」

「ああ、あの男も自己回復は多用していたが、さすがに回復職でもない者が【神聖魔法】を最大レベルまで上げているとは思えないからね」

「おお……!」


 自分の父親と似たような存在ならば、居所が判明したからすなわち確殺というわけにはいかない。

 だが今回の戦いで第五の異世界人に対する情報はかなり得られたようだし、仕留めきれるほどの人材が揃ったタイミングで奇襲を仕掛けたならば、それはほぼほぼ確殺に匹敵するだろうと。

 勝ち筋が見えてきたところで、シェムの脳裏に一抹の不安が過る。


「……あの、大丈夫でしょうか?」

「あ?」

「突きつけたという和解条件に納得し、これで第五の異世界人は大人しくしてくれるのかなと……」


 これまでの話を聞く限り、第五の異世界人が優勢の状況だったことは間違いないだろう。

 となると、相応の条件をこちらが提示しなければ動きは止まらなさそうだが、こうして身近で見ているからこそ、マリー様がそのような妥協をするとも思えなかった。

 下手をすれば、再び王都が危険にさらされるのではないのか。

 そんなシェムをマリーは鼻で笑い、一蹴した。


「ふん、やつの弱点は既にはっきりしているからね。大事に抱えているチンケな町の住民を人質にでもしておけば大抵の動きは止まるだろうが、まあ今回は事情が事情だ。派手な動きを取らせないためにも詫びとして、うちの王の命をくれてやることにした」

「えっ? ポラン王を、ですか……?」

「ああ、砲撃の責任を私や王に求めたのはロキ自身だからね。当初の予定よりは早くなったが、ここで肥え豚の命が役に立つ時が来たというわけだ」


 予定より早い――その言葉にシェムが目を見開き反応を示す。


「ということは、ようやくマリー様が……」

「異世界人の襲撃により危険に晒された王都を強大な力で以て守護する。古参の反対派を押し込め、民衆の理解も得ながら円滑にアルバートの王位を継承する流れとしてはそこそこの筋書きだろう」


 ……やはり、恐ろしい人だ。

 シェムは淡々と語るこの流れを耳にし、ゾワリを肌が粟立つ。

 想定外の事態を逆手に取り、気付けばここまでこちらにとって優位な流れを組み立てている。

 甘い蜜の中で飼殺した王家にもはや敵はいないし、これなら何も心配はいらない――そう感じながら、失ったオールランカーの枠をどう埋めていくか。

 マリーと共に協議を進めていると、ほどなくして部屋に放置されたままだった通信魔道具が鳴り響く。


「早速か」


 マリーが背後でそう呟く中、シェムも当然、"王が殺された"という報告を聞かされるのだと思っていたが。


「早くマリー侯爵に報告を……!! 王都に燃え盛る岩が次々と降り注いで、広域に甚大な被害が……! 幸い陛下は地下道から避難されておりますが、魔天閣が倒壊し、王宮魔導士も陛下の護衛に回っているためまともな迎撃もできません! 既に防御結界は砕かれ、ディグアス城塞も崩――………」

「……!?」


 聞こえてきたのは数多の悲鳴の中で、王都の現状を必死に伝える高官の叫び。

 しかしその内容も途中で途切れてしまい、明らかな異常事態にシェムが慌てて振り返ると、マリーは目を見開いたまま微動だにせず、人形のように固まっていた。
616話 落日

 最初は何が起きているのか、まったく状況を呑み込めなかった。

 北の空に赤く光る岩のような塊が浮かんでおり、その大きさは遠目に見てもかなりのモノになるだろうと、思うことはその程度で……

 しかしその物体がみるみる高度を下げていると気付いた途端、身体中から嫌な汗が吹き出し血の気が引いていく。


「おいおい……待てよ……」


 それはどこに向かって墜ちているんだ……?

 先ほど一方的とは言え、マリーに大規模な攻撃を行うなと忠告されたばかりなんだ。

 こんなものが自然発生したなどとは思わない。

 誰が、なんのために生み出したのか。

 ぐちゃぐちゃに思考が入り乱れるも、結論が出るより先に空へ転移し、愕然とする。

 思った通り、眼下には見覚えのあるアルバートの王都『ロミナス』が広がっており、上空を見上げれば想像していたよりも遥かに大きな岩が、火を噴き上げながら町に向かって落下していた。

 ……これを『収納』できるのか?

 一瞬、脳裏にそんな考えが過るも、地上に墜ちていくソレはミノ諸島の浮遊島と同じくらい存在感があり、どう見たって俺の収納限界を超えている。

 無理に実行すれば魔力が瞬く間に枯渇し、そのまま空で意識を失って死ぬ未来しか見えてこない。

 でも、とりあえずは……


 ――【発火】――


 悠長に考えている時間はない。

 スキルの性質を考えれば、たぶんいける……!

 そう自分自身に言い聞かせながら大きく息を吐き、覚悟を決めて燃える巨岩の真下に飛びつく。


「ぐぅ、お……ッ!?」


 が、籠を背負って飛び回っていたあの時とはまるで感覚が違った。

【飛行】の最中は重みなど瞬時に消えていたというのに、質量があまりに違い過ぎるせいなのか?

 重みと表現していいのかも分からない重圧に耐えきれず、ただただ呻きを漏らすことしかできない。

 それでも限界まで羽を広げて張り付き、必死に抵抗を続けていると、


(軽くなってきている、か……?)


 次第に流れる景色が緩やかになってきたので、たぶん【飛行】の影響は徐々に出始めているのだと思うが……

 振り返ると、こちらを見上げる小さな人の姿まで見えてきているのだ。

 このペースでは、重さを感じなくなるより前に間違いなく墜落する。

 そして墜ちたら終わりだ。

 アルバートの王都にとてつもない被害が生まれ、流れからしても俺がその犯人として責め立てられることだろう。


「冗談じゃ、ねぇぞ……!!」


 使って初めて分かることもあるため、このような危機的な場面で未経験のスキルの使用は極力避けたい。

 そんな考えも少なからずあったが、もはや他に選択肢などなく、咄嗟にステータス画面を開いてまだ把握しきれていなかったスキルの詳細を確認する。


【重力魔法】Lv5 任意の方向に力を加え、強制的に対象を動かす もしくは任意の対象に対して加重と軽減を行う その威力はスキルレベルと術者の知力に依存する 効果時間3秒 再使用まで10秒 消費魔力150


 元の持ち主であるエルフ男よりもスキルレベルが低いせいか、予想していたより効果時間が短く、消費は重い。

 それでも表示された効果は概ね予想通り。

 だったら今はこれに懸けるしかなく、祈るような気持ちで発動させた。


 ――【重力魔法】――『軽減』


 ……まあ、当たり前か。

 発動すると迫る圧が幾分軽減されたような気もするが、ここまで巨大なモノの重さをあっさりとゼロにできるとは思っていない。

 だから、即座に|繋《・》|ぐ《・》。


 ――『反発』――


 あの男は効果時間内であれば、系統の違う効果を追加で発動させていた。

 だったらたぶん、俺でもできるはず――その予想通り、燃える岩に両手を当て、下方から空に向かって弾き飛ばすイメージを作りながら唱えると、不気味に軋みながら巨岩はその動きを緩める。

 これならいけるか……?

 兎にも角にも、落下速度を掻き消すことさえできれば俺の勝ちなのだ。

 次の再使用を待たずして、ここでコイツの動きを止める……!

 そのつもりで【闘気術】を発動し、落下する勢いに耐えながら巨岩を押し返していると――


「不思議ですね」

「?」


 唐突に、人の声を耳が拾う。

 思わず目を向けると、立っている――という表現でいいのだろうか。

 足元から氷を生やし、宙に浮かぶ巨岩の底に、逆立ちのまま立ってこちらを見つめる女がいた。

 不思議というのはこちらのセリフで、意味が分からず言葉を失っていると、女はそのまま言葉を続ける。


「コレを止められそうなことにまず驚きですが、なぜあなたがこの町を護ろうとしているのですか?」  

「……」


 褐色の肌に漆黒のような艶のある黒髪。

 そしてリステに似た、黄金色に輝く瞳をしたこの女が何者で、どの立ち位置から喋っているのか分からない。

 が、スキルを見通せず、いつの間にかそこに立っている時点でまともじゃないことは確かなのだ。


「これ、やったの、お前か……?」


 話ぶりからして、犯人はこいつかと。

 余裕がないこともあって荒々しく問い質すと、この女は首を横に振った。


「ご冗談を、私にこのような芸当はできませんよ。それよりこちらの質問にも答えていただけませんか? あなたはアルバート王国と敵対しているわけですから、その中枢に壊滅的な打撃を与えられるのなら喜ばしいことではないのですか?」

「だとしても、ここの住民はまったく関係ないだろうが!?」


 そんなもの、原因を作っている頭と、その頭に染まった連中だけをぶっ潰せばいい。

 俺の中では当然とも言える考えを吐き捨てると、女は心底驚いたような表情を浮かべてこちらを暫く見つめていた。


「ここ1年2年ほどで急に頭角を現し始めた人物がどれほどのものかと、想像を巡らせていましたが……なるほど。あなた、個体戦力が高いというだけで、随分と考え方はヌルいのですね」

「は……?」

「でも、それでは困る者達が大勢いるのです。なので、最後に私からプレゼントを――……"メテオラ"。世界が望む結末を、その背にかかる大きな期待を裏切らないでください」


 そして、一方的に言葉を告げると、女は冷めた眼差しを向けながら忽然と姿を消してしまう。

 あの刀使いといい、なんなんだよいったい……

 世界や期待がどうのと言っていたが、アルバートと敵対関係にありそうだというくらいで、どこのどいつなのかもまったく分からない。

 だが、はっきりしていることもある。

 あの女、喋りながら両手に視認できるほどの魔力を集め、何かしらの魔法を唱えていた。

 メテオラとはなんだ……?

 この状況だからこそ、自然と連想できてしまったその言葉の意味に嫌な予感をヒシヒシ感じていると、


「おごっ……!?」


 轟音と共に、支えていた巨岩にとてつもない衝撃が加わる。

 と同時に、視界の隅を何かが通り抜けていったような気がした。

 咄嗟に視線を向けると、それは火球で……

 しかし、地面に衝突した衝撃と爆音。

 そして舞い上がる土煙により、それが頭上の島のような巨岩よりは小さいというだけで、それなりの大きさがあるとを知った時、再び支えていた頭が割れるかと思うほどの衝撃が走り、また先ほどの火球が頭上の巨岩に墜ちたのだと理解した。

 と同時に相手の狙いに予想がつき、嫌な光景がいくつも頭に浮かびながら、慌てて詠唱する。


『精霊よ、生み出せ、|大地《アース》!』


 あの女……

 犯人は自分じゃないなどと言っていたが、たぶんそれは偽りで、『大きさ』じゃなく、今度は『数』に切り替えてきた。

 無作為に生み出すタイプなのか、それとも敢えて巨岩にも当てて俺を拘束しようとしているのか、それは分からないが……

 巨岩の重圧が再び増したことで、俺は手が離せずここからまともに動くことも叶わない。

 だったら――


「させるか……!」


 今は無理やりであろうと、止めるしかない。

 より強固に厚みをもたせて、広域に。

 それだけを考えながら【精霊魔法】を唱え続け、激しい衝突音が鳴り響く中、頭上の巨岩を中心に火球を遮る大地の壁を形成していく。

 が、そんなことができるのも一時の間だけ。


「いつまで続くんだよ……」


 身体中から感じる猛烈な渇き。

 元から魔力を失っていたタイミングで、過去にないほど消費の激しい魔法を連発しているのだ。

 魔力は瞬く間に減少していき、ステータス画面に表示された魔力残は既に2000を下回っていた。

 だと言うのに衝突音は止まらず、いくつもの火球が空を覆う大地を破壊しながら町へ落下していく。


「はっ……あ、ぐっ……やめろ……」


 先ほどから幾度となく町や大地を焼かれ、死者が山のように積まれたベザートやラグリースの無残な姿が脳裏に浮かんでくる。

 一人ならまだしも、あの刀使いのような黒騎士が何人も現れたら、間違いなく俺はその全てを守り切れない。

 それに高度を下げたことで、下からは数多の悲痛な叫びや子供の泣き声まで聞こえ始めていた。


「もう、やめてくれ……」


 そして魔力残が500を下回り、これ以上減らせば最低限の自衛すらままならなくというところで思わず願うも、現実は非情で。

 幾度となく火球を受け止めていた巨岩がその衝撃に耐えきれず、激しく軋みを立てながら崩れていく。

 だが、魔力が底をついた俺には、その崩壊を止める術がない。

 ……そっと手を放し、光が差し込み始めた空をぼんやりと眺めながら、これからどうなってしまうのか。

 燃え盛る岩と共に落下しながら回らない頭で考えるも、次第にその光が煩わしくなり、遮るようにそっと手を翳す。


 ああ……

 本当にもう、止められそうもない。



『【細工】Lv8を取得しました』



「だかラ、やめてクレと、言ったンだ……」
************************************************
この話で第3部が終了となります。
ちなみに1部は1話~175話(この世界に来た理由)まで。
2部は176話~449話(自白)まで。

では次回からの第4部をお楽しみください。
617話 王都だった場所

 奔走するも失った直後ではまともな戦力を用意することができず、アルバート王国の中枢であるディグアス城塞が今、どのような状況になっているのかも分からない。

 そんな理由から王都『ロミナス』が一望できる丘の上に飛んだマリーとシェムは、視界に広がる光景を目にして言葉を失う。

 一帯は数えるのも面倒に感じるほどのクレーターと岩や土石に覆われ、至る所で発生している火災が広く空を濁らせていた。

 記憶にある王都の面影はどこにもなく、遠くから微かに叫び声は聞こえるものの、目に見える範囲で動く人の姿すら存在していない。


「マ、マリー様……これは……」


 想像を遥かに超える惨状。

 シェムは反応のないマリーに恐々としながら声を掛けるも、その様子を目の当たりにして身体が凍ったように固まる。

 未だかつて、主のこのような姿は見たことがない……

 顔面は蒼白していて呼吸も荒く、立つのがやっとではないかと思わせるほど、取り出した杖を両手で握り身体を預けていた。

 そして、どのような感情を抱えているのか。

 僅かに震える声でシェムに語り掛ける。


「もう止んだ後か……こんな王都の端くれまでボロボロなんだ。この様子じゃ、中央も瓦礫の山だろうね……」

「威容を誇るディグアス城塞の姿がまったく見えませんので、恐らく、ですが」

「……確認しにいくよ」

「承知しました……まだ付近にいるかもしれませんし、もし第五の異世界人と出くわしたなら私が相手をしますから、マリー様は先をお急ぎください」

「……」


 どこへ向かおうとしているのか、察しがついたシェムは不安を抱えながらマリーに触れる。

 そして二人は無言のまま、点々と空を渡るように転移を繰り返しながら周囲の状況を確認し、王都の中心部へと向かっていくも見える景色は変わらない。

 西部に城壁や見張り塔など、町の姿が多少は残され人が集まっているというくらいで、あとはどこも荒れ果てた大地が続いていた。

 当然、大国アルバートを司る王都ロミナスの中心部も。

 だが二人は倒壊し、山のように積もる土石も気にせず、目星をつけた場所の瓦礫を取り除いてその下を魔法で掘り進めていく。

 目的の場所はディグアス城塞の地下。

 地上はこの荒れようであっても、地下となればその影響はまだ薄いはず……

 この件でアルバート王国は大きく躓いた。

 それは間違いないが、しかし地下の"ファルコム"さえ生きていれば、まだマリー様はやり直せる。

 才能に秀でた者達を各地から搔き集め、大量の資金を投じて進めてきた各方面での研究成果があれば、まだ――


「「…………」」


 暫くして天井を突き破り、地下に広がる広大な施設へと到着するも、二人は言葉を発することなくその場に立ち尽くし、茫然としていた。

 見渡す限り、何もない。

 人も、設備も、成果物も。

 その一切が何もなく、ただただ伽藍堂とした空間がそこには広がっていた。

 と、ここで終始感情を抑えていた様子のマリーが、破裂したように叫ぶ。


「あんのクソガキがぁああああああああああああああッッッ!!!」

「ッ!?」

「もう我慢の限界だ!! 今から無理やりにでも全員を……いや、私が直接あのガキに関係する全てをぶち壊してやるわ……!!」

「おっ、おお、落ち着いてくださいマリー様! まだ『第二』がありますから! そちらも確認を……」


 転移しようとするマリーを慌てて止めるシェム。

 その言葉の通り、アルバート王国の要とも言える研究施設"ファルコム"の他に、国も知らないマリーの個人的な研究所も王都の近郊に存在するため、そちらであれば被害にあっていない可能性が高い。

 まだ全てを失ったわけではないのだとシェムは説くが、しかしマリーを落ち着かせるどころか火に油を注いでしまう。


「ここだって40年近く積み上げてきた研究の成果と、各地から搔き集めた人材が1000人以上はいたんだよ!? ここにどれほどの金を投じてきたか……! 王都だけでなくここの全ても奪われたっていうのに、これ以上黙っていられるか!!」

「も、もちろん重々承知しております! しかしマリー様が常々口にされている通り、今このタイミングでマリー様が争われては西の連中が笑うだけ。それに殺されたのではなく奪われたのなら、取り戻すことだって――……?」


 主が激高しているからこそ、自分だけでも冷静であらねばと思っていたシェムは、ここでふと疑問に思う。

 どう考えてもファルコムを狙った犯人は【空間魔法】持ちだ。

 これだけ綺麗に全てがなくなっているのだから、それは察しがつく。

 だから因縁があり、直前までマリー様と争っていた第五の異世界人がここを襲ったというのは筋の通る話だが……

 身近に【空間魔法】の使い手がいるからこそ、シェムは転移の特性を長くこの目で見てきているし、魔力をどれほど消費するのかも聞いていた。

 ディグアス城塞を襲撃して黒騎士や父上とも戦い、そこから大陸でも最大規模を誇る王都ロミナスをここまで壊滅させた相手が、さらに1000人を超える者達をこちらの網に掛からない場所まで運べるものだろうか?

 それにここには本当に何も残されていないのだ……争った痕跡や、血痕さえも。

 つまり地上と同じ殲滅目的ではなく、ここがどういう場所かを事前に把握した上で奪いに来ている可能性が極めて高いということになる。

 唐突に攻撃を仕掛けられた側であるはずの異世界人ロキが、アルバートの中枢で働く一部の者達にしか共有されていないファルコムの情報を掴んで、いきなり行動に移せるものなのか?

 ある意味、王の居室よりも厳重に守られ、探査や感知などのスキルを用いた外部干渉を一切受けられないようにしていたこの場所を……?


「……マリー様、まずは1つだけ、先に確認しておきましょう」


 そう告げると有無を言わさずマリーの手を引き、本来の出入口から研究所の外へ。

 そこから人影のない通路を暫く歩くと、ようやく普段の見張りとは違う一般兵の鎧を身に纏った死体が2つ、血溜まりを作って通路の脇に放置されていた。

 1つは首が切断されているため使いモノにならないが、もう1体は胸を斬り裂かれていたため、これならばきっといける……

 そう判断して|強《・》|制《・》|的《・》|に《・》|起《・》|こ《・》|す《・》と、シェムはその死体に向かって語り掛けた。


「あなた達を殺した相手について話しなさい」

「……ローブを羽織った二人組……気付いた時には目の前にいた……」

「二人……? 他に容姿の特徴とか、何か分かることはないですか?」

「いきなり斬られた……男の声と、その後ろに、長い黒髪……女の声……一瞬だった……本当に……」


 やはり、何かが違う気がする……

 堪らずシェムは振り向くと、マリーもこのやり取りから違和感を覚えたのか。

 怒気は発しつつ、それでも何かを考えこむように手を口元に当てる。

 戦いの場にロキが一人で現れたからと言って、それが仲間がいないことの証明にはならない。

 だが二人は、ロキに関連する情報の中で、長い黒髪の女に関する話を未だかつて一度も耳にしたことがなかった。


「……一般兵のお前が立ち入りを禁じられているこの区画にいる理由は、本来警護を担っているはずの王宮騎士が避難した王の護衛に駆り出されたせいかい」

「そう、聞いている……」

「で、ここまで見張りが少ない理由は?」


 兵の質については理由に予想もつくが、周囲を見回しても他に死体が見当たらないのだから、明らかに見張りの数自体が少ない。

 もっと死体があれば情報を拾える。

 そう思ったマリーが問うと、再び疑念の生まれる答えを死体が返す。


「見張りの命令が下ってすぐに、外で大きな爆発があった……集まっていた多くの兵が生き埋めになって、救援に……」

「つまり手薄にされたところを狙ってきたわけですか」

「……」


 シェムは兵士の言葉を聞いて反射的に言葉を漏らす。

 しかし、この時マリーはまったく別の思考を巡らせていた。

 よくよく考えればどのタイミングで動いたのか。

 まだ生きているかどうかは別として、王は既に避難していると報告を受け、死体もこうして記憶を吐き出しているのだから、ポラン王が多くの兵士を引き連れこの場を逃げ出したことは疑いようがない。

 つまりファルコムが襲われたのは、謁見の間で初めてロキの前に姿を見せたあと。

 しかもすぐのすぐというわけではなく、そこから近衛や王宮兵が招集されてからということになる。

 となると、戦闘の手前はない。

 仲間と合流して引き連れてくるわけでもなく、それこそ数分程度でロキはシラズ平野に現れたのだから、考えられるとしたら戦闘後。

 こちらが一方的に和解案を突きつけて、あの場を離れてから動いたことになるが……


(まさか、ロキじゃないのか……?)


 マリーの脳裏に、醜く肥えた王の卑しい姿が浮かぶ。

 あの人擬きが、王都や守備兵の被害を憂いて自ら指揮を執るようなことはあり得ない。

 何よりも自分の身を案じ、他を切り捨ててでも兵を搔き集めて真っ先に逃げ出すだろう。

 どう流れを追っても先ほどの戦闘中にファルコムが襲われたとしか思えず、 冷静になればなるほどロキがどのタイミングで動いたのか分からなくなる。

 と、ここでシェムが、いつになく真剣な表情でマリーに語り掛けた。


「第五の異世界人がファルコムを襲った――それがもっとも自然な流れではありますが、どうにも作為的と言いますか、何か誘導されているような節も感じませんか?」

「……ビーネ宰相が予見していた通り、オーリッジ子爵の裏切りがまだ続いているっていうのかい」

「本人は既に死亡していても、怨嗟が別の形で動き続けている可能性もあります。少なくともディグアス城塞に出入りできる子爵の立場であれば、ファルコムの存在くらいは間違いなく知っていたでしょうから」


 この言葉に5秒、10秒と……しばらく瞳を閉じ、マリーは大きく息を吐きながら呟く。


「焦心が齎した結果か……あの時、手筋を誤ったことでここまで盤面を崩すことになるとは、私も耄碌したもんだね」

「マリー様……」


 あの時というのは、学院や聖王騎士という手駒を捨ててでも、異世界人ロキを潰しにかかったことを指しているのだろう。

 シェムはそう思いつつ、初めて自らの過ちを認めたマリーの姿を見て、心底驚くと同時にそこはかとない安心感も抱いてしまう。

 自信に満ち溢れ、結果を残し続けてきた今までとは正反対の状況に陥っているのだから、本人からしても不思議な感覚ではあるが……

 マリー様がこのまま終わるわけがない。

 今までとは異なる主の表情を見ているとそんな気持ちが湧き上がり、自然と言葉が衝いて出る。


「大丈夫ですよ。王都はこのような姿になりましたが、だからと言って大国アルバートが他より劣るということにはなりません。きっと第二の方は無事ですし、他の追随を許さない戦力と資金力だってマリー様にはあるのですから。とにかく今は我慢してでも情報収集に注力しつつ奪われた彼らの行方を追い、これ以上被害が拡大しないよう防衛網を築いて再興を計りましょう」

「ふん……お前は私にまだ働けっていうのかい」

「マリー様がこの程度で自棄になるほど愚かだとは思っていませんから。それに父上とも約束されたのでしょう?」

「確かにね……反故にしてお前の父親が敵に回るなんざ想像もしたくない」

「え……さすがにそれは、なくもない、かもしれませんが」

「まあいいさ。ロキの仕業じゃないとするなら獣人の王か、もしくは【空間魔法】持ちがいないと思っていた西の連中か……どちらにせよ、ここの全てを掻っ攫ったやつらには必ず地獄を見せてやる……行くよ、まずは第二のファルコムからだ」


 こうして二人は一度王都を離れ、奪われた者達がいないか周囲の反応を探りながら国内の主要施設や町の状況を確認したのち、徹底した情報収集を進めていく。

 そして二人はその後、予想だにしていない事実を知った――。
618話 地下通路

 有事に王族を中心とした国の要人を逃がすため、王都『ロミナス』の地下深くに作られたいくつかの隠し通路。

 その中で北部のミシュト山裏手に通じる細い道を、数千にも及ぶ者達が列をなして移動していた。

 町の規模が大きくなる度に拡張されてきたとは言え、こうしてまともに使用されるのは数十年ぶりのこと。

 魔法によって十分な補強はされているものの、それでも悍ましい数の蟲や蝙蝠に滴る雨水など、普段の生活では考えられない劣悪な環境に加え、先ほどまで断続的な揺れが続いていたこともあり、不安から苛立つ王族は駕籠で運ばれている身でありながら声を張り上げる。


「ああ、また私の顔に虫が……! ちゃんと焼き払ってくださいまし!」

「もっと早く移動せんか! こんな狭苦しい所にいては余の気が滅入るわ!」


 しかし愛想笑いを浮かべて相槌を打っているのは、周囲で諂う近しい立場の貴族だけ。

 特に王族から離れた場所を歩く騎士達は、様々に思うことがありながらも抱える感情を押し殺していたが……

 あまりに醜い喚きが地下道の中で響き渡るため、次第に不満を顔に出すだけでなく、それとなく濁しながら愚痴を零し始めていた。


「酷いものだ、本当に……」

「ああ。これほどの大所帯に加え、手荷物まで抱えていてはな」

「傷をつければ首が飛ぶんだ。誰だって慎重にもなる」

「気持ちは分かるが、その辺にしておけ……これまでの生活を捨てて、セルリック家やヤーガン家のように死ぬまで田舎の景色を眺めたいのか?」

「「「……」」」


 城塞内部やその周辺は、命を張って守ろうとした兵士達の亡骸が今も放置されたまま。

 中枢の騒ぎが広まったことで町は余計に混乱し、建物の倒壊で生き埋めになっている者達が多数いると分かっているのに、その救出すら満足に行えていなかったのだ。

 人手はまったくと言っていいほど足りていない。

 だからこそ近衛騎士団長ホーゼは、王へ避難の必要性と共に報告が上がってきている町の情報を伝え、護衛は近衛騎士団のみで進めたいと、無理を承知で献言したわけだが……

 返ってきた答えはホーゼが想定する最悪をさらに超えるもので、ポラン王は戦闘技能に優れた王宮騎士や王宮魔導士だけでなく、纏まった数の一般兵まで帯同するように命じた。

 その目的は自身の護衛と荷物持ちだ。

 事もあろうにポラン王は、護るべき上級兵が自身の護衛として持ち場を離れるのなら、宝物庫の中身も共に持っていくと言い出したのである。

 そのため、民の命よりも抱える宝が大事なのかと。

 避難を開始した当初から兵士達の間に漂う空気は重苦しく、そこから明らかに異常だと分かる地鳴りのような振動が長く続いたことによって、口から不満まで漏れ出るくらいには最悪なものへと変化していった。

 命令とは言え、この場にいる多くの兵士達にも家族がおり、この王都で暮らしている。

 今、町はどうなっているのか……

 それは列の中頃で王を護衛する近衛騎士団長ホーゼも同様で、町の状況と家族の安否に不安を抱えながら王を乗せた駕籠の真後ろを歩いていると、後方が急に騒がしくなってきたことで動きを止める。

 聞こえてきたのは慌てる兵士の声に、叫び……悲鳴か!?


「総員! 構えろ!! 後方から何かが来てるぞ!」


 そう判断した瞬間、怒声に近い声を張り上げたことで、先頭付近を歩く兵士達にまで緊張が走る。

 と言っても現実的にできることはそう多くない。

 そもそもこの地下道は人を秘密裏に逃がすためのモノであり、ここでの戦闘など想定されていない。

 道の幅は精々大人3人が並んで歩ける程度しかなく、この狭さでは何を撃っても同士討ちに繋がる攻撃魔法などまともに放てないし、剣を抜いたとしても振り被れば触れてしまう恐れがあるくらいに天井も高くはなかった。

 それに大半の兵士は大なり小なり宝物を運ばされている。

 そんなもの、緊急時となればただの足枷――脇に放ってでも対処しろと、ホーゼは喉から出かかるが。


「余の宝を雑に扱うでない! 傷でもつけたら打ち首にするぞ!?」


 極採色に染まった空の異様を目にしてから、すぐ地下へ雲隠れしていたのだ。

 兵の死体も、町の惨状も。

 王都の現実を何一つ目の当たりにしていない王が喚き散らしたことで、一般兵を掻き分け前に出ようとした王宮騎士も委縮する。

 そんなことを気にしている場合ではないのだ……

 この場所では数の利などまったく活かせない。

 異世界人ロキがマリー様と黒騎士の面々を相手取っている間に、仲間が陛下の命を狙ってきたのか。

 もしくは謀反を起こしたというオーリッジ子爵と協力関係にある勢力が、ここぞとばかりに襲撃してきたのか。

 後者であれば、マリー様のお考えを否定し地方に追いやられた大貴族達が裏で糸を引いている可能性も十分あり得るだろうが、どちらにせよここで襲ってきたのなら、数はまず間違いなく少数であり、相手は精鋭。

 悠長に事を構えていては、どこまで被害が拡大するか分からない。

 ホーゼは王の側を離れるわけにもいかず、兵の背中しか見えない後方を見つめながら【指揮】と【拡声】を使用し、各部隊長に状況の報告を求めていたが……


「ッ……! 陛下を前にお運びしろ! 近衛隊は戦闘態勢を維持したままこの場で待機!」

「こほっ!? では余を誰が護る――」

「早くしろ!!」


 次第に事態の深刻さを理解し始め、ホーゼは嫌な汗を垂らしながら下唇を噛み締める。

 荷運びを命じられた一般兵もそれなりにいるが、ここには華覚仙天を含む国軍の精鋭が集結しているのだ。

 いくら態勢が万全でないとは言え、さすがにどこかで食い止められる――そんな考えが揺らぐほど、響き渡る兵士の悲鳴は異常とも思える速さで迫ってきていた。

 敵の数や素性など、後方の状況を示す報告は何一つ上がってこない。

 背後を突く襲撃と慣れない環境で混乱し、部隊の指揮がまったく執れていないのか……?


「第三、第四魔導士部隊は端に寄って最優先に魔防結界を張れ!! 王宮騎士部隊は盾ではなく剣だ! 前に出て剣で敵で動きを止めろ!!」


 ホーゼはそう判断し、この速度ならばまず間違いなく魔法による範囲攻撃を一方的に受けているのだろうと。

 部隊長に代わって激しく指示を飛ばすが、それでも勢いは止まらず、兵士達が波のように後退し始めたことで、近衛のいる中央付近も身動きが取れなくなってくる。

 この兵力を押し返すとは、侵入してきた敵戦力はどれほどのものなのだ……!


「怯んで後退すれば敵の思うつぼだ! 態勢を立て直せ! 魔導士部隊は道を塞いででも時間を――……」


 焦りを強く感じながら、それでもホーゼは戦線に向かって声を掛け続けるも、兵士達の頭上から徐々に見え始めた異様な光景に目を奪われ、思わず息を呑む。

 人が――兵士が次々と舞い上がり、千切れ、その一部が磔にされていく。

 あれはどう考えても、ただ武器を振り回しているだけじゃない……

 だが魔法と呼ぶにはあまりにその動きが不規則で、何が起きているのかホーゼにはまるで理解できなかった。

 そして――


「かひっ……」


 死を恐れ、ひしめき合う兵士達の間から僅かに迫る敵の姿が見えた時、ホーゼは金縛りにあったように硬直してしまう。

 あの時、謁見の間で姿を見せた男に間違いない……

 異世界人ロキ――、なぜかあの男がここにいる?

 それに……


「な、なんという……」


 姿が徐々に、そしてはっきりと見えてくるほど恐怖心が心を浸し、震える声で自問自答する。

 あの時とは明らかに様子が違う。

 武器は持たず、血だらけの両手で次々と兵士の腕や頭部を毟り、防具の隙間から腹を裂いては背後へ投げ捨てていく。

 そして背から伸びる、幾重にも枝分かれした武器――もしくは尾なのか……?

 不気味に動く黒い何かが投げ捨てられた身体を壁や天井に突き刺し、絶対に殺すと言わんばかりにその身体を切断していた。

 しかもその動きが、あまりに速い……

 大半の者達がその動きを追えるとは思えず、また一人、後のない兵士が奇声を上げながら武器を振り下ろすも、無造作に顔を掴まれ引き千切られていった。

 そしてホーゼは、なぜあの時、謁見の間でロキに味わったことのない恐怖心を抱いたのか。

 次の標的を見据えるロキの姿を目にしたことで、自然とその意味を理解した。

 魔物のような――いや、魔物よりも無機質で冷酷な瞳とは対照的に口元は薄っすらと笑みを浮かべ、一切の躊躇いなく兵士をバラして贓物を引き抜いていく様は、絶対的な捕食者のそれだ。

 たぶん、こちらを人としても見ていない。

 それこそ、視界に入った羽虫を握り潰す程度の……


「ッ……舐めるなァアアアァアアアアアッッ!!」


 前に立つ兵士の姿が消えた途端、ホーゼは渾身の力で剣を振り下ろしていた。

 このままでは終わらせない――、終わらせて堪るか……!

 命を懸け、全てを賭した人生最上の一太刀。

 それはスルリとロキの肩口に滑り込んだことでホーゼは歓喜に震える。

 が――


「オイしソ」

「えァ……ッ!?」


 刃が僅かに食い込んだかどうか。

 その程度で腕を取られ、肘関節を破壊されたと同時にロキの手刀がホーゼの脇腹に深々と突き刺さっていた。

 自分の攻撃など、防ぐ必要もないと判断されたのか?

 いや、それよりも――ぐにゃりと、腹の中を掴まれる感触。

 その瞬間、目の前で繰り広げられていた光景が鮮明に蘇り、やはり自分も他の者達と同じ運命を辿るのかと。

 己の死を悟ったホーゼは、ロキの背後に広がる地獄のような光景を最後に見つめる。

 これはもう、覆らない。

 陛下も、王家も、付き従う重臣も。

 それにこの場にいる兵士達だって、まず間違いなく一人も生きては帰れず皆殺しにされるのだろう。

 ロキがここにいるということは、既にマリー様も……


「アルバートが……人の世が、終わる、のか……」


 磔にされ、意識が薄らいでいく中で自然と吐き出された最後の言葉は、今なお襲われ続ける兵士達の悲鳴によってすぐに掻き消される。

 そしてこの日、王族を含むアルバート王国軍の主戦力は、国の宝物と共に忽然と姿を消した。
619話 その頃、あの二人は

 周囲を石壁に覆われた広い空間。

 その中で男が気だるそうに座っていると、視界の端に一人の女性が現れる。

 すると男は視線を向け、軽く片手を上げた。


「おっ、お疲れさん。はは、さすがにそっちもしんどそうだな」


 笑いながら言われた言葉に女は分かりやすく嘆息を漏らし、周囲で眠る人々の姿を見回してから静かに答える。


「あれほど規模の大きな町を標的にしたのですから当然でしょう。それに邪魔も入りましたしね」

「邪魔? 糞ババアが別の黒騎士でも連れて戻ってきたのか?」

「いえ、ロキの方です。私が限界まで巨大化させた"|落星《カリス》"だけでなく、"|流星群《メテオラ》"まで力技で止めようとしてきましたから」

「マジかよ……って、なんでアイツが止めようとしてくるんだ?」

「私も意味が分からなくて、姿を晒す気などなかったのに思わず聞いてしまいましたよ。なぜ敵対しているあなたがこの町を護るのかと」


 首を傾げる男に女は同調する。

 二人は途中からではあるが、遠目にロキとマリー達の戦いを観戦していた。

 かなりの距離があったため、さすがに会話のやり取りまでは把握できていないものの、ロキが黒騎士を次々と始末し、マリー側が劣勢としか思えない状況の中で残る黒騎士が姿を消したのだから、二人には転移を使用してマリーがあの場から逃げ出したように映っていたのだ。

 そのため、なんとも中途半端な結果だと。

 どちらも生き残っているという事実に強い苛立ちや不満を覚えた男は、マリーとロキの争いがより激化するように。

 マリーが逃げ去ったあともその場で茫然と立ち尽くしていたロキに代わって、容易に立て直せないほどのダメージをマリーに負わせるべく、用済みとなった王都『ロミナス』の襲撃を実行に移したのである。

 と言ってもその実行役は、万が一発見されても両陣営に顔が割れておらず、また調子に乗って戦いに興じないという理由から女の方がその役割を担ったわけであるが……


「すると彼は、この町の住民は関係ないと……敵対国の、しかも富と恩恵を求めてマリーを支持する者達が群がる王都民の命を気にしていました。咄嗟にあんな言葉が出てくるのですから、まず間違いなく本気なのでしょうね」


 男は続く女からの報告を聞いて一瞬思考が停止したように固まるも、すぐに周囲で眠っている者達が目を覚ますのではないかと心配になるほど笑い出した。


「…………ひっ、ひははっ……! なんだよその甘ちゃん野郎は。あの自称勇者君と同じか、下手すりゃアイツよりも甘々じゃねーか」

「ええ。強さだけは一級品に見えましたが、あのタイプなら少し搦め手を使えばすぐに動きを止められますから、仮に問題が起きたとしても対処は楽そうですね」

「ひひっ、そんな甘ちゃんならうちと衝突する前に、国も本人も消されてんだろ。ここまでやればさすがにババアも抱えた戦力を吐き出してくるだろうからな」


 そのために王都を攻撃したのだ。

 東は東でより苛烈な削り合いが始まり、ここに静観を決め込む獣人の王も巻き込めれば最上だと。

 男は意外な密告から面白い展開になってきたことをほくそ笑むも、女の方は顎に手を当て、賛同できないとでも言いたげに難しい顔をしていた。


「ん? 何か気掛かりでもあるのか?」

「ありますよ。特に今回は動き方がかなり雑になりましたからね……早く観戦したいと騒ぐ誰かさんのせいで」

「……」

「ファルコムと呼ばれていた研究施設や王都の襲撃を、全てロキの仕業と判断してくれれば理想の削り合いに発展するでしょう。しかし第三者の介入を疑われればどうなるか……完全にこちらへ意識が向くことはないと思いますが、マリーがどう動くのかまでは予想できません」

「んーでも、あれだ。とりあえず見れて良かっただろ? お前だってなんだかんだ言いながら結構楽しんでたし」

「……そ、それは敵の主戦力がどれほどのものなのか把握しておくべきだと……!」

「はは、まあバレたらバレたで、そん時はまとめて相手すりゃいいだろ。希少鉱物だけじゃなく、海洋素材まで持ってこなくなったババアに利用価値なんてなくなってきたしな」


 そう言って好戦的な笑みを浮かべる男に、女は冷ややかな視線を送る。


「はぁ……どうせあの戦いを見て触発されたんでしょうけど、これ以上ちょっかいを掛けにいくとかは止めてくださいね?」

「ひははっ、せっかく種を撒いてきたんだ。そこまで馬鹿じゃねぇから安心しろって」

「ならいいですが」

「でもまあロキと、最後に少しだけ現れたあのヤバそうなやつとは早く戦ってみてぇけどなぁ……」

「……」


 周囲を大きく巻き込みながら進められる大国同士の争い。

 その渦中で都合よく利用された小国の王は、死体しか存在しない小さな世界で地面に額を突きつけ哭いていた。
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どうもニトです。
勇者か魔王かをご覧いただきありがとうございます。

今回は更新についてのお知らせでして、今まで毎週木曜日に更新とさせていただいておりましたが、今後は木曜日+たまに日曜日も更新していこうと思います。
と言うのも、私の個人的な感覚として1話の理想は2000~4000文字、いっても5000文字以内がダレない適量だろうというのがありまして、最初の頃は多過ぎた1話当たりの文字数を調整しつつ今に至っているのですが、最近またはみ出すことが多くなってきております。
そのため、今後は1話に纏めきれなかった場合、切れるところで切りつつ、その場合は今週物足りなかったなとならないように続きを日曜日に更新するという方法を取っていこうと思いますので、予告なく週2更新となる場合もありますがご了承ください。

ちょっとリアルの生活環境が変わりそうなので、今後また変更が入るかもしませんけどよろしくお願いいたします!
620話 レベルアップ

 青空の下、広大な農地と区分けされた放牧場が広がる長閑な上台地。

 その一角でアリシアは、普段と変わらず小さな小屋の前で編み物をしていると、不意にノイズがかった叫び声が頭に響いて手を止めた。

 声からそれがロキであると、すぐに気付くが。


「ま、町は……! ベザートはどうなってる!?」


 過去にないほど取り乱した様子で、アリシアは驚きのあまり言葉を失っていると、町の見張りに立つリガルが代わりに答えてくれる。


「今のところ異常は見られないが……どうした? 何かあったのか?」

「そっか……良かった……本当に、良かった……」

「……?」


 リガルの問いかけにも反応せず、ただただ心の底から安堵したように同じ言葉を繰り返すロキ。

 そのやり取りは端から聞いていても違和感しかなく、なぜロキがこうして自分達に尋ねているのかも分からない。

 本来なら自分で確認して――……


「ロキ君、大丈夫ですか……? 今すぐそちらに向かいましょうか?」


 もしかして、動けない事情でもあるのか?

 そう感じたのはアリシアだけでなく、リステが焦りの色も隠さず問いかけるが、返ってきたロキの言葉は明確な拒絶だった。


「それは駄目! 絶対に駄目だから……!」

「「「……」」」

「ロキ、今もベザートは私が見ているのだから少し落ち着け。転生者の一人とかなり揉めている話は聞いていたが……何か大きな問題でも発生したのか?」

「……ごめん。防ごうとしたけど防げなくて、それでやらかして、反動が……毒が、あまり抜けないんだ……」

「例の悪影響か……今どれくらい経過している? 症状は?」


 立て続けにリガルが問うと、ロキはぽつりぽつり、記憶を呼び起こすように答えを返す。


「はっきりとは、分からない……6日、7日……たぶんそれ以上は経っていると思う……でも、まだ死体もまともに見れない……」

「死体、ですか……?」


 生きている者じゃないのか?

 皆が呟くアリシアと似たような疑問を抱くも、今はそれよりロキの症状についてだ。


「つまりそれって、この拠点もそうだし、人のいる所には行けないってことだよね?」

「そう……ゼオに血も渡さなきゃ……早く、戻らないと……」

「なるほど……フィーリル、治癒で治せたりはできないのですか?」


 ロキの血をどこかに置いといてもらい、それを誰かが回収して運ぶという方法も取れなくはない。

 が、今ロキに移動を強要すること自体が非常に危険。

 そう判断したアリシアがフィーリルに解決策を問うも、反応は渋い。


「ん~治癒と言っても即効性のある【回復魔法】や【神聖魔法】は外傷に対してですからねぇ。【結界魔法】の『燐光』なら病や精神回復にも多少の効果はあるはずですが、ロキ君は使えますか?」

「うん……ただ、もうずっと結界の中にいて、それでもこの状態だから……」

「そうですか……となると、他に考えられる方法は1つですね。原因となっているロキ君の記憶を消す――やってみないとどうなるか分かりませんが、もしかしたらこれで今抱えている症状が一緒に消えるかもしれません」


 普段とは違う、真面目な口調で語られるフィーリルの言葉。

 その意味と言葉の重みを、少なくとも女神達は理解していた。

 それはつまり、ロキに対して女神にしか扱えない【魂環魔法】を使用するということ。


「ということは、誰か一人がロキ君の前に立つ必要があるわけだよね……」


 術者は必ず対象に触れられるくらい近寄る必要があるため、フェリンの言葉を最後に暫しの沈黙が流れる。

 それも当然だろう。

 かつてロキは模擬戦でリガルの分体を殺めているのだ。

 必死にリステの提案を拒絶していたロキの様子からしても、記憶を弄るその最中に殺される可能性の方が高いように思えてしまった。


「……私が行きましょう」


 それでも、何か力になれるのなら。

 その想いでリステが応えると、すぐにロキが先ほどと同じ反応を示すも、遮るように強い言葉を発したのはアリシアだった。


「待ちなさい。リステのその判断はさすがに軽率過ぎるでしょう。まず記憶を消したら確実に症状が改善されるわけではないようですし、もしあなたが分体とは言え命を落としたらどうなるか、もう十分に理解していますよね?」

「ええ、ですから私一人で行動に移そうとは思っていません。離れた位置からロキ君の動きを一時的にでも拘束してもらえれば、その間に私が近づき必要と思われる箇所の記憶を消去します。これならば十分実現可能でしょう?」

「……ですが、それでも危険すぎる『…………もういいよ』」


 ボソリと呟かれた言葉。

 それはここままで終始黙っていたリアのモノだった。


「ロキ、正直に答えて。前に言っていた見えないスキルのレベル、上がったんでしょ?」

「……うん、間違いなく。それがどの程度なのか、俺にも分からないけど……」

「ということは、ここで無理に私達が動いて仮に治せたとしても、また今後同じか、もしくはもっと酷い症状を目にする可能性も出てくる。その度にいちいち治してはいられない」

「リア……ロキ君は私達の代わりに動いてくれている部分もあることを理解していますか?」


 明らかに怒気を発していると分かるリステの声色。

 だがリアはまったく気にした様子もなく言葉を続ける。


「だから、別の方法でその症状を抑える」

「えっ?」

「大罪人に使われることがある拘束用の特殊な指輪。私も詳しいわけじゃないけど、衝動とか欲求の高ぶりを抑制する能力が付いているはずだから、ロキの抱えている症状に合う、と思う」

「え、っと、それは容易に手に入るモノなのですか?」


 この中では最も下界に詳しいリステや、世界を旅して様々なモノを見てきたロキもその存在を知らなそうなのだ。

 あまりに希少であれば意味がない。

 そう感じたアリシアの問いに、リアは応える。


「たぶんダンジョンだけで拾える装飾具。だからどこにでもあるわけじゃないけど、私が知っているラグリース王国の王都にも反応があったのは今確認した。それに国の法を司る機関とかなら、質に拘らなければ持っていてもおかしくない」

「静かだなって思ってたらそんなの探してたんだ……リア凄いじゃん!」

「え、ええ。ちなみに、質とは……?」

「武器とか防具と同じ、素材の違い。等級が高いと壊されにくいとか、性能が強力だったりするんだと思う」

「なるほど……罪人用というのがどうしても気になりますが、ひとまずその品を購入するなりしてロキ君に渡せばどうにかなりそうですね」


 渡すだけなら近寄らずとも方法はある。

 これならリアの言う通り、効果次第では今後も含めてロキの症状が大きく改善されるのではないかと皆が期待を寄せていたわけだが、続くリアの言葉に再び場が沈黙してしまう。


「ただ、身に着けている間は力も抑制されて弱くなるはず。ロキがそれでもいいなら、だけど」

「「「……」」」


 ロキが誰よりも強さに拘っていることなど皆知っている。

 なんと答えるのか、女神達が固唾を飲んで見守っていると――


「この状況から抜け出せるんならしょうがないよ……それよりどんな装飾具なのか、もっと詳しく教えてくれない……? もしかしたら手元にあるかもしれないから」


 ロキがすんなりと受け入れたことに安堵と驚きの感情が入り混じる。

 永続的ではないからなのかもしれないが……

 どれほど着けておく必要があるかも分からない拘束具を、あのロキが望んで着けようとするほど症状が厳しい――その事実にアリシアを含む数名の女神は暫し閉口したままこの先のことを考えていた。
621話 自戒の指輪


「これか……」


 ほぼ無意識に近い中で、死体と共に回収した記憶だけはある兵士達の所持物を漁っていると、聞いていた通りの形状をした装飾具を発見する。

 対になっている2つの指輪と、その2つを繋ぐ1本の鎖。

 どうやらこの全てが1つの装飾具という判定になっているようで、【鑑定】を通して見るとこのように表示された。


 自戒の指輪:素早さ上昇『815』 等級:|幻想級《3等》 素材:|黒鉄《ダマスカス》 付与:【抑制】Lv8 衝動的な欲求を抑える代わりに装備者の能力を低下させ、抑制のための痛みを与える


 スキルレベルがカンストしたことで等級の表示が変わり、あの時リルだけが見えていた『性能値』もようやく把握できるようになった。

 これはこれで興味深く楽しみではあるが、今重要なのは特殊付与と思われる『抑制』の方で、こいつがリアの言っていた効果を引き出してくれるのだろう。


「これを、それぞれの手に……」


 先ほどリアに言われたことを思い返しながら、鎖で繋がれた2つの指輪を最もサイズの合う中指に嵌めていく。

 するとなんとも言えない脱力感と共に、自分自身でもはっきりと分かるほど、湧き上がる黒い感情が薄らいでいくのを感じた。

 ああ……こんな言葉が適切とは思えないし完全に消えたわけじゃないけど、久しぶりに人に戻れたような、そんな感覚だ。

 痛みも指先がチクチクと痛む程度で、これなら問題なく拠点やベザートにも帰れる。

 となると、あとはどれほど力が抑制されているのか。

 町に異常はないと言っていたので軽く身体を動かしながら山を駆け、数日前にも自然と足を運んでしまったAランク狩場 《シトラスの森》に到着。

 誰もいない狩場で感触を掴むように魔物を倒していき、おおよその現状を理解する。


「力というか、全てだな……」


 筋力だけであればありがたいと思っていたけど、そんなことはない。

 魔法の威力は明らかに規模が小さくなっているし、露骨に差を感じる敏捷なんかは体感で半減しているのではないかと思えるくらい、自分の動きが遅くなっていることを実感できてしまった。

 判別不能な幸運を除けば、一切影響がなさそうなのは魔力量くらい。

 でもまあ、魔物を倒す分には苦労することもないし、この状態のままだとマズいのはオールランカークラスの強者と遭遇した時か、もしくは裏ボスを相手にする時くらいか。

 そんなことを考えながら一度指輪を外そうとするも、


「ん……あれ、これってそういう仕様なのか……?」


 強引に引っ張っても外すことができず、ここでリアが大罪人用の装飾具と言っていた本当の意味を理解した。

 考えてみれば当然で、衝動的な欲求や能力を抑えるための装飾具なのに、そいつを自由に取り外せたのなら意味がない。

 つまりこれは、枷や手錠の一種。

 鎖は30cm程度しかなく、武器は両手で握らなければ満足に扱えないし、何かを殴りつけるような動作もまったくとれそうになかった。

【空間魔法】や新しく入手した【鉱操術】を使用すれば、まず間違いなく破壊はできるだろうが……

 気になるのは【抑制】レベル8という付与レベルの高さで。

 謁見の間でも見た顔が、大事そうに場違いな荷物を抱えながら陛下を護れと必死に叫び、派手な服を着た肉の塊が地位や宝がどうだと叫んで命乞いをしていた光景が蘇る。

 等級を見てもそうだし、あの状況から考えてもこの指輪のレアリティは相当高い。

 それこそアルバートでは、国宝クラスと判断されるくらいに。

 そうなると、安易には壊せない。

 もし替えを見つけたとしても、【抑制】のスキルレベルが下がることで俺の抱える症状が強く表に出てしまっては意味がないのだから。


「しばらくはこのまま様子を見るしかないか……」


 今はそう判断するしかなく、一度狩場から空を舞い、荒廃した王都『ロミナス』の状況を確認。

 現実をしっかりと受け止めてからベザートの様子を見に帰還した。
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622話 死体の山から

「お待たせ~」

「おう、もうできてるぞ」


 ベザートの状況を確認し、女神様達にお礼と、所持していた指輪で症状がだいぶ収まったことを伝えたあと。

 自分の血生臭さに耐えきれず、真っ先に駆け込んだ風呂から上がると、少し遅めの時間だというのに下台地の皆がご飯を作って待ってくれていた。

 まあここで一番煩い小娘が、目敏く俺の姿を見て突っ込みを入れてくるが。


「なんで服着ないの? っていうか、そのジャラジャラした指輪なに? 変だよ?」

「ぐっ……着けたくて着けてんじゃないわ! それにこの鎖があると、服を着たくても袖を通せないんだよ!」


 もう暑いくらいの気温になってきたから良かったものの、これが冬なら非常にマズいことになっていた。

 とりあえずスーパーデザイナーのノアさんには、以前と同じコンセプトでありながらこの状態でも着れそうな服を依頼してきたが、しばらくは上半身素っ裸のままローブでも羽織って生活していくしかない。

 それにしても……ゼオはやっぱりこの指輪がどんなモノかを理解しているっぽいな。

 表情からそんな雰囲気を感じ取りながら、いくつもの小瓶を収納から取り出す。


「とりあえずこれ、今採ってきた血ね。ポーションの空き瓶に結構詰めといたから」

「感謝する。これだけでも10日以上はもつはずだ」

「ったく、なかなか戻ってこないと思ったら、やつれたひでぇ面しやがって……またどっかと戦争でもしてきたのか?」

「絶対そうだよ。さっきまでジェネ達を手伝ってたけど、あそこに置かれた大量の死体、凄い豪華な装備をした兵士のばっかりだったもん」

「はは……ちょっとアルバートと戦ってきてさ。腕の暗器は溶けてどっかいったし、オリハルコンの剣も握り潰されたから武具一式の補修をお願いね」


 事実は事実として伝えるべき。

 そう思って武器を取り出しながら口にした途端、先ほどまでのガヤガヤとした雰囲気が一瞬にして静まり返る。

 特にリコさんとロッジは、口をあんぐりと開けたままこちらを見つめ、絶句していた。


「世界を動かす四強の一角と……?」

「いきなり襲われたから相応の――いや、まあそれなりに大きめの報復をしたって程度で、親玉のマリーを倒せたわけじゃないけどね」

「マジかよ……でもあの女を倒せていないんじゃ、これからがヤバいんじゃねーのか?」


 過去に追いやられて居場所を失った経験があるせいか、ロッジは酷く不安そうな表情を浮かべていた。

 正直に言えば俺も心情は似たようなものだが……

 だからこそ、過度にその不安を煽るべきではないと明るく努める。


「さっきもベザートの様子を見てきたけどいつもと変わらなかったし、ある程度日が経っても行動に移さないということは、向こう側から提示してきた和解案が生きているんだと思うよ」

「お、なんだ。一応話はついてんのか」


 ……実際は和解案などあってないようなものだろう。

 王都が原型をまったく留めていないレベルで破壊されたのだから。

 しかし今も行動に移していないということは、何かしらの移せない理由があるとしか思えなかった。

 潰したあとのさらなる報復を恐れてまずは俺を殺ろうとしているのか、もしくは俺が防衛に回ると判断して相当な戦力を集めている最中なのか。

 もしかしたら、あの場にいた謎の黒髪女が別の場所でも動いていて、そちらに気を取られている可能性だってなくはない。

 この辺りは明日にでもセルリック侯爵の所へ出向いて、事の顛末を伝えつつ何か情報が入っていないか探ってみるつもりだが、なんにせよ自国と周辺の属国が抱える戦力に加え、数万規模であろう傭兵達とその頂点に立つ黒騎士もまだまだ抱えているマリーが、王都を失ったくらいで諦めるとは考えにくい。

 となると今うちに必要なのは、ベザートと、欲を言えばラグリースも守り切れるくらいの防衛力だ。

 多方面から攻められたら俺一人ではどう足掻いても守ることなどできないのだから、オールランカークラスを相手に倒せずともなんとか時間は稼げるくらいの戦力が欲しい。

 それがどれほど過大な望みなのか、俺自身も十分理解しているつもりだけど……


「ゼオはさ、全盛期と比較してどれくらい力が戻ってきたとか、そんな感覚はある?」

「ふむ……現状で精々2~3割程度といったところか。職業とやらに就き、狩りや訓練の場で魔法を多用するようになってからだいぶ戻りが早くなってきているが、それでも永き眠りにつく前と比較してしまえばまだまだ程遠い」

「そっか……でも魔法の使用で回復が早まっているなら――とりあえずこっちに交換しておこうか」


 言いながら取り出したのは、指輪探しをしている中で新たに見つけた魔力貯蔵が可能な指輪――『ストアリング』だ。

 元々ゼオには魔力不足を解消するため、かつて回収していた2つのストアリングを渡していたが、その中身は【魔力貯蔵】レベル1とレベル4。

 前者に至ってはおまけ程度の底上げにしかなっていなかったので、こいつに差し替えればだいぶ魔力に余力も生まれやすくなるだろう。


「【魔力貯蔵】のレベル9だと……? こんなモノ、どこで手に入れたのだ? 我がダンジョンに籠っていた古き時代でも見かけた記憶がないほどの代物だぞ?」 

「ん~さっき言ったアルバートが、この世界でも一番の富裕大国だからかな?」

「なるほど、それでこの指輪が和解のために渡されたわけか」

「いや、あそこで山になっている兵士達が、なぜか大量にこの手のお宝っぽいのを抱えていたからさ。気付いたら全部回収しちゃってた」

「すごっ……!? ね、ねえリコさん、実はロキって盗賊王なんじゃ――」

「しーっ! 思っても言うものじゃないですよ!」

「そうだぞ! せめて義賊とか、もっと言い方ってもんがあるだろ!」

「……んんっ、あと魔力の使用量を増やせるようにこれからもっと血を抜いていくから、念のため10日分くらいのストックだけ残しといてもらえれば、それ以上はどんどん飲んじゃっても構わないよ」


 どこか頭の片隅に、陛下を護れと叫びながら武器を向けてくるやつらも敵だと。

 そういう認識もあったことは間違いないが、霞むくらい黒い感情に呑まれて身体が勝手に動いていたからな……

 あながち否定することもできず強引に話を逸らすと、ゼオは一度考え込むように瞳を閉じ、数秒の間を置いてから口を開く。


「この戻り具合では足らぬほど、大きな戦いが差し迫っているわけか」

「まだ確定とまではいかないけど、今回の件でお互いに遺恨を残したことは間違いないし、別の勢力が暗躍しているっぽいことも、それに敵の抱えている戦力が俺一人じゃ到底捌ききれないことも分かってきた。だからベザートを――守りたいと思える人達を守るためにも、ゼオだけじゃなく皆の力がやっぱり必要なんだ」

「でも、今の私で役に立つの? カルラにもなかなか勝てないし、師匠相手じゃぜんっっっぜんだよ?」


 珍しく不安げな表情を浮かべるエニー。

 まあここで生活していたら、比較できる対象が俺を含めて3人しかいないもんなぁ……


「んー……各国の傭兵ギルドに所属すれば、まず一桁ランカーには食い込めるかな」

「え?」

「客観的に見たエニーの実力。スキルを見れば特訓の成果は十分出ているし、今なら軍の師団も慌てて逃げ出すくらいには強いよ。そのエニーと渡り合えるカルラもね」


 もう1年以上はゼオに魔術師としての指導を受けながら狩りと模擬戦に明け暮れ、夜は謎の空気椅子をしながらリコさんの横で座学に勤しんでいたのだ。

 努力の成果は十分実っていると、そう伝えたらエニーは素直に喜び、そのままどのスキルを伸ばして戦術の幅を広げていくのか。

 ゼオを交えて話が盛り上がる中、俺は声だけを耳に入れながらぼんやりと考える。


(強くはなっている……けど、やっぱり厳しいな……)


 魔力があるうちなら軍の兵団が相手でも十分相手にできるだろうし、一桁でも下位くらいの傭兵までであれば張り合える実力はあるだろう。

 カルラも謎が多くスキルは覗けないが、勝率を聞く限りはエニーと同等以上の実力があると見て間違いない。

 だが、あくまでそこまで。

 ゼオはもしかしたらなんとかしてくれるかもしれないけど、エニーとカルラはオールランカークラスの個体戦力を持つ相手に粘れるイメージがまったく湧かず、短期的にその水準まで引き上げられる術も見えてこない。

 すでに最高位狩場でパワレベは実行してしまっているし、ダンジョン産アイテムを分け与えたところで入手手段があまりに限られているのだから、その成長は微々たるモノ。

 唯一伸び幅が大きいのは装備面での補強だが、さすがにそこまで劇的な変化には繋がらないだろうし、仮に奪われてしまえば相手の戦力を大きく伸ばしてしまう可能性も出てきてしまう。

 とはいえ、準備不足で仲間が死ぬよりかは遥かにマシ。

 とりあえずまだまだ把握できていない回収物の確認やスキル関連を弄りつつ今夜はベザートを見張り、侯爵から得られる明日の情報次第では住民だけでも一時的に避難させるべきか。

 そんなことを考えながら久しぶりのまともな食事を摂っていると、不意に気配ともまた違う、味わったことのない不思議な感覚に襲われ、顔を上げる。

 するとゼオも同じように反応を示しており、二人して顔を見合わせたのち、元を辿るようにうず高く積まれた死体の山に目を向けた。
623話 変貌

 念のためにゼオ以外は食卓に残し、二人で死体が山積した広場へ向かう。

 すると頂上付近で淡く光が灯っており、その光景をウィグが唸りながら見つめていた。


「ウィグ! 何が起きたの!?」


 すぐに【獣語理解】を発動させて問うと、ウィグはその光から一切視線を逸らすことなく答える。


「分からない……ジェネが急に動かなくなって、そのまま身体が、裂けた」

「は?」


 裂けたって、まさかジェネが死んだのか……?

 だとしたら理由は?

 あの淡い光と、未だに続くこの妙な感覚はなんだというのだ?

 意味が分からずその光に駆け寄ると、もはや何者かも判別することのできない肉の塊が蠢動しており、それは少しずつではあるが萎んでいるようにも見えた。


「ジェネ!?」


 咄嗟に声を掛けるも、口と呼べる部分すら存在していないのだから答えは返ってこない。

 しかしまだ動いているのだ。

 ステータス画面から【魔物使役】のタグを確認すると、使役リストの最上段にはジェネという名がはっきりと表示されたままになっている。


『癒せ!』


 だったらなんとかなると思って【神聖魔法】を唱えてみるが、特に大きな変化が起きることもなく、そんな様子を横で見ていたゼオが俺の肩に手を置いた。


「落ち着け。傷を負って死にかけているとか、そういった状況とはまた違うだろう」

「だったら、これはなんなの……?」

「我にも分からん……だが、先ほどからスキルが成長し続けているのだ。死の淵を彷徨っているというよりは、何か大きな変貌を遂げようとしているように見える」

「え?」


 慌てて【心眼】を発動させると、その肉塊は魔物とは思えないほど多様なスキルを所持しており、眺めている最中にも【騎乗戦闘】のスキルが1つレベル上昇していた。

 そして、俺の中で薄らいでいた記憶の1つが掘り起こされる。


「覚醒体……ジェネが前に言っていた上位格に進化しようとしているのかな」

「うむ。その類いではないかと思っているが、我の予想ではもう1つ上だな」

「上?」

「覚醒体のその先に"知性体"とやらが存在すると言っていただろう」


 知性体――。

 その言葉に激しく胸が高鳴るも、同時に強い疑念が生まれてくる。

 確かあの時、ジェネは"段階"があると説明していた。

 通常個体があり、覚醒を経て、魔物を統べる知性体となる――。

 なのに覚醒体を飛ばして知性体になることなんてあり得るのか?

 そんな考えを漏らすと、ゼオは俺の前提が間違っている可能性を指摘した。


「たぶんではあるが、ジェネは覚醒体とやらになっていたのではないのか?」

「ん? どゆこと?」

「だいぶ前から【伐採】や【解体】など、本来ゴブリンジェネラルが所持していないはずのスキルをいくつも覚えていたからな。新しいスキルが生えるという意味では、以前耳にした覚醒体とやらの条件を満たしている」

「それは確かに……」


 目立つ戦闘系じゃないからあまり意識していなかったが、よくよく考えれば身体はどんどん巨大化して精悍な顔つきになり、口調もやたらと畏まったような、知性を感じさせる丁寧な内容へと変化していた。

 先ほどまでのジェネが覚醒体ではないと否定する材料も見つからず、あとは当人に直接聞くしかないと。

 ひとまず命の心配がなさそうなことに安堵しながら見守っていると、次第に人型の身体が形成されていき、淡い光の消滅と共に目を覚ます。


「ジェネ、おはよう。気分は?」

「……最高の気分でございます、我が主」


 そう言って立ち上がったジェネは、以前よりも身体は小さくなっており、俺よりも一回り大きいゼオと同じくらい。

 緑がかった肌や鋭い歯牙から辛うじてゴブリン種を連想させるという程度で、顔や骨格の造形は限りなく人の形に近くなっていた。


「一応確認させてね。今のジェネは知性体ってことでいいのかな?」

「左様でございます。と言ってもまだ赤子のようなものでございますが」

「赤子……つまりここからまだ伸びるというわけか」

「それは、間違いなく」

「はは、頼もしいね。でも知性体になったというのに、俺を主と判断して大丈夫なの?」


 【魔物統御】という、明らかに知性体と繋がりのありそうなスキルを取得し、魔物の王とも呼ぶべき存在になれたのだ。

 その魔王が従属的な立場をとっていいものなのか。

 念のために確認するも、ジェネは一切躊躇うことなく頷く。


「当然でございます。私を見つけ、育てていただいたご恩は、今もはっきりと記憶に残り続けておりますので。それに我が主とゼオ殿には逆らってはならぬと……なぜかそう思えて仕方がないのです」

「そっか……って、ここにいるみんなとも仲良くやってもらわなきゃ困るからね」

「もちろんでございます」


 どうも口ぶりからすると、【魔物使役】による縛りを設けなくてもいいような気もするが……

 まあそれは追々考えればいいこと。

 今はそれよりも優先して知性体の能力を把握しておきたい。


「ジェネは知性体になって得られた新しい能力の中身を理解できてる?」

「はい」

「じゃあその内容を俺達にも共有してほしいんだけど、【魔物統御】っていうスキルでどんなことができるの?」


 問うとジェネは、取得したばかりだと言うのに淀みなく答えを口にする。


「周囲の弱き魔物を引き寄せ、私が望めばその者達を支配下に置くことが可能でございます」

「へえ~弱き、か……ちなみに効果範囲は? ここから周辺の森にいる魔物を引き寄せられる?」

「範囲は【魔物統御】のスキルレベルに依存しているということは分かるのですが……少なくともこの場からでは魔物を引き寄せることができません」

「オッケーオッケー。やっぱり与えられる知識ってそんなもんだよね。じゃあすぐに済むし、軽く検証しに行こうか。ゼオも来る?」

「そうだな。明らかに特異なスキルだ。把握しておいて損はあるまい」

「え?」


 ジェネはここにきて初めて人間のように動揺した様子を見せるが、知性体ならこの意味を――より深くスキルの仕様を把握することの重要性をいずれは理解してくれるかもしれない。

 そうすれば、魔物の域を超えて強くなれる……

 ジェネにそんな淡い期待も持ちつつゼオを引き連れ、俺達3人は拠点をあとにした。
624話 知性体

 検証を済ませて食卓に戻ると、皆が口をあんぐり開けて俺の横に立つ人物を見つめる。


「というわけで、こちらが生まれ変わったジェネ君です。つっても中身は今までのジェネと変わらないから、みんなよろしくね」

「えーすごっ! 髪はサラサラだし、なんかかっこよくなってるじゃん!」

「ああ、黙ってたらもうなんかの亜人にしか見えねーな」

「本当に、見た目は人ですね……何が起きてこうなったのですか?」


 強い興味の眼差し。

 特にリコさんはこの手の書物にも纏められていないようなネタが大好物だからな……


「上位種とか希少種とか、地域によって呼び方はマチマチだけど、偶発的に起こる魔物の進化――その最終形態になるのかな?」

「最終、形態……?」

「今から世界でジェネしか所持していないかもしれないスキルの情報とか一通り整理するんだけど……リコさん、良かったら書記官として記録しておいてよ」

「も、もちろんです! すぐ準備しますから少々お待ちを~!!」


 言いながら裏の小屋に走ると、すぐ両手に木板や羽根ペンを抱えて戻ってくる。

 調理器具や鋸なんかが置かれている、最初期に作った物置小屋にも記録用の道具を備えているとは、やるなぁリコさん。


「で、ジェネ。ご飯の途中だったから説明もなしにどんどん進めちゃったけど、今から伝えることが現状分かっている【魔物統御】のスキル性能だ。効果範囲の具体的な距離数が出てこなかったように、神様から与えられる情報っていうのはあくまで基礎であって全てではない。深く知ることで応用が利いたり、時にはその知識のお陰で自分や誰かの命が助かったりすることもあるから忘れないでね」

「承知しました、我が主」

「じゃあまずは、支配可能な魔物について。これはさっきジェネが"弱き魔物"って言ってたけど、実際は同ランクまでで間違いなさそうだね。ジェネのランクが『A』なのは使役コストの数値で確定しているから、現状はAランクまでの魔物なら引き寄せられるし支配できると思っておけばいいよ」

「ロキよ、個体戦力という可能性はないのか?」


 判別に協力してくれていたゼオが問うも、首を横に振る。


「空から広く眺めていてもAランクで弾かれている魔物はいなかったし、判別のためにSランクの魔物を連れてきてボロボロに弱らせてみたけど、それでもジェネの【魔物統御】に反応しなかったからその線はたぶんなしかな。あと支配可能な魔物でも、既に使役済みだとランクに関係なく弾かれてたから、魔物使いが相手の場合は注意してほしい」

「我が主、ランクの判別はどのようにすれば?」

「あ~それはもう魔物それぞれの姿形から覚えるしかない。ただ狩場にはそれぞれのランクに該当する魔物しか基本的には生息していないし、Sランク狩場なんてこの辺りには存在しないから、支配条件が気になるのはあくまでこっちの都合。ジェネはまだそこまで気にしなくていいよ」

「承知しました」

「あと引き寄せの効果範囲は【魔物統御】レベル1の段階でジェネを中心におおよそ半径500M――ここからならウィグがいる死体の山くらいまでかな。魔物のランクによる効果範囲の差もなさそうだし、とりあえず広場の奥の方でなら釣れると思うから、継続して範囲に引っ掛かった魔物を片っ端から配下にしちゃってみてよ」


 俺のこの言葉に、死体から絞った血を飲んでいたカルラが驚きの声を上げた。


「えっ? 師匠やロキの【魔物使役】と違って、数の制限がないの?」

「そこがねぇ……ジェネ、管理コストとか支配可能な数に制限が掛かっているような感覚はまったくないんでしょ?」


 良い淀みながらジェネに視線を向ける。

 個人的にも一番知りたかった部分だが、いろいろと試してみてもその答えははっきりとしない。


「はい、まったくありません」

「消費魔力がクソ重いとか、スキルの使用回数が決まっている可能性も考えて、狩場のランクを変えたりしながら検証してみたんだけどね。どのランク帯でも上空から引き寄せることを意識して動けばすぐに百体くらいは集まってたし、その都度全部支配できたっていうんだから、合計でいったら軽く500体は超えてると思うよ」

「えっ、それって凄過ぎじゃない!?」

「おいおい、マジで魔王討伐伝に出てくる魔王みてぇじゃねーか……」


 エニーとロッジ。

 二人が挙げる感嘆の声に、ジェネは僅かながら顔を綻ばせる。

 本当に人っぽくなったとは思うが――


「……強力なスキルであるほど強い反動であったり制限が掛かるものだ。ジェネよ、今もその全てを制御可能なのか?」


 続くゼオの言葉ですぐに表情が曇ったため、ああ、やはりここかと。

 このスキルを扱う上で一番の障壁となる部分を理解した。


「ジェネ、ここが一番大事なところだよ。実験のために支配したまま置いてきた魔物達もコントロールできてる?」

「……どうなっているのか把握できていない、というのが答えなのでしょう。全体に"私の所へ来い"と指示は出しているのですが、距離が離れた途端に配下の動きを追えなくなりましたので」

「数は? 近くても配下が多過ぎて動きを追いきれないとかはなかった?」

「いえ、私の周囲にいる者達であれば数百という数であっても問題ありませんでした」

「なるほど……で、引き寄せの効果範囲と支配後の統御力。この2つはスキルレベルの上昇と共に効果が上がっていくと、与えられた知識からジェネも分かっているわけだ」

「はい、その通りでございます」

「ふむ……となると、活かすことはできるがまだ局地的か」

「だね」


 ゼオがボソリと漏らした言葉に俺も同意する。

 二人が考えていることは同じだ。

 不足している町の防衛戦力にジェネのこの能力をどこまで活かせるのか。

 支配下に置かれた魔物は俺やゼオを一切攻撃してこなかったのだから、統御されている状態であれば守るべき町の人達を襲う心配はないだろう。

 しかし距離の問題で統御から外れ、支配下の魔物に暴走されると逆効果になってしまう。

 となると、それこそ東の一面とか。

 間違いないという限定的な範囲でしか扱えないし、当然司令塔となるジェネも戦いの場に放り込む必要が出てくるため、まだこの段階では失うリスクの方が高いようにも思えてしまう。

 そんな二人の雰囲気が伝わってしまったのか。


「申し訳ありません。私が未熟なばかりに」


 消沈した様子で謝罪の言葉を口にするジェネに、思わず笑顔を向ける。


「何言ってるの。正直に言うとジェネは俺にとって希望の星だよ。その能力を活かせないなんて欠片も思っていないわけだし、それにまだまだ強くなれるんでしょ?」

「食事を与えていただけるのでしたら、必ず」

「だったら大丈夫。ジェネと、それにウィグが望む食事は必ず俺が用意する――ッから、まずはSランク魔物を支配できるように自己強化を優先してほしい」

「ロキ、大丈夫か?」

「……大丈夫、問題ないよ」


 これが衝動的な黒い欲求に対する痛み。

 身体の内部を何十本もの針が貫いていったような衝撃を受けるが、耐えられるのなら問題ない。

 それにしても――、

 なぜ女神様から認知すらされていなかった知性体という存在が、こうして身近に生まれたのか。

 その理由もいろいろと見えてきたな。

 知性体はこの世界にまったく存在していなかったのではない。

 長い歴史の中で、条件さえ整えばどこかに生まれてはいたのだろうけど、ゼオや女神様達の耳に入るほど事が大きくなる前に討伐されていた――きっとこれが正解だろう。

 ジェネ自身が赤子と称していたように、生まれてすぐは強いと言ってもまだ常識的な範囲であり、裏ボスの脅威とは根本的に強さの質が違う。

 そんな知性体が狩場で生まれ、その狩場から自ら望んで動かないという魔物の特性を持ちつつ周囲の魔物を搔き集めて軍勢を形成すれば、その狩場を糧としている連中や国軍に討伐隊でも組まれて始末されるのがオチだろう。

 それでも書物や説話などを通して世に情報が広まっていないのは、それだけ進化条件が厳しく目撃者の絶対数が少ないから。

 他じゃ早々生まれない存在が、ここで生まれた理由。

 それは――


(人……もしくは着地点が知性体ということなら、脳みそか……?)


 ジェネがただの肉塊になっていたあの時。

 その周囲には装備や衣類を剥かれ、裸体の状態で食い千切られた死体が大量に散乱していた光景を思い返す。

 覚醒体も知性体も。

 どちらも魔物や魔石だけでなく人を大量に食らうことも条件とするなら、食らい続ける前に狩場を訪れるハンターによって始末されるのだから、世の狩場で滅多に見かけない存在となるのも当然だろう。

 しかし、ここなら俺が好んで死体を持ち帰るのだ。

 邪魔をされることもなく既に数万という人の死体を食らい続けたジェネが進化し、後発で仲魔になったウィグが後れを取った理由にも納得がいく。

 となると、問題はここから。

 ジェネだけでなくウィグも、【解体】などの本来備わっていない生活スキルをいくつも所持していた……

 そしてジェネはゴブリンジェネラルという『C』ランクの魔物が知性体となり、『A』ランクの魔王として生まれ変わっている。

 ならば元が『A』ランクのウィングドラゴンであり、仲魔にした時には既に『S』ランクの覚醒体予備軍だったウィグは、知性体になることでそれ以上の初期能力を得られる可能性もあるし、最初から『S』ランクの魔物を新たに連れてくれば、それもまた別の可能性が生まれてくるのではないか。


(あ…ぐッ……! 魔物の王が一体だけなんて、誰が決めたよ。そんなのは物語の中だけで十分だ……)

「……ご馳走様。それじゃ俺はベザートの見張りに行ってくるから、ジェネ」

「なんでしょうか、我が主」

「ウィグとも分け合って仲良く仕事しておいてね。それと様子を見てまた夜中に戻ってくるから、職業選択が可能かは念のために確かめといて。結果次第では限界までパワレベもするから」

「パワレ……承知しました」


 ベザートと、それにラグリースを生かすためにも知性体の力は現状必要不可欠なのだ。

 この世界に害を振りまくことしかできない悪党が湧き続ける限り、餌となる死体は俺がいくらでも用意してやる。

 その覚悟を持って、まだ灯りの目立つベザートへと飛んだ。
625話 成長と代償

 ベザートの町を一望できる高級宿、ニューハンファレストの屋上に立ち、ぐるりと周囲を見渡す。

 もう21時を過ぎたというのに中心部は煌々と光源魔道具の光が灯り、クアド商会の屋上に造った屋外プールはこの時間でも多くの利用客で賑わっていた。

 そして、いつもの定位置から町をぼんやりと眺める、金髪女性の目がこちらを向く。


「む、ロキか。どうした?」

「心配だから俺も見張っとこうかと思って。最近ずっとここに張り付かせちゃってごめんね。暫く俺が見てるから、何か好きな物を買い食いしてきていいよ。まだお店もやってるみたいだし」

「ほ、ほんとか!?」


 言いながら金貨を適当に数枚渡すと、満面の笑みで屋上から飛び降りていくリル。

 その姿を目で追っていると、大通りを歩く若い男女や千鳥足の酔っぱらい集団を器用に避けながら、爆速で魚人が営む露店市の方へと走っていった。


「この時間でも多くの人達が出歩き、ナイトプールまでやっているとは平和なもんだな……」


 直接目にすることで染み渡る安心感。

 と同時に、この光景が瞬く間に崩れ去る様子も脳裏に浮かび、掻き消すように大きく息を吐きながらステータス画面を開く。

 この景色を守るためにも、できることは全部する。

 そして俺自身が、誰よりも強くならなければならない。

 どんな悪意や理不尽も跳ね返せるくらいに強く――


「……ん? <その他>枠って、こっちは種族固有スキルだったのか」


 まだ目を通していなかったスキルの詳細を開き、内容を確認したら早速2つの鉱物を収納から取り出す。


【鉱操術】Lv5 流した魔力量に応じて鉱物を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる


 土操術とかなり近い存在ではありそうだが、さてどうなるか。

 右手には鉄、左手にはアダマントを。

 順番に『100』の魔力を流しながら剣の形状をイメージすると、鉄はすぐにそれらしい形へと変化していくが、アダマントの方は少し柔くなったという程度で形は変わらず、さらに魔力を『1000』流すことでようやく握った箇所からゆっくりと鉱物が溶け始めた。

 だがまあ、展開としてはここまで予想通り。

 鉱物の総量や整形速度だけでなく、鉱物そのものの等級によっても求められる魔力量が変わり、上位鉱物ほど望む形状へ変化させるためには莫大な魔力が必要となる。

 そりゃあデカブツの岩男も、鉄はホイホイと形状変化させていたのに、俺のオリハルコン武器は刃の一部を溶かすくらいしかできなかったわけだと。

 そんなことを思いながら、出来上がったそれっぽくは見える鉄の長剣に目を向け、性能値が『15』であること。

 そして一応武器の枠に収まっていそうなことを確認してから、魔力をさらに『2000』ほど注ぎ込んだ。

 より性能が向上し、硬く鋭い刃になるようにと願うが――


「あーマジかよ……」


 そこからの大きな変化は見られず、性能値も結局『17』と僅かに伸びただけ。

 対してアルバートの一般兵が所持していたと思われる鉄剣は性能値が『38』と表示されているのだから、控えめにいっても俺の自作品はゴミ。

 自前の【鍛冶】スキルと連動している感じもしないし、武具を目的とするなら現状のままでは使い物にならない。

 となると、だ。

 タグを切り替え、【転換】の余剰経験値を確認すると、『1,086,919,235』という、黒騎士を始末した時よりもさらに桁の増えた数字が、水がめの10分の1くらいを満たした状態で表示されていた。

 水がめのデカさにも驚きだが、まあこれだけあるなら問題ない。


(【鉱操術】のスキルレベルを『7』まで上げてくれ)


『【鉱操術】Lv6を取得しました』

『【鉱操術】Lv7を取得しました』


 そして先ほどと同様、別の鉄塊に『2100』の魔力を注ぎ込むと、今度は性能値が『24』まで増加していた。

 念のためにもう『3000』魔力を段階的に注ぎ込んでみるも数値に変動はなく、上昇幅を考えれば仮にスキルレベルをMAXまで引き上げたとしても、パイサーさんやロッジのような経験を積んだ"本職"の仕事にはたぶん追い付けない。

 が、他に選択肢がないなら、代用できないこともない程度……

 なら、ここでいくべきか。

 そう判断し、再びステータス画面を眺めながら祈った。


(【付与】のスキルレベルを最大まで上げてくれ)


『【付与】Lv7を取得しました』

『【付与】Lv8を取得しました』

『【付与】Lv9を取得しました』

『【付与】Lv10を取得しました』


 そしてレベル10の必要経験値が2億であることを確認したら、少量抱えていたオリハルコンを、今もっとも不安な『素早さ上昇』を願いながら指輪の形状に変化させる。

 魔力が湯水の如く――というか、本当にエグいな……

 こんな小さな鉱石を、なんの飾り気もない指輪に変えるだけで1万弱の魔力をもっていかれたが、それでも出来上がった指輪に【付与】を重ね掛けしていく。

 既に自戒の指輪でアクセ枠を1つ潰してしまっているのだから、もう1つのアクセや他の装備品に限界まで付与効果を積むしかない。

 1つ……2つ……3つ目……


「…………………ふう、いけたか」


【付与】を最大レベルまで上げ、素材は実質最高峰とも言えるオリハルコンだが、まともな装飾技師が作った品じゃないからな。

 どうなるかと少し不安だったが、ここまで成功したなら上々だ。

 あまり感情的になると激痛が走るため、静かに結果を受け止めつつ【魔力自動回復量増加】のレベル10が三重付与された指輪を眺める。


 オリハルコンの指輪:素早さ上昇『2916』 等級:|神話級《2等》 素材:オリハルコン 付与:【魔力自動回復量増加】Lv10 【魔力自動回復量増加】Lv10 【魔力自動回復量増加】Lv10


 性能値はたぶん運の要素だと思うが、同じ製作者が同じ工程を踏んでも『小』や『微小』など、結果に振れ幅があると書物には書かれていたのだ。

 あとは未だ謎に包まれたもう1段階上の鉱石を素材に充てるか、もしくは皆の分もこれから作成していく必要があるのだから、【鉱操術】や影響するのか不明な【装飾作成】のレベルを上げていく中で、数値が上回ったらその時は入れ替えるくらいで十分だろう。

 どうせこれらの装備も通過点。

 最終的にはダンジョン産の特殊付与装備を厳選しつつ、場面に応じて使い分けていくことになるんだろうしな。


 さて、それじゃあ次だ。

 自戒の指輪にも【魔力自動回復量増加】レベル10の付与を二つ重ね、今可能なアクセの強化を済ませたら次の新スキルへと目を向ける。


【無詠唱】Lv5 精霊へのイメージ伝導割合が100%になり、思考のみの伝達を可能にする ただし魔力消費は基本値の105%に増加する 常時発動型


 お~危なかったな……

 取得していることは理解していたが、何があるか分からないと思って安易に【無詠唱】を使わないでおいて良かった。

 消費魔力の増加デバフ付き。

 たかが5%ではあるが、どのタイミングで急に魔力が必要になるかなんて分からないのだから、効果が同一なら節約しておくに越したことはない。

 しかし、レベル5で105%か……

 レベル毎の変動値が1%であればさほど大きく変わることはないが、もしそれ以上動くのであれば――


(【無詠唱】のスキルレベルを『7』まで上げてくれ)


『【無詠唱】Lv6を取得しました』

『【無詠唱】Lv7を取得しました』


 そして再び詳細を確認し、期待通りの変動だったことから、さらにもう2つレベルを上げる。


『【無詠唱】Lv8を取得しました』

『【無詠唱】Lv9を取得しました』


【無詠唱】Lv9 精霊へのイメージ伝導割合が100%になり、思考のみの伝達を可能にする また魔力消費は基本値の85%に減少する 常時発動型


 5%ずつの変動。

 これで【無詠唱】の発動をすれば、通常よりも魔力消費がカットされる。

 消費経験値が重過ぎるのでレベル10にするかは悩みどころだが、ここまでなら上げてしまってもまず損になることはないだろう。


 これで残す余剰経験値は『842,199,235』


 こいつを自己強化のために、全てぶち込む。



『【昼寝】Lv10を取得しました』

『【魂装】Lv8を取得しました』

『【魂装】Lv9を取得しました』

『【魂装】Lv10を取得しました』

『【地図作成】Lv8を取得しました』

『【地図作成】Lv9を取得しました』

『【魔力纏術】Lv9を取得しました』 

『【魔力纏術】Lv10を取得しました』

『【時魔法】Lv9を取得しました』

『【空間魔法】Lv8を取得しました』

『【空間魔法】Lv9を取得しました』

『【神聖魔法】Lv9を取得しました』

『【重力魔法】Lv6を取得しました』

『【重力魔法】Lv7を取得しました』

『【重力魔法】Lv8を取得しました』

『【闘気術】Lv9を取得しました』

『【縮地】Lv8を取得しました』

『【錬金】Lv7を取得しました』

『【魔法学】Lv7を取得しました』

『【魔道具作成】Lv7を取得しました』

『【魅了】Lv6を取得しました』

『【魅了】Lv7を取得しました』

『【視界共有】Lv7を取得しました』

『【麻痺耐性】Lv8を取得しました』

『【魅了耐性】Lv8を取得しました』

『【呪い耐性】Lv8を取得しました』

『【闇属性耐性】Lv8を取得しました』

『【雷属性耐性】Lv8を取得しました』

『【光属性耐性】Lv8を取得しました』

『【神通】Lv7を取得しました』

『【神通】Lv8を取得しました』

『【神託】Lv5を取得しました』

『【神託】Lv6を取得しました』

『【神託】Lv7を取得しました』

『【死霊術】Lv7を取得しました』

『【睡眼】Lv7を取得しました』

『【硬質化】Lv8を取得しました』

『【状態異常耐性増加】Lv9を取得しました』

『【嗅覚上昇】Lv7を取得しました』

『【白火】Lv8を取得しました』

『【炎獄柱】Lv8を取得しました』

『【灼熱息】Lv8を取得しました』

『【凍結息】Lv8を取得しました』

『【物理攻撃力上昇】Lv8を取得しました』

『【物理攻撃力上昇】Lv9を取得しました』

『【物理防御力上昇】Lv8を取得しました』

『【物理防御力上昇】Lv9を取得しました』

『【魔法防御力上昇】Lv8を取得しました』

『【魔法防御力上昇】Lv9を取得しました』

『【不動】Lv8を取得しました』

『【衝撃波】Lv7を取得しました』

『【廻水】Lv8を取得しました』

『【鏡水】Lv8を取得しました』

『【透過】Lv8を取得しました』

『【恐怖】Lv8を取得しました』

『【封印】Lv7を取得しました』

『【陽炎】Lv7を取得しました』

『【砂硬鱗】Lv8を取得しました』

『【帯電】Lv7を取得しました』

『【底力】Lv8を取得しました』

『【紫水】Lv8を取得しました』

『【穢れた霧】Lv7を取得しました』

『【水蹴】Lv6を取得しました』

『【水蹴】Lv7を取得しました』

『【月喰】Lv7を取得しました』

『【座陣刃】Lv8を取得しました』

『【烈風】Lv7を取得しました』

『【泥化】Lv6を取得しました』

『【泥化】Lv7を取得しました』

『【粘糸】Lv5を取得しました』

『【粘糸】Lv6を取得しました』

『【粘糸】Lv7を取得しました』

『【脱皮】Lv7を取得しました』

『【火光尾】Lv6を取得しました』

『【火光尾】Lv7を取得しました』

『【地縛り】Lv7を取得しました』

『【無面水槍】Lv7を取得しました』

『【睡夢鱗粉】Lv6を取得しました』

『【睡夢鱗粉】Lv7を取得しました』

『【膨張】Lv4を取得しました』

『【膨張】Lv5を取得しました』

『【膨張】Lv6を取得しました』

『【膨張】Lv7を取得しました』

『【共食い】Lv7を取得しました』

『【分裂】Lv7を取得しました』

『【麻痺針】Lv7を取得しました』

『【産卵】Lv7を取得しました』

『【毒牙】Lv5を取得しました』

『【毒牙】Lv6を取得しました』

『【毒牙】Lv7を取得しました』

『【放天乱羽】Lv5を取得しました』

『【放天乱羽】Lv6を取得しました』

『【放天乱羽】Lv7を取得しました』

『【寄生】Lv2を取得しました』

『【寄生】Lv3を取得しました』

『【寄生】Lv4を取得しました』

『【寄生】Lv5を取得しました』

『【寄生】Lv6を取得しました』

『【寄生】Lv7を取得しました』

『【魔物使役】Lv9を取得しました』

『【紫水】Lv9を取得しました』

『【座陣刃】Lv9を取得しました』

『【砂硬鱗】Lv9を取得しました』

『【鉱操術】Lv8を取得しました』

『【土操術】Lv8を取得しました』

『【光合成】Lv8を取得しました』






「…………キ……ロキッ! 大丈夫か!?」


 余剰経験値を使い果たしてステータス画面を閉じると、いつの間にか戻っていたリルが抱えた荷物を放り出し、しゃがみ込んで心配そうに俺の様子を確認していた。

 そんなに酷い顔をしていたのだろうか……

 だとしたら申し訳ないな。

 まだこの痛みには慣れていないんだ。

 でも大丈夫。

 今までもそうだったし、これからもそう。

 痛みはいずれ慣れるから。

 だから、きっと大丈夫。


「心配、しないで……すぐ、収まる、はずだから……」


 そんな言葉を口ずさむも、リルは苦しそうな表情を浮かべて暫く俺を見つめていた。
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どうもニトです。
明日の4月25日がコミック3巻発売日ということで、記念に本日から5日間、毎日投稿をしていきます。
どうぞお楽しみくださいませ!
626話 夢境

 相手はその気になれば思考や記憶も読み解く女神様だ。

 理由を聞かれたら答えないわけにもいかず、なぜ俺が蹲っていたのか。

 少し落ち着いてから事情を話すと、リルは困惑した様子で俺の告げた答えを反芻しながら質問を重ねる。


「力の抑制だけでなく、痛み……? しかも感情が高ぶったらって、望ましくない感情が膨れ上がった時だけではないのか……?」

「これも抑制の1つなんだろうね。嬉しいとか、美味しいとか、何かに喜んでもその感情に比例して身体中に強い痛みが走る。けど、あくまで痛みだけ、死ぬわけじゃないから」

「そ、そういう問題じゃないだろう!? それでは人としてあまりにも……!」


 リアだって断片的な情報を抱えているという程度で本当にこのことは知らなそうだったし、誰もこれほどの痛みを伴うなんて想定していなかったんだ。

 だったらしょうがない。

 痛みに慣れるか、もしくは感情を殺せればいいのだから、まだなんとかなる――そう思っていたのは俺だけだったようで。


「……その指輪は壊せ。外せないと言っても、ロキなら破壊はできるだろう?」

「え?」

「この状態のまま、すぐに切っ掛けとなる記憶を私が消してやる」

「でも、それで成功しなかったら?」

「……」


 フィーリルも、あくまで解決する可能性があるという程度で、できると断言まではしなかった。

 その会話も【神通】を通してリルは聞いていたはずだ。


「そ、その時は……済まない。別の指輪をもう一度嵌め直してもらうことになるが、それでも何か他に方法を――」

「無理だよ」

「えっ?」

「俺が持っていた、これ――自戒の指輪っていうんだけど、かなりレアリティが高いんだ。経験上、特殊付与のレベルが『8』なんて、そんな数値はまず探しても都合良く見つかるものじゃないし、かと言って低いレベルの代替品だと効果が弱まって町や拠点に暫く戻れなくなる可能性も出てくる」

「……」

「それに、リアも言ってたでしょ? 仮に治せたとしても、また同じようなことが起きるって。それは自分でも分かっているんだ。親玉の異世界人が西や東で動き続ける限り、争いはなくならない。それどころか、今後より激しくなっていくんだと思う」

「だが、こんな状態……一時的ならまだしも、終わりなく続けばロキの心がもたないだろう!?」


 怒気も孕んだように思えるリルの言葉。

 それが俺を心配してくれてのことだと分かるから、今は笑顔を作る。


「大丈夫だよ。必ず終わりはあるから」

「終わりだと?」

「俺が誰よりも強くなればいい。争おうなどと……勝てる見込みや望みがあると思わせないほどに俺が強くなれば、少なくとも国レベルの大きな争いは消えると思ってる」

「それまで、耐え続けると言うのか……? 愉悦すら許されない枷を背負って……」

「世界のためとか、女神様達のためとかじゃなく、それが俺の望みだから。だから耐えてみせるし、できればこの事は他の女神様達にも言わないでいてほしい。知られても心配掛けるだけだろうから」

「……」


 負い目を感じてほしくなくて、あくまで自分のためだと。

 そう告げたらリルは暫く黙って空を見上げていたが、手はぎゅっと強く拳が握られ、視線を落とした時の表情はどこか思い詰めたような……苦しそうな表情を浮かべていた。

 だから少しでも話題を変えられればと。

 そんな思いもあって気になっていたことに触れる。


「そういえばさ。問題の異世界人と戦っている時、そこにいるのに何をやっても触れられないし攻撃が当たらないっていう、謎の現象があったんだけど……それって理由は分かる?」

「む? 相手が避けるような動きもしていないのに、ということか?」

「そうそう。見えてはいるんだけど、そこだけ隔離されているような感じで、何もできなかったんだよね」

「ふむ、隔離か……少し待っていろ」


 そう言ってリルが【分体】を消したので、回収物の整理を始めながら待っていると、いろいろ試してきたのだろう。


「たぶんこれのことだと思うが……軽く何かを振るなりして試してみろ」


 10分ほどで戻ってきたリルがこんなことを言うものだから、先ほど自作した鈍剣を握って近づく。

 そしてゆっくりとリルに向かって剣を振ると、あの時見た光景と同じ。

 剣と、それに俺の腕も一部が消失してしまい、振り抜いた辺りで何事もなかったように消えた腕と剣が元に戻る。

 痛みもなければ、何かおかしな感覚があったわけでもない。


「まさにこれだよ。【空間魔法】の応用かと思ったけど再現できなくって、結局なんのスキルを使ったの?」

「【結界魔法】だ。その中でも『夢境』という、最上位の結界を発動させるとこのような効果が生まれる」

「最上位のレベル10……だからあんな反則級の効果だったわけか」

「これが反則……?」


 言いながらリルは首を傾げるが、そう思うのは常識外れの神様専用スキルをいくつも抱えている女神様くらい。

 使われた時点で何もできなくなるのだから、普通に考れば十分反則級だろうと。

 そう思っていたが、ゆっくりと腕を伸ばしてきたリルの姿を見て、何が言いたいのかを理解する。


「あーなるほど。これって|双《・》|方《・》なんだ」

「うむ。確かに一切攻撃を食らわないかもしれないが、逆にこの結界を発動している間はこちらも外に触れることすらできなくなる。回復や複合的な魔法の構築を目的に、時間を稼ぐということなら確かに秀でた能力だとは思うが……私なら自らの攻撃手段も塞ぐこのような手は好んで使わない」


 再びスキルを【神眼】に戻し、買ってきたご飯を食べ始めたリルを眺めながら、それでもかなり厄介なことに変わりはないなと嘆息を漏らす。

 この世界に置ける絶対防御スキルといった位置付けなのだから、使用されてもこちらが脅威に感じることはない。

 しかし、【空間魔法】との相性があまりに良すぎる。

 それが一番の問題だ。

 これを使われたら最後、【空間魔法】持ちならその間に転移で逃げ出すこともできてしまうので、よりマリーを仕留める難易度が上がったと痛感する。

 先日のような正面からの正攻法ではかなり厳しい。

 となると奇襲……


(一発で仕留めきるくらいの状況を整える必要があるか)


 そんなことを考えつつ、少しずつ静かになっていく町を見下ろしながら終わりの見えない回収物の仕分けを行なっていき、自分が使わないと思うモノは全てクアド商会に丸投げしてから拠点に帰還した。
627話 軍勢強化案

「我が主、申し訳ありません。私は職業には就けませんでした」 


 ジェネからそんな報告を受け、じゃあやっぱり厳しいかなと思いつつ軽く試したパワレベも不発に終わった。

 つまり、いくら人に寄ったと言ってもジェネの存在は魔物であり、魔物には職業やスキルポイントの概念が存在していないということ。

 この事実を俺と同様、内心魔人への繋がりを期待して起きていたゼオにも報告すると、がっくり肩を落としていたが、しかし……


「ほう、装備はいけるのか」

「はい、ゼオ殿。明らかに魔力量が上昇したことは分かりましたので」


 新たな発見。

 ダメ元で手持ちのストアリングを装備させてみたら、ジェネがこんなことを言うものだから強い興味が湧いてしまう。


「人と同じ、2個の装飾効果が乗るということは……ジェネ、ちょっとこれ振ってみてよ」


 渡したのは先ほど回収物の中から確保していた『星布の槌』。

 特殊付与武器の1つで強くはないのだが、素早く振るほどその軌跡に攻撃性を備えた輝く残置型の魔力痕を残すという、視認しやすい能力が備わっていた。

 魔物が武器の付与効果も引き出せるのか……

 今まで考えもしなかった選択肢の結果を見守っていると、ジェネが軽く振ったその後を煌めく星がぱらぱらと舞う。


「おお、これならほぼ間違いなく防具の付与効果も引き出せそうだね」

「であろうな。あとはこの現象が知性体となり、人に寄ったジェネだけに起きているモノなのか、それともウィグも同様の効果を得られるのか」


 自然と二人の目が向くと、興味があったのだろう。

 食事の手を止めジェネの様子を大人しく見ていたウィグが、自分も試したいと器用に尻尾で星布の槌を掴む。

 そして勢い良く振り回すと、ジェネよりも大量の星が暗がりに舞った。

 つまりやろうと思えば、ジェネが加えた配下の魔物にも付与効果を齎すことが可能ということ。


「なるほどね……まあ奪われるリスクを考えたら付与はかなり慎重に判断した方がいいだろうけど、ジェネやウィグみたいな特殊個体は今後の成長次第で豪快に強化しちゃっても良さそうだね」

「むっ、主よ。ワシも装備を貰えるのか?」

「うん。強くなればなるほど、良い装備をね。だからジェネもウィグも、しっかり食べて強くなるんだよ。特にジェネは、早急にSランクの魔物を扱えるようになってほしいからさ」

「お任せを」

「がはは! 魔石も食していいなら、もっと早くに強くなれるのだがな!」

「あーそっか……」


 ウィグの何気ない一言。

 だが成長の速度を求め始めた今なら、確かにと思わず納得してしまう。


「じゃあゼオ。今資材倉庫にある分と、今後エニー達と狩ったやつは全部餌に回しちゃっていいよ。魔石は俺が狩る分だけで調整してみるからさ」

「承知した。あとはロッジにジェネとウィグの防具造りも依頼しておこう」

「うん、お願いね。溜まってたオリハルコンはこっちで預かって、ひとまず全員分の【装飾作成】と【付与】を終わらせちゃうから」


 本当ならそろそろ『人の骨』でグリムリーパーを湧かせたり、いることは分かっているAランク狩場 《シトラスの森》で裏ボス探しをしてみたかったが、狙い通りに湧いてしまうと今はだいぶマズいからな……

 念のためにおかわり用の骨を溜める穴をもう1つ用意したら再びベザートへ戻り、リルと共に朝まで異変が起きなかったことを確認してからアルバート王国北西部、セルリック侯爵領の領都『ザイロ』に飛んだ。
628話 アルバートの状況

 日の出と共に動き始めるこの世界の住民なら、朝の7時くらいに出向けば失礼には当たらないだろう。

 そんな気持ちで侯爵家が住むという、町の中心部に存在する砦のような建物に向かうと、目の前の大きな通りにまで緊張感を漂わせた兵士達がずらりと立ち並び、閉ざされた門の奥からは声だけでもかなり慌ただしい様子が感じられた。

【広域探査】が反応を示しているのだから、セルリック侯爵が中にいることは間違いない。

 が、ここで兵士に声を掛けたとして、アポイントもないというのにすんなり会えるものだろうか……

 そう考えると面倒事になる未来しか見えてこず――


『ロキです。セルリック侯爵、急用で屋敷の前まで来ていますので、少し時間をもらえませんか?』


【遠話】を使用し直接本人に声を掛けると、見覚えのある女性のような容姿をした侯爵が何人かを引き連れ開かれた門の前に立つ。

 この時、侯爵を含む数人は、身に着けている最中だったのだろうか。

 胸当てなど、中途半端に鎧の一部を身体に纏っていた。


「ほ、本当にご本人でしたか!?」

「突然ですみません。急用だったので直接来てしまったんですが、どう見ても忙しそうですよね?」


 そう問うと、侯爵は焦ったように首を振る。


「何をおっしゃいますか! こちらも確認させていただきたい点がいくつもあったのです。面会が叶うのでしたら、これ以上に重要なことなど他にありません」

「ということは、既に情報が入ってきているということですね?」

「ええ。それもあって、新王都『ミケーレア』への召集命令が下り、今このような準備を」

「ミケーレアっていうと、旧マラガ領の中心部に位置するあの町か……」


 旅の中で立ち寄った旧マラガ王国の王都を思い出す。

 確かに大きな町だったし、中心部には林の中に佇む宮殿のような巨大な施設がいくつも存在していた。

 アルバートの中央に位置するあの町なら移ったと言われても何も違和感はないが、新王都か……


 そこからは周囲に兵士がいるせいか、無言のまま足早に屋敷の中へと案内され、落ち着いた雰囲気はあるものの様々な魔道具に囲まれた応接室へ通される。

 そして正面に座ったセルリック侯爵は、一転して能面に近い、感情を殺したような表情でこちらを見つめた。


「ではロキ王様、何があってこのような事態になっているのか、詳しくお聞かせ願えませんか?」


 ……問われるのも当然か。

 国そのものには興味がないと。

 そう答えたからマリーを始末してほしいと俺に依頼してきただろうに、結果として移転を余儀なくされるほど王都が壊滅的な打撃を受けたのだ。

 きっと、誰を信用していいのかも分からない、そんな状況。

 だからあの日、王都で何が起きたのか。

 こちらから一方的に話すことが得策ではないと知りながらも、順を追って伝えていく。

 すると、王と思しき人物やその周囲を取り巻く者達を始末したと伝えたところで、暫く黙って話を聞いていた侯爵が口を開いた。


「なるほど……王家は全員殺害されたと国から報告を受けていましたが、その点は事実でしたか……」

「王家はたぶんとしか言いようがありませんけどね。豪奢な服を身に纏い、兵士に担がれ地下道を移動していた集団がいたのは事実です」

「ならば間違いはないでしょうし、仮に逃げ遅れた者がいたとしても、まず間違いなく殺されているか、二度と表に出てくることはないでしょうから大差ありません」

「……つまり、成り代わった者がいると?」


 分かり切った答えを思い浮かべながら問うと、侯爵は眉根に深く皺を寄せながら頷く。


「新王を名乗り、今回の召集を掛けたのもマリー侯爵ですから。しかし国の要とも言える国軍の精鋭は王都の崩壊と共に姿を消し、未だ死体すら満足に見つかっていないと聞いております。国として危機的な状況の中で、マリー侯爵の私兵とも言える黒騎士や傭兵達が各地に送り込まれ、追撃に備えた防衛体制を整えているのも事実……私からすれば不満の声を潰すための監視も兼ねているのだろうと判断していますが、こうなると表立って文句を言うわけにもいかず、民衆からも現状は感謝を示す声しか上がっておりません」

「自らが招いた種だというのに、国へは自分こそが尽力しているように見せかけているわけですか。その汚さは相変わらずですね」

「その通りです。黒騎士が敗れたなどという話はこちらにまったく降りてきておりませんし、争いの切っ掛けだと仰った巨大な塔――魔天閣からの砲撃も、我々には許されざる裏切りにより外部へ情報が漏れ、その結果ロキ王ではなく町を大きく焼いた後、混乱に乗じて他勢力からの大規模な攻撃を受けたと説明されています」

「ん? 他勢力……? 僕から、ではなくてですか?」


 聞き流せない言葉だった。

 問うと、侯爵はさらに眉間の皺を深く寄せながら答える。


「ええ。未だどこに機密情報が漏れ、どの国、どの勢力と敵対し、旧王都『ロミナス』が壊滅するほどの攻撃を受けたのか……その辺りの情報が不自然なくらい閉ざされていて、我々貴族ですらまったく知らされていないのです」

「だから裏切り者と判断されても仕方がないと思っていた僕の言葉を、こうもすんなり呑み込んでくれているわけですか」

「貴族だけでなく、国民に対してもあれほどロキ王様への敵対感情を煽っていたのです。ならばロキ王様が王都を焼いたと、そう説明された方が多くの者達も納得するというのにその名前が伏せられている時点で、公にできない別の事情があるのだろうと思ったのが1つ。それに国からの報告が情報の全てではありませんからね。ロミナスで生き残った者達からも数名報告が入ってきておりますが、事の流れは国ではなくロキ王様の語る内容にどれも近かったものですから」

「なるほど……」


 その後もどのような報告が国から齎されているのか。

 詳しく聞いてみるも、やはり印象は変わらない。

 あの黒髪女の存在や所業を理解しているのかまでは分からないが、少なくとも俺とは別に介入していた第三者の存在に気付いているから、マリーの意識は外ではなく内へ。

 黒騎士を投入してまで警戒を強めているのだろうし、その力の入れ具合からすぐのすぐにベザートが攻め込まれるような雰囲気は感じられなかった。

 そのことにほっと小さく息を吐くと、その様子を見ていた侯爵が呟く。


「追撃のため……というよりは、報復の準備がどこまで整っているのかを確認するために――といったところでしょうか」


 核心を突かれた言葉。

 思わず視線を向けると、侯爵は表情を変えることなく言葉を続ける。


「為政者ならば誰もが考えることですから、ロキ王様を責めたいわけではありません。特に今回は直接手を下されたわけではなく、別の存在――と言ってもあの王都を壊滅させるほどの力を持つとなると、まず間違いなく西側の異世界人なのでしょうけれど、そちらに都合よく押し付けられたような格好になっているようですしね」

「……」

「ただそれでも今一度確認はさせていただきたい。あの依頼は今後も有効と考えてよろしいのですか?」


 侯爵側からすれば一番重要なのはここだろうからな……

 その問いについては素直に頷く。


「もちろん、依頼があろうとなかろうと、マリーは僕が殺しますよ。と言っても今回のように逃がすと面倒にしかならないですし、願わくはもっと慎重に事を進めていきたいところですけどね」


 すると侯爵は僅かに口角を上げるが、まだ納得しきれていないような……そんな様子がありありと伝わる。

 と、すぐにその理由は判明した。


「では、ロキ王様が出会われたという、その黒髪の女性は?」

「……濡れ衣を着せられそうになったのは事実ですし、僕も纏めて攻撃を受けていたので敵対する可能性は高いかと思いますが……ただ敵は自分自身で見定めますよ。アルバートのために動くわけではありませんので」


 警告の意味も含めて、やんわりと釘を刺す。

 正義感がどうたらと以前に言っていたが、方々に遺恨をばら撒いて敵を作ってきたのはマリーであり、そのマリーを囲ってある意味利用してきたアルバートの責任。

 侯爵やアルバートにとって都合の悪い敵の処理に利用されるつもりなどないからな。

 それでもゆっくりと侯爵の唇は弧を描き、先ほどより満足した様子で頷く。


「敵対の可能性が高いと伺えただけでも十分です。では私も可能な限りマリー侯爵の牙がロキ王様へ向かわぬよう、尽力させていただきましょう」

「そんなことができるのですか?」

「できるかどうかではなく、何をしてでも実現させるのです。それがアルバートの未来に繋がるのならば」

「……」

「ロキ王様と接触した時点で私の命などあってないようなモノ。なのでご安心ください。私が死のうと意志を引き継ぐ者は既に用意しておりますので」

「そう、ですか……」


 こうして協力関係は残したまま、念のために連絡用の使役した猫を屋敷に残し、その場をあとにする。

 しかし、最初に受けた印象と変わらず、どうにもやりづらい相手だ。

 奴隷化も言えば受け入れてくれるし、悪意や敵意のようなモノも感じないが、死をも厭わぬあの覚悟は、単純な強さとは別種の圧や恐怖を感じさせる。


「牙の矛先……つまり、意図的にこちらへマリーの敵意を向けるように動くこともできると、暗に示してきたかな……」


 下手を打って敵に回せば、それはそれでかなり面倒になりそうな相手――だがまあ、時間稼ぎにはなる。

 そのことを理解し、拠点に帰還した。
629話 不器用な夫婦

 あれから20日ほど。

 昼は残されたエリアのマッピングを進めながら、魔力に余力が生まれればみんなの装飾品をコツコツと作り、夜間はアルバートのAランク狩場《シトラスの森》で、エルダートレントをしばいて素材集め。

 そんな日々を繰り返しつつ様子を見ていたが、特に大きな変化もないまま無事にアルバート王国全域のマッピングが終了する。

 途中で向かう先を南に変え、かつての王都ロミナスを目指したこともあって、最後の最後が縁のある地になるとは思わなかった。


「ここか……」


『トムズソース店』と書かれた看板。

 古ぼけた木製のドアを押して入るとすぐに食欲のそそられる匂いが鼻を突き、この程度でも電流のように走る痛みに耐えながら声を掛ける。

 すると店の奥から床をギシギシと鳴らしながら、愛嬌のある女性が現れた。


「いらっしゃい。見ない顔だけど、何をお求めだい?」

「えっと、店主のトムズさんはいますか?」

「うちの旦那なら、アーリアの町までソースを売りにいっているから暫くは帰ってこないけど……知り合い?」

「知り合いというほどではないんですが、以前に別の町でソースを大量に買わせてもらいまして、その時にお店の場所や店名を教えてもらったんですよ」

「あ~もしかして壺ごと全部のソースを買ってったっていう少年かい!」


 どうやら旦那さんから俺のことは聞いていたらしく、店の在庫を可能な限り購入したいと申し出ると、嬉々としながら大きさのまったく異なる壺を用意してくれる。


「ここまでは君も以前に買ったことがあるやつだね。一番大きい壺を用意したから、このまま凍らせておけば店の料理に提供したって相当もつはずだよ」

「助かります」

「で、ここら辺はうちの旦那も他所に売り歩かないモノだ。こんなに買っていく人なんて初めてだから、お役人様とかほんの一部のお店にしか卸していないモノも一応用意してみたけど、かなり高価だからね……それでも買ってくかい?」

「へ~そう言われると尚更に……って、あれ? これってマヨネーズじゃないですか?」

「へ? 見ただけで分かったの?」

「え、ええ。口にしたことがありますので」


 見た目から思わず反応してしまったことでちょっと微妙な空気になってしまったが、まあいい。

 購入を前提に少し舐めさせてもらうと、想像していた通りの懐かしい味で。

 これは間違いないなと思いながら言われた通りの代金を支払い、ホクホク顔の奥さんにさりげなく確認する。


「そういえば、これらのソースを生み出したのは一人の天才料理人だと聞きましたが、その方は今もこの町にいらっしゃるんですか?」

「あ~ビスカさんかい。彼女はもう20年以上も前に行方が分からなくなっちまってねぇ……従業員だった私達やビスカさんのご家族にすら行方を告げずに消えちまったんだ。どうせ碌でもないやつらに取っ捕まっちまったに決まってる」

「ああ、そのパターンでしたか……でもそうなると、二人とも怖くないんですか? これだけの味をいくつも受け継がれているのですから、それだけ狙う者達も多そうな気がしますけど」


 前例があるなら避けるのが普通じゃないのか。

 そんな考えが頭を過るも、奥さんは鼻の穴を膨らまし、フンと豪快に息を吐く。


「そんな理由でせっかく教えてもらったこの味を廃れさせるなんて耐えられなかったからね。だったら増やしてやれって、うちの旦那が教えまくったのさ。それこそ町の住人は大半がこれらのソースを作ろうと思えば作れるくらいにね」

「え……すごっ」

「まあその代わりに商売が難しくなって、うちのバカ旦那が泣きながら魔法を習得して他所で売り歩くようになっちまったけどさ」


 そう言って豪快にガハガハと笑う奥さんを見て、合点がいくと同時に様々な考えが脳裏を巡る。

 当初はボーラさん達がどうにかこの味を再現できないかと、そんなことばかり考えていたが……

 改めて店内を見回し、きっとこの夫婦にとってもプラスになる提案だろうと信じて切り出した。


「受け継いだ味を守り、広めたいという考えが根底にあるようでしたらどうでしょう。いっそのことうちに来ませんか?」

「え?」

「不足している材料や住まい、それに販売するお店はこちらで用意しますし、これらのソースを十分に活かせる料理人も、それに各地へ運んで広めてくれる商人だって町には多く出入りしています。旦那さんにその気があれば【氷魔法】の能力を大きく引き上げる術もありますし、より深い魔法知識を学ぶための学校に空いた時間で通っていただいてもいいですしね」

「え……えっ……?」

「教えられた味を残し、広めるために苦難の道を歩まれているようだったので、それならどうかなと思っただけです。もちろん強制するようなことはありませんから、よろしければ旦那さんが戻られた時にでも相談してみてください」


 そう言って台の上に置かれた壺を収納し始めると、奥さんは目を見開きその光景を見つめる。


「君は、もしかして……」

「申し遅れました。僕はロキ、異世界人で小さな国の王をやっています。なのでもし来てもらえるのでしたらお二人とこの懐かしい味を守り、最大限に広めるための協力はさせていただくつもりです」


 普段ならまだしも、王都が壊滅的な被害を受けたあとの話だ。

 偽るわけにもいかないが、かと言ってどんな反応をされるのかも分からず、最悪はもう売ってくれなくなるかもしれない。

 それでも今の生活が苦肉の策で成り立っているのなら、もっと豊かで理想に近い選択肢を――。

 そう思っての問いに、奥さんは困惑した様子で呟く。


「あのマリー侯爵と同じかい……」

「本音を言えば一緒になどされたくありませんが、まあ端から見たら似たような存在に見えるのでしょうね」

「いや、そういう意味で言ったんじゃないよ。それにこうして提案してくれているんだから中身は全く違う」

「……何か知っているんですか?」


 予想外の反応に戸惑いながら問うと、奥さんは渋い表情を浮かべながら深く頷く。


「あくまで噂。でもビスカさんを連れ去ったか、もしくは人攫いから買って私達の手の届かない所に隠したのはマリー侯爵かもしれないんだ」

「え?」

「うちが卸している高級料理店の店主がね、マリー侯爵の晩餐会で口にしたソースと同じだって、喜ぶ貴族の客と今まで数人出会っているらしいんだ。なんならそのままうちのソースを買いに来た客もいたしね」

「なるほど……」

「うち以外にもこの町でソースを売っている店はあるから絶対とは言い切れないし、もしかしたら本人は恵まれた裕福な生活を送れているのかもしれない。でもビスカさんのご両親は最後まで安否が分からないままの娘を思い、嘆きながら死んでいったんだ。噂が本当なら私は絶対に許せないよ」


 確たる証拠もないのだから、俺がどうのと口を挟める状況ではない。

 が……優秀な人材を各地から集めていたという事実はあるのだ。

 まず間違いなくそれだけの土台が揃っているなら、ビスカさんはマリーが抱え、表舞台から隠してその知識を自分の利益のために独占しようとしたのだろう。

 問題はその手の人材をどこで囲っているのか……

 並べられた壺を収納しながらそんなことを考えていると、ちょうど仕舞い終わったところで奥さんが口を開く。


「アルバートもだいぶ物騒になってきたみたいだし、そんなに私達のソースを求めてくれるなら、うちが旦那を説得してみるよ。悪いけど10日後くらいにまた来てくれないかい?」

「もちろんです。結果はどうであれまたその時にソースは買いますので、できる限り大量に作っておいてくださいね」


 断られてしまったならそれはそれでしょうがない。

 でも折角なら人の良さそうなこの夫婦に来てもらいたいなと。

 そう願いながら店をあとにし、ぼんやりと考える。


「ビスカさんか……まだ生きてるのかな……」


 マリーが人材集めに精を出していることは分かっていても、具体的にどういう人物が被害にあっているのか分からなければ探しようもない。

 探査対象の枠が広く、絞り方が曖昧になるほど精度も甘くなる――それは経験上確定していることで、逆に『名前』は探す上で非常に効果が強いことも分かっていた。

【魔力纏術】の練度を上げながらマッピング中にやることを1つ追加するだけ。

 大した労力が掛かるわけでもない。


「だったら魚人の子供達と一緒に探してみるかな」


 そう心に決め、ボーラさん達に購入した壺の中身を託してからラグリースの王都ファルメンタに移動した。
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5日間連続投稿はここまで!
次回は5月1日更新となります。
では『行き着く先は勇者か魔王か 元・廃プレイヤーが征く異世界攻略記 コミック3巻』をよろしくお願いしまーす!
630話 新しい地図

 見慣れた階段を上り、商業ギルドの3階でお決まりの髪形を探す。

 すると、見つけたと同時に複数の職員が慌てた様子で目的の人物の肩を揺すり、声を掛けていた。

 そして目が合う。


「お久しぶりです、ワドルさん」

「おお、ロキ王様。本当にお久しぶりですね。最後に来られてからもう半年以上は経っていると思いますし、珍しくのんびりされていたんですか?」


 にこやかに笑みを浮かべながら正面の椅子に座ろうとするワドルさん。


「いえ、アルバート王国の地図作りを始めたらやっぱり広くてですね。結構時間が掛かっちゃいました」


 そんな彼に事実を伝えつつ、用意していたいくつもの羊皮紙を目の前の机に広げると、ワドルさんは中腰のまま目玉が飛び出そうなほどに目を見開き、硬直する。


「えっ? こ、これは……」

「初めて作ってみたんですけど、どう思います?」

「……まだまだ理解しきれていない部分もありますが、そういった点を抜きにしても世界が震撼すると思います。間違いなく」


 目の前に広げたのは当然、時間を掛けて巡り巡ったアルバートの地図だ。

 当初の予定通り、今まで卸していた主要街道と町、それに山や谷などおおよその地形だけを記した地図ではなく、砦や塔などの軍事施設から村や主要ではない街道に山道、さらに大小様々な川や湖まで分かる範囲で細かく記していた。


「以前に案だけは伺っていた狩場の規模やランクまでこの地図には記されているわけですか……」

「ええ、これを見れば大半の事が分かるというモノにしていますので」

「ちなみに、この町の上に記されたいくつかの数字や記号はなんですか?」

「おおよその町の規模と城壁や駐屯地の有無、あとはその高さですね。指を指しているその町なら推定3~5万人くらいの人が住んでいそうな中規模の町ということで『Ⅲ』、石造りの城壁はあるけど纏まった国軍までは確認できなかったので『△』とし、その高さはおおよそ『5M』ということを示しています。王都クラスだと『Ⅴ-〇-20M』、村だと『Ⅰ-×』といった具合ですね」

「……この、ぐるぐると囲われた数多の線は?」

「等高線と呼ばれるモノで、要所要所に数字が書かれているでしょう? これがその位置の高さを示しているわけです。この間隔が狭くなるほど傾斜が急な山間部とかになり、逆に広ければ緩やかで馬車や人の通りやすい平地になっているということですね」

「………………………どうやってこんなことが分かるんですか?」


 空を飛べるという理由だけで判別できるような内容ではないからな。

 ワドルさんがそう思うのは当然だと思うが。


「それは秘密です。でも今この時の情報としては間違いありませんよ」

「そう、ですか……」


 ここは今まで積み重ねてきた信用で押し通すしかなく、間違いないという事実だけを告げて黙らせる。

 すると暫くして、ワドルさんが地図を凝視しながらか細い声でボソリと呟く。


「こんな感情は初めてですね……この地図を公表することに今、そこはかとない恐怖を感じています。内容が全て間違いないとするなら、この地図はあまりに精巧過ぎる……」

「でしょうね……そう思ってもらいたくて作ったわけですし」

「え?」

「こんなモノ、自分達の国だけが世に公表されたら嫌でしょう? 商売の呼び水として利用される利点より、軍事目的で利用される危険性の方が遥かに大きいわけですから」

「え、っと、つまり……」

「だからいつもと同じ、アルバート王国の通常版ももちろん作っています。こちらを今までと同様、段階的に値を落としながら広く流通させてください」


 そう言ってこれまで広げていた精巧な地図を回収すると、ワドルさんはなんとも言えない表情を浮かべながらその様子を目で追う。

 じゃあそれはどうするのだと、今にも言いたげ顔だ。

 だからこちらも敢えてこの場で見せた意図を告げる。


「そしてワドルさんにはもう1つお願いが。このような精巧な地図が存在していると、各国の商業ギルドと交渉する際にでもやんわりと伝えてください。実際にどのようなことが記されていたのか、具体的に伝えてもらっても構いませんので」


 すると理解してくれたのか、ワドルさんは目つきを鋭くさせた。


「……もしかしてこれは、脅しの材料ですか?」

「そういうことです。もういい加減、地図の作成者は僕だとバレてきていますからね。派手な動きを見せたらこっちの精巧版を僕自身の手で公開する――それだけでもある程度の戦争抑止にはなるかなって」

「なるほど……しかしそれでは、ロキ王様へ向けられる各国の目は厳しくなりそうですが?」

「悪業を止められるのはただ祈り、願いを口ずさむだけの善人ではありませんからね。アースガルドとラグリースの安全が確保され、くだらない領土争いが消えるのなら構いませんよ」

「そうですか……ではそれとなく、遥かに精度の高い地図が存在していると、その内容も含めて触れ回りましょう」


 これで下準備は問題ない。

 商業ギルドは貴族や国と密接な繋がりがあるのだから、流れた噂はそう時間も掛からず支配階級の耳に届くだろう。

 となると、あとは実際に試すだけ。


「お返しだよ、糞ババア」


 商業ギルドを出てから一人呟き、そのままある場所へと飛んだ。
631話 お返し

 アルバート王国の新王都『ミケーレア』。

 その中央に位置する宮殿内部で、現れた人影に文官の一人が慌ただしく駆け寄る。


「お、お待ちしておりました新王様! それにシェム様も!」

「ったく、こっちは目が回るほど忙しいんだ。また下らない用件だったらいい加減クビにするよ」


 国の中枢で働いていた者達のほとんどが死亡したか行方が分からなくなっていたため、新王都で政務に当たる者達は兎にも角にも不慣れが多く、膨大な仕事量も相まって現場は混乱を極めていた。

 度重なる緊急連絡に苛立つマリーは青筋を立てながら用件を問い質すが、返ってきた答えに表情を大きく変える。


「さ、先ほど異世界人ロキを名乗る人物がここに現れまして、"プレゼント"だと、こちらを……合わせて新王様にということで、封書もお預かりしております」

「……そいつの容姿は? 何も被害はなかったのかい」

「容姿は……まだ幼さも残る黒髪の青年でした。向けられた眼差しに独特の冷たさというか、竦んでしまうほどの恐怖を感じましたが、危害を加えられたなどはありません。気付けばそこにいて、受け取ったらその場から消えてしまいましたので」

「となると、本人で間違いないか……で、その箱に収められた羊皮紙が持ってきたもんかい」

「左様でございます。確認しましたところ『地図』の一部で間違いはないと思うのですが……」


 言い淀む文官に怪訝な表情を浮かべるも、手に取ってすぐにその意味を理解し、マリーは目を剥く。

 と、横で覗き込むように内容を確認していたシェムが異変に気付き、残る羊皮紙の束を纏めて手に取った。


「今まで見てきた地図とは明らかに違いますし、記された地域がばらばらでこの4枚がまったく繋がっていませんね……」

「地図にしてはサイズが小さいと思ったが、あの小僧……縮図を大きく変えて、より精度の高いモノを作っていたのか。それに――」


 4枚全てに目を向け、すぐに気付く。

 それぞれの地図には町や街道だけでなく、国の重要な防衛拠点が周辺の環境も含めて記されていた。

 それにシェムは理解できていないようだったが、マリーは等高線の意味も、それに記された『M』という単位から各町の記号が何を示しているのかもおおよそ理解し、このバタついた状況でこれかと。

 身体から力が抜けていくのを感じて咄嗟に腰掛け、封書を開く。

 そして――大きな溜め息と共に、瞳を閉じた。


「シェム。このままだと少しは落ち着いてきた感情がぶり返しそうだ。とりあえず私の肩でも揉んどきな……」

「どぇっ!? そそ、それはマズいので直ちに!!」


 心得たと言わんばかりに絶妙な手捌きで肩揉みをしながら、マリーが手に持つ手紙を背後からガン見するシェム。

 そして悪びれた様子もなく呟く。


「む……王都を攻撃したのは見たこともない黒髪の女であって自分じゃないって、死体が証言したあの黒髪女と同一人物の可能性が高そうですね……」

「ああ。ファルコムを襲い、そのついでに証拠の隠滅――もしくはロキに擦り付ける目的で町を破壊したって考えるのが自然だろう。それに例の証言もあるしね」

「黒い羽と王都を守ろうとしていた存在ですか」


 ロミナスを襲撃した人物、もしくは勢力を絞り込める情報は拾えないのか。

 ファルコムから消え去った者達の足取りも含めて当時の状況を聞き出していく中で、多くの生き残りや死体から得られた証言。

 それは降り注ぐ数多の大岩に対して空を覆うほどの防壁を生み出し、町を護ろうとする存在がいたということだった。

 当然マリーにはそのような人物に心当たりがなく、誰かに依頼した覚えもない。

 不可解に思いながらも証言を集め、その中で巨大な岩を支える黒い羽や靄という言葉が出始めた時。

 ロキは王都を攻撃したのではなく、守っていたという……

 あまりに理解し難い可能性が強く浮かび上がっていたため、今更ロキが自分じゃないと言い出したところでシェム達は驚きや苛立ちを覚えるようなこともなかった。

 だからこそ、いったい何がマリー様の癇に障ったのか。

 興味に駆られて読み進めていく中で、これかという答えを見つけて肩を揉む手が止まる。


「なんと……アースガルド王国及びラグリース王国への攻撃の気配を感じたらというのはまだ分かりますが、諸外国への攻撃だと判断されてもこの詳細な地図をバラまかれるわけですか……」

「あのクソガキ……わざわざ実効支配にまで言及して、これ以上侵攻しようとすれば世界中に流すと伝えてきたんだ。パルモ砂国やスチア連邦にも気付いている可能性が高い」

「となるとかなりの金を撒くことになるでしょうが、今のうちに各商業ギルドへ根回ししておくしかありませんね……」


 シェムはすぐに対策を述べるか、マリーは乱暴に手紙を机の上へ放り投げるとその言葉を否定する。


「いや、それじゃ止まらないだろうよ。そもそも地図の中身が嫌がらせかと思えるくらい軍事用に寄せられているんだ。こんなのロキが直接各国の上層部に渡せばそれで終わりだ。あとはいくらでも複製されて必要な箇所にうちの情報が共有されていく」

「あ……今までが商業ギルド経由だからと言って、この地図もそうするとは限らないのか……」

「それでも無視して他所の国を落とそうとすれば、敵国の民すら守ろうとするあの男がどう動くのか、すぐに想像がついちまうねぇ……」


 この言葉に、ロキがどう動くのかはっきりと予想できてしまったシェムは深く納得する。

 言わずもがな、絶対にしゃしゃり出てきて派手に妨害されるだろう。

 その時、投入した戦力にどれほどの被害が生まれるのか……

 そう考えると奇襲でも暗殺でも、異世界人ロキを始末してからでないと安心して動けそうもない。


「まあ厄介は厄介だが、今はそれどころじゃないからね。お前の父親――ヨシュアやルカ、それにギルクライブも"隕石を降らす黒髪の女"に思い当たる節がないってんなら、もう西の連中でほぼほぼ確定と言ってもいい」

「では今後も予定通りということで?」

「……いや、派手に動き過ぎて成果が出る前に妨げられても面倒だからね。とりあえずは戦力にもならないような連中を西の広域に送り続けときな。しばらくはただ溶け込むように生活させておくだけでいい」

「承知しました。では市場の変化は特に注意深く観察させておきます」

「ああ。いくらファルコムの連中を隠したところで、活かし、利を求める限り必ず生まれた成果物の一部は表に出てくるんだ。ある程度地域が絞れたら、その時は広がり切る前にこちらから動く。そこでエルグラントと帝国との三つ巴になり、多くの戦力を溶かすことになろうともね」


 シェムはこの時、表情は見えずともマリーの覚悟が籠った声色を聞いて息を呑む。

 アルバートの地で生み出されたモノが西に渡っていることもあるため、すぐのすぐに分かりやすい痕跡が表に出てくるとは思えない。

 が、それでも時間が経てば経つほど様々なモノが生み出され、敵国が豊かに、そして戦力も増強されていく中で奪われたアルバートだけは衰えていくのだから、可能な限り早期に発見して敵を潰すという考えは当然の方針だ。

 ここで戦力を消耗しようと、異世界人ロキや獣人の王が自ら積極的に動くとは考えにくく、西の影を気にしながら東の異世界人同士で争う状況とはまったく質も違う。

 そう、違うはずなのだが……

 シェムは放り出された手紙に再度目を向け、気になっていた一文の意味を考える。

 "これ以上侵攻しようとすれば"と書かれているが、それはどの程度のことを指しているのか。

 攻撃の気配という表現もそうだし、その曖昧さがどのタイミングで介入してくるのか分からず、やりづらさとより一層の不安を掻き立てる。

 それこそ一方的な条件を突きつけて脅し、あとの解釈は受け手に委ねつつ行動を強く縛ろうとするマリー様を真似たようなやり方だ。


(もしや阻まれるという意味だけでなく、やり口を返されたからここまでの苛立ちを……?)


 なんとなく、そういうことかと理解したシェムは、より状況が厳しくなってきた中でどのように動けばアルバートが最良の結果を得られるのか。

 声を荒らげて文官に指示を飛ばすマリーの肩を揉みながら、暫く思考に耽っていた。
632話 一区切り

「ごめんね。今回は恒例の王都調査ができなくて」


 アルバートの各地で調達してきた料理を並べながら謝罪すると、森の奥から出てきたリステが伏し目がちに首を振る。


「いえ、ロキ君が悪いわけではありませんから。目的の王都がなくなったのではしょうがありません」


 いつもなら地図の完成と共に、その国の中心部で市場調査を行うのがお決まりの流れだったのだ。

 リステもそれを楽しみにしていたことが分かっているだけに、こうして気落ちした表情を見ていると胸が痛くなるが、かと言って政治の場所だけ移したような新王都を、今このタイミングでうろついても相手に余計な刺激を与えるだけだしな……


(ちょうどいい機会だし、そろそろ一緒に探してみてもいいか)


 そんな穴埋めの方法をぼんやり考えていると、料理を並べ終わったタイミングでリルが湧いて出る。


「ロキ、大丈夫なのか? 私は町を見張っていなくて」

「うん。その辺りも含めて報告しておこうかと思ってさ」


 そして皆が席に着いたところで、搔い摘んだ報告しかしていなかったアルバートとの抗争について委細を伝えた。

 すると本当に理解しているのか怪しいが、それでも食事の手を止め話を聞いていたフェリンが俺に問う。


「じゃあベザートが攻められたりする心配はもうなさそうなの?」

「まあ、今のところはかな。いずれアルバートも国が落ち着いたら防衛体制を緩めて外に目を向けてくるんだろうけど、それも伝わりやすいように警告はしておいたから、暫くマリー陣営が派手に動くことはないと思う」

「ふむ……王都を潰したという別の女が襲ってくる可能性は?」

「そっちはどうなんだろ……俺に期待しているようなことも言っていたし、あまり敵意のようなものは感じなかったんだよね」


 リルの指摘はその通りで、もちろん絶対にないとは言いきれない。

 あの女の言う期待というのが俺にマリーの戦力を削れという意味なら、今後の展開次第ではうちに攻撃を仕掛けてくる可能性もあるとは思うが……


「ちなみにさ。隕石を降らせる能力、転生者に与えた覚えはある?」


 そもそもあの黒髪女は何者なのか。

 憶測ではなく確定的な情報が欲しくて皆に問い掛けると、暫く沈黙の時間が続く中でビクンと。

 急に身体を跳ねさせたアリシアの顔がみるみる強張り、そして蒼褪めていった。


「……怒っているわけじゃないから、知っていることを教えてくれない? 黒髪女の素性がはっきりしないままだと、いざという時に凄く困るんだ」

「え、っと、はい……私が呼び込んだ魂に与えた記憶があります……」

「なんてスキル? 【精霊魔法】じゃあそこまで小規模の隕石を連続して落とせないだろうし、全てに火を纏わせるのも難しいと思うんだけど」

「……与えたのは【月魔法】です。一番火力の高い魔法が欲しいと言われて、要領を掴めず悩んでいたら、星を落とすくらい広域を攻撃できる魔法と言われたので、それならと……」


 この段階でも俺が取得できていないどころか、解放すらされていない。

 そんな高等スキルを、欲しいと言われてあっさりあげちゃったんだ?

 喉からそんな言葉が出かかるも、全て過去の話。

 さらに大奮発されている勇者タクヤという存在もいるのでぐっと堪える。

 それより重要なのは、これで黒髪女が転生者で確定したということ。

 しかも『火力』というくらいだから、俺と似たようなタイプの経験者か……


「その転生者が今どこの国にいるかは分かったりしないよね?」

「はい、そこまでは……でもかなり珍しいスキルを所持する者ですし、教会を利用してくれればその場所がどこなのかまでは特定できると思います」

「じゃあその特定はお願いしてもいい? あとできれば、【空間魔法】を与えたマリーが利用している教会も」


 するとアリシアは責任を感じているのだろう。

 真剣な眼差しで深く頷き、そのままリアに目を向けるとリアも承知したと言わんばかりに頷いた。

 たぶん転生者が多くいるという帝国なのだろうけど、可能性が高いのと確定しているのとでは大違いだからな。


「あと、もう1つ。その人に【空間魔法】は渡していないの?」

「え? ええ、その記憶はありません」

「そっか……」


 となると、かなり厄介だな。

 あの黒髪女はたぶん【空間魔法】持ちだ。

 そうとしか思えない消え方をしたのだからまず間違いない。

 なのにアリシアは与えた記憶がないというのなら、思い当たる取得方法は2つ。

 本人、もしくは勢力の誰かが【空間魔法】の取得方法に自力で辿り着いたか、もしくはダンジョンで得られる付与付き装備や技能の書でスキルを強引に得たのか……

 後者ならまだマシだが、Sランク狩場を占有している帝国が取得方法を解明し、さらにその情報を共有していた場合。

 最悪は黒髪女だけでなく、複数人の【空間魔法】所持者がいてもおかしくなくなる。

 その可能性に気付いて思わず深い溜め息を吐くと、アリシアが恐る恐るといった様子で話しかけてきた。


「あの、一旦の解決はしたように思っていましたが、そういうわけではないのですか……?」

「一時的には落ち着いたかもしれないけど、問題は山積みだよ。大国の抱える戦力と初めて本気でぶつかって、今まで見えていなかった部分が浮き彫りになってきたからね」

「え?」

「正直、想像していたよりも遥かに転生者の抱える戦力が強いんだ。それこそ一部は、今の俺でも勝てるか怪しいくらいに」


 そう伝えると強さに敏感なリルは当然として、リアやフィーリルも分かりやすく驚きの表情を浮かべる。

 まあ転生したあとの様子をまったく追っておらず、意識して下界の戦力把握に努めようとしていなければ気付きようもないとは思うが。


「だから俺自身がもっと強くならなきゃっていうのもあるけど、それと同じくらい国の防衛力にも目を向けていかないとさすがにマズいかなって」

「なるほど……」

「だが、具体的にどうするつもりなのだ? こう言ってはなんだが、まだこの国は若過ぎる。ロキ個人の戦いということなら分かるが、それほど大層な戦力を抱えた国が相手となれば勝てる見込みなどないだろう?」

「うん、だから防衛力なんだ。攻め勝つのではなく耐え凌ぐ力。そのための切っ掛けは1つ得られたから」


 すると、今まで静かに話を聞いていたフィーリルの眉がピクリと上がり、表情を変えた。


「もしかして、最近下で見知らぬ生物が誕生したのも何か関係があるんですか~?」

「あ、もう知ってたんだ?」

「もちろんです~よくお風呂に入りながら皆さんの様子を眺めていますから~」

「じゃあ話が早い。俺が使役しているジェネが、前に一度話した知性体という存在になってね。そこからヒントを得て、通常とは異なる強さを持つ魔物――つまり魔物の王と、その王が支配する魔物の軍勢をいくつも生み出せるかもしれないんだ」


 するとここまでの話は予想していなかったのか、皆が驚きの表情を浮かべる。


「元々ゴブリンだった魔物がそんな凄い存在になっちゃったんだ……」

「眺めていても上手く下に住む方々と共存されているようですし、その知性体に危険性はないのですよね?」

「うん。それどころか俺とゼオには怖いくらい恭しいというか、忠実なんだよね。もう慣れたけど、ジェネから出ている、で合ってるのかな……妙な感覚を俺とゼオだけは感じ取れるし」

「「「……」」」


 たぶん黒い魔力を持つ二人だから、【魔物統御】の影響を受けているんだろうとは思うけど、こちらが支配される雰囲気なんてまるでないしな……

 だったら気にしてもしょうがないわけで、害も感じないし割り切っていると、フィーリルがあまり見ることのない真剣な眼差しで問い掛ける。


「先ほどヒントを得たということでしたけど、魔物が知性体に進化する条件を掴めたんですか?」

「あーそれはたぶん『人』だね。生まれ変わった姿はかなり人の姿に寄っていたし、人を相当量食べ続けると、覚醒体、知性体って進化していくんだと思う。他の狩場じゃ進化する前にほぼほぼ討伐されるだろうけど、ここなら俺が悪党連中の死体を大量に運んでたからさ」

「なるほど……そこまで分かっていて生まれる知性体の数を増やすということは、拘束具を着けたこの状態でもこれまでのように各地を巡り、悪を掃討していくということですか?」


 怒っているのか、それとも試しているのか……

 ここまで圧を強く感じるフィーリルは初めて見るが、それでも俺の考えは変わらない。


「するよ。もちろん自分の症状を見ながら調整はするつもりだけど、どうしようもなく存在が嫌いで許せないんだから、許容を超えた悪は必ず、始末する……それに始末していくことが、護りたいモノを護るための一番の近道だから」

「……だそうですよ~、皆さん」

「うん……だろうなと思ってた」

「ええ。ここで自制できるのなら、もっと前からできていたでしょうから」

「え……何? どういうこと……?」


 フィーリルが皆へ呼びかけながら目を向けると、フェリンやリステが納得したような言葉を吐き出しながら深く頷く。

 だが俺にはなんのことだか分からず、モヤモヤしながら問うとアリシアが代わりに答えてくれる。


「まだ具体的にどこまで干渉するのかはっきり決まっていないので、あまり詳しいことはお話しできませんが……私達もいい加減に観測者の立場ではいられなくなってきたということですよ」

「え……マジ?」

「調べて驚きましたが、大国の王都が消滅したというあの日、世界から500万を超える人の命が失われていましたからねぇ。世界全体の死者数なので、王都の問題とはまったく関係がない者達も含まれているとはいえ、ここまでの大きな変動は転生者を呼び込んで以来初めてのことです」

「神罰というほどではないけど、さすがに看過できない数字」

「それに何より、私達が犯した過ちをロキ君に拭わせ、その結果ロキ君が壊れていく姿を見たくないのです……」

「……」


 リステのこの言葉に、一瞬リルが痛みのことを伝えてしまったのかと目を向けるが、気付いたリルは僅かに首を振って否定する。

 ということは我に返ったあの時、焦って情けない姿を【神通】で晒したことが原因か……


「ちなみに何をするか決まっていることもあるの?」

「そうですね。冬の終わり――年の明けにファンメル教皇国で"六道神教祭"が始まりますので、争いは止めるよう、特にロキ君からよく名前を聞くアルバート王国、ヴェルフレア帝国、エルグラント王国の三国に対しは名指しで<神子>に導きの言葉を与えようと考えています」

「へえ、神子を通してか……ちなみに加護を剥奪したり、スキルの成長を個別に止めるようなこともできたりする?」

「そ、それは無理ですね……一度与えたモノを奪うようなことはできませんし、職業選択や祈祷によるスキルの成長をこちらで拒むことも許されていませんので」

「なるほど……」


 他に目立つ異教の話を一度も耳にしたことがないくらい、人の生活に密接な繋がりを持つ六道神教と女神様達の立場は強い。

 名指しで指摘を受ければ、俺なら最悪は今確認したような制裁の可能性も過ってしまうので、抑止の効果はそれなりに得られそうな気もしてくる。

 が、実際に与えられるペナルティはないに等しいとなると……


「神様のルールがあることは理解しているし、一緒に戦ってほしいとまでは言わない。けど、このままだとやっぱり苦しくて、できれば皆にも協力してほしいんだ。特に、リアに」

「私?」

「うん……魔法陣の研究、進んでる?」
633話 転移陣

 スキルを【夜目】に切り替えたリアを背に乗せ案内されたのは、拠点から南西の森を少し進んだ先に広がる山間部だった。

 そこまで標高が高いわけではないが、切り立った崖が目立ち、岩肌が剥き出しの所も多い。

 とはいえ似たような光景はそこかしこで見ているため、何か思うこともなく指示の通りに向かうと、周囲を崖に囲まれ、普通に考えたら上空からしか来られないような窪地に、焚火の跡や人工物だと分かる何かが大量に散乱した場所を発見する。

 どうやらこの場所がリアの言う目的地らしい。


「へ~凄いね。秘密基地って感じじゃん」

「そう、私だけの作業場」

「散乱しているのは全部魔法陣か……切り崩した岩に直接書いたり刻んだりして試していたわけね」


 既に割れているモノを含め、何百枚と存在している大小様々な魔法陣に目を向けていると、リアはその隙間を縫うように反り立つ壁面の方へ。

 すると周囲の石は綺麗にどけられ、しっかりと接地しているように見える魔法陣を発見する。


「魔石ある?」

「うん? あるけど」

「じゃあその上にいくつか置いて」


 言われた通りに魔石を魔法陣の上に転がすも、特に魔法陣が反応を示すことはない。

 だが……


「もういいよ、乗って」

「……」


 ストレージルームを切っ掛けに、本気で魔法陣の研究を進めると言い出してからもう1年以上。

 どんなことをやっているのか、リアが話すことはなかったし俺も聞きはしなかったが、リアとリステだけは夜間であろうと上台地でふらふらしている姿を見かけることはなく、呼ばなきゃ食事を摂りに来ることさえなかった。

 進捗を聞きたい。

 その程度の心持ちだったのに、この雰囲気、もしかして完成しているのか……?

 期待が高まり、ゴクリと喉を鳴らしながら魔方陣に足を掛けると――


「うおっ……マジかよ」


 ――景色は変わり、森の中へ。

 木々の隙間から灯りが漏れ、その先に食事を続けるアリシアやフェリンの姿が僅かに見えるのだから、間違いない。


「拠点に戻ってきたのか……」

「そう」


 突然背後から聞こえる声に少々驚くも、誰だか分かり切っているし、もはやそんなことはどうだっていい。

 身体中に走る激痛を解すように、ゆっくり息を吐きながら賛辞の言葉を贈る。


「凄いね……ほんとに。まさかもう形になっているなんて思わなかったよ。マジでさすが女神様だわ」

「……あのストレージルームを解析できれば、ここまでならそんなに難しくない。でも、問題はここから」

「え? まだ問題なんてあるの?」


 疑問に感じて問うと、リアは頷きながら足元を指差す。

 すると土が被さっていて気付きにくいが、足元にも似たような魔法陣が見え隠れしていた。


「魔石を必要としない魔力の自然吸気を、どう魔法陣に表現すればいいのかが分からない。それに転移先も、こうして2つの魔法陣を紐付ける形でしか指定できていない」

「あーダンジョンにある転移陣の形にまではまだ持っていけてないわけか」


 転移陣を作ってほしいとお願いした時、神が作ったとされる実在の転移陣がどういったモノなのかそれなりに詳しく話したからなぁ……

 確かにあっちは魔石などなくとも常に魔法陣が青く輝いていたし、転移先にこのような着地場所を示すような魔法陣も存在していないが、それでもだ。


「俺が旅してきた中で、誰かが似たようなモノを生み出したなんて話、一度も聞いたことはないし見たこともない。課題はあるにしても、ここまで形にできただけで相当凄いことだよ」

「そう……」

「だから――」


 目を逸らして下を向いてしまったのでどうしようか少し困るも、町の防衛力を高めるためには必要不可欠なのだ。

 意を決して続きの言葉を告げると、リアが僅かに見上げながら俺の瞳を見つめる。


「リア、この転移陣、町のために使わせてくれないかな」

「……どんな用途で?」

「今思いついているのは大まかに2つ。1つは俺が発見した《夢幻の穴》に転移陣を繋げて、町に出入りするハンターや狩りで生計を立てる町民の能力を底上げしたい。そしてもう1つは何かあった時のために、移動の手段は確保しつつも町を分散させておきたいんだ。いくらベザートが大きく豊かになっても、一部の転生者がその気になれば王都クラスの規模であろうと消し飛ばされるっていうのが十分に分かったからさ」


 断られても、他の方法を用いればなんとかなるという内容ではないのだ。

 祈るような気持ちで返答を待っていると、あまり悩む素振りも見せずに答えが返ってくる。


「じゃあ、いいよ。元々ロキから頼まれて作ったものだし」

「ほん、っとに!?」

「どこまでが干渉に当たるのかは分からない。けど、こんな状況にした私達だけが安全な場所から傍観するのはもう止めようって、皆で決めたから」

「そっか……」


 俺がこんな鎖で自分を抑えつけるようになってしまったから、というのも皮肉な話だが、どういう事情であれ女神様達がこうして踏み込んだ協力をしてくれるようになったのならばありがたい。

 どこまでならセーフで、どこまでいけばアウトなのか。

 お互い探り探りにはなるだろうし、過度の干渉はこちらも何が起きるか分からないのだから望んでいないけど……


(転移陣が扱えるようになるなら、どうしてもクリアしなきゃいけない問題……厄介なアレも、もしかしたら協力してくれるかな?)


 そんなことを考えながら、リアにとりあえず必要な転移陣の枚数を伝え、他に防衛力を高め、皆の命を護るためには何ができそうなのか。

 外に目を向け、俺自身がより確かな強さを得るためにも今注力すべきは町だなと。

 他の女神様達が待つ食卓へ戻り、食事を摂りながらの協議を再開した。
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ここまでご覧いただきありがとうございました!
だいぶ長かった17章アルバート編もここで終わり、次週に『ロキの手帳』『17章終了時点での人物紹介』を更新したあと、18章『自国強化編』に入ります。
『世界地図』こちらのサイトだとアップするのが大変なので、各国の位置関係が気になる人はカクヨムの方でご覧ください(近況ノートに最新版を貼ってあります)
では自国強化編は15話くらいで終わる短い章になりますので、引き続きまったりとお楽しみください。
ロキの手帳⑭

 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>

 レベル:74  スキルポイント残:156

 魔力量:46117/54564 (974+47302) 暗霧(+6288)

 筋力:   11493 (515+10174)  ゲイルドレイク(+794)
 知力:   9520 (521+8204)  グリムリーパー(+795)
 防御力:  10090 (509+8002)   グリムリーパー(+790) グリムリーパー(+789)
 魔法防御力:9545 (514+7495)  ガルグイユ(+805) グリムリーパー(+731)
 敏捷:   9816 (514+6886)  ズケイラ(+882) グリムリーパー(+770) グリムリーパー(+764)
 技術:   12334(513+11821)
 幸運:   11424 (514+10910)  


 加護:無し

 称号:《王蟻を討てし者》《暗霧を討てし者》

 【転換】余剰経験値:『4,660,983』


 取得スキル

 ◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv10 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv10     
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv10 【槍術】Lv10 【槌術】Lv8 【刀術】Lv7
【鎌術】Lv8 【暗器術】Lv8 【暗殺術】Lv9 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv10 【捨て身】Lv10 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv10
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv10 【闘気術】Lv9 【狂気乱舞】Lv7


 ◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv10 
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv9 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8 
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv8 【空間魔法】Lv9 【時魔法】Lv9 
【神聖魔法】Lv9 【呪術魔法】Lv7 【精霊魔法】Lv9 【重力魔法】Lv8
【魔力操作】Lv10 【魔力感知】Lv10 【発動待機】Lv9 【多重発動】Lv9 
【省略詠唱】Lv9 【無詠唱】Lv9 【魔法射程増加】Lv10 【魔力纏術】Lv10 
【土操術】Lv8


 ◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv10 【採掘】Lv10 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv9 【鍛冶】Lv8
【芸術】Lv8 【描画】Lv7 【細工】Lv8 【加工】Lv8 【畜産】Lv10 
【採取】Lv9 【話術】Lv9 【家事】Lv10 【交渉】Lv9 【演奏】Lv7 
【薬学】Lv8 【作法】Lv9 【舞踊】Lv8 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv8 
【錬金】Lv7 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【漁猟】Lv8 【造船】Lv7
【医学】Lv8 【装飾作成】Lv7 【魔法学】Lv7 【魔道具作成】Lv7


 ◆生活系統スキル
【跳躍】Lv10 【空脚】Lv8 【飛行】Lv9 
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv9
【算術】Lv10 【暗記】Lv10 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv9 【読唇】Lv7 【拡声】Lv10 【遠話】Lv7
【隠蔽】Lv10   【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv10 【心眼】Lv10
【探査】Lv10 【広域探査】Lv8 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv9
【逃走】Lv9 【忍び足】Lv10 【俊足】Lv10 【縮地】Lv8
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv7
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv7
【付与】Lv10 【写本】Lv7 【自動書記】Lv7


 ◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv10 【魔力最大量増加】Lv10
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv9 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv10 【金剛】Lv10 【封魔】Lv10 【疾風】Lv10
【絶技】Lv10 【豪運】Lv9
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv8 【睡眠耐性】Lv8 【魅了耐性】Lv8
【石化耐性】Lv9 【呪い耐性】Lv8
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv9
【闇属性耐性】Lv8 【雷属性耐性】Lv8 【氷属性耐性】Lv8 【光属性耐性】Lv8


 ◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv8 【地図作成】Lv9 【魂装】Lv10 【神託】Lv7 【奴隷術】Lv9
【魔物使役】Lv9 【威嚇】Lv9 【転換】Lv10 【水中呼吸】Lv7 【死霊術】Lv7 【鉱操術】Lv8


 ◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4 


 ◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv9 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv8 【突進】Lv8 【旋風】Lv7 
【睡眼】Lv7 【爪術】Lv9 【洞察】Lv7 【踏みつけ】Lv9 【招集】Lv8 
【硬質化】Lv8 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv9 【咆哮】Lv8 
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv7 【火炎息】Lv7 【発火】Lv7 【白火】Lv8 【炎獄柱】Lv8 【灼熱息】Lv8 【丸かじり】Lv8 【分解】Lv7 【吸収】Lv7 【氷結息】Lv7 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv9 【物理防御力上昇】Lv9 【魔法防御力上昇】Lv9
【不動】Lv8 【衝撃波】Lv7 【地形耐性】Lv7 【廻水】Lv8 【鏡水】Lv8 【透過】Lv8 【恐怖】Lv8 【封印】Lv7 【熱感知】Lv7 【陽炎】Lv7 
【流砂】Lv7 【砂嵐】Lv7 【砂硬鱗】Lv9 【昼寝】Lv10 【帯電】Lv7 【凍結息】Lv8 【底力】Lv8 【烈震】Lv7 【紫水】Lv9 【穢れた霧】Lv7 【急速再生】Lv7 【水蹴】Lv7 【月喰】Lv7 【水流】Lv7 【座陣刃】Lv9 【烈風】Lv7


 ◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv7 【泥化】Lv7 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv7 【脱皮】Lv7 
【酸液】Lv8 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv7 【結合】Lv8 
【分離】Lv8 【火光尾】Lv7 【絶鳴】Lv8 【幻影】Lv8 【影渡り】Lv7 
【地縛り】Lv7 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv7 【睡夢鱗粉】Lv7 
【膨張】Lv7 【甦生】Lv9 【共食い】Lv7 【粘液】Lv7 【分裂】Lv7
【砂泳】Lv7 【麻痺針】Lv7 【産卵】Lv7 【昇華】Lv9 【毒牙】Lv7
【放天乱羽】Lv7 【寄生】Lv7




 ◆戦闘・戦術系統スキル

 【剣術】Lv10 剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

 【短剣術】Lv10 短剣形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

 【棒術】Lv8 棒形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

 【体術】Lv10 己の身体で打撃を加える場合に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

【斧術】Lv10 斧形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

【槍術】Lv10 槍形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値400%の限定強化を行う 魔力消費23 筋力補正

【槌術】Lv8 槌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

【鎌術】Lv8 鎌形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 筋力補正

 【弓術】Lv9 弓形状の武器を所持している限り、攻撃動作、射程距離にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 技術補正

 【杖術】Lv10 杖形状の武器を所持している限り、魔法効果、魔法発動時間、防御動作にプラス補正が入る 魔力消費0 知力補正

 【盾術】Lv9 盾を所持している限り、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 防御力補正

【刀術】Lv7 刀形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値310%の限定強化を行う 魔力消費17 筋力補正

【投擲術】Lv9 投擲飛距離に90メートルのプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で投擲速度/命中率のプラス補正を行う 魔力消費21 技術補正

【挑発】Lv9 注意を自分に向けやすくする 発動範囲90メートル以内 対象を中心とした半径1メートル以内の生物に発動 魔力消費21 防御力補正

【狂乱】Lv8 使用後は全ての通常攻撃動作に能力値290%の限定補正を行う ただし制限時間が経過するまで、周囲の生物に対する通常攻撃動作以外を行うことができなくなる 使用効果時間8分 魔力消費0 筋力補正

【二刀流】Lv8 両手に別々の武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【威圧】Lv10 見定めた1対象を相手にかなり強い恐怖を与え、行動阻害、精神錯乱を誘発させる 魔力消費5 魔力補正

【捨て身】Lv10 無手の状態に限り、筋力値、敏捷値を一時的に300%まで上昇させる 効果時間1分 魔力消費50 筋力補正

【指揮】Lv9 スキルを使用した指揮者の思考が、指揮下にある味方へと伝達されやすくなる 度合いはスキルレベルによる 効果範囲:周囲半径1800メートル 使用効果時間30分 魔力消費90 知力補正

【鼓舞】Lv9 半径45メートル範囲内の味方に対して全能力値を30%向上させる 同スキルによる重複不可 スキル使用者は効果対象外 使用効果時間10分 魔力消費44 幸運補正

【身体強化】Lv10 魔力を使用して筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に200%まで上昇させる 効果時間10分 魔力消費50 技術補正

【騎乗戦闘】Lv9 騎乗している状況に限り、全能力値145%のプラス補正が入る また騎乗している生物にもプラス補正が適用される 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【両手武器】Lv10 両手で一つの武器を所持している状態に限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る 武器種は問われない 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【暗器術】Lv8 暗器に該当する武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で2秒間、特定所作に能力値340%の限定強化を行う 魔力消費19 敏捷補正

【射程増加】Lv9 射程距離が90%増加する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【手加減】Lv10 スキル使用時に限り、致命打を与えても対象生物を一時的に延命させることができる 効果時間1分 対象生存時間60秒 魔力消費50 技術補正

【暗殺術】Lv9 急所攻撃に限り、能力値190%の上方補正を常時行う(魔力消費0) 任意で1分間、【忍び足】【暗器術】【隠蔽】のスキルレベルを1上昇させる 魔力消費45 敏捷補正

【闘気術】Lv9 体力の消耗と引き換えに、使用中は筋力値、防御力値、敏捷値、技術値を一時的に240%まで上昇させる 魔力消費0 敏捷補正

【狂気乱舞】Lv7 使用後は一時的に全能力値を260%まで上昇させる ただし制限時間が経過するまで、周囲の生物に対して攻撃以外の行動をとることができなくなる 使用制限時間1分 魔力消費0 筋力補正


 ◆魔法系統スキル

【火魔法】Lv9 魔力消費90未満の火魔法を発動することが可能 知力補正

【土魔法】Lv9 魔力消費90未満の土魔法を発動することが可能 魔法防御力補正

【風魔法】Lv10 魔力消費100未満の風魔法を発動することが可能 敏捷補正

【水魔法】Lv9 魔力消費90未満の水魔法を発動することが可能 防御力補正

【氷魔法】Lv9 魔力消費90未満の氷魔法を発動することが可能 防御力補正

【雷魔法】Lv9 魔力消費90未満の雷魔法を発動することが可能 知力補正

【光魔法】Lv9 魔力消費90未満の光魔法を発動することが可能 幸運補正

【闇魔法】Lv8 魔力消費80未満の闇魔法を発動することが可能 魔力補正

【無属性魔法】Lv8 魔力消費80未満の無属性魔法を発動することが可能 魔力補正

【回復魔法】Lv9 魔力消費90未満の回復魔法を発動することが可能 防御力補正

【神聖魔法】Lv9 魔力消費900未満の神聖魔法を発動することが可能 魔力補正

【結界魔法】Lv8 指定箇所を中心に『防壁』『封魔』『燐光』『遮蔽』『遮断』『強化』『幽閉』の結界を張ることができる 強度、範囲、性質は込める魔力量による 魔法防御力補正

【呪術魔法】Lv7 魔力消費210未満の呪術魔法を発動することが可能 魔力補正

【時魔法】Lv9 対象を中心とした半径2メートル以内の生物に対し、敏捷値±450%の減少か増加を選択して発動することが可能 減少の最終数値は対象の抵抗値によって決定し、マイナスになることはない 魔力消費:10秒毎に135 知力補正

【精霊魔法】Lv9 各属性精霊の力を限界以上に引き出し、魔法を行使することが可能になる 魔力消費250 魔力補正

【空間魔法】Lv9 一時的に亜空間と繋がり、その空間を活用することができる 魔力消費:80%減 空間使用範囲と接続時間による 魔力Ⅱ補正

【重力魔法】Lv8 任意の方向に力を加え、強制的に対象を動かす もしくは任意の対象に対して加重と軽減を行う その威力はスキルレベルと術者の知力に依存する 効果時間4秒 再使用まで10秒 魔力消費400 魔力補正Ⅱ

【魔力操作】Lv10 魔力操作が向上し魔法への応用が利きやすくなる また魔法発動時間が50%減少する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力感知】Lv10 使用者の周囲に存在する魔力の流れ、濃度に対して敏感になる 効果範囲:周囲半径50メートル 魔力消費0 魔力補正

【省略詠唱】Lv9 精霊への単体魔法イメージ伝導割合が90%まで上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【無詠唱】Lv9 精霊へのイメージ伝導割合が100%になり、思考のみの伝達を可能にする また魔力消費は基本値の85%に減少する 常時発動型 知力補正

【発動待機】Lv9 魔法発動可能状態から最大18秒間待機が可能になる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【多重発動】Lv9 属性に関わらず、発動待機中に追加で9種の魔法を発動することが可能になる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【魔法射程増加】Lv10 魔法の射程が100%増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力纏術】Lv10 具現化した魔力を装着武具、または身体に纏わせ強化させる 強化による上昇値は込める魔力量とスキルレベルに依存 効果時間10分 魔力消費:込めた魔力量の25% 魔力補正

【土操術】Lv8 流した魔力量に応じて土石を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる 術者の手から離れた場合、魔石を核にして簡易的な遠隔操作を行うことも可能 防御力補正


 ◆ジョブ系統スキル

【狩猟】Lv10 狩猟技能が向上し、獲物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【解体】Lv10 解体技能が向上し、より素早く正確に解体を行うことができる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【採取】Lv9 採取技能が向上し、採取物をかなり発見しやすくなる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【話術】Lv9 対話能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【料理】Lv10 料理技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【農耕】Lv10 農耕技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【釣り】Lv9 釣り技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【家事】Lv10 家事技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【裁縫】Lv9 裁縫技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鍛冶】Lv8 鍛冶技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【芸術】Lv8 芸術技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【描画】Lv7 描画技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【建築】Lv10 建築技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【採掘】Lv10 採掘技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【細工】Lv8 細工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【加工】Lv8 加工技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【伐採】Lv10 伐採技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【交渉】Lv9 交渉技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【畜産】Lv10 畜産技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【作法】Lv9 作法技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【舞踊】Lv8 舞踊技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【歌唱】Lv8 歌唱技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【薬学】Lv8 薬学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【演奏】Lv7 演奏技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【錬金】Lv7 錬金技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【彫刻】Lv8 彫刻技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【酒造】Lv8 酒造技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【庭師】Lv8 庭師技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【漁猟】Lv8 漁猟技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【造船】Lv7 造船技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【医学】Lv8 医学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【装飾作成】Lv7 装飾作成技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【魔法学】Lv7 魔法学技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔道具作成】Lv7 魔道具作成技能がだいぶ向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正


 ◆生活系統スキル

【異言語理解】Lv10 人族が扱う言語であれば、知識が無くても全ての専門的な用語を理解し会話をすることができる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【獣語理解】Lv8 動物や魔物の言葉を理解し、意思の疎通をだいぶ図れるようになる 魔力消費0 知力補正

【視野拡大】Lv10 上下左右の視野がやや広がる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【遠視】Lv10 かなり遠くを見通せるようになる 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【夜目】Lv10 暗闇の中でもかなり視界を確保できる 魔力消費0 幸運補正

【視界共有】Lv7 指定した対象に触れながら発動することで、一定時間視界を共有する 効果時間42分 多重発動不可 魔力消費30 幸運補正

【気配察知】Lv10 使用者の周囲で動く存在に対して反応が敏感になる 範囲半径50メートル 魔力消費0 技術補正

【探査】Lv10 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径300メートル 魔力消費0 幸運補正

【広域探査】Lv8 範囲内に特定の対象物が存在するかを探索する 範囲半径1800メートル 魔力消費0 幸運補正

【隠蔽】Lv10 Lv10以下の察知、看破、調査系統スキルを欺ける 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【俊足】Lv10 走る動作に補正がかかり、移動がかなり速くなる 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【忍び足】Lv10 使用時は無音で移動することが可能になり、スキルレベルに応じて気配を隠すことができる 魔力消費1分毎に10消費 技術補正

【逃走】Lv9 何かに追われている状況に限り、能力値310%の速度で走ることが可能 魔力消費30秒毎に10消費 敏捷補正

【縮地】Lv8 前方に向かって能力値340%の速度で距離を詰める 移動範囲は任意指定 最大距離10メートル 魔力消費40 敏捷補正

【跳躍】Lv10 跳躍動作に補正がかかり、通常よりも高く跳べる 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【空脚】Lv8 足場のない空中で踏み込み、9段までの【跳躍】を行うことが可能になる 魔力消費:1段毎に5消費 筋力補正

【飛行】Lv9 浮遊した状態で上空を移動することができる 魔力消費:1分毎に1消費 魔力Ⅱ補正

【算術】Lv10 算術能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【暗記】Lv10 暗記能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【騎乗】Lv9 騎乗能力がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【拡声】Lv10 声音を一時的に増大させ、声を広く届ける 増大する声音は元の大きさに影響する 魔力消費0 魔力補正

【遠話】Lv7 範囲内の特定対象に直接声を届ける 範囲半径35000メートル 効果時間1分 魔力消費10 幸運補正

【聞き耳】Lv9 聴覚を一時的に増加させ、範囲内の音や声を聞き分ける 範囲半径90メートル 魔力消費0 知力補正

【読唇】Lv7 対象の唇や表情が視認できる状態であれば、聞こえずとも言葉を理解することができる 理解度はスキルレベルによる 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【罠生成】Lv8 捕縛/殺傷を目的とした罠の生成作業が巧みになる 使用者の想像をだいぶ補助する 魔力消費190まで 技術補正

【罠解除】Lv7 Lv7以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を解除する 魔力消費85 技術補正

【罠探知】Lv8 自然発生した危険域、Lv8以下の【罠生成】によって生成された特殊罠を察知する 範囲は視覚に依存 効果時間10分 魔力消費19 幸運補正

【鑑定】Lv10 対象物品の能力、効果、原料、素材情報を識別する 識別深度は自身のスキルレベルによる 無機物のみ対象 魔力消費0 幸運補正

【心眼】Lv10 対象の所持する技能を覗き見る 生物のみ対象 魔力消費5 幸運補正

【魔力譲渡】Lv7 対象に自身の魔力を譲渡する 魔力消費に対し譲渡できる魔力の割合は85% 魔力補正

【付与】Lv10 装備品に属性か特定スキルを付与することができる 付与数、組み合わせ、定着時間はスキルレベルと対象装備による 魔力消費50 定着完了まで1秒毎に32消費 幸運補正

【泳法】Lv9 水泳技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【調教】Lv9 調教技能がかなり向上する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【写本】Lv7 見本となる本や文章を複製する 速度はスキルレベルによる 魔力消費0  幸運補正

【自動書記】Lv7 意識を向けた対象の言葉や文字を一定時間書き記す 効果時間42分 魔力消費5 幸運補正

【魅了】Lv7 対象の心を惹きつけ、興味と好意を持たせる 異性に対してのみ有効 多重発動不可 効果時間7時間 魔力消費70 幸運補正


 ◆純パッシブ系統スキル

【毒耐性】Lv9 毒への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【麻痺耐性】Lv8 麻痺への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【睡眠耐性】Lv8 睡眠への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【石化耐性】Lv9 石化への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魅了耐性】Lv8 魅了への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【呪い耐性】Lv8 呪いへの耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【魔力最大量増加】Lv10 魔力最大量を100増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【魔力自動回復量増加】Lv10 魔力自動回復量を50%増加させる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【剛力】Lv10 筋力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【明晰】Lv10 知力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 知力補正

【金剛】Lv10 防御力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【封魔】Lv10 魔法防御力値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【疾風】Lv10 敏捷値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 敏捷補正

【絶技】Lv10 技術値が50上昇する 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【豪運】Lv9 幸運値が45上昇する 常時発動型 魔力消費0 幸運補正

【物理攻撃耐性】Lv10 物理攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【魔法攻撃耐性】Lv9 魔法攻撃への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【火属性耐性】Lv9 火属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【土属性耐性】Lv8 土属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【風属性耐性】Lv8 風属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【水属性耐性】Lv9 水属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【雷属性耐性】Lv8 雷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【氷属性耐性】Lv8 氷属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【闇属性耐性】Lv8 闇属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【光属性耐性】Lv8 光属性魔法への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【鋼の心】Lv10 精神攻撃に対する抵抗がかなり増加する 威圧にも有効 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正


 ◆その他/特殊(使用可能)

【神託】Lv7 職業<神官>専用加護スキル 女神達からの言葉を授かることができる 使用条件1日に7度のみ 任意発動不可 魔力消費0 魔力補正

【神通】Lv8 職業<神子>専用加護スキル 女神達と意思の疎通を図ることができる 使用条件1日に1度のみ 使用制限時間8分 魔力消費120 魔力Ⅱ補正

【地図作成】Lv9 地図上にスキル所持者が認知している土地や地域名称を細かく加えることが可能 魔力Ⅱ補正

【魂装】Lv10 自ら命を奪った魔物の魂を身に留め、抽出された能力のうち1種を自身へ付加させる 魂装上限数10 魔力消費5 魔力Ⅱ補正

【奴隷術】Lv9 奴隷契約を結び、対象を『魂縛』もしくは『隷属』させることが可能になる 最大所持コスト450 奴隷契約時のみ魔力消費30 魔力補正

【魔物使役】Lv9 服従させ、対象を使役することが可能になる 最大所持コスト900 使役時のみ魔力消費30 魔力補正

【威嚇】Lv9 前方9メートルの範囲に対し【威圧】効果を与える 魔力消費55 敏捷補正

【転換】Lv10 最大レベルまで上がったスキルの余剰経験値を蓄え、指定スキルの経験値に転換することが可能になる 転換率20% 常時発動型 魔力消費0 魔力Ⅱ補正

【水中呼吸】Lv7 水中での呼吸がだいぶ可能になる 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【死霊術】Lv7 生物の死体を操作し、一時的に使役することが可能になる 下せる命令の内容と操作時間はスキルレベルと込める魔力量による 知力補正

【鉱操術】Lv8 流した魔力量に応じて鉱物を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる 防御力補正


 ◆その他/特殊(使用不可)

【獣血】Lv4 使用不可


 ◆その他/魔物(使用可能)

【突進】Lv8 前方に向かって能力値340%の速度で突進する 移動範囲は任意指定 最大距離5メートル 魔力消費19 敏捷補正

【噛みつき】Lv9 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値360%の補正を行う 魔力消費19 筋力補正

【光合成】Lv8  太陽の光を浴びれば自然治癒力と魔力回復量が微増  常時発動型 魔力補正

【硬質化】Lv8 一時的に身体を硬質化させ、効果時間内は防御力が13倍になる 効果時間1秒間 魔力消費19 防御力補正

【物理防御力上昇】Lv9 防御力が27%上昇する 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【強制覚醒】Lv9 生存している同種族を強制的に目覚めさせる 範囲:1800メートル 魔力消費50 技術補正

【状態異常耐性増加】Lv9 あらゆる状態異常耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【招集】Lv8 【呼応】スキルを持つ周囲の魔物を強制的に呼び集める 効果範囲:周囲半径240メートル 魔力消費19 知力補正

【穴掘り】Lv8 上手に穴を掘る 効果時間8分 魔力消費2 筋力補正

【酸耐性】Lv8 酸への耐性が増加する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【魔法防御力上昇】Lv9 魔法防御力が27%上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【踏みつけ】Lv9 下方に向けてのみ、筋力値370%の威力で攻撃を加える 魔力消費21 筋力補正

【嗅覚上昇】Lv7 嗅覚を一時的に上昇させる 上昇度合いはスキルレベルによる 魔力消費0 幸運補正

【洞察】Lv7 視界に収めた生物との力量差をだいぶ掴める 魔力消費0 魔力補正

【咆哮】Lv8 前方8メートルの範囲に対し【威圧】効果を与え、自身に掛けられた精神ダメージを確率で無効化させる 魔力消費60 魔法防御力補正

【旋風】Lv7 周囲720度を能力値310%の威力、速度で薙ぎ払う 使用時は僅かに移動可能 魔力消費21 敏捷補正

【睡眼】Lv7 対象の目を見ながら発動することにより眠らせることができる 能力効果を説明した上で対象が承諾していれば100% 能力説明をしていない、もしくは理解できなければ、成功確率はスキルレベルと対象の耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費17  魔法防御力補正

【爪術】Lv9 爪形状の武器を所持している限り、攻撃動作、防御動作にプラス補正が入る(魔力消費0) 任意で3秒間、特定所作に能力値370%の限定強化を行う 魔力消費21 筋力補正

【発火】Lv7 自身、もしくは自身が触れている物を任意の範囲で発火させる 効果を切れば火は消えるが、非接触状態になればその火は直ちに制御を失う 熱量はスキルレベルと知力による 魔力消費:10秒毎に5消費 魔力補正

【火炎息】Lv7 前方に火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費50 魔力補正

【灼熱息】Lv8 前方に巨大で広範囲な火炎の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、熱量は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費85 魔力補正

【白火】Lv8 自身が扱う火に関する技能に限り、上位格となる白火へ変化させる 熱量はスキルレベルによる 魔力消費20 魔力Ⅱ補正

【炎獄柱】Lv8 吸い込み、捕食し、生物を食らう巨大な炎柱を、自身から15メートル離れた先に2本生成する 生成後の炎柱、内部の龍ともに制御は不可 スキルレベル上昇により動きが活発になる 発生時間10分 魔力消費120 魔力Ⅱ補正

【丸かじり】Lv8 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値480%の補正を行う 魔力消費41 筋力補正

【分解】Lv7 魔力を介して対象を分解する 分解速度は込める魔力量による 魔力消費減少割合60% 魔力補正

【吸収】Lv7 魔力を介して液体を吸収する 魔力消費0 幸運補正

【氷結息】Lv7 前方に氷結の息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費50 魔力補正

【不動】Lv8 一時的に身体を硬直させ、効果時間内は防御力、魔法防御力が18倍になる ただし発動中は一切身体を動かせない 効果時間8秒間 魔力消費120 防御力補正

【石眼】Lv7 対象の目を見ながら発動することにより石化させることができる 未動作の対象ほど石化進行は速く、成功率は耐性値などによって複合的に決まる 魔力消費17 魔力補正

【物理攻撃力上昇】Lv9 筋力が27%上昇する 常時発動型 魔力消費0 筋力補正

【衝撃波】Lv7 初動となる運動エネルギーを増加させ、波状に衝撃を加える 威力と範囲はスキルレベルによる 魔力消費50 敏捷補正

【地形耐性】Lv7 地形効果を受けにくくなる 常時発動型 魔力消費0 技術補正

【鏡水】Lv8 魔法属性に分類される攻撃を自動で防御、反射する 反射精度はスキルレベルによる 魔力消費:10秒ごとに30消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力Ⅱ補正

【廻水】Lv8 広範囲の水を強制的に流動させる 範囲と速度はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に85消費 ※水の無い場所では発動不可 魔力補正

【透過】Lv8 一定時間身体を透明化させる 効果時間4秒 魔力消費80 魔力補正

【封印】Lv7 視界に捉えた対象のスキル発動を確率で阻害する ただし既に発動しているスキルの阻害、解除はできない 効果時間10秒 魔力消費70 知力補正

【恐怖】Lv8 自身を見ている存在全てを、強い恐慌状態に陥らせる 魔力消費120 魔力補正

【熱感知】Lv7 視界内の温度を視覚化させる その精度はスキルレベルによる 魔力消費0 魔力補正

【陽炎】Lv7 本来とは異なる位置にその姿を映し出す 魔力消費:1分ごとに10消費 幸運補正

【流砂】Lv7 範囲内の砂を任意に流動させる その範囲はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に40消費 ※砂地でのみ発動可能 敏捷補正

【砂嵐】Lv7 使用者を中心に多量の砂を巻き込んだ猛風を巻き起こす 効果範囲とその威力はスキルレベルによる 
発生時間10分 魔力消費110 ※砂地でのみ発動可能 防御力補正

【砂硬鱗】Lv9 物理、魔法属性に分類される攻撃を自動で防御する 反応速度はスキルレベルによる 魔力消費10秒ごとに30消費 ※砂地でのみ発動可能 魔力Ⅱ補正

【昼寝】Lv10 仮眠することで急速に体力と魔力を回復させる その効果はスキルレベルによる 魔力消費0 幸運補正

【魔法防御力上昇】Lv9 魔法防御力が27%上昇する 常時発動型 魔力消費0 魔法防御力補正

【帯電】Lv7 雷を身体に留め、一時的に帯びることができる 可能な総量はスキルレベルによる ※自ら生み出した雷は不可 常時発動型 魔力消費0 魔力補正

【凍結息】Lv8 前方の広範囲に凍える息を吐く 射程、発生時間はスキルレベルに依存、冷気は知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 魔力消費85 魔力補正

【底力】Lv8 死の危機に瀕するほど防御力値と魔法防御力値が向上する 上昇上限値はスキルレベルによる 常時発動型 魔力消費0 防御力補正

【烈震】Lv7 一定以上の衝撃を加えることで、その場を中心とした広域の大地を揺るがす 範囲、持続時間、揺れの強さはスキルレベルと加えた衝撃による 魔力消費160 敏捷補正

【紫水】Lv9 自身が扱う水に関する技能に限り、毒属性を与えた紫水へ変化させる 毒性の強さはスキルレベルによる 効果時間10分 魔力消費135 魔力Ⅱ補正

【穢れた霧】Lv7 黒く穢れた霧を生み出し、触れた者の五感を順に奪っていく 範囲、進行の速度はスキルレベルによる 魔力消費140 魔力Ⅱ補正

【急速再生】Lv7 自身の損傷、欠損箇所を素早く再生する 再生速度はスキルレベルによるが、回数を重ねる度、部位にかかわらずその速度は永続的に低下していく 魔力消費700 敏捷補正

【水蹴】Lv7 水中で踏み込むことを可能とし、素早く移動することができる 速度はスキルレベルによる 魔力消費17 敏捷補正

【月喰】Lv7 光を飲み込む渦を生み出し、最大量に達するまで周囲を暗闇に染める 飲み込める量はスキルレベルによる 魔力消費80 魔力補正

【水流】Lv7 前方に大量の水を生み出し放出させる 発生時間はスキルレベルに依存、量と勢いは知力とスキルレベルに依存する 方向だけは発生時間中任意に変更することが可能 ※水の無い場所では発動不可 魔力消費50 知力補正

【座陣刃】Lv9 一定範囲内に、発動した者以外には不可視の刃を設置する 密度と強度はスキルレベルによる 効果時間3分 魔力消費180 魔力Ⅱ補正

【烈風】Lv7 自身を中心に風を巻き起こす 発生時間はスキルレベルに依存、勢いは知力とスキルレベルに依存する 移動可能 魔力消費50 敏捷補正


 ◆その他/魔物(使用不可)

【粘糸】Lv7 使用不可 魔法防御力補正

【脱皮】Lv7 使用不可 魔法防御力補正

【呼応】Lv7 使用不可 知力補正

【酸液】Lv8 使用不可 技術補正

【擬態】Lv7 使用不可 技術補正

【胞子】Lv7  使用不可 魔力補正

【泥化】Lv7  使用不可 魔力補正

【気化】Lv8 使用不可 魔力補正

【毒霧】Lv7 使用不可 魔力補正

【結合】Lv8 使用不可 防御力補正

【分離】Lv8 使用不可 技術補正

【火光尾】Lv7 使用不可 敏捷補正

【幻影】Lv8  使用不可 魔力補正

【影渡り】Lv7 使用不可 魔力補正

【属性変化】Lv7 使用不可 魔力補正

【地縛り】Lv7 使用不可 魔力補正

【絶鳴】Lv8 使用不可 魔力補正

【無面水槍】Lv7 使用不可 知力補正

【睡夢鱗粉】Lv7 使用不可 幸運補正

【膨張】Lv7 使用不可 魔力補正

【共食い】Lv7 使用不可 防御力補正

【甦生】Lv9 使用不可 魔力補正

【砂泳】Lv7 使用不可 敏捷補正

【粘液】Lv7 使用不可 魔力補正

【分裂】Lv7 使用不可 魔力補正

【麻痺針】Lv7 使用不可 敏捷補正

【産卵】Lv7 使用不可 魔力Ⅱ補正

【昇華】Lv9 使用不可 敏捷補正

【毒牙】Lv7 使用不可 敏捷補正

【放天乱羽】Lv7 使用不可 敏捷補正

【寄生】Lv7 使用不可 敏捷補正 


 ●ボーナスステータス値

 各スキルの隠し要素としてボーナスステータス値が存在。

 ステータス値が確認できない住民は当然として、ステータス画面上でも表記されないため、検証していかないとスキルそれぞれのボーナスステータス値は分からない。

 スキルレベル1・・・・・対応能力(+1)
 スキルレベル2・・・・・対応能力(+2)
 スキルレベル3・・・・・対応能力(+3)
 スキルレベル4・・・・・対応能力(+5)
 スキルレベル5・・・・・対応能力(+10)
 スキルレベル6・・・・・対応能力(+30)
 スキルレベル7・・・・・対応能力(+60)
 スキルレベル8・・・・・対応能力(+100)
 スキルレベル9・・・・・対応能力(+180)
 スキルレベル10・・・・・対応能力(+300)

 ※魔力のみ2倍  ※魔力Ⅱはさらに2倍



 ●スキルレベル上昇に必要なスキルポイント必要分(女神様への祈祷)

 0→1・・・・・・2ポイント
 1→2・・・・・・4ポイント
 2→3・・・・・・12ポイント
 3→4・・・・・・30ポイント
 4→5・・・・・・50ポイント
 5→6・・・・・・100ポイント
 6→7・・・・・・200ポイント
 7→8・・・・・・300ポイント
 8→9・・・・・・500ポイント
 9→10・・・・・・1000ポイント



 ●レベル上昇による各能力上昇値

 レベル1~10・・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種3上昇、魔力量だけは6上昇
 レベル11~20・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種4上昇、魔力量だけは8上昇
 レベル21~30・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種5上昇、魔力量だけは10上昇
 レベル31~40・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種6上昇、魔力量だけは12上昇
 レベル41~50・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種7上昇、魔力量だけは14上昇
 レベル51~60・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種8上昇、魔力量だけは16上昇
 レベル61~70・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種9上昇、魔力量だけは18上昇
 レベル71~80・・・・・・各種能力値は1レベル上昇で各種10上昇、魔力量だけは20上昇


 ●未取得からスキルレベル1の必要経験値を『100』とした場合のスキルレベルと必要経験値、及び魔物から得られるスキル経験値の関係性(推定値)

 スキルレベル1取得に必要な経験値は100  
 スキルレベル1所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり20


 スキルレベル1から2に必要な経験値は200  
 スキルレベル2所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40


 スキルレベル2から3に必要な経験値は600  
 スキルレベル3所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり120


 スキルレベル3から4に必要な経験値は2,000 
 スキルレベル4所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400


 スキルレベル4から5に必要な経験値は20,000 
 スキルレベル5所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000


 スキルレベル5から6に必要な経験値は60,000 
 スキルレベル6所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり12,000


 スキルレベル6から7に必要な経験値は200,000
 スキルレベル7所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40,000


 スキルレベル7から8に必要な経験値は2,000,000
 スキルレベル8所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり400,000


 スキルレベル8から9に必要な経験値は20,000,000
 スキルレベル9所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり4,000,000


 スキルレベル9から10に必要な経験値は200,000,000
 スキルレベル10所持魔物から得られるスキル経験値は1体当たり40,000,000 




 ●名前の挙がった国名一覧 「◎」は地図の作成が完了した国

 ◎ラグリース王国(最初に訪れた国)

 ◎旧ヴァルツ王国・・・・・・ラグリース王国の東側 ※ラグリース王国に吸収

 ◎フレイビル王国(別名ドワーフ王国)・・・・・・ヴァルツ王国のさらに東

 エルグラント王国(転生者タクヤの在籍国)……大陸北西

 ヴェルフレア帝国(転生者シヴァの在籍国)……大陸南西

 ◎アルバート王国(転生者マリーの在籍国)……大陸東方

 エリオン共和国(転生者ハンスの在籍国)……大陸南東

 オデッセン王国……大陸北方、ガラス作りに長けた転生者がいる可能性の高い国

 ファンメル教皇国……場所は北の方? <神子>のいる国

 ◎ジュロイ王国……ラグリース王国の西側で一応同盟国

 トルメリア王国……ジュロイ王国の北西で一応同盟国

 ◎オルトラン王国……フレイビル王国付近、初級ダンジョンが存在するとされる国

 アイオネスト王国……大陸北東 Sランク狩場が存在する国

 ▲スチア連邦……オルトラン南部、クアドの故郷 部落の点在する国

 ◎ガルム聖王騎士国……オルトラン北東部 内戦中だった国

 ◎パルモ砂国……オルトラン東部 広大なヘルデザートを抱える砂漠の国

 水の都ハーディア……ジュロイ王国西部

 自由都市ネラス……ジュロイ王国北西部に存在する緩衝地帯

 ◎テリア公国……ガルム聖王騎士国の東に隣接する国

 グリニッド王国……大陸北東に存在する海洋国家

 カナン共和国……通称ハンターの聖地カナン 上級ダンジョンを抱える大陸北部の国
17章終了時点の登場人物紹介(小ネタ的なネタバレ有り)

 本作は登場する国やキャラクターがそれなりに多いため、17章終了時点での国別登場キャラクターを少しずつ載せておきます。
 以前の内容に書き足したりしているので、重複する部分もありますがご了承ください。
 作中で「このキャラ誰だっけ?」となった場合はこちらをご覧いただくと、「あ~この人ね」って(たぶん)なれると思います。


 ※国単位でやっているので、下界にいない人物を加える予定はありません。
 ※キャラ名が公表されていない重要キャラというのもいたりしますが、名無しは基本対象外とさせていただきます。
 ※その他で一覧に載っていないキャラは、必ずではありませんけど作者の判断で追加するかもしれませんので、要望があればコメント欄にお願いします。

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【アースガルド王国】


 〇アースガルド王国――拠点(上台地)


 ・アリシア(愛の女神)
 世界を管理する女神達のリーダー的存在。
 固有最上位加護は【神通】、他にも主人公に詫びとして【神託】のスキルを授けている。
 実直ではあるが短絡的。
 とある理由もあって残念女神の代名詞的な存在になっており、転生者達に顔が割れているため、主人公が旅する下界へ満足に下りられないという枷を女神の中で唯一背負っている。
 代わりに下台地を含む『拠点』の管理者として常駐し、様々なスキルの知見を深めながら、自身が最も好きになれる何かを模索中。


 ・フィーリル(生命の女神)
 固有最上位加護は【蘇生】
 当初は気軽に話せる存在として『友達』ができたことに喜んだが、主人公が死に直面してからは『母』であることを願った。
 もう一度死ねば終わりという危機感から、女神の中で最も主人公を心配しており、世界を巡る旅にも内心では反対している。
 ほんわかした雰囲気の割には意外と計算高く、主人公を転がすのが上手。


 ・フェリン(豊穣の女神)
 固有最上位加護は【地形変動】
 最も女神らしくない女神であり、人懐っこい性格をしているが学ぶことは苦手。
 料理の工程に興味はないが、素材や出来上がった料理に対しての興味は非常に強い。
 聞きかじった程度の知識から主人公の第一夫人を狙っているものの、腹芸が苦手なためリステに勝てず、何か手はないかと考えるものの何も浮かんでいない。
 良くも悪くも主人公とは一緒に新しい料理を開拓する程度の、凄まじくピュアな関係が続いている。


 ・リステ(商売の女神)
 固有最上位加護は【地図作成】
 最も下界に詳しく女神の中では知識も豊富。
 冷静沈着で計算高くもあるため、唯一頭の中を覗き、この世界にとって謎の存在である主人公を陥落させた。
 しかし強さへの探求が尽きない主人公とは対照的に、自身は初めての感情が抑えられずどんどんのめり込むことに。
 ヤンデレ化が加速していることに本人は気付いていない。


 ・リガル=リル(戦の女神)
 固有最上位加護は【魂装】
 女神の中で唯一のエルフ種であり、エルフの素体とも呼ばれている。
 戦いや強さへの興味は非常に強いが、主人公が現れるまでは戦ったことすらなかった名前だけの女神。
 そのせいもあって戦う喜びと興奮から一度主人公を殺めており、罰としてつけられた『リル』という名が定着している。
 現在はわだかまりも解消され、トラブルを避けるために用意された『姉』というポジションを本人は気に入っており、それ以降は主人公を気にかけ、諭すような場面が多く見られるようになった。
 現在は数時間の魔物討伐と引き換えに、ベザートの監視を担っている。


 ・リア(罪の女神)
 固有最上位加護は【神罰】
 女神の中で最も容姿は幼いが、最も危険な女神でもあり、気分一つで大陸の広域を焦土化させる力を持つ。
 感情を表に曝け出すことはほとんど無かったが、主人公が現れたことでそのような場面が多く見られるようになった。
 お互いがお互いに警戒対象ではあるものの、内心では『友達』のような存在とも思っており、そんな関係がお互い長く続けばと思っているが……



 〇アースガルド王国――下台地


 ・ゼオ・レグマイアー
 元々は魔人であり、災禍の魔導士、魔王という呼び名も存在した、亜人を代表する古代の魔導士。
 その強さと甚大な被害から、歴史上数えるほどしかない神罰の対象として、過去に半身を焼かれて死にかけた経験を持つ。
 現在はカルラの眷属として吸血人種になり、主人公の血液がないと活動できない。
 将来は自身が同族である魔人種を探すという夢を描きつつも、力の戻っていない現在は拠点で大工や主夫業に精を出している。
 非常に整理整頓好きであり、天然の中二病患者でもある。


 ・カルラ・ウォルブド・アッケンリーベル
 とてつもなく眉目秀麗で中性的な少年。
 吸血人種であり、魔力を消費することで容姿を若返らせることができる。
 実年齢は凄まじく長いらしいが、その理由は知らされておらず、主人公も無理に聞き出そうとは思っていない。
 当初はゼオを蘇らせることだけを最優先に考えていたが、主人公が悪い奴ではないと知り、今では役に立とうと拠点の仕事に邁進している。
 ゼオが大好き過ぎて、毎日一緒の布団で寝ている模様。


 ・ロッジ
 元『五頭工匠』の一人で、我を通したために居場所を失ったドワーフ種。
 鍛冶の腕前は非常に優秀で、より上位の素材、未知の素材から新たな装備を生み出したいという願望が強い。
 鍛冶と酒とパンツにしか興味がなく、その3つに囲まれながら、暇な時間は有り余る素材を利用して素材の合成実験をしている。
 ロキが行った仕返しについては知らされていない。


 ・エニー
 ニーヴァルのひ孫で、年齢は若返った主人公よりも僅かに若く、ジンク達3人衆の中に混ざれば違和感は何もなくなる。
 ニーヴァルに才能があると認められ、付き人として宮殿内で共に生活をしていたせいもあってか、とにかく生意気。
 物怖じしないその性格は大物の予感を感じさせるが、それは今後の努力次第といったところ。
 現在はゼオに師事し、魔導士のエキスパートになるべく修行中であり、日々湖やカルラに向かって魔法をぶっ放している。
 人間嫌いのゼオが相手ではあるが、相手によって態度を変えないエニーの性格もあってか関係は非常に良好。


 ・アルトリコ
 先祖返りにより、巨人族の血が強く出た女性。
 体長は軽く2メートル以上あり、【痛覚遮断】という見慣れぬスキルを所持している。
 集中すると他が見えなくなるため、来客に気付かないことも多いが、それだけ知識欲は高く、ニーヴァルに次ぐ博識になると噂されていた。
 その大きさ、そしてやや特徴的な顔の形状から表に出ることが儘ならず、一年を通して宮殿内から出るようなことはなかったが、現在はロキに連れられ拠点の下台地に移住。
 図書館の管理者として、本に囲まれて生活するという本人にとっては夢のような生活を送っている。
 

 ・ジェネ
 主人公が初めて使役した魔物で、元はCランクのゴブリンジェネラル。
 拠点でゼオやカルラの仕事を補助しつつ、ロキが持ち帰る死体の装備を剥いだり、魔物の解体作業を手伝っていたが、ひたすら魔物や人の死骸を食い続けているためか、次第に丁寧な言葉遣いとなり身体も巨大化。
 ある時を境に身体が再構築され、かなり人の姿に寄った知性体へと変貌を遂げる。
 発現した特異な能力はロキから強い期待を持たれているが、個体としての強さは実質Aランク相当であり、本当の魔王へと至れるかはここからの成長次第。


 ・ブタ君
 カルラが森の中で見つけてきた野生の豚。
 ゼオに調教されており、魔物が万が一入ってきた時用の見張り役を担っているが、一度もそのような事態に陥ったことはない。
 皆から食事の残りを貰いながら裏庭で自由に過ごしている。


 ・ウィグ
 ヘルデザートで発見した、Sランクに該当する覚醒体予備軍の魔物。
 元はAランクのウィングドラゴンであり、体長は発見当時で1.5倍ほどと既に大きく、体表も緑から黒へと変色が進んでいた。
 発見当初はまだ新しいスキルが発現していなかったが、身体はさらに巨大化し、ジェネと同様に【解体】などのスキルが生えてきているため、覚醒体には既に進化していると予想されている。
 成長要素の1つである魔石を食らうことも解禁されたため、今はジェネと競うように食らい続けているが……



 〇アースガルド王国――ベザート――中央区

 ・ヤーゴフ
 元ハンターギルド、ベザート支部のギルドマスター。
 ハンターの上に立つような体躯には見えない老齢の男性で、観察眼が異様に鋭い。
 冷静で頭が回り、道義は優先するが人並み以上に欲は強く、商人気質な部分も目立つ。
 主人公が異世界人というだけでなく、『転移者』であることまで知っている数少ない人物。
 現在はベザートの町運営に大きく携わるほか、ロキが新しく設立した職業斡旋ギルドの初代マスターとして次々に訪れる移民への仕事の手配に追われている。
 それはもう目の回る忙しさだが、町を大きくしたいという本人の望みが形になってきているため、好んで忙しい環境に身を置いているという方が正解に近い。


 ・ダンゲ
 旧ベザートの町長であり、場所を移した新ベザートでもその役職を引き継ぐ町の中心的人物。
 立場は平民なので、町民からも慕われる気さくで面倒見の良い爺さんといったところだが、人を見る目はあり、怒らすとなかなかに怖い。
 最初は主人公に対してどう接するべきか悩んでいたようだが、最近ではその人となりを理解し、相手が王という立場も忘れて説教する場面が増えてきている。
 そんな時は100%主人公が悪いため、おとなしく怒られている異世界人の王を見て、町長の威厳が爆上がりしていることに本人は気付いていない。
 基本的には町の入り口にある小屋で案内役を務めつつ、ロキ宛の来客対応を行っている。


 ・ロディ
 ハンターギルド、ベザート支部の解体場主任。
 気さくなおじさんで、狩場や魔物の素材など、ハンターが知っておいて損はない情報を聞かなくても教えてくれたりする。
 見た目だけで言えば一番ギルドマスターに見えるくらいマッチョなオヤジ。
 現在は正式に認可されたベザートのハンターギルドで、移民の解体経験者も雇い入れて余裕のある日々を送っている。
 そんな日常が間もなく終わりを迎えることをまだ本人は知らない。


 ・ジンク
 お子様3人衆の一人でリーダー。
 父親がハンターだったことから、幼いながらも基礎的なハンター知識が備わっている頼もしい存在。
 主人公の影響から外の世界にも強い興味を持ち始めている。
 なんでも卒なくこなせる有望株で、美形な母親に似て将来はモテそうな雰囲気を醸し出しているものの、本人にまだ自覚は無い。
 ベザートが移動後はルルブの森を主戦場に日々経験を積んでいる。


 ・メイサ
 お子様3人衆の一人。
 目立つラベンダー色の髪色と瞳が特徴的な女の子で、とにかくよくしゃべる。
 薬屋の娘で将来は薬屋を継ぐはずだが、ジンクと主人公の影響で、最近は魔物を倒すことが少し楽しくなってきている。
 得意技はザルを使った魚掬い。残念ながら集中力と羞恥心は無い。


 ・ポッタ(ポッタチオ)
 お子様3人衆の一人。
 身体が大きく力持ちで、母親と兄弟が全員同じような顔をしている。
 臆病でのんびりとした性格のため、常に戦わない荷物持ちを担当していた。
 修業を兼ねた旅行で少し改善が見られ、武器と盾を握りながらEランクハンターを目指している。
 家庭環境から勉強をする機会が無かったというだけで、いざとなれば一番頭が回るという噂もあったりするが、そのような場面を見た者は非常に少ない。


 ・メリーズ
 おばちゃんシスターでベザートの教会では最も古株。
 豪快で気さく、主人公に職業やステータスに関して多くのことを教えてくれた。
 さりげなく掃除をサボるのが上手い人。


 ・トレイル
 信仰が厚く、人の良いおじいちゃん神官。
【神託】を受けることのできる職業加護の持ち主で、日に3回を上限に職業選択の対応をしている。
 最近耳が遠くなってきたのが悩みの種。


 ・ノア
 自由都市ネラスでひっそりと隠れながら生活していた元イタリア人の転生者。
 30年近く西の地で奴隷生活を余儀なくされていたが、逃げ出したあとも夢を捨てることができず、自らデザイン、製作した服を販売して生計を立てていた。
 ロキの協力により【隠蔽】を最大にし、転生者の痕跡を完全に隠してからは初めての自由な生活を謳歌し、服作りに没頭していたが、すぐに作る衣類の噂は広まりパンク気味に。
 そのため現在はアマンダの協力もあって中央区に店を構え、仕事を補助をする従業員も複数名抱えて衣類の製作に当たっている。


 ・スタークス
【回復魔法】の使い手であるアマリエと共にマルタで活動していた片腕の医師。
 呼び起こす医療を研究しており、身体が覚え、治療の効果が限りなく薄くなった傷や症状の改善を目標に掲げている。
 ロキが自身の腕を治そうとした時に違和感を覚え、そこから可能性を感じてロキについていくことを熱望。
 現在は中央区の一角にそれなりの規模の病院が作られており、そちらで仕事をしつつ夜間は西区のグラーツ養成学校で医学を教える講師の仕事も務めている。


 ・アマリエ
 Dランクハンターでありヒーラー職。
 誘拐事件に巻き込まれて夫を亡くし、自身も大きなダメージを負ったが、その後はリプサムで別のパーティに加入しハンター業を続けていた。
 戦争時には志願し、南部マルタの救護隊員として参戦しており、そこで久しぶりに主人公と再会している。
 戦後も回復魔法の使い手としてマルタでの活動を続けていたが、職場にロキが現れたことで状況が一変。
 共に働いていたスタークスと共にロキが統治するベザートへ向かい、ロキに恩を返したいという思いで病院と学校での講師という2つの仕事を掛け持ちしている。


 ・イリーゴ
 元ベザートのサブギルドマスター。
 ヤーゴフが職業斡旋ギルドのギルドマスターになったのと、新しいベザートも正式にハンターギルドからの運営許可が下りたため、ヤーゴフの推薦で新しいギルマスに就任している。
 念願だった立場に本人は喜んでいるが……
 そう時間も掛からず地獄のような日々が始まることを彼はまだ知らない。


 ・ミルフィ
 元ヴァルツ王国の傭兵ギルドで受付嬢をしていた女性。
 貴族からも声が掛かりそうなほどの美貌の持ち主であり、その容姿と巧みな話術で悩む者に傭兵登録させる仕事も担っていた。
 しかしロキがヴァルツ王国に所属する多くの傭兵を殺したことで経営困難に。
 途方に暮れていたところをロキに誘われ、ベザートへ移住している。
 現在は職業斡旋ギルドの2号館で受付をしており、腕力や戦闘に関連する仕事を求める力自慢達を上手く捌いている。
 しかし来る男達の質が低過ぎて魅力を感じないため、新しく建てられた『クラン』への移動を希望しているらしい……



 〇アースガルド王国――ベザート――西区


 ・ペイロ
 元ハンターギルド、ベザート支部の遺留品管理担当者。
 パルメラ大森林で見つかった謎の遺留品がきっかけで、ヤーゴフの野望に巻き込まれた悲しい過去を持つ。
 ベザートが発展することには賛成だが、リスクを負うくらいなら現状維持を選ぶ保守派。
 ハンターギルド職員ということもあって異世界人の話をちょくちょく耳にしており、自身も元ハンターだったからこそ、異次元とも言える能力保有者に強い恐怖と警戒心を抱いている。
 現在は移民の管理責任者として補佐役のユッテと共に仕事をしており、最初はその若さと容姿に鼻の下を伸ばしたものだが、押し寄せる移民の数があまりに多過ぎて忙殺。
 それでも性格から適当には片付けられず、仕事漬けの毎日を送っている。


 ・クアド
 つぶらな瞳が特徴的な犬獣人で、スチア連邦にある貧しい集落の出身。
 行商をしながら世界を旅していた期間が長く、物の知識や商品価値には非常に詳しい。
 旅の中で偶然見つけた米の地域価格差に目を付け商売を軌道に乗せるも、故意に価格差を生み出し利益を得ていた貴族と商人に目を付けられ潰されかける。
 主人公に救われ、ついでに大きな借金を背負わされていたが、本人はまったく悪い気などしておらず、逆にその場限りの関係性で終わらない繋がりを持てたことに感謝していた。
 元々が貧しいため、ある物はなんでも売ろうとするくらいに商魂逞しい。


 ・ベッグ
 クアドに買われた奴隷。
 元はキウス商会で輸送の仕事をしていたが、野盗に襲われ積み荷を失った責任を取らされ奴隷落ちしていた。
 馬車を扱っていたためそれに関連するスキルは備わっており、その大柄な体格もあって同時に買われた奴隷たち17人のボス的な存在になっている。
 犯罪奴隷ではないため仕事は真面目。
 そんな姿をロキに評価され、ベザートに必要な魔物や動物などの管理者に抜擢された。
 現在は【調教】や【魔物使役】を所持する者達の上に立ち、町の警護用に徘徊しているAランク魔物の管理も一部ロキから引き継いでいる。


 ・パイサー
 ベザート唯一だった装備屋店主。
 元Cランクハンターで、地味に【付与】スキルも所持しているため、田舎町には非常に有難く頼もしい存在。
 事情により妻はいない。
 駆け出しハンターだった子供を亡くしたことから、ベザートのハンター達を何よりも守れる存在であり続けようとしている。
 そのため野心や欲は限りなく薄い。
 現在はクアド商会内部にある装備屋で既製武具の販売をしつつ、ついでに一定の知識があることから魔物の素材や鉱物類も販売している。
 ピンからキリまで、手頃な中古武具が山のように運ばれてくるため、自分自身で製造する機会が無くなってしまったのが最近の悩みの種。


 ・ミザール
 元ベザートの魔石屋店主。
 20代半ばくらいに見える妙齢の女性で、非常に軽く、ノリが良く、クアドと波長が合うと分かってからは、子弟コンビのように二人で独自の世界を突き進んでいる。
 様々な魔石はもちろんのこと、興味のあった魔道具もビックリするほどの量と質を兼ね備えて次々入荷してくるため、そんな魔道具に囲まれて幸せそうに仕事をしているが……
 そんな姿を眺める数人の元奴隷従業員の視線に、本人はまったく気付いていない。


 ・マギー
 ベザートにある雑貨屋の娘で、算術が多少できることからクアド商会に正規雇用された、会計係の若い女性。
 当時は職に困る町民も多かったため、お手伝いから正規に雇ってもらえた幸運な女性として、町の中ではそんなこともあるのかと少しばかり噂になっていた。
 クアド商会やニューハンファレストが人員募集の掲示を出すと、すぐに人が集まる流れを作った陰の功労者であるが、本人は計算の練度を上げるのに必死でまったく気にしてもいない。


 ・ウィルズ
 マルタにある高級宿ハンファレストの支配人だった老人。
 元々はとある上位貴族に仕え、表と裏の仕事を担っていたことから、一部の地位ある者達や実力者からは名が知られている。
 全てを卒なくこなせる非常に優秀な人物であり、また恐れられる人物でもあり。
 戦争で宿に被害が出ていることを予想し、その後の動向に注目している人物も多かったが、資材がまったく入らない中で手を差し伸べた主人公の判断が切っ掛けでベザートの住人になった。
 現在はニューハンファレストという名で貴族や他国の役人など、相応の立場がある来訪者向けに宿を提供しており、ロビーで目を光らせるウィルズの姿を見て、いろいろな意味で安心する宿泊者も多い。


 ・ノディアス
 小金蟻の情報を聞き、故郷であるマルタに戻っていたSランクハンター。
 止むを得ないとは言え、多くのハンター達が国から脱出していく中、祖国を守るために立ち上がった数少ない人物。
 しかし異世界人という、次元の違う存在を目の当たりにして自信を喪失。
 小金蟻討伐は断念し、復興作業を手伝いながら貯めた金でこのまま定食屋でも開こうかと計画している中で、既にベザートへ移住していたウィルズと出会う。
 結果、故郷に近く、料理の修業もでき、面白そうな店もあるベザートを気に入り、料理人としてニューハンファレスト内のレストランで働いている。
 だが日々の修行も忘れておらず、夜な夜なクアド商会裏手の森からは、ズン、ズンと、何かを打ち付けるような重い音が耳を澄ませば鳴り響くという。


 ・レイミー
 Dランク狩場を擁するリプサムの元ギルド受付嬢だった女性。
 その容姿はハンター達からの人気が非常に高く、それだけ請け負う仕事も多かったため、金の勘定や計算には強い。
 夫が誘拐事件に巻き込まれ、誰も動いてくれない現実から、主人公に探索を懇願。
 結果的には夫を亡くし、実家のある田舎町ミールのハンターギルドに勤めていたが、ロキに声を掛けられ、当時の恩義からすぐに移住を決断した。
 その能力を活かし、現在はクアド商会の会計業務や帳簿など、店長クアドのサポートをしている。
 主人公が店に顔を出すとテンションが上がるうちの一人。


 ・ボーラ
 レイミーの母親。
 元々は侯爵家の料理番をやっていたこともあり、貴族向けの料理や素材に精通している。
 ただ貴族の嫌な面も多く見ており、傲慢で偉ぶるような存在に嫌気がさして田舎町ミールに移住。
 庶民向けの小さな料理屋を開いて、手頃な価格帯で食事を提供していた。
 娘に偉ぶるようなタイプの人ではないと説得させられ、渋々転居に同意はしたものの、想像を遥かに超える庶民派の王に、さすがにこんなのでは他国と張り合ってはいけないと強い危機感を募らせている。
 隙があれば指摘して改善を促しているが……
 ボーラのスパルタ教育が先々で役に立つのはまだまだ先の話である。


 ・インド人
 カレーショップ『かぁりぃ』の店主。
 肌の黒さと、カレーを提供してくれるからという理由で主人公が勝手にインド人と思っているだけで、本当にインド人かは分かっていない。
 というか何者なのか、誰も分かっていない。
 作るカレーが庶民向けではないため、現在はボーラに誘われニューハンファレスト内のレストランでその特徴的な味を振舞っている。
 主人公のアドバイスによって生まれた料理『かぁりぃらいす』は、好評過ぎて周辺国で噂になるほど。


 ・ユッテ・モントーレ
 旧ヴァルツ領、モントーレ伯爵家の次女と名乗っていた女性。
 人攫いにとっては入れ食いといってもいい旧ヴァルツ領の中で、さらに質も求め始めたチンピラ共に運悪く標的にされてしまった犠牲者の一人であるが、どこまでいっても貴族という立場が抜けておらず、危うく主人公に放置されそうになっていた。
 後々になって自分を助け出した人物が宗主国の王だと知り、このまま家に帰れば殺されるだけでは済まないと悟った彼女は、移民の一人としてアースガルドに入り、人生を懸けた謝罪を重ねる。
 結果まったく気にしていなかったロキに拾われ、現在はペイロと共に移民の管理を行っている。
 文句も言わず、誰に態度を変えることなく黙々と丁寧な仕事をこなすペイロの姿をよくユッテは見ているが、ペイロは自分の頭皮を気にするばかりで気付いてくれない。


 ・ニロー
 元ラグリース王国監査院、マルタ支部の監査支局長。
 過去の繋がりからあわよくばという気持ちでロキの下を訪れ、結果的にはその日のうちにアースガルド初の諜報機関『暗部』の長官へと就任した。
 当初は母国の安全と自身の出世という打算もあったが、能力の押し上げという想像だにしない補助をしてもらってからは、ロキに心根から忠誠を誓っている。
 各国の諜報機関から『あの国にはヤバいハゲがいる』と噂になり始めているが、まだ本人はその事実に気付いていない。


 ・アウレーゼ
 通称"ボスハンター"と呼ばれる、各地の狩場に出没するボスだけを追いかけるSランクハンターの一人。
 と言ってもその目的は様々で、アウレーゼは主にレイド戦の高揚感と、得られる希少素材から生み出された特殊武具に対しての興味が強い。
 ジュロイ王国に雇われ、討伐隊の運営や商会を通した素材の提供を行なっていたが、クランというより規模の大きな望みができたため、その役目は副長のリュークに任せ、クラン本部のあるベザートに移住した。
 現在はパワレベによる強化を施され、空を移動するための魔物を使役できるように。
 クランの副会長として方々を回りながら勧誘と調整を行い、討伐可能なボスの数を増やそうとしている。





 〇アースガルド王国――ベザート――東区

 ・アマンダ
 ハンターギルド、ベザート支部のナンバー3であり受付嬢だった女性。
 欲には忠実で、男もお金も大好きなギリギリアウト気味のお姉様。
 ハンターは若い受付嬢の前に並ぶので、いつもガラ空きのカウンターで暇そうにしていたが、本気を出せば仕事はかなりできる。
 自称情報通で、噂好きが高じて【聞き耳】のスキルが勝手に育っていった。
 古株で実際情報には詳しく、現在は『新奇開発所』の所長としてロキの案が製品化できるか協議しつつ、町の職人に仕事を振り分けている。
 技術者が自然と集まるようになってきたため、その規模はどんどん大きくなっている模様。


 ・クレイブ
 フレイビル王国のロズベリアで捕まっていた奴隷の一人。
 元々はテリア公国から流れてきた魔道具職人で、あとは売られるだけだったところをロキに救出されてベザートに移住している。
 見た目も性格も真面目な眼鏡男子。
 まだ20代だというのに魔道具を製作できる時点でかなり優秀だが、その分魔法学や魔道具の勉強ばかりをしてきたために恋愛経験がなく、アマンダの毒牙にあっさりと引っ掛かっていた。
 が、本人が幸せそうなため誰も止めようとはしていない。


 ・リー・シャーロン
 ロキに続く二人目の生きた転移者。
 中国人で現れた当初は作業着にヘルメットを抱えていた。
 2つの空白スキルを所持し、ロキと同じようにステータス画面は確認できることから、何かしらの特殊なスキルを抱えていると予想されている。
 と言っても本人は魔物に対して強い恐怖心を抱いており、現在は外へ冒険に向かうようなことはなく町の下水工事を進めながら、集まる技術者に対して地球人ならではのアドバイスをしている。
 裏でアマンダと金儲けの話も進んでいたりするが、ロキはこのことをまったく知らない。


 〇アースガルド王国――サントラス

 ・キリュウ
 アースガルド王国南部の海沿いに作られた魚人の隠れ家『サントラス』の町長的なポジションに立つ魚人。
 物腰は柔らかいが魚穎番衆の一人で、Aランク狩場でも十分狩りを行うことができる実力を持つ。
 案内役を務めながらアルバートの港町を住処にしていた数少ない魚人で、大陸の文化にも非常に詳しい。
 それもあって技術習得のためにベザートからやってきた人間にも理解があり、不和が生じることなく共同生活が送れている。


 ・ケイラ
 先祖返りにより、魚人種の特徴が強く表面化している子供。
 その体表はほんのりと青く、よくよくみれば手や足に水かきのような薄い膜も備わっていた。
 種族固有スキルである【水中呼吸】を所持しているが、活用できた場面は一度もない。
 奇怪な容姿から親に捨てられ、孤児施設にいたところをニーヴァルに拾われている。
 現在は成長したいという思いから拠点を離れ、魚人の隠れ家で同族に囲まれながら海洋の知識や泳ぎ方を学んでいる。




【ラグリース王国】

 〇ラグリース王国-マルタ

 ジルガ・オフィスト・レイモンド伯爵
 ラグリース南部の広域を領地とする上位貴族であり、元Sランクハンター。
 主人公からは心の中でゴリラ伯爵と呼ばれている通り、見た目は違和感を覚えるほどに肌が黒く、対照的に頭髪や髭などは純白に近いほど白い。
 身体も2メートルを超すほどの巨体であり、明らかに普通ではないと思えるほど見た目が通常のソレとは異なっている。
 そのため長く人間至上主義を貫いてきた王国内での立場は微妙なモノで、上位貴族でありながら他の貴族連中とは折り合いが悪い。
 マルタの復興もだいぶ進み、ロキと約束した街道整備の様子を確認しつつベザートへ遊びに行くのが最近の楽しみ。


 ・モーガス
 かつてはレイモンド伯爵と共にパーティを組んでいた、元Sランクハンターでもある使用人。
 家督を継ぎ、正式にレイモンド家の当主となった際、主に付き従うことを望み、ハンターを辞めてでも執事になる道を選んだ。
 レイモンド伯爵が最も信頼している人物であり、実際にラグリース内では並ぶ者を探すのが難しいほどに優秀。
 特に知識は豊富で、国外の情勢も多く耳に入れている。


 ・オランド
 ハンターギルド、マルタ支部のギルドマスター。
 Aランクハンターではあるが、金や権力といったモノに弱く、ギルドを成長させることで武力とは別の力を伸ばそうとしていた。
 しかし戦争で衰えた自身の力量を思い知り、失った片目を戒めとした上で考え方を改めようと、鍛錬や模擬戦をやり始めている。
 現在は復興作業を行いながら張り出た腹と戦う日々。


 ・イーノ
 マルタを拠点に活動するBランクハンター。
 口が悪く軽薄、かなり早い段階でBランクに到達したため、調子に乗っていたところを主人公に凹まされた。
 その後はマルタにAランクの強者が集うようになって現実を知り、口の悪さは変わらないもののハンターの仕事自体は真面目に行なっている。
 Aランクハンターに模擬戦を挑み、倒されては昇格が遠いと嘆く日々。


 ・ララン
 マルタを拠点に活動するBランクハンター。
 イーノと同じく才能に溺れて調子に乗り、上には上がいることを理解してからは比較的真面目にハンター活動をしている。
 元々は知り合い程度だったが、凹まされた同士という境遇もあってか、今ではイーノとパーティ仲間であり恋仲になっている。そのため二人の連携は巧み。


 ・ファンメラ
 ラグリース王国監査院 マルタ支部の監査員。
 主人公と姉を見つけた功績から監査主任に昇格。
 しかしかつて見たリルの美貌が忘れられず、職務よりもあの姿を探し求めることに注力していた。
 戦争による警報が響く中でもそれは変わらず、結果、逃げ遅れて戦死。
 身なりの良い服装から上官だと判断されたため、その亡骸は拷問の跡が多く残り凄惨を極めた。


 ・ジョイス
 元マルタの衛兵長。
 主人公発見時にスキルを確認した功績と勇気が称えられ、一代限りの騎士爵に叙爵。
 レイモンド家に仕えていたところで戦争に発展した。
 街の防衛に大きく貢献したものの、この戦で妻子を亡くしている。


 ・ソルゾイ
 マルタの衛兵長。
 ジョイスの後任として、班長から衛兵長に命じられて間もなくの戦争だった。
 そのため作戦会議中に犯した、領主の会話に水を差すという無礼を未だに引きずっている。
 が、当の本人は無事防衛できた喜びから、そのようなことは既に忘れていた。


 ・セイフォン
 レイモンド伯爵に仕える騎士の長。
 のちに加わったジョイスの上役にも当たる。
 長く仕えていることもあって、騎士長の立場ではあるものの伯爵の良き理解者。
 好奇心が勝るその性格に振り回され、しょうがなくお守りのように同行している。
 内心、何かあってもこの人は死なないだろうと1000回くらい思っているが、決して誰かに漏らしたりはしない。



 〇ラグリース王国-リプサム

 ・エステルテ
 Dランクハンターであり、呪術魔法を得意とする希少職『シャーマネス』に就いていた。
 誘拐事件で夫を亡くし、誘いも受けていたことから国を跨いで東へ。
 その誘いとは積極的に勧誘を行なっていた傭兵稼業であり、ヴァルツ領内でチームを組みながら様々な仕事をこなすも、1年にも満たない期間で主目的であった戦争へ。
 多くの思いを抱えながら中央侵攻部隊に混ざり、絶望の中、主人公の手によって沈められている。
 当然数多といる中の一人であるため、その事実を主人公は知らない。


 ・アルバック
 リプサムの衛兵長。
 奴隷事件の際、ロキに法律の知識と、その法律がまともに機能していない現実を告げた人物。
 マルタ防衛のためリプサムから参戦するも、先行して突入していた傭兵に討たれ戦死している。



 〇ラグリース王国-王都ファルメンタ

 ・ヘディン・グラウト・ラグリース
 ラグリース国王。
 戦争や争いごとを嫌うが故に、損耗の回避を異世界人に頼ろうとする節があった。
 実際に救われてからは畏怖の感情が最も強く、しかし苛烈な性格でもないことが分かったため、名を借り、共に歩むことが平和への近道であると判断している。


 ・ニーヴァル(ばあさん)
 ラグリース王国の筆頭宮廷魔導士であり、ラグリース公表戦力の最上位に位置する『火仙』の二つ名を持った老婆。
 重ねた歳と知識、そして王家3代に渡って仕えた長さから現国王も孫のように扱っており、それが許されるほどの存在でもあった。
 戦争ではその責任を一身に背負い、呪具を使用してでも国を護ろうとするも、最上位クラスの傭兵に敗北。
 しかし国を守った英雄として、その名は深くラグリースの歴史に刻まれる。


 ・ラディット
 ラグリースの近衛騎士団長であり、『槌覚』の二つ名を持つ男。
 戦力としてはラグリース国内で2番手に位置し、戦争では東の境界を破壊するという勅命を受けて無事成功させた。
 その結果10万を超えるヴァルツ兵の餓死者を出している。
 その後は逃げたヴァルツ兵を殲滅するため、抱える兵を指揮する日々。


 ・カムリア
 ラグリース王国監査院の次官。
 平民出から実力でのし上がった男であり野心家。
 異世界人を管理下に置き、その力を利用できないかと画策し続けていた。
 しかし肝心の対象がラグリースを従える宗主国の王となってしまったことで失脚。
 主人公を利用しようとする存在が新たな火種になると危険視され、ヘディン王が一掃したため現在は要職から大きく外されている。


 ・オルグ
 ハンターギルド、ラグリース全域を統括するジェネラルマスター。
 いつもニコニコと、肩を揺らしながら笑っている印象の強い好好爺。
 しかし相当な実力者で、決して怒らせてはいけないというのがギルド内の不文律になっていた。
 ニーヴァルとはお互いにクソジジイ、クソババアと呼び合う仲で、戦後は度々宮殿内の庭園で静かに佇むオルグの姿が目撃されている。


 ・ワドル
 商業ギルド、王都支部2号館の3階で登録許可の判断を下す品評の担当員。
 頭髪が綺麗な7:3分けになっており、いつも主人公にはその髪型で発見されている。
 地図を持ち込んだ主人公を対応したのは偶然だが、その後はお互いに担当意識が芽生え、なんだかんだと率先してやり取りを継続させていた。
 今では品質も信用されており、細かいチェックなどはほとんど行われてない。




【エリオン共和国】

 ・ハンス
 公表している4人の異世界人のうちの一人で、国家元首。
 得意とする【魔物使役】は古代種の竜を従え、【空間魔法】による転移まで可能とする。
 かつてはあまりの実力差に主人公が腰を抜かすほどであったが、そこまで苛烈な性格ではなかったので、現在は友好的な関係を結べている。
 元アメリカ人の酪農家。


 ・タルハン
 腹がぽっこりした中南米出身の元奴隷転生者。
 授かったスキルは【庭師】レベル10、飼われながら貴族の華やかな世界を見続けた男。


 ・ルビエイラ
 ガリガリな上に喉が潰れた元奴隷転生者。
 授かったスキルは【歌唱】レベル10、喉が枯れた後も見世物として舞台に立たされ続けた過去を持つ。


 ・メイビラ
 白い肌に白い髪、ベールのような帽子で顔を隠し、さらに黒い布で目を隠した女性。
 受け答えも特徴的で、疑問形の時だけは特にレスポンスが遅く、上を向いて考え込む仕草をしたのち、ゆっくりと返答する。
 フィーリルは何かを知っているようだったが詳細は一切不明で、立ち位置からエリオン共和国の幹部であることが窺えた。
 誰も知らないとされている【空間魔法】の取得条件を一部でも知っていた人物。


 ・サガン
 狼の獣人で、ハンスをボスと呼ぶ。
 最初に訪れた、2名の元奴隷転生者を癒し場まで連れてきた人物。
 同じくエリオン共和国の幹部であると予想されるが、それ以外は不明。


 ・ドズル
 山羊の獣人。
 会議の場に参加できる幹部の一人であり、やり取りから慎重な性格であることは分かっているが、それ以外は不明。


 ・たんぽぽちゃん
 宮殿内の癒し場に生息している謎のペット(のうちの1匹)。
 体長30cmほどの白い球体型の生物で、触った者を虜にするほどふわふわつるつるした毛並みをしている。
 魔物ではなく動物、調教済みで非常に大人しい。


 ・シグ
 宮殿の入り口付近で寝そべる銀毛の巨大な獣。
 人語を喋り、独特の感覚からロキを強く警戒しているが、共有できないため周囲からはあまり理解を得られていない。




【旧ヴァルツ王国】


 〇旧ヴァルツ王国-グリールモルグ(ラグリースからの玄関口)

 ・ベロイア
 傭兵ギルドの案内人。
 ラグリースから入ってくる者の中で条件を満たしそうな人物に声を掛け、傭兵ギルドに斡旋していた。
 自身も傭兵として中央侵攻部隊に混ざり、主人公に焼かれて戦死している。



 〇旧ヴァルツ王国-ローエンフォート(Bランク狩場エントニア火岩洞)

 ・フィデル
 Aランクハンターであり、レイド主催者の一人。
 囲った後衛の女で編成を固め、募集を掛けた捨て石の近接にボスを削らせながら固定メンバーが安全に、より報酬を得るという仕組みを作った張本人。
 主人公も捨て石要員の予定だったが、予定外にも倒してしまったために計画が狂った。
 囲っていた女も含め、全員が死亡。


 ・アディラ
 ハンターギルド、ローエンフォート支部のギルドマスター。
 種火石を求め、一時的に訪れる足の付きにくい強者が狙われていたこともあり、フィデルの悪行に気付けなかった事実を正式に謝罪した。
 そのような経緯もあり、主人公が始めた転送物流では精力的に町へその情報を流し、ロキに協力している。



 〇旧ヴァルツ王国-所在不明

 ・ジョルジア(爆走獣人)
 旧オーベル跡地で主人公を監視していた、ネコ科と思われる縞々模様の獣人。
 傭兵であり、ヴァルツ国内ランキングは当時35位、爆走という面白い二つ名を付けられていたが本人はカッコいいと思っている。
 勧誘対象として国から依頼を受けていたと堂々宣告されたため、主人公には見逃されていた。
 この男の持ち帰った情報が、ヴァルツ崩壊の大きな要因になっていることを当人は全く把握していない。
 ヴァルツ国内ランキング1位のジオール一派であることを公言している。


 ・ジオール
 ヴァルツ国内ランキング1位の傭兵。
 詳細は一切不明であるが、大陸全土を対象とした非公表のオールランカーにも名を連ねるという噂もある。
 ラグリースへの戦争には納得できず、派閥として不参加を表明。
 結果として生き残ったが、その後は不明。


 ・バリー・オーグ
 ヴァルツ国内ランキング2位の傭兵。
 ハーフエルフであり、本家エルフほどでないにしろ長寿で、ニーヴァルの若い頃も知っていた。
 混血という理由からは忌み子として扱われていた過去があり、望んで里を捨てているため背負うモノが何も無い。
 理解不能な力に潰され戦死、主人公に全てを奪われる。


 ・ファニーファニー
 ヴァルツ国内ランキング3位の傭兵。
 非常に珍しい【獣血】所持者で、他者を自然と圧するその見た目からも強く特徴が表れていた。
 濃さは違うも同じ匂いのするレイモンド伯爵が真っ当な道を歩めていることに強い怒りを覚える。
 変身中の無防備な状態から予備動作に入られ、主人公の【空間魔法】で消滅させられる。


 ・ルエル・フェンシル
 ヴァルツ国内ランキング4位の傭兵。
 国内でも強い影響力を持つフェンシル伯爵家の令嬢で種族は人間、氷血の異名を持つ。
 氷魔法と剣技を得意とする魔法剣士であったが、4位相当の実力があったかは意見が分かれる。
 主人公に燃やされ、唯一残されていた特殊付与武器だけが奪われた。


 ・モゥグ
 ヴァルツ国内ランキング5位の傭兵。
 変わり者が多い傭兵の中では比較的まともで、武人のような気質がある牛頭の獣人。
 強者との闘いを求め、相手にも敬意を払うことのできる男だったが、そのような感情が大きな負傷を負う切っ掛けとなる。
 不死身のように立ち上がるニーヴァルに敗れて戦死、手にしていた武器は戦闘を引き継いだバリーに奪われた。


 ・ビアス=フォウ
 ヴァルツ国内ランキング6位の傭兵。
 1位のジオールと同派閥であることは分かっているが、それ以外の詳細は不明。


 ・ユークリッド
 ヴァルツ国内ランキング7位の傭兵。
 超長距離射撃を得意とする弓の名手、種族は人間。
 鳥に乗り、騎乗効果も上乗せして一方的に魔法の矢を打ち続ける様は恐怖しかなく、総合的な傭兵の評価は非常に高い人物だった。
 しかし、主人公が空を飛べたために撃墜される。


 ・ロブザレフ
 ヴァルツ国内ランキング8位の傭兵。
 剣聖の異名を誇る剣の達人。
 剣の技術だけでなく、剣そのものにも強い興味を示し、全てを注ぎ込んでいた。
 しかし張り合える相手が周辺国では見当たらなくなり、そのせいで全てに対しての意欲がなくなる。
 意欲的でないという理由から8位にされているだけで、実力がもっと上位であることは傭兵全員が周知していたこと。
 バリーや軍部の最高戦力ガルファも、ロブザレフだけにはあまり強く出れないでいた。
 剣の戦いに拘らなくなった主人公に首を毟られて死亡。


 ・エヴィンゲララ
 ヴァルツ国内ランキング9位の傭兵。
 珍しい【土操術】の使い手。
 非常に強いコンプレックスを持ち、被害妄想から弱者相手には苛烈な攻撃を加える。
 しかし強者にはとことん弱く、ゴマを擦って生きてきた結果は上位傭兵になっても変わらなかった。
 主人公にミンチにされて死亡。


 ・ガルファ
 ヴァルツ軍の最高戦力であり、戦争時の総司令官を務めていた人物。
 二つ名は剣仙であり、軍人として必要なスキルは幅広く取得していた。
 軍部の精鋭と傭兵をまとめ上げて総力戦に挑むも、主人公には歯が立たずに死亡。
 全ては雑兵という餌を与えてしまったことが原因だが、その正確な理由には最後まで気付けなかった。


 ・アトナー
 戦争では南部侵攻部隊の司令官を務めた人物。
 二つ名は槍覚であり、軍内では知将としても名が知れていた。
 しかしイレギュラーな存在に全てを壊され、最後は自暴自棄に。
 納得して死ぬつもりが、余計な後悔まで抱えて死ぬハメになった。


 ・ルイド・ベイリガン・ネスト・ヴァルツ
 旧ヴァルツの王で、戦争の元凶とも言える人物。
 転生者マリーにハメられ借金漬けにされ、その金は最後の最後まで道楽のために使われていた。
 自分達王家は神であり、それ以外は自分達を気持ち良くさせるための便利な道具と本気で思っており、その考えがリアと主人公の逆鱗に触れた。
 結果的に王を含む王族は火炙りの末に輪廻の循環から外れ、永劫の罰を背負うこととなった。




【フレイビル王国】


 〇フレイビル王国-ロズベリア(Aランク-クオイツ竜葬山地)


 ・バルク
 現四頭工匠の筆頭であり、転生者マリーの資本で作られた鍛冶屋バルニールの顔役。
 利益追求を何よりも優先したため製造効率は上がり、周囲の金回りは非常に良くなったが、押し通すためにロッジを含む一部の反対派に対して強硬手段を取った疑いがもたれていた。
 結果的には作られた枠の中で金儲けに走っただけと判断されたが……


 ・グロム
 普段はクオイツ竜葬山地を主戦場とする、Aランクハンターの盾職。
 ヴァラカン討伐で主人公以外に生き残った唯一のハンターであり、主人公を命の恩人だと思っている。
 大人で空気も読めるため、再会した時も実力差を理解し、無理な同行やパーティの誘いなどは行わなかった。
 ちなみに大人な対応はここが初ではなく、ヴァラカンの時にも主人公に一度は眠らされたが、床の熱と轟音ですぐに目を覚ましており、フィデル達が一掃される様子は途中からそれとなく眺めていた。
 女神以外で主人公の黒い魔力を目の当たりにしたのはグロムが初であるが、命の恩人であることに変わりはなく、この時も空気を読んで寝たフリをしていた。
 当然主人公はこの事実を知らない。


 ・オムリ
 ハンターギルド、ロズベリア支店のギルドマスター。
 力よりも頭脳と商魂でギルドの長になったタイプで、系統はベザートのヤーゴフに近い存在。
 主人公が【空間魔法】を所持していることに気付き、なんとかその力を町と大陸中央の発展に結び付けようと動く。
 条件付きで転送契約の話が進んだ際には上手く乗せられたと心の中で歓喜していたが、次の国にオークションがあるという事実を把握し、お金が必ず必要になってくることを理解していた主人公が実は途中から乗り気であったことには気づいていない。
 お互いビジネスパートナーとして良好な関係を継続中であったが、主人公が首を突っ込んだ鍛冶工房バルニールの一件から欲を出し、ついでとばかりにレサ奴隷商館や領主の一掃を企む。
 その計画は成功したものの、主人公に警告の意味でやり返されてからは、病人のように痩せたという報告が多数上がっている。


 ・シャイニー・レサ
 かつてレサ奴隷商館のトップだった人物。
 詳しい情報は出ていないが、必要悪程度では温いと判断され、クロイスに殺されたことだけは判明している。


 ・クロイス
 フレイビル国内傭兵ランキング3位であり、レサ奴隷商館の番人と呼ばれる男。
 国内最高峰の暗殺者であり、その技能は権力者も欲しがるため、強さだけではない『力』も多く所持していた。
 本来ならば強い痛みの中で多くの情報を吐くことになるはずだったが、強者ゆえの特権か。
 手を抜いては危険と主人公に判断されたため、あっさりと命を落とすことができた。
 特殊武器『陰虚縛鎖《チェーンウィーカー》』を奪われている。


 ・イェル・サーレン
 商業ギルドロズベリア支局の支局長。
 その立場を利用して、商会などを相手に大口の金貸し業をしていた。
 部下である副支局長が裏でオムリと通じ、手口や貸付額などの情報を流していたため、得意とする権力争いに負けた結果とも言える。
 局長の座を狙っていただけの副支局長にとっては、異世界人が二人も絡むほどの大きな話になるとは思ってもいなかったようだが。


 ・サザラー
 フレイビル国内で最大手となるサザラー商会を纏めていた商会長。
 商売の手腕というよりは、あまり所持者の多くない【魅了】スキルとその妖艶な見た目を武器にのし上がったタイプであり、他の大商会とも様々な意味で繋がりが深い。
 マリーに負けず劣らずの金の亡者であったが、どう足掻いても太刀打ちできないと悟ってからは従順な犬に成り下がった。
 それも金の亡者であるがゆえである。
 そのため主人公が資産のすべてを奪うと告げた時は想像以上に激しく抵抗したが、無表情のまま痛みを与えてくる主人公と、その背後で見つめる女が身近にいる狂った医者と被り、死ぬ以上のことが待ち受けていると悟って抵抗を諦めた。


 ・ミクロ
 元々はアルバート王国でも指折りの医者だったが、その気質が問われて燻っていたところをマリーに拾われ、実験に適しているという理由でレサ奴隷商館に配属された。
 当初は様々な薬の開発と副作用の調査が主であり、それでもミクロ本人は満足していたが、ある時を境に突如命じられた『人造魔人』の実験から道を大きく踏み外していく。
 死ぬ前に活かせる命を活かして何が悪いというのがミクロの持論であり、それは皮肉にもミクロを毛嫌いしていたイェルやサザラーの根底にある考えと一致していた。


 ・アトスターク侯爵
 ロズベリアという大陸中央でも指折りの大都市を手中に収める大貴族。
 が、実際は世襲でその立場を継いだだけであり、とりわけ秀でた能力はなく、仕事は配下に任せてひたすら酒と飯と女を貪る怠惰な生活を送っていた。
 そんなガマガエルのような男にマリーが近づいたことでフレイビルの衰退は急激に加速するわけだが、その時マリーが持ち込んだ手土産は、人間の血がかなり濃い獣人の女だった。


 ・ジャスパー
 フレイビル国内傭兵ランキング34位の獣人。
 潔癖症で他人の汗や臭いが苦手、回し飲みも無理という、この世界にとっては過酷過ぎるハンデを背負っており、常に一人だったことから自然と孤狼という二つ名がついた。
 だからこそ押し込められたゴミ箱は悶絶するほどの耐え難い苦痛で、この男ほど様子を見に訪れてしまったことを後悔した者はいなかった。




 〇フレイビル王国-ギニエ

 ・ホレス
 ハンターギルド、ギニエ支店のギルドマスター。
 いろいろ勘違いし、猫獣人の受付嬢から肉球ビンタを喰らって鼻血を出していたちょっと可哀そうな人。
 根っからの善人で、身銭を切ってでも町の外に救出目的での依頼を出し、町の問題が解決すれば幼い領主のフォローに全力で回った。


 ・アシュー・バーナルド
 元フレイビル国内ランキング25位の傭兵。
 職は不明だが杖を所持する後衛の魔導士で、闇魔法や風魔法を得意としていた。
 人心掌握に長け、弟や妹という自身の、そして組織内の特別枠を作ることで、全体の競争力と忠誠心を高めていた。
 が、実際は自分しか信用しておらず、平気で弟を切り捨てる残虐性を持ち、金の管理は全て自分自身で行なっていた。
 主人公はそんな姿に少なからず自分を重ね、嫌悪感を示している。


 ・アスク・バーナルド
 元フレイビル国内ランキング38位の傭兵であり、組織の中で形上の弟を勝ち取った人物。
 アシューを崇拝しており、兄のために役立とうと邁進していた。
 結果、主人公の実力を判断するための餌に利用され、命を落とす。


 ・ラッド・ノグマイア
 長く地下に監禁されていたノグマイア子爵家の子供。
 偽った家族の死因を国へ報告するための傀儡として生かされており、地下では感情が死んだように生気を失っていた。
 主人公に救出され、現在はノグマイア家の当主として奮闘中。
 主人公も奴隷術を使用するなど相応のサポートはしていたが、町民からのサポートが手厚いのは、ノグマイア家の領地運営が評価されていたからに他ならない。


 ・アンリ
 ノグマイア家で働く給仕係で、まだ幼かったために生かされていた。
 ラッドとは幼馴染であり、丁寧な言葉遣いではあるも、気を使わないやり取りが行われている。
 気になる異性の相手としてお互い意識しているのだが、身分の違いから結びつくかはなんとも言えず。
 そんな微妙な関係を、身体中に藁をくっつけた一人の少年が悔しそうに眺めている姿がよく目撃されている。


 ・サイラル
 ノグマイア家の馬小屋で働く少年。
 ラッドやアンリとは幼馴染であり、同様に子供だからという理由でアシューの粛清からは逃れていた。
 アンリに恋をしているも、アンリはラッドを見ており……
 仕える身として応援したい気持ちと、失敗に終わってほしい気持ちと、ごちゃごちゃに混ざりながら二人の様子を日々窺っている。


 ・ラーベラ
 ノグマイア家で働くメイドで、現在はメイド長。
 最低限一人は仕事を理解している者が必要という理由から、次々と殺されていく使用人達を前に誓いの言葉を吐かされ生かされた。
 バーナルド兄弟を恨みながらもずっと耐えてきたため、今は解放されて精力的に屋敷で仕事をこなしている。



 〇フレイビル王国-王都グラジール

 ・オスカー・ロルフィオン・フレイビル
 フレイビル王国の王。
 多くのドワーフ種が住まう国内の均衡を保つため、またドワーフ種が得意とする鍛冶産業を国内に留めるために代々王家はドワーフの血を取り入れており、身長は140cm程度と一般的な人間に比べればかなり小さい。
 どちらかというと脳筋寄りの王様ではあるが、それは他の王と比較してという意味であり、先々を考えて行動に移す頭は持っている。
 だからこそ、黙って蝕まれるのを待つくらいであれば、対マリー路線に舵を切ろうとしているが、果たして――。


 ロズワイド侯爵
 フレイビル王国の重鎮の一人で、国内の傭兵ギルドをまとめている人物。
 深い事情も知らぬまま主人公をヴァルツの戦争に参加させようとしていたのもこの男だったため、謝罪を受け入れてもらうまでは生きた心地がしないでいた。
 できれば謝罪以外にも伝えたいことがあるようだが……
 また余計なことをしてしまうのではと言い出せずにいる。




【オルトラン王国】


 〇オルトラン王国-サヌール

 ・マグナーク
 ハンターギルドのサヌール支店、その中にある初級ダンジョンフロアで仕事をしている鑑定師。
 特にオークションからの産物には詳しく、希少物品の買取と相場相談も兼業している。
 最初だけ身に着けていた異質な鎧(蒼竜の鱗鎧)に強い興味を惹かれ、とってつけたような理由で持ち込まれるおかしな付与付き装備に驚愕。
 この子供がおおよそ普通ではないことを理解し、今では一番の興味が主人公自身に変わってきている。 


 ・アラン
 ハンターギルドのサヌール支店、その中にある初級ダンジョンフロアのオークション出品を担当している。
 横で仕事をしているマグナークが珍しく興味を示したことから、自然とアランも注目するようになった。
 まるで貴族のような金の動かし方をしているが、傲慢な振る舞いはまったく見られない主人公を気に入っている。


 ・ビクター
 転生者マリーの奴隷であり、初級ダンジョンの仕入れ担当をしている男。
 マリーの名を出せば誰も彼もが押し黙るということもあり、それが自分の力だと勘違いしていた。
 主人公に目を付けられ、現在ではマリーにバレにくい形で飼い殺しにされたまま、マリーの私財を吸収する重要な役割を担っている。


 ・アジオン
 初級ダンジョン内でボス狩りを行なっていたパーティのリーダー。
 30層に子供が一人ということもあり、かなり強く警戒はしていたが、ボスは奪い合いというダンジョン特有のルールに染まっていたため、主人公の思考と実力を見誤る。
 結果、オートヒーリング効果の実験台にされ、治癒されたそばから魔物の攻撃が上書きされていく中、死ぬまでに1時間以上の時間を要したという。



 〇オルトラン王国-ドミア


 ・オーラン男爵
 オルトラン王国南西部の領主。
 田舎ではあるが国内有数の田園地帯であり、流通制限と価格操作を行い利益を貪っていた。
 そのためなら邪魔な商人や生産者を殺すことも厭わない性格であったため、主人公に目を付けられ潰されている。
 最後は暗闇に閉ざされた蟻の巣の奥地で、三日三晩オートヒーリングにより強制的に生かされながら身体を喰われ続けるという凄惨な死を遂げている。


 ・キウス
 領主であるオーラン男爵と結託し、流通制限と価格操作を行なっていた人物。
 国内の主要な町に店を構えるゴールドランクの商人で、特に拠点でもあった田舎町ドミアでの発言権は強い。
 他の商会の纏め役でもあり、オーラン男爵の子飼いである傭兵バーシェを使って相場を崩そうとするクアドを潰そうとしていた。
 自身が悪に染まっていることを自覚し、ただ家族までは極力巻き込みたくないという思いで一人王都に住んでいた。
 商会の在庫や私財はほぼ主人公に奪われたが、想像以上に協力的であったことから、死に方だけは苦しみもない、綺麗な終わり方で死体は遺族に引き渡されている。


 ・バーシェ
 情報を求めてオーラン男爵に飼われていた傭兵。
 順位は不明だが国内ランカーであり、槍の扱いに長け、魔物使役を得意とするその実力はAランク相当のハンターに匹敵する。
 主人公が護衛につくクアドの商団を潰そうとするも失敗、逆に使役する魔物を皆殺しにされた。
 オーラン男爵に辿り着いたあとも協力的であったため、最後は痛みのないあっさりとした死に方をし、仲間と称した魔物と、そして子供だろうと思われる遺骨と一緒に高台の土地で眠っている。


 ・ナムクリッド・オーラン
 オーラン家の長男。
 色濃く当主である父親の性格を継いでいるため傲慢不遜。
 どのような理由があったとしても貴族である父親でありオーラン家が正しいと思い込んでおり、主人公を悪と断定したことで逆鱗に触れる。
 身体を真っ二つにされただけなので、死に方としてはかなり楽な部類。


 ・アルス・オーラン
 オーラン家の次男。
 主人公が対話をした中では唯一常識的な思考の持ち主で、家に仕える者達からの信頼も厚い。
 主人公との交渉、譲歩により、父親を切り捨てでもオーラン家を守ることを選んだ。
 内心ではこの機会を幸運と捉えるほど冷酷な一面も存在するが、まだそのような姿をはっきりと表には出していない。
 当主として、ドミアを含む領内の改革を行なっている真っ最中。


 ・ユース・オーラン
 オーラン家の三男。
 長男と同様、父親の性格に強く影響されており、家族以外を家畜程度にしか捉えていなかった。
 当時13歳という年齢から主人公に見逃され、説教されただけで生き延びる。
 反省しているのか、していないのか。
 今後も生き延びられるかは、監督者となった次男アルス次第。                




【ジュロイ王国】


 〇ジュロイ王国-カルージュ

 ・レイムハルト辺境伯
 ラグリース王国-オーバル領と隣接する、ジュロイ王国南東部に広域の領地を持つ大貴族。
 楽に甘い汁が吸えるという当時の部下の誘いに乗っかり、オーバル領の土地の一部や金、それに早々降伏したオーバル侯爵の私財まで丸ごと奪おうとしていた。
 しかし主人公が介入したことで全ての計画が失敗に。
 8000人の兵が目の前で皆殺しにされてからは悟ったように大人しく言うことを聞いていたため、他と比べればまだ楽な死を遂げている。


 ・オーバル侯爵
 ラグリース南西部に広い領土を持つ大貴族。
 貴族としての特権は十分に得ておきながら、担うべき責務を果たすことなく領民を捨てて亡命。
 そこでも強い権利を主張した上、いざラグリースが勝ったとなれば本気で国へ帰れると思っていた救いようのない人物。
 最後まで反省も謝罪もなかったため、家族含めてゆっくりと捩じ切られるという、拷問のような苦しみを味わいながら死亡しているが、実際に一番苦しい思いをしたのは横にいた妻である。


 ・タナート
 オーバル侯爵の甥にあたり、オーバル侯爵の代理として出兵の総指揮を執らされた人物。
 誰もが向かう先は死地であると理解していたが、それでも国を、町を、家族を守るためにと周囲を鼓舞して戦地である王都へ向かい、そして勝戦後に人の死体しかない町を見て深い悲しみと絶望に暮れていた。
 そのため、オーバル家の捩じ切れた死体を見た時、誰よりも喜んでいたのは身内であるこの男だったが、その気持ちが分かるだけに否定する者は誰もいなかった。
 その後は主人公が裏で手を回したこともあって叙爵。
 広域だった領地の一部ではあるが、男爵として領地運営をしながら復興作業に取り組んでいる。


 ・ロイエン子爵
 オーバル領虐殺事件の元凶とも言える人物。
 失敗したのは介入した主人公のせいだと深く恨むも、全てが明るみに出た際は高を括り、できる限り楽な死を迎えるために王や主人公を挑発していた。
 しかしその考えを主人公に見透かされて、逆の生き地獄に。
 眠ることも許されず、延命のための食事を強制的に摂らされながら、殴られ、刺され、潰され、削がれ、抉られる日々。
 執拗に主人公が回復しに来るため、その生活は各町を転々とした後も一月以上続き、ある時糞尿に顔を埋めて窒息死している姿を発見された時は人なのか疑わしい状態にまでなっていた。
 が、その亡骸さえも虫に食われ、干からびて骨になるまで放置され続けたという。


 ・アロンド王
 ジュロイ王国の国王。
 悪ではないが善良でもないという、ある意味一般的な王であり、そのバランスを取るのが非常に上手い人物。
 そのため主人公の制裁も正直にあるべきことを伝え、自身の命を天秤に掛けたことで躱すことに成功した。
 また戦力として抱えている面は強いが、異世界人ルッソとの関係は非常に良好であり、大陸中央の覇権が難しいと理解してからは西の進軍に備え、無理のない範囲で自国戦力の増強に励んでいる。
 実子に国を継がせるか、それともルッソを国の王にしてしまうか、密かに悩んでいるが誰にも打ち明けられていない。


 ・ルッソ
 自身をシングルチーターと呼び、憧れから【刀術】だけを選択した異世界人。
 生まれた地に刀がないという致命的な問題から奴隷としての苦しい生活を余儀なくされていたところ、異世界人の発掘目的で動いていたジュロイ王国に拾われる。
 とは言っても生活は強く拘束されたものではなく、ラグリースの戦争が始まる前までは《デボアの大穴》で蟻を相手に修行をしていたこともあったりと、本人はかつてと比較して異世界生活を謳歌している様子。
 王を連れ、ベザートでコソコソと買い物や食事を楽しんでいる姿をリルに度々目撃されている。


 ・リューク
 ジュロイ王国西部 《嘆きの聖堂》を主戦場とするAランクハンター。
 アウレーゼと違ってリュークは常駐しており、黄金蟻を求めてマルタに遠征していた時は、リュークがこの場に残って代理で討伐部隊の管理をしていた。
 主人公は既に顔見知りなので問題ないが、唐突に現れた新米ハンターが溜めた骨を荒らしたりしないか。
 監視と勧誘の役割を果たしているリュークもまた、実は裏で国と契約している雇われハンターだったりする。
 アウレーゼがクランを立ち上げてからは、自身が討伐部隊の隊長として国とやり取りしている。




【エルグラント王国】

 ・タクヤ(勇者タクヤ)
 世界で最も名の通った異世界人であり、現エルグラント王国の王太子である人物。
 戦の女神に、あの人物より強い者はいないと言わしめるほど、様々な恩恵を転生時に女神から引き出している。
 自ら『魔王討伐伝』なる本を生み出し、物語の中の主人公と自分を重ねたため、勇者タクヤという名が広く世界に知れ渡ることになるが、その裏で女たらしという噂も国を飛び越え広がっていることを本人は把握していない。
 理想の勇者、理想の自分、理想の異世界と、目の前に迫り来る現実とのズレに大きな悩みを抱えているようだが……


 ・レグナート
 エルグラント王国の諜報部に所属する元Sランクハンター。
 異世界人疑惑が浮上していた主人公を追い続け、そして陰で主人公に振り回されていた人物。
 その足取りはフレイビルの竜葬山地から始まり、オルトラン、旧ヴァルツ領と国を跨ぐ往来を数度繰り返していたが、最終的には『種火』が必ず必要になるであろうと、旧ヴァルツ領のBランク狩場《エントニア火岩洞》で網を張っていた。
 頭一つ抜きん出た強さからすぐに有名人となり、レイド戦にまでちゃっかり参加していたが、その事実までは国に報告していない。


 ・ナーク卿
 エルグラント王国の重鎮の一人。
 各方面への外交を担っている。


 ・セラ
 王城の自室で勇者タクヤを迎え入れた女性。
 親密な関係であることは窺えるが、それ以外は不明。




【ヴェルフレア帝国】

 ・シヴァ
 世界の四強と称される異世界人のうちの一人であり、現ヴェルフレア帝国の元帥の立場に就く者。
 非常に残虐な性格の持ち主であることは広く知られているが、それ以外の情報はあまり表に出ていない。
 リガルが最上位加護<覇者>を与えているのは判明している。


 ・サーシャ
 異世界人シヴァの右腕とされる女性。
 一国の傭兵程度なら纏めて相手にしても問題ないと思えるほどの実力を有しており、その言葉はシヴァをも黙らされる。
 言動から転生者の一人だと思われるが……


 ・キンセ・ドルーチェ
 ラグリース王国内で旧ヴァルツ軍の残党狩りをしていた少女。
 目的は情報収集で、国からの命令により新たな異世界人のスキル構成や戦力を調査していた。
 立場は15番隊隊長であり、旧ヴァルツ国内で12位の傭兵をあっさり潰しているが、それ以外の詳細は不明。




【ファンメル教皇国】

 ・ルクレール司教
 枢機卿の一人であり、教会の新設や神具の運搬などに対して強い権限を持つ人物。
 それ以外は不明。




【ガルム聖王騎士国】

 ・ウォズニアク・クライセム・フォン・ガルム
 ガルム聖王騎士国の現国王。
 齢60を超えた老人ではあるが、一人の聖王騎士という認識も強く持っており、他所の王と比べても腰が軽い。
 元聖王騎士総団長でもあるため実力に申し分はなく、それもあってすぐ現場や町に出ようとしては現聖王騎士総団長のハーゼンを困らせている。
 国内紛争が解決したことにより、あることを心密かに誓ったが、未だ誰にも打ち明けていない。


 ・セトナ・フォン・ニケラート
 クルシーズ高等貴族院の学長。
 女性でありながらこの立場に就くくらい優秀な人物で、魔法学の造形に深い。
 そのため聖魔隊の発展にも活かせると、ロキが放っていた魔法に目を向け研究を開始した。


 ・ハーゼン・フォン・バルクラッド
 ガルム聖王騎士国の聖王騎士総団長。
 血筋ではなく実力だけでのし上がった人物であるため、戦闘能力は国内でも随一。
 専用の赤馬に跨り戦場を駆ければ、万の兵士を相手に無双するほどの実力があるとされ、隣国からは特に恐れられている。
 顔面だけで子供を泣かせられるほど厳つい顔をしているが高所恐怖症。
 ガルム聖王騎士国は世襲君主制ではないため、次期国王になることがほぼほぼ決定されている。


 ・ニトイ副学長
 クルシーズ高等貴族院の副学長だった人物。
 各国の子供達さえ預かっていれば誰もこの国を攻められないと信じ、盾となる学院と自分の立場が守られることを何よりも願っていた。
 そのため異世界人の庇護下に入ろうとする国の選択が許せず、祖国を裏切りマリー側へ。
 結果的には国を裏切った者が頼ったマリーにも裏切られ、奴隷以下の存在へと成り下がる。
 30kg以上の強制ダイエットを成功させた今も、副学長の自室で偽りの手紙を書き続けているが、その姿を見た者はほとんどいない。


 ・ダムラット辺境伯
 ガルム聖王騎士国の最東部に領地を持つ貴族。
 マリーに二択を迫られ、ガルムという国を守るために反乱軍の首謀者として立ち上がり、2年間抗争を続けていた。
 ロキにその動きを止められてからは立場もそのままに国境を守っているが、犯した罪の重さから死地を求める姿勢は変わっていない。


 ・レフィ
 ガルム聖王騎士国出身の少女。
 職業補正もない状態で8歳の時に【剣術】レベル7に到達した異才の持ち主であり、その噂が領主の耳にも入ったため学院への入学費用を補助してもらった。
 しかしその腕前とは裏腹に、性格は大人しく内向的。
 それもあって虐められていたところをノイスに助けられている。
 恩は返したいが他国の王女であるため、領主を裏切ることに繋がらないか悩み始めているが、まだそのことを誰にも打ち明けていない。


 ・リードル・バルバロッド
 オルトラン王国、バルバロッド侯爵家の次男。
 上級貴族の生まれということもあって我が強く、次男であることからある意味放任に近い育てられ方をされたため我儘放題。
 侯爵家という立場もあって誰も止められる者はおらず、虐めの主犯格としてやりたい放題の学院生活を送っていた。
 しかし学院襲撃の直後に一人実家へ帰り、落ち着いた頃に戻ると誰に話しかけても言葉が返ってこないという謎の事態に。
 侯爵家よりも遥かに立場の高いロキの影響がそのまま形になっただけだが、当人は事情を知らないため心を病み、休学を願い出ている。


 ・ノイス・ラ・フェスタル・グリニッド
 大陸北東部に位置するグリニッド王国の王女。
 正義感が強く、虐められているレフィを見兼ねてからは行動を共にするようになり、気付けば気心知れた仲になっていた。
 学院の襲撃事件で救われてからロキに恋心を抱き、しかし立場の問題から必死に隠そうとしていたが、感情が顔に出やすいため周囲にバレバレなことを本人は気付いていない。
 王家の秘蔵書物を土産になんとかロキとの再会を狙うが、果たして……


 ・ユマ
 ロキと同い年の少女。
 クルシーズ高等貴族院の官吏科に通う生徒で、授業には一切出ずに図書院へ入り浸り、書物の読破を目標に掲げていた。
 と言っても時代は変わり、祖母も解読できなかったといういくつかの書物が非公開になっていることを憂いていたが、素性を晒したロキが学院を去ったことで別の可能性を見出す。
 そして彼女は卒業を目前に学院を去ったが、元から試験以外は図書院にしか出入りしていなかったため、その事実を知る者はほとんどいない。




【アルバート王国】

 ・マリー
 四強の一角であり転生者の一人、強欲という二つ名で商人や各国の上層部から恐れられている人物。
 商売人の側面も強く、実際に面識がある者も多いため、老婆だというその容姿は広く知れ渡っている。
【空間魔法】で財を成し、智謀でもって地位を確立。
 周辺国の土地を大した損耗なく奪い続けてきたが、富と土地の奪い合いという意味で目立つライバルのいなかった東の地に、ロキが進出してきたことでその勢いに陰りが見え始めていた。
 現在はアルバート王国の王位を簒奪したものの、ロキを相手にしたことで失ったモノも多く、様々な部分で岐路に立たされる。


 ・シェム
 屋敷でマリーの世話をしている若執事。
 とはいうものの、マリーについた執事の中では最も長く続いており、その立場はもはや参謀のようなもの。
 日々口癖のようにお前は顔と身体だけと言われながらもマリーと意見を交わし、その知識を吸収している。
 そのやり取りは時に自殺行為と思えるほど無礼なこともあるが、マリーの眼差しは孫を見るようなもので、叱咤されることはあってもいろいろな意味で手を出された経験はないらしい。
 父親が特殊な存在というのはマリーにしか知られていない。


 ・レオン・フォート・セルリック
 現アルバート王国の北西に広大な領地を持つ侯爵家の当主。
 実年齢以上に見た目が若く、また女性のような中性的な容姿をしている。
 先代の時代にマリーの打ち出す政策に反対したため中央を追いやられた大貴族の1つであり、アルバートと自領の未来に強い危機感を持っていた。
 そんな中でロキと接触する機会があり、国を立て直そうと死も厭わぬ覚悟で暗躍するも、余計な動きをする者が現れたことで失敗に。
 後日ロキとの対話の中で、その首謀者が自身の派閥に属する者だと知るが、不利になると判断して一切表情には出さずにやり過ごすくらいには肝が据わっており、計算高い。
 お互いに警戒しつつも利用し合う関係を継続中。



 ・ヨシュア
 シェムの父親であり、オールランカーの一人。
 刀使いで、その戦闘能力はマリーも心底敵に回したくないと思っているが、はっきりしたことは分かっていない。
 マリーとは何かしらの約束を取り交わしているらしいが……


 ・ポラン王
 あらゆる欲をマリーに満たしてもらうことで懐柔された堕落の王。
 それはポラン王だけでなく王族にも行われ、等しく価値のない存在へと成り下がっていった。
 全ては結果だと、マリーから移った口癖をよく漏らしていたが、死に際は最後まで自分は関係ないと言い訳を続けながら身体を刻まれている。


 ・ゲンリー
 アルバート王国再北東部に位置する町『ニッカ』に住む資産家であり顔役。
 元々はより大きな港町の商業ギルドで、魚人や貴族を相手に海洋魔物を中心とした取引を行っていた。
 大きな争いもないままアルバート王国に呑み込まれ、同時に本国の者達が各商業ギルドにも入ってきたことで居場所を失ったため、現商業ギルドの体制とマリーのやり方をよくは思っていない。
 そのためイーゴから頼まれた資金援助には快諾している。


 ・イーゴ
 アルバート王国再北東部に位置する町『ニッカ』のギルドマスター。
 地域に住まう民のためのハンターギルドという根底の考え方をしっかりと持っており、ロキとの交渉によって大量に卸されたレモラの多くを町民に振舞った。
 その後は魚人との交易も再び動き始めたが、より安価で気軽に食べられるようにとロキが呟いたヒントを思い返し、ゲンリーの援助も受けつつ鉄板で船底を補強した船の製造に取り掛かっている。


 ・ポージ
 アルバート王国再北東部に位置する町『ニッカ』の商業ギルド支局長。
 大量に入ってきた高級魚レモラを利用すれば大きな点数稼ぎになると、マリーの意向に背いてでも商機と出世を優先して各商業ギルドに大量の手紙を送りつけたが、それ以降はロキが海洋魔物をギルドに卸すこともなかったため全て徒労に終わっている。
 加えて魚人の長が勝手に動いたことが切っ掛けで、大規模な粛清の対象に。
 汚い利益を得た可能性が高いとされ、本人だけでなく家族まで首を斬られている。


 ・トムズ
 旧マラガ領の東部に位置するギアラン地方で、ソース店を営む店主。
 どう考えても地球のアイデアだろうというソースをいくつも売っており、それらのレシピはこの地にいたビスカという天才料理人が生み出したという。
 しかし行方が分からなくなっているようで、この味を守るために苦労している夫婦を見兼ねてロキがベザートに来ないかと勧誘している。


 ・オーリッジ子爵
 宮廷貴族の一人でセルリック侯爵の派閥に属していた人物。
 マリーによるクルシーズ高等貴族院の襲撃によりアルバート国内で唯一子供を失っており、その事実を国がまったく重要視していないことから心を狂わせたある意味被害者。
 子供を殺した国と、自分の子供だけは救わなかったロキに深い恨みを抱き、持ち得る情報の全てを報復可能な力を持つとある国へと流している。
 情報を吐き出させるためマリーは数日掛けてこの男を探し出そうとしたが、本人は火災によって既に灰になっているため消息不明という扱いになっている。


 ・ホーゼ
 アルバート王国の近衛騎士団長。
 国軍のエリート部隊を取り纏める人物でもあるため当然強く、それもあってロキから受ける異質な雰囲気を初めて目にした時から感じ取っていた。
 死に際になぜあのような言葉を吐いたのか、既に意識が混濁していたため当人も分かっていない。


 ・イグリア
 オールランカー28位、種族はエルフ。
 エルフという種の中でもかなり長命な部類で、その歳は2000年を超える。
 そのため暇を持て余しており、退屈しのぎで傭兵稼業に参加していた。
【重力魔法】の他、【精霊魔法】や【魔力纏術】【無詠唱】など、魔法技能に特化した高位の所持スキルは多岐に渡る。
 だがそれ以上がおり、解析されて強みを潰され、動けなくなったところを槍で貫かれて死亡した。


 ・ユーゼス 33位
 オールランカー33位、種族は獣人。
 特級職<竜騎手(ドラゴンライダー)>の一人であり、急を要するため相棒がいない中での参戦だった。
 自在に柄を伸び縮みできる特殊付与武器『如意槍(フューリースピア)』で応戦するも、ロキの張った罠に掛かり身体をバラバラにされている。


 ・ザッハ 
 オールランカー54位、種族は獣人。
 裏の世界で最高峰とも言われている【暗殺術】の使い手で、完全に気配を断つのは当然として、神話(2等)級特殊付与武器『白黙(ミューチャルフィアー)』で世界から姿を消すことも可能だった。
 そのお陰もあってロキに強烈な一太刀を浴びせることには成功したが、ユーゼスと同じく罠に掛かり、最後はロキの第三の腕で頭部を貫かれて死亡している。


 ・ヴァルゴ 
 オールランカー36位、種族は岩人。
 古代人種の1つである岩人族の血が色濃く出ており、皮膚の多くは岩で形成されている。
 それだけでなく種族固有スキル【鉱操術】も所持していたため、その希少性からマリーはヴァルゴの死を大きな痛手に感じていた。
 鉄壁という二つ名が一部で定着するほど物理的な攻撃にはめっぽう強いが、寿命は古代人種の中でも短く、人間と同程度。


 ・シーレ
 オールランカー41位、種族はエルフ。
 イグリアほどではないにしろ長くこの世界を生き、外にあまり目を向けようとしないエルフ種の中でも広く世界を旅した経験を買われ、マリーに重宝されていた。
 マリーが台頭してからはそのほとんどをマリーの屋敷で過ごしていたが、知見だけでなく魔法技能も卓越しており、戦闘時は豊富な魔力で3体の精霊体を同時に出現させて操っている。
 しかし純粋な力には敵わず、接近されたロキに殺されている。


 ・ユーバ
 オールランカー47位、種族は鬼人。
 古代人種の中でもとりわけ発症例が少ない鬼人種の血が強く出ており、その中でも種族固有スキル【呪法】を所持しているのは、マリーが知る限りユーバとユーバの父親の二人だけとされている。
 そのためマリーはなんとしてでもユーバを生かすことを優先した。
 攻防の中で発動させた呪印は今もロキの中で生きており、ユーバは屋敷で一人静かに辿れという命令を待っている。


 ・ビズィ
 種族は人間、元々はオルトラン王国で1位の実力を持つ傭兵であり、【光魔法】と回復系統の魔法を得意としていた。
 55名のオールランカーには含まれていないが、欠番が発生した際の候補として有力な番外の一人。
 偶然にも大きな戦いに参加できたことで、オールランカーに名を連ねる可能性に期待するも、マリーにとっては自分の身代わりでしかなく……
 終始それらしい動きを取るよう指示されたあげく、最後は手を差し伸べられることなく見殺しにされている。




【テリア公国】

 ・ゼクオン将軍
 ガルム東部の貴族会合に参加したテリア公国の軍トップ。
 マリーに見捨てられ、自暴自棄になっていたところでロキに懐柔される。
 と言っても兵を動かす時はロキに連絡するという程度なので、実際の縛りというのはほとんどない。
 それでも一切気付くことなく首に触れられた恐怖から、連絡用に渡された子猫は常に抱き抱えて移動しているため、陰では猫将軍と言われ始めている。




【パルモ砂国】

 ・ヘロイト将軍
 ガルム東部の貴族会合に参加し、マリーと共に侵攻を仄めかしたとされる、パルモ砂国の軍部トップ。
 よりマリーとの関係性が濃いという理由からゼクオン将軍に止められたため、ロキも面識がなくどのような人物かは不明。




【ミノ諸島】

 ・ノトフ
 長らく幽閉されていた魚人種の長老。
 浮遊島の存在を知る唯一の人物で、魚人に利用価値を見出そうとしないロキなら逆に信用できると、魚人種の守護を条件に秘密を教えた。
 ロキが去ったあとは相談役として、ザンキと共にミノ諸島の運営に携わり、アルバート王国との取引を再開させている。
 が、アルバートに対しての恨みは強く、その価格はだいぶボリ気味。
 それでも長らく止まっていた海洋素材とあって飛ぶように売れているという。


 ・ザンキ
 魚人種の精鋭部隊、魚穎番衆の元頭であり、現族長。
 水場の戦闘に関してはめっぽう強く、Aランク狩場《モデア海底谷》で単独の狩りもできる数少ない人物。
 マリーに騙され息子を奪われている。
 ロキが去り際に残した『奪われた子供達を見つけたら連れ帰る』という言葉が唯一の救いになっており、あれからマリーが介入してこなくなったこともあって、未だに真の族長はロキであり自分は代理だと本気で思っている。




【ラナン共和国】

 ・ザウロ
 ラナン共和国を中心に活動するレイドグループのリーダー。
 上級ダンジョンに出入りするような人間を纏めているだけあってその実力は高く、ロキの【心眼】をも弾く。
 当初は利点がないとアウレーゼが掲げるクランへの加入に否定的だったが、ロキが帝国であろうとお構いなしにボスを狩ると宣言してからは意見を大きく変えた。
 元々は帝国に追いやられた大陸西部のSランク狩場から逃げてきたのではないかとロキは予想しているが、真相ははっきりとしていない。
 猿のような金壺眼が特徴的な男。


 ・シュニッグ
 ラナン共和国を中心に活動するレイドグループのサブリーダー。
 ザウロと同じくロキの【心眼】を弾いたことだけは確認されているが、それ以外は不明。
634話 教会の拡張

浮かんだそれぞれの案にどれほどの効果が生まれるのか。

それは分からないが、やらずに後悔だけはしたくない。

その想いで一度意識を内に戻し、各所の土台だけでも最優先に構築しようと町の中心部へ向かう。

大通りから一本外れた、民家が多く立ち並ぶ一角。

その中に立ち入り声を掛けると、長椅子を拭く見慣れたおばちゃんがすぐに反応した。


「おはようございまーす」

「あら、王様がこんな朝早くから一人でどうしたんだい?」

「メリーズさん、すみませんけどちょっと急用で、ここで働いている教会関係者の方達を全員呼んできてもらえませんか?」


すると今までこんなことを言ったことがなかったからだろう。

顔色を変え、慌てて教会の奥へと走っていくメリーズさん。

その姿にちょっと申し訳ないなと思いながら待っていると、神官のトレイルさんやシスター姿の女性達が奥からぞろぞろと現れ、皆が少し緊張した様子で目の前に並んだ。

ふーむ、総勢20名くらいか……

炊き出しの準備を任されている人や、裏に併設されている孤児院の仕事をしている人達も来てくれたようで、想像していたよりも人は多く、そして知らない顔もそれなりにいるが、まあ問題ない。

一度【心眼】を使いながら揃った人達に目を向け、ここに来た目的を告げる。


「突然ですみませんが、本日この教会を全面改装し、その一部を狩場へと繋げる転移施設にしていきます」

「「「??」」」

「それもあって明日以降は少しずつ忙しくなってくると思いますし、教会施設の利用を求める声も多くなるはずなので、皆さんの中にトレイルさんのような神官になりたい方っていらっしゃいますか? やる気があるなら人数は問いませんし、女性の方でも構いませんので」


そう告げると、数秒場が静まり返ったあとに溢れるような疑問の声が届き始める。


「ぜ、全面改装って今から!?」

「いや、それより転移施設ってなに……?」 

「ちょっ、ちょっとお待ちください! 神官は長年の厚い信仰を認められ、女神様から拝命頂くことで就ける神職ですよ? 希望したからと言ってなれるものでは……」

「そうよねぇ……それに神官って男だけの仕事なんじゃ……?」


通例にないことをやろうとしているのだ。

言いたいことはよく分かるが、しかし全てを事細かく説明していたら日が暮れてしまう。


「えーと、皆さんが疑問に思う気持ちはよく分かりますので、とりあえず重要な部分だけ――転移施設は言葉の通りです。この教会の一角に転移用の魔法陣を敷き、とある狩場とこの教会を直接結びます。なので今後はより多くのハンター達がこの教会を訪れると思ってください。そしてトレイルさんが口にした通り、希望者が必ずなれるとは限りません。ただ生涯神官として、神職に就くという強い覚悟が認められれば、若い女性の方であろうとなれる可能性は十分にあります。神官が男性のみというのはファンメル教皇国が作りあげた規則なだけですから」

「そ、そんなことが、本当に……?」

「ええ。そして認められさえすれば、あとは僕が押し上げます。どの国の神官よりも女神様の意志である【神託】が受けられるように」


すると、ポツポツと手が挙がり始める。

メリーズさんに、一番初めの頃あいさつを交わした若いシスター、それに移民の人だろう。

炊き出しや孤児院の仕事に回っているという人達も含めて計5人か。


「では希望された人達は神像の前へ。改めて生涯を通し、神官としての職務を全うする覚悟があると、心の中で誓い、祈ってください」


そうして配置に着き、手を合わせて瞳を瞑りながら祈り始めた人達を眺めつつ、心の中で呟く。


――【神通】――


『アリシア。準備できたから、ちゃんと覚悟ができている人だけお願い』

『分かりました。今確認します』


すると、暫くして5人がそれぞれに反応を示した。


「ッ!?」

「あっ、本当になれちゃった……」

「わ、私もです! 【神託】を取得したって……!」

「凄い……これが噂に伝え聞く神の啓示……」

「おお……女神様……ッ! 心より感謝を……!」


『全員問題ありません。神官として生きる覚悟ができているようでしたので、【神託】を与えました』

『オッケーありがと。あとはこっちで引き上げておくよ』


さて、人数も想定以上に確保できたし、これで第一段階はクリア。

突然の流れと得られた結果に、中には涙を流すほど喜んでいる人もいるようだが、本番はここから。


「では次の工程に入りますので、皆さんには先ほど誓った覚悟を確かめさせてもらいますね。あ、せっかくですから、トレイルさんもご一緒に」

「え、私も……?」

「ええ。何か興味のある趣味や仕事にこれから心血を注ぎたいということでしたら、無理にとは言いませんが」

「と、とんでもない! 私は身も心も女神様に捧げておりますので、どうぞいくらでもお確かめください!」

「ふふ、ではトレイルさんも、より高みに。皆さん僕の手に触れて、そこからは動かないでください」




▽ ▼ ▽ ▼ ▽




「ロキ王様、じいさんの意識も戻って全員終わったよ……」

「あ、お疲れ様です。こちらもあとちょっとで改装が終わりますから」


振り返ると先ほどお勤めを終えた6人の神官が、それぞれ酷いとしか言いようのない表情で立ち並んでいた。

トレイルさんなんて土色の顔してぽっかりと口を開け、目を閉じたまま立っているので実は死んでいるんじゃないかと疑わしくなるが……


「うん。全員【神託】はレベル9まで引き上げられたみたいですね」


目標値に全員が到達していることを確認すると、メリーズさんが恨み事を吐き出すようにぼやく。


「あんな覚悟の試し方なんて聞いたこともないよ……何回死んだと思ったか分かりゃしない……」

「うぅ……ほんどに……もう゛二度とあんな所に行きだぐありまじぇん……」

「はは……本当にお疲れ様でした。でも皆さん、あの場で必死に耐えたからこそ世界への貢献が満たされ、【神託】だけでなく確かな強さも得たわけです。ぜひその力で困っていたり虐げられている人達がいたら助けてあげてください」


そう告げると、元から教会で働くくらい志の高い人達だからだろう。

パワレベには納得していないけど、その目的には納得したような……

死にかけていた瞳に光が戻り始める中、孤児院で子供の世話をしているという中年の女性が疑問の声を上げる。


「あの奥にある魔法陣が先ほどの場所と繋がっているんですか? ここにあの大きな竜とかが湧いたら大変なことになると思うんですけど……」

「ああ、それは大丈夫ですよ。あの2つはそれぞれもっと弱い魔物がいる狩場と繋がっていますし、『安置』と呼ばれる魔物が入り込まない場所に設置しているので、あそこから急に魔物が湧くようなこともありません。なので先ほどの場所は少し特殊。諸々の理由からまだ早いと判断して繋げないようにしているので、町の安全のためにも口外しないようにお願いしますね」

「「「……」」」


F~Dランクまでの『草原エリア』とD~Bランクまでの『城下町』エリアまでなら各方面にも似たような狩場はあるのだから、リスクを冒してまで他国が何かを仕掛けるメリットは薄いだろう。

しかし、B~Sランクの魔物まで出現する『城内エリア』はランクの希少性や素材の有用性を考えると、狩場を奪う目的で転移陣の奪取を狙ってくるとか、そんな思い切った判断をしてくる可能性もあり得なくはなさそうだからな……

解放したってまともに狩れる人などほとんどおらず、素材も貴族連中相手にぼったくっている最中なのだから、自衛手段もまだ整っていないこのタイミングで存在を公表する利点は限りなく薄い。

改めてそんなことを考えていると、少しは生気を感じられるようになったトレイルさんが虚ろな目をしたまま口を開く。


「そ、それは承知しましたが……ロキ王はなぜ魔法陣を教会に? 本来であればハンターギルドが適切かと思うのですが」

「僕も当初はそうしようかと思っていたんですけど、向こうはここと違って狭いというか、大通りに面していて周囲はお店だらけなので、あれ以上の拡張が難しいんですよ。それに通うハンターや町民の方達をもっと成長させたかったというのもあります」

「成長……だからこうして神官の数を増やしたというわけですか」

「ええ。今までのようにトレイルさん一人では日に3回しか職業変更の対応をできなかったのが、これで日に54回対応できるようになったわけです。職業選択をもっと身近に――そうすることで町全体の成長も早くなるかなって」

「それであのような指示書と、改装を……」


トレイルさんが意識を失ったのは、城内の狩場に強制連行したからではなく、俺が渡した指示書とその中にある変更点が原因だ。

長く教会の仕事に携わっていた人ほど衝撃を受けるのだろうけど……


「この町――いや、この国に住む人達の成長は皆さんの働きに掛かっているといっても過言ではありませんから、無理がない程度にお願いします」


そのように告げながら頭を下げ、最後に教会用として複製した職業一覧の本をトレイルさんに渡してからハンターギルドへと向かった。
635話 いったい誰から

 ロキを見送ったあと。


「じいさん、大丈夫なの? なんなら今日は家帰って休んでなよ」

「いえ、あまりの衝撃に受け止めきれなくなっただけで、もう大丈夫ですから。それよりどうなったのか、この目で確認させてください」


 70近い高齢ということもあってメリーズが横に立つトレイルを心配するも、当の本人は問題ないと首を振り、背後に立つ教会を見つめる。

 数度足を運んだラグリースの王都ファルメンタにある中央教会を思わせる、神殿のような荘厳な雰囲気を漂わせた佇まい。

 それは朝まで存在していた、雨風凌げる倉庫のような外観とは雲泥の差といってもいいくらいに見違えていた。

 大きく開かれた入り口の手前には石柱に囲まれた広いスペースが存在しており、左右それぞれの突き当りに人の背丈ほどもある大きな魔法陣が2つずつ。


「左が入り口、右が出口ですか……ここには『草原エリア F~Dランク』と書かれていますが、反対側は違うのですか?」


 トレイルが問うと、倒れている間にロキの作業工程を眺めていたメリーズが答える。


「反対側は『城下町エリア D~Bランク』って書かれてたね。荷車や馬車も転移可能だからこれだけ広くして、脇にあるハンターギルドの出張解体場まで直接運べるようにしたって言ってたよ」

「なるほど、だからあのような立派な倉庫まで」

「それでも奥の孤児院とか炊き出しの場所もあるからね。ロキ王様からすればあれでもまだ全然小さいみたいで、いずれこの辺りにもっと大きな倉庫を作るって言ってたけど」

「ふむ……」


 先ほどまで自分達が見ていた魔物の大きさを考えれば、より大きな倉庫も必要にはなるだろう。

 しかしそうなると、立ち並ぶ周囲の民家はどうするのだろうか。

 トレイルは疑問を抱えながら教会の中へ足を踏み入れ、飛び込んできたその光景に唖然とした。


「……18体、本当に用意していたのですね」

「だね。しかもこれで混むならもっと増やすって」

「……」


 指示書の通りだ。

 長椅子が並ぶ礼拝堂の奥には、今まで置かれていた6体の神像と同じモノが2組追加され、1組はこれまでと同じく中央で6体が固まるように。

 そして左右には計12体の神像がずらりと等間隔に並べられていた。

 不安や希望を抱えてただ祈りたい者もいれば、スキルの取得や成長を願う者、職業選択を望む者だっている。

 利用者が増えても長時間待つようなことはなく、誰でも気軽に活用できるように――そんな王の考えは自身のスキルを表す黒曜板の数にも表れており、トレイルが入り口に向かって振り返ると、その左右には合計10の小部屋が設けられていた。

 全て扉はない半個室のような状態になっており、部屋を覗くと少し斜めに設置された黒曜板の背面と、利用者がいるかどうか判別できる程度に人の姿も映るようになっている。

 大きな町であれば複数の教会が存在していても珍しくはないが、1つの教会に女神像や黒曜板が重複して置かれるなど前代未聞。

 当然こんな事態をファンメル教皇国と下部組織の教会本部が許すわけもなく、逆にこれほどの数となれば喧嘩を売っているくらいに思われても仕方がないだろう。

 しかもだ。


「これだけ数を増やした上で、黒曜板を利用した所持スキルの確認は無料に。職業選択は最低50万ビーケから一律10万ビーケにするわけですか……」


 頂いたお布施は一度全てを国に納め、それとは別に教会や孤児院を維持する上で必要なお金を国から頂くというのが、ラグリースでもこの国でも行われているお金の流れ。

 教会本部によって定められた金額を崩してまで安くするということは、ロキ王が帳簿を偽るなりして報告を上げるつもりか、もしくは教会本部へ納金する予定がないかのどちらか。

 教会関係者の立ち合いもないままこのような変更を加えているのだから、まず9割9分は後者と見て間違いないだろう。


「メリーズさん……ロキ王は教会本部と――ファンメル教皇国と争われるつもりなのでしょうか……?」


 事実として職業選択のハードルは高く、やりたくてもできないという者が多いのだから、教会利用者の側に立って動こうとしているロキの気持ちは痛いほど分かる。

 だが教会本部やファンメル教皇国との関係が拗れれば、まず教会の維持そのものに支障を来たし、最悪はロキ王やこの町に災いが降りかかるだろう。

 願わくはこれまでのように、争いなどない平和な日常が続いてほしい。

 その想いで横に立つメリーズに問うと。


「さぁね。お偉いさん達の考えることなんて私には分からない、けど……」


 何かを言いかけたメリーズは会話を止め、こっちに来いとトレイルを手招きする。

 その様子にトレイルは訝しげな視線を向けながらも、ああ、これは内密な話かと。

 理解を示してメリーズの後をついていくと、その足は教会の端で止まるが……

 続くメリーズの言葉はトレイルの想定とはまったく異なるものだった。


「ほら、じいさん。近くで見たらよく分かるだろう」

「ん?」

「新しく設置された神像はどれも輝くように白くて綺麗なんだ。ロキ王にどうしたのか聞いたら"譲ってもらった"って言ってたし、上同士で話はついてるんじゃないの?」

「……」


 言われて気付いたトレイルは、はっと目を見開き中央に立つ6体の神像と見比べるも、差は一目瞭然だ。

 いくら磨こうとも経年の劣化によりくすんでしまった中央の神像とは違い、追加された神像は純白のような真新しさが感じられた。

 ――そして、強い疑念を抱く。

 トレイルはてっきり、ロキがまたどこかの潰れた町から回収してきた『神具』を勝手に置いているのだと思っていた。

 この教会が初めてできた時も、神像や黒曜板は以前のベザートから運んできていたのだし、数が数なのだから自然とそのような発想が浮かんでしまうのも仕方のないことだろう。

 しかしこの神像は、どこかの町に置かれていたような雰囲気がまるでない。

 つまりは新品――教会本部が卸したということになるが、それはそれであり得ないとトレイルは確信していた。

 神像や黒曜板といった神具に関しては、徹底して教会本部が輸送から配置までの全てを担うというが通例だ。

 長く教会に携わってきたトレイルでも、それ以外の例というのを未だかつて一度も耳にしたことがなかったし、何より信仰の強さをお布施の額で判断するくらいに金の執着が強いのだ。

 そんな本部が大事な神具を大量に"譲る"など、いくら力ある異世界人が相手であったとしてもあり得ない。

 それはアルバートや帝国といった、異世界人を要する大国に対しても、未だ強い影響力を持ち続けるファンメル教皇国の姿からも容易に想像できるだけに――


「ロキ王は、いったい誰から譲られたのでしょう……」

「……」


 咄嗟に浮かんだ疑問を吐き出すも、その答えを返す者は誰もいなかった。
636話 33種

 時刻は19時過ぎ。


「よーし。もういい時間だし、そろそろ片付けて飲み行くか」

「おっ、今日もまたあの店っすか?」

「あたぼーよ! ウサ耳のチーコちゃんが俺を呼んでるからなぁ~」


 最近町の中央区にできたコンセプト酒場なるものにドハマりし、解体場主任のロディが締め作業の指示を出すと、丁度そのタイミングで焦った男の叫び声が木霊する。


「ま、待って……今日は帰らないください! これから緊急の会議です!」

「え?」


 それはハンターギルドベザート支部の元サブマスであり、ヤーゴフが職業斡旋ギルドに移った今はギルマスを務めるイリーゴのものだった。

 事情は分からないが、ギルマスの指示となれば無下にはできない。

 渋々といった様子で解体場の面々がイリーゴについていくと、一番大きな応接室には受付嬢や会計事務の人間など、ハンターギルドの職員が勢揃いしていた。


「おいおい……とんでもない事件でも起きたのか?」


 自分達だけじゃないことにまず驚くも、集まっている面々はただゲンナリしているだけというか、事態を深刻に捉えているような雰囲気があまり感じられないのだ。

 そのため、新米ギルマスが早速何かをやらかし、これから応急処置に追われるのだろうと。

 ロディは場を和ます冗談のつもりで口を開いたわけだが。


「ええ。事件ですね、間違いなく」


 イリーゴは真顔で言葉を返し、同時に1冊の本を皆が見えるよう机の上に置いた。

 そして全員が自然と首を傾げてしまう言葉を吐き出す。


「まずは見ていただいた方が早いでしょうから、こちらを。先ほどロキ王から提供されました、新しいうちの資料本になります」

「は?」

「この、武器になりそうなくらい分厚い本が……?」


 誰も言っている意味を理解できず、ただただ本を見つめて固まる中――ギルマスに次ぐ年長者のロディが恐る恐る手を伸ばす。

 そして皆にも見えるようにぱらぱらと1ページずつ捲っていくも、やはりその場の沈黙は変わらない。

 と、途中で動きを止めたロディがイリーゴに視線を移した。


「……意味が分からないんだが、パルメラ全域の魔物情報を纏めてうちの管轄にしたってことなのか?」

「違いますね……紛れもなく、今後うちで取り扱う魔物情報が詳しくそちらに記されています」

「どういうことだ? この近くにDランクやらCランクの魔物なんていないだろう? しかも、これほどの種類……」

「正式な決定はギルド本部が狩場の現地視察を行ってからとなるでしょう。しかし実質的には本日から、そちらにも記されている『草原エリア』のF~Dランク魔物15種、『城下町エリア』のD~Bランク魔物15種。それに既存のパルメラ周辺に生息しているフーリーモールに、ルルブの森のフォレストウルフとリグスパイダーの3種――重複を除いたこの計33種がうちの管轄になるということで間違いありません」


 そして事の経緯――ロキが転移陣なるモノを設置し、2つの狩場と教会を一瞬で行き来できように繋げたことを伝えると、徐々に現実味を帯びてきたのか場が騒めく。


「う、うちが、Bランク狩場の管轄……?」

「いやいや、それもヤバいが扱う魔物が33種って、そんなギルド、大陸全域探したって存在してないだろ!?」

「っていうか、どこにそんな素材を置く場所があるのよ……それに受付だって3つしかないわよ!?」

「皆さん落ち着いてください! 確かに33種もの魔物を扱うギルドなど他に存在しないでしょうが、先ほどヤーゴフさんにも相談してきましたので、人材を雇用して必ず回しきれるように私が動きます。それにこうして狩場が湧いて出てきたような状況なのです。広く認知されるまでにはそれなりに時間が掛かると予想されますから、その間にベザート支部の2号館を建造することも予定していますのでご安心を!」


 いきなり混み合うようなことはなく、利用するハンターが増加しても増員と増築で対処する――宥めるようにイリーゴが説明したことで多少は皆の不安も取り除かれるが、しかしロディだけは目を細め、再び資料本に目を向けていた。


「ギルマス。素材置き場だけは追々じゃ間に合わないぞ。上位ランクになるほど魔物の図体もデカくなる。こんな『F』と『E』ランクを想定して作られた小規模ギルドじゃ、下手すりゃ10匹程度持ち込まれただけで許容を超える」

「そこは問題ありません。先ほど私も確認してきましたが、ロキ王が教会の敷地内に『出張解体場』を建造していました。このギルドよりも大きい建物全てが解体場で、地下にはロキ王独自の巨大な冷凍設備まで整っていましたから、あの規模であれば当面はもつでしょう。なのでロディには明日から解体員をもう一人連れて、そちらで働いてもらうことになります」

「え!? ちょっ……待て待て! 俺が今まで解体していたのはEランクまでの魔物なんだぞ? やたらと詳しく金になる部位なんかも書かれちゃいるが、そもそもCランクやBランクなんて刃がまともに通るかも分かんねーよ!?」  


 いきなり解体しろと言われても無理があるし、それならできる人材を雇ってから動いた方が間違いない。

 そうロディは訴えるも、なぜかイリーゴは笑み湛えた。


「その点も問題ないでしょう。横の応接室にロキ王が解体用にと置いていった、アダマントやダマスカス製の武器がいくつもありますので」

「ま、マジかよ……」

「しかも、それらの武器を使ってなお解体が難しいと感じるようなら、ロキ王が直接皆さんの力を押し上げてくれるそうなので、その時は遠慮なく私に言ってください。……ただあの子が昔、毎日ボロボロになるまで身体を酷使していた姿はよく見ていましたので、どんな修行になるのか、想像すると少し怖くなりますけどね」

「「「……」」」


 相手がただ金と権力だけを持つ王などではなく、現場を知り尽くした生粋のハンターであるが故に、これ以上言い訳の言葉が出てこなくなったロディは、せっかく人が増員されてここ最近は落ち着いてきたのになぁと。

 天井を眺め、甘えた声で酒をおねだりしてくるウサ耳のチーコちゃんを思い浮かべながらぼんやり考える。


「……給金、増えるのか?」

「各国に1つあるかないかと言われている高位狩場の管轄になるのですよ? 忙しくなる分、軌道に乗れば皆さんの給金は数倍に引き上がると思ってください」

「「「う、うぉおおおおお!?」」」


 そう告げると、先ほどとは違った意味で場が沸き、大騒ぎする若い部下達。

 そんな姿を目にして、ロディとイリーゴは思わず苦笑いを浮かべた。
637話 新たな町の計画

 教会と狩場を繋げ、その情報をハンターギルドだけでなく、商人達が溜まる馬車の停留所にも立て看板を設置し宣伝しておいた。

 これで早ければ今日からハンターや憲兵団に所属している一部の人達が通い始め、その情報が町の外にも伝わっていくだろう。

 となれば、次だ。

 相談していた空き地を求めて町の南へ向かうと、左手に見える職業斡旋ギルドや右手に広く存在する移民区も少し越えた辺りで、ようやく通りに並ぶ商店が途切れて更地に変わる。

 南北と東西に延びるいくつかの大通り沿いは民家の建設を禁止しているようで、その奥の細い通りからは家がポツポツと立ち並んでいるが……


「ん~邪魔にならない程度に余裕はもたせて……」


 よくある商店で言えば20店舗分くらいのスペースを確保し、土地を整地。

 そこから半日掛けて石や鉄を成形しながら、頭の中で描く砦のような建造物を作っていく。

 そして――


「思ってたよりも大きいし、物々しい雰囲気なのね……」

「ふむ、これが町役場というものなのか」


 ヤーゴフさんとアマンダさん。

 いろいろと協力を願いたいこの二人にその中身を確認してもらう。


「2つの施設がくっついているというのもありますし、万が一を考えてかなり壁を分厚くしていますからね」

「なるほど……カウンターが5つに、奥は事務所か。ハンターギルドと同じように受付の業務を円滑にできる者と、管理や数字に強い者を数名用意すればひとまずは問題なさそうに見えるが、力仕事もあるのか?」

「いや、住民情報が書かれた薄い木板と燃料の魔石をちょくちょく地下に運ぶくらいですからね。護衛は魔物にやらせる予定ですし、力に自信がなくてもまず問題ないと思いますよ」

「ほんとに? 少なくとも私は魅力に感じたし、西でも東でも戦争だっていう話を聞くと、すぐに情報が広まって希望者が殺到しそうな気もしちゃうけどね」


 この二人と、日中なので今は来れないがダンゲ町長にも時間を作ってもらい、転移陣を利用した新たな町の計画を伝え、その中身を煮詰める相談もしていた。


 基本的には居住区のみで、外敵から発見されないことを一番の目的とした、アースガルド第二の町――『ギムレー』

 いずれはベザートと同等か、もしくはそれ以上の規模も視野に入れ、発展と安全の両立を目指すアースガルド第三の町――『ウートガルズ』


 ベザートは入り口の町として良くも悪くもオープンであり、入国税がないため他国の人間も自由に出入りできるが、新たに作る2つの町はまったく質が違う。

 転移陣でしか辿り着く道がないためどこにあるかも分からず、その出入りもこの町役場で住民登録を行い、町によって異なる毎年の『住民税』と求める土地の規模に応じて初期段階に発生する『借地税』。

 それに荷車や馬車と共に通ろうとする時は、都度発生する『物品通行税』をしっかり納めた者だけが転移陣を利用できるという限定的なものだ。

《夢幻の穴》さえ経由すれば、なんでも魔力消費が1で済むようならここまで税を取る必要もなかったが、出口が違えば普通の転移と同じ。

 距離や移動したモノの体積によって多量の魔力を消費するので、いくつかの形で税を取ったところで、結局その半分以上は転移陣を動かすための魔石代に充てられることだろう。

 まあそれでもある程度は残る計算なので、今後そのお金をどこに回すべきなのか。

 ぼんやり考えながら肌触りの良い石材のカウンターに二人を案内し、用意していたモノをその上に置く。


「1週間後くらいを目途に開通させる予定なので、とりあえずアマンダさんに至急用意してもらいたいものが2つ――ハンターのギルドカードと似たような『丈夫で薄いカード』と『カレンダー』です」


 すると二人の視線は見慣れたギルドカードではなく、地球と同じ365日分の日付が書かれた木板のカレンダーに注がれた。


「えっと、これは……暦でいいの?」

「ですね。アルバートでは普通に売られていたので、参考にしてもらうには丁度良いかなって」

「ふむ……月の満ち欠けで判断していたが、こうして数字に表されると分かりやすいものだな」

「これでお互いに今日が何日なのかを把握することができるので、特に第二、第三の町へ移り住みたい方達には持っていてほしいんです。まあ強制はできないので、ここの壁に大きなカレンダーと今日の日付を分かりやすく貼り出そうとは思っていますけど」


 住民税は最低1年からの年単位であとの期間は任意の先払いとし、1年なら1年後の有効期日を打刻して通行証カードを渡す。

 そのためにも今までのようなざっくりとしたモノではなく、正確な日付を皆には把握してもらいたい。


「これ、凄く売れそうよね。ちなみに作ったら、ここでも販売してもらえるの?」

「もちろんその予定です。これは6枚の薄い木板で1年の暦が表されていますけど、卓上だったり1枚だけで全てを表記したりと僕がいた世界でもデザインは多様にありましたから、ぜひこの町の人達にウケそうなモノを作ってください」

「了解。これなら見本さえあればどうにでもなりそうだから、纏まった数を何種類か作ってみるわ。ギルマス、とりあえず日雇いでこっちに人を回してもらえない? 数は100人くらい、もっと多くても受け入れるわ」

「うむ。明日の朝には新奇開発所の名前で募集の貼り出しをしておこう。日当は力仕事でないことを考慮すると1万ビーケ辺りが現実的だと思うが、希望はあるか?」

「ううん、それで構わない。ただ材料が間に合うか不安だから、木材の調達と切り出しの方でも募集をかけておいてほしい。そっちは日当1.2万ビーケでいいから」

「承知した」


 ん~やっぱりこの二人を同時に呼んで正解だったな……

 目の前でぽんぽんと進んでいく話にそんなことを思っていると、再びアマンダさんからお声が掛かる。


「で、カードの方はハンターギルドのカードとまったく同じようなものでいいの? それならこの町の工場で作られているから、ハンターギルドで使っている打刻機と一緒に量産の依頼をお願いしておけばすぐに済むけど」

「大丈夫ですよ。ただ欲を言えばどちらの町か一目で見分けがつくように、片方の色を変えてもらえたらありがたいかなーと」

「あ~色ねぇ……」

「ならば1つを銅にすればいいだろう。素材価値も低く安定的に入手できる」

「おお、鉄と銅なら見分けもつきやすいですし、それ良いですね。あとはギルドカードと同じように、首から下げられるよう穴だけ空けておいてもらえると最高です」


 よしよし、順調だ。

 これであとは転移先の環境さえ整えておけば、滞りなく進む。

 混乱を避けるのと、既に建てられている家の移動をそこまで一斉には行えないため、大々的な告知まではしないが……

 こうして町の顔役から少しずつベザート以外の町が作られていると伝えてもらえれば、多少のお金でより確かな安全を買いたいと願う人達は、きっとこの町にも――……

 少し先の未来を考えながら二人をもう一つの施設へ案内しようとすると、ついてきたのはアマンダさんだけで、ヤーゴフさんはその場に立ったまま険しい表情を浮かべ、俺を見つめていた。


「だが、それは複製もしやすいということだ。許可などされていない敵の侵入を許せば前提が崩れ、逆に住民は逃げ場がなくなる」

「「……」」

「昨夜もその点は大丈夫だと言っていたが、私にはどうにも納得できなくてな……もしだ。私が仮にアマンダの通行証を奪い、成り代わってその転移陣とやらを通過しようとしたらどうする?」

「【探査】で通行証に表記された名前と本人が一致しているか確認すればすぐ分かりますね。仰る通り、町の安全を揺るがす重大事案ですから、侵入を試みようとした者はその時点で死罪が確定します」

「では私の【隠蔽】がもしレベル10だった場合は?」


 ヤーゴフさんの試すような眼差しは、きっと本人も極論を言っている自覚があるのだろう。

 それでも今のベザートよりさらに安全な町になると、俺が言い切ったその根拠を知りたいのかもしれないが……


「……それこそ僕が敵の立場として誰かの通行証を奪い、後々のことなど一切考えずに力ずくで転移陣を通過しようと思えばできるでしょう。なので100%安全かと言われるとそういうわけではありませんし、そんな場所は探したところでこの世界に存在するかも疑わしいと思っています。僕だって寝首を掻かれて死ぬ可能性はいつでもあるわけですから」

「ふむ……」

「ただ【隠蔽】レベル10の相手が他人の通行証を所持していたとしても、その事実には気付けます。方法はお伝えできませんが、|そ《・》|の《・》|程《・》|度《・》|の《・》|障《・》|害《・》なら対処できる確証があるから、こうして行動に移そうとしていますので」


 そう告げると、ヤーゴフさんは一瞬目を見開き驚くも、十分満足のいく答えを得られたのか。


「【隠蔽】レベル10を想定してもその程度か……ならば十分過ぎる答えだな。我らが王はただでさえ安全だと言われているこの町の現状に飽き足らず、より住民の安全を考慮した新しい町を作ろうとしているのだと、そのように触れ回ろう」


 そう言って満足げに笑った。
638話 望んでいた言葉

「ねえ、ギルマスはどっちの町にするつもりなの?」


 ロキに町役場を案内された後の帰り道。

 アマンダが問い掛けると、ヤーゴフは悩む素振りもなく答えを返す。


「とりあえずどちらもだな」

「え?」

「私と妻の二人なら、年間の住民税は『ギムレー』で30万、『ウートガルズ』でも80万ビーケという話だからな。その程度で済むなら最初の1年はどちらも移動の権利を取得し、どのような環境なのかを見定めた上で土地を借りる」

「さすがグラーツ養成学校の学長までやっている人はお金持ちねぇ……私はどちらを選んだところで日中の大半はベザートにいるわけだし、それならギムレーでいいでしょって思っちゃったけど」

「確かにウートガルズを選んでも、動き始めたばかりの町で仕事ができる者など極一部。大抵の者達は結局ベザートに通うならギムレーで十分と考えるのだろうが、後発になるほど借りられる土地は転移陣から離れて利便性に欠けるだろう。それに妻や子供までであれば借地を引き継げるというのも大きい」

「ちょっ……! それって私への当て付け!?」


 頭を抱えて喚くアマンダに、ヤーゴフは冷めた眼差しを向ける。


「だったらいい加減に男遊びは止めて落ち着け。クアド商会の屋上にあるプールで派手に遊んでいると、噂がこちらにも入ってきているぞ」

「うっ……」

「まあ遅かれ早かれ、各町には必ず纏め役が必要になるのだ。私はウートガルズを選ぶ可能性が高いのだから、アマンダがギムレーを選べば丁度良いのかもしれんがな」

「あーダンゲ町長はこのままベザートに住み続けるって言ってたしねぇ……」


 もちろんダンゲは金がないとか、手間を理由に残ろうとしているわけではない。

 ベザートの町長という立場からくる責任を強く感じており、またロキが早めに取り掛かると漏らしていた、ベザートの防衛力強化という言葉に期待して残留を決意していた。


「どちらにせよ、我らが王はベザートの現状に満足せず、さらに大きな手を打とうとしているのだ。だったら我々は全力で助力するのみ。それが結果的に町を――いや、国を発展させ、富ますことにも繋がるのだろうからな」

「ええ、ロキ君の力になることだけは今後もブレるつもりはないわ」


 人一倍忙しい身でありながら、二人の瞳には覚悟が灯る。

 ベザートは再び転換期を迎え、大きく動こうとしていた。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 一方その頃。

 町役場の建設と案内を終えた俺は、リステと共に自由都市ネラスにいた。

 目的はもちろん、この町でしか行えない防衛戦力の強化だ。

 特に金さえあれば得られるモノも大きそうな『裏オークション』は、いつどこで開催しており、どうすれば参加できるのか。

 情報源のアウレーゼさんも身近で実際に参加した人はいないようだが、それでも高確率で知っていそうな人物に心当たりがあると聞いて、聞き込みをしながらその場所へと向かっていた。

 しかし……


「裏オークション? それならこの町のどこかにはあるって噂は聞いたことあるぜ」

「いや、それは分かっていて、具体的にどの辺りにあるのかを聞きたいんですけど……」

「はあ? そこまでは知らねーよ」


 手掛かりが掴めなかった時のため、道中【探査】で引っ掛かった人物に何度か確認してみるも、その内容が曖昧なせいで笑けてしまうくらいに効果がない。

『裏オークションの開催場所を知っている人物』と確認しても、今のように自由都市ネラスにあると的外れな答えを返す人や、そもそも裏オークションの意味がズレていて、自分の職場で誰かと競り合った経験談を語りだしたりだとか。

 せめて裏オークションの正式な名称でも分かれば、また違った反応が得られるのかもしれないが……

 結局10名近くに確認しても、なんら情報を得られぬまま目的の場所に到着。

 所狭しと建物が建ち並ぶ自由都市ネラスの中にあって、かなり土地を広く使った巨大な建物を二人で見上げる。


「ここが大陸でも最大規模と謳われる奴隷商館ですか」

「うん。それじゃあリステ、お願いね」


 裏オークションでは人も売買されているという噂は昔からあるようで、ならば奴隷商館が一枚噛んでいてもおかしくはないだろうというのがアウレーゼさんの読みだった。

 見るからに高級感のある佇まい。

 店の入り口に向かうと二人の筋肉質な男が重厚な扉をそれぞれ開き、俺達の足を止めることなく中へ迎え入れてくれる。

 そしてすぐ、一人の女性がカウンター越しに立ち上がり、こちらに笑顔を向けた。


「ようこそ、ネグア奴隷商館へ。どのような奴隷をお探しですか?」

「そうですね……」


 約3年前。

 俺がこの世界に訪れた当初なら、女性の視線は迷わずリステにのみ注がれていただろう。

 それが今は、若干悩む素振りを見せつつもこちらに向いているのだから、成長したなぁと感慨に耽りながら横目にリステの様子を窺う。

 すると小さく首を横に振った。

 つまり、この女性は何も知らないということ。

 ならば……


「とりあえず、この奴隷商館で抱えている最上級クラスの奴隷を見せてください」


 そう言って、ローブの内側から取り出したように白王金貨の束を見せると、目の前の女性は目を剥き、すぐに案内するとだけ告げて姿を消す。

 そうして暫くすると、小奇麗に身形や頭髪を整えた壮年の男が先ほどの女性を引き連れ現れた。

 へえ……もっと装飾品だらけのガマガエルが来るかと思っていたけど、想像と違ったな。


「大変お待たせいたしました。最上級の奴隷をご所望ということで、ここからは当館の館長を務めております、私デリード・ネグアがご案内させていただきます」

「よろしくお願いします」


 まあどちらにせよ、ここのお偉いさんが出てきてくれたのなら問題ない。

 どのような奴隷を求めているのか。

 こちらの要望を聞き出しながら僅かに前を歩く男の後を追いつつ、再び視線をリステに向けると――先ほどのように否定はしないが、眉間に皺を寄せ、少し困ったような表情を浮かべていた。


 ――【神通】――


『その反応、欲しい情報の一部しか持っていなかった?』

『その通りです。場所は把握していますが、開催日は不定期なようで、この男もその連絡を待っているようですね。それに裏オークションへ参加するためには招待状が必要みたいです』

『うわ~やっぱり会員制か……その招待状はこの男も出せるの?』

『…………みたいですね』

『了解、ありがと』


 この男が出せるならまだマシだが、招待状必須か……

 となると、どうしたものかな。


「では旦那様、こちらが当館でも自慢の最上位に位置する奴隷達です。お探しになられている高レベルスキル所持者は向かって右手に多数揃えておりますが、血筋に恵まれた者、極めて容姿に優れた者も数多く取り揃えております。気になる奴隷がおりましたら遠慮なくお申し付けください」

「……なるほど、おおよその情報はそれぞれ檻の前の張り出されているのですね。ではこちらから順に、まずは値段を教えてもらえますか?」


 ロズベリアの奴隷商館と似たような雰囲気だ。

 鉄格子の付いた小さな個室がズラリと並び、人並み程度の衣類を纏った者達が様々な眼差しでこちらを見つめていた。

 それぞれ部屋の前にはその奴隷の主要スキルや血筋など、その者のウリと言える特徴が大まかに記されており、しかし肝心の値段は一切表記されていない。

 そんな中、1.5億、2.2億と。

 50名近くの高レベルスキル所持者を眺め終えたところで、とりあえず取っ掛かりはここかと、館長に問い掛ける。


「ちなみに、これが本当に最上位なんですよね?」

「と、言いますと?」

「いえ、ここが大陸でも随一の奴隷商館だという噂を耳にしていたのですが、最上位でも職業加護込みでレベル7までの一般的なスキル所持者のみ。種族も人と獣人だけしかいないんだなと思いまして」

「……奴隷との出会いは巡り合わせ、時が違えばより高位であったり珍しい能力者を抱えることもございます。しかしその希少性ゆえ、値段の桁が1つ2つと上がることも当たり前――希少奴隷の価値とはそういったモノでございますが、旦那様はどれほどの奴隷をお探しなのでしょう?」


 口元は笑みを湛えたまま、目は真っ直ぐに俺を見つめ、機微すら見逃さない様子。

 これは測りにきていると分かるが、さてどう返すのが正解か。

 裏オークションの参加という目的のために暫し考えを巡らせ、答えを返す。


「具体的にこれだという能力を探しているわけではありませんが、どうしても欲しいと思ったらそれこそ3桁――1000億ビーケを超えても手に入れますよ。もしそんな人材がいたらですけどね」

「そのご準備ができていると?」

「ええ」


 自信をもって頷くも、たぶんまだ、届いていないか……

 この男が裏オークションに奴隷を出品している立場なら、これでも十分利点に繋がると思ったが、思った以上に反応が弱い。

 表情からそれを理解し、だったら今必要なのはこっちかと、攻め口を変える。


「なのでとりあえず、先ほど見せてもらった奴隷は、6番目、15番目、33番目以外は全員買いますよ」

「……それ以外、ですか? 50億ビーケはゆうに超えますが?」

「でしょうね。あ、あと【奴隷術】はこちらも所持しているので、代理の奴隷契約は不要です。すぐお金を用意するので準備しておいてください」

「……」

「というわけで、ちょっとお金を取ってくるから、ここにいてもらえる? すぐ戻るからさ」

「分かりました」


 今までお金は碌に使わず貯め込んでいたというのもあるし、いつの間にかそんな貯金が霞むくらい、えげつない量の白王金貨や白金貨をアルバートの地下で拾っていたからな。

 この程度使ったところで支障はなく、ここで買う人達も全員学校の講師に回せるのだから無駄になることはない。

 あとはこれで引き出せるか……

 さすがにここまでやっても無理なら、もうこちらから裏オークションの話を振るしかないかなと。

 大量のお金を積んだ荷車ごと肩に担いで男の所に戻ると、館長は目を細めてこちらの様子と荷車の中身に目を向ける。

 そして、掘り起こすように奥底から硬貨を数枚掴み、納得したように頷いた。


「御見それしました。これは間違いなく本物ですね……」


 硬貨を見て本物だと言っていることは間違いないが……

 なんとなく、別の意味合いも含まれていそうな雰囲気を感じて下手な反応ができず、そのまま様子を眺めながら押し黙っていると、館長は言葉を続ける。


「……ちなみにお客様。先ほど種族に触れられたのは、希少な種族にも興味がある――そのような認識でお間違いございませんか?」

「まあ、そうですね」

「なるほど……ではお客様。ここだけのお話に留めていただきたいのですが、よろしければこの自由都市ネラスで秘密裏に開催される通称『裏オークション』へ参加されてみませんか?」


 ……きた。

 ようやく望んでいた言葉を引き出せたことで、喜びを掻き消す強烈な痛みに耐えていると、話にはまだ続きがあったらしく。


「次回、裏オークションに"異世界人"が出品される予定でして、希少な種族に興味のある方なら非常にご満足いただけると思うのですが」


 目的にしていた以上の言葉が唐突に返ってきたことで、俺だけでなく横に立つリステも男を見つめたまま、暫し固まっていた。
639話 アルセナード・ゼナン

 少なくともこの世界の住人は、スキルの見えない転移者を異世界人とは断定しにくく、また能力もろくに識別できないのだから、人攫いに捕まる程度の転移者ならば裏オークションに流すほどの商品価値があるとは到底思えない。

 つまり館長の指す異世界人が転生者だということくらいは予想できるが、いったいどのようなスキルを所持しているのか。

 異世界人に関する情報は当日になってからということで、いくつか問うも何も答えは返ってこなかった。

 しかし館長曰く、先ほどの異世界人を含め、ここにこれ以上の人材がいないのは本当だという。

 スキルで言えばレベル8。

 種族だとドワーフやかなり人気の高いエルフくらいであればここにも並ぶようだが、それ以上に希少性の高い者が奴隷落ちした場合は裏オークションで競りに掛ける。

 それがネグア奴隷商館のやり方のようで、人だけでなく希少性が高過ぎて表ではまともな値がつかないような物品なども裏オークションに集まり、その数が一定数を超えると主催者から館長のような出品者に開催日と出品リストを通達。

 そして主催者、出品者それぞれが抱えている有力な顧客へ、招待状も含めたその概要を知らせるというのが大まかな流れらしい。

 なので裏オークションに興味があるなら、開催決定の連絡が届き次第、鳥でその内容を送ろうかと館長に提案されるも、ここで俺は躊躇い返答を渋ってしまう。

 送ってもらえるのはありがたいが、それはつまりこちらの素性も粗方バレるということ。

 まあそれも主催側の狙いなのだろうけど、どこか相応の立場と金を持っていそうなダミーの送り先を伝えるとしても相手に迷惑が掛かるし、何より経由することで情報を得るタイミングが遅くなるしなぁ……

 そんなことを考えていると、館長がこちらの心情を見透かしたように笑みを浮かべた。


「できればご自身の素性を晒したくない……今、そのようなことをお考えなのでは?」

「……」

「裏オークションへの参加権を一種のステータスと捉える方もいらっしゃれば、主に防犯が理由でその事実を伏せたがる方も多数おられます。参加資格を持つ方々は潤沢な資金だけでなく、それ相応の立場を有していることが多い……なので中には代理を立てられる方もいらっしゃいますよ」

「あ、それは可能なのですか」

「ええ、遠地でどうしても参加が難しいという方々もそれなりにいらっしゃいますから」


 それなら大丈夫なのか……?

 今俺が最も厄介に感じているのは奇襲だ。

 まだそんな余力はないはずだが、それでもこの男を含む主催側の誰かがマリーと繋がっており、開催日当日に万全の態勢で奇襲を仕掛けられると、力が抑制されたこの状況ではかなりマズいことになる。

 だったら少々残念だが俺は参加を止めておき、リステに任せてしまった方がいいのではないかと思案していると、男が気になる言葉を吐き出す。


「ただ、数十年という歴史の中で暗殺や金品の強奪など、参加者に不利益が生じるような問題が起きたことは過去一度もございませんので、そのようなご心配も杞憂に終わるかと存じますが」

「へえ……それは参加資格の剥奪を恐れてですか?」


 金持ちにとっては、これほど魅力的に映る存在もそうないだろうからな。

 真っ先に思ったことを口にするも、館長はやんわりと首を振った。


「そういった理由も否定はいたしませんが、一番はゼナン様が主催のお一人でいらっしゃるからでしょう」

「ゼナン……?」


 聞いたことのない名前。

 理解していないことがすぐ相手にも伝わり、少し驚いた様子で補足の言葉が加わる。


「三大商のお一人として自由都市ネラスを統治されている方です。外の方には建神ゼナン――もしくはアルセナード・ゼナン枢機卿とお伝えした方が分かりやすいかもしれませんね」

「あー……」


 言われて以前に建物の上層で一度だけ目にした、白髪交じりの男が頭に浮かんだ。

 そして、枢機卿という言葉――。

 商人っぽくはないと思っていたが、なるほど。

 転生者であることが確定的なあの男は、教会と深い繋がりを持っていたわけか。

 そう理解した途端、なぜこの地で堂々と生活できているのか。

 それに各国の力ある者達が行儀よく裏オークションに参加しているのかもおおよそ察する。


「枢機卿を相手に大きな揉め事を起こせば教会を――延いてはファンメル教皇国を敵に回し、最悪は女神の怒りに触れるのです。誰も好んで災いの種を残していこうとは思わないでしょう」

「なるほど……」


 得意げに語るこの男を、今リステはどんな眼差しで見つめているのか。

 観察眼が鋭そうなため、このタイミングでリステに目を向けることはできないが、個人的にはファンメル教皇国や教会が女神の権威を武器にしているようなら、それはそれで都合が良いと。

 そんなことを思いつつ、事情は理解したため招待状の件を依頼する。


「では安心できそうなので、開催が決まりましたらご連絡ください。アースガルド王国の入り口の町、ベザートで町長にでも聞いてもらえれば鳥の届け先は教えてくれますので」


 そう伝えると、館長の眉がピクリと動くも――


「……宛名は、ロキ王様でよろしいでしょうか?」

「ええ、問題ありません」


 慣れと、それにたぶんだが、自分も女神の権威に守られていると認識しているせいか。

 大きな動揺を見せることなく、淡々と奴隷の引き渡し作業は進んでいった。
640話 フェリンの本領

 その日の夜。

 自由都市ネラスで調達してきたご飯を差し入れに持っていくと、アリシアが一人で崖の淵に立ち、月明りに照らされる下台地を眺めていた。


「こんな所にいたんだ」

「あ、ロキ君……」

「どう、調子は?」

「日中、魔力に余力があるタイミングで数度作業に取り掛かってみましたが、やはりフェリンのようにはいきませんね……まだ川に水は引けていませんし、周囲の石壁も100メートル程度しか延ばすことができませんでした」

「いやいや、十分だよありがとね。これ、自由都市ネラスのお土産だからみんなで食べて。だいぶ魔力も回復してきたし、夜は俺が引き継ぐから」


 言いながら砂糖がふんだんに使われた、お菓子のような棒状の食べ物を大量に渡す。

 あまり長々と時間を掛けられないため、今は女神様達も分担して作業に取り掛かってくれていた。

 フェリンは他の人じゃ手に負えないからという理由もあって、ほぼ専属でギムレーの町作りを。

 アリシアはリステやフィーリルと共にウートガルズの町作りを手伝ってもらっているが、フェリンと違って【地形変動】のレベルが低く、かと言って【精霊魔法】では広域に影響を与えられるものの緻密な結果など求められないからな……

 コツコツと【土魔法】や【土操術】でも使って石壁を作ってくれていたんだろうと、そんなことを考えながら味のしないパンを齧っていると、あからさまに不安そうな声色でアリシアが尋ねてくる。


「あの……そちらはどうでしたか?」

「あー……リステからは聞いてる?」

「ええ、また異世界人が奴隷にされていると」

「うん。そういう話みたいだけど、まだ詳しいことがほとんど分からなくてね」


 リステも意図を悟ってくれて、俺が奴隷落ちした転生者について館長に確認したことを、本人が分からないと答えても一通り記憶から探ってくれていた。

 しかし割り出せた情報は非常に少なく、どうやら別の奴隷商館から依頼があり、あくまで仲介として裏オークションに出品しようとしていること。

 そのため館長はその奴隷転生者と面識がなく、推定トリプルのスキル所持者であることくらいしか把握していなかったらしい。

 そのことを俺から改めて伝えると、アリシアはなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。


「では救出も難しい状況なわけですか……」

「居場所も分からないからね。でもまあ、奴隷としての価値が高ければ高いほど厳重に守られるわけだし、殺されることもない。だったら出品された時に落とすよ、俺が」


 本気で探し出そうと思えば、どこにあるかも分からない別の奴隷商館を見つけ、そこから居所を割り出すという方法も取れなくはないが、時間を掛けたところで結果に結び付く保証はなく、また成功しても俺に疑いの目を向けられ、最悪は裏オークションへの参加権を失う可能性も出てきてしまう。

 それなら人材だけが目的ではないのだし、待った方が無難だろうと。

 いつになるのか分からないもどかしさを感じつつ、まだ未読の本をリコさんから数冊借りて、俺もウートガルズの予定地へと飛んだ。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 魔力があるうちは新しい町作りに勤しみ、なくなれば狩りに出て、与えただけ食い続けるジェネとウィグのためにも素材をひたすら回収していく。

 そんな日々を過ごして5日ほど。


「おし、それじゃあベザートの大工事に入ろうか」

「うん! 任せて!」


 ギムレーの基礎作りが終わったフェリンを連れて、ベザートの入り口から脇に逸れ、馬車の停留所を横目に見ながら森の中へと入っていく。

 一応ここも、ラグリースまでの3㎞くらいはパルメラの森が続いているため魔物が湧き、手身近な狩場として活用している住民がいることも知っていたが……


「とりあえず幅はこんなもんかな。誰も人はいないし、伐採した所だけ凹ましてもらえる?」

「りょうかーい!」


 町の防衛力を強化するため。

 本日限りでその大部分は潰させてもらうことにする。


 ズズズズズズズズズズ……


 周囲に響く不気味な地鳴り。

 両手を地面につけたままのフェリンと共に地面が下がり、そのままどこまでも沈んでいく。

 そしてフェリンの姿が豆粒よりも小さくなったところで、上空からその光景を眺めていた俺が声を張り上げながら手を振った。


「オッケー! そのまま東に進みながら同じような感じで! ズレたら誘導するから!」


 すると目測で幅500メートル近くはあろう巨大な穴が、横へ横へと伸びていく。

 その速度は人が歩く速度よりも遥かに速く、森の一部が吸い込まれるように地下深くへと沈んでいく姿は圧巻としか言いようがない。

 参考にしたのはラグリースと旧ヴァルツ領を遮る、大地を割ったようなあの亀裂。

 だが、それよりもさらに巨大で深い穴が、ベザートの町を隔離するように広がっていった。

 そうしてフェリンの【分体】の魔力が数度尽きたところで一旦ストップが入り、バトンを受け取る。

 と言っても俺の仕事は穴掘りではないが。

 あんな速度と精度であの規模の穴なんて掘れないので、出来上がった溝よりベザート側の大地に生えた木々を伐採し、回収しながら一旦整地。

 そこへ実験のために予め作っておいた石塊を配置して、フェリンとともにラグリース側から眺める。


「おお~これは想像以上に厳つい」

「落ちたら絶対に上がってこれないよね……」

「だろうね。この幅なら傭兵であろうとほぼほぼ飛び越えられる人なんていないだろうし、魔法で橋を架けようとしたって相当な時間が掛かる。なのに巨大な溝の先は高さ40メートルくらいある石壁が存在しているんだから、飛行手段を持つ者以外はこの光景を見ただけで横からの侵入を諦めるでしょ」

「そうなんだろうけど、あそこまで石の壁を厚くする必要があったの?」


 フェリンが疑問に感じるのも当然だろう。

 石壁は高さだけでなく幅も100メートルくらいあり、かなりの厚みをもたせていた。

 なので石壁の上部は通路などではなく、十分に戦えるフィールドのような状態になっている。


「幾重にも城壁を重ねて町を囲っていたアルバートの旧王都も、結局異世界人の魔法でボロボロにされていたからね。それならもっと厚く頑丈にしたっていいだろうし、あれだけ幅があったら空からの攻撃にも対応しやすくなるかなって」


 幅があれば、俺が撃たれて死にかけたような超威力の巨大な設置型魔道具を置くこともできるのだ。

 それに1つ1つ石材を積み上げているわけではないので、労力自体は薄くしようとそこまで大きくは変わらない。

 石が豊富な山場で限界ぎりぎりまで石塊を切り出し、ここに運んだら【土操術】を使用し形成していくだけなので、厚くすればするだけ進行が遅くなるというくらい。

 それならいざという場面で町の住民を守り、隠すためにもこの幅が特に重要なのだから、時間を掛ける価値は十二分にある。


「基礎さえ作っちゃえば町の住人にも手伝ってもらえるし、昨日皆に見せた図の形になるくらいまではうちらで頑張ろう」

「うん!」


 こうして大地を割るような溝はフェリンが担当し、他の女神様達は魔力に余力があるタイミングで次々と石材を調達。

 俺は届いて放置された石材を、魔力が続く限りひたすら成形という流れを繰り返していった。
641話 ダンゲ町長の涙

 数日前にやると言われていたベザートの大工事に取り掛かる。

 だから暫くは騒がしくなるけど、これも町のためだから許してほしい。

 そうロキに言われ、住民に事情を触れ回った町長のダンゲは、これから何が起きるのか。

 分からないなりに覚悟を決め、不安と期待が入り混じりながら王の起こす町の変革を受け入れるつもりだった。

 しかしダンゲの想像する町の未来像というのは、あくまで凡人のそれだ。

 強いて挙げれば、ニューハンファレストが1日で作られていく光景を数度視界に入れたくらいで、実際にこの世界の人外とも言える力を目の当たりにしたことはなかった。

 だからダンゲは想像を遥かに超える結果を目撃し、頼もしさや安心感などといった肯定的な感情よりも戸惑いで溢れかえる。

 頻繁に不気味な音が北の森の方から鳴り響いているのは知っていた。

 が、来客の応対をしていた僅か1~2時間の間でニューハンファレストよりも倍くらいの高さはありそうな城壁が東区の農地に向かって築かれており、朝になったら反対側――グラーツ養成学校の方にもその城壁は長く延び、入り口には巨大な金属の門と、城壁よりもさらに高い見張り塔のようなモノまで建造されていた。

 この時点でダンゲは泡を吹いて倒れそうになったが、それでは終わらない。

 その日から来客が口々に道中の異変を訴え説明を求めてくるも、何も聞かされていないダンゲには『穴』やら『谷』という言葉の意味が分からなかった。

『うちの王が工事中なんです』としか言いようがないままひとしきりの対応を終え、慌ててラグリースへと通じる石畳の街道に向かうと、まず壁と表現していいのかも分からない城壁の分厚さに驚き――2枚目の金属門を抜けたところで言葉を失い立ち尽くす。

 まったく記憶にない光景。

 左右は気持ち悪いくらいに視界がすっきりとしており、街道はその脇を流れるセイル川の自然だけが取り残された、幅50メートル程の橋のようになっていた。

 ご丁寧に人の胸辺りまである壁が左右に設けられており、身長の低いダンゲが同じく見学に来た町人に抱きかかえられて壁に上に立たされた時。

 底がはっきりと見えないほどの深い谷がどこまでも続く光景を見て、ダンゲは股間が腹の内に引っ込むほどの恐怖を覚えてその場で意識を失った。


 そして作業開始から6日が経った今、町を一望できる城壁の上でロキから図案を見せられ、再び固まる。


「今いるのは町の入り口となるこの位置で、先ほどようやくラグリースに向く正面の石壁は作り終えました。で、横に見える深い溝はこの石壁の外を覆うようにこの辺りまで伸びて、そこからはハの字って言って伝わるかな……まあこの図のように、緩く広がりながら町を囲うように森の奥へと伸ばしています」

「もう、農地の先の方まで終わっとるのか……」

「なので町長にお願いしたいのは2つ。まず1つはここに登るための階段とか、石壁の上部に落下防止のための柵を作るとか……魔力を節約するためにこの手の細かい部分は省いて進めてきたので、この辺りの仕事は住民の方にお願いしたいんです」


 言われてダンゲは周囲を見回し、すぐに納得する。


「……確かに、このままでは確実に死人が出るな。承知した、ヤーゴフと相談しておこう」

「で、2つ目が溝の周知です。今日までは魔力を全部この石壁造りに注ぎ込みましたけど、明日から『ギムレー』『ウートガルズ』への移住も開始しますし、他にもやることがあるのでペースはかなり落とします」

「ふむ。つまりあの深い溝だけが暫く残っているということか」

「ですね。今のところベザートという町を完全に囲う予定はなく、開墾されていく速度を見ながら溝を掘り、その溝に合わせて徐々に石壁を作りながら広げていきますので、ハンターとか木こりの人達が落ちないようにだけ注意してもらえればと」

「承知した。完全には囲わない……言葉にされると不安も過るが、わざわざあの溝を迂回し、深い森の背後からベザートへ侵入してくることはないか」

「その点も対策は立てていますけど、まあ町の規模が大きくなるほど現実的ではなくなるでしょうね。なのでかつてのラグリースのように、大軍が攻め込んできてボロボロにされるようなことはないと思いますよ。怖いのは空からの侵入ですけど、そちらもアマンダさんと魔道具技師のクライブさんに案は伝えているので、いずれ形になると思いますしね」

「ふーむ……これだけ聞いても十分過ぎるほどにこの町は安全じゃと思うが、それでも新しい町というのは必要なもんかのぉ……」


 ベザートの町を眺め、どこか寂しげな様子で呟くダンゲ。

 辺境の田舎町から生活を共にしてきた者達が、別の町へ移住しようとしているのだ。

 大半の者達は仕事のためにベザートと新天地を行き来するとは言え、それでも目前に迫ってきた別れにダンゲは思わず隠してきた本音を漏らしてしまう。


「結局ここまでやっても、一握りの強者がその気になればあっさりと侵入され、町は破壊されてしまう。もちろんそうならないように僕がいるわけですし、相手もそんな簡単な話ではないから今もこの町は平和に過ごせているわけですけど……それでも結局は町の所在を知られていないことが一番の安全に繋がっちゃうんですよね」

「普通ならば数年――いやいや、下手をすれば数十年と掛かる仕事を、1週間足らずで終わらせてしまうような存在がすぐ近くにいるんじゃ。頭ではよう分かっとるつもりじゃが、それでも寂しいもんは寂しい。老い耄れの戯言だと思って聞き流してくれ」


 そう気持ちを吐露すると、ロキは暫し考え込んだ末に思いがけない言葉を吐き出す。


「……じゃあ、カレンダーもすぐに広まると思いますし、明日を開通の記念として国の"祝日"にしちゃいますか」

「え?」

「基本的には仕事を休みにして――それで1年に1度このベザートでお祭りをしたら、新天地に出た人達も戻ってくると思うんです」

「お、おお……」

「今後はちゃんとした税収も入るわけですし、食事やお酒を振る舞ったり、あとは町長の主導で何か催しをやってもいいと思うんですよね。まあそこまでのやる気があればですけど」


 そう言ってニヤリと笑うロキに、ダンゲは何度も頷く。


「おおぉ……! や、やる! やるぞワシは! どうせなら子供達も喜んでくれるモノを何か――……」


 ダンゲは両手を上げ、町に向かって叫ぶ。

 その瞳にじんわりと涙が浮かび、気恥ずかしくてロキの顔は見れなかったが、心の中ではロキに対する感謝の念が尽きなかった。

 やることなすこと突拍子もないし、碌に連絡も寄越さずほぼ全てを丸投げにしてくるので、胃薬は1年通して手放せないが。

 それでも住民を想う、良き王で本当に良かった。

 これ以上の王など、探したところでまずいない――……



 ズズ……



 ――僅かに震動を拾い、ダンゲは不思議に思いながら視線を足元に向ける。

 工事は一段落着いたと聞いていたが……


「はて、誰か別の者がまだ奥の方で城壁を作っていたりするのか?」

「えっ? いやいや、僕しかこの石壁は作ってないですけど」


 この時、ダンゲは目敏くロキの表情の変化に気付く。

 これはやっている――何かやましいことがあるという、そんな表情。

 それが今まで経験してきたロキのやらかしから自然と理解できてしまったため、ダンゲは眼つきを鋭くさせた。


「今、不自然にこの巨大な城壁が揺れたんじゃが……?」

「あ~…………風?」

「んわけあるかい! どうやったらこんな巨大な城壁が揺れるっていうんじゃ! 何を隠しておる!?」


 ずいっと一歩踏み込み、詰め寄りながらロキの顔を下から眺めると、ばつが悪そうに口を曲げ、頭を掻いたロキが観念したように言葉を吐き出す。


「はぁ…………この石壁、実は壁じゃなくて"箱"なんですよ」

「は……?」

「この下、鉄で補強された檻のようになっていて、魔物が潜んでいるんです」

「はっ……はあ!?」

「いざという時の戦力としてここに何万匹か溜めようと思っているので、一応町長にだけはお伝えしておきますけど……まだ秘密にしておいてくださいね。安全性を確かめた上でやっていると言っても、ベザートの住民にバレると混乱しそうなので」


 そう耳元で呟かれ、ダンゲは先ほどの感情などどこへやら。

 新天地を夢見て一人静かに涙した。
642話 あの3人も

 本日から町役場が正式に開かれ、住民登録と転移陣の利用が解禁される。

 職業斡旋ギルドで集められた人達はこのベザート役場だけでも総勢9名にのぼり、皆が緊張した面持ちで閉じた入り口を見つめる中、俺もドアに手をかけソワソワしていた。

 これだけ準備に皆の時間と労力を費やしたのだ。

 心待ちにしてくれている人達がいるのは嬉しいことだが、かと言ってあまりに殺到されても困ってしまう。

 わざわざ【探査】など使わなくとも、ドアの向こうにざわざわとした人の気配を多く感じられるが……

 不安を煽らないように、ベザートの石壁作りを急ぎで進めてきたわけだし、頼むよ。

 あくまでほどほどに……こっちがパンクしない程度にしてくれ……!


「じゃあ、開けますからね……」


 そう職員に告げてドアの鍵を解くと、転売ヤーの如くスタートダッシュを決め込む数多の住人。

 瞬く間に5つあるカウンターは行列が生まれ、ああ、これは終わったなと。

 この後の配達地獄を覚悟しながら黄昏ていると、聞き覚えのある声が俺を呼んだ。


「ロキ!? こんな所で四つん這いになって何してるんだ?」

「あ、ジンク君?」


 なんだかんだで久しぶりに見るその姿は少し大人っぽくなっており、記憶にある身長よりも頭1つ分くらいは背が伸びていた。

 考えてみたらジンク君ももう、15歳くらいか。


「今日からだから、混乱が起きないように最初だけでも様子を見とこうと思ってさ。それよりジンク君は一人みたいだけど、移住希望だったの?」

「ああ、うちは母ちゃんと二人だし、その母ちゃんも最近は針仕事が忙しいみたいだからさ。どうせ昼間は家にいないなら、とりあえず『ギムレー』ってところを見てみて、それで良かったら二人で越そうかなって」

「なるほどね~だからとりあえず一人分ってわけか」


 今更ジタバタしたところでどうしようもなく、開き直ってジンク君と一緒に並びながら話を聞いていると、なぜこんな早朝から人が並んでいるのか、その理由もすぐに知れた。


「はぁ……みんな転移陣から近いところを狙おうと必死なわけね……」

「そうそう。早いもの勝ちだって騒いでいるやつがいて、確かにそれはそうだなって。だからたぶん、メイサもそのうち来るんじゃないかな? あいつは家が薬屋だから、親と一緒に『ウートガルズ』を見に行くって言ってたけど」

「へ~ポッタ君は?」

「あいつはベザートに残るって言ってた。東区にデカい畑をいくつも持ってるし、それにあいつ兄弟多いだろ? だから住民税が払えないって」

「あー……」


 これは少なからず予想していたことだ。

 住民税は転移に必要な魔石代を回収することが一番の目的になるため、一世帯にいくらではなく、一人いくらというモノ。

 それでも身体が小さければ魔力消費は少なくなるので、本当なら赤子は無料。

 子供でも半値などの方針を取りたかったが、戸籍のないこの国ではその線引きが難しく、逆に定めることで混乱が生じるという結論になったため、現状では一律にしかできなかった。

 その分、今後はギムレーやウートガルズだけでなく、ベザートでも子供が生まれたら役所への報告を義務化させて戸籍を作ることは決定されており、保護者がいれば5歳までは住民税無料、6歳から14歳までは半値という方針でいく予定だが……


(しょうがないとはいえ、既に子供の多い家は厳しいよな……)


 そんなことを考えていると、そうそうと言いながら腰に下げた袋を漁り、ジンク君はニヤニヤしながら薄いカードを見せてくる。

 それが何であるかは一目瞭然だ。


「お、Eランク!」

「もう結構前だけどな! 3人共Eランクになれて、今はロキが作ったっていう『草原エリア』にも通い始めたんだぜ! さすがに3人だけじゃ怖過ぎるから、アルバさんとかミズルさん達と一緒にって感じだけどさ」

「おお~いいじゃん。Dランク魔物が出るって言っても見晴らしは良いし、味方の数が多いなら意外となんとかなるでしょ?」

「そうなんだよなー【挑発】を使えるアルバさんとかポッタが敵を引きつけている間にボッコボコだよ。それでも荷車を持ち込めるお陰で換金効率はルルブより全然良いんだから、もうみんなルルブなんか行ってられねーってなってる」

「はは、慣れればそんなに時間も掛からず3人だけで狩れるようになるはずだよ。そしたらまた多くの人達で集まって、次の『城下町エリア』を目指したらいい。最初は大変だろうけど……その一歩を踏み出すことができれば、Bランクハンターも全然夢じゃなくなるだろうから」


 まさかのポッタ君がタンク役かと苦笑いを浮かべるが、連れていった初級ダンジョンでは斧と盾を握って、少しずつ恐怖心を克服できていたからなぁ……

 こうして皆の実力が上がっていけば、より質の良い素材が町を巡って国は豊かに、そして強くなるし、何より本人達が死ににくくなる。

 これが正解なのか、そんなことは俺だって分からないけど……


「お待たせしました! お次の方どうぞ!」


 ぼんやりと町の今後を想像しながらジンク君と受付嬢のやり取りを眺め、1年分の住民税とアマンダさんに卸してもらったカレンダーをジンク君が購入したところで、横から口を挟む。


「今ギムレーの案内も混み合ってるだろうし、ついでだから俺が案内するよ」

「え? いいのか?」

「うん。元からここだけじゃなく、ギムレーとウートガルズの役場が正常に動いているかも確認しにいく予定だったしね」

「へへ、助かるよ。あとでみんなにも自慢してやろっと」

「ちょっ……俺も案内しろって言われたら困るから、内緒ね、内緒!」


 喋りながら連絡通路を通り、建物の反対側へ。

 別の入り口から延びる通路と合流したのち暫く進むと、曲がり角の先でほんわかとした女性の声が響く。


「通行証を見せてください~」

「あ、はい……」


 カウンターに一人座るその人は、ジンク君が見せた通行証に目を向けると、柔らかい笑みを浮かべながら先へ伸びる左の通路を手で示した。


「では左側の通路を進んでください~」

「……」

「ジンク君?」

「あ、ごめ……分かりました」


 肘で突くと、慌てたように動き始めるジンク君。

 ん~本人はいらないと言うが、ここで渋滞されても困るし、やっぱり仮面を着けさせた方がいいのかな……


「バッチリ、凄くスムーズだったよ」

「ふふ、いっぱい練習しましたから~」


 そんなことを思いながら見慣れた女性に声を掛け、ジンク君と共にギムレーの町へと飛んだ。
643話 ギムレーとウートガルズの町

 ギムレーとウートガルズにも転移陣に合わせて併設した役場があり、それぞれ案内人や魔石などの生活必要物資を販売する従業員など、フィーリルが密かに行なったテストに合格した者達だけが働いていた。

 なのでぱっと見の雰囲気だけはベザートとそう大きく変わらないが、役場を出た瞬間に誰しもその違いに気付くことになる。


「うぉっ……暗っ! え、なんだここ!?」

「ようこそ、ここが身の安全を最優先に考えた町――ギムレーだよ」

「……光源魔道具が並んでるけど、空も、窓もない……どこかの地下になるのか……?」

「そう、場所は秘密だけどね」


 目指したのは魚人の隠れ家『サントラス』だ。

 空気の流れを作るため、厳密には地下というより山の内部になるが、まあ中にいる限りそんなこと分かりはしないだろう。


「ここが吹き抜けの中心部になっていて、役場を出るとすぐ階層毎に決まった大きさの部屋が広がっているんだ」

「へ~1、2、3……5階建てか」

「そそ。おおよその目安としては、1階が寝られればいいくらいに考えている単身者向けの一番小さい部屋。5階がもう少し部屋に余裕が欲しいって人用で、2階は部屋が2つあるから夫婦とか、2~3人の家族向けかな? で、4階も大きな部屋が2つあるから4~5人くらいなら普通に生活できると思うし、3階はそれ以上の家族向けだね」

「ってことは、俺だと2階?」

「か、もしくは少し狭く感じるかもしれないけど5階かな。人数に関係なくどこを選んでもいいんだけど、部屋が大きくなるほど借地料も上がるから、あとは直接部屋を見てどう思うかだね」

「なるほどなー。だからベザートの役場で、ギムレーは家の有料転移サービスを受けられないって言われたのか」

「そういうこと。ここは既にそれぞれの部屋が用意されているから、ベザートの家はそのまま向こうに残すか、もしくはもうすぐ不動産屋ができるから、そこで家を売りに出しておけば移民の人達が買ってくれると思うよ」


 ヤーゴフさんがすぐに家を持て余す人達が増えると気付き、家の売買を仕事にしていた経験のある人達を集めると言っていたからな。

 不動産屋ができれば、移民区のアパートや体育館のような集合住宅で過ごしている人達は、新築よりも安いそれらの物件に興味を示すだろうし、そう時間も掛からず売買は成立することだろう。

 その時ついでに家を移動させ、区画を整理しておけば教会付近にデカい素材倉庫を立てやすくなる。

 そんなことを考えながら5階と2階を案内し、ジンク君は2階の部屋の広さに大満足。

 あとはお母さんと相談してすぐに決めるということで、足早にベザートへ戻っていった。




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 第三の町ウートガルズ。

 ポツンと存在する転移施設も兼ねた役場内で、騒がしいメイサの声が響き渡る。


「ほらー! やっぱりこっちも並んでる! だからもっと早く出ようって言ったのに!」

「ママは知らないわよ。ギリギリまでお布団にしがみついていたのはパパなんだから」

「うっ、二人ともそんな目で見ないでくれよ……ほら、土地はいっぱいあるみたいだからさ」


 メイサの父親が指を差した先。

 人が並ぶカウンターの奥には、何枚もの木板を繋ぎ合わせたこの町の大きな地図が描かれていた。

 そして待つこと1時間。

 ようやく順番が来たことで、メイサ達家族は受付嬢から説明を受ける。


「ようこそ、安全と発展の両立を目指す町、ウートガルズへ。借地希望でよろしかったですか?」

「そう!」

「こら、メイ。ちょっと黙ってなさい。そのつもりですので、すみません。続けてください」

「ふふ、ではこちらの区画図を使って説明させていただきますね。まずこの役場から最も近い第1層は居住不可の大型のお店や施設を。2層から4層目までが居住区域となっており、基本的には3段階の土地の広さから選んでいただくようになります」


 そう言われてメイサ達は、指で示された区画図を眺める。

 そこにはこの役場を中心に大きな円が描かれており、その中心から放射状に真っ直ぐ延びる8本の大通りと、円を描きながらその大通りと交差する、層分けのために敷かれた3本の大通り。

 そして間を蜘蛛の巣ように繋ぐ小さな通りが、一部の地域を除いて等間隔に記されていた。

 と、さらにいくつかの値段が記載された料金表を見せられる。


「道で分けられたその一区画を丸ごととなれば一等地という区分になり、選択できる土地の広さの中では最も大きく、そこから半分に割れば二等地、さらに半分に割れば三等地という具合で、選ばれる層と土地の広さによって借地料が変わっていきます。ただし使用者の決まった土地は背面にある大きな地図に都度反映されていきますので、既に埋まっている場所はお選びできません。また南部はさらに大きな土地をお求めの方に向けた特別区域となっており、あまりに広大な場合はロキ王様の認可が必要になりますが、広さに応じた借地料をお支払いいただくことで、必要な分の土地を借りることも可能です」

「ふむふむ……私は薬屋でして、こちらでも同じように店を構えたいと思っているんですが、居住とお店を同じ建物にする場合は2層から4層ということですよね?」

「はい、そうなりますが、お店をやられるのでしたら大通り沿いがお勧めですよ。ベザートと同じで、大通り沿いはお店しか土地の貸し出し許可が下りませんから」

「えーじゃあ絶対大通りにしようよ!」

「そうだねぇ……えっと、皆さん続々と外に出られていますし、土地の大きさというのは直接確認できるんですよね?」

「もちろんです。外に見本用の土地がありますので、どうぞそちらに」


 そう言われ、メイサ親子は受付嬢に連れられ役場の外に出る。

 そうして飛び込んできた光景に、騒がしいメイサだけなく父親と母親も感嘆の声をあげた。


「うわっ! ひっろー!!」

「本当に……それに造りがとても綺麗ね。メイ、足元を見て。ベザートと違って繋ぎ目もない石の道がどこまでも続いているわよ」

「それに道がかなり広いね。ベザートの倍くらいは幅があるんじゃないかい?」

「ロキ王様曰く、使役できる能力者を用意できたら、いずれは全ての大通りにトロッコ馬車を走らせるみたいですからね」

「へえ、そのために……ロキ君ならあっさりやりそうだし、そうなると無理をして近場の2層に拘る必要も薄くなるのか……」


 メイサの父親がぶつぶつと思案する中、人が集まる見本の土地の広さを確認していくも、子供には眺めたところでなんら面白味もない、大きさの違う四角い岩板が3つ敷かれているだけ。

 すぐに飽きて周囲を隈なく眺めていると、遠くで山のように積まれた資材の隙間からあるモノを見つけて声をあげる。


「あっ! あの薄っすら見えてるのって城壁かな!」

「そうですよ。第4層の終わりはベザートと同じ、高さ40mほどの非常に高い城壁で囲われていて、町の安全がしっかり確保されていますから」

「じゃあ、その先は何があるの?」

「え、っとまだ作業中のようですが、その先は広大な5層が広がっていて、広い土地を必要とする作業場や農地、畜産場など、仕事のための区画として整備を進めていると聞いています。もちろんここからでは見えませんが、5層の終わりにもさらに高い城壁が造られているみたいで――」

「じゃあじゃあ、その先は?」

「え……?」


 それ以上先のことは、役場で働き始めた受付嬢も聞かされていない。

 度重なる質問に困惑していると、メイサの母親が窘めるように娘を小突く。


「こーら、お姉さんも困ってるでしょ? それにベザートと同じくらい高い城壁があるなら安心じゃない」

「もしかしてメイは、自分で薬草を採りに行こうとしているのかい?」

「あっ……そういうことでしたら、この町の城壁は出入口を設けないという話を聞いているので難しいかと――……」


 この時メイサは、大人達のやり取りを目にしながら首を傾げる。

 なぜ、皆は疑問に思わないのだろうか。

 少しだけ考えてみるも答えが見つからず、だからメイサはその性格もあってすぐ口にした。


「みんな、ここがどこなのか気にならないの?」

「「「え?」」」

「だってロキ君がこの町を作ったんなら、きっとパルメラ大森林のどこかでしょ? もしかしたら今まで誰も到達していないような奥地で、すんごい魔物が回りにいるかもしれなくない?」

「「「……」」」


 その言葉に大人達は黙って顔を見合わせる。

 自国の中でこれほどの土地を開拓したのだから、この場所がベザートと同じ、パルメラ大森林のどこかであろうことくらいは誰もが想像していた。

 しかし全員がハンターとしての講習を受けているわけでも、パルメラの内部に興味があったわけでもない。

 少なくともここにいる大人たちは、より安全で不自由のない生活を送っていける場所なのかどうかに意識が向いており、ここがパルメラのどの辺りに位置するのか――周囲に生息する魔物からその深さを推測しようなどという発想を抱いてすらいなかった。

 それはある意味、メイサがハンターとして成長してきている証左でもあるわけだが……


「あの城壁って登れるのかな? そうしたらもしかして――ほわっ!?」

「「「あ……」」」


 ウキウキと目を輝かせながらそんなことを言うメイサの身体が、不意に宙へ浮く。

 メイサが慌てて振り向くと、そこには見知った顔の人物がいた。


「あ、ロキ君!」

「こら、何か企んでたでしょ」

「えー! そんなことないよ!? ちょっと町の外がどうなっているのか見てみたいなって思ったくらいで……」

「はぁ……初日からこれじゃ、ちゃんと警告しておかないとダメだなこりゃ……」

「?」


 メイサが疑問に思いながら顔を振ると、すぐ横で同じように首根っこを掴まれ宙吊りにされているおっさんがいた。


「あ……ノディアスのおじじ!?」

「……」


 Sランクハンターと言えば、ハンターではない者達からも一目置かれるような存在だ。

 ベザートではただ一人ということもあってその名は町中にも広く知れ渡っており、特にメイサのような子供達は出会えば嬉々として話し掛けていたのだから、ノディアスも町の若いハンター達とは知った仲になっていたわけだが……

 そんな子供達に大人気の男も、この時ばかりはバツが悪そうに口を結ぶ。


「おじじ、何しちゃったの?」

「いや、ちょっと町の外がどうなっているのか興味があってな……」

「階段も設けていない城壁に飛びついて乗り越えようとしている怪しい人物を見かけてね。捕まえたらノディアスさんだった」

「えー階段ないの!?」


 いや、重要なのはそこじゃない。

 内心突っ込みながらも、ロキは諭すように伝える。


「この町はね、誰もどこにあるか分からないからこそ手を掛ける価値があるし、ベザートよりも安全が担保されるんだ。外に興味を抱く気持ちは分かるけど、その情報を抱えてしまうと町もそうだし、何よりメイちゃん自身が危険に晒されることになる」

「そうなの?」

「他国は出入りが制限されているギムレーやウートガルズの町がどこにあるのか知りたがるだろうからね。そんな時、手掛かりになり兼ねない情報をもしメイちゃんが握っていると発覚したら、良くて奴隷落ち――最悪は攫われて死ぬまで拷問される可能性だってなくはないと思うよ」

「ええっ!?」


 ノディアスもメイサも、ロキが裏で行なっている絶対的な防御対策のことなど知る由もないのだから、このくらいしょうがないことではあるが……


「だからこの町と皆の安全を維持するためにも、町の外には意識を向けないようにね」


 ロキにそう言われ、顔は笑っているものの直感的にこれは本気のやつだと理解した二人は、揃って勢いよく首を縦に振った。
644話 ヘルヘイム

『登録情報を偽ると死罪になるのでご注意ください』


 このような看板がでかでかと掲げられ、さらに口頭での忠告までしてきた割にはこんなにザルでいいのか?

 男は違和感を抱えながら、『ニックス』という偽名が刻印された鉄と銅の2色のカードを眺める。

 考え得る真偽の判別や問答に対して一通りの対策は講じてきたつもりだが、まさかこうもあっさり通行証を得られるとは思わなかった。

 となると、何かあるならこの先か……?

 一度足を止めるも、さすがにこれ以上は報告を引き延ばせないと考えを改め、案内の看板に従い連絡通路を通って転移陣へと向かう。


 ニックスという名を騙ったこの男は、高い能力を有する上に慎重だった。

 男はここ数日、我先にと新天地へ飛び込んでいく者達をそれとなく観察していたわけだが、不思議なことに住民や商人の往来はあれど、同業と思われる者達は一度行ったらそれっきり。

 ベザートの町に戻ってきている様子がなく、その不自然さから"何かが行われている"という気持ち悪い感覚を持ちつつも、具体的な答えには辿り着けないでいた。

 だが、いつまでも様子を見ているわけにはいかない。

 主に相応の報告を齎さなくては自分が消されるため、歩くより僅かに遅い程度の速度で流れる列に並び、住民の声に耳を傾ける。



 かなり人が増えてきた……

 魔石はベザートで買った方が安い……

 ギムレーはここよりもだいぶ涼しい……

 ウートガルズはようやく店が出来始めた……



 と、通路の先に開けた広場のような場所が見え始めた。

 数人の職員と、その職員に呼び止められて列から強制的に外されていく住民。

 思わず緊張が走るも、広場の全容が見えてきたことで、ここがなんのために存在しているのかを理解する。

 いくつかのカウンターと、大きさを測るための長い紐。

 それに列から弾かれた住民が総じて荷車と共にいるところを見ると、ここが登録時にも話が出ていた荷物の課税を行なっている場所なのだろう。

 ならば革袋を1つ抱えているだけの自分には関係ない。

 手持ちであれば籠や背負子なども課税対象ではないようだし、荷車の大きさと中に人が隠れていないか積荷を確認する程度で、それ以外の炙り出しを行なっている様子は見られなかった。

 ……だからだろう。

 男は何事もなく広場を通過したことで、自然と安堵の息を吐いていたことに気付く。

 通路の先から気の抜けた案内の声は聞こえてくるが、人の進み具合からして何かを細かく確認している様子もないのだ。

 きっと潜り込んだ間者達も、新しい町の周辺を探索して位置の特定でも進めようとしているのだろうと。

 そんなことを考えながら窓もない、光源魔道具て照らされた薄暗い通路を曲がった時。


(マジかよ……)


 すぐ近くで門番のように座っている女の姿と、その奥で三叉に分かれた通路が目に入り、男の足が僅かに止まる。

 そして不自然にならない程度に背後へ目を向け、逃走経路を確認した。

 ここまで一方通行な上に背後は人と荷車が並んでいるため、とてもじゃないが全力で走っては逃げられそうもない。

 となると、あのうちの1本がこのまま外へと通じているわけか……

 異様に容姿の優れた女だが、今はそんなことなどどうでもいいと思えるくらいにこちらの【心眼】が弾かれた事実の方が大きく、そしてすぐに自分の順番が来ようとしていた。

 直感がけたたましく警告している。

 この女は間違いなく只者じゃない。

 が……やっていることは一瞬だけ住民の手元に目を向け、「はい、こちらです~」と。

 その者の行先を手で指し示して案内するだけ。

 もう慣れているのか、目の前の住民もいちいち足を止めるようなことはなく、通行証をサッと掲げて通り抜けていくため、どう見たってその中身まで確認しているようには思えなかった。

 ならば、どの道ここを通過しないと出られないのだ……

 対策もしているのだから、自然に振る舞え……!

 十分に考える余裕もなく、男は汗ばむ手でポケットから取り出したカードを掲げ、兎にも角にも不自然さを消すように前の二人と同様の速度で女の前を通過する。

 銅はどちらだ……

 一瞬男は女に視線を向けると、やはり女は通行証の色だけを見ているのだろう。

 途方もなく美しい笑顔でこちらを見つめ、「はい、こちらです~」と中央の通路を手で示す。


「どうも……」


 その後、高鳴る鼓動を隠して足早に去るも背後から声が掛かることはなく、再び案内する女の声が聞こえてきたことで――


(抜けた……ッ!)


 ニックスと騙った男は問題なく通過できたと、自身の勝ちを確信した。

 それどころか、これほどザルなら通行証さえ取得してしまえばいくらでも通過できる。

 本国に伝えて大量の人を潜り込ませ、いざという場面で町を完全に制圧することも――……


「………え?」


 男は意気揚々と転移陣を踏み、新天地へと向かったはずだった。

 が、なぜか一面暗闇の世界で身体は宙に浮いており、その後すぐに自分が落下していることに気付く。


「ぉごっ……!?」


 そして何かにぶつかりながら転げ落ち、冷たい地面の上で仰向けになりながら茫然とする。

 なんだ……何が起きた?

 まさかこんな場所が新しい町になるのか……?

 まるで理解が追いつかず、男は身体を動かすことも忘れて暫し暗闇を見つめていたが、そう遠くない場所でジャラリと。

 金属が鳴る音と共に人の呻き声が聞こえたことで、我に返った男は咄嗟に【火魔法】と【夜目】を併用して周囲を見回した。

 すると石造りの天井に、先ほど踏んだ転移陣と似たようなモノが逆さに張り付けられており、周囲には……荷車の残骸か?

 割れた木材と零れた荷物らしきモノがいくつか転がるその奥で、動く人の影を目にして男は呼吸が止まる。

 こちらに気付いて近寄ってくるその存在は、どう考えても人としか思えない何かを引き摺っており、先ほどの女と同様にこちらの【心眼】がまるで通じなかった。

 だから咄嗟に腰の剣を抜き、自分の運命を大よそ理解した上で問う。


「こ、ここはギムレーかウートガルズではないのか……?」


 すると、次第に火の光が当たったことで、裸体の上半身に両腕を赤く染めた若そうな男が言葉を返す。

 その顔は見間違うこともない。

 この国の最重要人物である、異世界人ロキと同一の顔をしていた。


「いいえ、ここは第三の転移地――『ヘルヘイム』。ルールを破って死罪となった者が落とされる、二度と抜け出すことのできない地獄ですよ」
645話 儚煌の斧

「はえ~前の家より全然綺麗だね……」

「ほ、本当にここに住んじまっていいのか……?」


 特別大きくもない、中古の木造家屋。

 その前で立ち尽くしている夫婦に説明を続ける。


「前の住人が住んでいた期間は1年2年くらいですからね。お店に近い空き家を僕が買い上げたので、ここなら好きに住んでもらって構わないんですけど……本当にお店は前の建物のままでいいんですか?」

「ああ、仕事場は使い慣れている方が楽だからな」

「それに私達が暮らしていた部分もこれからは保管庫や材料置き場にできるからね。これだけしてもらえたんなら十分だよ」

「そうですか……じゃあ個人的にもまた買いにきますから、何かあればその時にでも言ってくださいね」


 そう言ってすぐ近くに建つ、『トムズソース店』と書かれた看板の建物を眺める。

 結局こちらから誘ったあの夫婦は、卸しているお店やご近所さんの挨拶回りなどで少し時間はかかったが、こうしてベザートへの引っ越しを快く了承してくれた。

 クアドとウィルズさん、それに一番のお得意先になりそうなボーラさん達も紹介しておいたので、これで前のように出稼ぎに行かずとも安定した生活が送れるようになるだろう。

 となると……そろそろ頃合いかな?

 そう思い、一度俺しか場所を知らない地下の処刑場――『ヘルヘイム』に寄って、余計な感情を殺しながらゴミ掃除と回収を済ませていく。

 門番役を担っているフィーリルの存在や転移施設の内部構造など、情報は極力外部へ漏らしたくないため、網に掛かった連中は二重間者の選択肢もなく確殺だ。

 くどいくらいに死罪と忠告しているのだからそれくらい当然ではあるが、しかし転移陣を開通させてもう10日。

 さすがに噂が広まったのか、邪な考えを持ってここに落ちてくる間者の数もだいぶ少なくなってきたと感じる。

 まあこのペースじゃ一向に症状は落ち着かないし、諦めてくれたのならそれはそれで有難いことだが。


「はぁー……そろそろ、外に向けての準備でもするかなぁ……」


 そんなことを一人呟きながら、カンストして30分程度で済むようになった【昼寝】と外周工事を繰り返し、夜になってから拠点に帰還。

 下台地でリコさんと本を読みながら酒を飲んでいたロッジに声を掛けた。


「ウィグとジェネの防具はできてる?」

「ああ、資材倉庫に置いてあるぞ。デカいから見りゃすぐ分かる」

「お、いいね。じゃあついでに皆の分も配っちゃうか……全員食卓に集合~!」


 するとゾロゾロ集まってくる下台地の住民に、用意していた装備を渡していく。


「まずゼオには、前ほどじゃないけど他にもいくつかストアリングが出てきたから渡しとくね。これからはレベルに関係なく魔力を補充したストアリングは全部ゼオに渡していくから、空になったやつはどこか分かりやすいところに置いといてよ」

「む、そうなればだいぶ魔力を使えるな……承知した。風呂の横にでも補充済みと空の置き場をそれぞれ設置しておこう」

「で、カルラにはこれ。ちょっと実験のために種類を変えたから指輪と耳飾りが混ざってるけど、オリハルコンの『攻撃力増加』で【付与】は全て【剛力】にしておいた。これからは気軽――というほどではないにしても作り直せるから、もし付与の補正を別のに変えたいなら言ってね」

「うわーなんか凄いのきた……これはどっちの方が強いとかあるの?」

「いや、もしかしたら使用する素材量が少なければ能力値も下がるかなって思ったんだけどさ。差がなさそうだから、オリハルコンに余力が生まれるまではしばらく耳飾りに統一するかもね」


 そう言って、エニーには『魔法攻撃量増加』に【魔力自動回復量増加】を三重で【付与】した耳飾りを2つ。

 ロッジとリコさんにも【身体強化】や【自動書記】を使い続けられるように、【魔力自動回復量増加】を三重付与したオリハルコンの指輪や耳飾りを2つずつ渡しておく。

 戦闘組ではない二人にはだいぶ贅沢品になってしまうが、素材がアダマントでは三重付与に成功しなかったのだからしょうがない。

 そしてゼオやカルラの背後で大人しく待つジェネとウィグにも目を向け、装備の1つを食卓の上に置いた。


「続いて、ジェネにはこんなのどうかなって」

「え? これは武器、ですか……?」

「いや、さすがに小さ過ぎるだろ」

「もしかして料理道具?」

「あ、ジェネに料理を覚えてほしいんでしょ」

「わ、我が主……」


 散々な言われよう。

 ジェネもこの世の終わりみたいな顔をしているがちょっと待ってほしい。


「ちなみにその『儚煌の斧』、俺が今までに見たどの武器より性能値高いからね? しかも、断トツで」

「「「え?」」」

「まあこれは直接見せた方が早いか……」


 近くでは危ないため、斧刃が10cm程度しかない玩具のような斧を手に取り、食卓から離れる。

 そして力を込めると、斧刃が3M近くまで瞬く間に巨大化し、振り下ろすと地面が綺麗に裂けていく。

 地中でさらに巨大化させたため、引き抜くとウィグの全長と同じくらいの長さになっていた。


「う、うおおおっ!?」

「すっごぉおおおおお!?」


 酔っぱらいのロッジやエニーはその光景に思わず立ち上がるほど大興奮。

 だが、様子を静かに見ていたゼオはすぐに俺の異変を察知する。


「ふむ……呪具の類いだろうなとは思っていたが、その【飢渇】というのはそんなに早く症状が出るのか?」

「うん。まだもう少しは振れるけど、ここまで巨大化させたら精々あと30秒くらいかな……それ以上この状態を維持させたら俺は空腹で死ぬと思う」

「えー! 死んじゃうの!?」

「よくある一般的な大きさに抑えれば、3分くらいは耐えられたけどね」


 それでも3分。

 リコさんがそう呟いたことで場は沈黙する中、再びジェネに目を向ける。


「だからこの武器は、まともに人が扱うには難しい。けど、魔物の枠に収まるジェネなら扱えるかもしれないと思ってさ」

「そうなの?」

「狩場を知るエニーなら分かるでしょ。都合良く餌になってくれる人もいないければ動物すらいない――それでも《夢幻の穴》に住む魔物は、共食いしている様子もなく普通に生き続けているんだよ?」

「あ、そっか……」


 魔物という、世界にとって都合の良い試練であり資源である存在だからこそ可能性がある。

 そう思ってエニーに説明すると、聞いていたジェネは何を思ったのか。

 無言のまま手を伸ばし、その武器を握る。

 だから咄嗟にジェネの腕を掴み、上空へ舞った。


「死なないとは思っているけど、極度の飢えで暴走する可能性はありそうだからね。何かあったら俺が握る腕を切断してでも助けるから、遠慮なく試していいよ」

「感謝します、我が主」


 そしてジェネは、空に向かって斧刃をゆっくりと伸ばしていく。

 5M……10M……

 すぐに先ほど俺が見せた大きさを越え、それでも巨大化し続ける斧。

 そして最近作り続けていた城壁の高さくらいまで伸びたのだろうか?

 もはやどれほどの長さなのかよく分からなくなってきた辺りで、ジェネの表情にも目を向ける。

 するとまさに耐えるといった表現が正しく、目は血走り、歯を食いしばって自らの握る斧を見つめていた。


「……俺ならもう、確実に餓死するレベルの巨大化と継続時間だけど、どう?」

「物凄く苦しい、ですが……ある時を境に、空腹の底を衝いたような……そんな感覚があります」

「なるほどね……じゃあその状態でも武器を振れる? ウィグじゃ暴走しそうだし、感情を制御したまま飢餓による能力値の低下もなく戦えそうなら、ジェネにその武器を託すけど」

「問題ありません。今の私で扱える限界はこの程度の大きさですが、能力値の低下はないように感じますし、この空腹感を耐えることは可能です」

「オッケー、それなら預けるよ。他にジェネ用のアクセと防具もあるけど……キツそうだし、とりあえず何か食べてきていいよ」


 そう伝えると、降り立ってすぐに死体の山へ走っていくジェネ。

 武器を手放せば空腹が回復するというモノではないからな。

 ギリギリを試した身としてはその気持ちも分かるだけに、苦笑いを浮かべながら放っておくと、横で興奮した様子のウィグが叫ぶ。


「あ、主! ワシも……! ワシのは……!?」

「大丈夫だよ、ちゃんとウィグにも向いていそうな武器は見つけたから」


 言いながらウィグ用に用意していた装備を一式取り出す。


「まずこれがウィグに渡そうと思っている武器――『天地棒』ね。あと【魔力感知】の反応からして明らかに人よりは魔力量が多そうだけど、一応アクセと防具の付与は全部【魔力自動回復量増加】にしておいたから、顔のどこかにでもこの耳飾りをぶっ刺しといて」

「え? 棒……? ワシは棒なの……?」

「ウィグよ。その手では刀剣を貰ったところで満足に振れぬだろう」

「だよね。棒ならまだ握るの楽そうだし、似合ってるよ? 強くはなさそうだけど」

「あ、あ、主……? でもジェネの武器みたいに実は凄く強いのだろう……?」


 訴えかけるような瞳。

 だが見た目は両端に石突がある、長さ2M程度の金属棒だし、実際強くはないからな……


「さっきみたいなぶっ飛んだ火力はまったくないよね。まず刃付いてないし」

「主ぃいいいいいいいいいいい!?」

「でも俺がただの棒切れを渡すわけがないんだから――ウィグ、それにカルラもちょっとついてきて」

「え?」


 ゼオはもうこの棒の性能を薄々理解していそうだし、俺じゃ食らったところで意味がない。

 だからカルラを無理やり支障のない場所まで連行し、ウィグに使い方を助言する。


「じゃあウィグ、あの木を意識しながらその棒で地面を軽く叩いてみて。できれば3回」

「ふむ……」


 すると大きな4本指の両手で掴み、覚束ない様子で地面を叩く。

 と、その瞬間――


「うわああああああ!」

「お、おお……!?」


 特殊付与の効果が発動し、天地が逆転。

 周囲の砂や小石と一緒にカルラとウィグは空へ落ちるも、動揺したウィグが連続して叩けなかったために1秒で効果が途切れ、再び反転。

 地面に落下し、呻きを漏らす。


「これで効果は分かったでしょ? 武器自体の強さには何も期待できないけど、【天地返し】の付与効果で1度地面を叩くと1秒間――最大でも3度叩いた場合の3秒間、使用者が意識した範囲の天地が反転する」

「び、びっくりしたぁ……でも凄いね。ボクこんな面白い武器、今まで見たことないよ」

「そりゃ大国で国宝認定されていたような特殊付与武器だからね」

「あ、ああ、あ……主ぃいいいいい!! ワシ信じてたぁあああああ!!」


 空から唾が降り注ぎ、思わず顔を顰める。

 喜びまくっているようだが、この竜、たぶんリスクを何も分かっていない。


「ただし、この程度の範囲でもかなりの魔力をもっていかれるからね。範囲指定を誤ったら魔物も魔力枯渇で昏睡するんだろうし、この能力を使っただけじゃ敵はほぼほぼ死なないんだから、やらかした時点で自分が殺されるって思った方がいいよ」

「う、うむ……」

「まあそれでも空を自在に飛べるウィグなら上手く扱えると思って預けるんだから、失くさないよう大事に扱ってね」

「も、もちろん! 感謝するぞ主ッ!!」


 相変わらず煩いが、自分では使いどころがない癖の強い武器でこれほどご機嫌になってもらえるならそれで結構。

 装備配給も終わったし、あとは次の行先を決めるためにも相談を――

 そう思って食卓に戻ると、なぜか小型犬のように唸る小娘がこちらを睨みつけていた。


「みんなズルい! 私にもなんか凄い装備ちょうだい!!」
646話 宝物庫に残されていたモノ

「危ない装備もあるから、下手に触ったりしないようにね」


 そう言いながら、これは困ったなと。

 どうこの場を収めようか頭を悩ませつつ、アルバートの地下道で得られた様々な装備を食卓に並べる。

 数だけ見ればそれなりに等級の高い装備品も得られたと思うが、その全てが希少なだけで強くはないか、もしくはかなり癖が強く使い難いか。

 あとは一見強力そうに思えて実はハイリスクな爆弾を抱えた呪具でしたという、この3パターンのどれかに該当してしまうため、改めて見直してもエニーにしっくりくる装備というのは見当たらなかった。

 だが、エニーも簡単には引かない。

 よくよく考えれば、ゼオには魔力貯蔵が可能な『ストアリング』をあるだけ。

 カルラには互いに出血効果が高くなる呪具の短剣『赤無垢』を渡していたところに、今回『儚煌の斧』と『地天棒』というジェネとウィグ用の武器まで与えてしまったわけで。

 戦闘組の中では、エニーだけがダンジョン産のレア装備を何も持っていないという現状に我慢ならなかったのだろうし、気持ちが分かるだけに問われればとりあえずは応えるが……


「これは?」

「『仙視の耳飾り』っていう呪具だね。身に着けている間は視覚が大幅に向上される代わりに聴覚を失うみたいだけど……いる?」

「……じゃあ、これ」

「『凍結の首飾り』は試したけど相当癖が強いよ。【氷属性耐性】が無効化レベルまで上昇して、水属性と火属性の攻撃に対してもかなり強くなる代わりに身に着けている間は常時冷気を放出するから、結構な量の魔力を持続的にもっていかれる。それにエニーが得意な【火魔法】も阻害されるからまともに撃てなくなるね」

「うう……あ、杖もあるじゃん! これは!?」

「ん~この中では一番当たりの可能性があるけど、この『混沌の杖』も呪具だよ? 【消費魔力上限突破】のレベル6が付いている代わりに【暴発】っていうヤバそうな特殊付与も付いてくるから、使ってたら文字通りそのうち暴発するんだと思う」

「え……それってどうなっちゃうの?」

「さあ。手がこんな状況じゃなかったら確率とか効果を自分で試してただろうけど、今はこの指輪が壊れたらマズいからね。自分の腕や身体が吹っ飛ぶのか、それとも仲間や関係ない人達に攻撃が向くのか……俺の【鑑定】レベルでも稀に暴発するくらいしか情報が出てこないから、はっきりとしたことは分からない」

「……………」


 案の定だな……

 明らかに拗ねた様子のエニーに、ため息を吐きながら事情を伝える。


「エニーに向いている装備があれば預けるつもりだけど、今回はしょうがないよ。マリーが支配する国という時点でまともな装備は全部押収されているだろうから、装備品はあってもこの手の弾かれた余りものしか残っていないんだ」


 かつて見たヴァルツやガルム聖王騎士国の宝物庫と比べれば、単純な数と価値は確かにあるのかもしれないけど、そのほとんどが美術品や骨董品と煌びやかな貴金属ばかり。

 俺が欲しい魔道具や装備といった実用性のあるモノは、ごっそり抜かれた感が強いからなぁ……

 あの状況でわざわざその手のモノだけ残してきたということもないだろうし、マリーにとっても重要なものは予め奪うか回収していたというのがオチだろう。


「でも自由都市ネラスの裏オークションには潜り込めそうだから、もしかしたらそこで良い装備が手に入るかもしれないし――……」


 とはいえ別ルートで希少装備を手に入れられる可能性はまだあるわけで、唇を尖らせちょっと涙目になっているエニーをフォローしていると、そのエニーが突然肩を跳ね上げ、俯きながら足を押さえる。


「いたっ」

「「「え?」」」


 何事かと覗き込むと、エニーの太ももから血が垂れており、足元には刃の一部を赤く染めた純白の短刀が転がっていた。

 その瞬間血の気が引き、すぐに【神聖魔法】を唱えて治癒を施す。


「……ッ! これ触ってたのはカルラ!?」

「え? ボクこれ飲んでたし、装備は何も触ってないよ?」


 そう言って、手に持つ血の入ったコップを差し出す。

 じゃあ、どういうことなんだ……?

 エニーはしょぼくれながら俺の話を聞いていたわけだし、間違いなく何も触ってはいなかった。

 他も腰を上げ、分かりやすく手を伸ばさなければ位置的に届かず、だからエニーの横に座っていたカルラがてっきり落としたのかと思ったが……

 いや、それより問題はエニーが傷を負ったというこの状況だ。

 傷自体は戦闘組なら日常的と言えるほど浅く、痕も残らずあっさりと完治したが、この呪具はかなりマズい……

 果たしてこれで無効化できるのか?

 固唾を飲んで見守っていると、エニーの肩越しに白い靄が浮かび上がり、それは次第に獣のような形へと変化していく。

 そして数秒後――


「えっ? なにこれ!?」


 瞳だけは青く尻尾が異様に長い、純白の狐のような獣が身体を丸め、飛び退いたエニーを追いかけるように肩へ乗る。

 その存在は僅かに透けており、何も語ることなくじっとエニーの顔を見つめていた。
647話 帰依憑獣

「特殊付与の効果が、発動した……」

「え……? どういう――」

「ちょっ……待って。一旦喋らないで。一言も」


 俺のこの言葉で下台地は未だかつてないほど緊迫した空気に包まれるも、こうなったらどうしようもない。

 エニーを手で制したのち、まずは自らを落ち着かせてから落ちた短刀――『潔毘の白刀』を拾い上げ、【鑑定】のレベルがカンストしたことで見えるようになった特殊付与の内容を改めて確認する。


【帰依憑獣】:この武器で刺された者に忌諱の獣を憑かせる。憑獣は潔白であるほど宿主を愛でるが偽りを嫌い、宿主が虚言を吐くと食い殺したのち、刺した者へと再びとり憑く。


 思っていた通り、一時的では済まないタイプだ。

 かなりマズい事態になったことを理解し、目の前で固まるエニーに対してなんと声を掛ければいいのか分からなくなる。

 まずはこいつを消せるのかどうか。


「ゼオ。これがなんなのか……こいつの消し方は分かる?」

「いや、我も見たことはないが……【帰依憑獣】とやらのレベルが8なら、まずはそれ以上の【神聖魔法】で解けるか試してみるべきではないか?」

「そう思ってさっきレベル9の【神聖魔法】で被せてみたけど消えなかった」

「ということは、呪いの類いではないわけか。ならば直接消せるかどうか――、ッ!?」


 それは一瞬の出来事で、ゼオが手を伸ばし、この半透明の存在に触れようとしたら、食い千切られたのか……?

 回避が間に合わず、血を垂らしながら消失したゼオの指先を見て、自分の中で身体中を走る激痛と共にかちりとスイッチが入ったような気がした。


「エニーはそのまま。他はゼオも、全員下がっていて」


 ――【神聖魔法】――『治癒』

 ――【身体強化】――

 ――【魔力纏術】――魔力『20000』


 なぜ、こいつが……この短刀が勝手に動いたとしか思えない動きをしたのかは分からないが、俺の仲間に危害を加えるやつは許さない。

 こいつを無理やりにでも始末するか、最悪できなければ武器の破壊を試みる。

 そのつもりでゼオと同じようにゆっくり手を伸ばすと、暫くこちらを見つめていた謎の獣は、突然かなりの速度で身体を回転させながら飛びつき、俺の指に噛みついた。

 が、何かされると見越して指先に魔力を集中させていたため、牙が指先に食い込むも千切られるには至らない。

 他に飛びつくわけでもなく、指先を齧ったまま――ということは行動範囲が決まっているのか?

 それに半透明の状態で噛みついているという不可解な現象に疑問を覚えるも、それはそれで好都合とばかりに指先の魔力を針のように尖らせる。

 ――が、駄目。

 ダメージを負った様子もなく透けた身体を貫通していく様子を見て、ならば物理ではなく魔法かと。

 エニーに接触しないよう、幾重もの風の刃を生み出そうとしたところで、なぜかエニーからストップがかかった。


「ま、待ってロキ! この白い獣、たぶんだけど、私を護ろうとしている気がする!」

「は? 気がするって、意思の疎通がとれてるの?」

「わかんない。けど、なんとなくそう感じる……」


 なんだよ、その曖昧な反応は……


「エニー、かなり重要なことだからよく聞いて。この短刀に刺されることで現れるその白い獣は、宿主が潔白なら愛されるみたいだけど、もし虚言を吐いたら殺される……それが【帰依憑獣】っていう、この短刀の特殊付与能力みたいなんだ」

「……」

「だから消せる方法があるなら消した方がいい。抱えて生きていくにはあまりに危険過ぎる」


 そう伝えるも、エニーはその考えをあっさりと否定する。


「潔白って言われてもよく分からないけど、私が嘘を吐かなければいいんでしょ?」

「え……?」

「なら大丈夫だよ。私、嘘なんて吐かないし。それに凄そうな何かが私を護ってくれるなら、それって凄くない? 全然良くはないんだけど、師匠が血を流すなんて初めて見たし……」

「……」


 そう言うエニーと、俺の指から離れて肩に戻った白い獣を交互に見比べる。

 エニーが何を感じ取ったのかは分からないけど、呆気にとられ、敵意が途切れたそのタイミングでこの獣も攻撃を止め、俺の指から離れていった。

 今は呑気にエニーの首元へ頬擦りしているし、そう考えると愛でるというのが護るということになるのかもしれないが……


(どうする……)


 嘘と言ってもその場の状況を悪化させないためであったり、自分や誰かを守るための嘘だってあるわけで。

 このままではリスクが高過ぎるし、本人が気付いていないだけで何かしらの精神支配を受けている可能性だってなくはない。

 馬鹿正直に、誰が相手でも本音をぶつけるエニーなら、本当に嘘など吐かず今まで生きてきたのかもしれないけど……


「――ロキさんッ!」


 と、後方から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

 念のために白い獣から距離を取って振り向くと、1冊の本を抱えたリコさんが息を切らして俺を見つめていた。


「どうしたの?」

「こ、これを見てください!」


 差し出されたその本は、俺も目を通したことがある、この世界の生物図鑑のようなモノだった。

 そして最後の方のページを興奮気味に捲ると、リコさんはその中に描かれた挿絵を指で示す。


「エニーの肩に乗っている生物って、もしかしてここに書かれた"幻獣"の一種ではありませんか?」

「ん……? いや、まさか……」


 口では否定しつつも、自然と目は記された説明文を追う。


「文献には『幻獣』もしくは『死獣』と記されることも多い、この世界に3種存在することが確認されている半透明の獣……魔石は有しておらず、魔物とも異なり、人と共に歩む姿を目撃されている……確かに共通項はあるけど、でも見た目がまったく違くない?」


 俺がこの白い獣と幻獣と呼ばれる存在を結び付けなかった理由はここだ。

 本には抽象的な挿絵が載っており、角や羽など特徴的な部位に類似点は見られず、迫力あるその絵姿はエニーの肩に乗る白い獣と似ても似つかない。


「でも、もし今が生まれたてで、ジェネのようにこれから成長するとしたら? もしくは新種という可能性も……」

「んー……」


 さすがにこの武器で刺せば発現するというだけの条件ならば、目撃情報のない新種という可能性はかなり低いんじゃないのか?

 一瞬そんな考えが頭を過るも、いやいや違うなとすぐに気付き、小さく首を振る。

 この世界は文明が後退するほどの大規模な戦争を繰り返してきた上で今があるのだ。

 様々な情報を記した書物や石板なども、多くがその都度消失してしまっているのだろうし――うん、やっぱりそうだよな。

 続く説明文に目を通し、一人納得する。


 五大大戦の1つに数えられるカラビア大戦を収めた直後、大聖堂で謎の死を遂げたとされる聖女アストナ。

 かつて大陸全土を400年支配し続けたとされるカルバディア大帝国の初代皇帝、暴君カルナーグが幻獣と共に歩んだ者としては著名であり、残された古の記録から、幻獣に見初められし者は大きな力と引き換えに何かしらの代償を支払うとされている。


 ここに書かれた内容も著者が直接確認したというわけではなく、当時存在していた歴史書の類いから情報を取り纏めたモノ。

 ならばこの挿絵だって実際当てになるのかは分からない。

 そんなことをリコさんと話していると、肩に乗る謎の生物に対しての話題だったせいか。

 エニーが興味津々といった様子で近寄ってくる。

 強く警戒するも、肩に乗った白い獣はこちらを見つめるだけで何もしてこない。


「すごっ……! この子、幻獣っていうの? 一緒にいたら本に名前が残るような人になれる可能性もあるってことだよね!?」

「いや、まあ、そういう可能性もあるんだろうけど……あと正式な名称は幻獣じゃなく憑獣――」

「その名前だとなんか怖いから嫌! じゃあ尚更大事にしなくっちゃね~ふふっ、呼び方がいろいろあるみたいだし、せっかくなら名前つけてあげようかな! ねえ、雪みたいに真っ白だし、ユッキーでいい?」

「……」


 自分なりの強みを得られたからだろう。

 白い獣に語り掛けるエニーは本当に嬉しそうで、そんな気持ちも分かるだけになんと声を掛ければいいのか、かなり悩むが……


「俺がもしエニーの保護者という立場なら、どんなに強く望まれようと迷わず止めるし、そもそも後悔に繋がるような選択肢を与えない。まだ13か14くらいの歳であれば、本来はそうするべきだとも思う。でもエニーは同じ下台地に住む仲間で、強くなるための努力をもうここに来て2年くらいか……その間ずっと続けているのも知っていて、だから最後にもう一度だけ確認するよ」

「……」

「エニーが考えている以上に嘘を吐けないっていうのは大変なことで、そのせいで命を危険に晒す場面だって今後出てくるかもしれないし、ほんの冗談のつもりが虚言と判断されてこの獣に殺されてしまうかもしれない。それでも、本当にこのまま生きていくの?」


 こうなるともはや覚悟を問うくらいしかできず、そんな俺の問いかけにエニーは、一転して真面目な表情でこちらを見上げる。


「危ないことだっていうのはちゃんと分かってるし、怖くないわけじゃないよ。でも……それでも、私にはこの子が必要。だって、私頑張るからあと50年待ってって言っても、ロキも、それにロキが戦っている異世界の人達も待ってはくれないでしょ?」

「それは……うん、そうだね」

「大ばあちゃんに才能があるって言われて、宮廷魔導士の人達も凄く見込みがあるってみんな褒めてくれて……でも、もう分かってるんだ。それは常識的な範囲の凄いであって、世の中にはそんな常識なんて通用しない人達が、たぶん私が思っている以上にいっぱいいるんだって」

「……」

「なぜかあとちょっとで追いつけそうなカルラにも追いつけないし、師匠は最初から全然勝てないし、ロキなんて相手にもしてくれないし……強くなっているはずなのにどんどん自分が弱く思えてきて、全然凄くないじゃんって自信がなくなってきて、それでも私は大ばあちゃんみたいにみんなを救えるような凄い魔導士になりたくて……どうしても諦めたくないんだ……だからお願い、この子と一緒に生きていくことを許して!」

「……ゼオはどう思う?」


 もう俺の中では粗方結論が出ていた。

 が、一応師匠の立場であり、先ほど攻撃を食らったゼオにも確認しておこうと視線を向ければ、なぜかゼオは顎を摩りながらニヤリと笑う。


「ふっ、我はロキほど甘くないのでな。命短き人の子が大魔導を目指すというのだ。毒をも食らい尽くして己の糧にするくらいの覚悟がなければ不足が生じるというものよ」

「はは、確かにね」


 考えてみれば自分も同じだ。

 理由はどうあれ病的なまでに強さを求めるなら、多くの人達が思う常識なんざ真っ先に切り捨てていかなければ辿り着けやしない。

 俺と似たような覚悟がエニーにもあるなら、もう子供扱いはしちゃいけないか。


「分かったよ。エニーから無理にその獣を引き剥がしたりはしない」

「ほんとに!? やったー! 良かったねユッキー!」

「ただし、その獣が俺達にとって無害な存在なのか確かめる必要がある。そうしないと危なくて誰もエニーに近寄れない」

「うん。このままじゃ師匠達と一緒に狩場にも行けないし、手合わせもできない。だから……ね? ユッキーは大丈夫だもんね?」


 本当に伝わっているのか、それは分からない。

 が、この言葉で白い獣は俺からエニーに視線を移し、犬や猫のように首元を舐めるような素振りを見せ始めた。

 と、なると――


(先ほどまでリコさんには見向きもせず、ずっと俺を見ていたということは、思考や感情を読み取っているのか……?)


 分からないことだらけだが、自分もワクワクしてしまっていることを自覚しつつ、エニーと謎多き幻獣とのやり取りを暫し眺めていた。
648話 隠された狩場情報

 下台地の拠点周辺にて。

 幻獣の特性を調べるため、森の中で見つけた魔物を相手に実験を繰り返していると、非常に興味のそそられる結果が飛び込んでくる。

 まずエニーが敵と認識し、その対象に敵意を向けるか。

 もしくはエニーや幻獣が敵意を向けられ、攻撃と判断され兼ねない行動を仕掛けられるか。

 基本的にはこの2パターンに対して幻獣は反応を示し、相手がAランク魔物であろうと容赦なく食い散らかしていった。

 武器と盾。

 幻獣は両方の性能を兼ね備えているということ。

 この時点で十分強力だが、さらに俺を驚かせたのが今、目の前で繰り広げられている"自動反応"だ。


 ――【多重発動】――

【火魔法】――『火球』――【土魔法】――『岩弾』

 ――発動。


 エニーが"そうしたい"と思考を切り替えるだけで、踏み込んできた敵や俺が死角から飛ばした飛来物、魔法にも反応して幻獣が次々と迎撃していく。

 その速度はゼオも躱し切れないほど速く、また半透明という特性を活かしてエニーを含む障害物をすり抜けながら移動するので、背後から狙えば当たるというほど簡単な話ではなかった。

 明らかに視覚とは別の何かで宿主が昏睡していようと全方位を護り、攻撃するのだから本当に優秀だ。

 ただ欠点がまったくないわけではなく、幻獣の行動範囲は精々エニーを中心に半径2mまで届かない程度。

 加えて単体攻撃しかできず、直接的な攻撃ではないデバフ付与は幻獣もスルーしてエニーに入ってしまうので、本気で攻略しようと思えばできなくはないだろうが……


(今の俺じゃ避けて掻い潜るのはキツイかな……)


 それでもこれほどの能力となると、まだ他にも最低2体はいるっぽいし、抱えるリスクが個体によって異なるのなら、その内容次第では俺も欲しいと思ってしまう。


「その自動迎撃にしている時は駄目っぽいね」

「うん、全部ユッキー任せにしちゃやっぱり危ない。でも私が意識している時は、攻撃しちゃ駄目って言ったらちゃんと言うこと聞いてくれたよ!」


 エニーがいけそうというので、近くにいる魔物だけでなく、ゼオやカルラにも軽く攻撃を加えてもらっていた。

 自動反応中でなければちゃんと攻撃対象は識別できているようなので、これなら模擬戦や《夢幻の穴》への転移移動も滞りなく行えるだろう。

 そう考えると幻獣は気性の荒いペットのような存在だな。


「でもロキだけはなんだろうね? 今もユッキーがちょっと嫌がってる……というよりは怖がってるっぽいんだけど」

「しょうがないでしょ。俺は最悪の状況に備えて、その幻獣をどうにかする可能性や対処法まで考えちゃってるから。もしそうなったら、今は対処できるの俺くらいだろうしさ」

「あーそっか……」


 本当に暴走でもされたら、幻獣をどうにかしないと仲間やその時の場所によってはベザートなどの住民にも危害が及ぶわけで。

 共に生きることを認めた以上、俺だって最悪の最悪はエニーを殺してでも強引に止める覚悟を抱えているのだから、そんな考えを持つ俺が幻獣の警戒対象から外れないのも当然だろう。

 とりあえず、近寄ってもいきなり噛みついてこなければそれでいい。


「じゃあ大丈夫そうだし、あとは任せるね。自動だと魔力を食うとか、何か新しい発見があったらまた教えてよ」


 そう告げて、再び拠点へ。

 さすがにまだ寝てないよなぁと思いながら図書館に向かうと、リコさんはお決まりの付与付き盾を踏んづけたハチマキ装備で夜の部の仕事を再開していた。

 そして俺が部屋に入ると、珍しく反応して顔を上げる。


「あら、検証は終わったんですか?」

「うん、とりあえず皆と過ごせそうなことは分かったよ。宿主が相当なリスクを抱えるだけあって、かなり性能的には凄いね」

「ふふっ、ならしっかり記録に残さないといけませんね!」


 なんだかんだと、結果を楽しみにしていたリコさんだ。

 この世界に存在しているという程度の情報しか出てこない幻獣の特性について語ると、うんうん頷きながら物凄い勢いで木板に俺の言葉を記していく。

 どうやらこのあと、情報を整理して羊皮紙に清書するらしいが……

 俺がここに来た理由はこれだけじゃないんだ。

 出来上がった木板を並べて喜んでいるリコさんの横に、次々と戦利品の一部を放出していく。


「これ、そこまで多くはないけど見覚えのない本も交じっていたと思うから、とりあえず全部渡しておくね」

「ふぇ……これも、アルバートの……?」

「そうそう、兵士が大事そうに抱えていたお宝っぽいやつ。あとは――、これもだね」

「ッ!?」

「俺も楽しみにしてたからさ。まだ眠くないなら一緒に整理しちゃおうよ」

「も、もちろんです!!」


 追加で渡したのは、薄い金属の箱に入れられた源書の完品と叡智の切れ端だ。

 ガルム聖王騎士国からも結構な量をコピーさせてもらったが、こちらは完品だけでなく、くっつかないように分けて保管された切れ端もかなり多い。

 となると、弥が上にも期待は高まるわけで。

 二人して慎重に分別していくと、歯抜けになっていた所に新たなページが次々と加わっていく。


「あ、52番できた!」

「48番と、それに57番もです! これでやっと40番台が全部揃いましたよ!」


 もう時間帯は深夜だというのに、はしゃぐ二人の声が石造りの簡素な部屋に響き渡る。

 そして――。


「おお~マリーも不要と判断した残り物ではあるんだろうけど、それでも追加で8枚完品が出来上がったのはかなり大きいね」

「ええ、それに初めての60番台も……!」


 ズラリと並べられた大判の源書を眺め、二人して感慨に耽る。

 古い歴史があり、書物に強い国とあってガルム聖王騎士国も30番台までは一通り揃っており、40番台と50番台もそれなりに完品を抱えていた。

 そこに今回の戦利品が加わり、これで60番未満は残すところ55番と57番の2ページだけ。

 ようやく国という規模でも滅多に抱えていない上位のページに手が掛かってきたことで、俺とリコさんはニヤニヤが止まらない。


「では早速……」

「ええ、見てみましょう!」


 二人して追加された源書に目を通していくと、最初のうちはまあまあ予想していた通りの内容だ。

 主に俺がステータス画面で見ている各スキルの詳細、各職業の内容や魔物情報などがびっしりと記されており、番号が大きくなるほどより上位の内容が明かされていく。

 そんな流れは50番台でも変わらず、俺がまだ見ぬSランクの魔物情報を眺めていると、別の源書を見ていたリコさんが小さく声をあげた。


「あっ、59番で《夢幻の穴》についても書かれていますね……」

「え? あーほんとだ……砂に覆われた大地、ヘルデザートに隠された狩場への入り口……それらは移ろい、侵入者を拒み続けるが、辿り着いた者が強運であるほど大いなる富と絶望を齎す、か……」


 情報自体はこれだけで、他と違い魔物構成も記されておらず酷く曖昧だ。

 俺だってあれだけ通い詰めても半年くらいは砂漠を彷徨い続けたわけだし、これを見たからただちに見つけられるというものではないだろう。

 だが、59番の切れ端をこれだけアルバートの王家が所持していたということは、まずマリーもこの情報は既に把握していているということ。

 となると、『城内』だけは未開通にしておいても、いずれマリーが見つけ出す可能性もあるわけで、伏せておいてほしい場所まで載ってしまっていることに思わず眉を顰めてしまうが……


(……まあ、今更だな)


 既に素材は溢れてジェネ達に食わせるほど有り余っているし、いずれマリーの動向に関係なく、ベザートの戦力が追いついてきたら『城内』まで転移陣で繋げ、Sランク狩場を解放する可能性だって考えているのだ。

 辿りつけなきゃ暫く素材で荒稼ぎさせてもらうし、辿り着いたらそれはそれでさらなるベザートの戦力底上げのために狩場を活用すればいいだけの話。

《夢幻の穴》について触れられていようともはや大した問題ではなく、それよりこの手の"隠しネタ"が狩場にまで及び始めたという事実に胸がざわめく。

 これはもしかしたら……

 かつて耳にした言葉を思わず探すと――、やはりだ。

 同じページにそれらしい情報を見つける。


『Sランク狩場《ハマンの氷園》:北の海、全てが氷に覆われた極寒の地に隠された狩場が存在する。求めるならば極氷点を目指せ。死をも恐れぬ卓越した魔導士のみが、大いなる経験と共に希少な宝を手にするだろう』


 フレイビル王国ロズベリアのギルマスであるオムリさんが、実在するかも疑わしい文献情報として、北の海にもSランク狩場があるかもしれないと教えてくれていた。

 そして、その情報は事実だったと。

 確信に変わったと同時になんとも言えない高揚感に包まれ、心が躍る。


 極氷点とは……


 魔導士のみってなんだ?


 希少な宝ってなんなんだよ。


《夢幻の穴》と同様に普通の狩場ではないらしく、情報はこれくらしか載っていないが、今すぐにでも探検しに向かってみたい。

 というか、もう行ってもいいんじゃないのか?

 国のテコ入れもある程度は形にできたし、これから向かえば朝方には――

 激痛に苛まれながらそんな妄想をしていたら、横にいたリコさんに激しく肩を突かれる。


「ちょっと、ロキさんってば!」


 ああ、いけない。

 どうやら久しぶりに別世界へトリップしていたらしい。
649話 出現条件

「あ、ああ、ごめんごめん。ちょっと楽しみ過ぎて……」

「もう! ほら、ここです! この辺りもロキさんが大好きな内容なんじゃないですか?」

「え? なになに、特定の狩場で稀に現れる希少種『黄金ガエル』は、目立たぬ新月の夜になると、《メディナ湖》、《ボイス湖畔》、《カムタール湖沼》の水面から顔を出し、その姿を現す……!? うぉおお、ッぐ……! マジ、かよ……これ、62番か……?」

「?」


 意識が飛びそうになるほどの激痛に耐えながら探すと、予想通り62番の文字が源書の上部に書かれており、60番台でこうなるのかとさらに呼吸が荒くなる。

 今までにも希少種の情報は記載されていた。

 しかし《夢幻の穴》や《ハマンの氷園》と同じく、各狩場情報の中にこんな魔物が出現することもあるよと。

 やんわり濁した内容が記される程度だったため、俺がこれだけ狩場巡りをしても未だ2種だけしか希少種という存在に出会えていなかった。

 運が全然仕事してねぇって嘆きながら後回しにしていたけど、なるほど。

 湧きは偶然ではなく、何かしらの出現条件が存在していたのなら納得できる。

 期待していたSSランクの魔物情報は見当たらないが……うん、これはこれでかなりデカいな。


 となると、だ。

 頭の中で情報を整理しつつ、俺はこれからどう動くべきか。

 作りかけの世界地図を広げて吟味する。

 すると興味深げにリコさんも俺の世界地図を覗き込んだ。


「どこに行こうか悩んでるんですか?」

「そうなんだよねぇ。北の隠されたSランク狩場に一瞬飛びつきそうになったけど、アルバートでだいぶ時間を食ったから他所の地図も進めていきたいし、でも強くはなりたいし……」


 地図作りは今まで以上に加速できるだろう。

 アルバートのように初めから精巧な地図を作るつもりはないし、恒常的に存在する魔物もこれだけ源書の情報を拾えれば、既に8割以上狩れていると分かるのだ。

 大半の狩場は立ち寄ることもなく飛ばしていけるのだから、動けば出来上がりまではきっと早い。

 だから今まで通り、通り道の地図を国単位で埋めていきながら目的地を目指す方針で良いとは思うが、問題はどの方面に向かうべきか……

 地図を眺め、視線は一度アルバートの南部へと向く。

 未開の大陸南東に向かえば、中途半端に終わっているエリオン共和国の地図を終わらせつつ魔境に入り、エスペヒスモという場所にいるらしい"バイコーン"から、今一番欲しいと言っても過言ではない"黒い雷"のスキルを手に入れられるかもしれないが……

 源書にもはっきり希少種と書かれているのだ。

 となると出現方法まではっきりしなければ時間を無駄にする可能性が高いし、様々な亜人が住むとされる魔境はハンスさんも強く警戒するような場所だ。

 攻撃的なオールランカークラスの亜人に出くわすと今はかなりマズいので、南東方面は候補から外した方が無難だろう。

 また大陸の南西も今はそこまで魅力を感じない。

 表ボスがいる水の都ハーディアを巡れば多少なりは強くなれるかもしれないけど、帝国が争う戦地とかなり近くなるっぽいからなぁ……

 それでも向かうとなると、目的は中級ダンジョンになるが。


「リコさん、中級ダンジョンの『命脈のジルコニア』って、たぶん位置的には大陸の西側だよね?」

「えーと、そうですね……中級ダンジョンを抱えるゴート市街地が形成されたのはザスマラ山脈の南部、山道からシャビナ海を行き交う船が見えたという記述も残されていたので、たぶん位置的にはこの辺り……今は帝国領になるんじゃないですか?」

「あー思ったより南っぽいのか……となると余計に無理だな」


 ニローさん経由の情報では未だ勇者タクヤの所と争っているようだし、ようやく最低限の防衛対策を整え始めた程度のこの段階で余計な刺激を与えても、うちにとっては良いことなど一つもない。

 となると、やはり北西――まずはトルメリア王国の地図を作り、その後にファンメル教皇国やハンターの聖地カナン、それにガラスの生産地でもあるオデッセン王国の方面を目指すか。

 もしくは北東――ガルム聖王騎士国やアルバート王国辺りから北に向かい、Sランク狩場を抱えているアイオネスト王国を目指すか。

 どちらも最終的には北の海に出るはずなので、そのまま《ハマンの氷園》を探すことに違いはないが、聖地カナンはどう考えてもエンドコンテンツな上級ダンジョンを抱える国だ。

 俺や仲間の強さだけを最優先に考えるなら一番手っ取り早いだろうけど、一度通い始めてしまうと俺の性格上、数年単位で装備の厳選から抜け出せなくなりそうなのが怖い。


「んー……ごめん、リコさんもう1つ。《パスマキア溶岩洞窟》って地図のどの辺りにありそうか分かる?」


 生息する魔物の多くが新種になる、まだまったく足を踏み入れたことがない種別の地形。

 そんな狩場がまだいくつか残されている中、Aランク狩場《パスマキア溶岩洞窟》は大陸中央に長く連なるエイブラウム山脈のどこかにあるというくらいで、俺の抱える知識だけだと場所を絞ることができなかった。

 規模の大きいハンターギルドで聞いて回るのが一番だろうけど、もしリコさんが知っていてどちらかのルート上に存在するようなら、それを決め手にしてもいい。

 そんな気持ちで問うと、リコさんは難しい顔をしながら暫く唸る。


「ん~《パスマキア溶岩洞窟》……"種火魔石"の取得場所として書物でも何度かその名前は見かけましたけど、言われてみれば確かに、どこの国の管理地になるんでしょうね……ごめんなさい私、今この時の情報にはどうしても疎くて」

「あー全然、もし知ってたらなって程度だからさ」

「でも溶岩というくらいですし、それならエイブラウム山脈の最東部が怪しいんじゃないですか? あの辺りは温泉地がいくつもあって、凄く心と身体が癒されると以前におばあ様から聞きましたし」

「温泉? あーそういえば……」


 秘蔵院へ向かう途中、ガルムのウォズニアク王に天然風呂の話をされた記憶が蘇る。

 良い汗を流せるとかで、ガルムの北にある風呂場にハーゼン騎士団長とお忍びで行っているようなことを言っていた。

 その時はいつか自分も寄ってみようくらいにしか考えていなかったが……

 なるほど、地熱があるから温泉か。

 それなら北東ルートが自己強化にはベストかもしれない。


「そんな不気味な笑い方して……でもロキさんの場合、温泉より狩場の方が楽しみに思ってそうですね」

「はは、強くなれそうかなって思うと、どうしてもさ」

「ふふっ、46番に載っていた《パスマキア溶岩洞窟》の絵を見ても、今までとは毛色の違う魔物が多そうですもんね」

「その期待ももちろんあるけど、でもたぶん、本命はこっちじゃないかな」


 そう言って62番の源書にある、3種書かれたEランクの希少種を指差す。

 リコさんはしばらく首を傾げていたが、意味を理解した途端、はっと驚きの表情を浮かべた。


「あ、出現地は《パスマキア溶岩洞窟》なのに、Eランクの希少種……?」

「そう。なぜかAランクの狩場に湧く、この場違いな希少種が匂うというか、俺の直感では一番熱い気がするんだよね」


 当たるのかどうか。

 それは分からないが、俺だけじゃまず一生湧かせられなかったであろう出現条件がここに記されているのだ。

 条件が整えられそうな希少種も狙いつつ、北上しながらAランク、Sランク狩場と巡り、北の海に隠された狩場を目指す。

 ようやく落ち着いてきたことで始まる新たな冒険にワクワクしながら、その日は当たり前のように徹夜するリコさんと溜めていた情報の整理や収集に明け暮れた。
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ここまでご覧いただきありがとうございました!
今までと比べるとだいぶ平和だった18章自国強化編はここまでとなります。
短い章だったのでロキの手帳は省き、次週にはすぐ19章に突入しますので、引き続き楽しめそうな方はまったりお楽しみください。
19章は……また今までとはちょっと違うテイストになるかもしれません(分からんけど)
650話 勇者の苦悩

 大陸の北西に位置するエルグラント王国。

 ロキが再びまだ見ぬ土地へと向かって間もなく、国の重鎮が集まる王城内の一室にて、数カ月ぶりに戦地から帰還した武官の重苦しい報告が続いていた。


「――左様でございます。特に戦陣の中央を受け持ったウドラ三国連合は壊滅と言っても差し支えないほどの甚大な被害が出ており、我が国も援軍として出征しておりました特級騎士フォクセン、特級魔導士セパントの戦死を確認。超級騎士カイゼル殿まで行方が分からないままとなっております」

「また惜しい人材を……帝国側の被害は? まさかもうこちらの領土内を踏み荒らしているのか?」

「いえ、水の都ハーディアの戦歌隊を筆頭とした遠距離部隊に加え、帝国の背後から単独で迫った王太子殿下と連合部隊の挟撃になったため、要所のカラマン渓谷を抜けられることなく10万規模の帝国兵は殲滅できております、が……」


 報告していた武官は言い淀みながら視線を移す。

 すると共に帰還した勇者タクヤが苦い表情を浮かべながら、疑問を重ねるエルグラント王国の宰相――ベルゲン卿相に向けて言葉を発した。


「最低でも2部隊はいると聞いていたんだけどね。俺が攻め入った時には部隊長はおろか、副隊長クラスの姿も確認できなかった。まだ死体は発見されていないみたいだし、かと言ってあの状況なら見逃して逃げられたという可能性もないと思う」

「ふむ……で、時を合わせたようにザイオンの中枢都市、エディゲマが帝国の奇襲によって陥落したのだな?」

「え?」


 驚く勇者タクヤを他所に、ベルゲン卿相に問われた別の武官が頷きながら答える。


「はっ……時間にすれば1時間も掛からなかったのではないかと……援軍に入っていた我々も警戒する中、突然町の各所で轟音が鳴り響き、目立つ建物や兵舎が次々に倒壊していきました。間違いなく軍の接近は許していないため、個体戦力の際立つ帝国の幹部級が同時に攻め入ったのだと推察いたします」

「くっ……俺が離れた隙に……!」

「……これで3度目、さすがに偶然ではありますまい」


 深い溜め息と共に呟いたベルゲン卿相の言葉は、この場にいる者達を沈黙させる。

 そう、これで3度目だ。

 多方面からの攻撃によりじりじりと戦線は押し込まれ、援軍として送った力ある将を失っているにもかかわらず、エルグラント側はかれこれ半年ほど厄介な帝国の隊長クラスを討てていない。

 その事実が重く圧し掛かると共に、様々な可能性がこの場にいた者達の脳裏を過る。

 そんな中、静かに報告を聞いていた王が口を開いた。


「……まだなのか?」


 王の目は、息子である勇者タクヤを射貫くように見つめていた。

 だから一度喉を鳴らし、勇者タクヤは答える。


「はい、まだファンメル教皇国が折れてくれません。不毛な争いを終わらせるため、当初のようにあるだけではなく、せめて『瞬天の首飾り』だけでもいいから貸し出してほしいと願い出ているのですが、戦力や資金提供を条件に付けても未だ存在そのものを否定されています」


 古書では『神器』と称されることもある創世級《1等級》の装備。

 ファンメル教皇国が保有している事実を自ら公表した記録は残されていないが、かつての英雄や賢人を蘇らせるため、教会に属していた<聖女>の【蘇生】と引き換えに神器を献上したとされる記録がいくつか残されており、そのうちの1つ――『瞬天の首飾り』はエルグラント王国が抱える秘蔵の書物にもはっきりと記されていた。


「さしもの帝国もファンメル教皇国には楯突くまいと高を括っているのでしょう。この戦を機に、帝国の戦力が水の都ハーディアへ向かえばまた少しは考え方が変わるやもしれませぬが……いや、これまでの動きを見る限り、その可能性はほぼないに等しいでしょうな」

「ですね。肥沃な土地や資源を狙ってというよりは、真っ直ぐ北に進路を取りつつ我が国の戦力を削りにきています。ここで帝国が東に目を向け我らに隙を晒すとは思えません」

「それに間違いなくあの戦場に見覚えのある隊長格が2名いたのを私は見ているのです。にもかかわらず殿下が現れれば姿を消し、主力を潰さずに手薄の地へ都合良く攻め入っているのですから、これはもう帝国側が転移か、それに準ずる能力を得たとしか思えない……だからハーディアが帝国の背後を突くように横槍を入れてきたとしても、十分に対処できると踏んでいるのでしょう」

「「「……」」」


 実際に目撃したという武官の一人が、脳裏を過っても軽々しく口には出来なかった最悪の事態を言葉に表したことで、ざわつく重鎮達の表情はより一層の不安や絶望の色が漂い始める。

 勇者タクヤは確かに強いが、あくまで個であり、移動の手段を飛竜に頼っているのが現状だ。

 分散して攻められれば翻弄されることも多く、その強さを活かし切れなくなってきている。

 それは王と勇者タクヤ本人も理解しているのだろう。


「もう一刻の猶予もない。それは分かるな?」

「もちろんです、父上」

「ならばいい加減に次の手を打て。でなければ詰むぞ」

「っ……承知しています。承知しています、が……」


 王が何を望んでいるのか。 

 すぐに勇者タクヤとこの会議に参加を許されている重鎮達は感付く。

 第五の異世界人ロキだ。

 【空間魔法】の所持者であり、個体戦力も高いと噂のあの男なら、帝国の攻勢を止められるかもしれない。

 だが……

 最近になって各所から飛び込んできた知らせを思い返し、勇者タクヤは苦悶の表情を浮かべる。


『マリーを擁する大国アルバートの王都ロミナスが、大地を揺るがすほどの大規模な攻撃を受け、僅か数刻で王家共々壊滅した』


 最初は何かの間違いかと目を疑うほどの衝撃的な一報だった。

 しかし、アルバート王国が王都を別の地に移すと、新王を名乗るマリーの挨拶と共に正式な書簡が届けられたことで、エルグラント王国を含む各国はこれらの報告が真実であると確信に変わったのだ。

 となれば、アルバート王国に正面からぶつかったのはどこの勢力なのか。

 誰もが気になるその事実までは公にされておらず、しかしどの国の上層部も真っ先に一人の人物を思い浮かべる。

 それはそうだろう。

 地図を悪用したら王都を吹っ飛ばすと、ラグリース王国を通じて各国に警告してきた男がいるのだ。

 東へ進路を取りつつ、次々と各国の地図を完成させてきたであろうその者がついにアルバートへ入り、地図を悪用している事実を知って本当に行動へ移した。

 平気で地図を利用し自己の利益を求めそうなマリーの人物像まで想像すると、そう考えるのが最も自然だったのである。

 だから悩む。

 本当にロキの力を頼ってもいいものなのか。

 当初の予想通り、あの大国アルバートにあっさりと攻撃を仕掛けるロキという存在は危険極まりないし、これでマリーとロキはどう考えても敵対の構図だ。

 そのロキの力をどのような形であれ借り受けたとなれば、取引相手であるマリーとの関係性まで崩れる可能性が出てきてしまう。

 しかし、他に選択肢は――


「……」


 この時勇者タクヤは、脳裏にもう1つの選択肢を思い浮かべるも、掻き消すように小さく首を振った。

 浮かんだ案はあまりにリスクが高く、仮に目下の問題が解決したとしても新たな問題が生まれる恐れもあるし、何よりあの時の自分では"渡る手段"を見つけられなかったのだから当てにはできない。

 結局、危険を承知の上ででも、悪であれば動くという言葉を信じてロキの手を借りるしかない。

 そう判断し、己の不甲斐なさに拳を強く握りしめながら勇者タクヤはゆっくりと頷く。


「……分かりました。まずは俺が一度、直接ロキに接触してみます。それだけはお許しください」

「既にレグナートが断られているのにか?」

「それでも自分自身の目でどのような人物なのかは見定めておきたいのです。場合によっては俺が常に彼と行動を共にすることも考えなければなりませんので」

「……よかろう。だが――」


 王の目が、睨みつけるように鋭さを増す。


「失敗は許されんぞ」

「ッ……承知しています」


 つまり正攻法が駄目なら、強引に巻き込む搦め手を使ってでもロキをこちらの戦力にしろということ。

 ここまでの状況に陥っているのは、無理を言って教会や他国への協力を仰ぎ続けた自分自身の責任であり、あとがないことも分かってはいるが……


(どうすれば……どうしたらいい……)


 険しい表情を浮かべながら退室していくこの国の未来を、重鎮達は固唾を飲んで見つめていた。
651話 火河の国ナフカ

 ガルム聖王騎士国から北に向かうと、緑豊かな大地がどこまでも続いていた。

 通称『火河の国ナフカ』と呼ばれるこの国を巡ってもうそろそろ2週間。

 その名称からなんとなく予想していたとはいえ、こうして異質な光景を目の当たりにしてしまうと思わず息を呑んでしまう。


「おお、これは凄いな……」


 火河の国ナフカで王都に次ぐ規模を誇る交易都市『オランゴート』は、今までにない特殊な作りをしていた。

 山の麓に広く町は広がっているのだが、西側――つまり山側だけが異様に膨らみを持たせた城壁で覆われており、その厚みは今も作り続けているベザートの石壁に匹敵するのではないかと思えるほど。

 その西側は城壁の手前が大きな窪地になっており、今も黒ずんだ地面に大勢の人達が群がり何かの作業をしていた。

 城壁から町とは逆側に向けて角のように伸びた2本の石壁を見ても、ここで堰き止めプールするのが目的だろうとおおよそ見当がつく。

 噂が本当なら興味深い光景だが、しかし俺の一番の目的はそちらではなく狩場。

 この日のためにせこせこと地図作りを頑張ってきたようなものなので、早速町に降り立ちハンターギルドへ。

 源書とはまた角度が違う、この地で生活するハンター達の情報も収集しつつ、町の中に入り口があるという地下道を通って《パスマキア溶岩洞窟》へ向かった。

 と、視界の先に赤く染まる狩場が見え始めたところで、トンネルの両脇に並ぶお店――で合っているのだろうか?

 そこの店主から声が掛かる。


「おい、そこの凄い恰好したあんちゃん! 見かけない顔だが、どうせ種火魔石を取りに来たんだろ? だったら余った『戦利品』はうちに任せてくれよ! なんでも高く買うぜ!」

「いやいや、そこのカッコいいお兄さんはうちに卸してくれるわよね? サービスするわよぉ~!」

「何がサービスだ気持ち悪い声出しやがって! まず俺が喋っている最中に被せるんじゃ――……」

「いーや、うちに卸してくれよ! うちに決めてくれたら荷車と力自慢の荷引きもタダで1日つけるからさ!」

「ちょっと兄さん、その分安く買い叩かれるんだから騙されちゃ駄目だよ! それよりすぐに金が欲しいならうちにしときな! うちなら明日の昼にはきっちり勘定して金を支払うからすぐに旅立てるよ!」

「かーっ! 一番ケチ臭いババアが何言ってやがる! うちなら一度利用してくれれば次回利用時に――……」


 次々と荒々しい呼び込みの声が掛かるのは、新人が現れた際の恒例行事なのか……

 苦笑いしつつ左右に並ぶ買取屋らしきお店を通過していくと、そこから先は多くの人達で賑わう狩場が広がっていた。

 と同時に俺の感情が心の中で爆発する。


(い、ってぇ……けどすげぇ!!)


 今までドラゴンやら派手な魔法なんかも見てきたわけだが、この感動はそれとはまたちょっと違ったモノだ。

 とにかく視界が赤く、壁面や天井から噴出したマグマによって、まるで池のようにいくつも溶岩溜まりができていた。

 そしてわざとらしく用意された、溶岩溜まりのど真ん中を通り抜け、奥へと進むための見るからに危なそうな細道!

 手前の安全地帯で魔物と戦う人達が多くいる中、荷車を牽きながらおっかなびっくり通過しようとしているハンター達を見ると、「うお~めっちゃファンタジーじゃん!」と思わず心の中で叫んでしまう。


「おい、兄ちゃん! 通路のど真ん中で立ち止まんなって!」

「あ、失礼しました!」


 仁王立ちして興奮している俺が邪魔だったのだろう。

 声が聞こえて慌てて飛び退くと、ムキムキのおっさん達は荷車に大量の"戦利品"を積んでズラリと並ぶ先ほどのお店に運んでいく。

 武器を所持しておらず防具も軽装。

 そんな人達が他にも十人以上入り口の脇で荷車と共に待機しているのだから、狩れるハンター達と戦利品を運ぶ雇われの荷引き。

 その荷引きの荷物をすぐに引き取り、のちほど金に換えてくれる入り口の換金所という構図がこの狩場では出来上がっているんだろうな。


「さーて、それじゃあ狩ってみますかね」


 俺の興味はあくまで魔物が抱えるスキルだが、他の人達が目的にしている戦利品とはどんなものなのか。

 早速広場の端でのそのそと歩いていた、俺より倍くらいはタッパがありそうな岩の塊に近づく。

 この魔物の名称は『アイアンゴーレム』。

 はっきりと場所が決まっているわけではなく、胸元の辺りに魔石が埋まっているという話なので――


 ――【魔力感知】――


 このままいけるかな?

 そう思って一度蹴り倒し、鎖で繋がれた両手を突き入れるとそこまでの強度ではなく、身体を構成している黒い岩が掴むたびにボロボロと砕け落ちる。

 そうして掴み取った魔石を取り出すと、足掻くように動いていたアイアンゴーレムの動きは止まった。


「ふーん……」


 魔石は属性もない、Aランク相当の大きさがあるというだけの見慣れた普通の魔石だ。

 しかし周囲に散らばる黒い石を握り潰し、より細かく砕いてみると、そのうちの1つから拳よりは少し小さいくらいの金属塊が出てくる。

【鑑定】を使うと魔物の名前の通り、素材は鉄。

 夢幻の穴から拾えるモノと違って純度はそこまで高くないようだが、ポロポロ出てくるので集めればそれなりの金にはなるのだろう。

 そして――……


「へえ、"ラリマー原石"っていうのか……全然分からないけど、こういう仕様も面白いな」


 その中から鉄塊とは違う、僅かに青みがかった綺麗な石の塊が現れる。

 興味の対象から外れ過ぎていて名前を見ても俺にはさっぱりだが、まあどう考えたって宝石の一種であることは間違いない。

 この《パスマキア溶岩洞窟》に現れるゴーレムは、対応する魔物の鉱物だけでなく、その身体に様々な宝石も内包している。

 そしてその量が外に流れ出る溶岩流より豊富で種類も多いため、ここに根付いてゴーレムを狩り続ける"ジュエルハンター"と呼ばれる者達は、魔物だけでなく暑さとも戦いながら希少価値の高い戦利品を探し求め、そうでない多くの者達は安全な外で溶岩が固まってから宝探しといわんばかりにそれらを回収していく。

 このご時世にあって、巡る町が豊かで奇麗に見えたのはこういうことかと。

 宝石で財を成す国の事情を理解し始めたところで、より奥の方で蠢く異形のゴーレム達にも目を向けた。
652話 アダマントゴーレム

《パスマキア溶岩洞窟》は他では見かけないゴーレムが主体の狩場だ。

 その数は計6種にのぼり、希少鉱物を含むゴーレムほど出現頻度が低く、また狩場の奥地で見かけることが多くなる。

 ……という情報は事前に得られていたため、今までにない狩場環境だと思って興味をそそられたわけだが。


「まあ、そう上手くはいかんよな」


 これで4種目。

【擬態】した状態で天井に張り付き、固定砲台のように魔法を撃ってくるミスリルゴーレムを倒したところで小さく溜息を吐く。

 図体はデカいけど動きがのろく、腕を振り回すことで【衝撃波】を放ってくるアイアンゴーレム。

 鋭い六本の脚を持ち、縦横無尽に天井や壁面を動き回るブロンズゴーレム。

 人型で様々な金属製の武器を持ち、対応したスキルも使用して襲ってくるゴールドゴーレム。

 これまで奥へ奥へと進みながらこの4種を始末してきたわけだが、スキルはどれも既知のものばかり。

 狩場の奥地に2か所ある小さな祭壇で、5日に1度自然形成されるという種火魔石を1つ記念に回収したくらいで、他は目ぼしい戦果もないまま最奥地らしい行き止まりの部屋まで到達してしまっていた。

 とは言え、この程度は覚悟していたことだ。

 むしろここからが本番だろうと、祈るような気持ちで半分近くが溶岩の池で染まる、出入口が1つだけの広い部屋を眺める。

 運搬の手間やリスクを考えると大半は狩場の入り口付近を狩場にしているようで、途中は荷引きも引き連れていない、大物狙いと思われるパーティを2組見かけただけでほぼ人などいなかった。

 この狩場に表ボスがいないことも源書が証明しているし、ならばここを俺専用の拠点にしたって誰も文句は言わないだろう。

 そう判断し、頭の中で魔法を唱える。


『溶けない氷』


 生成したのは暑さ対策のための分厚い氷だ。

 溶けないと言っても実際は溶けにくいだけだが、地面に敷いた上で周囲を覆い、まずは俺自身を隔離してから【魔力纏術】で自分好みのリクライングチェアを作って読書に耽る。

 俺が周囲を眺めていては湧いてくれないので、リポップ狙いならこれが一番。

 快適な環境を整えてから半自動狩りを開始した。


 ――【闇魔法】――『黒玉』――『魔物を殺せ』――




 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽




 それからどれくらいの時間が経っただろうか。

 4冊目の本を手に取り暫くしたところで、ここに湧く最後のゴーレム――『アダマントゴーレム』が【探査】に反応し、思わず飛び起きる。

 氷の壁を飛び越え反応のある場所に目を向けると……んん?

 人の頭部よりはやや大きいくらいの棘が生えた球体が、溶岩の池の上でふよふよと浮遊していた。

 ええ……あんなのがゴーレムなのか……?

 5種目の『ダマスカスゴーレム』は、とても無生物とは思えないほど素早く動く4つ足の獣のような風体だったため、意外過ぎる見た目に思わず困惑してしまうが。


「よし……よしよしよし」


 見覚えのないスキルを抱えていると知り、自らを落ち着かせるように大きく息を吐く。

 俺のステータスを伸ばしてくれるなら、魔物の見た目なんざなんだっていい。

 と、突然頭上から無数の岩が降り注ぎ、俺の作った仮拠点を破壊していく。

 躱すのは容易く俺自身が当たるようなことはないものの、溶岩の池にも容赦なく岩が落ちるため、跳ねるし所々で爆発しているしでアダマントゴーレムに近づけない。

 これは……かなりいやらしい魔物だな。

 溶岩池の上を漂ったまま一向に近づいてこないので、倒すとしたら普通は遠距離攻撃に頼るしかなく、しかしそうなるとせっかく倒せたとしても求めている戦果物が溶岩の中に落下してしまう。


 ――【挑発】――


 かと言って――、やはりだ。

 呼び寄せるために【挑発】スキルを放ってみるも、【挑発】の対象は生物のみという特性があるため、無生物のゴーレムには反応がなかった。

 滅多に湧かない上に、その素材も取りにくい。

 だからこそ、上手に攻略すれば希少なアダマント素材を手に入れられるということなのかもしれないけど、ん~普通はどうやって倒すんだろうな。


「ほい、捕まえた」


 結界の中でそんなことを考えながら暫く動きを止め、真横へ転移。

 すぐに魔力の反応が強い場所に手を突き入れ魔石を抜き取ると、強くはないけど面倒なアダマントゴーレムはその動きを止めた。

 そして、アナウンスが流れる。


『【落岩】Lv1を取得しました』


 詳細説明を見ても【火炎息】や【烈風】などと同じ、素早い発動で広域に攻撃を加えられるタイプの土属性版だ。

 今となっては【無詠唱】があるため恩恵は薄いが、取得さえできればすぐにステータスをある程度伸ばせるのだから、それだけで時間を掛けた価値はあるというもの。


『【落岩】Lv2を取得しました』

『【落岩】Lv3を取得しました』

『【落岩】Lv4を取得しました』

『【落岩】Lv5を取得しました』

『【落岩】Lv6を取得しました』

『【落岩】Lv7を取得しました』


 よしよし、まずは1つ目。

 とりあえずレベル7まで上げておき、対応する『防御力』の上昇値に納得してから、未だボコボコと音を立てて泡立つ溶岩の池に目を向けた。


「さーて……本命も期待に応えてくれるかな?」
653話 怪奇料理

 アダマントゴーレムは半日狩り続けてようやく出会えるくらいに湧きが絞られていたが、それでも位置付けは一般的な魔物だ。

 この狩場に設定されている希少種は別におり、その情報はハンターギルドの資料本にもこのように記されていた。


 ラヴァフィッシュ:《パスマキア溶岩洞窟》内部にて、極稀に溶岩の中を泳ぐ下位ランクの魔物に襲われることがある。倒せれば食すことで一時的に暑さを感じなくなるという怪奇料理の1つ、ラヴァトルガの材料になるという逸話も残されているが、人の目に触れるのは10年に一度と言われるくらいに目撃事例が少ない。


 ある特定の条件を踏むことで現れる、溶岩の中に潜む魔物。

 記憶にある"怪奇料理"という言葉は、自称美食家の放浪貴族ロマンドが書いた本の情報からだと思われるので、その効果はどこまで信用していいか分からないけど、とりあえずハンターギルドも出現率の異様に低い魔物が存在していることは認識しているらしい。

 まあこの出現条件じゃ、仮に目撃者がいたとしても既に死んでしまっているパターンの方が多そうだしな。

 しょうがないかと思いながら溶岩池の淵に立ち、とりあえず適当な魔物の肉を放り投げる。


「……」


 源書に記載されていた条件は、溶岩に餌となる肉を放り込むこと。

 え、これだけって思ってしまうくらいシンプルではあるものの、《パスマキア溶岩洞窟》はゴーレムばかりの狩場なわけで、肉なんて自ら持ち込むでもしなければ"人の肉"しか存在していないからなぁ……

 誰かが落ちたその肉に釣られて近寄り、慌てふためくパーティに襲い掛かる。

 鬼畜のような魔物の姿を想像しながら暫し待つが――。


「あれ……出てこないな……」


 溶岩の中から何かが襲ってくるようなことはなく、追加でより多くの肉を放り投げてもその状況は変わらない。

 ならばと【広域探査】を使用してみるがそれらしい反応は得られず、本当にこの手順で合っているのかという疑念が湧いてくる。


「与える肉は人じゃないと駄目なのか? いや、場所がここではない可能性も……」


 よくよく考えてみれば、黄金ガエルも『新月の夜に特定の水場から姿を現す』というくらいで、具体的な場所や時間までは記されていなかった。

 情報はあくまで切っ掛けを得られる程度。

 まだこの状況では何かが満たせていない……

 そこからは場所を変え、肉を変え、様々に試すも結果は伴わない。

 特に溶岩池を横断する一本道なんて地形的にもかなり怪しいと思ったんだが、そこでも何も起きないまま狩場の入り口へと戻ってきてしまう。

 やっべぇ……どうしよう。

 ヒントは得ているのに答えまで辿り着けない。

 受付嬢は何も知らなそうだったが、一旦ハンターギルドに戻って情報を拾い直すか……?

 そんなことを考える俺に話しかけてきたのは、見覚えのある買取所のおっさんだった。


「おい、あんちゃん。随分と長く潜っていたみたいだが、種火魔石は拾ってこれたのか?」

「え? ええ、1つは祭壇にあったので」

「ほっほーう。単身で潜って普通に帰ってこれるなんて、あんた只者じゃねーな! で、ゴーレムの残骸は? まさかまったく倒さなかったわけじゃないだろう?」

「それはまあ、途中にいっぱいいましたから――」

「お、回収部隊を回すのか!? だったらうちも一枚噛ませてくれよ! おおよその場所と数さえ教えてくれりゃ~謝礼を渡すぜ! 護衛と道案内までしてくれるんなら、あんたの取り分は4割だ!」
 
「馬鹿野郎がふざけんな! 俺が真っ先に声掛けたんだから、そこは俺ん所の店で――……」


 この怒声に釣られ、店の奥からゾロゾロと出てくる店主達。

 再び未回収の残骸という獲物を前に、俺も私もと騒ぎ出す人達を見て、ふと思う。

 昔よく見た、抱えた欲を隠そうともしない、見るからに商売っ気の強そうな顔つきをした連中だ。

 ハンターのように自ら奥地には行かないだろうが、こうして狩場と出入りする人達を目敏く見続け、様々な情報を抱えているんじゃないのか?

 そう思うと、言葉が勝手に飛び出していた。


「その必要はありませんよ。素材は全て僕が回収していますから」

「「「??」」」


 言いながら収納から取り出したのは、ここで最も希少なアダマントゴーレムの残骸だ。

 そいつを手に持ち、集まっていた10人ほどの店主達に目を向ける。


「ただ僕の狙いは、この狩場で稀に現れるという『ラヴァフィッシュ』でして……そんなにこの手の残骸が欲しいなら、情報と引き換えにあげましょうか? 有益であればあるほど、多くの残骸を提供しますので」


 そう告げると場は一瞬静まり返るが、最初に声を掛けてきた店主が探るように目を細めながら呟く。


「今、目の前でそいつが突然現れたのは……いや、それより換金じゃなく、残骸そのものをくれるのか?」

「ええ。ラヴァフィッシュの発見に結び付く有益な情報だったら、ですけど」

「つまり事後ってことか。あんちゃんが目的を達してそのままトンズラこかない保証は?」

「はは、そんなつまらないことするつもりはありませんよ。でも、まあ……心配ならこれをどうぞ」

「「「ッ!?」」」


 取り出したのは1枚1000万ビーケに相当する白王金貨。

 それらを集まった店主に1枚ずつ渡していく。


「これは保証金のようなものとしてお渡ししておきます。もし僕が自分勝手に情報だけを得て逃げたら最低でもその白王金貨は手にできますし、ちゃんと戻ってくればそのお金は返してもらいますが、それ以上の価値になるであろう残骸であっても情報次第ではお渡しします。それなら皆さんも納得しやすいでしょう?」

「た、確かに……」

「あっさりとこれほどの大金を払うのか……それなら心配はなさそうだが、残骸は当たり外れがあるし、砕いて抽出してみないと価値なんて分からないから俺達は相応の量を求めることになる。情報の対価はいいとして、それほどの量があるのか?」


 別の店主の試すような眼差し。

 だが気にすることなく、その背後にある店の中を軽く眺める。

 砕くための作業場と数人の人影は見えるが、そこまで奥行きがあるようには見えない。


「……あなたのお店が残骸で全て埋まるくらいの量ならすぐに渡せますけど、それでも不満ですか?」

「「「ッ!?」」」

「ただし、似たような情報を個別に聞かされてもこちらとしては意味がありません。なので目撃された場所や当時の状況など……何か発見に繋がりそうな情報があれば、重複を避けるためにも皆さんがいるこの場で発言してもらいます。要は先に情報を公表した人が優先ということです」


 そう伝えた途端、一人の店主が叫ぶように口を開く。


「俺んとこの利用客に昔、ラヴァフィッシュを持ち帰ってきた連中がいた! 店を開けてて俺もその死骸を見たんだから、当然時間帯は夜間じゃなく日中。雪がちらつく冬の時期だったのは間違いねぇ!」

「あたしの店にももう10年以上前に、一人だけ生き残って帰ってきたジュエルハンターがいたねぇ。一本橋でラヴァフィッシュの群れに襲われたって言ってたよ」

「ああ、懐かしいな。いつも2台の荷車を用意して、左手の通路から奥地に入ってダマスカスゴーレムを狙ってた5人組だろ? 珍しく人間だけでパーティを組んでたからよく覚えてる」

「そういや、いつの間にかパーティ丸ごと行方が分からなくなっちまった連中も、よく狩場に入って左手側で動いていたような気がするな……たぶん偶然じゃねーだろ」


 ……やはりだ。

 真偽は不明であるものの、次々に出てくる情報は的を絞り込むのに有益そうなモノが多く、すぐに可視化しようと適当な台座を取り出し、記憶にある《パスマキア溶岩洞窟》の簡易地図をその場で描き上げる。
 すると興味津々といった様子で周りを取り囲む店主達が覗き込んだ。


「《パスマキア溶岩洞窟》の内部構造はおおよそこんな感じでした。溶岩地帯を突っ切るように抜けていく道は計13本。うち狩場の入り口から左手に入っていくルートだと7本……このうちのどこで過去に遭遇したハンターが狩っていたか、分かる人はいますか?」

「内部構造なんて初めて知ったけど……場所が決まっているのだとしたら一番手前、たぶん1本目か2本目のはずよ。ボロボロになって帰ってきたハンターの依頼で回収部隊を用意した時、場所はその辺りを指示された記憶があるから」

「……それはそいつがそこまで運んだってだけで、少なくとも中盤以降、5本目から7本目が濃厚じゃねーか? ダマスカスゴーレムはそんな手前じゃ滅多に出会えないのに、あいつら半月に1度くらいは残骸を持ち込んでただろう。狩場の入り口付近じゃ絶対にそんな頻度で狩れやしない」

「いや、待て待て、だからと言って奥地とも限らねーぞ。ダマスカスゴーレムは昔から引き狩りと呼ばれる狩り方がある。要は狩場内を散策して見つけたら、足の遅い他のゴーレムは置き去りにしてダマスカスゴーレムだけを安全度の高い手前の方まで連れてくるってやり方だが、そいつらがその方法を使って狩ってたら場所なんてはっきりしなくなるだろうよ。まあ手前じゃほぼ出会わないのは事実なんだから、事故でパーティが壊滅するくらいの実力ってなると、精々中間の3本目か4本目辺りを拠点に動いていたと思うがな」

「「「……」」」


 まいったな……

 周囲の反応からしてもまったく見当違いなことを言っているわけではなさそうだが、どうにも当たった時の対価を目的に、空いた場所へ滑り込んできたような印象も持ってしまう。

 とは言え商人相手に交渉を持ちかけたのは俺自身だし、まだ試せていない左側の7本に場所は絞れてきたのだから良しとするべきか?

 そんなことを考えていると、聞き覚えのないしわがれた声を耳が拾う。


「ふん、あわよくばという考えが透け過ぎて、聞いてるこっちが恥ずかしくなるわい」

「ああ?」

「チッ……ヤマ爺か」


 振り向くと、腰の曲がった小さい老人が杖を片手に立っていた。

 見るからにヨボヨボだが、垂れ下がった長い眉毛から覗く眼つきだけはここにいる誰よりも鋭い。

 それにこの爺さん……ドワーフか?


「お主に一つ、問いたい。なぜラヴァフィッシュを求める?」

「え、っと……面白いことが起きそうだから、ですかね」


 なぜこんな質問を俺に投げ掛けてくるのか。

 少し考えるも意図が分からず、少しぼかして今の気持ちを伝えれば、爺さんの片眉がピクリと上がる。


「面白いこと……?」

「ええ。もしかしたら、世界が広がるかなって」

「まさか、ラヴァトルガの伝説を信じているわけではあるまいな?」

「あーまあ、怪奇料理というやつでしたらあり得なくはない話だと思いますよ。そういった部分も含めて面白そうだなと思っているので」


 あくまで俺の狙いはラヴァフィッシュが持つスキルだ。

 しかし特定の素材や食事を口にすることで何かしらの効果を得るなんて、MMOやRPGの世界では珍しくもないわけで。

 この世界を創ったフェルザ様が、並々ならぬ拘りを感じさせるほどファンタジーな要素を取り入れているのだから、そんな隠し設定があったとしたってまったく不思議ではないだろう。

 そう思っての答えに、ヤマ爺と呼ばれた老人は何を思ったのか。

 無言のまま暫く俺を見つめたあとに、フムと小さく頷く。


「いつでも構わない。手が空いたらうちの店に寄っとくれ。通路の右手、一番狩場の入り口に近いのがワシの店じゃ」

「え?」

「この場で情報を明かさなきゃ報酬はないって言ってんのに、ヤマ爺は話を聞いてなかったのか?」

「じゃない? 白王金貨を配ってた時はいなかったし」

「それでもあの爺さんなら会話くらい聞いていたと思うが……ふん、相変わらず薄気味が悪いな」


 そして何か情報を明かすでもなく自分の店へと戻っていくその後ろ姿を、この場にいる者達は様々な眼差しで見つめていた。